選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して- ·...

6
- 213 - 選択性 黙の子どもとその対応 かんもく 黙児とのかかわりを通して- ふれあい教育センター教育相談班 研究指導主事 研究の意図 今日、学校は、不登校やいじめをはじめと する数々の解決しなければならない課題を抱 えて苦悩している。しかも、そのような課題 は、できるだけ早期に解決されることが求め られている。 その一方で、あまり目立たない不適応の状 態にある選択性 黙の子どもたちの存在もあ る。彼らは、その存在自体には気づかれなが ら、他への影響力が少ないことから的確な教 育的配慮を受けていない場合がある。 選択性 黙とは、話せる言葉をもっていな がら、場により、相手によって、話したり話 さなかったりするというもので、例えば、家 で家族となら普通に話ができるのに、学校で は一言も口を利かず、それが長期間にわたっ て続くような場合である。話す能力、話を聞 く能力はあるのに、それができないでいるの は、特定の精神障害や知的障害、言語障害な どとは別のカテゴリーに入る問題と考えられ ている。 本研究では、当センターにおいて出会った 二人の 黙児とのかかわり(遊戯療法)をま とめて報告する。そして、その変容の過程を 検討し、得られたことを学校における 黙児 への対応の参考資料として提供したい。 研究の内容 (1) 黙の意味とその特徴 学校という場の特徴は、専ら言語的手段に よってやりとりをする場であり、教師によっ て指示されたことを一人一人の児童生徒が言 語的に受け答えすることを前提として成り 立っている場であるといえる。そのため、口 を利かないという態度は、学校教育における 最も基本的な前提条件が満たされていないと いう意味で、はなはだ困った行動と受け取ら れることとなる。やはり、 黙は一つの不適 応、不健全な状態であるから、可能ならばそ れ自体は改善すべき状態である。しかし、別 の見方をすれば、それが 黙児にとっては、 相対的に安定した、一つの適応形式であるこ とも十分認識しておく必要がある。 口を利かないにもかかわらず、学校には出 ていくというのが 黙児の基本的特徴である つまり、話さず、人とのかかわりを避け、自 分を隠すという 黙児の特徴からすると、当 然のこととして学校という集団生活場面から も逃避するはずである ところが 黙児は けなげにも学校には出ていくのである。彼ら が、非社会的性格傾向をもちながら、集団場 面に身をおき続けるということは、ある意味 では矛盾したことである。その結果、 黙児 は集団の中にあって、徹底して自分を隠そう とする強い衝動に駆られることになる。その 観念は、当人を強迫し、苦しめている観念と いってもよい。しかし、集団の中で自らの存 在を隠すことは難しい。基本的に彼らがとる のは、自分からは決して積極的に行動しない が、拒否や回避もしないという態度である。 なぜなら、積極的な拒否や逃避は逆の意味で 目立つからである。 (2) 黙の程度 「社会的場面での我々の行動には、少なく とも三つの水準があり、それは階層的構造を している その階層構造は 底辺の部分に 選択性 黙の子どもとその対応 黙児とのかかわりを通して-

Upload: others

Post on 14-Aug-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して- · 二人の緘黙児とのかかわり(遊戯療法)をま とめて報告する。そして、その変容の過程を

