付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京ufj ... ·...

36
中央大学ビジネススクール山本研究室 遠藤正之、松森実、内村光良 中央大学ビジネススクール 山本研究室 1 東京証券取引所のICT戦略 ~経営戦略への貢献~ 2011312

Upload: others

Post on 08-Aug-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

中央大学ビジネススクール山本研究室遠藤正之、松森実、内村光良

中央大学ビジネススクール 山本研究室1

東京証券取引所のICT戦略~経営戦略への貢献~

2011年3月12日

Page 2: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

Agenda

中央大学ビジネススクール 山本研究室2

• 研究の問題意識 仮説設定• これまでの経営戦略とICT戦略分析• 2011年の経営戦略とICT戦略分析

• 組織デザインの変遷• インタンジブルズの蓄積

• ICTシステムを活用した戦略の一体化• 変化への対応力• ICT技術の積極的導入• 新規ビジネスの創造

• 結論• 更に得られた知見• 東証の今後の課題

Page 3: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

はじめに

中央大学ビジネススクール 山本研究室3

2010年新株式売買システムarrowheadは、

「IT Japan Award2010グランプリ」を受賞した

2005年のシステムトラブルに起因する東証のICTシステムへの信頼低下を払拭

主催:日経BP社

歴代受賞者

2007年:セブン・イレブン・ジャパン

2008年:松下電器産業

2009年:三菱東京UFJ銀行

2010年:東京証券取引所

東証のシステムトラブル

•2005年11月1日:全上場銘柄の取引不能•社長の報酬50%カットなどの処分

•2005年12月8日:誤注文取り消し不可•社長が引責辞任

•2006年1月18日:ライブドアショック

•システムの処理能力限界と判断し、自らシステムを停止

Page 4: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

新株式売買システムarrowhead

中央大学ビジネススクール 山本研究室4

開発の背景国際的な取引所間競争で、優位を確保するために世界最高水準システムの開発に着手 海外投資家の台頭、アルゴリズム取引の活発化による処理速度へのニーズ、取引所間のM&A、私設取引所との競争

システムの優位点 高速性:注文応答2ミリ秒、情報配信3ミリ秒を実現 (従来は2-3秒、NY証取5ミリ秒、ロンドン証取4ミリ秒)

拡張性:拡張基準を超えたとき、1週間程度での増強を可能とする (従来は3-6ヶ月)

柔軟性:商品や取引ルール追加、変更に短期間で対応可能 可用性:99.999%以上を確保(5年で10分程度の停止時間)

大和田尚孝「システム改革の成功法」等から筆者が作成

Page 5: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

研究の問題意識 仮説設定

中央大学ビジネススクール 山本研究室5

一般的に既存の大企業では、経営戦略に基づき手段としてICTシステムが構築されると考えられている

しかしながら、優れたICTシステムとICT戦略を持つことにより、逆にICTシステムは、経営戦略(ビジネス戦略)を変革するトリガーになるのではないか

東京証券取引所のICT戦略と経営戦略の変化を、上記の仮説を実証する事例として研究したい

手法として2005年と2008年及び現在(2011年)の戦略の差に着眼し、それを比較研究する

研究テーマ:東京証券取引所のICT戦略~経営戦略への貢献~

Page 6: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

上場企業数は2008年をピークに減少

中央大学ビジネススクール 山本研究室6

2,1492,166

2,237

2,318

2,372

2,413 2,415

2,370

2,3132,290

2,000

2,050

2,100

2,150

2,200

2,250

2,300

2,350

2,400

2,450

2002年3月 2003年3月 2004年3月 2005年3月 2006年3月 2007年3月 2008年3月 2009年3月 2010年3月 2011年1月

東証上場企業数

東京証券取引所資料から筆者が作成

Page 7: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

時価総額も2006年から減少傾向

中央大学ビジネススクール 山本研究室7

306

233

363 377

563 559

396

256

330 315

0

100

200

300

400

500

600

2002年3月 2003年3月 2004年3月 2005年3月 2006年3月 2007年3月 2008年3月 2009年3月 2010年3月 2011年1月

東証時価総額(兆円)

