構造改革評価報告書3のポイント - cabinet office ·...

124
1 (備考)1.2003 年 7月時点、100kbps あたり料金の比較 2.ITU ‘Internet Reports 2003:Birth of Broadband より総務省作成(「平成 16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント 1.世界最高水準のIT社会への基盤は整ったか 【成果】 世界で最も安く高速なネットワーク・インフラを整備(ADSL )。こ れにより、ブロードバンド契約数も 2001 年以降、急増。 携帯電話からのインターネット利用は、日本と韓国が突出。 【課題】 ADSL は普及しつつあるが、急激な技術革新や多様な利用ニーズへ の対応の点からは、FTTH 、無線 LAN など多様なインフラ整備が望 まれる。 携帯電話市場における新規参入を含めた一層の競争促進と周波数 の有効活用。 【対応策】 各インフラ分野の状況を踏まえつつ、競争を通じた整備の促進が 基本。 0.09 0.25 1.15 1.27 2.21 2.71 3.07 3.25 3.36 3.53 4.42 0 1 2 3 4 5 ドル 26.0 20.0 3.0 3.0 2.0 2.0 1.5 1.5 0 5 10 15 20 25 30 日本 韓国 ベルギー 香港 デンマーク フィンランド シンガポール 米国 (下り、Mbps) 図表2 ブロードバンド(ADSL 通信速度の国際比較 (備考)1.ADSL 下りの通信速度による比較 2.ITU ‘Internet Reports 2003:Bi Broadband ’より内閣官房IT担当室が作 成した資料より引用 図表1 ブロードバンド料金の国際比較

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Page 1: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

要 1

(備考)1.2003 年7 月時点、100kbps あたり料金の比較 2.ITU‘Internet Reports 2003:Birth of Broadband’

より総務省作成(「平成 16 年 情報通信に関する現状報告」より引用)

構造改革評価報告書3のポイント

1.世界最高水準のIT 社会への基盤は整ったか

【成果】

○ 世界で最も安く高速なネットワーク・インフラを整備(ADSL)。こ

れにより、ブロードバンド契約数も 2001年以降、急増。

○ 携帯電話からのインターネット利用は、日本と韓国が突出。 【課題】

○ ADSL は普及しつつあるが、急激な技術革新や多様な利用ニーズへ

の対応の点からは、FTTH、無線LAN など多様なインフラ整備が望

まれる。

○ 携帯電話市場における新規参入を含めた一層の競争促進と周波数

の有効活用。 【対応策】

○ 各インフラ分野の状況を踏まえつつ、競争を通じた整備の促進が

基本。

0.09 0.25

1.15 1.27

2.21

2.713.07

3.25 3.363.53

4.42

0

1

2

3

4

5

日本

韓国

ベルギー

香港

シンガ

ポール

ニュージー

ランド

中国

カナダ

オランダ

米国

ドイツ

ドル

26.0

20.0

3.0

3.0

2 .0

2 .0

1.5

1.5

0 5 1 0 15 2 0 2 5 30

日 本

韓 国

ベルギー

香 港

デンマーク

フィンランド

シンガポール

米 国

(下り、M b p s)

図表2 ブロードバンド(ADSL) 通信速度の国際比較

(備考)1.ADSL 下りの通信速度による比較 2.ITU‘Internet Reports 2003:Birth of

Broadband’より内閣官房 IT 担当室が作成した資料より引用

図表1 ブロードバンド料金の国際比較

Page 2: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

要 2

1,120

7 0 2

238

2 5 8

207

146

1 1 4

31

2.6

3

3

0.8

-

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1999 2000 2001 2002 2003

万契約

無線

FTTH

CATV

DSL

図表3 ブロードバンド契約数の推移

(備考)総務省「平成 16年 情報通信に関する現状報告」より引用

図表4 携帯電話のインターネット対応率国際比較

図表5 携帯電話のシェア

(備考)1.2003 年9 月末の比較。

2.「3G Mobile」により総務省作成(総務省「平成 16年 情報通信に関する現状報告」より引用)

NTTドコモ56%

au22%

ツーカー4%

ボーダフォン18%

(備考)電気通信事業者協会ホームページより作成 2004 年9 月現在

24.4

30.9 25.3

22.4 21.7 20.2

87.089.5

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

日本 韓国 中国 シンガポール

台湾 イタリア カナダ オーストリア

Page 3: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

要 3

3.6% 0.1%

96.3%

インターネットで世の中が便利になったと思う

便利になったと思わない

どちらともいえない

40.9%

46.9%

49.6%

43.0%

40.0%

22.6%

33.5%

24.2%

19.8%

24.5%

40.9%

47.0%

49.0%

76.5%

7.3%

18.7%

9.1%

9.6%

10.1%

57.0%

0.8%

0.1%

17.1%

0.9%

0.5%

0.4%

4.4%

5.8%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

家族の安全や食品の安全等

欲しいものが安く買える

店頭や役所に出向かずに買物・手続

消費等の選択肢の拡大

遠距離・即時のコミュニケーション

24時間いつでも手続き・取引

迅速な情報収集

非常に便利になったと思う

ある程度思う

あまり思わない

全く思わない

2.ITで生活は便利になったか

【成果】

○ ネット利用者の 96%がインターネットで世の中が便利になった

と回答。

○ 迅速な情報収集や、時間・場所を問わないコミュニケーション・

手続・取引等により生活の利便性を向上。 【課題】

○ 行政、医療、教育等の分野では、期待される効果に対して、現状

ではまだ現れている効果が小さい。 【対応策】

○ IT 利活用の数値目標を設定。

○ 阻害する規制や慣行(文書保存義務等)を改善、必要な標準化や

制度を整備。

○ 人材の育成。

○ 行政、医療、教育、就労等を戦略的な分野として IT 利活用を促進。

図表6 インターネットによる利便性向上の評価

(備考)消費者 Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成。

同調査はインターネットによるアンケートであるため、インターネット利用者のみを対象として

いることに留意する必要がある(以下同様)

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要 4

0

1020

30405060

7080

90

1位カナダ

2位シンガポール

2位米国

4位オーストラリア

11位日本

22位南アフリカ

(%)

・・・・

・・・・ ・・・・

・・・・

      日本の順位の推移 2001年  2002年   2003年  2004年  17位   17位    15位  11位(同率)

<現在>

36.2%

41.2%

34.3%

90.9%

28.1%

17.7%

32.5%

47.1%

50.3%

51.5%

7.5%

4.7%

5.5%

9.0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

教育

医療

行政

金融取引

ショッピング

コミュニケーション

情報収集

非常に便利になった

ある程度便利になった

<将来>

58.5%

65.4%

55.3%

87.3%

52.9%

48.1%

50.8%

37.2%

31.8%

35.7%

28.4%

29.6%

32.2%

11.5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

教育

医療

行政

金融取引

ショッピング

コミュニケーション

情報収集

非常に便利になると思う

ある程度便利になると思う

図表7 諸分野における IT の利便性向上の評価

図表8 医療分野でのIT 利活用 図表9 教育分野でのIT 利活用 レセプト(診療報酬請求)の電子化状況 教室のインターネット接続率

図表 10 各国の電子政府進捗度(2004 年)

韓国(2002.10時点)・オンライン 72.5%・磁気媒体  3.8%

日本(2003.12時点)・オンライン  0.0%・磁気媒体  7.2%

29.2

92.0

100.0

0 20 40 60 80 100

日本

米国

韓国

(%)

(備考)消費者 Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成

(備考)1.日本のオンライン請求は 2004 年度から開始予定 2.厚生労働省調査等より内閣官房 IT 担当室が作成

した資料より引用

(備考)1.日本:2003 年 3 月、アメリカ:2002年 10 月、韓国:2000 年

2.文部科学省資料を基に内閣官房 IT担当室が作成した資料より引用

(備考)アクセンチュア「電子政府進捗度調査」各年版より作成

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要 5

3.ITで経済の生産性は上昇したか

【成果】

○ 2000 年以降、ITによって、労働生産性が年平均0.9%程度上昇(労

働生産性上昇率全体(年平均 1.1%)の約8 割の寄与)。 【課題】

○ IT 投資による生産性上昇の余地はまだ大きい。

○ 企業でもまだIT を十分に活かしきってはいない。 【対応策】

○ IT 化に対応した企業人材の育成や人員の効率的活用、企業組織改

革。それらを行いやすくする制度・環境の整備。

図表 11 労働生産性上昇の要因分解

(備考)1.コブ・ダグラス型生産関数を仮定し、以下により分解 △(Y/L)/ (Y/L)=βNonIT×△(KNonIT/L)/ (KNonIT/L)+βIT×△(KIT/L)/ (KIT/L)+△TFP/TFP ただし、Y: 付加価値額, L: 労働投入量, KNonIT: 非 IT資本ストック, K IT: IT 資本ストック βNonIT, βITは、それぞれ非 IT 資本、IT 資本の分配率

2.この上で、TFP 上昇率をネットワーク効果によるものとその他に分けた

IT資本による上昇分

ネットワーク効果による上昇分

非IT資本による上昇分

その他

労働生産性伸び率

-1%

0%

1%

2%

3%

4%

5%

1980-85年 85-90年 90-95年 95-2000年 2000-03年

ITによる効果

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要 6

【米国企業】

十分効果あり, 22.3

ある程度効果あり,

47.6

効果なし, 11.4

あまり効果なし,

18.7

【日本企業】

十分効果あり, 3.5

ある程度効果あり, 49.6

効果なし, 10.1

その他, 21.6

あまり効果なし,15.2

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

非IT資本 IT資本

(備考)1.生産性は IT化下位・企業組織下位およびIT 化下位・人的資本対応下位の企業を 100 として基準化

2.企業 Web 調査「IT が企業の生産性や経営組織改革に与える影響に関する調査」の個票データおよび企業

財務データを用いて分析

116.0

107.2

116.0

93.3

50

60

70

80

90

100

110

120

130

140

(生産性)

IT化上位企業 組織改革上位企業

組織改革

上位組織改革

下位

IT化上位

IT化下位

123.5

111.5

123.5

107.2

50

60

70

80

90

100

110

120

130

140

(生産性)

IT化上位企業 人的資本対応上位企業

人的資本対応上位

人的資本対応下位

IT化上位

IT化下位

図表 12 IT 資本の生産力増強効果(限界生産力)

