一般国道453号における管理体制の 構築について - ceri.go.jp...kenji...

6
Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada 平成 26 年度 一般国道 453 号における管理体制の 構築について -降雨特性の分析結果に基づいて- 札幌開発建設部 千歳道路事務所 ○大越 健司 札幌開発建設部 千歳道路事務所 憲浩 北海道大学大学院工学研究院 山田 朋人 平成 26 年 9 月 11 日、線状降水帯 1) をともなう記録的豪雨により、一般国道 453 号の札幌市南区真駒 内から支笏湖周辺にかけて、多数の箇所で土石流や土砂崩壊が発生し、未曽有の土砂災害に見舞わ れ、28 日間の全面通行止めを余儀なくされた。一般国道 453 号を管理する千歳道路事務所では応急復 旧後の道路管理体制として、連続雨量による管理基準を強化して運用している。本稿は、当該地区にお ける過去の降雨特性を整理し、管理体制を整える際、道路管理者として、「いつ、どのような」情報が得ら れると有用かを考察したものである。 キーワード:豪雨災害、土石流、土砂崩壊、応急復旧、維持管理体制 1.はじめに 平成 26 年 9 月 10 日夜半から 11 日の明け方にかけて、 千歳道路事務所管内では、支笏湖及び恵庭岳周辺に線状 降水帯をともなう猛烈な雨が降った。札幌管区気象台では 11 日午前 5 時 35 分に、北海道では初めてとなる大雨特別 警報を発表した。千歳市支笏湖畔アメダスの記録では、連 続雨量が 379mm に達し、1 時間降水量は 70mmと観測史上 最大を記録した。千歳道路事務所では、10 日深夜の大雨警 報発表以降、管内路線において異常時パトロールを実施す るなど、管理体制を整えた。11 日未明からはさらに降雨が強 まり、土砂災害の恐れがあったことから 3 時00 分に一般国道 453 号、6 時 00 分に一般国道 276 号の通行止め措置を行っ た(一般国道 453 号については、事前通行規制区間におい て連続雨量 160mm を超えた為)。 当時、一般国道 453 号の異常時パトロールを行っていた 北海道ロードメンテナンス株式会社のパトロール員は「目を 開けることのできないほどの滝のような雨、そして真っ暗闇 の中でフラッシュライトの様に光る雷と轟。恐怖だった。」と話 している。 被害は一般国道 276 号においても生じたが、本稿では、 より規模の大きかった一般国道 453 号について、その降雨 特性を分析し、道路管理体制の考察を行った。 図-1 9.11 支笏豪雨災害における主な被災箇所等

Upload: others

Post on 03-Aug-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 一般国道453号における管理体制の 構築について - ceri.go.jp...Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada 2.被災概要等について 一般国道453号は、KP17.5~KP45.8の約28kmの区間に

Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada

平成 26 年度

一般国道 453 号における管理体制の

構築について

-降雨特性の分析結果に基づいて-

札幌開発建設部 千歳道路事務所 ○大越 健司

札幌開発建設部 千歳道路事務所 坂 憲浩

北海道大学大学院工学研究院 山田 朋人

平成 26 年 9 月 11 日、線状降水帯 1)をともなう記録的豪雨により、一般国道 453 号の札幌市南区真駒

内から支笏湖周辺にかけて、多数の箇所で土石流や土砂崩壊が発生し、未曽有の土砂災害に見舞わ

れ、28 日間の全面通行止めを余儀なくされた。一般国道 453 号を管理する千歳道路事務所では応急復

旧後の道路管理体制として、連続雨量による管理基準を強化して運用している。本稿は、当該地区にお

ける過去の降雨特性を整理し、管理体制を整える際、道路管理者として、「いつ、どのような」情報が得ら

れると有用かを考察したものである。

キーワード:豪雨災害、土石流、土砂崩壊、応急復旧、維持管理体制

1.はじめに

平成 26 年 9 月 10 日夜半から 11 日の明け方にかけて、

千歳道路事務所管内では、支笏湖及び恵庭岳周辺に線状

降水帯をともなう猛烈な雨が降った。札幌管区気象台では

11 日午前 5 時 35 分に、北海道では初めてとなる大雨特別

警報を発表した。千歳市支笏湖畔アメダスの記録では、連

続雨量が 379mm に達し、1 時間降水量は 70mmと観測史上

大を記録した。千歳道路事務所では、10 日深夜の大雨警

報発表以降、管内路線において異常時パトロールを実施す

るなど、管理体制を整えた。11 日未明からはさらに降雨が強

まり、土砂災害の恐れがあったことから3時00分に一般国道

453 号、6 時00 分に一般国道276 号の通行止め措置を行っ

た(一般国道 453 号については、事前通行規制区間におい

て連続雨量160mm を超えた為)。

当時、一般国道 453 号の異常時パトロールを行っていた

北海道ロードメンテナンス株式会社のパトロール員は「目を

開けることのできないほどの滝のような雨、そして真っ暗闇

の中でフラッシュライトの様に光る雷と轟。恐怖だった。」と話

している。

被害は一般国道 276 号においても生じたが、本稿では、

より規模の大きかった一般国道 453 号について、その降雨

特性を分析し、道路管理体制の考察を行った。

図-1 9.11 支笏豪雨災害における主な被災箇所等

Page 2: 一般国道453号における管理体制の 構築について - ceri.go.jp...Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada 2.被災概要等について 一般国道453号は、KP17.5~KP45.8の約28kmの区間に

Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada

2.被災概要等について

一般国道453号は、KP17.5~KP45.8の約28kmの区間に

おいて被災した。約 28km の被災区間を大きく「恵庭岳」、

「支笏湖畔」の2つの区間に分けると、恵庭岳区間(KP17.5

~KP40)では路肩決壊や土石流による道路・橋梁の損傷。

支笏湖畔区間(KP40~KP45.8)では、土石流による道路閉

塞などが主な被災であった。また、応急復旧に要した全面

通行止めの期間は、支笏湖畔区間が 3 日間、恵庭岳区間が

28 日間であった。

豪雨における主な被災箇所等を図-1 に、被災時の時系

列を表-1に、国道の被災状況を写真-1から写真-6に示す。

表-1 一般国道453 号被災時の時系列

写真-1 KP=23.5 山水橋 橋台付近の路肩決壊

写真-2 KP=33.4 奥漁川橋 橋梁損傷および路肩決壊

写真-3 KP=35.5 土石流による道路閉塞

写真-4 KP=39.0 丸駒橋 歩道橋流失

写真-5 KP=39.5 湖水橋 歩道橋の桁変形

写真-6 KP=45.8 表層崩壊による道路閉塞

状  況

16:00 降り始め(連続雨量の累計開始)

22:42 大雨・暴風警報発表(石狩南部)

23:05 道路巡回開始

3:00 通行止め開始(恵庭岳区間:KP17.5~39.2)

5:15通行止め開始(支笏湖畔区間:KP39.2~47.2)※孤立1件発生

5:35 大雨特別警報発表(石狩地方)

9月12日 9:00孤立解消(支笏湖畔区間の1車線通行が可能になった)

9月14日 9:00 通行止め解除(支笏湖畔区間:KP39.2~47.2)

9月24日 13:00通行止め解除(恵庭岳区間の一部:KP17.5~23.4)

10月9日 13:00 全区間の通行止め解除

日 時

9月10日

9月11日

Page 3: 一般国道453号における管理体制の 構築について - ceri.go.jp...Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada 2.被災概要等について 一般国道453号は、KP17.5~KP45.8の約28kmの区間に

Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada

3.9.11支笏豪雨災害の概要と降雨特性

北海道地方は、平成26 年9 月9 日から 12 日かけて北海

道の西海上にある低気圧を含む気圧の谷の中に入った状

態が続いた。上空約5,500mには氷点下15℃以下の寒気が

入り大気の状態が非常に不安定となった 2)。今回の記録的

な大雨の原因は、オロフレ山系から次々に積乱雲が発生し、

それが南寄りの風によって北に進み、線状降水帯となり恵庭

岳、支笏湖方面へ向かってきたことが原因と考えられている。

前日に白老町で前兆ともとられる豪雨災害が発生していた。

(1)豪雨の概要

図-2 は、恵庭岳・支笏湖周辺における道路気象テレメー

タ位置図と、X バンド MP レーダ雨量分布を重ね合わせたも

のである。恵庭岳の北側の北奥漁道路気象テレメータ周辺

を中心に国道 453 号に沿って強雨域が広がっていることが

わかる。

また、図-3 は、図-2 で示した道路気象テレメータの内、

も積算雨量が多かった「北奥漁」の時間雨量を示したもので

ある。

なお、図-3 の 9 月 11 日午前 7 時以降のデータについて

は、道路管理・通信用光ファイバの寸断による欠測である。

ここで注視したいのは、降り始めからの連続降雨量が

100mm、160mm に達する時間である。降り始めた時刻 16 時

から 100mm 達するまでにおおよそ 9 時間。160mm に達する

までにおおよそ 10 時間。すなわち、100mm から 160mm に

達するまでに 1 時間程度しかかかっていないことである。

図-2 恵庭岳・支笏湖周辺における雨量分布

X バンド MP レーダの積算雨量分布

9 月10 日17 時~11 日15 時の時間雨量の合計値

図-3 北奥漁道路気象テレメータの降雨量

図-4 北奥漁道路気象テレメータの連続雨量と降雨時の気象特性(連続100 ㎜に到達までの時間順)

0

100

200

300

400

0

20

40

60

80

0:00 6:00 12:00 18:00 0:00 6:00 12:00 18:00 0:00

連続

雨量

(m

m)

時間

雨量

(m

m/h)

時間雨量

連続雨量

160㎜到達

100㎜到達

連続雨量 160㎜

※ 9/11 7:00 より欠測

9/10 9/11 9/12

連続雨量 100㎜

降り始め

0

20

40

60

80

100

0

100

200

300

400

500

2012/09/09

2011/07/04

2010/12/03

2009/09/29

2014/09/11

2011/10/07

1999/09/25

2008/10/09

2008/05/21

1996/10/04

2001/08/23

1996/09/21

2011/09/06

2002/09/29

2014/08/11

2013/04/07

2004/08/20

2002/10/02

1997/11/27

1999/09/08

2005/09/08

1998/09/17

2006/10/08

1999/07/14

2012/07/12

2000/05/04

1999/09/01

2014/10/17

2009/10/27

1996/05/03

2000/06/28

2012/05/05

2000/04/22

2002/10/07

2000/05/13

2001/10/12

1998/09/08

2010/09/28

1997/09/27

2010/04/30

2006/06/16

2001/09/12

1997/08/10

2012/11/07

2007/05/27

2011/09/05

2013/07/29

連続

雨量

(m

m)

台風

低気圧

前線

その他

100mmに達するまでの時間

100㎜

に達

する

まで

の時

間(h)

支笏湖

Page 4: 一般国道453号における管理体制の 構築について - ceri.go.jp...Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada 2.被災概要等について 一般国道453号は、KP17.5~KP45.8の約28kmの区間に

Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada

図-5 北奥漁道路気象テレメータの連続雨量と降雨時の気象特性(連続雨量160mm に到達までの時間順)

(2)北奥漁における降雨特性

支笏湖周辺は、北海道内でも も降雨量が多いオロフレ

山系に隣接する地域である。支笏湖畔アメダス(気象庁)の

年間降水量の平年値は、1,765.9mm であり、札幌の

1,106.5mm に比べて 659mm 多い。太平洋からの南寄りの湿

った空気が山にぶつかると、山岳地形の影響を受けて上昇

気流が発生し、南東側斜面で降水量が多くなる傾向がある。

図-4は、北奥漁道路気象テレメータにおける過去18年の

連続雨量データの内、連続雨量が100mmに達したデータを

気象特性(台風、低気圧、前線、その他)に分類したもので

ある。100mm に達したデータ 47 件の内、台風や低気圧、前

線のような明瞭な気象特性を持たない「その他」に属するデ

ータが 9 件を占めている。

同様に、160mm のケースで分類してみたものが、図-5 で

ある。この場合、「その他」に属するデータが5件(全体16件)

