認知症により排尿障害をきたした患者への ... ·...

30
第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢 11-1-1 認知症(1) 認知症により排尿障害をきたした患者へのアプローチ ちゅうざん病院 看護部 しまだ りんこ ○島田 倫子(看護師),前上門 ルミ,金城 ユリ子 はじめに 今回、認知症状が強く頻尿状態であった患者に対して排泄動作自立に向けアプローチしその結果、排泄動作 が自立した事例を振り返り今後のケアの指標とするため本研究を行った。 研究方法 1. 研究期間:平成 26 年 7 月 ~10 月 2. 研究デザイン:事例研究 3. 研究対象:A 氏女性 80 歳代、左大腿骨頸部骨折、認知症(MMSE17/30 点)、不眠症、うつ状態、過 活動 膀胱、施設入所、息子が県内に 3 名おり毎日面会 倫理的配慮 本研究は A 病院の倫理委員会の了承を得た。また、家族に対して個人が特定されないように配慮し使用する ことを説明し了承を得た。 結果 入院時は帰宅願望と共に心因性からの昼夜頻尿状態あり排尿回数 30~90 回 / 日でリハビリが進まずにいた。 排尿から他の関心を逸らす為塗り絵やメモリーカード使用するが効果は得られず本人の若い頃の写真や昔話等 を取り入れた回想法を用いたことで落ち着きがみられた。また、家族の協力を得ながら排泄動作自立に向け自 室内の環境設定としてベッドとトイレ間の距離の短縮と把持物の工夫を行い、日中は伝え歩きでの移動が行え る環境と夜間はポータブルトイレの位置固定した事で昼夜トイレ動作の自立に繋がった。そして自立後より精 神状態も安定し排尿回数 10 回 / 日前後と減少し ADL の改善に繋がった。 考察 A 氏の不安の軽減に繋がるようにと馴染みのある物や映像を見て思い出を語り合う回想法を取り入れた事は 精神状態を安定させたと考える。排泄動作自立に向け早期に自室内環境設定を行い動作習得への統一した援助 を行うことで自立へ繋がったと考える。また、家族と連携した働きかけをした事で患者の不安が軽減しセルフ ケアの向上に繋がったと考える。

Upload: others

Post on 05-Aug-2020

8 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-1-1 認知症(1)認知症により排尿障害をきたした患者へのアプローチ

ちゅうざん病院 看護部

しまだ りんこ

○島田 倫子(看護師),前上門 ルミ,金城 ユリ子

はじめに 今回、認知症状が強く頻尿状態であった患者に対して排泄動作自立に向けアプローチしその結果、排泄動作が自立した事例を振り返り今後のケアの指標とするため本研究を行った。研究方法 1. 研究期間:平成 26 年 7 月 ~10 月 2. 研究デザイン:事例研究 3. 研究対象:A 氏女性 80 歳代、左大腿骨頸部骨折、認知症(MMSE17/30 点)、不眠症、うつ状態、過 活動膀胱、施設入所、息子が県内に 3 名おり毎日面会倫理的配慮 本研究は A 病院の倫理委員会の了承を得た。また、家族に対して個人が特定されないように配慮し使用することを説明し了承を得た。結果 入院時は帰宅願望と共に心因性からの昼夜頻尿状態あり排尿回数 30~90 回 / 日でリハビリが進まずにいた。排尿から他の関心を逸らす為塗り絵やメモリーカード使用するが効果は得られず本人の若い頃の写真や昔話等を取り入れた回想法を用いたことで落ち着きがみられた。また、家族の協力を得ながら排泄動作自立に向け自室内の環境設定としてベッドとトイレ間の距離の短縮と把持物の工夫を行い、日中は伝え歩きでの移動が行える環境と夜間はポータブルトイレの位置固定した事で昼夜トイレ動作の自立に繋がった。そして自立後より精神状態も安定し排尿回数 10 回 / 日前後と減少し ADL の改善に繋がった。考察 A 氏の不安の軽減に繋がるようにと馴染みのある物や映像を見て思い出を語り合う回想法を取り入れた事は精神状態を安定させたと考える。排泄動作自立に向け早期に自室内環境設定を行い動作習得への統一した援助を行うことで自立へ繋がったと考える。また、家族と連携した働きかけをした事で患者の不安が軽減しセルフケアの向上に繋がったと考える。

Page 2: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-1-2 認知症(1)糖尿病看護外来に通院している認知症をもつ患者への療養指導

芳珠記念病院 看護局

ひがし やすこ

○東 康子(看護師)

目的GLP-1 受容体作動薬を導入したことを機会に、週 1 回の糖尿病看護外来に通院し、血糖コントロールの改善が図れた認知症患者への看護介入について振り返り、報告する。方法対象:平成 27 年 12 月から 28 年 5 月までの糖尿病看護外来対象患者のうち、認知症と診断された患者 3 名とその家族。糖尿病看護外来では、1.血糖、体重測定 2.通院日に摂取した食べ物 3.1 週間の血糖値や療養行動を含めた生活の様子 の 3 点について、患者本人を中心に患者家族からも状況を聞き取り、療養指導を実施した。倫理的配慮:対象者には、研究の趣旨、参加の任意性、個人のプライバシーの保護、同意撤回の自由等を書面と口頭で説明し、同意を得た。結果期間中、週 1 回の通院は、1 度も欠けることなく 3 名全員が家族の協力を得て実施することができ、HbA1cは平均 2.8% の改善を認め、体重については約 5Kg の減少がみられた。自己管理ノートの血糖値について患者、家族と振り返りを行い、食事内容を含め聞き取りやアドバイスを行った。患者は思い出せないこともあったが、当日の朝食や、1 週間の生活について思い出そうと努め、自らの言葉で語った。また「病院の看護師さんのところにいかんなんと思う」「(データが)良くなってよかった」という言葉が聞かれ、家族からは「今までほとんど家から出なかったのに、よく歩けるようになった」「近くの温泉に行くようになった」「嫌がっていたデイサービスを受けるようになった」などの声が聞かれた。考察認知症をもつ糖尿病患者は、望ましい療養行動、とくに食事療法について遵守が困難な状況にある。血糖コントロールの改善については、GLP-1 受容体作動薬による効果が大きいと思われるが、看護外来に通院することで、患者の ADL の改善や、療養行動に取り組む意欲が出ることも影響するのではないかと考える。糖尿病療養指導は患者状態に合わせることが必要であるため、看護外来が力を発揮する分野である。

Page 3: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-1-3 認知症(1)改変版簡便短期記憶試験(STMT-R)による高齢者患者に対する入院早期認知機能検査の試み

1 山元記念病院 診療部,2 山元記念病院 事務部

やまもと ひろし

○山元 博(医師)1,小川 健一 1,山室 香理 1,久保田 映里子 1,大川内 美幸 2

はじめに:認知機能低下は高齢患者の身体的機能低下の独立因子であり、入院早期の診断は診療、医療安全面に有用性がある。認知機能をより短時間に測定可能な簡便な認知試験として、改変版簡便短期記憶試験STMT-R( Revised Simplified Short-Term Memory recall Test)を使用し、認知機能低下が高齢入院患者の年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響について比較検討を行った。方法 : 認知機能検査として、小林によって開発された STMT の改変版 STMT-R( 最高 8 点、カットオフ 4 点 )を使用した。事前にもの忘れ外来32名に対し、標準的なMMSE(Mini-Mental State Examination)と比較検討し、正の相関(r=0.625、p<0.001)が見られた。対象例は 2014 年 10 月~ 2015 年 9 月の 1 年間の 50 歳以上 1190名とした。不同意、致死的状態、短期入院 305 名を除き、救急車搬送 233 名を含む 885 名に早期 ( 入院 1 週間以内 ) 検査を行った。結果:平均年齢 78.9 歳、女性 52.2%、認知症治療歴 10% であった。登録者の内、せん妄や難聴等で 159 名が検査不能、認知機能低下群(STMT-R4 点以下)460 名、正常群(5 点以上)266 名であった。年齢、認知症の治療歴、疾患別で内科系疾患、骨筋肉疾患、呼吸器疾患、転帰(在宅復帰、死亡)、入院期間で有意差が認められた。結論 :1)STMT-R は高齢入院早期患者の認知機能検査として期待できる。2) 年齢、認知症治療歴、脳疾患合併内科系疾患・呼吸器疾患に認知機能低下に影響があり、認知機能低下が入院期間の長期化、在宅復帰遅延、疾患の重症化、死亡率上昇の要因になるものと示唆された。