(備考)コブ・ダグラス型生産関数の推計結果による

図表 13 企業における IT 投資の効果の日米比較

図表 14 IT 投資の効果と企業組織改革・人的資本面の対応との関係

【IT 投資と組織改革の効果】 【IT 投資と人的資本対応の効果】

(備考)総務省「企業経営における IT活用調査」(2003 年)より引用

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構造改革評価報告書3

─ IT化の進展と経済 ─

平成16 年 11 月

内 閣 府

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i

目 次

構造改革評価報告書3のポイント ---------------------------------------要1

本論

はじめに ---------------------------------------------------------------1

Ⅰ.IT社会の基盤整備 --------------------------------------------------2

1. 世界最先端のIT 国家へむけた政府の取組み

2. 世界で最も安く高速のブロードバンドと最先端のモバイルインフラを構築

3. IT 社会の基盤整備面の今後の課題

Ⅱ.ITの利活用 -------------------------------------------------------15

1. 生活における IT の効果-利便性を向上、今ではなくてはならない存在

2. IT 利活用の課題

Ⅲ.IT化の経済効果 ---------------------------------------------------31

1. IT は新たな需要を創出し、経済を需要面から押し上げている

2. IT は経済の生産性上昇をもたらしている

3. 企業での IT 活用の効果を求めることが課題

Ⅳ.課題解決の方向性 --------------------------------------------------51

1. インフラの整備

2. IT 利用促進の条件整備

3. 医療分野や就労・労働など戦略的分野での IT 利用を具体的に推進

① 医療

② 教育

③ 就労・労働

④ コンテンツ

⑤ 企業

⑥ 行政

参考資料

IT による利便性向上や生産性向上の事例 --------------------------------57

タスクフォース委員の主な意見 -----------------------------------------77

付注 -----------------------------------------------------------------85

参考文献 ------------------------------------------------------------105

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ii

図表目次

Ⅰ.IT 社会の基盤整備

図表Ⅰ-1 1998 年当時のインターネットの普及率 ----------------------------2

図表Ⅰ-2 1999 年当時のインターネット利用料金の日米比較 ----------------3

図表Ⅰ-3 政府の IT 関連政策の流れ----------------------------------------4

図表Ⅰ-4 ブロードバンド料金の国際比較-----------------------------------5

図表Ⅰ-5 ブロードバンド通信速度の国際比較-------------------------------6

図表Ⅰ-6 ブロードバンド契約数の推移-------------------------------------6

図表Ⅰ-7 携帯電話及び携帯インターネット契約数の推移---------------------7

図表Ⅰ-8 携帯電話のインターネット対応率国際比較-----------------------7

図表Ⅰ-9 IP 電話の利用状況----------------------------------------------8

図表Ⅰ-10 e-Japan 戦略の主な目標と達成状況 -------------------------------9

図表Ⅰ-11 ブロードバンド加入増加数と ADSL 等の増加寄与率の推移-----------11

図表Ⅰ-12 ADSL 加入者の事業者別シェア -----------------------------------11

図表Ⅰ-13 地域間で格差がみられるブロードバンド普及率--------------------12

図表Ⅰ-14 ブロードバンドサービスの提供状況------------------------------12

図表Ⅰ-15 携帯電話契約数のシェア----------------------------------------13

図表Ⅰ-16 携帯電話料金の推移-------------------------------------------14

Ⅱ.ITの利活用

図表Ⅱ-1 インターネット普及率------------------------------------------15

図表Ⅱ-2 インターネットの利用頻度--------------------------------------16

図表Ⅱ-3 1回あたりのインターネット利用時間----------------------------16

図表Ⅱ-4 パソコンからのインターネットの利用用途------------------------16

図表Ⅱ-5 インターネットによる利便性向上の評価--------------------------17

図表Ⅱ-6 インターネットによって便利になった点--------------------------17

図表Ⅱ-7 分野別情報入手先----------------------------------------------18

図表Ⅱ-8 なくなって困る情報通信サービス--------------------------------18

図表Ⅱ-9 ネットユーザーのインターネット・ショッピング利用率------------19

図表Ⅱ-10 増加するインターネット・ショッピングによる消費割合------------19

図表Ⅱ-11 インターネット普及率の国際比較--------------------------------21

図表Ⅱ-12 年齢別インターネット利用率------------------------------------22

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iii

図表Ⅱ-13 諸分野における IT による利便性の向上の評価---------------------23

図表Ⅱ-14 医療分野での IT 利活用:レセプトの電子化状況-------------------24

図表Ⅱ-15 教室のインターネット接続率------------------------------------24

図表Ⅱ-16 テレワーカー比率の国際比較------------------------------------25

図表Ⅱ-17 コンテンツ産業規模--------------------------------------------26

図表Ⅱ-18 電子政府の進捗と効果に対する評価------------------------------27

図表Ⅱ-19 各国の電子政府進捗度------------------------------------------27

図表Ⅱ-20 IT 社会において大きな問題点となること -------------------------28

図表Ⅱ-21 インターネット関連のトラブルに関する消費者相談件数------------28

図表Ⅱ-22 日本の IT 化戦略の推移-----------------------------------------29

図表Ⅱ-23 先導的分野における IT 利活用の進捗と効果に関する評価-----------29

図表Ⅱ-24 e-Japan 戦略Ⅱに掲げられた IT 利活用の目標 ---------------------30

Ⅲ.IT 化の経済効果

図表Ⅲ-1 IT 消費の拡大 -------------------------------------------------31

図表Ⅲ-2 IT 投資額の推移 -----------------------------------------------32

図表Ⅲ-3 民間設備投資の伸びに占める IT 投資の寄与-----------------------32

図表Ⅲ-4 急速に普及している IT 関連の耐久財-----------------------------33

図表Ⅲ-5 IT 関連の財・サービスの購入が全体の消費額に与えた影響 ---------34

図表Ⅲ-6 IT 消費の増加が消費額全体に与えた影響 -------------------------35

図表Ⅲ-7 インターネットショッピングの利用による消費額への影響----------36

図表Ⅲ-8 パソコン価格の推移--------------------------------------------37

図表Ⅲ-9 価格低下による消費者・利用者のメリット------------------------37

図表Ⅲ-10 IT 資本ストック額の推移 ---------------------------------------38

図表Ⅲ-11 労働生産性上昇の要因分解--------------------------------------39

図表Ⅲ-12 IT 資本の生産力増強効果 ---------------------------------------41

図表Ⅲ-13 企業ネットワーク接続状況--------------------------------------42

図表Ⅲ-14 企業の通信網の接続--------------------------------------------43

図表Ⅲ-15 企業の業務システム導入状況------------------------------------43

図表Ⅲ-16 企業の IT 化の効果の評価---------------------------------------45

図表Ⅲ-17 企業における IT 投資の効果の日米比較---------------------------46

図表Ⅲ-18 企業の IT 化、組織改革の進展度と生産性-------------------------47

図表Ⅲ-19 企業の IT 化、人的資本対応の進展度と生産性---------------------48

図表Ⅲ-20 企業の IT 化ステージ別業況判断---------------------------------49

図表Ⅲ-21 企業における IT 投資の目的の日米比較---------------------------50

図表Ⅲ-22 企業における IT 投資の目的別効果の日米比較---------------------50

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iv

付注目次

付注 1 アンケート調査について ------------------------------------------85

付注 2 IT 消費を含む消費関数の推定--------------------------------------86

付注 3 消費者余剰の推計について ----------------------------------------88

付注 4 IT 資本ストックデータの作成方法----------------------------------90

付注 5 労働生産性の要因分解について ------------------------------------93

付注 6 IT のネットワーク効果(外部波及効果)の推計について--------------95

付注 7 IT 投資の限界生産力の推定----------------------------------------98

付注 8 企業ミクロデータによる IT の生産性効果の分析 ---------------------99

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(構造改革評価報告書3の ポイント )

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要 1

(備考)1.2003 年7 月時点、100kbps あたり料金の比較 2.ITU‘Internet Reports 2003:Birth of Broadband’

より総務省作成(「平成 16 年 情報通信に関する現状報告」より引用)

構造改革評価報告書3のポイント

1.世界最高水準のIT 社会への基盤は整ったか

【成果】

○ 世界で最も安く高速なネットワーク・インフラを整備(ADSL)。こ

れにより、ブロードバンド契約数も 2001年以降、急増。

○ 携帯電話からのインターネット利用は、日本と韓国が突出。 【課題】

○ ADSL は普及しつつあるが、急激な技術革新や多様な利用ニーズへ

の対応の点からは、FTTH、無線LAN など多様なインフラ整備が望

まれる。

○ 携帯電話市場における新規参入を含めた一層の競争促進と周波数

の有効活用。 【対応策】

○ 各インフラ分野の状況を踏まえつつ、競争を通じた整備の促進が

基本。

0.09 0.25

1.15 1.27

2.21

2.713.07

3.25 3.363.53

4.42

0

1

2

3

4

5

日本

韓国

ベルギー

香港

シンガ

ポール

ニュージー

ランド

中国

カナダ

オランダ

米国

ドイツ

ドル

26.0

20.0

3.0

3.0

2 .0

2 .0

1.5

1.5

0 5 1 0 15 2 0 2 5 30

日 本

韓 国

ベルギー

香 港

デンマーク

フィンランド

シンガポール

米 国

(下り、M b p s)

図表2 ブロードバンド(ADSL) 通信速度の国際比較

(備考)1.ADSL 下りの通信速度による比較 2.ITU‘Internet Reports 2003:Birth of

Broadband’より内閣官房 IT 担当室が作成した資料より引用

図表1 ブロードバンド料金の国際比較

Page 14: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

要 2

1,120

7 0 2

238

2 5 8

207

146

1 1 4

31

2.6

3

3

0.8

-

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1999 2000 2001 2002 2003

万契約

無線

FTTH

CATV

DSL

図表3 ブロードバンド契約数の推移

(備考)総務省「平成 16年 情報通信に関する現状報告」より引用

図表4 携帯電話のインターネット対応率国際比較

図表5 携帯電話のシェア

(備考)1.2003 年9 月末の比較。

2.「3G Mobile」により総務省作成(総務省「平成 16年 情報通信に関する現状報告」より引用)

NTTドコモ56%

au22%

ツーカー4%

ボーダフォン18%

(備考)電気通信事業者協会ホームページより作成 2004 年9 月現在

24.4

30.9 25.3

22.4 21.7 20.2

87.089.5

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

日本 韓国 中国 シンガポール

台湾 イタリア カナダ オーストリア

Page 15: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

要 3

3.6% 0.1%

96.3%

インターネットで世の中が便利になったと思う

便利になったと思わない

どちらともいえない

40.9%

46.9%

49.6%

43.0%

40.0%

22.6%

33.5%

24.2%

19.8%

24.5%

40.9%

47.0%

49.0%

76.5%

7.3%

18.7%

9.1%

9.6%

10.1%

57.0%

0.8%

0.1%

17.1%

0.9%

0.5%

0.4%

4.4%

5.8%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

家族の安全や食品の安全等

欲しいものが安く買える

店頭や役所に出向かずに買物・手続

消費等の選択肢の拡大

遠距離・即時のコミュニケーション

24時間いつでも手続き・取引

迅速な情報収集

非常に便利になったと思う

ある程度思う

あまり思わない

全く思わない

2.ITで生活は便利になったか

【成果】

○ ネット利用者の 96%がインターネットで世の中が便利になった

と回答。

○ 迅速な情報収集や、時間・場所を問わないコミュニケーション・

手続・取引等により生活の利便性を向上。 【課題】

○ 行政、医療、教育等の分野では、期待される効果に対して、現状

ではまだ現れている効果が小さい。 【対応策】

○ IT 利活用の数値目標を設定。

○ 阻害する規制や慣行(文書保存義務等)を改善、必要な標準化や

制度を整備。

○ 人材の育成。

○ 行政、医療、教育、就労等を戦略的な分野として IT 利活用を促進。

図表6 インターネットによる利便性向上の評価

(備考)消費者 Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成。

同調査はインターネットによるアンケートであるため、インターネット利用者のみを対象として

いることに留意する必要がある(以下同様)

Page 16: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

要 4

0

1020

30405060

7080

90

1位カナダ

2位シンガポール

2位米国

4位オーストラリア

11位日本

22位南アフリカ

(%)

・・・・

・・・・ ・・・・

・・・・

      日本の順位の推移 2001年  2002年   2003年  2004年  17位   17位    15位  11位(同率)

<現在>

36.2%

41.2%

34.3%

90.9%

28.1%

17.7%

32.5%

47.1%

50.3%

51.5%

7.5%

4.7%

5.5%

9.0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

教育

医療

行政

金融取引

ショッピング

コミュニケーション

情報収集

非常に便利になった

ある程度便利になった

<将来>

58.5%

65.4%

55.3%

87.3%

52.9%

48.1%

50.8%

37.2%

31.8%

35.7%

28.4%

29.6%

32.2%

11.5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

教育

医療

行政

金融取引

ショッピング

コミュニケーション

情報収集

非常に便利になると思う

ある程度便利になると思う

図表7 諸分野における IT の利便性向上の評価

図表8 医療分野でのIT 利活用 図表9 教育分野でのIT 利活用 レセプト(診療報酬請求)の電子化状況 教室のインターネット接続率

図表 10 各国の電子政府進捗度(2004 年)

韓国(2002.10時点)・オンライン 72.5%・磁気媒体  3.8%

日本(2003.12時点)・オンライン  0.0%・磁気媒体  7.2%

29.2

92.0

100.0

0 20 40 60 80 100

日本

米国

韓国

(%)

(備考)消費者 Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成

(備考)1.日本のオンライン請求は 2004 年度から開始予定 2.厚生労働省調査等より内閣官房 IT 担当室が作成

した資料より引用

(備考)1.日本:2003 年 3 月、アメリカ:2002年 10 月、韓国:2000 年

2.文部科学省資料を基に内閣官房 IT担当室が作成した資料より引用

(備考)アクセンチュア「電子政府進捗度調査」各年版より作成

Page 17: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

要 5

3.ITで経済の生産性は上昇したか

【成果】

○ 2000 年以降、ITによって、労働生産性が年平均0.9%程度上昇(労

働生産性上昇率全体(年平均 1.1%)の約8 割の寄与)。 【課題】

○ IT 投資による生産性上昇の余地はまだ大きい。

○ 企業でもまだIT を十分に活かしきってはいない。 【対応策】

○ IT 化に対応した企業人材の育成や人員の効率的活用、企業組織改

革。それらを行いやすくする制度・環境の整備。

図表 11 労働生産性上昇の要因分解

(備考)1.コブ・ダグラス型生産関数を仮定し、以下により分解 △(Y/L)/ (Y/L)=βNonIT×△(KNonIT/L)/ (KNonIT/L)+βIT×△(KIT/L)/ (KIT/L)+△TFP/TFP ただし、Y: 付加価値額, L: 労働投入量, KNonIT: 非 IT資本ストック, K IT: IT 資本ストック βNonIT, βITは、それぞれ非 IT 資本、IT 資本の分配率

