教育投資・財源の検討のために...
TRANSCRIPT
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教育投資・財源の検討のために高等教育の場合
小林雅之
東京大学
大学総合教育研究センター
1
資料1
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報告内容
教育費の負担論(公的負担と私的負担)
3つの教育費負担観と教育費負担の推移
授業料/奨学金政策
教育費の負担軽減策
ローン負担と所得連動型ローン
寄付/基金の活用
公的負担の在り方と政策的インプリケーション
2
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誰が教育費を負担するのか誰が教育費を負担するのかは教育費の負担論(Cost Sharing)と呼ばれる。
教育費の負担論は、教育財源の確保のためにも重要な問題。
教育費の負担は、公的負担と私的負担に大別される。
私的負担は、家計負担と民間負担に大別される。
家計負担は親(保護者)負担と子(学生本人)負担に大別される。
教育費負担のうちの公的負担について投資・財源の問題を検討するが、公的負担だけでなく私的負担あるいは公私(家計・民間)の分担についても検討する必要がある
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教育の公的負担の根拠教育機会の均等(憲法第26条、教育基本法第4条)
格差是正+人材の浪費(ウェステッジ)の緩和
進学格差(家計所得階層間、地域間、男女間等)
大学中退 20%は経済的要因(文部科学省調査)
世界人権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約A規約第13条)
高等教育の漸進的な無償
人材養成・経済成長 生産性の向上・効率化、基礎研究など市場にのりにくい分野
教育の社会・経済効果(外部効果)
価格に表されない効果、スピルオーバー効果(近隣効果)
周囲の者の生産性の向上
健康増進・犯罪減少
労働移動・ミスマッチの緩和
少子化の緩和
市場機構に委ねると外部性の分だけ需給は過少になる(誰も費用を負担しないため、外部効
果の分だけ公的負担する必要
教育の公共性(社会的共通資本)
準公共財としての教育
非排除性 利用者から料金を徴収できない
非競合性 利用者の増加によって追加費用が発生しない 4
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教育の経済効果の例教育=投資 個人は所得増、社会は経済成長教育による経済格差の是正(所得再分配)
教育の収益率
大卒男子 6から10%、国公立>私立、 女子>男子、私的収益率>社会的収益率
大学が地域経済に及ぼす影響に関しては、アメリカでは古くから計測、大きな効果があることが示されているが、地域の範囲の定義、効果の測定など、技術的な問題も残されている。(Siegfried, J. J., et al. (2007). "The economic impact of colleges and universities." Economics of Education Review, 26(5): 546-558.)。
日本でも国立大学の効果の推定(島一則 『国立大学システムの機能に関する実証分析∗ ―運営費交付金の適切な配分に向けて―』経済産業研究所 2009年)や、富山大学、徳島大学、長崎大学がそれぞれの地域に対する経済効果は1,000億円を超えるという推定もだされている(日本経済研究所 『大学の教育研究が地域に与える経済効果等に関する調査研究報告書』2011年。)。
高等教育を受けた者が受けていない者に及ぼす外部効果(スピルオーバー効果あるいは近隣効果)の計測は困難であるが効果があることは、アメリカの実証研究の結果で示されている(Lange,F.l 2006のレビュー、Lange F.The Social Value of Education and Human Capital,Handbook of the Economics of Education Vol. 1, 460-509, 2006.)
外部効果の例として、大卒労働者の供給の1パーセントの増加は、高校中退者の賃金を1.9パーセント、高卒労働者の賃金を 1.6 パーセント、大卒労働者の賃金を0.4 パーセント増加させる。
(Moretti, Enrico, Estimating the social return to higher education: evidence from longitudinal and repeated cross-sectional data, Journal of Econometrics 121 175–212, 2004.)
