自閉症の子どものための...
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自閉症の子どものための特別支援教育
親や教師にできること
新潟大学教育人間科学部
長澤正樹
特別支援教育:欠陥から支援へ
• 支援の主体は「障害のある子どもを取り巻く人たち」
障害児教育(特殊教育) 特別支援教育
欠陥の克服 個にあった支援
障害のない子どもと同じ教育が受けられるよう、可能な限り条件を整える
ことが求められる
広汎性発達障害(PDD)とは• 社会関係能力やコミュニケーション能力など、いくつかの領域の発達障害
• いくつかのグループ–自閉症–アスペルガー障害–レット障害–小児期崩壊性障害–特定不能の広汎性発達障害
• 能力の偏り(認知の特異性)DSM-Ⅳ-R
(アメリカ精神疾患マニュアルによる)
PDDのグループ
アスペルガー
自閉症
レット障害
小児期崩壊性障害
特定不能のPDD
自閉症スペクトラム
知的障害養護学校に40から50%
100人に一人の割合(?)
PDDの定義
1. 社会性の障害– 視線が合わない、友達が作れない、喜びを分かち合えない、他人の気持ちが理解できない
2. 行動の特異性(想像力の障害)– 儀式的行動、常同的な反復行動、こだわり
3. コミュニケーションの特異性– 一方的に話す、独り言、場にそぐわない発言
知的な遅れがある:自閉症知的能力が高い:アスペルガー障害
自閉症の子どもの様子
• コマーシャルなど、場に合わない独り言を言う
• 奇声を上げる• 特定のものへのこだわり(水、鍵、食べ物)• 回るもの、光るものへの関心• 人に対する関心の欠如• 空虚な笑い
自閉症の子どもに対する誤解
• 自分勝手、自己チュウ• しつけが悪い、親の態度が悪い• 礼儀知らず• 養護学校教員でも正しく認識しているのは約6割
認知の特異性によるもので、本人や親のせいではありません
認知の特異性
• 感じ方、ものの見え方聞こえ方の特異性– 過敏性、耳ふさぎ、偏食
• 考え方、判断の仕方の特異性– 話しことば理解が困難– 見通しがもてない– 言語が思考の中心ではない:イメージによる処理– 時間感覚が特異である
• 過剰刺激からの逃避反応:自己刺激行動– こだわり
他にも、
知覚異常、運動障害、てんかん、多動
認知の特異性
イメージで思考見通しの困難さ
情報処理の特異性 出力の特異性入力の特異性
刺激過敏(特に音声刺激)あるいは鈍感
奇声パニックこだわり
ちょっとまとめ
• PDDは情緒障害や病気ではありません• PDDは「認知」の障害です• 脳の器質障害といわれていますがよくわかっていません
• 親の養育態度はPDDの原因とは関係ありません
• さまざまな誤解(報道)
障害特性、一言で言えば
見えるものは理解できるが、見えないものを理解することが困難
時間相手の気持ち「友情」「思いやり」
あるいは、
自分を守る心のバリアが非常に弱い
軽いからかいも、大きな心の傷になる
そして、
彼らは非常に強い不安の中で生活している
居場所が必要
自閉症への対応について
自閉症の児童生徒への支援
1. 生きるために役立つスキルの獲得を– これらを重視したプログラムにより予後が良好
– 知的障害の程度は予後を予測しない
2. 問題行動の改善– 望ましい行動の獲得を
3. 余暇スキルの獲得を– 余暇があれば予後が良好
そのための周囲の支援の必要性
自立につながる10の技能(スキル)
コミュニケーション 身辺自立 家庭生活
社会的スキル 実用的な
読み書き計算
就 労
余 暇 地域活動 健康と安全
自己決定
幼児期の対応の基本
• ことばの表出よりことばの理解、指示理解を• 子どもと行動や注意の共有、ことばで表現してあげる
• 繰り返しによるパターンの形成• 一対一の信頼関係、「みんなで」を強要しない• 早期対応、集中訓練
応用行動分析に基づく訓練など
学齢期の対応
• 小学校–生活習慣の確立、見通し、学校適応–親子関係
• 中学校–自分について知る(長所、短所)–友達関係
• 高等学校–自己認識–進路
精神年齢の発達が遅い
対応の基本
Universal Design for Learning自閉症にあった学習条件は、
すべての子どもにわかりやすい
行動分析3S2R1
自閉症の特性にあった対応
• 視覚的手がかりの使用• 応用行動分析
– ABC分析、機能分析– うまくいくための手だて(プロンプトなど)– うまくいったときの対応(強化)
• これらを取り入れた指導理念:TEACCH–構造化–スケジュール表
伝統的オペラント法フリーオペラント法生態学的アプローチ
行動分析の基礎
ABC分析
子どもの行動条件きっかけ
対応
ABC分析の例
条件 行動 結果への対応
・数学の時間
・みんなは問題を解く
・「早くしなさい」と教師に言われた
・教師への暴言 ・叱責
・説教
ますます態度が悪くなった
機能分析
• 問題行動には意味があります。それぞれにあった対応を!
