新興分野人材養成 事後評価 「生命・医療倫理人材 …新興分野人材養成...

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新興分野人材養成 事後評価 「生命・医療倫理人材養成ユニット」 機関名:東京大学 代表者名:赤林 朗 実施期間:平成 15 年度~平成 19 年度

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新興分野人材養成 事後評価

「生命・医療倫理人材養成ユニット」

機関名:東京大学

代表者名:赤林 朗

実施期間:平成 15 年度~平成 19 年度

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目次

Ⅰ.人材養成計画の概要

1.課題設定

2.人材養成計画の趣旨

3.人材養成計画の内容

(1)人材養成の考え方

(2)人材養成業務の従事者

(3)実施する内容

4.人材養成計画の目標

5.人材養成ユニットの実施体制

Ⅱ.所要経費

Ⅲ.人材養成の成果

1.人材養成計画の進捗状況

2.目標の達成度

(1)養成人数の目標と実績

(2)養成人数以外の目標と実績

3.当初の計画どおりに進捗しなかった理由

4.中間評価の反映状況

5.人材養成の実施内容

(1)人材養成の手法・方法と実施結果

(2)養成対象者の到達度評価の仕組みと実施結果

(3)人材養成システムの改善状況(被養成者の評価等の反映)

6.人材養成プログラムの有効性

(1)有用性

(2)波及効果

(3)情報発信の状況

7.実施体制への関与状況

8.成果の発表状況

(1)養成された人材による研究成果

(2)養成従事者による養成手法に関する成果

Ⅳ.本プログラム終了後の継続実施状況

Ⅴ.自己評価

1.目標達成度

2.人材養成手法の妥当性

3.人材養成の有効性

4.実施計画・実施体制及び継続性・発展性の見通し

5.中間評価の反映

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Ⅰ.人材養成計画の概要

■プログラム名:新興分野人材養成 (事後評価)

■課題名:生命・医療倫理人材養成ユニット

■機関名:東京大学

■代表者名(役職):赤林 朗(大学院医学系研究科教授)

■実施期間:5 年間

■実施経費:総額 337 百万円(一般管理費込み)

1.課題設定

自然科学と人文・社会科学との融合領域(生命倫理)

2.人材養成計画の趣旨

近年、生命科学や先端医療の発展に伴い、大学や病院において倫理委員会の果たす役割がますま

す重要になってきている。しかし、倫理委員会の運営を担い、医療倫理や研究倫理を現場で教育できる

人材は極めて少ない。適切な倫理審査や実践的な助言を行うことができる人材を養成しなければ、生命

科学や先端医療の分野での研究が進まなくなり、やがては日本の医療及び科学水準の低下につながる

という強い危機感が現場や学会にはある。また、先端医療等の実施においては予測できない偶発症等、

医療事故が発生する。事故が発生した際、事故の拡大防止や事故対応が適切になされなければ医療に

対する社会の不信が増大する。生命・医療倫理領域のコンサルタントと研究者を養成することは急務であ

る。

本ユニットはコンサルタント養成部門と研究者養成部門から構成される。まず両部門の人材養成に共

通する基礎教育カリキュラムを作成する。コンサルタント養成部門は社会人(民間公的機関を問わず医療

関連職種従事者、民間製薬会社の研究員等)を養成対象とし、生命・医療倫理学入門コースを受講する

ことにより、倫理委員会の運営を担い現場で的確な助言を行うために必要な能力を習得させる。また、リス

クマネジメントコースを受講することにより、現場のリスクマネジメントの向上に必要な力を習得させる。リス

クマネジメントは、生命・医療倫理学の一分野としても発展しており、密接に関連する領域である。研究者

養成部門は大学院生、ポスドクを養成対象とし、生命・医療倫理学入門コース修了後に人材養成業務従

事者との共同研究に参画させる。これにより日本において生命・医療倫理領域の研究基盤を固めるため

の基礎的研究を行える能力を習得させる。さらに招聘外国人研究者との共同研究等を通じて世界水準の

研究を継続できる能力を習得させる。

3.人材養成計画の内容

(1)人材養成の考え方

コンサルタントレベル、研究者レベルに共通した特別な基礎教育カリキュラムを作成する。以下(3)の

実施内容に述べるように、講義形式による知識の教授、少人数ディスカッション形式による思考力養成の

訓練、実習(模擬倫理委員会、病院実習等)を取り入れた実践的教育カリキュラムを用意する。

コンサルタントレベルにおいては、この基礎教育カリキュラムを履修することで、現場での対応力は身に

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付けられると考えられる。一方、研究者レベルの者は人材養成業務従事者と共同で研究を行い、指導を

受け、さらに外国から招聘する研究者が所属する機関等との共同研究を通じて国際性を高める。本領域

では、理論的側面と実践的側面の両方が重要になる。理論研究においても実践的側面を視野にいれる

ことが望まれる。研究者レベルの者には、その重みづけは各自によって異なるが、理論的側面と実践的

側面の両者をバランスよく関心がもてるよう人材養成を行いたい。

生命・医療倫理人材養成ユニットのイメージ

(2)人材養成業務の従事者

東京大学大学院医学系研究科・健康科学講座の教員が中心となり、病院臨床講座、医の倫理委員会、

法学部、文学部等の教員が連携する。特任教員として、新たに講義を担当する者、研究指導を行う者を

募集する。これらに加え、既に生命・医療倫理の領域で多くの実績を持つ外国の研究所等より、短期・中

期に外国人教員を招聘し、業務にあたらせる。

なお、代表者は医療倫理学分野を主宰するとともに、前任校と合わせて5年以上にわたる医の倫理委

修 了

・内外の専門スタッフによる講義、研究指導 ・少人数ディスカッションを通じてのケーススタディ ・夏期集中セミナー等による生涯学習

・外国研究機関との国際共同研究 ・模擬倫理委員会等の形式による実践的演習

・救急医療、ターミナルケア、臓器移植の臨床現場等を学ぶ観察実習

生命・医療倫理人材養成ユニット

世界水準の研究者

入 学

学部学生・大学院生ポスドク

社会人 ・医療関連職種従事者 ・民間製薬会社の研究員等

コンサルタント ・医療現場での倫理的諸問題への対応 ・倫理委員会の運営 ・現場での教育 等

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員会委員長の経験をもつ。その間、行政ガイドラインに示されている研究課題として、ヒトES細胞関連研