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教育費の受益者負担論社会も受益者(外部効果)→「受益者負担」ではなく「私的負担」
高等教育の外部経済は,あまり大きくない。
高等教育の私的便益は社会的便益より大きい。
高等教育の私的収益率>社会的収益率イギリス デアリング・レポート(1997)で授業料導入のエビデンスとされた
費用と便益にみあう費用負担をすべきであるしかし、教育の費用と便益は,専攻によって大きく異なる
オーストラリアの高等教育貢献拠出金制度(Higher Education Contribution Scheme)は、この考え方に基づく
批判 私的負担のみであれば教育を受けた者の社会的貢献は不要となる
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教育費負担3つの主義と教育観
公的負担
親負担本人負担
日本・韓国
スウェーデン
アメリカ・オーストラリア
教育は社会が支える=教育費負担の福祉国家主義
教育費負担の家族主義
教育費負担の個人主義
中国イギリス
(注)矢野 2012年を元に筆者修正
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高等教育費負担の各国比較日本の重い家計負担
データ:OECD, Education at Glance, 2014. 8
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教育水準とGNP 1960その後のGDPと教育費の推移
日本は1960年にはGNPに比して教育水準の高い例外的な国その後GDPの成長に教育費の増加が追いつかなかった
Japan
Bowman and Anderson 1968
0
500,000
1,000,000
1,500,000
2,000,000
2,500,000
3,000,000
3,500,000
1960
1963
1966
1969
1972
1975
1978
1981
1984
1987
1990
1993
1996
1999
2002
政府負担計
家計負担計
9
百万円
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日本授業料と可処分所得月額の比の推移
家計負担は年々増加、「無理する家計」の無理は続くか?
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所得階層別学費の負担割合
%
11(出典)「高校生の保護者調査」2013年度
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所得階層別高卒者の進路の比較2006年と2012年
私立大学進学率には大きな格差、国公立大学進学率の格差は拡大
CRUMP2006年調査 2012年高卒者保護者調査
私立大学進学率 400万円以下 20.4%1,050万円以上 42.5%国公立大学進学率 400万円以下 7.4%1,050万円以上 20.4%
私立大学進学率 400万円以下 23.6%1,000万円以上 49.7%国公立大学進学率 400万円以下 9.2%1,050万円以上 12.0%
文部科学省科学研究費基盤(B)「教育費負担と学生に対する経済的支援のあり方に関する実証研究」(小林雅之研究代表)、サンプル数は、1,064
学術創成科研(金子元久研究代表) 東京大学・大学経営・政策センター、サンプル数は4,000 12
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成績別所得階層別大学進学率の比較
CRUMP2006調査 2012年高卒者保護者調査
成績上位者は2006年には所得階層にかかわらず大学進学、2012年には格差が生じている「無理する家計」の無理は続かない?
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潜在的進学者数の推計
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経済的理由で進学が困難 給付奨学金がもらえたら進学
高卒後の進路 「就職 15.9%」(2012年度学校基本調査では16.8%)「経済的に進学が難しかった」「できれば4年制大学に進学してほしかった」 (保護者調査2012)
とてもあてはまる 3.0% あてはまる8.3% 計11.3% 2012年度高卒者数105万人*就職率(16%)*11.3%=1.9万人経済的理由で4年制大学へ進学できなかった者1.9万人と推計
万人
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潜在的進学者数の推計経済的に困難で給付型奨学金があれば進学
少なくても一部は人材の浪費(ウェステッジ)と考えられる。15
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教育機会の均等化政策としての教育費負担の軽減
所得や地域間格差が拡大すれば「無理する家計」の無理が続かず教育機会の格差の固定化さらに拡大する恐れ
