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実験動物のビリルビン測定について
【Agenda】
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赤血球のライフサイクルとビリルビンの合成・排泄
ビリルビンと病態
ビリルビンの測定法
直接ビリルビン測定における日常検査の疑問点 総ビリルビン値の上昇が認められたら
まとめ
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赤血球のライフサイクルとビリルビンの合成・排泄
ビリルビンと病態
ビリルビンの測定法
直接ビリルビン測定における日常検査の疑問点 総ビリルビン値の上昇が認められたら
まとめ
【Agenda】
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赤血球寿命 ・ヒト:約120日 ・イヌ:約120日 ・ラット:約60日 ・マウス:約30日 ・ネコ:約70日
膜の変形能が低下
【赤血球のライフサイクル】
ATP↓
Na+, K+ ,Ca2+ ATPase × イオンバランスの崩壊 マクロファージによる貪食
佐藤進 『形態機能学』 より
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赤血球崩壊
脾臓 血管 肝臓
グルクノロシル トランスフェラーゼ
【ビリルビンの生成】
非抱合型ビリルビン
ヘムオキシゲナーゼ
ビリベルジン レダクターゼ
アルブミン
+
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【体内での動態】
ビリルビン尿中排泄量
ラット・イヌ>ヒト
血中ビリルビン濃度
ヒト>ラット・イヌ
増田敦子 『解剖生理をおもしろく学ぶ』 2015年1月より
= ×
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間接ビリルビン(I-Bil)=非抱合型ビリルビン? 直接ビリルビン(D-Bil)=抱合型ビリルビン?
ジアゾ試薬に「直接」反応する物をD-Bil エタノール処理後に反応する物をI-Bil
I-Bil D-Bil
反応性
非抱合 抱合
構造
【ビリルビンの分類】
必ずしもイコールではない
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【高速液体クロマトグラフィーによる分画】
熱傷下ラットにおける血清ビリルビン分画の検討 戸佐真弓 熱傷 第16巻,第2号,590)より
胆管結紮モデルラットの血清中ビリルビンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分画定量
D-Bil測定試薬によっては,δ分画を抱合型ビリルビンとして測りこんでしまう。
抱合型ビリルビン
半減期が長い
D-Bil
α
非抱合型ビリルビン
BU α
β
モノグルクロニドビリルビン
BMC β
γ
ジグルクロニドビリルビン
BDC γ
δ
アルブミン結合型ビリルビン
Bδ δ
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赤血球のライフサイクルとビリルビンの合成・排泄
ビリルビンと病態
ビリルビンの測定法
直接ビリルビン測定における日常検査の疑問点 総ビリルビン値の上昇が認められたら
まとめ
【Agenda】
×
薬剤性肝障害
溶血
浸透圧抵抗性↓
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産生~抱合の過程に障害
I-Bil↑
肝・胆道系障害
D-Bil↑
薬剤 刺激
変形能↓
【ビリルビンと病態】
肝臓へのI-Bil取り込み能↓(CCl4)
抱合能↓
肝内性胆汁鬱滞
肝外性胆汁鬱滞
トランスポーター阻害
I-Bil↑の場合: D-Bil↑の場合:
【Agenda】
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赤血球のライフサイクルとビリルビンの合成・排泄
ビリルビンと病態
ビリルビンの測定法
直接ビリルビン測定における日常検査の疑問点 総ビリルビン値の上昇が認められたら
まとめ
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【ビリルビンの測定法】
・実験動物のビリルビン測定はジアゾ法が反応特異性の面で良好であったが,リキッドタイプの製造は終了している(ドライケムはジアゾ法を使用)。 ・非臨床施設での利用度は酵素法≧化学酸化法
ジアゾ法,酵素法及び化学酸化法で反応特異性が異なるため,臨床上で大きな混乱をきたしている⇒標準化の必要性あり!
名称 概要 特徴
ジアゾ法ビリルビンを安定化ジアゾニウム塩でアゾビリルビンにして定量
・安定化ジアゾニウム塩はpHの変化に 弱い
酵素法ビリルビンオキシダーゼを用いてビリルビンをビリベルジンに変換し,黄色色調の減少を測定
・標準化が進んでいないため試薬間差 有り・試薬が高価
化学酸化法ビリルビンをバナジン酸等の酸化剤でビリベルジンにし,その吸光度の減少を測定
・酵素法試薬より安価・実験動物で使用した場合,酵素法 より低濃度域での検出感度が劣る印象(あくまで個人の感想です)
分画測定法高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて,ビリル
ビンを定量測定
・α,β,γ及びδ分画を個別に定量可能
・日常検査で使用するには操作が煩雑
直接比色法重クロム酸カリウムを基準液として,ビリルビンの黄色を分光光度計で測定
・溶血や混濁などの影響を受けやすい
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赤血球のライフサイクルとビリルビンの合成・排泄
ビリルビンと病態
ビリルビンの測定法
直接ビリルビン測定における日常検査の疑問点 総ビリルビン値の上昇が認められたら
まとめ
【Agenda】
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【背景】
血液生化学的検査においてT-Bilの上昇が認められた際,D-Bilの測定が行われるが,ラット,イヌ等はヒトに比べて血中のビリルビン濃度が低いことが知られている。 このため,T-Bilのわずかな上昇では,D-Bilの測定を行っても,明確な変化を捉えることが出来ず,考察に混乱をきたす場合が多い。
T-Bil濃度や血漿の色調を,D-Bil濃度測定実施判断の指標に出来ないか?
