自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の...

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Instructions for use Title 自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践⑸ : ちまちまからダイナミック、固執から創造へ Author(s) 安田, 悟; 岡田, 智; 風間, 晴香 Citation 子ども発達臨床研究, 9, 63-79 Issue Date 2017-03-15 DOI 10.14943/rcccd.9.63 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/65014 Type bulletin (article) File Information 63_1882-1707_9.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Title 自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践⑸ : ちまちまからダイナミック、固執から創造へ

Author(s) 安田, 悟; 岡田, 智; 風間, 晴香

Citation 子ども発達臨床研究, 9, 63-79

Issue Date 2017-03-15

DOI 10.14943/rcccd.9.63

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/65014

Type bulletin (article)

File Information 63_1882-1707_9.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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はじめに

自閉症スペクトラム障害(以下ASD)は、社会

的相互交渉の困難、言語・コミュニケーションの

遅れ、こだわりや同一性保持などの問題に特徴づ

けられる発達障害である。ASDのこだわりや同一

性保持の問題は、自分の立場や考え、作業にこだ

わってしまったり、周りの人と上手にやりとりで

きなかったりするので、集団行動やグループ学習

に困難を示しやすい。また、手先の不器用さやイ

マジネーション障害により、図画工作や描画表現

に支障があったりする。集団的な要素を含む造形

活動で、意見を出し合ったり、協力し合ったりす

る共同作業がうまくいかない事が多い子どもたち

でもある。しかしながらASDの子どもは、絵画表

現や立体工作などをすることが好きであるといっ

た事例が数多く見受けられる(佐藤、2007)。また、

造形活動で表現することが好きであるけれども、

63子ども発達臨床研究 2017 第9号

1)共立女子大学家政学部児童学科

2)子ども臨床部門

3)北海道大学教育学院

要 旨

キーワード:自閉症スペクトラム障害、造形活動、障害特性に応じた配慮、創造性

筆者らは、2008年から2011年まで「造形と遊びのサマースクール」を自閉症スペクトラム障害(ASD)