2.この上で、TFP 上昇率をネットワーク効果によるものとその他に分けた

IT資本による上昇分

ネットワーク効果による上昇分

非IT資本による上昇分

その他

労働生産性伸び率

-1%

0%

1%

2%

3%

4%

5%

1980-85年 85-90年 90-95年 95-2000年 2000-03年

ITによる効果

Page 18: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

要 6

【米国企業】

十分効果あり, 22.3

ある程度効果あり,

47.6

効果なし, 11.4

あまり効果なし,

18.7

【日本企業】

十分効果あり, 3.5

ある程度効果あり, 49.6

効果なし, 10.1

その他, 21.6

あまり効果なし,15.2

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

非IT資本 IT資本

(備考)1.生産性は IT化下位・企業組織下位およびIT 化下位・人的資本対応下位の企業を 100 として基準化

2.企業 Web 調査「IT が企業の生産性や経営組織改革に与える影響に関する調査」の個票データおよび企業

財務データを用いて分析

116.0

107.2

116.0

93.3

50

60

70

80

90

100

110

120

130

140

(生産性)

IT化上位企業 組織改革上位企業

組織改革

上位組織改革

下位

IT化上位

IT化下位

123.5

111.5

123.5

107.2

50

60

70

80

90

100

110

120

130

140

(生産性)

IT化上位企業 人的資本対応上位企業

人的資本対応上位

人的資本対応下位

IT化上位

IT化下位

図表 12 IT 資本の生産力増強効果(限界生産力)

(備考)コブ・ダグラス型生産関数の推計結果による

図表 13 企業における IT 投資の効果の日米比較

図表 14 IT 投資の効果と企業組織改革・人的資本面の対応との関係

【IT 投資と組織改革の効果】 【IT 投資と人的資本対応の効果】

(備考)総務省「企業経営における IT活用調査」(2003 年)より引用

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1

構造改革評価報告書3

─ IT化の進展と経済 ─

内閣府

はじめに

2001 年 6 月の「経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(骨太の方

針)」以降、政府は 3 年以上に渡って構造改革の取組みを続けている。

この中で、昨年 11 月に創設された「構造改革評価報告書」は、①国民に改革の進捗

と効果を明らかにし、説明責任を果たす、②改革の「宣言」「実行」「評価」(Plan – Do

– Check・Action)のサイクルの中で、次の改革につながる評価を行う、といった役割

を担っている。第 1回の報告書では企業・雇用面での改革を、第 2 回では歳出改革をテ

ーマとして、経済財政諮問会議に報告し、公表してきた。

第3回となる本報告書では、「IT」をテーマとしてとりあげている。IT は、生活の利

便性を高めるとともに、需要の創出や生産性の上昇をもたらし、我が国経済社会の発展

の起爆剤となる。このため、政府は 2001 年に e-Japan 戦略を定め、世界最先端の IT

国家を目指して、IT の推進に取り組んできている。本報告書では、こうした政府や民

間の IT 化へ向けた取組みの進捗や効果を検証するとともに、改革の今後の課題を提示

している。

改革の評価を行うにあたっては、行政内部だけではなく、外部からの評価が重要であ

る。このため、IT についての専門的な知見を有する外部の有識者からなるタスクフォ

ースを設置し、これまでの改革の評価や今後の課題について、さまざまな意見をいただ

いた。また、IT 化の進展状況や、利便性や生産性など IT 化による効果について、消費

者および企業へのアンケート調査による評価も取り入れている。

(タスクフォース委員)

座長 香西 泰 内閣府経済社会総合研究所長

池内 省五 ㈱リクルート経営企画室エグゼクティブ・マネジャー 國領 二郎 慶應義塾大学環境情報学部教授 篠崎 彰彦 九州大学大学院経済学研究院教授 西村 淸彦 東京大学大学院経済学研究科教授 藤原 洋 ㈱インターネット総合研究所代表取締役所長 山川 隆 ㈱NTT ドコモモバイル社会研究所副所長

(五十音順)

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2

Ⅰ.IT 社会の基盤整備

1.世界最先端の IT 国家へむけた政府の取り組み

○ ほんの数年前までは日本は IT 化に立ち遅れ。

⇒ 1998 年のインターネット普及率は 13%程度と低い水準に留まり、米国や北欧に立

ち遅れていた。

⇒ インターネットの利用料金が高かったことが主要因。

○ 政府は IT 化を推進するための国家戦略を策定。

⇒ 2000 年にIT 基本法および IT 基本戦略を策定し、IT 化推進へ向けて取り組みを開

始。2001 年には「2005 年までに世界最先端の IT 国家」となることを目指した

e-Japan 戦略、2003 年にはe-Japan 戦略Ⅱを策定し、具体的な施策を展開。

世界主要国のインターネット普及率を比較すると、1998 年時点では

スウェーデンが最も高く 33.4%、ついでカナダ 24.8%、米国 22.2%と

なっており、日本は 13.4%と立ち遅れていた(ITU 統計ベース)。

図表Ⅰ-1 1998 年当時のインターネットの普及率

(備考)ITU(International Telecommunication Union) ‘ITU Telecommunication Indicators’

資料により作成

数年前まで日本の IT 化は立ち遅れ

33.4

24.822.2

18.9

14.3 13.7 13.5 13.410.2 9.9

7.9 6.7 6.3

0

5

10

15

20

25

30

35

40

スウ

ェーデン

カナダ

米国

デンマーク

香港

台湾

イギリス

日本

オランダ

ドイツ

ベルギー

韓国

フランス

(%)

Page 21: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

3

インターネット普及のネックの 1 つとなっていたのは、通信料金の

高さである。1999 年時点において、インターネットに 24 時間常時接

続した場合の 1か月の利用料金を一例として採り上げ比較して見ると、

東京では 59,600 円とニューヨークの約 10 倍であった(図表Ⅰ-2)。料

金が高いためにインターネットの利用が進まず、一方で利用者が少ない

状況では、コンテンツも充実しないし、インターネットを利用するメリ

ットも小さい。そのことがますますインターネットの割高感を強める。

当時の日本は、ネットワークの外部性がこのように悪い方向に働く悪循

環にはまりかけていた。

図表Ⅰ-2 1999 年当時のインターネット利用料金の日米比較

1 , 3 2 2

1 , 7 5 0

1 , 7 7 5

5 6 , 0 0 0

-

1 0 , 0 0 0

2 0 , 0 0 0

3 0 , 0 0 0

4 0 , 0 0 0

5 0 , 0 0 0

6 0 , 0 0 0

7 0 , 0 0 0

東 京 ニ ュ ー ヨ ー ク

円 / 月

イ ン タ ー ネ ッ ト ・ア ク セ ス 料 金

通 信 料 金

基 本 料 金

1 , 8 5 0

2 , 8 7 3

合 計 5 9 , 6 0 0 円

合 計 5 , 9 7 0 円

(備考)1.1 ヶ月、24 時間/日、ダイヤルアップ接続した場合の基本料金、通信料金、インターネットアクセス料金の合計

2.東京は、ダイヤルアップ以外に、月額 38,000 円の常時接続サービスも存在

3.郵政省「平成 10年度電気通信サービスに係る内外価格差調査」より引用

インターネット普及のネックとなっていた通信料金は大幅に下落

Page 22: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

4

年月

2001.1 ■ e-Japan戦略

<IT社会の基盤整備>① 超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策② 電子商取引と新たな環境整備③ 電子政府の実現④ 人材育成の強化

2001.3 □ e-Japan重点計画 (220施策)

2001.6 □ e-Japan2002プログラム

2002.6 □ e-Japan重点計画-2002 (318施策)

2003.7 ■ e-Japan戦略II

<先導的取り組みによるIT利活用の推進>①医療、②食、③生活、④中小企業金融、⑤知⑥就労・労働、⑦行政サービス

<新しいIT社会基盤の整備>① 次世代情報通信基盤の整備② 安全・安心な利用環境の整備③ 次世代の知を生み出す研究開発の推進④ 利活用時代のIT人材の育成と学習の振興⑤ ITを軸とした新たな国際関係の展開

2003.8 □ e-Japan重点計画-2003 (366施策)

2004.2 □ e - J a p a n戦略II加速化パッケージ

2004.6 □ e-Japan重点計画-2004 (370施策)

政府は、IT 化を推進するために、2000 年に IT 基本法および IT 基本

戦略を策定。2001 年には「2005 年までに世界最先端の IT 国家」とな

ることを目指し、インフラ整備、ルール整備、人材育成、電子政府実現

を骨格とした e-Japan 戦略を策定した。

e-Japan 戦略では、インフラ整備等について数値目標を設定し、目標

を明確に示した。また、目標や計画については進行状況をチェックし、

戦略の見直しと計画の重点化を行ってきた。IT 戦略においては、こう

した PDCA(Plan- Do-Check-Action)サイクルを定着させたが、2003

年には、IT の基盤整備が一定の成果を上げたことを評価し、戦略の重

点を IT の利活用促進においた e-Japan戦略Ⅱを策定した。

図表Ⅰ-3 政府の IT 関連政策の流れ

政府は世界最先端の IT 国家を目指し e-Japan戦略を策定

(備考)IT 戦略本部ホームページにより作成

Page 23: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

5

(備考)ITU‘Internet Reports 2003: Birth of Broadband’より総務省作成(「平成 16年 情

報通信に関する現状報告」より引用)。2003 年7 月時点、100kbps あたり料金の比較

2.世界で最も安く高速のブロードバンドと最先端のモバイルインフラを構築

○ IT 社会の基盤整備は e-Japan 戦略策定当時の想定以上の成果。

世界トップレベルのブロードバンド&モバイルネットワーク環境を実現。

⇒ 日本は世界で最も安く高速のネットワークを利用できる環境。この結果、日本の

ブロードバンド契約数は 2001 年以降急増。

⇒ モバイル(携帯電話)によるインターネットの利用は、日本と韓国が突出。

○ ブロードバンド化の第一段階としては大きな成功。こうした成功は、政策と民

間の取組みの相乗効果が得られた結果。

⇒ 競争政策(DSL 開放ルール等)による環境整備など政策の取組みと、ADSLへの積

極的な参入など民間の取組みが上手く組み合わさり、効果を発揮。

現在では、日本は世界で最も安く高速のネットワークを利用できる環

境が整っている。ブロードバンドのインターネット料金を、100kbps

あたりに換算してみると、日本は 0.09 ドルと世界で最も低廉である(図

表Ⅰ-4)。ADSL の通信速度も世界で最も早くなっている(図表Ⅰ-5)。

この結果、ブロードバンド契約数は、近年急速に増加している(図表Ⅰ

-6)。

図表Ⅰ-4 ブロードバンド料金の国際比較

世界で最も安く高速のブロードバンド利用環境が整備

0.09 0.25

1.15 1.27

2.21

2.713.07

3.25 3.363.53

4.42

0

1

2

3

4

5

日本

韓国

ベルギー

香港

シンガ

ポール

ニュージー

ランド

中国

カナダ

オランダ

米国

ドイツ

ドル

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6

26.0

20.0

3.0

3.0

2.0

2.0

1.5

1.5

0 5 10 15 20 25 30

日本

韓国

ベルギー

香港

デンマーク

フィンランド

シンガポール

米国Mbps

1,120

702

238

258

207

146

114

31

2.6

3

3

0.8

-

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1999 2000 2001 2002 2003

万契約

無線

FTTH

CATV

DSL

図表Ⅰ-5 ブロードバンド通信速度の国際比較(ADSL 下り)

図表Ⅰ-6 ブロードバンド契約数の推移

(備考)総務省「平成 16年 情報通信に関する現状報告」より引用

(備考)ITU‘Internet Reports 2003: Birth of Broadband’より内閣官房IT 担当室が作成した

資料より引用

Page 25: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

7

750

3,457

5,1936,246

6,973

50

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年

(万契約)

