タイ語における植物部位名の比橡的用法タイ語における植物部位名の比喰的用法...
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タイ語における植物部位名の比橡的用法
佐 藤 博 史
は じ め に
タイ民族は固有の文字を持たず,クメール文字をもとに13世紀にラームカムへ-ン王が考案
したものと伝えられている。そのもとになったクメール文字の上に付いたギザギザの飾 りを
"n孟am-taaj(パンダナスのとげ)"とよんでいる。
古来,人間は植物とともに生活してきた。花をめで,実を食し,葉や実などを利用して,物
を包んだり,容器にしたり,生活のなかで,さまざまな方法で関わってきたにちがいか -0
このような身近な存在である植物の名前が "たとえ"に用いられることは,古今東西を問わ
ず自然なことだと考えられる。
日本語でも,「タネビ (種火)」「ハノネ (歯の根)」「ハグキ (歯茎)」「ユダゲ (枝毛)」「ハナビ (花火)」などは,植物部位名が用いられているし,「マツバヅエ (松葉杖)」「サクラガイ(桜貝)」「ヒシガタ (菱形)」などは,個別の植物部位名が用いられている。
英語で も "root(根 もと,ルー ツ,語根)","(light)bulb(電球)",≠ranch(支店,支
部)","leaf(枚)"など植物部位名が用いられている例がある。
興味深いことは,ある事物を見たとき,その民族が何を連想し,何にたとえるかということ
である。
同じものを見ても何にたとえられるかは,その言語によって異なっていておもしろい。たと
えば,(手榔 単)は,英語でもフランス語でもタイ語でも,≪植物》を連想しているが,それぞ
れ種類が異なっていて,英語では "pineapple"に,フランス語では "grenade(ザクロ)"
に,タイ語では "n53jnaa(バンレイシ)"に,それぞれたとえられている。(い(手摺弾) 〔英〕≪俗》pineapple
〔仏〕grenade(amain)
〔泰〕≪俗》n53jnaa
また,くイソギンチャク)は,日本語では,く巾着)にたとえられているが,英語とタイ語で
はともに (花)にたとえられている。
(イソギンチャク) 〔日〕イソギンチャク (磯巾着)
〔英〕Seaanemone(海のアネモネ)
〔泰〕dうっkn aaj-thalee(海の花)
このように,たとえるものが異なるのは,その地域に分布する植物の種類が異なること,そ
して,そこに居住する人びとが,その植物とどのような関わりを持ち,どのように価値づけて
いるかによるのであろうO
本稿は,タイ藷'8=おいては,どのような種類の植物部位凱 言,どのような類似性に基づい
て,どのようなものに転用されているかを考察することを目的としている。題目の 「比倫的用
法」の 「比喰」は,原義から転義への拡張が "類似性"に基づいて行なわれる (メタファー
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(隠喰))の意味で用いている。
植物部位としては,果実の熟した状態や果肉の乾燥した状態のもの,また竹筒のように切っ
たり,ココナッツミルクのように搾ったりしたものなど,人為的な行為が加わったものも対象
とした。転用例のなかには,共時的なレベルで,原義と転義の間に "類似性"を認めることが
困難なものもあり,それらは今後の課題とし,本稿では除外した。
また,植物部位名の多くは,類別詞として用いられるが,部位名と類別詞の拡張プロセスは
必ずしも同一ではなく,類別詞としての用法に関しては別稿で論じることにしたい。
タイ語の植物部位名の比倫的用法に関しては,管見の及ぶ限り,先行研究はなく,タイの国
語辞典の各語嚢項目の所でわずかに触れてある程度である。タイ人には,それが比喰であると
気付かないくらいふつうの表現になってしまっているからかもしれない。
資料としては,冨田(1997)および松山(1994)から主として収録 し,必要に応 じて,Rat-
chabandittayasathan(1982),Manit(1976)の意味記述も参考にしたが,意味の小分け,
記述に関しては必ずしも原典どおりではない。
本稿で用いた略語はつぎのとおりである。
《慣≫慣用表現。《古≫古語。《口》口語。《俗》俗語。《卑》卑語。《修≫修飾詞。
〔人〕人体。〔医〕医学。〔病〕病名。〔星〕星宿。〔鉱〕鉱物。〔動〕動物。〔昆〕昆虫。〔植〕
植物。〔衣〕衣服。〔電〕電気。〔機〕機械。〔建〕建築。〔仏〕仏教。〔法〕法律。〔軍〕軍隊。
〔色〕色彩。〔記〕記号。
なお,本稿で用いた図に関しては,〔図1〕は筆者がイメージで描いたもので,〔図2・3・
4・5〕は,岩佐俊吉 (1973)に掲載されている図の一部を,筆者が模写したものである。
1 一般植物部位名の転用例と意味拡張のプロセス
動物はさまざまな姿をしており,一般化しにくいけれども,植物の場合は動物ほど多種多様
ではなく,イメージは一般化しやすい。したがって,(種子,根,茎,幹,枝,葉など)植物
の一般化された部位名と (蓮の花,ココヤシの殻,ビンロウの果実など)個別の植物部位名に
分けて考察する必要がある。一般化された植物部位名の配列順序は,つぎに示すように,ごく
一般的な部位名を先に挙げ,(地下茎)(葺)(棟)(莱)などある種の植物にみられる部位名
杏,そのつぎに配列する。
(種子)(樵)(芽)(茎 ・幹)(枝)(莱)(柄の端)(柄)(花)
;(地下茎)(蔓)(棟)(莱)
各項日ごとに,転義と転用例を挙げ,類似性に関しては,1つひとつの例の所では述べず,
意味拡張のプロセスとして,まとめて述べることにする。なお,`̀◎"は原義を表す。
1.1 met(種子)(4)
m6t(種子)"は,つぎのように拡張される。
(1) 粒状の物。
・m6t [粒] ① 〔植〕キダチ トウガラシなどの小粒の果実。
・mat-kha-aw [米の種] (∋ 米粒。
・mat-fh [雨粒] ① 雨滴。
・m6t-loohit [血液の粒] (ラ 〔人〕血球。
・m6t-?anth丘?[葦丸の粒] (ラ 〔医〕皐丸。
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AJaa一m6t [粒の薬] ① 錠剤。
・m6t [粒] ① 〔タイ将棋〕駒の一種。
★意味拡張のプロセス
"met(種子)"は,その ≪粒状≫の "形状"から (粒状のもの)に拡張されたものだと
考えられる。
◎ 種子 ー 《粒状》-- (1) 粒状のもの
1.2 raak(梶) (5)"ra且k(梶)"は,つぎのように拡張される。(1)根本。基礎。
・raakl)ham [毛の根] ① 〔人〕(頭髪の)毛根。
・raak一血n [歯の根] ① 〔人〕歯根。・rank-tdzk [建物の根] ① 建物の基礎。土台。
(2) 根源Q原因。
★意味拡張のプロセス
"raak(梶)"は,茎や幹を ≪下部で支えるもの》という意味から (根本 ・基礎)という
意味に拡張され,何かを 《引き起こすもと≫という意味から (根源 ・原因)という意味に
拡張されたものと考えられる。
-:-_
零Ei部で支えるもの》き起こすもと≫\1-㌔
(1)根本 ・基礎(2)根源 ・原因
1.3 nうっ(寡)
"nうっ(寡)"は,つぎのように拡張される。
(1) 〔医〕足の裏に生じる腫れものの一種O
(2) 子孫O後商。
・n5っIkasat [王の芽] ① 王の末商。
In53rnareen [王の芽] ① 王子。I
★意味拡張のプロセス
"nうつ(寡)"は,≪出てくるもの》であり,その意味で (足の裏にできる腫れもの)とい
う意味になり,また人間の血筋に関して,《あとから生まれ出てくるもの≫という意味か
ら,(子孫 ・後商)という意味に拡張されたものと考えられる。
- ≪出てくるもの≫-(1)腫れもの
(2) 子孫 ・後背
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1.4 t6n (茎 ・幹)
く茎 .幹)を有する (草花 ・樹木)の総称は,タイ語の "tらn (樹)"と "md(jo(木)"を合
わせて,""tan-m畠aj"という。個別の種類を表すときは,"tan-sak (チーク樹)","t6nl血oo
(菩提樹)"のように,(tan+樹木名)という形をとる。この"tan"には,樹木の(幹)(-lam-
tan)という意味もあり,"tan"は,(幹)の意味で,つぎのように拡張されたものだと考えら
れる。
(1) もと。
・tan-kh孟a
・tan-khEen
・tan-kh〇〇
・tan-naan
・tan-thun
・Pan-tan
・tan-faj
・tan-Pan
・tan-chabap
・tan-trakuun
・tらm-khit
・tan-tamrap,tan-tamraa
・tan-r血a!】
・tan-h主et
(2) はじめ。
・tan-thaag
・na且-tan
・t〇〇n-tan
・khaa!)16n・b血a!「t6n
・tan-sapdaa
・tan-dtHan
・t6nl)ll
・Jaam16m・phdjan chAna?-ta n
[脚のもと]
[腕のもと]
[頚のもと]
[水の源]
[資金のもと]
[もとの金]
[火のもと]
[金のもと]
[冊のもと]
[氏族のもと]
[考えるもと]
[教科書のもと]
[話のもと]
[原因のもと]
[道のはじめ]
[はじめのページ]
[はじめの部分]
[はじめの方][はじめの側][週のはじめ][月のはじめ][年のはじめ][はじめの時間]
[はじめの子音]
(3)長 。首 唱者。元 祖 。指導者。・t6nl・tHaItan-h6n・tan-良on
・tらm-h5!】・tan-kuncee・tan-banchii
Itan-rtHan
・t6nlSYa!】
① 〔人〕脚の付け根。
① 〔人〕腕の付け根。
① 〔人〕頚の根もと。
① 上流。源流。
① 元金。資本金。
① 貸借の元金。
① 出火元。
① 元金。元手。
① 原文。原本。原稿。
① 先祖。始祖。
① 創案者。発明物。
① 元祖。本家本元。
① (事柄の)起因。由来。(情報の)起源。
① 原因。起因。発端。端緒。
(∋ 起点。
① 最初のページ。
① 最初の部分。
① 上述の。
① 最初。初歩。
① 週のはじめ。
① 月はじめ。
① 年初。
① 初更。午後6時から9時まで。
① 頭子音字。
[船の長] ① 艦船の副長。
[方角の長] ① 舵手。操舵長。副船長。
[機械の長] ① (船の)機関長。
[部屋の長] ① 部屋番。管理人。
[鍵の長] ① 鍵係。倉庫番,金庫番。
[帳簿の長] ① 会計主任。