のある子どもたちに実施し、社会性や想像性、微細運動、こだわりやすさなどの困難がある子どもでも

楽しめ、個の持ち味が存分に発揮でき、さらに共同性と創造性を持てる活動について検討してきた。造

形プログラムは、ASDの障害特性に応じた配慮を織り交ぜながら、造形活動を個やペアから小グループ、

そして全体活動での表現といった流れで展開してきた。つまり、〝ちまちま"から〝ダイナミック"へと

活動が展開されるように意図したものである。2016年度には5年ぶりに造形活動の実践を北海道大学教

育学研究院附属子ども発達臨床研究センターで実施することになった。本稿は、第5回目となる造形と

遊びのサマースクールの試みを報告したものである。

Satoru YASUDA,Satoshi OKADA,Haruka KAZAMA

A Practical Activity of Formative Art to Children

with Autism Spectrum Disorder:From Small and Local

to Dynamic,and From Perseveration to Creation

安田 悟 ・ 岡田 智 ・ 風間 晴香

自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践 ⑸― ちまちまからダイナミック、固執から創造へ―

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共同作業などでストレスを感じる子どもたちに対

して、表現力の向上や創造的な体験の積み上げを

どのように保障していくかが重要であると言え

る。子どもたちが自己表現力や創造力、共同性を

身につけることは、彼ら自身が社会で生きていく

ために必要不可欠なことであり、特別支援教育で

の重要課題である(森岡・島本、2004)。

筆者らは、2008年から2011年まで共立女子大

学家政学部児童学科附属発達相談・支援センター

にて、造形と遊びのサマースクール(以下サマー

スクール)を発達障害のある子どもたちに実施し、

表現力や創造的な体験の保障について検討してき

た(安田・岡田・山田、2009;安田・岡田、2011、

2012、2013)。児童造形、発達臨床を専門とする筆

者ら(造形専門:第一著者、発達臨床専門:第二

著者)とそのゼミ生の協働で、これらの活動を展

開してきた。2016年度には5年ぶりに、サマース

クールを北海道大学教育学研究院附属子ども発達

臨床研究センター(以下センター)で実施するこ

とができた。今回のテーマは、「〝ちまちま"から

〝ダイナミック"へ、子どもたちの〝こだわり(固

執)"から〝創造的な表現(創造)"へ」であり、

その実践活動を報告したいと考える。

今回のテーマ設定は、センターのグループ活動

(通称〝ほっこ")に参加している子どもたちの日

常生活上での課題や困難、支援ニーズと、これま

でのサマースクールから蓄積された知見(安田・

岡田、2013)から導き出されたものである。ほっ

こ参加者の多くが、自身の興味関心や本人なりの

他者とのかかわり方にこだわりやすく、これまで

の知識の再表出を好み、新しい活動内容や表現方

法には抵抗感を示したり、提示されたことにただ

受身的に従ったりという実態があった。造形表現

に関しても、対人的な相互影響がなく、自分の関

心のある知識を再現する、暗記している野球のス

コアボードや車の車種を列挙する、TVのアニメ

をただ模写するだけというものが多かった。造形

表現に、対人的相互性や創造性の要素に乏しく、

それらを望もうとすると、途端に楽しめなくなっ

たり、主体的な表現ができなくなったりすること

が予想された。まずは、個人の社会性や創造性が

問われず、子ども個人のこだわりや保続性の強い

表現方法でも十分に受け入れられ、個人が十分に

発揮できる活動、つまり〝ちまちま"から出発で

きるように、活動を組んでいった。そして、ちま

ちまとした個人の表現を通して、それらが結果的

にダイナミックな集団的な作品になったり、他者

との協働性や一体感、達成感を体験できたりする

ように狙った。ダイナミックな表現や創造的な活

動の産出は、子どもたちが指示された結果ではな

く、活動を通しながら無理なく導かれるようにし

たものであり、結果的に他者性や創造性を感じ取

られるように意図したものである。本稿では、ち

まちまからダイナミックへと展開する造形活動の

内容と、子どもたちの様子を報告することで、自

閉症スペクトラム障害のある子どもたちへの造形

活動を通した支援方法の在り方について考察する

ことが目的である。

サマースクール活動の概要

1.対象児と支援スタッフ

対象になる子どもたちは、小学2年生から中学

校3年生の12名で、その内4名が専門の医療機関

でASD、1名がADHDの診断がある。2名は医

療機関にかかっていないが、保護者及び学校の先

生などの聞き取り、集団及び個別場面での行動観

察、知能検査や認知検査結果から、社会性やコミュ

ニケーション、こだわりやすさなどの困難を持っ

ていることが分かっている。残りの5名は発達障

害に関連する困難や学校不適応症状を持たない特

別な支援ニーズの少ない子どもである。女児6名、

男6名で、特別な支援ニーズの少ない子ども4名

以外の知的水準はWISC- 全検査 IQで70~130

台まで分布していた。子どもたちは、年齢、認知

及び社会性の水準、これまでのグループ活動での

関係性などを考慮し、4つの班に分けた。4班が

特別な支援ニーズのない子どもたちで、本稿で主

に報告する夏のサマースクールのみの参加であ

る。他の1~3班の子どもたちの多くが、2013年

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から開設している月1回程度のグループ活動(通

称ほっこ)に参加している子どもたちで、2016年

度は、8月に2日間行われるサマースクール以外

に、6月の顔合わせ会と9月の振り返り会を行っ

ている。

支援スタッフは、教員スタッフ2名(造形教育

担当教員:第一著者、発達障害臨床担当教員:第

2著者)と共立大学家政学部児童学科(以下共立)

の学生スタッフ10名(1日目4名、2日目6名)、

北海道大学教育学部・大学院教育学院(以下北大)

の学生・院生スタッフ10名である。グループ構成

は表1の通りである。

2.造形と遊びのサマースクール活動の概要

サマースクールは、センターでのグループ活動

(通称ほっこ)の年間活動の一部を利用して行っ

た。2016年ほっこは、4月から7月の間に、面接

や心理検査を通したアセスメントセッションを行

い、6月には顔合わせ会(プレプログラム)、そし

て、8月の夏休みの2日間でサマースクールを実

施した。その後、9月には振り返り会を実施した。

本稿では、夏の2日間のサマースクールの活動報

告を行う。

サマースクールの活動は、センターのホール(床

面積72m、高さ約3m)及び北大大体育館(床面

積1496m、高さ約14m)を利用し、10時から15

時までの5時間、2日間連続で行われた。プログ

ラムは下記のとおりである。

1日目>「空気をつかもう‼ パラバルーン」

・開 会 式 挨拶、2日間の予定の説明。自己紹

介と班決め。

・遊び活動 「ビニール袋でモンタージュ」ビニー

ル袋に顔を書き、膨らませ、モンター

ジュを作成し、それを基にクイズを

行う。「ビニール袋バレー」グループ

毎に風船バレーを行い、ウォーミン

グアップ。

・造形活動 「ペインティング・パラバルーン」

巨大な四角形(5m×6m)の綿布に

手のひらや足の裏に絵の具をつけな

がらのスタンピングや、スポンジ

ローラーを使った自在な描画、油性

ペンでの落書き等、ペインティング

で可能な手法を子どもたちの自由に

任せて行った。

・昼 食 各班担当の仲間、スタッフとともに

北大学生食堂に食事に行く。

・自由時間 ホールまたは体育館でいろいろな遊

具を使っての自由遊び。疲れたら、

ひと休みにするが、その時にアイス

クリームに自分たちでトッピングし

て食べる。

・造形活動 「ほっこ看板づくり」 1m×60cm

程度の白い板段ボール1枚に、各グ

ループが「ほ」「っ」「こ」「2016」の

文字を書き、空白部分に自由にイラ

ストを描く。

・遊び活動 「パラバルーン遊び」

午前中に描画した綿布バルーンに

は、その周囲を掴んで持ち上げられ

るように予め布ベルト(3cm×15

cm)で20箇所に丈夫な取っ手を付

けている。そして参加する子どもた

ちをスタッフと交互に布の周囲に配

置し、各自取っ手を両手で持ち、ま

自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践 ⑸

表1 班構成

1班 :A(小5男)、B(中2女)、C(中3男)、学生・院生スタッフ3名

2班 :D(中3男)、E(中3男)、F(中3女)、学生・院生スタッフ2名

3班 :G(小3男)、H(中2男)、学生・院生スタッフ2名

4班 :I(小2女)、J(小2女)、K(小5女)、L(小5女)、学生スタッフ1名

フリー:院生スタッフ3名

プログラムリーダー:学生スタッフ3名(1日目)、学生スタッフ5名(2日目)