究、ヒトゲノム・遺伝子解析研究、疫学研究の審議に携わっており、それ以外にトランスレーショナルリサ

ーチ、生体臓器移植等を審査してきた。また、人材養成業務従事者には、医の倫理委員会の委員経験

がある者や、各分野での生命倫理関連のプロジェクトに関与している者が多い。その意味で、学際的か

つ実践的な教育プログラムを行うことが可能である。

(3)実施する内容

研究者レベルでは、融合領域であることから特に分野を限定することなく、学部学生、修士・博士学生

を募集し、それぞれ学位を取得させる。コンサルタントレベルでは、広く一般病院、大学等教育機関、民

間機関に勤務する者から募集し、比較的短期(1年以内程度)のカリキュラムを履修させ、再度現場に戻り

成果を還元させる。

基礎教育カリキュラムの例

① 講義:講義形式により、「生命・医療倫理学」の歴史、理論、最近の動向等知識的側面を教授す

る。

② 少人数ディスカッション:少人数ディスカッション形式で、「ケーススタディ」を多用する。各自が理論

的思考を行い、自らの立場を他の者に説明できるようなトレーニングの場所とする。

③ 演習:模擬倫理委員会形式等をとり、少なくとも現在行政等からガイドラインが提出されているテー

マについては、ガイドラインに準じた形で議論を行うことができるよう教育する。倫理委員会の運営

に将来携わることを想定したトレーニングでもある。

④ 実習:救急医療等、生命・医療倫理的問題が生じることが想定される臨床現場での観察実習、およ

び、研究倫理の現場である様々な生物医科学系の研究室(ヒトゲノム・遺伝子解析等)での観察実

習を行う。

以上の講義から演習に至る教育カリキュラムを可能にするための、教材(教科書等)の開発も同時に行う。

コンサルタントレベルは、上記①~④で養成可能と考える。

4.人材養成計画の目標

本人材養成ユニットは、学部学生と大学院生(融合領域であることから特に学部は限定しない)、社会

人(民間公的機関をとわず医療関連職種従事者、民間製薬会社の研究員等)を対象にし、先述のように

到達レベルによって、コンサルタントレベルと研究者レベルに分ける。

コンサルタントレベルとしては、医療現場での倫理的諸問題への対処力を持ち、現場で教育を行い、倫

理委員会等を運営することが可能な人材を養成し(約50名)、現場に成果を還元してもらう。コンサルタント

レベルでは他の専門職を持っていることが望まれる。この人材には、修了時に「生命・医療倫理コンサル

タント(仮称)」等のcertificateレベルの修了証を授与する。一方、研究者レベルは、各学生のバックグラウ

ンドにあわせて学位を取得させ、日本において極めて人材が不足している生命・医療倫理領域の世界水

準の研究を継続できる人材を養成する(約10名)。どちらの人材も養成が急務である。

5.人材養成ユニットの実施体制

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氏名 所属部局・職名 当該構想における役割

◎赤林 朗 東京大学大学院医学系研究科・

教授

総括

堂囿 俊彦 東京大学大学院医学系研究科・

特任講師

生命・医療倫理学入門コースの実施

額賀 淑郎 東京大学大学院医学系研究科・

特任助教

生命・医療倫理学入門コースの実施

林 芳紀 東京大学大学院医学系研究科・

特任助教

生命・医療倫理学入門コースの実施

小川 陽子 東京大学大学院医学系研究科・

特任助教

生命・医療倫理学入門コースの実施

児玉 聡 東京大学大学院医学系研究科・

講師

研究者養成

松井 健志 東京大学大学院医学系研究科・

助教

研究者養成

項目 担当機関 担当者 H15 H16 H17 H18 H19

1. 人材養成業

務従事予定

者の招聘

2. 養成対象者

の選考

3. 教育カリキュ

ラム作成

4. 教育カリキュ

ラム実施

①講義及び少

人数ディスカッ

ション

②演習・実習

生命・医療倫

理 人 材 養 成

ユニット

生命・医療倫

理 人 材 養 成

ユニット

生命・医療倫

理 人 材 養 成

ユニット

生命・医療倫

理 人 材 養 成

ユニット

生命・医療倫

理 人 材 養 成

ユニット

◎赤林 朗

堂囿 俊彦・児玉 聡

◎赤林 朗・児玉 聡・

堂囿 俊彦・額賀 淑

郎・林 芳紀・小川 陽

子・松井 健志

◎赤林 朗・堂囿 俊

彦 ・ 額 賀 淑 郎 ・ 松 井

健志

児玉 聡・林 芳紀・小

川 陽子

注1:代表者には◎を付す

注2:年次計画は、当初計画に基づく各項目の実施時期に←→を引く。

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Ⅱ.所要経費

(単位:百万円)

15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 備考

調整費充当計画

1.人件費

(1)特任教授

(2)特任講師

(3)特任助手

(4)特任研究員

(5)事務補佐員

(6)社会保険料事業主負担分

2.備品、試作品費等

(1)教育環境の整備

(2)教材作成

3.旅費

(1)外国旅費

(2)外来研究員等旅費

(3)国内旅費

(4)外国人等招へい旅費

4.消耗品費(※15 年度は試験研究費)

5.その他

(1)諸謝金

(2)会議開催費・印刷製本費・通信運搬

(3)消費税相当額

(4)一般管理費

11

1.1

(1 名)

6.1

(3 名)

1.7

(2 名)

1

(1名)

1.1

(7 名)

4.6

3.4

1.2

3

1.4

1.6

0

0

8.1

0.3

0.3

0

0

0

59.7

7.5

(1 名)

26.1

(4 名)

15.9

(3 名)

3.9

(2 名)

6.3

(10 名)

1.6

1.4

0.2

3.2

2.7

0

0.5

0

3.9

11.8

1.2

0.4

3

7.2

67.9

7.9

(1 名)

28.1

(4 名)

18.9

(3 名)

5.7

(5 名)

7.3

(13 名)

0.7

0.7

0

0.8

0

0

0

0.8

2.2

12.2

0.8

0.4

3.4

7.6

63.2

7.7

(1 名)

21.1

(3 名)

22.5

(4 名)

5.0

(3 名)

6.9

(11 名)

0

0

0

1.0

0

0

0.3

0.7

0.5

11.5

0.8

0.6

3.2

6.9

57.3

8.0

(1 名)

7.2

(1 名)

19.1

(4 名)

12.6

(2 名)

4.6

(3 名)

5.8

(10 名)

0

0

0

0.9

0

0

0

0.9

0.8

11.0

0.7

1.0

2.9

6.4

計 27 80.2 83.8 76.2 70.0

注:人件費は、調整費により手当てする人材養成業務に従事する者を職階(教授、助教授、主任研究員、

研究補助員等)に分けて、年度毎にそれぞれ調整費により手当てする従事人数を、額の下に括弧書きで

記載する。

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Ⅲ.人材養成の成果

1.人材養成計画の進捗状況

概要

本ユニットの人材養成は、医療関連職種従事者や民間製薬会社の研究員等の社会人を対象に、倫理

委員会の運営を担い現場で的確な助言を行うために必要な能力を習得させるコンサルタント養成部門と、

大学院生やポスドクを対象に、日本の生命・医療倫理領域の研究基盤を固めるための基礎的研究を行

える能力を習得させる研究者養成部門から構成される。そこで、本ユニットは、両部門に共通する基礎教

育カリキュラムを開発、そのカリキュラムを基礎にした「生命・医療倫理学入門コース」「夏期集中生命・医

療倫理学入門コース」を開講し、コンサルタント・研究者養成の基礎プログラムとして活用した。そして、そ

のコンテンツを教科書・DVD 教材等の形で公刊した。その結果、コンサルタント養成部門においては、当

初の目標を大幅に上回る人数のコンサルタントが養成され、研究者養成部門においても、およそ当初の

目標に到達する成果があげられた。

被養成者の選考状況/結果

コンサルタント養成

コンサルタント養成においては、5 年間に生命・医療倫理学入門コースを 5 回、夏期集中生命・医療倫

理学入門コースを 3 回開催し、受講者数は 415 名を数えるに至った。また、5 年間で 4 度開催されたリス

クマネジメントコースの受講者数は 180 名であった。入門コースとリスクマネジメントコースを合算すれば、

受講者数は 595 名にのぼった。

研究者養成

研究者養成においては、東京大学大学院医学系研究科の大学院生を中心に、修士課程 5 名、博士課

程 4 名を受け入れた。また、医学、看護、倫理学、心理学など多様な専門領域を背景に持つポスドクレベ

ルの若手研究者 5 名を、特任研究員として採用した。

カリキュラムの整備状況/結果

平成15年度は、生命・医療倫理学入門コースのコアカリキュラムを作成した。国内外の大学、研究所等か

らシラバスと資料を取り寄せ、入門コースの講義、演習内容等の検討を行った。また、世界有数の教育研

究機関(ケネディ倫理研究所、豪州モナシュ大学など)に直接赴き、類似のコースを受講して、関連教材

はすべてスタッフ会議において綿密に分析した。それらの結果をもとに、体系的カリキュラムを構築した。

平成 16 年度には、学内希望者と外部評価者を対象とする生命・医療倫理学入門コースを試験的に実施

した。ここでの受講者及び外部評価者の評価を参考にし、コアカリキュラムを完成させた。同年 9 月 23 日

に本ユニット設立シンポジウムを開催し(『倫理委員会の現在と展望』於東京大学医学部鉄門記念講堂)、

205 名の参加者を得て、本ユニット及びコンサルタント養成コースを学内外に広く広報した。

平成 17 年度は、入門コース受講者からのフィードバックを通じてコアカリキュラムに改良を重ね、そのコン

テンツをDVD教材『生命・医療倫理学入門』(丸善)として広く世に問うとともに、受講者の便宜をはかるべ

く、本カリキュラムに沿った生命・医療倫理学の教科書『入門・医療倫理 I』(勁草書房)を作成した。

平成18年度には、研究者養成部門に属する大学院生・ポスドク用の教材として、上記教科書の続編に位

置づけられる『入門・医療倫理 II』(勁草書房)を作成した。

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履修等の状況/結果

コンサルタント養成

生命・医療倫理学入門コース、夏期集中生命・医療倫理学入門コースの履修者総計 415 名の職業別

にみた内訳は、医師 27.2%、看護師 22.4%、その他医療従事者 11.3%、製薬・民間企業職員 16.6%、

その他(研究者、法律家、報道機関関係者等)22.4%であった。履修定員数に制限を設けたのは、この入

門コースが少人数に集中的な講義や演習(模擬倫理委員会)、実習を提供するものであり、受講者らによ

る少人数ディスカッションを多用するためである。

生命・医療倫理学入門コース、夏期集中生命・医療倫理学入門コースとも、修了証の授与要件は出席

率 2/3 以上、最終レポートの提出とした。全 13 回の夜間講義と 3 回の週末演習を約 3 ヶ月にわたって受

講するという濃密なスケジュールにもかかわらず、後述するように、履修者の修了率はおおよそ 9 割を超

えるという非常に高いものであった。このほか、夏期集中生命・医療倫理学入門コース、リスクマネジメント

セミナーの修了率も 9 割を超えた。

研究者養成 (大学院教育および学部教育)

生命・医療倫理学入門コースを学内の大学院生に開放して単位を発行した。また、入門コースを履修

した大学院生を対象に、生命・医療倫理学特論を開講した。東京大学大学院医学系研究科健康科学・

看護学専攻 医療倫理学分野の赤林朗教授(兼任)、児玉聡講師(兼任)、松井健志助教(兼任)を

中心に、学内医学部の学部生を対象にした講義も行った。 生命・医療倫理学研究に携わる修士・博士課程、ポスドクの個別指導については、赤林朗教授、

児玉聡講師、松井健志助教と本ユニットの特任教員が、スーパーバイズや勉強会の機会を提供す

ることによって行った。すべての被養成者には、先述した生命・医療倫理学入門コース、および

特論の受講を義務付けた。これまでにポスドク・博士学生 9 名、修士学生 5 名を養成してきた。

実施体制(教員等の陣容)の整備状況/結果

(1) 生命・医療倫理学入門コース・講義および演習の実施体制 (平成 19 年度)