教育機会の均等化政策あるいは少子化対策として,教育費の家計負担を軽減することは大きな意味
将来の教育費に対する負担感が強く,子どものファイナンシャル・プランを立てにくい状況にある。子どもの将来に希望をもたせること,とりわけ明るい将来見通しを示すことが重要
このためにも,教育費負担を軽減し教育機会を保証することは重要である。
教育費負担の軽減のためには,将来を見通したファイナンシャル・プランを立てられるような経済的支援が効果的。
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教育費負担の軽減学費の無償・低授業料
給付奨学金(grants, scholarships)
授業料減免
貸与奨学金(student loans)
貸与奨学金の返済猶予・免除
補助(allowances) 子育て,成人学習など
ワークスタディ,TA,RA
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各国の大学授業料/給付奨学金(grants)政策
高給付奨学金
低給付奨学金
高授業料低授業料
アメリカ公立旗艦大学
イギリス大学(1980年代)
日本私立大学日本国立大学(1970年代)
中国国立大学(1980年代)アメリカ私立大学
中国私立大学
ヨーロッパ国立大学
アメリカ公立大学
スウェーデン
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大学授業料/給付奨学金政策の推移
高給付奨学金
低給付奨学金
高授業料低授業料
エリート養成
人材養成+教育機会
教育費の私的負担
教育需要への対応
教育費の公的負担
学生獲得
収入増
費用負担の分化
教育費の公私分担19
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グラント(給付奨学金)からローンへの移行,さらにグラントの重視へ再転換
アメリカ
1960年代以降,グラントが連邦学生援助の中心1990年代にグラントよりローンの金額の方が多くなり,機会均等と教育費負担が問題化
ブッシュ政権(第2期)とオバマ政権はグラント重視に転換
イギリス
1990年代まで半額給付奨学金,半額ローン1998年にグラントを廃止,すべてローンに2004年に,グラントを復活,大幅に拡大2007年にグラントを大幅拡大2012年に新しい給付奨学金としてNational Scholarship Programmeを創設
中国
1990年代にローンを大幅に導入2000年代に入り,グラント(国家奨学金・国家助学金・国家励志奨学金)を強化
韓国
2006年までローンを大幅に拡大2008年にグラントを導入(生活保護世帯,地方など)
主要国で給付型奨学金のないのは日本だけ(授業料減免が実質的に給付型奨学金)
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国立大学授業料の推移(当年価格)
211971年度に比べ、2013年度は約51倍。
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私立大学授業料の推移(当年価格)
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日本学生支援機構奨学生数の推移
23(出典)日本育英会年報、JASSO年報 各年
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ローンの拡大だけでは学生支援としては不十分
ローン負担問題やローン回避問題の発生(英米豪中日とも)
低所得層ほどローン負担感は強い
ローンの未返済に対するペナルティの強化の傾向
社会的反発を生む
ローン回避傾向がとりわけ低所得層で多くなる
情報ギャップのため、ローンに対して認識や詳しい知識がない。とりわけ低所得層で問題(各国とも問題化)
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奨学金を申請しなかった理由低所得層ほど返済の不安
文部科学省科学研究費基盤(B)「教育費負担と学生に対する経済的支援のあり方に関する実証研究」(小林雅之研究代表)、サンプル数は、1,064
21.7%
18.1%
12.2%
13.6%
5.4%
34.8%
26.4%
26.7%
19.3%
14.3%
10.9%
12.5%
4.4%
3.4%
1.8%
4.3%
9.7%
12.2%
28.4%
39.3%
28.3%
33.3%
44.4%
35.2%
39.3%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
-400
450-600
625-800
825-1025
1050-
将来、返済できるか不安
よく知らなかったから
成績の基準に達しなかった
収入が高すぎた
必要ない
家計所得(万円)
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ローンの負担を軽減させ,回収率を上げる
卒業後の所得に応じて返済、低所得ほど負担が少ない
6つの要素