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ずは簡単な上下運動から布の波を起

こした。そしてリーダーの合図に合

わせて次の活動を行った。

①気球:バルーンを一斉に持ち上

げ、空気を逃がさないように下げな

がら中央に集まると、空気を孕んだ

気球のように膨らませることができ

た。

②あんこ:バルーンを持ち上げ、下

げていくときにタイミングを見計ら

い子どもたちはその中に入る。

③ポップコーン:バルーンを広げた

中にカラーボールを数多く投げ入

れ、合図に合わせて大きく、小さく

弾ませる。

④ゆりかご:バルーンを適宜折りた

たみ周囲は高学年児とスタッフが持

ち、順番に子どもをその中に乗せて

揺らし、バウンドさせる。

これらの遊び活動を子どもたちの様

子を見ながら3回から4回実施し、

「ゆりかご」に関しては低学年児の希

望を聞き取りながら慎重に行った。

・造形活動 「マイ・フラッグを作ろう」

パラバルーンの気に入ったペイン

ティング部分(自分が描画したとこ

ろ等)を、あらかじめ用意していた

型紙(0.5m×0.8m)に合わせて切

り取り、その短辺を篠竹(1.2m)に

ひと巻してフラッグを作った。そし

てそのフラッグは活動の記念として

持ち帰ることにした。

・終わりの会 班ごとに感想を言い合う。子ども

一人(代表者)が班の仲間とスタッ

フの感想を全体に紹介する。2日目

の活動内容の説明。挨拶。

2日目>「ふくらませよう‼ ジャイアント・バ

ルーン」

・始まりの会 挨拶、今日のスケジュール説明。

バルーンの素材や道具は表2。

・遊び活動 「みんなの意見deそれ正解」(岡田

ら、2014)「インパルス」(岡田ら、

2008)グループ毎に楽しめるウォー

ミングアップ活動を15分程度行っ

た。

・造形活動 「作り方を知ろう」

みんなで協力して作る巨大バルーン

であることから、「ローラー」「テー

パー」「オサエラー」の三つの役割を

設定した。これらの役割は2人ペア

で取り組むことにし、活動中は役割

を順番交代することで、全体で協力

する事が重要になることを、イラス

トポスターとスタッフによるミニュ

チュア・バルーン制作のモデル提示

をすることで説明した。ミニバルー

ンは約10分の1の大きさで、スタッ

フが三つの係りを演じてその作業内

容を示し、注意する事などを説明し

た。

①ローラー係:ビニールロールを転

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表2 バルーンの素材と使用した道具

①カラービニールのロール 幅0.8m×厚0.04mm×長16m。カラービニール袋(0.8m×0.65m:赤、青、

水色、黄、ピンク、緑)を切り広げ、カラークラフトテープで繫ぎロールにしたもの。18巻用意した。

②透明ビニールロール 幅0.9m×厚0.03mm。50m巻のものを2巻用意した。

③ビニールテープ

④カラークラフトテープと荷造りテープ、布テープ 5cm×50m。カラーテープは赤、青、水色、黄、緑の

5色を複数用意。

④油性マーカー。8色セットを5セット。

⑤サーキュレーターと送風口 小さ目で、風力が強いもの。ダンボールで作成した送風口(45×45×30cm程

度)はバルーンの中に入る入口としても活用。各2個。

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がして伸ばしていく係。

②テーパー係:となり同士のビニー

ルをカラークラフトテープで繫いで

いく係。

③オサエラー係:他の係の作業中に

ビニールがずれたりしないように押

さえる係。

・造形活動 「ジャイアント・バルーン制作」

体育館の床にカラービニールテープ

でビニールロールを広げる開始点の

しるしをつけた。1班と2班をAグ

ループ、3班と4班をBグループと

し、AとBはそれぞれ両端の2箇所

からビニールを並べていくことにし

た。

最初はローラーの作業から始まる

が、二人一組で協力してまず透明ビ

ニールロールをまっすぐ転がして広

げ、次にカラービニールを5cm分

重ねながら横に並べて、転がし広げ

た。この重なっているビニールがず

れないようにする大切な役目がオサ

エラーである。そしてテーパーはカ

ラーテープで重なったところを貼り

合わせていくが、一人がテープを伸

ばしていき、もう一人がテープを慎

重に押さえてビニール同志を繫ぎ合

わせていった。透明とカラーのロー

ルは、交互に並べて合わせていくが、

子どもたちは2列ごとに係を交代し

ながら作業を続けていった。

両側から繫いでいったビニールが中

央付近でぶつかると、繫いだビニー

ルを両端に手繰り寄せて、再びビ

ニールロールを繫ぐ作業を始めて

いった。再びぶつかったところでA

グループとBグループのビニールを

繫ぎ合わせ、Bグループのビニール

の端は残したままで片側に手繰り寄

せた(手繰り寄せ、さらにつなぐの

は、フロアの床面積以上のバルーン

を作るための工夫である。)

