金属異物等混入防止のための最新技術の評価と効果 …1...

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1 金属異物等混入防止のための最新技術の評価と効果的対策 近畿HACCP実践研究会主幹研究員 元明治製菓㈱ 食料生産部次長 宇田 吉明 1. はじめに 近年、消費者の健康、安全への関心は非常に高くなってきた。 残留農薬やダイオキシンなどの有害化学物質、黄色ブドウ球菌などの有症微生物と並んで、金属や ガラスなどの異物混入事故は、状況によってはその商品の市場性が失われ、最悪、企業の倒産にまで 結びつく。もちろん、消費者保護の観点からの企業責任は重いことはいうまでもない。 このような背景もあり、2000年12月に(財)食品産業センターから「食品事故への対応について」(中 間とりまとめ)が発表された。その中の食品事故への対応に関する指針(中間とりまとめ)で、危害の大 きさによりクラス1から3まで分類している。クラス1(事故が重篤な健康危害又は死亡原因となるおそれ を有する場合)の事故が発生した場合は原則回収となっている。 本稿ではクラス1になる可能性の高い重大異物である金属やガラスなどの異物検出技術に的を絞り、 金属検出機とX線異物検出機の検出技術を理解し、最新技術を正しく利用することにより、異物混入品 を確実に除去することを主眼においた。 なお、異物混入に関する概論は拙者の第1回近畿HACCP実務者養成講座の「食品工場の異物混入 と防止対策」を参照願いたい。 2. 金属検出機 (1) 導入のねらい 金属異物の除去が目的であり、最新機種はすべての金属が検出対象で ある。大別すると鉄やニッケルなどの磁性体とアルミやステンレスなどの非 磁性体に区分され、検出原理が異なり、また金属によって検出精度の違い がある。 (2) 原理 送信コイルまたは永久磁石からでる磁力の受信コイル側での変化を検出 する。磁性金属と非磁性金属で磁力の変化が異なる。 2.2 金属検出機の検出原理(磁性金属の場合) 2.3 金属検出機の検出原理(非磁性金属の場合) 2.1 金属検出機

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    金属異物等混入防止のための最新技術の評価と効果的対策

    近畿HACCP実践研究会主幹研究員

    元明治製菓㈱ 食料生産部次長 宇田 吉明

    1. はじめに

    近年、消費者の健康、安全への関心は非常に高くなってきた。

    残留農薬やダイオキシンなどの有害化学物質、黄色ブドウ球菌などの有症微生物と並んで、金属や

    ガラスなどの異物混入事故は、状況によってはその商品の市場性が失われ、最悪、企業の倒産にまで

    結びつく。もちろん、消費者保護の観点からの企業責任は重いことはいうまでもない。

    このような背景もあり、2000年12月に(財)食品産業センターから「食品事故への対応について」(中

    間とりまとめ)が発表された。その中の食品事故への対応に関する指針(中間とりまとめ)で、危害の大

    きさによりクラス1から3まで分類している。クラス1(事故が重篤な健康危害又は死亡原因となるおそれ

    を有する場合)の事故が発生した場合は原則回収となっている。

    本稿ではクラス1になる可能性の高い重大異物である金属やガラスなどの異物検出技術に的を絞り、

    金属検出機とX線異物検出機の検出技術を理解し、最新技術を正しく利用することにより、異物混入品

    を確実に除去することを主眼においた。

    なお、異物混入に関する概論は拙者の第1回近畿HACCP実務者養成講座の「食品工場の異物混入

    と防止対策」を参照願いたい。

    2. 金属検出機

    (1) 導入のねらい

    金属異物の除去が目的であり、最新機種はすべての金属が検出対象で

    ある。大別すると鉄やニッケルなどの磁性体とアルミやステンレスなどの非

    磁性体に区分され、検出原理が異なり、また金属によって検出精度の違い

    がある。

    (2) 原理

    送信コイルまたは永久磁石からでる磁力の受信コイル側での変化を検出

    する。磁性金属と非磁性金属で磁力の変化が異なる。

    図 2.2 金属検出機の検出原理(磁性金属の場合)