教授 (兼) : 赤林 朗

講師 (兼) : 児玉 聡

助教 (兼) : 松井 健志

特任講師 : 堂囿 俊彦

特任助教 : 小川 陽子

特任助教 : 額賀 淑郎

特任助教 : 林 芳紀

特任助教 : 水野 俊誠

特任研究員: 長尾 式子

特任研究員: 藤田 みさお

協力教員: 大橋 靖雄 (東京大学大学院医学系研究科)

協力教員: 甲斐 一郎 (東京大学大学院医学系研究科)

協力教員: 川上 憲人 (東京大学大学院医学系研究科)

協力教員: 徳永 勝士 (東京大学大学院医学系研究科)

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協力教員: 熊野 純彦 (東京大学大学院人文社会系研究科)

協力教員: 両角 吉晃 (東京大学大学院法学政治学研究科)

(2) 生命・医療倫理学入門コース・実習の実施体制

協力医療・研究機関

東京大学医学部附属病院救急医療部

東京大学大学院医学系研究科健康科学講座

東京大学大学院薬学系研究科

理化学研究所

国内製薬会社

国内医薬品開発業務受託機関

養成修了者数及びその到達レベル等に関する計画の達成状況/結果

平成 16 年度は、10 月に第1回生命・医療倫理学入門コースを開講した。公募により、医師、看護師、製

薬・民間企業、その他の医療従事者、報道機関関係者などの社会人が応募し、書類選考および抽選に

より 41 名を受け入れた。このうち 41 名に修了証を授与した。

また、同年度末にはコアカリキュラムである生命・医療倫理学入門コースに加え、リスクマネジメントに特

化したコース(リスクマネジメントコース)を開講した。平成 16 年度第 1 回リスクマネジメントコースでは、書

類選考および抽選により 30 名を受け入れた。このうち 27 名に修了証を授与した。

平成 17 年度は、4 月に平成 17 年度第 1 回生命・医療倫理学入門コースを開講し、書類選考および抽選

により 41 名を受入れた。このうち 41 名に修了証を授与した。同じく 10 月には、本年度第 2 回入門コース

を開講し、書類選考および抽選により 39 名を受け入れ、34 名が修了した。

また、同年度 8 月には、遠方の希望者にも広く門戸を開放すべく、夏期集中生命・医療倫理学入門コ

ースを開講した。書類選考および抽選により 75 名を受け入れ、全員に修了証が授与された。

さらに、同年度も、前年度に引き続きリスクマネジメントコースを開講した。同年 9 月の平成 17 年度リスク

マネジメントコース夏期集中講座では、書類選考および抽選により 57 名を受け入れ、56 名に修了証が授

与された。翌年 2 月開講の平成 17 年度第 1 回リスクマネジメントコースでは、書類選考および抽選により

39 名が受講、うち 37 名が修了した。

平成 18 年度は、4 月に平成 18 年度第 1 回生命・医療倫理学入門コースを開講した。書類選考および抽

選により 36 名を受入れた。このうち 34 名に修了証を授与した。同じく、同年度 8 月には夏期集中生命・

医療倫理学入門コースを開講した。書類選考および抽選により 67 名を受け入れ、全員に修了証が授与

された。さらに、翌年 3 月開講の平成 18 年度リスクマネジメントコースでは書類選考および抽選により 54

名を受け入れ、51 名に修了証が授与された。

平成 19 年度は、4 月に平成 19 年度第 1 回生命・医療倫理学入門コースを開講した。書類選考および抽

選により 42 名を受入れた。このうち 39 名に修了証を授与した。また、同年度 8 月開講の夏期集中生命・

医療倫理学入門コースでは、書類選考および抽選により 74 名を受け入れ、全員に修了証が授与され

た。

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2.目標の達成度

(1)養成人数の目標と実績

養成する人材のレベル 実績(目標) 19 年度ユニット所属者数

(うち 19 年度終了者数)

・ 大学院修士課程

・ 大学院博士課程

・ ポスドク

・ 実務家

− コンサルタント

− リスクマネージャー

5 人(4 人)

4 人(3 人)

5 人(3 人)

405 人(280 人)

171 人(0 人)

3 人(2 人)

3 人(0 人)

2 人(0 人)

0 人(0 人)

(目標は中間評価時変更後の目標)

上記の表に関して特記しておくべきは、実務家である生命・医療倫理コンサルタントの人材養成実績が、

目標を大きく上回っていることである。先述のとおり、本ユニットの開設当初は少人数による集中的なコー

ス(5 年間目標:総計 50 名)を予定していたが、受講者を公募した段階で予想を大幅に上回る申し込みが

あったため、養成目標人数を 1 回につき 30-40 名に増員した。また、ニーズの高さを考慮し、平成 17 年

度からは夜間や週末を中心とした通常(3ヶ月)コースに加え、そのエッセンスを凝縮したインテンシブコー

スとして「夏期集中生命・医療倫理学入門コース」(4 日間)を開講するなど、遠方からの参加希望にも応え

られるよう努めた。このように、より多くの実務家のニーズに応えるべく最大限の配慮を行った結果が、上

記のような、目標を大幅に上回る実績として結実したといえよう。

(2)養成人数以外の目標と実績

本ユニットが掲げる養成人数以外の目標とその実績としては、i)国内外の研究者を招いたセミナーやシ

ンポジウムを数多く開催し、日本における生命・医療倫理学教育・研究の基盤づくりに努めてきたこと、ii)

教科書や DVD など人材養成に有効な教材開発を通じて、日本における生命・医療倫理教育の標準化

作業を推進してきたこと、iii)ホームページやメーリングリストなどを通じ、生命・医療倫理学領域における

最近のトピックスなどの情報発信をしたり、人的ネットワークの形成に貢献したりしてきたこと、iv)各種メデ

ィア等を通じた情報発信を行ってきたことなどが挙げられる。

3.当初の計画どおりに進捗しなかった理由

コンサルタント養成における 3 年目と 5 年目の目標人数は、平成 15 年度の申請時当初、それぞれ 15

名、50 名としていた。しかし、中間評価報告の時点でこれを 120 名、280 名へと大幅に変更した。本コース

は多人数のマスを対象にしたものではなく、少人数に集中的に、講義、演習、実習を提供するものである。

そのため、最初の養成目標を 15 名と設定していたが、公募段階で予想を上回る受講申込があったため、

人材養成に対するニーズの高さを考慮し、養成目標を 1 回につき 40 名に変更した。

Page 12: 新興分野人材養成 事後評価 「生命・医療倫理人材 …新興分野人材養成 事後評価 「生命・医療倫理人材養成ユニット」 機関名:東京大学

10

4.中間評価の反映状況

中間評価結果(見通し等の指摘) 評価項目

評価 評価の概要

中間評価結果を踏まえた計

画等の見直し

今後の進め方 A 今後、より高度な専門職、

研究職レベルの人材養成

にも一層力を入れて取り

組むことが期待される。

これまでのコンサルタント養

成の取り組みを継続するとと

もに、専門職大学院(大学

院医学系研究科公共健康

医学専攻)にも講義を提供

するなど、専門職・研究者レ

ベルの養成にも努めた。

進捗状況(目標達成度)

