中間周波数帯の電磁界と人体との間接結合に関する 数値ドシ ......0...

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0 中間周波数帯の電磁界と人体との間接結合に関する 数値ドシメトリ評価 報 告 書 平成 24 3 名古屋工業大学

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0

中間周波数帯の電磁界と人体との間接結合に関する

数値ドシメトリ評価

報 告 書

平成 24 年 3 月

名古屋工業大学

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1

Ⅰ 要 旨

電波の人体に与える影響への関心の高まりから、近年では、解剖学的数値人体モデル

を用いて体内誘導量の数値解析が行われるようになった。その解析結果に基づき、国際

非電離放射線防護委員会(ICNIRP)ガイドライン[1][2]や IEEE 規格[3][4]の基本制限と参考

レベル(外部電磁界強度)を比較することでガイドライン根拠の有効性確認が行われて

いる。しかしながら、接触電流に対して、解剖学的数値人体モデルを用いた数値ドシメ

トリ評価は極低周波に対するもののみであり[5][6]、中間周波帯で検討した例はない。一方、

電波利用の拡大により、中間周波帯の利用に対する関心が高まり、中間周波帯接触電流

により体内に誘導される電界を評価することが重要となってきている。

本研究では、情報通信研究機構の開発による日本人成人男性の解剖学的数値人体モデ

ル[7, 8]を用い、接触電流による体内誘導電界の周波数依存性を 10kHz から 10MHz の周波

数帯に対して解析し、同周波数帯における接触電流に対する参考レベルと基本制限との

関係について詳細な議論を加えることを 終目標とする。

また、接触電流は過渡的成分と定常成分に分けられ、特に、上記周波数帯における下

限の検討では、過渡的成分による誘導量を定量化することも必要となる。定常成分の接

触電流の電磁界解析を、主に準静的 FDTD(Finite-Difference Time- Domain: 時間領域

有限差分)法[9]を用いて行うこととする。しかしながら、準静的 FDTD 法の有効性は、

均質な数値人体モデルに対し、外部から電磁界を印加した際に誘導される電界の検討に

とどまり、モデルの差分化誤差やモデルの形状によるばらつきの影響を検討することが

求められる。さらに、 終目標である体内誘導量の評価では、ヒトの姿勢や電気定数の

体内誘導量に与える影響による体内誘導量のばらつきに関する検討が重要となる。

以上まとめると、本研究の課題は、以下の項目にまとめることができる。

① 中間周波帯の接触電流による人体組織に対する刺激閾値に関する調査を行い、組織ご

との刺激閾値を数学的に表現する。

② 広帯域な電磁界解析が可能な数値シミュレーション手法を用いて、接触電流の過渡成

分に対する数値ドシメトリを実施し、体内誘導電界の時間変化を明らかにする。

③ 電磁界解析シミュレーション手法を用いて、接触電流の定常成分に対する数値ドシメ

トリを実施し、注入電流と体内誘導電界の関係を明らかにする。

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2

Ⅱ 研究目的

本研究では、解剖学的に詳細な日本人成人[7]および子供[8]モデルを現実に即した姿勢に

変形し、接触電流によりモデル内に誘導される電界を数値的に定量化する。特に、接触

電流を対象とした場合の数値ドシメトリにおける数値誤差について検討する。また、電

波防護指針[10]や国際防護ガイドラインで示された指針値及び接触電流を人体にばく露し

た場合の体内における誘導電界を解析し、既存の実験データとの比較から数値解析結果

の有効性を検討する。さらに、接触電流を定常成分と過渡成分に分けて体内誘導量を解

析し、調査した刺激電界の閾値と比較し、防護指針で示されたばく露指標の有効性につ

いて議論する。本年度検討した項目は以下の通りである。

①中間周波帯誘導量評価のための刺激閾値の評価式におけるパラメータの選択

H22 年度に中間周波帯の刺激評価に適した数式を選択した。本年度は、数式にお

けるパラメータの選択を実施した。

②数値不確定性評価:階段近似の誤差評価の定量化

数値解析結果の階段近似による誤差を定量評価するとともに、体内誘導量の統計量

に基づき、評価に適した指標について議論した。

③接触電流の過渡成分に対する体内誘導量の評価

1.注入電流の立ち上がり時間による体内誘導量の影響について評価する。

2.詳細モデルにおける誘導量と閾値の比較による項目①の妥当性を確認する。

3.中枢神経系および末梢神経系を含む組織に誘導される電界を定量化する。

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3

Ⅲ 試験方法 1. 解析手法:準静的 FDTD 法

FDTD 法とは、マクスウェルの方程式を差分化し、時間領域で解く方法である。この

手法では、まず、時間領域でマクスウェルの方程式を中心差分化することにより定式化

を行なう。次に、解析領域全体を多数の「セル」と呼ばれる微小領域に分割し、電磁界

成分を時間および空間的に配置し,電磁界を交互に逐次計算する。ここで、これら一連

の系の分割および電磁界の配置は、Yee のアルゴリズムと呼ばれている。これを時間ス

テップごとに繰り返すことにより、電磁界の時間変化を追跡することが可能となる。次

項以降では、これらの詳細について解説する。

マクスウェルの方程式は 4 つからなるが、そのうち独立なものは 2 つのみである。以

下に、FDTD 法で基本となるファラデー・マクスウェルの法則およびアンペア・マクス

ウェルの法則の微分表示を示す。

st

t

JHEE

EH

(1)

ただし、E、H はそれぞれ電界、磁界であり、これらは場所及び時間の関数である。ま

た、、、はそれぞれ媒質の誘電率、透磁率、導電率を表す。さらに、Js は電流源で

ある。

次に、三次元直角座標系を例にとり、上式を成分毎に表示すると以下のようになる。

ただし、簡単のために、Js=0 としている。

y

E

x

E

t

H

x

E

z

E

t

H

z

E

y

E

t

H

xyz

zxy

yzx

(2)

y

H

x

HE

t

E

x

H

z

HE

t

E

z

H

y

HE

t

E

xyz

z

zxy

y

yzx

x

(3)

FDTD 法では、これらの式を差分化し、定式化するが、通常一次の差分が用いられる。

ここで、高次の差分を用いた場合、精度の改善が期待できるものの、定式化が複雑とな

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り、また、不安定となる場合があるためあまり用いられていない。一次の差分でもいく

つかの方法が存在するが、一般に中心差分が用いられている。これは、前進差分、後進

差分を用いたときの精度は、Δx のオーダであるのに対し、中心差分を用いると、(Δx)2

のオーダとなるからである。ここで、Δx は時間あるいは空間の刻み幅を表す。以下に、

マクスウェルの方程式を x 成分について差分化した式の例を示す。

1/ 2 1/ 2

1

1/ 2

1/ 2

1 1 1 1( , , ) ( , , )

2 2 2 21 1

[ ( , , 1) ( , , )]2 2

1 1[ ( , 1, ) ( , , )]

2 2

1 1( , , ) ( , , )

2 21 1 1

[ ( ( , , )2 2

1 1( ,

2

n nx x

n ny y

n nz z

n nx x

nz

nz

H i j k H i j k

tE i j k E i j k

z

tE i j k E i j k

y

E i j k E i j kt

tH i j k

t y

H i j

1/ 2

1/ 2

1 1 1, )) ( ( , , )

2 2 21 1

( , , ))]2 2

ny

ny

k H i j kz

H i j k

(4)