1. 要求:何かが欲しい2. 逃避:嫌だ、逃げたい3. 注目:注目して!4. 自己防衛:自信がない、不安5. 自己刺激:刺激そのものが快感
適切な要求行動を教える
我慢できる時間を少しずつのばす
子どもに親しく声をかける
自己肯定感を育てる
子どもとかかわる時間を増やす
3S2R1
• Simple:課題や指示は簡潔に• Small step:課題はひとつずつ、できたら次の課題へ
• Sight or Schedule:見て確認できるための視覚的手がかりを
• Reinforcement:うまくできたら具体的なごほうびを
• Routine:パターンをきめて、繰り返す• One to one:一対一で指導する機会を
指導の基本①:Simple
• 環境の整備、設定:整理された部屋• 課題の始まりと終わりがわかるように• わかりやすい課題• 結果に対して素早く対応• 成功には賞賛、ご褒美を
指示、課題、結果提示のわかりやすさ
指導の基本②課題分析スモールステップ(Small steps)
商品を探す
レジに並ぶ
財布からお金を出す
お金を払う
お釣りとつつみを受け取る
家に帰る
できないとき:段階的な援助
• プロンプト(援助)–言語的プロンプト、モデリング、身体的プロンプト
• プロンプトの階層性
• フェイディング
言語的プロンプト
モデリング
プロンプトを少しずつ減らす身体的プロンプト
指導の基本③見て理解できるようにsight or Schedule
• スケジュール表の活用• マニュアルの作成• 手続きカード、工程表の作成、利用• 作業の見通しがもてる環境設定:場所と活動を統一
構造化
おいしいお昼を作ろう(作業手順)
材料を洗う 材料を切る 炒める
調味料を入れる
盛りつけいただきます!
写真カードによるスケジュール管理
髪の手入れ
入浴
化粧
見通しを持たせる:スケジュール表授業 場所 内容 評価
1時間目 国語 2の2 漢字の書き取り
2時間目 体育 体育館 鉄棒
3時間目 算数 わかば学級 10までの数
4時間目 音楽 音楽室 鍵盤ハーモニカ
給食 2の2 パン、コロッケ
5時間目 帰りの会 2の2 発表
ご褒美:○が5個でおやつにケーキ
教室の構造化
着替え(畳)
言語指導(個室)
制作活動
遊具 ロッカー
教師のスペース教師用机
本棚
テレビ勉強するとこと
絵を描くところ
ことばの勉強
着替え体育がある
構造化と絵カードの活用カード提示が場所、活動、手順
を示す
着替え(畳)
言語指導(個室)
制作活動
遊具 ロッカー
教師のスペース教師用机 テレビ
出口
カード
カード
指導の基本④:強化(Reinforcement)やる気の源
• 与えることで子どもの反応の生起頻度が増大する現象
• 強化を支える刺激を「強化子」「強化刺激」と呼ぶ
強化とは誉めること、ご褒美を与えること
効果的な強化子の選択
• 子どもの好み、好きなこと、ものを調べる– リストを作ること
• 子どもに課している課題に見合うだけの強化子を選択する
• 生活の中に含まれている強化子の使用–おやつを増やす、ゲームの時間を長くするなど
• 必ず記録を取ること
好みのリスト
強化子が効果的かどうかの見極め
指導の基本⑤見える強化子(Visual Reinforcement)
トークンエコノミーとレスポンスコスト
• トークン:約束通りできたときにもらえるポイント。好きなものと交換できる。ただし、約束が守れないときには取り上げられる。
1000ポイント:ゲームソフト500ポイント:カラオケボックス3時間100ポイント:カード10パック50ポイント:カード3パック10ポイント:おやつ
よいおこない手を挙げて発言した:1ポイント声をかけてからものを借りた:2ポイント悪口にことばで反論した:3ポイント
忘れ物をしなかった:2ポイント
わるいおこない手を挙げずに発言した:-1ポイント黙って借りた:-2ポイント悪口に手を出した:-5ポイント忘れ物をした:-2ポイント
トークンエコノミーとレスポンスコストの例
分割強化子
うまくできたときに、4分の1を与える4枚そろったら、西瓜がもらえる
目標に近い行動を強化するシェイピング(強化の応用)
• 不完全でもまずは認めよう• できるに従って基準をあげる
○:「ちっ」
○:「ちょう」、×:「ちっ」
○:「ちょうだい」、×:「ちょう」
「ちょうだい」といえるようになった!
