長崎県の観光産業の現状と課題 - boj.or.jp · 2018年6月26日 日本銀行長崎支店...

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2018年6月26日 日本銀行長崎支店 本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行長崎支店までご相談ください。 転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。 <本件に関する問い合わせ先> 日本銀行長崎支店総務課 〒850-8645 長崎市炉粕町32番地 TEL:095-820-6110 FAX:095-820-0299 本資料は当店ホームページ(http://www3.boj.or.jp/nagasaki/)にも掲載しています。 長崎県の観光産業の現状と課題 ―― “魅力の宝庫”を“魅力の倉庫”としないために ――

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2018年6月26日

日本銀行長崎支店

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行長崎支店までご相談ください。

転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

<本件に関する問い合わせ先>

日本銀行長崎支店総務課

〒850-8645 長崎市炉粕町32番地 TEL:095-820-6110 FAX:095-820-0299

本資料は当店ホームページ(http://www3.boj.or.jp/nagasaki/)にも掲載しています。

長崎県の観光産業の現状と課題

―― “魅力の宝庫”を“魅力の倉庫”としないために ――

― 要旨 ―

・長崎県は人口減少が著しく、基幹産業である造船業が苦戦している一方、観光に関連した

明るい話題が多い。今後の地域経済の活性化のためには、“観光の産業化”が鍵となる。

・長崎県の観光客数は、インバウンド観光客の増加や軍艦島ブームもあって、既往ピークを

更新しているが、増加の中心は日帰り客であるほか、全国シェアも高いとは言い難い。観

光客の来県経路をみると、海路はクルーズ船の寄港増加や韓国と対馬を結ぶ高速船の増便

から乗降客数が著増している一方、空路・鉄路はやや伸び悩んでいる。また、ホテルの稼

働率は上昇傾向にあるものの、九州・沖縄の他県と比較すると水準は低い。この間、旅行

消費単価をみると、国内観光客では、日帰り客は全国や九州全域と比べてほぼ同水準、宿

泊客は高めながら、外国人観光客では少額であることに加え、低下傾向にある。

・長崎県は“魅力の宝庫”。歴史・文化、自然や水産資源、温泉、グルメなど多岐に亘る魅

力的な観光資源が県内各地域に数多く、歴史・伝統があり知名度も高い祭りやイベントも

開催されている。もっとも、観光客のリピート意向は低いとの調査結果も得られているた

め、観光客のリピート意欲を高めるための努力が必要と考えられる。

・課題として考えられるのは、①交通アクセスの改善、②グルメ満足度の向上、③観光客の

目線に立った決済・通信インフラ面の利便性や満足度の向上であろう。

交通アクセスの改善 … 九州新幹線西九州ルートの早期全線開通、チャーター便・LCC

の増便などによる長崎空港の更なる活用といった長崎県への交通アクセスの改善

と、県内周遊のための鉄道網や高速道路、航路の活用・拡充など二次交通の整備が

考えられる。観光列車やグルメクルーズといった楽しみながら時間をかけて県内を

周遊・移動する手段の整備も一案である。

グルメ満足度の向上 …長崎県には誇るべき食材が豊富であるが、ブランド化や高付加価

値化により知名度を上げるとともに、観光客に対して「売り出す力」、「食べさせる

力」を強化することが有用と考えられる。これには、国内外の観光客をより意識し

た営業スタイルの構築が望まれる。

観光客の目線に立った決済・通信インフラ面の利便性や満足度の向上 …観光客の消費行

動の変化に合わせたクレジットカードや電子マネー等決済インフラの充実、さらに

交通系 ICカードの全国共通化やWi-Fi の利用可能地域の拡大なども重要である。

・世界遺産を二つ保有する県となるが、これは“ゴール”ではなく“スタート”である。そ

してスタートダッシュ、スピード感こそが大切である。第一次、第二次、第三次の各産業

がタッグを組み、その上で“産官学金”の“ALL NAGASAKI”で意識と方向性を揃え

て“観光の産業化”を進め、交流人口を増やすことが、県民の就業機会や所得を増やし、

延いては人口減少への有効な対応策にもなり得ると考えられる。

・“魅力の宝庫”である長崎県が“魅力の倉庫”にならないように具体的なアクションを起

こすには、長崎県に関する話題が多い今が千載一遇の好機であると思われる。

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日帰り客数

延べ宿泊者数

(百万人)

(出所)長崎県「長崎県観光統計」

長崎大水害

「明治日本の産業革命

遺産」(含む軍艦島)が世

界遺産に登録

長崎オランダ村開業

長崎「旅」博覧会

雲仙普賢岳噴火

ハウステンボス開業

世界・炎の博覧会大河ドラマ「龍馬伝」の放送、ハウ

ステンボスのリニューアル長崎市が「新世界三

大夜景」に認定

(年)

【はじめに】

○ 長崎県は人口減少が著しく、基幹産業である造船業が苦戦しているなど、何か

と厳しい話題が多い。もっとも、明治日本の産業革命遺産への登録による軍艦島

や造船関連施設等に対する注目度の高まり、テーマパークのリニューアル、クル

ーズ船の寄港増加等によるインバウンド客の増加に加え、長崎県内全域に存在す

る潜伏キリシタン関連遺産の世界遺産登録、V・ファーレン長崎新スタジアム建

設など、観光に関連した明るい話題が多く聞かれている。こうしたことを踏まえ

れば、今後の長崎県経済の活性化のためには、県外や海外からの訪問客を増やし、

満足度を向上させることで、消費や投資を呼び込むような取組み、すなわち“観

光の産業化”が鍵となると思われる。そこで、本稿では、今後の当地の経済活性

化のための材料提供という意味も込めて、長崎県の観光産業の現状と課題につい

て整理を試みた。

1.長崎県の観光動向と特徴

(観光客数の推移)

