書道の魅力を伝えたい中学生のとき書道教室で「書の甲 こう 子 し 園...

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中学生のとき書道教室で「書の甲 こう えん 」の作品集を見ました。 そこには川口高校書道部の先 せん ぱい の作品が載 っていました。それ まで、書道はお手本通りに書くものだと思っていたのですが、 その作品は違 ちが っていました。圧 あっ とう されるほど力強く、迫 はく りょく があ る書体で、今までの書道のイメージが変わりました。それがき っかけでこの先 せん ぱい のいる書道部に入りたいと思い、川口高校に 入学しました。 伝えることの大切さ 書道部に入ってから、私はすごく変 わったと思います。中学 の頃 ころ は、人と違 ちが う意見を言うと嫌 きら われてしまう雰 ふん があった ので、いつも自分の意見を抑 おさ えていました。そして高校で書道 部に入った頃 ころ も、あまり自分の意見を言わないようにしていまし た。でも先生から「自分の意見を抑 おさ えていても人に伝 つた わらないよ」 と言われ、勇 ゆう を出して自分の思いや考えを主 しゅ ちょう してみました。 そのとき、みんなはきちんと受 け止めてくれたんです。それから、 私は自分の意見をきちんと伝 つた えられるようになりました。 私たちの書道部では、みんなが協 きょう りょく して一つの作品を作り上 げるパフォーマンス書道も行っています。多 すう で行うため、そ れぞれの意見が食い違 ちが ってしまうこともあります。そういうとき こそ、自分の意見を言うことがとても大切だと思います。例 たと えば、 「書道ガールズ甲 こう えん 」のための練 れん しゅう をしていたとき、パフォ ーマンスを重 じゅう てん てき に練 れん しゅう するのか、それとも書道に比 じゅう を置 のか、部 いん 二人の意見が割 れたことがありました。両 りょう しゃ は黙 だま み気まずい雰 ふん でした。私は二人に「怒 おこ っている理 ゆう を言 わないと伝 つた わらないし、相手の意見も聞かないとわからないよ」 と伝 つた えました。そのことで、お互 たが いが気持ちを伝 つた え合 うことが でき、解 かい けつ できました。このような経 けい けん から、自分の意見はき ちんと相 あい に伝 つた えることで、人は理 かい し合 えるということを学 びました。 苦しみを乗り越えて 私は、日々の練 れん しゅう で気がついたことや 先生のことば、ひと つひとつをすべて大 事にしています。そ して、それらを次 つぎ れん しゅう に生かすために 毎日ノートに記 ろく ています。もう 7 冊になりました。 そのなかでも 3 年生の夏休みに書いた「自分を素 なお にさらけ だす。ありのままを感 かん じる!」ということばには忘 わす れられない思 い出があります。 そのころ私は、パフォーマンス書道、展覧会や大会に出品す る作品が、思うように書けず、教わったことをうまく表 ひょう げん できな くなっていました。力を入れようとすればするほど空 から まわ りして、 うまくいっている部 いん をうらやましく思ったり、わからないこと 書道の魅力を伝えたい あいか ……埼 さい たま けん りつ かわ ぐち 高校 3 年 * あいかさんの声は、「くりっくにっぽん」で聞けます。 川口高校書道部 れん しゅう は月曜日~金曜日の午前 5 時~ 8 時半、午後 4 時~ 8 時頃 ごろ 大きな大会の前は土日も練 れん しゅう します。主にパフォーマンス書道の動 きを練 れん しゅう したり、大会に提 てい しゅつ する作品を作ったりします。その後は ぜん いん で反 はん せい かい をして練 れん しゅう を振 り返 かえ ります。先生からじっくり筆 ふで 使 づか を習うこともあります。先生は毎朝スープを作ってくれるので、そ れも楽しみのひとつです。 活動: Q ぜん こく の展 てん らん かい へ年間 30 大会出品 Q 毎年末に校 こう がい てん 「川 かわ こう しょ てん 」を開 かい さい Q パフォーマンス書道(日本テレビ「ズームイン !! SUPER」主 しゅ さい 「書 道ガールズ甲 こう えん 」三 さん かい れん ぞく ゆう しょう 書道が大好きで、小学校 3 年生か ら書道教室に通っています。書道 の楽しさや魅 りょく をたくさんの人た ちに伝えていきたいです。 パフォーマンス書道の筆 ふで 。墨 すみ を吸うと1 本約 10 キロ。これを 2 本束 たば ねて使うことも。 すみ は一つの作品を書くのに 3 リットルは使います。 © TJF © TJF