そしてAグループの端を持ち上げて

Bグループのビニールに被せて行

き、全体を二重に重ね合わせた。そ

れから三辺を二度折り曲げながらカ

ラークラフトテープで𨻶間なく閉じ

て大きなビニール袋になるようにし

た。袋の短辺の両端の二箇所には

サーキュレーターで空気を送り込め

るように、また人の出入り口にもな

るように適宜な大きさの段ボール箱

(底と蓋を内側に折り曲げたもの)を

設置した。

・昼 食 各班担当の仲間、スタッフとともに

北大学生食堂に食事に行った。

・自由時間 ホールまたは体育館でいろいろな遊

具を使っての自由遊び。

・造形活動 「ふくらませよう」

設置した空気取り入れ口二箇所から

サーキュレーターや扇風機、ブロ

アーで空気を送り込んだ。子どもた

ちは扇風機や段ボール箱を支えなが

ら、膨らむのを見守っていた。膨ら

むまで時間がかかるので、カラーポ

リ袋などに油性マーカーで似顔絵な

ど描画し、膨らませてミニバルーン

を作成した。

・遊び活動 「遊び、ときどき補修」

大きく膨らんだ頃を見計らって子ど

もたちに中に入るよう促した。なか

での活動はまず空気漏れがないか見

まわり、漏れている個所はクラフト

テープで修理するよう指示した。そ

してマーカーで落書きしたりミニバ

ルーンを飛ばしたりの自由な遊び活

動の時間となった。

中での自由活動が一段落したところ

で、全体で協力しながら巨大バルー

ンを立てたり、転がしたりしていく

67自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践 ⑸

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遊びを行った。バルーンを転がした

り、立てたりするのにはバルーンの

中と外からの協力が必要であった。

また、空気の供給を欠かさないよう

にすることも必要であった。

・遊び活動 「飛び出せ‼ そして転がせ‼」

巨大バルーンの消滅計画として、合

図とともに一斉に破いて飛び出すこ

とにした。そして破壊されて空気を

失ったビニールは二つに分けて、荷

造りテープなどで丸く固めて大きな

ビニールボールにした。ふたつのグ

ループでそれぞれ輪になって、子ど

もには大きすぎるボールを転がした

り、キャッチボールしたりした。

・閉 会 式 班ごとに感想を言い合う。子ども一

人(代表者)が班の仲間とスタッフ

の感想を全体に紹介する。振り返り

会の説明。挨拶。

3.障害特性や個人の特性に応じた配慮

発達障害の子どもたちへのグループ活動の際に

は、その障害特性に応じた配慮やかかわりが必要

となる(水野・岡田、2011)。今回の対象児は、ASD

の困難がある子どもたちがほとんどであった。状

況理解や他者の感情認知などの社会的認知の弱

さ、こだわりや切りかえの難しさなどの行動調整

の困難といった障害特性に応じた配慮が求められ

た。さらに、対象児の中には、新しいことに対す

る不安感が強い、微細及び粗大運動が苦手で道具

の操作が難しい、衝動性が高く考えないで行動し

てしまったり、不注意であったりする、自己主張

ができずに引っ込んでしまうといった特徴を持つ

ものがいた。造形活動の際には、下記に示すよう

な参加児の特性に応じた配慮を行った。

表3 造形活動における障害特性に応じた配慮

見通しを

持たせる

仲間関係

の仲介役

こだわり

への対処

状況の

交通整理

物理的環境

の設定

肯定的

フィード

バック

・スケジュール及び作業工程を視覚的に示す。また、現在の作業工程を常に示しておき、意識

させる。また、活動や道具の操作に不安を示す児童には、参加を強制せずに慣れて見通しが

立つまで待つ。

・最終的に出来上がる見本を示す。また、道具の使い方などは、全体での指導のほか、班の学

生スタッフが使い方をモデル提示する。

・スタッフが、子ども同士のかかわりの仲介役になる。子ども同士でかかわれているときには、

1歩下がって見守る。子ども同士の相互交渉が膨らむように支援する。

・時間の制約がある活動では、終了5分前、2分前に予告をし、気持ちの準備をしてもらう。

こだわって次の活動に進めなくなっている場合には、活動を切り替えることや「まぁいいや」

が大事であることは教示するが、やめさせることを強制せず、本人から移行できたときに肯

定的にフィードバックする。全体進行や仲間関係に影響がなければ、こだわりについては本

人の表現として尊重することを基本とする。

・トラブル場面では、子どもの自他の感情の認識と状況の整理を促すために、アドバイスした

り、子どもたちと話し合ったりする。「どういう状況だったのか」「自分の気持ち」「相手の気

持ち」「どうすればよかったか」など。臨床心理支援や特別支援教育での実践経験のあるフリー

の院生スタッフが交通整理役のアシストに入る。

・注意を向けやすく、気が散らないような物理的配慮を行う(視覚支援や構造化、刺激の統制)。

活動場所にテープで印をつける、掲示物や道具などは必要最小限のものにする、スタッフの

役割をメイン(一人)とサブ(他)に分けて、メリハリをつけて説明をするなど。

・道具の操作、活動の参加、共同作業、自己表現など子どもの課題に応じたポイントについて

は、それらの行動が見られたときに即時に肯定的に評価する。自発行動を大事にし、それに

対して肯定的にフィードバックすることで自己効力感を感じられるように配慮する。

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活動内容と子どもたちの様子

1.空気をつかもう‼ パラバルーンの活動の様

⑴ ペインティング・パラバルーン

手洗い場があるセンターのホールでペインティ

ングは行われた。手のひらや足の裏に絵の具をつ

けながらのスタンピング、スポンジローラー、油

性ペン、ほうきサイズ刷毛(棒の先に雑巾を固定

したもの)、軟式テニスボールなどの画材を示し、

手でのスタンピングとスポンジローラーでの描画

方法をスタッフが実際にやってみせ、モデルを提

示した。子どもたちの中でわくわく感が高揚し、

説明中でもローラーを触りたいと前に出てくる子

どももいた。また、反対に「手に絵の具つけない