所得に応じた返済額(所得の一定の割合)
一定所得以下での返済猶予
一定期間または年齢で帳消しルール(未返済は必ず発生するため)
利子補給(低所得ほど返済期間が長期化するため)
その他の考慮すべき要因(家族人数など)
源泉徴収あるいは類似の方法
各国の所得連動型ローンはこの6つの要素を組み合わせている
上記の要素を変えることにより返済額は変化し、返済期間も変わる。
所得の把握と源泉徴収のため、国税当局の協力が不可欠。
各国の所得連動型ローン
所得連動型ローンIncome Contingent Loan
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各国の所得変動型ローンオーストラリア イギリス アメリカ
名称 HECS 授業料ローンと生活費ローン
所得基礎返済ローン(IBR, Pay As You Earn)
返済額 所得から下記の金額を引いた額に所得に応じる返済率をかけた額(前払い10%割引)
所得から下記の金額を引いた額の9%
所得から下記の金額を引いた額に、所得と家族人数に応じて0から10%
返済猶予最高額 51,309ドル 16,365ポンド 家族人数に応じて10,000〜50,000ドル
徴収方法 源泉徴収 源泉徴収 小切手等
政府補助 物価上昇率(実質利子率ゼロ)
物価上昇率+0〜3%
なし(有利子)
返済免除 本人死亡 30年間または65歳 20年間または公的サービス10年
注:アメリカの連邦政府ローンにはこの他, Income ContingentとIncome Sensitive Repayment Loanがある。 27
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返済免除制度各国とも導入されているのが,一定の条件を満たした時にローンの返済を減免する制度
イギリスでは30年間返済した後の残額は帳消しにされるほか,ローンを給付奨学金に変更し実質的に減免になる制度や教師や看護職になる場合にも給付奨学金が支給される。
オーストラリアでも,数学と科学が国家優先バンドとなり,HECSの金額が低く設定されている。さらにこれらに関連した職に就いた場合,返済額が減額されるなどの優遇措置がある。幼児教育と看護職も同様の手当がなされている(2014年度より変更)。
中国でも,教員や特定地域で特定の職業に就いた場合には授業料免除等の制度がある。
アメリカでも,所得基礎型ローンなどでは,10年間公的職業に就いた場合,ローンの残額の返済は免除される。その他の場合には20年で帳消しになる。中国でも,教員や特定地域で特定の職業に就いた場合には授業料免除などの制度がある。
こうした仕組みのない我が国ときわめて対照的である。
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寄付/基金の活用
29Data: 2012 Yale Endowment
エール大学の基金の推移
・1970年代より急増、様々な政府の支援(税制改革、資産運用などの法整備)による・世代間の公平という考え方(インフレによる目減りを減らすために基金を運用する)・増加も減少もあるので、1年で成果を判断するのではなく、長期的に判断する。特に2008年のリーマンショックの時の急減とその後の回復に注目(出典)東京大学ー野村證券共同プロジェクト『ディスカッションペーパー』No.1-17, 東京大学大学総合教育研究センター。
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寄付/基金の活用のために大学への寄付税制の改善
平成23年度より税額控除制度新設
寄付の促進の障壁となっている学校法人に対する寄附に係るPST要件(寄附実績に関する要件
過去5年間で、3,000 円以上の寄附を行った寄附者の数が年平均 100 件以上、
または過去5年間で、寄附金収入額が経常収入金額の20%以上
税額控除の対象である旨の証明書が発行された学校法人数 (大学等 26年5月1日現在)
文部科学大臣所轄学校法人317法人(47.5%) (大学306・短大11) (全666法人)
要件の緩和が必要
私立学校振興・共済事業団「受配者指定寄付金制度」利用の拡大(税額控除可能)
国公立大学にも同様の制度の適用
資産運用の緩和(リスクも大きいので、長期的な視野から条件整備)
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政策的インプリケーション教育費の公的負担のためには、国民に教育に税を使うことを十分に納得してもらうことが最重要
計測上の困難があるが、教育の社会経済的効果を具体的に示す必要がある
教育の社会経済的効果により、医療費・介護費などの支出を削減、その削減分を教育費に振り向けることが
可能
このためには外部効果の計測が不可欠
教育の格差や中退等を是正することにより人材のウェステッジを縮小、税収増が見込まれ、これを教育財源
にあてることが可能
高等教育への寄付・基金の拡充により、教育機関の教育財源を拡充
マッチングファンドなど、公的負担と私的負担を分担する方法を検討する必要
民間の育英奨学団体に対する支援策を検討