a 今後、更に高度な判断を

委ねられるような専門職

や、先端医療や生命科学

の発展に伴う新たな倫理

問題について国際的なガ

イドライン作成に参画でき

るような研究職の養成が

期待される。

国内外の研究者を招いた講

演、ワークショップ、シンポジ

ウム等を数多く開催し、本ユ

ニットの養成対象の若手研

究者をその企画・運営に従

事させることで、若手研究者

が自主性を発揮しつつ、国

内外の研究者との交流を図

る環境整備に努めた。

養成手法の妥当性

b 被養成者数が当初予定よ

り大幅に増えていることか

ら、養成修了者の到達レ

ベルの確保に懸念があ

る。被養成者の到達度を

より客観的に測るための

基準・手法に工夫が求め

られる。

毎回の講義・演習の最後に

実施されるアンケート、およ

び、修了時に提出するレポ

ートにより、受講者の到達度

を随時確認する工夫を図っ

た。また、スタッフの陣容を

充実させたほか、すべての

スタッフが受講者各グルー

プのファシリテーターとして

常時運営に参画するなど、

きめ細やかな対応を行っ

た。さらに、入門コースのコ

ンテンツを収めた DVD 教材

や教科書など、新たな教材

を開発し、活用した。

人材養成の成果 b 被養成者の評価アンケー

トにおいて「役立ち度」と

「満足度」で約20パーセン

トが「そう思わない」と回答

入門コースの講義の一部を

大学院医学系研究科の開

講科目に組み入れることに

より、より多くの大学院生が

Page 13: 新興分野人材養成 事後評価 「生命・医療倫理人材 …新興分野人材養成 事後評価 「生命・医療倫理人材養成ユニット」 機関名:東京大学

11

している点から、更なる改

善の余地があると解され、

今後、評価アンケートの分

析とその結果のフィードバ

ックが望まれる。例えば、

実践的な倫理判断に役立

つ法律科目や海外の現状

を分析検討する科目など

のカリキュラム内容の一層

の充実化も考えられる。科

学技術の発達に伴い、生

命・医療倫理が強く求めら

れる中で大きな波及効果

が期待されるが、博士課

程の研究者でこうした領域

を修める者の一層の開拓

が望まれる。

生命・医療倫理の研究へと

動機付けられるよう、最大限

留意した。また、平成 18 年

度からは新たにポスドクレベ

ルのスタッフ 2 名を特任研究

員として採用し、研究者とし

て養成した。コース内で対応

し切れなかったがニーズの

高いと思われるトピックや、

倫理コンサルテーションなど

のより実践的な内容につい

ては、専門家を招いたシン

ポジウムやワークショップを

随時開催し、発展的な継続

学習の機会を創出した。

計画・実施体制及び継続性・発展

b 大幅な被養成者の増加に

対応した計画・体制が構

築されているものの、養成

される人材の質の維持の

観点から、今後、研究者

養成部門の対象人数を増

やすことによる将来の教育

側スタッフ育成など、何ら

かの対策が望まれる。ま

た、期間終了後の継続と

発展に向けた検討の具体

化が望まれる。

将来の教育側スタッフ育成

を視野に入れ、平成 18 年度

より新たに 2 名の特任研究

員を採用し、生命・医療倫理

学入門コースの実施・運営

に深く参与させた。また、大

学院医学系研究科公共健

康医学専攻の講義に本ユニ

ットで開発したコンテンツを

反映させ、教育内容の一層

の充実を図った。

注:「中間評価結果(見直し等の指摘)」の「評価」欄には、評価項目に係る評価結果(「a」~「d」のいずれ

か)を記入する。

5.人材養成の実施内容

(1)人材養成の手法・方法と実施結果

コンサルタント養成

①生命・医療倫理学入門コース

社会人(医学、看護など、医療系大学の教員・職員、研究所等の研究員・職員、病院の倫理委員会の

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委員になり得るすべての職種)を対象に、現場での倫理的問題に的確に助言を行うことができる人材を養

成することを目的とした。授業は講義、演習および実習からなる。

Ⅰ 講義 毎回、生命・医療倫理学の重要なトピックについて概観するととも

に、その内容についてのスモール・グループ・ディスカッション

(SGD:1 時間程度)を行う。

Ⅱ 演習 模擬の倫理委員会委員として、申請された架空の研究や臨床の事

例を検討する。

Ⅲ 実習 医学研究や医療の現場の観察実習を行う。

【募集、および選考方法】

受講生の募集については、当ユニットホームページへの掲示、学内・コース修了者メーリングリストへの

通知、全国医系大学倫理委員会への資料郵送、ポスターの掲示などを通じて周知に努めた。

選考はスタッフ数名からなる選考委員会によって、(1)申込書に書かれている受講理由を中心に、専門

性が偏らないように等、コース全体のバランスを考えて一次選考を書面審査で実施、(2)一次選考で受講

人数を大幅に上回るときには、二次選考を抽選によって行った。

【受講者数・修了者数・修了者率】

過去、全 5 回実施したコースの受講者数、修了者数、修了者率は以下のとおりである。

期間 受講者数 修了者数 修了者率

平成 16 年度(秋) 平成 16 年 10 月 14 日-平成 17 年 2 月 10 日 41 名 41 名 100.0%

平成 17 年度(春) 平成 17 年 4 月 7-7 月 14 日 41 名 41 名 100.0%

平成 17 年度(秋) 平成 17 年 10 月 20 日-平成 18 年 2 月 9 日 39 名 34 名 87.2%

平成 18 年度(春) 平成 18 年 4 月 13-7 月 13 日 36 名 34 名 94.4%

平成 19 年度(春) 平成 19 年 4 月 12 日‐7 月 12 日 42 名 39 名 92.9%

合計 199 名 189 名 95.0%

【カリキュラム】

Ⅰ 講義の具体的な内容

回数 講義タイトル・講師 概要

生命・医療倫理学とは

赤林 朗

「倫理」「生命倫理(学)」「バイオエシックス」「医療倫

理(学)」とは何か、これらの用語、概念を理解する。 第 1 回

倫理学の基礎 1

児玉 聡

倫理的問題について筋道立てて考え、議論するため

に必要な知識を理解する。

倫理学の基礎 2

奈良 雅俊

規範倫理学の理論に関する基礎知識を習得し、理論

が倫理的思考において果たす役割を理解する。 第 2 回

生物医学・医療倫理の原則と 医療倫理の四原則、尊厳、パターナリズム等の重要

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重要概念 水野 俊誠 概念について理解する。

第 3 回 法の基礎

稲葉 一人

法と道徳・倫理の違いと、法の基礎的知識、免許に関

する諸法、刑事法、民事法、判例を理解する。

第 4 回 守秘義務と個人情報保護

稲葉 一人/奈良 雅俊

守秘義務及びそれが問われる問題を理解する。個人

情報保護の仕組みを理解する。

医療従事者・患者関係

額賀 淑郎

医療従事者の専門職論、倫理綱領、医療従事者・患

者関係モデル等を理解する。 第 5 回

ケアの倫理

堂囿 俊彦

原則を中心とする倫理理論に対するオルタナティブと

して登場したケアの倫理を理解する。

第 6 回 医療資源の配分

児玉 聡

マクロ、ミクロの医療資源の配分にしばしば含まれる

倫理的問題を理解する。

第 7 回 インフォームド・コンセント

前田 正一/水野 俊誠

インフォームド・コンセントについて法的、倫理学的な

知識を習得する。

第 8 回 臨床症例の倫理的検討法

赤林 朗

臨床現場の具体的な症例における、倫理的問題点の

検討法の一例を理解する(四分割表)。

第 9 回 生殖医療

奈良 雅俊/堂囿 俊彦

生殖医療における倫理的問題について理解する。

新遺伝学

額賀 淑郎

新遺伝学を構成するトピックスを体系的に概観し、そ

の倫理的問題を理解する。 第 10 回

クローン技術

堂囿 俊彦

クローン技術について、科学的側面とともに、そこに

含まれる様々な倫理的問題を概観・検討する。

第 11 回 終末期医療の倫理

水野 俊誠/稲葉 一人

終末期医療の倫理問題について理解する。終末期に

おいて生ずる法的問題を概観する。

第 12 回 脳死・臓器移植

児玉 聡

脳死をめぐる議論の論点を、法的・倫理的問題と医学

的問題を区別し理解する。

第 13 回 リスクマネジメント

前田 正一

医療事故に関する問題を理解する。これにより、リスク

マネジメントを行う上で基本となる知識を習得する。

Ⅱ 演習(模擬倫理委員会)の具体的な内容

模擬倫理委員会演習は、土曜日午後(4 時間)、計 3 回行われた。第一回模擬倫理委員会では、PTSD

(心的外傷後ストレス障害)患者を対象とした研究計画書を例に、ヒトを対象とする臨床研究の審査に関

する演習を行った。その際には「臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)」を参照とした。第二回模擬

倫理委員会では、慢性関節リウマチ関連遺伝子解析研究の研究計画書を例に、「三省合同指針」(文部

科学省、厚生労働省、経済産業省)に則った形で、ヒトゲノム・遺伝子解析研究の審査に関する演習を行

った。第三回模擬倫理委員会では、終末期患者に対する胃ろう造設を例に、倫理コンサルテーションに

関する演習を行った。

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Ⅲ 実習(本ユニット外の機関において行うプログラム)の具体的な内容

生命・医療倫理学入門コース受講者のうち、希望者を対象に医療や医学研究の現場を見学する「実

習」を行った: ①東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学講座との共催で、「臨床試験ワークショップ」

を開催、大学病院臨床試験部、製薬会社、医薬品開発業務受託機関(Contract Research Organization:

CRO)、第 1 相試験の現場などを見学、②東京大学医学部付属病院救急医療部における夜間救急外来

を見学、③理化学研究所内にある生命科学研究の各種研究室、倫理委員会事務局などを見学。

【教材】

講義では、担当者作成のパワーポイント配布資料に加え、当ユニットスタッフが中心となり執筆、翻訳し

た『入門・医療倫理Ⅰ・Ⅱ』(赤林朗編、勁草書房、2005 年、2007 年)、『ケースブック医療倫理』(赤林朗

他、医学書院、2002 年)、『医療倫理』(児玉聡、赤林朗訳、トニー・ホープ著、岩波書店、2007 年)、『臨

床倫理学』(赤林朗、蔵田伸雄、児玉聡訳、アルバート・ジョンセン他著、新興医学出版社、2006 年)など

を用いた。

②夏期集中生命・医療倫理学入門コース

生命・医療倫理に関心のある社会人や学生を対象に、短期間で生命・医療倫理の基礎および倫理委

員会の概要を学んでもらうことを目的とした。コースは主としてⅠ 講義、およびⅡ 演習から構成されてい

る。ゲスト・スピーカーによる最新の話題提供や、受講生同士の交流を目的とした懇親会も行った。本集

中コースは、英米圏で行われている同様の生命・医療倫理学集中コースを改良・発展させ、日本で初め

て試みたものである。

【募集、および選考方法】

生命・医療倫理学入門コースと同じ。

【受講者数・修了者数・修了者率】

過去、全 3 回実施したコースの受講者数、修了者数、修了者率は以下のとおりである。

期間 受講者数 修了者数 修了者率

平成 17 年度 平成 17 年 8 月 18-21 日 75 名 75 名 100.0%

平成 18 年度 平成 18 年 8 月 3-6 日 67 名 67 名 100.0%

平成 19 年度 平成 19 年 8 月 2-5 日 74 名 74 名 100.0%

合計 216 名 216 名 100.0%

【特別講演会】

特別講演会は、コースの一環としてのみならず、広く一般にも公開した。平成 17 年度と 19 年度には当

該領域を牽引する著名な研究者である加藤尚武氏を講演者に迎え、それぞれ「21 世紀の生命倫理―自

己決定と社会的合意―」「東洋的な生命倫理は可能か」をテーマにシンポジウムを開催し、会場からも活

発な議論が出た。平成 18 年度には、米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学との共催により、倫理コンサル