であった。

なお、気象特性「その他」について、その考えを示してお

く。「その他」については、図-6 のように台風、低気圧、前線

のような天気図とは大きく異なり、明瞭な特性を持たないもの

としている。

表-2、3、4 は、それぞれ、図-4 の降雨に対し、100mm、

160mm、100mm から 160mm に達した時間の早い順番に並

び替えたものである。

表-3、4にあるように「160mmに早く到達した」、「100mmか

ら 160mm に短時間に到達した」ものの上位に気象特性が

「その他」に分類されるものが含まれることが分かる。道路管

理と連続雨量の関係は重要であるが、北奥漁では台風や低

気圧ではない「その他」の場合に 160mm に早く到達しており、

これらは事前の気象情報による確認が難しいが、共通した

特徴としてはすべてのケースで南東を主とする南寄りの風

が吹いていたことが確認された。このことから、上記のような

風が吹く場合に、短時間での多量の降雨に対する注意が必

要と考えらる。

道路管理者として異常気象時における管理体制を整える

ことは重要である。とりわけ、初動体制を構築することは 優

先されるべき事項である。

台風や大型の低気圧、前線のように予見しやすい気圧配

置であれば、早くて一週間程度前から心の準備を含め体制

確保に努めることが可能である。しかし、前述のように当該

箇所の降雨特性は、予見しづらい気象条件時の短時間での

多量の降雨であることから、次節以降では、予見しづらい気

象条件の中で連続雨量160mmに達するような雨を事前に把

握するために「どの情報」を「いつ」収集・整理していくべきな

のかについて考察する。

図-6 天気図による分類3)

4.道路管理体制構築時に有用な気象情報

(1)道路管理体制構築に向けての課題

一般国道453 号の KP21.7~KP33.7 は、事前通行規制区

間である。通行規制区間とは、異常気象時に被害が発生す

0

4

8

12

16

20

0

100

200

300

400

500

2014/09/11

2000/05/13

1998/09/17

2005/09/08

2012/09/09

2008/05/21

2000/04/22

2011/09/06

1997/09/27

2001/08/23

2001/09/12

2013/07/29

1996/09/21

2000/05/04

1999/07/14

2011/09/05

連続

雨量

(m

m)

台風

低気圧

前線

その他

100mmから160mmに達するまでの時間

100㎜

から

160㎜

に達

する

まで

の時

間(h)

台風

前線

低気圧

その他

Page 5: 一般国道453号における管理体制の 構築について - ceri.go.jp...Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada 2.被災概要等について 一般国道453号は、KP17.5~KP45.8の約28kmの区間に

Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada

表-2 北奥漁道路気象テレメータにおける連続雨量が早

く 100mm に到達した上位10 件の気圧配置

順位 年月日 連続雨量 気圧配置 到達時間

1 2012.9.9 207mm 前線 6 時間

2 2011.7.4 108mm 低気圧 7 時間

3 2010.12.3 150mm 低気圧 8 時間

3 2009.9.28 136mm 低気圧 8 時間

5 2014.9.11 365mm その他 9 時間

5 2011.10.7 129mm その他 9 時間

5 1999.9.25 104mm 台風 9 時間

8 2008.10.9 157mm その他 10 時間

8 2008.5.20 171mm 低気圧 10 時間

10 1996.10.4 145mm その他 11 時間

表-3 北奥漁道路気象テレメータにおける連続雨量が早

く 160mm に到達した上位10 件の気圧配置

順位 年月日 連続雨量 気圧配置 到達時間

1 2014.9.11 365mm その他 10 時間

2 2012.9.9 207mm 前線 10 時間

3 2008.5.21 171mm 低気圧 15 時間

4 1998.9.17 186mm 台風 17 時間

5 2011.9.6 254mm 台風 18 時間

6 2005.9.8 227mm 台風 18 時間

7 2001.8.23 251mm 台風 18 時間

8 1996.9.21 394mm その他 19 時間

9 2000.5.13 261mm その他 23 時間

10 2000.4.21 274mm 低気圧 26 時間

表-4 北奥漁道路気象テレメータにおける連続雨量100mm

から160mmに短時間で到達した上位10件の気圧配

順位 年月日 連続雨量 気圧配置 到達時間

1 2014.9.11 365mm その他 1 時間

2 2000.5.13 261mm その他 2 時間

3 1998.9.17 186mm 台風 3 時間

4 2005.9.8 227mm 台風 4 時間

4 2012.9.9 207mm 前線 4 時間

6 2008.5.21 171mm 低気圧 5 時間

7 2000.4.21 274mm 低気圧 6 時間

7 2011.9.6 254mm 台風 6 時間

7 1997.9.27 253mm 低気圧 6 時間

7 2001.8.23 251mm 台風 6 時間

る恐れのある地域で、事前に規制の基準(ここでは雨量)を

定めて通行規制を行う箇所である。当該区間は連続雨量

160mm に達した時点で通行規制を行うものとしている。

当該地域は表-4 に示すように短時間に集中的な降雨にな

る傾向にあり、遅滞なく迅速に通行止めを行う必要がある。

表-5 一般国道453 号の道路管理体制

連続雨量気象情報配信

(メール) 実施作業内容

70 ㎜ ○

初動体制の構築準備

・気象情報の収集・確認

(職員・維持業者)

・事務所職員登庁準備

100 ㎜ ○

初動体制構築

・道路巡回開始(維持業者)

・事務所職員登庁

・通行止め準備開始

(職員・維持業者)

160 ㎜ ○ 通行止め開始

台風や低気圧、前線による豪雨は、数日前から天気予報

等で確認できるため予見をしやすい。しかし、「その他」の気

圧配置によるケースは予見しづらいうえ、100mmから160mm

に到達する時間が 1、2 時間と非常に短い。

事前通行規制区間の基準雨量は、当初の 160mm から被

災後には、連続雨量 100mm に変更して道路利用者の安全

確保に努めている。当該路線においては、今回のような豪

雨が突発的に発生する特性があることから、従来からの連続

雨量の監視による管理体制(表-5)に加えて、事前の気象情

報を収集して豪雨の可能性を予見したうえで、管理体制を

整えることが望ましいと考えている。一方で時間に余裕がな

い中で、速やかに管理体制を構築するためには、迅速かつ

的確な気象情報の収集と確認が課題となる。

(2)管理体制を整える際に必要な気象情報

前述のとおり、豪雨時の管理体制を整える際、気象情報

の収集が重要である。「その他」における過去の事例(図-7)

から考察すると、豪雨発生時には以下の特徴がある。

・北海道に向かって湿った南寄りの風が吹きやすい

・オホーツク海にブロッキング(動きの遅い)高気圧がある

・上空に寒気が入っている

・白老町や苫小牧市など支笏湖の南方で豪雨が発生

これを模式的に表したのが図-8 であり、このような気象条

件になりそうかどうか情報を収集、確認しながら対応を行う必

要がある。

今回の 9.11 支笏豪雨災害時には、前日の 10 日未明に白

老町において激しい降雨があり、室蘭地方気象台は、記録

的短時間大雨情報を出した。図-8で示したように、南風の湿

った空気が流れ込む影響をいかにとらえるかが、特に重要

となる。

ここで、迅速に管理体制を整えるために、「いつ、どのよう

な情報」が現段階で有用であるかまとめた(表-6)。 一週間前から心の準備として、「週間予想天気図」を確認

し、「その他」の気圧配置への該当の有無を確認する。前日

には、体制構築の判断をするため、気象庁の気象情報や札

建携帯版気象情報の「道路災害事前予測情報」から対象地

域、予想される災害、総雨量、時間 大雨量の把握を行う。

Page 6: 一般国道453号における管理体制の 構築について - ceri.go.jp...Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada 2.被災概要等について 一般国道453号は、KP17.5~KP45.8の約28kmの区間に

