調査概要 - mod...調査概要 【1.調査テーマ】 【2.調査目的】...

116

Upload: others

Post on 19-Feb-2020

9 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

調査概要

【 1.調査テーマ 】

【 2.調査目的 】

【 3.調査対象 】

作業用途衣料の難燃化に関する最新技術動向調査

本調査は、作業用衣料の難燃化に関する最新技術動向を調査し、貴隊の難燃性を有する戦闘服等の開発に

有用な情報を把握することを目的に実施した。

<国内難燃繊維・生地メーカー(7社)>

①東レ

②クラレ

③東洋紡

④ユニチカトレーディング

⑤倉敷紡績

⑥オーミケンシ

⑦帝人

【 4.調査方法 】

弊社専門調査員による調査対象繊維メーカー、作業用衣料メーカーへのヒアリング調査を実施

【 5.調査期間 】

2017年12月11日~ 2018年3月29日

<海外難燃繊維・生地メーカー(1社)>

①ダウ・デュポン

<海外関連協会(1社)>

①NFPA(米国防火協会)

<国内作業用衣料メーカー(5社)>

①ミドリ安全

②アイトス

③コーコス信岡

④自重堂

⑤帝國繊維

【難燃繊維主要ブランド】

【難燃繊維性能の比較】

作業用途衣料の難燃化に関する最新技術動向調査の要旨

・デュポンと帝人がアラミド繊維市場を牽引

・カネカは難燃アクリル繊維を積極的に海外展開

・レンチングは世界中の軍隊で納入実績が豊富

・難燃ビニロンは日本国内に需要が集中

・PBO繊維は東洋紡の独占市場

・PBI繊維は米国の消防服用途で採用がみられる

\ パラ系アラミド メタ系アラミド アクリル レーヨン ビニロン PBO PBI ポリエステル

引張強度

(cN/dtex)  引張弾性率

  (cN/dtex)  破断伸度

  (%)

  密度  (g/cm3)  水分率

 (%)

 LOI値

 耐熱性

 (℃)  溶融性

  特徴

高強度、高弾性率、耐熱性、難燃性、耐衝撃性

耐熱性、難燃性

耐熱性、難燃性、耐薬品性

高強度、高弾性率、耐熱性、難燃性、耐衝撃性

耐熱性

3

40

30

1.40

15

41

550

非溶融

1,150

3.5

1.54

2.0

68

650

3.5~5.7

1.30

4.5~5.0

32

37

110

25

1.38

0.4

17

260

20.3

29

非溶融 非溶融

0.6~1.0

25~32

29

550

124

22

1.38

4.5

29

400

1.9~3.5 2.31 8

非溶融 非溶融 非溶融 非溶融 溶融

19 5

750

2.4

1.45

4.5

TOPICS

【各種難燃繊維の総合評価】

【難燃繊維・生地に関する技術の課題及び今後の方向性】

・難燃性ではアラミド、ビニロン、PBOが突出

・強度はPBO繊維とパラ系アラミドが優位

・耐薬品性はビニロンが秀でている

・染色性はビニロン及び難燃レーヨンが良好

・風合いは難燃アクリル、難燃レーヨンが良好

・コスト面は難燃アクリルが低価格で優位

\ 難燃性 強度 耐薬品 染色性 風合い コスト

パラ系アラミド 5 5 4 1 1 2

メタ系アラミド 5 4 4 3 3 2

難燃アクリル 4 3 2 4 5 5

難燃レーヨン 4 3 3 5 5 4

難燃ビニロン 5 4 5 5 4 4

PBO 5 5 3 1 1 1

・中小企業では後加工品のニーズが高い洗濯により機能は幾分低下

・難燃アクリル繊維は燃焼時のシアンガス発生が対処すべき課題

・メタ系アラミド繊維は染色性の課題を克服しつつある

・アラミド繊維はピリング発生も改善傾向

TOPICS

TOPICS

Ⅰ. 総括編

1.難燃繊維・生地の市場規模に関する全体推移及び種類別構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

2.難燃繊維・生地の種類別特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

3.難燃繊維・生地の規格・基準の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

4.難燃繊維・生地に関する業界及び使用者の状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

5.難燃繊維・生地の屋外の汎用的な作業用途を想定した機能性、価格等の比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

6.難燃繊維・生地に関する技術の現在の傾向及び今後の方向性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

Ⅱ. 難燃繊維・生地の国内外技術基盤

<国内難燃繊維・生地メーカー>

1.東レ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

2.クラレ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

3.東洋紡 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

4.ユニチカトレーディング ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40

5.倉敷紡績 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47

6.オーミケンシ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54

7.帝人 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 追加1~8

<海外難燃繊維・生地メーカー>

1.ダウ・デュポン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60

<海外関連協会>

1.NFPA(米国防火協会) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74

Ⅲ. 難燃繊維・生地を使用した作業用途衣料の事例

<国内作業用衣料メーカー>

1.ミドリ安全 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82

2.アイトス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86

3.コーコス信岡 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89

4.自重堂 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93

5.帝國繊維 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97

目 次

Ⅰ.総括編

(1)難燃繊維・生地の市場規模に関する全体推移及び種類別構成

■世界の難燃繊維市場規模推移(金額)

1,658 1,803 2,000 2,200 2,480

1,590 1,930 2,205 2,265 2,1001,5671,617

1,667 1,733 1,800496532

565 600 636

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

・難燃繊維の売上高は堅調に推移しており、2017年で7,945億円に達している。

・最も金額規模が大きいのは2,480億円のパラ系アラミド繊維であり、2017年時点で難燃繊維の3割

強を占めている。次いで難燃アクリル繊維が26.4%、難燃レーヨン繊維が22.7%、メタ系アラミド繊

維が9.1%の順で続いている。

・その他は難燃ポリエステル製品などをさすが、後加工により難燃性を付与した製品は含まない。

(億円)

パラ系アラミド繊維

6,0776,658

7,2667,683

7,945

メタ系アラミド繊維 難燃アクリル繊維

難燃レーヨン繊維 難燃ビニロン繊維 PBO繊維

PBI繊維 その他難燃

(年)

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

金額(億円) 1,658 1,803 2,000 2,200 2,480構成比(%) 27.3% 27.1% 27.5% 28.6% 31.2%金額(億円) 585 603 630 680 720構成比(%) 9.6% 9.1% 8.7% 8.9% 9.1%金額(億円) 1,590 1,930 2,205 2,265 2,100構成比(%) 26.2% 29.0% 30.3% 29.5% 26.4%金額(億円) 1,567 1,617 1,667 1,733 1,800構成比(%) 25.8% 24.3% 22.9% 22.6% 22.7%金額(億円) 115 105 123 120 125構成比(%) 1.9% 1.6% 1.7% 1.6% 1.6%金額(億円) 34 35 41 48 48構成比(%) 0.6% 0.5% 0.6% 0.6% 0.6%金額(億円) 33 33 35 37 36構成比(%) 0.5% 0.5% 0.5% 0.5% 0.5%金額(億円) 496 532 565 600 636構成比(%) 8.2% 8.0% 7.8% 7.8% 8.0%金額(億円) 6,077 6,658 7,266 7,683 7,945

前年比 - 109.6% 109.1% 105.7% 103.4%

 PBI繊維

 その他

合計

 パラ系アラミド繊維

 メタ系アラミド繊維

 難燃アクリル繊維

難燃レーヨン繊維

難燃ビニロン繊維

 PBO繊維

1

■難燃繊維の主なブランド

種類 ブランド名 メーカー

ケブラー デュポン(米国)トワロン Teijin Aramid BV (オランダ/日本)

テクノーラ 帝人ノーメックス デュポン (米国)

コーネックス 帝人カネカロン

プロテックス

難燃レーヨン繊維 レンチングFR レンチング (オーストリア)

バイナール クラレミューロンFR ユニチカ

PBO繊維 ザイロン 東洋紡 PBI繊維 PBI PBIパーフォーマンスプロダクツ (米国)

難燃ビニロン繊維

カネカ

パラ系アラミド繊維

メタ系アラミド繊維

難燃アクリル繊維

・上の表は日本メーカーを中心に、難燃繊維の主なブランドをまとめたものである。

デュポンと帝人がアラミド繊維市場を牽引

・パラ系アラミド繊維は1960年代に米国のデュポン社によって開発された化学繊維であり、「ケブ

ラー®」のブランドで展開している。その後、オランダのアクゾ社によって「トワロン®」が開発さ

れた。

・「トワロン®」は2000年に帝人が当時のACORDIS社に対する事業買収によって承継し、独自開発

した「テクノーラ®」を並行して展開している。パラ系アラミド繊維市場はデュポンと帝人が2強体

制を敷いており、両社併せて世界シェアの2/3以上を占めている。

・2016年3月、「テクノーラ®」の生産を10%増強することを公表している。

・メタ系アラミド繊維は「ノーメックス®」のブランドで展開する米国でデュポン社が生産能力・販

売量の面で他社を大きくリードする市場である。主なコンペティターはパラ系アラミド繊維と同様に

帝人であり、「コーネックス®」のブランド名で展開している。2015年にタイにある子会社テイジ

ン・コーポレーションがメタ系アラミド繊維の生産設備を新規導入し、デュポン社への追撃を図って

いる。

・このほか中国の煙台泰和新材料(Yantai Spandex)や広東彩艶(Guandong Charming)、韓国

のHuvisなどアジア諸国のメーカーが生産量を増加させている。また、東レの子会社である東レ・ケ

ミカル・コリアでも2016年よりメタ系アラミド繊維「アラウィン」の生産を開始している。

カネカは難燃アクリル繊維を積極的に海外展開

・難燃アクリル繊維の市場ではカネカが積極的に海外市場へ展開している。同社が展開する主要ブラ

ンドはモダクリル難燃繊維「カネカロン®」及び「カネカロン®」の難燃性を向上させた「プロテッ

クス®」であり、両ブランドの販売先は8割が海外市場をターゲットとしている。アラミド繊維と比

較して低コストで難燃繊維を提供できることから、消防や電力、石油・ガス関連の作業着などユニ

フォーム向け用途が堅調に推移している。また、国内企業では倉敷紡績、東レなどの他の繊維・紡績

メーカーに対しても「プロテックス®」を供給している。

2

レンチングは世界中の軍隊での納入実績が豊富

・難燃レーヨン繊維のカテゴリではオーストリアに本拠地を構えるレンチング・ファイバーズが展開

する「レンチングFR®」が著名である。レンチング・グループは全世界でセルロース系繊維を年間

100万トン生産している巨大メーカーであり、「レンチングFR®」はモダールをベースにリン系難燃

剤を練り込んだ高強度セルロース繊維である。レンチング社の難燃繊維の生地はNATOを形成する米

国、西欧を中心に軍隊の戦闘服として採用されており、代表的なのがオランダのTenkate(テンカ

テ)社が製造する「ディフェンダー®M」である。「ディフェンダー®M」は「レンチングFR®」を

65%、パラ系アラミド繊維「トワロン®」を25%、ナイロンを10%混紡した製品であり、メタ系ア

ラミド繊維「ノーメックス®」、「コーネックス®」に対して、コスト面で優位に立っている。

・軍需のほか、「レンチングFR®」は世界中の警察、化学工場、アルミニウム工場、製鉄所、石油・

ガス産業、溶接の現場などで採用されている。

・日本における輸入代理店は総合商社である双日の化学本部が担っている。

難燃ビニロンは日本国内に需要が集中

・難燃ビニロン繊維はクラレが1950年11月に国産技術により初めて工業化した合成繊維である。現

在ではクラレおよびユニチカトレーディングが製造を行っている。他の難燃繊維と比較して、需要が

日本国内に集中しているのが特色であり、防護服のほか、建築・土木資材や産業資材としての用途も

あるが、需要の殆どは防衛省での自衛隊員用戦闘服・作業服向けであるとみられる。

PBO繊維は東洋紡の独占市場

・PBO繊維市場は、東洋紡の独自素材「ザイロン®」の独占市場となっている。近年、中国企業など

が台頭するアラミド繊維やPPS繊維など、「ザイロン®」と同じく耐熱性、難燃性の高い素材との競

合が激化しているが、性能や価格帯に大きな差があり、PBO繊維の需要は比較的安定している。産業

分野で耐熱資材として使用されているのが一般的であり、防護服などアパレル用途での需要には限り

があるものの、アラミド繊維との相性が良いことから消防防火服を中心に需要を開拓している。

PBI繊維は米国の消防服用途で採用がみられる

・PBI繊維市場は、PBIパフォーマンスプロダクツの独自素材「PBI」の独占市場となっている。PBI

繊維は、イソフタル酸ジフェニル(DPIP)とテトラアミノビフェニル(TAB)の重縮合により得られ

たポリマーを、ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、乾式紡糸した芳香族ポリベンゾアゾール

繊維である。セラニーズ社がアポロ宇宙計画用に開発した。

・耐熱、難燃性繊維に分類され、耐薬品性・耐摩擦性に優れ、更に染色可能な繊維である。耐熱性は

310℃超(長時間)、500℃(短時間)などハイエンドのスーパー繊維の位置づけであり、消防服、

防護服、レーシングスーツなどに採用されている。

・米国における消防服用途としての採用実績が豊富であり、売上は安定して推移している。

3

■世界の難燃繊維用途別構成比(金額)

・上の表は難燃繊維の用途別構成比をまとめたものである。

アラミド繊維は用途が多様 アクリル繊維は寝具が多い

・パラ系アラミド繊維は光ファイバーのケーブル、建築補強用途、ゴム補強材、自動車のブレーキパッドなど多様な分野で採用されている。これは耐熱性や高強度性だけでなく、加工のし易さ、高機

能繊維としての認知度の高さが起因しているとみられる。警察・軍需などでは防弾チョッキや防弾ヘ

ルメット等で採用されている。

・メタ系アラミド繊維は耐熱フィルターやゴムベルト・ホースの補強材などの産業資材のほか、防護服、消防服などのユニフォーム衣料用途での採用が多いのが特徴である。自動車関連ではターボチャージャーホースなどに採用される。

・難燃アクリル繊維は素材が持つしなやかさから、毛布やシーツといった寝具、カーテンやカーペットといった用途が多い。また、カネカはウィッグやフェイクファーを展開し、欧米やアフリカなどで需要を獲得している。

産業用機械・

設備18.9%

住宅・土木・

建築15.1%

自動車11.2%

カジュアル衣

料・寝具・家具16.3%産業用

作業服12.6%

航空・海洋・

警察・軍需24.4%

消防服5.7%

その他12.0%

2017年7,945億円

(全体売上)

パラ系アラミド メタ系アラミド アクリル レーヨン ビニロン PBO PBI その他

金額(億円) 700 190 - - 6 30 - 63構成比(%) 28.2% 26.4% 4.8% 62.8% 9.9%金額(億円) 360 - - - 14 5 - 45構成比(%) 14.5% 11.2% 10.5% 7.1%金額(億円) 580 60 200 - - - - 48構成比(%) 23.4% 8.3% 9.5% 7.5%金額(億円) - 50 1,000 180 1 7 - 60構成比(%) 6.9% 47.6% 10.0% 0.8% 14.6% 9.4%金額(億円) 350 100 300 150 6 1 4 90構成比(%) 14.1% 13.9% 14.3% 8.3% 4.8% 2.1% 11.1% 14.2%金額(億円) 350 90 150 1,090 86 1 10 160構成比(%) 14.1% 12.5% 7.1% 60.6% 68.8% 2.1% 27.8% 25.2%金額(億円) 100 60 50 180 10 4 19 30構成比(%) 4.0% 8.3% 2.4% 10.0% 8.0% 8.4% 52.8% 4.7%金額(億円) 40 170 400 200 2 3 140構成比(%) 1.6% 23.6% 19.0% 11.1% 1.6% 8.3% 22.0%金額(億円) 2,480 720 2,100 1,800 125 48 36 636構成比(%) 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.4% 100.0% 100.0%

合計

 消防服

 自動車

 産業用機械・設備

住宅・土木・建築

カジュアル衣料 寝具・家具

 産業用作業服

 航空・海洋・警察・軍需

 その他

4

レーヨン、ビニロン繊維は特需に集中 PBOは産業資材 PBIは消防服中心

・難燃レーヨン繊維は航空・海洋・警察・軍需の構成比が高くなっている。これはレンチング・ファ

イバーズが展開する「レンチングFR®」が軍需の難燃防護服の用途で世界的なシェアを獲得している

ことが大きい。

・また、難燃ビニロン繊維も同様に航空・海洋・警察・軍需の構成比が高くなっている。これは世界のビニロン繊維の約8割を生産する日本のクラレとユニチカが防衛省向けに供給する難燃作業服・戦闘服の構成比が高い為である。・防護服以外の用途では、土木・建築用途の構成比が比較的高い。

・PBO繊維は耐熱資材として産業用機械・設備で使用されるのが一般的である。一部、消防服用途で展開しているが、防護服衣料としての需要は未だ開拓の余地がある。

・これに対して、PBO繊維の競合品とも位置づけられるPBI繊維は防護服としての用途が多く、消防服の構成比が過半数に達している。

5

(2)難燃繊維・生地の種類別特性

■難燃繊維の種類別性能比較

\ パラ系アラミド メタ系アラミド アクリル レーヨン ビニロン PBO PBI ポリエステル

引張強度

(cN/dtex)  引張弾性率

  (cN/dtex)  破断伸度

  (%)

  密度  (g/cm3)  水分率  (%)  LOI値

 耐熱性

 (℃)  溶融性

  特徴

高強度、高弾性率、耐熱性、難燃性、耐衝撃性

耐熱性、難燃性

耐熱性、難燃性、耐薬品性

高強度、高弾性率、耐熱性、難燃性、耐衝撃性

耐熱性

3

40

30

1.40

15

41

550

非溶融

1,150

3.5

1.54

2.0

68

650

3.5~5.7

1.30

4.5~5.0

32

37

110

25

1.38

0.4

17

260

20.3

29

非溶融 非溶融

0.6~1.0

25~32

29

550

124

22

1.38

4.5

29

400

1.9~3.5 2.31 8

非溶融 非溶融 非溶融 非溶融 溶融

19 5

750

2.4

1.45

4.5

・上の表は各種難燃繊維の性能を比較したものである。通常の合成繊維と比較するため、ポリエステルについても表記している。

6

(3)難燃繊維・生地の規格・基準の現状

国 内

海 外

燃えにくい・自己消火・LOI値26が難燃繊維の基準

・一般に「難燃繊維」と称されるのは炎に接した際に、自己燃焼性が低く、自己消火性を持つ

繊維を指している。性能を確認するための試験は幾つかあるが、日本工業規格によるJIS L 1091 E法にって繊維素材の限界酸素指数を計測し、数値が一定以上のものが難燃性を有すると

している。

・「限界酸素指数」とは、「規定された試験条件において、材料がぎりぎり有炎燃焼を維持で

きる酸素と窒素の混合気中の最低酸素濃度」と定義されており、繊維の密度、組織等により多

少は異なるものの酸素指数が高いほど燃えにくく、一般には26以上のものが難燃性と呼ばれている。

・このほか、消防服は所管の消防署によるが、日本防炎協会が定める防炎性機能を求められる。なお、消防庁はISOの規格に基づき、適宜ガイドラインの見直しを行っている。

・海外では米国ではNFPA、欧州ではEN規格などがあり、また各国の法律で防炎・難燃に関してそれぞれ定められている。

・難燃性を判別する試験などは日本と大きくは変わらないが、適用範囲が大きく異なることがある。一例を挙げると、製鉄所で着用する作業服に関して、日本では製鉄炉の前で作業する作

業従事者のみに難燃性繊維を採用した作業服が支給されるが、米国では製鉄所内で働く全ての

作業従事者に支給しなければならない。

◆NFPA(米国)・EN規格(欧州)・ISO等で規定

(NFPA1971、EN ISO11612など)

◆難燃繊維の適用範囲が広い

◆自己燃焼性が低く、自己消火性を持つ

◆JIS規格 L 1091 E法により限界酸素指数が

26以上のもの

◆消防服は日本防炎協会が定める防炎性

能機能が求められる

7

(4)難燃繊維・生地に関する業界及び使用者の状況

■難燃繊維の供給経路

倉敷紡績

デュポン

東レ・デュポン

デュポン・スペシャルティ・プロダクツ

小林防火服

赤尾

クラボウ

インターナショナル

カネカ

ミドリ安全

東レ

帝人

自重堂

イマジョー

東洋紡

帝国繊維

レンチング

双日

日本エクスラン工業

川 上

川下

化繊

メーカー

紡績・紡織

メーカー

衣類

メーカー

川 上

川 下

グループ企業を示す

難燃繊維の供給経路を示す

海外化繊

メーカー

商社

※糸卸・織

物卸を経由

※販売代理

店を経由

・上の図は難燃繊維の供給経路を表した簡略図である。なお、この企業相関図では関連する企業の数が多いもののみ一例として取り上げている。

・難燃繊維は海外の化学繊維メーカーから輸入するか、国内の化学繊維メーカーによって製造され、紡績・紡織メーカー、糸卸・織物卸を経由して衣類メーカーへ供給される。ここでは作業服メーカー、消防服メーカーへの供給経路をまとめている。

作業服メーカー

消防服メーカー

消防服も手掛ける

リネンメーカー

8

■難燃繊維の使用者の状況

・上の表は防護服用途で難燃繊維を使用する作業環境をそれぞれの繊維ごとにまとめたものである。

国内では自衛隊員・消防吏員向け用途が主体

・アラミド繊維事業を展開する帝人・デュポンともに消防服を始めとする防護衣料は重点注力

分野の一つに挙げている。日本国内で難燃繊維を採用した防護衣料の需要は防衛省向けと消防吏員向けに集約されており、防衛省向けではクラレ及びユニチカの構成比が高く、民需では需

要にやや乏しいことから、両社は防火服を始めとする消防吏員向け製品の開発・改善に傾注し

ている。・消防吏員向けの作業服には火炎に曝されても火傷を負わない難燃性はもちろんのこと、近年

では作業性の向上、疲労の低減を図るために、消防服の軽量化、ストレッチ性の向上、動き易

いデザイン、透湿吸収性なども重視されている。

民需では難燃アクリル繊維の需要が高い

・難燃繊維は通常のコットンなどの繊維と比較して、導入コストが高価であるため、民間企業

のエントリーモデルとしては比較的安価な難燃アクリル繊維の需要が高くなっている。カネカ

が製造するモダアクリル系難燃繊維「プロテックス®」を倉敷紡績がコットンと混紡した「ブレバノ®」シリーズが著名である。ミドリ安全、自重堂、アイトス、コーコス信岡などの作業

服製造メーカーを通じて、自動車メーカー、金属加工メーカー、化学工場、食品製造メー

カー、電機メーカー、ガス会社、電力会社などで採用されている。コットンがベースであるため、風合いが良く、吸水性に優れており、また導電性繊維による高い静電気帯電防止性が付与

してある。

・難燃レーヨン製品は海外の軍需用途では広く普及しているが、国内では需要が未だ高くな

い。難燃ビニロン繊維は防衛省向けが殆どであり、PBO繊維は消防吏員向けに特化している。

また、PBI繊維は国内での需要は殆ど無い。

・また、難燃繊維の作業服を一度採用した企業は、その安全性の高さ、着用時の安心感から採

用するブランドを変更することはあっても、難燃繊維の採用を止めて一般的な繊維の作業服に戻るという事例はあまりみられないという。

軍需 消防吏員 消防団員 警察 製鉄所 自動車 金属 石油 化学 電力・ガス 溶接 その他

● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

● ● ● ● ● ● ● ●

● ● ● ● ●

● ● ● ● ● ● ● ●

● ● ● ● ● ●

● ● ● ●

 PBO繊維

 PBI繊維

 パラ系アラミド繊維

 メタ系アラミド繊維

 難燃アクリル繊維

難燃レーヨン繊維

難燃ビニロン繊維

●…難燃繊維を使用する作業環境

9

(5)難燃繊維・生地の屋外の汎用的な作業用途を想定した機能性、価格等の比較

■各種難燃繊維のLOI値と価格の比較

0

2,000

4,000

6,000

8,000

15 20 25 30 35 40 4570

20,000

\1kgあたり

価格の目安LOI値

パラ系アラミド ¥2,500~¥3,500 29

メタ系アラミド ¥2,500~¥4,000 29

アクリル ¥800~¥1,200 25-32

レーヨン ¥1,000~¥1,800 29

ビニロン ¥800~¥1,200 32

PBO ¥18,000~¥20,000 68

PBI ¥10,000~¥15,000 41

・右は各種難燃繊維の1kgあたりのステープル価格の目安である。また、上の表は各種難燃繊維のLOI値と価格の相関図である。

LOI値

価格

(kg/円)

パラ系

アラミド

メタ系

アラミド

レーヨン

PBO

PBI

ビニロン

アクリル

10

(5)難燃繊維・生地の屋外の汎用的な作業用途を想定した機能性、価格等の比較

■各種難燃繊維の機能性の総合評価

0246難燃性

強度

耐薬品

染色性

風合い

コスト

0246難燃性

強度

耐薬品

染色性

風合い

コスト

0246難燃性

強度

耐薬品

染色性

風合い

コスト

0246難燃性

強度

耐薬品

染色性

風合い

コスト

0246難燃性

強度

耐薬品

染色性

風合い

コスト

0246難燃性

強度

耐薬品

染色性

風合い

コスト

※コストは低価格であるほど高評価(5に近い)とする

【パラ系アラミド】 【メタ系アラミド】 【難燃アクリル】

【難燃レーヨン】 【難燃ビニロン】 【PBO】

\ 難燃性 強度 耐薬品 染色性 風合い コスト

パラ系アラミド 5 5 4 1 1 2

メタ系アラミド 5 4 4 3 3 2

難燃アクリル 4 3 2 4 5 5

難燃レーヨン 4 3 3 5 5 4

難燃ビニロン 5 4 5 5 4 4

PBO 5 5 3 1 1 1

11

・前頁のレーダーグラフは今回の調査結果に基づき、各種難燃繊維の機能性を難燃性、強度、

耐薬品性、染色性、風合い、コストの6項目にわたる評価を富士経済がまとめたものである。

難燃性ではアラミド、ビニロン、PBOが高評価

・アラミド系繊維、ビニロン繊維、PBO繊維はLOI値が高く、また軍需や消防など火炎の危険に曝される作業環境下での採用実績が豊富であるため、5点としている。

・強度に関しては産業用資材としての採用実績が豊富なPBO繊維が突出している。また、防弾服などに採用されるパラ系アラミド繊維も高強度であり、5点評価とした。難燃レーヨン繊維は

