文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の...

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文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の現状と課題 西原 貴之(県立広島大学) [email protected] http://www.pu-hiroshima.ac.jp/~n_takayk/index.html http://takayukinishihara.cocolog-nifty.com/

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Page 1: 文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の …文学テスト研究の現状 文学テスト研究は、“a thin and surprisingly under- researched area”

文学を使った英語教育における到達度テスト研究の現状と課題

西原 貴之(県立広島大学)

[email protected]

http://www.pu-hiroshima.ac.jp/~n_takayk/index.html

http://takayukinishihara.cocolog-nifty.com/

Page 2: 文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の …文学テスト研究の現状 文学テスト研究は、“a thin and surprisingly under- researched area”

文学テストが抱えるパラドックス

If it is the case that readers respond to literary texts in personally meaningful, often idiosyncratic ways, it is hard to see what sort of “meaning” one could test in order to say that a reader had actually understood a literary text (Alderson, 2000, p. 66)

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Page 3: 文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の …文学テスト研究の現状 文学テスト研究は、“a thin and surprisingly under- researched area”

文学テスト研究の現状

文学テスト研究は、“a thin and surprisingly under-researched area” (Hall, 2015,p. 211)であり、方法論は確立されていない(Carter, 2007)。L1の研究ですらその数は非常に少なく(e.g., Brody, DeMilo, & Purves, 1989; Purves, 1992)、L2に関してはその数はさらに少ない(Nishihara, 2015)。

文学テストを行うこと自体不要と考える研究者もいる(Parkinson & Thomas, 2000; Paran, 2010)。

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Page 4: 文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の …文学テスト研究の現状 文学テスト研究は、“a thin and surprisingly under- researched area”

本発表が関心がある文学テスト

×英語文学読解力や英語文学の知識に関する熟達度テストとしての文学テスト

×英語文学読解力や英語文学の知識に関する適性を調べる診断テストとしての文学テスト

×「イギリス文学演習」など英語文学専門科目における到達度テスト(定期試験)

○一般英語教育の中で文学作品をその教材として用いた授業における到達度テスト(定期試験)

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Page 5: 文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の …文学テスト研究の現状 文学テスト研究は、“a thin and surprisingly under- researched area”

文学テストが敬遠される理由●英語教員養成の問題

・文学作品を読む機会が少ない

・文学テスト方法について学ぶ機会がない

●英語教育における文学教材の扱いに関する問題

・文学教材は正課として扱われることが稀である

●文学能力モデルの問題

・モデルの記述が部分的、あまりに専門的、あまりに一般的、である

・モデル間に記述の一貫性が乏しい

●文学テストに関する伝統的な考えに由来する問題

・文学教材は上級学習者のための贅沢な教材と考えられている点

・設問のバリエーションが乏しい(機械的な内容理解かオープン・エンドな記述問題)

●これまでの文学テスト研究に由来する問題

・文学能力に関わる様々なスキルや能力をどのようなバランスで扱うか議論がされていない

・文学読解能力はより大きな統合的スキルの中で評価され、それ自体の評価法が確立されていない 5

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文学テストの現状(私見)

中学校や高等学校では、文学作品は正課外となっているケースがほとんどであり、そのような正課外のセクションは授業で取り上げられないか、長期休暇中の課題とされることが多い

授業で扱われたとしても、試験範囲外とされることも少なくない

試験に出題したとしても、設問が説明文と変わらなかったり、逆に凝った設問ばかりになってしまう

文学作品を一般英語教育の試験に出題することに強い抵抗を覚える教員もいる(文学専門の科目は世界中で履修者に評価が与えられているにもかかわらず)

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Page 7: 文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の …文学テスト研究の現状 文学テスト研究は、“a thin and surprisingly under- researched area”

文学テスト及びその研究の必要性

指導と評価は表裏一体であり、文学作品の授業での使用を考える以上は、そのテスト法も研究する必要がある(また、授業で文学作品を扱う以上は、テスト(評価)でも扱うべき)

測定不能な側面があるとしても、言語テストにおいて文学読解は扱われるべき(Brumfit, 1991, 2001)

文学作品を使った授業がどれほどすばらしいものであっても、テストに問題があると、学習者に負の波及効果を引き起こす(Anagnostopoulos, 2003)

Tests of literature inherently construct particular types of readers as they endorse particular types of readings, labeling some as "good" and others as "failing." (Anagnostopoulos, 2003, p. 208)

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Nishihara (2015) の概要1

現在提案されている文学能力モデル等は、記述が断片的であったり、想定されている技能があまりに専門的ないしは一般的であるため、一般英語教育における文学テスト作成に活用することは難しいことを確認

そこで、一般的な読者によるL1での文学作品読解を基準として文学テストの内容を整理することを決定

一般的な読者のL1での文学読解を実証的に調査している文学の経験的研究(Empirical Study of Literature)の成果をもとに、文学テストを作成する際の留意点を抽出

その留意点に基づいた文学テストを作成・実施し、そのテストが期末テストとして機能したことを確認

その留意点の応用可能性の考察

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Nishihara (2015) の概要2

文学テストを作成する際の留意点

テスト作成においては、一般的な文学読者のL1での読解をモデルとすること(文学批評家など専門的な文学読者によるL1読解をモデルとはしないこと)