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 中学生のとき書道教室で「書の甲こう

子し

園えん

」の作品集を見ました。そこには川口高校書道部の先

せん

輩ぱい

の作品が載の

っていました。それまで、書道はお手本通りに書くものだと思っていたのですが、その作品は違

ちが

っていました。圧あっ

倒とう

されるほど力強く、迫はく

力りょく

がある書体で、今までの書道のイメージが変わりました。それがきっかけでこの先

せん

輩ぱい

のいる書道部に入りたいと思い、川口高校に入学しました。

伝えることの大切さ 書道部に入ってから、私はすごく変

わったと思います。中学の頃

ころ

は、人と違ちが

う意見を言うと嫌きら

われてしまう雰ふん

囲い

気き

があったので、いつも自分の意見を抑

おさ

えていました。そして高校で書道部に入った頃

ころ

も、あまり自分の意見を言わないようにしていました。でも先生から「自分の意見を抑

おさ

えていても人に伝つた

わらないよ」と言われ、勇

ゆう

気き

を出して自分の思いや考えを主しゅ

張ちょう

してみました。そのとき、みんなはきちんと受

け止めてくれたんです。それから、私は自分の意見をきちんと伝

つた

えられるようになりました。 私たちの書道部では、みんなが協

きょう

力りょく

して一つの作品を作り上げるパフォーマンス書道も行っています。多

数すう

で行うため、それぞれの意見が食い違

ちが

ってしまうこともあります。そういうときこそ、自分の意見を言うことがとても大切だと思います。例

たと

えば、「書道ガールズ甲

こう

子し

園えん

」のための練れん

習しゅう

をしていたとき、パフォ

ーマンスを重じゅう

点てん

的てき

に練れん

習しゅう

するのか、それとも書道に比ひ

重じゅう

を置お

のか、部ぶ

員いん

二人の意見が割わ

れたことがありました。両りょう

者しゃ

は黙だま

り込こ

み気まずい雰ふん

囲い

気き

でした。私は二人に「怒おこ

っている理り

由ゆう

を言わないと伝

つた

わらないし、相手の意見も聞かないとわからないよ」と伝

つた

えました。そのことで、お互たが

いが気持ちを伝つた

え合あ

うことができ、解

かい

決けつ

できました。このような経けい

験けん

から、自分の意見はきちんと相

あい

手て

に伝つた

えることで、人は理り

解かい

し合あ

えるということを学びました。

苦しみを乗り越えて 私は、日々の練

れん

習しゅう

で気がついたことや先生のことば、ひとつひとつをすべて大事にしています。そして、それらを次

つぎ

の練れん

習しゅう

に生かすために毎日ノートに記

録ろく

しています。もう 7冊になりました。 そのなかでも 3年生の夏休みに書いた「自分を素

直なお

にさらけだす。ありのままを感

かん

じる!」ということばには忘わす

れられない思い出があります。 そのころ私は、パフォーマンス書道、展覧会や大会に出品する作品が、思うように書けず、教わったことをうまく表

ひょう

現げん

できなくなっていました。力を入れようとすればするほど空

から

回まわ

りして、うまくいっている部

員いん

をうらやましく思ったり、わからないこと

書道の魅力を伝えたい

あいか……埼さい

玉たま

県けん

立りつ

川かわ

口ぐち

高校3年 *

あいかさんの声は、「くりっくにっぽん」で聞けます。

川口高校書道部 練

れん

習しゅう

は月曜日~金曜日の午前 5 時~ 8 時半、午後 4 時~ 8 時頃ごろ

。大きな大会の前は土日も練

れん

習しゅう

します。主にパフォーマンス書道の動きを練

れん

習しゅう

したり、大会に提てい

出しゅつ

する作品を作ったりします。その後は全ぜん

員いん

で反はん

省せい

会かい

をして練れん

習しゅう

を振ふ

り返かえ

ります。先生からじっくり筆ふで

使づか

いを習うこともあります。先生は毎朝スープを作ってくれるので、それも楽しみのひとつです。

活動:Q全

ぜん

国こく

規き

模ぼ

の展てん

覧らん

会かい

へ年間 30 大会出品Q毎年末に校

こう

外がい

展てん

「川かわ

高こう

書しょ

展てん

」を開かい

催さい

Qパフォーマンス書道(日本テレビ「ズームイン !! SUPER」主しゅ

催さい

「書道ガールズ甲

こう

子し

園えん

」三さん

回かい

連れん

続ぞく

優ゆう

勝しょう

書道が大好きで、小学校 3 年生から書道教室に通っています。書道の楽しさや魅

み力りょく

をたくさんの人たちに伝えていきたいです。

パフォーマンス書道の筆ふで

。墨すみ

を吸うと1本約10キロ。これを 2 本束たば

ねて使うことも。墨すみ

は一つの作品を書くのに 3リットルは使います。

© T

JF©

TJF

をわからないと素す

直なお

に言えなかったりして、苦くる

しんでいました。心が荒

れて、暗くら

くなり、いらいらして人に八つ当あ

たりをしていました。 そんなとき、先生から「うまくできないという事

実じつ

にとらわれず、なぜできないかを分

ぶん

析せき

するといいよ」と言われました。そこで、私は、「思うように書けなくて苦

