改良diba(dot immuno-binding assay)法を用いたキュウ リウ …改良diba(dot immuno-binding...

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改良DIBA(Dot Immuno-Binding Assay)法を用いたキュウ リウイルス病の簡便かつ低コスト診断法 誌名 誌名 九州病害虫研究会報 ISSN ISSN 03856410 著者 著者 櫛間, 義幸 巻/号 巻/号 63巻 掲載ページ 掲載ページ p. 1-7 発行年月 発行年月 2017年11月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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改良DIBA(Dot Immuno-Binding Assay)法を用いたキュウリウイルス病の簡便かつ低コスト診断法

誌名誌名 九州病害虫研究会報

ISSNISSN 03856410

著者著者 櫛間, 義幸

巻/号巻/号 63巻

掲載ページ掲載ページ p. 1-7

発行年月発行年月 2017年11月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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九病虫研会報 63 : 1 -7 (2017)

Kyushu PL Prat. Res. 63 : 1 -7 (2017)

改良 DIBA(Dot Immuno-Binding Assay)法を用いた

キュウリウイルス病の簡便かつ低コスト診断法

櫛間義幸t

(宮崎県総合農業試験場)

Simple and low-cost diagnosis of cucumber viruses causing mosaic diseases with

modified DIBA (Dot Immuno-Binding Assay). Yoshiyuki Kushima (Miyazaki

Agricultural Research Institute, Sadowara Miyazaki, Miyazaki 880-0212, Japan)

一次抗体と二次抗体を同時に混合処理する改良 DIBA法の寺ユウリ黄化えそウイルス (MYSV)

の純化ウイルスの検出限界濃度はO.lμg/mlで,通常の DIBA法の1/10であったが,検査時間が

短縮され有効であった。植物体からの検出感度は DAS-ELISA法と一致し実用上遜色ない結果で

あった。同手法はキュウリモザイクウイルス (CMV), キュウリ緑斑モザイクウイルス

(KGMMV)およびズッキーニ黄斑モザイクウイルス (ZYMV) にも適用可能であった。作成し

た混合抗体液は約 1ヶ月間反復利用が可能で,陽性対照をスポットしたニトロセルロースメンブ

レン (NCM) も長期間反応性を有することが確認された。 4種ウイルスの陽性対照と陰性対照を

あらかじめスポットした検定用 NCMを,それぞれの混合抗体液と組み合わせて使用することで

ウイルス種を的確に判定することができ,生産現場での迅速なウイルス病診断が可能である。

Keywords: MYSV, KGMMV, CMV, ZYMV

緒 呂

植物ウイルス病の診断は,生物検定や遺伝子診断,

血清学的診断法および電子顕微鏡によるウイルス粒子

の観察など様々な手法で行われている。血清学的診断

法は,最も一般的に使われる手法であり,数種の植物

ウイルス病については, 日本植物防疫協会等から診断

試薬として抗血清類が市販されている。また,近年で

はRIPA法によるイムノストリップキットも海外メー

力から提供されるものばかりでなく,国内でも独自に

作成配布され,現場への適用事例が報告されている

(甲把(安達)・津田, 2015)。

宮崎県は全国一の生産量を誇るキュウリ (Cucumis

sativus L.) 産地であるが生産現場ではモザイク病

その他のウイルス病が発生して問題となっている。特

に近年では,ミナミキイロアザミウマ (Thrips

palmi)によって媒介されるメロン黄化えそウイルス

(Melon yellow spot virus : MYSV) による黄化えそ

病が県内全域に拡大しつつあり,また件数は少ないも

t [email protected]