ここで、中心差分を用いて定式化したため、電磁界の空間、時間配置は以下の図 1、2 の

ようになる。図からわかるように、電界および磁界の時間および空間ステップは、互い

に 1/2 だけずれて配置されている。

図 1.電磁界の空間配置

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5

図 2.電磁界の時間配置

特に上記の汎用的な FDTD 法と異なり、報告者が開発した準静的 FDTD 法[8]を用いる。

一般に、FDTD 法では差分時間t 毎に逐次計算することから、低周波の FDTD 解析では、

体内電磁界が定常状態に達するまでに膨大な繰り返し回数が必要となる。このため、低

周波の FDTD 法において計算量を削減する方法が必要となるが、その一つとして準静近

似を適用する方法がある。以下に、生体組織に対する接触電流の準静的 FDTD 法につい

て述べる。

周波数領域において、アンペア・マクスウェルの法則は

EH

ii 1 (5)

と表すことができる。次の関係

1 (6)

が成立するとき、導電電流が変位電流よりも支配的であり、準静近似が適用可能となる。

このとき、(5)式における変位電流項は無視することができ、次のように近似することが

できる。

EH (7)

このような条件が成立するとき、準静近似を適用することで、接触電流による FDTD 解

析に必要な計算量を削減する手法を提案している[11]。具体的には、以下の式(8)であらわ

されるような立ち上がりの緩やかなステップ関数で接触電流を正弦波と等価な波源とす

る。

0

222

00

222

0

V

tVV

tV

tV

20 t

(8) t2

t

ここで、V0 は模擬する正弦波の波高値、は電圧が V0 に達するまでの時間である。この

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入力波源に対し、体内の誘導電界が時間的に一定となった時点で解析を終了するものと

する。

2.解析手法:分散性を考慮した FDTD 法

パルスのような過渡的電磁界では、広帯域にわたる周波数成分を含むので、人体組織

などの媒質定数を用いる際には、媒質の分散性を考慮する必要がある。しかしながら、

通常の FDTD 法では、媒質定数である誘電率や導電率を場所の関数としているため、

周波数分散性は考慮していない。そのため、FDTD 法では,媒質の分散性を考慮する方法

として、PLRC (Piecewise-Linear Recursive Convolution)法や ADE (Auxiliary Differential

Equation)法などが提案されている[9][12]。本研究では、人体組織の電気定数を扱うことから、

P 個の極を持つデバイ分散について ADE 法の定式化を述べる。

ADE 法とは、媒質内で成り立つ電界 E(t)と電束密度 D(t)の間の微分方程式を差分して

用いる方法である。P 個の極を持つデバイ分散の媒質を仮定すると、任意の場所での電束

密度 D(t)と電界 E(t)の関係から、時間領域における Ampere の法則を次式で表せる。

0 01

( )( ) ( ) ( )

P

pp

tt t t

t

EH E + J (9)

ここで、Jp(t)は極 p による分極電流である。周波数領域において、各極の Jp()と E()の

関係は次のようになる。

0( ) ( )1p p

p

j

j

J E (10a)

この式の両辺に(1+jp)を掛けると、

0( ) ( ) ( )p p p pj j J J E (10b)

となり、逆フーリエ変換することで次式を得る。

0

( ) ( )( ) p

p p p

t tt

t t

J E

J (11)

この式を t = (n – 1/2)t として FDTD 法の定式化を行い、Jpnについて解くと、

01 12 2

2 2p pn n n n

p pp p

t

t t

J J E E (12)

を得る。ただし、任意の場所で成り立つので、場所に関する表記は省略する。これを式(9)

に代入して、Enについて解くと、

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7

00 0

1 1

00 0

1

112

0 10 0

1

22

2

22

2

222 2

22

Pp

pp pn n

Pp

pp p

Pn p npP

p p pp

p p

tt

t

tt

t

tt t

tt

E E

H J

(13)

が得られる。

したがって、式(13)より電界 En、式(12)より分極電流 Jpn、前節の通常の FDTD 法と同

様に磁界 Hn+1/2を順に求めることで、媒質の分散性を考慮した計算が可能となる。

生体組織の電気定数としては、Gabriel らによる測定値に基づいた 4-Cole-Cole モデルが

広く知られている[13]。Gabriel らは、過去の文献で報告された電気定数と、動物および人

体の組織に対する 10Hz~20GHz または 1MHz~20GHz の周波数範囲での測定値に対して、

4 極の Cole-Cole の式を仮定し、フィッティングすることでモデル化を行っている。なお、

このときの複素比誘電率r()は真空の誘電率0を用いて、

40

r 11 0

( )1 ( ) p

p

p pjj

(14)

と表される。ここで、∞ は周波数無限時の比誘電率、pは極 p による比誘電率の変化量、

pは極 p の緩和時間、pは極 p の分散の広がりの程度、0は静電界における導電率を表

す。これらのパラメータは、44 種類の組織について示されている[13]。

本研究では、FDTD 法への組み込みが容易な多重極のデバイ分散を仮定して[12]、人体組

織の電気定数を設定した。一般に P 個の極を持つデバイ分散の場合には、複素比誘電率

r()が次式で与えられる。

0

r1 0

( )1

Pp

p pj j

(15)

この式において P = 4、すなわち、4 個の極を考慮することで、 44 組織中、重複を除く

41 組織の 4-Cole-Cole モデルに対して、10kHz から 10GHz の周波数範囲で関数をフィッ

ティングすることで決定している[14]。なお、周波数の下限を 10kHz とした理由は、10kHz

以下では変位電流に対して導電電流が支配的となり比誘電率の影響を無視できること、

また、人体組織の導電率が概ね一定となるためである。4 極のデバイ分散のパラメータを

纏めて表 1 に示す。

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8

表 1.人体組織に対する 4 極のデバイ分散のパラメータ

Tissue 0 [mS/m] 1103 2103 3 4 1 [s]