といけないんですか?」と心配になった子どもも

いた。実際に、ペインティングが始まると、子ど

もたちは、手でのスタンピングと油性ペンでの描

画をしていた。しかし、元気な男の子がローラー

を使って縦横無尽に線を描いたり、フィンガーペ

イントにはまった女の子が足でのスタンピングを

始めたりすると、その様子を見て、周りの子ども

も、ほうきサイズの刷毛やローラー、足でのスタ

ンピングと、ダイナミックで多様な表現が見られ

るようになった。他の子が近づくのを嫌がり、自

分のスペースを守りながら油性マーカーだけで小

さい範囲に絵を描く子ども、恐る恐る手のひらの

スタンピングを行ってはすぐに手を洗いに行く子

どももいたが、スタッフはこれらの自分のスペー

スを守ろうとしている子には、縦横無尽にペイン

ティングしている子が入らないように声掛けをし

たり、ちまちまと小さい範囲で絵を描いている子

どもにはその描画について会話を楽しんだり、同

じ描画方法をやってみて活動を共有した。ここで

のスタッフと子ども、また子ども同士の共有経験

が影響したのか、仲間意識が芽生えたようで、ペ

図1 それぞれが慎重にペインティング 図2 フィンガーペインティング

図4 ダイナミックなペインティングに図3 中華そば始めました

69自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践 ⑸

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インティングの活動前よりも、会話が増え、緊張

感も軽減していた。

ペインティングが終了し、子どもたちと班ス

タッフが昼食と自由時間で過ごしている時に、造

形スタッフはドライヤーと扇風機を使って、パラ

バルーンを乾かし、体育館に運び込んだ。自由時

間が終わって、体育館に移動すると、自分たちが

ペインティングしたパラバルーンの全体を目にす

ることとなる。

⑵ パラバルーン遊び

昼休みにペインティングされたパラバルーンが

大きな体育館に持ち込まれ、床に広げられている

のを子どもたちが見て、子どもたちは自分のペイ

ンティングした箇所を探して喜んでいた。パラ

シュートバルーン遊びをする前に、それぞれのグ

ループで60×40cmの白い板段ボールに、「ほ」

「っ」「こ」「夏」などの文字をグループ毎に割り当

てて、油性マーカーで看板の一部を作る活動を

行った。可愛い女の子の世界を描いていたグルー

プ、ギャグやおふざけの文字や文章をぎっしり書

きそれを他児と笑い合っていたグループ、それぞ

れがひたすら自分の世界を描きまくるグループと

4班がそれぞれの作品を制作した。

午後のパラバルーン遊びでは、それぞれの表現

が一つのバルーンとなっていることを意識しても

らうために、スタッフは、班ごとに同じ班の他の

メンバーがペインティングしたものも見つけ出

し、他の仲間の作品にも注目を向け、紹介した。

他児の表現には関心を示し感想を言う子ども、他

児の表現には興味を示さず、自分のペインティン

グを紹介されると嬉しそうに自分からもコメント

する子ども、紹介されると自信がなさそうにス

タッフの裏に隠れる子どもなど様々な反応であっ

た。

その後、気球、あんこ、ポップコーンの順に、

パラシュート遊びをしていったが、目の前のパラ

シュートのダイナミックな動きやたくさんの量の

ボールに興奮しすぎて2、3人の子どもが、持ち

手を離し、自由に動き回った。パラシュートはバ

ランスを崩し、きれいな気球やあんこを描けなく

なり、上手なポップコーンもできなくなった。そ

の都度、「上手に気球を作るのにはみんなが動きを

合わせることが大切」「個々の場所が誰もいなく

なった 助けて~」などとスタッフの声掛けで、

子どもたちは自身の持ち手に戻れて、再度、協力

することが出来た。転導性が高く、突発的に動い

てしまう子どもも多くいるメンバーたちだった

が、昨年度からグループ活動を続けているという

こともあり、協力する事、みんなで活動する事の

意識はできている子どもたちであった。そのため、

事前の役割や遊びの要点の教示と、実際の場面で

の多少の声掛けで、協調的に遊べることができた。

また、小学生や女子は力が弱く、パラシュート

70

図5 パラバルーン描画の後のかんばん制作

Page 10: 自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の …...た。2016年ほっこは、4月から7月の間に、面接 や心理検査を通したアセスメントセッションを行

をおさえる力加減が難しかった。スタッフが「こ

こ、女子ばかりだから、中学生の男子が入った方

がきれいな形になるかもね」というと、「私、入り

ましょうか」と持つ場所の交代を申し出る子ども

も出てきた。また、ゆりかごでは、中学生が「小

さい子が優先だから、僕は揺らす方」と自ら揺ら

す係を志願したり、「怖いからいい」と言っている

小学校低学年の子に「大丈夫。ちゃんと抑えるか

ら。やってごらん」と言ったり、ゆりかごをして

もらう順番でもめている子どもたちに「小さい順

で並んでごらん」とスタッフのようにアドバイス

したりする中学生もいた。40分間の通しで体力を

使う遊び活動ではあったが、興奮した楽しい雰囲

気は最後まで続き、ほとんどの子が最後まで協調

的に楽しめていた。

⑶ マイ・フラッグを作ろう

遊び終えたパラバルーンは、型紙に沿って切り

取る箇所をそれぞれが決めて、グループ内で、協

力しながら切り取ることを言語教示およびモデル

提示をした。スタッフの手伝いを最小限にし、子

ども同士で協力し合えるように促した。小学生の

図7 あんこ

図9 ゆりかご図8 ポップコーン

図10 出来上がったフラッグ

71自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践 ⑸

図6 空気をつかまえろ‼

Page 11: 自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の …...た。2016年ほっこは、4月から7月の間に、面接 や心理検査を通したアセスメントセッションを行