ののキュウリ緑斑モザイクウイルス (Kyurigreen

mild mottle virus : KGMMV)によるキュウリ緑斑モ

ザイク病も散発的に発生し警戒されている。その他,

アブラムシ類によって媒介されるキュウリモザイクウ

イルス (Cucumbermosaic virus: CMV)やズッキー

二黄斑モザイクウイルス (Zucchiniyellow mosaic

virus : ZYMV) などもしばしば発生し生産を脅かし

ている。

ウイルス病は一旦感染すると治療が困難なことから,

防除対策の基本は早期発見・除去であり,生産現場で

は誰でも簡単に判断できる診断ツールが求められてい

る。

DIBA (Dot Immuno-Binding Assay) 法は,支持

体上に固着した病原ウイルスを抗原抗体反応と酵素反

応を利用して沈着性色素の発色スポットとして検出す

る方法で,同様の原理ながら基質溶液の発色程度を定

量する ELISA法と同等の感度を有しながら,マイク

ロプレートやプレートリーダーなど特別な機材を必要

としない汎用性の高い検定法である。

そこで,宮崎県総合農業試験場では, DIBA法を改

良して,現場で簡便かつ比較的短時間に同定・診断が

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Kyushu PL Prot. Res. Vol. 63

できる手法を開発した(櫛間ら, 2013, 以下改良

DIBA法と略す)ので,その概要を報告する。

なお,本文に先立ち, MYSVの純化ウイルスを分

譲していただいた南九州大学菅野善明教授にお礼を

申し上げる。

材料および方法

1 . 改良 DIBA法の検出限界と検定時間の短縮

検定時間の短縮を図るため,一次抗体と二次抗体を

混合して同時に処理する改良 DIBA法を考案した。

手順は次の通りである。 TBS(0.02Mトリスヒドロキ

シアミノメタン 2.4g, 塩化ナトリウム29.2g, 蒸留水

1,000ml, pH7.5) に5分間浸漬後風乾したニトロセ

ルロースメンブレン (BioRad社製 孔径0.45μm,

8 x25mmに細断。以下 NCMシートという)に,

TBSでO.Ql~ 100μglmlに調整した MYSVの純化ウ

イルスを 1μIずつスポットして, 5分間風乾した。

その後 3つの小型シャーレに注いだ TTBS(TBS

にツイーン20 0.5mlを添加)に 5分間ずつ順に浸漬

した(以下,洗浄という)。洗浄後の NCMシートを

パラフィルム上に置きブロック液 (TTBS50ml, ポ

リビニルピロリドン 1g, 牛血清アルブミン Fr5

1 g) を覆うように添加して15分間静置した(以下,

ブロック処理という)。再びNCMシートを TTBSで

洗浄し, 2mlのマイクロチューブに分注した MYSV

の混合抗体液 (TTBSPB(TTBS 50ml. ポリビニル

ピロリドン 1g, 牛血清アルブミン Fr5 O.lg) 2

mlに一次抗体4μ1(500倍),二次抗体0.67μI (3,000

倍)を添加)に浸漬し,室温で30分間静置した。なお,

一次抗体(抗ウイルス抗体)として, MYSVのDAS-

ELISA用検出セットのコーティング抗体(日本植物

防疫協会製),二次抗体(コンジュゲート)として,

アルカリフォスファターゼ標識抗ウサギ・ヤギ抗体

(ナカライテスク製)を使用した。抗体処理後の

NCMシートは TTBSで洗浄し,小型シャーレに分注

した AP9.5緩衝液(トリスヒドロキシアミノメタン

12.lg, 塩化ナトリウム5.8g, 塩化マグネシウム・ 6水

和物 0.2g, 蒸留水 1,000ml, pH 9.5)で5分間ずつ

3回処理(以下, AP処理という)し,余分な水分を

除去したのち,パラフィルム上に置いて,基質• 発色

液 (SigmaFastNBT /BCIPタブレット(シグマ社)