Page 4: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-1-4 認知症(1)離床時間を増やす取り組み~他職種連携でADLの向上を目指して~

1 くやはら  介護福祉士,2 特別養護老人ホーム くやはら 理事長,3 大誠会 研究部長,4 特別養護老人ホーム くやはら 施設長

ほし さゆり

○星 さゆり(介護福祉士)1,田中 志子 2,廣江 貴則 3,澤野 るみ子 4

【はじめに】当施設は1ユニット7~10人の生活単位の特養である。その特性を生かし個人に合わせた生活リズムでその人らしく生活が送れるよう、多職種が連携をしながら生活支援を行いADLの向上を目指し取り組んだ症例を報告する。

【目的】骨折後、著しいADLの低下により、廃用症候群を引き起こし寝たきり状態となったAさんが以前の笑顔のある生活を取り戻す為に、ADLの向上を目的とした。

【対象者】90歳 女性 アルツハイマー型認知症 認知症日常生活自立度 Ⅳ施設内居室にて転倒し左大腿骨転子部骨折、認知機能が低下し手術困難にて保存療法となる。その後意欲低下・抑うつの症状も出現し経口摂取が困難となり、胃瘻造設。1日をほぼベッド上で過ごしていた。

【方法】他職種が連携し、離床時間の増加に合わせ①健康状態の改善(皮膚状態の改善・ポジショニング・栄養内容物の変更)②楽しみの発見(離床時に絵本を読む、飴をなめる等)③他者との関わり(レクリエーションや行事への参加)を段階的に支援し、その変化を観察した。

【結果】健康状態が改善し生活の中で楽しみを見つけることができ、離床時間が1日2時間から5時間に増加した。また顔拭き・更衣の協力動作などが可能となりADLの向上が確認できた。

【考察】多職種が共通の目標を持ち専門性を活かして、段階的に支援したことでADLの向上だけでなく残存機能を引きだし、離床時間の延長につながった。離床時の楽しみを発見することで意欲が向上し、ADLだけでなくQOLの向上にもつながり、笑顔が多くみられコミュニケーションがとれるようになり、精神的な安定が図れたと考える。

Page 5: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-1-5 認知症(1)

『触れる』大切さ~ハンドセラピーがもたらす癒しのケア~

外旭川病院 看護部

ほりうち くみこ

○堀内 久美子(介護福祉士),石川 和子,児玉 美紀子

1 はじめに癒しを目的としたタッチケア『ハンドセラピー』とは優しく撫でる・摩るのが特徴である。触れる事で手の暖かさだけでなく、お互いの心が伝わり時には痛みが軽くなる事もあると言われている。更にパーキンソン病の症状の振戦を減らし、アルツハイマー型認知症の症状の徘徊や暴力行為、介護拒否を減らす効果もあると言われている。触れる力が患者にどの様な影響をもたらすか事例を振り返り考察したので報告する。 2 目 的事例を通し、ハンドセラピーがもたらす効果を考察する。 3 倫理的配慮  発表に当たり、A氏のプライバシー保護に配慮し、ご家族から口頭にて同意を得た。 4 事例紹介 A 氏 90 代 女性 病歴:認知症・パーキンソン病等 5 方 法1)職員全員で統一したケアを行う。視線の高さを患者と合わせ、見つめ合い、優しく話しかけながら体に触れる。2)ハンドセラピーを片腕5~10分かけて両腕を行う。3)ケア前後の表情や言動の変化を調査。 6 結 果表情は穏やかで笑顔も見られるようになり、夜間も良眠、食事拒否もなくなった。手の振戦が有る時は優しく摩る事で振戦も軽減した。傍を離れる時は、本人が納得するまで説明をし不安を取り除く事で「行かないで」の言葉も少なくなり逆に「行ってらっしゃい」と聞かれるようになった。ハンドセラピーを行う事で、前半は手からは緊張感が伝わって来ていたが、終わりには「手が暖かくなった」「気持ち良かった」と笑顔で話す様になった。 7 考 察目の高さを同じにし見つめ合い、優しく話しかけながら体に触れる事で職員との信頼関係が生まれ、それが安心感へとつながったと考えられる。その結果笑顔や睡眠への良い結果が得られたと考えられる。触れる事で生まれる穏やかさや心地よさは何にも代えがたい癒しとなる。今後、癒しを目的としたケアをどのように継続して行けるかを課題とし努力して行きたいと思う。

Page 6: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-1-6 認知症(1)認知症を有する透析患者の精神的支援について ~ ひもときシートの活用を試みて ~

1 新富士病院 看護部介護科,2 新富士病院 看護部,3 新富士病院 神経内科,4 新富士病院 内科

わたなべ みな

○渡邊 美奈(介護福祉士)1,鈴木 洋子 1,能登 猛 2,川上 正人 3,中島 一彦 4

1. はじめに日本透析医学会「わが国の慢性透析医療の現況(2014 年 12 月 31 日現在)」によれば、国内透析患者数が約 32万人、透析導入時の平均年齢が男女全体で、69.0 歳と高齢化している。当院の透析患者は、週3回の血液透析、食事、水分の制限により、より多くのストレスを感じ精神面での支援がきわめて重要である。更に認知症を有する透析患者は、透析後不穏行動が見られる場合が多い。 そこで、認知症と診断されている対象患者について「ひもときシート」を活用しながら、行動パターンを観察し、個々に合った対策を具体的に導き出し、それらを実施した結果、患者の療養生活にどのような変化がみられたのかここに報告する。2. 方法①調査対象:認知症と診断されている対象患者 4 名。②調査期間:平成 27 年 10 月 1 日~ 12 月 31 日③データ収集・分析方法:「ひもときシート」とセンター方式「E.24 時間アセスメントシート」を記入し、個々に合った対策を導き出し、個別対応前後の患者の変化を比較する。3. 結果①対象者 C 氏、D 氏は年相応の認知症はあるものの、特別変化ある行動は見られなかった。②A氏は本人の目線に合わせて話を傾聴する事で、気持ちも少しは落ち着き穏やかな表情になる事が見られた。③ B 氏は本人が希望されている行動や、不安を取り除くという取り組みを行い、自分で出来ない事によるストレスの奇声を減らす事が出来た。4. 考察職員 1 人 1 人の考えや思いを「ひもときシート」を使用し率直に記入することで、課題解決に向けて具体的な内容を導き出す事が出来た。又、患者と職員で感じている事、思っている事に違いがある事に気付いた。5. まとめ認知症を有する透析患者の精神的支援を実施していく中で、ひもときシートの活用は有効であったと考えられる。「ひもときシート」についての全体像を職員間で共通認識し、チーム内で認知症ケアに取り組む事が、今後の課題である。

Page 7: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-2-1 認知症(2)重度認知症患者に集団療法が与える効果

1 聖ヶ丘病院 リハビリテーションセンター作業療法科,2 聖ヶ丘病院 リハビリテーションセンター言語聴覚科

ささ たかのり

○佐々 昂典(作業療法士)1,佐々木 聡 2

【はじめに】人との関わりは心身の安定や社会性の維持に必要とされている。今回、認知症患者へ集団療法を実施し、重度認知症患者に効果が見られた為報告する。

【対象】平成 26 年 4 月~平成 27 年 10 月の間に当院に入院し、集団療法に 1 ヵ月以上参加した患者のうち、N 式老年者精神状態尺度 ( 以下 NM スケール ) で 47 点以下の認知症境界領域以下と判断された患者、37 名を対象とした。

【方法】患者を NM スケールの認知症境界群 5 名、軽度認知症群 5 名、中等度認知症群 12 名、重度認知症群 15 名の 4群に分類した。4 群を① NM スケールの合計点、② NM スケールの各項目の点数、③ FIM の点数に対し、集団療法介入時から 1 ヵ月経過後の改善点数を比較検討した。

【結果】NM スケールの合計得点は、境界群 0.6 点、軽度群 0.8 点、中等度群 3.0 点に対し、重度群は 6.6 点と大きく改善した。NM スケールの各項目は、関心・意欲・交流の項目で軽度群 0.6 点、中等度群 1.33 点に対し、重度群で 2.07 点改善された。会話の項目は境界群と軽度群は維持され、重度群では 1.73 点改善した。FIM の改善点数は認知症が重度なほど改善されたが、大きな差は見られなかった。

