超大型浮体式海洋構造物メガフロート まわりの海洋環境変動...

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超大型浮体式海洋構造物メガフロート まわりの海洋環境変動の把握 指導教官 藤野 正隆 教授 多部田 助教授 東京大学工学部船舶海洋工学科 70384 小林 80410 西川 行夫

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超大型浮体式海洋構造物メガフロートまわりの海洋環境変動の把握

指導教官 藤野 正隆 教授

多部田 茂 助教授

東京大学工学部船舶海洋工学科 70384 小林 順

80410 西川 行夫

研究の背景

•  これまでの研究から、物理的要素への影響は小さいといわれているが、それを証明するデータが十分あるとはいえない。

•  海洋の生物的要素への影響を調査したデータは少ない。

•  実海域に設置されたメガフロートの周辺海域における化学量・生物量を含めたデータ計測が極めて重要。

•  超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)を設置する場合、それが周辺海洋環境に与える影響についても考慮する必要がある。

それ自体が重要

数値シミュレーションの高精度化にも大きな役割

研究の目的 東京湾横須賀沖に設置された長さ約1㎞のメガフロートにおいて

• 水深の大きい海域で計測することにより、海水のさまざまな性質の鉛直分布について詳しく調べること。

クロロフィルa濃度

溶存酸素

植物プランクトンの現存量の指標

水質の指標・生物活動と大きく関連

• 周辺海域の海洋環境変動を把握する。

• 周辺海域への浮体の影響を把握する。

• これまでは計測されてこなかったクロロフィルa濃度、溶存酸素についても計測を行うこと。

これまでに行われた計測と比較

=D.O.(Dissolved Oxygen)

今回の計測の意義

浮体内外でのデータ計測、数値シミュレーションを通して、

メガフロート

東京都

房総半島

千葉県

神奈川県 東京湾

三浦半島

0 1 2 3

(km)

横須賀市

住重 横須賀造船所

防波堤

メガフロート 浮体中央部計測位置

浮体東端部計測位置

(写真)

水温計 塩分計 クロロフィル計 D.O.計

2m

20m

16m

10m

浮体中央部 浮体東端部

7月 9月 10月 11月 12月 1月 8月 1999 2000

海面が遮蔽 海面遮蔽が少

水深約19m 水深約22m

良いデータは得られず

(その他、採水によりクロロフィルa濃度を 中央部、東端部の各深度で随時計測)

10

14

18

22

26

30

7/19 8/8 8/28 9/17 10/7 10/27 11/16 12/6 12/26 1/15 2/4

Tempereture(℃)

計測データ 上:海水温の時系列

0.5m 1m 3m 5m

7m 9m 11m 13m

15m 17m 19m

20

22

24

26

28

30

32

34

7/19 8/8 8/28 9/17 10/7 10/27 11/16 12/6 12/26 1/15 2/4

Sal

init

y(p

su)

2m10m16mMDS 下MDS 東下DO計 上

下:塩分の時系列

塩分成層

成層が発達

上下にほぼ一様

重い海水の上に軽い海水が層状に積み重なっている

海水温逆転

河川流入などの影響

計測データ 上:クロロフィルa濃度の時系列

02468

10121416182022

7/19 8/8 8/28 9/17 10/7 10/27 11/16 12/6 12/26 1/15 2/4

Ch

loro

pyl

a(μ

g/l

)

Center 2m

02468

10121416182022

7/19 8/8 8/28 9/17 10/7 10/27 11/16 12/6 12/26 1/15 2/4

D.O

.(m

g/l

)

Center 2mCenter 16mEast 2m

下:D.O.の時系列

値、変動とも大

値、変動とも小

値小、変動大

値大、変動小

鉛直混合と風の関係

1166

1188

2200

2222

2244

2266

2288

3300

77//2200 77//2255 77//3300 88//44 88//99 88//1144 88//1199 88//2244 88//2299 99//33 99//88 99//1133 99//1188 99//2233 99//2288

- 12- 10- 8- 6- 4- 2024681012

7/20 7/25 7/30 8/4 8/9 8/14 8/19 8/24 8/29 9/3 9/8 9/13 9/18 9/23 9/28

0.5m 1m 3m 5m

7m 9m 11m 13m

15m 17m 19m 海水温の時系列

南西-北東方向の風速成分(南西⇒北東を正とした) Velocity(m/s)

Temp.(℃)

南西風の連吹⇒成層弱まる

弱風⇒成層強まる

南西風⇒上層の水温が低下

北東風⇒下層の水温が上昇

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2 2.4Frequency(cycle/day)