4,153

5,114

6,094

6,912

7,566

8,152

携帯電話契約数(うち)携帯インターネット契約数

ブロードバンドとともに、日本が世界で最も進んでいるのが、モバイ

ル、特に携帯電話からのインターネット利用である。現在では、携帯電

話で、メールだけでなく、映像や音楽などを送受信することが普通とな

っている。携帯電話のインターネット対応率を見ると、日本と韓国が抜

きんでている(図表Ⅰ-8)。

図表Ⅰ-7 携帯電話及び携帯インターネット契約数の推移

(備考)総務省「平成 16年 情報通信に関する現状報告」より引用

図表Ⅰ-8 携帯電話のインターネット対応率国際比較

(備考)総務省「平成 16年 情報通信に関する現状報告」より引用

モバイル(携帯電話)によるインターネット利用でも世界最先端

24.4

30.9 25.3

22.4 21.7 20.2

87.089.5

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

日本 韓国 中国 シンガポール

台湾 イタリア カナダ オーストリア

Page 26: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

8

7.3%3.3%

89.4%

利用している

利用していない

不明3.7%

7.4%

44.7%42.7%

全社的に導入

一部の事業所又は部門で導入

導入していないが予定あり

導入していないし具体的予定なし

ブロードバンド化及び IP ネットワーク関連機器の高機能化、低廉化

と、VoIP(Voice over IP)技術の発展によって、これまでの電話と同

様の音声電話を IP ネットワーク上で提供する IP 電話サービスが普及

しつつある。2003 年末では既に全世帯の 7.3%、全企業の 11.1%が IP

電話を利用するに至っている。なお、インターネット・ユーザー世帯で

は IP 電話を利用しているのは 20.3%に上る。また、企業では、今後 IP

電話を利用する予定があるとするのは 42.7%にも上っている。IP 電話

の利用は今後とも増加することが予想される。

このような中で、固定電話の利用は減少する傾向にある。公正取引委

員会の資料によると、世帯では、現在 IP 電話を利用している世帯の

41.3%は将来固定電話を解約するとしており、現在利用していない世帯

では52.0%が今後 IP電話を利用する際に固定電話を解約するとしてい

る。こうした点からみると、今後、既存の固定電話の利用が大幅に減少

することは避けられないとみられる。既存の固定電話網をどのように運

営していくべきかについて早急に検討する必要がある。

図表Ⅰ-9 IP 電話の利用状況

①世帯における利用状況 ②企業における利用状況

IP 電話の普及が急速に進んでおり、既存固定電話事業のあり方を再検討することが必要

(備考)総務省「平成 15年通信利用動向調査」より作成

Page 27: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

9

目 標       実 績

e-Japan戦略

<加入可能数>FTTH:1,806万世帯(2004年3月)DSL :3,800万世帯(2004年3月)CATV:2,300万世帯(2001年12月)

e-Japan戦略 II

 <加入数>FTTH: 160万加入(2004年8月末)DSL :1,274万加入(2004年9月末)CATV: 277万加入(2004年8月末)無線(FWA等):3万加入(2004年2月末)公衆無線LAN:170万加入(2003年12月末)第三世代携帯電話インターネット:1,669万加入                 (2004年3月末)

e-Japan戦略

BtoB:77兆円BtoC:4.4兆円(2003年度末、経済産業省)

e-Japan戦略

・「電子政府の総合窓口」スタート(2001年)・国の行政機関が扱う申請・届出手続のオンライン化の環境整備が完了、97%の手続をオンライン化(2003年度末)・各府省において、2003年度中にインターネットを利用した電子入札・開札システムを導入

e-Japan戦略

60.6%(2003年末)

2005年までに・高速インターネットアクセス網に3000万世帯・超高速インターネットアクセス網に1000万世帯が常時接続可能

 2005年までに、有線・無線を問わず・高速インターネットアクセス (144kbps以上30Mbps未満)へ4,000万加入・超高速インターネットアクセス (30Mbps以上)へ1,000万加入

2003年までに・BtoBの市場規模:70兆円・BtoCの市場規模:3兆円

 2003年度には電子情報を紙情報を同等に扱う行政を実現

2005年のインターネット個人普及率60%

インフラ整備

電子商取引

電子政府

人材の育成

以上にみられるように、高速ネットワーク・インフラの整備に関して

は、e-Japan 戦略は想定以上の成果を上げ、「世界最先端の IT 国家」

という目標を達成していると言える。実際、e-Japan 戦略で掲げられた

インフラ整備に関する目標は 2005 年の期限を待たずに実現され、

e-Japan戦略Ⅱで目標の上積みがなされている(図表 1-10)。

こうした成功は、競争政策(DSL 開放ルール等)による環境整備な

ど政策側の取組みと、ADSL への積極的な参入など民間の取組みが上

手く組み合わさり、相乗効果を発揮した結果である。

図表Ⅰ-10 e-Japan 戦略の主な目標と達成状況

(備考)IT 戦略本部ホームページ等により作成

ネットワーク・インフラ整備はe-Japan 戦略の想定以上の成果

Page 28: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

10

3.IT 社会の基盤整備面の今後の課題

○ ADSL は急速に普及。続いて FTTH や無線 LAN など多様なインフラの整備へ。

⇒ 競争環境を整えつつ、ADSL、FTTH、CATV、無線など多様なインフラ整備を促進し、

利用者にとって使い勝手がよくメリットのあるネットワーク・インフラを整備。 ○ 携帯電話市場における新規参入も含めた一層の競争促進と周波数の有効活用。

わが国ブロードバンド化は 2001 年以降急速に進展しており、2004

年8月末の加入数は 1695 万に上った。このうち、ADSL の加入数は

2004年8月末で 1255万となった。ブロードバンド全体に占める ADSL

の割合は 74%に上る。このように、わが国のブロードバンド化は ADSL

の急速な普及を中心にしたものであった。

一方、利用者のメリットを考えると、ADSL に加えて、FTTH や無

線など多様なブロードバンド・インフラを整備することが望まれる。例

えば、ADSL の下りのスピードはFTTH に迫っているが、ファイルの

送信やアップロードを多用するユーザーにとっては、上りのスピードも

早い FTTH にメリットがある。また、外出先など「いつでも、どこで

も」ネットワークにつなげる環境を整える上で、無線ブロードバンドは

重要な役割を果たすと期待される。

足許では FTTH の加入増が顕著となっており、2004 年 8 月末には

160 万加入と 2003 年 3 月末の 31 万加入に比べて大幅な増加となって

いるなど、ようやく FTTH の普及がスピードアップしてきたところで

あり、今後、目標達成へ向けてこの芽を育てていく必要がある。

多様なブロードバンド・インフラの整備へ

Page 29: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

11

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

2001

.3 6 9

12

2002

.3 6 9

12

2003

.3 6 9

12

2004

.3

万加入/3カ月

0

20

40

60

80

100

2001

.3 6 9

12

2002

.3 6 9

12

2003

.3 6 9

12

2004

.3

ADSL

 FTTH

CATV

図表Ⅰ-11 ブロードバンド加入増加数と ADSL 等の増加寄与率の推移

DSL の接続ルールが制度化された 2000 年 9 月以降、ADSL サービ

ス事業への活発な参入がみられた。こうした民間側での積極的な動きに

加えて、政府による競争促進へ向けた対応もあって、価格と通信速度を

めぐる競争が活発化。市場に新規参入したソフトバンク BB の市場シェ

アは 30%を超え、NTT 東西と拮抗するに至っている。

ADSL、FTTH、無線などではそれぞれ競争の環境や初期条件も異な

っているが、NTT のあり方など通信産業全体の産業構造の問題など広

い視点も併せつつ、今後もそれぞれの状況に応じた適切な競争環境を整

備し、競争を促しつつ一層の普及を図ることが求められる。

図表Ⅰ-12 ADSL 加入者の事業者別シェア(2004 年 1 月末) ナローバンドとブロードバンド ADSL 事業者ごとの加入者数でみた の利用者シェア シェア

(備考)公正取引委員会「ブロードバンドサービス等の競争実態に関する調査」(2004 年4 月)より引用

接続ルールの整備と活発な競争が ADSL の急速な普及の原動力

27.536.5

36.0

NTT東西

ソフトバンクBB

その他

573

32

8

ADSL

CATV

ナローバンド

FTTH

(備考)総務省資料より作成

ブロードバンド加入増加数(四半期) 増加寄与率

Page 30: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

12

34.8

22.8

17.7

35.1

49.5

38.2

0

10

20

30

40

50

60

1 2 3

ブロードバンド化率

ブロードバンド利用率

(特別区・政令指定都市・県庁所在都市)

大都市 その他の都市 町村

提供2,040

(84.8%)

提供718

(100%) 提供818

(71.2%)

提供2,758

(88.3%)

未提供365(15.2%)

未提供365(11.7%) 未提供

331(28.8%)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

全国(3,123団体) 市(特別区を含む)(718団体) 町村(2,405団体) 過疎地域(1,149団体)

ブロードバンド化が急速に進展している一方で、地域別に見るとブロ

ードバンドの普及率に格差が生じている。高速で低価格のインターネッ

ト利用環境を国民にあまねく広げることは政策目標として掲げられたと

ころであり、こうした地域間格差の縮小が課題である。

図表Ⅰ-13 地域間で格差がみられるブロードバンド普及率

(平成15 年末)

図表Ⅰ-14 ブロードバンドサービスの提供状況(平成16 年 9月末現在)

(備考)1.ブロードバンド利用率は調査対象者に占めるブロードバンド利用者の比率 2. ブロードバンド化率は自宅のパソコンからのインターネット利用者に占める

ブロードバンド利用者の比率 3. 総務省「平成16 年 情報通信に関する現状報告」より作成

(備考)1.ここでのブロードバンドサービスは、いずれかのブロードバンドサービス(ADSL、FTTH、ケーブルインターネット)を指す

2. 提供数は、サービスが少なくともその地域の一部で提供されている市町村数

3. 提供数は、提供事業者がホームページ等で公開している情報を基に総務省で集計したもの。全国市町村数及び過疎地域市町村数については、平成16年4 月1日現在

ブロードバンド普及の地域間格差の縮小が課題

Page 31: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

13

-10%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9

200420032002

NTTドコモ

au

ボーダフォン

ツーカー

日本の携帯電話市場は、4 社により占められる状態が続いていたが、

最近になり、新規参入を表明する企業が現れている。

携帯電話市場における 4 社のシェアは、累計で見ると大きな変動は

無いが、各月の新規契約数では 4 社の間で競争が行われている。こう

した中で、消費者物価指数でみた携帯電話の料金は、一般の物価に比べ

低下してきているものの、最近では価格低下のスピードは鈍化している。

携帯電話への新規参入については、「携帯電話用周波数の利用拡大に

関する検討会」が設けられ、有識者や関係者による幅広い意見交換が行

われている。携帯電話事業における競争の促進と周波数の有効活用を図

ることが必要である。

図表Ⅰ-15 携帯電話契約数のシェア

携帯電話事業における競争の促進と周波数の有効活用

(2004 年9 月現在)

NTTドコモ56%

au22%

ツーカー4%

ボーダフォン18%

累積契約数のシェア

各月新規純増数のシェア

(備考)電気通信事業者協会ホームページより作成

Page 32: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

14

90

92

94

96

98

100

102

104

1 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8

2000 2001 2002 2003 2004

消費者物価指数総合

携帯電話料金

2000年=100

図表Ⅰ-16 携帯電話料金の推移

(備考)総務省「消費者物価指数(平成 12年基準)」より作成

Page 33: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

15

7,7306,942

5,593

4,708

2,706

1,6941,155

54.5

44.0

37.1

21.4

13.49.2

60.6

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003

万人

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0%

人口普及率(右目盛)

利用人口

Ⅱ.IT の利活用

1.生活における IT の効果-利便性を向上、今ではなくてはならない存在

○ インターネットはこの数年で急速に生活の中に浸透。

⇒ インターネット利用者は、6 年間で約 6.7 倍と急増(97 年には人口の1割未満

→2003 年には人口の 60%を突破)。

○ インターネットで生活は大きく便利に。

⇒ ネットアンケート調査では 96.3%がインターネットで世の中が便利になったと

回答。

⇒ 迅速な情報収集や、時間・場所を問わないコミュニケーション・手続・取引等に

おいて生活の利便性を大きく向上。今ではなくてはならない存在に。

インターネットは、この数年で急速に生活の中に浸透した。97 年に

は、インターネットの利用者は全人口の 1 割に満たなかったが、2003

年には 7,730 万人に達し、人口の 6 割を突破した(図表Ⅱ-1)。6 年間

で約 6.7 倍と急増したことになる。世帯普及率では、2003 年には全世

帯の 88.1%にインターネットが普及している1。

図表Ⅱ-1 インターネット普及率

(備考)総務省「平成 16年 情報通信に関する現状報告」より引用

1 総務省「平成 15 年通信利用動向調査」

インターネットは急速に生活の中に浸透

Page 34: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

16

57.6

57.4

48.7

36.8

19.5

18.8

18.7

18.6

17.9

16.8

13.2

13

10.9

10.7

7.5

6.7

1.9

1.8

0 10 20 30 40 50 60 70

電子メール

商品・サービス等の情報検索

ニュース等の情報入手

商品・サービス購入

クイズ等の応募、アンケートの回答

メールマガジン

掲示板、チャット

画像のダウンロード

政府・自治体の情報入手

動画のダウンロード・視聴

音楽のダウンロード・視聴

ネットオークション

就職・転職関連

ネットゲーム

ホームページの作成

ネットバンキングでの銀行の利用

ネットバンキングでの投資

通信教育の受講(e-ラーニング)

(%)