○ 長崎県の観光客数(日帰り客+延べ宿泊者の総数、訪日外国人を含む)を長期

時系列でみると、2001年までは増加傾向を辿ったものの、その後は緩やかに減

少した。もっとも、2010 年頃から増加に転じており、2016 年は熊本地震の

影響などから若干減少したものの、インバウンド観光客の増加や軍艦島ブームも

あって、2017年も既往ピークを更新している。なお、日帰り客数が全体の増加

を牽引している一方で、宿泊客数は伸び悩んでいるのが近年の特徴である(図表

1)。

(図表 1)長崎県における観光客数の推移

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(千人)

(年)

(出所)長崎県「長崎県観光統計」

北海道

4.7%

東北

7.9%

関東

30.4%

北陸信越7.6%

中部

14.0%

近畿

15.5%

中国

5.9%

四国

3.1% 九州

9.6%

沖縄1.3%

福岡県

32.9%

佐賀県

7.5%

長崎県

11.5%

熊本県

15.3%

大分県15.5%

宮崎県

5.2% 鹿児島県

12.1%

── もっとも、修学旅行の動向(宿泊者数ベース)をみると、少子化の影響や

旅行先の分散・海外へのシフトなどから、2007年まで減少を続けた後は横

ばい圏内の動きが続いている。当地の観光を下支えしてきた修学旅行需要の

減退も、宿泊客数の伸び悩みに影響しているものとみられる(図表2)。

(図表 2)長崎県における修学旅行宿泊者数の推移

○ この間、わが国の観光市場(日帰り旅行+宿泊旅行の延べ旅行者数、訪日外国

人は含まない)の地域別シェアをみると、九州(除く沖縄)は全国の 1割、長崎

県は九州の 11%を占めている。九州 7 県をみると、福岡県が約 1/3 を占め、

次いで大分県、熊本県、鹿児島県となっており、長崎県は 5番目となっている(図

表3)。長崎県の観光資源のポテンシャルをもってすれば、更にプレゼンスを高

めていくことは可能と考えられる。

(図表 3)観光客数の地域シェア(全国・九州、2017年)

(出所)観光庁「旅行・観光消費動向調査」

(玄関口の状況)

○ 長崎県への観光客の入り口である空路、鉄路、海路の状況をみると、空路およ

び鉄路は他県対比やや伸び悩んでいる一方、海路はクルーズ船の寄港増加や韓国

と対馬を結ぶ高速船の増便から乗降客数が増加している。

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2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

(千人)

(出所)長崎空港ビルディング

(年)

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2010 2011 2012 2013 2014 2015

長崎駅

佐世保駅

(年)

(千人/日)

(出所)国土交通省「都市計画現況調査」

0 2 4 6 24

佐賀

北九州

大分

長崎

宮崎

熊本

鹿児島

福岡

国際線

国内線

(百万人)(出所)大阪航空局

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1

2

3

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5

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14

博多駅

小倉駅

鹿児島中央駅

大分駅

熊本駅

佐賀駅

長崎駅

佐世保駅+ハウステンボス駅

宮崎駅

(万人/日)

(注)九州各県の主要駅を抽出。

(出所)九州旅客鉄道

○ まず空路であるが、長崎空港における到着人数の推移をみると、2016年は熊

本地震の影響で一時的に落ち込んだものの、増加傾向にある(図表 4)。もっと

も、九州各県の主要空港の利用客数をみると、長崎空港は、福岡空港、鹿児島空

港に続き、熊本空港、宮崎空港とともに3番手グループとなっているほか、国際

線の利用客数は九州内で最も少ない(図表 5)。

(図表 4)長崎空港到着人数の推移 (図表 5)九州各県主要空港における利用客数 (2017年、速報値)

○ 次に鉄路では、長崎駅および佐世保駅(除くハウステンボス駅)における乗降

客数の時系列推移をみると、長崎駅はほぼ横ばいとなっている一方、佐世保駅は

駅前再開発の効果などから緩やかに増加している(図表 6)。この間、九州各県

のJR主要駅における鉄道乗客数をみると、博多駅が突出しているが、その他の

各県の主要駅と比較しても長崎駅および佐世保駅(含むハウステンボス駅)は低

位に位置している(図表 7)。

(図表 6)長崎駅・佐世保駅の一日平均 (図表 7)九州各県主要駅別乗車人員(2016 年) 乗降客数推移

(出所)国土交通省「港湾調査」

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2012 2013 2014 2015 2016

長崎港

外国航路

内国航路

(千人)

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佐世保港

外国航路

内国航路

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厳原港

外国航路

内国航路

(千人)

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比田勝港

外国航路

内国航路

(千人)

(年)

(千人)

(年)

(単位:人) (単位:人)