グローバルで戦闘服として採用実績があるが、強度についてはアラミド系繊維などに劣ってい

る。

・耐薬品性では、アルカリに高い耐性を有しているビニロン繊維を5点としている。なお、アク

リル繊維は耐薬品性で他の難燃繊維と比較して大きく見劣りはしないが、燃焼時にシアンガスが発生するため2点評価としている。

染色性では難燃レーヨン、ビニロンが良好

・染色性はレーヨン繊維とビニロン繊維が良好であるため、5点としている。なお、パラ系アラ

ミド繊維、PBO繊維は染色が実質不可能である。また、メタ系アラミド繊維は従来、染色性の低さが指摘されてきたが、技術開発によって克服しつつある。

・風合い(着心地)では一般的な衣服でも馴染み深い、アクリル、レーヨンをベースとした難燃アクリル繊維、難燃レーヨン繊維を5点としている。

・コストに関しては難燃アクリル繊維が最も安価であるため、5点評価としている。難燃繊維の導入を検討しているユーザーに対してエントリーモデルとして最適と訴求している。アラミド

系繊維は長期耐用に伴う機能性の低下が無い点を訴求している。また、PBO繊維は1kgあたり2

万円前後と非常に高価であるため、他の難燃繊維と混紡した上で採用することが前提となっている。

12

(6)難燃繊維・生地に関する技術の現在の傾向及び今後の方向性

※ここでは難燃繊維・生地に関する現状の技術課題と今後の方向性をまとめている。

■ダイワボウ「プロバン®」の難燃メカニズム

現在の傾向

今後の方向性 ◆当面、後加工品の需要続くが素材難燃へシフト

◆後加工品を使用するユーザーが少なくない

中小企業では後加工品のニーズが高い

・消防や警察などの官公需では、ユニフォームの仕様で素材自体が難燃性を持つ繊維の使用が予め規定されていることが多い。これに対して、民需では中小企業を中心に後加工品のニーズが少なか

らず存在する。後加工品とは難燃剤をポリマー加工によりコットンなどの繊維に包みこむ技術であ

り、素材難燃の繊維を使用するより低コストで済むことから、中小企業を中心に採用されているものである。

・後加工品ではダイワボウ(大和紡績)のグループ企業であるダイワボウプログレスが展開する難燃加工技術「プロバン®」が有名である。他に小松精練、サカイオーベックスなどが難燃加工を展

開している。以下に「プロバン®」の難燃メカニズムを示す。

火に触れると、コットン

繊維を覆っているプロバ

ン・ポリマーが分解し、

繊維の燃焼を遅らせる。

ポリマーは分解して五酸

化リンをつくり、コット

ンの繊維を脱水して、炭

化させる。

五酸化リンは脱水し乍ポ

リリン酸となり、炭化し

たコットンの繊維を被

い、酸素を遮断すること

で、それ以上の燃焼を防

ぐ。

コットンの繊維組織は炭

化しながらもその形状を

維持するため、穴が開い

たり、伸縮したり、溶け

落ちることはない。

13

■300回洗濯後のダイワボウ「プロバン®」の難燃性

後加工品は洗濯300回後でも難燃性維持と主張

・ダイワボウによると、同社の加工技術「プロバン®」はLOI値28以上の高い難燃性を付与するこ

とが可能である。また、洗濯による機能低下も少なく、「プロバン®」加工生地は洗濯300回後で

もLOI値は26以上の高い値を示し、高い難燃性を維持するとしている。(洗濯方法:JIS L 0217103法 タンブル乾燥)・下の写真は未加工品、「プロバン®」加工品、洗濯を300回行った「プロバン®」加工品に着火し、15秒後の様子である。

未加工品 プロバン® プロバン®(洗濯300回後)

LOI値:19 LOI値:29 LOI値:27.5

当面は後加工品の需要が継続

・後加工品は一定程度の難燃性を有することから、当面は中小企業を中心に、後加工品の需要は底堅く続くとみられる。もっとも、素材難燃である難燃繊維の普及に伴う低コスト化、認知の向上が

進めば、後加工品から素材難燃の難燃繊維へシフトするユーザーが増えると考えられる。

14

(6)難燃繊維・生地に関する技術の現在の傾向及び今後の方向性

現在の傾向

今後の方向性 ◆防炎薬剤の開発望まれる

◆アクリル繊維は燃焼時に有害ガスが発生

難燃アクリル繊維は燃焼時のシアンガス発生が懸念材料

・難燃アクリル繊維の克服すべき課題として、燃焼時の有害ガス発生の抑制が挙げられる。現状の難燃アクリル繊維は燃焼時に絹、通常のアクリル繊維と同等レベルでシアンガス(HCN)が発生し

てしまう。また、発生するシアンガスの量は高濃度であり、人体に有害であり危険と指摘されてい

る。

・現状では、シアンガスの発生を抑制する対策は取られていない。

・燃焼時のシアンガス発生を抑制する防炎薬剤の塗布など新たな技術開発の必要があるといえる。

15

(6)難燃繊維・生地に関する技術の現在の傾向及び今後の方向性

現在の傾向

今後の方向性 ◆メタ系アラミド繊維は染色性が更に向上

◆アラミド繊維は染色性が不十分

メタ系アラミド繊維は染色性の課題を克服しつつある

・アラミド系難燃繊維の克服すべき課題として、染色性の改善が挙げられる。パラ系アラミド繊維は染色そのものが不可能であり、また、メタ系アラミド繊維は難燃ビニロン繊維、難燃レーヨン繊維と

比較して、染色性に劣ると指摘される。

・これに対して、帝人、デュポンでは染色性を改善する技術開発を断続的に行っており、課題は克服

しつつある。帝人、デュポンともに染色可能な原綿を保有しており、紡糸、製織後の染色が可能とし

ている。

・帝人では「コーネックス®」が原着タイプであるのに対して、「コーネックスネオ®」は後染めタ

イプとなっている。「コーネックスネオ®」は製糸条件の精密コントロール技術により、染色性を付与しており、繊維の内部まで染色が可能となっている。

・また、デュポンでは染色可能な原綿に加えて、パートナー企業である帝国繊維などが有している「ノーメックス®」に適合した染色技術を併せることで染色性の課題を克服している。また、海外で

は軍需用途の納入実績が豊富であることから、偽装性を高めるために施すプリント技術においても、

耐久性に問題が無いものを製造可能としている。

←「ノーメックス®」の

原綿。カラーバリエーション

も豊富となっている。

16

(6)難燃繊維・生地に関する技術の現在の傾向及び今後の方向性

現在の傾向

今後の方向性 ◆技術開発によりピリングの課題を克服

◆アラミド繊維はピリング(毛玉)が発生し易い

アラミド繊維はピリングが発生し易い傾向

・アラミド系難燃繊維の克服すべき課題として、ピリング(毛玉)の発生が挙げられる。毛玉は衣服を一定程度使用すると生じるものであり一般的な繊維でも発生するが、一般的な繊維では毛玉が

随時、落ちているのに対し、アラミド繊維は強度が強いために比較的毛玉が残留し易いとされる。

・デュポンでは綿から糸若しくはファブリックにする段階でピリングの発生を抑え込む技術を有し

ている。もっとも、ピリングが発生したとしても難燃性などの機能が低下するわけではなく、外観

上の問題であるとしている。ピリングの発生を抑制する加工を施すかはユーザーとの事前協議で判断している。

・帝人も同様にアラミド繊維は他の繊維と比較して強度が強いためにピリングが発生し易いとしつつも、紡績、織り、加工のテキスタイル化技術によって課題を克服している。

・アラミド系繊維メーカーの技術開発によって、ピリングの問題は克服されつつあるといえる。

17

(6)難燃繊維・生地に関する技術の現在の傾向及び今後の方向性

■難燃繊維・生地選択の提言

◆日本国内では難燃繊維の需要は防衛省・消防などの官公需が大半を占める。

◆民間では低コストで導入できる後加工品、難燃アクリル繊維を採用した作業服の

採用が増加しつつある。

◆もっとも、後加工品は洗濯による若干の機能低下、難燃アクリル繊維は燃焼時のシ

アンガス発生が懸念される。

◆一方、アラミド繊維は染色性やピリングなどの課題を技術開発で克服してきている。

◆難燃性、高強度、高弾性率、耐切創性などの機能性に優れており、生地の風合い

や運動性の向上も図られていることから、現状ではパラ系アラミド繊維とメタ系アラミド

繊維の混紡生地が最適な選択であると考える。

18

Ⅱ.難燃繊維・生地の国内外技術基盤

(1)企業概要

(2)企業組織

1,478億73百万円

資本構成 - 売上高 2兆264億70百万円

従業員数 7,220名日覺 昭廣代表取締役

資本金

No.1 東レ㈱

設立 1926年1月

本社所在地 〒103-8666 大阪市中央区本町2-5-7 メットライフ本町スクエア

・創立時の社名である東洋レーヨンが示すとおり、化学

繊維であるレーヨン製造メーカーとして創業。現在では

繊維に加えて、プラスチック・ケミカル、情報通信材

料・機器、炭素繊維複合材料、ライフサイエンスなどを

事業内容とする。

・事業の構成比は繊維が42%、プラスチック・ケミカル

が25%、情報通信材料・機器が13%、環境・エンジニ

アリングが9%、炭素繊維複合材料が8%などとなってい

る。

・繊維事業に占める難燃繊維の割合は1%未満となって

おり、2017年は7億円程度となっている。

・難燃繊維はメタ系アラミド混紡難燃生地「エンドロフ

®」及びアクリル繊維「ナフレム®ST」(NAFLAME)

などの製品を扱っている。

その他

57.8%

繊維

42.2%

難燃

繊維

0.03%

取締役会

繊維事業本部

産業資材・衣料素材事業部門

テキスタイル事業部門

マイクロファイバー事業部門

機能製品事業部門

グローバルSCM事業部門

樹脂・ケミカル事業本部

フィルム事業本部

複合材料事業本部

電子情報材料事業本部

医薬・医療事業本部

水処理・環境事業本部

難燃繊維担当部署

19

(3)取引企業

(4)難燃繊維・生地の主要製品の概要、特性

A

主な用途

火気に隣接した作業環境

繊維の種類

難燃アクリル繊維

ブランド名

ナフレム® ST

エンドロフ® メタ系アラミド繊維 消防吏員活動服

デュポンよりアラミド繊維を調達・世界的化学メーカーであるデュポンよりメタ系アラミド繊維「ノーメックス®」を、東レが50%出

資している東レ・デュポンよりパラ系アラミド繊維「ケブラー®」を調達している。

・東レは難燃繊維をテキスタイルの形(1m単位の原反売り)で商社へ販売するのが一般的である。

商社はユニフォームや消防服のアパレルメーカーを通じて縫製を行い、再度商社を経由して、ユー

ザーの元へ製品が納入されることが多い。

・消防服のアパレルメーカーではイマジョーと関係が深く、共同で製品開発を行っている。また、ユ

ニフォームメーカーではミドリ安全、自重堂などへの供給実績が多い。エンドユーザーでは各自治体の消防署が最大の顧客であり、特需課の売上の95%を占めている。その他の納入先として、警察、防

衛省、法務省、電力会社、JR、ガス会社、製鉄所などがあるが、納入実績は多くなく、消防署に偏重

している。

高いストレッチ性が同社

製品の特長となっている

・前頁の図は東レの企業組織図を簡略化したものである。

・「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングと提携するなど、繊維事業本部は同社の基幹部門

である。

・難燃繊維を扱うのは繊維事業本部の下部組織である機能製品事業部門である。機能製品事業部門と

して機能製品事業部があり、その下に特需課がある。特需課は警察、消防、防衛省、法務省などの官

公庁のほか、電力会社や日本郵便、JRにみられる公共性の高い法人を顧客としている。

・民需については機能製品事業部内にある東京ユニフォーム課が担当している。

【消防吏員活動服】 【消防吏員救助服】

20

難燃性とストレッチ性の高さが長所・東レが製造・販売するアラミド繊維の主力は「エンドロフ®」である。消防吏員の活動服や救助服

など、高い難燃性が必要とされる作業環境で使用される。

・LOI値は30以上、高い洗濯耐久性を有しており、性能の劣化はみられない。

・「エンドロフ®」は、他のアラミド繊維混難燃生地に比べてストレッチ性が高いのが特長であり、

作業性の良さや快適性をエンドユーザーに訴求している。左の消防吏員活動服は東レと消防服メー

カーであるイマジョーが共同で開発した製品であり、生地の伸縮率は13%と高い値を示している。

・また近年では、東レのナノスケール加工技術である「テクノクリーン®」を「エンドロフ®」に付

与し、防汚性を高めている。

アクリル難燃繊維「ナフレム®ST」も展開・「ナフレム®ST」は主にアクリル繊維を採用している難燃素材であり、「エンドロフ®」と比較し

て難燃性能ではやや見劣りするが、「エンドロフ®」と比較して低コストで導入可能であり、またア

ラミド繊維には無い風合いの良さが特長となっている。

・「ナフレム®ST」の「ST」とはストレッチ性を表し、難燃性にストレッチ性を付与することで作

業者の運動快適性の向上を図っている。「ナフレム®ST」は火気に隣接しているものの、アラミド繊

維までは必要としない作業環境での使用を想定している。

・「ナフレム®ST」の生地物性は以下の表の通りである。

「ナフレム®ST」の使用シーン

*混紡比は難燃アクリル50%、レーヨン29%、ポリエステル20%、ポリウレタン1%である。

単位 測定値 試験方法

残炎時間

(タテ/ヨコ)

残じん時間

(タテ/ヨコ)

燃焼長さ

(タテ/ヨコ)

- 29 JIS L 1091 E法

洗濯 - 変退色4-5/汚染4-5 JIS L 8044 A-2 法摩擦(乾) - 4-5 JIS L 8049 Ⅱ型

% ヨコ:24 JIS L 1096 定荷重法

% 56/80 30秒後/1時間後

級 4 JIS L 1076 ICI 法

JIS L 1091 A-4法

JIS L 1096 ラベルドストリップ法

JIS L 1096 ペンジュラム法

伸長率

伸長回復率

ピリング

項目

cm

N

N

燃焼性

堅牢度

限界酸素指数

引張強さ

(タテ/ヨコ)

引裂強さ

(タテ/ヨコ)

0/0

8.4/9.9

7.4/6.5

627/333

25/19

21

(5)難燃繊維・生地の売上高推移

200

400

600

800

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

400500

700600

700

(百万円)

消防服のシェア拡大で売上は増加傾向・難燃繊維の売上高は増加傾向で推移しており、2017年は7億円に達している。

・最もユーザーの多い消防吏員向け消防服が堅調に推移しており、2013年と比較して2倍近い伸びと

なっている。消防服の事業を展開し始めて8年程になるが、もともとシェアが無いところから、3割程

のシェアを獲得するようになっている。

・現状はアラミド混紡難燃生地「エンドロフ®」の売上が殆どを占めているが、「エンドロフ®」に

防汚加工の機能性を加えて更なる売上拡大を図っている。また、難燃アクリル繊維「ナフレム

®ST」、東レケミカルコリアで2016年より製造しているメタ系アラミド繊維「アラウィン」、PPS

繊維「トルコン®」に東レグループのゾルテック社製耐炎化糸からなる「ガルフェン」など多くの難

燃繊維のブランドを有しているのが強みであり、今後も売上は増加傾向で推移するとみられる。

自社でも難燃繊維を開発・このほか、東レケミカルコリア(TCK)で2016年よりメタ系アラミド繊維「アラウィン」を製造し

ている。

・2017年、遮炎機能と断熱機能を備えた繊維素材「ガルフェン」(GULFENG)を開発している。同社のPPS繊維「トルコン®」と東レグループのZoltek社製耐炎化糸の複合素材であり、従来の難燃性

素材と異なり、単に燃えにくかったり燃え広がりにくかったりするのみならず、炎を布の反対側に通

さないという遮炎機能を持つのが特長である。

・「ガルフェン」は寝具や自動車、航空機などの座席シートでの採用(ウレタンを取り囲む形に「ガ

ルフェン」を配し、接炎しても炎をウレタン側に通さない様にする)を想定しているが、アパレル用

途でも採用の余地はあるとみている。

22

(6)難燃繊維・生地の生産地及び研究開発拠点

(7)難燃繊維・生地に関する独自の保有技術

★★

生産地

東レ・デュポン東海工場

生産地兼研究開発拠点

瀬田工場

瀬田工場が生産開発の中心・難燃アクリル繊維「ナフレム®ST」は瀬田工場(滋賀県大津市大江1-1-1 )で製造している。ま

た、アラミド混紡難燃生地「エンドロフ®」のパラ系アラミド繊維「ケブラー®」はグループ会社で

ある東レ・デュポンの東海工場(愛知県東海市新宝町31-6)で製造している。

・瀬田工場にはテキスタイルの資材開発室があり、難燃素材の開発研究を行っている。

・このほか、メタ系アラミド繊維の自社綿である「アラウィン」をグループ会社である東レケミカル

コリアによって韓国国内で製造している。

アラミド繊維に高いストレッチ性を付与・これまでアラミド繊維高混率の生地は十分なストレッチ性を出すのが困難であったが、東レ独自の

高次加工技術により高いストレッチ性能を実現している。以下は通常の加工生地との伸縮性の比較で

ある。「エンドロフ®」の伸縮性が優れていることがわかる。

\ 組織 混紡率 伸縮性 試験方法

綾織り 17.8%平織り 19.0%綾織り 2.0%以下

平織り 2.0%以下

エンドロフ アラミド繊維(原着)98%、 ポリウレタン2%

JIS L 1096 B法(定荷重法)

通常加工生地

23

(7)難燃繊維・生地に関する独自の保有技術

繊 維 繊 維

疎水性ポリマー汚れをはじき、

汚れ付着を低減

親水性ポリマー洗濯液の親和性UP

洗濯で汚れ除去

【イメージ】

【拡大図】

親水性成分

疎水性成分

汚れ成分

1)防汚加工剤を構成するポリマーの疎水性成分(汚れ難さ)と親水性成分(汚れの落ち易さ)のバランスをナノレベルでコントロールし、防汚性を追求した新規加工剤を設計。

2)皮膜ポリマーの疎水成分と親水成

分を立体的(3次元構造)に配置する

ことにより、バランスの最適化を追

求。最大限の防汚機能を発揮する。

アラミド繊維に防汚性を付与・2017年1月より「エンドロフ®」に防汚性の機能(防汚加工の商標は「テクノクリーン®」と称する)を付与した難燃繊維を上市している。疎水性ポリマーで煤や油などの汚れの成分を弾き出し、親水性ポリマーで汚れの成分を浮かび上がらせるメカニズムとなっており、長期間使用しても消防服(とりわけ活動服)で重要となる視認性を損なわない加工技術となっている。

24

(8)難燃繊維・生地に関する課題、今後の方向性

現状の課題 今後の方向性

◆アラミド繊維は高コスト

◆アラミド繊維の染色性

◆自社綿の開発で価格、染色性をクリアし普及拡大へ

◆既存のアラミド繊維は染色性の更なる改良へ

高コストが難燃繊維の普及を阻害・アラミド繊維は難燃性が高く、高強度であり、耐切創性にも優れていることから、消防服など防護

服の生地としては最適であるものの、通常のコットンなどと比較しておよそ2倍程度するコストが足

枷となっている。

・現状では消防吏員の活動服など、生命の安全が最優先される労働環境下で着用する被服に限定して

採用されている。

・東レの「エンドロフ®」はメタ系アラミド繊維「ノーメックス®」をデュポンから、パラ系アラミ

ド繊維「ケブラー®」を東レ・デュポンから調達しているが、グループ会社である東レケミカルコリ

アで「アラウィン®」と称するメタ系アラミド繊維を2016年より製造している。

・国内での上市は未だないものの、自社で調達する原綿であるため、「ノーメックス®」と比較して

低コストであり、難燃繊維の普及阻害要因であるコストの障壁を取り除くものとして期待されてい

る。

アラミド繊維の染色性改良に期待・アラミド繊維の持つ課題として、染色性の低さが挙げられる。パラ系アラミド繊維「ケブラー®」

は染色自体が困難であり、メタ系アラミド繊維「ノーメックス®」は原料の段階で染色する原着は可

能であるものの、後染めが困難であることから、小ロットの対応に苦慮する。

・もっとも、メタ系アラミド繊維については、近年、帝人、デュポンの双方から染色性が改良された

原綿が上市されており、更なる染色性の改良が期待される。

・なお、自社綿「アラウィン®」は染色性が高く、後染めが可能であり、難燃性も問題がないとして

いる。

25

(1)企業概要

(2)企業組織

889億55百万円

資本構成 - 売上高 5,184億42百万円

従業員数 3,386名伊藤 正明代表取締役

資本金

No.2 ㈱クラレ

設立 1926年6月

本社所在地 〒100-8115 東京都千代田区大手町1-1-3 大手センタービル

取締役会

管理部門

ビニールアセテート植物カンパニー

ビニールアセテートフィルムカンパニー

イソプレンカンパニー

機能材料カンパニー

繊維カンパニー

生産技術統括部

クラリーノ事業部

繊維資材事業部

生活資材事業部

その他

90.0%

繊維

9.0%難燃

繊維

1.0%

・大手化学品メーカーであり、事業内容は機能樹脂、化学

品、人工皮革、合成繊維、光学関連製品、メディカル製品

などの製造・販売である。

・高機能樹脂ポバール等とそれを加工した各種フィルムが

事業の柱となっている。独自開発の化学品に定評があり、

「ポバール®」、EVOH樹脂「エバール®」、人工皮革

「クラリーノ®」など世界シェア首位品や、イソプレン化

学品、ポリアリレート繊維「ベクトラン®」などクラレ単

独の品目を多数擁する。

・繊維事業に占める難燃繊維の割合はおよそ1割程度で推

移しており、2017年は50億円となっている。

・難燃繊維は同社が開発したポリビニルアルコール系繊維

であるビニロンを使用している。

難燃繊維担当部署

26

(3)取引企業

(4)難燃繊維・生地の主要製品の概要、特性

A

主な用途

衣料、産業資材、各種補強材

繊維の種類

難燃ビニロン

ブランド名

バイナール®

防衛省が最大顧客 国内外アルミメーカーへも納入・難燃繊維については防衛省が最大の顧客であり、陸上自衛隊の戦闘服、作業服を中心に40年以上に

亘って供給している。航空自衛隊、海上自衛隊向け作業服に加え、防寒戦闘服、警備服、体操服など多数の製品の供給実績がある。

・公需では全国の各自治体へ消防団員向け活動服を供給している。

・民需では大手企業を中心に納入実績が多数みられる。一例を挙げると、大手自動車メーカーへ自動

車製造ラインへ安全服を、大手製鉄メーカーへ炉前服を、都内公共交通機関の整備部門、大手化学プラント、電力メーカーには作業服を供給している。

・また、同社の難燃ビニロン繊維「バイナール®」は特殊金属の飛散に対して耐性がある繊維素材となっており、国内外のアルミ精錬工場の炉前服として採用実績が豊富にある。

・「バイナール®」は綿の状態で販売され、カタログ販売ではなく、それぞれのユーザーに応じた別注対応となっている。

ポリビニルアルコールの構造

アルコール基が手を繋いでいくことによっ

て、配合した分子間で強く結合することで

ビニロンに強度を持たせる

・前頁の図はクラレの企業組織図を簡略化したものである。

・難燃繊維を扱うのは繊維カンパニーの下に位置する繊維資材事業部となっている。繊維資材事業部

はビニロンフィラメント繊維をはじめ、セメント補強材、新規PVA系繊維、高強力ポリアリレート繊

維など高機能・高性能な繊維資材を製造・販売している。

・同社の繊維資材は水産・農業用資材から宇宙開発用の先端素材まで、あらゆる分野をカバーしてい

るが、ターゲットはニッチ市場の開拓に向けられている。

27

LOI値35以上

強度

低熱伝導性(火傷しにく

風合い

吸湿性

耐候性

×××

×× ×

××

×××

安全・快適

安全性

快適性

28 35 35 35

クラレが初めて工業化に成功した国産合成繊維

・ビニロン繊維はクラレが1950年11月に国産技術により初めて工業化した合成繊維である。衣料用

途のほか、農業資材用途、アスベスト代替用途、各種補強材など幅広い分野で採用されている。ビニ

ロン繊維はPVA(ポリビニルアルコール)を主原料とする合成繊維である。PVAの分子中には上図のよ

うにOH基が多数存在しており、OH基は結合し易い特長を持つため、形態が安定し易い。その効果で

ビニロン繊維は高強度、低伸度など他の繊維にない機能性を有している。

・ビニロン繊維の中に燃焼を抑制させる難燃材を練り込んだ難燃繊維が「バイナール®」である。

「バイナール®」は火こそ付くものの、炎を遠ざけると自ら消火する自己消火性を持っている。ま

た、炎が「バイナール®」に着炎すると炭化するため、繊維が溶融して滴下するメルトドロップ現象

による火傷は発生しない。

・原綿の状態でのLOI値は35と高い値を示している。混紡比率、織り方を変更することでLOI値は減

少するが、「バイナール®」100%であると、発汗した際に生地がべたつくなど着心地が悪化するた

め、コットン、レーヨンなどと混紡する。一般的に「バイナール®」70%、コットン30%の組み合

わせが最も多い。

難燃レーヨン 難燃アクリル アラミド 難燃ビニロン

難燃レーヨン 難燃アクリル アラミド 難燃ビニロン

■他の難燃繊維との比較

28

(5)難燃繊維・生地の売上高推移

3,000

3,500

4,000

4,500

5,000

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

4,6004,200

4,900 4,8005,000

売上は50億円前後で推移・難燃繊維の売上高は40億円~50億円の間で推移している。

・防衛省が最大の顧客であり、売上は入札状況に左右されるため、年次によって多少の増減がある。

・近年防衛省向けは漸減傾向にあるが、海外を含めた民需の需要が伸びており、トータルでは微増傾

向にある。

・地震、火山噴火、台風、集中豪雨などの大規模な自然災害が発生すると、自衛隊の救護活動が活発

となり、作業服の消耗が激しくなるため、更新需要が急激に拡大することがある。

(百万円)