    図 2.3 金属検出機の検出原理(非磁性金属の場合)

    図2.1 金属検出機

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    (3) 磁性金属と非磁性金属の違い

    ① 検出感度特性

    磁性金属と非磁性金属では検出のメカニズムに違いがある。

    表 2.1 磁性金属と非磁性金属の検出感度特性

    磁性金属 非磁性金属

    ・体積に比例

    ・微粉末も塊状に近い感度

    ・送信周波数に影響されない

    ・金属の固有抵抗に反比例

    ・微粉末は最大粒子のみの感度

    ・送信周波数の二乗に比例

    ② 非磁性金属の検出感度と固有特性

    検出感度は固有抵抗値が高いほど検出し難い特性がある。

    表 2.2 非磁性金属の検出感度と固有特性

    非磁性金属の種類 固有抵抗値(μΩ・cm) 検出感度 銀 1.67 銅 1.72 金 2.4 アルミニューム 2.75 黄銅 5~7 亜鉛 6.1 すず 11.4 鉛 21 ステンレス 55~

    高い 低い

    (3) 送信周波数と検出感度

    被検査品により磁力を構成する送信周波数を最適にする必要があり、機種の選定や品種設定を行う。

    図 2.4 送信周波数と検出感度の関係

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    (4) 金属検出機の選定

    被検査品の種類により次の3種類から選定する

    表 2.3 被検査品の種類による金属検出機の選定

    金属検出機の種類 対 象 品

    一般用(ドライ商品・ウェット商品用) ドライ:菓子、インスタントラーメン等

    ウェット:生肉、漬物、かまぼこ、魚、佃煮等

    アルミ蒸着商品用 アルミ蒸着包材食品(冷凍食品・スナック菓子等)

    アルミ箔商品用 アルミ箔包材食品(レトルト食品、カップ入りデザート食品等)