[家の長] ① 家令。家挟。
[声の長] ① 音頭取り。
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タイ語における植物部位名の比喰的用法
・tan-b~It [歌詞の長] ① 歌詞を言ってやる人。
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★意味拡張のプロセス
"tらm (茎 ・幹)"は,そこが起点となって枝葉が伸び広がる ≪大もと》であることから,
(もと)という意味になり,さらに くもと)は,全体からみれば,はじめの部分であると
いうことから (はじめ)という意味に拡張されたものと考えられる。また,人間に関して
適用され,大もととなる重要な者ということから (長)に拡張されたものと考えられる。
- ≪大もと》-
1.5.1 kip(枝 1)
"kip(枝 1)"は,つぎのように拡張される。
(1) 支根。
・raak-kig [枝 1根] ① 主根から分岐した根。支根。
(2) 支所。分所。
・kip-sath孟anii-tamrもat [警察署の枝 1] ① 警察分署。
・kip-?amphaa [郡の枝 1] ① 分郡。郡に準じる行政単位。
★意味拡張のプロセス
"kip(枝 1)"は,同一の幹から 《分かれたもの》であることから,(樵)に関して (支
根)という意味に,(組織)に関して (支所 ・分所)という意味に拡張されたものと考え
られる。
- 《分かれたもの》-(1) 支根
(2) 支所。分所
1.5.2 S孟akh孟a(枝 2)
"S孟akh孟a(枝2)"は,つぎのように拡張される。
(1) 支社。支店O支部。
★意味拡張のプロセス
"S芸akh孟a"ち,"kip"と同じように拡張されたものと考えられる。
-《分かれたもの》-(1) 支社。支店。支部1.5.3 khanEcg(小枝)
"khanEcg(小枝)"は,つぎのように拡張される。
(1) (学問)分野。部門。
★意味拡張のプロセス
"khan芭eg"ち,"S孟akh孟a"や "kin"と同じように拡張されたものと考えられる。
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◎ 小枝
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-≪分かれたもの》-.一・一-(1)(学問)分野。部門1.6 baj(莱)
"baj(莱)"は く草木の葉)であるが,つぎのように拡張される。
(1) 葉状のもの。
1baj-naa
Ibaj-h正u
・baj-miit-吐oon
Ithつつ!「baj
irtua-baヨ
・baj-rua
・baj-ca女
・baj-daan
・baj-phAt
・baj-phaaj
・ba3-miit
・baj一maaJ
薄く平たいもの。
[顔葉]
[耳の葉]
[剃刀の葉]
[葉の金]
[乗船]
[船の葉]
[機械の葉]
[かんぬきの葉]
[扇の菓]
[漕ぐ葉]
[刃物の葉]
[樹葉]
(2) 文書類 (~書。~状°~証)
・baj-kh6n [運送状]
・baj-khAp-khii [運転状]
・baj-cgq一khwaam [通知状]
・baj-ch血a [信用状]
・baj-diikna [招請状]
・baj-dam [異状]
・baj-deq [赤状]
・baj-trhat [調査状]
Ibaj-trhat-r6ok [診断状]
171① 〔人〕顔形。① 〔人〕耳たぶ。
① かみそりの刃。
① 打ち延ばした金片。
① 帆船。
① 船の帆。
① 船のスクリュー。プロペラ。
① かんぬきの付いた扉や窓。
① プロペラ。スクリュー。風車の羽。扇風機の羽。
① 確の水に当たる平たい部分。
① (刃物の)刃。
① 〔魚〕pla且[魚]-,グラミー科。
② 〔動〕phajaat[寄生虫]-,肝臓ジストマの一種。
① 船荷証券。
① 運転免許証。
① 通知書。
① 信用状。
① 僧への招請状。
① 〔軍〕兵役免除令状。
① 〔軍〕招集令状。
① 証明書。検査証。
① 〔医〕診断書。
・baj-taag-daaw [外国人の証書]① 外国人登録証。
・baj-sgek [差し込む状] ① 新聞の折込み広告.ちらし。
② (本の)しおり
・baj-b53k l告げる状] ① (役所からの)通達.通知O
・baj-b。。ご' [債券状]
・baj」)5ak [請求状]
・baj-pbk [覆う状]
・baj-prakan [保証状]
・bajl)liw [飛ぶ状]
・bajrm5っp-Ch孟ntha?[委任状]
・bajlはaj-khaw [転入状]
・bajlはaj-?うっk [転出状]
① 債券。
① 請求書。
① 本の表紙。表布または表皮。
① 保証書。
① (道で配ったり空からまいたりする)ビラ。
① 〔法〕委任状。
① 転入証明書。
① 転出証明書。
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タイ語における植物部位名の比倫的用法 7
・baj-rap
・baj-rap-r33g
・baj-la且
・baj-laa-?53k
Ibaj-sag-khうっg
・baj-sag-sTnkhaa
・baj-samak
・baj-sag
・baj-sag-caaj
・baj-S的1aa
・baj-S孟mkhan
・baj-Sもtthl'?
・baj-Sらt
・baj-ham
・baj-jiaplam
・baj-?anBjaat
★意味拡張のプロセス
"bad(莱)"は,その
[受け取り状]
[保証状]
[辞去状]
[辞職状]
[送物状]
[商品送状]
[志願状]
[命令状]
[支払命令状]
[薬命令状]
(∋ 領収書。受領書。
① 保証書。証明書。
(∋ 欠勤届。休暇届。欠席届。
(∋ 辞職願。辞表。
(∋ 送り状。インボイス。
(∋ 商品発送状。
① 申込書。願書。志願票。
① 命令書。
① 支払命令書。為替払渡通知書。
(む 荷物発送通知書O
(∋ 〔医〕処方葺。
[重要状] ① 証書。証明書。
[純粋状] ① (学校が卒業生に発給する)成績品行証明書。
[終了状] ① 領収書。
[珠状] ① 株券。
[踏み込み証] ① 土地占有証書。
[許可状] ① 許可書。許可証。
《薄く平たい》"形状"から (薄く平たいもの)千 (文書類)に
拡張されたものと考えられる。
- ≪薄く平たい》一一一(1) 薄く平たいもの
(2) 文書類
1.7 khaa(柄の端)〔図1参照〕
"khia"は く(葉 ・花 ・果)柄と枝との接点の部分)を意味するが,とくに,莱,花,果実
が枝から離れたあとの部分を指すことが多Jミ'.((葉 ・花 ・果)柄)の部分も意味することもあ
る."khaa"はつぎのように拡張される。
(1) 端。極。
・khaa-kracbk
・khaa-1aok
・kh丘a-S孟aj
・khaa-fajfaa
・khGa-b血ak
Ikhaal16p
Ikh血a-mge-1もk
[ガラスの極]
[地球の極]
[線の極]
[電気の極]
[プラスの極]
[マイナスの極]
[磁石の極]
(ヨ レンズの表面の中心点。
① 極地。(南,北)極。
① 端子。
(∋ 〔電〕電極。
冨 E芸濃 くモ 塾① 磁極。 〔
(2) (領収書,小切手などの)控え。 JLaall図 1
★意味拡張のプロセス
"khaa"は,(葉 ・花 ・果実)が,枝から離れたあとでは,(葉 ・花 ・果実)の ≪端の部
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8 天 理 大 学 学 報
分》に当たることから (端。極)という意味に拡張されたものと考えられる。また,本体
を 《(切り離したあとに)残っているもの》という意味から (控芝')という意味に拡張さ
れたものと考えられる。
◎ 柄の端 ≡音
零ESi(端の部分)
〈残っているもの≫iiI
(1)端。極
(2)控え
1.8 kaan (柄)〔図1参照〕
"kaan (柄)"は,(菓 ・花 ・果実)の く柄)を意味し,つぎのように拡張される。
(1)棒状のもの。
・kaan-kh〇〇 [首の柄] ① 〔人〕首筋。うなじO襟首O
・kaan-m卓j-khiit [マッチの柄] ① マッチの軸.
・kaan-tabaj [やすりの柄] ① やすりの柄。
・kaan-1in [弁の柄] ① 〔機〕弁棒。
・kaan11丘uk-shup [ピストン柄] ① 〔機〕ピストン棒O
★意味拡張のプロセス
"kaan(柄)"は,(棒状》の "形状"をしていることから (棒状のもの)に拡張された
ものと考えられる。
!丁 的_二-く棒状≫- (1)棒状のもの
1.9 dうつk(花)
タイ語では,花の総称は "dうっk-maaj"という。個別の種類を表すときは,樹木の場合と
同じように,(d5っk+草花 ・樹木名)という形をとる。この"dうっk"は,つぎのように拡張され
る。
(1) 花状のもの。
Idうつk-m畠aJLthalee
・dうっklnaaj-faj
・d5っk-maaj-kon
・dうっk-mdaj-naam
・d5〇klnaaj-thian
・d5っkTmAajl)ham
[海の花] ① 〔動〕イソギンチャク。
[火の花] ① 花火。
[秘術の花] ① 花火。
[水の花] ① 水上花火。
[ろうそくの花]① 花火の一種。ろうそく形。
[潅木の花] ① 花火の一種。ろうそく形のもので,竹の端
に挿し傘蓋のように段状にしかけ,夜に点火
して見せる。
Idうっk-maaj-krath孟ag [鉢の花] ① 花火の一種O
・dうつk一maajlnaa [馬の花] ① 花火の一種。馬の形に作っておき,点火後
人がかつぎ馬が走っているように見せるも
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タイ語における植物部位名の比倫的用法 9
の。・dうつk-maaj-rag [泰明花] ① 花火の一種。火薬をひも状に紙で包みぐる
ぐる巻きにして休憩享などに吊るし,ランプ
がわりに点火して夜が明けるまでもたせるも
の。
・dうっk-khwaan [えぐる花] ① 〔機〕リーマーo孔あけ錐。
(2) 女性。
・dうっk-maaj [花] ① 女性。
・dうっk-maaj-kh5っg-Chaat [国の花] ① その国の女性。
・dうつk一m丘aj-reek-jgem [ほころび始めた花]① 少女。
・dうっk-faa [天の花] ① 身分の高い女性。貴族婦人O
・dうっk-th〇〇g [金の花] ① 〔卑〕淫婦。娼婦。
・dうっk-jaa [草の花] ① 下賎な女。卑賎な女.