0.5m 1m 3m 5m

7m 9m 11m 13m

15m 17m 19m

海水温のスペクトル

Spectrum(℃2・day)

半日変動⇒潮汐による

変動

一日変動⇒日射による変動

下層に見られる

上層に見られる

10月~1月の約113日間の変動

00

11

22

00..0055 00..11 00..1155 00..2214日周期⇒潮汐による変動

0.5m 1m 3m 5m 7m 9m 11m13m15m17m19m0.5m0.981m 0.983m 0.965m 0.957m 0.959m 0.9411m 0.9413m 0.9415m 0.9517m 0.9519m 0.91

計測点深度(浮体東端部)

計測点深度(

浮体中央部)

0.99 0.97 0.95 0.93 0.91 0.89 0.87 0.85 0.83 0.81 0.79

全般的に相関が高い

同じ深度どうしの海水温を比較

相関がやや低い

相関が極めて高い

浮体中央部と浮体東端部の海水温の相互相関 (相互相関係数のピーク値)

日射による変動

潮汐による変動

局地的影響 急激な変動

0.5m 1m 3m 5m 7m 9m 11m13m15m17m19m0.5m0.981m 0.983m 0.965m 0.957m 0.959m 0.9411m 0.9413m 0.9415m 0.9517m 0.9519m 0.91

計測点深度(浮体東端部)

計測点深度(

浮体中央部)

0.99 0.97 0.95 0.93 0.91 0.89 0.87 0.85 0.83 0.81 0.79

浮体中央部と浮体東端部の海水温の相互相関 (相互相関係数のピーク値) 異なる深度どうしでも海水温を比較

0.5m 1m 3m 5m 7m 9m 11m13m15m17m19m0.5m0.98 0.981m 0.98 0.98 0.933m 0.92 0.96 0.895m 0.83 0.95 0.917m 0.84 0.95 0.939m 0.86 0.94 0.9211m 0.84 0.94 0.9413m 0.83 0.94 0.9115m 0.79 0.95 0.9417m 0.87 0.95 0.9219m 0.81 0.91

0.99 0.97 0.95 0.93 0.91 0.89 0.87 0.85 0.83 0.81 0.79

計測点深度(浮体東端部)

計測点深度(

浮体中央部)

異なる深度どうしでも海水温を比較

浮体中央部と浮体東端部の海水温の (相互相関係数のピーク値)

相関低い

相関高い

相互相関

浮体東端部

浮体中央部

浮体東端部

浮体中央部

海底の地形に沿って 変動している

クロロフィルa・D.O.のスペクトル

00

22

44

66

88

00..55 11 11..55 22 22..55 33 33..55 44

00

00..11

00..2200..33

00..44

00..55

00..55 11 11..55 22 22..55 33 33..55 44

Frequency(cycle/day)

Frequency(cycle/day)

Spectrum((µg)2・day)

Spectrum((mg)2・day) 一日変動⇒日射による変動 半日変動⇒潮汐による変動

1999/8/6-8/20の14日間の変動

クロロフィルaのスペクトル

D.O.のスペクトル 海水流動によって起こる水平分布にしたがった変動 光合成により昼間は増加、夜間は減少

22442255226622772288

88//1122 88//1133 88//1144 88//1155 88//1166 88//1177 88//1188 88//1199 88//2200 88//2211

TTeemm pp..((℃))

00112233445566

88//1122 88//1133 88//1144 88//1155 88//1166 88//1177 88//1188 88//1199 88//2200 88//2211

DD..OO ..((mm gg//ll))

0055110011552200

88//1122 88//1133 88//1144 88//1155 88//1166 88//1177 88//1188 88//1199 88//2200 88//2211

CChhll..aa((μgg//ll))

ピークの一致 日射がない影響 クロロフィルa、DO、水温の変動傾向が共通

8/12~8/20のクロロフィルa、DO、海水温(全て浮体中央部、水面下2m)の時系列

225522662277228822993300

88//22 88//33 88//44 88//55 88//66 88//77 88//88 88//99 88//1100 88//1111 88//1122

TTeemm pp..((℃))

0022446688

88//22 88//33 88//44 88//55 88//66 88//77 88//88 88//99 88//1100 88//1111 88//1122

DD..OO ..((mm gg//ll))

002244668811001122

88//22 88//33 88//44 88//55 88//66 88//77 88//88 88//99 88//1100 88//1111 88//1122

CChhll..aa((μgg//ll))