【考察】認知症治療は楽しい時間の共有が重要とされており、歌や体操などの作業を介し他者と関わる事で、楽しく有意義な時間を過ごす事が出来たと考える。特に重度認知症患者は、入院生活で臥床傾向にある事が多く、意思疎通や自発性の低下から他者との関わりが少ないとされている。そのため、離床を促進し集団療法にて他者と関わる事で、精神賦活され易く人間らしさの再獲得に繋がると考える。また、近年慢性期病院の役割は多岐にわたり、転帰先に合わせた柔軟な対応が必要である。作業療法では個別での生活行為訓練や、集団療法での精神賦活など様々な選択肢から必要に応じた対応が求められる。

【結語】集団療法は重度認知症患者の精神賦活に有効であり、慢性期病院では柔軟なリハビリ体制が求められる。

Page 8: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-2-2 認知症(2)認知症ケアチーム設立と活動報告

松島病院 療養型病棟

はやさか さちえ

○早坂 幸恵(介護福祉士),末永 ゆかり

目的宮城県にある松島町は県内でも高い水準で高齢化が進んでおり高齢化と共に認知症高齢者も増加傾向にある。松島町近郊の医療を担っている当院では、認知症高齢者の入院数の増加に伴い2015年度より認知症ケアチームを設立し活動をしている。認知症高齢者へのより良い介護サービスを提供するべく、都道府県が開催する認知症介護実践者研修及びリーダー研修に参加したメンバーを中心に活動をしている。そこで今回認知症ケアチームに関する活動をまとめたのでここに報告する。 活動内容チームの主な活動内容として1)毎月の認知症患者カンファレンス2)介護職員を対象とした勉強会の開催3)困難事例に対してはひもときシート及び24時間アセスメントシートを活用しての分析4)外部研修への参加促進5)家族へ向けた認知症に関する情報の発信・資料作成・配布 結果・考察当院では療養型病床を併設している為医療介護依存の高い患者が入院しているが、近年中重度の認知症を患っている患者が増加している。そのなかで認知症に関する知識に職員間で差がある事が浮き彫りになった。この差を埋めるべく勉強会を開催したところ、認知症という疾患は理解できたがケアにどのように結び付けたらわからないとの意見が出た。その意見を活かしティーチング方式で行っていた勉強会をコーチング方式に変換した。その結果、画一的になりがちだったケアを多方面から物事を捉え思考することにより、個々のニーズに合ったケアを提案・提供することが出来るようになった。このことから、認知症ケアチームを設立したことで曖昧だった認知症ケアについての知識を深め、共通認識のもとケアにあたることが出来た。今後の課題として現在介護職員が中心に実践しているケアを、他職種及び家族とともに協働し認知症高齢者へより良いサービスを提供することと考える。

Page 9: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-2-3 認知症(2)経管栄養から経口摂取への実現による認知症への効果

北摂中央病院 看護部

くらもと せいこ

○倉本 聖子(准看護師),岡山 望,奥野 真知子

【はじめに】認知症の家族にとって、食べられない姿を見ることは、受け入れ難いことである。経管栄養中でも口を使い、五感を刺激することは脳への刺激となり、食の楽しみを再度味わうことにより認知症の緩和になるのではと考えた。胃瘻より経管栄養を行っている認知症の患者に再び経口摂取をしてもらう取り組みを行った事例を報告する。

【方法】対象は脳血管性認知症の80歳女性。平成27年4月20日より補水を開始し、6月8日にはミキサー食を開始した。摂取時の反応・表情・言動などを毎日記録した。また、4月20日と8月22日に N 式老年者用精神状態尺度(以下、NM スケール)を施行した。

【結果】研究開始21日目には意欲的な言葉が聞かれるようなり、70日目頃より発語量も増えてきた。97日目の夏祭りではアイスクリームを摂取することができた。開始時の NM スケールの結果は9点であったが、最終日には17点という結果が得られた。

【考察】月日が経過するにしたがい、表情が良くなり、発語も多くなった。また食事に対して、段々と意欲的になってきた。NM スケールでは9点(重度)から17点(中程度)と認知症の重症度が軽減した。短期記憶の障害はあるが、経口摂取を開始したことで、以前、食事をしていた頃の楽しい時間を思い出し、「口から食べることの幸せ」を再び味わってもらうことができた。そこから、脳が活性化し、意欲も向上したことにより、会話や見当識を取り戻したと考える。

【結論】口から食べることは、生活の充実感を得て、脳が活性化し、認知症に好影響を与えることが分かった。また、患者のことをいちばんよく知る家族の思いを尊重したケアを行うことができ、良い結果を得ることができた。他の認知症患者への関わりに非常に参考になるものとなった。

Page 10: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-2-4 認知症(2)認知症高齢者の美しさ・心地よさ・尊厳を目指して - BCD に基盤をおいて認知症ケアマニュアルの改訂-

青梅慶友病院

あらしだ よりこ

○嵐田 順子(看護師),三川 みどり,坂本 志緒,柴崎 めぐみ,石井 美智子,山川 美香,鈴木 達見,野呂 修平,大越 栄子,桑田 美代子

【はじめに】青梅慶友病院(以下、当院)は許可病床数 736 床、入院患者の平均年齢約 88 歳、9 割が認知症を有し、9 割が死亡退院する「終の住処」の役割を担う療養病床である。「豊かな最晩年をつくる」を理念に掲げ、多職種チームで様々な取り組みを実践してきた。認知症高齢者を「病をもった人」ではなく、「生活者」としてとらえ、その方にあった生活リズムを整える。言葉で伝えられずとも、最後まで意思ある人として、美しさ

(Beauty:B)・心地よさ(Comfort:C)・尊厳(Dignity:D)を支えることを目標に取り組んできた。しかし、認知症については、病態の基本的な知識、症状マネジメント、薬物療法に関する「認知症ケアマニュアル(以下、マニュアル)」においては洗練化する必要があった。そこで今回、BCD を基盤にした認知症ケアの更なる充実を目指し、取り組みを行ったので報告をする。

【方法】以下の手順でマニュアル改訂を行っていた。①各病棟の看護・介護職員対象にマニュアルの追加・修正等に関する意見聴取、②聴取された意見内容をカテゴリー化し追加・修正の有無の検討、③新マニュアルの項目決定、④項目毎に担当を決定。これらを各病棟リソースナースで連携・協働し作成した。

【結果・考察】マニュアルの追加・修正意見を聴取する前に、看護職や介護職を対象とした『認知症対応力向上研修』を開催した。追加意見として多かったのは「症状マネジメント:BPSD」「環境調整」「薬物療法(向精神薬)」

「COGNISTAT」などの心理検査であった。それらを考慮すると共に、日々実践しているケアの重要性に気づけるようマニュアル内容を改訂することにした。具体的な内容、院内での普及活動については学会内で報告をする。

Page 11: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-2-5 認知症(2)認知症高齢者の望む作業を支援する~生活行為向上マネジメントを活用して~

南淡路病院

たうら やすよ

○田浦 康代(作業療法士),吉本 勝,大塚 泰則,伊井 邦雄,武久 洋三

[はじめに]生活行為向上マネジメントとは、作業療法の治療手段である「その人にとって意味のある作業・生活行為」に焦点を当て、病気や老化、環境の変化などによって遂行できなくなった生活行為の遂行障害を回復、向上させる為の支援方法である。今回、認知症高齢者にとって意味のある作業を続け、その結果について検証したため以下に報告する。

[方法]本研究は当院理念規定に則り、個人情報保護に十分な配慮を行っている。対象は認知症病棟に入院中の患者 6 名 ( 男性 2 名、女性 4 名、平均年齢 84.3 ± 4.9 歳 )興味・関心チェックリストより、『畑仕事』:3 名、『料理を作る』:3 名に対し 4 週間の関わりを個別活動にて実施した。介入前後の、改訂長谷川式簡易知能評価スケール ( 以下、HDS-R)、N 式老年者用精神状態尺度 ( 以下、NM スケール )、N 式老年者用日常生活動作評価尺度 ( 以下、N-ADL) を比較し、統計学的処理には Wilcoxonの符号付順位和検定を用い、有意水準は危険率 5% 未満とした。

[結果]介入前後での比較検討において、HDS-R では (P<0.06)、NM スケールでは (P<0.10) と有意差は認められなかったが、患者 4 名において、HDS-R の言葉の遅延再生、NM スケールの関心・意欲・交流 / 会話の項目に点数の向上がみられた。