【直接ビリルビン測定における日常検査の疑問点】
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【バックデータ収集の条件】
種及び系統: Sprague-Dawley系ラット(Crl: CD(SD)) 性別 : 雄 解剖時週齢: 9週齢 採血部位 : 腹大動脈 麻酔 : イソフルラン 抗凝固剤 : ヘパリンリチウム 絶食 : 約16時間 測定試薬 : シカリキッド T-Bil(酵素法,関東化学)
シカリキッド D-Bil (酵素法,関東化学) 測定機器 : 自動分析装置TBA-120FR(㈱東芝)
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0
10
20
30
40
50
60
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
(n)
(mg/dl)
T-BILの分布
0.00 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.10
【正常動物の血中T-Bil濃度分布】
T-BiL
(mg/dL)匹数
0.00 0
0.01 0
0.02 0
0.03 15
0.04 47
0.05 51
0.06 43
0.07 16
0.08 1
0.09 0
0.10 0
計 173
正常動物のT-Bilの範囲は0.04~0.06 mg/dL
弊社での背景データ n=173
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T-Bil バックグラウンド中央値 目視で試料の着色が確認可能
・T-Bilが0.1 mg/dL未満では,D-Bilは0.01~0.02mg/dL
・T-Bilが0.10 mg/dL以上で,黄色が目視で確認された試料では,D-Bilの上昇が認められた
D-Bilの有無の評価は, T-Bilが0.10 mg/dL未満のケースでは難しい
【T-BilとD-Bilの関係】
【Agenda】
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赤血球のライフサイクルとビリルビンの合成・排泄
ビリルビンと病態
ビリルビンの測定法
直接ビリルビン測定における日常検査の疑問点 総ビリルビン値の上昇が認められたら まとめ
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【総ビリルビン値の上昇が認められたら】
臨床検査値以外の情報にも注目 ・動物の一般状態は?(皮膚や粘膜の着色の有無) ・採血方法は? ・血漿や尿の色調は?
T-Bil以外の臨床検査値に変化は無いか?肝機能パラメータや血算の結果を確認
肝細胞障害由来: AST,ALT,GLDH,SDH↑ 肝内及び肝外胆汁鬱滞:ALP,LAP,GGT↑ 溶血:赤血球恒数↓,血中K↑,LDH↑,GU↑,SDH↓
ルーチンのデータからその後の追加検査や補強方針を決定
産生~抱合までの障害に起因するのか? 肝・胆道系障害に起因するのか?
・肝重量の変化は? ・剖検所見は?
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【追加検査の選択】
まずはD-Bil,I-Bil及びTBAの追加測定
・肝臓の病理組織学的検査 ・化合物や代謝物による測定干渉の確認 ・トランスポーター阻害の確認* *:未変化体あるいは代謝物(特に抱合体)がOATP1B1,MRP2などのトランスポーターの基質になり,ビリルビンや胆汁酸の細胞内取り込みや細胞外への排泄を阻害する.血中薬物濃度の推移と総ビリルビン値に関連性が見られることがある.
杉山雄一 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)125,178~184(2005)より
D-Bil↑,TBA↑
・血球形態観察: 赤血球の形態変化は? ・ハインツ小体染色: 酸化変性ヘモグロビンの有無 ・赤血球浸透圧抵抗性試験: 赤血球膜強度の確認 ・赤血球変形能測定: 赤血球の柔軟性の確認 ・溶血試験(赤石法): 薬剤による直接溶血作用があるか?
I-Bil↑
【Agenda】
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赤血球のライフサイクルとビリルビンの合成・排泄
ビリルビンと病態
ビリルビンの測定法
直接ビリルビン測定における日常検査の疑問点 総ビリルビン値の上昇が認められたら まとめ
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【まとめ】
反応性による分類である「直接」と「間接」は,必ずしも構造上の分類である「抱合型」,「非抱合型」を指す言葉ではない。
測定試薬によっては,δ分画をD-Bilに測りこんでいる場合もある。
実験動物(主にラット及びイヌ)は,尿中へのビリルビン排泄量がヒトに比べて多いため,血中ビリルビン濃度が低い。そのため,T-Bilのわずかな上昇では,D-Bilの挙動を確認することは難しい。 ⇒目安はT-Bilが0.1 mg/dL以上で,試料が明らかな黄色を呈した場合
病態によって上昇するビリルビンは異なる(D-Bil or I-Bil?)。上昇したビリルビンからおおよその病態を推察し,他の検査結果との関連性も含めて,追加検査や補強試験の方針を考えることが重要。臨床検査値以外の結果にも注目する。 ⇒特に生血を使用した検査は解剖当日にしか実施出来ないため,疑いがあれば実施してしまうことが望ましい。
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ご清聴ありがとうございました