1錠を蒸留水10mlに溶解) 200μIをシート全面を覆

うように添加した。その後 トレイを被せて遮光し室

温で15分間静置したのち,濃紫色の有無を判定した。

対照の DIBA法は, H比 (1984) の方法を参考に,

ブロック処理後に一次抗体液 (500倍)で30分処理し,

洗浄後,二次抗体液 (3,000倍)で30分処理してから,

AP 処理基質• 発色液の添加を行った。

また,植物サンプルとして, MYSV罹病キュウリ

葉(陽性対照)および健全キュウリ葉(陰性対照)を

供試し,各0.2gを5mlのTTBSで摩砕して,原液

(25倍液)としたのち,それぞれ TTBSで段階希釈し

てNCMシートに1μIずつスポットして両手法の比

較を行った。

2. 改良 DIBA法と DAS-ELISA法との比較

新たに開発した改良 DIBA法の実用性を植物のウ

イルス病診断に広く使われている DAS-ELISA法と比

較するため, MYSVに罹病したキュウリ個体から症

状の異なる各部位を採取してそれぞれ改良 DIBA法

とDAS-ELISA法による検出を行った。改良 DIBA

法の NCMシートにはサンプルのほかに陽性および陰

性対照を配置して陽性対照と同程度の発色の見られた

ものを陽性と判定した。また, DAS-ELISA法は,高

橋 (1988)の方法に準じて以下のとおり行った。コー

ティング液500倍で 4℃一晩処理したマイクロプレー

トに,サンプル汁液を添加後4℃ 16時間インキュベー

トしたのち,コンジュゲート液500倍を37℃, 2時間

反応させ,基質を添加して1時間後にマイクロプレー

トリーダーを用いて405nmにおける吸光度を測定し

た。 DAS-ELISA法では陰性対照の 2倍以上の値を陽

性と判定した。

3. 改良 DIBA法の CMV, KGMMVおよび ZYMV

での適用性確認

CMV, KGMMVおよび ZYMVの各罹病葉,健全

キュウリ葉を用い,改良 DIBA法を通常の DIBA法

と比較した。

各葉汁液の調整及び検出手法は 1に準じて行い(第

2図B中央模式図)。一次抗体(いずれも H本植物防

疫協会製)は1,000倍に,二次抗体は4,000倍にそれぞ

れ調整した。なお,比較のために MYSVの陽性対照

もスポットし同一条件で試験を行った。

4. 混合抗体液 ・NCMシートの保存性

MYSVの陽性対照および陰性対照をあらかじめス

ポットした NCMシートを90枚作成し,風乾後4℃で

保存した。 MYSVの混合抗体液(一次抗体500倍,ニ

次抗体3,000倍)の作成当 B, 1. 7, 14, 22および43

日後に, 1回あたり NCMシート 2枚, 1日6回,計

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九 州 病 害 虫研究会報 第63巻 3

12枚ずつを同一抗体液を用いて改良 DIBA法による

検出を行った。

5. 検定用 NCMシートの作成と実用性の検証

NCMシー トに鉛筆を用いて 8mmx25mmのマス

目を引き検定サンプル用に中央部を避けて.線上に

各種ウ イルスの陽性対照お よび陰性対照をスポッ トし

て,検定用 NCMシートを作成した。対照汁液は,各

キュウリ葉を重量比25倍盈の TTBSで摩砕したのち,

6,000rpm, 10分間遠心後上清を各 2μIずつスポッ

トした(第 1図)。検定事例では,マス目に沿って切

り離した 4つの小片に,中央に調べたいサンプル①~

⑤の被検液をスポットして,それぞれウイルスの混合

抗体液を用いて改良 DIBA法に供試した。各ウイル

スの混合抗体液の濃度は, CMV,KGMMVおよび

ZYMVについては一次抗体を1,000倍, 二次抗体を

4,000倍で. MYSVについては一次抗体を500倍二次

抗体を3,000倍にそれぞれ調整した。

結 果

1. 改良 DIBA法の検出限界と検定時間の短縮

MYSV純化ウイルスを用いた試験では. DIBA法

では 0.01μglmlまで検出されたのに対して,改良

DIBA法ではO.lμg/mlまでしか検出されずやや劣る

結果であった(第 2図A)。また,植物汁液を用いた

比較試験では,DIBA法では2,500~25,000倍まで検出

されたのに対して,改良 DIBA法では250~2,500倍ま

であった。(データ 省略) しかし,DIBA法では一次

抗体液と二次抗体液を個別に処理するため中間の洗浄

過程を含め 1時間10分を要するのに比べ,改良 DIBA

CP KP MP ZP N

... ―←

法の処理時間は30分で良いことから40分間の時間短縮

が可能であった。

2 改良 DIBA法と DAS-ELISA法との比較

キュウリ黄化えそ病罹病株の各部位から組織サンプ

ルを採取し, DAS-ELISA法と改良 DIBA法によるウ

イルスの検出を行っ た結果を第 1表に示 した。改良

DIBA法およびDAS-ELISA法のどちらも,症状の見

られる中位葉や萌芽後間もない腋芽では検出されたが,

未発症の中位葉や症状は見られるものの下位の老化葉

からは検出されず,二つの検出法の結果は一致した。

3. 改良 DIBA法の CMV,KGMMVおよびZYMV

での適用性確認

3種のウイルスについて,それぞれ改良 DIBA法

とDIBA法の比較を行った結果 いずれのウ イルス

においても両手法の検出結果は一致したことから

CMV,KGMMVおよび ZYMVでも改良 DIBA法が利

用可能であることが確認された。(第 2図B)

