『魅力的な提案をしよう』...光村コミュニティ「わたしの授業」 1...

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光村コミュニティ「わたしの授業」 1 『魅力的な提案をしよう』 2年 ―聞き手を想定し, 魅力的な提案をする~ビブリオバトルに挑戦しよう設定の趣旨 生徒にとっては2年生になって初めての「話すこと・聞くこと」の学習である。この学習では,特 に「話す能力」に焦点を当てて授業を構想したいと考えた。それは,2学年の夏休み明けから,3年 生から生徒会活動の引き継ぎが行われ,部活動や委員会活動,生徒会役員選挙など学校生活の中でも, 提案をしたり,自分の考えを話したりする機会が増えてくるからである。生徒が,授業を通して学習 したことや身につけた力を日常生活に生かすことができると実感することによって,国語の授業に対 する関心や意欲もより高まってくると考えている。そこで次のような単元を構想した。 (1)言語活動の設定 本単元では,生徒が目的意識と相手意識をもって活動に取り組めるように,「ビブリオバトルに挑戦 しよう」という言語活動を設定する。「ビブリオバトル」とは立命館大学の谷口忠大氏が考案した,お すすめの1冊を持ち寄り,本の魅力を紹介し合う書評ゲームである。 この「ビブリオバトル」はチャンプ本を決定するところにポイントがある。話し手は,人から評価 されるという緊張もあるが,「チャンプ本に選ばれたい,選んだ本の魅力をしっかりと伝えたい」とい う思いから相手や目的を意識した活動を行うことができると考えた。また,聞き手は,プレゼンテー ションを評価するという責任があるため,それぞれのプレゼンテーションの良し悪しや共通点・相違 点を意識しながら聞く必要がある。「話し手」「聞き手」の立場それぞれに利点がある。 本校では,朝読書の取り組みも習慣化しており,読書生活デザインノート(監修:杉本直美 発行: 全国学校図書館協議会)を活用して読書記録をまとめている。それらの日常的な取り組みを生かすこ とができるということからも「ビブリオバトル」が有効であると考えた。 これらのことから,自分の選んだ本の魅力を紹介する活動を通して,聞き手を想定し,論理的な構 成や展開を考えて話す力を身につけさせることができると考える。 (2)ICT機器を活用した振り返り 本単元では,チャンプ本のプレゼンテーションを分析する活動を単元の終末で行った。自分のプレ ゼンテーションとチャンプ本のプレゼンテーションを比較し,聞き手に伝わる話の構成や展開につい て考えを深めることが期待できると考えたからである。自分のこれまでの実践を振り返ってみると, 互いの発表や提案を相互評価する場面を設定してきたが,話し言葉は書き言葉と異なり,可視化する ことが難しいため,聞き手の印象や主観に偏った感想交流で終わってしまっていたという課題もあっ た。そこで,話し手は実際に自分の提案や発表がどうであったか,メタ認知的な振り返りを行うため

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Page 1: 『魅力的な提案をしよう』...光村コミュニティ「わたしの授業」 1 『魅力的な提案をしよう』 2年 ―聞き手を想定し, 魅力的な提案をする~ビブリオバトルに挑戦しよう―

光村コミュニティ「わたしの授業」

1

『魅力的な提案をしよう』 2年

―聞き手を想定し, 魅力的な提案をする~ビブリオバトルに挑戦しよう―

設定の趣旨

生徒にとっては2年生になって初めての「話すこと・聞くこと」の学習である。この学習では,特

に「話す能力」に焦点を当てて授業を構想したいと考えた。それは,2学年の夏休み明けから,3年

生から生徒会活動の引き継ぎが行われ,部活動や委員会活動,生徒会役員選挙など学校生活の中でも,

提案をしたり,自分の考えを話したりする機会が増えてくるからである。生徒が,授業を通して学習

したことや身につけた力を日常生活に生かすことができると実感することによって,国語の授業に対

する関心や意欲もより高まってくると考えている。そこで次のような単元を構想した。

(1)言語活動の設定

本単元では,生徒が目的意識と相手意識をもって活動に取り組めるように,「ビブリオバトルに挑戦

しよう」という言語活動を設定する。「ビブリオバトル」とは立命館大学の谷口忠大氏が考案した,お

すすめの1冊を持ち寄り,本の魅力を紹介し合う書評ゲームである。

この「ビブリオバトル」はチャンプ本を決定するところにポイントがある。話し手は,人から評価

されるという緊張もあるが,「チャンプ本に選ばれたい,選んだ本の魅力をしっかりと伝えたい」とい

う思いから相手や目的を意識した活動を行うことができると考えた。また,聞き手は,プレゼンテー

ションを評価するという責任があるため,それぞれのプレゼンテーションの良し悪しや共通点・相違

点を意識しながら聞く必要がある。「話し手」「聞き手」の立場それぞれに利点がある。

本校では,朝読書の取り組みも習慣化しており,読書生活デザインノート(監修:杉本直美 発行:

全国学校図書館協議会)を活用して読書記録をまとめている。それらの日常的な取り組みを生かすこ

とができるということからも「ビブリオバトル」が有効であると考えた。

これらのことから,自分の選んだ本の魅力を紹介する活動を通して,聞き手を想定し,論理的な構

成や展開を考えて話す力を身につけさせることができると考える。

(2)ICT機器を活用した振り返り

本単元では,チャンプ本のプレゼンテーションを分析する活動を単元の終末で行った。自分のプレ

ゼンテーションとチャンプ本のプレゼンテーションを比較し,聞き手に伝わる話の構成や展開につい

て考えを深めることが期待できると考えたからである。自分のこれまでの実践を振り返ってみると,

互いの発表や提案を相互評価する場面を設定してきたが,話し言葉は書き言葉と異なり,可視化する

ことが難しいため,聞き手の印象や主観に偏った感想交流で終わってしまっていたという課題もあっ

た。そこで,話し手は実際に自分の提案や発表がどうであったか,メタ認知的な振り返りを行うため

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に,また,聞き手は自分の評価がどうであったかを客観的に振り返るために,タブレットPCを活用

してそれぞれのプレゼンテーションを録画して有効な振り返りを目ざした。

指導の目標

○自分の選んだ本について,聞き手が読みたくなるように構成や展開を工夫することができる。

【関心・意欲・態度】

○聞き手を想定し,論理的な構成や展開を考えて話すことができる。 【話すこと】

○相手や目的に応じて,話の形態や展開に違いがあることを理解できる。

【話すこと】【伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項】

・調べて分かったことや考えたことなどに基づいて説明や発表をしたり,それらを聞いて意見を述べ

たりすること。 【言語活動】

指導の計画(5時間)

[評価規準表]

国語への関心・意欲・態度 話す能力・聞く能力 言語についての知識・理解・技能

①自分の選んだ本について,聞き

手が読みたくなるように構成

や展開を工夫しようとしてい

る。

②グループの仲間の発言から,わ

かりやすい話の構成や展開に

ついて考えようとしている。

①聞き手を想定し,論理的な構成

や展開を考えて話している。

(イ)

②話し合い(交流)活動を通して,

魅力的なプレゼンテーション

の構成や展開について考えを

深めている。(オ)

①相手や目的に応じて,話の形態

や展開に違いがあることを理

解している。(1)イ(オ)

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[単元構想表]

言語活動例 ア 調べて分かったことや考えたことなどに基づいて説明や発表をしたり,それらを聞い

て意見を述べたりすること。

指導事項 重点 学 習 活 動 評 価 規 準 時

ア 【話題設定や取材】

社会生活の中から話題

を決め,話したり話し

合ったりするための材

料を多様な方法で集め

て整理すること。

・教科書を使って,プレゼンテーションの流

れを確認する。

・図書委員会で行ったビブリオバトルのチャ

ンプ本に選ばれた生徒の映像を見て,ビブ

リオバトルのイメージをつかみ,学習の見

通しをもつ。

・目的,相手を再確認し,おすすめの本の情

報を集め,整理する。

(ポストイットやマトリクス表の利用)

・目的や相手に応じて,必要

な情報を集めて,整理して

いる。

イ 【話すこと】

異なる立場や考えを想定

して自分の考えをまとめ,

話の中心的な部分と付加

的な部分などに注意し,論

理的な構成や展開を考え

て話すこと。

◎ ・相手を想定して,話の構成メモを作成し,

構成や展開を工夫して話す練習を行う。

○相手を意識した構成や展開の工夫

聞き手を引き込ませる構成の工夫,聞き手

が,続きが気になる展開の工夫,聞き手に

意外性のある情報の提示の工夫など。

・ビブリオバトルを行い,本の魅力が伝わる

ようにプレゼンテーションをする。

【関①】

・自分の選んだ本について,

聞き手が読みたくなるよ

うに構成や展開を工夫し

ようとしている。

【話す①・言①】

・聞き手の反応や質問を想定

し,論理的な構成や展開を

考えて話している。

ウ 【話すこと】

目的状況に応じて,資料や

機器などを効果的に活用

して話すこと。

エ 【聞くこと】

話の論理的な構成や展開

などに注意して聞き,自分

の考えと比較すること。

・プレゼンテーションの構成や展開を比較し

ながら,グループの仲間の発表を聞く。

・プレゼンテーションを聞き

分かりやすかったか,読み

たくなったかという観点

を基に評価している。

オ 【話し合うこと】

相手の立場や考えを尊重

し,目的に沿って話し合い

互いの発言を検討して自

分の考えを広げること。

○ ・チャンプ本に選ばれたプレゼンテーション

を分析し,論理的な構成や展開について考

え,グループの仲間と話し合う。

・グループで話し合ったことを全体で交流す

る。

【関②・話す能力②・言①】

・話し合い(交流)活動を通

して,魅力的なプレゼンの

構成や展開について考え

を深めている。

関連する〔伝統的な言語文化と

国語の特質に関する事項〕

イ(オ)相手や目的に応じて,話の形態や展開に違いがあることを理解すること。

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指導のポイント

1 言語活動にビブリオバトルを設定する。

ビブリオバトルには公式ルールがある。

① 発表参加者が読んでおもしろいと思った本を持って集まる。

②順番に一人5分で本を紹介する。

③それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。

④全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者

全員1票で行い,最多票を集めた本を「チャンプ本」とする。

(谷口忠大『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』・文藝春秋より)