    また、ヘッドの構造に次の3種類があり、被検出物や周辺状況によって使い分ける。

    (5) ヘッドの構造と検出原理

    同軸型磁力が被検査品の流れ方向で、

    対向型は被検査品の流れと直角方向で

    ある。

    また、対向形の送信コイルの代わりに

    永久磁石を用いたものが永久磁石型で

    ある。

    それぞれの特徴は後述する。

    (6) 被検査品による影響

    ① 物性による異物検出感度の違い

    物性によって異物検出信号への影響が異なるため、

    物性に見合った設定する必要がある。最近の機種は品

    種設定が可能であり、品種設定を確実に行う。

    イ. 被検査品の含有水分、含有塩分が多い程影響が

    大で、異物検出感度が低下する。

    ロ. 被検査品の量、厚みが多い程影響が大で、異物検

    出感度が低下する。被検査品の量、厚みが多い程

    影響が大で、信号が大きく出る。

    図 2.5 ヘッドの構造

    図 2.6 ヘッドの構造と検出原理

    図 2.7 物性の誘電率と検出信号

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    ② 品種の物性と検出信号

    被検査品の物質の影響は、位相(信号の変数)で異なるため、物質の影響が大きい場合は位相の差を

    応用して検出精度を高める機能を持っている。

    a点では検出できない金属が、b点では検出できる。

    位相調整は、金属検出機にとって最も重要な設定となる。

    ③ 品温による影響

    品温が低い程、小さい金属を検出できる。ただし、

    表面や内部に水分があると影響が出る。

    ④ 被検査品の形状による影響

    被検査品は小さいほど渦電流が小さく、影響が少

    ない。小さくても、接触していると、一体と同様な影

    響が生じる。

    図 2.8 被検査品の物性と検出信号

    図 2.9 位相設定の仕組み

    図 2.10 品温と検出感度の関係

    影響小 影響大 図 2.11 被検査品による影響

    図 2.12 被検査品の流れる姿勢による影響

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    (7) 被検査品の流れる姿勢による影響

    磁力線に直角方向に大きな円が描ける形状

    ほど、うず電流が多く流れ、被検査品の影響が

    大きくなる。

    (8) 通過位置による影響

    機種の特性を理解し、可能な限り検出感度の良い位置を通過させるようにする。

    (9) 金属異物の形状と流れ方による影響

    異物の形状を流れ方により、検出信号が異な

    る。

    主力商品は異物混入事故のリスクを軽減するた

    めに、確実性を高める方策として、金属検出機を2

    台用意し、1台を縦流れ、もう1台を横流れにすると

    よい。

    (10) 使用にあたって

    ①留意点

    金属検出機を有効に、確実に活かすために、導

    入の計画段階から実際の使用に至るまで責任を持

    った人が確実に実施すべきことを表に示す。

    図 2.13 被検査品の形状と渦電流の大きさ

    図 2.14 通過位置と検出出力の関係(同軸型)

    図 2.15 通過位置と検出出力の関係(対向型)

    図 2.16 金属異物の形状と流れ方と検出信号

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    表 2.4 導入・使用上の留意点

    段 階 内 容 責任者

    計画段階 ・高感度検出が可能なライン構成の検討 (どの工程に導入するか)

    ・用途にあった機種の選定

    ・設置環境の配慮

    設備担当者

    導入段階 ・初期調整(メーカーによる)

    ・不具合の是正(周辺環境、設置状態、外部からのノイズ等)

    ・手順書作成(保守、日常点検、作動チェック等)

    ・品種設定

    メーカー

    設備担当者

    品質担当者

    現場管理者

    運転(使用)段階 ・正しい運用

    ・確実な保守、点検 作業者

    ② 設置位置

    工程ごとの異物発生の可能性を考慮

    して、有効な設置位置を決める。例え

    ば、原料由来の金属異物が多いもの

    は原料段階に設置する。

    また、アルミ箔包装の商品は包装直

    前に設置することが有効である。機械

    の保護のための異物除去も合わせて

    考慮したい。

    設置位置の判定の手法は提案の項

    で紹介するリスク評価を応用するとよ

    い。

    ③ 被検査品と金属検出機開口部

    金属検出機は「大は小を兼ねる」とはいかな

    いので、適切なサイズに合わせる。

    狭すぎると被検査品が入り口にぶつかり、誤

    信号を発信し正常品をはね出すことになる。

    正常品を頻繁にはね出すようになると、作業

    者が検出機に対する信頼を失うので留意しなく

    てはならない。

    図 2.17 設置位置の検討

    図 2.18 被検査品と開口部の大きさ

    被検査品

    コンベア

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    3.X線異物検出機

    (1) 導入のねらい

    金属及び非金属の異物除去が目的であり、最新機種はマスキング機能

    により多彩な検出が可能になっている。

    (2) 構造と原理

    X線管から発生されたX線を被検査品に照射し、透過するX線量を信号

    として取り出し、基準値と比較することにより異物を検出する。

    (3) X線について

    X線は電離放射線で、非常に波長の短い

    電磁波の一種である。

    波長=10-8 ~ 10-12 m =100~0.01Å

    胸部・胃部の検査や空港での手荷物検査

    などに使われている。

    異物検出機からの洩れ量はごく微量で、同一作業

    者が、1日16時間、週 6日、3 ヶ月(13週)作業しても、

    1.248mSV/3 月 で、電離放射線障害防止規則

    「第3条」規定の1.3mSV/3ヶ月を下回る水準であ

    る。

    (3) 検出感度の金属検出機との比較

    金属検出機では困難な非金属の検出も可能であ

    る。但し、被検査品の物性との差異がないものはX

    線検出機といえども検出は困難である。

    図 3.2 X線異物検出機の構造

    図 3.1 X線検出機

    図 3.3 X線異物検出機の原理

    図 3.4 X線の波長

    図 3.5 検出感度の金属検出機との比較

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    (4) 物質によるX線吸収量の違い

    物質にX線を照射した場合、物質によるX線吸収量(減衰量)は、その物質の密度と構成する原子番

    号との積に比例する。食品を構成する蛋白質や炭水化物、脂肪や、水分などと、異物となる金属や骨

    (カルシュウム)、ガラス(珪素)とではX線の吸収量は大きく異なる。ちなみに板チョコレートとポリカーボ

    ネートではX線吸収量の差が少なく、検出が難しい。

    表 3.1 食品成分と異物

    元素名 水素 炭素 窒素 酸素 骨 鉄 鉛(散弾)

