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2 建設労務安全 2016.2 法律で定められた“雇入れ時教 育”とは 新入社員が入社すると、会社の事業内 容や業務内容、具体的な仕事の方法な ど、さまざまな教育が行われます。安全 衛生教育もその一つです。職場における さまざまな危険から身を守り、労働災害 の発生を防止するため、新入社員の安全 衛生教育(雇入れ時の教育)は、「労働 安全衛生法(以下、安衛法)」第59条に よりその実施が定められています。 労働安全衛生法第59条 事業者は、労働者を雇い入れたとき は、当該労働者に対し、厚生労働省令 で定めるところにより、その従事する 業務に関わる安全又は衛生のための教 育を行わなければならない。 この雇入れ時の教育の具体的な内容に ついては、安衛法に基づき基準を定めた 厚生労働省令である「労働安全衛生規則 (以下、安衛則)」第35条により以下の8 項目が定められています。 労働安全衛生規則第35条 事業者は、労働者を雇い入れ、又は 労働者の作業内容を変更したときは、 当該労働者に対し、遅滞なく、次の事 項のうち当該労働者が従事する業務に 関する安全又は衛生のため必要な事項 について、教育を行わなければならな い。(以下略) 建設現場には、重機をはじめさまざま 新人のための安全衛生教育 新入社員を迎え入れる準備は進んでいるだろうか。この春が社会 人デビューとなる新入社員は、現場の知識、技術、技能だけではな く、安全意識も未熟なため、労働災害の発生を防止するためには、 適切な安全衛生教育を行う必要がある。新入社員を雇い入れた際に 行う安全衛生教育は法律で定められた事業者の義務。建設業で長 く、安全に働いてもらうためにも、万全の教育体制を整えて、春の 入社式を迎えて頂きたい。 (編集部) 新入社員迎え入れ準備特集 1.機械等、原材料等の危険性又は 有害性及びこれらの取扱い方法に 関すること 新人のための安全衛生教育

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2 建設労務安全 2016.2

法律で定められた“雇入れ時教育”とは

新入社員が入社すると、会社の事業内容や業務内容、具体的な仕事の方法など、さまざまな教育が行われます。安全衛生教育もその一つです。職場におけるさまざまな危険から身を守り、労働災害の発生を防止するため、新入社員の安全衛生教育(雇入れ時の教育)は、「労働安全衛生法(以下、安衛法)」第59条によりその実施が定められています。

労働安全衛生法第59条

事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関わる安全又は衛生のための教育を行わなければならない。

この雇入れ時の教育の具体的な内容については、安衛法に基づき基準を定めた厚生労働省令である「労働安全衛生規則(以下、安衛則)」第35条により以下の8項目が定められています。

労働安全衛生規則第35条

事業者は、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、遅滞なく、次の事項のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項について、教育を行わなければならない。(以下略)

建設現場には、重機をはじめさまざま

新人のための安全衛生教育新入社員を迎え入れる準備は進んでいるだろうか。この春が社会人デビューとなる新入社員は、現場の知識、技術、技能だけではなく、安全意識も未熟なため、労働災害の発生を防止するためには、適切な安全衛生教育を行う必要がある。新入社員を雇い入れた際に行う安全衛生教育は法律で定められた事業者の義務。建設業で長く、安全に働いてもらうためにも、万全の教育体制を整えて、春の入社式を迎えて頂きたい。� (編集部)

新入社員迎え入れ準備特集

1 .機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること

1 .機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること

新人のための安全衛生教育

建設労務安全 2016.2 3 

な機械類があり、その機械類を使用した作業を安全に行うための使用方法や作業手順等について指導するとともに、その徹底を図ることが重要となります(危険物・有害物の使用も同様)。災害事例や作業手順などを用い、実際の現場に即した内容の教育を行いましょう。

機械を安全に使用するための安全装置の使用方法や、安全な状態の保持についての指導です。実際に使用する機械類を用いて教育を行うと効果的です。また、自分の身体を守るための保護具については、使用方法だけではなく、その特性や使用限界などを含めた指導を行いましょう。実際に保護具を身に付ける実習形式で、反復して実施しましょう。

安全の確保と同時に円滑な業務の推進のためにも、現場における作業手順の遵守は不可欠です。作業手順の理解と同時に、その遵守の徹底について指導しましょう。

災害の未然防止を図るためにも、作業開始前の職場点検を十分に行い、災害の芽を事前に摘むことが重要です。管理面(作業計画、作業方法、職種間の調整など)、人的面(資格の有無、技能、知識、

適正、健康状態、服装など)、物的面(機械、設備、工具、材料など)、環境面(作業場所、有害物、温度、湿度、換気など)など、点検すべき事項は多岐に渡り、作業開始前点検が義務付けられている機械・設備もあります。チェックシートなどを活用し、実習形式で実際の点検を行いながら指導を行いましょう。

業務における有害な作業や、有害物を取り扱うことで発生する業務上疾病を予防するためには、業務上疾病の原因と予防方法について正しい知識を有しておく必要があります。これらについて十分な説明に加え、健康の保持・増進のためにも、健康診断の重要性も指導しましょう。