テーションをテーマとした国際シンポジウムを開催した。

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【カリキュラム】

Ⅰ 講義の具体的な内容

日程 講義タイトル・講師 概要

生命・医療倫理学とは

赤林 朗

「倫理」「生命倫理(学)」「バイオエシックス」「医療倫

理(学)」とは何か、これらの用語、概念を理解する。

倫理学の基礎 1

児玉 聡

倫理的問題について筋道立てて考え、議論するため

に必要な知識を理解する。

第 1 日目

倫理学の基礎 2

奈良 雅俊

規範倫理学の理論に関する基礎知識を習得し、理論

が倫理的思考において果たす役割を理解する。

生物医学・医療倫理の原則と

重要概念 水野 俊誠

医療倫理の四原則、尊厳、パターナリズム等の重要

概念について理解する。

臨床症例の倫理的検討法

赤林 朗

臨床現場の具体的な症例における、倫理的問題点

の検討法の一例を理解する(四分割表)。

第 2 日目

法の基礎

稲葉 一人

法と道徳・倫理の違いと、法の基礎的知識、免許に関

する諸法、刑事法、民事法、判例を理解する。

インフォームド・コンセント

前田 正一/水野 俊誠

インフォームド・コンセントについて法的、倫理学的な

知識を習得する。

第 3 日目

ケアの倫理

堂囿 俊彦

原則を中心とする倫理理論に対するオルタナティブと

して登場したケアの倫理を理解する。

守秘義務と個人情報保護

稲葉 一人/奈良 雅俊

守秘義務及びそれが問われる問題を理解する。個人

情報保護の仕組みを理解する。

第 4 日目

医療従事者・患者関係

額賀 淑郎

医療従事者の専門職論、倫理綱領、医療従事者・患

者関係モデル等を理解する。

Ⅱ 演習(模擬倫理委員会)の具体的な内容

夏期集中コース開催中の 4 日間にわたり、(1)PTSD(心的外傷後ストレス障害)患者を対象とした研究

計画書を例にした、ヒトを対象とする臨床研究の審査、(2)終末期患者に対する胃ろう造設を例にした、

倫理コンサルテーションに関する演習、を行った。

【教材】

生命・医療倫理入門学コースと同じ。

③リスクマネジメントセミナー

わが国においては、相次ぐ重大な医療事故の発生や医療機関による事故後の不適切な対応から、近

年、メディカル・リスクマネジメントの重要性が唱えられている。こうした状況の中で、ほとんどの医療機関

は、最近、院内にリスクマネージャーを配置するようになった。しかし、リスクマネジメントに関する教育体

制はいまだ十分には整えられておらず、各医療機関は人を配置しても実効的に作業を進めることは出来

ない、という状況にある。そこで、医療の現場で事故や紛争・訴訟の防止について真に取り組むことが出

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来る人材を養成するために、リスクマネジメントコースを開講することにした。

平成 16 年度から 17 年度は「リスクマネジメント人材養成講座」として、また平成 18 年度は関連セミナー

として、「患者相談窓口における苦情相談対応のための実践講座」を行った。この関連セミナーは、近年

ニーズが高まりつつある患者相談窓口における患者からの苦情・相談対応を中心に、関連する内容につ

いて解説を加えるものである。

講義 毎回、リスクマネジメントの重要なトピックについて解説する。その多

くにおいて、可能な限り、スモール・グループ・ディスカッションないし

は実技演習を行う。

【募集、および選考方法】

受講生の募集については、当ユニットホームページへの掲示、学内・コース修了者メーリングリストへの

通知などを通じて周知に努めた。選考は、申込書に書かれている受講理由を中心に、専門性が偏らない

ように等、コース全体のバランスを考えて書類選考および抽選を行った。

【受講者数・修了者数・修了者率】

過去、全 4 回実施したコースの受講者数、修了者数・修了者率は以下のとおりである。

期間 受講者数 修了者数 修了者率

平成 16 年度 平成 17 年 2 月 5 日-3 月 20 日 30 名 27 名 90.0%

平成 17 年度(夏期) 平成 17 年 9 月 23-25 日 57 名 56 名 95.1%

平成 17 年度 平成 18 年 2 月 18 日-3 月 19 日 39 名 37 名 98.2%

平成 18 年度 平成 19 年 3 月 24-25 日 54 名 51 名 94.4%

合計 180 名 171 名 95.0%

【カリキュラム】

(例:平成 18 年度「患者相談窓口における苦情相談対応のための実践講座」より)

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研究者養成

東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻 医療倫理学分野の赤林朗教授(兼任)を中

心に、学内の学部生、院生を対象にした生命・医療倫理学特論を開講した。また、赤林朗教授、

児玉聡講師(兼任)、松井健志助教(兼任)と本ユニットの特任教員が、修士・博士課程、ポスド

クに研究指導を行なった。これまでの研究内容は以下のとおりである。(a)質的研究による内科外

来における医師・患者関係モデルについての研究、(b)日米比較視座における生命倫理政策の歴史

的考察、(c)エンハンスメントの倫理的問題、(d)日米における倫理コンサルテーションの機能、(e)生体肝移植ドナーの意思決定過程に関する質的研究、(f)判例を用いて「子の福祉」概念を整理す

る文献研究、(g)終末期医療における治療の中止と差し控えに関する意識調査、等。これらの研究

指導においては、通常の大学院教育では得られない学際的なユニット研究者スタッフらによる指

導が受けられることが特徴である。また、すべての被養成者には、先述した生命・医療倫理学入

門コースの受講を義務付けている。本コースは医療関連現場に携わる実務家のみならず、生命・

医療倫理学を学び始める研究者にとっても、基礎知識を身につけることができる体系的カリキュ

ラムである。さらに、実務家とともに受講し、人的ネットワークを構築することで、現場のニー

ズや問題に根ざした研究を行うことができることも特徴としてあげられる。

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(2)養成対象者の到達度評価の仕組みと実施結果

コンサルタント養成では、一定の要件を満たした受講者に修了証を発行した。生命・医療倫理学入門

コースでは、(1)生命・医療倫理学講義への 2/3 以上の出席、(2)演習(模擬倫理委員会)への 2/3 以上

の出席、(3)生命・医療倫理学に関する最終レポート(2000 字程度)、を修了証発行の要件とした。夏期

集中生命・医療倫理学入門コースでは、講義および演習への 5 割以上の出席を要件とした。最終レポー

トの内容についてはスタッフが目を通し、養成対象者が到達した知識やスキルのレベルを確認、出欠に

ついてもスタッフが毎回講義の始めに確認を行った。リスクマネジメントセミナーでは、全講義の受講を条

件に、修了証(受講時間 12 時間と表記)を発行した。出欠に関しては、講師が毎回講義の始めに確認し

た。

生命・医療倫理学入門コースの全修了者数は 189 名で、修了率は 95.0%であった。全 13 回の夜間講義、

3回の週末演習と約3ヶ月にわたるスケジュールであったにもかかわらず、履修者の修了率は非常に高か

ったといえよう。休暇などを利用して遠方より受講することが可能な夏期集中生命・医療倫理学入門コー

スにいたっては、全修了者数は 216 名であり、修了率は 100%であった。リスクマネジメントセミナーでは、

全修了者数171名、修了率は95.0%であった。履修者の中には関東近郊在住の者だけでなく遠方在住の

者もおり、また年度末の多忙な時期の開催がほとんどであったにもかかわらず、9 割以上が修了できたこ

とは、受講生らのニーズや動機づけの高さを反映しているものと考えられる。

研究者養成では、これまでにポスドク・博士学生 9 名、修士学生 5 名を養成してきた。学生の中には、修

士課程在籍時より学会シンポジウムの提題者として登壇し、日本における当該問題の代表的研究者とし

て将来を嘱望される者も現れ始めている。国際学会における研究成果の発表も積極的に行っているほか、

国内の大学教員として採用された者もおり、現時点での育成成果を示す事項として特筆に値する。

(3)人材養成システムの改善状況(被養成者の評価等の反映)