    元素記号 H C N O Ca Fe Pb

    原子番号 1 6 7 8 20 26 82

    密度 0.09 2.25 1.25 1.43 1.54 7.86 11.34

    原子番号・密度 0.09 13.50 8.75 11.44 30.80 204.36 929.88

    X線吸収量 小さい 大きい

    (5) 異物と検出信号

    異物があると被検査品とのX線吸収量の差が検出信号となる。密度の大きい物質ほど検出感度

    が大きい。

    表 3.2 異物と検出信号

    被検査品 検出信号

    レトルトカレー

    異物:鶏骨,貝殻

    ハム

    異物:Fe

    (6) マスキングによる異物検出

    被検査品の包装にX線を吸収する物質

    が使われている場合、その部分をマスキ

    ングして、検出信号から除外する。

    画像処理技術の進歩により多彩なマス

    キングが可能となっている。

    (7) 被検査品と検出感度

    袋詰商品の一例を表 3.2 に示す。

    図 3.6 マスキングによる検出

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    表 3.2 検出感度の事例

    商 品 Fe球 SUS 球 SUS 針金 鶏 骨 貝 殻

    レトルトパックカレー

    寸法 L100×W130×H20

    φ0.5 φ0.28 t1.0 t0.7

    袋詰めウインナー

    寸法 L170×W150×H35

    φ0.6 φ0.28 t1.0 t0.7

    4.日常管理

    (1) 検出機のチェック項目とチェックポイント

    表 4.1 検出機のチェック項目とチェックポイント

    チェック項目 チェックポイント

    安定状態になっているか 電源投入から30分間の安定時間が必要

    前後のコンベアと接触していないか 機器を床に固定していないと、前後のコンベアやシュートなどと

    接触し、正常品をハネ出すことがある

    床の振動が伝わっていないか 周辺や上下階の振動が伝わり、正常品をハネ出すことがある

    インバーターのノイズを拾っていないか 高周波の影響により、正常品をハネ出すことがある

    近くで電気溶接作業を行なっていないか アークによるノイズを拾い、正常品をハネ出すこともある

    検出ヘッド内部にゴミがたまっていないか ごみの影響が生じるので、毎日清掃を行う

    検出装置のベルトは汚れていないか 特に裏面の汚れで、ベルト自身を検出することがある

    コンベアガイドなどが影響していないか 開口部までの距離が高さの3倍以上離れているか

    振動していないか

    製品が検出部入口に当ることはないか 高さは低いほど、検出精度が高くなるが、狭すぎて、当っていな

    いか

    製品が連なって流れていないか 製品間の間が狭すぎると、後ろの製品をきちんと処理できない

    排出のタイミングはOKか 金属の大きさ(質量)によって、検出タイミングが変わるため、大

    きな金属を検出した場合、早めに排出装置が作動して、現物を

    ハネ出せないこともある

    排出装置は万全か エアジェットはエア圧の変動で排出ができないこともあるので注

    異常値が出た場合の処置は決まっているか 通常時は当然のこととし、2直、3直時の対応についてもきちん

    と決めておく

    検出物(排出品)の取り扱いは 検出精度ぎりぎりのものは、流し方によって、検出されない可能

    性があるため、一度排出されたものは確実に処分する

    テストピースの混入の恐れはないか テストピースまたはテストピースが入った製品は商品に紛れ込

    まないように明確に識別しておく

    他の金属検出機と電気的干渉していないか 通過高さによるが2~5m以上離す

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    (2) 検出機日誌

    金属検出機日誌 月 日

    部署名 承認 確認 記録番号 QMS-D-MD001

    ライン名 様式制定日 年 月 日

    製品名

    様式改定日 年 月 日

    項 目 確認欄

    MD 番号

    品種番号

    テストピース 鉄φ0.5/SUSφ2.0

    時間 チェック者

    排出確認

    OK=○ 不調=×不具合があった場合のアクション

    ライン

    長署名

    作業前 7:30 ○

    作業後 8:00 ○

    9:00 × 調整者○○が再調整し正常に復帰

    10:00 ○

    11:00 ×

    1 個はね出し

    検査の結果ビス混入

    ラインを停止し、脱落個所点検

    増し締め後再スタート

    13:00 ○

    備考:

    <チェックポイント> ・ 3回流し、3回確実に排出することを確認する。 ・ 正常でない場合はラインを停めて、ライン長に連絡

    する

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    4.異物混入防止対策の提案

    提案1:PDCAサークルを回して継続的な改善を図る

    品質マネジメントシステム(QMS)を構築しているところは、異物混入防止対策をQMSの中にしっかり

    組み込む。QMSを構築していないところは確実にPDCAサークルを回して継続的な改善を図る。

    提案2:異物混入リスク評価

    HACCPの考え方に基づき、CCPの決定は下記のリスク評価の手法を採用する。

    発生の可能性=A

    発見の困難性=B

    結果の重大性=C

    リスク=(A+B)×C

    工程ごとにA、B、Cを5段階評価し、基準以上をCLまたはOPLの重点管理工程としてX線検出機ま

    たは金属検出機を設置する。

    提案3:主力商品のラインにはダブルで金属検出機を設置

    金属検出機の特性から金属異物の流れ方向により差があるため、利益の柱となっている商品はリスク

    管理の観点から、個装または内装工程で被検査品を90度向きを変えて流れる工程をつくり、2箇所に

    金属検出機を設置する。

    提案4:異物検出信号は品質管理責任者にオンラインで知らせる

    重要なポイントは権限と責任を持った品質管理責任者に情報が伝わるように、検出信号をオンライン

    で知らせる仕組みをつくる。

    提案5:排出品はすべて処分することとし、混入異物のチェックは別ラインで確認する

    排出品をラインにもう一度流してチェックすることは避ける。折角排出たものが、流し方によって通過し

    てしまう恐れがある。一度排出されたものは必ず処分することとし、原因究明のための確認は別ラインで

    行うようにする。

    提案6:専門家による検出機の定期点検

    長い間使用していると、どうしても不具合がでてくる。放っておくと検出機能が損なわれ、重大な異物

    混入事故につながる恐れがあるため、定期的に専門家による点検を行う。使用頻度や稼動状況、周辺

    の環境にもよるが、忘れないためにも1年に1度、校正を兼ねた点検を実施する。

    提案7:テストの実施

    CCPに設定された工程を中心に、決めたルールが守られているか、またルールが適切であるかを検

    証するために、定期的なテストを実施する。守られていなければ教育・訓練の問題であり、ルールが適

    切でなければルールを改定しなければならない。

    提案8:事故発生を想定した対応手順を決めておく

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    予め予測可能な異物混入事故を想定し、外部コミュニケーションのプロセスを検討して手順化しておく。

    事故が発生した場合は被害を受けた消費者への対応をはじめ、行政・流通など関係先へ積極的に情報

    を公開すべきで、結果的に問題を最小限に抑えることができる。

    提案9:内部監査と品質月間

    構築した異物混入防止対策が適切に運用されているかをチェックする内部監査を実施する。また、決

    めた定期的なテストや点検を確実に実施するため、品質月間を設け、内部監査もこの時期に合わせて

    実施する。

    提案 10:経営層による見直し

    内部監査の結果や法的規制の変化、利害関係者の動向などを情報源として1年に1度見直しを行う。

    見直しの結果に基づき、改善目標などを見直す。

    5.おわりに

    金属検出機は歴史も長いし、手頃なので、多くの事業所で使われており、重大な異物を検出・除去し

    て助かったとの思いを誰でもが持っているはずだ。しかしながら、設置しているだけで安心していないだ

    ろうか。検出機の性能は金属検出機も X 線検出機も一昔のものに比べ格段に性能が向上したが、利用技術は向上しているか疑問である。本稿の資料を元にもう一度検証を行い、金属検出機が宝の持ち腐