教育費の配分構造を再検討、とりわけ公費負担のあり方の再検討
機関補助と個人補助、基盤経費と競争的経費のバランスの再検討
個人補助としての給付型奨学金の創設と授業料減免の拡充
所得連動型奨学金の拡充整備
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参考文献小林雅之 2014年「高等教育の「グランドデザイン」 ー教育費負担の観点から」 『大学マネジメント』 10, 4, 24-28頁。
小林雅之 2014年「奨学金制度の課題と在り方」 『個人金融』 9, 1, 23−30頁。
小林雅之 2014年「大学授業料と奨学金の現状と課題」 『ねざす』 53, 31−37頁。
小林雅之 2014年「進学の格差の拡大と学生支援のあり方」 『生活協同組合研究』 456, 29-36頁。
小林雅之 2014年「大学授業料と奨学金の現状と戦略」 『大学時報』 353, 30-35頁。
小林雅之 2013年「大学の教育費負担 —誰が教育を支えるのか」上山隆大他編『大学とコスト』岩波書店。
小林雅之 2013年「教育費『誰が負担』議論を」日本経済新聞 2013年9月30日。
小林雅之 2013年「国際的に見た教育費負担」『IDE 現代の高等教育』 No. 555 特集 高等教育と費用負担 13-18頁。
小林雅之 2012年「家計負担と奨学金・授業料」日本高等教育学会編 『高等教育研究』 第15集, 115-134頁。
小林雅之 2010年「学費・奨学金政策への提言」 『大学マネジメント』 18-23頁。
小林雅之 2010年「学費と奨学金」 『IDE −現代の高等教育』 520, 18-23頁。
小林雅之 2010年「今後における学生への経済的支援のあり方 −諸外国と比較して-」 『大学と学生』 第88号。
小林雅之 2009年 『大学進学の機会』 東京大学出版会。
小林雅之 2008年 『進学格差』 筑摩書房。
小林雅之編 2012年『教育機会均等への挑戦 −授業料・奨学金の8カ国比較』東信堂。
小林雅之・劉文君 2013〜2014年「大学の財務基盤の強化のために」(1)から(4)『IDE 現代の高等教育』
小林雅之・劉文君 2013年『オバマ政権の学生支援改革』東京大学・大学総合教育研究センター。
文部科学省先導的大学改革推進委託事業(小林雅之編) 2014年『高等教育機関の進学時の家計負担に関する調査研究』東京大学 。
東京大学ー野村證券共同プロジェクト『ディスカッションペーパー』No.1-17, 東京大学大学総合教育研究センター。
※引用文献は、上記の資料にそれぞれ掲載されている。このうちものぐらふと委託事業報告書と東京大学ー野村證券共同プロジェクトディスカッションペーパーは東京大学大学総合教育研究センターHPよりダウンロードできる。
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参考資料教育費の負担
家計の貯蓄率
授業料とは何か、低授業料政策、低授業料政策への批判、高授業料・高奨学金政策の目的
アメリカの大学授業料と学生支援の推移
イギリスの授業料・奨学金制度改革と教育費負担の推移
各国の所得変動型ローン
奨学金の学生生活費に及ぼす影響
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日本の教育費の私的負担は高等教育で最も重い
34教育再生実行会議 下村大臣説明資料 『2020年 教育再生を通じた日本再生の実現に向けて』P2 左下
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子どもの年齢別家計の貯蓄率
総務省「家計調査」
子ども1人 子ども2人
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大学はなぜ費用がかかるのか
費用病(Baumol)
芸術 費用をかけても生産性は上昇しない
費用の収入理論(Revenue Theory of Cost)(Bowen)
大学はベストをめざすので、費用には上限がなく、収入をすべて消費する
授業料はなぜ下がらないのか
情報の非対称性
シーバス・リーガル効果(ブランド効果)
質が買い手によくわからない場合、価格は重要な質の情報となる
定価を高額にして割り引く(高授業料・高奨学金政策)
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授業料とは何か授業料=教育・大学が提供するサービスに対する対価→費用に見合う額
大学=結合生産(教育・研究・社会サービスを同時に生産、区別できない)
教育のみの費用を算定するのは困難
授業料の価格設定の困難さ
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低授業料政策授業料と奨学金の組み合わせにより負担も変化する
高校生の進路選択に教育費負担が影響を与えることは多くの調査で明らか(日米英)
特に低所得層は授業料に敏感
高授業料・高奨学金政策はわかりにくい
貸与奨学金(ローン)は低所得層ほど負担感が強く,ローン回避傾向を生む(日米英)
給付奨学金は教育機会の拡大に最も効果的
低授業料政策には教育機会に対して一定の意味