Aorta 300 4.28 12.0 0.890 104 38.7 14.6 0.753 6.96 8.38Bladder 205 2.68 9.21 0.970 282 16.5 13.0 0.804 52.2 8.38Blood 700 7.10 3.98 1.11 33.5 52.9 0.173 0.0413 2.01 7.96Bone (cancellous) 81.0 4.23 2.75 0.259 121 14.8 15.6 0.260 16.3 11.4Bone (cortical) 20.1 3.17 0.411 0.124 80.0 9.14 10.1 0.185 25.7 11.4Bone marrow 2.20 2.78 0.854 0.0871 26.0 2.67 12.1 0.806 11.9 8.38Brain (grey matter) 100 6.55 29.9 2.88 524 46.0 12.7 0.771 11.4 8.38Brain (white matter) 60.0 6.39 25.4 1.33 175 31.5 14.7 0.354 6.12 8.84Breast fat 24.0 2.31 0.889 0.0602 17.6 3.14 15.6 0.937 57.7 15.9Cartilage 170 6.33 2.11 1.81 685 36.2 10.9 0.206 31.0 13.3Cerebellum 120 5.46 39.4 2.16 684 41.4 13.4 0.530 9.46 8.38Cerebro spinal fluid 2000 6.21 0.00 0.0399 2.31 60.6 0.221 0.00160 0.161 7.96Cervix 500 6.15 33.6 1.68 302 44.4 17.4 0.844 17.9 8.38Colon 230 6.00 16.8 2.45 87.2 50.6 12.0 0.0921 2.57 8.84Cornea 422 6.09 76.3 8.40 565 48.9 13.1 0.304 18.7 8.38Dura 501 6.90 0.993 0.115 200 36.3 14.7 1.12 7.01 8.84Eye tissues (sclera) 503 6.42 7.47 4.11 22.2 48.8 7.77 0.121 1.59 8.38Fat 22.0 2.81 18.6 0.0837 19.1 2.66 72.7 0.994 17.2 8.84Gall bladder 900 7.01 0.677 0.0982 38.3 52.3 125.4 11.3 1.75 8.38Gall bladder bile 1400 7.32 0.050 0.0048 51.9 5.82 0.0016 0.00003 0.008 7.41Heart 120 5.91 93.5 4.27 166 50.9 9.75 0.161 3.51 8.84Kidney 105 6.31 52.7 4.28 150 48.0 9.92 0.130 1.59 8.84Lens (cortex) 322 5.50 10.4 1.73 12.3 40.9 12.7 0.071 1.59 8.38Liver 40.0 6.18 44.7 5.39 266 40.7 12.6 0.263 11.4 8.38Lung (deflated) 210 6.38 56.5 4.73 851 44.7 14.5 0.703 42.9 8.84Lung (inflated) 80.0 2.74 30.6 2.27 403 18.3 14.5 0.564 23.5 8.84Muscle 320 6.77 27.2 6.92 355 46.0 11.6 0.267 28.2 7.96Nerve 28.0 5.43 60.2 3.06 351 26.2 14.4 0.427 16.5 8.84Ovary 320 7.06 11.1 1.46 426 41.1 10.8 0.622 9.13 11.4Skin (dry) 0.200 4.04 0.504 0.520 54.3 35.5 0.0801 0.0157 1.39 7.96Skin (wet) 0.500 5.59 20.2 9.46 602 39.8 2.40 0.613 21.3 8.38Small intestine 525 7.12 39.0 10.6 95.9 48.8 8.95 0.120 1.97 8.38Spleen 105 5.89 12.3 2.68 118 49.5 7.83 0.0585 2.59 8.84Stomach 520 7.17 12.8 2.14 20.5 59.2 15.0 0.0703 1.59 8.84Tendon 380 4.40 14.6 0.388 83.7 37.5 22.8 0.700 7.72 8.84Testis 422 7.41 14.4 5.00 26.8 52.1 17.4 0.112 1.59 8.84Thyroid 522 6.83 18.8 1.82 1398 53.5 23.0 0.380 67.6 8.84Tongue 272 7.02 17.5 4.12 21.6 46.4 19.0 0.112 1.59 8.84Trachea 300 4.94 41.5 2.84 380 38.1 13.6 0.603 23.2 8.84Uterus 500 6.02 53.2 2.85 968 56.9 17.4 0.813 26.9 8.38Vitreous humor 1500 4.27 0.015 0.0151 1.23 63.6 0.294 0.0877 0.008 7.28

2 [s] 3 [ns] 4 [ps]

3.解析モデル

3.1.多層円柱モデル

準静的 FDTD 法の誤差評価を行うため、理論解の求まる均質および多層円柱モデルを

用いた。モデルは人体の胴体部分を模擬し、直径 0.25 m、高さ 2 m であり、5 mm の分解

能を有する。なお、モデルは筋肉により構築した。モデルの構成組織は、均質な場合は

筋肉、多層円柱モデルの場合には外側から皮膚、脂肪、筋肉の 3 層とした。なお、皮膚、

脂肪の厚さはそれぞれ 5 mm、10 mm とした。モデルの解像度としては、10 mm、5 mm、

2.5 mm の 3 種類とした

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10

図 4 変形を加えた人体モデルの概観

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11

Ⅳ 試験結果と考察

1.刺激閾値の評価式におけるパラメータの選択(研究目的①)

まず、平成 22 年度報告書で示した評価式とその根拠について再度述べる。Reilly らは、

McNeal が開発した有髄軸索の等価回路モデル[15]を拡張した SENN (Spatially Extended

Nonlinear Node)モデルを用いて、電気刺激の様々な波形に対して反応が起こる閾値を計算

している[16]。特に、モデル上に電極を配置し電流を流した場合を例に、単発の矩形波の

刺激に対して 小の閾値をとり、電流または電荷量の閾値 IT、あるいは QT (= IT t)が、

e

T/

0

1

1 t

I

I e

(16)

e

eT/

0

/

1 t

tQ

Q e

(17)

の Strength-duration (S-D)曲線で表せることを示している。ここで、I0と Q0は電流と電荷

の 小の閾値、t は刺激波形の持続時間である。式(16)および式(17)で表される S-D 曲線

は、電流以外の指標の組織内の電流密度や電界でも成り立つ性質となっている。ただし、

刺激される組織やその方法によって 小閾値と時定数は変化する。時定数eは、神経興奮

に対して 小となり、筋興奮ではおよそ 10 倍、シナプスへの作用ではおよそ 100 倍とな

り、組織の分布の影響で刺激の箇所にも依存する。

S-D 曲線をもとに体内電界の閾値 ETは、式 (16)および式(17)の漸近的近似より、

0 e

T e0 e

E tE

E tt

(18)

と与えられる。また、正弦波の周波数 f に関して、Strength-frequency (S-F)の関係が成り立

ち、

0 e

T0 e

e

E f f

E fE f f

f

(19)

ee

1

2f

(20)

と表される。ここで feは上限遷移周波数であり、式(19)の関係は有髄軸索の理論モデルに

基づき決定されている[17]。2002 年改定の IEEE 規格[3]では上記の興奮性組織の閾値の数式

モデルを根拠として、刺激作用に対して体内電界の基本制限を設けている。また、2010

年に改訂された ICNIRP ガイドラインでも同様である。従って、式(19) におけるパラメ

ータの影響について議論すればよいこととなる。

IEEE 規格において示されている反応の閾値の値を表 2 に示す。この表における値は、

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12

実測に基づき、推定した値の中央値を示したものである。本年度特に着目する末梢神経

系については、電界閾値 6.15 V/m であり、時定数は 0.149 ms である。一方、この表で示

した値は、主に、in-vitro 実験より導出されたものであり、in-vivo 測定によるデータは[18]

に限られていた。近年、ヒトの腕を対象とした in-vivo 実験により、電気刺激と磁気刺激

に対する時定数は異なり、それぞれ、0.1ms、0.3ms であるとしている[19]。この要因の一

つとして、電気刺激の場合には、電極との接触によるマスク効果の可能性がある[18]。一

方、閾値についても、ヒトを対象とした近く実験に対する数値ドシメトリを実施し、閾

値が 2.2 V/m 程度とする論文もあるが、数値不確定性についての言及はない[20]。そこで、

電界閾値として 2 V/mから 6.15 V/m、時定数の不確実さとして 0.1 ms から 0.36 ms を考え、

閾値の不確定性と定めることとした。

表 2.確立された反応の閾値に対するモデル:体内電界の中央値 [3]

a Interpretation of table as follows: ET = E0 for t e; ET = E0 (e / t) for t e.Also, ET = E0 for f fe; ET = E0 (f / fe) for f fe.