東京証券取引所資料から筆者が作成

Page 8: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

収益を下支えする情報関係収入・その他の営業収益

中央大学ビジネススクール 山本研究室8 東京証券取引所HP資料から筆者が作成

2002年3

月期

2003年3

月期

2004年3

月期

2005年3

月期

2006年3

月期

2007年3

月期

2008年3

月期

2009年3

月期

2010年3

月期

2010年1

年間

取引参加料金 19 17 21 21 29 33 35 26 22 21

上場関係収入 8 9 10 11 14 13 10 8 13 11

情報関係収入 6 7 7 8 9 10 11 11 11 11

証券決済関係収入 3 3 5 9 12 13 14 11 7 7

システム開発・運用関係収入 4 2 4 2 3 3 3 8 0 0

その他の営業収益 4 4 2 2 2 3 3 4 8 7

0

5

10

15

20

25

30

35

40

単位:10億円

営業収益の内訳情報関係収入

その他の営業収益

Page 9: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

東京証券取引所の過去10年の歩み

中央大学ビジネススクール 山本研究室9

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

株式会社化

大規模システム障害 C

I

O

招聘

新株式売買システム

(a

r

r

o

w

h

e

a

d)稼働

グローバル金融危機

ライブドア事件 持

ち株会社設立

上海市場に売買代金で

抜かれる

コロケーションサービス開始

当期純利益二百億円(最高)

システム子会社非子会社化

社長辞任

日本証券クリアリング機構設置

ジャスダック証券取引所開設

東京

A

I

M

プロ向市場開設

中期経営計画

I

T

マスタープラン設定

新株式売買システム開発着手

東京市場の力(イメージ)

ICTシステムの信用力(イメージ)

出所:筆者が東証資料等をもとに作成

システム障害

1

9

9

9

年立会場閉場

グランプリ受賞

Page 10: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

経営戦略とICT戦略

中央大学ビジネススクール 山本研究室10

2005年 2008年

経営戦略

中期経営計画(2005~2007)

1.上場株式の投資魅力向上と投資魅力の高い企業の上場促進

2.一層効率的で信頼される市場インフラの構築

3.証券知識の普及と個人投資者層の拡大

4.アジアにおける有力取引所としての地位確立

5.組織の構造改革

中期経営計画(2008~2010)1.デリバティブ市場拡大2.現物市場の厚み増大3.安全で高性能な取引システム提供4.株主投資者の権利利益の保護5.東証市場の公正性、信頼性の向上6.企業効率・顧客満足度の向上

7.金融リテラシーの向上を通じた個人投資家層の拡大

ICT

戦略

1.安定的な市場運営の確保のためのシステムインフラの強化

2.適時適切に処理能力の向上を図り、計画的なシステム構築、リプレイスを実施

1.全体最適を念頭に新システムの導入、既存システムの増強

2.システムの品質管理の徹底とセカンダリーサイト構築

3.最新の技術を活用したシステム構築及びシステム拡張の実施

4.市場ニーズを満たしたシステムの迅速な実現5. ITの全体最適による機能再編及び組織・業務の最適化・高度化の実現

6.市場運営の安定性確保及び事業継続態勢の強化

7.品質管理プロセス及びプロジェクト管理の強化

出所:東京証券取引所決算短信の記載より作成

Page 11: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

仮説に基づく戦略イメージ図

中央大学ビジネススクール 山本研究室11

ITマスタープラン

(ICT戦略)経営戦略

ICTシステムが経営戦略を変革するトリガー

ICTシステム

一般的方向

仮説

Page 12: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

CIOインタビューを実施 (2011年2月1日)

中央大学ビジネススクール 山本研究室12

東証のCIOに、2006年から就任元NTTデータ子会社社長の鈴木義伯氏

■主な経歴

1972年 日本電信電話公社に入社

1988年7月 NTTデータ通信(当時)に移り、金融シ

ステム担当部長に就任

2001年 取締役金融システム事業本部第二金融シ

ステム事業部長

2004年 リージョナルバンキングシステム事業本部

2005年6月 NTTデータフォースの社長に就任

東京証券取引所 専務取締役 CIO 鈴木義伯氏

出所:日経ビジネスHP等より作成

Page 13: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

鈴木CIO着任後の取組(インタビュー結果より)

中央大学ビジネススクール 山本研究室13

システムの安定稼働が最優先

2006年5月にシステム設計の変更を実施

将来のデータ量増加に耐えられないと判断したため、2006年後半~2007年初頭にかけて、E Aの手法で全体最適を図る

2007年EAを本格的にITマスタープランへ盛込み

大胆な組織の改革、高スキル要員の外部調達

*EAとは、Enterprise Architectureの略であり、全社業務のグランドデザインをシステムの観点で可視化する手法である

Page 14: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

東証第一部の時価総額、売買高一日平均・株価平均

中央大学ビジネススクール 山本研究室14 CIOインタビュー時提供資料及び日経新聞2月23日

システム売買による取引件数の増加があり 処理能力への要請は高い(株価下落にも関わらず、市場第一部の売買高は高水準 )