難燃ビニロンは総合力で優位・前頁の図はクラレが考える各種難燃素材の安全性・快適性を比較したものである。○印は性能に問

題がないもの、×印は性能に不安があるものを示している。

・難燃レーヨンのLOI値は28であり、他の難燃素材と比較して難燃性能でやや劣っている。また、強

度、低熱伝導性、耐候性でも不安が残る。同様に、難燃アクリルは強度、アラミドは風合い・耐候性

などで不安があるとしている。

・これに対して、難燃ビニロン(「バイナール®」)は高い難燃性能に加えて、OH基の働きによる

強度の強さ、紫外線の影響による劣化(色落ち、強度低下)の少なさ、天然繊維に近くて肌に優しい

風合い適度な吸湿性など、他の難燃素材と比較して安全性・快適性の面で優れている点が多いとして

いる。

29

(6)難燃繊維・生地の生産地及び研究開発拠点

(7)難燃繊維・生地に関する独自の保有技術

生産開発拠点は創業地の岡山県に集中

・難燃繊維の生産拠点は岡山事業所(岡山県岡山市南区海岸通1-2-1)となっている。研究開発拠点

は同事業所と創業の地である倉敷市に拠点を構えるくらしき研究センター(岡山県倉敷市酒津2045-

1)の二箇所となっている。

・岡山事業所でのビニロンの生産キャパシティは年間5万tであり、生産能力に問題は見られない。

もっとも、「バイナール®」の需要が急激に拡大した際、「バイナール®」を縫製する下請工場にお

いて生産キャパシティの問題が生じる可能性がある。

★★

生産地兼研究開発拠点

岡山事業所

研究開発拠点

くらしき研究センター

特殊金属に対する強い耐性

・難燃ビニロンは特殊金属の飛散に対して耐性があり、750℃前後で飛翔物(スプラッシュ)が発生

するアルミニウム、1480℃前後で飛翔物が発生する溶融鉄の炉前などで、効果を発揮し、着用者を

保護する。

・溶接中に飛散するスパッタにも効果があり、穴あきの程度を低減させる。

・特殊金属に対して強い耐性を持つため、欧米アルミメジャーに於いても「バイナール®」の採用が

見られる。

30

(8)難燃繊維・生地に関する課題、今後の方向性

現状の課題 今後の方向性

◆難燃繊維の高機能化

◆特需は国内に限定

◆難燃性、染色性など更なるスペックの向上

◆海外での特需開拓へ

更なるハイスペック品の開発へ・現在、クラレが供給している難燃繊維は、防衛省が要求するスペックをクリアしているものの、更

なるハイスペック品の開発に余念がない。難燃剤の種類を変更して、製品のもつ難燃性をより高くす

ることや、染色性の改良が開発のテーマとなっている。

・これまで「バイナール®」が発揮してきた安全性、着心地(被服にとって難燃性だけでなく、活動

のし易さも重視される)などを担保しつつ、LOI値を更に向上させることが目的となっている。

海外での特需用途開拓へ・これまで毎年、40年以上の長期に亘って防衛省へ戦闘服、作業服を納入している実績があるため、

他国でも軍隊など特需用途での難燃繊維の需要を喚起したいとしている。

・また、民需ではアラミド系繊維にはない「バイナール®」が持つ特殊金属に対する強い耐性を武器

に、アルミ精錬工場などに対して競合他社からの切り替えを提案していく構えである。

・なお、ナフサ等の主要原材料価格が2017年後半より上昇を継続しているため、2018年4月1日出荷

分より、5~10%の改定幅でビニロン繊維などの価格改定を行うことを発表している。

31

(1)企業概要

(2)企業組織

No.3 東洋紡㈱

設立 1914年6月

本社所在地 〒530-8230 大阪市北区堂島浜2-2-8 東洋紡ビル

517億30百万円

資本構成 - 売上高 3,294億87百万円

従業員数 9,553名楢原 誠慈代表取締役

資本金

取締役会

化成品部門

繊維・機能材部門

機能材本部スーパー繊維

事業総括部

ダイニーマ・ツヌーガ

事業部

ザイロン事業部

繊維・商事本部

日本エクスラン工業㈱

ヘルスケア部門

・設立より1世紀以上経つ綿紡績の名門メーカーである。

現在では繊維事業で培った基礎技術を活用した非繊維事

業が主体となっており、各種フィルム、機能樹脂が収益

の柱となっている。試薬やエアバッグ基布、水処理膜等

も扱う。

・事業の構成比はフィルム・機能樹脂が42%、繊維・商

事が24%、産業マテリアルが21%、ヘルスケアが8%、

不動産・その他が5%となっている。

・繊維に関連する事業に占める難燃繊維の割合は1%程度

となっており、2017年は37億円となっている。

・難燃繊維は世界で同社のみが持つPBO(ポリパラフェ

ニレンベンゾビスオキサゾール)繊維「ザイロン®」を

扱っている。他の難燃繊維を凌駕する高強度・高難燃性

が特長となっている。また、グループ企業である日本エ

クスラン工業でも、難燃アクリレート繊維「PX01」を

扱っている。

その他

70.6%

繊維

28.3%

難燃

繊維

1.12%

難燃繊維担当部署

32

(3)取引企業

消防服では小林防火服と協業

・東洋紡では難燃繊維をステープルファイバー(綿)の形で販売会社である東洋紡STCなどを通じて

繊維・紡績メーカーへ販売するのが一般的である。

・PBO繊維「ザイロン®」はインダストリアル分野で耐熱資材として採用されていることが殆どであ

り、防護服などアパレルとしての採用は10%程度となっている。アパレル用途として一部、軍手の展開もみられるが、大半は消防服として展開している。

・消防服製造で業界トップシェアを占める小林防火服がパートナー企業となっている。札幌市、横浜

市、京都市、広島市、福岡市をはじめとする全国の主要自治体の消防署で「ザイロン®」を採用した消防服が着用されている。

・防寒戦闘服、耐寒耐水服などを防衛省へ納入しているが、難燃繊維の供給実績は殆どみられない。

・また、日本エクスラン工業の「PX01」は東洋紡グループ内のワーキングウェアを製造するメー

カーなどへ供給されている。

東洋紡で「ザイロン®」 日本エクスラン工業で「PX01®」を展開

・前頁の図は東洋紡の企業組織図を簡略化したものである。

・主にフィルム、樹脂を扱う化成品部門、創業以来の繊維を扱う繊維・機能材部門、メディカル、

機能膜を扱うヘルスケア部門の3つの部門から構成されている。

・難燃繊維を扱うのは機能材本部の下部組織であるスーパー繊維事業総括部内にあるザイロン事業

部である。なお、ダイニーマ・ツヌーガ事業部ではポリエチレンを原料とするスーパー繊維「ダイ

ニーマ®」及び「ツヌーガ®」を扱っている。

・このほか、グループ企業である日本エクスラン工業で難燃繊維「PX01」を製造している。同社は

東洋紡が80%、住友化学が20%を出資しているアクリル繊維の製造・販売などを行う化学繊維メー

カーである。

33

(4)難燃繊維・生地の主要製品の概要、特性

A

B PX01 難燃アクリレート繊維 難燃作業服の中綿

ブランド名 繊維の種類 主な用途

ザイロン® PBO繊維 消防吏員活動服

耐熱資材としての採用が典型

・東洋紡が製造・販売する難燃繊維の主力はPBO繊維「ザイロン®」である。ロボットアームのケーブル部分に巻き付けてケーブルを保護するなど産業分野で耐熱資材として使用されているのが一般的である。このほか、ガラスやアルミサッシの成型工程で耐熱クッション材として用いられるほか、F1などレーシングカーの車体補強用途、アメリカズカップなど世界最高峰ヨットレースでのロープ用途、競技用自転車のスポークなどスポーツ分野でも採用がみられる。

消防服への採用を推進

・アパレル用途では消防吏員が着用する防火服(小林防火服製)で「ザイロン®」が採用されている。

防火服のベース生地にアラミド繊維と「ザイロン®」を交編することで、耐熱性を向上させると同時に生地にしなやかさ、軽量性を付与している。

・なお、小林防火服の最新製品「ブラックテック」は、ベース生地に耐光劣化を改善した帝人のアラミド繊維「テクノーラ ブラック®」を混紡しており、火災時のフラッシュオーバー現象(密閉された室内火災で1,000℃超の炎が一気に広がる現象)に耐える性能を有している。

【消防吏員防火服】「ブラックテック」

【消防吏員防火服】「ファイヤーファイター」

34

炭素繊維に近い性質・「ザイロン®」は現存する有機繊維の中で最も強い強度と弾性率、突出した難燃性を持つスーパー

繊維である。力学的性質、耐熱性においては炭素繊維に近いレベルに達している。

・「ザイロン®」の生地物性は以下の表の通りである。

・強度、弾性率ともにパラ系アラミド繊維の約2倍であり、分解温度は650℃と有機系繊維の中では

最高レベルに達している。限界酸素指数を示すLOI値でも68とアラミド繊維の2倍強に及んでいる。

・高い弾性率と耐熱性を活かすべく、インダストリアル分野での耐熱資材、耐熱防護服、防護手袋、

建設補強材などの用途がある。一方で、日光や湿気など耐候性に課題があり、屋外での保管や長期使

用には向いていない。

\ 単位 AS(レギュラー) HM(ハイモデュラス)

単糸デシックス (dtex) 1.7 1.7 密度 (g/cm3) 1.54 1.56 平衡水分率 (%) 2.0 0.6

(cN/dtex) 37 37(GPa) 5.8 5.8(KSI) 840 840

(cN/dtex) 1,150 1,720(GPa) 180 270(MSI) 26 39

破断伸度 (%) 3.5 2.5 融点 (℃) - -

分解温度 (℃) 650 650 線膨張係数 (ppm/℃) - -6 限界酸素指数 (LOI値) 68 68 誘電率 - 3.0 誘電損失 - 0.001

強度

弾性率

破断伸度 密度 水分率 LOI値 耐熱性

(cN/dtex) (g/d) (GPa) (cN/dtex) (g/d) (GPa) (%) (g/cm3) (%) (℃)

ザイロン AS 37 42 5.8 1,150 1,300 180 3.5 1.54 2.0 68 650ザイロン HM 37 42 5.8 1,720 2,000 270 2.5 1.56 0.6 68 650

パラ系アラミド繊維 19 22 2.8 750 850 109 2.4 1.45 4.5 29 550メタ系アラミド繊維 4.7 5.3 0.65 124 140 17 22 1.38 4.5 29 400

スチール繊維 3.5 4 2.8 260 290 200 1.4 7.8 0 - -

炭素繊維 20 23 3.5 1,310 1,480 230 1.5 1.76 - - -

PBI 2.7 3.1 0.4 40 45 5.6 30 1.4 15 41 550ポリエステル 8 9 1.1 110 125 15 25 1.38 0.4 17 260

引張強度 引張弾性率\

・下の表は「ザイロン®」と他の素材との性能を比較したものである。「ザイロン®」のハイモデュ

ラス(高弾性率)は引張強度、引張弾性率、LOI値、耐熱性(融点若しくは分解温度を示す)の項目

で他の素材よりも数値が高くなっている。

35

PX01は吸湿性の高さが特長・「PX01」は安全性と快適性を両立した複合機能繊維である。火災等の熱で溶融することや形く

ずれがない優れた耐熱・難燃性を有しているだけでなく、高度な吸湿性を併せ持つのが特長であ

る。

・「PX01」の生地物性は以下の表の通りである。限界酸素指数(LOI値)は38と高い値を示して

いる。

・非ハロゲン系、非リン系難燃繊維であるため、燃焼時に有害なガスが発生する恐れはない。

・高温乾熱履歴を経た後でも、繊維が硬くなり難く、ソフトな風合いを維持できる。

・アンモニア、酢酸、アルデヒド類に対する消臭性能も有している。

「PX01」不織布に火の付いたタバコを置いた状態。

「PX01」の防炎、耐熱性能で穴あきは生じない。

・下の表は「PX01」と他の素材との吸湿性能を比較したものである。「PX01」は耐熱・難燃繊維

の中でも非常に高い吸湿性能を有している。吸湿性能ではウールの約3倍、コットンの約5倍以上

の性能を有している。

\ 単位 PX01 繊度 (dtex) 2.1 引張強度 (cN/dtex) 1.2 引張伸度 (%) 44.0 結節強度 (cN/dtex) 0.5 吸湿率

20℃RH65% 限界酸素指数 (LOI値) 38 熱分解温度 (℃) 530~570 繊維長 (mm) 47

(%) 36~39

36

(5)難燃繊維・生地の売上高推移

(6)難燃繊維・生地の生産地及び研究開発拠点

3,000

3,200

3,400

3,600

3,800

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

3,280 3,3303,500

3,650 3,600100120

130

130100

(百万円)

売上は増加傾向示すも需要拡大には今一歩・難燃繊維の売上高は総じて増加傾向で推移しているものの、2017年は伸び悩み、東洋紡の「ザイロ

ン®」、日本エクスラン工業の「PX01」を併せて37億円となっている。

・「ザイロン®」はインダストリアル分野での耐熱資材としての採用が最も多く、消防用の防火服などアパレル分野が売上に占める割合は10%程度であり、金額では4億円弱となる。

・現状、アパレル用途では火災現場の最前線で着用する防火服など採用が限定されており、難燃性、

強度ともに他の難燃繊維を凌駕するものの、価格の面で(アラミド繊維の5倍程度とされる)導入に二

の足を踏むユーザーが多く、急速な普及には至っていない。

・今後は消防服の要求性能のハイレベル化に伴う需要増加、「PX01」の用途拡大等により、売上の拡大を図る方針である。

「PX01」

「ザイロン」

★★

生産地兼研究開発拠点

敦賀事業所

生産地兼研究開発拠点

西大寺工場(日本エクスラン工業)

37

(7)難燃繊維・生地に関する独自の保有技術

他を圧倒する高強度・高弾性率 難燃性も桁違い・「ザイロン®」は高強力・高弾性率を有するスーパー繊維であり、極めて優れた難燃性も有していることから、他の難燃繊維と併用することにより、難燃性に特化した繊維の強度不足を補うことが可能である。導入コストの課題があるものの、量産タイプの有機系繊維では最高の性能を有している。・以下は「ザイロン®」の強度・弾性率及び耐熱性・難燃性を他の素材と比較したものである。

■高強度・高弾性率

0

400

800

1200

1600

2000

0 10 20 30 40強度(cN/dtex)

弾性率(cN/dtex)

スチール

ポリエステル

アラミドHM

アラミド通常

炭素繊維(HS)

ザイロンHM

ザイロンAS

0

10

20

30

40

50

60

70

0 100 200 300 400 500 600 700

■耐熱性・難燃性

限界酸素指数(LOI値)

融点もしくは分解温度

PBI

ザイロン

ポリイミド

パラアラミドメタアラミドポリエステル

PPS

西大寺工場が生産・研究開発の中心 PX01は増産へ・PBO繊維「ザイロン®」は東洋紡の敦賀事業所(福井県敦賀市東洋町10-24)で製造しており、研

究開発拠点も兼ねている。また、日本エクスラン工業の難燃アクリレート繊維「PX01」は西大寺工

場(岡山市東区金岡東町三丁目3番1号 )で製造しており、研究開発拠点も兼ねている。

・敦賀事業所における「ザイロン®」の生産キャパシティは年間300tあるが、現状は年間200t程

度、稼動している。また、西大寺工場における「PX01」の生産能力は年間800~900tであり、同工

場ではアクリル繊維なども生産するが、今後はアクリレート繊維の生産に注力する方針である。

38

(8)難燃繊維・生地に関する課題、今後の方向性

現状の課題 今後の方向性

◆PBO繊維は高コスト

◆染色が困難

◆消防服に需要が限定

◆アラミド繊維などと混紡して活用

◆混紡して他の繊維で染色

◆海外での需要開拓へ軍事用途も視野PX01も生産増へ

高コスト吸収がPBO繊維最大の課題・PBO繊維は他の難燃繊維と比較して難燃性が非常に高く、強度が突出しており、高弾性であるなど

機能性では非常に優れている。しかし¥18,000/kgとされる高コストが普及を阻害しており、現状、

アパレル用途では消防服(とりわけ火災現場の最前線で着用する防火服)に採用が限定されている。

・高コストをいかに吸収するかが「ザイロン®」普及の鍵であり、同社ではアラミド繊維、難燃レー

ヨン繊維など他の難燃繊維と混紡し、「ザイロン®」の混紡比率を抑えることで採用への活路を見出

している。なお、「ザイロン」は混紡比が5%程度あれば、その能力を発揮できるとしており、加え

てアラミド繊維とは相性が良く、消防防火服の上衣などで「ザイロン®」とアラミド繊維を混紡した

製品の上市実績がある。

・PBO繊維のウィークポイントとして、染色性の無さ(「ザイロン®」自体は黄土色をしている)が

挙げられるが、これも他の繊維と混紡することでクリアできるとしている。同社によれば「ザイロン

®」の混紡比が15%以下で、混紡する他の繊維に染色性があれば、問題ないとしている。

消防服を中心に国内外で需要拡大へ・日本、欧米では難燃性を始めとする消防服に対する要求性能が今後もレベルアップしていくと考え

られ、実際にアラミド繊維やPBI(ポリベンズイミダゾール)繊維など高機能繊維が積極的に採用さ

れていることから、これまでと同様に消防服用途での需要開拓を推進する。

・加えて「ザイロン®」が持つ高強度、高難燃性を発揮するシーンとして国内外の軍需用途が想定さ

れる。アラミド繊維、難燃レーヨン繊維など他の難燃繊維に対して「ザイロン®」を低い比率(3%

程度)で混紡することで採用の足掛かりを構築していく方針である。

・これに対して国内の民需用途では、アラミド繊維でさえ採用が一般化しておらず、難燃性の要求性

能が低く、コストに対する要求も厳しいため、「ザイロン®」が入り込む余地は少ないとみている。

・もっとも、メタ系アラミド繊維については、近年、帝人、デュポンの双方から染色性が改良された

原綿が上市されており、更なる染色性の改良が期待される。

・また、日本エクスラン工業の「PX01」は現状、積極的な販売促進策を行っておらず、製品ポート

フォリオの一つという位置づけであるが、難燃アクリレート繊維の供給能力には問題がなく、今後は

産業資材用途を中心に増産する見通しである。アパレル用途では消防服の中綿など「PX01」が持つ

高度な難燃性、吸湿性を発揮できる用途での採用を目指している。

39

(1)企業概要

(2)企業組織

No.4 ユニチカトレーディング㈱

設立 1942年4月

本社所在地 〒541-0053 大阪市中央区本町2-5-7 メットライフ本町スクエア

25億円

資本構成 ユニチカ(100%) 売上高 406億98百万円

従業員数 236名竹歳 寛和代表取締役

資本金

・上の図はユニチカトレーディングの企業組織図を簡略化したものである。

・同社は衣料繊維と産業資材に特化したメーカー型商社であり、難燃繊維製品の企画営業に関しては

ユニフォーム営業部が担当しており、製品の研究開発面では技術開発部がサポートしている。

・防衛省向けの製品は親会社であるユニチカ㈱の特需部が担当している。

・ユニチカ㈱が100%出資するメーカー型商社である。ユニチカファイバー㈱の衣料部門、ユニチカ

テキスタイル㈱及びユニチカサカイ㈱の営業部門を統合し、2009年にユニチカ通商㈱からユニチカト

レーディング㈱に社名を変更している。

・衣料繊維が営業種目の中心であり、繊維原料、繊維製品等の製造、加工、販売及び輸出入を主な事

業内容とする。衣料繊維に加えてフィルム、樹脂、不織布製品の製造、加工、販売及び輸出入を行う

ほか、建材、産業資材等も扱う。

・衣料繊維事業に占める難燃繊維の割合は非公表としている。

取締役会

衣料繊維事業本部

マテリアル営業部

機能素材営業部

ユニフォーム営業部

レディス営業部

産業資材事業本部

産業資材営業部

プラスチック営業部

グローバル事業部

技術開発部

管理本部

管理部

ドメイン事業企画室

難燃繊維担当部署

40

(3)取引企業

(4)難燃繊維・生地の主要製品の概要、特性

A

B

(b)ミューロンFRの難燃特性

主な用途繊維の種類ブランド名

プロテクサFR®

ミューロンFR®難燃ビニロン 衣料、産業資材、インテリア

防衛省向け戦闘服の供給実績が豊富・防衛省には陸上自衛隊の戦闘服を中心に40年以上に亘って供給している。航空自衛隊、海上自衛隊向

け作業服に加え、防暑服、砂漠地域用作業服、雨衣など多数の製品の供給実績がある。

・公需では消防・警察向け作業服に加えて、政令指定都市の市役所へ防災服を供給している。

・民需では大手電力・ガス会社に供給実績がみられる。

・上場企業を中心に大手化学薬品メーカーへ工場用作業服の納入実績も多くみられる。とりわけ化学工

場の爆発・火災事故が頻発した2012年以降、難燃繊維製品の需要が増加している。

・近年ではアウトドア用途の展開に注力している。難燃ビニロンを採用したアウトドアウェアを着用することで万一、焚き火などの火炎が衣服に燃え移った際に生じる火傷の被害を最小化することを目的と

している。モンベル、ゴールドウィンなどのアウトドアブランド大手へアウター製品の材料として難燃

繊維「プロテクサFR®」を供給している。・防寒コート、帽子、手袋などの衣料もラインアップしている。

安全性と快適性を両立した「ミューロンFR®」が主力・ユニチカトレーディングでは難燃ビニロン素材「ミューロンFR®」のほか、難燃ポリエステル高強力

フィラメント原着素材、難燃ポリエステル紡績糸、難燃素材「ホノガード®」、後加工による難燃素材

を有している。

・衣料用途では難燃ビニロン繊維「ミューロンFR®」が代表製品であり、同ブランドの高機能素材群が

「プロテクサFR®」である。以下、同社の主力素材である「ミューロンFR®」について記述する。

・「ミューロンFR®」は安全性と快適性を両立した難燃性素材である。難燃剤を煉り込んだビニロン素

材であり、耐久性のある難燃性を有している。接炎時に繊維が熱分解し繊維内部に含まれるハロゲン系

の不燃性ガスが繊維周辺の酸素濃度を薄めることで、燃焼の進行を防いでいる。

・自己消火性に優れ接炎しても、溶融せず炭化する素材であるため、皮膚への融着による火傷の可能性

がなく着用者を火炎から保護する。

・自然な風合いでコットンに近い吸水・吸湿性を有しており、発汗を伴う暑い季節に着用しても高い快

適性を得ることができる。また、コットンを加えて混紡することでより快適性をアップすることが可能

である。

・加えて、防汚性にも優れており、アウトドアシーンで使用できる高い安全性を持つ素材である。

41

■「ミューロンFR®」と他の難燃繊維の比較

■「ミューロンFR®」と他の繊維LOI値の比較

■各種試験における「ミューロンFR®」の結果概要

・以下の表は「ミューロンFR®」と他の難燃素材の概要の比較である。

・難燃性に優れており、JIS L 1091 E法の「繊維製品の燃焼性試験」で「ミューロンFR」100%

品の酸素指数(LOI値)は32と高い値を示している。

ミューロンFR メタ系アラミド 難燃アクリル

3.5~5.7 4.4~4.9 1.9~3.51.26~1.30 1.38 1.28

20℃×65%RH 4.5~5.0 5.0~5.5 0.6~1.0 20℃×95%RH 10.0~12.0 7.0~8.0 1.0~1.5

強度ほとんど低下しない 強度やや低下、やや黄変 強度ほとんど低下しない

一般溶剤(アルコール、エーテル、ベンゼン、アセトン、ガソリン、パークレン)には溶解しない。熱ピリジン、フェノール、クレゾール、濃ギ酸に膨潤もしくは溶解する。

一般溶剤(アルコール、エーテル、ベンゼン、アセトン、ガソリン、パークレン)には溶解しない。濃硫酸に膨潤もしくは溶解する。

アセトン、MEK、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、DMF、DMSには一定の条件下で溶解する。

水分率(%)

引張強度(cN/dtex)

比重

耐候性 (屋外暴露の影響)

溶剤の影響

・他素材とのLOI値の比較は以下の表の通りである。

・作業服用途として展開している難燃ビニロン70%、コットン30%の混紡製品では上記試験の酸素

指数(LOI値)は27となっている。コットンと混紡することで難燃性は若干低下するものの、着心地

は上昇する。

繊維素材 LOI値 溶融性 繊維素材 LOI値 溶融性

ミューロンFR 32 非溶融 ポリエステル 20~22 溶融

通常ビニロン 18~20 非溶融 難燃ポリエステル 28~32 溶融

コットン 17~19 非溶融 アクリル 20 溶融

レーヨン 17~19 非溶融 難燃アクリル 28~34 非溶融

ナイロン 20~22 溶融 メタ系アラミド 30 非溶融

・また、各種試験に於ける「ミューロンFR®」の結果概要は以下の通りである。

・加えて、日本防炎協会(衣類)基準に合格している。(認定番号:K-10-0002号)