・dうっk-maaj-rim-thaag,dうつk-maaj-klaj-thaag[路傍の花]① 行きずりの女性。
・dうっk-mAaj-rdag [落花] ① 過去のある女。(3) 出てくるもの
i)人体から出てくるもの
・dうっk [花] ① 〔医〕性病によって生じる皮膚のぶつぶつ。
・dうっk-maaJ [花] ① 〔人〕幼児の最初に出る歯。
・dうっk-1占p [爪の花] ① 〔人〕爪の表面に現れる白点。
ii)元金から出てくるもの
Idうっk-bia [金の花] ① 利子。利息。
★意味拡張のプロセス
"dうっk(花)"は,その "形状"から (花状のもの)に拡張され,≪美しいもの≫である
ことから (女性)という意味に,また,茎や枝から咲き ≪出てくるもの (利子の場合は,
元金から産み出されたもの)≫という意味から (3)の意味に拡張されたものと考えられ
る。
(1) 花状のもの
《出てくるもの》
▲
1.9.1 kliip(花びら)
"kliip(花びら)"は,つぎのように拡張される。
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(1) 花弁状のもの。
Ikliip-taa [目の花弁] ① 〔人〕まぶたO
・kliip-meek [雲の花弁] ① 雲片。
・kliip-hTn [石の花弁] ① 〔鉱〕雲母。
・kliip-1iag [養う花弁] ① 〔植〕がく。
・kliipl)hat-Ion [扇風機の花弁]① 扇風機の羽。
★意味拡張のプロセス
"kliip(花弁)"は,その "形状"から く花弁状のもの)に拡張されたものと考えられる。
◎花弁-〈花弁状》一一一→ (1)花弁状のもの1.10 gaw(地下茎)"Paw(地下茎)"は,つぎのように拡張される。(1) 先祖。
★意味拡張のプロセス
"Paw(地下茎)"は,そこから茎や葉が出る 〈大もと》という意味から,人間に転用され,く先祖)という意味に拡張されたものと考えられる。
◎地下茎 -《大もと≫-(1) 先祖1.ll.1 th孟W (蔓1)
"th孟W"は く蔓 1)という意味であるが,つぎのように拡張されるo
(1) 血族。
★意味拡張のプロセス
"th乙W (蔓 1)"は,《同一の大もとから伸び広がるもの)ということから,人間に転用
され,子から孫へと増えていく (血族)という意味に拡張されたものと考えられる。
-《同一の大もとから伸び広がるもの)- (1) 血族1.ll.2 khrula(葺2)
"khrula"は く蔓2)という意味であるが,つぎのように拡張される。
(1) 一族。
・khrtua-jaat[親族の蔓] ① 親族。血族。氏族。
★意味拡張のプロセス
"th孟W (蔓1)"と同じように,《同一の大もとから伸び広がるもの》ということから,人
間に転用され,く一族)という意味に拡張されたものと考えられる。
-≪同一の大もとから伸び広がるもの》-1.12 n孟am (棟)
"n孟am (柿)"は,つぎのように拡張されるO
(1) 一族
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タイ語における植物部位名の比倫的用法 ll
(1) とげ状のもの。
・h53j¶云am [とげ月] ① 〔則 アクキガイ科。蓋の入口の一端が長く延びと
げが生えている。
・lGat一m孟am [とげの針金] ① 有刺鉄線。
★意味拡張のプロセス
"naam (柿)"は,その "形状"から (とげ状のもの)に拡張されたものと考えられる。
-≪とげ状》- (1) とげ状のもの1.13 fak(莱)
"fak(莱)"は,つぎのように拡張される。
(1) (刀剣の)鞘。(ピストル,銃などの)ケース。
・alrdaap[刀剣の鞘] ① 刀剣の鞘。
★意味拡張のプロセス
"Yak(莱)"は,果実を ≪包んでいるもの》ということから,ものを包んでいる (鞘。ケ
ース)に拡張されたものと考えられる。
-《包んでいるもの》- (1)鞘。ケース
2 個別部位名の転用例
個別の植物に関しては,拡張部位が多いものから順に配列し,拡張部位が1箇所のみのもの
は,(種子)(莱)(花)(果実);(嫌)(莱)(茎)(籾がら)の順に配列した。
また,拡張のきっかけとなった類似性に関しては,各転用例の意味のあとに,(※ )で
示した。ただし,(竹)の場合は,部位名の所でまとめて示した。
2.1 phaj(竹)
アジア東部の暖帯から熱帯にかけて分布するイネ科の植物。竹はその形状 ・性質から重宝さ
れ,用途は広い。容器にしたり,家を造ったり,建築の足場に用いたり,栽培の支柱に用いる
以外に "khaaw-1aam"とよばれる竹筒飯を作るのにも用いられる。(木)の特徴と (辛)の
特徴を兼ね備えており,(木)か く草)か植物学者の間でも議論の分かれるところであるが,
タイ語では "mdj-phaj"といい,(木)として扱われている。
この "phaj(竹)"は,(芽 ・茎 (植物学では 「梓」) ・葉)がつぎのように拡張されるO
(稗)は,"kh5っ(節)","krabうっk(筒)","p15g(重節)","b5〇g(節付筒)"と細かく分け
られて,つぎのように拡張されており,それぞれを拡張部位として数える。
[n5〇-maaj(竹の子,萄)](※形状から)。
・n5っ一mdaj-farag [西洋のタケノコ] ①アスパラガス.
・nう〇一maajⅧaam [水のタケノコ] ①マコモ.
[姐うっ(節)](※形状から。ただし(項目)は,事項の区切れという意味から)0
・kh5m u u [手の節] ① 手首.
・khうっ-th丘aw [足の節] ① 足首O
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・khうっ-Sうっk [肘の節] ① 肘関節。
・khSっ--t5っ [継ぎ節] ① 継ぎ手。ジョイント。
・kh5っ-wiag [振り投げる継ぎ目] ① 〔機〕クランク。
・khうっ [節]
[krab5っk (筒)](※形状から)
・krab5っk-hぬ [頭の筒]
・krabうっk-taa [日の筒]
・krab5っk-S首ag [音筒]
・tan-krab5っk [筒樹]
・plaa-krabうっk [筒魚]
・stila-krab5っk [筒衣]
・h血n-krab5っk [筒人形]
・kuncee-krab5っk [竹筒鍵]
・krab53k-phlaw l#%]
・krabうっk-Sもup l吸引筒]
・krab5っk-pulun [銃の筒]
・krab5っk-kliaw [らせんの筒]
・krabうっk-chiit [噴射する筒]
・krab5っk-d血at [双六の筒]
[p15g (重節)](ie(・模様から)
① 項目。
① 〔人〕頭蓋骨。
① 〔人〕眼商。
① ≪口》スピーカー
② 〔人〕喉頭。
① 〔植〕キバナノキョウチクトウ。花はラッパ状。
① 〔魚〕ボラ科。
① 〔衣〕ラーマ4世時の服。襟が高 く下は腰まで。
長袖で腕も胴もタイトにしたもの。
① 操 り人形の一種。中に手を入れて操る。
① ボックス ・レンチ。
① 牛車の車軸を通す孔の摩損防止のためにはめる
硬木で作ったリング。
① 気筒。シリンダー。
① 銃身。
① 内部にらせん状の溝のある銃身。
① 水鉄砲。注射器。
① サイコロを入れて投げる木製または革製の筒。
"p15g"は,たいていの辞書では (竹の節と節との間の部分)と定義してあるが,これだけ
では,転用例との "類似性"を見出すことはむずかしい。So(1975:248)では "a segment
ofthemanyl'0intedstem ofabambooorasugarcane"と定義されており,ここではこの定
義にしたがっておく。適切な訳語がないので 「重節」としておく。
Ikh5っ1)15g [重節頚] ① 顕の周囲が縞になっている頚O
・p15g-chan云j [笛の重節]① 仏塔の尖塔のすぐ下の円板を積み重ねたような部分。
・pl紬-chan払n [絶縁体の重節]① 〔ヘビ〕guu [ヘビ]-,銀色の環のあるヘビD
・p13g-th〇〇g [金の重節]① 〔ヘビ〕guu [ヘビ]-,金色の環のあるヘビ。
[b5っg(節付筒)](※形状から)
"bSっg"は く片側の節を残 して切った竹筒)で,つぎのように拡張される。
・b5〇g ① 斧や墓などの柄を挿し込むための筒形の孔。
・b5っg-hih [耳の筒] ① 〔人〕耳の孔D外耳道。
[baj-phaj(竹の葉)]
"baj-phaj(竹の葉)"はつぎのように転用されるO
・bajTPhaj [竹の葉] ① 〔魚〕plaa[魚]-,イワシ科。
2.2 klaaj(バナナ)
東南アジア原産のバショウ科の多年生植物。(バナナの葉)のように,"ものを包めるくらい
大きな葉"は "baj"といわずに,"t〇〇g"といい,包装に用いられるO(茎)や (葉柄)で容
-
タイ語における植物部位名の比倫的用法 13
器を作ることができ,く茎の表皮)で紙やひもを作ることができる。くバナナの膏 (-肉穂花
序))は "plii"という。単に,"klaaj"といえば く果実)のことで,"lGuk"が明示されない
場合もある。日本では生食が一般的だが,タイでは焼いたり,煮たり,揚げたりと調理法は多
様である。
この "klGaj(バナナ)"は,く葉 ・葉の中肋 ・菅 ・果実 ・房)がそれぞれつぎのように拡張
される。
・t〇〇g-?53n
・kaan-t〇〇g
・plii-n5!)
・plii-j53t
・plii-klaaj
・klaaj-klGaj
[若いバナナの葉] ① sii[色]-,バナナの若葉色。(※色彩から).