コンサルタント養成の対象者に対しては、毎回、講義・演習内容等に関するアンケート調査を実施した。

スタッフがそれらを、講義・演習から 1 週間後のミーティングにおいて、再評価・検討した。たとえば、架空

の研究計画書を審議する模擬倫理委員会(演習)では、「研究計画書に前もって目を通したい。演習の

数日前に配布してほしい」という要望が数名の受講者から寄せられたため、要望に合わせて進行方法に

変更・工夫を加えた。これとは別に、外部の有識者数名に対し講義・演習への参加を依頼し、外部評価

(書面による総合評価)を要請した。これについても、スタッフ全員によるミーティングで再評価・検討を行

ったのち、各講義の担当者が各自の講義、演習内容に反映させ、修正を加えた。

6.人材養成プログラムの有効性

(1) 有用性(被養成者による評価、養成従事者による評価、養成修了者の進路、外部有識者による評価、

養成修了者の追跡調査など)

2007 年 12 月に、生命・医療倫理学入門コース修了生のメーリングリストを通じて、アンケート形式による

授業評価を依頼した。アンケートを送付したメーリングリスト登録者 364 名中、143 名から回答を得た(回収

率 39.3%)。回答者のうち、3 ヶ月コースを受講した者 67 名(47%)、夏期集中コースを受講した者 74 名

(52%)、2 名(1%)は両方受講していた。コースを受講した感想は「たいへん役に立った」が 80%、「まあ役に

立った」が 19%と、合わせて 100%に近い高い評価を受けていることが明らかになった。

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19

コースを受講した感想

19%

80%

1% 0%

 1. たいへん役に立った

 2. まあ役に立った

 3. あまり役に立たなかった

 4. まったく役に立たなかった

コンサルタント養成の講義に申し込んだ受講生は、診療科長部長、教育研修担当者、教育職、倫理委

員会委員、倫理委員会事務局員等、所属する分野で主導的立場にある者であり、本コースで得られた知

見を、より一層、具体的に現場に還元することが期待される。

同アンケートでは、受講後の仕事や活動の変化についても尋ねた。これに対しては、「看護師の研修で

倫理の講義等を担当するようになった」「倫理コンサルテーションを受けるようになった」「倫理委員会の委

員になった」「倫理的ジレンマに関連した学位論文に取り組んでいる」「院内の倫理教育プロジェクトメン

バーとなった」「社内セミナーを実施し、医療倫理に関する重要性を広める役割を担っている」などの記載

が寄せられた。本ユニットでは人材養成計画の目標に、「医療現場で発生する倫理的諸問題への対処力

を持ち、倫理委員会の運営や現場の教育を担うことのできる」能力の習得を掲げた。修了者の中にコース

終了後、倫理委員会の委員に就任したり、その教育に携わったりする者がいるという事実は、このような目

標が十分に達成できたことを示唆していると思われる。

また、アンケートの自由回答では、「『応用編』を是非開催してください」「今後も、生命・医療倫理につい

て種々議論をするフォーラムが、何らかの形で残って欲しいと思います」「継続的にプログラムを根付かせ

てください」「出張講座をしていただければあり難いです」など、何らかのかたちで人材養成プログラムの

継続を望む声も多数寄せられた。

研究者養成は、生命・医療倫理領域に関する専門的知識を持ち、一定の学位を取得している者を対

象にしたものであり、修了時に習得を期待される能力として、研究成果を国際誌等に発表し、国内外のシ

ンポジウム等を企画できることをあげた。その点で評価すれば、後述するように、「研究成果発表等」計23

回、「国際会議などでの発表実績」計4件、国内外の査読つき雑誌も含めた「主要雑誌への研究成果発

表」計41件と目覚しい研究成果をあげている。また、本ユニットで開催した国内外のシンポジウムやセミナ

ー(後述)では、企画、運営の中心的な役割を担って成功を収めており、こうした事実からも所期の能力は

十分に習得できているものと評価できる。

(2)波及効果

これまでに構築してきた生命・医療倫理教育プログラムはテキストのかたちでまとめ、『入門・医療倫理

I』(2005 年)、『入門・医療倫理 II』(2007 年)として出版した。新聞および国内の主要学術誌の書評などに

おいて、これらは専門家の間でも高い評価を得(『倫理学研究』第 36 号 2006 年、日本経済新聞 2007 年

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6 月 10 日、日本生命倫理学会ニューズレター No.36、2007 年など)、『入門・医療倫理 I』は 4 刷、『入門・

医療倫理 II』は 2 刷を重ねている。また、『生命・医療倫理学入門(DVD)』(2005 年)も公刊した。さらに、

海外において主要テキストといわれるジョンセンら『臨床倫理学(第 5 版)』(2006 年)、ホープ『医療倫理』

(2007 年)の翻訳を行い、国内における当該分野の形成に役立ってきたといえる。これらの教材は、いず

れも現時点での日本における標準的・体系的な生命・医療倫理学教材として定着している。

また、生命・医療倫理学入門コース、夏期集中生命・医療倫理学入門コースの修了者を中心としたメー

リングリストを開設し、各種シンポジウム、研究会等に関する情報を送信している。コース修了者自身によ

る自発的なメーリングリストも開設され、活発なネットワークづくりや意見交換が行われており、自主的な定

期勉強会も開催されている。当ユニットのスタッフも頻繁に参加しており、2005 年 4 月を皮切りに、2008 年

度末までに計 10 回の勉強会が開催された。とりあげたトピックも、川崎協同病院事件など終末期医療に

おける治療中止と差し控えの問題、代理出産をはじめとする生殖補助医療、脳神経科学と倫理(ニューロ

エシックス)など、現代的意義が深いものであった。

(3)情報発信の状況

当ユニットではこれまでに次のような国際セミナー、講演会などを開催した。“Vaccination policies:

some ethical issues”(2004 年 10 月 5 日)、“Care, social responsibility & foundations—Hans Jonas,

Wittgenstein & Dogen Zenji”(2004 年 10 月 22 日)、“Conflict of interest””Ethics committees: IRB and

HEC”(2004 年 11 月 15 日)、“Teaching Malaysian students about medical ethics” (2005 年 6 月 28 日)、

“Critical terms in public health ethics” (2005 年 12 月 22・26 日)、“The long dying of Terri

Schiavo-private tragedy, public danger” (2005 年 12 月 27 日)、“Ethics on international collaborative

research”、“Virtue ethics and physician conflicts of interest” (2007 年 1 月 22 日)、“Teaching medical

ethics”(2007 年 10 月 19 日)。また、国内外の著名な研究者を招聘し、広く一般に公開した国際シンポジ

ウム、「倫理コンサルテーションの現状と展望―臨床現場における日米の取り組み」(2006 年 8 月 5 日、ケ

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ース・ウェスタン・リザーブ大学との共催)や「東洋的な生命倫理―政策と学問の未来」(2007 年 10 月 22

日、シンガポール国立大学医療倫理学研究所との共催)、「予防接種の全世界的課題―法的課題と倫

理的難問」(2007 年 3 月、12 月、ペンシルヴァニア大学との共催)では、聴衆からも高い評価を得ることが

できた。また、国内の研究者を招聘して、「倫理委員会の現在と展望」(2004 年 9 月 23 日・CBEL 設立記

念シンポジウム)、「21 世紀の生命倫理―自己決定と社会的合意―」(2005 年 8 月 20 日)、「東洋的な生

命倫理は可能か」(2007 年 8 月 4 日)といったシンポジウムも開催し、盛況を得た。

新聞、業界紙等のメディアを通じた情報発信も行ってきた。朝日新聞(2004 年 9 月 19 日付オンライン

版)、読売新聞(2004年6月20日付朝刊)といった一般紙に加えて、日経産業新聞(2004年10月7日付)、

日刊薬業(2004 年 9 月 6 日付)、日本醫事新報(2004 年 10 月 30 日付)等の業界紙、さらに月刊ナースデ

ータ(vol.25. no.11)、Monthly ミクス(2004 年 9 月号)、日経 BP(2004 年 8 月 31 日付オンライン版)といった

雑誌に本ユニットを紹介する記事が掲載された。また、本ユニット教員の前田正一が週刊医学界新聞

(2005 年 1 月 17 日付)、前田正一、児玉聡が読売新聞北海道版(2004 年 5 月 20 日付朝刊)で、それぞ

れインフォームド・コンセント、終末期医療に関する提言を行った。2006年、射水市民病院事件を受けて4

月には赤林朗、奈良雅俊が(富山テレビ、4 月 17 日)、10 月には児玉聡が(フジテレビ、10 月 14 日)専門

家としてコメントした。

本ユニットのホームページ(http://square.umin.ac.jp/CBEL/)では、生命・医療倫理学の基礎資料や

最近のトピックスなど、定期的な情報発信を行っている。このほか、本ユニットの紹介、公開講座やシンポ

ジウムについてのお知らせ、よくある質問(FAQ)や問い合わせへの対応、生命・医療倫理関連サイトへの

リンク集なども掲載している。なお、一部は英語での閲覧が可能である。

7.実施体制への関与状況

本ユニットは、医学系研究科における倫理委員会、治験審査委員会や研究倫理セミナーの開催、さら

に附属病院の患者相談・臨床倫理センターの運営など、実務・研究においても多大な貢献をしてきた。さ

らに、ヘイスティングス・センター、米国NIH、ケース・ウェスタン・リザーブ大学、ペンシルヴァニア大学、オ

ックスフォード大学、ベルゲン大学、モナシュ大学、シンガポール国立大学など、諸外国の生命・医療倫

理研究センターとの相互交流を深め、国際シンポジウムを開催したり、共同研究プロジェクトを展開し、そ

の成果は海外の学術誌に発表する等、積極的な情報発信を行った。

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8.成果の発表状況

(1)養成された人材による研究成果

【研究成果発表等】(23 回、付録参照)

【特許等出願】(0 件)

該当なし

【国際会議などでの発表実績】(4 件、特任研究員 1 名、付録参照)

1. The 3rd International Symposium on Living Donor Organ Transplantation (Essen, Germany),

June, 2007 (invited). “Understanding the donor’s decision making process.”