順位 港湾名 都道府県 乗降客数 順位 港湾名 都道府県 乗降客数

1 厳島 広島県 8,586,617 1 博多 福岡県 2,120,0352 鹿児島 鹿児島県 5,782,174 2 長崎 長崎県 1,044,1543 博多 福岡県 3,249,241 3 那覇 沖縄県 761,2984 桜島 鹿児島県 3,214,501 4 比田勝 長崎県 362,0265 高松 香川県 2,651,948 5 鹿児島 鹿児島県 344,4696 石垣 沖縄県 2,526,299 6 石垣 沖縄県 308,9877 長崎 長崎県 2,461,700 7 下関 山口県 199,2898 広島 広島県 2,184,384 8 横浜 神奈川県 165,9789 神戸 兵庫県 1,943,711 9 厳原 長崎県 163,88210 東京 東京都 1,850,074 10 佐世保 長崎県 156,935

(出所)国土交通省「港湾調査」

うち外国航路合計(内国・外国航路計)

○ 一方、海路については、船舶乗降客数の全国上位 10港のうち、全体では長崎

港が7位に位置しているほか、外国航路に限ると 4港が長崎県内の港湾となって

おり、長崎県にとって港湾は重要な玄関口となっている(図表 8)。さらに、当

該 4港については、外国クルーズ船の寄港が著増している長崎港と佐世保港で乗

降客数が大幅に増加しているほか、韓国と対馬を結ぶ高速船が増便されている対

馬の比田勝港では外国航路の乗降客数が著増している(図表 9)。

(図表 8)全国の港湾における船舶乗降人員(2016年、全国上位 10港)

(図表 9)長崎県内主要港湾における船舶乗降人員の推移(内国・外国航路別)

○ この間、当地における訪日外国人の入国動向を経路別にみると、空路は伸び悩

んでいる一方で、海路は大幅に増加している。すなわち、九州・沖縄の主要空港

における近年の外国人入国者数増減率(2010 年→2016 年)は、殆どの空港

で 2倍以上の大幅な伸びとなっているものの、長崎空港に関しては+6%に止ま

っている(図表 10)。一方、主要港の外国人入国者数増減率をみると、2015

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2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

福岡県

沖縄県

熊本県

全国

長崎県

鹿児島県

(出所)観光庁「宿泊旅行統計調査」

(%)(単位:人、%)

宿泊客数 全国比1位  東京都 19,025,490 24.42位  大阪府 11,706,910 15.03位  北海道 7,433,300 9.54位  京都府 5,586,960 7.25位  沖縄県 4,603,720 5.9

7位  福岡県 3,191,350 4.1

13位  大分県 1,317,330 1.717位  長崎県 814 ,020 1.018位  熊本県 787,170 1.020位  鹿児島県 715,320 0.924位  佐賀県 379,150 0.526位  宮崎県 310,250 0.4

(単位:人、%)

空港名 2010 2016 2010年比

福岡 483,651 1,631,702 3.4倍

那覇 140,080 1,354,791 9.7倍鹿児島 18,572 83,312 4.5倍佐賀 330 38,314 116.1倍宮崎 22,507 36,965 +64.2大分 10,432 30,879 3.0倍熊本 9,246 20,470 2.2倍

北九州 22,339 16,573 ▲25.8長崎 9,943 10 ,543 +6 .0

(出所)法務省「出入国管理統計」

(単位:人、%)

港名 2010 2016 2010年比

博多(福岡県) 321,833 1,247,776 3.9倍

長崎(長崎県) 47,674 621,273 13.0倍那覇(沖縄県) 43,293 389,425 9.0倍

比田勝(長崎県) 18,035 178,895 9.9倍石垣(沖縄県) 94,277 175,790 +86.5

鹿児島(鹿児島県) 34,883 143,997 4.1倍平良(沖縄県) 129 114,393 886.8倍

佐世保(長崎県) 3,952 85,702 21.7倍厳原(長崎県) 41,246 82,646 2.0倍八代(熊本県) 2,169 43,102 19.9倍

(注)入国者数と特例上陸許可人員数(主にクルーズ船利用)

  を合算した人数。

(出所)法務省「出入国管理統計」

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(出所)国土交通省

(隻)

(年)

年頃からのクルーズ船の寄港増加を背景に、長崎港は博多港の半分程度まで増加

しているほか、佐世保港も大幅に増加している。また、韓国・釜山を結ぶ高速船

の増便効果等に伴い、対馬の厳原港、比田勝港における韓国人観光客が大幅に増

加しているのが目立っている(図表 11、12)。

(図表 10)九州・沖縄の主要 (図表 11)九州・沖縄の港湾 (図表 12)長崎県内の港湾における 空港における外国人入国者数 における外国人入国者数 外国クルーズ船寄港数

(宿泊客数の動向)

○ ホテル稼働率をみると、外国人観光客の増加を主因に長崎県内ホテルの稼働率

は上昇傾向にあるものの、九州・沖縄の他県と比較すると水準は低い(図表 13)。

なお、長崎県のホテル稼働率の相対的な低さについては、修学旅行の分散化や、

団体旅行から個人旅行への需要シフトが進む中、観光客のニーズの変化に供給側

の受入れ体制の整備が追い付いていないとの声も聞かれる。なお、外国人宿泊者

数をみると、全国で 17位となっており、そのシェアは 1%となっている。九州

7県では、福岡県、大分県に次いで、熊本県、鹿児島県とともに3番手グループ

に止まっている(図表 14)。

(図表 13)ホテル稼働率の推移 (図表 14)外国人延べ宿泊者数と全国シェア (2017年)