[バナナの葉の中肋]① 〔船〕舷の内側に沿って付けてある葉脈状の副
肋。(・X形状から)0
[書状のふくらばぎ]① 〔人〕ふくらはぎ。(※形状から)0
[頂上の膏] ① 〔建〕仏塔の尖頂部。(※形状から)。
[バナナの菅] ① 〔鳥〕n6k[鳥]-,タイヨウチョウ科。
(♯くちばしが長く,バナナに似ていることか
ら)。
[バナナ ・バナナ] ① ありふれた。安っぽい。簡単な。(※バナナは
もっともありふれた安価な果物であることか
ら)。
・klGaj [バナナ] ① 〔魚〕plaa[魚]-,カタクチイワシ科O
(※体形がバナナに似ていることから)。
Iplaa-m血k-klaaj[バナナイカ] ① 〔魚〕スルメイカ。
(洋体形がバナナに似ていることから)0
・lBuk-klGaj [バナナの果実魚] ① 〔魚〕plaa[魚]-,ニシン目。
(iS(・体形がバナナに似ていることから)。
・wll [房] ① 櫛。機織の茂 (おき)0(※形状から)。
2.3 bua(ハス)
熱帯および温帯アジアに分布するスイレン科の植物。日本では仏事に用いられることから,
抹香くさい "暗い"イメージが伴うが,タイではそのようなイメージはなく,日常生活と関連
が深い。仏教国タイでは,"dうつkl)ua(ハスの花)"は神聖舌慶な花とみなされ,く良いもの ・
美 しいもの)の代表とされ,"bua-kgew (極上の蓮)"は,く外務省のマーク)になってい
る。このように "神聖な"イメージだけでなく,実用的な利用価値も高く,(根 ・実 ・葉柄)
は食用になり,く葉)は包装に用いられる。
"bu且(ハス)"は,部位が明示されなければ (花)を指すことが多く,タイ式にデザイン
化されたものが,20以上もの種類と名称がある。
この "bu且"は,(葉 ・膏 ・花 ・花托)がつぎのように拡張される。
・krath丘?-baj-bua [ハス葉鍋] ① 大型中華鍋。(※鍋の形が,ハスの葉に似ていること
から)。
・bu且-tullm
・dうつk-bu且
・bua-Tool
[ハスの菅] ① 若い娘の乳房。(※形状から)。
[ハスの花] ① 良いもの,美しいものの象徴。(※イメージから)。
(参 〔星〕28宿の第8。(※形状から)o
[散りハス] ① 〔色〕sTi[色]-,ハスの花が散ってしなびた色。桃
-
14 天 理 大 学 学 報
色がかった紫色。(※色彩から)。
・bua-bbk [陸ハス] ① 〔植〕tらm [樹上,セリ科。ツボクサ。(※花の色がハ
スの花に似ていることから)。
・bua-saw孟n [天ハス] ① 〔植〕tan[樹]-,サガリバナ科。熱帯アメリカ原
産。(※ハスに似たピンク色の花が咲くことから)。
・bua-naag [女性のハス]① 乳房。(※形状から)。
・fak-bua [ハスの英] ① ジョウロ。シャワーヘ ッドの噴水口o"bud-takila
[鉛のハス]"ともいう。(※噴水口がハスの花托に似
ていることから)。
① 〔病〕軌 庁。湯。(※たくさんのぶつぶつが,ハス
の花托の種子を連想させることから)。
2.4 maphrAaw (ココヤシ)
熱帯アジア原産の植物で,単に 「ヤシ」といえば (ココヤシ)のことで
(ヤシ類)の代表格である。捨てる所がないくらい,実用的に利用価値の
高い植物で く葉)は屋根葺き材に,(葉の中肋)はほうきや焼きとりの串
に,(心材)は堅牢な木材として利用される。果実 (図2参照)は人の頭
くらいの大きさで,(中果皮)の繊維層の部分は,ロープ ・マット・タワシ
などに用いるし,(内果皮)の堅い殻は,容器,ボタン,しゃもじなどのほ 図2
か,冷蔵庫の脱臭剤や毒ガスマスクにかかせない活性炭になる。殻の内壁には乳白色の艦乳層
(-果肉)があり,これを搾ったココナッツクリームは,種々のタイ料理 (とくに,カレー料
哩)やお菓子の材料として欠かすことはできない。果肉の内側に入っている1リットルほどの
くココヤシ水)は,ほんのり甘く熱帯では重要な飲料である。
く殻)を表す ことばは "kalaa(殻 1)","kalbok(殻2)"の2つあ り,(殻2)の方 は(サ トウヤシの殻)もいう。
maphraaw (ココヤシ)"は,(葉の中肋 ・殻 ・果肉 ・クリーム)がつぎのように転用され
るC,
・kaan1naphr丘aw [ココヤシの柄 (-ココヤシの葉の中肋)]
① 〔動〕guu[ヘビ]-,ヘビの一種。(※体形がヤシの葉の
中肋に似ていることかAI)。
・kalaa [ココヤシの殻 1] ① く人)《口》頭蓋骨。頚。(※形状から)。
・kalaa(-khr53p)[(伏せた)ココヤシ殻 1]
① m心ak[帽子]-,お碗型の帽子。(※形状から)。
① ph6m [葉上,髪型の一種。(※ココヤシの殻をかぶせた
ような形から)。
・knlbok[ココヤシの殻2] ① 頭蓋骨。どくろ。(※脳を包んでいるところがヤシの殻と
構造的に似ていることから)。
② 小型種の果実のなかで,特大のもの。(※大きさから)。
・klaam [熟れすぎて乾燥しきったココヤシの果肉]
① 筋肉。(※形状から)。
・h屯a-knthi? [ココナッツクリームの一番搾り]
① ≪慣》精髄。精華。(※価値から)。
-
タイ語における植物部位名の比倫的用法 15
2.5 maak(ビンロウ)
マレーシア原産で,熱帯アジアに広く分布するヤシ科の植物。花は白く,果実は 「ビンロウ
ジ」といい,3-5cmの大きさで,熟せば荏色になる。このビンロウジを石灰を塗ったキンマ
の葉で包んで噛むという習慣が古来東南アジアでは,広く行なわれていた。これを噛むと,漢
い刺激と麻酔的な効果によって爽快な気分になるという。元来 (果実)を意味する "maak"
が,果実といえば (ビンロウジ)のことをいうくらい,社会的に重要なものであった。(1B)"maak (ビンロウ)"は く花 ・果実)が,それぞれつぎのように拡張されるが,"maak"
といえば (果実)(-ビンロウジ)のことをいうことが多く,"lGuk"は明示されない場合が
ある。
・d53k-maak lビンロウの花] ① 〔柄〕kltiIan [皮膚病]-,細菌性の皮膚の色素異
常で,白斑点の出るもの。
② ニワトリの頚の白斑毛。
③ 〔魚〕アマギ科。扇円な白い魚。(※斑点の列があ
ることから)。
(①~③※ビンロウの白い花を連想させることから)。
・lGuk-maak [ビンロウの果実-ビンロウジ]
① 〔動〕牡犬の陰茎の基部にある硬い臆。
(参 〔機〕ボールジョイント。自動車部品の一つ。
(GXg)※ビンロウジ状をしていることから)。
・maak [ビンロウジ] ① (将棋,碁,すごろくなどの)駒。石。(洋形状から)。
・maak一也r的 [西洋のビンロウジ]① チューインガム。
(※口に入れて噛むことから)。
・mAak-h5〇m [香りビンロウジ] ① 口中芳香剤。薄い板チョコ状の物。
(※口に入れて噛むことから)。
・maak-S血k [熟したビンロウジ]① 〔色〕S首i[色]-,樫色。(※熟した果皮の色から)。
2.6 makh琵am (タマリンド)
エチオピア,中央アフリカ原産のマメ科の常緑高木で,インドのみならず,熱帯に広く分布
する。花は淡黄色で赤い線が入っており,果実 (図3参照)は裂開せず長さ10-20cmくらい
で,中に3-10個の種子を有する。
"makh孟am (タマT)ンド)"は,(花 ・英)がつぎのように拡張される。
・d5っk-makh左am [タマリンドの花]① 稲の一種O(タマリンドの花
の色に似ていることから)。
・蝕 -makh孟am [タマリンドの英]① mij[木]-,人の頭を叩く梶棒。
(※タマリンドの英のように少し曲
がった平たい形をしていることから)0
図3
2.7 sabaa(モダマ)
熱帯の海岸に広く分布するマメ科の常緑の蔓性植物。種子は平たい円形をしている。
"sabÅa(モダマ)"は,(種子)がつぎのように拡張される。
・lGu'k3Lsabaa[類別訃 モダマ] ① 〔人〕膝蓋骨。(※形状から)0
2.8 1amllt(サワノキ)
-
16 天 理 大 学 学 報
東洋熱帯原産のアカテツ科の植物。
"lamdt(サワノキ)"は く種子)がつぎのように拡張されるO
・mat-1an dt[サワノキの種子] ① 〔人〕〈俗》陰核。(※形状から)。
2.9 majom (アメダマノキ)
インド,マレーシア原産の トウダイグサ科の小果樹。果実が飴玉を思わせる小さな渠果であ
ることから,この和名がある。
"majom (アメダマノキ)"は,(種子)がつぎのように拡張される。
・met-majom [アメダマノキの種子]① (腕暗計の)竜頭。(※形状から)。
2.10 Sとet(ベニノキ)
雲南原産の家具用材で,種衣にビキシノ (カロチノイド)を含みチョコレー トやマーガリン
の着色や橿色の染料 として用いられる。
"S主et(ベニノキ)"は,明示されていないが,(種子)がつぎのように拡張される。
・Sとet(ベニノキ) ① 〔色〕sTi[色]-,樺色。(弊種子の色から)。
2.ll sawaat(ナンテンカズラ)
熱帯アジアの海岸に分布するマメ科の蔓性植物。種子は丸 く表皮は緑がかった灰色。
"sawaat(ナンテンカズラ)"は,明示されていないが く種子)がつ ぎのように転用され
る。
・sawaat [ナンテンカズラ] ① 〔色〕sTil色]-,青みがかった灰色。(※種子の色
か ら)。この色 を した シ ャム猫 を "meew-sTi-
sawaat"という。
2.12 phoo(菩提樹)
クワ科のインド菩提樹。釈迦がこの樹の下で菩提を待て仏陀になったので 「菩提樹」と称さ
れ仏教の聖木となっている。葉はハー ト形で光沢がある。
"phoo(菩提樹)"は く葉)がつぎのように拡張される。
・baj-1Phoo [菩提樹の菓] ① 〔魚〕plaa[魚]-スダレダイ科。(♯扇平で半円形
の体形が菩提樹の葉に似ていることから)。
・phoo-dam [黒い菩提樹] ① (トランプの)スペー ド。(X・形状から)0
・phoo-deep l赤い菩提樹] ① (トランプの)ハー ト。(※形状から)0
・phoo-thalee [海の菩提樹] ① 〔植〕ヤマアサ。水辺植物。(※葉が菩提樹の葉に
似ていることから)。
2.13 khan己n(パラミツ)
インドシナ半島原産のクワ科の常緑高木。葉は互生で長楕円形。果実は非常に大型で30-50
皿あり,重さは10-18kgある。
"khanan (パラミツ)''は く葉)がつぎのように拡張される。
・baj-khan血 [パラミツの葉] ① 〔魚〕plaa[魚]-,ヒラメ科。(弊パラミツの葉状
の体形をしていることから)0
2.14 taan(ウチワヤシ)
熱帯アフリカ原産で,南アジアの半乾燥地帯で古 くから栽培されている。葉は掌状の扇形で
別名 「オオギヤシ」 ともいう。
"taan(ウチワヤシ)"は く葉)がつぎのように拡張される。
・baj-taan [ウチワヤシの葉] ① 〔魚〕pla且 [魚ト,キヤシンググラミー科。(※乎
-
タイ語における植物部位名の比倫的用法
・taan [ウチワヤシ]
17
たい体形をしていることから)。
① 〔貝〕h53j[貝]-,ハルカゼヤシガイ。(※貝がらがウチワヤシの葉に似ていることから)。
2.15 sbok(ムユウジュ 無憂樹)
インド南部に生えるマメ科の常緑樹。仏陀がこの樹の下で誕生したというので,仏教の聖木
となっている。