2005年11月のピーク時から売買高は、高水準 株価が2分の1程度に下落していることを考えれば取引件数は2倍程度になっている

Page 15: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

2011年の経営戦略とICT戦略

中央大学ビジネススクール 山本研究室15

経営戦略

ICTシステムの高速化と変化への対応力の向上

中期経営計画(2011~2013)3月下旬公表(以下は、鈴木CIOインタビューに基づく筆者予想)

1. アジアでの中核市場としての地位確立2. デリバティブ市場と現物市場の取引拡大3. システムの安定稼働と高速化、機能充実4. システムやサービスの販売等、新規ビジネスの推進5. 株主投資者の権利利益の保護6. 東証の公正性、信頼性の向上7. 顧客満足度向上と個人投資家層の拡大

ITマスタープラン(2011~2013)3月下旬公表(以下は、筆者予想)1. デリバティブ取引システムの一体化2. 顧客ニーズに対応したシステムの高速化、機能充実3. 業務改革推進とITの全体最適見直しによる保守の最適化の実現4. 市場運営の安定性確保及び事業継続態勢の強化5. 品質管理プロセス及びプロジェクト管理の定着

出所:CIOインタビューに基づき作成

ICT戦略

Page 16: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

組織デザインの変遷

中央大学ビジネススクール 山本研究室16

2005年管理部門・経営企画部(IT企画担当)

決済部門(清算システム担当)

市場部門(売買システム担当)

情報サービス部門(情報システム担当)

東京証券取引所グループIT企画部

東京証券取引所システム本部・ITサービス部・IT開発部売買システム担当清算システム担当情報システム担当

・品質管理部

2008年 2011年

東京証券取引所グループIT企画部・業務改革推進室

システム本部

IT開発部ITサービス部ITビジネス部IT品質管理部

コロケーション推進室営業本部

東京証券取引所

部門別にシステム担当が存在

システム本部でICT統括管理

ICTによる新規ビジネス部門設立

出所:東京証券取引所決算短信とCIOインタビュー時提供資料等より作成

Page 17: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

ICTのインタンジブルズの蓄積

中央大学ビジネススクール 山本研究室17

2005年 2008年 2011年

ICTガバナンス

未確立:部門が独自にシステム導入

EAの全体最適を実施

全体最適を目指す組織デザインへの変更

システムの重要度(4段階)別の発注プロセス標準化(2008年~2009年制定)

人的資本CIO不在(リーダーシップを取る者がいない)

CIO招聘(2006年~)NTTデータ等外部からの要員調達(40人)

arrowhead:プロパー20人、富士通50人での運用体制の確立(ベンダーとの協業の成功)

組織資本システム毎の組織・開発運用一体・子会社の整理未済

開発体制一体化・システム本部・運用の分離・子会社の整理

システムの重要度(4段階)別の開発主体ルールコロケーション推進室(2009年)営業本部の新設(2011年)

情報資本株式・CB売買システリプレース情報系第5次システム拡張

ToSTNeT及び、先物/オプション売買システムリプレース

10月先物取引システム更改予

定[オプション取引システムTdex+(2009年リリース)との一体化]arrowhead、Tdex+の機能強化

※インタンジブルズ:無形資産(バランスシートに載らない資産)であるが、ICT戦略には極めて重要な要素である

出所:CIOインタビューに基づき作成

Page 18: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

戦略イメージ図(2005年)

中央大学ビジネススクール 山本研究室18

ITマスター

プラン(ICT戦略)

経営戦略

ICTシステム

ICT戦略は経営戦略の一部

システム安定稼働が最優先

Page 19: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

戦略イメージ図(2008年)

中央大学ビジネススクール 山本研究室19

ITマスタープラン

(ICT戦略)

経営戦略

独立したICT戦略構築

ICTシステム

全体最適を意識したICT戦略

EAに基づいたシステム設計の変更

安全で高性能な取引システム

Page 20: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

戦略イメージ図(2011年)

中央大学ビジネススクール 山本研究室20

ITマスタープラン

(ICT戦略)経営戦略

ICTシステムを活用した戦略の一体化

ICTシステム

新規ビジネスの創造

変化への対応力

ICT最新技術の積極的導入

デリバティブ取引強化

デリバティブシステムリプレース

安定稼働、高速化

インタンジブルズ

Page 21: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

変化への対応力の向上(ICT戦略→経営戦略)