(出所)観光庁「宿泊旅行統計調査」

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福岡県

佐賀県

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沖縄県

(年)

(千円)

(注)1人1回当たりの旅行消費単価。

(出所)観光庁「訪日外国人消費動向調査」

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全国 九州 長崎(千円)

(年)

(注)旅行消費額を延べ旅行者数で除して算出。

(出所)観光庁「旅行・観光消費動向調査」をもとに当店作成

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全国 九州 長崎(千円)

(年)

(観光消費額の動向)

○ 国内観光客の旅行消費単価をみると、日帰り客の旅行消費単価は、全国や九州

全域とほぼ同水準で推移している。一方、宿泊客については、足もとでは全国や

九州全域と比べて高めとなっている(図表 15)。

(図表 15)国内観光客の旅行消費単価

<日帰り客> <宿泊客>

○ もっとも、外国人による旅行消費単価は、福岡県、鹿児島県、沖縄県に比べ少

額であることに加え、低下傾向にある(図表 16)。

(図表 16)訪日外国人旅行客の消費単価

平戸カトリック教会群

九十九島

ハウステンボス

長崎バイオパーク

雲仙温泉仁田峠

グラバー園大浦天主堂

出島稲佐山

島原城

大瀬崎灯台

韓国展望所

壱岐市立一支国博物館

あこう樹

万松院

長崎原爆資料館平和公園

九十九島パールシーリゾート

端島(軍艦島)

長崎ペンギン水族館

ほっとふっと105

原城跡

● 歴史・文化▲ 自然■ その他

波佐見焼

千里ヶ浜海水浴場

原の辻遺跡

高浜海水浴場

金田城跡

辰ノ島海水浴場

小島神社

浅茅湾

2.長崎県の観光資源と観光客の意識

(強み … “魅力の宝庫”)

○ 長崎県には、歴史・文化、自然や水産資源、温泉、グルメなど多岐に亘る魅力

的な観光資源が県内各地域に数多くあることに加え、「長崎くんち」や「長崎ラ

ンタンフェスティバル」など、歴史・伝統があり知名度も高い祭りやイベントも

季節毎に開催されており、まさに“魅力の宝庫”である(図表 17)。

(図表 17)長崎県内の主要観光スポット

(出所)観光客数や地域性等を考慮し当店作成

○ また、観光客誘致のため、各自治体や民間企業が中心となって、①県内観光資

源に関する情報発信、②ハード・ソフト面の観光客受入体制の整備、③観光施設

における集客施策・イベント等の積極的な取組みが進められている(図表 18)。

(図表 18)長崎県内における自治体・企業による観光振興に向けた取組み

実施団体 施 策

情報発信

長崎県 潜伏キリシタン関連遺産について、従来のウェブサイトや動画でのPR のほか、新たに VR技術を使用したバーチャルツアーなどを追加。

長崎県 福山雅治が長崎県の離島を PR する動画を公開。

長崎県 インバウンド向けの PR動画を、You Tube で公開。

長崎市 「魚の美味しいまち長崎」プロジェクトが 5 年を迎え、本年度は羽田空港や長崎駅の大型ビジョンで動画を放映。

雲仙市 V・ファーレン長崎のアウェイゲームで、観光を PR。

南島原市 豊かな自然を舞台とした PR 動画を公開。

交通アクセスや情報提供環境等に関する観光客受入体制の整備

長崎県対馬振興局 対馬・釜山間を結ぶ国際旅客船の増加を受け、比田勝港に 2 隻が同時係留可能な浮桟橋を新設(2022年完成予定)。

JR 九州高速船 博多・釜山間のジェットフォイルについて、博多・比田勝間の国内客の混乗を開始。

雲仙みらいかたる 長崎空港と雲仙温泉・小浜温泉間の直行バスの運行を開始。

小値賀町 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」効果で観光客が増加することを見込み、笛吹・野崎間のフェリーを 1 往復増便。

長崎市 稲佐山の中腹の駐車場から山頂を結ぶスロープカーを整備(2019 年夏に完成予定)。

平戸市 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」構成資産の「春日集落」などを巡る周遊バスを運行開始。また、案内所を開設したほか、売店・レンタルサイクルも用意。

環境省 インバウンド客の SNS 投稿を狙い、西海、雲仙地域の国立公園にWi-Fi を導入。

長崎県 インバウンド客向けに、通訳サービスを 24時間提供する「多言語コールセンター」を、福岡、佐賀、熊本、大分、山口各県と連携して開設。

ナガサキマチナカ女子部

長崎市内 48 か所に、5 か国語の壁新聞を設置。壁新聞と同じ内容のパンフレットも製作。

五島市 久賀島に、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」観光拠点として、古民家を改装した「久賀島観光交流センター」を開設。

長崎県観光連盟 観光ポータルサイト「ながさき旅ネット」で、県内 1,173か所(2017年 10 月時点)の観光地までの経路を公共交通機関と徒歩を組み合わせて検索できるサービスを開始。

北松浦半島広域観光連携協議会

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録を見据え、周遊プランなどを掲載したガイドブックを作成。

