正多面体群による三変数多項式環の不変式環に ... - …第3章...

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正多面体群による三変数多項式環の不変式環について 2018 2 1 早稲田大学大学院基幹理工学研究科 数学応用数理専攻修士 2 彩乃 学籍番号 5116A057-6 指導教員名

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正多面体群による三変数多項式環の不変式環について

2018年 2月 1日

早稲田大学大学院基幹理工学研究科

数学応用数理専攻修士 2年

村 彩乃

学籍番号  5116A057-6

指導教員名  楫 元

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第1章 はじめに

不変式論において最も有名な問題が「ヒルベルトの第 14問題」である。どんな作用による不変式環の生成系にお

いても果たして有限になるかということについて考えたのがこの問題にあたるが、真偽については長年研究された結

果、偽であったことが示されている。(永田の反例 1958)そのため現在の不変式論の研究はヒルベルトの第 14問題

が成立する条件を発見することにシフトしている。1916年「Emmy Noetherの定理」により有限行列群の不変式環の

生成系は有限であることがわかった。これは、有限行列群であれば群の生成元をつくる操作が有限回となり、その不

変式環の全ての生成元を求めることができるということである。

従来の研究では、正多面体群による不変式環の考察として Riemann球 CP1 = C ∪{∞}上つまり複素係数二変数多項式環上で不変式環を考えているものがほとんどである。例えば向井茂教授のモジュライ理論 I [4]では、特に正 20

面体群G(20)についてHesse行列式や Jacobi行列式を用い、非常に簡単な形での不変式環が求められている。このよ

うに多くの書籍や論文では複素係数二変数多項式環を採用しており、三変数多項式環での考察はほとんど見ない。そ

の上具体的な三変数多項式環での記述があるものとなるとほぼ皆無である。そこでこの論文では「正多面体群による

三変数多項式環の不変式環について」という題で、三変数多項式環上の不変式環を Vermaの論文 [2]の p15にある幾

何学的考察を基に具体的に導出している。また計算ソフト singularでも各正多面体群の基本不変式を計算し、幾何学

的考察から求めた不変式との関係についても考察、分析している。

正多面体群について少し触れたのでここで簡単に定義する。まず正多面体は以下の条件を満たす立体を指す。

・ 有限個の面で構成される凸多面体

・ 各面は合同な正多角形 

・ 各頂点に集まる面の数は同一

この条件を満たす立体が 正 4面体、正 6面体、正 8面体、正 12面体、正 20面体 である。これを踏まえて、正多

面体群とは、正多面体が回転対称性を保つような回転変換行列を要素に持つ群のことである。このとき、双対の関係

にある正 6面体と正 8面体、正 12面体と正 20面体はその変換群においては同型になるため、それぞれ正 8面体群、

正 20面体群とまとめて考えることができる。

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第2章 準備 (定義、定理集)

正多面体群による不変式環について論じていくにあたり、いくつかの定義と定理を準備する。

定義 2.1(ヒルベルト級数 [1]p29)

k :複素数体,  k[x] := k[x1, x2, . . . , xn], 有限部分群 G ⊂ GL(n, k)とする。このときヒルベルト級数を

ΦG(t) =∞∑d=0

(dim k[x]Gd )td

と定義する。ただし、k[x]Gd = { f ∈ k[x] | f は d次斉次式 }である。

ここで f =∑

α∈Λ cαxαが d次斉次式であるとは任意の α ∈ Λで α1 + α2 + · · ·+ αn = dを満たすことである。

ただし、α = {α1, α2, . . . , αn} ∈ Zn≥0   x = (x1, x2, . . . , xn) である。

定理 2.2(Molienの公式 [1]p29)

k :複素数体, 有限部分群 G ⊂ GL(n, k)とする。このときヒルベルト級数は

ΦG(t) =1

|G |∑π∈G

1

det(E − tπ)

となる。ただし、|G |は群 Gの元の個数、E は n× nの単位行列とする。

定義 2.3(基本不変式 [1]p38)

k : 複素数体,  k[x] := k[x1, x2, . . . , xn], 有限部分群 G ⊂ GL(n, k)とする。Gの不変式環 k[x]G が

(*) ∃θ1, θ2, . . . , θn ∈ k[x]G s.t. θ1, θ2, . . . , θn が代数的独立であり、k[x]G が k[θ1, θ2, . . . , θn]上自由加群

を満たすとき

k[x]G = ⊕ti=1 ηi k[θ1, θ2, . . . , θn] (η1 = 1, ηi ∈ k[x]G)

を広中分解といい、θを第一不変量、ηを第二不変量という。

ここで 多項式 f1, f2, . . . , fm ∈ k[x1, x2, . . . , xn] が代数的独立であるとは g(f1, f2, . . . , fm) = 0 となる g ∈k[y1, y2, . . . , ym]が g = 0を除いて存在しないことである。

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代数的独立な斉次式とヒルベルト級数との関係として以下の補題が知られている。

補題 2.4(代数的独立な斉次式とヒルベルト級数との関係 [1]p30)

k :複素数体, 多項式 f1, f2, . . . , fm ∈ k[x1, x2, . . . , xn]を k上斉次式,  di =deg(fi)(i = 1, 2, . . . ,m)とする。

ここで f1, f2, . . . , fmが代数的独立であるとき、部分環 R := k[f1, f2, . . . , fm]のヒルベルト級数は

H(R, t) :=

∞∑d=0

(dimk Rd)td =

1

(1− td1)(1− td2) · · · (1− tdm)

となる。ただし、Rd = { g(f1, f2, . . . , fm) ∈ R | g(f1, f2, . . . , fm)は k[x1, x2, . . . , xn]の元として d次斉次式 }とする。

今、各第一不変量は代数的独立な斉次式であり第二不変量は定義 2.3(基本不変式)のように定義されるので、新たに

基本不変式とヒルベルト級との関係について先の補題を書き換えることができる。

補題 2.5(基本不変式とヒルベルト級数との関係 [1]p40)

k : 複素数体,  k[x] := k[x1, x2, . . . , xn], 有限部分群G ⊂ GL(n, k)とする。Gの不変式環 k[x]Gは条件 (*)

を満たす。このときヒルベルト級数は

H(R, t) =

l∑j=1

tdeg ηj

/ m∏i=1

(1− tdeg θi)

と計算できる。ただし、θi は第一不変量を、ηj は第二不変量を表す。

つまりヒルベルト級数を計算すれば分母から第一不変量の次数とその個数を、分子から第二不変量の次数とその個数

を確かめることができる。

さらに正多面体群の不変式環について幾何学的考察を行うために以下の補題を用意する。

補題 2.6(不変式を見つけるための補題 [2]p15)