"sbok(ムユウジュ)"は,明示されていないが,く葉)がつぎのように拡張される。
・sbok [ムユウジュ] ① 〔色〕sTi[色]-,黄緑色O(※ムユウジュの若葉の色
から)0
2.16 1aan(タラパヤシ)
熱帯 ・亜熱帯に分布するヤシ科の一種。ヒンズー教の聖木で,葉はクリーム色で,火にあぶ
って一定の大きさに切 りそろえ,片面に鉄筆で文字を刻み,主として経文の記録に用いられ
る。この伝統的書物の形態をタイ語では 「バイラーン (タラパヤシの葉)」と称している。
"laan(タラパヤシ)"は,明示されていないが,(莱)がつぎのように拡張される。
・1aan [タラパヤシ] ① 〔色〕sTi[色]-,タラパヤシの葉 (baj-1aan)のよ
うなクリーム色。(光色彩から)。
2.17 Cうっk(ボタンウキクサ)
熱帯に広く分布する浮き草。扇形の葉が密集し,ボタンの花状に見えることからこの和名が
ある。実際は く葉)の部分であるが,花状に見えることから,タイ語でも (花)を意味する
"dうっk"で表されているため,(花)の所に分類する。
"Cうっk(ボタンウキクサ)"は く花状に見える葉)がつぎのように拡張される。
・dうっk-Cうっk[ボタンウキクサの花]
① 〔動〕牛や水牛など反袈動物の胃袋。食用。
(※裏返すとボタンウキクサのような形状をしている
ことから)。
① sawaan [錐ト,錐の一種。(X・先端が開花状になっ
ていることから)0
2.18 can (カキノキ)
熱帯を中心に分布する常緑または落葉の樹木で,小さな白い花が咲く。
can (カキノキ)"は く花)がつぎのように拡張される。
・dうっk-can [カキノキの花] ① コブラの頭にある*状の模様。
② 〔記〕"*"。アステリスク。
(妹(王Xi)形状から)。
2.19 campaa(キンコウボク 黄玉蘭)
インド,マレーシア地方原産のモクレン科の常緑高木で熱帯に広く分布する。花は,ラッパ
状で,黄色または黄褐色をしており,女性の髪飾 りに用いられる。漠名を 「黄玉蘭」という。
"campaa(キンコウボク)"は,明示されていないが,(花)がつぎのように拡張される。
・m軒 campaa[キンコウボクの竹]① 先の割れた竹竿。果実をちぎり取るのに用いる。
(※先端を4,5本に裂いた形がキンコウボクの花弁
の形に似ていることから)。
・campaa [キンコウボク] ① 雄凧の一部。(※キンコウボクの花弁状をしている
-
18 天 理 大 学 学 報
ことから)0
2.20 thaan-tawan(ヒマワリ)
北アメリカ原産のキク科の一年草。
"血aan-tawan(ヒマワリ)"は,明示されていないが,(花)がつぎのように拡張される。
・thaan-tawan [ヒマワリ] ① 長柄の日傘。王族用で圃扇形。(※傘の形がヒマワ
リの花の形に似ていることから)0
2.21 1ampho叩 (チョウセンアサガオ)
和名は 「チョウセンアサガオ」であるが,原産地は朝鮮ではなく,熱帯アジア。花は白く,
ラッパ状をしている。
"lamphoog"は,(花)がつぎのように拡張される。
・dうっk-1amphoog[チョウセンアサガオの花]
① メガフォン。(※チョウセンアサガオの花のように
ラッパ状をしていることから)0
2.22 mataat(ビワモ ドキ)
熱帯に分布する常緑高木。葉がビワに似ていることから,この和名がある。花は大きく白
い。
"mataat(ビワモ ドキ)"は,(花)がつぎのように拡張される。
・dうっk-mataat[ビワモ ドキの花] ① 花火の一種。竹筒に火薬を詰めたもので,点火す
るといろいろな色が出る。(※花火が,大きく白い
ビワモ ドキの花を連想させることから)。
2.23 cik(サガリバナ)
熱帯を中心に分布する常緑小高木。花は両性で総状花序に多くつく0
"cik(サガリバナ)"は,(花)がつぎのように拡張される。
・dうっk-cik[サガリバナの花] ① (トランプの)クラブ。(♯形状から)0
2.24 nAmtaw (ヒョウタン)
熱帯原産のウリ科の蔓性一年草。果実にはくびれがあり,熟すと果皮が硬化する。
"namtaw (ヒョウタン)"は,明示されていないが,く果実)がつぎのように拡張されるO
・namtaw ① 〔動〕象の鼻の付け根の部分。(※ヒョウタン状に
ふくれていることから)0
・namtaw-lom [風ヒョウタン] ① 〔植〕ウツボカズラ科。食虫植物。(※葉先がつぼ
状の袋になっていて,ヒョウタンを連想させること
から)0
・fik-th〇〇g-namtaw [ヒョウタンカボチャ]
(∋ 〔植〕カボチャの一種。(※ヒョウタン形をしてい
ることから)。
2.25 bhap(ヘチマ)
熱帯アジア原産のウリ科の蔓性一年草。果実は円筒形で,熟すと果肉の中に網状の繊維がで
き,たわしや靴の底敦などに用いられる。
"b血ap(ヘチマ)"は く果実)がつぎのように拡張されるO
・lGuk-b血aplヘチマの実] ① phee[筏]-,筏の一種。竹を何本もまとめて縛 り円
筒状にしたもの。比重の大きい材木を流すとき,浮力
-
タイ語における植物部位名の比倫的用法 19
を付けるために用いるO(※竹を束ねた形がヘチマの
実に似ていることから)。
② 1弛khaa[屋根]-,中国式の波打って瓦を葺いた屋根。(※波形の屋根がヘチマの実に似ていることか
ら)。
③ 〔衣〕僧が黄衣をまとうとき末端を巻いて棒状にした
部分。(※棒状に巻かれた部分がヘチマの実に似てい
ることから)0
2.26 maftnag(ゴレンシ)
熱帯に広く分布するカタバミ科の果樹。果実 (図4参照)は楕円形で縦
に鋭い5つの稜があり,横に切れば断面が星形になることから,英語では
"starfruit"ともよばれている。「ゴレンシ (五敏子)」は古くから中国
の書物に記載されており,きわめて古い時代から知られていたと推測
されている。(14)
"maftHag"の果樹名は "fulag"で,"(ma)f血ag"は,(果実)
がつぎのように拡張される。 図4
・taw-比lag [ゴレンシ亀] ① 〔動〕オサガメ。(※背中に,ゴレンシの稜のような
数条の凸線が走っていることから)。
・fuag [ゴレンシ] ① 〔機〕(歯車の)歯。歯車Qギア。(※形状から)0
2.27 kracap(菱)
湖沼に群生するヒシ科の一年草。茎の先端に菱形の葉を放射状に付ける。果実は水中で肥大
し木化し骨質菱形の核某をつくる。 (l与)"kracap(菱)"は,明示されていないが,(果実)がつぎのように拡張される。・kracap ① 鉄菱。鉄条網。
② ボクサーが金的を守るために使用する金属製防具。
・kracap-bbk [陸菱]
③ 納棺するとき遺体のあごを支える菱の美形のもの。
④ 馬の足首にはめるサポーター。藤または竹製で跳躍
訓練時に用いる。
(※①~④形状から)。
① 〔植〕蔓性植物の一種。(※実が平たく三角形で菱の
実に似ていることから)。
2.28 sat(コロハ)
地中海地方原産のマメ科の一年草。花は白く,果実は細長い鎌状に曲がっている。
"sat(コロハ)"は,(果実)がつぎのように拡張される。Hい
・lGuk-sat[コロハの実] ① マラカス。ラテン音楽に用いる楽器。
(※コロハの果実の形状に似ていることから)0
2.29 n53j-naa(バンレイシ)
熱帯アメリカの原産で,台湾以南の熱帯地方に分布する。果実 (図5
参照)はほぼ球形で,野球のボール大。表面が多くの区画に分かれ,
網目状になり,網目の一つひとつが丸くいぼ状に隆起している。
"n53j-naa(バンレイシ)"は,明示されていないが,(果実)がつぎ 図5
-
20
のように拡張される。
・n53j-naa[バンレイシ]
2.30 phluu(キンマ)
天 理 大 学 学 報
① ≪俗》手相弾。(※形状から)。
熱帯アジアの原産のコショウ科の蔓性植物。雌花序は7皿 くらいだが,雄花序は長 く垂れ
る。東南アジアでは古来,この葉でビンロウジを包み,時好品として噛む習慣がある。
"puuu(キンマ)"は,(果実)がつぎのように拡張される。
IlGukl血luu[キンマの実] ① 象の背から連ねて垂らす装飾品O(繋キンマの長 く垂
れた雄花序に似ていることから)。
2.31 thapthim (ザクロ)
イランを中心に分布するザクロ科の落葉小高木。果実は球形で黄赤色。熟すと外果皮が割れ
種子が現れる。
"thapthim (ザクロ)''は,明示されていないが,(果実)がつぎのように拡張される。
・thapthim [ザクロ] ① phl叫 [宝石]-,ルビーO
② 〔色〕S了i[色]-,ザクロ色。ルビー色。((王Xむ※果皮の色から)。
2.32 S6m (ミカン)
熱帯から温帯にかけて分布するミカン科の植物O
"Sam (ミカン)"は,明示されていないが,(果実)がつぎのように拡張される。
・86m [ミカン] ① 〔色〕sii[色]-[ミカン色],オレンジ色。
(※果皮の色から)。
2.33 can(センダン)
おもに熱帯に分布するセンダン科の落葉高木。果実は楕円形で黄熟する。
"can (センダン)"は,明示されていないが,(果実)がつぎのように拡張される。
・can[センダン] ① 〔色〕siil色]-,黄色。(※果皮の色から)。
2.34 kran (小型種のバナナ)
"kran"は小型種のバナナで,明示されていないが,(果実)がつぎのように拡張されるO
・kran [小型種のバナナ] ① 《修》小さいOちっぽけな。(※小さいことから)。
2.35 taaj(パンダナス)
熱帯に分布するタコノキ科の植物。葉は線状で長 く,らせん状に配列する。葉縁と裏面の中
肋には棟または歯がある。
"taaj(パンダナス)"は,(蘇)がつぎのように拡張される。
・n孟am-taaj[パンダナスの棟] ① クメール文字の上端に付けるギザギザの飾り。
② 〔動〕ワニの背中の中央のギザギザ。
③ 指輪に宝石を固定するための金属製のとげ状のつめ。
(※①~③形状から)。
2.36 khee(マメ)
マメ科植物のうち種子を食用とするものの総称。
"khee(マメ)"は,(莱)がつぎのように拡張される。
・fak-khee (1)[マメの英] ① 花火の導火線O(※細長 く平たい形がマメの英に似て
いることから)a
② 縫い目の一種。(※形がマメの英に似ていることか
-
タイ語における植物部位名の比倫的用法 21
ら)。
2.37 pとep(フジマメ)
熱帯アジア原産のマメ科の蔓性植物。英は扇平で長楕円形をしている。
"pとep(フジマメ)"は,明示されていないが,(莱)がつぎのように拡張される。
・pとCp[フジマメ] ① 〔魚〕plaa[魚]-,淡水魚。コイ科。
(※幅が広 く扇平で,フジマメの英に似ていることか
ら)0
(参 ≪修≫平たい。(※形状から)。
2.38 pheekaa(ソリザヤノキ)
ノウゼンカズラ科の植物。英は平たく30-37皿と長い。
"pheekaa(ソリザヤノキ)"は,(莱)がつぎのように拡張される。
Ifak-pheekaa[ソリザヤノキの英]
① 〔建〕仏塔の尖頂に付けてある数本の刀状の鉄製の装
飾。(※一本一本がノウゼンカズラの英のような形を
していることから)0
2.39 mamm (ワサビノキ)
インド原産のワサビノキ科の植物。英は太 く長さ約30cm。
mamm (ワサビノキ)"は,(莱)がつぎのように拡張される。
Irak-marum [ワサビノキの英] ① 〔ヘビ〕guu [ヘビ]-,ウミヘビ科.