子どもたちは、相手が切りやすいように布を張っ

て持つことまではできなかったが、中学生は自発

的に他のメンバーの切り取る手伝いをしたりする

子も見られた。また、「ピンっと張らないと切りづ

らいからお願いね」「苦手なら(ハサミの使い方が)

やってあげようか」などと子ども同士で声を掛け

合う場面も見られた。切り取った布は、棒に貼り

付けてフラッグを完成させ、班ごとに自分のフ

ラッグを紹介し合った。

その日のプログラムが終わり、迎えに来た保護

者に子どもたちはフラッグを見せて、今回の活動

の説明をするように促した。能力上の制限として

言語表現が苦手であったり、年齢的に保護者との

コミュニケーションをとらなくなっていたりする

子どももいたが、それらの子どもでも、スタッフ

が間に入ったり、代わりに報告したりすることで、

子ども、保護者、スタッフ間で今日の子どもの頑

張りや出来上がった作品の良さを話題にし、共有

できた。どの子どもも保護者から褒めてもらった

り、活動や作品に興味を持ってもらえたりして、

満足げに帰宅していった。

2.ふくらませよう‼ ジャイアント・バルーン

⑴ ジャイアント・バルーンの作り方を知ろう

2日目は昨日のプログラムが楽しかったのか、

開始30分以上前から来室する子どもたちが多

かった。簡単なウォーミングアップゲームの後に、

ジャイアント・バルーンの作成の工程表と役割を

示し、10分の1程度のミニバルーンで役割と工程

の確認を行った。モデル提示はスタッフが行った

が、前に出て制作をやりたがるもの、話を聞かな

いで手遊びをするものなどがいて、ただ与えられ

るだけの活動、座って見ないといけない、聞かな

いといけないという活動では、子どもたちの参加

は難しいと実感した。しかし、その後の制作時の

子どもの役割遂行の状況を見ると、この説明とモ

デル提示で役割と工程についてだいたいのイメー

ジを持つことができたようだった。また、見本と

本番のバルーンの規格の違いを体験してもらいた

かったが、見本のミニュチュアであっても、2m×

2m×4mのある程度大きなものであったので、

「でかい」「これを作るんでしょ」とこれが本番だ

と思った子どももいた。このような事からも、実

際に子どもたちも扱えて、大きさのギャップに気

づけるような、手元で制作できるような大きさの

見本を用いることや、自分たちの手で事前のリ

ハーサルができるような活動の組み立てが必要

だったかもしれない。

⑵ ジャイアント・バルーンの制作

ジャイアント・バルーンの制作では、3種類の

役割のうち、ビニールロールを転がす「ローラー」

と、並べられたビニールを貼り合わせる「テー

パー」が人気であり、2列にビニールを敷き張り

合わせたところで順番交代をすることになってい

たが、多くの子どもが我先にその2役をやりた

がった。スタッフの方で、順番を決めると不満の

声も上がったが、すぐに順番が回ってくることと、

「オサエラー」が一番大事であることを教示する

と、すぐに納得し順番を受け入れていた。実行中

は、それぞれの役割を子どもたちがうまく遂行で

きるように、スタッフが「ここをぴんと張ってご

らん」とモデルを見せながら言語的にも視覚的に

もプロンプトを行った。また、「上手、その調子 」

「集中してやれてるね」「D君とE君 協力して

テープを張っている。あのやり方見てごらん」と

肯定的フィードバックや他児に紹介するような声

かけを行った。1時間半という制作時間であった

が、全体で適宜休憩を入れながら活動を行ったこ

とで、子どもそれぞれの体力や手指の運動技能な

どの状況に応じた制作への関与がみられた。特に、

中学生は、小学生へのアドバイスをしたり、スタッ

フのように手助けをしたりする場面も多くみられ

た。

時間がかかり、役割や作業量も多く、一つの役

割でも相手と動きを合わせたり、手伝う箇所を見

つけ出し協力したりという行動コントロールや社

会性も求められる活動である。力加減や集中力、

状況理解力など様々なスキルが必要となる活動

で、これらに苦手さがある子どもたちにとって、

72

Page 12: 自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の …...た。2016年ほっこは、4月から7月の間に、面接 や心理検査を通したアセスメントセッションを行

スタッフがどこまで手を出し援助するかのさじ加

減が難しかった。年齢幅もあることから、これら

のスキルの個人差も大きい。子どもの状況に目を

向け、一人ひとりへの〝丁度良い"配慮が強く望

まれる活動でもあると毎回認識させられる。

⑶ ジャイアント・バルーンが膨らむ

お昼休憩をはさんで、いよいよ出来上がったバ

ルーンに空気を入れていったが、子どもたちはバ

ルーンの周りに班ごとに座り、空気が入っていく

のをじっくり見ていった。空気が入るまで10分以

73自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践 ⑸

図13 オサエラー(左上1人、右2人) 図14 半分を作り上げたところで休憩

図12 ローラーペア(左横にオサエラー)図11 テーパーのペア(後にオサエラー)