正多面体群を G, 回転軸 l1, l2, . . . , lkそれぞれに垂直な原点 Oを含む平面の方程式を h(1), h(2), . . . , h(k)とし、

Gは {l1, l2, . . . , lk}に推移的に作用していると仮定する。このときGの多項式環への作用は積h := h(1)h(2) · · ·h(n)

を定数倍を無視して不変にする。

<証明>

h(k)は回転軸 lkに関する回転行列glkで不変である。またGの多項式環への作用は定数倍を無視して{h(1), h(2), . . . , h(k)}の入れ替えとして作用する。よって積 hを定数倍を無視して不変にする。

次の章からこれらの定義、定理などを用いて実際に正多面体群による不変式環について考察していく。

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第3章 正多面体群の不変量

ここでは各正多面体群について幾何学的な視点から不変式を導出する。さらに計算ソフト singularを用いて基本不

変式を計算し、導出した不変式との関係を考察する。

3.1 正4面体群 G(4)

正 4面体において回転による変換を考える。このとき回転対称性を保つ軸は

(1) 頂点とそれに向かい合う面の中心を通る軸

(2) 相対する 2辺の中点を結んだ軸

の 2種類である。

図 2-1:(1)頂点とそれに向かい合う面の中心を通る軸 図 2-2:(2)相対する 2辺の中点を結んだ軸

ここで図 2の A~Dに以下のような座標を設定する。このとき Aと向かい合う面 (面 BCD)の中心が原点 Oとなる。

A = (1,−1, 1), B = (−1, 1, 1), C = (−1,−1,−1), D = (1, 1,−1)

(1)型の回転軸は頂点の数と一致するので 4本。このとき図 2-1のように Aを通る軸で 120◦ 回転させる。すると B

は Cに、Cは Dに、Dは Bに移される。この変換を行列で表すと

w1 =

0 −1 0

0 0 −1

1 0 0

となる。同様に Aを通る軸で 240◦ 回転させると

w 21 =

0 0 1

−1 0 0

0 −1 0

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Bを通る軸の場合

w2 =

0 −1 0

0 0 1

−1 0 0

w 22 =

0 0 −1

−1 0 0

0 1 0

Cを通る軸の場合

w3 =

0 0 1

1 0 0

0 1 0

w 23 =

0 1 0

0 0 1

1 0 0

Dを通る軸の場合

w4 =

0 0 −1

1 0 0

0 −1 0

w 24 =

0 1 0

0 0 −1

−1 0 0

(2)型の回転軸は相対する辺の組数と一致するので 3本。それぞれの軸で 180◦回転させる。例えば図 2-2の回転軸で

180◦ 回転させると Aは Bに、Bは Aに、Cは Dに、Dは Cに移される。この変換を行列で表すと

α =

−1 0 0

0 −1 0

0 0 1

となる。他の軸でも同様にして

β =

−1 0 0

0 1 0

0 0 −1

γ =

1 0 0

0 −1 0

0 0 −1

と表すことができる。

以上 11個の回転に単位行列 E(回転しない変換)を加えた 12個が正 4面体群 G(4) の要素である。この要素が決定

したことにより計算ソフト singularを用いて定理 2.2(Molinの公式)の計算ができる。

Φ(k[x, y, z]G(4), t) =t4 − t2 + 1

−t7 + 2t5 + t4 − t3 − 2t2 + 1

=1 + t6

(1− t2)(1− t3)(1− t4)(3.1)

(3.1)式から次数 2、3、4、6の不変式が 1つずつ存在することがわかる。(補題 2.5(基本不変式とヒルベルト級数と

の関係)より)これを踏まえて幾何学的な視点から不変式を求める。

まず正 4面体群 G(4)は回転群であることから

f2 : = x2 + y2 + z2

が次数 2の不変式であることは明らかである。次に (1)型(頂点とそれに向かい合う面の中心を通る軸)の各回転軸

について原点Oを通る垂直な平面の方程式を求める。例えば図 2-1の回転軸に対して原点Oを通る垂直な平面の方程

式は

x− y + z = 0 (3.2)

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である。この平面の方程式はこの軸に関する回転行列 w1と w 21 で不変である。同様に (1)型の他の回転軸についても

原点 Oを通る垂直な平面の方程式を求めると

x+ y + z = 0, x+ y − z = 0, x− y − z = 0

となる。この 4つの平面の方程式の積は

h4 : = (x− y + z)(x+ y + z)(x+ y − z)(x− y − z)

= x4 + y4 + z4 − 2x2y2 − 2y2z2 − 2z2x2

である。このとき各平面の方程式による正 4面体群G(4)の多項式環への作用は定数倍を無視して {x− y+ z, x+ y+

z, x+ y − z, x− y − z}の入れ替えとして作用している。実際に (3.2)式を使って計算すると

w1 → z + x− y = 0 ⇐⇒ x− y + z = 0

w 21 → −y + z + x = 0 ⇐⇒ x− y + z = 0

w2 → −z + x+ y = 0 ⇐⇒ x+ y − z = 0

w 22 → −y − z − x = 0 ⇐⇒ −(x+ y + z) = 0

w3 → y − z + x = 0 ⇐⇒ x+ y − z = 0

w 23 → z − x+ y = 0 ⇐⇒ −(x− y − z) = 0

w4 → y + z − x = 0 ⇐⇒ −(x− y − z) = 0

w 24 → −z − x− y = 0 ⇐⇒ −(x+ y + z) = 0

となる。このとき (−1)倍の違いは偶数個となっているため h4は正 4面体群G(4)の多項式環への作用で不変である。

次に (2)型 (相対する 2辺の中点を結んだ軸)の各回転軸についても原点 Oを通る垂直な平面の方程式を求めると

x = 0, y = 0, z = 0

となる。この平面の方程式の積は

h3 : = x · y · z

= xyz

である。このとき各平面の方程式による正 4面体群 G(4)の多項式環への作用は定数倍を無視して {x, y, z}の入れ替えとして作用している。(1)型のときと同様 (−1)倍の違いは偶数個となっているため h3も正 4面体群G(4)の多項