- 213 -

選択性緘黙の子どもとその対応かんもく

-緘黙児とのかかわりを通して-

ふれあい教育センター教育相談班

研究指導主事 国 広 勝 代

1 研究の意図

今日、学校は、不登校やいじめをはじめと

する数々の解決しなければならない課題を抱

えて苦悩している。しかも、そのような課題

は、できるだけ早期に解決されることが求め

られている。

その一方で、あまり目立たない不適応の状

態にある選択性緘黙の子どもたちの存在もあ

る。彼らは、その存在自体には気づかれなが

ら、他への影響力が少ないことから的確な教

育的配慮を受けていない場合がある。

選択性緘黙とは、話せる言葉をもっていな

がら、場により、相手によって、話したり話

さなかったりするというもので、例えば、家

で家族となら普通に話ができるのに、学校で

は一言も口を利かず、それが長期間にわたっ

て続くような場合である。話す能力、話を聞

く能力はあるのに、それができないでいるの

は、特定の精神障害や知的障害、言語障害な

どとは別のカテゴリーに入る問題と考えられ

ている。

本研究では、当センターにおいて出会った

二人の緘黙児とのかかわり(遊戯療法)をま

とめて報告する。そして、その変容の過程を

検討し、得られたことを学校における緘黙児

への対応の参考資料として提供したい。

2 研究の内容

(1) 緘黙の意味とその特徴

学校という場の特徴は、専ら言語的手段に

よってやりとりをする場であり、教師によっ

て指示されたことを一人一人の児童生徒が言

語的に受け答えすることを前提として成り

立っている場であるといえる。そのため、口

を利かないという態度は、学校教育における

最も基本的な前提条件が満たされていないと

いう意味で、はなはだ困った行動と受け取ら

れることとなる。やはり、緘黙は一つの不適

応、不健全な状態であるから、可能ならばそ

れ自体は改善すべき状態である。しかし、別

の見方をすれば、それが緘黙児にとっては、

相対的に安定した、一つの適応形式であるこ

とも十分認識しておく必要がある。

口を利かないにもかかわらず、学校には出

。ていくというのが緘黙児の基本的特徴である

つまり、話さず、人とのかかわりを避け、自

分を隠すという緘黙児の特徴からすると、当

然のこととして学校という集団生活場面から

。 、 、も逃避するはずである ところが 緘黙児は

けなげにも学校には出ていくのである。彼ら

が、非社会的性格傾向をもちながら、集団場

面に身をおき続けるということは、ある意味

では矛盾したことである。その結果、緘黙児

は集団の中にあって、徹底して自分を隠そう

とする強い衝動に駆られることになる。その

観念は、当人を強迫し、苦しめている観念と

いってもよい。しかし、集団の中で自らの存

在を隠すことは難しい。基本的に彼らがとる

のは、自分からは決して積極的に行動しない

が、拒否や回避もしないという態度である。

なぜなら、積極的な拒否や逃避は逆の意味で

目立つからである。

(2) 緘黙の程度

「社会的場面での我々の行動には、少なく

とも三つの水準があり、それは階層的構造を

している その階層構造は 底辺の部分に 動。 、 『

選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して-

Page 2: 選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して- · 二人の緘黙児とのかかわり(遊戯療法)をま とめて報告する。そして、その変容の過程を

- 214 -

選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して-

作・態度表出』があり、その上が『感情・非

言語表出』で、最上段に『言語表出』という

位置づけで、社会的場面において適応的行動

が成り立つためには、これらが適切に機能し

なければならない 」 という。。 *1

ところが、何らかの緊張が加わって適応的

行動が壊れていく場合、原則としてまず、最

上段の「言語表出」から壊れていき、さらに

緊張が高まってくると、表情・目線・うなず

き等の「感情・非言語表出」が崩れてくる。

そして最後は、最も基礎の部分をなす「動作

・態度表出」の水準が壊れて、動作のぎこち

。なさ・行動の抑止等が生じるといわれている

緘黙についてみると、口を利かないという

状態は、対象児が抱えている困難の一面に過

ぎない。問題が深刻になるにつれて症状は広

がりをもってくる。すなわち、症状が重くな

るにつれて発話・発声などの言語的表出の困

難から、しだいに感情・非言語的表出の困難

さへ、そして動作・運動の困難さへと拡大し

ていく。こうしてみると、行動における三つ

の水準は、そのまま緘黙の程度の問題とみな

すことができる。

(3) 緘黙児とのかかわり

二つの事例は、いずれも遊びを通して適応

改善を図る方法として遊戯療法を選んだ。そ

の中で「受容する、認める 「緊張や不安を軽」

減する 「制限や禁止を少なくして自主的な活」

動を保証する ことからはじめ しだいに 自」 、 「

己主張の方法を知らせる 「規範意識を柔軟に」

する 「対人関係を広げる」ことを目標として」

かかわっていった。

【事例1】 A児(初回面接時 小1)