Reaction E0 peak [V/m] e [ms] fe [Hz]

Synapse activity alteration, brain 0.075 25.0 20

10-m nerve excitation, brain 12.3 0.149 3350

6.15 0.149 3350

Cardiac excitation 12.0 3.00 167

20-m nerve excitation, body

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13

2.数値不確定性評価・階段近似による数値ばらつきの定量評価(研究目的②)

2.1.複数層円柱における誘導電界分布の理論解の導出

平成 22 年度では、単層円柱に対して適用可能な理論解を導出した。一方で、人体は複

数層からなる円柱と近似できるため、より一般化して取り扱えるようその定式化を拡張

することとした。損失性誘電体から構成される無限長の円柱に電流が流れるときの電磁

界分布の一般解は、円筒座標系(r,,z)を用い、電流の方向が z 方向のみであり、かつ

z とに依存しないと仮定して以下の式で与えることができる[21]。

0 0zE r AJ kr BN kr (21)

1 1

Ak BkH r J kr N kr

i i (22)

ここで、

2 *k i (23)

* i (24)

である。このとき、

2

0

1

! ! 2

m n m

nm

xJ x

m n m

(25)

2

0 1 1

21

0

2log

2

11 1 1

! ! 2

1 !1

! 2

n n

l l nl l n

l m m

l nn

l

xN x J x

x

l n l m m

n l x

l

(26)

1

1lim log

l

lm

lm

(27)

であり、r は円柱の中心軸からの距離、A および B は未知定数である。なお、N0(kr)は r =

0 で発散するため均質な円柱では B = 0 とならなければいけない。ここで、円柱の半径を

a、円柱を流れる電流強度を I として、磁界を円柱の外縁上で線積分して、

I H a ad (28a)

12Ak

I a J kai

(28b)

12

k IA

a J ka (28c)

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16

2.5

2.01.5

1.0

0.50

Err

or[%

]3.03.5

(a) (b)

図 7.10MHz における準静的 FDTD 法の数値誤差分布(解像度 5mm):(a)均質モデル,

(b)三層モデル

における数値誤差の周波数依存性は均質な場合と同様の傾向であり、また、10 MHz 以外

の周波数においても 3 層モデルにおける誤差の方が小さくなった。

外部電磁界ばく露による体内誘導量の数値解析において、電流ベクトルが急激に変化

する場合には、階段状の部分においてボクセルに特異点が生じ、誤差が数十%にのぼるこ

とが報告されている[22]。しかしながら、接触電流に対しては、円柱が不均質な場合にお

いてすら、特異点による影響は顕著ではなかった。これは電流の向きが z 方向のみであり、

階段状の部分に沿った電流が生じないためであると考えられる。

2.3.準静的 FDTD 法における誤差低減方法に関する検討

IV 章 2.2 節で示したように、接触電流による損失誘電体における数値誤差は、外部電

磁界のばく露によるものに比べて小さいものの、より複雑な組織構成をしたモデルにお

いては、差異が大きい可能性がある。また、ICNIRP ガイドラインでは、99 パーセンタイ

ル値の利用を推奨しているものの、全身ばく露に対してのみである。 IV 章 2.2 節で考

えた例では、無限長とみなせるような円柱に対してのみ有効であることから、理論解を

有する例として、微小ダイポールによりばく露された多層球モデルを取り上げ、理論解

と数値解析結果による差異を比較し、より適切な評価指標について検討する。

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17

皮膚、脂肪、骨、脳骨髄液、脳などから構成される人体頭部を模擬した多層球モデル

を考え[23]、頭部表面より 60 mm 離れたところにダイポールアンテナを配置する。図 8(a)

に理論解を、図 8(b)に離散化モデルを用いた場合の FDTD 解析結果を示す。図より、離

散化モデルを用いた場合には理論解とは差異があることがわかる。これは、階段近似の

中でも、複数組織を考慮した場合に生ずる誤差である。また、局所ばく露を考えたため、

体内誘導電界が局在化しており、たとえば 99 パーセンタイル値を適用した場合には、誘

導量の高い部分を除いてしまう可能性がある。従って、99 パーセンタイルの代替指標が

求められる。そこで、下記のように導電率に平滑化を加えるアルゴリズムを適用するこ

とを提案する。

(a) (b)

(c) (d)

図 8.微小ダイポールによる体内誘導量の解析結果.(a)離散化モデルに対する理論解

(b)FDTD 解析結果,平均化アルゴリズムを適用した場合(c)3 セル,(d)6 セル

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18

smooth org( , , )

1( , , )

nB i j k

i j kN

(30)

ここで、ボクセル(i, j, k)を中心とし、平均化半径として定義された半径 n の範囲内のボク

セルを Bn(i, j, k)とし、その個数 N にわたり導電率を平均化するものである。

図 8(c)および(d)に、式(30)を適用して解析した場合に得られた結果を示す。図より、式

(30)を適用しなかった場合の(b)とは異なり、理論解(a)に近い結果が得られていることが

わかる。平滑化を実施したことによりモデルの詳細な情報は失われる可能性があるもの

の、平均化半径を 3 セル、つまり 6 mm 程度の距離で平滑化すればよい。これは、通常の

測定誤差あるいは導電率の不確定性の範囲内にあるものと考えられる。

図 9 に平滑化の対象とする半径を変化させた場合の体内誘導電界の変化を示す。比較

のために理論解により得られた結果を併せて示す。図 9 より、平均化半径を 2 から 3 セ

ル程度とした場合でも十分効果が確認できた。

3.接触電流の過渡成分に対する体内誘導量の評価(研究目的③)

図 10 は帯電人体からの接触電流を解析するための計算空間と FDTD モデルを示す。

図 9.平均化アルゴリズムを適用した場合の体内誘導電界の 大値および 99 パーセ

ンタイル値の変化

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20

形に対してフィッティングすることで時定数を算出したところ、日本人成人男性モデル

では 89.6 ns、日本人成人女性モデルでは 72.1 ns、3 歳小児モデルでは 43.0 ns であった。

人体の抵抗値を R とし、人体の静電容量 C に付録 A での計算結果を用いると、時定数の

関係 = RC より、各人体の抵抗値は日本人成人男性モデルでは 853 、日本人成人女性モ

デルでは 721 、3 歳小児モデルでは 768 であった。人体の抵抗値が同程度であること

から、日本人成人モデルと 3 歳小児モデルに対する接触電流の時定数の差異は、人体の

静電容量の差による影響が支配的であると言える。また、成人モデルを対象とした実測

値の結果の振る舞いはよく一致しているものの、解析結果の方が 30%程度大きいことが

わかる。これは、入力電圧として理想スイッチを仮定したためであり[24]、また、子供を

10

0

Con

tact

cur

rent

[A

]

5

50 10Time [ns]

Measured

Adult male computedAdult female computed3-year-old child computed

10

0.01

Con

tact

cur

rent

[A

]

0.1

0 150 200Time [ns]

10050

1

(a)

(b)

Adult male computedAdult female computed3-year-old child computed

図 11.各人体モデルに対する接触電流波形の比較

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21

対象とした実測結果がないことから、安全側の評価を与えるものとして以降の議論でも

用いることとした。

図 12 に、接触電流立ち上がり時の体表面における電流密度の時間発展の様子を示す。

腕から流した電磁波が腕、胴体を伝わり、あるいは一旦発射され電磁波が再入射し、人

体表面を伝搬している様子がわかる。手から伝搬した波が足首に達し、地面で反射し、

頭部に向かって伝わる。ここでは 2.29 ナノ秒までの様子であるが、人体をおおよそ 10 ナ

ノ秒で伝搬すること、また、電磁波の伝搬経路に沿った実効長が 2.5 m 程度となることか

ら、伝搬経路を考えると光速で伝搬していることとなる。つまり、放射された電磁波は

人体表面を伝搬していると言える。

3.2 体内誘導電界

図 13 は各人体モデルにおける接触電流に伴う体内誘導電界の x-z 平面内の脂肪組織の

セル 大値と層平均値を示す。脂肪組織に着目した理由は末梢神経が皮下脂肪に存在す

るとされているためである[25]。なお、流出部である右手から右前腕に着目し、日本人成

人男女モデルでは y = 0 ~ 240 mm、3 歳小児モデルでは y = 0 ~ 120 mm の範囲を対象とし

た。金属棒の存在する範囲(y = 2 ~ 48 mm)を図中に示す。図 13(a)より、各モデルの脂

肪組織における体内誘導電界のセル 大値の分布は金属棒付近で大きくなることが確認

x [cell]

z [c

ell]

Surf

ace

curr

ent [

A/m

]