試験方法 評価内容 結果概要

JIS L1091 A-1法 燃焼性 区分3(最高レベル)

JIS L1091 E法 (LOI) 燃焼性 27.0 ISO 15025 A法(=EN532=JIS T8022) 燃焼性 ISO11612(熱と炎に対する防護服の規格)の要求レベルに合格

ISO 15025 B法(=JIS T8022) 燃焼性 ISO11612の要求レベルに合格

ISO 9151(=JIS T8021)

火炎暴露時の熱伝達指数

ISO11612の要求レベルに合格(パフォーマンスレベルB1)

ISO 6942(=JIS T8020) 放射熱伝達指数 ISO11612の要求レベルに合格(パフォーマンスレベルC1)

ISO17493 耐熱性(熱収縮)180℃×5分 -0.5×0.0(%)

ISO11612の要求レベルに合格

42

■「ミューロンFR®」の耐薬品性

引張強度保持率(%)

(5)難燃繊維・生地の売上高推移

耐薬品性に優れ 燃焼時の有害ガス発生なし

・「ミューロンFR®」は耐薬品性に優れている。酸、アルカリ、油類等との化学反応性が低く、特に、アルカリには高い耐性を有している。以下は試料に対して溶剤を滴下し、24時間後の外観をグレースケールにて評価した耐薬品性の試験結果である。

・また、「ミューロンFR®」は難燃アクリル繊維などが燃焼した際に発生するシアン化水素などの有毒ガスの発生量が少ないことが証明されており、環境に配慮した製品となっている点も強みである。

耐光性も良好・長時間紫外線を浴びても強度低下が少ない耐光性の良さも強みである。以下は紫外線を長時間照射

した後の引張強度保持率をメタ系アラミド繊維と比較したものである。

溶剤 穴開き シミ/変退色

メチルエチルケトン 無 有/4-5

エチレングリコールモノメチルエーテル 無 無

プロピレングリコールモノメチルエーテル 無 無

プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 無 無

ジメチルホルムアミド 無 無

メチルイソブチルケトン 無 有/4

メタノール 無 無

・難燃繊維・生地の売上高については非公表としている。

0

20

40

60

80

100

20H照射後 200H照射後

難燃ビニロン70% 綿

30%

メタ系アラミド100%

43

(6)難燃繊維・生地の生産地及び研究開発拠点

(7)難燃繊維・生地に関する独自の保有技術

生産拠点

ユニチカスピニング 長崎工場

★★

生産拠点

ユニチカテキスタイル 常盤工場

開発拠点

中央研究所

全て国内生産で安定供給が可能・難燃繊維の生産拠点はユニチカテキスタイル常盤工場(岡山県総社市中原88)ならびにユニチカス

ピニング長崎工場(長崎県松浦市志佐町池成免1701)の2拠点となっている。国内で縫製まで行って

おり、海外の外的要因に左右されず安定した製品供給が可能である。

・研究開発は京都府宇治市の中央研究所(京都府宇治市宇治小桜23番地)を中心として、各生産地で

行われている。

・中央研究所では繊維に限らず、ユニチカグループの資材全般の研究開発を行っている。

・染色加工は大阪染工(大阪府三島郡島本町山崎2丁目1−1)で行われている。

・また、グループ企業であるユニチカガーメンテック㈱に於いて、繊維の機能性、物性、難燃性、品

質、性能などの測定・評価が可能となっている。

染色加工技術に強み・高堅牢度染料(スレン染料)による捺染技術及び近赤外線吸収率をコントロールするプリント技

術、ならびに液流染色機による染色加工技術に強みをみせる。

・戦闘服の要求性能として迷彩模様のプリントに代表される高い偽装性が挙げられるが、「ミューロ

ンFR®」は繊維内部まで染め上げる染料プリントが可能であり、プリントの耐久性に優れている。こ

れに対して、メタアラミド繊維、アクリル繊維はバインダーで繊維表面に塗料を付着する顔料プリン

トのみ可能であり、プリントの耐久性に課題が残っている。

44

■染色性における難燃ビニロンの優位性

(8)難燃繊維・生地に関する課題、今後の方向性

現状の課題 今後の方向性

◆長期の使用で皺が起きる

◆海外輸出の活性化

◆更なる高次付帯加工の必要性

◆研究開発により風合い良い加工に

◆更なる難燃基準クリア、高次付帯加工品の製品開発

研究開発を継続し着心地の良い加工に・難燃ビニロン繊維のウィークポイントとして、長期着用による製品の消耗に伴い、皺が起きやす

く、着心地が悪化する点が挙げられる。これに対して同社では防衛省納入分を含む現行品の研究・開

発を断続的に行っており、着心地の良い加工を施すことで課題をクリアしつつある。

高次附帯加工技術を有し 防衛省への長年の供給実績も強み・難燃性を維持した高次附帯加工技術(イージーケア加工、高耐久性風合い維持加工、繊維疎水化)

合成繊維への難燃成分の練り込み技術を有する。

・紡糸、紡織、編み製品の企画技術、生地の評価技術などの総合力に優れている。

・防衛省に対して、長年の納入実績があり、製品の改良を行いながら一度の遅滞もなく供給し続けて

いるのも強みである。また、陸上自衛隊が開催する「需品学校合同研究会」や「富士調査研究会」等

への参画を通して、現役自衛隊員の意見をヒアリングした上で製品の自主開発に活かしている。

ビニロン繊維とアラミド繊維を拡大して染色性を比較したもの。ビニロン繊維

は繊維の内部まで染料が染まっているのに対して、アラミド繊維は繊維の内部

まで染料が染まっていないとする。

45

インナーウェアも開発・提案

・また、アウターウェアだけではなく、インナーウェア(内衣、肌着)でも開発・提案を推進してい

る。ポリエステルなど通常の肌着を着用している場合、接炎により熱が伝わり、衣服に穴が開くこと

で火傷を負う危険性があるためである。

海外輸出拡大に向けた高次製品の開発

・欧州への輸出拡大を目的として、より厳格とされる欧州での難燃基準をクリアした製品の研究開発

を進める方向性にある。加えて、難燃性を保持した状態で、透湿防水ラミネート、コーティング技術

を駆使した高次附帯加工を施した製品の開発を推し進めていく方針にある。

46

(1)企業概要

(2)企業組織

220億円40百万円

資本構成 - 売上高 1,618億4百万円(連結)

従業員数 1,252名藤田 晴哉代表取締役

資本金

No.5 倉敷紡績㈱

設立 1888年3月

本社所在地 〒541-0056 大阪市中央区久太郎町2-4-31

取締役会

繊維事業部

営業統轄部

繊維素材部

ライフスタイル部

衣料貿易部

技術部

丸亀/安城/徳島工場

化成品事業部

環境メカトロニクス事業部

東京支社

・上の図は倉敷紡績の企業組織図を簡略化したものである。

・難燃繊維を扱うのは繊維事業部である。繊維事業部ではデニムなどのカジュアル素材に加えて、高

機能繊維製品を開発している。同社が扱う難燃繊維はアパレル用途では民需でのワーキングウェアが

占める割合が高く、繊維事業部内のライフスタイル部が中心部署となっている。ライフスタイル部お

よび東京支社の下にユニフォーム課があり、難燃繊維を採用したワーキングウェアの提案を行ってい

る。

その他

57.0%

繊維

41.9%

難燃

繊維

1.2%

・綿紡メーカー大手。事業内容は創業以来の事業である

綿・毛・合繊紡織染色加工に加えて化成品、環境制御、

色彩管理、CAD、計測システム製造など非繊維の事業が拡大している。バイオ事業なども行う。また、近年では

不動産賃貸事業の収益性が高くなっている。

・繊維事業に占める難燃繊維の割合は1%程度となっており、2017年は19億円程度となっている。

・難燃繊維はカネカよりモダアクリル繊維「プロテックス®」を調達し、綿と混紡することで「ブレバノプラス®」などの製品を製造している。

難燃繊維担当部署

47

(3)取引企業

(4)難燃繊維・生地の主要製品の概要、特性

A

B

火炎に隣接した作業環境

エコマーク対応用途難燃アクリル繊維

主な用途繊維の種類ブランド名

ブレバノ・プラス

ブレバノ・エコ

カネカが難燃アクリル繊維「プロテックス®」を供給・大手化学メーカーであるカネカを通じてモダアクリル系難燃繊維「プロテックス®」を調達してい

る。なお、「プロテックス®」の供給先では倉敷紡績が最大とみられる。

・倉敷紡績は難燃繊維をテキスタイルの形で販売するのが一般的であり、最大の販売先はグループ会

社であるクラボウインターナショナルとなっている。

・クラボウインターナショナルが製品化して、ミドリ安全、アイトス、自重堂、コーコス信岡などの

ユニフォームウェア大手に販売するケースも多い。

・海外では米国のワークブーツ・メーカーであるレッドウイング社のウェア用途として納入実績があ

る。

・同社の難燃繊維を採用した防護服は、自動車メーカー、金属加工メーカー、化学工場、食品製造

メーカー、電機メーカー、ガス会社、電力会社など火炎に関る可能性のある作業現場を中心に採用されている。

・従業員全員が難燃性防護服を着用することはなく、火炎に隣接した特定のセクションの作業者のみ着用するのが一般的である。

・民需での採用が殆どであり、一部消防団員向け用途も展開しているが、消防吏員向けなど官需での展開は殆どみられない。

帯電防止性能を付与したブレバノ・プラス®が主力

・倉敷紡績では難燃繊維として主に「ブレバノ・プラス®」及び「ブレバノ・エコ®」の2ブランド

を展開している。「ブレバノ・プラス®」は綿とアクリル系難燃繊維(「プロテックス®」)との混

紡により、優れた自己消火機能をもつ旧来品「ブレバノ®」に導電性繊維による高い静電気帯電防止

性を付与した製品であり、綿との混紡によりソフトで爽やかな着心地に優れた素材となっている。

・現在上市している製品の殆どは「ブレバノ・プラス®」となっている。

・「ブレバノ・エコ®」は「ブレバノ・プラス®」のエコ対応製品であり、エコマーク取得製品であ

る。

48

・下の表はJIS-K7201 B-1法による試験の結果である。LOI値とは材料がぎりぎりの有炎燃焼を維持できる酸素と窒素の混合気中の最低酸素濃度(vol%)を表す。一般的に26以上が難燃性を有するとされ、消防庁では29以上が基準値とされている。「ブレバノ・プラス®」はLOI値が29~32と高い難燃性を示している。

・「ブレバノ・プラス®」は導電性繊維を採用しており、静電気帯電防止性能が高いのが特長であ

る。JIS T 8118 (静電気帯電防止作業服)の試験の結果、JIS規格の基準値となる7.0μc/㎡以下をク

リアしている。

・以下、「ブレバノ・プラス®」の製品スペックを示す。下の表は日本防炎協会の衣服類防炎製品認

定試験の結果であり、回数は同一生地の洗濯回数を表す。炭化基準は178mm以下で合格とされる。

この結果から、「ブレバノ・プラス®」が耐洗濯性にすぐれ、難燃性を維持していることがわかる。

■炭化長

0回 50回 0回 50回 0回 50回炭化長 平均 178以下 42 40(mm) 最大 254未満 46 41

防炎製品認定基準値

全焼 全焼 全焼 全焼

\ブレバノ・プラス(ツイル) 綿(ツイル) T/C(ツイル)

■LOI値(限界酸素指数)ブレバノ・プラス 綿 T/C(ツイル) (ツイル) (ツイル)

LOI値 26以上 29~32 18~21 18~22

\難燃性

一般基準値

■帯電電荷量JIS規格 ブレバノ・プラス

基準値 (ツイル)

タテ 7.0以下 2.6ヨコ 7.0以下 5.5タテ 7.0以下 2.1ヨコ 7.0以下 6.1

帯電電荷量(μc/㎡)

アクリル

ナイロン

・また、「ブレバノ・プラス®」の各種物性は次頁の表の通りとなっている。「ブレバノ・プラス

®」は天然素材のコットンをミックスした素材であり、綿、T/Cと比較しても吸水性が高く、バイ

レック法の評価の目安である80mmを上回っている。

・引張、引裂強度では綿やT/Cに見劣りするが、抗ピル性(ピリングの発生のしにくさ)では綿と同

等の性能を有している。

49

■燃焼試験による比較

■防炎メカニズム

「プロテックス®」が燃焼を抑制

・「ブレバノ・プラス®」は難燃繊維「プロテックス®」の働きにより、素材自身に

優れた消火機能があり、燃えにくい。上の

写真は「ブレバノ・プラス®」及び綿100%通常品の燃焼試験の比較であり、

「ブレバノ・プラス®」は着火しても炎が

燃え広がらない様子がわかる。

・なお、炭化部は穴が開く場合があるが、

これは一般の防炎素材に共通する現象である。

・左の図は「ブレバノ・プラス®」の防炎メカニズムを表した概念図である。火に触れると炭化面積が拡がることで、延焼を防ぎ、消火している。

着火直後 10秒後 20秒後

ブレバノ・プラス®

通常品(綿100%)

プロテックス

綿

火に触れると

①「プロテックス®」が

炭化する。同時に不燃性

物質が発生する。

②不燃性物質が綿を炭化

させ、燃焼スピードを抑

制する。

③炭化した「プロテック

ス®」が綿の表面を覆

い、空気を遮断して自己

消火をする。

■物性ブレバノ・プラス 綿 T/C(ツイル) (ツイル) (ツイル)

82 75 34

タテ 1,100 1,100 1,700ヨコ 490 580 880タテ 2,700 2,400 4,600ヨコ 2,200 2,300 4,400

4-5 4-5 4ピリングICI法(級)

引張強力(N)(ストリップ法)

引裂強力(cN)(ペンジュラム法)

吸水性(mm)(バイレック法)

50

(5)難燃繊維・生地の売上高推移

(6)難燃繊維・生地の生産地及び研究開発拠点

1,000

1,250

1,500

1,750

2,000

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

1,700 1,750 1,800 1,8001,900

海外市場開拓 新規業態への提案で売上増加

・難燃繊維の売上高は堅調に推移しており、2017年で19億円に達している。

・「ブレバノ®」ブランドは、国内では労働環境の安全性の高まりからユニフォームウェアとして需

要が増している。また、海外市場の開拓にも注力しており、販売総量に占める輸出割合は半数近くを

占めている。米国のレッドウィング社には米国の基準に合致するように改良した「ブレバノ®」を供

給するなど、ユーザーの多彩なニーズに対応することで顧客を獲得している。

・加えて、「ブレバノ®」を白く染める技術を確立することで、食品・サービスユニフォーム業界へ

の提案を強化するなど、新たな顧客の獲得にも乗り出しており、今後も売上は増加傾向で推移すると

みられる。

(百万円)

★★★

研究開発拠点

技術研究所

生産地

安城工場

生産地

徳島工場

51

(7)難燃繊維・生地に関する独自の保有技術

(8)難燃繊維・生地に関する課題、今後の方向性

現状の課題 今後の方向性

◆法整備進んでおらず、需要に限り

◆一般の繊維より高コスト

◆法整備進めば普及の可能性大

◆食品業界など新業態へ訴求

◆他の難燃繊維より低コストで訴求

ユーザーのニーズに応じた機能の付与

・現在展開しているブランドは帯電防止性を備えた「ブレバノ・プラス®」、落綿使いでエコマーク

認定対応の「ブレバノ・エコ®」が殆どであるが、防炎性と強度を高めるためにアラミド繊維を使用

した「ブレバノ・ネクスト®」、透湿防水や高視認などの機能を付与した「ブレバノF®」など、さ

まざまなタイプの織物に加え、編み地「ブレバノKT®」も揃えるなど、ユーザーの要望に応じた機

能の付加ができる点を強調している。

・オプションの一例として、難燃性向上、耐アーク性向上、強靭性向上、国際規格対応などを挙げて

いる。

・グローバルで事業を展開しているため、日本防炎協会、全米防火協会(NFPA)、欧州規格(EN)

など各国の規格に対応することが可能としている。

安城工場と徳島工場で製造工程を分担

・同社の難燃繊維・生地は全て国内で製造されている。安城工場(愛知県安城市大東町9-13)では

紡績及び織布の工程を担い、徳島工場(徳島県阿南市辰己町1-15)で生地の染色加工の工程を担っ

ている。

・製造の過程に於いて、繊維事業部が工場と適宜協議を行っている。

・技術研究所(大阪府寝屋川市下木田町14-5)を擁し、難燃繊維も研究対象に含まれるが、四半世

紀に亘る研究で、最適な混紡率などは把握していることから、「ブレバノ®」に関しては比較的手薄

といえる。

52

(8)難燃繊維・生地に関する課題、今後の方向性

難燃繊維の普及には法整備が不可欠・難燃繊維は綿など通常の繊維と比較して、コストが2倍程度必要となる。そのため、現状、難燃繊

維を採用した防護服、ワーキングウェアは、過去に火災や爆発などの事故が発生した企業が事後対応

として導入するのが一般的である。

・求人を募集する際、支給するユニフォームの安全性の高さをアピールするために、難燃繊維を採用

している企業もみられるが、事例としては少ない。

・もっとも、防護服、ワーキングウェアの難燃性に関する法整備・規格などが進めば、一気呵成に需

要が増加する可能性が高いとみている。

白色染色の技術を確立し食品業態へ訴求・一般的に難燃繊維の生地は、白色に染めることが難しく、染めても黄変しがちだったが、同社の染

色工場である徳島工場では「ブレバノ®」を白色に染める技術の確立に成功している。

・これにより、火を日常的に使用するものの、難燃繊維の普及がこれまで手薄であった食品・サービ

スユニフォーム業界への提案が加速する見通しである。

低コストでのトライし易さが長所・「ブレバノ・プラス®」は難燃防護服などで使用されるアラミド繊維などと比較して、圧倒的に導

入コストが低い。加えて、難燃ポリエステルと比較しても接炎時に衣服が溶融せず、後加工品と異な

り、素材自体が難燃性能を有することで洗濯を繰り返した後でも機能が持続するなどのメリットの多

さから、難燃繊維の中ではミドルクラスとしてのトライのし易さを訴求している。

53

(1)企業概要

(2)企業組織

代表取締役

資本金

石原 美秀

No.6 オーミケンシ

設立 1917年8月13日

本社所在地 〒541-8541 大阪市中央区南本町4-1-1 ヨドコウビル4F

従業員数 196名

32億5百万円

資本構成 - 売上高 122億5百万円

取締役会

管理本部

繊維事業本部

営業戦略部

繊維素材事業部 素材販売部

原綿・不織布グループ

紡績加工グループテキスタイル・アパレル事業部

ライフスタイル事業部

海外事業部

研究所

加古川工場

関連事業本部

・難燃繊維の製造販売は繊維素材事業部に属する素材販売部が担当している。なお、素材販売部は原

綿・不織布グループ及び紡績加工グループの2部門からなっている。

・OEMでの生産が可能であるものの、繊維(ステイプル)若しくは紡績糸(スパンヤーン)の状態で

川下のアパレル製造メーカーへ販売している。

その他

33.1%

繊維

66.1%

難燃

繊維

0.8%

・レーヨン繊維の製造を事業の核としている。

・繊維事業では綿糸、レーヨン綿、レーヨン糸、各種合繊糸・混紡糸の製造・加工及び販売、各種ニット、織物

並びに不織布の製造・加工及び販売、各種タオル、寝装

製品等の製造・加工及び販売を行っている。

・事業のおよそ2/3を繊維事業が占めているが、難燃繊

維に関する事業は1%未満に留まっている。

・その他の事業としては不動産販売のほか、化粧品の製造及び販売、食品の製造・加工及び販売、ソフト開発などを展開している。

・近年は不動産事業が収益の中心となっているが、平成30年3月期連結は減収ながら、繊維部門の収益改善で増益の見込みである。

難燃繊維担当部署

54

(3)取引企業

(4)難燃繊維・生地の主要製品の概要、特性

A

主な用途インナーウェア、ネックガードなど

繊維の種類

難燃レーヨン

■NEXT-FRの概要

ブランド名

NEXTーFR

官需で採用みられるが実績は未だ僅少・官需では防衛省海上自衛艦隊の整備員向け制服に難燃繊維の供給実績がある。オーミケンシの顧客

が落札したことで、2012年より採用されている。難燃レーヨン「NEXT-FR」85%、麻15%で混紡さ

れた繊維を使用しており、LOI値は26~27となっている。

・消防吏員向けに消防作業服も展開しているが、採用実績としては未だに少ない。スペックは海上自

衛艦隊の整備員向け制服と同じとなっている。

・民需ではインナーウェアとして「快適難燃シリーズ」を展開しており、製鉄所の炉の前の作業員や

火炎・熱源の近くで作業する作業員に供給している。

・海外では防護服、軍需などで難燃繊維の供給実績があるものの、国内の具体的な使用用途は把握していない。

レーヨンの風合い・染色性などの活かした難燃繊維

・リン・硫黄系の難燃剤をレーヨン繊維中に練り込み、難燃化したレーヨン繊維である。

・ハロゲン系、アンチモン系の難燃剤を使用していないため、燃焼時に有害物質を発生しない。

・練り込み製品のため、レーヨンの持つ染色性、発色性、手触りや肌ざわり、吸水性の高さ、着心地

などの特性を損ねていない特長がある。

・レーヨンの持つ特長として、制電性の良さがあり、帯電防止に優れている。

・原料(ステープル)の状態で販売することが殆どであるが、インナーウェアとして「快適難燃シリーズ」(「CTSTシリーズ」)を上市している。同シリーズは難燃レーヨン75%、メタ系アラミド

繊維「コーネックス」25%の混紡比となっている。(コットン、麻などの燃えやすい素材と「NEXT-

FR®」を混紡する際は、難燃性を損なわないため「NEXT-FR」の比率を80%以上とするように推奨している。)

・インナーウェアを展開しているのは、製鉄所の炉前、ボイラーの燃焼室近くなど火炎・熱源の近くで作業する業種では制服として難燃性のアウターウェアが支給されるものの、インナーウェアは作業

従事者が自費で購入することが多いためである。

・インナーウェアに加えて、ネックガード、難燃タオルも展開している。

55

■「快適難燃シリーズ」

■NEXT-FRの規格

規格1 4dtex×38mm規格2 2dtex×51mm (200kg梱包)

■NEXT-FRの難燃性試験結果

測定法: JIS L-1091 A-1法試料:ニードルパンチ不織布

(目付:100-200g/cm2 )残じん時間(秒) 0 0

燃焼面積(cm2 ) 18 4

着炎3秒後1分加熱残炎時間(秒) 0 1

乾伸度(%) LOI値2.18 50.5 2.31 20.3 29

■NEXT-FRの繊維物性

繊度(dtex) 繊維長(mm) 乾強度(cN/dtex)

・その他の規格については別注対応としている。

・規格2に関する同社研究所による実測データである。

・同社研究所による実測データである。

【CTST3251G】 【CTST3252G】 【CTST3253G】

56

(5)難燃繊維・生地の売上高推移

(6)難燃繊維・生地の生産地及び研究開発拠点

70

90

110

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

93 9692

100 103

難燃繊維の売上増加傾向も実績は僅少・難燃繊維の売上高は9,500万円~1億円の間で推移している。

・防衛省海上自衛艦隊の整備員向け制服、消防吏員向け消防作業服などの納入実績がある。

・民需での需要がインナーウェアなどに限定されており、急激な需要増加こそ見られないものの、難

燃繊維に関する引合いは継続して増加しており、2017年は2016年と比較してして年間3%程度売上

が増加している。

(百万円)