整理・整頓・清潔に清掃と躾を加えた、いわゆる「5S」は、安全確保の基本といわれています。転倒や激突を防止し、現場の衛生状態を保持するためにも、チェックリストなどを活用し、5S推進の徹底を図りましょう。

万が一労働災害が起こってしまった場合に備え、止血法や人工呼吸法などの応急処置法の体得を図りましょう。また、

新人のための安全衛生教育

2 .安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること

5 .当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること

6 .整理、整頓及び清潔の保持に関すること

7 .事故時等における応急措置及び退避に関すること

3.作業手順に関すること

4.作業開始時の点検

2 .安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること

5 .当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること

6 .整理、整頓及び清潔の保持に関すること3.作業手順に関すること

4.作業開始時の点検

7 .事故時等における応急措置及び退避に関すること

新人のための安全衛生教育

4 建設労務安全 2016.2

現場からの退避の方法や、機械を使用する業務の場合は非常停止措置の使用方法等についても指導を行い、万が一に備えましょう。

上記1~7のほか、業務上、労働者の身体・生命を守るために必要な措置を行わなくてはいけません。業務上の危険について洗い出すとともに、その危険から従業員を保護するための方策について検討し、指導を行いましょう。

安全衛生管理の徹底は企業の責任

万が一労働災害が発生してしまった場合、労働基準監督官による安衛法違反の調査をはじめ、行政指導や業務停止措置などが取られるほか、警察による業務上

過失致死傷等の捜査が行われるなど、行政的・刑事的責任が問われることになります。また、被害者やその家族から損害賠償請求などが行われる可能性があるほか(民事的責任)、さらには企業としての信頼性の失墜による営業力の低下などを招く可能性もあります(社会的責任)。こうした事態を避けるためにも、企業

は労働者が安全・安心で健康な職業人生活を送ることができるよう、必要な措置を行わなければなりません。これは安全な施設・設備の整備だけではなく、「十分な安全衛生教育を実施しているか」、「作業指示を具体的に行っていたか」なども含まれます。安全衛生教育を通して、新入社員の労働災害防止に努めるとともに、新入社員の入社を機に、在籍社員についても改めて労働災害防止の徹底を図っていきましょう。

改訂版 新入社員安全衛生教育マニュアル

8 .その他その業務に関する安全衛生のために必要な事項

好 評 発 売 中 !

8 .その他その業務に関する安全衛生のために必要な事項

労働安全衛生法に基づく雇入れ時、作業内容変更時の安全衛生教育の内容を網羅した教育用テキスト。各企業で実際に使用されている実務資料を豊富に取り入れるなど、新入社員等に対する実務的な教育教材となっています。また、昨今メンタル不調に陥り精神障害の労災認定件数が増加傾向にあることから、教育担当者は安全衛生管理項目に加えて、健康管理の重要性を若い人に理解しやすいように説明することが求められています。本書では、より効果的な教育を行うための教育担当者へのアドバイスも掲載しています。

B5判/105頁/本体1,000円+税

建設労務安全 2016.2 5 

  現場における労働災害防止のポイント

◆ すべての基本は「ほう・れん・そう」 ◆

建設現場にはさまざまな危険が存在し

ており、イレギュラーな事態が生じた

時、自己判断で動いてしまうと、大きな

事故の要因となってしまうことがありま

す。そこで大切なのが「報告」「連絡」�

「相談」のいわゆる「ほう・れん・そう」

です。

例えば、機材の不具合に気づいたもの

の、別の用事を優先したために報告を怠

り、別の労働者が事故を引き起こしてし

まう、といったケースもあり得ます。労

働災害の芽を摘むためにも、「ほう・れ

ん・そう」を徹底し、情報の共有に努め

ましょう。

◆ 労働者の遵守義務 ◆

企業は労働者を危険から保護するために、さまざまな処置を講じる必要がありますが、一方で労働者が遵守しなければいけない事項が、安衛法第4条及び第26条等で定められており、さらに安衛則で、その具体的な内容が定められています。これらの遵守事項を労働者が守らなか

ったために、労働災害が発生した場合、100%の損害賠償を得られないだけではなく、処罰を受ける可能性もあります。

【労働安全衛生法第4条】

労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければなら

ない。【労働安全衛生法第26条】

労働者は、事業者が第20条から第25条まで及び前条第1項の規定に基づき講ずる措置(編注:危険防止や健康障害防止、作業場の整備などの措置)に応じて、必要な事項を守らなければならない。■労働者が守るべき事項(一例)

・決められたルールを守る・職長など責任者の指示に従う・�保護具、安全帯、防塵マスク、保護メガネなどの保護具を使用する・決められた作業通路を通る・��手すりなどの安全設備を勝手に外さない・��機械の安全装置を勝手に外さない など