100 300

(b) 1.53 ns

600

0

400

200

800

(c) 1.91 ns

0

1.0

0.5

1.5

(d) 2.29 ns(a) 1.14 ns

図 12.体表面電流の時間発展の様子

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23

手首付近においても大きくなった。これは手首の断面積が小さいことにより電流が集中

するためである。日本人成人男女モデルにおける層平均値は金属棒付近および手首付近

以外において減衰しているものの、3 歳小児モデルでは減衰の変化量が小さいことがわか

る。この理由についても上述の 3 歳小児モデルの右手から右前腕にかけての断面積の変

化量が日本人成人男女モデルに比べて小さいためと言える。

図 14 は各人体モデルの脂肪組織における体内誘導電界の時間積分値と IV 章 1 節で示

した刺激閾値を合わせて示す。ここでは、充電電圧 1 kV で規格化している。今回用いた

モデル化では、線形にスケーリングして議論できると同時に、図 11(a)に示した通り、少

なくとも 30%程度は過大に見積ることに留意する必要がある。また、刺激閾値に関して

は、式(17)より単位面積を通過する電荷、つまり放電前に充電されている電荷が指標とな

る。付録Aに示した静電容量を用いた場合、閾値となる電荷0.26 C[18]となる充電電圧は、

成人男性、女性、子供でそれぞれ 2.5 kV、2.6 kV、4.6 kV となる。図 14 に示した結果を

線形にスケーリングすると、閾値の上限よりもおおよそ 3 倍程度大きな値となることが

わかる。今回のばく露状況では、人体は金属棒を保持していることによるマスク効果の

ため、刺激閾値が大きくなったためではないかと推察される。同様の結果については、[18]

で報告されており、本結果と矛盾しない。

後に、各モデルの特定組織において観測された誘導電界の時間積分値の 大値を表 3

Threshold

3-year-old child

Tim

e in

tegr

al o

f In

-situ

ele

ctri

c fi

eld

[Vs/

m]

1Time [ns]

10 100

10-3

10-4

10-5

Adult maleAdult female

図 14 体内誘導電界の積分値と刺激閾値の比較

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24

に示す。なお、過渡的接触電流に伴う電磁パルスの時間幅は時定数に比べて十分短いた

め、式(18)より、電界の時間積分値を閾値の指標として用いることができる。表 2 より、

末梢神経系組織(皮膚、特に皮下脂肪)に対する閾値は 1.83 mV·s/m、脳組織では 0.916 mV

·s/m、心臓組織では 36 mV·s/m となる。表より、皮下脂肪における誘導電界は、閾値と

ほぼ同程度になった。一方、それ以外の組織においての誘導電界は小さく、指付近を除

いては小さいとする過去の概算[26]と同様の結果であった。具体的には、成人の脳あるい

は心臓における誘導電界は、刺激閾値に対して 100 分の 1 程度であった。一方、子供の

脳あるいは心臓に誘導される電界積分値は 40 分の 1 程度であった。この相違は、電流の

流入点から当該組織までの距離によるものであると考える。

人体の電気定数は、電極を保持すること、あるいは電力吸収に伴う血流量の変化に伴

い変化するものの[27]、III 章 3 節で示したパラメータのフィッティングで 大数十%の不

確定性を含んでいる[28]。そこで、すべての組織の電気定数を 30%変化させて解析したが、

脂肪および筋肉における体内誘導電界のばらつきは 10%以内であった。

Ⅴ まとめ 平成 23 年度は、以下の 3 点に対して、調査研究を実施した。以下に項目ごとにその成

果をまとめる。

① 中間周波帯誘導量評価のための刺激閾値の評価式におけるパラメータの選択

H22 年度に選択した刺激評価に適した数式において、そのパラメータとばらつき

について調査を行った。また、得られたパラメータのばらつきについて項目③より得

られたドシメトリ結果を適用したところ、定性的にはよい一致が得られた。

表 3 特定組織における体内誘導電界の時間積分値 [mV·s/m]

Tissue Male Female 3-year-old child

Skin 3.71 1.81 1.46

Muscle 2.31 1.66 1.33

Fat 5.19 1.52 1.40

Brain 8.69×10-3 5.73×10-3 2.13×10-2

Heart 0.3 0.4 1.0

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25

② 数値不確定性評価:階段近似の誤差評価の定量化

理論解が存在する複数層円柱モデルに対して、数値解析結果の階段近似による誤差

を定量評価した。その結果、50 MHz 以下の電流では、モデルの階段近似に伴う数値

誤差が変位電流を無視したことによる理論誤差よりも大きく、解像度 2.5 mm の均質

な円柱で 2-3%であった。つまり、接触電流の対象とする周波数領域ではその誤差は

大きくなかった。また、外部電磁界ばく露で報告されていた離散化に伴う特異的な数

値誤差は、複数層モデルを用いた場合でも顕著ではなかった。一方で、解剖学的人体

モデルに対する理論解は存在しないことから、更なる誤差低減に向けた簡易な前処理

手法を提案し、その有効性を確認した。

③ 接触電流の過渡成分に対する体内誘導量の評価

項目①で調査したパラメータに対して、現実的な注入電流の立ち上がり時間による取

扱いの相違はなく、誘導電界の積分値(電荷に相当)を指標として議論すればよいこと

がわかった。また、詳細モデルにおける解析結果より得られた誘導量の時間変化と閾値

を比較し、評価式の妥当性を確認した。 後に、中枢神経系および末梢神経系に誘導さ

れる電界を定量化した。電流が注入される指付近の誘導量により刺激が生ずる場合、脳

や心臓における体内誘導電界は 2 桁程度小さいことが示された。

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26

付録A.人体容量の解析 人体モデルとしては、情報通信研究機構開発の日本人成人男性モデルと 3 歳小児モデ

ルを用いた。なお、各モデルは 2mm の立方セルで構築されている。比較のために、有限

要素法解析を用いるが、要素分割数 N が大きくなると多大な計算機資源を要するため、

セルサイズを変更したモデルを用いることとした。

図 A.1 は FDTD 法および有限要素法による各モデルの人体容量を示す。なお、図中の

三角は文献[25]における被験者(身長:168cm、体重:68kg)が発泡スチロール上に直立

した際の人体容量の測定値を参考として示す。図より、FDTD 法と SC 法による計算値を

比べると、成人男性および小児モデルともに d が小さくなるほど、それらの値の差が大

きくなっている。このことは金属球モデルでの傾向と一致しており、特に人体モデルの

場合には足裏とグラウンド面との距離が近づくにつれ、足の部分での静電容量の計算値

に差が生じやすくなっているものと考える。成人男性モデルの計算値と文献[25]の測定値

を比較すると、d = 0.01~0.1 m での静電容量の変化の傾向は類似しているものの全体に

20~30pF ほど測定値の方が大きくなっていることがわかる。なお、自由空間中で孤立し

た人体の静電容量は表面積が同じ単純形状の導体のそれに近くなり、導体球(半径:

0.368m、表面積:1.70m2)の場合の静電容量は 41pF となる[25]。SC 法による成人男性モ

デルの d = 10 m での静電容量は 43pF となっており導体球のそれに近いことがわかる。成

人男性モデルと小児モデルの計算値を比較すると、靴底の厚さ程度となる d = 0.01 m での

両者の静電容量はそれぞれ 91pF と 43pF であり、小児モデルの値は成人男性モデルの値

に対して 0.47 倍となっており、d が大きくなるとその比が大きくなる傾向があることが

わかる。

図 A.2 は(a) 有限要素法によるグラウンド面上の成人男性モデル(10mm/cell)における

規格化電荷分布と、(b) FDTD 法と有限要素法による身長方向の累積容量を示す。なお、

図 A.2(b)には参考として、第 3 章の図 3.1 に示した接触電流のモデルの身長方向の累積容

量を併せて示す。図 A.2(a)より、電荷分布はグラウンド面に近い足裏で顕著に大きいこと

がわかる。また図 A.2(b)より、FDTD 法による身長方向の累積容量と有限要素法のそれは

概ね一致していること、d による容量の差は足裏周辺の分布による影響が大きく、それよ

り上方では容量の分布に大きな差が見られないこと、さらに、d = 0.01 m でのグラウンド

面上に直立したモデルと前面および底面グラウンド上での接触電流のモデルでは、身長

方向 1.0m 程度の腕の部分で容量の差が生ずること、などがわかる。

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[24] T. Nagai, A. Hirata, and O. Fujiwara, “Computational dosimetry on contact currents from

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[25] 藤原修, 井川隆規, “表面電荷法を用いた人体容量の数値計算,” 信学論 B, vol.J84-B,

no.10, pp.1841-1847, 2001.