式環への作用で不変である。

ここまでで次数 2、3、4の不変式を求めることができた。この他に次数 6の不変式が存在する。ここで次数 2と次数

4の不変式を使って

h6 : = f2 · h4

= x6 + y6 + z6 − x4y2 − y4z2 − z4x2 − x2y4 − y2z4 − z2x4 − 6x2y2z2

を定義する。今 f2, h4 はそれぞれ正 4面体群 G(4)の多項式環への作用で不変であり、その 2つの不変式の積である

h6 も正 4面体群 G(4)の多項式環への作用で不変になっている。以上のことから h6 も正 4面体群 G(4)の不変式の 1

つである。

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よって幾何学的な視点により次数 2、3、4、6の不変式を求めることができた。しかしこのままではこれらの不変式の

関係式を求めることは難しい。そのため正 4面体群G(4)の要素である 12個の行列に対しての基本不変式を計算ソフ

ト singularを使って導出した。(実際の計算画面は p22)

定理 3.1.1(singularを使って導出した正 4面体群 G(4) の基本不変式)

計算ソフト singularにより第一不変量 f2, f3, f4、第二不変量 g6+が以下のように計算された。

f2(x, y, z) = x2 + y2 + z2 ,

f3(x, y, z) = xyz ,

f4(x, y, z) = x2y2 + y2z2 + z2x2 ,

g6+(x, y, z) = x2y4 + y2z4 + z2x4

ここで以下が成立することを確認する。

定理 3.1.2(正 4面体群 G(4)の不変式環)

k[x, y, z]G(4) = k[f2, f3, f4, g6+]

<証明>

f2, f3, f4, g6+は G(4)で不変であるから

k[x, y, z]G(4) ⊃ k[f2, f3, f4, g6+]

は明らか。以下逆向きの包含関係について示すために

H(k[f2, f3, f4, g6+], t) =1 + t6

(1− t2)(1− t3)(1− t4)

となることを示す。ここで

I = < x2 + y2 + z2 − f2, xyz − f3, x2y2 + y2z2 + z2x2 − f4 > ⊂ k[x, y, z, f2, f3, f4]

とおき、Iのグレブナ基底を Fとする。すると singularの計算により

F ∩ k[f2, f3, f4] ={0}

これにより f2, f3, f4は代数的独立である。したがって補題 2.4により

H(k[f2, f3, f4], t) =1

(1− t2)(1− t3)(1− t4)

が成立する。さらに

I′ = <x2+y2+z2−f2, xyz−f3, x2y2+y2z2+z2x2−f4, x

2y4+y2z4+z2x4−g6+ > ⊂ k[x, y, z, f2, f3, f4, g6+]

とおき、I′ のグレブナ基底を F′ とする。singularの計算により

F′ ∩ k[f2, f3, f4, g6+] ={f 32 f 2

3 + 9f 43 − 6f2f

23 f4 + f 3

4 + 3f 23 g6+ − f2f4g6+ + g 2

6+}

となる。このとき右辺を k[x, y, z]の元としてみれば

g 26+ + (3f 2

3 − f2f4)g6+ + (f 32 f 2

3 + 9f 43 − 6f2f

23 f4 + f 3

4 ) = 0 in k[x, y, z] (3.3)

である。ここで g6+に注目すると、2次式で書かれていることから

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k[f2, f3, f4, g6+] = k[f2, f3, f4] ⊕ g6+ k[f2, f3, f4]

と書くことができる。今 deg(g6+) = 6であることから R = k[f2, f3, f4] , R′ = g6+ k[f2, f3, f4]とおくと

dim R′d+6 =dim Rd

となる。ここで補題 2.4のH(R, t)の定義より

H(R′, t) = t6H(R, t)

であり直和の性質により

k[f2, f3, f4, g6+] =

∞∑d=0

(dim Rd)td + t6

∞∑d=0

(dim Rd)td

と書ける。ここでさらに補題 2.4を用いることで

H(k[f2, f3, f4, g6+], t) =1

(1− t2)(1− t3)(1− t4)+

t6

(1− t2)(1− t3)(1− t4)

=1 + t6

(1− t2)(1− t3)(1− t4)(3.4)

以上Molienの公式により導出した (3.1)と (3.4)により

Φ(k[x, y, z]G(4), t)= H(k[f2, f3, f4, g6+], t)

よって

∞∑d=0

(dim k[x]G(4)d )td =

∞∑d=0

(dim k[f2, f3, f4, g6+])td

さらに任意の dに対して

dim k[x]G(4)d =dim k[f2, f3, f4, g6+]d

が成立する。以上のことから

k[x, y, z]G(4) = k[f2, f3, f4, g6+]

また先の証明にある (3.3)式により、正 4面体群 G(4)の不変式環は次のようにも書ける。

定理 3.1.3(正 4面体群 G(4)の不変式環 基本不変式のみの関係式)

k[x, y, z]G(4) = k[f2, f3, f4][g6+]

/⟨g 26+ + (3f 2

3 − f2f4)g6+ + (f 32 f 2

3 + 9f 43 − 6f2f

23 f4 + f 3

4 )

以上計算ソフト singularを用いることで不変式の関係式をより簡単な形で求めることができた。ここで幾何学的な視

点により求めた h3, h4 と計算ソフト singularで導出した f3, f4 との関係を考えると

h4 − f 22 + 4f4 = 0 (3.5)

h3 − f3 = 0 (3.6)

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となる。よって (3.5),(3.6)式を使って f3, f4 は h3, h4 によって書き換えることができるので

定理 3.1.4(正 4面体群 G(4)の不変式環  h式を用いて)

k[x, y, z]G(4) = k[f2, h3, h4, g6+]

3.2 正8面体群 G(8)

正 4面体群 G(4)のときと同様、正 8面体においても回転による変換を考える。このとき正 8面体(の外接球)の中

心を Oとおくと、回転対称性を保つ軸は

[1] 中心 Oと頂点を通る軸

[2] 中心 Oと辺の中点を通る軸 

[3] 中心 Oと面の重心を通る軸

の 3種類である。

図 3-1:[1]中心 Oと頂点を通る軸 図 3-2:[2]中心 Oと辺の中点を通る軸 図 3-3:[3]中心 Oと面の重心を通る軸

ここで図 3の A+~C−に以下のような座標を設定する。このとき中心が原点 Oとなる。

A+ = (1, 0, 0), A− = (−1, 0, 0), B+ = (0, 1, 0), B− = (0,−1, 0), C+ = (0, 0, 1), C− = (0, 0,−1)