(※体形がワサビノキの英に似ていることから)。
2.40 Sさemaa(ウチワサボテン)
熱帯の海岸から寒帯のカナダにかけて分布する茎節がうちわ状のサボテンO
"Sさemaa(ウチワサボテン)"は,(茎)がつぎのように拡張される。
・Sさemaa[ウチワサボテン] ① 寺院の境界を示す葉状の石標.
② 〔建〕城壁の上の逆ハー ト形の銃眼付きの胸壁。
③ ハー ト形のペンダント。
(※①~③形状から)0
2.41 khaaw (イネ)
インド・東南アジア原産のイネ科の一年草。
"khaaw (イネ)"は,(籾がら)がつぎのように拡張される.
・kleep [籾がら] ① 〔昆〕maleeg[虫]-,ゴキブリ科。(※体形が籾がら
に似ていることから)。
② ≪修》小さい。小型の。(※小さいことから)0
maa[馬]-,小型の馬。
wIL孟an [寺院]-,小さな寺院。
kracip[ウグイス]-,タイヨウドリ科O小さな鳴禽。
3 部位別にみた植物部位名と類似性
縦軸に部位名,横軸に類似性をとり,植物一般と個別植物を対照させるような形で,つぎの
ような表を作成した。個別植物の場合には参考のため,個別植物名を類似性の右側に挙げてお
いた。一般部位名の "類似性"は,"形状"以外は,"位置","機能"などのタイプに分類する
-
22 天 理 大 学 学 報
ことがむずかしく,類似性をそのまま記述 した。
個別の植物は,(ビンロウ)(タマリンド)を除いて,拡張部位が 1箇所のものである。ビン
ロウの (花 ・果実),タマリンドの (花 ・英)はそれぞれの部位の所に分配 し,拡張部位の多
い植物からは,竹の (芽 ・葉),バナナの (葉 ・菅 ・果実),ハスの (菓 ・膏 ・花)を組み込ん
だ。
一般部位名の (枝)(蔓)に関しては,それぞれ1つの項目にまとめた。また,特殊な (ウ
チワサボテン)と く籾がら)は表からは除外する。なお,表では原語は省略する。
植物一般
類似性
梶 下部で支えるもの引き起こすもと
芽 出てくるもの
幹 大もと
枝 分かれたもの
莱 形状 (薄く平たい)
残っているもの
柄 形状 (棒状)
個別植物
類似性
形 状 モダマサワノキ
アメダマノキ
色 彩 ベニノキナンテンカズラ
形 状 竹
ノヽス
菩提樹
パラミツ
ウチワヤシ
色 彩 ムユウジユ
形 状 バナナ
-
タイ語における植物部位名の比倫的用法 23
形状 (花状)
美しいもの
花 弁 形状 (花弁状)
」 」
価 値 バナナ
形 状
ヒョウタン
ヘチマ
ゴレンシ
菱
コロノヽ
バンレイシ
キンマ
機 能
ザクロ
ミカン
センダン
-
24 天 理 大 学 学 報
蔓 同一の大もとから
伸び広がるもの
形 状 パンダナス
形 状 タマリンド
マメ
フジマメ
ソリザヤノキ
個別植物の拡張部位の多い植物の く部位名 )と "類似性のタイプ'を表にするとつ ぎの よう
になる。
部 位 名 芽 ∧「′十月口 重 節 節付筒 莱
【ココヤシ】
-
タイ語における植物部位名の比喉的用法 25
一般部位名では,(香),(果実)の部位名は比喰的拡張を起こしておらず,(柄の端),(柄)
のような細かい部位名が拡張を起こしている。
日本語では 「ツボミ (香)」は 《人間≫に転用され,(前途有望だが,まだ一人前でない若
者)のような意味に拡張され,「ミ (実)」は,果樹では 《過程の最後の到達段階》のように考えられ,「ミヲムスブ (実を結ぶ)」「ミノアルハナシ (実のある話)」のように (内容 ・実質)という意味に拡張される。
(種子)は,タイ語では 《粒状≫という "形状"的特徴によって拡張されているが,日本語
では 「タネ (鍾)」が "形状的"に捉えられることはなく,《芽を出し,花を咲かせ,実を結ぶ
ための栄養源》ということから,「ハナシノタネ (話の種)」「タネアカシ (種明かし)」「タネギレ (種切れ)」「タネホン (種本)」「タネビ (種火)」などの例にみられるように 《何かのもと》として捉えられている。
(樵)は,タイ語では 《下部で支えるもの》《引き起こすもと》と捉えられている。日本語
でも,前者の意味では 「ハノネ (歯の根)」,後者の意味では 「アクノネ (悪の根)」「モンダイノネ (問題の根)」などの例があり,よく似た捉え方だといえる。
(芽)は,タイ語では 《出てくるもの≫として捉えられているのに対して,日本語では 「ハ
ンザイノメ (犯罪の芽)」にみられるように,《成長して大きくなるはずのもの》という意味で
捉えられている。
(幹)は,タイ語では ≪(枝葉を出す)大もと》として捉えられている。日本語では (幹)
は (枝)に対する概念で,「カンセン (幹線)」「カンプ (幹部)」「ショウマッセツ (枝葉末節)」にみられるように,(幹 :枝)- (主要部 :末端部)という捉え方から (主要な)という
意味で用いられるが (大もと。はじめ)という意味では用いられない。
(枝類)は大′」、を問わず 《大もとである同一の幹から分かれたもの≫として捉えられてい
る。その点では,英語の "branch"と同じ発想である。日本語では,「ユダ (枝)」は 「ユダゲ (枝毛)」「ユダミチ (枝道)」のように,≪枝状に分かれているもの》という意味で用いられる場合もあるが,むしろ 「ユダハ (枝葉)」「ショウマッセツ (枝葉末節)」などにみられるように,(枝)は く幹)に対 して,《重要でない部分》として捉えられている印象が強い。
(莱)は,タイ語では 《薄く平たいもの》という "形状"的特徴に注目され,(顔形)(耳た
ぶ)などの 《人体部位》,(負)(寄生虫)などの 《生物》,(スクリュー)(プロペラ)などの
《器物》,(文書類)と幅広 く用いられている。日本語では,「単葉 ・複葉」などの飛行機の翼,「ゼントウヨウ (前頭葉)」「ハイヨウ (肺葉)」など (脂)や (肺)の一部などに用いられ,"形状"的に拡張されている例があるが,いずれも専門的で,一般的とはいえない。ま
た,音読みで中国語も同じ語 ("fTeiyも(肺叶)""6y占(額叶)"など)を用いて表現することか
ら,中国語から借用された可能性が強い。英語では"leaf((本の)1枚)""leanet","loose-
1ear'など 《薄いもの》を表すのに用いられており,タイ語とよく似た拡張の仕方である。
(花)は,タイ語では "形状"以外に,《茎や枝から出てくるもの≫として捉えられてお
り,とくに,元金という母体から出てくる (利子)の意味に拡張されているのは独特の発想で
おもしろい。また,(花)が 《美しいもの》として,(女性)にたとえられるのは,おそらく万
国共通の "普遍的な"現象であろう。日本語では 《花状》のものとしては 「ナミノハナ (波の
花)」「ハナガツオ (花鰹)」「ハナモジ (花文字)」などの例があり,《女性》を表すものとしては,「タカネノハナ (高嶺の花)」「リョウテ二ハナ (両手に花)」「ショクバノハナ (職場の花) ・シャコウカイノハナ (社交界の花)」などの例がある。英語の "flower"の く精華。盛
-
26 天 理 大 学 学 報
り)という意味は,タイ語にはなJl,"O
(花弁)は,"形状"に注目され,《花弁状のもの》に用いられている。日本語の 「カベン
(花弁)」も英語の "petal"ち,日常語レベルでは拡張は起こさない。
(地下茎)や (蔓)が,≪人間》に転用され,それぞれ,(先祖)(血族 ・一族)の意味に拡
張されている。日本語では,「ツル (蔓)」は 「イモゾルシキニ (芋蔓式に)」「カネヅル (金蔓)」「テヅル (手蔓)」のように ≪何かに通じる筋道》のような意味に用いられ,《人間》に転用されることはない。
(頼)は,タイ語では "形状"に注目されて (とげ状のもの)に拡張されている。日本語で
は,「トゲ (棟)」は く(竹や木の細片など)とげ状のもの)以外に,「トゲノアルコトバ (とげのあることば)」「トゲ トゲシイ (フンイキ)(とげとげしい (雰囲気))」など 《人の心を刺すような感情を害するもの》という抽象的な意味でも用いられる。
く英)は,タイ語では ≪包むもの》という "機能"に注目されている。日本語でも 「カタナ
ノサヤ (刀の鞘)」のように用いられ,同 じような拡張の仕方である。≪器物》の場合にはllll「鞘」と漢字で書き分けられているが,同源のことばである。個別部位名では,一般部位名として拡張を起こしている (根)く幹)(枝)く柄の端)(柄)
く花弁)(地下茎)(隻)が,拡張を起こしていない。これらの部位は,個別の植物で特殊な形
をしたものがないからであろう。
逆に,一般部位名として拡張を起こしていない (膏)(果実)は拡張を起こしている。く菅)
は くバナナ)と くハス)が "形状"によって拡張を起こしてお り,く果実)は くバナナ)が
"価値 ・形状",(ビンロウ ・ヒョウタン・ヘチマ ・ゴレンシ ・菱 ・コロハ ・バンレイシ ・キン
マ)が "形状",(ザクロ ・ミカン・センダン)が "色彩",(小型種のバナナ)が "大きさ"に
よって,それぞれ拡張を起こしている。
類似性に関しては,(種子)(莱)は,一般部位名の "形状"に対して,個別部位名の "形状
・色彩"のように,個別部位名では "形状"以外に "色彩"が類似性として働いていることが
わかる。また,一般部位名の (莱)は ≪包む》という "機能"に注目されているが,個別部位
名では "形状"的特徴に注目されている。
個別の植物のなかでも,生活のなかで関わりの探い く竹)(バナナ)(ハス)(ココヤシ)
は,拡張部位が多いことがわかる。そのなかでも (バナナ)が (ありふれた。やすっぱい)と
いう意味に拡張されているのと,(ココナッツクリーム)が (精髄。精華)という意味に拡張
されているのは "価値"が対照的でおもしろい。所変われば価値も変わるもので,筆者が幼少
のころ,(バナナ)は "高級感"のある果物であった。
4 分野別にみた個別植物部位名
植物部位名が,どのような分野のものに拡張されるのかという一般的な興味から分野として
は便宜上 ≪人間》≪自然》≪植物》≪動物》≪器物》≪記号 ・描写》≪その他》の項目をたてて分類
してみた。
-
タイ語における植物部位名の比倫的用法
4.1 人間に関するもの
一一般部位名-
〔人体部位〕
・baj-naa [顔葉]
・raak-ph6m [毛の根]
・kliip-taa [目の花弁]
・baj-h正u [耳の葉]
・ra且k-fan [歯の根]
・d53k-maaj [花]
・tan-kh〇〇 [頚の根もと]
・kaan-kh〇〇 [頚の柄]
・tらn-kh孟en l腕の根もと]
・tan-kh孟a [脚の根もと]
・m6いりanthA? [皐丸の粒]
・m6七一loohit [血液の粒]
〔病名など〕
・dうつk-16p [爪の花]
・dうつk [花]
・nうつ [芽]
〔人間〕
・dうつk-maaj [花]
・t6n [幹]
〔血族〕
・th5W [蔓 1]
・khrua [蔓2]
・khrtua-jaat [親族の蔓2]
・gaw [地下茎]
・tan-trakuun [氏族の源]
・n〇〇 [芽]
-個別部位名-
〔人体部位〕
・kalaa
・ka-1fIok
・krab5〇k-h正a
IkrabうつkTtaa
・b5〇trhもu
・krab53k-sTa!)