4 0 . 4

4 4 . 6

35 . 3

28 . 8

17 . 1

1 3 . 0

7 . 2

13 . 7

0 % 2 0 % 4 0 % 6 0 % 8 0 % 1 0 0 %

2 0 0 1 年

2 0 0 3 年

毎 日 少 な く と も 1 回 は 利 用 週 に 少 な くとも1 回 は 利 用

月 に 少 な く と も1 回 は 利 用

そ れ 以 下

7 . 0

7 . 8

1 0 . 6

1 2 . 6

2 5 . 5

2 5 . 4

3 0 . 7

2 9 . 8

2 6 . 2

2 4 . 3

0 % 2 0 % 4 0 % 6 0 % 8 0 % 1 0 0 %

2 0 0 2 年

2 0 0 3 年

1 0 分 未 満1 0 ~ 3 0 分 未 満3 0 分 ~ 1 時 間 未 満1 時 間 ~ 2 時 間未 満

2 時 間 以 上

インターネットを利用する頻度や時間も増えてきている。2003 年に

は、利用者の 44.5%が毎日少なくとも 1 回は利用している。常時接続

で定額制のブロードバンドの普及もあり、1 回あたりの利用時間も増え

ている。(図表Ⅱ-2、3)

インターネットの利用用途を見ると、電子メールや商品・サービス等

の情報検索が約 6 割と多く、次いでニュース等の情報入手、商品・サ

ービス購入となっている(図表Ⅱ-4)。こうしたインターネット利用の

増大は、生活を変えつつある。

図表Ⅱ-2 インターネットの利用頻度

図表Ⅱ-3 1回あたりのインターネット利用時間

(備考)図表Ⅱ-2、Ⅱ-3 とも総務省「通信利用動向調査」より作成

図表Ⅱ-4 パソコンからのインターネットの利用用途

インターネットの利用頻度・時間も増加

(備考)総務省「通信利用動向調査」より引用

Page 35: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

17

3.6% 0.1%

96.3%

インターネットで世の中が便利になったと思う

便利になったと思わない

どちらともいえない

40.9%

46.9%

49.6%

43.0%

40.0%

22.6%

33.5%

24.2%

19.8%

24.5%

40.9%

47.0%

49.0%

76.5%

7.3%

18.7%

9.1%

9.6%

10.1%

57.0%

0.8%

0.1%

17.1%

0.9%

0.5%

0.4%

4.4%

5.8%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

家族の安全や食品の安全等

欲しいものが安く買える

店頭や役所に出向かずに買物・手続

消費等の選択肢の拡大

遠距離・即時のコミュニケーション

24時間いつでも手続き・取引

迅速な情報収集

非常に便利になったと思う

ある程度思う

あまり思わない

全く思わない

インターネットの普及とともに、生活のさまざまな分野でインターネ

ットが利便性を向上させており、今ではなくてはならない存在となって

いる。

ネットアンケート調査では、回答者の実に 96.3%がインターネット

で世の中が便利になったとしている(図表Ⅱ-5)。インターネットで便

利になった点としては、特に、情報収集やコミュニケーション、各種の

手続・取引等が、時間・距離に関係なく迅速に行えるようになったこと

が評価されている(図表Ⅱ-6)。

図表Ⅱ-5 インターネットによる利便性向上の評価

図表Ⅱ-6 インターネットによって便利になった点

インターネットで生活の利便性は大きく向上

(備考)消費者 Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成

同調査はインターネットによるアンケートであるため、インターネット利用者のみを対象として

いることに留意する必要がある(以下同様)

(備考)消費者 Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成

Page 36: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

18

0%

20%

40%

60%

80%

100%

求人・雇用

教育趣味・娯楽

旅行・グルメ

ニュース

テレビ

雑誌

インターネット

知人・友人・その他

新聞

85.0%

78.7%

43.8%

32.3%

12.4%

11.1%

8.1%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

インターネット

テレビ放送

携帯電話

新聞

固定電話

ラジオ放送

雑誌

分野別の情報入手先を見ても、インターネットは、旅行・グルメや趣

味・娯楽といった分野で圧倒的な強さを発揮しているほか、その他のあ

らゆる分野でも重要な情報手段となっている(図表Ⅱ-7)。

なくなって困る情報通信サービスについて訊いてみると、85.0%がイ

ンターネットがなくなっては困ると答えており、テレビや新聞等よりも

不可欠なものとして認識されるまでになっている(図表Ⅱ-8)。

図表Ⅱ-7 分野別情報入手先

図表Ⅱ-8 なくなって困る情報通信サービス

インターネットは今ではなくてはならないものとして認識されている

(備考)消費者Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成

(備考)消費者Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成

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19

0

2

4

6

8

10

2002

.1-3 4-6

.7-9

10-1

2

2003

.1-3 4-6

.7-9

10-1

2

2004

.1-3

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0% %

インターネット・ショッピング利用世帯比率(左目盛)

インターネット・ショッピングによる消費割合(右目盛)

インターネット・ショッピングの利用も増加する傾向にある。ネット

ユーザーのインターネット利用率は 2002年末の 20.8%から 2003年末

の 33.2%へと高まっている(図表Ⅱ-9)。全世帯でみても、インターネ

ット・ショッピングを利用する世帯の比率は高まる傾向にあり、消費額

合計に占めるインターネット・ショッピングで購入した消費額の割合も

増大する傾向にある(図表Ⅱ-10)。

図表Ⅱ-9 ネットユーザーのインターネット・ショッピング利用率

図表Ⅱ-10 増加するインターネット・ショッピングによる消費割合

インターネット・ショッピングの利用も増加する傾向

(備考)総務省「家計消費状況調査」より作成(全世帯ベース)

(備考)総務省「平成 15年通信利用動向調査」より作成

20.8%

33.2%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35%

2002年末

2003年末

Page 38: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

20

いろいろな分野でインターネットを活用した新しいサービスが現れは

じめた。今後、各分野でインターネットや他の IT を活用したサービス

が開発され、人々の生活や企業活動の利便性を高めていくことが期待さ

れる。

【IT による利便性向上事例】 東京MKタクシーの

プライベート・ショファー(仮想的専属運転手)サービス

従来コールセンター経由で呼び出ししていたタクシー配車について、GPSと携帯電話を活用することにより、利用者が自分の位置に最も近い空車のタクシーと距離を直接検索し、ドライバーの携帯電話に直接配車依頼できる「仮想専属運転手」サービス。 (「Japan Shop System Awards 2004」 最優秀賞受賞)

<利用者のメリット> 従来はコールセンターにつながらず待たされる、配車の状況が把握できない、位置や希望が正確に伝わらない等の問題があったが、新システムでは、現在の位置、希望に応じて、リアルタイムかつ正確にタクシーの呼び出しをすることが可能となった。

<提供者のメリット> 利用者とタクシーを直接つなぐことで、コールセンターのコスト圧縮、伝達ミスの低減等を実現している。また、タクシーの運行状況(実車率)や、希望の多いエリア等が、GIS 上で一目で把握でき、効率的運行が可能となっている。

IT 導入が目的ではなく、やはり質の高いタクシーサービス(接客、道順記憶等)が基本にあるべきであり IT はあくまでも道具にすぎない。

インターネットを活用したサービスも登場、今後多様な展開が期待される

(備考)東京MK タクシーからのヒアリング調査による

携帯電話による呼出し画面

Page 39: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

21

2.IT 利活用の課題

○ インターネットの基盤整備の面では、世界で最も安く速いブロードバンド環境

を実現したが、利用の面では、普及率等で見るとまだ向上の余地がある。

⇒ 年齢等による利用格差の解消も引き続き課題。誰でもITを利用でき、IT利用者

と非利用者で格差が生じないようにすることが重要。

○ 生活における IT 活用の効果が現れているが、行政、教育、医療、就労などの

面では、利便性を向上させる余地はまだ大きいと考えられる。

○ 個人情報の扱いやセキュリティへの不安も IT 活用を妨げている。IT を安心し

て利用できる制度・環境の整備が必要。

総務省の発表によると日本のインターネット普及率は 60%を超えた

が(図表Ⅱ-1)、これは、まだ 4割程度の人々がインターネットを利用

せずに残されているということでもある。また、携帯電話によるインタ

ーネット利用では世界最先端であるが、パソコンによるインターネット

利用を見ると、まだまだ日本を凌駕している国がある。(図表Ⅱ-11)。

価格とスピードで世界最先端となったブロードバンドでも、ブロードバ

ンドの普及率では 2004年 1月時点で 8位に留まっている(ITUの 2004

年 9 月発表資料による)。

図表Ⅱ-11 インターネット普及率の国際比較

(備考)1.携帯電話によるインターネット利用は含まれていない 2.ITU‘ITU Telecommunication Indicators’より作成

インフラでは世界最先端となったが、インターネットやブロードバンドの利用面では一層の向上が必要

0

10

20

30

40

50

60

70

韓国

スウ

ェーデン

米国

オランダ

デンマーク

カナダ

日本

ドイツ

香港

イギリス

台湾

フランス

ベルギー

(%)

2003年

1998年

Page 40: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

22

61.9

91.6 90.1 90.484.5

62.6

21.6

49.2

72.8 68.559.0

36.8

10.7

68.4

0

20

40

60

80

100

6~12歳 13~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60歳以上

%2003年末

2001年末

e-Japan戦略では、誰もが IT を利用でき、IT の利用者と非利用者の

格差が生じないようにすることを目標としている。年齢別で見たインタ

ーネット利用率の格差は年々縮小してきているが(図表Ⅱ-12)、引き続

き、情報リテラシーの向上を図り、デジタル・デバイドの解消に努める

必要がある。

図表Ⅱ-12 年齢別インターネット利用率

(備考)総務省「通信利用動向調査」より作成

デジタル・デバイドの解消も課題

Page 41: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

23

<現在>

36.2%

41.2%

34.3%

90.9%

28.1%

17.7%

32.5%

47.1%

50.3%

51.5%

5.5%

4.7%

7.5%

9.0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

教育

医療

行政

金融取引

ショッピング

コミュニケーション

情報収集

非常に便利になった

ある程度便利になった

<将来>

58.5%

65.4%

55.3%

87.3%

52.9%

48.1%

50.8%

37.2%

31.8%

35.7%

32.2%

29.6%

28.4%

11.5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

教育

医療

行政

金融取引

ショッピング

コミュニケーション

情報収集

非常に便利になると思う

ある程度便利になると思う

医療、教育、行政サービスなどの分野は、IT 化による効果が大きい

と期待されるが、現在までのところ利用者が十分に IT の恩恵を実感で

きるまでに至っていない。規制などがこうした分野における IT 利用の

妨げとなっている場合には早急に改善する必要がある。また、こうした

分野では、競争が働きにくく、IT によりサービスの向上や効率化を目

指すインセンティブを持ちにくいことも、IT の利活用が進まない一因

となっていると考えられる。

図表Ⅱ-13 諸分野における IT による利便性の向上の評価

医療、教育、行政サービスなどの利便性の向上は今後の課題

(備考)消費者 Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成

Page 42: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

24

医療分野では、カルテの電子化による医療機関・部門の連携や診療デ

ータの蓄積・共有、医療サービス供給の効率化、レセプト電子化による

診療報酬請求業務の効率化、医療機関の情報公開、遠隔治療など、IT

化によって期待される効果は大きい。しかしながら、現状では電子カル

テは各所で取組みが開始されているものの、必ずしも早いペースでは普

及しておらず、レセプトの電子化もまだ進んではいない(図表Ⅱ-14)。

図表Ⅱ-14 医療分野での IT利活用:レセプトの電子化状況

小・中学校における IT 教育については、ほぼ 100%の学校がインタ

ーネットに接続している2。しかし、それぞれの教室においてインター

ネットに接続できる環境にあるのは、まだ 3 割弱にとどまっている(図

表Ⅱ-15)。また、教員の IT の指導力等の課題も指摘されている。

大学においては、2003 年度には全大学の 16.5%がインターネットに

よる授業の提供を実施している。しかし、インターネットでの授業に単

位を認定している大学は、4.3%にとどまっている3。

図表Ⅱ-15 教室のインターネット接続率

2 文部科学省「学校における情報教育の実態に関する調査結果」より。 3 メディア教育開発センター「高等教育機関における IT 利用実態調査」より。

教育

医療

韓国(2002.10時点)・オンライン 72.5%・磁気媒体  3.8%

日本(2003.12時点)・オンライン  0.0%・磁気媒体  7.2%

(備考)1.日本のオンライン請求は 2004 年度から開始予定 2.厚生労働省調査等より内閣官房 IT担当室が作成した資料より引用

29.2

92.0

100.0

0 20 40 60 80 100

日本

米国

韓国

(%)

(備考)1.日本:2003 年 3 月、アメリカ:2002年 10 月、韓国:2000 年 2.文部科学省資料より内閣官房 IT 担当室が作成した資料より引用

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25

就労・労働分野についても、求人・求職情報の電子化によるマッチン

グ・人材移動の円滑化や、テレワークなど多様な働き方の実現など、IT

による効果は大きいと期待される。しかし、例えばテレワークについて

は、テレワーカー比率で見ると日本は必ずしも進んでいるとは言い難い

(図表Ⅱ-16)。2004 年 3月に労働関係法令の適用関係等をテレワーク

に対応して整理し直したガイドラインが出され、2004 年度中にはセキ

ュリティの高いテレワーク環境の導入を支援するガイドラインが整備

される予定であるが、民間でも、勤務時間の管理やテレワーカーの評価

方法など、テレワーク導入の課題解消に取り組むことが期待される。

図表Ⅱ-16 テレワーカー比率の国際比較

就労・労働

○フィンランド 10.8%○オランダ  8.3%○スウェーデン  8.0%○デンマーク  6.6%○日本  5.8%(○アメリカ 20.0%)