[考察]本研究の結果、過去の経験から成功体験や快の感情を呼びだし、その行為を行うことで、正の体験を想起でき、遅延再生が可能になると推察した。言葉の保持ができ、さらに連続した言葉の想起によって会話が可能となり、交流が広がることに繋がったと考えた。今後はさらに症例数を増やしていくことや、生活全体を捉えた上で、身辺動作においても主体的な行動が出現するような目標を定めることによって、認知症患者の望む作業を見出していきたい。

Page 12: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-2-6 認知症(2)認知症ケアの実践力を向上するための取り組みの効果

刈谷豊田総合病院東分院 看護介護部

はまおか とよこ

○濱岡 豊子(看護師),水野 浩世

【はじめに】 超高齢化社会において認知症ケアの実践力の向上は必須である。療養病床においても認知症患者は多く、患者の状態にあったケアが必要となっている。A病院では認知症ケアの実践力の向上を目標に取り組んだ。

【目的】認知症ケアの実践力を向上するための取り組みを実践し、その効果を明らかにすることで、今後の取り組みを検討する。

【研究期間】平成 27 年 5 月~平成 28 年 2 月

【方法】①認知症ケア勉強会(基礎編)の実施②認知症看護認定看護師による講義「認知症を生きる(前編・後編)」の開催③認知症事例検討会(身近な症例 2 事例についての対応方法を小グループで検討)の実施④認知症ケア専門士(6 名)の育成①~④の実施前後に Web 上で「認知症に関する知識」アンケートを実施

【結果】 ①参加者は 45 名で 9 割が「理解が深まった」、「今後の業務に活かせる」と答えた。②参加者は 50 名(前編・後編)だった。③病棟ごとに実施し、参加者は病棟勤務スタッフほぼ全員の 113 名であり、回答例に近い意見が導き出されていた。④認知症ケア専門士は 10 名合格した。実施前のアンケート正答率の平均は 67.6%、実施後の正答率の平均は 68.0% だった。

【考察】勉強会では 9 割が「理解が深まった」と答えたが、「認知症に関する知識」アンケートでは、取り組み前後の正答率に変化はなく、知識の向上には至らなかった。事例検討会では全員が事例患者の立場になって活発に討論し、回答例に近い意見が出されていた。このことから、個人での判断では知識不足であっても全員で考え、検討することで適切な対応を導き出すことができたと考える。個々の患者について、病棟スタッフ全員で考える事例検討会を定期的に行うことの重要性が示唆された。今後も継続的に各人のスキルアップを目指しながら、認知症ケア専門士を中心に各病棟で事例検討会の効果的な開催と定着に向けて取り組んでいきたい。

Page 13: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-3-1 認知症(3)美しさ・心地よさ・尊厳を支える認知症ケアの更なる充実を目指して -事例検討を通し介護職の役割を考える-

青梅慶友病院

さとう あやみ

○佐藤 綾美(介護職員),竹内 ルリ子,酒井 千折,舟口 沙織,佐貫 梓,船山 美希,高瀬 亜優,ケアワーカー 教育係一同

« はじめに » 青梅慶友病院は、許可病床数 736 床、入院患者の平均年齢約 88 歳、平均在院期間3年4ヶ月、9割が認知症を有し、また 9 割が死亡退院する「終の棲家」の役割を担う療養病床である。「豊かな最晩年をつくる」を理念に掲げ、美しさ(Beauty)・心地よさ(Comfort)・尊厳(Dignity)を支えることを目標とし、多職種で協働しケアを提供してしている。認知症高齢者を一人の意思ある人として対応し、自ら訴えることのできない苦痛を捉え・緩和し、身繕いなど人としての尊厳を保つことが認知症ケアにも求められる。今回は、美しさ・心地よさ・尊厳を基盤にした認知症ケアの更なる充実を目指し、多職種による事例検討を通し介護職の役割について考察したので報告する。« 方法 » 検討会は、「認知症の基礎知識」「認知症ケアに関する基礎知識」の院内研修後に設定した。認知症高齢者を直接ケアする介護・看護職・リハビリスタッフだけでなく院内の全職種参加とした。事例については、各部署の教育的役割を担う介護職を中心に検討を進めた。認知症高齢者ケアでよく遭遇し、スタッフが困惑・対応方法などに悩むケースを出し合い、部署内での検討事項や対応などを共有しながら、事例の詳細について検討しシナリオを作成した。検討会では、事例の場面や状況を参加者が捉えやすくなるよう工夫した。« 結果・考察 » 事例検討会の実際については、当日報告する。認知症ケアでは、関わる職種の専門性を活かし、如何に個別性のあるケアを提供していくかが重要である。認知症高齢者の一番身近な存在である介護職が、当事者の不安・苛立ち・苦痛を想像・キャッチ・理解し、ケア・対応できることが役割と考えた。

Page 14: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-3-2 認知症(3)

「慈しみのケア技術」の実践と成果 ~やすらぎを運ぶかかわりを目指し~

ベトレヘムの園病院 看護科

おがわ のりこ

○小川 のり子(看護師),保田 しのぶ

1. はじめに 当院の入院患者のほとんどが高齢者で、繰り返される認知症患者の訴えに対し対応できず、両者のストレスが蓄積されていた。認知症を知る事を目標に上げ、認知症研修を行った。その中で、ユマニチュードの考えに共感し、当院の理念である「慈しみの心」を合わせ3つの項目を挙げ「慈しみのケア技術」としスタッフ全員で実践した。するとケアする側に患者の心を読み取ろうとする気持ちや、より丁寧に患者に接するなど、自分自身の気持ちの変化が生まれる結果となった。そんなスタッフの変化を知り、患者の変化を知りたいと考えここに報告する。2. 研究目的 認知症患者により良い人的環境を提供して行き、今後の看護・介護に活かすため。3. 倫理的配慮対象者家族に、研究の目的・方法について文書で説明し承諾を得た。4. 対象者 / 期間 / 方法①〈対象〉 A氏 93 歳 女性 脳梗塞 認知症 〈期間〉 56 日間

〈方法〉 質問紙 ( 看護師による観察記入 )②〈対象〉 B氏 76 歳 女性 心肺停止蘇生後脳症 脳梗塞 〈期間〉 36 日間

〈方法 〉質問紙 ( 看護師による選択回答 )③〈対象〉 C氏 82 歳 女性 認知症 多発性脳梗塞 失語症 〈期間〉 47 日間

〈方法〉 質問紙 ( 看護師による選択回答、観察記入 )5. 結果①A氏  ミトン解除となる②B氏 明らかな変化はなし③C氏 変化なし6. 考察A氏 「慈しみのケア技術」を続けていくうちに、拒否なく受け入れてくれるようになった。B氏 脳の損傷程度により期待した反応は起こらなかったのか。C氏 以前の苦痛体験によるものか。7. おわりに患者の病態生理や精神状態、個別性を考えアセスメントし、より良好な関わり方を導き出すことで患者の変化につなげて行きたい。そして、当院の理念である「慈しみの心」を持ち続ける看護・介護者でありたいと思う。

Page 15: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-3-3 認知症(3)植物の力で認知症ケア~精神的な安定と見当識の改善~

山口平成病院

おだ りょうこ

○小田 涼子(作業療法士),山口 正信,北川 彩容子,桑原 威彦,堀本 実希

[はじめに]高齢者福祉分野において園芸活動は認知症予防・進行抑制、うつ症状の緩和、生活の質の維持・向上などに効果があるとの報告がある。当院回復期病棟では後期高齢者の方が多く、認知症を有する患者様の割合も高い。昨年度より園芸療法士(以下 HT)が入職し、新たな取り組みとして高齢者に対して園芸活動を提供した結果をここに報告する。

[方法]期間:2015 年 7 月~ 9 月対象:当院回復期リハビリテーション病棟入院患者 7 名(平均年齢 86 歳)方法:HT と共同してプログラム ( ひまわりの植え付けや押し花を使用して花火やもみじをイメージした作品作りなど ) を提案し、集団で行う。園芸活動を行う前後の変化を HDS ー R やフェイススケール、Affect Rating Scale(以下ARS)で評価する。本研究では当院倫理規定に則り、対象者に対して十分な説明と同意を得ている。

[結果]①HDS-R四季に合ったプログラムを提供することで見当識を促す効果があった②フェイススケール実施前:3.12 実施後:0.72 園芸活動に対する満足度は向上している③ARS実施前:5.12 実施中:9.57 実施後:6.37 ④観察から季節を感じる発言が聞かれた