    れにならないようにお願いしたい。リスク管理を考えるならば、異物混入防止対策は重要課題の一つで

    あることを再認識して、検出機の正しい理解と適切な利用により、事故の防止に取り組んでいただけれ

    ば幸いである。 また、私は環境対策にも力を入れて取り組んでいる一人として、食品廃棄物の有効利用の観点から

    一言付け加えたい。昨年6月、食品リサイクル法が制定され、年間100t以上排出する事業所は、平成1

    8年度までに再資源化率を20%に向上させることが義務づけられた。自社で廃棄物を出さないことが第

    一原則であるが、廃棄物はどうしても発生する。食糧自給率が29%と低い我が国では、発生した食品

    廃棄物は重要な農業資源である。今後、食品廃棄物の異物問題がクローズアップしてくるものと考えら

    れる。今から、廃棄物も商品の一つとして異物混入の防止にも配慮をお願いしたい。

    <用語集:金属検出機>

    磁石:磁石は鉱物の一つ。鉄を引きつけ、南北をさす性質がある

    磁力:磁石の磁極(S又はN)の間に働く力。同種の極は反発し、異極の極は引き合う

    磁力線:磁石のN極に働く力の方向を連ねた線。その各点における接線の方向が磁界の方向に一致す

    磁場・磁界:磁石や電流の回りに生じる磁気力の作用する場所

    磁性:磁気を帯びた物体が示す種々の性質。また、磁界内で磁化される性質

    テストピース:評価試験用試験片(特に金属検出機では形状を球状にしている)

    球状にすることで、形や姿勢の影響を受けないで評価できる。

    強磁性金属系を代表する鉄(Fe)と非磁性金属系を代表するステンレス(SUS304)がある。

    コイル:針金を輪状にしたもの(巻いたもの)であり、電流を流すと磁力線が針金の同芯円上に発生す

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    る。

    検出感度:最も小さな金属を安定に検出できる金属の大きさの直径(mm球)を言う。「鉄」感度や「ス テン

    レス」 感度がある。たとえば「SUS 感度は0.5」である・・などという。製品にテストピースを載せ

    た場合の検出感度と、テストピースのみの場合の感度がある前者は商品毎に値が異なる使用上

    の感度であり、後者は機器の性能の目安になる感度である。

    <参考文献>

    ・アンリツ㈱インダストリアル・ソリューション編:異物検出機説明会資料

    ・(財)食品産業センター編:食品事故への対応について(中間とりまとめ)

    筆者のプロフィール 1947 年川崎生まれ、早稲田大学理工学部卒業後、明治製菓に入社、主としてエンジニアリング部門に従事。在職中にチルド食品のHACCP技術導入や異物混入防止対策を手掛ける。また、工務

    環境室長時代に環境管理責任者兼事務局として環境マネジメントシステムを構築。2000 年に独立、環境経営コンサルティング事務所「宇田環境経営研究所」を開業。 現在、NPO 法人大阪環境カウンセラー協会副理事長、財団法人オイスカ関西総支部環境 ISO 部会 EMSアドバイザー、近畿 HACCP実践研究会幹事、近畿ポリテクカレッジ講師など兼務 資格は環境カウンセラー、環境マネジメントシステム審査員、中小企業診断士、公害防止管理者、

    建築士、ボイラ技師等 著書は「基本からわかる環境 ISO」(評言社)「中小企業の環境対策」(中小企業診断協会)「食品工場の異物混入と防止対策」等、講演は「食品企業の環境対策」(滋賀ビジネスメッセ 2000)等多数 <連絡先> 〒569-1025 大阪府高槻市芝谷町65-11 宇田環境経営研究所代表 TEL:090-1240-5996 FAX:020-4668-7904 URL http://www.ecolonet.com/ E-mail: [email protected]