次世代超高精細度映像のためのcg映像制作環境の …...-76- iii....

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- 72 - 次世代超高精細度映像のための CG 映像制作環境の研究 者:三淵 啓自(デジタルハリウッド大学院 大学) 関:デジタルハリウッド(株)デジタルハリ ウッド大学院大学 I. 研究の全体計画 1. 研究の趣旨 21 世紀は,映像情報化社会ともいわれるように,映像 が与える国際的な影響は,非常に大きいものとなってい る。このキーになるのがデジタル化だが,ハリウッドも含 め,次世代のデジタルシネマに対応する CG 映像制作環境 は,未だ検討段階にある。 また,日本のコンテンツ産業は,アニメーションのよう に国際的に評価の高い分野もあるが,超高精細度の CG 映 像制作の分野では,欧米の映画制作会社に対し後塵を拝し ており,この分野の競争力の確保は,日本のコンテンツ産 業の成長にとって急務である。一方,次世代のデジタル シネマの標準フォーマットとして提唱されている仕様は, 4K デジタルシネマと呼ばれ,800 万画素に相当する映像 が表現されるものとなる。しかし,このような超高精細度 フォーマットに CG 映像を対応させようとするとき,これ までの CG 映像制作環境では,克服困難な課題に直面する。 本研究は,我が国の先進的情報環境を高度に利用し,世界 に類例のない次世代 CG 映像制作環境構築を目指すもので あり,この分野での世界でのイニシアチブを取ろうとする ものである。 本重要課題解決型研究においては,従来の日本の CG 制 作環境では多大なコストがかかり,実現の出来なかった, 超高精細度の CG 映像制作のためのツール開発,レンダリ ング環境,制作されたコンテンツの世界各国への配信を実 現すべく次の研究を進める。 ・大規模シミュレーションを必要とするデジタル画像 制作ツールを,日本特有の歴史文化を踏まえて研究開発 する。 ・フォトリアリスティックな CG を分散コンピューティ ングで実現するレンダリングソフトウェア・プラグイン を研究開発する。 ・インターネット映像配信における多言語化に関する 研究と試作品による実証実験を行う。 2. 研究の概要 a. 「大規模シミュレーションを必要とするデジタル画像制作 ツールの開発」に関する研究 近年の映像コンテンツに見られる戦闘シーンの大群集の 動きを計算により映像化するために,人工知能応用技術と して研究を行う。 当初は,日本の映像コンテンツで一番需要が予想される 日本の歴史上に見られる数々の戦いを中心に,なかでもア ジア特有の戦闘シーンでの状況判断モデルを中心に研究開 発を行い,それに伴う研究データの蓄積を行う。モデルが 数万というような設定となったときに起きる可能性のあ るシミュレーションの計算結果の破綻についても,実務的 な工夫を検討していく。さらに莫大なシミュレーションの 必要から,単独のコンピュータでは,計算限界が想定され る場合には,多数のパソコンを統合協調した,分散コン ピューティングシステムを利用する等,解決手段を研究す る。 (1) 既存大規模群集シミュレーションに関する調査 国内外の既存「群集シミュレーション画像制作ツール」 について,機能,仕様について調査を実施,制作ワークフ ローの調査とも連携し,開発の方向性を決定する。 (2) 既存コンテンツにおける群集表現手法の調査 国内外の映像作品及びゲーム等について,その群集表現 の手法を調査,分析し,必要とされる群集表現と,その制 作手法を解明する。 (3) コンテンツ制作ワークフローの調査・映像制作 超高精細度の CG 映像制作時に必要とされる,制作技術, 制作工程を調査,分析し,映像制作を行い,画像ツール開 発の方向性と実際の制作現場のフィードバック情報をツー ル開発に反映させる。 (4) 人工知能応用技術を用いた群集シミュレーションのアルゴ リズムの研究 人工知能応用技術を用い大群衆の動的表現をシミュレー ションにより映像化する研究を実施する。特に「関ヶ原の 戦い」を題材にエージェントの合戦時の状況判断モデルを 研究する。 (5) 大規模シミュレーション画像制作ツールの開発 調査結果を基に開発仕様の検討,作成を行う。開発仕様 に基づきプログラム製造,検証,修正を実施する。 b. フォトリアリスティックな CG を分散コンピューティング で実現するレンダリングソフトウェア・プラグインに関する 研究 個人が利用している PC などを利用しての分散コンピュー