設問の大半は文章の内容理解(文章に実際に書かれている事柄の内容理解)を扱うこと

設問数を限定した上で、テクストを解釈させる設問を含めること

設問数を限定した上で、言語の創造性を扱う設問を含めること

設問数を限定した上で、学習者の個人的意味や情意を問う設問を含めること

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Page 10: 文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の …文学テスト研究の現状 文学テスト研究は、“a thin and surprisingly under- researched area”

Nishihara (2015) の概要3結果

解釈、言語の創造性、学習者の個人的意味や情意を問う設問は、内容理解の設問との相関が低かった。このことから、文学読解テストにおいては、様々な側面を扱う設問を組み込むことが必要であると言える。

個人的意味や情意を問う設問では、学習者は様々な独自の意見を解答していた。

言語の創造性に関する設問や個人的意味や情意を問う設問においては、答案に何か書いてあった場合、0点にすることは困難であった。しかし、これらの側面が文学読解の重要な側面であるということを学習者に伝えるメッセージとしては機能したと考えられる。

今回のテストは、学習者に英語での文学読解の取り組み方を意識させる一貫になったと考えられる(Spiro (2010) が述べる、試験を通した指導)。

→以上の結果から、今回のテストは文学読解に関する期末テストとして機能したと考えられる。

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Nishihara (2015) の概要4

その留意点に基づいたテスト作成法の応用可能性

教師がテスト作成時に、自身のテストが文学読解の特定の側面に過度に偏重していないか確認するチェックリストとして使用できる

テストの受験を通して、文学作品を英語でどのように読んでいけばよいのか、学習者に意識させることができる(内容理解を中心としつつ、解釈、言語の創造性、自身の内に生じる個人的意味や情意にも注意を払うという読み方)

個々の学習者の文学読者としての特徴を個別に評価することが可能となる

各学習者の得意な箇所と不得意な箇所を明らかにし、それぞれが文学読者としてより成熟していくためのフィードバックを与えることが可能となる

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Page 12: 文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の …文学テスト研究の現状 文学テスト研究は、“a thin and surprisingly under- researched area”

今後の課題 採点時に、言語の創造性に関する設問や個人的意味や情意を問

う設問の解答にどう対処していくべきか

より専門的な英語教育においては社会文化的側面に関する設問も必要となるが、どのような形でテストに取り入れて行くべきか(歴史的背景に関する論説文と文学作品を平行して出題し、TOEICで言うところのダブル・パッセージの形で出題する、など)

文学テストの妥当性(Messick, 1989)の向上:文学能力の詳細な記述及び学習段階に応じたそれらの要素の配列(CEFR(Council of Europe (2001)やHenning (1992) のような様式で、文学理論や文体論の知見を応用した枠組みの構築)

(これは日本の英語の定期試験全般に当てはまることであるが)授業の内容(文章の意味内容)さえ覚えていればよい点数が取れてしまうというパラドックス(Paran, 2010)にどう対処していくか

言語テスト研究との連携:言語テスト研究との連携の必要性は認識されているものの(Brumfit, 1991) 、実際にはほとんど両分野に知的交流はない

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引用文献Alderson, J. (2000). Assessing reading. Cambridge: Cambridge University Press.Anagnostopoulos, D. (2003). Testing and student engagement with literature in urban

classrooms: A multi-layered perspective. Research in the Teaching of English, 38 (2), 177–212.

Brody, P., DeMilo, C., & Purves, A. C. (1989). The current state of assessment in literature. Albany, NY: Center for the Learning & Teaching of Literature, State University of New York.

Brumfit, C. (1991). Testing literature. In C. Brumfit (Ed.), Assessment in literature teaching (pp. 1–8). Basingstoke, UK: Palgrave Macmillan.

Brumfit, C. (2001). Individual freedom in language teaching. Oxford: Oxford University Press.

Carter, R. (2007). Literature and language teaching 1986–2006: A review. International Journal of Applied Linguistics, 17 (1), 3–13.

Council of Europe (2001). Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment. Cambridge: Cambridge University Press.

Hall, G. (2015). Literature in language education (2nd ed.). Basingstoke, UK : Palgrave Macmillan.

Henning, S. D. (1992). Assessing literary interpretation skills. Foreign Language Annals, 25 (4), 339–355.

Messick, S. (1989). Validity. In R. Linn (Ed.), Educational measurement (3rd ed., pp. 13–104). New York: National Council on Measurement in Education/American Council on Education. .

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Page 14: 文学を使った英語教育における 到達度テスト研究の …文学テスト研究の現状 文学テスト研究は、“a thin and surprisingly under- researched area”

引用文献Nishihara, T. (2015). Achievement tests for literary reading in general EFL reading

courses. In M. Teranishi, Y. Saito, & K. Wales (Eds.), Literature and language learning in the EFL classroom (pp. 115–130). Basingstoke, UK: Palgrave Macmillan.

Paran, A. (2010). Between Scylla and Charybdis: The dilemmas of testing language and literature. In A. Paran & L. Sercu (Eds.), Testing the untestable in language education (pp. 143–164). Toronto: Multilingual Matters.

Parkinson, B., & Thomas, H. R. (2004). Teaching literature in a second language. Edinburgh, Scotland: Edinburgh University Press.

Purves, A. C. (1992). Testing literature. In J. A. Langer (Ed.), Literature instruction: A focus on student response (pp. 19–34). Urbana, IL: NCTE.

Spiro, J. (2010). Crossing the bridge from appreciative reader to reflective writer: The assessment of creative process. In A. Paran & L. Sercu (Eds.), Testing the untestable in language education (pp. 165–190). Bristol, UK: Multilingual Matters.

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ご清聴ありがとうございました。

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