親子並行面接 筆者が子どもを担当

1年5か月の間 48回の来所

◇ 本センターでのA児の変化が、家庭

における行動の変化や学校場面での緘

黙の改善にもつながっていった事例。

小学校入学後、口は利かないが、2か月間

は、教室に入っていた。教室に入らなくなっ

てしばらくは保健室登校。来所した頃は、教

室の前の廊下で中の様子をうかがいながら生

活をしているとのことで、入ろうとするが入

れないという状態であった。クラスは、男子

児童の多い活発な学級とのこと。廊下は寒い

ので何とか早く今の状態を改善したいという

学校の意向もあり、10月末に来所。

相談期間1年5か月、来所回数48回を子ど

もの変化に沿って、いくつかのまとまりに分

けてみると次のようになる。

*相談経過

(5回) 母親後追い① 10/28~12/3

(9回) 本人流探索② 12/10~ 2/24

(5回) 本人流安定③ 3/4~ 4/8

(13回) 遊び世界の広がり④ 4/17~ 7/31

11回) 本人内世界の広がり⑤ 8/13~12/17(

(5回) 終結に向けて⑥ 1/7~ 3/24

初回面接では、後半に小さな笑い声が聞か

れたものの、不安がいっぱいの様子であった

とのことである。2回目の相談から担当した

筆者とは、始めから言葉でコミュニケーショ

ンがとれたが、5回目まで(経過 )は母親①

の後を追っている期間といえる。2回目まで

は、母親と離れられず、母と子が同じ部屋で

過ごしている。3回目の後半、やっと母親か

ら離れて別の部屋で遊ぶことができた。4、

、 、5回目は 始めから母親と別室で過ごしたが

心理的にはまだ母親の後を追っているように

思われた。

12/10以後の9回(経過 )は、本人が始め②

から遊ぶ目的で来所し、ままごと・絵・電車

の玩具・粘土・砂遊び・パズル・新聞紙での

遊びなど、いろいろな遊びを試している時期

である。

3/4からの5回(経過 )は、完全に本人の③

ペースで遊びを進めている。

そして、4/17からの13回(経過 )は、遊④

びの世界が広がりをみせた時期であり、8/13

からの11回(経過 )は、本人内世界の広が⑤

りをみせた時期であった。

Page 3: 選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して- · 二人の緘黙児とのかかわり(遊戯療法)をま とめて報告する。そして、その変容の過程を

- 215 -

選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して-

は、相談経過の ~ においてA児が表1 ① ⑤

選んだ場所をまとめたものであるが、この表

からもそのことがうかがえる。

①10/28の初回面接から翌年4/8まで(経過

)の来所19回は、すべて感覚知覚室に固②③

執しており、そのうち3回だけは、そこから

。次の場所に移動して遊んでいることがわかる

遊びや本人内世界に広がりをみせた4/17か

ら12/17(経過 )の時期は、A児が選んだ④⑤

場所も多彩に広がっている。

表1 A児の選んだ場所(使用した部屋)

計相談経過

①②③ ④⑤

回場 所来所

19 23 42

感 覚 知 覚 室 19 8 27

遊 戯 療 法 室 2 1 3

砂 場 ・ 中 庭 1 2 3

聴 覚 言 語 室 0 2 2

0 4 4プレイルームA

0 7 7プレイルームB

戸 外 0 3 3

プ ー ル 0 2 2

か所計 22 29 51(延べ数)

経過 の出来事としては、夏休み中、担任⑤

の先生が当センターに来られ、A児と一緒に

過ごすという機会を3回もったことである。

初回の反応としては、嬉しそうにしていたの

で、その後2回、3回と続けてしまったのだ

が、実は大きな間違いであった。9/2に先生が

来所されたとき、ついに本人が先生を拒否し

てしまった。本人にとって、センターは、安

心して自分を表現できる場であったにもかか

わらず、緘黙の相手である先生を持ち込まれ

たからである。先生にもショックを与え、本

人にも苦しい思いをさせてしまったことを深

く反省した。

しかし、11/19には、プールで初対面の人と

の水遊びを楽しみ 「あ~、たのしかった・・、

・ という言葉を残して帰っていくほどになっ」

ていた。

また、12/17には 「ゲームしよう」とA児、

。 、「 、が言う TVゲームソフトを選ぶとき これ

できる? と筆者が心配すると 本人は やっ」 、 「

てみればわかる・・・」と言って、それまで

の二人のやりとりと逆転した状態がみられ、

、新しい経験や自分の枠組みからはみ出しても

あまり緊張感なく、体当たりできる余裕が少

し出てきたように感じた。

1/7から(経過 )は、終結に向けて動いた⑥

5回であった。1/7には 「やればなんとかな、

る」という言葉がA児の口から出るようにな

り、だいぶ失敗への不安から解放されている

ことがわかった。この日、相談の中で母親が

言っている 「以前は、ここに来るのを心待ち。

にしていて 『明日、行くよ』と言うと『やっ、

』 。 、たあ と言って飛び上がっていました でも

今回は、あまり乗り気ではなかったので 『も、

、 』 『 』う やめる? と言うと もうちょっとだけ

と言っていた。ここに来るのは、もう少しに

なりそう・・・」と。

3/24に母親は 「先日、本人に『もうそろそ、

ろいいんじゃない?』と聞くと『うん、そう

じゃね』と言っていた。学校ではとても明る

く、話すこと以外は、みんなと全く同じよう

」 、にやっているのでもう大丈夫・・・ と述べ

終結となった。本人の方は 「3年生になった、

ら学校で話すことにしたらどう?」と筆者が

言うと 「うん」とうなずきながら自分から小、

指を出して、指切りげんまんをした。別れ際

にも 先生によろしく言ってね と言うと わ「 」 、「

かった、わかった」と言いながら、手を振っ

て帰って行った。

このA児は、3年生から学校で話せるよう

になり、現在も楽しく学校生活を過ごしてい

る。治療場面で話せることと学校という問題

場面で話せるようになることとの段差はかな

り大きく、転移は難しいといわれている。

そこで、このケースが、うまくいった理由

を考えてみた。それは、第一に、緘黙という

症状を示してから比較的早い時期に手が差し

伸べられたということである。第二に、A児

Page 4: 選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して- · 二人の緘黙児とのかかわり(遊戯療法)をま とめて報告する。そして、その変容の過程を