・bua-tuum
・bua-naa!)
・kh5〇一multu
・khS〇-thaaw
[ココヤシの殻1]
[ココヤシの殻2]
[頭の筒]
[目の簡]
[耳の筒]
[音筒]
[ハスの膏]
[女性のハス]
[手の節]
[足の節]
(顔形)
く毛根)
(まぶた)
(耳たぶ)
(歯根)
(幼児の最初に出る歯)
(頚の根もと)
く首筋。うなじ。襟首)
(腕の付け根)
(脚の付け根)
(章丸)
(血球)
(爪の表面に現れる白点)
(性病によって生 じる皮膚のぶつぶつ)
(足の裏に生じる腫れものの一種)
(女性)
(長)
(血族)
(一族)
(親族。血族。氏族)
(先祖)
(先祖。始祖)
(後商。末商)
(頭蓋骨。頭)
(頭蓋骨。どくろ)
(頭蓋骨)
(眼商)
(耳の孔)
(喉頭)
(若い娘の乳房)
(乳房)
(手首)
(足首)
27
-
28 天 理 大 学 学 報
・khうっ-Sうっk [肘の節] く肘関節)
・lBuk-Sabaa [類別詞 ・モダマ] (膝蓋骨)
・m6tllamdt [サワノキの種子] く陰核 )
・plii-nSg [バナナの菅状のふ くらばぎ](ふ くらはぎ)
・klaam [ココヤシの乾燥 した果肉]く筋肉)
〔病名など〕
・fak-bua [ハスの英] く癖。庁。蕩)
・kltilan-dうっk-maak [ビンロウの花皮膚病]く細菌性の皮膚の色素異常)
〔形容〕
・ph6m-kalaa(-khr5っp)[(伏せた)ココヤシ殻髪型]
(髪型の一種 )
・khっっTP15g [重節頚] く縞頚)
4.2 自然に関するもの
一一般部位名-
・mat-ron [雨粒] く雨滴)
・kliipln6ek [雲の花弁] く雲片 )
・tan-naam [水の源] く上流.源流 )
・kliip-hTn [石の花弁] く雲母)
・khaal16ok [地球の極] く極地)
一個別部位名-
〔星宿〕
・dうっk-bua [ハスの花] く28宿の第8)4.3 植物に関するもの
一一般部位名一
・m6t [粒] く小粒の果実)
・mat-khaaw l米の種] く米粒 )
・raak-kig [枝根] く支根)
・kliip-11'ag [養う花弁] くが く)
-個別部位名一
・kalbok [ココヤシの殻] く特大の果実)
・t6n-bua-bbk [陸蓮樹] (セリ科Oツポクサ)
・tan-bua-saw孟n[天蓮樹] (サガリバナ科)
・tan-krabうっk
・nうっ-maajiar的
・n〇〇一maaJ-naam
・d5っklnakh孟am
・kracapl)bk
・namtaw-1om
[筒樹]
[西洋のタケノコ]
[水のタケノコ]
[タマ リンドの花]
[陸菱]
[風 ヒョウタン]
くキバナノキョウチクトウ)
くアスパラガス)
くマコモ)
く稲の一種)
く蔓性植物の一種)
くウツボカズラ科)
・fak-thっっ町namtaw [ヒョウタンカボチャ]
(カボチャの一種)
・phoo-thalee [海の菩提樹] くヤマアサ。水辺植物)
-
タイ語における植物部位名の比喉的用法
4.4 動物に関するもの
-一般部位名-
〔魚貝など〕
・plaa-baj-maaJ [樹葉魚]・dうっklnaajlhalee[海の花]
・h53j-n孟am [とげ貝]〔寄生虫〕
・phajaat-baJ'-maaj[樹葉寄生虫]
一個別部位名-
〔動物部位 〕
・dうっk-can
・d5っk-maak
・n孟am-taaj・lauk-maak
〔昆虫〕
・malccD-klEcp
〔魚貝など〕
・pla且-krabうっk・plaa-bajl)haj・plaa-klaaj・plaa-1auk-klaaj・dうっk一maak
・plaa-baj-taan
Iplaa-baj-phoo
Aplaa-baj-khanan
Iplaa-peep
・h53jlaan
・plaa-mtilk-klaaj
・guu一指k.marum
[カキノキの花]
[ビンロウの花]
[パンダナスのとげ]
[ビンロウの果実]
[籾がら虫]
[筒魚][竹の葉魚][バナナ魚][バナナの果実魚][ビンロウの花][ウチワヤシの葉][菩提樹の葉魚][パラミツの葉魚][フジマメ魚][ウチワヤシ月][バナナイカ][ワサビノキの英ヘビ]
くグラミー科)
(イソギンチャク)
(アクキガイ科)
(肝臓ジス トマの一種)
(コブラの頭にある*状の模様)
くニワトリの頚の白斑毛)
(ワニの背中の中央のギザギザ)
(牡犬の陰茎の基部の硬い健)
(ゴキブリ科)
(ボラ科)
(イワシ科)
(カタクチイワシ科)
(ニシン目)
(アマギ科)
(キヤシンググラミー科)
(スダレダイ科)
(ヒラメ科)
(淡水魚。コイ科)
(ハルカゼヤシガイ )
(スルメイカ)
くウミヘビ科)
〔ヘ ビ〕
・guu-kaanlnaph rdaw[ココヤシの葉の中肋ヘビ](ヘビの一種)・guul)15g-chanぬn [絶縁体の重節] (銀色の環のあるヘビ)
・guu-p15打-th〇〇g [金の重節] (金色の環のあるヘビ)
〔亀〕
・taw-fulag [ゴレンシ亀] (オサガメ)
〔鳥〕
・kracip-klとCp [籾ウグイス] くタイヨウド.)秤)
・ndkl)lii-klGaj [バナナの青み鳥] くタイヨウチョウ科)
〔四足獣〕
・namtaw [ヒョウタン] く象の鼻の付け根の部分)
・dうっk-Cうっk [ボタンウキクサの花]く牛や水牛など反袈動物の胃袋)
29
-
30 天 理 大 学 学 報
・maa-klとep [籾がら馬]
4.5 器物に関するもの
一一般部位名-
〔道具 ・機械類〕
・kaan-maj-khiit[マッチの柄]
・kaan-tabaj [やすりの柄]
・kaan111'n [弁の柄]
・kaanllGuk-Sもup[ピス トン柄]
・baj-miit
・kliipl)hat-1om
・khaa-kracbk
〔建物〕
・baj-daan
・raak-talk
〔船など〕
・rtua-baj
・baj-rua
・baj-cak
・bajl)hat
・baj-phaaj
〔電気など〕
・kha且-S孟aj
・khaa-fajfaa
・khaa-b心ak
・khaa-16p
・khaa-mge-1色k
〔文書〕
・baj
・kh也a
〔その他〕
・Jaa-met
・laat-n孟am
・Yak-daap
・met
・thつつ!「baj
・dうっk-maaj-faj
一個別部位名-
[刃物の葉]
[扇風機の花弁]
[ガラスの極]
[かんぬきの葉]
[建物の根]
[乗船]
[船の葉]
[機械の葉]
[扇の葉]
[漕ぐ葉]
[線の極]
[電気の極]
[プラスの極]
[マイナスの極]
[磁石の極]
[葉]
[柄の端]
[粒の薬]
[とげの針金]
[刀剣の鞘]
[粒]
[葉の金]
[火の花]
(小型の馬)
(マッチの軸)
(やすりの柄)
(弁棒)
(ピス トン棒)
((刃物の)刀)
(扇風機の羽)
(レンズの表面の中心点)
(かんぬきの付いた扉や窓)
(建物の基礎。土台)
(帆船)
(船の帆)
(船のスクリュー。プロペラ)
(プロペラ。スクリュー。風車の羽。扇風機の羽)
(権の水に当たる平たい部分)
(端子)
(電極)
(陽極)
(陰極)
(磁極)
(~状°~書。-証)
((領収書,小切手などの)控え)
(錠剤)
(有刺鉄線)
(刀剣の鞘)
(駒の一種)
(打ち延ばした金片)
(花火)
〔菓子など〕
・maak-far的 [西洋のビンロウジ] (チューインガム)
Imaak-h5〇m [香りビンロウジ] (口中芳香剤)
〔衣服 ・装身具〕
-
タイ語における植物部位名の比喰的用法
・Sゐa-krabうっk [筒衣] (ラーマ4世時の服)
Im血ak-kalaa(-khr5っp)「(伏せた)ココヤシ殻帽子]
(お椀型の帽子)
・lGuk-bhap [ヘチマの実]
・fak-khcc [マメの英]
iseemaa [ウチワサボテン]
・ph133j-thapthim[ザクロ宝石]
In孟am-taaj [パンダナスのとげ]
〔道具 ・機械類〕
Ikratha?-baj-bua [ハス葉鍋]
・maak
Ikrabうっk-d血at
●Wll
・maj-Yak-makh孟am
●marCampaa
・thaan-tawan
・kracap
・kracap
・kracap
・kracap
●Campaa
・Yak-bua
・lduk-maak
・krab5っk-S了ag
[ビンロウジ]
[双六の筒]
[房]
く黄衣の末端を巻いて棒状にした部分)
(縫い目の一種)
(ハート形のペンダント)
(ルビー)
(指輪の金属製の宝石固定爪)
31
(大型中華鍋)
((将棋,碁,すごろくなどの)駒。石)
(サイコロを入れて投げる木製または革製の筒)
(櫛。機織の茂 (おさ))
[タマリンドの英木](人の頭を叩く梶棒)
[キンコウボクの竹](果実を取る先の割れた竹竿)
[ヒマワリ] く王族用の長柄の日傘)
[菱] (鉄菱。鉄条網)
[菱] (ボクサーの金的金属製防具)