4. 混合抗体液 ・NCMシートの保存性

あらかじめ MYSVの陽性対照および陰性対照をス

ポットした NCMシートを用い,同一混合抗体液を用

いて改良 DIBA法を複数回反復 した連用試験では,

43日後 延 べ90回 (枚)使用して も, 検出可能であっ

た (第 2表)。使用回数 経過時間によ って,基質の

発色程度がやや減少する傾向が認められたが,陽性対

照と 陰性対照の発色程度の差は明瞭で判定に支障はな

かった(第 2図C)。

GP KP MP ZP N サンプル汁液

25mm 芦CKMZN CKM・・・ 疇-1-----1 -` 姿

8mm

予め各ウイルスの感染葉汁液と サンプル汁液を健全葉汁液をスポットして作成 中央にスポット

-(MV:YSV立

CMVC

KGMM

"”

"”

液体

"”

M

M

M

G

Y

z

s

k

CMV

My,

調べたいウイルスの混合抗体液に入れる

ZYMV

こウイルス感染の有無とその種類が判別できる

第 1図 各ウイルスの陽性対照を配置した検定シートの作成.

C : CMV, K : KGMMV, M : MYSV, Z : ZYMV, -: 健全

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Kyushu Pl. Prat. Res. Vol. 63

5. 検定用 NCMシートの作成と実用性の検証

試作した検定用 NCMシートを用いたウイルス病診

断実施例を第 3図に示した。各種ウイルスの混合抗体

液と反応させた結果,それぞれの組み合わせと対応し

た陽性対照部位は陰性対照部位と比較して濃い紫色を

呈した。混合抗体液の一次抗体と異なるウイルス種の

陽性対照部位は陰性対照と同程度の発色であった。検

定事例では,上下辺にある陽性・陰性対照の発色程度

の比較から,被検サンプルのうち② はMYSVに,③

はZYMVに, ⑤はKGMMVにそれぞれ感染しており,

①と④は健全と判断された(第 3図)。

考 察

DIBA法は支持体に固着した抗原に一次抗体を反応

させ,その後アルカリフォスファタ ーゼ標識抗体を用

いて検出する間接 ELISA法の一種で, 2段階の反応

からなるため操作時間を 2時間~半日程度要する。そ

こで,時間を短縮するために一次抗体と二次抗体の混

合処理を行った。改良 DIBA法による MYSV純化ウ

イルスの検出限界はO.lμglmlで,通常の DIBA法の

1/10濃度でやや劣る結果となったが,植物サンプルを

供試した実際の検定では DAS-ELISA法と同等の検出

結果が得られたことから,実用上問題はないものと考

えられる。

小宮ら (2002) は ス イ カ 果 実 汚 斑 細 菌 病 菌

(Acidovorax avenae subsp. citrulli) の迅速な検定を

行うため,DIBA法の変法として,サンプルをスポッ

トした NCMシー トに,スイカ果実汚斑細菌病菌に特

異的な IgGにアルカリフォスファターゼを結合させ

たコンジュゲートを直接作用させ,約30分で検出可能

であることを報告している。また,石井ら (2003) は

トマト黄化えそウイルス (Tomatospotted wilt

virus) に対して,同様にコンジュゲートを直接作用

させることで,通常の DIBA法と比較してやや感度

は劣るものの十分に検出が可能であり,操作時間の短

縮が図れるとしている。今回の改良 DIBA法でも同

様の結果が得られているが,両報告がいずれも DAS-

ELISA法のコンジュゲートを直接使用しているのに

A 100

如WI! 罰 B

CMV抗体 MYSV抗体

標準

標準

一標準

改良~ 改良 三--=」改良王10 0.1μg

c ピニ—ー

.、■:1111111標準

” 濁〇

標準

改良

じ ー 巳二て

7ニ 改良

KGMMV抗体 ZYMV抗体

第2図 基質• 発色液を添加処理後の NCMシート. A: 改良 DIBA法の検出限界濃度 (MYSV純化ウイルス).