集客施策・イベント

雲仙市 V・ファーレン長崎の観戦客向けに、雲仙市内での宿泊費について1,000 円を補助。

大浦天主堂 キリシタン博物館を 2018年 4月 1 日に開設。

軍艦島ミュージアム 2018年 4月 20日にリニューアルオープン。

五島ふくえ漁協 漁師食堂「五島灘」を昨年 4 月にオープン。刺身バイキングや競り体験を実施。

島原城 3 回目となる「島原コスプレの乱」を開催。

壱岐市 台湾のアイドルを採用した PR 動画等を作成し、海外からコスプレ客を誘致。

(出所)新聞報道等

10

(注1)1回の旅行につき、単一の旅行先(都道府県)を訪問したデータのみ。

(出所)公益財団法人日本交通公社「旅行年報2017」をもとに当店作成

(注2)満足度指数:大変満足(7点)~大変不満(1点)までの7段階評価の平均値。 再来訪意向指数:大変そう思う(7点)~全く思わない(1点)までの7段階評価の平均値。

5.4

5.5

5.6

5.7

5.8

5.9

6.0

6.1

6.2

奈良

沖縄

鳥取

熊本

滋賀

北海道

大分

京都

埼玉

広島

島根

石川

山梨

長野

長崎

群馬

兵庫

愛媛

東京

岐阜

静岡

和歌山

千葉

三重

神奈川

富山

大阪

岡山

香川

新潟

福岡

徳島

高知

栃木

山口

佐賀

山形

青森

宮崎

宮城

茨城

鹿児島

岩手

福島

愛知

秋田

福井

満足度指数

4.4

4.6

4.8

5.0

5.2

5.4

5.6

5.8

6.0

6.2

沖縄

東京

京都

大阪

福岡

山梨

北海道

神奈川

埼玉

愛媛

大分

熊本

鳥取

千葉

長野

奈良

新潟

兵庫

徳島

岩手

静岡

広島

宮崎

岐阜

山口

富山

島根

石川

愛知

青森

群馬

三重

長崎

宮城

福島

秋田

和歌山

高知

山形

岡山

栃木

佐賀

茨城

福井

鹿児島

滋賀

香川

再来訪意向指数

(弱み … リピート客の取込み不足)

○ 長崎県の観光地としての魅力についての全国順位をみると、「満足度」は上位

にある一方で、「再来訪(リピート)意向」は下位に位置している。他の観光地

をみると、沖縄県、京都府、山梨県、北海道などが、九州では大分県や熊本県が

満足度も高く、リピート意向も高い。すなわち、長崎県の観光産業における競争

力強化という観点からは、観光客のリピート意欲を高めるための努力が必要と考

えられる(図表 19)。

(図表 19)アンケート調査に基づく旅行先都道府県の満足度と再来訪意向

○ 当地を訪れる観光客のリピート意欲が低い背景については、観光客のニーズと

当地観光資源のミスマッチも考えられる。観光客が「最も楽しみにしていたこと」

を全国平均の高い順に5項目を並べると、①「おいしいものを食べること」、②

「温泉に入ること」、③「自然景観を見ること」、④「文化的な名所を見ること」、

⑤「観光・文化施設を訪れること」の順であるが、長崎県では、「観光・文化施

設を訪れること」が突出している一方、「おいしいものを食べること」や「温泉

に入ること」、「自然景観を見ること」は九州・沖縄の上位の県とは相応に差があ

る。換言すると、観光客が最も楽しみにしている部分の訴求力が必ずしも強くな

いと言える。なお、「目当ての宿泊施設に泊まること」という項目では、長崎県

は回答数がゼロであることから、観光客が興味・関心を持てるような宿泊施設が

少ないと考えられ、このことも弱みの一因となっている可能性がある(図表 20)。

11

0 10 20 30 40 50

おいしいものを食べること

温泉に入ること

自然景観を見ること

文化的な名所を見ること

観光・文化施設を訪れること

目当ての宿泊施設に泊まること

全国

長崎県

福岡県

佐賀県

熊本県

大分県

宮崎県

鹿児島県

沖縄県

(%)

(注1)1回の旅行につき、単一の旅行先(都道府県)を訪問したデータのみ。

(注2)全国上位5項目および一部の項目(「目当ての宿泊施設に泊まること」)に

つき、全国および九州・沖縄各県のデータを当店で抽出し掲載。

(出所)公益財団法人日本交通公社「旅行年報2017」をもとに当店作成

0 10 20 30 40 50 60 70 80

自然や景勝地の訪問

温泉

現地グルメ・名物料理

歴史・文化的な名所の訪問

まち並み散策・まち歩き

ショッピング・買い物

都市観光・都会見物

観光施設・動物園・水族館

テーマパーク・レジャーランド

家族や親戚、友人知人訪問

全国

長崎県

福岡県

佐賀県

熊本県

大分県

宮崎県

鹿児島県

沖縄県

(%)

(注1)1回の旅行につき、単一の旅行先(都道府県)を訪問したデータのみ。複数回答。

(注2)全国上位10項目につき、全国および九州・沖縄各県のデータを当店で抽出し掲載。

(出所)公益財団法人日本交通公社「旅行年報2017」をもとに当店作成

(図表 20)旅行先別の最も楽しみにしていたこと

○ また、旅行先別の現地活動についても、同様に全国順位の高い順に並べると、

長崎県は、「歴史・文化的な名所の訪問」、「まち並み散策・まち歩き」、「テーマ

パーク・レジャーランド」といった項目で他県対比高い一方で、全国的に人気上

位の3項目である「自然や景勝地の訪問」、「温泉」、「現地グルメ・名物料理」と

いった分野では他県よりも水準が低めである(図表 21)。

(図表 21)旅行先別の現地活動

12

(注)表中の実線(実数)は4年間平均値、カッコ内はその伸び率。

(出所)国土交通省「都市計画現況調査」

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

鹿児島中央駅(人/日)