[1]型の回転軸は相対する頂点の組数と一致するので 3本。このとき図 3-1のように C+と C−を結ぶ軸で 90◦ ずつ

回転させる。この変換を行列で表すと

c =

0 −1 0

1 0 0

0 0 1

c2 =

−1 0 0

0 −1 0

0 0 1

c3 =

0 1 0

−1 0 0

0 0 1

軸 A+A−の場合

a =

1 0 0

0 0 −1

0 1 0

a2 =

1 0 0

0 −1 0

0 0 −1

a3 =

1 0 0

0 0 1

0 −1 0

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軸 B+B−の場合

b =

0 0 1

0 1 0

−1 0 0

b2 =

−1 0 0

0 1 0

0 0 −1

b3 =

0 0 −1

0 1 0

1 0 0

[2]型の回転軸は相対する辺の組数と一致するので 6本。それぞれの軸で 180◦回転させる。この変換を行列で表すと

µx+ =

−1 0 0

0 0 1

0 1 0

µx− =

−1 0 0

0 0 −1

0 −1 0

µy+ =

0 0 1

0 −1 0

1 0 0

µy− =

0 0 −1

0 −1 0

−1 0 0

µz+ =

0 1 0

1 0 0

0 0 −1

µz− =

0 −1 0

−1 0 0

0 0 −1

[3]型の回転軸は相対する面の組数と一致するので 4本。それぞれの軸で 120◦ずつ回転させる。この変換を行列で表

すと

w1 =

0 0 1

1 0 0

0 1 0

w 21 =

0 1 0

0 0 1

1 0 0

w2 =

0 −1 0

0 0 1

−1 0 0

w 22 =

0 0 −1

−1 0 0

0 1 0

w3 =

0 0 −1

1 0 0

0 −1 0

w 23 =

0 1 0

0 0 −1

−1 0 0

w4 =

0 −1 0

0 0 −1

1 0 0

w 24 =

0 0 1

−1 0 0

0 −1 0

と表すことができる。

以上 23個の回転に単位行列 E(回転しない変換)を加えた 24個が正 8面体群 G(8)の要素である。要素の決定によ

り計算ソフト singularを用いて定理 2.2(Molinの公式)の計算ができる。

Φ(k[x, y, z]G(8), t) =t6 − t3 + 1

−t9 + t7 + t6 + t5 − t4 − t3 − t2 + 1

=1 + t9

(1− t2)(1− t4)(1− t6)(3.7)

(3.7)式から次数 2、4、6、9の不変式が 1つずつ存在することがわかる。(補題 2.5(基本不変式とヒルベルト級数と

の関係)より)これを踏まえて幾何学的な視点から不変式を求める。

10

Page 12: 正多面体群による三変数多項式環の不変式環に ... - …第3章 正多面体群の不変量 ここでは各正多面体群について幾何学的な視点から不変式を導出する。さらに計算ソフトsingular

まず正 8面体群 G(8)は正 4面体群 G(4)と同様に回転群であることから

f2 = x2 + y2 + z2

が次数 2の不変式であることは明らかである。次に[1]型(中心 Oと頂点を通る軸)の各回転軸について原点 Oを

通る垂直な平面の方程式を求めると

x = 0, y = 0, z = 0

となる。この平面の方程式の積は

h3 = xyz

である。このとき各平面の方程式による正 8面体群 G(8)の多項式環への作用は定数倍を無視して {x, y, z}の入れ替えとして作用している。実際に平面の方程式 x = 0を使って計算すると

a → x = 0 a2 → x = 0 a3 → x = 0

b → x = 0 b2 → −x = 0 b3 → x = 0

c → −x = 0 c2 → −x = 0 c3 → x = 0

となる。このとき (−1)倍の違いは奇数個となっているため h3 は正 8面体群 G(8)の多項式環への作用で定数倍を除

いて不変である。[2]型(中心 Oと辺の中点を通る軸)の各回転軸についても原点 Oを通る垂直な平面の方程式を

求めると

x± y = 0, y ± z = 0, z ± x = 0

となる。この平面の方程式の積は

h′

6 : = (x+ y)(x− y)(y + z)(y − z)(z + x)(z − x)

= x4y2 + y4z2 + z4x2 − x2y4 − y2z4 − z2x4

である。このとき各平面の方程式による正 8面体群G(8)の多項式環への作用は定数倍を無視して {x+ y, x− y, y+

z, y − z, z + x, z − x}の入れ替えとして作用している。実際に平面の方程式 x+ y = 0を使って計算すると

µx+ → −(x− z) = 0 µx− → −(x+ z) = 0

µy+ → −(y − z) = 0 µy− → −(y + z) = 0

µz+ → x+ y = 0 µz− → −(x+ y) = 0

となる。[1]型のときと同様 (−1)倍の違いは奇数個となっているため h6 も正 8面体群 G(8)の多項式環への作用で

定数倍を除いて不変である。[3]型(中心 Oと面の重心を通る軸)の各回転軸についても原点 Oを通る垂直な平面

の方程式を求めると

x± y ± z = 0

となる。この平面の方程式の積は

h4 = x4 + y4 + z4 − 2x2y2 − 2y2z2 − 2z2x2

である。このとき各平面の方程式による正 8面体群G(8)の多項式環への作用は定数倍を無視して {x+ y+ z, x+ y−z, x− y + z, x− y − z}の入れ替えとして作用している。実際に平面の方程式 x+ y + z = 0を使って計算すると

11

Page 13: 正多面体群による三変数多項式環の不変式環に ... - …第3章 正多面体群の不変量 ここでは各正多面体群について幾何学的な視点から不変式を導出する。さらに計算ソフトsingular

w1 → x+ y + z = 0 w 21 → x+ y + z = 0

w2 → −(x− y + z) = 0 w 22 → −(x+ y − z) = 0

w3 → −(x− y + z) = 0 w 23 → x− y − z = 0

w4 → −(x+ y − z) = 0 w 24 → x− y − z = 0

となる。このとき (−1)倍の違いは偶数個となっているため h4は正 8面体群G(8)の多項式環への作用で不変である。

ここまでで次数 2、3、4、6の不変式(一部定数倍を除いたものも含む)を求めることができた。この他に次数 9の不

変式が存在する。ここで次数 3と次数 6の(定数倍を除いた)不変式を使って

h9 : = h3 · h′

6

= x5y3z − x5z3y − y5x3z + y5z3x+ z5x3y − z5y3x

を定義する。今 h3, h′

6 はそれぞれ正 8面体群G(8)の多項式環への作用で (−1)倍の違いを除いて不変であるが、その

ような 2つの不変式の積をとることで (−1)倍の違いを打ち消すことができる。これにより h9 は正 8面体群 G(8)の

多項式環への作用で不変になる。以上のことから h9 も正 8面体群 G(8)の不変式の 1つである。

よって幾何学的な視点により次数 2、3、4、6、9の不変式(一部定数倍を除いたものも含む)を求めることができた。

しかしこのままではこれらの不変式の関係式を求めることは難しい。そのため正 8面体群G(8)の要素である 24個の

行列に対しての基本不変式を計算ソフト singularを使って導出した。(実際の計算画面は p23)