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30

[26] T. W. Dawson, M. A. Stuchly, and R. Kavet, “Electric fields in the human body due to

electrostatic discharge,” IEEE Trans. Biomed. Eng., vol.51, pp.1460–1468, 2004.

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[28] C. Gabriel, A. Peyman, and E. H. Grant, “Electrical conductivity of tissue at frequencies

below 1 MHz,” Phys. Med. Biol., vol.54, pp.4863-4878, 2011.

関連業績

(1)査読付き誌上発表リスト

[1] I. Laakso and A. Hirata, “Reducing the staircasing error in computational dosimetry of

low-frequency electromagnetic fields,” Physics in Medicine and Biology, vol.57, pp.,

N25-N34, 2012.

(2)国際会議発表リスト

[1] A. Hirata, T. Nagai, T. Koyama, and O. Fujiwara, “Propagation of UWB electromagnetic noise

due to electrostatic discharge on the human body,” Asia-Pacific Electromagnetic Compatibility,

T-We3-3, May. 2011 (Jeju Island, Korea).

[2]J. Hattori, A. Hirata, O. Fujiwara, and Y. Suzuki, “Computational uncertainty of in-situ electric

field in biological bodies due to contact current at IF,” Annual Meeting of Bioelectromagnetics

Society, P-A-99, Jun. 2011 (Halifax, Canada).

(3)国内口頭発表リスト

[1] 平田晃正, 小山輝欣, “過渡的接触電流に伴う体内誘導電界の不確実性,” 電子情報通

信学会ソサイエテイ大会、C-15-8, Sep. 2011.(北大).

[2] Laakso Ilkka, 平田晃正, “Reducing the staircasing error in low-frequency electromagnetic

dosimetry,” 電気学会電磁環境研究会資,EMT-11-113, Nov. 2011(高岡市).

[3] Laakso Ilkka, 平田晃正, “Quick simulations of the induced electric field for human exposure

to low frequency magnetic fields using the geometric multigrid method,”電子情報通信学会総合

大会、B-4-36, Mar. 2012(岡山大学).

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中間周波数帯の電磁界と人体との間接結合に関す

る数値ドシメトリ評価

報 告 書

平成 24 年 3 月

首都大学東京

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Ⅰ 要 旨

本研究課題において平成23年度は以下の項目に関して研究開発を実施した。

(1)解析手法による解析結果のばらつき評価

詳細な解剖学的数値人体モデル Taro を使用して、10MHz までの周波数範囲におい

て接触電流の計算を準静 FDTD 法と SPFD 法の両手法で実施した。両手法によって得られ

たそれぞれの解析結果を比較し、手法間の違い関して比較を行った。電気定数に関して

複素拡張を行った SPFD 法と準静 FDTD 法を比較した結果、周波数の変化に対して似たよ

うな結果を得た。また導電率のみの SPFD 法は周波数の変化に対して誘電率を考慮した

他の2手法と比較し少し異なる傾向を示した。

(2)数値解析の妥当性評価に関する実験の実施

昨年度に行った調査に基づき、数値計算の妥当性評価を行うための実験系を構築した。

実験系として形状は簡易なものとし、1MHz までの周波数範囲で内部に誘導される電位

測定を行った。測定の結果、妥当な電位分布が得られる事がわかり、来年度以降の数値

計算の妥当性評価において本年度構築した手法が適用可能である事がわかった。

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Ⅱ 研究目的

本研究では、現実に即した姿勢に変形した解剖学的に詳細な日本人成人モデルを用

いて、接触電流による体内誘導量を数値的に定量化する。特に、接触電流を対象とした

場合の数値ドシメトリにおける数値誤差について検討する。また、電波防護指針や、そ

れと同等の国際ガイドラインで示された指針値及び接触電流を人体にばく露した場合

の体内における誘導電界を計算し、既存の実験データとの比較から数値解析結果の有効

性を検討する。特に、接触電流の定常成分と過渡成分に分けて体内誘導量を解析し、調

査した刺激電界の閾値と比較し、防護指針で示されたばく露指標の有効性について議論

する。なお、数値解析の妥当性を確認するための実験を行うものとする。

平成23年度は以下の項目を目的とし、研究開発を行う。

(1) 解析手法による解析結果のばらつき評価

詳細な人体モデルに対して解析結果を比較し、計算手法間でその相違を明らかに

する。また、周波数領域における解法および準静 FDTD 法の適用できる周波数範囲に

ついて検討する。

(2) 数値解析の妥当性評価に関する実験の実施

前年度に行った調査に基づき構築した実験系において実験を行い、測定データを

得る。

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Ⅲ 試験方法

1. 解析手法による解析結果のばらつき評価

ここでは、詳細な人体モデルに対して計算手法間で解析結果を比較し、その相違につ

いて調査を行う。また、周波数領域における解法および準静 FDTD 法の適用できる周波

数範囲について検討する。

1.1 周波数と適応可能な計算手法

内部誘導電界の数値計算手法としては、高周波領域においてはマクスウェル方程式に

基づく解法として FDTD 法があるが周波数が低くなるに従って、演算時間が増大する課

題がある。低周波領域においては準静的な近似を用いたQS-FDTD法やSPFD法があるが、

周波数が高くなるに従って、誤差が増大する懸念がある。図 1 に周波数と適用可能な数

値計算手法の関係性を示す。

中間周波数帯に適した数値計算手法として、誤差が少なく計算時間の短い手法を選択

するのが望ましい。中間周波数帯では異媒質間での誘電率の違いが計算結果に影響を与

えると考えられるので、導電率と誘電率の両方を考慮できる計算手法について検討を行

う。

1.2 SPFD法

SPFD法はファラデーの法則の式を用いて構築される。

∇×E=-jω∇×A (1)

ここで、E は電界 A はベクトルポテンシャルである。スカラーポテンシャルψは

E+jωA=-∇ψ (2)

であるから、

E=-jωA-∇ψ (3)

となり、式(3)をアンペールの法則の式に適用すると、

∇×H=(σ+jωε)E=(σ+jωε)( -∇ψ-jωA) (4)

となる。式(4)の左辺と右辺に発散演算子をかけることにより、次式となる。

図1 周波数と適用可能な計算手法

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∇・ σ jωε ‐∇ψ‐jωA 0 5

式(5)が SPFD 法の基礎となる方程式[1]である。

準静的近似において、ベクトルポテンシャル A は全領域において固定された値と仮定で

きる。さらに、本研究の接触電流の検討では外部磁界は考慮しないので、A=0 とする。

したがって、SPFD 法の基本となる方程式は以下の式となる。

∇・ σ jωε ∇ψ 0 6

さらに、誘電率が寄与しない条件σ>>ωεにおいては、SPFD 法は以下の式となる。

∇・σ∇ψ 0 7

商用電源等を用いた解析においては、式 7 を用いた検討例[1]がある。中間周波数帯

の MHz 以上の帯域においては誘電率 ε の効果が大きいと考えられるので、式 6 を使用

してその影響の検証を行う必要がある。

1.3 SPFD法の離散化

誘電率を含めたSPFD法を計算するため、式 6 を離散化する。式(8)が離散化した結果

である。

Sr,AVR* V0

* Vr*

r1

6

0 (8)