好みに基づくABC分析モデル強化の応用②
行動B
B1←Pre2B2←Pre3B3
先行条件
Pre1
結果事象
Pre4
Pre:子どもの好きなもの(事)Pre4>Pre1,2,3
Bn:課題分析の各ステップ
好みに基づくABCモデルの例:着替え
1.導入 ・着替えの歌を歌う(Pre1)
2.着替える(B) ・着替える場所に行く←手遊び歌・Tシャツをかぶる←手遊び歌
・腕を通す←手遊び歌
・Tシャツの裾を下げる
3.トランポリンをする ・トランポリンをして楽しむ
(Pre4)
子どもの好きなもの(事):歌、手遊び、トランポリン
強化のまとめ
• 私たちは子どもをほめているだろうか?• 少しでもできたらほめよう• できることをほめよう• 子どもができたことを記録しよう• 一日の終わりに、何度ほめたか反省しよう
「できる」「できた」という自信が自尊心を育てる
指導の基本⑥繰り返しの原理Routine
• パターンをきめて繰り返す:ルーティン• 繰り返しの過程で、目標の指導を• 繰り返しがわかる工夫を
–絵や写真–スケジュール表
要求のことばなど
日常生活の中で繰り返し行われる活動の例
• あさの会、かえりの会• 給食、掃除
–作業学習• 生活単元学習:買い物、調理• 制作活動:図工• 自由遊び
–ゼンマイ仕掛けのおもちゃ、ボール、積み木–サーキット
サーキット(繰り返し、構造化)
すべり台 トランポリン
平均台大玉
場所と活動の特定化、繰り返し
連鎖を中断→要求行動
ルーティンの例(貼り絵作業)
場面 活動 目標となることば
色を塗る T:紙を与えるクレヨンを与える
「なにをするの」
C:色を塗る
クレヨンをください
色を塗ります
絵を切り抜く T:鋏の提示
鋏を与える
「なにをするの」
C:絵を切り抜く
鋏をください
絵を切ります
絵を貼る T:糊の提示
糊を与える
「なにをするの」
C:絵を貼る
糊をください
絵を貼ります
作業場所の構造化を図る、繰り返す、強化する
「スクリプトによるコミュニケーション指導」川島書店
要領
• シナリオを作成する• 子どもと一緒に行う活動を決める• 子どもに教える目標(ことば)を決める• 一緒に活動する• 活動の手順が理解できてきたとき、ことばを教える
• できるだけ繰り返す• 慣れてきたら、活動やことばを増やす
指導の基本⑦:個別指導one to one training
個別指導専門機関自立活動
3つの指導形態をバランスよく!
自閉症には個別指導が重要
日常生活場面での指導家庭地域職場
シミュレーション指導生活単元学習遊びの指導
問題行動への対応
• 問題行動は周囲が作っている• 考えられる要因
–自閉症の感覚特性–見通しの欠如– コミュニケーション行動の未獲得–誤ったコミュニケーション行動の獲得–周囲の対応の不適切さ
感覚特性にあった対応
絵カード、構造化
適切なコミュニケーション行動を教える
自閉症の特性に合わせることも必要
問題行動はコミュニケーション?問題行動を禁止するだけでは効果がありません
問題行動正しい
コミュニケーション行動
欲しいときに泣く 「ちょうだい」サイン
対応:好ましい行動を教える
問題行動への対応:分化強化
環境を整える適切な働きかけ
無視するその場から離す問題行動
適切な行動 適切な対応賞賛ご褒美
適切な行動を教える
望ましい行動のみを強化することを分化強化といいます
問題行動への対応(例)
散歩の約束を提示するサインを教える
消去タイムアウト
泣く
サインジュース
プロンプト
ふたたびまとめ
• 能力障害の改善より「スキル」の獲得を• 自閉症の特性にあった支援・指導を• 「変える」だけではなく周囲が「変わる」こと• 自閉症へのより進んだ理解を:宇宙人?• 個別指導、個別の指導計画の重要性• 専門的な教育の充実
応用行動分析に基づく教育指導記録の徹底化(アセスメント、客観的評価)
資料
• 自閉症の手引きhttp://www.autism.or.jp/autism05/rainman20040508.pdf
• 書籍http://www.autism.or.jp/book05/gbindex05-2.htm