中央大学ビジネススクール 山本研究室21

ICTシステムのスケーラビリティ確保→経営戦略の変更、外部環境の変化、取引量増大にも柔軟に対応可能

ICTガバナンスの確立(発注者責任明確化の文化)→変化にも主体的に対応できるようになった(ベンダーロックインからの脱却)

優れたICT戦略が経営戦略を実現する礎となる

Page 22: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

ICT最新技術の積極的導入(ICTシステム→ICT戦略)

中央大学ビジネススクール 山本研究室22

最新ICT技術を積極的に取込む→常にICTの進化の恩恵を受けるビジネスモデルの企業であり続ける 2011年から向こう3年でその他のシステムも、最新技術を適用する

理由は現在のインターフェースはインターネット普及以前のものであり現在では通用しない(鈴木CIOインタビューより)

優れたICTシステムを持つことがICT戦略の礎となる

Page 23: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

新規ビジネスの創造(ICTシステム→経営戦略)

中央大学ビジネススクール 山本研究室23

コロケーションサービスの拡販(「その他の営業収益」に貢献)

東証データセンター隣接箇所に投資家のシステムを設置させ、一層の高速取引を可能とさせるサービス

東証システムヘ32マイクロ秒で接続可能(通常は3~9ミリ秒)

プロキシミティサービスの提供(「その他の営業収益」に貢献)

アクセスポイントにあり、東証以外(大証など)の取引との高速な接続をサポート 392マイクロ秒

指数高速配信サービス(「情報関係収入」に貢献)

TOPIX指数の高速提供(従来の100分の1の速度)

優れたICTシステムがビジネスを創造し収益に貢献

Page 24: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

結論

中央大学ビジネススクール 山本研究室24

東京証券取引所の事例は、上記仮説を実証する事例として、適切であることが検証された

公共性が高いビジネス形態でありながら、ICTシステムとICT戦略が、経営戦略を変革している

変化への対応力向上

ICT最新技術の積極的導入

新規ビジネスの創造

仮説:優れたICTシステムとICT戦略を持つことにより、既存大企業においても、ICTシステムは、経営戦略(ビジネス戦略)を変革するトリガーになる

Page 25: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

更に得られた知見

中央大学ビジネススクール 山本研究室25

失ったICTシステムの信用回復には、目に見える成功が必要

2006年から約4年の年月をかけて、arrowheadプロジェクトの開発と並行して、ICTガバナンスの確立とインタンジブルズの蓄積を進めていた

(単なる1プロジェクトの成功ではない)

上流工程での要件定義書詳細化、レビュー徹底と品質管理部のチェック

外部の高いスキルを持つ人的資源(約40名)の力を借りた

全体最適化を実現するための組織の度重なる改革

発注者責任明確化の企業文化への改革が実現

ICTガバナンスの確立には、経営トップのICT戦略へのコミットメントと、CIOのリーダーシップが重要

Page 26: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

ICTガバナンスの向上

中央大学ビジネススクール 山本研究室26

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

C

I

O

招聘

中期経営計画

I

T

マスタープラン設定

EA導入

出所:筆者が東証資料とインタビューをもとに作成

ICTガバナンス(イメージ)

ERP導入

グランプリ受賞

東京市場の力(イメージ)

ICTシステムの信用力(イメージ)

オプションシステム稼働

オプションシステム海外パッ

ケージ導入方針決定

現行システム増強

先物もオプションシステムに統合

Page 27: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

東証を取り巻く現在(2011年)の課題

中央大学ビジネススクール 山本研究室27

世界的な証券取引所の再編の動き

私設取引所(PTS)の台頭 伝統的収益源の手数料収入の減少

今後の収入源の強化の必要性 デリバティブ (大証は新デリバティブ売買システム J-GATEをリリース)

清算、決済業務

取引システムやデータ販売(マレーシア入札へ参加予定)

戦略的、先進的なICT投資の必要性自動売買システム(アルゴリズム取引)による取引増加 東証はarrowheadでこれに対応

ICTシステムの発達によりこれらのことが起こっている

Page 28: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

2011年 5 Forces 分析

中央大学ビジネススクール 山本研究室28

【取引所間競争】更に強まる

上海、深圳、シンガポール、香港欧米有力証券取引所間のM&A

【新規参入の脅威】私設取引所 9社(増加)

強くなってきた

【売り手の交渉力】

上場企業2290社(減少)

やや強まるアジアで上場する企業が出てきている

【買い手の交渉力】

強い

証券会社294社(減少)

投資家*HFT

【代替材の脅威】MBOが数多く発生

(間接金融での資金調達)