Sr,AVR* Sr,Re jSr,Im

r,AVR j 0 r AVR lr

ar (9)

V0* V0,Re jV0,Im Vr

* Vr,Re jVr,Im (r 1,2,3,4,5,6) (10)

ここで、V0*は注目点の電位、Vr*は注目点周囲の6個の電位 r 1,…,6 、Sr*AVRはV0*‐Vr*

間の枝の平均アドミタンス、σrAVRは周波数に応じたV0*‐Vr*間の枝の平均導電率、εrAVRは

周波数に応じたV0*‐Vr*間の枝の平均比誘電率、lrは辺の長さ、arは辺rに垂直なメッシュ

面積である。

導電率のみのSPFD法は式(7)を離散化し、式(11)となる。

Sr,AVR V0 Vr r1

6

0 (11)

Sr,AVR r,AVR

lr

ar

(12)

図2に空間差分の概要図を示す。注目点のV0*の周囲に6個のVr*があり、V0*と各々のVr*

との距離がlrとなっている。

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Ix (i, j) =(V(i, j) - V(i +1, j))xAVR(i, j)ly

lx

(13)

Ix (i -1, j) =(V(i -1, j) - V(i, j))xAVR(i -1, j)ly

lx

(14)

Iy (i, j) =(V(i, j) - V(i, j1))yAVR(i, j)lx

ly

(15)

Iy (i, j -1) =(V(i, j -1) - V(i, j))yAVR(i, j -1)lx

ly

(16)

Ix (i, j) - Ix (i -1, j) +Iy (i, j) - Iy (i, j -1) = 0 (17)

(V(i, j) - V(i +1, j))xAVR(i, j)ly

lx

(V(i, j) - V(i -1, j))xAVR (i -1, j)ly

lx

(V(i, j) - V(i, j +1))yAVR (i, j)lx

ly

(V(i, j) - V(i, j -1))yAVR(i, j -1)lx

ly

0 (18)

次に、式(2.8)から、V0Re、V0Imについて解くと、式(2.19)、式(2.20)が得られる。

(19)

(20)

1.4 コーディング

SPFD法はボクセルの数をx軸方向にL個、y軸方向にM個、z軸方向にN個の空間を考えた

ときに、上記配列は2×(L×M×N)元連立一次方程式と考えられるので、本研究では式

(19)、式(20)よりSOR法を用いて電位Vを計算するプログラムをC言語にて作成した。

V0 Re Sr Re

r1

6

Sr ImVr Re

r1

6

Sr ReVr Im r1

6

Sr Im

r1

6

Sr ImVr Re

r1

6

Sr ReVr Im r1

6

Sr Rer1

6

2

Sr Imr1

6

2

ar

?

V0 Im Sr Re

r1

6

Sr ImVr Re

r1

6

Sr ReVr Im r1

6

Sr Im

r1

6

Sr ReVr Re

r1

6

Sr ImVr Im r1

6

Sr Rer1

6

2

Sr Imr1

6

2

ar

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1.5 準静FDTD法

本研究では QS-FDTD 法[3]を接触電流の解析手法の一つとして SPFD 法と比較を行う。

QS-FDTD 法は通常の FDTD 法の解析コードの波源の時間発展を適切に選択し、準静場を

解くための手法である。本研究では式(21)のような電位の時間発展を設定し、収束する

まで計算を行うことにより内部誘導電界の計算を行っている。

(21)

ここで 0に達するまでの時間更新を400回とし、tはCFL条件をみたすように8.0×10-12

sとした。

V( t)

V0

2

02 t2 ( 0 t 0 / 2)

V0 2

02 ( t 0 )2 ( 0 / 2 t 0 )

V0 ( 0 t)

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2. 数値解析の妥当性評価に関する実験

2.1 はじめに

接触電流に関して数値的なばく露評価はこれまでに行われているが、その結果を実験

等と比較した例は少ない。本研究では実験による結果と数値計算による結果の両者を比

較し、数値ドシメトリの正しさを評価する事を検討する。

2.2 内部誘導電界測定の予備検討

内部誘導電界の予備検討を行うにあたり、以下のような条件を検討した。まず電極界

面とファントム材との化学反応の影響をできるだけ少なくする必要がある。印可電圧が

大きいと極板表面に気体の層が生成されるため、印可電圧はできるだけ小さくするのが

望ましい。更に、そのような微小電圧の測定時にはノイズに埋もれた電圧の検出が必要

になる。そのため本研究では、これらの条件を満たす測定系を構築した。

2.3 接触電流検証のための測定系

図5に接触電流検証のための測定系の概略図を示す。今回は実験系の基本的な特性を

確認するため、容器内の側面に 2 枚の銅極板を設置し、容器内を NaCl(濃度 0.1mol/l)

水溶液で満たした。ファンクションジェネレータ(エヌエフ回路設計ブロック製WF1974)

を用いて銅極板から正弦波信号を入力し、容器内の NaCl 水溶液内部の電位をロックイ

ンアンプ(エヌエフ回路設計ブロック製 LI5640)を用いて検出した。周波数が 100kHz〜

1MHz の範囲においては周波数エクステンダ(エヌエフ回路設計ブロック製 5571)を用

いた。本研究では、電位検出用のプローブとして、単電極の導線をシングルプローブと

して用いた。この実験系により内部誘導電界測定の可能性を検討した。

図4 数値ドシメトリと実験の比較

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図5 接触電流検証用測定系概略図

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2.4 電極の配置と測定条件

電極の配置を図6に示す。図6(a)、(b)のように、電極を設置し、Line1〜5 におい

て座標の原点から x 方向に 10mm 毎の間隔で電位を測定した。Line2,3,5 の位置は容器

側面から 5mm の間隔としている。

測定条件を表1に示す。電極間の印可電圧を 0.1〜5mV 程度の正弦波とし、測定周波

数は 1kHz、10kHz、100kHz、1MHz とした。

図6 電極の配置と測定条件

表1 測定条件

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13

Ⅳ 試験結果と考察

1. 解析手法による解析結果のばらつき評価

1.1 はじめに

本研究では手法間の比較の具体的例として、解剖学的な電気定数の不均一を考慮し

た人体モデル(TARO[4])に接触電流が流れた場合の人体内の誘導電界について計算を

実施する。SPFD 法と準静 FDTD 法で 1kHz から 10MHz までの数値計算を行った。SPFD 法

については誘電率を用いた場合と導電率のみの場合の2通りで計算を行っている。

1.2 SPFD 法の数値計算条件

図 7に人体モデル(TARO)での数値計算モデルを示す。ボクセルサイズは 2mm である。

接触電流の流入源として、右手指に接触している金属立方体波源(辺長 1.6mm、電圧 1V)

があり、両足を接地した。側面及び上面は 2m(10 セル×100×2mm)の領域を追加した。

周波数ごとの各組織の電気定数は文献[5]の値を用いた。SOR 法での収束条件は最大値

ノルムとして 3.0×10-7とした。数値計算を行った周波数は 1kHz、10kHz、100kHz、1MHz、

10MHz である。

1.3 準静的 FDTD 法の数値計算条件

図 8 に準静 FDTD 法におけるモデルの配置図を示す。SPFD 法の計算と同様にボクセル

サイズは 2mm である。右手指に接触している金属に給電し接触電流を模擬している。両

足は SPFD の場合と同様に接地している。収束判定は最大値ノルムを用い 3.0×10-5以下

になったとき解が収束したと判定した。数値計算を行った周波数は1kHz、10kHz、100kHz、

1MHz、10MHz である。

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図 8 準静 FDTD 法における計算モデル。人体モデルとして SPFD 法と同様に解剖学的人