(備考)1.週1 日以上のテレワーカーの総労働力人口に占める割合(アメリカは詳 細不明のため参考値として掲載)

2.国土交通省「2002 年時点での日本におけるテレワークの実態」等より

内閣官房 IT担当室が作成した資料より引用

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26

コンテンツ産業は、今後高い成長が見込まれ、他産業への波及効果も

期待でき、また、海外での日本のイメージ向上にも大きな役割を果たす、

戦略的に重要な分野である。しかし、コンテンツ産業の規模を GDPに

対する比率で見ると、米国の 5.2%に対して日本は 2.2%と半分以下に

とどまっており、世界全体の平均 3.2%と比べても低い(図表Ⅱ-17)。

コンテンツ制作事業者は中小企業が多く、資金調達やマーケティング

等の面で流通事業者(映画配給会社、テレビ局等)に依存し、下請化す

る構造があり、この結果、コンテンツの価値を生み出している部門が必

ずしも成果に応じたリターンを得ていないといった問題も指摘されて

いる。制作事業者の利益が適正に確保されるよう、公正な取引関係の確

立や、多様な方法で資金調達を図るための制度の構築等が必要である。

図表Ⅱ-17 コンテンツ産業規模

行政の電子化については、国の行政機関が扱う申請・届出手続の 97%

が既にオンライン化されている(2003 年度末)。しかしながら、電子申

請の場合でも添付書類の一部を紙ベースで提出することが求められる

といったように、必ずしも効率化に結びついていないケースもある。地

方については、世界の電子自治体トップ 7 に選ばれた横須賀市のよう

に、先進的な取組みを行う団体も現れてきているが、IT 人材の不足等

の問題から、対応にばらつきも生じている。また、行政の IT 化が効果

を十分に発揮するためには、省庁・自治体内部の業務改革が必要である

が、十分に進んでいるとは言い難い。

こうしたことから、住民が行政サービスの電子化によるメリットを実

感するにはまだ至っていない(図表Ⅱ-18)。民間会社による電子政府の

ランキングでも、日本は年々順位を上げてきているが、まだ 11 位にと

どまっている(図表Ⅱ-19)。

行政

コンテンツ

a b

産業規模(億ドル)

GDP(兆ドル) a/b

日本 1,091 4.9 2.2%米国 5,068 9.8 5.2%世界全体 10,000 30.9 3.2%

(備考)‘Copyright Industry in The U.S.Economy’2002 報告書、経済産業省資料、

内閣府「海外経済データ」(平成 15年7 月)、浜野保樹「表現のビジネス」

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27

7.1%

16.0%

8.9%

4.2%

61.2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

行政サービスの電子化はかなり進んできており、便利になってきている

現在はあまり進んでいないが、今後便利になることが期待できる

あまり進んでおらず、今後も進むことは期待できない

行政サービスを電子化しても便利になるとは思えない

行政サービスの電子化について聞いたことがなく、内容を知らない

0102030405060708090

1位カナダ

2位シンガポール

2位米国

4位オーストラリア

11位日本

22位南アフリカ

(%)

・・・・

・・・・ ・・・・

・・・・

      日本の順位の推移 2001年  2002年   2003年  2004年  17位   17位    15位  11位(同率)

図表Ⅱ-18 電子政府の進捗と効果に対する評価

図表Ⅱ-19 各国の電子政府進捗度(2004 年)

(備考)消費者 Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成

(備考)アクセンチュア「電子政府進捗度調査」各年版より作成

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28

91.7%

74.5%

40.1%

37.2%

22.4%

17.1%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

個人情報の漏洩などプライバシーの問題

ウィルスや情報テロなどの情報セキュリティの問題

ネットワークを利用した犯罪

信頼性の低い情報や嘘の情報が容易に広まり影響力を持つ問題

情報の氾濫

デジタル・デバイド

64 2,1327,047

31,229

49,700

123,573

75,478

4,439732

17,796

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 (年度)

2004/9/17現在(前年同期18,829件)

社会の諸分野で IT の利用・活用を進めていく上で、個人情報の保護

やネットワーク・セキュリティの確保も、大きな課題となっている。ア

ンケート結果でも、こうした問題への懸念が強い(図表Ⅱ-20)。

また、インターネット関連のトラブルに関する消費者相談の件数も急

増しており、2003 年度には 12万件を超えた(図表Ⅱ-21)。

図表Ⅱ-20 IT 社会において大きな問題となること

(備考)消費者Web 調査「ITによる利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成

図表Ⅱ-21 インターネット関連のトラブルに関する消費者相談件数

(備考)国民生活センター消費生活相談データベースより作成

【相談事例】 ² 簡易メールで届いた広告からサイトに入った。番組を選んだだけで登録にな

り料金の請求を受けた。支払うべきか。 ² 娘の友人が、コンサートチケットをインターネットの掲示板で見つけた相手

から買うことにし、お金を払ったがチケットが届かない。

個人情報・セキュリティ

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29

2001.1

2005年に世界最先端のIT 国家を目指す ○ 超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策 ○ 電子商取引ルールと新たな環境整備 ○ 電子政府の実現 ○ 人材育成の強化

IT戦略第Ⅰ期: 基盤整備は達成されつつある

(世界で最も安い高速インターネット利用環境等)

IT戦略第Ⅱ期: 利活用重視へ

2003.7

7つの分野における先導的利活用の推進 ①医療, ②食, ③生活, ④中小企業金融, ⑤知, ⑥就労・労働, ⑦行政サービス 新しいIT社会基盤整備

e-Japan戦略

e-Japan戦略Ⅱ

35.0%

35.8%

36.3%

21.3%

25.0%

32.4%

22.2%

44.3%

44.2%

40.7%

46.4%

43.8%

42.0%

52.1%

7.3%

6.6%

10.6%

21.4%

19.8%

12.4%

15.5%

3.8%

3.8%

3.5%

5.0%

5.5%

6.5%

6.6%

6.4%

7.5%

7.4%

5.1%

4.0%

9.5%

10.2%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

医療

生活

中小企業金融

就労・労働

行政サービス

既に効果も表れてきている

今後効果が期待できる

現在の取り組みでは不十分

取り組みの方向として適当ではない

わからな い取り組みの方向として適当である

IT の基盤整備が一定程度進んだことを踏まえ、政府は e-Japan 戦略

Ⅱにおいて利活用重視へという方向を迅速に打ち出した(図表Ⅱ-22)。

このことは、取組みの方向として適切と評価されている。

ただし、利用者がまだ効果を実感するには至っていない(図表Ⅱ-23)。

e-Japan 戦略Ⅱに掲げられた目標も実現が困難なものも多く残されて

いる(図表Ⅱ-24)。一層の取組みが必要となっている。

図表Ⅱ-22 日本の IT 化戦略の推移

(備考)IT 戦略本部資料により作成

図表Ⅱ-23 先導的分野における IT利活用の進捗と効果に関する評価

(備考)消費者Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数 1120)より作成

e-Japan 戦略ⅡではIT利活用促進へ政策の重点を移行

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30

  目  標

医療

生活

中小企業

労働

行政

・2005年までに年間100万人が電子的な手段で情報を入手し職を得る・2010年までにテレワーカーが就業人口の2割

2005年度末までに総合的なワンストップサービスの仕組みや利用者視点に立って行政ポータルサイト等を整備

・2008年度までに、希望する全高齢者単身世帯に遠隔で安否確認等が可能なシステムを導入・2005年までにライフラインの遠隔検針を実現、2008年までに希望する全ての世帯について実施

・2005年度までに信用情報の利用をオンライン化

・2005年度までにITを利用した沿革教育を実施する大学学部・研究科を2001年度の3倍・民間放送用は2003年中、全ての放送用を2008年までにコンテンツをネット配信可能とする環境を整備

・2005年度までに、食品流通業者のおおむね半数程度が電子的な取引を実現・経営にITを活用する農林漁業経営を大幅に増加

・インターネット授業を行う学部・研究科数:151(2002年度) →2001年度の約1.5倍

・生鮮食料品取引の電子化(2002年度) ・出荷者⇔卸売会社間: 33% ・卸売会社⇔中卸会社間: 6%・農業経営にパソコンを利用する農家の割合:36.6%(2002年度)

・テレワーカー比率:15.6%(2003)

・住民基本台帳ネットワーク稼動(2003年8月)・全ての地方公共団体が「総合行政ネットワーク(LGWAN)」に参加(2003年度末)

     実  績

・全国のレセプト電算処理システム導入率:9.6%(2003年度末)・医療オーダリングシステムの導入率:14.4%(2002年10月)

診療報酬請求業務のオンライン化を2004年度から開始し、2010年までに希望する医療機関等について100%対応可能とする

図表Ⅱ-24 e-Japan 戦略II に掲げられたIT 利活用の目標(例)

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31

122,575125,024

144,128

138,797

3.63%

3.81%

4.51%

4.29%

110,000

115,000

120,000

125,000

130,000

135,000

140,000

145,000

150,000

2000年 2001年 2002年 2003年

(円、年間/世帯)

3.0%

3.2%

3.4%

3.6%

3.8%

4.0%

4.2%

4.4%

4.6%

消費支出全体に占める 割合(右目盛)

IT消費額(左目盛)

Ⅲ.IT 化の経済効果

1.IT は新たな需要を創出し、経済を需要面から押し上げている

○ IT 関連の需要の拡大は経済を需要面から押し上げ。

⇒ IT 関連の財・サービスや、インターネット・ショッピングなどの新しい消費形態

の登場は、従来の消費からの代替にとどまらず、需要を増加。

○ IT 関連の財・サービスの著しい価格低下は、利用者に大きなメリット。

⇒ 2000 年度以降のパソコン価格やインターネット接続料の低下により、2003 年度

には約1.4 兆円相当(累計では約3兆円相当)のメリット。

○ 今後も IT 需要の拡大は続くとみられるが、短期的には循環的な調整も生じ得

る。

経済の面でも IT 化は進展し、IT 関連の財・サービスに対する需要も

拡大している。パソコン、インターネット接続料などの IT 関連消費が

消費全体に占める割合は年々拡大し、2003 年には 4.5%となった(図

表Ⅲ-1)。投資についても、90 年代に一旦 IT 投資は停滞したものの、

90 年代後半以降は再び大きく増加しており、直近では IT 投資が民間投

資全体の約 3 割を占めるようになっている(図表Ⅲ-2)。今後も、短期

的な調整は生じうるが、IT 需要の拡大は続くと考えられる。

図表Ⅲ-1 IT 消費の拡大

IT関連の財・サービスに対する需要は拡大

(備考)1.IT 消費の定義は篠崎・手嶋(2004)「IT関連指標の作成とそこからみた現状」未来経 営 No.12 による(IT消費=電話・通信料、通信機器、パソコン、インターネット接 続料、カメラ・ビデオカメラ、オーディオ・ビデオディスク、他の教養娯楽用耐久財)

2.総務省「家計調査」より作成

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32

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03

IT投資寄与

非IT投資寄与

総実質投資伸び率

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03暦年

(10億円)

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

実質IT投資額

民間投資に占める割合(右目盛)

図表Ⅲ-2 IT 投資額の推移

(備考)1.IT 投資は①事務用機械、②電子計算機・同付属品、③電気通信機器、④受注ソフト

ウェアの合計。IT 投資額の作成方法は付注 4 を参照. 2.総務省「産業連関表固定資本マトリックス」経済産業省「機械統計月報」等より作

図表Ⅲ-3 民間設備投資の伸びに占めるIT 投資の寄与

(備考)1.IT 投資は①事務用機械、②電子計算機・同付属品、③電気通信機器、④受注ソフト

ウェアの合計。IT 投資額の作成方法は付注 4 を参照 2.総務省「産業連関表固定資本マトリックス」経済産業省「機械統計月報」等より作 成

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33

生活における IT 化の浸透に伴い、IT 化に関連した耐久財の普及が急

速に進んでいる。パソコンや携帯電話の普及率は 60%を超えるに至っ

ているが、最近ではデジタルカメラ、DVD プレイヤーの普及率が急速

に高まっている(図表Ⅲ-4)。

こうした IT 関連の耐久財の普及スピードはいずれも急速であること

が特徴である。とくにデジタルカメラやDVD プレーヤーなどの普及パ

ターンはかつてのカラーTV や VTR、CD プレーヤーのパターンに類似

しており、足許の消費拡大の大きな要因となっている。

図表Ⅲ-4 急速に普及している IT 関連の耐久財

(備考)内閣府「消費動向調査」より作成

IT化の進展により、IT 関連耐久財の普及が急拡大

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1970

.3

1972

.3

1974

.3

1976

.3

1978

.3

1980

.3

1982

.3

1984

.3

1986

.3

1988

.3

1990

.3

1992

.3

1994

.3

1996

.3

1998

.3

2000

.3

2002

.3

2004

.3

カラーテレビ

VTR

ビデオカメラ

デジタルカメラ

DVD プレーヤー

CDプレー ヤー

携帯電話

パソコン

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34

42.6% 51.7%

5.7%

0% 2 0 % 40% 60% 80% 100%

全 体 の 消 費 額 は    増 え た

全体の消費額は 変わらない

全 体 の 消 費 額 はむ し ろ 減 少 し た

12.9

9.4

15.0

27.1

36.3

30.2

41.2

8.0

13.5

11.4

18.7

14.6

19.4

35.7

41.3

32.0

13.1

5.3

7.6

10.7

5.6

5.6

85.1

68.8

81.6

63.1

72.3

61.9

29.6

11.7

32.2

13.8

4.7

4.6

3.6

39.5

3.3

2.2

3.7

3.8

0% 20% 40% 60% 80% 100%

インターネット接続できる家電製品

IP電話サービス

携帯情報端末(PDA等)