「次はこれがしたい」など作品への関心や自発性がみられた自分の押し花の素材を他者に分けるなど他者への関心が増し、作品を通して他者との交流が増えた

[考察]園芸活動を通じて、①社会性を高め、周囲の人々との共感やコミュニケーションが生まれる、②五感をもって四季を感じる、③自発性や意欲向上に繋がる、などがみられた。HDS - R では、プログラム前後で大きな変化は見られなかったものの、五感をもって季節を感じることで見当識の刺激に一定の効果が得られたと考える。フェイススケール、ARSや観察から園芸活動に対する満足度は高く、現在も継続して取り組みを行なっている。

Page 16: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-3-4 認知症(3)

『あなたがいる』 絆を紡ぐケア ~自己学習で取り組んだユマニチュードの試み~

1 湖東病院 リハビリテーション部,2 湖東病院 看護部,3 湖東病院 介護部

まつい けんじ

○松井 堅志(作業療法士)1,宮地 緑 2,中村 幸子 3

【はじめに】近年,認知症ケアの新しい技法として注目を集める『ユマニチュード』は「他者との絆」を理念として「人と人との関係性」に着目したケアの技法である.今回,認知症の方に対し,この技法を自己学習・実践し,周辺症状の軽減を図ることができた.また,病棟スタッフも自己学習・実践することでスタッフの意識に変化が見られたため報告する. 【対象と方法】症例は入院当初より,車椅子で棟内を徘徊し,帰宅欲求が著しかった.「早く帰ろう」等訴え,夕方からは表情険しく,大声で叫ぶなどの焦燥感がみられた.リハビリでは,ユマニチュードを用いた関わりの考察と,病棟との情報共有を中心に介入した.周辺症状の評価にナーシングホーム用問題行動スケール ( 以下 NHBPS) を用い,ユマニチュード介入前・後で比較した.また,職員の意識の変化を見るため自己学習前・後でアンケートを実施し比較した. 【結果】介入後は,職員が症例の心境の傾向を把握し,対応をする事が出来ていた.それにより,NHBPS では「落ち着きがない行動」「イライラさせる行動」で減少がみられた.また,アンケートでは「訴えを傾聴する」「行動の意味を考える」で意識の向上が強くみられた. 【考察】周辺症状の原因はセロトニン系のニューロンの活性低下や受容体の減少と考えられている.ユマニチュードはマルチモーダル刺激を積極的に行う事が特徴であり,感覚受容器から心地よい情動刺激を入れることでセロトニンの分泌が促され,周辺症状の「易興奮性」「易刺激性」の抑制やストレス緩和効果が得られた可能性がある.また,職員も症例の行動を観察・理解することで,ケアの向上が図れ,効果が現れたと思われる. 【おわりに】ユマニチュードは科学的評価として研究数が少ない.そのため,今後も,各自のユマニチュードのスキルアップを図ると共に,情報共有する事でユマニチュードの効果をさらに検証していきたい.

Page 17: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-3-5 認知症(3)高齢化社会の日本で学んだ介護について

永生病院 看護部

○ピネダ ジョン デンマーク(介護福祉士),齊藤 あけみ

【はじめに】 私は、EPA 介護福祉士候補生として、2009 年にフィリピンから来日し、永生病院で研修を受け 2013 年に介護福祉士資格を取得した。 永生病院は、一般内科、整形外科、回復期リハビリテーション、療養、介護、精神の診療科を持つ 628 床のケアミックス型の病院で、患者の平均年齢は 80.7 歳、平均在院日数は 97 日と、高齢患者が長期に入院している。 フィリピンでは、高齢者が長期に療養する施設は少なく、家族が介護することが当たり前とされている。私は、来日して 6 年の間に、家族と離れて長期間療養する高齢者が多数いることに驚き、その中でも認知症を合併している患者に対し、介護福祉士としてどのように接することが適切なのかを考えてきた。

【方法・結果】 フィリピンと日本の高齢者介護の違いを比較し、日本と異なる文化の中で育った私が感じ、新たに学んだ高齢者介護についてまとめてみた。 高齢者体験や認知症介護についての院内研修に参加することと、介護療養、医療療養の病棟で勤務する中で実践から得た学びは、①見守りと観察、②健康管理、③関わりである。

【今後の課題】 私は、今後も永生病院で介護福祉士として高齢者介護を続けていきたい。そのために、高齢者と認知症介護について学びを深め、フィリピン人としてのポスピタリティ溢れるケアを融合し、より良いケアの確立を目指していくことが目標である。

Page 18: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-4-1 認知症(4)スピーチロック廃止への取り組み

温泉リハビリテーションいま泉病院 認知症治療病棟

はぎなか ひろゆき

○萩中 博幸(介護職員),小幡 早織,菅野 真弓,村井 誠治,渡辺 久美子

【背景】認知症治療病棟は、BPSD が顕著で施設や在宅での生活が困難な方が入院している。「認知症をもつ人の尊厳・誇りを尊重します」を病棟目標に掲げ、認知症ケアの研修を重ねているがスピーチロックが無くならない現状があった。

【目的】スピーチロック使用の現状と原因、対策を考察する。

【方法】期間:H26.9 から H28. 6対象:看護師・介護士36名方法:スピーチロックに関して拓一回答方式で質問紙調査を実施した。その後「言い換えテクニック」の研修会、スピーチロック係り設置を実施。1年後とその半年後に自由記述方式項目を追加し質問紙調査を実施。

【倫理的配慮】病院長に承諾を得、対象者に研究の目的・内容を説明し同意を得た。

【結果】初回と 1 年後(2 回目)、その半年後(3 回目)の調査結果を比較した。「ちょっと待って」を使用している94%→ 13%→ 32%、指示・命令口調 61%→ 61%→ 35%、禁止・否定語 52%→ 55%→ 42%、叱責・詰問45%→ 34%→ 42%。自由記述内容をカテゴリ化し分類した。「なぜスピーチロックを使用するか →BPSDに対して・業務が忙しい時・無意識。「どうしたらなくす事が出来るか →意識の向上・職場環境の改善・知識を高める。「職員がスピーチロックを使用していたらどう思うか →不快である・自らを振り返っているという結果であった。

【考察】初回より使用は減ってきているが廃止には至らない現状が見られた。職員はスピーチロックの弊害は理解し、使用している職員を見ると辛い気持ちになることも分かった。しかし患者が危険な状態、職員や他患者が叩かれる時等すぐに対応したい時、又職員の少ない時や気持ちにゆとりがない時等にスピーチロックが使われていることが分かりスピーチロック使用の現状と原因、対策の示唆を得た。スピーチロックを無くすためには「意識の向上」という回答をもとに、研修会の継続やスピーチロック係り継続が意識を高めることに繋がると考える。

Page 19: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-4-2 認知症(4)認知症患者の不安に心を寄せた関わりがもたらした患者の変化

北九州八幡東病院

こが あゆみ

○古賀 彩友実(介護福祉士),山原 由加里

【はじめに】 当病棟は認知症患者が多く、認知度Ⅲb以上が 60%以上を占めている。認知症患者への関わり方は院内研修や自己研鑚を重ねていたが様々であった。その為他職者合同の勉強会を行い BPSD について学び、統一した関わりを行うためにひもときシートを用いた。結果患者に心を寄せた関わりができ、認知症症状に変化が見られたので報告する。

【対象者】  A 氏  86 歳 女性【方法】①ひもときシートによる分析②タイムスタディで患者の生活スタイルを把握する ③毎日同じ時間帯に 10 ~ 15 分コミュニケーションを図る④フェイススケールで評価する

【結果・考察】  ひもときシートから 1)身体的苦痛 2)孤独感 3)不安を感じていることがわかった。1)身体的苦痛 下肢の痛みを確認しながらクッションの利用や体位変換、下肢をマッサージした。実施 7 日目以降痛みの訴えはなくなった。2)孤独感 2 日に 1 回みられていた面会が減少した。自室がチームステーションから離れた 4 人部屋であり、患者同士の会話は全くない。「寂しい」との発言も聞かれたことから孤独な心理状態であったと考えられる。人がいる場所への参加、景色の良い環境で好きな演歌を聴きながら家族の会話を行った。実施 6 日目「楽しいね」と言われた。3)不安 病気になった話や今の身体状態について悲観的な言葉があった。認知症があり記憶が曖昧な事に対し不安も訴えていた。コミュニケ-ション実施 7 日目笑顔で「ありがとう」と言われた。向き合い話をしたことは患者との距離を縮め、信頼関係を築くことにも繋がったと思われる。