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- 72 -

次世代超高精細度映像のための CG映像制作環境の研究

代 表 者:三淵 啓自(デジタルハリウッド大学院

大学)

責 任 機 関:デジタルハリウッド(株)デジタルハリ

ウッド大学院大学

I. 研究の全体計画

1. 研究の趣旨

21 世紀は,映像情報化社会ともいわれるように,映像

が与える国際的な影響は,非常に大きいものとなってい

る。このキーになるのがデジタル化だが,ハリウッドも含

め,次世代のデジタルシネマに対応する CG 映像制作環境

は,未だ検討段階にある。

また,日本のコンテンツ産業は,アニメーションのよう

に国際的に評価の高い分野もあるが,超高精細度の CG 映

像制作の分野では,欧米の映画制作会社に対し後塵を拝し

ており,この分野の競争力の確保は,日本のコンテンツ産

業の成長にとって急務である。一方,次世代のデジタル

シネマの標準フォーマットとして提唱されている仕様は,

4K デジタルシネマと呼ばれ,800 万画素に相当する映像

が表現されるものとなる。しかし,このような超高精細度

フォーマットに CG 映像を対応させようとするとき,これ

までの CG 映像制作環境では,克服困難な課題に直面する。

本研究は,我が国の先進的情報環境を高度に利用し,世界

に類例のない次世代 CG 映像制作環境構築を目指すもので

あり,この分野での世界でのイニシアチブを取ろうとする

ものである。

本重要課題解決型研究においては,従来の日本の CG 制

作環境では多大なコストがかかり,実現の出来なかった,

超高精細度の CG 映像制作のためのツール開発,レンダリ

ング環境,制作されたコンテンツの世界各国への配信を実

現すべく次の研究を進める。

・大規模シミュレーションを必要とするデジタル画像

制作ツールを,日本特有の歴史文化を踏まえて研究開発

する。

・フォトリアリスティックな CG を分散コンピューティ

ングで実現するレンダリングソフトウェア・プラグイン

を研究開発する。

・インターネット映像配信における多言語化に関する

研究と試作品による実証実験を行う。

2. 研究の概要

a. 「大規模シミュレーションを必要とするデジタル画像制作

ツールの開発」に関する研究

近年の映像コンテンツに見られる戦闘シーンの大群集の

動きを計算により映像化するために,人工知能応用技術と

して研究を行う。

当初は,日本の映像コンテンツで一番需要が予想される

日本の歴史上に見られる数々の戦いを中心に,なかでもア

ジア特有の戦闘シーンでの状況判断モデルを中心に研究開

発を行い,それに伴う研究データの蓄積を行う。モデルが

数万というような設定となったときに起きる可能性のあ

るシミュレーションの計算結果の破綻についても,実務的

な工夫を検討していく。さらに莫大なシミュレーションの

必要から,単独のコンピュータでは,計算限界が想定され

る場合には,多数のパソコンを統合協調した,分散コン

ピューティングシステムを利用する等,解決手段を研究す

る。

(1) 既存大規模群集シミュレーションに関する調査

国内外の既存「群集シミュレーション画像制作ツール」

について,機能,仕様について調査を実施,制作ワークフ

ローの調査とも連携し,開発の方向性を決定する。

(2) 既存コンテンツにおける群集表現手法の調査

国内外の映像作品及びゲーム等について,その群集表現

の手法を調査,分析し,必要とされる群集表現と,その制

作手法を解明する。

(3) コンテンツ制作ワークフローの調査・映像制作