2. The 2006 Joint International Congress of IKTS, ELTA & LICAGE (Milan, Italy) May 3-6, 2006.

“A model of donors’ decision-making in adult-to-adult living donor liver transplantation in

Japan: having no choice.”

3. The 18th World Congress on Psychosomatic Medicine (Kobe), August 23, 2005. “Three patterns

of voluntary consent in the case of adult-to-adult living related liver transplantation in Japan”.

4. Intercultural Exchange Forum in Kyoto –Case Western Reserve & Kyoto University Joint

Workshop–(Kyoto), July 2003. “Three patterns of voluntary consent in the case of

adult-to-adult living related liver transplantation in Japan.”

【主要雑誌への研究成果発表】(42 件)

(実線下線は養成された人材氏名、破線下線は養成従事者名)

1. Nagao N, Aulisio MP, Nukaga Y, Fujita M, Kosugi S, Youngner S, Akabayashi A. Clinical Ethics

Consultation: Examining how American and Japanese experts analyze an Alzheimer’s case. BMC

Med Ethics 2008; 9: 2.(査読あり)

2. Slingsby BT, Plotnikoff GA, Mizuno T, Akabayashi A. Physician strategies for addressing

patient adherence to prescribed psychotropic medications in Japan: a qualitative study. J Clinical

Pharmacy and Therapeutics 2007; 32: 241-245.(査読あり)

3. 伊吹友秀、児玉聡.「エンハンスメント概念の分析とその含意」『生命倫理』 2007; 17: 47-55.

(査読あり)

4. 金一裕之、額賀淑郎、佐伯浩治.「我が国の科学技術政策に関する歴史的考察、ライフサイエ

ンス推進基盤整備:1970年代の組換DNA実験規制に関する政策決定プロセスを事例として」中

島邦雄代表、文部科学省科学技術振興調整費報告書『我が国の科学技術政策に関する歴史

的考察』 2007年、 pp. 735-59.

5. Fujita M, Akabayashi A, Slingsby BT, Kosugi S, Fujimoto Y, Tanaka K. A model of donors’

decision-making in adult-to-adult living donor liver transplantation in Japan: ‘Having no

choice.’ Liver Transplantation 2006; 12: 768-74. (査読あり)

6. 林芳紀.「倫理学者のセンとのつきあい方——センの『コミットメント』論——」『倫理学研究』 2006;36:132-7.

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7. Slingsby BT, Akabayashi A. Live organ-donation for islet transplantation. Lancet 2005; 366:

26-7. (査読あり)ほか

8. Akabayashi A, Slingsby BT, Nagao N, Kai I, Sato H.:A five year follow-up national study of

ethics committees in medical organizations in Japan, HEC Forum, 20(1), 49-60, (2008)

(2)養成従事者による養成手法に関する成果

【研究成果発表等】(89 件、付録参照)

【特許等出願】(0 件)

該当なし

【国際会議などでの発表実績】(4 件、助教 1 名、特任助教 1 名)

1. The 5th International Course on Research Ethics, organized by Institute of Tropical Medicine

Nagasaki University, the US National Institutes of Health, University of Bergen Norway,

FERCAP, and WHO/TDR. Nagasaki, Japan, 24-26 July 2006. “Informed Consent: ideal &

reality.”

2. Conference on International Collaborative Research and Health Ethics, organized by

WHO-SEARO and WHO-WPRO, Jakarta, Indonesia, November 29-December 1, 2005, (Invited).

“People’s Responses towards Genetic Epidemiological Database: Japan’s case.”

3. The Workshop on Public Health and Human Genome Research in the Postgenome Era: ELSI

Issues, HGM2005, HUGO’s 10th International Human Genome Meeting, Kyoto, Japan, April 20,

2005. “Subjects’ responses towards a population-based genetic cohort study: Ethical issues.”

4. International Society for History, Philosophy, Social Sciences of Biology (University of Vienna)

July 16 2003. “The Notion of Heredity and the Use of Family Trees.”

【主要雑誌への研究成果発表】(169 件)

1. Akabayashi A, Slingsby BT, Nagao N, Kai I, Sato H. An eight-year follow-up national study of

medical school and general hospital ethics committees in Japan. BMC Med Ethics 2007; 8: 8.(査

読あり)

2. Takimoto Y, Maeda S, Slingsby BT, Harada K, Nagase T, Nagawa H, Nagai R, Akabayashi A. A

template for informed consent forms in medical examination and treatment: an intervention study.

Med Sci Monit 2007; 13(8): PH15-8.(査読あり)

3. 児玉聡. 「デッド・ドナー・ルールの倫理学的検討」『生命倫理』 2007; 17:183-189.(査読あり)

4. Matsui K, Lie RK, Kita Y. Two Methods of Obtaining Informed Consent in a Genetic

Epidemiological Study: Effects on Understanding. Journal of Empirical Research on Human

Research Ethics 2007; 2(3): 39-48. (査読あり)

5. 額賀淑郎、金一裕之、赤林朗.「日本における生命倫理政策の歴史的展開:生命倫理委員会

の合意形成」『生命倫理』 2007; 18:65-73. (査読あり)

6. 林芳紀.「脳倫理学のなかの倫理学者」『実践哲学研究』 2007; 30: 71-94.(査読あり)

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7. 堂囿俊彦.「〔解説〕今、なぜ倫理が問われるのか?」『ヘルスケアレストラン』 2007年、55頁.

8. Mizuno T, Slingsby BT. Eye on religion: Considering the influence of Buddhist and Shinto

thought on contemporary Japanese bioethics. Southern Medical Journal 2007; 100: 115-7. (査

読あり)

9. Akabayahsi A, Slingsby BT. Informed consent revisited: Japan and US. American Journal of

Bioethics 2006; 6(1): 9-14. (査読あり)

10. 奈良雅俊.「自然中心主義、動物の権利」小松光彦・樽井正義・谷寿美(編)『倫理学案内―理

論と課題』慶應義塾大学出版会、2006年.

11. Maeda S, Takimoto Y, Baba M. Consent form: Disclosure of sufficient information. MedSafe-OJ

2005: 1-10. (査読あり)、ほか

12. 額賀淑郎:「大統領委員会と体細胞遺伝子治療:米国における規制科学の分析」,『生物学史

研究』80, (2008年)(forthcoming)

13. 堂囿俊彦:「人間の尊厳と公序良俗――代理懐胎を手がかりとして――」,『生命倫理』19,

(2008年)(forthcoming)

14. Akabayashi A, Kodama S, Slingsby BT.:Is Asian bioethics really the solution? Camb Q Healthc

Ethics, 17 (3), 270-2, (2008)

Ⅳ.本プログラム終了後の継続実施状況

本ユニットで開発した生命・医療倫理教育コンテンツの一部は、平成 19 年度に東京大学に新設された

大学院医学系研究科公共健康医学専攻の講義に、基礎教育カリキュラムとして組み込まれ、活用された。

また、修了生のネットワークと研究会が継続されている。さらに、平成 20 年度に採択されたグローバル

COE「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」(拠点リーダー・赤林 朗)に本ユニットの成果の

一部が利用される。例えば、このCOEプログラムでは、基礎・専門・発展という三段階からなる大学院教

育を実施する予定であるが、本ユニットで開発された教育プログラムの一部は、基礎レベルの教育として

組み込まれる。また、本ユニットで開発されたリカレント教育の手法の一部も継続して利用される。

Ⅴ.自己評価

1.目標達成度

コンサルタント養成部門においては、この 5 年間で総計 571 名にも上る入門コース修了者を輩出した。

これは、申請時目標の約 11 倍、中間報告時変更後目標の約 2 倍に相当する人数であり、目標を大幅に

上回る成果を上げることができたと言える。この領域に対する実務家からのニーズの高さに後押しされる

形で、約 3 ヶ月にわたって実施される通常の生命・医療倫理学入門コースに加えて、4 日間のインテンシ

ブコースである同夏期集中入門コースを開講するなど日程の多様化を図ったことや、DVD・教科書などの

教材開発を通じて基礎カリキュラムのコンテンツの標準化を推し進めたことが奏効し、上記の成果に結実

したものと考える。

また、研究者養成部門においても、5 年間で大学院修士課程 5 人、同博士課程 4 人、ポスドク 5 人を養

成し、所期の目標に到達したものと考える。養成対象となった大学院生や若手研究者はいずれも積極的

な研究活動に邁進しており、中には修士課程在籍時より学会シンポジウムの提題者として登壇し、

日本における代表的研究者として将来を嘱望される者や、海外国際学会から招待講演を依頼され

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る者、国内の大学教員として採用された者も現れるなど、「研究成果を国際誌等に発表し、国内外