*HFT: High-Frequency Trading「高頻度取引」

売り手が減り、買い手が変わり、参入代替は増加

Page 29: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

2011年のSWOT分析

中央大学ビジネススクール 山本研究室29

強み 弱み

• ICTガバナンス確立• arrowhead稼働• コロケーションサービス• プロキシミティサービス• 指数高速配信サービス

•デリバティブシステム投資が遅れる

機会 脅威

• 証券市場のグローバル化• 日本の個人金融資産の厚み• 東証とNY証取取引ネットワークの相互接続検討

• マレーシアへのシステム入札• 大証との統合協議

•海外取引所との競争•MBO(上場廃止)の増加•(株式での資金調達の魅力度の減少)•NY・独証券取引所合併決定•海外私設取引所(PTS)の合併構想•東証の孤立化の懸念

⇒ICTシステムとICT戦略高度化で経営戦略を支える

Page 30: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

中央大学ビジネススクール 山本研究室30

Appendix

Page 31: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

日米株式市場形態違い

中央大学ビジネススクール 山本研究室31

グリーンシート(少ない(200銘柄ほど)

東証1部

Jasdaq地方取引所

東証2部

新興市場 ローカル市場

ピンクシート

NYSE

Nasdaq

ECN=PTS(私設市場)

地方取引所(全体の10%

ほど)

取引所 OTC(店頭)

【日本】 【米国】「証券ファイナンス」講義説明から作成

Page 32: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

東京証券取引所のビジネスモデル

中央大学ビジネススクール 山本研究室32

営業収益(2010年3月期) 60,655百万円

取引参加料金(株式・デリバティブ) 21,727百万円

上場関係収入 13,271百万円

情報関係収入 10,727百万円

証券決済関係収入 7,247百万円

その他 7,691百万円

株式の売買の取引参加料

デリバティブ(派生商品)取引の参加料

企業上場の審査等の手数料

増資の審査等の手数料

相場等の情報提供ビジネス

清算システムの提供

東京証券取引所HP資料から筆者が作成

Page 33: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

2005年 東証の5 Forces分析

中央大学ビジネススクール 山本研究室33

【取引所間競争】強まってきた

アジアではトップ、NYやナスダックが視野

【新規参入の脅威】私設取引所4社

やや強まりつつある

【売り手の交渉力】

上場企業2318社

弱い

【買い手の交渉力】

さほど強くない

証券会社284社

投資家

【代替材の脅威】ない

Page 34: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

2008年 東証の5 Forces分析

中央大学ビジネススクール 山本研究室34

【取引所間競争】強まる

取引システムの処理能力競争の激化

NYSE0.005秒ロンドン0.004秒

【新規参入の脅威】私設取引所 8社(増加)

強まりつつある

【売り手の交渉力】

上場企業2415社(増加)

弱い

【買い手の交渉力】

強まりつつある

証券会社322社(増加)

投資家

【代替材の脅威】ない

Page 35: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

フィードバック型V字モデル(arrowheadプロジェクト)

35

従来テストフェーズで作成していたテスト項目を、設計と並行して作成することで、設計書の品質向上を図る (W字モデル)

更に従来型の黒線のフィードバックに加え、赤矢印のフィードバックを、積極的に入れ、不具合を早期発見 (フィードバック型V字モデル)

発注者主導でのICT開発により実現できたもの

要件定義

基本設計

プログラム設計

詳細設計

コーディング

単体テスト

結合テスト

システムテスト

運用テスト要件エラー発見

基本設計エラー発見

詳細設計エラー発見

PG設計エラー発見

修正、手戻

修正、手戻

修正、手戻

修正、手戻

出典:システム監査人協会月例研究会資料をもとに筆者が作成

テスト項目

テスト項目

テスト項目

テスト項目

テスト項目

テスト項目

テスト項目

テスト項目

中央大学ビジネススクール 山本研究室

Page 36: 付加価値連鎖への寄与と 技術開発項目の評価指標 (三菱東京UFJ ... · 2011-05-22 · Agenda 2 中央大学ビジネススクール山研究室 •研究の問題意識仮説設定

東証を取り巻く環境2011年補足

中央大学ビジネススクール 山本研究室36

世界的な証券取引所の再編の動き

アジア市場の台頭売買代金:上海市場にアジアTOPを譲る,2009,2010

世界3大証券市場からの脱落

私設取引所(PTS)の台頭手数料収入の低迷

現物取引中心デリバティブ取引への対応の遅れ 国内では、大阪証券取引所がトップ(世界では16位:2009年)

韓国取引所はデリバティブ世界一に(CMEを抜く)