超高精細度の CG 映像制作時に必要とされる,制作技術,

制作工程を調査,分析し,映像制作を行い,画像ツール開

発の方向性と実際の制作現場のフィードバック情報をツー

ル開発に反映させる。

(4) 人工知能応用技術を用いた群集シミュレーションのアルゴ

リズムの研究

人工知能応用技術を用い大群衆の動的表現をシミュレー

ションにより映像化する研究を実施する。特に「関ヶ原の

戦い」を題材にエージェントの合戦時の状況判断モデルを

研究する。

(5) 大規模シミュレーション画像制作ツールの開発

調査結果を基に開発仕様の検討,作成を行う。開発仕様

に基づきプログラム製造,検証,修正を実施する。

b. フォトリアリスティックな CG を分散コンピューティング

で実現するレンダリングソフトウェア・プラグインに関する

研究

個人が利用している PC などを利用しての分散コンピュー

- 73 -

ティングによる,膨大な計算処理が必要である写実的な

CG 映像の製作システムを実現する。それに必要な分散コ

ンピューティング向けマルチプラットフォームレンダリン

グソフトを開発する。及び,それを個人が簡単に利用でき

るための既存 CG 製作ソフトウェアとの連携ソフトウェア

を開発する。個人が参加できる,そして利用できるそのシ

ステムによる参加型制作における新しい効果的なプロモー

ション手法を提示する。

(1) フォトリアリスティックな CG を分散コンピューティング

で実現するレンダリングソフトウェア(=レンダラー)・プラ

グインの開発

・国内外のレンダラーの技術動向調査(業界内のアン

ケート,ヒアリング調査なども行う。フォトリアリス

ティックな CG を分散コンピューティングで実現するレ

ンダリングソフトウェア(=レンダラー)の方式検討と

仕様確定

・レンダラーの開発(オープンソースソフトウェアを

基に行っていく予定。)

商用ソフトウェアとシームレスに連携するためのソフ

トウェア(プラグイン)の開発

(2) 当該開発技術の実証実験

・デジタルハリウッド学内等の限られた PC 等による

検証

・インターネットを利用して国内の一般の方々の PC

等を利用しての実証実験の実施

c. インターネット動画配信における多言語化に関する研究

インターネットで配信される動画を世界配信する上で,

欠くことの出来ない「多言語化」において必要とされる,

「字幕データ」の制作から配信までを一元管理可能なネッ

トワークシステムを構築する。

これにより各国在住動画翻訳者のネットワークと連動さ

せた多言語字幕制作システムと多言語データ配信システム

を整え,「迅速に」「コストを抑え」「クオリティーを保ち」

多言語情報を付加させる環境を実現する。その成果として

高画質 CG 映像で制作される『関が原の戦い』を 5 ヶ国字

幕と 1 言語吹き替え音声を加え,言語選択可能な多言語動

画として世界配信する。

このシステムは,個人の映像クリエイターが本件研究の

画像ツール,分散レンダリングのシステムを活用し完成し

た作品を多言語システムにてインターネットを介してグ

ローバルに配信することが可能により,より人材の育成に

寄与するものと言える。

また,分散レンダリングに必要な一般参加者をより多く,

よりグローバルに参加を促すためにも,本件の映像コンテ

ンツを多言語に配信することが重要である。

(1) 多言語字幕・吹き替え音声データの動画同期配信及び多言

語字幕制作システムの開発

1. 多言語字幕制作ソフトのバージョンアップ開発。

(日本語・英語に加え,中国語・韓国・スペイン語の字

幕制作・配信)