【おわりに】 認知症患者への対応はパーソン・センタード・ケアの視点で関わることが重要である。患者理解を深め信頼される心を寄せたケアを今後も提供していきたい。

Page 20: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-4-3 認知症(4)当院に来るまでレビー小体型・前頭側型認知症と鑑別ができなかったために、 長期間介護に難渋された2症例

1 京浜病院 外来 看護課,2 京浜病院 医局

ねま れいこ

○根間 麗湖(准看護師)1,横田 一恵 1,熊谷 賴佳 2

はじめにレビー小体型認知症や前頭側頭型認知症は、早期発見し、発症初期から正確な診断を下すことは難しく、多くの場合個人の性格によるものと思われたり、うつ病等の精神疾患と誤診されやすい。当院を受診し正しい診断を受けるまで10数年間にわたり家族が介護に難渋した2症例を報告する。症例 1:S 様 78歳女性 レビー小体型認知症他院で、うつ病とアルツハイマー型認知症と診断される。自宅で夫の介護を受けていたが食欲低下し、1 年で15kg体重減少する。頭痛・腹痛・激痛にて救急搬送され、そのつど異常なしで帰らされ幾度も病院を変え検査をするも、異常なしと診断される。家族は疲弊し web で当院を知り受診した。診断はレビー小体型認知症。入院集中治療を開始後、約4週間で BPSD はほぼ消失し、自宅へ退院した。現在笑顔で通院中。症例 2:N 様 86 歳女性 前頭側頭型認知症同居中の息子は母の昔から我儘で身勝手な性格は老化現象によるものと思い母と嫁との争いごとや外でのトラブルを傍観してきたが、実は前頭型認知症が原因であった。10 年前より周辺・中核症状は徐々に出現していた。外来治療開始、症状は軽減したが日中は一人での生活となるため脱水にて歩行困難となり入院。認知症内服薬調整により、攻撃性・執着・被害妄想も消失し穏やかになる。現在、グループホームに入居し、充実した日々を送られている。まとめ人間長く生きていればいつかは老いが訪れる。心身だけでなく、記憶力・運動機能も低下する。誰しも家族に面倒を掛けたくない。ましてや下の世話まで・・・とよく耳にする。自ら老化現象と笑っている間は良いが、認知症が進行すると様々な中核症状・BPSD が出現し、一人での生活は困難を要する。治療だけでなく周囲のサポートも必要となる。そうならない為にも、早期発見・治療することで、暮らしなれた地域でサポート・支援を活用し、自分らしく自立した生活を送れることを望むところである。

Page 21: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-4-4 認知症(4)医療保護入院を繰り返していた患者への関わり方

1 京浜病院 医療第二病棟  看護課,2 京浜病院 医局

たけや ゆきこ

○竹谷 ユキ子(准看護師)1,青山 美恵 1,中村 弘美 1,木下 有希子 2,志越 顕 2,熊谷 賴佳 2

はじめに医療保護入院においては、患者はもとより家族も不安や恐怖を感じている。自傷行為(絞首行為)で医療保護入院した患者が、医療療養病棟での関わりの中で、行動・心理症状の安定、ADLの拡大が図れ、家族の笑顔を引き出せた経過をここに報告する。症例病名  レビー小体型認知症  パーキンソン症候群A氏 75 歳 女性 最終学歴大学 職歴 体育教師 結婚歴はなく兄他界後は一人暮らし20 XX年初旬頃より「自宅に盗聴器が仕掛けられている」「毎日地震がある」など妄想、幻覚、幻視が出現し、混乱を極めた。拒食にて近病院(内科)受診し入院となる。入院当日夜間に自らタオルで首を絞める等の自傷行為を2回認め、翌日某大学精神科受診し医療保護入院となった。切迫した希死念慮、幻覚、妄想著明。隔離拘束の上、薬物療法開始となる。薬物療法開始後は症状安定したが、家族から転院の話があり再び精神症状が不安定になり、時に苛立ったり流涙あった。経過①転院という強い不安に対するストレスで、自傷行為に至ってしまうかもしれない→絞首行為につながらないようにナースコールは使用せず、巻き込みセンサーを使用して、そこを手で押すように説明→実施協力が得られた。②入院当初頻繁に見られた感情失禁は、1W後症状改善され、2W後には、ほとんど見られなくなった。→スッタフは部屋の前を通るときは、手を振るようにしてコミュニケーションを意識して図った。③リハビリにおいても、車椅子の自走➡車椅子への移乗→ポータブルトイレの使用とADLも拡大していった。考察内田病院の田中志子先生は、BPSDは家族の関わり方が変わるだけでも、BPSDを予防したり、大きく減らすことができ、逆に関わり次第で増えることがあると書かれている。医療保護入院を繰り返していた患者が、医療療養病棟でも多職種の関わりの中で、行動・心理症状を大きく減らすことができ、ADLが拡大する事が出来た。

Page 22: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-4-5 認知症(4)生活に密着した役割活動の提供~ QOL の向上を目指して~

南ヶ丘病院 リハビリテーション科

やまもと めぐみ

○山本 恵(作業療法士),都志 和美,奥村 奈央,久保 友理香,増田 千明,島 一平,山下 智子,水上 里佳

【はじめに】認知症の症状には陽性症状と陰性症状があり、陰性症状とは感情鈍麻、思考貧困、意欲・自発性の低下などの症状を指す。当院回復期病棟では何もせずに車椅子に座って 1 日を過ごす等の自発性の低い認知症患者が多く見受けられている。無気力や自発性の低下は生活の質(QOL)を低下させていたと報告 (DLGerritse ら ,2005)されている。今回、作業療法の一環として、役割活動を提供し、認知症患者の QOL への効果について検討した。

【方法】平成 27 年 7 月~ 10 月の期間に当院回復期病棟に入院していた認知症患者で、陰性症状を認めた 10 名を対象とした。役割活動は平日 1 日 1 回とし、タオルたたみ、お茶くみ、お茶配りの 3 種類を各対象者の能力に合わせて提供した。QOL 及び自発性の指標として、寺田らが作成した痴呆高齢者の健康関連 QOL 評価表(以下QOL-D)を用いた。開始時と 4 週後に評価を行い、ウィルコクソン符号付順位和検定を用いて統計学的に比較した。優位水準は 5%とした。なお、 データ処理時には、個人が特定できる情報を削除し、取扱いに十分注意を払った。

【結果】QOL-D の 6 因子のうち陽性感情、陰性感情&陰性行動、自発性&活動性において有意に改善した。

【考察】QOL-D より、役割活動を通し自発性の出現、陽性感情、陰性感情の改善が見られた。これは、実生活に即した時間帯における介入や、患者の自発性を引き出す環境作り、反復して感情に刺激を与えたためと考える。また、役割活動を行う事で達成感や他者からの賞美を得る事が出来、さらなる社会参加へつながる可能性がある。よって、自発性は QOL 向上の第一歩であり、主体性を持った生活は QOL の向上に繋がっていくと考えられる。今後も、身体的介入の他、在宅にも繋げていくことができる個々に適した作業活動や、趣味活動等の精神介入も検討し、入院生活・退院後の QOL 向上への一助としていきたい。

Page 23: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-4-6 認知症(4)一般内科病棟における認知症状の違いに合わせた介入 ~ 2 度の入院後に見られた気持ちの変化~

永生病院 リハビリテーション科

ささき あやこ

○佐々木 絢子(作業療法士),横山 佳祐,中里 創

【はじめに】今回、内科疾患で 2 度入院され、初回と再入院で本人の認知症状に違いが見られた患者様を担当する機会を得た。症状にあわせた介入を行うことで、退院に繋げることが出来たので報告する。

【事例紹介】70 代男性 診断名:肺炎後廃用症候群(初回)急性胆嚢炎後廃用症候群(再入院) 既往歴:60 代に脳梗塞発症、左片麻痺が残存(Brs. 上肢Ⅲ手指Ⅳ下肢Ⅲ)。自宅に電動ベッドや手すり等あり。車いす一部介助レベル。病前は訪問、通所サービスを利用しながら妻と二人暮らし。入院時 FIM22/127 点。