(年)

34,591

40,100(+15.9%)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

熊本駅(人/日)

(年)

20,575

26,232(+27.5%)

3.取り組むべき課題と方向性の一考察

(1)交通アクセスの改善

○ 長崎県は、沖縄県を除くと日本の最西端に位置する県であるため、観光という

観点からは人口の多い首都圏、関西圏、中京圏から距離的に遠いというハンディ

キャップを抱えているが、交通アクセスの悪さから観光客にとって心理的にも遠

い観光地となっている可能性がある。こうしたこともあって、前述のとおり、空

路や鉄路を利用した観光客の入込みは九州他県の後塵を拝している。九州内で最

も人口減少ペースが速い長崎県において、交流人口の拡大に資する交通インフラ

の整備は、早急に取り組むべき課題であると考えられる。

(九州新幹線西九州ルートの早期全線開通)

○ 交通アクセス面の弱みを克服していくためには、まずは九州新幹線西九州ルー

トの早期全線開通が望まれる。熊本駅や鹿児島中央駅の乗降客数をみると、九州

新幹線の全線開通(2011年3月)前後で、熊本駅では+3割弱、鹿児島中央駅

では+16%程度増加している(図表 22)。もちろん、すべてが観光客ではない

と考えられるが、新幹線効果が着実に現れていることが窺われる。九州新幹線西

九州ルートについては、長崎県の交流人口を増やすためにも、最も時間短縮効果

の大きい方法での整備が望まれる(図表 23)。

(図表 22)熊本駅と鹿児島中央駅における一日平均乗降客数の推移

(図表 23)新幹線開業による時間短縮効果

長崎 ⇔ 博多 長崎 ⇔ 新大阪

現行 1時間 48分 約 4時間 32分

対面乗換方式 (2022年度開業時) 約 1時間 22分 (▲約 26分) 約 4時間(▲約 32分)

全線フル規格 約 51分 (▲約 57分) 約 3時間 15分 (▲約 1時間 17分)

(注)カッコ内は現行からの短縮時間。

(出所)長崎県、国土交通省試算および当該資料をもとに当店作成

13

0 50 100 150 200 650

長崎

那覇

鹿児島

福岡

熊本

大分

佐賀

北九州

(出所)国土交通省「国際旅客チャーター許可実績」

(注)外国発の便のみを計上。 (回)

(長崎空港の更なる活用)

○ 九州・沖縄の主要空港における国際旅客チャーター便の本数をみると、長崎空

港は最少である(図表 24)。海外からの観光客を呼び込むためには、チャーター

便や LCC の増便が効果的と考えられるため、積極的誘致が望まれる。この点、

長崎空港は海上空港であり、他の空港より 24時間化に取り組み易いと思われる

ほか、24 時間化が実現すれば、空港周辺の宿泊需要にも期待できる。なお、当

然ながら貨物便のハブとしても活路を見出すことができると考えられる。

(図表 24)九州・沖縄の主要空港における国際旅客チャーター便 許可実績(2017年度)

(長崎県内の交通網の整備)

○ 長崎空港から県内主要都市や観光地へのアクセスは、九州・沖縄の主要空港か

らのアクセス状況に比べると、必ずしも良いとは言い難く、定時性や大量輸送を

考えると、鉄道による輸送も望まれるところである(図表 25)。

(図表 25)九州・沖縄の主要空港から主要駅等への所要時間

空港名 行き先 交通機関 目安所要時間(分) 料金(円)