・下の画像はコットンと「NEXT-FR」の燃焼比較試験の様子である。「NEXT-FR」は火炎が消火

し、燃焼が治まり、穴開きなどは見られない。

57

(6)難燃繊維・生地の生産地及び研究開発拠点

(7)難燃繊維・生地に関する独自の保有技術

難燃繊維の生産開発拠点は加古川工場

・難燃繊維の生産拠点は同社唯一の国内工場である加古川工場(兵庫県加古川市尾上町池田850)と

なっている。同工場に隣接されている研究所が研究開発の拠点となっている。

・加古川工場では年間2万t程度のレーヨン繊維を製造している。このうち、難燃レーヨンの生産量は

年間100t程度である。

生産地兼研究開発拠点

加古川工場

難燃レーヨンでは国内有力企業

・難燃繊維市場に於いて難燃レーヨンを扱うのはダイワボウとオーミケンシが国内の代表的な企業で

あり、生産実績は僅かにダイワボウに劣るものの、例年底堅い需要を背景に売上を確保している。

・難燃レーヨン繊維の製造には難燃剤をレーヨン繊維中に練り込む技術及び難燃剤の調達の双方が不

可欠となるが、同社では技術・調達ルートのいずれも確立している点がアドバンテージとなってい

る。

58

(8)難燃繊維・生地に関する課題、今後の方向性

現状の課題 今後の方向性

◆入札では特定メーカーに偏向

◆化学物質を扱うリスク

◆民需での需要拡大が必須

◆ユーザーとの協業強化が不可欠

◆法規制を注視

◆中衣ラインナップの拡充へ

シェア拡大には縫製メーカーとの協業強化が不可欠・現在、国内における難燃繊維の需要は防衛省や各自治体の消防局といった官公需が典型となってお

り、入札を経て納品することから、特定メーカーの採用が目立ち、新規参入が難しい状況にある。

・同社単独で難燃レーヨンの採用増加を図ることは現状では困難であるため、縫製メーカーと更に密

接に連携して提案を行っていくことが不可欠である。

・一方、民需に於いては作業衣に求められる機能として高視認性、耐切創、熱中症対策と併せて耐

炎・耐熱・難燃が世界的なトレンドとなっており、難燃繊維の需要が高まっていることから、今後の需

要拡大を見込んでいる。

薬剤の使用規制が気がかり・技術的な課題ではないが、リン・硫黄系の難燃剤をレーヨン繊維中に練り込み製造するため、薬剤

の使用規制の動向を常に注視している。かつてハロゲン、アンチモンといった薬剤が法規制によって

使用を禁止されたように化学物質を扱うリスクが存在する。

民需での需要拡大へ・現状「快適難燃シリーズ」にみられるインナーウェアが民需の主力製品となっている。民需の需要

を拡大するためには、インナーウェアに加えて、中衣(アウターウェアとインナーウェアの中間に着

る衣料)のラインナップ拡充を図る方向性にある。難燃レーヨンの持つ風合いを発揮する上では、ア

ウターよりもインナーよりである中衣の製品開発が適していると考えている。

59

(1)企業概要

(2)企業組織

従業員数 19,292名鈴木 純代表取締役

資本金 708億16百万円

資本構成 - 売上高 7,412億91百万円

No.7 帝人㈱

設立 1918年6月

本社所在地 〒530-0005 大阪市北区中之島3-2-4

取締役会

マテリアル事業統轄

マテリアル事業グループ

アラミド事業本部

炭素繊維事業本部

フィルム事業本部

樹脂事業本部

複合成形材料事業本部

マテリアル技術本部繊維・製品事業グループ

ヘルスケア事業統轄

IT事業グループ

・創業時は帝国人造絹絲㈱と称し、国内で初めてレーヨ

ンの商業生産を開始した合成繊維の国内大手メーカーで

ある。高機能繊維、化成品、複合成形材料等の事業をグ

ローバルで展開しており、炭素繊維では世界2位のシェア

を有するほか、骨粗しょう症薬などの医薬品も強い。こ

のほか、在宅医療機器、樹脂、電子材料なども事業展開

している。

・事業の構成比は高機能繊維、化成品、複合成形材料、

樹脂などを含むマテリアル事業領域が73%、医薬品、在

宅医療機器などを含むヘルスケア事業が20%、ヘルスケ

ア向けITサービスなどIT事業その他が7%となっている。

・繊維事業に占める難燃繊維の割合は12%となってお

り、2017年は890億円程度となっている。

・高機能繊維はメタ系アラミド繊維「コーネックス®」

及び「コーネックス®ネオ」、パラ系アラミド繊維「ト

ワロン®」、共重合パラ系アラミド繊維「テクノーラ

®」の4製品を扱っている。

その他

31.0%

繊維

57.0%

難燃

繊維

12.0%

※繊維にはポリエステル繊維など

の衣料繊維製品のほか、炭素繊維

を含む。

難燃繊維担当部署

追加-1

(3)取引企業

防護衣料 国内は官公需が中心

・パラ系アラミド繊維では世界No.1のシェアを占めるとされ、「トワロン®」はゴム補強材等の自動車関連用途、各国の防弾レベルに対応した防弾用途の需要が総じて拡大している。共重合パラ系アラ

ミド繊維「テクノーラ®」はゴム補強材等の自動車関連用途、石油採掘用ケーブル・ホース用途等海

外のインフラ関連需要が堅調に推移している。メタ系アラミド繊維「コーネックス®」は集塵フィルター用途、ターボチャージャーホース等のゴム資材のほか、消防服をはじめとする防護衣料としての

用途がある。

・防護衣料事業はアラミド事業部における重点注力分野の一つである。国内では消防服(とりわけ火

災現場の最前線で任務にあたる消防吏員が着用する防火服)の需要が高く、防火服の市場では同社の

アラミド繊維はトップシェアを占めている。

・防衛省に対しても、防護衣料の供給を積極的に行っており、戦闘服、作業服、整備服、防火服、耐

寒耐水服などの納入実績がある。

・消防服のアパレルメーカーでは業界最大手である小林防火服、業界大手の赤尾と関係が深く、共同

で製品開発を行っている。また、ユニフォームメーカーではミドリ安全への供給実績が多いほか、自重堂への供給もみられる。

組織再編でアラミド事業本部を設置

・前頁の図は帝人の企業組織図を簡略化したものである。

・2017年4月に組織再編を行っており、これまで高機能繊維・複合材料事業グループ高機能繊維事業

本部で展開していた産業資材用途のポリエステル繊維関連事業を製品事業グループに統合し、「繊

維・製品事業グループ」として事業の強化・拡充を図っている。一方、高機能繊維事業本部は「アラ

ミド事業本部」として難燃繊維であるアラミド繊維及び高機能ポリエチレン「Endumax®」に特化

して事業展開する構えである。

・アラミド事業本部は帝人の基幹事業であるマテリアル事業グループの下に位置している。マテリア

ル事業グループではアラミド繊維のほか、炭素繊維、フィルム、樹脂を扱い、同社売上の3/4近くを

占めている。

・アラミド事業本部内に防護衣料事業を担当するプロテクティブ・ユニフォーム課を擁する。

追加-2

(4)難燃繊維・生地の主要製品の概要、特性

A

C

D

■帝人製品のブランド別主要用途

テクノーラ® 共重合パラ系アラミド繊維

防護、アスベスト代替、

ゴム補強、FRP

ブランド名 繊維の種類 主な用途

トワロン® パラ系アラミド繊維

コーネックス® 耐火・耐熱メタ系アラミド繊維

コーネックス®ネオ 耐火・耐熱 (後染めが可能)

\ トワロン テクノーラ コーネックス

防弾服・防刃服 ● 安全手袋 ● 消防服 ● ● ● コンポジット補強材 ● ● ゴム補強材(ベルト・ホース) ● ● ゴム補強材(タイヤ) ● 光ファイバー補強材 ● 摩擦材(ブレーキ、クラッチ) ● シール材(ガスケット) ● ロープ ● 魚網 ● イアホンコード ● 土木補強材 ● 焼却炉集塵フィルタ ● 電気絶縁ペーパー ● プレス機クッション材 ● ランドリーマット ● OAクリーナー ●

消防服ではパラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維を併用

・上の表は帝人が展開するアラミド繊維4ブランドのそれぞれの主要な用途をまとめたものである。「コーネックス®ネオ」は「コーネックス®」の難燃性など基本性能は踏襲した上で、後染め加工を

可能にした染色性に優れた製品である。

・消防服ではパラ系アラミド繊維(「トワロン®」、「テクノーラ®」)及びメタ系アラミド繊維

(「コーネックス®」)を混紡した生地が採用されることが多い。これは、パラ系アラミド繊維の持

つ高強度、耐衝撃性、耐引裂性の強さとメタ系アラミド繊維の持つ難燃性、ストレッチ性の良さを活用することで、より多くの機能性を消防服に付与するためである。

・パラ系アラミド繊維はその強度の高さを活用し、コンポジット、ゴム、光ファイバー、土木などの補強材としての用途が目立っている。

消防服メーカー赤尾の防火服「デュアルファイ

ン」表生地はメタ系アラミド53%、パラ系ア

ラミド47%の混紡比となっている。

追加-3

■帝人製品のブランド別特性比較

■帝人製品のブランド別性能比較

「テクノーラ®」は強度、耐薬品性に優れる

・上の表は帝人が展開するアラミド繊維3ブランドの特性をそれぞれ比較したものである。(「トワロン®」、「テクノーラ®」、「コーネックス®」の3者を比較対象としている。)「トワロン®」

は弾性率、瞬間耐熱性、耐弾刃性に、「テクノーラ®」は強度、耐衝撃性、耐疲労性、耐薬品性に、

「コーネックス®」は長期耐熱性、難燃性、着衣活動性に特に秀でている。

・それぞれ特性の異なるアラミド繊維を複数擁しているのが帝人の強みであり、消防服にみられる様

に、より強度の高いパラ系アラミド繊維とより難燃性の高いメタ系アラミド繊維の併用が可能となっている。

トワロン®とテクノーラ®の違い

・上の表は帝人が展開するアラミド繊維3ブランドの性能を数値で比較したものである。(参考のためにポリエステルの数値を付記している。)

・パラ系アラミド繊維「トワロン®」と共重合パラ系アラミド繊維「テクノーラ®」の違いとしては、「テクノーラ®」は強度は高いが、弾性率に劣り、伸度が大きい。また、繰り返し磨耗、屈曲、

伸張に耐え、耐疲労性に優れている。寸法安定性に優れ、吸湿性が低く、化学的安定性(耐湿熱、耐

酸、耐アルカリ)にも優れている。一方で難燃性は「トワロン®」よりも劣っているなどの性質の違いがある。

テクノーラ ポリエステル

長繊維 短繊維 短繊維 短繊維短繊維

(高強力)短繊維

 引張強度 (標準) CN/dtex 20.8 18.0 22.0 4.94 6.18 4.9 〃 Mpa 2,950 2,590 3,060 680 850 680 伸度 (標準) % 3.5 5.2 6.0 39.5 28.0 35.0 伸張弾性率 (3%) % - 65 - 77.5 77.5 95 ヤング率 (3%) CN/dtex 500 230 230 63.9 86.0 42 〃 Gpa 72 33 33 8.82 12.2 5.8 比重 g/cm3 1.44 1.44 1.39 1.38 1.38 1.38 水分率 (20℃×65%) % 6.0 6.0 2.0 5.25 5.25 0.45 比熱 KJ/kg℃ 1.67 1.67 1.67 1.05 1.05 1.34 線膨張係数 10-5/℃ -0.5 -0.5 -0.6 1.5 1.5 1.5 熱伝導率 KJ/mhr℃ - - - 0.54 0.54 0.54 融点 or 熱分解温度 ℃ >500 >500 >500 415 415 258 LOI値 29 29 25 27-29 27-29 17

コーネックストワロン\ 単位

\ トワロン テクノーラ コーネックス

強度 ○ ◎ × 弾性率 ◎ ○ × 耐衝撃性 ○ ◎ △ 耐疲労性 ○ ◎ △ 瞬間耐熱性 ◎ ○ △ 長期耐熱性 ○ ○ ◎ 耐弾刃性 ◎ ○ × 難燃性 ○ △~○ ◎ 耐薬品性 ○ ◎ ○ 着衣活動性 △ △ ◎

【凡例】

◎…きわめて良好

○…良好

△…普通

×…やや劣る

追加-4

(5)難燃繊維・生地の売上高推移

防護衣料はアラミド繊維の基幹分野の一つ

・上のグラフは帝人が展開するアラミド繊維「トワロン®」及び「コーネックス®」の用途別内訳を表したものである。パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維の双方で防護衣料の構成比は20%を占

めており、基幹分野の一つに位置付けている。

・パラ系アラミド繊維「トワロン®」は自動車や産業資材用途における摩擦材、タイヤのゴム補強

材、アジア・中東における需要が拡大している防弾用途等の防護衣料、アジアで需要が拡大している

光ファイバーケーブルなどを中心に構成されており、総じて順調に売上が拡大している。

・メタ系アラミド繊維「コーネックス®」はターボチャージャーホース等の自動車関連用途が欧米を

中心に、フィルター用途では環境規制を強化した中国などアジア各国を中心に需要が堅調に推移している。防護衣料用途では国内需要は堅調に推移しており、中国・インドなどの成長地域では安全意識

の高まりに伴い需要が増加している。また、欧米では防護衣料各社の生地開発が活発化するなど市場

は拡大基調にあり、更なる需要取り込みを目指している。

・パラ系アラミド繊維「テクノーラ®」は国内の自動車関連用途と海外の石油採掘用ケーブルなどの

インフラ関連向け販売が堅調に推移している。「テクノーラ®」は優れた耐疲労性、耐薬品性等が評価され、より過酷な条件下での用途拡大が進んでいる。

摩擦材

30%

防護衣料

20%光ファイバー

20%

タイヤ

20%

ゴム資材

10%

フィルター

30%

ゴム資材

30%

防護衣料

20%

産業資材

20%

【トワロン®用途別内訳 (2016年)】 【コーネックス®用途別内訳 (2016年)】

・難燃繊維・生地の売上高については非公表としている。

・もっとも、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維ともに年率3~4%程度の成長率を示してお

り、2020年には防護衣料のみで200億円の売上到達を目標としている。

追加-5

(6)難燃繊維・生地の生産地及び研究開発拠点

日・蘭・泰でアラミド繊維を生産

・パラ系アラミド繊維「トワロン®」の生産は2000年に帝人がACORDIS社を買収した後、オランダ

にあるグループ企業Teijin Aramid B.V.が承継している。Teijin Aramid B.V.は本社および開発拠点

をアーネム市(Velperweg 76, 6824 BM Arnhem, the Netherlands)に、生産工場はエメン市

(1e Bokslootweg 17, 7821 AT Emmen, the Netherlands)に構えている。エメン工場の生産能

力は年間26,450トンであり、パラ系アラミド繊維の生産工場としては世界最大規模である。

・パラ系アラミド繊維「テクノーラ®」の生産は同社の国内最大プラントである松山事業所(愛媛県

松山市北吉田町77番地)で行われている。2016年3月「テクノーラ®」の10%生産増強を公表して

おり、生産能力は年間2,700トンとみられる。

・メタ系アラミド繊維「コーネックス®」の生産は岩国開発センター(山口県岩国市日の出町2番1

号)で行われている。同所ではアラミド繊維に関する研究開発も行われている。生産能力は年間

2,700トンとなっている。

・2015年8月より、タイのバンコクに近いアユタヤ工場(1/1 Moo 3, Tambon Klong Nueng

Amphur Klong Luang Pathumthani 12120, Thailand)にてメタ系アラミド繊維「コーネックス

®」及び「コーネックス®ネオ」の生産が行われている。生産量は当初の年間2,700トンから年間

4,900トンへ増強している。

・このほか、ドイツのヴッパータール市(Kasinostrasse 19-21 D-42103 Wuppertal,

Germany)、中国の上海市(New CaoHeJing International Business Center, 36th Floor, Tower

B, No.391 Guiping Road, Shai 200233, China)に研究開発拠点を構えている。

・また、グローバルで販売網を構築しており、日本、中国、インド、オランダ、ドイツ、フランス、

イタリア、米国、メキシコ、ブラジルに販売拠点を構えている。

★★

★★

生産地兼研究開発拠点松山事業所

生産地アユタヤ工場

生産地兼研究開発拠点岩国開発センター

生産地兼研究開発拠点テイジン・アラミド B.V.

研究開発拠点テイジン・アラミド・アジア Co,Ltd.

研究開発拠点テイジン・アラミド GmbH

追加-6

(7)難燃繊維・生地に関する独自の保有技術

左:「トワロン®ブラック」

右:「トワロン®」

のフィラメントヤーン

コーネックス®ネオは後染めが可能

・メタ系アラミド繊維を染色するには通常、原料の段階で原液着色を行い、紡糸した後の後染めは難

しいとされる。しかし、2015年8月より、タイで生産を開始した「コーネックス®ネオ」は、製糸条

件の精密コントロール技術により染色性を付与しており、後染め加工を可能としている。「コーネッ

クス®ネオ」の上市により、小ロット需要への対応が可能となっている。

アラミド繊維は黒色製品をラインナップ

・パラ系アラミド繊維「トワロン®」、「テクノーラ®」は分子構造が緻密であり、染料が浸透しに

くいため、染色自体が困難となっている。(「トワロン®」、「テクノーラ®」は元来、黄色であ

る。)しかし、帝人では紡糸前のポリマー段階での染色によって、パラ系アラミド繊維の芯まで完全

に黒色に染めることに成功しており、2011年に「トワロン®ブラック」、「テクノーラ®ブラッ

ク」を上市している。黒色への要求が高かったヨットの帆、バイク用ヘルメットなど、意匠性が重視

される分野への採用拡大を図っている。また、土木補強、圧力容器、電流遮断器(ブレーカー)な

ど、幅広い用途における炭素繊維など他の黒色素材と組み合わせたアラミド繊維複合材料としての提

案が可能としている。

・消防服では小林防火服の防火服「ブラックテック」に「テクノーラ®ブラック」が採用されてい

る。黒色原着糸を使用しているため、耐光劣化が改善されている。「テクノーラ®ブラック」を数ミ

リ間隔で格子状(グリッド状)に配することで、強度の劣化を防止し、耐引裂性も向上している。

4種類のアラミド繊維+高機能ポリエチレンで多様なソリューションを提供

・パラ系アラミド繊維では「トワロン®」、「テクノーラ®」、メタ系アラミド繊維では「コーネッ

クス®」、「コーネックス®ネオ」とアラミド繊維のみで4種類のブランドを擁している。これに加

えてアラミド事業本部では剛性、耐衝撃性、耐切創性、耐摩耗性、耐薬品性に優れた、防弾プレー

ト、ロープ・ケーブル、配管補強用途などで使用される高機能ポリエチレン「Endumax®」を展開

しており、顧客の要望に応じた多様なソリューションを提供できる点を強みとしている。

追加-7

(8)難燃繊維・生地に関する課題、今後の方向性

製品開発の設備が充実

・製品開発に関る施設が充実しているのも大きな強みとなっている。ドイツのヴッパータール事業所

(テイジン・アラミドGmbH)ではシューティングレンジを保有し、世界各国の防弾レベルに対応し

たアラミド製品の研究開発を行っている。

・民間企業としては国内で唯一、サーマルマネキンを用いた国際規格に基づく火傷評価システム

(PLIFF)を所有しており、防護衣料製品の熱や炎による火傷の損傷をPCで瞬時に検証することが可

能となっている。

現状の課題 今後の方向性

◆アラミド繊維の染色性の低さ

◆ピリングの発生

◆メタ系アラミド繊維は染色性をクリアし普及拡大へ

◆技術開発でピリングを克服へ

アラミド繊維は染色性の課題を克服しつつある

・アラミド繊維の持つ課題として、染色性の低さが挙げられる。帝人では染色自体が困難とされるパ

ラ系アラミド繊維(「トワロン®」、「テクノーラ®」)に関しては、黒色に染色することに成功し

ており、デザイン性が重視される用途での訴求や炭素繊維など他の黒色素材と組み合わせたアラミド

繊維複合材料としての提案を可能としている。

・メタ系アラミド繊維「コーネックス®」は原料の段階で染色する原液着色は可能であるものの、後

染めが困難であり、小ロットの対応に苦慮していたものの、2015年に後染めが可能である「コー

ネックス®ネオ」を上市したことで、メタ系アラミド繊維は染色性の課題をクリアしつつある。

・メタ系アラミド繊維は他の繊維と比較して繊維の強度が強いため、混紡生地にした際、一定程度使

用するとピリング(毛玉)が発生し易いとされるが、帝人では紡績・織り・加工のテキスタイル化技

術によってピリングの課題を克服している。

・なお、帝人では各拠点での技術、知見をさらに連携させ、成長市場の需要取り込みを加速させるこ

とを中長期的なテーマに据えている。また、防護衣料に関しては難燃性だけでなく、着心地の改良や

運動性の更なる向上を課題としている。

追加-8

(1)企業概要

(2)企業組織

85億93百万ドル

資本構成 ダウ・ケミカル52% デュポン48% 売上高 734.3億ドル(2016年)

従業員数 9万8,000名エドワード・D・ブリーン代表取締役

資本金

No.1 ダウ・デュポン(Dow Du Pont Inc.)

設立 1802年7月

本社所在地

アメリカ合衆国ミシガン州ミッドランド及び

アメリカ合衆国デラウェア州ウィルミントン

(2030 Dow Center, Midland, Michigan 48674 USA,

974 Centre Road, Wilmington, Delaware 19805 USA)

・創業以来200年以上の歴史を持つデュポンは2017年9月1日、前日付けでザ・ダウ・ケミカル・カン

パニーとの対等経営統合が完了したことを発表しており、統合会社の社名は「ダウ・デュポン」とな

り、世界最大の総合化学企業となっている。事業は農業部門(Agriculture)、素材科学部門

(Materials Science)および特殊化学品部門(Specialty Products)の3部門から構成される持株会

社として経営されている。

・合併の利点として、両社の技術革新を統合し、研究開発により注力することで、顧客に対して、よ

りスケールの大きなアプローチを可能としている点が挙げられる。

・ダウ及びデュポンの経営陣と統合チームは、各部門の緻密な戦略を支える経営モデルと組織設計を

策定している段階にあり、各部門に独自のプロセス、人材、資産、システム、およびライセンスが整

理・配置され次第、2019年3月までに3部門を会社法人として独立、分割する予定である。

・なお、難燃繊維に関する事業の比率は非公表としている。

DOW+DUPONT

Agriculture

MaterialsScience

Specialty Products

Electronics &Imaging

Transportation & Advanced Polymers

Safety & Construction

Nutrition & Biosciences

難燃繊維担当部署

60

■デュポン本社の空撮画像(米国デラウェア州ウィルミントン)

・前頁の図はダウ・デュポンの企業組織図を簡略化したものである。

・特殊化学品部門(Speciality Products)は主にElectronics & Imaging、Transportation &

Advanced Polymers、Safety & Construction、Nutrition & Biosciencesの4部門で構成される。

・このうち、Safety & Constructionにて繊維、アラミドペーパー、不織布、防護服等を取り扱って

いる。主なブランドに耐切創性に優れたパラ系アラミド繊維「ケブラー®」(Kevlar®)、火炎、電

気などから着用者を保護するメタ系アラミド繊維「ノーメックス®」(Nomex®)、化学薬品など

から着用者を保護する「タイベック®」(Tyvek®)、美しさと優れた加工性をもつメタクリル樹脂

強化無機材「コーリアン®」(Corian®)等がある。

・特殊化学品会社の本社は、米国デラウエア州ウィルミントンに設置されている。

・日本では東レ・デュポン㈱が「ケブラー®」を、デュポン・スペシャルティ・プロダクツ㈱が「ノー

メックス®」、旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ㈱が「タイベック®」のブランドを扱

う。

・なお、電気絶縁用途、構造材として用いられる「ノーメックス®」のペーパー分野では繊維分野で

競合関係にある帝人と合弁で事業展開をしている。

Kevlar®製造エリア

Nomex®

製造エリア

Tyvek®

製造エリア

61

(3)取引企業

■デュポン製品のブランド別用途

・「ケブラー®」はフィラメント、ステープル、カット・ファイバー、パルプ、ファブリック、フェ

ルトなどの形態が、「ノーメックス®」はフィラメント、ステープル、カット・ファイバーフロッ

ク、紡績糸、ペーパー、ファブリック、フェルト、ハニカムなどの形態があり、各種分野への応用を

可能としている。以下の表はダウ・デュポンの各ブランドにおける採用用途を一覧にしたものであ

る。

\ ノーメックス ケブラー タイベック

運輸 ● ● 光ファイバー ● タイヤ ● ゴム. ● ● 電力 ● ● モーター ● 変圧器 ● 排気ろ過 ● 封筒 ● 医療包材 ● 建築補強 ● ● ヘルメット・ベスト ● 消防服 ● ● 手袋 ● ● 化学防護服 ● 農業用途 ●

ケブラー®、ノーメックス®を難燃防護服に使用・「タイベック®」は、放射性粉じん付着防止目的で原子力発電所での作業者が着用する防護服のほ

か、家屋の施工時に外壁を覆う透湿防水シート、医療用途としての滅菌包材、農業用途として果樹の

下に敷くことで太陽の光を反射させ成長を促し、かつ過度な吸水を防ぐなどの使用例がある。

・「ケブラー®」は繊維の強度・弾性率が高く、堅牢であるものの生地が硬いため、アパレル用途で

は工場での作業用手袋、軍需では防弾チョッキ、防弾ヘルメットなど着用者を被弾から防護する用途

での採用が中心となっている。また、「ノーメックス®」繊維と混紡することで、強度を兼ね備えた

難燃防護服が作られている。

・「ノーメックス®」繊維は産業資材(Industrial)、熱防護服(Thermal apparel)、自動車

(Automotive)が主な用途となっており、中でも熱防護服に最も注力している。熱防護服を縫製・

製造するアパレルメーカーが主要なパートナー企業であり、国内では帝国繊維が最大のパートナー企

業となっている。

ケブラー®の紡績糸を

使用した手袋

62

(4)難燃繊維・生地の主要製品の概要、特性

【ケブラー®】

ノーメックス® 米国では民需、日本では消防服の需要が高い

・「ノーメックス®」の熱防護服のユーザーとして、ワールドワイドでは製油所、石油化学工業、化

学薬品を扱う企業、電力、ガス産業、消防署、救助隊、警察、軍隊(米国、英国などのNATO諸国を

はじめ日本、韓国、台湾、シンガポール、豪州、UAE、サウジアラビア、イスラエルなど)が挙げら

れる。とりわけ米国では労働省の機関の一つであるOSHA(労働安全衛生管理局)の指導により、労

働環境によって難燃性繊維を採用した防護服の着用が法的に義務付けられており、民間での需要が非

常に高くなっている。

・これに対して、日本では官公需品としての需要が高く、最も多く採用されているのは消防服として

である。また、防衛省、警察、海上保安庁で採用実績がある。民需では大手製鋼所、金属産業、石油

精製所、化学工場などで採用されているが、現在のところ、法律(労働安全衛生法など)による労働

安全衛生上での難燃防護装備に関する規定が無く、作業者を防護する必要性が高い作業環境に限定し

て、アラミド繊維を採用した防護服が採用される事例が多くなっている。

・ダウ・デュポンが有する高機能パラ系アラミド繊維「ケブラー®」、メタ系アラミド繊維「ノー

メックス®」の防護衣料用途について、以下それぞれ詳述する。

・1960年代に世界初のスーパー繊維として開発され、1970年代始めに商業販売が開始された高機能

有機繊維である。同じ重さの鋼鉄の約5倍の引っ張り強度を有しており、防弾チョッキにも使用され

る高い衝撃性や耐切創性、耐熱性、軽量さなど様々な特長を持っている。

63

【ノーメックス®】

200

150

215

215

255

537

0 200 400 600

羊毛 炭化

木綿 分解

アクリル融点

ナイロン融点

ポリエステル融点

ケブラー炭化

24.5

18.5

19.5

22.5

22

29

0 10 20 30 40

羊毛

木綿

アクリル

ナイロン

ポリエステル

ケブラー

・図1は各種繊維と「ケブラー®」繊維の耐熱性をTGA法で比較したものである。「ケブラー®」が

炭化するのは537℃であり、他の素材と比較して耐熱性に優れている。また、図2は物質を燃やすた

めに必要な酸素濃度の指標であるLOI値の比較である(JIS K7201法による測定)。「ケブラー®」

のLOI値は29となっており、他の繊維素材と比較して難燃性でも優位に立っている。

高い難燃性、自己消火性を持ち、火炎曝露で融解しないノーメックス®・米国陸軍の燃料補給部隊で採用されたのを端緒に、2018年に開発50周年を迎えたメタ系アラミド

繊維である。

・「ノーメックス®」は繊維素材そのものが高い難燃性を持ち、火炎に曝されても融解しない特性を持っている。300℃を超える辺りより徐々に熱劣化が始まり、温度が高くなるにつれ劣化速度が速ま

る。最終的に炭化をしていくが、防火服に使用されているように、短時間であれば500℃を越えるよ

うな高温にも耐えられることから、退避のための時間を稼ぎ、熱源から退避した際に自己消火性を持つ高機能素材として広く使用されている。

・371℃以上の高温になると、「ノーメックス®」は分解して砕け易い炭化物となる。炭化の進み方

は熱源の強さに比例する。燃焼させて生じた炎は「ノーメックス®」が熱源から離れると自ずと消火する。以下は燃焼試験(CCC-T-191-b法5902 )の結果である。

(℃) (LOI値)

図1 図2

布地 目付重量 燃焼時間 残炎 炭化長さ

(単位) (g/㎡) (秒) (秒) (cm)

平織 100 0 6 6.4 2×1綾織 170 0 13 4.8 ブロード 200 0 6 5.3 2×1綾織 270 0 12 5.1 厚手ニット 230 0 6 6.9

洗濯後の寸法変化少なく耐切創性に優れたケブラー®・前頁の図は各種繊維の手袋と「ケブラー」繊維製手袋の洗濯後寸法変化と切創抵抗の測定結果を比

較したものである。他の繊維と比較して、「ケブラー®」が洗濯後の寸法変化が少なく、かつ耐切創

性に優れていることが分かる。なおG(ゲージ)とは1インチ間にある針数を指し、数字が大きくなる

ほど編目が細かくなる。

64

高温でも強い耐用性・「ノーメックス®」は他の殆どの合成繊維の融点以上の温度でも実用に耐える強伸度曲線を持って

いる。図1は各種の温度(糸を5分間乾熱)における強伸度曲線を示したものである。また、図2は糸

の温度と破断時強度との関係を示したものである。

・長期間に亘り高温に暴露しても「ノーメックス®」は比較的高い強さと強靭性を保持している。図

3と図4に高温暴露後の特性を示す。

図1 図2

図3 図4

高温暴露後の強度保持率

(測定条件;21℃、65%R.H.)