定理 3.2.1(singularを使って導出した正 8面体群 G(8) の基本不変式)

計算ソフト singularにより第一不変量 f2, f4, f6、第二不変量 g9が以下のように計算された。

f2(x, y, z) = x2 + y2 + z2 ,

f4(x, y, z) = x2y2 + y2z2 + z2x2 ,

f6(x, y, z) = x2y2z2 ,

g9(x, y, z) = x5y3z − x5z3y − y5x3z + y5z3x+ z5x3y − z5y3x

ここで以下が成立することを確認する。

定理 3.2.2(正 8面体群 G(8)の不変式環)

k[x, y, z]G(8) = k[f2, f4, f6, g9]

<証明>

f2, f3, f4, g6+は G(8)で不変であるから

k[x, y, z]G(8) ⊃ k[f2, f4, f6, g9]

は明らか。以下逆向きの包含関係について示すために

H(k[f2, f4, f6, g9], t)=1 + t9

(1− t2)(1− t4)(1− t6)

となることを示す。正 4面体群 G(4)の時と同様 singularの計算により

g 29 + (−f 2

2 f 24 f6 + 4f 2

4 f6 + 4f 32 f 2

6 − 18f2f4f26 + 27f 3

6 ) = 0 in k[x, y, z] (3.8)

12

Page 14: 正多面体群による三変数多項式環の不変式環に ... - …第3章 正多面体群の不変量 ここでは各正多面体群について幾何学的な視点から不変式を導出する。さらに計算ソフトsingular

である。この式は g9 の 2次式で書かれていることから

k[f2, f4, f6, g9] = k[f2, f4, f6] ⊕ g9 k[f2, f4, f6]

と書くことができる。今 deg(g9) = 9であることから

H(k[f2, f4, f6, g9], t) =1 + t9

(1− t2)(1− t4)(1− t6)(3.9)

よってMolienの公式により導出した (3.7)と (3.9)により

Φ(k[x, y, z]G(8), t)= H(k[f2, f4, f6, g9], t)

以上のことから

k[x, y, z]G(8) = k[f2, f4, f6, g9]

また先の証明にある (3.8)式により、正 8面体群 G(8)の不変式環は次のようにも書ける。

定理 3.2.2(正 8面体群 G(8)の不変式環 基本不変式のみの関係式)

k[x, y, z]G(8) = k[f2, f4, f6][g9]

/⟨g 29 + (−f 2

2 f 24 f6 + 4f 2

4 f6 + 4f 32 f 2

6 − 18f2f4f26 + 27f 3

6 )

以上計算ソフト singularを用いることで次数 9の不変式も求めることができた。ここで幾何学的な視点により求めた

h3, h4, h′

6 , h9 と計算ソフト singularで導出した f4, f6, g9 との関係を考えると

h4 − f 22 + 4f4 = 0 (3.10)

h 23 − f6 = 0 (3.11)

h9 − g9 = 0 (3.12)

このとき (3.11)式について h3が 2乗されているのは正 8面体群 G(8)の多項式環への作用で (−1)倍の違いがあるこ

とを回避するためだと分析できる。また (3.12)式の h9 についてもその中身は h3と h′

6 との積であり、同様の理由が

大きく関係していると考えられる。これは非常に面白い関係であり、h3と h′

6 自体は正 8面体群G(8)の多項式環への

作用で不変ではないが、(−1)倍の違いしかないため

h a13 · h ′a2

6 (a1 + a2は偶数)

の形であれば正 8面体群 G(8)の多項式環への作用で不変になるということである。

定理 3.2.4(正 8面体群 G(8)の不変式環  h式を用いて)

k[x, y, z]G(8) = k[f2, h3, h4, h′

6 ]

さらに (3.12)式を分析すると

g9 = h9

= h3h′

6

= xyz(x4y2 + y4z2 + z4x2 − x2y4 − y2z4 − z2x4)

= xyz{(x4y2 + y4z2 + z4x2)− (x2y4 + y2z4 + z2x4)}

= xyz{(x4y2 + y4z2 + z4x2)− g6+:::

}

13

Page 15: 正多面体群による三変数多項式環の不変式環に ... - …第3章 正多面体群の不変量 ここでは各正多面体群について幾何学的な視点から不変式を導出する。さらに計算ソフトsingular

となり、正 4面体群 G(4)の g6+ が見つかる。また残りの (x4y2 + y4z2 + z4x2)については (3.3)の関係式により

g6+ の共役

g6−(x, y, z): = x4y2 + y4z2 + z4x2

と一致する。よって

h9 = h3{g6− − g6+}

と書くことができる。これにより正 8面体群G(8)の不変式環が正 4面体群G(4)の不変式環の生成元によって書き換

えることができる。

定理 3.2.5(正 8面体群 G(8)の不変式環 正 4面体群 G(4)との関係)

k[x, y, z]G(8) = k[f2, g6+, g6−, h3, h4]

3.3 正20面体群 G(20)

正 4面体群 G(4)、正 8面体群G(8)のときと同様、正 20面体においても回転による変換を考える。このとき正 20面

体(の外接球)の中心を Oとおくと、回転対称性を保つ軸は

<1> 中心 Oと頂点を通る軸

<2> 中心 Oと辺の中点を通る軸 

<3> 中心 Oと面の重心を通る軸

の 3種類である。

ここで 3次元ユークリッド空間 R3 に 12個の頂点を以下のようにとり正 20面体を形成する。このとき中心が原点 O

となる。

A= (0, 1, φ), B= (φ, 0, 1), C= (0,−1, φ), D= (−φ, 0, 1), E= (−1, φ, 0), F= (1, φ, 0)

G= (1,−φ, 0), H= (−1,−φ, 0), I= (−φ, 0,−1), J= (0, 1,−φ), K= (φ, 0,−1), L= (0,−1,−φ)