【経過】初回入院時:HDS-R11/30 点。見当識・状況理解能力の低下で不安が増強し、険しい表情のまま落ち着きのなさや攻撃的な発言が目立つ。介入はメモリーノートを導入。日々の予定や妻のコメント欄を見て安心感を得ることで、歩行練習や食事の離床へも介入できた。訪問看護や通院を増回し、1 か月半後自宅退院となる。再入院時:HDS-R14/30 点。身体機能に変化はないが、消極的・抑うつ的な発言が聞かれた。理由は妻への心配と将来の不安でリハビリの拒否もあり、傾聴と支援的な声かけを行い、リハビリ継続意欲を引き出した。サービスは訪問にシフトし、緊急時の窓口やショートステイを追加し、約 20 日で再度自宅退院となる。再退院する日には初めて前向きな言葉が記された手紙を頂いた。

【考察・まとめ】米国精神医学会治療ガイドラインでは認知症患者への介入を、行動・感情・刺激・認知機能について焦点を当てるアプローチに分類している。今回は感情・認知機能にアプローチし、周囲と自分との関係性を再確認し、現実を受け止めることで、安心感や所属意識を感じられるよう導いた。これにより現状認識が困難な状況から、妻の協力の元で傾聴と退院に向けた支援を行えた結果、徐々に自分の状況を理解し始め、前向きな発言につながったと考えられる。

Page 24: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-4-7 認知症(4)認知症初期集中支援とは何か ~薬物療法、家族支援、統一したケアの合わせ技~

1 内田病院 認知症疾患医療センター,2 群馬大学大学院保健学研究科

たなか ゆきこ

○田中 志子(医師)1,戸谷 幸佳 1,小原 明美 1,星野 里美 1,尾中 航介 1,安原 千亜希 1,山口 晴保 2

症例:75 歳 女性病名:認知症 家族より、物忘れとそれに伴う行動・心理症状(BPSD)の悪化にともない在宅介護が困難であり、治療と療養環境の調整について依頼があり、初期集中支援が必要となる。

生活歴として、二人娘の末っ子で両親は離婚歴があり母親に育てられた。25歳で夫とお見合いし結婚。専業主婦となる。姑が旅館を経営していたので本人が31歳の時に旅館の手伝いと祖父の介護もあり当地へ転居した。以後女将として旅館に入る。夫は、単身赴任で不在がちだった。現病歴として10年前 ( 58歳 ) 頃から物忘れ症状出現。経営に関する管理がうまくいかなくなり、5年前に子供が東京から戻り実家に入る。その後、本人が炊事ができない、調理場に行き従業員の背中に腐った果物をいれるなどして、職員が退職してしまった。また孫が言うことを聞かないからと言って階段から突き落としたりするので困り果てていた。入浴もしばらくできていない。着の身着のままテレビばかり見ている。家族から物忘れとそれに伴う心理・行動障害(BPSD)について何とかしてほしいという依頼があった。 初診時現症:日によって強い気分の変動あり、幻視、幻聴なし。パーキンソン様症状はないが、手首の固縮は強い。便秘あり。昼夜のリズムも、一定のリズムはなく、日差が大きい。画像検査:MRI では脳室の拡大、頭頂葉、海馬の萎縮などが著明、虚血性の変化も強い。VSRAD ではレビー小体型認知症を示唆する数値が認められた。 心理検査所見:HDS・R : 21点、MMSE : 27点、その他の心理検査については発表時に提示する。この症例が改善する過程と、認知症疾患医療センターの取り組みの詳細を報告する。

Page 25: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-5-1 認知症(5)認知症高齢者への看護をあきらめない ~ 97 歳、認知症女性の可能性を信じかかわった事例~

清恵会三宝病院 看護部

うめざわ ゆみこ

○梅沢 由美子(看護師),赤峰 安奈

はじめに 2025 年に迎える超高齢化社会では認知症をもつ人も 700 万人を超えると予測されている。

「認知症の高齢者」が当たり前となる時代であるからこそ、私たち看護職には患者一人ひとりへその状態に応じたきめ細やかなかかわりが必要であると考える。今回「認知症の高齢者」と一括りにせず個別的なかかわりを持つことによって、97 歳という超高齢にもかかわらず驚異的な回復過程をたどった認知症女性の事例から学んだ「あきらめない看護」について報告する。事例紹介、経過  97 歳、女性、2015 年 4 月に自宅内で転倒し右上腕骨を骨折したことからADLが低下し独居困難となり急性期病院へ入院される。入院中に心不全、肺炎を発症し経鼻栄養を開始され日常生活自立度C、ADL全介助の状態で 7 月に当院へ入院となる。 入院時のHDS-R測定不可、覚醒状態は終日不良であった。リハビリ目的での入院であったが高齢でありその状態からリハビリ指示もベッド上、リラクゼーション、理学療法のみといった内容であった。オムツによるスキントラブルが発生し口腔内の乾燥、舌苔が著明で口臭が強く頻回な口腔ケアが必要であった。看護実践の優先順位を口腔ケア、保清とし8月にはスキントラブル、口臭が消失し覚醒度があがり経鼻チューブの抜去を繰り返すようになった。病棟内での夏祭りへの参加を計画しリクライニング車いすに移乗され氷片を口にし、嚥下状態には問題がないことが確認された。また「おしっこ出ます」と再三訴えられる様になり理学療法士と共にトイレでの排泄を試みた所、成功に至った。これをきっかけに患者の回復への可能性を信じADLの拡大を図り介助歩行、経口摂取の確立に至った。考察認知症の高齢者だから回復の可能性がないと決めつけるのではなく、その人の出すサインを見逃さず、何よりも私たち看護職がその可能性を信じあきらめずにかかわり続けることが認知症の高齢者への看護の原点であると考える。

Page 26: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-5-2 認知症(5)認知症の人の看護 症状に目を向けるのではなく、それまでの長い人生に目を向けましょう

秋津鴻池病院 看護部

てつかわ ゆい

○鉄川 由惟(看護師),中野 初美

Ⅰ.はじめに 認知症ケアの基本には、パーソン・センタード・ケアの概念があり、ケア提供者に、認知症高齢者のケアを中心とし、援助者を含めた環境を整え、認知症高齢者の尊厳を支える事を求めている。今回、身体合併症を持つ認知症患者との関わりの中で、多職種と連携を図り、統一したケアを行なっていくことで、一人の人として認知症の人を看るということを学んだ為、報告する。 Ⅳ.研究方法1.研究方法:事例研究2.対象者:A氏 80歳代 男性      診断名:脱水後の廃用、多発性褥瘡、糖尿病、アルツハイマー型認知症3.実施期間:平成27年X月~平成28年X月 Ⅴ.経過A氏は教師であった為、呼び方を「A先生」と呼ぶと反応がよく穏やかに話すようになった。その為、スタッフで呼び方を「A先生」と統一を図る。また、A氏は娘の名前を呼びながら「コーヒーを持って来い」と訴えるようになり、コーヒー好きであったこと、担当OTからA氏の趣味が会話であることを情報収集し、興奮が見られたときは会話を取り入れ落ち着くまで付き添いを行った結果、認知症の行動・心理症状が悪化することなく退院できた。 Ⅵ.考察 患者の状態変化や生活の変化は、認知症の行動・心理症状の発生や悪化につながりやすいと述べられている。A氏はアルツハイマー型認知症であり、長期記憶が保たれていた為、教師であった生活歴に注目をし「A先生」と声かけを行うことで表情も穏やかになり反応も良くなったのではないかと考える。また、コーヒーの準備をし会話を取り入れたことで今までの生活習慣と同じになるよう支援を行ったことで入院への環境の変化にも対応ができ認知症の行動・心理症状が悪化することなく生活できたのではないかと考える。 Ⅴ.結論 認知症の方の看護を行う中で、その人の生活歴、性格に注目し他職種との情報共有を行うことで個別的な看護につながる事を再確認できた。

Page 27: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-5-3 認知症(5)老年期の幻覚・妄想状態にある患者への対応~介護療養病棟からの報告~

三次病院 介護療養型医療病棟

みずの きぬ

○水野 絹(看護師)