高温暴露後の耐久保持率

(測定条件;21℃、65%R.H.)

65

アークフラッシュに対する優れた耐性・また、全米防火協会が策定したNFPA2112(フラッシュ火災に対する作業者保護のための難燃防炎

服の標準)の規格標準を上回る性能を有している。アーク耐性の生地評価をマネキン試験を通して実

施したところ、96カロリー/c㎡のアーク(アーク長:約30cm、電圧:15Kv、電流:8KA、暴露時

間:1/6秒)で暴露された場合、一般的な難燃加工繊維製被服(FRコットン品)が破断したのに対し

て、目付約200g/㎡の「ノーメックス®」難燃防護服では破断が確認されず、アークフラッシュに対

する優れた破断耐性を示している。

耐薬品性では炭化水素類・有機溶剤に強く、高温の強アルカリに弱い・「ノーメックス®」は多くの薬品類に対して優れた抵抗性を示し、とりわけ炭化水素類や有機溶剤

について優れた抵抗性を持っている。

・なお、「ノーメックス®」の耐アルカリ性は室温では良好であるが、高温で強アルカリに曝される

と劣化する。以下は各種の化学薬品に対する「ノーメックス®」の抵抗性を示したものである。

濃度 温度 時間(%) (℃) (hrs.) 100-91 90-76 75-56 55-21 20-0

強酸類10 95 8 ○35 21 10 ○35 21 100 ○10 21 100 ○70 21 100 ○10 21 100 ○10 60 1,000 ○60 60 100 ○70 21 100 ○70 95 8 ○

薬品名破断時強度保持率(%)

塩 酸

硝 酸

硫 酸

66

濃度 温度 時間(%) (℃) (hrs.) 100-91 90-76 75-56 55-21 20-0

強酸類100 21 1,000 ○100 93 10 ○

ベンゼンスルホン酸 100 93 10 ○安息香酸 飽和液 93 10 ○

91 21 1,000 ○91 93 10 ○

乳 酸 75 21 1,000 ○10 93 10 ○

飽和液 21 1,000 ○トリフルオロ酢酸 100 21 1,000 ○

強アルカリ

水酸化アンモニウム 28 21 100 ○

10 21 100 ○10 60 100 ○

10 95 8 ○

40 21 10 ○50 60 100 ○

漂白剤過酢酸 100 21 10 ○

0.5 21 10 ○0.5 60 100 ○

次亜塩素酸ナトリウム 0.4 21 10 ○ 有機薬品類

100 21 1,000 ○100 **56 10 ○100 21 1,000 ○100 **80 10 ○

ニ硫化炭素 100 21 1,000 ○100 21 1,000 ○100 **77 10 ○100 21 1,000 ○100 **202 10 ○100 21 1,000 ○100 93 10 ○100 70 168 ○100 **153 10 ○100 21 1,000 ○100 93 10 ○

エチルアルコール 100 21 1,000 ○100 21 1,000 ○100 70 168 ○100 93 10 ○

ホルムアルデヒド 10 21 1,000 ○フレオン-113 100 21 1,000 ○

ガソリン 100 21 1,000 ○ジェット燃料 100 70 168 ○

100 21 1,000 ○100 **65 10 ○100 21 1,000 ○100 93 10 ○

パークレン 100 70 168 ○10 21 1,000 ○

100 93 10 ○ストッダード溶剤 100 21 1,000 ○

m-キシレン 100 70 168 ○ 密閉試験

空気+水5%+二酸化硫黄5%*

- 175 100 ○

フレオン-22 - 180 1,000 ○六フッ化硫黄 - 180 1,000 ○

水蒸気(545kPaで飽和)

- 155 100 ○

*重量比 **沸点

薬品名破断時強度保持率(%)

メチルアルコール

ニトロベンゼン

フェノール

四塩化炭素

m-クレゾール

ジメチルアセトアミド

ジメチルフォルムアミド

ジメチルスルフォキサイド

エチレングリコール

ベンゼン

酢 酸

蟻 酸

蓚 酸

カセイソーダ

塩素酸ナトリウム

アセトン

67

(5)難燃繊維・生地の売上高推移

(6)難燃繊維・生地の生産地及び研究開発拠点

・なお、帝人の展開するメタ系アラミド繊維「コーネックス」とは分子の鎖の長さこそ異なるもの

の、化学構造はほぼ同じで根本的な性質は殆ど変わらない。もっとも、紡績工場で繊維をどのように

スピニングする(紡績する)かで特性に違いが生じてくる。

・その他、ノーメックス®の製品特徴として、平滑な生地面を得ることができるフィラメント糸(長繊

維)及び、可染性の高い可染白色原綿を製品群として持ち、フィラメント糸は航空服(フライトジャ

ケット)のような製品や、コーポレートカラーを重要視するユニフォームにおいては可染原綿が用いら

れている。

ノーメックスの分子構造

・難燃繊維・生地の売上高については非公表としている。

★★

生産地兼研究開発拠点

スプルーアンス工場

★★

★生産地

東レ・デュポン東海工場

研究開発拠点

上海

生産地

メイダウン工場

研究開発拠点

ジュネーブ

生産地

アストゥリアス工場

68

(7)難燃繊維・生地に関する独自の保有技術

本社スプルーアンス工場を中心に世界各地に拠点・難燃繊維の生産拠点は「ケブラー®」がスプルーアンス工場(5200 DuPont Site Rd, Richmond,

VA 23234,USA)、メイダウン工場(Londonderry 60 Clooney Road P.O. Box 15 Maydown,UK)及び東レ・デュポン東海工場(愛知県東海市新宝町31-6)の3拠点となっている。

「ノーメックス®」はスプルーアンス工場ならびにアストゥリアス工場(Valle de Tamón s/n,

33469, Asturias,Spain)の2拠点となっている。研究開発拠点はスプルーアンス工場の他、ジュネーブ(Route du nant d’Avril, 146, Meyrin, Switzerland 1217)、上海(600 Cailun Rd, Pudong

Xinqu, Shanghai Shi, China)に構えている。

・「ケブラー®」、「ノーメックス®」ともに生産拠点を複数構えており、工場間での相互補完を行うことで、急激な需要増加にも対応することが可能となっている。また、公表はしていないが、難燃繊維の総生産量は世界最大とみられる。

・研究開発拠点はスプルーアンス工場、ジュネーブ、上海の3拠点が中心となるが、各工場に於いても技術開発の部隊をそれぞれ擁している。

ケブラー®、ノーメックス®それぞれの長所を活かして併用・耐切創性に優れ、高度の堅牢性を有する「ケブラー®」と難燃性に優れ、風合いは通常の綿と相違

がない「ノーメックス®」の2つの高機能繊維ブランドを擁しており、加えて織りを含めた総合技術

に長けているのが最大の強みである。例えば「ケブラー®」と「ノーメックス®」では熱を与えた際

の挙動が異なり、「ノーメックス®」が熱に対して収縮(シュリンク)する特性を活かし、表地に

「ノーメックス®」、裏地に「ケブラー®」を使用することで凸字型のエアギャップを作ることで、

遮熱効果を一段と高めることが可能である。

・「ケブラー®」は繊維の強度が高く、切創及び生地の破断を防止することで切創箇所からの火炎の

侵入を防いでいる。

・「ケブラー®」の作業手袋には低発塵性タイプがあり、SD長繊維(フィラメント)を使用すること

で、埃や糸くずが出にくく、手にフィットする装着感も相俟ってガラス加工、フィルム加工、精密機

械、電気製品組み立て作業などクリーンな作業環境での使用に適している。

・高温に曝された際、「ノーメックス®」繊維は炭化し、厚みを増すので結果的には熱源と肌の間の

防護性を増し、火傷の程度を軽減させることに繋がっている。下の図は「ノーメックス」繊維が熱と

炎に曝された際の炭化による繊維の変化を示した概念図である。

69

帯電防止性能も良好・「ノーメックス®」は帯電防止性能にも優れており、生地としてJIS T 8118 静電気帯電防止作業

服で求められる摩擦帯電電荷量の性能を満たしており、短絡事故などの原因となる静電気が発生し難

い素材となっている。

・ワールドワイドでの納入実績が豊富であり、米軍をはじめとする世界各国の軍隊、消防、警察、イ

ンダストリアル分野での開発実績を活用することが可能である。また、生産能力の高さも製品供給の

面で重要なポイントとなっている。

サーマルマネキンをワールドワイドで複数所有・「ノーメックス®」の優れた難燃性を実演するために、「サーモマン(THERMO-MAN)®」と称

するサーマルマネキンを用いた試験を実施している。122個のセンサーを取り付けた186cm(6

フィート1インチ)のマネキンに防護服を着せ、火炎に曝し、マネキンの表面にどの程度の熱が伝わ

るかを調べるものである。

・また、シミュレーションの中で高性能なコンピューターを用いて2度火傷・3度火傷を負う可能性が

ある部位と程度を予測することが可能である。以下は「サーモマン®」のシミュレーション結果の一

例である。

・「サーモマン®」はスプルーアンス(米国)、パウリニア(ブラジル)、ドバイ(UAE)、メイリ

ン(スイス)、シンガポールの各拠点に設置され、直火、放射熱など複数の項目で試験を行うこと

で、テストした防護服が顧客の要求性能を満たしているのか検証することができる。

・同様のサーマルマネキンを所有する繊維メーカーは幾つかあるが、複数を所有しているメーカーは

極めて稀である。また、「サーモマン®」は1970年代に米軍と共同で開発した経緯があり、性能の

面でも秀でている。

・「サーモマン®」は、ISO13506-1及び-2に準拠する性能を持つものであるが、異なる設計に基づ

く異なる試験機関のマネキンにおいては、試験結果に差異が出ることが確認されており、試験結果の

取扱いについては注意を要する。(サーモマン®については同一の設計に基づき製作されている)

70

■サーモマン®実演の様子

ノーメックス®品は着火しても直ぐに消火 衣服は溶融せずに炭化・以下、「サーモマン®」の実演について述べる。図1は通常の一般的な作業衣(65%ポリエステ

ル、35%綿)を火炎に曝したところであるが、炎が各所に燃え広がり、衣服が溶融している様子が見

て取れる。また、炎が衣服に滞留し、なかなか消火しないことから着用者が深刻な火傷を負う可能性

は免れないといえる。

・これに対して図2は米国空軍、米国海軍の航空部隊に支給される難燃防護服(71%「ノーメック

ス」、残りは綿、帯電防止糸で混紡)を火炎に曝した直後の様子である。瞬時に炎が消え、煙と化し

ている。また、図1の一般的な作業衣と異なり、衣服は溶融しておらず炭化している。

・前頁図3は前頁図2の難燃防護服を燃焼後、内部に着用していた下着の様子を撮影したものである。

下着が焼け焦げるなどの損傷は殆ど見られなかったことから、着用者が深刻な火傷を追う可能性は非

常に低く、「ノーメックス®」を使用した難燃防護服の防護性の高さを表している。

図1 図2 図3

71

(8)難燃繊維・生地に関する課題、今後の方向性

現状の課題 今後の方向性

◆「ケブラー®」染色の難しさ

◆「ノーメックス®」初期費用の高さ

◆顧客のニーズを充足してクリア

◆他素材と比較して難燃防護服の採用は高い安全性と長期的な投資として推奨

ケブラー®は染色が困難・「ケブラー®」に関する技術的課題として、染色の難しさが挙げられる。「ケブラー®」本来の色は黄色であり、ポリマーの中に顔料を入れてスピニングすることで染色できるが、別途コストが必要となる。もっとも、染色の難しさは素材そのものが持つ特性であるため、ダウ・デュポンとしては課題ではなく、顧客と綿密に相談してクリアすべき過程と捉えている。

・「ケブラー®」は他の素材と混紡して採用されることが多く、「ノーメックス®」などメタ系アラミド繊維を主体(混紡比50%以上)として、「ケブラー®」を5~20%(強度が必要な際は20~30%とする)混紡し、残りはポリエステル、アクリルなどの繊維を混紡することでコストを抑えつつユーザーの使用目的に応じた高性能の防護服をつくることが可能である。

FRコットン品 比較項目 ノーメックス

¥7,000 初期費用 ¥16,00025~40 洗濯寿命(回) 125*

\176~280 1回あたりコスト ¥128

ノーメックス®は初期投資の高さが導入の障壁・「ノーメックス®」は初期投資の高さが他のアラミド以外の難燃素材と比較して普及促進を阻害す

る要因となっている。これに対して、ダウ・デュポンでは「ノーメックス®」を使用した難燃防護服

の採用は長期的な投資として捉えることを推奨している。これは「ノーメックス®」製品は重油やグ

リースなど産業系の汚れを除去する際に用いられる有機溶剤によるこすり洗いを行っても繊維生地が

傷まないという特性が、高い耐久性、製品寿命の長さ、繊維自体に炭化水素化学薬品やその他有機溶

剤に対しても高い耐化学薬品性を有する背景となっている。

・加えて「ノーメックス®」は繊維自体に難燃性が有るため、一般的なFRコットン品にみられる洗濯

による表面加工の剥がれ、物理的損耗、難燃性能の低下はみられない。

・その他の技術的課題としては、現状ではフライトジャケット用途、アークフラッシュ防護用途など

防護服のシステムデザインが幾つにも分かれているのを、1着着用すれば良い様に防護服を多機能化

することが挙げられる。とりわけ、アークフラッシュ対策は防護服の機能として重要な要素である。

*左の図では比較のため、「ノーメックス®」の

洗濯寿命を125回としているが、ダウ・デュポ

ンでは125回の洗濯後でも難燃性の低下はみ

られないとしている。

72

あらゆる環境で適応可能な防護服を目指す

・今後の方向性として、ウェアラブルセンサーなどスマートシステムを搭載して、軍事用途を中心に

屋外、屋内を問わずあらゆる環境に適応できる防護服の作製も視野に入れている。

・日本向けに展開する際は、高温多湿な気候に順応できるように、吸水性に優れ、ヒートストレスに

対応できる防護服を作製する方針である。

73

(1)概要

設立 代表理事 ジム・ポーリー(Jim Pauley)1896年

No.1 米国防火協会(NFPA)

正式名称 National Fire Protection Association

本部所在地 アメリカ合衆国マサチューセッツ州クインシー

(1 Batterymarch Park Quincy、MA 02169-7471 USA)

民間機関が作成した規格を法律で適用・上の図は米国の消防用機器に関する法体系を簡略化したものである。

・米国では連邦と州がそれぞれの立法・行政・司法制度を有している。労働者の安全を確保する観点での防火安全規制については労働安全衛生法により、連邦の規制として存在している。連邦規制であ