クロロフィルaと水温の変動が共通 クロロフィルaとDOの変動は無関係

クロロフィルa、DO、水温の変動が互いに無関係

8/2~8/11のクロロフィルa、DO、海水温(全て浮体中央部、水面下2m)の時系列

日照、気温は毎日ほぼ同じ、弱風

しかし 何らかの生物的要因が関わってい

る可能性

水温への浮体の影響

•  2カ所の温度差の頻度分布から、中央部では日射が浮体に遮られることによって、水温が上がりにくくなることが分かった。

00%%

1100%%

2200%%

3300%%

4400%%

5500%%

--00..33 --00..22 --00..11 00 00..11 00..22 00..33CC eenntteerr--EEaasstt((℃))

00..55mm

00%%

1100%%

2200%%

3300%%

4400%%

5500%%

--00..33 --00..22 --00..11 00 00..11 00..22 00..33CC eenntteerr--EEaasstt((℃))

00..55mm

全データ 強日射時

(中央部)-(東端部)の温度差の頻度分布 中央部>東端部 中央部<東端部

DO(溶存酸素)への浮体の影響

•  7,8月に中央部の水面下2mで2~6mg/lの低い値が測定されたことから、浮体による海面遮蔽の影響を受けている可能性がある。

•  12,1月に短い期間ながら、2カ所で同時計測を行なったが、東端部の値が中央部を大きく上回った。しかし、データ数が少ないことから、この結果には慎重な検討を要する。

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

22

7/19 8/8 8/28 9/17 10/7 10/27 11/16 12/6 12/26 1/15 2/4

DO

(mg/

l)

Center 2m

Center 16m

East 2m

数値シミュレーション・モデルの説明

•  初期値・開境界条件には、平均的な夏場を想定した値をもちいた

•  浮体に近づくにつれて、水平格子幅が1620m、540m、180mと3段階に変化する

•  鉛直方向に10層の多層モデル

•  日射は日周期の関数を与えた

•  潮汐は半日周期のM2分潮のみ

•  気象条件も夏場の値を定常で与えた

• 浮体を置いた場合は、海面での熱・塩分フラックスをなくした

数値シミュレーションにみる  水温・塩分濃度の周期的変動

水温

22.0

23.0

24.0

25.0

26.0

27.0

28.0

17 18 19 20time(day)

temperature(℃)

 -‐‑‒1m  -‐‑‒7.5m  -‐‑‒19m

塩分

32.0

32.5

33.0

33.5

17 18 19 20time(day)

salinity(‰)

 -‐‑‒1m  -‐‑‒7.5m  -‐‑‒19m

浮体がある場合とない場合の比較

2.00

3.00

4.00

5.00

6.00

7.00

8.00

9.00

17 18 19 20time(day)

DO(mg/l)

浮体なし 浮体あり

-1m

- 7.5m

- 19m

DO(溶存酸素) 植物プランクトン

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1800

2000

17 18 19 20time(day)

phytoplankton(mgC/m

3 )

浮体なし 浮体あり

-1m

-7.5m

- 19m

浮体の影響がおよぶ範囲(植物プランクト

ン)

(mgC/m3)

(浮体なし)ー(浮体あり) 植物プランクトンの差の分布

ランク2

ランク3

浮体

富津岬

横浜

横須賀

横須賀

東京湾 防波堤

浮体の影響が及ぶ範囲(DO)

ランク2

ランク3

(mg/l)

(浮体なし)ー(浮体あり) DOの差の分布

富津岬

横須賀

横浜

東京湾

横須賀

浮体周辺の 残差流

•  浮体周辺では約2cm/sの東向きの残差流がみられる。

•  浮体の東には、湾外に向かう5cm/s程の残差流がある。

0.05m/s

結論1.海洋環境の変動について

•  上層では日射による変動が卓越し、中層以下では潮汐による変動が卓越することや、風が海水の鉛直構造に大きく関わっていることが今回も確かめられた。

•  クロロフィルa濃度やDOの変動は日射や風、海水温だけでは理解できず、生物的要因が大きく関わっている可能性があることが分かった。

•  中層以下の変動は地形の影響を受けることや、浮体直下でのクロロフィルa濃度やDOも日射により変動することが新たに確かめられた。

結論2.浮体による海洋環境への影響について

•  その影響はわずかなもので、浮体直下の上層に限られることがデータ解析と数値シミュレーションから推定された。

•  浮体による影響は潮流に乗って周辺海域に伝えられるが、広範囲にわたる影響はみられないことが数値シミュレーションから分かった。

•  計測データから、浮体直下での水温の低下と溶存酸素の減少傾向がみられた。これはおもに浮体が日射を遮ることによるものと思われる。