2. 多言語字幕データを蓄積・配信する管理データー

ベースの構築

3. 翻訳用動画ダウンロードシステムの構築

4. 吹き替え音声データを蓄積・配信する管理データー

ベースの構築

5. 多言語字幕,吹き替え音声選択ビューア(視聴画

面)開発

(2) 海外,国内在住の翻訳者による字幕データアップロード・

視聴検証

1. 国内外の翻訳者の各自 PC から字幕データを入力・

フジヤマサーバーにアップロード検証

2. 各国翻訳者の回線事情・PC 環境リサーチ及び,シ

ステムの動作検証

3. 国内外での多言語字幕・吹き替え音声の同期視聴検

(3) 「関が原の戦い」に 5 ヶ国語字幕・1 言語吹き替え音声を

同期配信

・日本・アメリカ・中国・韓国・南米在住者を対象と

した多言語視聴実証実験の実施

d. 研究運営委員会

研究運営委員会を開催し実施内容の報告,重要事項の審

議等を行う。

平成 17 年度は(9 月,12 月および 3 月を予定)デジタ

ルハリウッド大学大学院にて開催実施する。

e. アウトリーチ活動

本研究開発の進捗状況,ならびに CG 制作の環境と分散

型ネットワークの関わりについてのシンポジウム(時期は

3 月上旬,会場はデジタルハリウッド大学院セミナールー

ムを予定)を開催する。

本研究の成果を展開し,一般への研究内容について理解

を求める,アウトリーチ活動として,以下の内容につき,

研究 2 年目より計画的実施する。

大規模シミュレーションを必要とするデジタル画像制作

ツールの利用,フォトリアリスティックな CG を分散コン

ピューティングで実現するレンダリングソフトウェア(=

レンダラー)・プラグインソフトの利用として,制作サイ

ドのクリエイターおよびプロダクション,一般参加者の分

散レンダリングシステムの参加を促す。

第 1 弾として,デジタルハリウッドデジタルクリエイ

タースクールの卒業生 30000 人,在校生への募集を実施

し,制作者としての参加 20 機関 100 名,CPU の提供メ

ンバーとして約 3000 人(10% )の参加目標とする。ま

た NTT データにおける分散コンピューティング一般参加

者登録者約 3000 名(7 月 1 日現在)を合わせて約 6000

の登録メンバーにて実験的な試みを行い,アウトリーチ活

動への展開を確実にするものとする。

- 74 -

3. 年次計画

- 75 -

II. 平成 17 年度における実施体制

- 76 -

III. 研究運営委員会

IV. ミッションステートメント(具体的な達成目標)

本研究は,次世代超高精細度映像に向けた CG 映像コン

テンツの制作,計算による描画,完成後の諸外国への配信

までの一連の流れにおいて,インターネットを利用する

様々な研究開発により,我が国の映像コンテンツ産業にお

いて,ボトルネックとなっている課題を解決するものであ

る。この研究の完成により,アマチュアからプロまで広く

映像制作者に公開される強力な環境が用意されることにな

り,わが国のデジタルコンテンツ産業発展に寄与するもの

である。

3 年間の研究におけるゴールは,

・大規模シミュレーションを必要とするデジタル画像

制作ツールの開発

※ 4K デジタルシネマ向けのコンテンツが効率よく,低

予算で制作することができる,分散コンピューティングに

おけるレンダリングシステムに対応した,コンテンツ制作

サイドツールを開発する。

・フォトリアリスティックな CG を分散コンピューティ

ングで実現するレンダリングソフトウェア(=レンダ

ラー)・プラグインの開発

※ 4K デジタルシネマ向けのコンテンツが効率よく,低

予算で制作することができる

高精細映像,特に人工知能を搭載した大群集シミュレー

ションの写実的な画像処理を一般家庭の PC(CPU)をネッ

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トワーク上で借りて,従来の制作プロダクションにて大規

模に投資,投下された数千台の PC スペックに勝る処理能

力を提供する為のレンダリングおよびプラグインソフトを

開発する。

・インターネット映像配信における多言語化に関する

研究(3 ヶ国語)

※本研究にて 3 ヶ国語の開発を行うころで,既に開発し

た 2 カ国語に合わせて合計 5 ヶ国語対応を行う。グロー

バルに分散コンピューティング一般参加者ならびにクリエ

イターの画像ツール活用参加者を促すために,よりグロー

バルな作品配信を目的とする。

以上,3 点の研究開発が,これまでの映像制作手法や技

術に組み込まれることにより,世界に類例の無い,映像制

作環境が生まれるものと期待できる。

3 年間の研究結果として,日本独自の文化に象徴される

「チャンバラ」。特に 15 万人が戦ったとされる「関ケ原の

合戦」の映像シーンを,超高精細度 CG 映像として映像化

し,多言語のコンテンツとして世界に向けて発表できるよ

うにする。結果として,映像表現文化に貢献するばかりで

なく,ネットにつながるあらゆる CPU の空き時間を映像

化のための演算処理として無駄なく有効に利用するという

「近未来のユビキタス環境でのデジタルエコロジ」という

コンセプトを世界に向けて具体的に示せる。