音声・映像コンテンツ

デジタル携帯音楽プレーヤー

DVD/HDD・レコーダー

デジタルカメラ・ビデオ

インターネットサービス(プロバイダー契約など)

携帯電話・PHS

パソコン・周辺機器・ソフトウェア

全体の消費額は 増えた

全体の消費額は 減った

全体の消費額は 変わらない

購入して いない

IT 関連の消費の拡大は、消費全体の拡大につながっているのだろう

か。それとも、他の消費を節約して IT 関連の消費に振り替えているだ

けで、実質的な需要の増加を経済にもたらしてはいないのだろうか。

この点について訊ねたアンケート調査結果によると、約 4 割が、IT

関連の消費が増えたことにより全体の消費が増えたと回答している。し

たがって、パソコンやインターネットなどの IT 関連消費の増加は、単

なる既存の消費からの代替だけでなく、消費全体の需要増加をもたらし

ていると見られる(図表Ⅲ-5)。

図表Ⅲ-5 IT 関連の財・サービスの購入が全体の消費額に与えた影響

(品目別)

IT消費の拡大は需要全体の拡大につながっている

(備考)消費者 Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数 1120)より作成

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35

このことを、統計データからも見てみよう。ここでは、一つの試みと

して、IT 消費を説明変数に含めて消費関数を推計してみる。もしも、

IT 消費が他の消費を節約しての単なる代替にとどまっているのであれ

ば、IT 消費が増えても消費全体は増えず、両者は無相関となり、した

がって IT 消費にかかる係数はゼロとなるはずである。一方、IT 消費の

増加が他からの代替にとどまらず、消費全体を増加させているのであれ

ば、係数は正となる。こうした消費関数を推定した結果を見ると、IT

消費にかかる係数は有意に正となっており、IT 消費の増加が消費全体

の増加につながっていることがわかる(付注 2 参照)。

これを用いて IT 消費が消費全体を拡大させた効果を試算してみる。

実質 IT 消費は 2000 年の 7.8 兆円から 2003 年の 12.1 兆円へと 3 年間

で 56.2%(4.4 兆円)増加しているが、これによって、実質家計消費支

出全体は 0.8%(1.9 兆円)程度増加し、実質 GDPを 0.4%程度増加さ

せたと推定される(図表Ⅲ-6)。

図表Ⅲ-6 IT 消費の増加が消費額全体に与えた影響(試算)

実質IT 消費 2000 年の 7.8 兆円から 2003 年の 12.1兆円へと

3 年間で56.2%(4.4 兆円)増加

⇒ 実質家計消費支出全体を 0.8%(1.9 兆円)程度増加

(実質 GDP を 0.4%程度増加)

(備考)IT 消費を説明変数に加えたエラー・コレクション型の消費関数の推計結果に基づく

推計の詳細は付注 2 を参照

IT消費の増加は3 年間で家計消費支出全体を0.8%程度増加させたと試算

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36

38.2% 55.6%

6.2%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

消費額が 増えた

消費額は変わ らない

消費額はむしろ減少した

29.9

21.0

18.5

29.5

23.2

23.6

29.8

5.8

8.9

3.6

7.3

6.4

3.9

6.828.6

28.4

26.1

31.7

19.3

24.6

26.8

34.8

44.1

58.6

31.5

44.2

45.6

37.6

0% 20% 40% 60% 80% 100%

パソコン関連

旅行

エンタテインメント

書籍・音楽

衣料・アクセサリー

食品・飲料

趣味・雑貨・家具

全体の消費額は 変わらない

全体の消費額はむしろ減少した

インターネットショッピングでは購入していない

全体の消費額 は増加した

IT は、インターネット・ショッピングなど IT を活用した新たな消費

形態の登場によっても、需要の創出・増加をもたらすと考えられる。こ

の点について、アンケートで訊ねてみると、インターネット・ショッピ

ングを行った者の 4 割弱が、それによって消費額が増えたと回答して

いる(図表Ⅲ-7)。店頭に出向かなくとも 24 時間いつでもショッピン

グができることや、ネット上の大量の商品情報の中から自分の欲しいも

のを検索して見つけられることなど、消費における便利さが高まったこ

とが、需要の増加をもたらしていると考えられる。

図表Ⅲ-7 インターネットショッピングの利用による消費額への影響

(品目別)

インターネット・ショッピングなど IT による新たな消費形態も需要を拡大

(備考)消費者 Web 調査「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調査」(回答数1120)より作成

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37

消費者余剰 (単位億円)

2001年度 2002年度 2003年度

携帯電話 731 2,173 3,146 -4.8%

パソコン 4,087 5,348 6,795 -76.5%

ブロードバンド 1,295 2,466 4,199 -32.4%

合計 6,112 9,987 14,141

累計 6,112 16,099 30,240

価格の下落率(00-03年度)

0

20

40

60

80

100

1 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8

2000年 2001年 2002年 2003年 2004年

パソコン(デスクトップ型)

パソコン(ノート型)

消費者物価指数総合

パソコンなど IT 関連の財・サービスは価格の低下が著しい。機能の

向上による実質的な価格低下も考慮に入れると、2004 年 8 月のパソコ

ン価格は 2001 年 1 月の約 5分の 1 になっている(図表Ⅲ-8)。こうし

た著しい価格低下は消費者・利用者に大きなメリットをもたらしており、

需要の拡大にもつながっている。

携帯電話、パソコン、ブロードバンド・サービスの 3 つについて、

価格低下による消費者・利用者のメリット(消費者余剰=最大限支払っ

ても良いと考える金額以下で購入できたことによるメリット)を試算し

てみると、2000 年度以降のこれらの IT 関連財・サービスの価格低下

により、2003 年度には約 1.4兆円相当、累計では約 3 兆円相当のメリ

ットが生じていると推計される(図表Ⅲ-9)。

図表Ⅲ-8 パソコン価格の推移

(備考)総務省「消費者物価指数」より作成

図表Ⅲ-9 価格低下による消費者・利用者のメリット

IT関連の価格低下により約 1.4兆円の利用者メリット

(備考)2000 年度からの価格低下による消費者余剰の増加額を推計 推計方法の詳細は付注 3 を参照

Page 56: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

38

0

20

40

60

80

100

80 81 82 83 84 85 8687 88 89 90 91 92 9394 95 9697 98 99 00 01 02 03暦年

(兆円)

0%

2%

4%

6%

8%

10%

実質IT資本ストック額

民間資本ストックに占める割合(右目盛)

2.IT は経済の生産性上昇をもたらしている

○ IT 投資は日本の労働生産性上昇に寄与。

⇒ IT 投資により、資本ストックに占めるIT 資本の割合が上昇。

⇒ IT 投資は日本の労働生産性上昇に寄与。特に 90 年代後半以降、生産性上昇に果

たした役割が強まっている。

○ IT 投資は他の投資に比べて生産力増強効果が高い。IT 化の推進は、経済の生

産性を高める。

⇒ IT 資本の生産力効果は非IT 資本の約4 倍。

⇒ IT 投資の生産力効果が他より高いことは、逆に言えば日本のIT投資がまだ十分

ではない可能性。IT投資拡大の余地は依然大きいと考えられる。

IT は、需要と供給の両面で経済に影響を与えるという二面性を持っ

ている。すなわち、企業がパソコンなどの IT 機器を導入した場合に、

それは IT 投資として需要側に現れると同時に、その企業の生産性を高

めることで、供給側にも影響を与える。前節では、需要側における IT

化の影響を見たが、本節ではこうした供給側の ITの生産性効果を見る。

先に見たとおり、IT 投資は 90 年代前半の停滞の後、90 年代後半以

降大きく増加した。この結果、民間の IT 資本ストックも 90 年代後半

以降伸びが大きくなっている。民間資本ストック全体に占める IT 資本

の割合も、90年代前半には上昇が止まっていたが、90 年代後半以降上

昇が続き、全民間資本ストックの 1割弱が IT 資本となるに至っている。

図表Ⅲ-10 IT 資本ストック額の推移

民間資本ストック全体に占めるIT資本ストックの割合が上昇

(備考)1.図表Ⅲ-2 のIT 投資額を基に、恒久棚卸法を用いて推計した 2.総務省「産業連関表固定資本マトリックス」経済産業省「機械統計月報」等により作成

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39

IT資本 非IT資本 ネットワーク効果 その他1980-85年 18.8% 77.3% 17.9% -14.0%85-90年 25.6% 41.2% 20.9% 12.2%90-95年 21.3% 88.7% 6.7% -16.7%95-2000年 40.9% 49.2% 13.5% -3.5%2000-03年 59.4% 64.3% 14.8% -38.6%

IT資本による上昇分

ネットワーク効果による上昇分

非IT資本による上昇分

その他

労働生産性伸び率

-1%

0%

1%

2%

3%

4%

5%

1980-85年 85-90年 90-95年 95-2000年 2000-03年

ITによる効果

こうした IT 資本ストックの増加は、経済の生産性をどの程度上昇さ

せているのだろうか。労働生産性の上昇を、1 人あたり IT 資本(IT 資

本装備率)が増加したことによる生産性上昇、1 人あたり非 IT 資本の

増加による上昇、IT のネットワーク効果による上昇、その他の 4 つに

分けて見たものが、図表Ⅲ-11 である。これを見ると、IT 資本の伸びが

高まった 90 年代後半以降、IT 資本の寄与が高まり、毎年平均 0.7%程

度、労働生産性を上昇させてきたことがわかる。非 IT 資本の寄与が鈍

化している中で、IT 資本の増加は労働生産性上昇の重要な源泉となっ

ており、2000 年度以降は、労働生産性上昇の約 6 割が IT 資本の増加

によってもたらされている。

図表Ⅲ-11 労働生産性上昇の要因分解

労働生産性上昇に占める寄与率

(備考)1.コブ・ダグラス型生産関数を仮定し、以下により分解

△(Y/L)/ (Y/L)=βNonIT×△(KNonIT/L)/ (KNonIT/L)+βIT×△(KIT/L)/ (KIT/L)+△TFP/TFP ただし、Y: 付加価値額, L: 労働投入量(就業者数×労働時間), KNonIT: 非 IT 資本ストック, K IT: IT

資本ストック βNonIT, βIT は、それぞれ非 IT 資本、IT 資本の分配率

2.この上で、TFP上昇率をネットワーク効果によるものとその他に分けた。その手法については、付注 5、6を参照

IT資本の増加は生産性上昇の重要な源泉

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40

IT が他の資本と異なる特徴として、ネットワーク効果の存在が挙げ

られる。すなわち、自らの IT 投資による生産性上昇だけでなく、取引

先の IT 化が進むことによって更に生産性が上昇するというように、ネ

ットワーク等を通じて生産性の上昇が外部に波及するのである。単純な

例で言えば、自社で電子メールを導入するだけでなく、取引先が電子メ

ールを導入することで、自社の業務も一層効率化するといったことであ

る。

こうした生産性上昇の外部波及が実際に見られるかどうかを、産業別

のパネル・データを用いて確かめてみた。具体的には、ある産業の生産

性の上昇率(労働生産性の上昇率から 1人あたり IT・非 IT 資本の増加

によって説明できる分を除いた、全要素生産性(TFP)の上昇率)と、

取引関係にある他産業における IT 資本の増加率との間に、正の関係が

見られるかどうかを推定した。推定結果を見ると、両者の間に正の関係

が認められ、取引先産業の IT 化が自産業の生産性上昇をもたらすとい

う、外部波及効果が実際に働いていることが確認されている(付注 6 )。

前掲の図表Ⅲ-12には、こうしたネットワーク効果による生産性上昇

分も示してある。90 年代後半以降、IT のネットワーク効果により年平

均 0.2%程度、労働生産性上昇率が押し上げられており、IT 資本装備率

の上昇分と合わせると、2000 年度以降の労働生産性上昇の実に 75%程

度が IT 化によってもたらされている。

かつて、米国においては、生産活動へのコンピュータの導入が進んで

いるにもかかわらず、労働生産性上昇率の高まりが見られないという

「ソロー・パラドクス」が議論を呼んだが、統計の整備が進んだことな

どにより、最近では IT が生産性上昇をもたらすことについてコンセン

サスが形成されてきている。

日本においても、90年代後半以降、IT 化が進む中でも労働生産性上

昇率の高まりが見られず、むしろ低下しているという意味では、一見ソ

ロー・パラドクス的な状況にあるように見える。しかしながら、すでに

見たように、近年の IT 化は労働生産性の上昇に寄与している。労働生

産性上昇率が低下したのは、非 IT 資本の伸びが低下したこと等による

ものであり、IT 化が進まなかったならば、労働生産性上昇率は更に低

下していたと考えられる。こうした意味で、日本はソロー・パラドクス

の状況にあるわけではないと言える。次節で見るように、企業レベルで

の検証によっても、企業の IT 化の進展が生産性の上昇をもたらしてい

ることは確認される。

ITのネットワーク効果による生産性上昇も存在

ソロー・パラドクスは日本にはあてはまらない

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41

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

非IT資本 IT資本

図表Ⅲ-12は、IT 資本と非 IT 資本の生産力増強効果(限界生産力)