博多駅 地下鉄 6 260

天神駅 地下鉄 12 260

北九州空港 小倉駅 バス 35~50 700

佐賀空港 佐賀駅 バス 30 600

長崎駅 バス 43 900

佐世保駅 バス 92 1,400

熊本空港 熊本市内 バス 52~65 800

大分駅 バス 60 1,550

別府駅 バス 51 1,500

宮崎空港 宮崎駅 JR 9~16 350

鹿児島空港 鹿児島中央駅 バス 38~40 1,250

那覇空港 県庁前 モノレール 12 260

(出所)各種時刻表から当店作成

大分空港

福岡空港

長崎空港

14

対馬

壱岐

長崎空港 大村

平戸 松浦

波佐見

諫早

佐世保

長崎

上五島

下五島

雲仙

飛行機:35分 飛行機:30分

鉄道:1時間58分バス:1時間33分

バス:43分

鉄道:26分バス:38分

鉄道:13分バス:30分

島原バス:1時間21分

鉄道:1時間54分バス:1時間13分

バス:46分

鉄道:1時間5分

バス:12分

鉄道:55分バス:1時間23分

鉄道:25分バス:31分

鉄道:1時間27分バス:1時間32分

ジェットフォイル:1時間5分フェリー:2時間15分

ジェットフォイル:1時間25分フェリー:3時間10分

ジェットフォイル:1時間15分高速船:1時間43分フェリー:2時間35分

高速船:1時間20分フェリー:2時間30分

ジェットフォイル:30分フェリー:1時間5分

バス:46分

○ また、長崎県における観光地は県内各地に分散しているが、県内の移動にかな

り時間を要するのが現状である(図表 26)。こうした中、2018年 5月、「長崎

と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録が勧告され、今後の観光

振興の起爆剤になることが期待されている。同遺産は、県内では 11か所に関連

遺産が点在している(図表 27)。県内回遊型の観光を増やすことが、観光の産業

化には有効と考えられるため、鉄道網の活用、高速道路の整備、航路の拡充など、

観光地を回遊し易くする工夫が重要であろう。

(図表 26)長崎県内の主要観光地間の所要時間

(注)日曜日午前 10時を基準に、原則として直行ルートのある公共交通機関の所要時間を記載。

(出所)公共交通機関ホームページや交通情報検索サイトにより当店作成

(図表 27)「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の分布

(出所)長崎市

15

○ なお、移動に時間を要するという弱みを逆手にとって、観光列車やグルメクル

ーズといった楽しみながら時間をかけて県内を周遊・移動する手段を整備・拡充

するのも一案であると考えられる。また、定期観光バスの拡充、観光客に優しい

路線バス網の整備も有効と思われる。

○ いずれにしても、国内・海外から長崎県への時間的距離の短縮、県内二次アク

セスの改善が観光の産業化には不可欠と思われる。こうした取組みにより、点在

している県内の観光地を「点」から「線」、「線」から「面」にしていくことが重

要である。

(2)グルメ満足度の向上

○ 前述のように最近の観光客の楽しみ方では、「グルメ」が最も強く意識されて

いる項目の一つである。幸いにして長崎県には誇るべき食材が豊富である(図表

28)。特に魚介類に関しては、誇るべきものが多い(図表 29)。

(図表 28)長崎県の代表的な料理・食材等

・卓袱料理、ちゃんぽん、皿うどん、佐世保バーガー、五島うどん、島原手延そうめん、

トルコライス、大村寿司、具雑煮、対州そば、カステラ、かんざらし、かんころもち等の

郷土料理・菓子

・タイ、アジ、イカ、フグ、クロマグロ、ヒラメ、ヒラス(ヒラマサ)、赤ムツ(ノドクロ)、

アラカブ(カサゴ)、メジナ(クロ)、イサキ、アマダイ、ブリ、ハモ、アナゴ、タチウオ、

ウナギ、ウニ、牡蠣、ウチワエビ、たいらガネ(ワタリガニ)、スッポン等の魚介類

・かんぼこ(かまぼこ)、からすみ、椿油

・ブランド牛(長崎和牛、壱岐牛、五島牛、雲仙牛、平戸牛)、クジラ

・ビワ、イチゴ、ミカン、トマト、アスパラガス、馬鈴薯等の果物・野菜

・壱岐焼酎等の酒類

(図表 29)魚種別漁獲量と全国順位(2017年)

<海面漁業> (単位:100t)

1位 2位 3位

漁獲量計 北海道 7,389 長崎県 3,168 茨城県 2,950

アジ 長崎県 621 島根県 269 宮崎県 119

タイ 長崎県 45 福岡県 22 島根県 16

サバ 茨城県 1,255 長崎県 996 静岡県 517

イワシ 茨城県 1,576 三重県 761 長崎県 733

イカ 青森県 238 北海道 179 長崎県 82

<海面養殖> (単位:100t)

1位 2位 3位

フグ 長崎県 20 熊本県 5 大分県 3

クロマグロ 長崎県 66 鹿児島県 30 高知県 13

(出所)農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

16

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

東京都

神奈川県

千葉県

埼玉県

宮城県

岡山県

愛知県

滋賀県

栃木県

全国

京都府

香川県

広島県

福島県

大阪府

奈良県

茨城県

新潟県

三重県

島根県

福岡県

北海道

群馬県

熊本県

石川県

鳥取県

富山県

静岡県

大分県

山口県

長野県

福井県

兵庫県

岩手県

岐阜県

鹿児島県

愛媛県

徳島県

山形県

山梨県

佐賀県

秋田県

宮崎県

青森県

長崎県

和歌山県

高知県

沖縄県

(構成比%)

(出所)経済産業省「平成28年経済センサス-活動調査」

(構成比%)

A社のサイト B社のサイト A社のサイト B社のサイト A社のサイト B社のサイト

長崎市 66.4% 92.3% 25.1% 4.2% 3.1% 0.3%

函館市 55.6% 86.7% 22.0% 4.8% 5.6% 0.8%

金沢市 54.6% 81.9% 28.5% 5.7% 2.9% 1.0%

那覇市 57.4% 80.9% 41.9% 11.6% 5.3% 1.8%

(注1)当該地域のレストランの登録店舗総数に占める割合。

(注2)深夜帯、早朝については、検索サイトによって検索条件時間帯が異なっているため、あくまで都市間比較のための参考値。

(出所)大手グルメサイトの検索結果をもとに当店算出(A社のサイトは2018年6月21日、B社のサイトは2018年6月22日時点のデータ)