B:4種ウイルスにおける両 DIBA法の比較各シー トの中央にはレイアウトのとおり CMV.KGMMV. MYSV.

およびZYMVの感染汁液及ぴ健全汁液をそれぞれスポット. ClおよびC.KlおよびK.MlおよびM.Zlおよび Z

は.それぞれCMV,KGMMV, MYSVおよびZYMVの抗体を用いて通常の DIBA法と改良 DIBA法により処理し

た.C: 保存43日後の NCMシー トに88回反復利用した MYSV混合抗体液を89回目(上)および90回目(下)に

反応させた場合の検出事例. pはMYSV感染汁液健は健全汁液

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九州病害虫研究会報 第63巻 5

対して,本報では一次抗体(通常ウサギ抗体)とアル

カリフォスファターゼ標識抗ウサギ・ヤギ抗体を混合

して用いた点が異なっている。理論的には,前記の

DAS-ELISA法のコンジュゲートを用いても検出可能

と考えられるので,筆者も試行してみたが, MYSV

他 3種のウイルスの場合,今回の改良 DIBA法より

も検出感度が劣る結果であった(データ省略)。

一方,混合抗体液は, 43日後, 90回までの反復使用

が可能であったことから,作成した抗体液は 1ヶ月程

度は利用可能であることが示唆された。

Susamtoら (1989) は, ZYMV罹病葉の汁液を塗

布した NCMが6ヶ月間保存した後でも抗原性が失わ

れず DIBA法により検出可能であることを報告して

いるが,今回試験を行った MYSVにおいてもスポッ

ト後約 2ヶ月を経た NCMシートで陽性対照が安定し

て反応し同様の傾向が認められたことから,あらかじ

め検定用 NCMシートとして作成しておくことが可能

と考えられた。

今回開発した改良 DIBA法の所要時間とコストを,

従来の主要な血清学的診断法と比較して第 3表に示し

た。標準の DIBA法と比較して40分程度短縮した改

良DIBA法の所要時間は約 1時間で, DAS-ELISA法

に比べるとl/8~1/16程度の時間で判定することが可

能であった。 DAS-ELISA法は反応容器としてマイク

ロプレートを使用するため検定規模にもよるがコスト

がやや高くなること,検定実施に際してもマイクロピ

ペットやプレートリーダー等の機材を要し、諸操作へ

の習熟も必要であり,簡便性においては改良 DIBA

法が勝っている。

一方,現在イムノストリップキットとして実用化さ

れている RIPA法は,簡単な作業でかつ約10分程度で

判定が可能で,簡便性・迅速性が極めて優れる手法で

あるが,提供されるウイルス種が限られており, 1件

あたり約1,000円前後のコストがかかることから,小

規模農家等では容易に用いられていないのが現状であ

る。また,高知県では CMVやMYSV, トウガラシ

第1表 改良 DIBA法と DAS-ELISA法による植物体各部位からのウイルス検出

番号 症状 肉眼観察,) 改良DIBA法bl DAS-ELISA')

発症葉(下位老化葉) 士

2 発症葉 + + 十

3 未発症葉(中位)

4 発症葉(中位) + + +

5 激しい発症葉(上位) ++ + +

6 発生初期の上位葉 + + +

7 症状のある側枝 + + +

8 萌芽後間もない腋芽 + + , 未発症葉(下位葉)

10 未発症の側枝葉

a) +十:顕著なモザイク症状 +:モザイク症状 土:擬症状 ー:症状なし.b) DIBA法は抗体同時処理罹病・健全サンプルの発色程度と比較して判定.c) DAS-ELISA法は健全サンプルの吸光度の2倍以上を陽性と判定した.