るOSHA規則において、消防用機器についての設置や性能の基準が規定されている。また、州によっ

ては独自の規則を制定していることがある。・一方でOSHA規則や州の消防基準法等においては消防用機器の性能仕様については詳細な基準を規

定しておらず、これらの基準については別途、NFPAなどの民間機関によって作成された基準を参照

し、適用する形となっている。

・なお、消防服、消防器具などの個別製品がNFPAの規格に適合しているかの審査は第三者機関が

行っている。

・米国に於いて、防火基準の制定等を行う非営利民間団体である。

1896年に設立され、1930年に法人化された。火災、電気事故に関

連する生命、身体、財産の損失を排除するべく防火基準の制定、技

術指導、火災安全調査などの業務を行っている。NFPAが発行する

基準・規格は米国内で広く認知されている。これまでに300以上の

基準を制定し、会員数は全世界で6万人以上とされる。

・NFPAはANSI(米国国家規格協会)によって認定された規格制定

機関である。

NFPAのロゴマーク

労働安全衛生規則OSHA規則

規則29条第1910

製品ごとに製品安全の基準を制定

連邦

合衆国憲法

米国連邦法

米国連邦規則

州憲法

州法

州規則

民間規格

 ・UL規格

 ・FM規格

 ・NFPA規格   など

参照・適用

■米国の消防用機器に関する法体系

74

(2)規格

・NFPAの規格は300以上あり、スプリンクラーの規格、建築基準関係、防火扉、防火区画といったイ

ンフラに関するものから、液体、ガス、固形燃料、爆発物、放射能に関する取扱い、そして作業服に

関するものなど多岐に亘っている。

・作業服では消防士の他に電気関係、化学産業、化学薬品などの職種でNFPA規格の認定がなされてい

る。

・米国軍で使用する備品等については記載されていないものの、軍内部での消防活動ではNFPA規格が

使用されている。

・米国の消防局では連邦政府、州、地方自治体など管轄が多様であるが、大都市の7割以上ではNFPA

の規格がベースとなっており、消防服などを導入する際、NFPAの規格に準拠したものであることが前

提となっている。

・以下はNFPAの規格の一覧である。

コード 規格項目1 火災コード

2 水素技術コード

3 防火および生命安全システムの試運転の基準

4 統合防火および生命安全システム試験の基準

10 ポータブル消火器の基準

11 低、中、高膨張泡消火の基準

11A 中・高膨張泡消火システムの基準

11C 移動泡装置の基準

12 二酸化炭素消火システムの基準

12A ハロン1301消防システムの基準

13 スプリンクラーシステムの設置基準

13D 一戸建て住宅と二戸建て住宅におけるスプリンクラーシステムの設置基準

13E スプリンクラーおよびスタンドパイプシステムで保護されている物件の消防署運営に関する推奨事例

13R 低層居住者におけるスプリンクラーシステムの設置基準

14 スタンドパイプとホースシステムの設置基準

15 防火のためのウォータースプレー固定システムの基準

16 フォームウォータースプリンクラーとフォームウォータースプレーシステムの設置基準

17 乾式化学消火システムの基準

17A 湿式化学消火システムの基準

18 湿潤剤に関する基準

18A 防火と蒸気緩和のための水添加剤の基準

20 防火用固定式ポンプの設置基準

22 防火用貯水槽の基準

24 民間消防用電源の設置基準とその附属設備

25 水ベースの防火システムの検査、試験、および保守の基準

30 可燃性および可燃性液体コード

30A 自動車用燃料供給設備および修理ガレージのコード

30B エアロゾル製品の製造および貯蔵のためのコード

31 石油燃焼設備の設置基準

32 ドライクリーニング施設の基準

33 可燃性または可燃性材料を使用したスプレー塗布の基準

34 可燃性または可燃性の液体を使用する塗布、コーティング、および印刷プロセスの基準

35 有機被膜製造のための基準

36 溶媒抽出プラントの基準

37 定置式燃焼機関およびガスタービンの設置および使用の基準

40 セルロース硝酸塩フィルムの保管および取り扱いの基準

42 プロキシリンプラスチックの貯蔵のためのコード

45 薬品を使用した実験室の防火基準

46 林産物の保管に推奨される安全管理

50 コンシューマーサイトにおけるバルク酸素システムの基準

50A コンシューマーサイトにおけるガス状水素システムの基準

50B コンシューマーサイトにおける液化水素システムの基準

51 溶接、切断、および関連するプロセス用の酸素

51A アセチレンシリンダー充電プラントの基準

51B 溶接、切削、その他の熱間作業中の防火基準

75

コード 規格項目52 車両用天然ガス燃料システムコード

53 酸素を多く含む環境で使用される材料、設備、システムに関する推奨事例

54 米国の燃料ガスコード

55 圧縮ガスおよび低温流体コード

56 可燃性ガス配管システムのクリーニングおよびパージ中の火災および爆発防止の基準

57 液化天然ガス(LNG)車両燃料システムコード

58 液化石油ガスコード

59 公益LPガスプラントコード

59A 液化天然ガス(LNG)の生産、貯蔵、取り扱いの基準

61 農業および食品加工施設における火災および塵埃の爆発防止基準

67 パイプシステムにおけるガス状混合物の爆発防止に関するガイド

68 爆燃ベントによる爆発保護基準

69 爆発防止システムの基準

70 米国電気工事基準

70A 一戸建て住宅と二戸建て住宅に関する米国電気工事基準

70B 電気機器メンテナンスの推奨事例

70E 職場での電気安全基準

72 全国の火災警報と信号コード

73 既存住宅の電気検査基準

75 情報技術設備の防火基準

76 電気通信設備の防火基準

77 静電気の推奨事例

78 電気検査ガイド

79 産業機械用電気規格

80 防火ドアおよびその他の開口保護具の基準

80A 外部火災から建物を保護するための推奨事例

82 焼却炉および廃棄物およびリネンの処理システムおよび設備に関する基準

85 ボイラーおよび燃焼システムの危険有害性コード

86 オーブンと炉の基準

86C 大気を特殊処理した工業用炉の基準

86D 真空を大気として使用する工業用炉の基準

87 流体ヒーターの基準

88A 駐車場構造物の基準

88B 修理ガレージの基準

90A 空調・換気システムの設置基準

90B 温風暖房・空調システムの設置基準

91 蒸気、ガス、ミスト、および粒子状物質の空気輸送用排気システムの基準

92 煙制御システムの基準

92A 障壁と圧力差を利用した煙制御システムの基準

92B モールなど大規模施設の煙管理システムの基準

96 換気制御の基準と商業調理作業の防火

97 煙突、通気口、および熱生成機器に関する基準用語集

99 ヘルスケア施設コード

99B 低圧施設の基準

101 ライフ・セーフティ・コード

101A 生命の安全への代替アプローチのガイド

101B ビルや構造物のための出口のためのコード

102 観覧席、折りたたみおよび伸縮式座席、テント、および膜構造物のための基準

105 煙ドア部品およびその他の開口保護具の基準

110 緊急時およびスタンバイ時の電力システムの基準

111 蓄積された電気エネルギーの基準

115 レーザー防火のための基準

120 石炭鉱山における火災予防と管理の基準

121 自走式および移動式の鉱山設備の防火基準

122 金属/非金属鉱業および金属鉱物処理施設における防火および制御の基準

123 地下の瀝青炭鉱山における防火と防火の基準

130 固定ガイドウェイトランジットおよびパッセンジャーレールシステムの基準

140 映画およびテレビプロダクションスタジオの基準、サウンドステージ、許可された制作設備、および制作場所

150 動物飼育施設における火災および生命の安全に関する基準

160 観客の前に炎による演出を使用するための基準

170 火災安全および緊急記号の基準

203 屋根の覆いやデッキ構造に関するガイド

204 煙と熱の換気の基準

76

コード 規格項目211 煙突、暖炉、通気口、および固体燃料燃焼装置の基準

214 水冷タワーの基準

220 建築構造の種類に関する基準

221 ハイレベルの防火壁、防火壁、防火壁の基準

225 製造された戸建住宅の設置基準

230 倉庫の防火基準

231 一般的な倉庫の基準

231C 材料のラック保管基準

231D ゴムタイヤの保管基準

231E コットンの保管に関する推奨事例

231F ロール紙の保管基準

232 レコード保護基準

232A アーカイブとレコードセンターの防火ガイド

241 建築、改築、解体作業を保護するための基準

251 建築構造物の耐火性試験の基準的な方法

252 ドア部品の火災試験の基準的な方法

253 輻射熱エネルギー源を用いたフロアカバーシステムの臨界放射束の基準試験方法

255 建築材料の表面燃焼特性の基準試験方法

256 屋根カバーの火災試験の基準的な方法

257 窓およびガラスブロック品の火災試験の基準

258 固体材料の煙発生を決定するための推奨実例

259 建築材料の潜熱に関する基準試験方法

260 布張り家具のたばこ点火抵抗のための基準試験方法および分類システム

261 タバコによる着火に対するモックアップ布張り家具材料品の抵抗を決定するための基準試験方法

262 空気処理施設で使用するための電線およびケーブルの炎の移動および煙の基準試験方法

265 パネルと壁面における繊維または壁紙の膨張の寄与を評価する火災試験の基準的な方法

266 点火源にさらされた布張り家具の火災特性に関する基準試験方法

267 点火源にさらされたマットレスと寝具の火災特性に関する基準試験方法

268 輻射熱エネルギー源を用いた外壁の可燃性を決定するための基準試験方法

269 火災危険モデリングに使用するための毒性力データを作成するための基準試験方法

270 単一閉室における円錐形放射源を用いた煙遮蔽測定のための基準試験方法

271 酸素消費熱量計を用いた材料および製品の熱および可視煙放出率の基準試験方法

272 酸素消費熱量計を使用した布張り家具類または複合材およびマットレスの熱および可視煙放出率の基準試験方法

274 管断熱材の耐火性能評価のための基準試験方法

275 熱障壁の評価のための基準的な火災試験方法

276 可燃性葺き屋根材の放熱率を決定するための基準的な火災試験方法

277 点火源を使用した布張り家具の耐火性および耐火性の評価試験の基準試験方法

285 可燃性成分を含む外装無負荷軸受の火災伝播特性評価のための基準火災試験方法

286 壁と天井の内装仕上げの火災成長への影響を評価するための火災試験の基準的な方法

287 火災伝播装置(FPA)を使用したクリーンルーム内の材料の可燃性の測定のための基準試験方法

288 水平耐火性定格組立品に設置された水平防火戸の火災試験の基準的な方法

289 個々の燃料パッケージの基準的な火災試験方法

290 LPガス容器用パッシブ保護材の火災試験規格

291 火災流動試験と消火栓のマーキングに関する推奨事例

295 野外火災制御の基準

297 通信システムの原則と事例ガイド

298 野外火災制御のためのフォームケミカルに関する基準

299 野外火災からの生命および財産保護の基準

301 商船の火災から生命を守るためのコード

302 レジャー及び商用モータークラフトの防火基準

303 マリーナとボートヤードの防火基準

306 船舶におけるガス危険度の管理基準

307 海上ターミナル、埠頭、埠頭の建設と防火のための基準

312 造船、コンバージョン、修理、係船中の船舶の防火基準

318 半導体製造設備の保護基準

326 入港、清掃、修理のためのタンクとコンテナの保護基準

328 マンホール、下水道、および同様の地下構造における可燃性および可燃性の液体および気体の管理に関する推奨事例

329 可燃性および可燃性の液体および気体の放出の取り扱いに関する推奨事例

350 安全な閉ざされた空間の出入口と作業のためのガイド

385 可燃性および可燃性液体用タンク車の基準

386 可燃性かつ可燃性の液体用ポータブル配送タンクの基準

395 農家および孤立した場所での可燃性および可燃性液体の保管基準

77

コード 規格項目400 危険物コード

402 航空機レスキューおよび消防活動の手引き

403 空港での航空機救助および消防サービスの基準

405 空港消防士の定期的な習熟度の基準

407 航空機燃料サービスの基準

408 航空機ハンドポータブル消火器の基準

409 航空機格納庫の基準

410 航空機メンテナンスに関する基準

412 航空機レスキュー及び消防発泡装置の評価基準

414 航空機レスキューおよび消防車の基準

415 空港ターミナルビルの基準、給油ランプ排水、積込み歩道

418 ヘリポートの基準

422 航空機事故/事故対応評価ガイド

423 航空機エンジン試験設備の建設および保護の基準

424 空港/コミュニティの緊急計画のためのガイド

430 液体および固体酸化物の貯蔵のためのコード

432 有機過酸化物製剤の保存に関する規定

434 農薬の保管のためのコード

450 緊急医療サービスとシステムのためのガイド

451 コミュニティヘルスケアプログラムのガイド

471 有害物質事故への対応に関する推奨事例

472 有害物質への対応者/大量破壊兵器の能力の基準

473 有害物質/大量破壊兵器に対応するEMS要員の能力の基準

475 有害物質/武器の大量破壊兵器対策プログラムの構成、管理、維持のための推奨事例

480 マグネシウム固体および粉末の保管、取扱いおよび処理の基準

481 チタンの製造、加工、取扱い、貯蔵の基準

482 ジルコニウムの製造、加工、取扱い、貯蔵の基準

484 可燃性金属の基準

485 リチウム金属の保管、取り扱い、処理、使用の基準

490 硝酸アンモニウムの貯蔵のためのコード

495 爆発物コード

496 電気機器のパージおよび加圧型エンクロージャの基準

497 化学プロセスエリアの電気設備における可燃性液体、気体、蒸気および有害な場所の分類の推奨事例

498 安全な港とインターチェンジロットのための基準爆薬を輸送するための車両

499 化学プロセス分野の電気設備における可燃性粉塵および有害な場所の分類の推奨事例

501 製造住宅に関する基準

501A 製造された住宅設備、現場、およびコミュニティの火災安全基準の基準

502 道路トンネル、橋梁、その他の出入制限高速道路の基準

505 タイプ指定、使用分野、変換、メンテナンス、および操作を含む、給電された産業用トラックの火災安全基準

513 モーター貨物ターミナルの基準

520 地下空間の基準

550 火災安全の概念のツリーのガイド

551 火災危険度評価ガイド

555 部屋のフラッシュオーバーの可能性を評価する方法に関するガイド

556 乗用車の乗員に対する火災危険の評価方法に関する指針

557 構造防火設計に使用する火災荷重の決定基準

560 滅菌および燻蒸のためのエチレンオキシドの保管、取り扱いおよび使用基準

600 施設消防団の基準

601 消防法におけるセキュリティサービスの基準

610 モータースポーツ会場の緊急時および安全運転ガイド

650 可燃性固体を扱うための空気式搬送システムの基準

651 アルミニウムの加工と仕上げ基準とアルミニウム粉末の製造と取扱い

652 可燃性粉塵の基礎に関する基準

654 可燃性固体の製造、加工および取扱いから生じる火災および塵の爆発防止の基準

655 硫黄の火災および爆発防止の基準

664 木材加工および木工施設における火災および爆発防止の基準

701 テキスタイルとフィルムの火炎伝播のための基準的な火災試験方法

703 建材用難燃処理木材および難燃性塗料の基準

704 緊急時対応のための材料の危険性を識別するための基準的なシステム

705 テキスタイルとフィルムのフィールド炎試験の推奨事例

720 一酸化炭素(CO)検出・警報装置の設置基準

730 敷地内セキュリティのガイド

731 電子セキュリティシステムの設置基準

78

コード 規格項目750 ウォーターミスト防火システムの基準

770 ハイブリッド(水および不活性ガス)消火システムの基準

780 雷保護システムの設置基準

790 第三者評価機関の適性基準

791 ラベルのない電気機器評価のための推薦された事例と手順

801 放射性物質を扱う施設の防火基準

803 軽水炉用火災保護基準

804 先進軽水炉発電プラントの防火基準

805 軽水炉発電プラントの防火性能基準

806 高性能原子炉用発電設備の発電プロセス変更のための防火性能基準

820 排水処理施設における防火基準

850 発電プラントおよび高電圧直流変換ステーションのための防火のための推奨事例

851 水力発電プラントのための防火の推奨事例

853 定置型燃料電池発電システムの設置基準

855 固定式エネルギー貯蔵システムの設置基準

900 ビルのエネルギーコード

901 事故報告および防火データの基準分類

902 屋外での火災事故報告ガイド

903 火災報告書調査ガイド

904 事故の追加報告ガイド

906 火災事故フィールドノートの手引き

909 文化財保護のためのコード

914 歴史的建造物防火のためのコード

921 火災と爆発の調査ガイド

950 データ開発の基準と消防サービスへの引換え

951 デジタル情報の構築と利用の手引き

1000 消防士専門資格認定および認証システムの基準

1001 消防士専門資格の基準

1002 消防装置ドライバー/オペレーターの専門資格の基準

1003 空港消防士の専門資格の基準

1005 陸上消防士のための海上消防の専門資格の基準

1006 テクニカルレスキュー要員の専門資格の基準

1021 消防士の専門資格の基準

1026 インシデント管理担当者の専門資格の基準

1031 火災検査官および計画審査官の専門資格の基準

1033 火災調査官の専門資格の基準

1035 火災と生命の安全教育者、公共情報責任者、青少年のための仲介専門家、青少年のためのプログラムマネージャー専門職

1037 消防士の専門資格に関する基準

1041 消防士インストラクターの専門資格の基準

1051 原野火災消防職員の専門資格の基準

1061 公衆安全のための基準電気通信人事専門の資格

1071 緊急車両技術者の専門資格のための基準

1072 危険物の基準/大量破壊兵器の救急救助要員の専門資格

1078 電気検査官の専門資格の基準

1081 施設消防旅団メンバーの専門家資格の基準

1082 施設セーフティディレクターの専門資格の基準

1091 トラフィック制御インシデント管理の専門家資格の基準

1122 モデルロケットのコード

1123 花火の表示用コード

1124 花火と火工品の製造、輸送、保管に関するコード

1125 モデルロケットと高出力ロケットモーターの製造のためのコード

1126 オーディエンスの前に火工技術を使用するための基準

1127 ハイパワーロケット用コード

1128 火炎破裂のための基準的な火災試験方法

1129 消費者用花火の覆われた導火線のための基準的な火災試験方法

1141 荒野、田舎、郊外の土地開発のための防火インフラの基準

1142 郊外および農村消防用水供給基準

1143 原野火災管理の基準

1144 原野火災からの構造点火の危険性を低減するための基準

1145 消火におけるクラスA発泡スチロールの使用ガイド

1150 クラスA燃料の火災のためのフォームケミカルの基準

1192 レクリエーション車の基準

1194 レクリエーション車両駐車場とキャンプ場の基準

79

コード 規格項目1201 公衆に火災・救急サービスを提供するための基準

1221 緊急サービス通信システムの設置、保守、および使用に関する基準

1231 郊外および農村消防用水供給基準

1250 火災・救急サービス組織におけるリスク管理の推奨事例

1300 コミュニティリスクアセスメントとコミュニティリスク削減プラン開発の基準

1401 消防訓練報告書および記録の推奨事例

1402 消防士訓練センターの構築ガイド

1403 ライブファイアー訓練進化の基準

1404 消防用呼吸器保護訓練の基準

1405 船舶火災に対応する陸上消防署ガイド

1407 消防サービスの迅速な介入クルーのための基準

1408 サーマルイメージャの操作、保守、使用、および保守における消防員の訓練の基準

1410 緊急シーン操作のトレーニングに関する基準

1451 消防救急車両オペレーショントレーニングプログラムの基準

1452 コミュニティーリスク削減のための訓練のためのガイド

1500 消防署の基準安全衛生、健康、およびウェルネスプログラム

1521 消防署安全管理者のための基準資格

1561 緊急サービスインシデント管理システムとコマンドの安全性に関する基準

1581 消防署感染管理プログラムの基準

1582 消防署の包括的な職業医療プログラムの基準

1583 消防署員の健康関連フィットネス基準

1584 緊急手術および訓練練習中のメンバーのためのリハビリ工程に関する基準

1600 災害/緊急管理と事業継続/事業継続プログラムの基準

1616 大量避難、シェルター、および再入国プログラムに関する基準

1620 プレインシデントプランニングの基準

1670 テクニカルサーチと救助災害のための運用とトレーニングの基準

1700 構造消防用ガイド

1710 消防事業、緊急医療業務、特殊業務の組織と展開の基準

1720 ボランティア消防団による消火活動、緊急医療業務、および特別な活動の組織化と展開の基準

1730 防火検査とコード実施、計画レビュー、調査、公立教育業務の組織と展開に関する基準

1801 消防用熱画像装置の基準

1802 ハザードゾーン内の緊急サービス要員が使用するパーソナルポータブル(ハンドヘルド)双方向無線通信デバイスの基準

1851 構造消火と近接消火のための保護具の選定、管理、および維持に関する基準

1852 自給式呼吸器(SCBA)の選択、保守、およびメンテナンスの基準

1855 災害救助のための保護具の選定、管理、維持に関する基準

1858 安全帯および緊急サービス用機器の選択、保守、およびメンテナンスに関する基準

1859 戦術操作ビデオ機器の選択、保守、およびメンテナンスに関する基準

1877 野外消防服および機器の選択、保守、およびメンテナンスに関する基準

1891 有害物質の衣類および装備の選択、保守、およびメンテナンスに関する基準

1901 自動車用消火器の基準

1906 野外火災装置の基準

1911 勤務中の緊急車両の点検、メンテナンス、テスト、廃用の基準

1912 火器の修理の基準

1914 消防署空中装置の試験基準

1915 火災防止装置の予防保全プログラム

1917 自動車用救急車の基準

1925 海上消火船の基準

1931 消防署のはしごのメーカー設計基準

1932 使用中の消防署グラウンドラダーの使用、メンテナンス、およびサービステストに関する基準

1936 電動レスキューツールの基準

1937 レスキューツールの選択、管理、および保守の基準

1951 技術災害救助のための保護的道具に関する基準

1952 表面水処理に関する基準防護服および装置

1953 汚染された水中へ潜水するための防護具の基準

1961 消防ホースの基準

1962 消防ホース、カップリング、ノズル、および消防ホース部品の取り扱い、使用、検査、サービステスト、および交換の基準

1963 消防ホース接続の基準

1964 スプレーノズルの基準

1965 消防ホース用基準機器

1971 構造消火と近接消火のための防護具の基準

1975 緊急サービス作業服要素に関する基準

1976 近接消防用保護具の基準

1977 野外火災消防用防護服および装備の基準

80

難燃繊維に関する規格は主に1971、2112、2113・難燃繊維に特に関連する規格は1971(構造消火と近接消火のための防護具の基準)、2112(フ

ラッシュ火災による熱暴露から作業従事者保護のための耐火服の基準)、2113(フラッシュ火災に

よる熱暴露から作業従事者保護のための難燃性衣類の選択、ケア、使用、およびメンテナンスに関す

る基準)の3つである。

・1971は屋内の消火活動に使用する消防服、ブーツ、ヘルメット、手袋などのメーカーの製造基準

となっている。認証要件、要求性能、試験方法などが規定されている。なお、消防用具のケア、選

定、メンテナンスなどユーザーが留意する事項は1851に規定されている。

・2112はフラッシュ火災(濃縮された燃料が十分な酸素と混合して燃焼を起こして発生する突発的

な火災。被害者は重篤な火傷を追う可能性が高い。)に対する作業従事者保護のための防炎服の基準

である。難燃繊維の認証要件、要求性能、試験方法などが規定されている。

・試験方法の多くは世界最大の規格設定機関であるASTMのものを適用している。

・2113は2112を踏まえた難燃繊維の選択、ケア、使用及びメンテナンスに関する規格となってい

る。

70Eに対する注目度が高い・近年、繊維メーカーやワーキングウェアメーカーが注目している規格は70E(職場での電気安全基

準)である。死亡事故にも繋がりかねないアークフラッシュ(電気爆発)に暴露される可能性が有れ

ば、常にフラッシュ火炎に対して抵抗力のある作業服を着用することを要求し、作業従事者の保護を

図っている規格である。

・なお、NFPAの規格は通常、3~5年の間で更新されている。新しい技術が確立されるとタスクグ

ループが新たに項目を追加するか否かを調査・検討する。安全性に関する問題は最優先事項であり、

適宜、技術的な改定がされている。

コード 規格項目1981 緊急サービスのための自給式呼吸器(SCBA)の基準

1982 パーソナルアラート安全システム(PASS)の基準

1983 緊急サービスのための生命安全ロープおよび装備に関する基準

1984 ワイルドランド消防活動のための呼吸器に関する基準

1986 戦術技術業務のための呼吸保護装置の基準

1987 戦術的および技術的運用のためのコンビネーションユニット呼吸システムの基準

1989 緊急時の呼吸保護のための呼吸気圧基準

1991 有害物質の緊急事態とCBRNテロ事件のための蒸気防護組立基準

1992 有害物質の緊急事態のための液体防沫防護具および衣類の基準

1994 緊急事態とCBRNテロ事件への最初の対応者のための保護具に関する基準

1999 緊急医療活動のための防護服と防護具に関する基準

2001 クリーンエージェントの消火システムに関する基準

2010 固定エアロゾル消火システムの基準

2112 フラッシュ火災による熱暴露から作業従事者保護のための耐火服の基準

2113 フラッシュ火災による熱暴露から作業従事者保護のための難燃性衣類の選択、ケア、使用、およびメンテナンスに関する基準

2400 公共安全運用に使用される小型無人航空機システム(sUAS)の基準

3000 銃乱射犯や敵対的な事件に対する準備と対応の基準

5000 建物の建設と安全コード

8501 シングルバーナーボイラ運転の基準

8502 複数のバーナーボイラーにおける炉の爆発/爆発防止基準

8503 微粉砕燃料システムの基準

8504 大気流動層ボイラ運転の基準

8505 ストーカー操作のための基準

8506 熱回収スチームジェネレータシステムの基準

81

Ⅲ.難燃繊維・生地を使用した作業用

衣料の事例

(1)企業概要

(2)企業組織

(3)取引企業

1,003名代表取締役

資本金 14億54百万円

資本構成 - 売上高 873億45百万円

松村 不二夫 従業員数

No.1 ミドリ安全 ㈱

設立 1952年6月

本社所在地 〒150-0012 東京都渋谷区広尾5-4-3

その他

72.4%

繊維

26.4%

難燃

繊維

1.1%

・1952年に国内初の安全靴メーカーとして創業して以

来、安全靴・作業服・グローブ・安全帯・ゴーグル・ヘ

ルメットといった産業用安全保護具を扱うメーカーとして業界トップに君臨している。

・企業向けのユニフォーム(作業服)、空気清浄機、電気計測器などの環境機器の製造販売も好調であり、産業用安全保護具と併せて堅調な業績推移を辿っている。

・民需の作業服を中心に難燃繊維の取り扱いはあるものの、採用実績は他の難燃繊維からの置き換え需要など、ごく一部に留まっている。

・同社には特需部があり、防衛省など官公庁、消防、警察など官需用途製品の製造・販売に関しては

特需部が窓口となっている。現在のところ、作業服の採用実績こそ無いものの、安全靴では海外派遣

用を含めて長期にわたって防衛省へ供給している実績がある。

・なお、営業統括本部の下にユニフォーム統括部が設置されており、民需でのワーキングウェアの製

造・販売に関しては同部門が担当する。また、ワーキングウェアの仕様など衣服に関してはユニ

フォーム統括部が得意とするところであり、特需部がユニフォーム統括部と連携して協議することが

しばしばある。

・主な仕入れ先はミドリ安全用品、ミドリ電機製造、エムシーアパレル、ヴェルデトレイディングな

ど同社の関連会社が中心となっている。このうち、ユニフォームやワーキングウェア、産業用特殊服

の企画・デザイン、研究・開発および製造を行うのがエムシーアパレルとなっている。

・難燃繊維は倉敷紡績、帝人、東レ、東レ・デュポンなど複数の繊維メーカーを通じて入手してい

る。最も取引量が多いのは倉敷紡績であり、難燃繊維のおよそ6割を占めている。

・なお、同社の難燃繊維を採用した製品は、官公庁、大手ガス会社、民需では大手製鉄所の炉前など

で採用されている。

82

(4)製品特性及び主用途

A

B

製品名 使用素材 難燃レベル 主な用途

4061083030 火災、ガス爆発処理

4061090040

4061052480 炉前の作業環境

コーネックス

100%LOI値29~

Cコーネックス 25%

難燃レーヨン75%-

引火・爆発のおそれ

のある作業環境

難燃繊維の採用品は別注が主体・難燃繊維を採用したカタログ定番品もあるが、7~8割は別注品となっている。とりわけ大手企業の

顧客は別注品を採用する事例が多い。上の表はカタログ定番品の一例である。

・「4061083030」は東京ガスと共同で開発した防災防火衣であり、外衣の生地はメタ系アラミド繊

維「コーネックス®」100%を採用している。中衣生地はナイロンツイルにアルミニウム粉末及び防

炎剤混入の合成ゴムをコーティングしており、また緩衝材でも「コーネックス®」100%を採用して

いる。火災、火災をを伴う恐れのある地震、ガス爆発後の処理といった作業環境下での着用を想定し

ている。

・「4061052480」は遮熱作業衣となるアルミエプロンである。繊維自体が難燃性能を有するメタ系

アラミド繊維「コーネックス®」100%を材質とし、表面にアルミニウムをプリントコーティングし

ている。

・「コーネックス®」は熱伝導率が低いため、外部の温度の身体への影響を軽減する効果がある。

・「同品番 AMA3」は「コーネックス」の断熱材を中間層に挟み込むことで、外部の高温度による身

体への影響を一層軽減している。

・このほか、インナーウェアとして快適難燃肌着「4061090040」をラインナップしている。「コー

ネックス®」と難燃レーヨンを混紡した素材を採用しており、外の高温による熱エネルギーを遮断す

るほか、特殊吸汗加工により、通常のコットンの下着と同様以上の吸汗性を有している。

【4061083030 】 【4061052480 AMA3 】

83

(5)機能面・製品技術面から見た難燃作業服の現在の傾向及び今後の方向性

(6)その他要求される複合機能

作業環境に応じた難燃繊維の提案が重要

・ユニフォーム業界最大手であるミドリ安全は、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、難燃ア

クリル繊維、難燃レーヨン繊維と扱う難燃繊維の種類が豊富であり、ユーザーの要望や作業環境に応

じてフレキシブルな提案をすることが可能な点で、他のワーキングウェアメーカーに対して明確なア

ドバンテージを築いている。

・メタ系アラミド繊維「コーネックス®」、「ノーメックス®」は難燃レベルこそ他の難燃繊維より

秀でているものの、生地の固さ、染色性、着心地、コスト、加工期間(納期)の長さなどでは他の難

燃繊維が上回っている部分もみられる。ミドリ安全ではユーザーの作業環境である現場を取材して、

着用者、採用者双方の意見をヒアリングした上で、ユーザー、作業環境に適した難燃素材を提案して

いる。

・そのため、当初は難燃レベルの高さを要求して「コーネックス®」、「ノーメックス®」などのメ

タ系アラミド繊維を採用していたユーザーが、ワーキングウェアの更新時に他の難燃繊維に切り替え

るといった置き換えの事例が見られる。

現在の傾向 今後の方向性

◆難燃レベルの高さが要求性能の鍵

◆アラミド繊維に改善の余地

◆作業環境に応じた置き換え

◆着心地の良い難燃繊維へ

難燃性+制電性の付与が最多

・ミドリ安全のユーザー間で、難燃性に加えてワーキングウェアに最も求められる機能としては制電

性の付与が最も多くなっている。倉敷紡績の難燃アクリル繊維「ブレバノ・プラス®」は導電性繊維

を使用しており、高い静電気帯電防止性能を有することから、採用が増加している。

着心地の良さを重視

・ワーキングウェアに特に求められる機能として、着心地の良さを重視している。ミドリ安全では、

ワーキングウェアをユーザーがテストする際に複数のサンプルを送付し、ユーザーが1ヶ月間着用す

ることで機能性だけでなく、着心地も確認できるテスト形式を提案している。

84

ブレバノ・プラス®は風合い・低価格で提案し易い素材

・倉敷紡績の「ブレバノ・プラス®」は難燃性能こそメタ系アラミド繊維に劣るが、生地の風合いが

一般のコットンと相違なく、吸汗性も高く、メタ系アラミド繊維よりも低コストであることから、提

案し易い素材となっている。

85

(1)企業概要

(2)企業組織

(3)取引企業

250名代表取締役

資本金 25百万円

資本構成 - 売上高 200億41百万円

伊藤 崇行 従業員数

No.2 アイトス ㈱

設立 1950年6月

本社所在地 〒541-0057 大阪市中央区北久宝寺町2-4-8

・難燃繊維を採用した製品の製造販売は特需部門の担当となっている。防衛省、消防、警察など官需

用途の市場動向を注視しているものの、入札には直接関与しておらず、代理店が参加する形となって

いる。

・同社は国内の縫製工場に加えて、中国(上海、大連)、ミャンマー(ヤンゴン)など海外にも生産

拠点を構え、サンプル制作、素材の選択、仕入れ、生産管理など商品生産のすべてを自社の一環シス

テムで遂行できる体制を整えている。なお、海外では繊維の製造を行っているが、国内では製造を

行っていない。

その他

2.0%

繊維

97.3%

難燃

繊維

0.7%

・2017年に創業100周年(設立は1950年)を経たワー

キングウェアを中心に展開するユニフォーム業界の大手

メーカーである。営業基盤や売上規模は構築済みである

が、収益面では振幅が激しい展開となっている。

・営業種目の構成比はワーキングウェア及びユニフォー

ムの製造・販売が85%、メンズウェア製造・販売が

15%となっている。

・難燃繊維を採用したカタログ品ではジャンパー、パン

ツ、シャツをラインナップしている。

・もっとも、難燃繊維製品を扱う事業は構成比が非常に

低く、カタログ品、別注品を含めても1%未満に留まっ

ている。

・主な仕入れ先は帝人フロンティア、野村貿易、丸紅インテックス、東洋紡STC、倉敷紡績などであり、商社、繊維メーカーなどが中心となっている。

・難燃繊維は倉敷紡績などの紡績メーカーを通じて入手している。アイトスでは国内外に縫製工場を構え、年間約200万点の製品を生産する能力を有しているが、難燃繊維製品については縫製の工程も