はじめに厚生労働省患者調査に基づく高齢者の精神障害受診率は近年急速に増加している。当病院は精神科が母体の病院で当病棟は 48 床の介護療養型医療病棟である。認知症とは異なる幻覚・妄想の精神症状を抱える患者が約半数あり、対応に苦慮する場面がある。患者の満足度が充足する方法を考え本研究に取り組んだ結果、患者のみならず看護者に変化が見られたので報告する。Ⅰ研究目的1.老年期の幻覚・妄想状態にある患者の対処方法を知る。2.老年期の幻覚・妄想に対する看護者の認識を深める。Ⅱ研究方法1.事例研究2.研究期間 H28 年 4 月 17 日から 2 週間3.事例紹介 A氏 70 代 女性 要介護 3 認知Ⅱb 自立度B1 老年期精神病アルコール依存症にて入退院を繰り返した。幻覚・妄想・抑鬱で好褥的、拒食や易怒性がある。転倒転落スコア 23 点危険度Ⅲ、日常生活の援助が必要。(H28 年 4 月 17 日)現在。4.方法 1 日 1 回A氏の思いを傾聴する時間を作り関わり介入前と介入後の患者の変化の比較。介入後看護者の意識調査。5.倫理的配慮 Ⅲ結果1.妄想回数 介入前 13 回 介入後 7 回で減少した。2.食事拒否回数 介入前 16 回 介入後 2 回に減少した。3.日常生活(離床回数) 介入前は 14 日間で 2 日 介入後は 14 日間で 10 日と増加し活動性が出てきた。4.看護者聞き取りから「変化は殆ど見られなかった」「攻撃的でなくなった」「表情が柔らかくなった」等Ⅳ考察1.共感的姿勢で傾聴するという個別の時間を作ったことが有効であった。2.毎日ベッドサイドに寄る事によって患者との信頼関係が築けた。3.信頼関係を築くことにより現実に引き戻す事ができ幻覚・妄想が減少した。4.職員は苦手な人でも受け入れ逃げないという姿勢が大切であると認識できた。5.職員の認識が深まったことにより良い変化が見られることが分かった。おわりに 今回は 1 事例であったが良い結果が得られたので今後も他事例に実施していく事が課題である。

Page 28: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-5-4 認知症(5)認知症サポートチーム介入依頼の傾向と改善事例

1 内田病院,2 群馬大学大学院保健学研究科

はやし さゆり

○林 さゆり(看護師)1,樋口 はるみ 1,戸谷 幸佳 1,田中 志子 1,山口 晴保 2

【はじめに】 当法人では平成 26 年4月より、多職種からなる認知症サポートチーム(以下 DST)を発足、病棟や施設で治療やケアに困難を生じている事例への介入依頼に対してケア方法のアドバイスや診断、投薬調整のコンサルテーションを実施してきた。

【介入方法】 DST による週 1 回程度のカンファレンスや回診を実施し、緊急発生した事例に対しては随時、相談を受ける。DST の構成として、回診や相談を受けるコアメンバーとして認知症専門医2名、老人看護専門看護師、臨床心理士、理学療法士、精神保健福祉士を配置し、また、DST 介入事例のスクリーニングや病棟スタッフへの助言を行う存在として看護職、介護職、リハビリ職、医療相談員、医療事務を DST メンバーとして各セクションに配置した。

【介入結果・考察】 DST 介入依頼があった事例としては、行動・心理症状(BPSD)が悪化し、興奮・焦燥・帰宅願望が強く見られ、リハビリや治療・療養に支障をきたしている事例や、覚醒レベルの低下や食思不振により食事摂取量が低下した事例、病識の欠如や見当識の低下等により、転倒転落を繰り返す事例等があり、様々な状態の対象者が存在する事が明らかとなった。回診やカンファレンスを通じて、認知症症状の原因や現疾患、治療方法、栄養状態、生活歴等について DST メンバーや各フロアのスタッフと情報共有を行いながら、治療やケアが困難な状態を招いている原因を再アセスメントする時間をもった。アセスメントの結果をもとに、投薬内容の変更や、認知症高齢者とのコミュニケーション方法や家族指導のアドバイス、転倒転落を予防するための療養環境の調整を実施し、BPSD の改善や食事摂取量の改善、転倒転落予防につなげることができた。

Page 29: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-5-5 認知症(5)入院病床における認知症サポートチームによる介入の現状と効果

1 内田病院 ,2 群馬大学大学院保健学研究科

とや さやか

○戸谷 幸佳(看護師)1,安原 千亜希 1,尾中 航介 1,小池 京子 1,松井 美和 1,田中 志子 1,山口 晴保 2

【はじめに】 当院では平成 26 年4月より、多職種からなる認知症サポートチーム(以下 DST)による認知症を有する入院患者の行動・心理症状(BPSD)へのケア方法のアドバイスや診断、内服調整についてコンサルテーションを行ってきた。平成 28 年度4月の診療報酬改定では身体的な疾患を治療するため、認知症を有する患者を適切な体制を作って受け入れている入院病床に対し、「身体疾患を有する認知症のケアに関する評価」(以下認知症ケア加算)が新設され、多職種チームによる介入が診療報酬上で評価されることとなった。認知症ケア加算の新設を受けて、チーム員を増員しており、その現状と効果を報告する。

【DST の体制】 当院の入院病床 DST による週 1 回程度のカンファレンスや回診の実施と、随時の相談を受けている。構成メンバーは、回診や相談を受けるコアメンバーとして認知症専門医2名、老人看護専門看護師、臨床心理士、理学療法士、精神保健福祉士を配置し、また、DST 介入事例のスクリーニングや病棟スタッフへの助言を行う存在として看護職、介護職、リハビリ職、医療相談員、医療事務を DST メンバーとして各セクションに配置している。

【DST 介入の現状と効果】 平成 28 年4月1日~平成 28 年 5 月 31 日までの介入件数(認知症高齢者日常生活自立度Ⅲ a 以上)は、105名(内、男性 26 名:24.8%、女性 79 名:75.2%)、平均年齢は 85.03 歳、アルツハイマー型認知症、レビー小体認知症、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症と様々な病態がみられた。 DST 介入による効果について DST メンバーにアンケートを実施したところ、BPSD について相談先が明確になってよい、内服調整や全身管理の視点について学べる、多職種が同じ方向性に向く事ができるといった肯定的な意見が多数あり、対象となる認知症患者の状態改善以外にも認知症のケア・治療についての教育の機会ともなっている事が明らかとなった。

Page 30: 認知症により排尿障害をきたした患者への ... · 年齢、性別、認知症の既往、疾患別、転帰(在宅復帰、転院、施設転所、死亡)、入院期間に対する影響につ

第 24 回日本慢性期医療学会 in 金沢11-5-6 認知症(5)白澤病院での認知症患者への取り組み ~患者及び家族のコミュニティーケアシステムの構築を目指して~

白澤病院

わたなべ まさかず

○渡邉 真一(作業療法士),幕田 和俊,太田 照男,菅間 康夫,星 亮次,渡邉 幸恵,加川 由佳,星野 雄哉

【はじめに】近年、軽度認知障害及び認知症患者の数は増加傾向にある。当院では認知症患者の増加に対応するため、認知症研究会を発足させた。また、同研究会の提案により患者並びに家族支援を目的に情報交換の場として、「オレンジカフェろとす」(以下カフェ)の開催を開始した。認知症研究会での取り組みとカフェの活動、今後の課題について報告する。

【取り組み内容】①認知症研究会の発足:平成 26 年 5 月に、認知症に興味がある職員を募り認知症研究会を発足。平成 26 年 8月から認知症研究の専門家や、当院認知症専門医による認知症基礎知識の研修会開催。オレンジサポーター養成講座受講。外部で行われている認知症関連の研修や講習等へも参加している。②カフェ:平成 27 年 4 月より 2 ヶ月に 1 回を目安に、情報交換や相談の場としてカフェを開催し、開催時は毎回勉強会も合わせて行った。開催後は毎回アンケートを実施。開催時ボランティアの参加も得られている。

【結果】①研究会における院内研修を定期的に行ったことで、当院職員における認知症への理解と関心を深めることができた。また、自主的な研修等への参加が見られた。②カフェは開始から一年が経過し、認知症に関する勉強会を合わせて行っているため随時 20 名程度の参加が得られた。アンケートでは、参加者の前向きな意見や相談、実施してほしいことへの希望が寄せられた。

【今後の課題】職員に対しては今後も継続して研修を行い、認知症への理解をより深めていく必要がある。また、認知症に関する認定試験を受けるなど積極的な取り組みを行い、認知症患者への対応力の向上を図って行きたい。カフェでは、勉強会があるため参加する参加者が非常に多かった。今後は、勉強会への参加が目的ではなく、認知症患者やその家族が自ら集まり、情報交換や交流が目的の場となるようコミュニティーを構築していきたい。