第2表 混合抗体液 ・NCMシートの作成後日数と改良 DIBA法の反応 a)

作成後経過日数

゜7 14 22 29 43

NCMシートの12 24 36 延反復枚数 48 60 72 90

陽性対照 + bl + + + + + +

陰性対照

a) MYSV混合抗体液(一次抗体500倍,二次抗体8000倍),および陽性対照陰性対照をスポットして風乾した NCMシートは,作成後に4℃で保存し,経時的に取り出し,室温で改良DIBA法に供試した各試験日とも最後に混合抗体液を処理した NCMシートについて基質・発色剤を添加し反応の有無を調査したb) 十:青紫色に呈色 ―:反応なし.

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Kyushu PL Prot. Res. Vol. 63

微斑モザイクウイルス (Peppermild mottle virus)

について RIPA法のキットを独自に作成して県内の農

業振興センターに配布して生産現場での診断に利用し

ている事例も報告されているが, RIPA法に用いられ

てきたポリスチレン系ラテックス粒子が生産中止と

B

① ② ③ ④ ⑤ 元仮層厄介

c液こk液二M液二z液こ

第3図 検定用シートを利用した検定結果. "A: .. サン

プルのレイアウトを示す.CP, KP, MPおよび ZPは,

それぞれ CMV, KGMMV, MYSVおよび ZYMVの陽

性対照 Nは陰性対照①~⑤は被検サンプル. "B: ..

検定結果を示す. C液: CMV混合抗体液, K液:

KGMMV混合抗体液, M液: MYSV混合抗体液, Z液:

ZYMV混合抗体液.図中の矢頭は陽性と判定したサ ン

プルを示す

なったことか ら代替粒子への移行が工夫されている

(甲把 ・津田. 2015)。

改良 DIBA法は迅速性や作業の簡便性の点では及

ばないが必要な資材は NCMシー ト小片と反応容器

としてのマイクロチュープのみであり.ストリ ップを

作成する労力も不要であることから.県農業試験場等.

供給側として取り組みやすい利点がある。 また, 2

mlのマイクロチュープに挿入可能な NCMシートの

小片サイズであれば5~10件はサンプルのスポ ッ トが

可能で. 一斉に複数サンプルを検定できるメリットが

ある。 このため.同一圃場内の複数箇所から.あるい

は同一個体内でも複数の部位からサンプルを採取して

診断が可能である。 さらに,複数のウイルス病につい

ても,今回作成したような複数種の陽性対照を配置 し

た検定用 NCMシートに同時にスポットして用いれば

調べたいウイルスの混合抗体液とそれぞれ反応させる

ことで,一斉に検定することも可能である。

現在, 宮崎県では.混合抗体液その他の試薬 と検定

用 NCMシートをセ ットにして県内の農業改良普及セ

ンター等へ配布しておりキュウリのウイルス病診断

に活用している。

引用文献

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ウイルス (Melonyellow spot virus)の迅速免疫ろ

紙検定法 (RIPA法)での診断に利用可能な代替粒

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日比忠明 (1984)DIBA法による植物ウイルス の検出

法植物防疫 38: 380-384.

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のパプリカ (Capsicumannuum) におけるトマト

黄化えそウイルス (Tomatospotted wilt virus :

TSWV)の発生お よび DotImmuno-Binding Assay

(DIBA)法 による検出福岡県農業総合試験場研

究報告 22:56-60.

第3表改良 DIBA法と DIBA法 DAS-ELISA法及びRIPA法の比較

検定方法 検定規模 所要時間 単価/件 備考

改良 DIBA法 1-5件 約 1時間 50円 一次抗体500倍, 二次抗体4000倍で50回反復利用, NCMシー

ト小片あたり 基質 • 発色液を200μ1使用すると仮定して算出.

DIBA法 1-5件 約2時間 50円 改良 DIBA法の場合マイク ロチュープや洗浄用 TTBSが節

約可能

DAS-ELISA法 1-96件 1-2日 100円~DAS-ELISA検査キットのウェルあたり 試薬コストは20円以下

だが.マイクロプレート単価は100-200円程度である

RIPA法 1件 約10分 1.100円A社イムノストリップキ ットの場合

25テスト分で27,000円程度である.

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九 州 病 害 虫研究会報 第63巻 7

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櫛間義幸・黒木尚• 河野亜希子・黒木修一・今村幸久

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