のシンポジウム等を企画できる能力」を持つ研究者の養成という本部門の目標は、十分に達成さ

れたと判断する。

2.人材養成手法の妥当性

コンサルタント養成と研究者養成の両部門のコアカリキュラムと位置づけられる「生命・医療倫理学入門

コース」は、生命・医療倫理学の重要なトピックについて概観し、その内容についてのスモール・グルー

プ・ディスカッションを行う「講義」と、模擬の倫理委員会委員として、申請された架空の研究や臨床の事

例を検討する「演習」、医学研究や医療の現場の観察実習を行う「実習」によって構成されている。カリキ

ュラムの開発に当たっては、各国の主要研究・教育機関から生命・医療倫理に関するシラバスを取り寄せ、

ケネディ倫理研究所やモナシュ大学などにスタッフが直接赴き類似した講義を受講するなど綿密な情報

収集とリサーチを行った。それらの結果はスタッフ会議で共有し、内容の分析を行い、体系的・標準的な

カリキュラムの構築を図った。実際の倫理委員会の委員になる者等、実務家に向けた内容や、模擬倫理

委員会の利用は、世界的にも例がなく、海外の主要研究・教育機関の提供するものと比較しても優れて

いると評価している。この入門コースの人材養成手法は、医学、哲学、倫理学、法学、社会学、心理学な

ど多様な学問分野を背景に持つスタッフの緊密な連携に基づいて企画・運営された真の意味で学際的

な試みであり、知識の伝授などの座学が中心となりがちであった哲学者・倫理学者寄りの生命・医療倫理

教育や、臨床家の体験に根差しており体系性や一貫性を欠如しがちであった医療従事者寄りの生命・医

療倫理教育の難点を克服し、理論と実践のバランスを保ちながらも体系的な知識の習得を指向している。

その点で、本入門コースは、国内の生命・医療倫理学教育の枠内にとどまらず世界的な視野から眺めて

も、非常に画期的で効果的な教育手法であったと自負するものである。

なお、コンサルタント養成部門で習得を目指されている「医療現場で発生する倫理的諸問題への対処

力を持ち、倫理委員会の運営や現場の教育を担うことのできる能力」は、その性質上具体的に数値化し

て測定することが困難である。だが、修了者からのアンケート結果がいずれの項目においても常に高い水

準を保っている事実や、後述の「人材養成の有効性」で指摘されるような修了者のその後の活躍などは、

本ユニットの人材養成手法の妥当性を例証するものと言えよう。

研究者養成に際しては、以下の点に配慮した。まず、生命・医療倫理学は学際性を特徴とする学問分

野であることから、医学・倫理学・法学・社会学・心理学など多様な背景を持つスタッフが緊密な連携を図

りつつ、教育・研究の両面にわたる能力の育成を試みてきた。とりわけ、国内外の多様な学問領域の第一

人者を招いた国際シンポジウムやセミナー、国際会議などを数多く開催し、その企画・運営に若手研究者

を積極的に参画させるなど、国際的競争力の養成を見据えた研究能力の推進を図った。また、生命・医

療倫理学は単なる座学ではないことから、理論と実践の両側面からアプローチするよう指導した。

3.人材養成の有効性

コンサルタント養成の講義に申し込んだ受講生は、診療科長部長、教育研修担当者、教育職、倫理委

員会委員、倫理委員会事務局員等、所属する部署で主導的立場にある者であり、多くが症例検討会や

臨床研究、教育等の現場に、本コースで得られた知見を還元しているものと想定される。実際、受講後の

仕事や活動の変化について、「看護師の研修で倫理の講義等を担当するようになった」「倫理コンサルテ

ーションを受けるようになった」「倫理委員会の委員になった」「倫理的ジレンマに関連した学位論文に取

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り組んでいる」「院内の倫理教育プロジェクトメンバーとなった」「社内セミナーを実施し、医療倫理に関す

る重要性を広める役割を担っている」などの報告が寄せられており、本ユニットが構築した人材養成手法

が、「医療現場で発生する倫理的諸問題への対処力を持ち、倫理委員会の運営や現場の教育を担うこと

のできる能力」を習得するうえで、十分に有効であったものと考えられる。

研究者養成においては、ポスドク・博士学生 9 名、修士学生 5 名を養成した。加えて、「研究成果発表

等」計 23 回、「国際会議などでの発表実績」計 4 件、国内外の査読つき雑誌も含めた「主要雑誌への研

究成果発表」計 41 件と、目覚しい研究成果をあげてきた。特に時間を要する研究者養成において、すで

に国内外の学会で将来を嘱望される者も現れ、大学教員として採用された者もいることは、現時点での育

成成果として特筆に値する。本ユニットで開催した国内外のシンポジウムやセミナーでも、被養成者らは

企画、運営の中心的な役割を担って成功を収めている。これらの事実より、当ユニットにおける研究者養

成プログラムは十分にその機能を果たしており、有効性についても十分に高く評価できるものと考えてい

る。

4.実施計画・実施体制及び継続性・発展性の見通し

生命・医療倫理学入門コースにおける定員増加、リスクマネジメントセミナーの開設は、当初の実施計

画では想定していなかった。いずれも、当該領域における人材養成講座の非常に高いニーズを受けての

変更であったが、予算上、実施体制における新たなスタッフの拡充は 2 名にとどまった。しかし、教育の質

を落とさず受講者の学習効果を高める方法として、すべてのスタッフが受講者各グループのファシリテー

ターとして常時運営に参画するなど、きめ細やかな対応を行った。さらに、入門コースのコンテンツを収め

た DVD 教材や教科書『入門・医療倫理Ⅰ・Ⅱ』(2005 年、2007 年)などを開発した。コース内で対応し切

れなかったがニーズの高いと思われるトピックや、倫理コンサルテーションなどのより実践的な内容につい

ては、専門家を招いたシンポジウムやワークショップを随時開催し、発展的な継続学習の機会を創出した。

毎回の講義・演習の最後に実施されるアンケート、および、修了時に提出するレポートにより、受講者の

到達度を随時確認する工夫を引き続き図った。こうした試みが奏効し、コース受講修了者からは本ユニッ

トの継続についての要望も高く、最終アンケートの自由記載にも、「『応用編』を是非開催してください」

「今後も、生命・医療倫理について種々議論をするフォーラムが、何らかの形で残って欲しいと思います」

「継続的にプログラムを根付かせてください」「出張講座をしていただければあり難いです」などといった声

が多数寄せられた。

本ユニットで開発した生命・医療倫理教育コンテンツの一部は、平成 19 年度に東京大学に新設された、

大学院医学系研究科公共健康医学専攻の講義に、基礎教育カリキュラムとして組み込まれた。また、修

了生のネットワークは修了生自身の自主的な研究会として継続されている。さらに、招聘外国人研究者の

所属する機関との国際連携を強化し、従来に増して精力的な研究者養成に取り組む予定である。

5.中間評価の反映

中間報告における総評「優れた成果が期待できる取組であり、計画を継続するべきである」(今後の進

め方:A)を受け、以後もこれまでの本ユニットの取り組みを基本的には継承しつつ、主に指摘された側面

について改善を試みた。

まず、「養成手法の妥当性」の項目で、被養成者数の大幅な増加に伴う「養成修了者の到達レベルの

確保」に対する懸念が指摘されたことを受け、アンケート等の受講者からのフィードバックの強化や、スタ

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ッフの陣容の充実も含めたコース運営上の対応、コースに即応した新たな教材の開発と活用など、可能

なかぎりの工夫を試みた。

次に、「今後の進め方」や「進捗状況(目標達成度)」項目では、より高度な専門職・研究職レベルの人

材養成の必要性が指摘され、「人材養成の成果」項目でもカリキュラム内容の一層の高度化・充実化の必

要性が示唆されていた。これらの指摘への対応として、講演、ワークショップ、シンポジウム等を数多く開

催し、若手研究者が自主性を発揮しつつ国内外の研究者と交流するとともに、入門コース修了者がより

高度な問題に触れられるような機会が創出されるよう努めた。さらに、専門職大学院(公共健康医学専

攻)の講義に本ユニットで開発されたコンテンツを組み込むとともに、応用コース用の教材として『入門・医

療倫理 II』を新たに開発した。

最後に、「人材養成の成果」において指摘された「博士課程の研究者でこうした領域を修める者の一層

の開拓」に関しては、平成 18 年度よりポスドク 2 名を特任研究員として新たに採用し、研究者として養成し

たほか、生命・医療倫理学入門コースの実施・運営にも深く参与させた。大学院医学系研究科で実施さ

れている生命・医療倫理教育プログラムを他研究科などにも開放する、他専攻や他研究科に所属する大

学院生との交流を推進し分野横断的な教育・研究プロジェクトを展開するなどの試みも行った。