ただし、 φ2 − φ− 1 = 0 ⇐⇒ φ =1 +

√5

2

< 1>型の回転軸は相対する頂点の組数と一致するので 6本。それぞれの軸で 36◦ずつ回転させる。この変換を行列

で表すと

a =1

2

1 φ−1 φ

φ−1 φ −1

−φ 1 φ−1

a2 =1

2

−φ−1 φ 1

φ 1 −φ−1

−1 φ−1 −φ

a3 = ta2 a4 = ta

b =1

2

1 −φ−1 −φ

−φ−1 φ −1

φ 1 φ−1

b2 =1

2

−φ−1 −φ −1

−φ 1 −φ−1

1 φ−1 −φ

b3 = tb2 b4 = tb

14

Page 16: 正多面体群による三変数多項式環の不変式環に ... - …第3章 正多面体群の不変量 ここでは各正多面体群について幾何学的な視点から不変式を導出する。さらに計算ソフトsingular

c =1

2

φ−1 −φ 1

φ 1 φ−1

−1 φ−1 φ

c2 =1

2

−φ −1 φ−1

1 −φ−1 φ

−φ−1 φ 1

c3 = tc2 c4 = tc

d =1

2

φ−1 −φ −1

φ 1 −φ−1

1 −φ−1 φ

d2 =1

2

−φ −1 −φ−1

1 −φ−1 −φ

φ−1 −φ 1

d3 = td2 d4 = td

e =1

2

φ −1 φ−1

1 φ−1 −φ

φ−1 φ 1

e2 =1

2

1 −φ−1 φ

φ−1 −φ −1

φ 1 −φ−1

e3 = te2 e4 = te

f =1

2

φ −1 −φ−1

1 φ−1 φ

−φ−1 −φ 1

f2 =1

2

1 −φ−1 −φ

φ−1 −φ 1

−φ −1 −φ−1

f3 = tf2 f4 = tf

< 2>型の回転軸は相対する辺の組数と一致するので 15本。それぞれの軸で 180◦回転させる。この変換を行列で表

すと

µ1 =

1 0 0

0 −1 0

0 0 −1

µ2 =

−1 0 0

0 1 0

0 0 −1

µ3 =

−1 0 0

0 −1 0

0 0 1

µ4 =1

2

−1 φ−1 φ

φ−1 −φ 1

φ 1 φ−1

µ5 =1

2

−1 φ−1 −φ

φ−1 −φ −1

−φ −1 φ−1

µ6 =1

2

−1 −φ−1 −φ

−φ−1 −φ 1

−φ 1 φ−1

µ7 =1

2

−1 −φ−1 φ

−φ−1 −φ −1

φ −1 φ−1

µ8 =1

2

φ−1 φ 1

φ −1 φ−1

1 φ−1 −φ

µ9 =1

2

φ−1 φ −1

φ −1 −φ−1

−1 −φ−1 −φ

µ10 =1

2

φ−1 −φ −1

−φ −1 φ−1

−1 φ−1 −φ

µ11 =1

2

φ−1 −φ 1

−φ −1 −φ−1

1 −φ−1 −φ

µ12 =1

2

−φ 1 φ−1

1 φ−1 φ

φ−1 φ −1

µ13 =1

2

−φ 1 −φ−1

1 φ−1 −φ

−φ−1 −φ −1

µ14 =1

2

−φ −1 −φ−1

−1 φ−1 φ

−φ−1 φ −1

µ15 =1

2

−φ −1 φ−1

−1 φ−1 −φ

φ−1 −φ −1

< 3>型の回転軸は相対する面の組数と一致するので 10本。それぞれの軸で 120◦ずつ回転させる。この変換を行列

で表すと

w1 =

0 0 1

1 0 0

0 1 0

w 21 = tw1 w2 =

0 0 −1

1 0 0

0 −1 0

w 22 = tw2

w3 =

0 0 −1

−1 0 0

0 1 0

w 23 = tw3 w4 =

0 0 1

−1 0 0

0 −1 0

w 24 = tw4

15

Page 17: 正多面体群による三変数多項式環の不変式環に ... - …第3章 正多面体群の不変量 ここでは各正多面体群について幾何学的な視点から不変式を導出する。さらに計算ソフトsingular

w5 =1

2

−1 −φ−1 φ

φ−1 φ 1

−φ 1 −φ−1

w 25 = tw5 w6 =

1

2

−1 −φ−1 −φ

φ−1 φ −1

φ −1 −φ−1

w 26 = tw6

w7 =1

2

−φ−1 −φ 1

φ −1 −φ−1

1 φ−1 φ

w 27 = tw7 w8 =

1

2

−φ−1 −φ −1

φ −1 φ−1

−1 −φ−1 φ

w 28 = tw8

w9 =1

2

φ 1 φ−1

1 −φ−1 −φ

−φ−1 φ −1

w 29 = tw9 w10 =

1

2

φ −1 −φ−1

−1 −φ−1 −φ

φ−1 φ −1

w 210 = tw10

と表すことができる。

以上 59個の回転に単位行列 E(回転しない変換)を加えた 60個が正 20面体群 G(20)の要素である。この要素が決

定したことにより計算ソフト singularを用いて定理 2.2(Molinの公式)の計算ができる。

Φ(k[x, y, z]G(20), t) =t8 + t7 − t5 − t4 − t3 + t+ 1

−t11 − t10 + t9 + 2t8 + t7 − t4 − 2t3 − t2 + t+ 1

=1 + t15

(1− t2)(1− t6)(1− t10)(3.13)

(3.13)式から次数 2、6、10、15の不変式が 1つずつ存在することがわかる。(補題 2.5(基本不変式とヒルベルト級

数との関係)より)これを踏まえて幾何学的な視点から不変式を求める。

まず正 20面体群 G(20)は正 4面体群 G(4)や正 8面体群 G(8)と同様に回転群であることから

f2 = x2 + y2 + z2

が次数 2の不変式であることは明らかである。次に< 1>型(中心Oと頂点を通る軸)の各回転軸について原点Oを

通る垂直な平面の方程式を求めると

x± φy = 0, y ± φz = 0, z ± φx = 0

となる。この平面の方程式の積は

h′′

6 : = (x+ φy)(x− φy)(y + φz)(y − φz)(z + φx)(z − φx)

= (φ+ 1)(x4y2 + y4z2 + z4x2) + (−3φ− 2)(x2y4 + y2z4 + z2x4) + (8φ+ 4)x2y2z2

である。このとき各平面の方程式による正 20面体群 G(20)の多項式環への作用は定数倍を無視して平面の方程式の

入れ替えで作用している。また実際に計算をしてみると h′′

6 は正 20面体群 G(20)の多項式環への作用で不変である。

< 2>型(中心 Oと辺の中点を通る軸)の各回転軸についても原点 Oを通る垂直な平面の方程式を求めると

x = 0, y = 0, z = 0

x± φ2y ± φz = 0, y ± φ2z ± φx = 0, z ± φ2x± φy = 0

となる。この平面の方程式の積は

h15 : = x · y · z(x+ φ2y + φz)(x+ φ2y − φz)(x− φ2y + φz)(x− φ2y − φz)(y + φ2z + φx)(y + φ2z − φx)