Kenji Okoshi,Norihiro Saka,Tomohito Yamada

図-7 事前の確認が難しい「その他」の天気図

左:2000 年5 月13 日 4) 右:2014 年9 月11 日 3)

図-8 事前の確認が難しい豪雨をもたらす気象条件

また、風上側にあたる白老町や苫小牧市付近のアメダス

等の「降水量」の実況から大雨の前兆の有無を把握する。

数時間前(降り始めの頃)には、気象庁の「注意報・警報」

の発表状況や「降水短時間予測」により、予測総雨量、地域、

時間帯を確認する。さらに札建携帯版気象情報の「通行規

制区間降雨予測情報」により、積算雨量の実況、24 時間予

想積算雨量、予想総雨量を確認する。

連続雨量の実況は、「北奥漁道路気象テレメータ」により

把握を行う(基準値到達時には関係者に自動メール連絡)。

ここで、特に留意しなければならないのは、「その他」の気象

条件では、時間雨量 50mm を超える非常に激しい雨が降る

可能性があることである。初動体制構築時に通行規制基準

に短時間で到達することがないかを「気象レーダー」により

確認する必要がある。

表-6 道路管理体制の構築に有用な情報と取得時期

5.まとめ

本稿は先般の豪雨を契機とし、一般国道453 号恵庭岳付 近における降雨特性を整理し、管理体制を整える際に、「い

つ、どのような」情報が得られると有用かを考察したもので

ある。一般国道 453 号においては、台風や低気圧、前線の

ような明らかな気象特性を持たない「その他」の気象条件の

時に短時間に多量の降雨が記録される傾向が確認できた。

また、この特性を踏まえた道路管理を行うことは重要であり、

そのために必要な体制を確保するためには非常に短時間

で、あらゆる気象情報等を収集・確認することが求められる。

今後は、管内各路線においても同様の考察を行い、より

確実な管理体制確保に向けた取り組みを進めてまいりたい。

また、気象による災害は降雨のみならず降雪や風等におい

ても発生することから季節的な災害による分析・考察も必要

と考えている。

謝辞:本論文の作成にあたり、気象データの解析へご協力

いただいたばかりでなく、9月11日被災当時の現地調査等に

迅速に対応していただいた、株式会社ドーコン交通事業本

部防災保全部の川島由載氏、山真典氏、山本茂夫氏、佐藤

崇彦氏、上北正一氏、宮田善郁氏、伝田徹氏、関係者の皆

さまに謝意を表します。

参考文献

1) Tomohito J. Yamada, Jun Sasaki and Naoki Matsuoka.

Climatology of line-shaped rainbands over northern Japan in

boreal summer between 1990 and 2010. Atmos. Sci. Let. 13:

133–138,2012 2) 札幌管区気象台ホームページ

3) 気象庁ホームページ

4) 北海道新聞2000.5.13 夕刊

時 期 確 認 事 項 情 報 入 手 先

7日前 気圧配置 週間予想天気図 気象庁等

5日前 台風進路予測 台風情報 気象庁

1,2日前 気圧配置 予想天気図 気象庁

降水量、地域、時間帯 気象情報 気象庁

対象地域、予想される災害、総雨量、時間最大降雨量

道路気象災害事前情報札建携帯版気象情報

降水量(大雨の前兆)

森野、カルルス、苫小牧等の降水量

気象庁アメダス開発局道路情報

予測総雨量、地域、時間帯

注意報・警報降水短時間予測

気象庁

積算雨量の実況、24時間予想積算雨量、予想総雨量

通行規制区間降雨予測情報

札建携帯版気象情報

連続雨量北奥漁道路気象テレメータ

北海道開発局道路テレメータシステム(※自動メール受信)

降雨強度 気象レーダー国交省XバンドMPレーダ雨量情報

前日

数時間前

実況