深夜帯入店可能店舗

早朝営業店舗日曜休業の店舗

○ もっとも、誇るべき食材について、長崎県産であることの知名度が高いとは言

えないのが現状である。これについては、ブランド化や高付加価値化が十分でな

いまま県外に出荷されているものが多いことに加え、地元で観光客に対して「売

り出す力」、「食べさせる力」が弱いように感じられる。これだけの食材があれば、

地産地消を推進することで、当地でもグルメをキラーコンテンツにしていくこと

は可能だと考えられる。

○ これを推進していくために改善すべきなのが、観光客をより意識した営業スタ

イルであろう。当地のレストランの日曜営業、深夜営業や朝食営業の状況を他の

観光都市と比べると、観光客のニーズを必ずしも満たしているとは言い難い(図

表 30)。観光客を取り込むためには、日曜日や深夜の営業は必須であるほか、宿

泊者を増やすためには、函館市の例をみても朝食営業が有効である。魚の水揚げ

量が多い当県においては、参考になる手段と考えられる。ただ、長崎県の飲食店

をみると、他の地域より、個人経営店や小規模店が多く、日曜日や深夜・早朝の

営業には限界があると考えられる(図表 31)。これに対しては、観光を産業と捉

える経営者の育成も含め、企業体で取り組んでいく必要があるのではないだろう

か。

(図表 30)主要観光都市のレストランの営業状況

(図表 31)飲食店のうち個人事業所の比率(都道府県別順位、2014年時点)

17

45.0

55.0

65.0

75.0

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

福岡県

沖縄県

熊本県

全国

長崎県

鹿児島県

(出所)観光庁「宿泊旅行統計調査」

(%)

(構成比%)

A社のサイト B社のサイト

長崎市 24.5% 1.5%

函館市 25.2% 4.9%

金沢市 31.6% 9.2%

那覇市 35.9% 11.2%

(参考)

全国 26.0% 7.2%

長崎県 17.1% 1.2%

(注)当該地域のレストランの登録店舗総数に占める割合。

カード利用可能店舗

(出所)大手グルメサイトの検索結果をもとに当店算出(A社のサイトは2018

年6月21日、B社のサイトは2018年6月22日時点のデータ)

○ さらに、長崎県における月別のホテル稼働率をみると、3 月の春季休暇期間、

5 月のGW期間、8 月の夏季休暇期間、11 月の観光シーズンなどは稼働率が高

まる一方で、それ以外の月は稼働率が低く、九州他県と比較しても繫閑の差が大

きい(図表 32)。四季折々のグルメを提供することで、閑散期の稼働率を高める

こともできるほか、リピーターの取込みにも資するのではないかと思われる。

(図表 32)月別ホテル稼働率

(3)観光客の目線に立った決済・通信インフラ面の利便性や満足度の向上

○ 交通アクセスの改善やグルメ満足度の向上のほかにも、国内外の観光客の目線

に立った利便性や満足度の向上につながる施策も重要である。例えば、決済手段

の電子化である。因みに、長崎県はクレジットカードが利用できるレストランが

少ない(図表 33)。観光客の消費行動の変化をみれば、クレジットカードはもち

ろんのこと、電子マネー等への対応も必要であろう。さらに交通系 IC カードの

全国共通化やスマートフォン対応も望まれる。また、最近の観光客はガイドマッ

プではなく、スマートフォンを片手に観光地を巡っていることを考えれば公衆

Wi-Fiの利用可能地域の拡大も重要であると思われる。

(図表 33)主要観光都市のレストランにおけるクレジットカード利用可能店舗

18

【結びに代えて】

○ 長崎県の基幹産業は造船業であることに変わりはないが、長崎県を活性化する

ためには、もう一つの基幹産業が必要である。その筆頭候補は今回取り上げた“観

光”であろう。これまでは、造船業が装置産業として県内にヒト・モノ・カネを

呼び込んでいたこともあって、特に飲食・サービス業や小売業では、主に地元の

顧客をターゲットにした取組みに軸足を置いていたようにも窺われる。もっとも、

長崎県の人口は減少傾向を辿っており、そこをターゲットとするならば、縮小均

衡とならざるを得ない。これに対し、観光産業については、観光客を増やすこと

ができれば、“ブルー・オーシャン”であると考えられる。

○ 長崎は、古くから日本における海外からの玄関口であり、修学旅行のメッカで

もあったが、今や観光を目玉にしようと各地方がアイデアを出し、実際に行動を

起こすなど、しのぎを削っている。何もせずとも長崎県に人々が来る時代ではな

くなっているように思われるが、幸いにも、長崎県は、県北部から南部、離島ま

で国内外の人々を引き付けることができる歴史・文化の名所や自然、食材が豊富

である。その良さを観光客にしっかりとアピールできれば、観光客が観光大使と

なり、SNS や実際の口コミによる観光客自身の情報発信によって長崎の良さを

国内外に広める役割を担ってくれると考えられる。だからこそ、観光を産業化し、

実際に長崎県を訪れた観光客の満足度を引き上げることが重要である。

○ 長崎県は、世界遺産を二つ保有する県となるが、これは“ゴール”ではなく“ス

タート”である。そしてスタートダッシュ、スピード感こそが大切である。県内

の水産業を始めとする第一次産業、食料品製造業などの第二次産業、卸・小売業、

サービス業、運輸業、情報通信業といった第三次産業がタッグを組んだうえで、

“産官学金”の“ALL NAGASAKI”で意識と方向性を揃えて“観光の産業化”

を進め、交流人口を増やすことが、県民の就業機会や所得を増やし、延いては人

口減少への有効な対応策にもなり得ると思われる。

○ いずれにしても、“魅力の宝庫”である長崎県が“魅力の倉庫”にならないよ

うに具体的なアクションを起こすには、世界遺産や九州新幹線西九州ルートとい

った長崎県に関する話題が多い今が千載一遇の好機であると考えられる。

以 上