「ビブリオバトル」というのであれば,公式ルールにしたがって行うべきものであるが,本単元で

は,公式ルールを一部変更して以下のようにビブリオバトルを行った。

①発表者が読んでおもしろいと思った本を持って集まる。

②順番に一人3分で本を紹介する。

③それぞれの発表の後に参加者全員で発表に関するディスカッション(質問)を2分行う。

④全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者

全員1票で行い,最多票を集めた本を「チャンプ本」とする。

本実践で変更した点は,②の本の紹介時間を3分と短くしたことである。生徒の読解には個人差が

あり,プレゼンテーションの準備が不十分になることが予想されたからである。本の紹介時間を,何

を話してよいか分からず,人前で話すことに苦手意識を感じないように時間を短くした。時間を短縮

した分,聞き手に本のおもしろさを伝えるためには,自分の考えをまとめ,分かりやすい構成や展開

を思考・判断しなければならないと考える。

もちろん,この単元は「読むこと」の単元ではないので,読解を苦手とする生徒に,読解の観点(こ

れまでの既習の学習用語やその本にまつわる自身のエピソードなど)を提示したり,全体で確認した

りして全員がビブリオバトルに臨めるようにした。

2 振り返りにICT機器を活用する。

前述のように,本実践では,プレゼンテーションを分析する活動を単元の終末で行った。「話すこと・

聞くこと」の授業では,より効果的に振り返りを行うためにもICT機器を活用して,発表を可視化

する工夫をしたい。メモを取りながら聞くことも必要であるが,ついついメモを書くことに集中して

しまう生徒もいるので,聞く場面では聞くことに集中できるようにして,振り返りは別に設定した。

また,今回は1時間(50分)の中でチャンプ本を決定するまで行いたいと考えたので,5人一組

にし,8グループでそれぞれビブリオバトルを行った。本実践では,山梨県立大学 八代一浩教授に

ご協力いただき,8台のiPadを使ってそれぞれのプレゼンテーションを記録することができたが,

学校の実状によっては困難なことも考えられる。そのような場合,まず,グループでビブリオバトル

を行い,その中で選ばれたチャンプ本のプレゼンテーションを,全体でもう一度行う際に録画するな

どして,可視化させて振り返らせたい。

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3 構想ワークシートを基に提案をする。

今回の実践では,発表原稿を書くことはせず,構想ワークシートを用いるだけとし,発表者は相手

や状況に応じて変更してプレゼンテーションを行ってもよいようにした。それは,スピーチやプレゼ

ンテーションで大事なことは聞き手の反応を見ながら,臨機応変に対応しなければならないからであ

る。

また,聞き手の反応を想定する際,聞き手の反応を具体的な言葉で考えさせることにした(後の「生

徒の構想ワークシート」参照)。より具体的にイメージさせることで構成や内容を考えたり,情報を整

理したりする際に,有効な手立てとなると思われる。

実際に生徒はプレゼンテーションの初めでは,共感させることによって,自分のプレゼンテーショ

ンに聞き手を引き付ける構成の工夫を取り入れたり,聞き手をわくわくさせるように,内容を変更し

たりしている。また,最初は作者の紹介を考えていたが,ビブリオバトルのプレゼンテーションでは

必要ないと考えて,作者の紹介を省いている。

後記

本実践は,平成24年度版教科書「印象に残る説明をしよう プレゼンテーションをする」で行っ

たものであるが,平成28年度版教科書「魅力的な提案をしよう プレゼンテーションをする」の単

元の参考になれば幸いである。また,平成28年度版教科書では,読書活動として,「二年一組のお薦

め三十五冊」の単元もあるので,複合的に扱って単元を構想する工夫も考えられる。

国語の学習で学んだことを日常生活

に生かすことを実感させたいと考えて

いる。右の生徒の記述には,これまで

の自分の言語生活を振り返り,学習し

たことをこれからの生活に生かそうと

する姿が表れていたのは成果であると

思う。今後も国語の学習で学んだこと,

身につけた力を日常の言語生活に生か

せるという実感がもてる授業を心がけ

ていきたい。ただ,「展開」や「構成」

についての記述が不明確であるので,

この単元での目標をしっかりと意識さ

せて振り返ることができるようにして

いくことが課題である。

生徒の記述より →

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資料

<生徒の構想ワークシート>