[菱] (納棺するとき遺体のあごを支える菱の美形のも
の)
[菱] (馬の足首にはめるサポーター)
[キンコウボク] (雄凧の一部)
[ハスのさや] (ジョウロ。シャワーヘッドの噴水口)
[ビンロウの果実](ボールジョイント)
[音筒] くスピーカー)
Id5っk-1am phoog [チョウセンアサガオの花]
Ikunccc-krab53k
・krab53k-phlaw
・krabうっk-sBup
・krab5っk-pt皿un
・krab53k-kliaw
Akrabうっk-chiit
・kh5っ-tうっ
・khSっ-wiag
・met-maJOm
・sawaan-dうっk-Cうっk
・fua!〕
〔建物など〕
・p15g-chanaj
・plii-づ5っt
[竹筒鍵]
[軸筒]
[吸引筒]
[銃の筒]
[らせんの筒]
[噴射する筒]
[継ぎ節]
(メガフ ォン)
(ボックス ・レンチ)
(牛車の車軸を通す孔にはめるリング)
(シリンダー)
(銃身)
(内部にらせん状の溝のある銃身)
(水鉄砲 ;注射器)
(継ぎ手。ジョイント)
[振 り投げる継ぎ目](クランク)
[アメダマノキの種子](竜頭)
[ボタンウキクサの花錐](錐の一種)
[ゴレンシ] (歯車。ギア)
[笛重節] (仏塔の尖塔の下の円板を積み重ねたような部分)
[頂上の膏] (仏塔の尖頂部)
-
32
・lagkhaa-1auk-b血ap
・Yak-pheekaa
●Seemaa
・wih孟an-klEep
'Seemaa
〔船など〕
・phee-1auk-b血ap
・kaan-t〇〇g
〔その他〕
・b53g
・h心n-krabうっk
・lu止-sat
・n33Jrnaa
・lGukl)hluu
・dうっk-mataat
・fak-khee
4.6 記号 ・描写
一個別部位名-
〔色彩〕
・sTi-thapthim'一●ノヽ
●Sll~SOm
・Sii-Sとet
・sii-maak-S血k
S̀ll~Can
・87i-S~)ok
・sTi-1aan
・sii-t〇〇g-?5っn
・sii-sawaat
・sri-buaT00J
〔形状〕
'PeeP
・dうっk-can
・phoo-dam
・phoo-deep
・n孟am-taaj
〔大小〕
・kran
・klとep
4.7 その他
一一般部位名一
・ra且k
天 理 大 学 学 報
[ヘチマの実屋根](波形の屋根)
[ソリザヤノキの英](仏塔の尖頂の装飾)
[ウチワサボテン](城壁の上の逆ハー ト形の銃眼付 きの胸壁)
[籾がら寺院] (小さな寺院)
[ウチワサボテン]く寺院の境界を示す石標)
[ヘチマの実筏] (筏の一種)
[バナナの葉の中肋](舷の内側に沿って付けてある葉脈状の副肋)
[節付筒]
[筒人形]
[コロハの実]
[バンレイシ]
[キンマの実]
[ビワモ ドキの花]
[マメの英]
(斧や登などの柄を挿 し込むための筒形の孔)
(操 り人形の一種)
(マラカス)
(手相弾)
(象の背から垂らす装飾品)
(花火の一種)
(花火の導火線)
[ザクロ色]
[ミカン色]
[ベニノキ色]
[熟 したビンロウジ色]
[センダン色]
[ムユウジュ色]
[タラパヤシ色]
[若いバナナの葉色]
[ナンテンカズラ色]
[散 りハス色]
[フジマメ]
[カキノキの花]
[黒い菩提樹]
[赤い菩提樹]
[パンダナスのとげ]
[小型種のバナナ]
[樹がら]
[根]
(ザクロ色。ルビ一色)
(オレンジ色)
(程色)
(程色)
(黄色)
(黄緑色)
くクリ-ム色)
(バナナの若葉色)
(青みがかった灰色)
(桃色がかった紫色)
(平たい)
("*"。アステリスク)
((トランプの)スペー ド)
((トランプの)ハー ト)
(クメール文字の上端に付けるギザギザの飾り)
(小さい。ちっぽけな)
(小さい。小型の)
(根源。原因)
-
タイ語における植物部位名の比倫的用法
・t6n [幹]
・kip-sath孟anii-tamrもat[警察署の枝 1 】
Aki町?amphaa[郡の枝 1]・S益akh孟a [枝2]
・khan己eg [細枝]
・dうっk [花]
一 個別部位名一
・kうっ [節]
くもと;はじめ)
く警察分署)
(分郡)
く支社。支店。支部)
((学問)分野。部門)
く利子。利息)
(項目)
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・dうっk-blla [ハスの花] く良いもの,美しいものの象徴)
・hGa-knthi? [ココナッツクリームの一番搾 り]
(精髄。精華)
・klaaj-klGaj [バナナ ・バナナ] くありふれた。安っぽい。簡単な)
・maak lビンロウジ] (駒を用いるゲーム)
転用される分野の数からいえば,≪器物》- ≪人間》- ≪動物≫- ≪記号・描写》- ≪植物》
- ≪自然》の順であるが,≪器物》が約80例で圧倒的に多く,《自然》は5,6例にすぎない。
《人間》に関しては,一般部位名でも,個別部位名でも (まぶた)(耳たぶ)く眼商)く耳の
礼)など く人体部位)の "細部"への転用が目立つ。また,一般部位名では,(血族)などの
く人間の集団)にも転用されているのも特徴的である。"細部"に関しては,日本語でも 「モ
ウコン (毛根)」「ハノネ (歯の根)」「ユダゲ (枝毛)」などの例がみられる。個別部位名では,くココヤシの殻)が く頭蓋骨)を,く乾燥 したココヤシの果肉)が (筋肉)
を表すのに用いられているのは,いかにも熱帯のタイらしくておもしろい。
≪自然物》に関しては,一般部位名でもわずかで,個別部位では くハスの花)が 〔星宿名〕
として用いられている1例のみで,28宿のほとんどが動物 (部位)名で占められているのと
は,対照的であるが,逆にいえば,動物の (象)のように,植物では,唯一 (ハス)がそれほ
ど "聖なる"花のイメージとして,タイ人の心のなかに刻みこまれているといえるであろう。
≪植物》に関しては,一般部位名では,く枝 1-支根)(花弁-がく)のように,部位名から
部位名への拡張がみられる。
個別部位名で,くハスの花の色)に似ていることから別の種類に転用されるのは,日本語の
場合 (サクラの花)に似ていることから 「サクラソウ」「シバザクラ」と命名されるのと似ている。「マツバボタン」などは,く葉)は く松葉)から,く花)は くボタン)からというように
(莱)も (花)も借物という例 もある。また,花ではない部位が く花)にみえることから,
「ハゲイトウ」「ハボタン」などの例もある。英語では,"pine(松)"の実 (-松 か さ)との類似 か ら命名 された "pineapple"や,
"grape"のように,"房状"に実がつくことから命名された "grapefruit''などの例がある。
≪動物》に関 しては,一般部位名では,例はわずか しかないが,くイソギンチャク)が
く花)にたとえられているのはおもしろい。(バナナ)や (ウチワヤシ)の葉が (魚類)に拡
張されているのは,いかにも熱帯のタイらしい。
≪器物》では,く竹の筒)が くシリンダー)や く銃身)など種々の筒状のものに転用された
り特殊な形をしている く菱の実)が,種々の菱の美形のものに拡張されているのが目立つ。
たとえとして,おもしろいのは くハスの花托)が くシャワーやジョウロの噴水口)に転用さ
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れている例である。日本語では,「キクワレフタ (菊割れふた)」のように,(キクの花)が,(流しの排水口のゴム製の蓋)に転用されている例がある。
《記号 ・描写≫に関しては,個別部位名が色彩名に転用されているのが目立つ。色彩名は,
植物名から転用されることが多い。日本語でも 「カキイロ (柿色)」「モモイロ (桃色)」「ダイ
ダイイロ (樺色)」「フジイロ (藤色)」などの例があるし,英語でも"orange","lemon","01_ive","rose","cherry","lilac"など,多 くの色彩名が,植物名から転用 されている。ま
た,《大小≫に関しては,(小さき)を表すのに,タイ語では (小型種のバナナ)と く籾がら)
が用いられているが,日本語では 「マメジテン (豆事典)」「マメタイフウ (豆台風)」などにみられるように (マメ)が用いられており,たとえられる植物が異なっていておもしろい。
おわりに
タイ語においてはどのような植物部位名が,どのような類似性に基づいて,どのような分野
に転用されているのかを考察した。
冒頭で述べたように,《植物≫の場合は,《動物》ほど多種多様ではなく,部位名が一般化さ
れているので,一般部位名と個別部位名に分けて考察した。
まず,一般部位名では,(種子)(梶)(寡)(幹)(枝 1・枝2・小枝)く葉)(柄の端)く柄)
(花)(花弁)(蔓 1・蔓2)(棟)く英)の部位名が拡張されている。
(香)(果実)の部位名は拡張を起こしておらず,(料)の部位名も,英語