(y − φ2z + φx)(y − φ2z − φx)(z + φ2x+ φy)(z + φ2x− φy)(z − φ2x+ φy)(z − φ2x− φy)

16

Page 18: 正多面体群による三変数多項式環の不変式環に ... - …第3章 正多面体群の不変量 ここでは各正多面体群について幾何学的な視点から不変式を導出する。さらに計算ソフトsingular

= (144φ+ 89)(x13yz + y13zx+ z13xy) + (−2194φ− 1356)(x11y3z + y11z3x+ z11x3y) +

(−1550φ− 958)(xy3z11 + yz3x11 + zx3y11) + (9907φ+ 6123)(x9y5z + y9z5x+ z9x5y) +

(6365φ+ 3934)(xy5z9 + yz5x9 + zx5y9) + (7200φ+ 4450)(x9y3z3 + y9z3x3 + z9x3y3) +

(−12096φ− 7476)(x7y7z + y7z7x+ z7x7y) + (−34212φ+ 21144)(x7y5z3 + y7z5x3 + z7x5y3) +

(8292φ+ 5124)(x3y5z7 + y3z5x7 + z3x5y7) + (54432φ+ 33642)x5y5z5

である。このとき各平面の方程式による正 20面体群 G(20)の多項式環への作用は定数倍を無視して平面の方程式の

入れ替えで作用している。また実際に計算してみると h15 は正 20面体群 G(20)の多項式環への作用で不変である。

< 3>型(中心 Oと面の重心を通る軸)の各回転軸についても原点 Oを通る垂直な平面の方程式を求めると

x± y ± z = 0

x± φ2y = 0, y ± φ2z = 0, z ± φ2x = 0

となる。この方程式の積は

h10 : = (x+ y + z)(x+ y − z)(x− y + z)(x− y − z)(x+ φ2y)(x− φ2y)(y + φ2z)(y − φ2z)(z + φ2x)(z − φ2x)

= (−377φ− 233)(x8y2 + y8z2 + z8x2) + (55φ+ 34)(x2y8 + y2z8 + z2x8) +

(809φ+ 500)(x6y4 + y6z4 + z6x4) + (−487φ− 301)(x4y6 + y4z6 + z4x6) +

(3220φ+ 1990(x6y2z2 + y6z2x2 + z6x2y2) + (−4830φ− 2985)(x4y4z2 + y4z4x2 + z4x4y2)

である。このとき各平面の方程式による正 20面体群 G(20)の多項式環への作用は定数倍を無視して平面の方程式の

入れ替えで作用している。また実際に計算してみると h10 は正 20面体群 G(20)の多項式環への作用で不変である。

ここまでで幾何学的な視点により次数 2、6、10、15の不変式を求めることができた。しかしこのままではこれらの不

変式の関係式を求めることは難しい。そのため正 20面体群G(20)の要素である 60個の行列に対しての基本不変式を

計算ソフト singularを使って導出した。(実際の計算画面は p24,25)

定理 3.3.1(singularを使って導出した正 20面体群 G(20) の基本不変式)

計算ソフト singularにより第一不変量 f2, f′

6 , f10、第二不変量 g15が以下のように計算された。

f2(x, y, z) = x2 + y2 + z2 ,

f′

6(x, y, z)= 7(x6 + y6 + z6) + (3φ+ 18)(x4y2 + y4z2 + z4x2) + (−3φ+ 21)(x2y4 + y2z4 + z2x4) + 54x2y2z2

= 7f 32 + {(3φ− 3)f4}f2 + {(−9φ+ 21)f 2

3 + (−6φ+ 3)g6+} ,

f10(x, y, z)= 19(x10 + y10 + z10) + (27φ+ 63)(x8y2 + y8z2 + z8x2) + (−27φ+ 90)(x2y8 + y2z8 + z2x8) +

(42φ+ 126)(x6y4 + y6z4 + z6x4) + (−42φ+ 168)(x4y6 + y4z6 + z4x6) +

504(x6y2z2 + y6z2x2 + z6x2y2) + 630(x4y4z2 + y4z4x2 + z4x4y2)

= 19f 52 + {173f6 + (−27φ− 5)g6+ + (27φ− 32)g6−}f 2

2 + [{−200f6 + (−15φ+ 20)g6+ + (15φ+ 5)g6−}f4] ,

g15(x, y, z)= x13yz + y13zx+ z13xy + (−2φ− 12)(x11y3z + y11z3x+ z11x3y) + (2φ− 14)(x3y11z + y3z11x+ z3x11y) +

(11φ+ 51)(x9y5z + y9z5x+ z9x5y) + (−11φ+ 62)(x5y9z + y5z9x+ z5x9y)−

84(x7y7z + y7z7x+ z7x7y) + 50(x9y3z3 + y9z3x3 + z9x3y3) +

(−132φ− 24)(x7y5z3 + y7z5x3 + z7x5y3) + (132φ− 156)(x3y5z7 + y3z5x7 + z3x5y7) + 378x5y5z5

= f3f62 + {−38f3g6− + (−2φ+ 20)g9}f 3

2 + {−124f3f34 + 972f3f

26 + 468f3f6g6− + 369f3g

26− +

(−100φ− 184)f6g9 + (15φ− 125)g6+g9 + (15φ− 259)g6−g9}

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ここで以下が成立することを確認する。

定理 3.3.2(正 20面体群 G(20)の不変式環)

k[x, y, z]G(20) = k[f2, f′

6 , f10, g15]

<証明>

f2, f′

6 , f10, g15は G(20)で不変であるから

k[x, y, z]G(20) ⊃ k[f2, f′

6 , f10, g15]

は明らか。以下逆向きの包含関係について示すために

H(k[f2, f′

6 , f10, g15], t)=1 + t15

(1− t2)(1− t6)(1− t10)

となることを示す。正 4面体群 G(4)、正 8面体群 G(8)の時と同様 singularの計算により

10125g 215 + (54329344f 15

2 − 35012608f′

6 f122 − 718848f10f

102 + 9106944f

′26 f 9

2 + 304128f′

6 f10f72 −

1190080f′36 f 6

2 − 48816f 210f

52 − 14040f

′26 f10f

42 + 72625f

′46 f 3

2 + 10260f′

6 f210f

22 − 3375f

′36 f10f2 −

1125f′56 − 405f 3

10) = 0in k[x, y, z] (3.14)