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低授業料政策への批判大学進学者層は高所得層の方が多い
大学への補助による低授業料政策は,低所得層(非大卒者)から高所得層(大卒者)への所得の逆進的な分配になる(Hansen and Weisbrod論争)
反論(1)高所得者は所得税も多く払っている。
反論(2)外部効果が存在する
39
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40
高授業料/高奨学金政策定価授業料を高額に設定し大学独自の奨学金でディスカウント
純授業料(ディスカウントされた授業料)は学生によって異なる
差別的価格設定
学生間でクロス配分(取れるところから取り、取れないところに回す)
ロビンフッド的配分のため公正で効率的とされる
もともと大学独自の奨学金は基金によるスカラーシップ
クロス配分の性格はみえにくい
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高奨学金
低奨学金
高授業料低授業料
大学の望む学生獲得
収入増加
高授業料/高奨学金政策の目的
国公立大学でも実施できる
41
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42
高授業料/高奨学金政策論争
差別的価格設定は公正か
大学は純授業料をあげ,収入を増やせるか
高授業料は教育機会に影響を与えるか
多くの大学独自奨学金(scholarship)はニードベースではなく,メリットベースであり,低所得層より中高所得層に配分されているため、教育機会の均等には効果がなく、所得の逆分配になっている(英米)
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アメリカ大学定価授業料と学生への経済的支援の推移
Data: CollegeBoard, Trends in College Pricing 2013. 。CollegeBoard, Trends in Student Aid 2011. 43
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アメリカ ペル給付奨学金の拡大
Data: CollegeBoard, 2013, Trends in Student Aid 2013.
44(注)1976年度を1とした比率
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45
アメリカの高等教育費の負担学生個人が支払う割合は高い
定価授業料は平均私立3.0万ドル、州立8,900ドル(州内学生)2.2万ドル(州外学生)、ただし、給付奨学金も多く(連邦政府、州政府、大学独自、民間など)、実際支払う授業料(純授業料、私立1.3万ドル、公立2,900ドル)は大幅にディスカウント(平均4割)(CollegeBoard, Trends in College Pricing, 2013)給付奨学金からローンへ移行
ローンは学生が返済、授業料の高騰によるローンの増加とローン負担が大きな問題
連邦政府はグラントを再び重視、大学もローンフリー政策をとる例も
ただし、学生の約4割は成人学生(独立学生)アルバイトは適当な時間数が卒業に効果的
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イギリス:授業料の大幅値上げと給付奨学金の拡充
授業料の導入 1998年デアリングレポートの勧告に基づく(ブレア政権)、最高1,000ポンド(所得により異なる)、給付奨学金の廃止2004年 給付奨学金の復活
イギリスの2006年度からの改革2006年度より各大学が授業料を設定(最高3,000ポンド)9割の大学が3,000ポンドと設定2,700ポンド以上の授業料を設定した場合,大学独自奨学金(0~5,000ポンド)を提供する義務受給基準,受給額は各大学が設定政府給付奨学金(Maintenance Grant)の拡大(最高額2.906ポンド)スチューデント・ローン・カンパニーの教育ローンの大幅拡大
2010年のブラウン・レポート授業料の7,000ポンドまでの値上げを提唱給付奨学金はあわせて充実させる必要
2011年教育白書(Students at the Heart of the System)学生の選択権を拡大することを提唱授業料大幅値上げを提唱、上限なし(ほとんどの大学が9,000ポンド)給付奨学金(National Scholarship Programme)の創設、ただし学士課程については2015年度に廃止予定 46
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イギリス 大学生の収入の変化
47
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
1988 1992 1995 1998 2002 2007 2012
その他
アルバイト
学生ローン
給付奨学金
親
Data: Student Income and Expenditure Survey.