倉敷紡績が行っている。アイトスに限らず、ワーキングウェアメーカー全般に共通して言えるが、難

燃繊維に関しては生地を所有している繊維メーカーの意向が強く反映される傾向がある。造船所、製鉄所など多量の火を使う作業環境で採用されている。

86

(4)製品特性及び主用途

A

B

C

D

消防、製鉄所、造船

など火炎に関る作業

環境

AZ-BRP5283

AZ-EM1866

AZ-EM1874

製品名 使用素材 難燃レベル 主な用途

AZ-BRJ5283

日本防炎協会認定

LOI値31

難燃アクリル繊維

ブレバノ・プラス45%

難燃アクリル繊維

ブレバノ・プラス55%

【AZ-BRJ5283 】 【AZ-EM1874 】

難燃繊維はブレバノ・プラス®を採用

・難燃製品を採用したカタログ定番品は4アイテムをラインナップしている。倉敷紡績の難燃アクリ

ル繊維「ブレバノ・プラス®」が採用され、混紡率はA~Bの「AZ-BRJ5283」(防炎長袖ジャン

パー)、「AZ-BRP5283」(防炎ワークパンツ)が綿55%、「ブレバノ・プラス®」45%となって

いる。また、インナーウェア製品であるC~Dの「AZ-EM1866」(防炎半袖Tシャツ)、「AZ-

EM1874」(防炎長袖Tシャツ)混紡率は綿45%、「ブレバノ・プラス®」55%となっている。

・何れの製品も日本防炎協会作業服基準に準拠しているほか、日本化学繊維検査協会による試験測定

でLOI値31を示しており、高い難燃機能を有している。衣服が接炎しても、繊維が溶融、収縮して肌

に付くことはなく、着用者を火傷の被害から保護する。

・「ブレバノ・プラス®」は導電性繊維を使用しており、何れの製品も高い静電気帯電防止性能を有

している。

・コットンとの混紡であるため、何れの製品もソフトな風合いで吸湿性、吸汗性に優れ、常に爽やか

な着心地を維持できる。また、耐洗濯性に優れており、洗濯後も難燃性や制電性、色合い、風合いが

持続する。

・C~Dのインナーウェア製品は優れた制菌性能を有しており、繊維評価技術協議会によるSEK認証製

品となっている。

・カタログ品以外に別注対応も可能となっている。

87

(5)機能面・製品技術面から見た難燃作業服の現在の傾向及び今後の方向性

(6)その他要求される複合機能

難燃繊維採用製品の需要拡大は困難

・アイトスではカタログ品、別注品で難燃繊維を採用した製品を展開しているものの、現在のとこ

ろ、需要拡大は困難な状況である。要因として第一に、コスト面での障壁が挙げられる。ワーキング

ウェアで難燃繊維を採用すると、コットンなどの一般的な繊維を採用した場合と比較して製品単価が

2~3倍(難燃繊維の種類によってはそれ以上)に跳ね上がり、コスト面でユーザーに大きな負担が掛

かることから、導入を躊躇う事例が多い。

・また、防衛省、消防、警察などの官需では、難燃繊維に対する一定の需要があるものの、帝人、東

レ、ユニチカ、クラレ、帝國繊維といった特定メーカーが市場を支配しており、後発のメーカーが参

入することは困難であるとみている。

・同社では公需として各自治体の消防団員(自治体によっては消防団員の活動服にも難燃性の素材を

使用する事例がある。)、民需ではガソリンスタンドの店員など難燃繊維を採用すべき作業環境は少

なくないとみており、比較的参入し易い民需での需要開拓を継続する方針である。

現在の傾向 今後の方向性

◆難燃繊維採用した製品は官需を中心に特定メーカーが寡占

◆制電性の付加が必須◆民需を中心に需要を開拓

制電性の付与が必須

・ワーキングウェアに特に求められる機能として制電性の付加を挙げている。制電性の機能を付与す

ることで、静電気による埃の衣服への付着や、衣服が身体にまとわりつく不快感を軽減することがで

きるほか、静電気を原因とする火災の発生を未然に防ぐことが可能である。

・また、着用者が快適に作業に従事できるように、ウェアの軽さ、ストレッチ性、動き易さも重視し

ている。

88

(1)企業概要

(2)企業組織

No.3 ㈱ コーコス信岡

設立 1948年11月

本社所在地 〒729-3101 広島県福山市新市町戸手68

133名代表取締役

資本金 10百万円

資本構成 - 売上高 142億1百万円

信岡 映子 従業員数

取締役会

営業第一部門 営業一部

営業第二部門 営業二部

生産・企画部門生産部

生産課

管理課

技術課

品質管理課

本社工場

企画部

経理・物流部門経理部

物流部

総合企画部門

経営企画部

総務部

開発室

内部監査室

・上の図はコーコス信岡の企業組織図を簡略化したものである。

・難燃繊維を採用した製品の製造は生産部が担当している。

・生産は97%程を海外(中国4割、ヴェトナム4割、バングラデシュ、ミャンマー、カンボジア、イ

ンドネシアなどで残り2割)の協力工場で行っている。また、短納期の需要に対しては国内工場をタ

イムリーに稼動させるなど、バランスのとれた生産体制を敷いている。加えて、生産部の技術スタッ

フが毎月海外拠点へ赴き、国内で培った縫製技術を現地のスタッフに供与することで、国内外一体と

なって品質追求に取り組んでいる。

その他

10%

繊維

90%

難燃

繊維

0.5%

難燃繊維担当部署

・2018年に設立70周年(創業は1901年)を迎えるワー

キングウェアを中心に展開するユニフォーム業界の大手

メーカーである。平成29年3月期は製品値上げの効果が

有って増収、収益面では円高基調で推移したこともあっ

て過去最高益となっている。

・営業種目はブルゾン、ジャケット、シャツ、スラック

スなどのワーキングウェアが主力であるが、白衣、オ

フィス用シャツ、安全靴などのアイテムも揃えている。

・難燃繊維を採用したカタログ品ではブルゾン、シャ

ツ、スラックスをラインナップしている。

・もっとも、難燃繊維製品を扱う事業は構成比が非常に

低く、カタログ品、別注品を含めても1%未満に留まっ

ている。

89

(3)取引企業

(4)製品特性及び主用途

・主な仕入れ先は伊藤忠商事、クラボウインターナショナル、東洋紡STC、野村貿易、日清紡、クラ

レ、ショーワグローブなどであり、商社、繊維メーカー、靴製造メーカーなどが中心となっている。

・同社では各種の生地を取り扱っているが、綿紡績ではクラボウ、日清紡が、合成繊維ではクラレが

多い。難燃繊維ではクラボウの製品を採用している。一方、帝人との取引はやや手薄であり、同社の

生地は殆ど取り扱いが無い。

・付加価値の高い高機能繊維は、繊維メーカーが独自の判断で供給先を特定のアパレルメーカーに限

定しているのが一般的である。

・同社のどの製品を採用するかは販社(販売代理店)とユーザーの協議による。

・難燃繊維を採用した製品は製鉄所、鉄工所など工業炉を擁する作業環境で採用されている。なお、

溶接など火花が飛ぶ程度の作業環境であれば、難燃繊維は求められない。

難燃性ウェアに高視認性をプラス・難燃製品を採用したカタログ定番品は6アイテムをラインナップしている。「CS-2429」は未明や

早朝、夕暮、夜間などに車輌や建設機械の周辺で作業をする着用者を目立たせることを目的に、視認

性の高い蛍光生地と再帰性反射材で構成された安全服である。

・倉敷紡績の難燃アクリル繊維「ブレバノ・プラス®」が採用され、混紡率は「ブレバノ・プラス

®」が55%、綿35%、アラミド系繊維が10%となっている。日本防炎協会作業服基準に準拠してい

るほか、欧州防炎基準EN ISO11612にも準拠している。

【CS-2429】 【15556】

\ 製品名 使用素材 難燃レベル 主な用途

A CS-2429難燃アクリル繊維

ブレバノ・プラス55%

日本防炎協会

作業服基準準拠

車輌、建設機械の

周辺などの環境

B 15550

C 15558

D 15556

E 15553

F 15555

難燃アクリル繊維

ブレバノ・プラス

45%

LOI値29~工業炉前など

の作業環境

90

(5)機能面・製品技術面から見た難燃作業服の現在の傾向及び今後の方向性

難燃繊維の需要は非常に少ない・同社の難燃繊維を採用したワーキングウェアは2010年頃より展開しているが、需要は極めて少な

く、販売以来殆どヒットには恵まれていない。そのため、当初は難燃繊維を採用したエプロンや腕抜

き、前あてなども展開していたが、アイテム数を削減してブルゾンやつなぎといったオーソドックス

な製品に限定して展開している。

・当初はカタログ品として販売していたが、現在では受注生産での対応となっている。

ワーキングウェアの需要は外的要因に左右される・もっとも、作業環境のニーズの変化によっては難燃繊維を採用したワーキングウェアの需要も拡大

する可能性があるとみている。また、作業服の機能に関するトレンドは法律、規制、規格、ガイドラ

インなどの外的要因に影響されることが多い。

・1994年、ガソリンスタンドなど爆発の危険性が有る作業環境ではJIS T8118規格の制定による制電

性の衣服の着用が義務付けられると、ユニフォームアパレル各社がそれに準拠した製品を作り始めた

経緯がある。

・2010年以降、エコマーク認定商品の表彰制度が開始されると、各社エコマーク認定商品の規格に

準拠した製品作りが盛んとなっている。

・直近では2015年10月に、JIS T 8127 高視認性安全服の規格が制定された結果、高視認性ワーキン

グウェアの生産拡大に繋がっているなどの事例がある。

現在の傾向 今後の方向性

◆難燃繊維を採用した製品は低需要

◆高視認性の作業服が増加

◆需要の拡大は難燃性に関する法整備・規格など外的要因の影響次第

ジャンプスーツなど定番品をラインナップ・B~Fの製品はコットンに難燃アクリル繊維「ブレバノ・プラス®」を混紡した製品群である。混紡

率は綿が55%、「ブレバノ・プラス®」が45%となっている。生地の風合いを良くするため、綿の

混紡比率の方が高い。B~Fの製品は受注生産対応となっている。

・製品ラインナップは「15550」が防炎ブルゾン、「15558」が防炎長袖シャツ、「15556」が防炎

ジャンプスーツ(つなぎ)、「15553」および「15555」が防炎スラックスとなっている。

91

(6)その他要求される複合機能

作業性の良さがNo.1・ワーキングウェア全般に求められる機能としては、着用者の作業性を妨げない動き易さが最も重要

であると認識している。また、ワーキングウェアは汚れにより更新するのが一般的であり、更新頻度

も高いことから、防汚性、耐久性の高さも求められる。加えて、制電性、防臭性などの快適さ、ポ

ケットの数・形状・位置などの収納性・機能性も重要である。

・多くの作業者が同じ制服を着用することから、作業者の士気向上のため、程よいカジュアル感も重

視している。

ファン付きウェアの潜在需要を見込む・また、難燃繊維を採用したワーキングウェアが必要となる作業環境は火炎の近くであると考えられ

るため、クーリング用のファン付き作業服の需要があると考えられる。ファン付きベルトの需要は

2016年以降増加しており、参入企業も増えている。

・また、空調設備を用いてスポット的にクーリングをするよりも、作業者個々にファンを付けた方が

効率的なクーリングを実現できるといわれている。

92

(1)企業概要

(2)企業組織

No.4 ㈱自重堂

設立 1960年7月

本社所在地 〒729-3101 広島県福山市新市町戸手16-2

237名代表取締役

資本金 29億82百万円

資本構成 - 売上高 170億88百万円

出原 正信 従業員数

・上の図は自重堂の企業組織図を簡略化したものである。

・難燃繊維を採用した製品の製造販売は、商品開発に関しては商品本部に属する企画部、販売に関し

てはユニフォーム事業部に属するユニフォーム営業部が担当している。国内での生産は長崎工場(長

崎県松浦市)のみで行われており、殆どは伊藤忠商事、三菱商事などの商社を通じて中国を中心とし

て海外で生産している。

・なお、他の作業衣アパレルメーカーにみられる特需製品に特化した部門は設けていない。官需向け

入札に業者登録したことはあるが、実際に参加した経験はない。

その他

3%

繊維

96%

難燃

繊維

1%

・ワーキングウエアを中心に展開するユニフォーム業界

の大手メーカーである。医療用白衣、サービス業向け製

品を開拓しているほか、カジュアル製品も手掛ける東証

二部上場企業である。

・平成29年6月期連結決算は、ユニフォーム、安全靴・

セーフティシューズ、医療用白衣、介護ウェアが順調に

伸張し増収増益を果たしている。

・難燃繊維を採用したカタログ品ではジャンパー、ブル

ゾン、パンツ、シャツ、つなぎをラインナップしてい

る。

・もっとも、難燃繊維製品を扱う事業は構成比が非常に

低く、カタログ品、別注品を含めても1%未満に留まっ

ている。

取締役会

営業本部

ユニフォーム事業部

ユニフォーム営業部

フットウェア営業部

ケアマネジメント部

ユニフォーム営業管理部メンズ事業部

商品本部

生産部

企画部

品質管理部

物流部

業務本部

難燃繊維担当部署

93

(3)取引企業

(4)製品特性及び主用途

A

B

C

D

E

F

使用素材 難燃レベル 主な用途製品名

TomoeSAKURA 2200

TomoeSAKURA 2300

LOI値29

LOI値29~引火・爆発のおそれ

のある作業環境

引火・爆発のおそれ

のある作業環境

TomoeSAKURA 2210

JICHODO 86404

JICHODO 82420

JICHODO 82400

メタ系アラミド繊維

コーネックス

及びパラ系アラミド繊維

テクノーラ

難燃アクリル繊維

ブレバノ・プラス

・主な仕入れ先は伊藤忠商事、倉敷紡績、東レインターナショナル、新内外綿、丸紅フットウェア、

富士ゴムナースなどであり、商社、繊維メーカー、靴製造メーカーなどが中心となっている。

・同社の製品は販売代理店(販社)を通じてユーザーへ納入するのが一般的である。

・自重堂に限らず、ワーキングウェアメーカー全般に共通して言えることであるが、生地メーカーと

取引実績の有無が重要となってくる。ユーザーから難燃繊維に関する引合いがあっても、指定の生地

メーカーと取引が無ければ該当する生地を調達することはできないためである。

・なお、同社の難燃繊維を採用した製品は、電力会社(東北電力火力発電所の一部セクション)、ガ

ス会社、石油精製所、化学工場など引火・爆発のおそれのある作業環境で採用されている。また、宮

崎県など自治体の作業服としても採用実績がある。

帝人と倉敷紡績が難燃繊維を供給・難燃製品を採用したカタログ定番品は6アイテムをラインナップしている。このうち、「TomoeSAKURA 2200」(ジャンパー)、「TomoeSAKURA 2300」(ブルゾン)、「TomoeSAKURA 2210」(パンツ)は帝人のメタ系アラミド繊維「コーネックス®」を75%、難燃ポリエステルを20%、パラ系アラミド繊維「テクノーラ®」を5%混紡した製品であり、「電効切火」のブランド名を冠している。

【JICHODO 82400】【TomoeSAKURA 2300&2210】

94

(5)機能面・製品技術面から見た難燃作業服の現在の傾向及び今後の方向性

高コストが難燃繊維の普及を阻害・同社の難燃繊維を採用したワーキングウェアは繊維素材そのものに自己消火性があり、火炎に接し

ても繊維が炭化するのみで延焼せず、また生地が溶融しないため、着用者を深刻な火傷から防護する

ことができる。

・しかし、難燃繊維の生地を採用したウェアはコットンなど一般の生地を採用したウェアと比較して、価格が2倍程度異なるため、ユーザーが気軽に難燃繊維を採用した製品の採用に踏み切れないの

が実情である。

・過去に爆発、火災などの事故が発生した企業が、事後対応として、より危険な作業環境で働く作業

者に限定して、難燃繊維を採用したワーキングウェアを支給しているのが一般的であり、消防以外の

分野ではニッチな需要であると認識している。

・作業者保護の認識が欧米と比較して、日本では充分に高まってはいないものの、高視認性安全服の

国際的な規格を近年になって漸く取り入れたように、法整備、安全に関する意識の高まりによっては

難燃性作業服の需要拡大が見込まれる。

現在の傾向 今後の方向性

◆高コストが普及を阻害

◆民需ではニッチな需要

◆より危険な作業環境を中心に置き換え需要に期待

ユーザーの予算に応じて難燃繊維を選択・これに対して「JICHODO 82400」(ブルゾン)、「JICHODO 86404」(長袖シャツ)、

「JICHODO 82420」(つなぎ)は倉敷紡績の難燃アクリル繊維「ブレバノ・プラス」を採用したも

のである。

・帝人製の難燃繊維を採用したA~Cの製品、倉敷紡績製の難燃繊維を採用したD~Fの製品の何れを

採用するかは、ユーザーとなる企業の予算状況に左右される。

・カタログ定番品以外に別注品に対応することも可能であるが、別注品のウェイトは高くなく、中小

企業がカタログの中からアイテムを選ぶのが一般的である。

95

(6)その他要求される複合機能

ストレッチ性が最も重要・パラ系アラミド繊維などの難燃繊維は繊維自体が硬くて伸びにくい特性がある。作業者が快適に作

業を行うため、生地が伸縮性に富み、ストレッチ性に優れていることが最も重要な複合機能であると

考えている。

・染色性の良さも重要である。他の難燃繊維と比較して、メタ系アラミド繊維は難燃性では優れてい

るが、染色性では改善の余地があるとみられる。

・カタログ定番品「JICHODO 82400」などは導電性繊維(「ブレバノ・プラス®」)を使用するこ

とで、静電気を防止する性能が付加されているが、これに加えて耐アーク性能の付加、難燃性の強

化、強靭性の向上などが、今後のワーキングウェアの複合機能として要求されるものと考えられる。

96

(1)企業概要

(2)企業組織

124名代表取締役

資本金 14億15百万円

資本構成 - 売上高 250億58百万円(連結)

白岩 強 従業員数

No.5 帝国繊維 ㈱

設立 1950年7月

本社所在地 〒103-0027 東京都中央区日本橋2-1-10 柳屋ビル

取締役会

経営管理

経営企画部

業務・品質監理室

生産 鹿沼工場

防災事業

防災統括部

防災開発部

繊維事業

繊維営業部

生産技術部

その他

77.9%

繊維

11.0%

難燃

繊維

11.1%

・防災事業、繊維事業、不動産賃貸を主な事業としている東証一部上場企業である。

・防災事業では消防用ホース、救助器具、救助工作車な

どの特殊車輌を製造・販売する。・繊維事業では防火衣、救助服、耐熱服、活動服などの消防被服のほか、作業服、レーシングスーツ、無塵衣などを扱う。また、発祥製品である麻(リネン)製品の糸・生地の製造も事業の核となっている。・難燃繊維を採用した製品では消防服が殆どであり、消防服のメーカーとしては小林防火服、赤尾などと並んで

国内最大手の一角を担っている。

難燃繊維担当部署

・上の図は帝国繊維の企業組織図を簡略化したものである。

・難燃繊維を採用した製品の製造販売は繊維営業部が担当している。繊維営業部の中でも、被服と産

業資材やテントなどを扱う製品資材の部門に枝分かれしている。

・繊維事業のおよそ1/2が消防被服などの難燃、制電、耐熱、高強力などの高機能繊維を採用した消防被服に代表される特殊防護衣料の製造・販売となっている。このほか、創業以来の事業である麻

糸、麻生地などの製造・販売を行っている。

・なお、被服に関してはファブレスメーカーであり、生産は全て国内下請け企業(30社程度)に委託

している。

97

(3)取引企業

(4)製品特性及び主用途

デュポンがアラミド繊維を供給・主な仕入れ先は丸紅、テイセンテクノ、武蔵富装、九州日野自動車などである。消防被服などの特

殊防護衣料の素材となる難燃繊維はデュポン社から「ノーメックス®」及び「ケブラー®」を調達し

ており、両社のパートナーシップは45年の長期に亘っている。

・同社の製品は帝國繊維グループの販売会社である、帝商(東京都千代田区)、キンパイ商事(大阪

市淀川区)を通じてユーザーへ納入するのが一般的である。営業エリアは国内を東西に分け、東日本

を帝商が、西日本をキンパイ商事が担当している。

・なお、同社の難燃繊維を採用した製品は、衣料に限定すると消防被服が殆どであるため、官公庁で

の採用が殆どである。また、各自治体の消防団向け被服をカタログ販売しているほか、民需では化学

工場の消防服など民間消防用途での採用実績がみられる。

・消防吏員・団員向けに難燃繊維を採用したウェアを展開している。カタログ定番品もあるが、消防

吏員向け製品の7~8割は別注品となっている。上の表はカタログ定番品の一例である。

\ 製品名 使用素材 難燃レベル 主な用途

ANFK-7200

(ニュー・インスパイヤー)ISO 11613 アプローチA準拠等 防火服

B TM-21013-B 日本防炎協会の防炎ラベル取得 消防吏員活動服

C NDG-4700 - 救助服

メタ系アラミド繊維

(ノーメックス)、

パラ系アラミド繊維

(ケブラー)等

【TM-21013-B(活動服) 】【NFK-7200 ニュー・インスパイヤー】 【NDG-4700 (救助服)】

98

(5)機能面・製品技術面から見た難燃作業服の現在の傾向及び今後の方向性

防火服の軽量化が重要・難燃性、堅牢性を維持した上で、消防服(とりわけ火災現場の最前線で活動する、消防吏員が着用

する防火衣)の軽量化を推進することがトレンドの一つとなっている。帝國繊維では柔軟で軽量な生

地の採用、織り方などで対応している。

・また、消防吏員・団員の消火活動中の疲労軽減は、作業者の安全性に大きく影響する課題であり、

帝國繊維では脚の屈伸や腕の上げ下げ、左右方向の運動性を向上を図るデザイン改良に注力してい

る。

現在の傾向 今後の方向性

◆防火服の軽量化

◆消防被服以外は低需要

◆より軽量で強靭な防火服へ

◆消防被服以外の需要増は法整備などが不可欠

防火服最新モデルは軽量化と動き易さを追求・「NFK-7200 ニュー・インスパイヤー」は同社防火服のフラッグシップモデルである。上衣・ズボ

ンにメタ系アラミド繊維「ノーメックス®」及びパラ系アラミド繊維「ケブラー®」の混紡生地を採

用し、肩あてには「ケブラー®」のフェルト生地を積層し保護パッドとしている。難燃性能、耐切創

性に優れているほか、新たに開発した特殊織によって従来品よりも大幅な軽量化(総重量で400g)

を果たしており、長時間の活動による体力低下を軽減している。

・同社防火服のデザインは(財)日本ユニフォームセンターが担当しており、人間工学(エルゴノミ

クス)を活用したデザイン・縫製は、あらゆる火災現場でフレキシブルに対応できる動き易さを追求

したものとなっている。

・「TM-21013-B」は消防吏員向け活動服の基本となるモデルである。メタ系アラミド繊維「ノー

メックス®」を76%、パラ系アラミド繊維「ケブラー®」を4%、難燃ポリエステルを20%混紡した

生地からなっている。また、制電性繊維を1%程度混紡している。

・「NDG-4700」は消防吏員レスキュー隊員向け救助服の基本となるモデルである。メタ系アラミド

繊維「ノーメックス®」を95%、パラ系アラミド繊維「ケブラー®」を5%、制電性繊維を1%程度

混紡している。上衣は身頃前後、袖肘部、下衣は膝下まで共生地の2重刺縫とすることで、安全性と

耐久性の両立を図っている。

99

(6)その他要求される複合機能

■防火服の三重構造

暑さ対策もポイント・アラミド繊維は強靭であり耐切創性に優れているが、熱を溜め込んでしまう性質があり、暑さ対策

が欠かせない。

・帝国繊維では防火服の表地(表生地は更に3重構造となっており、「ノーメックス」、「ケブ

ラー」が採用されている)と裏地に透湿防水層を挟み込む3重構造とすることで、外部からの防護・

耐熱を図りつつ、着用者の発汗を効率的に放出し、快適に活動できるようにしている。(下の図)

・また、2011年に総務省消防庁より通達された国際規格ISO11999を基にした消防装備品(防火服、

活動靴、手袋、ヘルメット)の統一基準を満たすことが前提であり、その上で、各消防局の要求性能を

クリアした製品開発が行われている。

消防被服以外の需要増加は困難・同社の難燃繊維を採用した製品は、衣料に限定すると消防被服が殆どであり、一部で化学工場の消

防服など民間消防用途がみられるものの、採用先の殆どは各自治体の消防局など官公庁である。

・消防関連の予算状況に影響されるものの、消防服大手メーカーとして需要は安定している。もっと

も、コストの面で民間の消防用途や消防被服以外の急激な需要増加は期待できず、難燃繊維の採用を

促す法律の整備などが待たれる状況であるとみている。

第一層

表地

第三層

裏地

第二層透湿防水層

体内の排熱

汗の外部放出

耐熱

外部からの

防護・耐切創水の侵入防止

遮熱・耐火

100