である。この式は g15 の 2次式で書かれていることから

k[f2, f′

6 , f10, g15] = k[f2, f′

6 , f10] ⊕ g15 k[f2, f′

6 , f10]

と書くことができる。今 deg(g15) = 15であることから

H(k[f2, f′

6 , f10, g15], t) =1 + t15

(1− t2)(1− t6)(1− t10)(3.15)

よってMolienの公式により導出した (3.13)と (3.15)により

Φ(k[x, y, z]G(20), t)= H(k[f2, f′

6 , f10, g15], t)

以上のことから

k[x, y, z]G(20) = k[f2, f′

6 , f10, g15]

また先の証明にある (3.14)式により、正 20面体群 G(20)の不変式環は次のようにも書ける。

定理 3.3.3(正 20面体群 G(20)の不変式環 基本不変式のみの関係式)

k[x, y, z]G(20)

= k[f2, f′

6 , f10][g15]

/⟨ 10125g 215 + (54329344f 15

2 − 35012608f′

6 f122 − 718848f10f

102 + 9106944f

′26 f 9

2 +

304128f′

6 f10f72 − 1190080f

′36 f 6

2 − 48816f 210f

52 − 14040f

′26 f10f

42 + 72625f

′46 f 3

2 +

10260f′

6 f210f

22 − 3375f

′36 f10f2 − 1125f

′56 − 405f 3

10)

以上計算ソフト singularを用いることで不変式の関係式をより簡単な形で求めることができた。ここで幾何学的な視

点により求めた h′′

6 , h10, h15 と計算ソフト singularで導出した f′

6 , f10, g15 との関係を考えると

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(6φ− 9)h′′

6 + 7f 32 − f

6 = 0 (3.16)

(1610φ− 2605)h10 + 76f 52 + (246φ− 369)f 2

2 h′′

6 − 4f10 = 0 (3.17)

(144φ− 233)h15 − g15 = 0 (3.18)

となる。よって (3.16),(3.17),(3.18)式を使って f′

6 , f10, g15 は h′′

6 , h10, h15 に書き換えることができるので

定理 3.3.4(正 20面体群 G(20)の不変式環  h式を用いて)

k[x, y, z]G(20) = k[f2, h′′

6 , h10, h15]

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第4章 まとめ

第 3章 正多面体群の不変量 で求めた主要定理についてまとめて記述する。

正 4面体群 G(4)� �定理 3.1.4 k[x, y, z]G(4) = k[f2, h3, h4, g6+]

f2(x, y, z) = x2 + y2 + z2

h3(x, y, z) = xyz

h4(x, y, z) = (x+ y + z)(x+ y − z)(x− y + z)(x− y − z)

g6+(x, y, z)= x2y4 + y2z4 + z2x4� �正 8面体群 G(8)� �定理 3.2.4 k[x, y, z]G(8) = k[f2, h3, h4, h

6 ]

f2(x, y, z)= x2 + y2 + z2

h3(x, y, z)= xyz

h4(x, y, z)= (x+ y + z)(x+ y − z)(x− y + z)(x− y − z)

h′

6(x, y, z)= (x+ y)(x− y)(y + z)(y − z)(z + x)(z − x)� �正 20面体群 G(20)� �定理 3.3.4 k[x, y, z]G(20) = k[f2, h

′′

6 , h10, h15]

f2(x, y, z) = x2 + y2 + z2

h′′

6(x, y, z)= (x+ φy)(x− φy)(y + φz)(y − φz)(z + φx)(z − φx)

h10(x, y, z)= (x+ y + z)(x+ y − z)(x− y + z)(x− y − z)(x+ φ2y)(x− φ2y)(y + φ2z)(y − φ2z)

(z + φ2x)(z − φ2x)

h15(x, y, z)= xyz(x+ φ2y + φz)(x+ φ2y − φz)(x− φ2y + φz)(x− φ2y − φz)(y + φ2z + φx)

(y + φ2z − φx)(y − φ2z + φx)(y − φ2z − φx)(z + φ2x+ φy)(z + φ2x− φy)

(z − φ2x+ φy)(z − φ2x− φy)� �

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謝辞

本研究を行うにあたり、日々丁寧なご指導をしてくださり、修士論文作成においても数々の助言を頂きました楫元

教授に深く感謝いたします。

また、東京大学数理科学研究科の寺杣友秀教授には Vermaの論文を教わり、研究が進展する助言を頂きました。こ

こに感謝いたします。

最後に、研究を含め就職活動、学校生活の様々な面でお世話になりました、楫研究室・永井研究室のすべての関係

者の皆様に深い感謝とますますのご発展をお祈りいたします。

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付録

正4面体群G(4)の singular計算画面

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正8面体群G(8)の singular計算画面

23

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正20面体群G(20)の singular計算画面

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25

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コマンド説明

• LIB ”finvar.lib” · · · 有限群の不変式環を求めるためのライブラリ

• ring R=0,(x,y,z) · · · 標数 0で三変数による環 Rを定義

• dp · · · 逆辞書式順序

• reynolds molien · · · reynolds作用素を用い、定理 2.2(Molienの公式)でヒルベルト級数を計算

• primary char0 · · · 標数 0で第一不変量を計算

• secondary char0 · · · 標数 0で第二不変量を計算

• P · · · 第一不変量

• IS · · · 第二不変量から次数 0(= 1)だけ抜いたもの

正 20面体群G(20)の singular計算画面にのみ出てくるコマンド

• ring R=(0,a),(x,y,z) · · · 標数 0、定数 aで三変数による環 Rを定義

• minpoly=a2-a-1 · · · φ(黄金比)を定義

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参考文献

1. B.Sturmfels. Algorithms in Invariant Theory. Springer-Verlag/Wien, New York, 2008.

2. J.K.Verma. RINGS OF INVARIANTS OF FINITE GROUPS. http://www.math.iitb.ac.in/ jkv/invar.pdf

3. D. Cox, J. Little, and D. O’Shea. Ideals, Varieties, and Algorithms. Springer Publications Inc., New York, 2007.

4. 向井茂. モジュライ理論. 岩波書店, 2008

5. 北川正一. 正 8面体群の構造. 九州国際大学教養研究 第 16巻第 2号, 2009.

6. 北川正一. 正 20面体群の構造. 九州国際大学教養研究 第 16巻第 3号, 2010.

7. Singular, Online Manual, D.7.1 finvar lib. http://www.singular.uni-kl.de/Manual/latest/sing 1619.htm SEC1695

8. 菅本守. 超立方体回転群により不変な部分環を生成する斉次多項式. 早稲田大学大学院基幹理工学研究 修士論文, 2013

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