- 216 -

選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して-

を理解してくれる先生に恵まれたということ

である。1年生の時は、男性の先生が担任で

教室に入らないA児のために、クラスのみん

なを図書室に連れて行って、授業をされてい

た。2年生の時は、女性の先生が担任でスキ

ンシップが加わって、学年始めから教室に入

れるようになり、3学期には小声で先生と話

すことができるようになった。3年生担任の

、男性の先生も無理のないかかわりを続けられ

毎日A児の個人記録を書かれるという熱心さ

であった。また、養護の先生も、担任や保護

者と連携をとりながら、よい対応をされてい

たようである。そして、第三に、周囲に対す

る母親の見方が肯定的に変化したということ

である。

昨年、久しぶりにA児に会って話すことが

できたが、とても感じのいい子どもに成長し

。 、 「 」 、ていた その時 書いてくれた 樹木画 が

である。図1

図1 樹木画(A4)

臨床心理士の方にアドバイスをいただき、

この絵をバウム・テスト法により解釈すると

概ね「実生活では見栄を気にするが、いい意

味では独創的である。注目を浴びたい面があ

る。やや退行がみられる。見通しに抑制がか

かっている。バランスがとれている。感受性

が強く、いままで傷ついてきている。やや怒

りと攻撃性が残っているので昇華が必要とな

るが、情緒は安定している 」という緘黙から。

解放された子ども像が読みとれた。

【事例2】 B児(初回面接時 小5)

子ども中心の面接

(時折、母親とも面接)筆者が子どもを担当

1年10か月の間 44回の来所

◇ B児が「学校でそろそろ話したいん

だけど・・・」と当センターでは言い

ながらも、学校での変化として現れな

かった事例。

このケースは、初回面接で、子ども中心の

相談とし、必要に応じて子どもを担当してい

。る筆者が親へもかかわるということになった

B児も幼稚園の時から緘黙傾向が続いてい

る子であった。中学校までには何とかしたい

といって 小学校5年の5月下旬に来所となっ、

た。筆者が、初回面接からかかわり、緊張感

はあるものの当センターでは、始めから言葉

での応答ができた。

来所4回目で、本人が「そろそろ学校でも

話したいんだけど、きっかけがつかめない・

・・」と話している。

自然な笑い声が聞かれたのは、8回目だっ

た。

9/22(14回目)には 「学校の帰り道、友達、

と話をしている」と本人が報告している。

学校では、必要なことは筆談で、そして、

板書での発表を行い、6年生になると、隣の

席の子とは話せるようになり、インターネッ

トで調べた情報を授業や学級新聞づくりに提

供するなど活躍の場もあったようである。

基本的には 「本人が、楽しい学校生活を送、

れるように」という共通理解のもとで、保護

者も担任もかかわっていった。

適応改善の方針としては、事例1と同じで

あるが B児の場合 高学年ということもあっ、 、

て、特に自然に自己表現ができる(内面が出

せる)非言語的表現を多く取り入れた。作品

表2として残っているものを一覧にすると、

のようになる。

Page 5: 選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して- · 二人の緘黙児とのかかわり(遊戯療法)をま とめて報告する。そして、その変容の過程を

- 217 -

選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して-

6/30(来所5回目)の箱庭は、始めに並べ

た動物たちと水飲み場を全部取り除いて、最

後に作ったものが、 である。図2

現実の生活と心安らぐ場所との間に、葛藤

(戦争)があることがわかる。

表2 B児の非言語的表現

相談日 表現方法 キーワード

6/14 3回目 絵(3枚) 道( )

6/30 5回目 箱庭 戦争( )

12/8 20回目 コラージュ 邪魔( )

1/26 22回目 コラージュ 視線( )

3/23 25回目 箱庭 ドクロ( )

7/19 30回目 コラージュ 金持ち( )

9/20 34回目 絵 ダルマ( )

10/4 35回目 絵(2枚) 失敗作( )

12/27 39回目 コラージュ 昔の人( )