くる

しい」と思うのではなく「どうしたら思った通りに書けるようになるか」「うまく書けない理り

由ゆう

はなんだろう」と考えるようにしてみました。すると、筆ふで

を持つ力や動かし方を工

夫ふう

すればいいんだと気がつくことができました。それからは思ったような文字が書けるようになりました。今思うと、自分で自分を苦

くる

しめていたんですね。このような経験から、何か苦

くる

しいことに直ちょく

面めん

しても、できないことを素す

直なお

に認みと

めて、考え方を変か

えてみることで解かい

決けつ

できるということに気がつきました。苦

くる

しかったですが、大きな気づきを得え

ることができました。失

しっ

敗ぱい

は成せい

功こう

のもとですね。

夢に向かって 母は、「あいかは、もし書道部に入っていなかったら、ひきこもりになっていたかもしれないね」と言います。私もそう思います。人と交

こう

流りゅう

することが苦にが

手て

だったので、書道部での仲なか

間ま

や先生との出会い、パフォーマンス書道がなければ、学校に行っていなかったかもしれません。私にとって、書道とは生

せい

活かつ

の一いち

部ぶ

、というよりも人生そのものです。将

しょう

来らい

もずっと書道に関かか

わっていきたいと思っています。 私の夢

ゆめ

は、筆ふで

を作る職しょく

人にん

になることです。職しょく

人にん

になるためには、勉強するお金が必

ひつ

要よう

なので、まずは高校卒そつ

業ぎょう

後ご

に書道用品の会社へ就

しゅう

職しょく

することにしました。そこで社会人として経けい

験けん

を積つ

み、夢ゆめ

を叶かな

えるためにお金を貯た

めたいです。今まで、さまざまな種

しゅ

類るい

の筆ふで

を使ってきて、筆ふで

の材ざい

料りょう

によって書いたときの感かん

触しょく

が違ちが

うことに興きょう

味み

をもちました。いろいろと筆ふで

について調べているうちに、おもしろくなってきて、いつか自分で作ってみたいと思うようになりました。 この 3年間、ただ書道の技

術じゅつ

を磨みが

いてきただけではありません。礼

れい

儀ぎ

作さ

法ほう

や精せい

神しん

的てき

な強さも身み

につけました。これらのことは、卒

そつ

業ぎょう

して社会に出ても役やく

に立つと思っています。これからも、失

しっ

敗ぱい

をバネにして次つぎ

へと生かして進すす

んでいきたいです。

書道の魅力 筆

ふで

で書いた文字は、墨すみ

の量りょう

、力の入れ方などで、同じ文字でもまったく違

ちが

って見えます。それから、書いた人の癖くせ

、性せい

格かく

などが表

あらわ

れるので、書いた人の人となりが見た人にも伝つた

わると思います。これが書道の魅

力りょく

ですね。 そして特にパフォーマンス書道は、書いている人だけではなく、見ている人も楽しめるところが魅

力りょく

です。私がパフォーマンス書道を始めたのは、書道部に入ってからです。初

はじ

めは、あんなに大きな紙に書くことにとても驚

おどろ

きました。大きい筆ふで

を持ったときは緊

きん

張ちょう

しました。でも今では、音楽に合あ

わせて動きながら書くことが楽しくて仕方ありません。そして、私たちが楽しんでやっていると、私たちのパフォーマンスを見ている人も楽しそうにしてくれていて、気持ちが伝

つた

わっているんだなと実じっ

感かん

します。書く人と見る人の気持ちがつながることは、とても嬉

うれ

しいですね。

*この記事は 2010 年 2 月に行ったインタビューをもとにまとめました。学年はインタビュー当時のものです。

わたしの好す

きなもの好す

きな文字「進」。私たち書道部の仲

なか

間ま

はこれから、それぞ

れ違う道へ進むけれど、ここで学んだことを大

事にすれば、まっすぐに「進」んでいける、と

思うからです。

好す

きなことば「あきらめない」 今の自分があるのは、つらいことがあっても書道

をあきらめずにきたからです。

好す

きな場所書道部の部室と、自分の部屋。心が落ち着くから。

趣味書道と、書道に関する本を読むこと。榊

さかき

莫ばく

山ざん

が墨すみ

について書いた本

が特に好きです。

http://www.tjf.or.jp/hidamari/

書しょ

道どう

部ぶ

顧こ

問もん

の三み

宅やけ

先生からあいかさんへのメッセージ あいかはこの 3 年間、書道パフォーマンスを通じて、人と支

ささ

え合あ

うことを学んだと思います。ほかの人から支

ささ

えられていること、そして自分もほかの人を支

ささ

えていることを実じっ

感かん

したのではないでしょうか。そのようななかで、あいかは、人を思いやり、気

遣づか

える人に成せい

長ちょう

しました。同時に、自分と向

き合あ

い、少々のことではめげない強さも身み

につけました。 あいかには、他

人にん

の気持ちがわかる大人になってほしいです。そして、自分の気持ちを素

直なお

に表ひょう

現げん

して、いつまでも書と人を愛あい

する人であってほしいです。

川口高校書道部の作品「道」

© T

ARO

© T

JF

この作品のテキストは「くりっくにっぽん」で見られます。