現場に出る前の新入社員に

伝えておきたい

新人のための安全衛生教育新人のための安全衛生教育

6 建設労務安全 2016.2

◆ 現場の安全施工サイクル ◆

建設現場では、元請業者と専門工事業

者がそれぞれの役割を決め、一体となっ

た工事施工及び安全衛生管理を行ってい

ます。これが「安全施工サイクル」です。

このサイクルにより、各現場における安

全衛生方針や計画を確実に実施すること

で労働災害を防止し、業務の連絡・調整

の確認・徹底を図ることで、工事の円滑

な進行を行います。

安全施工サイクルは、毎日、毎週、毎

月と、それぞれの工程に応じて実施して

おり、また「計画、実行、点検、改善」

のPDCAサイクルを回すことにより、継

続的に改善を図っていくことが重要とな

ります。

PDCAサイクルPlan(計画)、Do(実行)、Check(点検)、Act(改善)の4段階を繰り返すことにより業務の改善を図る管理手法のこと。

◆ KY活動 ◆

「KY」とは「危険予知」のこと。現場で作業を行う上で、実施する作業に「どんな危険が潜んでいるか」をグループあるいは個人で検討し、危険要因(災害や事故の原因となる可能性がある不安全行動や不安全状態)を発見し、作業前に対策を立てて実行します。最もポピュラーなKY活動の進め方が4ラウンド法と呼ばれるもので、以下の手順で行います。■ラウンド1/「どんな危険が潜んでいるか」の現状把握を行う。■ラウンド2/「これが危険のポイントだ」として、危険の本質を追及する。特

に重大事故につながる危険、緊急対策を要する危険に絞り込む。■ラウンド3/「あなたならどうする?」という視点から、具体的に実施可能な対策を立てる。■ラウンド4/すぐに実施する必要のあるものや、やらなければならないものを、「私たちはこうする」という目標として設定する。また、工事の計画段階で危険要因を抽出する「リスクアセスメント」も災害防止のための重要な要素であることも伝えておきましょう。

安全ミーティング(KY)

安全工程打ち合わせ

安全朝礼(全員)

作業開始前点検

作業中の指導・監督

作業場の後片付け

終業時確認 

作業所長巡視

建設労務安全 2016.2 7 

◆ 不安全行動とヒューマンエラー ◆

労働災害の原因は、不安全行動とヒュ

ーマンエラーが約9割を占めるといわれ

ています。

■不安全行動

危険を呼び込む、作業員の「故意の行

動」のこと。例えば危険を軽視したり、

作業への慣れにより生じた油断から、本

来実施しなければいけない安全対策を怠

たったり、作業手順を省略したりしてし

まうことがあります。それが不安全行動

であり、労働災害の原因となります。

危険を軽視することのリスクを十分に

理解するとともに、仲間同士で互いに注

意をし合うなどにより防止に努めること

が重要です。

■ヒューマンエラー

思い違いや勘違いなどの「故意ではな

い」ミスや行動のこと。その行動を“ミ

ス”と認識していないため、防止が困難

といわれています。知識や技術が未熟で

ある時に発生するほか、集中力が低下し

ている際のうっかりミスや、合図の聞き

間違い、作業指示の勘違いなども含まれ

ます。

1人作業を避け、必ず2人で作業を行

い声をかけ合う、指差し呼称を徹底す

る、などにより、確実に防止しましょう。

◆ 正しい保護具の取扱い ◆

現場で安全作業を行うために

は、保護具等を正しく装着し使

用することが重要です。作業内

容や職種により使用する保護具

が異なるため、しっかり確認を

行いましょう。

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8 建設労務安全 2016.2

◆ 現場の危険ポイント①わく組足場 ◆

建設業における労働災害で最も多いの

が墜落・転落災害です。わく組足場で作

業を行う場合は、手すりや作業床がきち

んと整備されているか確認を行うととも

に、安全帯の使用を徹底しましょう。

◆ 現場の危険ポイント②開口部付近 ◆

開口部からの墜落災

害を防止するため、開

口部には必ず手すりや

覆いを設置すること。

手すりを外して材料の

取り込み等を行う場合

は、必ず安全帯を使用

しましょう。

●ハーネス型安全帯

全身を保持するハーネス型は、墜落阻止時の

衝撃力を分散させ、身体への衝撃を和らげる

●二丁掛け安全帯

移動中のフック掛け替えに

よる不安全な状態をなくす

物の落下防止用幅木を設置

建設労務安全 2016.2 9 

◆ 現場の危険ポイント③可搬式作業台 ◆

近年、可搬式作業台での労働災害が増

えています。高さが限定されること、移

動が容易であることなどから、油断が生

じ、事故の原因となっているようです。

基本に忠実に安全作業を心がけましょう。

◆ 現場の危険ポイント④重機付近 ◆

重機災害で多いのが、作業半径内への

立ち入りによる重機との接触災害です。

立入禁止措置など、作業半径内への立入

禁止を徹底しましょう。誘導者を配置

し、転落や接触などの危険を防止しまし

ょう。

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手に荷を持って昇降しない、背面降りをしない