3/7 43回目 うずまき( )フィンガーペインティング

図2 箱庭(6/30 5回目)

図3 コラージュ(四つ切り (12/8 20回目))

図4 コラージュ(四つ切り (1/26 22回目))

コラージュの作品の中で、12/8(20回目)

が 、1/26(22回目)が となる。 いず図3 図4

れも視線を気にしており、 では、顔の上図3

に力の強いキャラクターを2種類重ねて貼り

付け 「この顔が邪魔!」と吐き捨てるように、

。 。言った 注目されることへの拒否感が窺える

3/23(25回目)の箱庭( )は、作者側図5

(手前)の真ん中にドクロが二つ置かれてい

る。左手は平和で穏やかな雰囲気が漂ってい

るものの、樹で仕切った右手には、まだまだ

戦いの姿が残っている。

図5 箱庭(3/23 25回目)

7/19(30回目)のコラージュは、完成した

後、説明してくれた。題は「金持ちになった

こいつ(ぞう 」というもので、こいつが金持)

ちになったので、新しい車を買い、高級なペ

ンを買い、昼寝用のベッドと夜用のベッドと

ソファーを買って、旅行に行って、帰ったと

ころという説明である。いろんな物を買って

欲しい本人の願望の投影と考えられる。

9/20(34回目)の絵は、一見、アニメに出

てくるキャラクターであるが、手も足も出て

おらず、本人の窮屈さを表している。

Page 6: 選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して- · 二人の緘黙児とのかかわり(遊戯療法)をま とめて報告する。そして、その変容の過程を

- 218 -

選択性緘黙の子どもとその対応 -緘黙児とのかかわりを通して-

( ) 、 「 」10/4 35回目 の絵は 途中で 失敗した

という声が聞こえたので 「失敗作という作品、

にしたらどう?」と声をかけると面白がって

2枚の作品を完成した。そのうちの1枚が、

である。本人の大胆な一面が窺える。図6

図6 絵(四つ切り (10/4 35回目))

12/27(39回目)のコラージュは 「昔の人、

が見ています」という題で、土で作った古代

の人形の向かい側に近代の機器が並べられて

、 。おり 冷ややかに見る人の存在が感じられる

自分が変われるかも知れないと言って、中

学校に期待をもって入学し、部活動も頑張っ

ていたB児だったが、思うようにはいかず、

中学校1年の3学期から不登校気味になって

いると聞いている。この事例は、学校でもか

なりよい状態が続いていたものの、緘黙の状

態が長期間に渡っていたことと 高学年に入っ、

て自意識が発達していたことなどから、緘黙

の十分な改善に至らなかったと考えられる。

3 まとめと今後の課題

これまでの緘黙児との相談活動を通して、

教師が心得ておきたい緘黙児への対応がいく

つか挙げられる。

子どもの行動全体から緘黙の程度を見極める

よく観察して、その子の緘黙がどの段階に

あるかなど本人の状態の把握に努める。

下層水準からの指導に心がける

、緘黙児の指導における大きな誤りの一つは

行動における三つの水準の最上段に位置する

「言語表出」に、まず働きかける点にある。

緘黙の程度より下層水準からの指導が大切と

なる。

いつも心にかけて、普通に話しかける

注目し過ぎず、かといって無視もしないで

温かく、さりげなく接するという根気のよい

かかわりが重要である。

緘黙児には、几帳面である、切り替えが難

、 、 、しい 固執性が強い 頑固という傾向があり

、 、さらに 緘黙には背景となる原因もあるため

、 、改善はなかなか困難であるが 大事なことは

教師が緘黙児の味方であり、心から緘黙児を

受け止め、援助してくれていると緘黙児本人

が感じることである。学校での緘黙は、学校

における教師の適切な対応が、専門家の治療

以上に効果を上げることも可能なのである。

今後は、緘黙についての無理解が不適切な

対応を招き、症状を悪化させることのないよ

う、また、子どもと接する人が、言葉以外の

人間の行動に対しても敏感になり、対人理解

能力を高めていけるよう、相談活動を通じて

積極的に保護者や教員に伝えていきたい。

【引用文献】

河井芳文・河井英子、『場面緘黙児の心理と指導-担任と父母の協力のために-』、田研出版、1994、P26*1:

【参考文献】

マジョリー・F・ヴァーガス/石丸正 訳、『非言語コミュニケーション』、新潮社、1987

榎本博明、『自己開示の心理学的研究』、北大路書房、1997

C.コッホ/林勝造・国吉政一・一谷彊 訳、『バウム・テスト』、日本文化科学社、1970

ジョン・アラン/阿部英雄 監訳、『描画から箱庭まで』、学苑社、1990