体モデル(TARO)を用いた。

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16

1.4 計算結果と比較

図9に SPFD 法に関して誘電率を考慮した場合と導電率のみの場合の周波数ごとの誘

導電界分布を示す。図の上段が誘電率を考慮した場合の結果であり、下段が導電率のみ

の場合の結果である。誘電率を考慮した SPFD 法において 1kHz、10kHz の結果では、体

幹において、波源に近い右半身の電界が強い傾向がある。周波数の高い

100kHz,1MHz,10MHz ではその傾向は弱くなっている。また導電率のみ考慮した場合は周

波数による電界分布の違いは小さい。1kHz、10kHz では誘電率を考慮した場合と導電率

のみの場合の差はほとんど無いが、100kHz、1MHz では誘電率を考慮した場合の電界/電

流密度は導電率のみの場合に比べて大きくなっている。

図10に準静 FDTD 法に関する結果を示す。1kHz、10kHz の条件に関して体幹におい

て、右半身の電界が強い傾向がある。また周波数の高い 100kHz,1MHz,10MHz ではその傾

向は弱くなっている。これらの結果は SPFD 法の誘電率を考慮した場合と傾向が似てい

る。

SPFD法の誘電率を考慮した場合と準静的FDTD法の結果から、これらの手法では10MHz

程度の不均一モデルの計算が可能と考えられる。

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図9 SPFD 法による誘電率を考慮した場合(上段)と導電率のみの場合(下段)

の誘導電界分布

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図10 準静 FDTD 法による誘導電界分布

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1.5 高い電界を示す領域の組織構造評価

誘電率を考慮した場合の数値計算結果から人体内の各組織毎の電界平均値と最大値

を求めた。その結果を表2に示す。ほとんどの組織の最大値は平均値の 2~4 倍の値を

示したが、肺組織の最大値は平均値の約 9 倍と高い値を示した。

図11は肺及びその近傍の電界分布であり、図12は電流密度分布である。○で示

した部分が肺組織内での最大値を示した箇所である。図13は図11の最大個所を通る

横軸に平行な線上の電界及び電流密度である。210mm 付近が最大であり、肺に接した肋

骨の隙間を通り電流が流れ込んでおり、その部分の電界が大きくなっている。

表2 組織毎の電界平均値と最大値

平均

(mV/m)最大値(mV/m)

心臓 1.50 5.59

腎臓 1.26 3.76

肝臓 2.23 5.77 肺 1.91 17.95

小腸 0.78 2.11 胃 0.80 2.17

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図11 肺近傍の電界分布

図12 肺近傍の電流密度分布

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2. 数値解析の妥当性評価に関する実験

2.1 実験結果

図6の条件(a)に関する電位の測定結果を図14に示す。横軸は原点からの距離、縦

軸は電位を示す。1kHz、10kHz、100kHz において両者電位分布の傾きが一定であり、

Line1,2 上の測定点で電位がほぼ一致している。また、両者の電位差にもほとんど差が

みられない。1MHz においては、傾きは一定であるものの電位差が極端に小さい値とな

っていることがわかる。

図6の条件(b)に関する電位の測定結果を図15に示す。(a)と同様で、周波数によ

って電位分布の差は見られないが、1MHz においては電位差が極端に小さい値となって

いることがわかる。電位分布に関してはこの電極配置から予測される分布となっている

ことがわかる。

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23

図14 図6の条件(a)に関する電位の測定結果

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図15 図6の条件(b)に関する電位の測定結果

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2.2 実験結果の考察

条件(a)の測定結果で、Line1,2 で y 方向での電位の差が小さいことから、電極間の

この測定線上で電気力線の歪みがほとんどないことが示唆される。また、1MHz におい

て電位差が低い値となる理由として、以下の2点が考えられる。一つは、電極界面と媒

質との化学反応によって生じる化学的なポテンシャルが周波数によって異なっている

可能性である。もう一つは、ロックインアンプの周波数エクステンダを使用したことに

よって生じた測定器の特性に起因する測定値の差の可能性が考えられる。

条件(b)の Line3〜5 において、電極から遠い位置で電位は低い値となっている。こ

こで得られた分布はこの電極配置から予想される電位分布である。このような分布を得

られた事で、今回提案した測定手法を用いる事で、内部誘導電界を実験的に測定できる

可能性が見いだせたと考えられる。

次に、印加電極の両端の電位差が 1mV となるように、得られた実験値を規格化した。

その結果 条件(a)、(b)両方で周波数に依存せず、ほぼ同等の電位分布と電位差が得ら

れた。このように条件(a)、(b)の両方で電位分布は、1kHz〜1MHz の周波数帯域で近い

値となっている。0.1mol/l の NaCl 水溶液をファントムとして用いた場合、この周波数

帯において、ファントム内部電位差は周波数あまり依存しないことがわかった。

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図17 条件(b)による測定結果を規格化

図16 条件(a)による測定結果の規格化

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2.6 妥当性評価のための実験系構築のまとめ

中間周波数帯において内部誘導電界を測定するシステムを構築した。この測定系は、

1kHz〜1MHz の範囲で測定が可能である。本研究の結果から、この手法によりファント

ム内部でおおよそ正しいであろう電位分布の結果が得られる事がわかった。しかし、電

極表面での化学的な反応によるポテンシャルの考慮が必要である。これに関して、電圧

印加電極と電位測定プローブに使用する材料の選定が課題である。また計算結果の妥当

性の評価のために、中間周波数帯での電気定数が人体と等価であるファントムの開発が

今後の課題である。

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Ⅳ まとめ

平成23年度は以下の事項に関して研究開発を行った。

(1)解析手法による解析結果のばらつき評価

詳細な解剖学的数値人体モデル Taro を使用して、10MHz までの周波数範囲におい

て接触電流の計算を準静 FDTD 法と SPFD 法の両手法で実施した。手法間の比較のために

今年度は SPFD 法の電気定数として、誘電率と考慮できるように、複素拡張を行った。

そして、両手法によって得られたそれぞれの解析結果を比較し、手法間の違い関して比

較を行った。電気定数に関して複素拡張を行ったSPFD法と準静FDTD法を比較した結果、

周波数の変化に依存した内部電界分布変化に関して類似した結果を得た。また導電率の

みの SPFD 法は周波数の変化に対して誘電率を考慮した他の2つの手法と比較し少し異

なる傾向を示した。誘電率を考慮した場合、SPFD 法、準静 FDTD 法の両方の手法で 10M

Hz 程度までの接触電流の計算が可能である事が示唆された。

(2)数値解析の妥当性評価に関する実験の実施

昨年度に行った調査に基づき、数値計算の妥当性評価を行うための実験系を構築した。

電極界面での電気化学反応の影響をできるだけ抑制するために、微少な電流で内部の電

界を測定できるようにロックインアンプを使用した実験系を提案した。この実験系の特

徴は 1kHz から 1MHz までの接触電流の検証実験が行える事である。今年度は基礎的な測

定を行うために、実験系として形状は簡易な直方体形状とし、1kHz から 1MHz までの周

波数範囲で内部に誘導される電位測定を行った。測定の結果、妥当な電位分布が得られ

る事がわかり、来年度以降の数値計算の妥当性評価において本年度構築した手法が適用

可能である事がわかった。

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