図15 膨らむのを待つ(右側に送風口) 図16 膨らみはじめて5分(待って見る)

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上かかるため、5分ほど膨らむのを観察したあと、

動き出す子やバルーンをいじりだす子が出てきた

が、そのころに、いったん集合して、小さいビニー

ル袋(40ℓと5ℓの2種類)に絵を描き、膨らませ

てミニバルーンを作ってもよいことを提案した。

半数の子どもは1つ以上のミニバルーンを作成し

たが、数名の中学生は扇風機でふくらます係を

かってでており、また、ミニバルーンを作らず広

い体育館で追いかけっこをする子どもとさまざま

であった。バルーンが膨らむ過程をじっくり観察

することは、集中力や注意の共有(Joint Atten-

tion)の困難がある子どもたちには予想以上に難

しいことであり、バルーンに関係する他の役割や

他の遊びを準備しておいたことが、この後の活動

への動機づけを維持するために有効であったと思

われた。特に、広い体育館での追いかけっこを容

認したこと、小さいバルーンを作成したことは、

その後のバルーンでのダイナミックな遊びでの、

空間イメージに大きな寄与を果たしたと思われ

る。

⑷ バルーン遊び、ときどき補修

バルーンが膨らみ切る前には、我先にバルーン

の中に入ろうと、子どもたちは自然と集合してい

た。小さい年齢順で一人ずつ、送風口からバルー

ンに入っていった。初めに入った子どもからは「な

んですかこの広さ‼」「すごー‼」という歓声があ

がり、その後から次々と入っていった仲間と跳ね

まわったり、外にいる子どもやスタッフに呼びか

けてみたりと盛り上がっていた。外側からはス

タッフがビニールに顔や手をおしあてるなどする

と、子どもも真似をしたり、ビニール越しにスタッ

フと触れ合うなどして遊んだ。子ども全員と数名

のスタッフが中に入り、中からの空間を認識し、

楽しんだ後に(5分後くらい)、油性マーカーを数

セット、バルーンの中と外に置いて、自由にビニー

ルに絵や文字を書いてよいことを説明した。子ど

もたちは絵や言葉を書いて楽しんだが、数名はス

タッフや他の仲間に外から顔をバルーンに押し当

てるように要求し、ビニール越しに顔に落書きを

したり、また、自分の手や体を中から押し当て、

外からになぞるように要求してきたりした。お絵

かきを5分くらい楽しんだところで、次に、待ち

時間で制作したミニバルーンを中に入れて楽しん

だ。数名はバルーンの中で風船(バルーン)バレー

を行った。

ジャイアント・バルーンは、貼り合わせの箇所

が甘いところ、破れたところが多数あった。また、

強くマーカーを押し当てたり、壁に体当たりした

りした場合は薄いビニールなので破れてしまった

箇所がでてくる。これらの補修箇所はふくらます

過程でそれがわかるのだが、ふくらます過程、バ

ルーンの中に入って遊ぶ過程のどちらでも、ス

タッフは空気が漏れている箇所を赤いマーカーで

○を付け、補修する子どもを募った。絵を描くの

が苦手な子やスタッフとのかかわりを強く望んで

いる子は、その都度、補修係をかってでた。お絵

かきや遊びながら、補修も同時に行うという感じ

であった。ついうっかり破ってしまった子は「補

修係おねがい‼」と補修役をやっていた子どもに

ヘルプを求めることも自然発生的に生じていた。

⑸ バルーンの大移動

ある程度、お絵かきや風船バレー、補修を楽し

んだ後は、いったん油性マーカーや補修用のクラ

フトテープを回収し、全員でバルーンを中から転

がして体育館の向こう側に移動させたり、天井に

届くようにバルーンを立てる試みを行った。バ

ルーンの転がし方については「ゆっくり」「みんな

で一斉に」という一斉の言語教示を行ったが、思

いっきり押してしまうもの、恐るおそる押すもの、

まだ絵を描き続けているものなど様々であった

が、ちょっとずつバルーンが移動するのを見て、

また、上手にバルーンを押している中学生の子ど

もやスタッフをみて、自ずとそのモデルを取り入

れ、結果的にみんなでゆっくり足で踏んで移動さ

せるという流れになっていった。体育館の端まで

行くと、今度はバルーンを内と外からゆっくりと

協力して立てた。天井に届きそうになり、ハロゲ

ンランプの天井照明に触れそうになったので、慌

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図17 やっと膨らみましたぞ(外から見る)

図19 なんですか、この広さ、すごー(中から見る)

図20 それぞれで楽しむ(外から見て、中から見て、写真を撮ってみたくなりました)

図18 送風口から入る(入って見る)

75自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践 ⑸

Page 15: 自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の …...た。2016年ほっこは、4月から7月の間に、面接 や心理検査を通したアセスメントセッションを行

図21 手をなぞってみたり 図22 バルーン inバルーン 図23 すごい大きさ(寝て見る)

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図24 どうしたら移動できるんだろう?