(注)2007年以降は「給付奨学金」と「学生ローン」は分けて尋ねていないので、「学生ローン」とした。 47
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豪HECS、イギリス,アメリカなどで採用されている
卒業後,所得に応じて支払う
返済額 英 所得の0~3.6%((所得-2.1万ポンド)*9%)
豪HECS 所得の0~8%
一定額以下の所得場合,返済を猶予(英は約360万円、豪は約470万円、米は家族人数
に応じて1から5万ドル)
一定期間や一定年齢で返済を免除する場合も(英、米)
豪と英では個人の所得のみが返済の基準(配偶者の所得などは考慮されない)。米では
家族人数が考慮される。
所得から源泉徴収される場合が多い(豪・英)
英は2011年まではインフレスライド分のみで実質的には無利子
英は2012年度より一部所得に応じて有利子化(0から3%)
アメリカでは所得連動型は人気がない(全体の1割以下)
高利子負担のため(6.8%から7.9%、特例として3.4%(2011)から4.66%(2014)の措置)
周知不足
デフォルトの返済プランは標準型(10年返済)のため、学生はこれを選択しやすい
各国の所得連動型返済
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HECS-HELP 2014費用だけではなく将来の所得に基づく返済額
(注)1豪ドル=91.5円として計算
Data: Commonwealth of Australia, 2013 HECS-HELP Commonwealth supported places information for 2014
バンド 専攻分野 学生貢献分(万円)
バンド1人文科学,教養・学芸(Arts), 行動科学,心理学、社会学,外国語,映像・芸術学,教育学,看護学
0 – 55.3
バンド2
コンピュータ,人間環境学(built environment),保健科学,工学,測量学,農学、数学,統計学,理学
0 – 78.8
バンド3法律,歯学,医学,獣医学,会計学,商学,経営管理,経済学
0 – 92.2
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所得連動型返還制度の拡充
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早急に、本来の所得連動型に拡充する必要がある
文部科学省「学生への経済的支援に関する検討会」報告 2014年8月29日
平成24年度より日本学生支援機構第1種奨学金に導入申請時の家計支持者年収300万円以下
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イギリスの所得連動型ローン
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2012年から 閾値21,000ポンド
2011年まで 閾値15,000ポンド
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所得連動型返済猶予所得最高額を1.5万ポンドから2.1万ポンドに引き上げ
実質無利子から可処分所得に応じた0から3%の利子率の導入
帳消し期間を25年から30年に引き上げ
以上の措置により未返済+利子補給による政府負担額のローン総額に対する比率(default rate)は、従来の30%から40%や48%になると推定されている。
あるレポートによれば、学生の約4分の3は完済しないという(Crawford, Claire and Wenchao Jin, 2014, Payback Time? Student Debt and Loan Repayments: What will the 2012 Reforms Menu for Graduates? Institute for Fiscal Studies.)
イギリスの2012年改革による所得連動型ローンの変更
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奨学金の学生生活費に対する効果伊藤由紀子・鈴木亘「奨学金は有効に使われているか」『季刊家計経済研究』58:86-98。
データは全国大学生協連合会「学生生活実態調査」
小黒一正・渡部大「1999年奨学金制度改革とそれ以後の効果分析」財務省財務総合政
策研究所。 データは日本学生支援機構「学生生活調査」2004年度
いずれも奨学金は娯楽嗜好費に使われているという結果
藤森宏明「奨学金が学生に与える影響」(小林雅之編 2012年所収)
国公立大学 (千円) 私立大学 (千円)
53(注)奨学金受給による支出の変化の推計