図26 天井にぶつかるー

図25 ゆっくり歩くのがよいみたい

図27 立てると大きい(慌ててねかす)

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てて元に戻すなど、ハラハラ感をみんなで共有し

た。

⑹ バルーンから飛び出せ‼ そして転がせ‼

バルーンに入って15分程度遊んだ後には、保護

者にも体育館に入ってもらい、子どもたちにバ

ルーンの中や外を案内するように促した。保護者

とともにお絵かきをしたり、自分のお絵かきした

箇所を説明したり、このバルーン制作がいかに大

変だったかを説明したりしていた。ある程度、保

護者と子ども、スタッフで巨大な創造物を鑑賞し、

感想を共有した後は、保護者と子ども、班スタッ

フはバルーンの中に入り、破って脱出することを

提案した。「えー、なんで」「破っていいの‼ 楽

しそう」と様々な意見が上がったが、「最後は丸め

てボールの作品にするよ」「最終形がボールです」

と説明し、納得してもらった。「せーの」のかけ声

で全員がバルーンを破ったり、蹴ったり、体当た

りしたりして、各々のやり方でバルーンから飛び

出てきた。どの子どもも興奮が高まり、窒息やけ

がの恐れがあったが、必要に応じてビニールを広

げるなど逃げ場を確保し、キックやパンチが他児

にあたらないようにするなどスタッフが注意深く

見守ることが望まれた。

ビニールが縮み、すべての子どもやスタッフ、

保護者が脱出すると、スタッフはハサミでビニー

ルを2等分して、AチームとBチームそれぞれで

ボールに丸めるように子どもたちに教示した。あ

る程度まとまったら、養生テープでぐるぐる巻き

にして、転がしたり、投げたり、上に乗ったりし

て遊んだ。最後は、各チームで輪になって立ち、

ボールを隣にパスして、2周回した。自分たちの

作ったものの最終形の重さ、大きさを確かめなが

らの活動となった。バルーンが膨らみ、遊び、そ

して破って出た興奮から、最後はクールダウンの

活動として位置づき、子どもたちも落ち着いて活

動していた。最後、グループ毎に感想を言い合っ

て、終了になった。

考 察

本研究では、ASDのある子どもたちへの造形活

動の試みについて取り上げたものである。ちまち

まとした個人の表現を通して、それらが結果的に

ダイナミックで集団的な作品になったり、他者と

の協働性や一体感、達成感を体験できたりするよ

うに狙った。ダイナミックな表現や創造的な活動

の産出は、子どもたちが指示された結果ではなく、

活動全体を通して無理なく導かれるようにしたも

のであり、結果的に他者性や創造性を感じ取られ

るように意図したものである。活動中の子どもた

ちの様子からは、活動の際の細かな課題もみられ

たが、概ね当初の目的を達成できたと思われた。

ダイナミックな表現活動や共同作業などが、ス

タッフや他の子どもなどの周りの影響もあり、自

ずと展開されていった。また、9月に行ったふり

77自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践 ⑸

図28 破って飛び出せ(中学生が自主的に補助) 図29 もう一度入ってみたくなる

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かえり会では、子どもたちの表現力や他者との関

係性の変化も見られ、子どもたちの成長を感じる

こととなった。顔合わせ会、ふりかえり会のプロ

グラムや子どもの変容については、事例研究とし

て今後まとめていく予定であるが、本プログラム

で得たダイナミックな活動や作品に対しての興奮

や達成感は子どもたちにとって、表現や人間関係

に関しての自信につながっていったことを感じ

る。

謝 辞

造形と遊びのサマースクールに参加し、我々に

多大なる示唆を与えてくれた子どもたちとその保

護者、また、北海道大学教育学研究院・教育学部

発達臨床ゼミの院生・学生たちに大変感謝いたし

ます。また、造形活動を企画、実施してくれまし

た共立女子大学家政学部児童学科安田ゼミの学生

たちにもお礼申し上げます。

文 献

水野薫・岡田智(2011):自閉症スペクトラム障害の社会的

認知と行動.日本文化科学社.

森岡茂勝・島本契司(2004):障害児教育における造形的自

己表現力の育成に関する考察.兵庫教育大学実技教育研

究指導センター実技教育研究,18,1-11.

岡田智・三浦勝夫・渡辺圭太郎・伊藤久美・上山雅久(2008):

特別支援教育 実践ソーシャルスキル実践集.明治図書.

岡田智・中村敏秀・森村美和子・岡田克己・山下公司(2014):

特別支援教育をサポートするソーシャルスキルトレーニ

ング実践教材集.ナツメ社

佐藤史子(2007):造形ワークショップにおける共同的学

び.愛媛大学教育実践総合センター紀要,25,35-447.

安田悟・岡田智・山田薫(2009):広汎性発達障害の児童へ

78

図30 切り分けて、それぞれでまとめてみる 図31 まとめるのってむずかしい

図32 まるめる 図33 転がす 図34 パスし2日間の感想を

Page 18: 自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の …...た。2016年ほっこは、4月から7月の間に、面接 や心理検査を通したアセスメントセッションを行

の造形活動の実践― 表現と共同作業を促す図画工作活

動― .共立女子大学家政学部紀要,55,121-132.

安田悟・岡田智(2011):広汎性発達障害の児童への造形活

動の実践― 表現と集団活動を促す造形と遊びのサマー

スクール― .美術教育,294,106-107.

安田悟・岡田智(2012):自閉症スペクトラム障害の児童へ

の造形活動の実践⑶― 表現と集団活動を促す造形と遊

びのサマースクール― .美術教育,295,144-145.

安田悟・岡田智(2013):自閉症スペクトラム障害のある児

童への造形活動の実践的研究⑷― 表現と集団活動を促

す造形と遊びのサマースクール― .共立女子大学・共立

女子短期大学総合文化研究所紀要,19,73-88.

79自閉症スペクトラム障害のある児童への造形活動の実践 ⑸