を推定し、比較したものである。IT 資本の生産力増強効果は、非 IT 資

本に比べ、約 4 倍となっている。したがって、IT 化を促進することは、

日本経済の生産力を高めることにつながる。

IT 資本の限界生産力が非 IT 資本よりも大幅に高いということは、逆

に言えば、日本の IT 資本がまだ最適水準に達しておらず、不十分であ

る可能性が高いということである。IT によって経済の生産性を高める

余地はまだ大きいと考えられる。

図表Ⅲ-12 IT 資本の生産力増強効果(限界生産力)

(備考)コブ・ダグラス型生産関数の推計結果による ln(Y/L) = -0.338*** + 0.292**×ln(KNonIT/L) + 0.122**×ln(KIT/L) ただし、Y: 付加価値額, L: 労働投入量(就業者数×労働時間), KNonIT: 非 IT 資本ストッ

ク, KIT: IT 資本ストック ***は 1%有意、**は 5%有意。推計期間は 1980年~2003 年 限界生産力は、IT 資本の弾力性係数 0.122×(Y/K IT)により求めた(詳細は付注 7)

IT資本の生産力効果は非 IT 資本よりも大幅に高い

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42

33.0%

79.6%

85.0%

23.3%

12.1%

10.9%

3.0%

43.6%

9.6%

0% 20% 40% 6 0 % 80% 100%

企 業 間 通 信 網

企 業 内 通 信 網

インターネット

全 社 的 に構 築 ・接 続

一 部 の 事 業 所 、部 門 に 構 築 ・接 続

構 築 ・接 続していない

3.企業での IT 活用の効果を高めることが課題

(1)企業の IT 化も進展

○ 企業においても IT 化は進展。

⇒ 97%以上の企業がインターネットに接続し、約9 割の企業が企業内通信網を構築

企業間通信網も約 55%の企業が構築・接続。

約 67%の企業がインターネット等に接続しているパソコンを1人1 台以上設置。

○ 業務システムの導入も進められている。

⇒ 会計・経理、人事・給与など業務システムの導入も進んでいる。

⇒ ただし、上場企業と非上場企業など企業間で格差が生じている。

企業における IT の導入は年々進展してきており、現在では 97%以上

の企業がインターネットに接続し、約 9 割の企業が企業内通信網を構

築している。企業間通信網も約 55%の企業が構築・接続している(図

表Ⅲ-13)。約 67%の企業がインターネット等に接続しているパソコン

を 1 人 1 台以上設置しており、76%の企業が e-mail アドレスも 1人 1

アドレス以上保有している4。

図表Ⅲ-13 企業のネットワーク接続状況

4 企業 Web調査「IT が企業の生産性や経営組織改革に与える影響に関する調査」より。

企業の IT 化は進展

(備考)企業 Web 調査「IT が企業の生産性や経営組織改革に与える影響に関する調査」(回答数 1423)よ

り作成

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43

0

20

40

60

80

100

会計

・経理

人事

・給与

営業

調達

物流

生産

研究開発

広報

経営企画

%上場企業

非上場企業

全企業

79.6%89.0%

61.0%

10.9%8.2%

16.3%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

全社 上場企業 非上場企業

全社的に接続

一部の事業所または部門で接続

33.0%40.4%

18.6%

23.3%

28.8%

12.5%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

全社 上場企業 非上場企業

全社的に接続

一部の事業所または部門で接続

通信網の接続は進んでいるが、上場企業と非上場企業を比べると格差

がみられる。上場企業では殆どの企業で社内通信網が接続されており、

企業間通信網も 69%強の企業で接続されているが、非上場企業では社

内通信網は 77%強の企業で接続されているものの、社外通信網の接続

は 30%強に留まっている。業務システムについても、上場企業では殆

どの企業で各業務システムが導入されているが、非上場企業での導入率

は全体的に低く、企業間で格差が生じている。とくに、調達、物流、生

産などの部門で非上場起業の導入率が低くなっている。

図表Ⅲ-14 企業の通信網の接続状況 企業内通信網 企業間通信網

図表Ⅲ-15 企業の業務システム導入状況(ほぼ全て+一部の業務)

通信網の接続や業務システムの導入には、企業間で格差がみられる

(備考)1.該当する部門がある企業のうち、「ほぼ全ての業務に導入している」、「一部の

業務に導入している」ものの割合

2.前掲の企業Web 調査より作成

(備考)前掲の企業Web 調査より作成

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44

中小企業における IT 化には企業規模間による格差がみられることが

指摘されている。その主な要因としては、IT 化への投資力の差や IT 関

連の人材不足などが指摘されている。

IT 化の企業格差が生じていると、たとえ自社が IT 化に対応していた

としても外注先など取引先との足並み(IT レベル)が揃わず、企業間

連携における電子化対応を阻害する要因になっているとの指摘もなさ

れている(全国中小企業団体中央会「中小企業マルチメディア支援調査

研究事業報告書」2001 年)。

全国中小企業団体中央会「中小企業マルチメディア支援調査研究事業報告書」

(2001 年)の注目ポイント

・ IT 化の必要性は認識

将来的には受発注の電子化が不可避であることはほとんどの企業にお

いて認識されているが、「IT は今後必要不可欠なツール」と位置付け、

投資効果を度外視して取り組んでいるのが実態。

・ コスト負担感が大

受発注の電子化に関する導入コスト、維持/運営コストなどは基本的に

は中小企業側に発生せざるを得ず、また取引先ごとに対応/システムが

異なるケースが多いため、取引先が多いほど受発注の電子化でかえって

負荷が増大する可能性がある。逆に受発注件数が少ないと効率化にまで

つながらず、「負担増」の意識になる。

・ IT 投資の直接的効果への期待は弱い

取引先からの要請によって受発注を電子化しても直接的な売上や利益

の増加は期待できず、即効的な効果はないのが現状。逆に「ネット調達

=調達のオープン化=単価の低価格化」とマイナス要因として認識してい

る企業も少なからずある。

中小企業ではデータをリンクさせるシステムがないため、電子化データ

を生産システムや社内管理システムにリンクさせることによる波及的

な効率化の効果が期待できない場合が多い。

・ 人材不足が IT 化のネック

小規模企業における人材不足や人材不足が IT 化推進の遅延要因のひと

つになっており、「IT に関する人材育成/研修」、「IT 導入に関する IT 専

門家のアドバイス」、「IT 専門家のアドバイス」などへの要望が強い。

中小企業ではIT活用での格差が大きく、全体のIT化の効果を阻害する要因となっている

Page 63: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

45

19.0%

20.4%

7.5%

7.8%

7.0%

7.1% 33.6%

34.1%

38.9%

41.0%

47.4%

51.9%

0% 20% 40% 60% 80%

製品やサービスの質・付加価値の向上

売上げの拡大

顧客満足度の向上、新規顧客の開拓

従業員の満足度向上や職場の活性化

社内コミュニケーションの円滑化、社内情報の共有化

業務革新、業務効率化、コストの削減

効果が十分あった 効果がある程度あった

(2)企業においても IT 化の効果は一部現れているがまだ十分ではない

○ 業務革新やコミュニケーションの円滑化の面では IT 化の効果が顕れているが

全体としては十分な効果は現れていない

○ IT の活用面では企業間格差がみられる

○ 日米企業の IT 活用についての評価結果でも、日本企業は、まだ IT を十分に活

かしきっていない。

業務革新・業務効率化・コスト削減や社内コミュニケーションの円滑

化などの面ではある程度効果が現れているものの、売上げの増加、製品

やサ―ビスの質・付加価値の向上、顧客満足度の向上といった面ではま

だ十分な効果が現れていない。

とくに、効果が「十分」あったとする企業は、業務革新・業務効率化・

コスト削減で 19.0%、社内コミュニケーションの円滑化で 20.5%に留

まっており、その他ではいずれも 7%台に留まっている。IT 化の効果

はまだ十分には現れていない。

図表Ⅲ-16 企業の IT化の効果の評価

IT化の導入効果は一部に現れているがまだ十分には発揮されていない

(備考)企業 Web 調査「IT が企業の生産性や経営組織改革に与える影響に関する調査」(回答数 1423)よ

り作成

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46

【米国企業】

十分効果あり, 22.3

ある程度効果あり,47.6

効果なし, 11.4

あまり効果なし,18.7

【日本企業】

十分効果あり, 3.5

ある程度効果あり, 49.6

効果なし, 10.1

その他, 21.6

あまり効果なし,15.2

日米の企業に行ったアンケート結果により、日米企業の IT 投資の効

果についての企業の評価をみると、米国企業の 22.3%が十分にあった

としているのに対して、日本企業は3.5%にとどまっている(図表Ⅲ-17)。

企業が IT を上手く活用し、その効果が最大限発揮させるようになれ

ば、日本経済の生産性はさらに上昇するものと期待できる。以下次節で

は、IT が一層効果を上げるための手がかりとなる要因を分析する。

図表Ⅲ-17 企業における IT投資の効果の日米比較

米国企業と比べても日本企業はまだ IT を活かしきっていない

(備考)総務省「企業経営における IT活用調査」(2003 年)より引用

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47

(備考)1.(IT 化下位、企業組織上位)の生産性は93.3 となっているが、(IT 化下位、企業

組織下位)の企業(100.0)と有意な差ではない。一方で、(IT化上位、企業組織上

位)と比べると有意に低い

2.企業Web 調査「IT が企業の生産性や経営組織改革に与える影響に関する調査」の個

票データおよび企業財務データを用いて分析。データ詳細、作成方法等は付注 8

(生産性)

116.0107.2

93.3100.0

50

60

70

80

90

100

110

120

IT化上位 IT化上位 IT化下位 IT化下位

企業組織上位 企業組織下位 企業組織上位 企業組織下位

※生産性は、IT化下位 企業組織下位 の企業を100として基準化。

(3)IT 導入の効果を高めるためには組織改革や業務プロセスの改革が課題

○ IT が効果を十分発揮するには、組織や業務プロセスの改革を併せ行う必要。

⇒ IT 化と同時に組織改革等を行っている企業は効果が高い。企業組織の柔軟性や労

働の流動性が、IT の効果発揮に重要な要素。

⇒ IT によって、部門や業務ごとの効率化にとどまらず、企業組織全体の効率化まで

進めている企業ほど良い業況。日本でその段階にまで進んでいる企業はまだ少数。

○ 日本企業は新たな価値創造手段として捉える観点が弱い。

⇒ 日本企業は IT を主にコスト削減・業務効率化の手段として捉えており、米国企業

に比べ顧客獲得・高付加価値化など新たな価値創造手段として捉える観点が弱い。

IT 導入が効果を十分に上げるためには、単に IT を導入するだけでな

く、組織や業務プロセスの改革を併せて行う必要がある。

図表Ⅲ-18 は、企業へのアンケート調査を基に、企業の IT 化の進展

度や企業組織改革、人的資本対応の進展度をランク付けし、これと財務

データを組み合わせて生産関数を推定することで、IT 化、組織改革、

人的資本対応と、生産性との関係を見たものである。IT 化と組織改革

の進展度がともに高い企業は、それらがともに低い企業よりも生産性が

16%高い。それだけでなく、IT 化は同程度に進展しているが組織改革

が遅れている企業と比べても約 9%高くなっている(図表Ⅲ-18)。

図表Ⅲ-18 企業の IT化、組織改革の進展度と生産性

IT導入が効果を上げるためには組織や業務プロセスの改革を併せ行う必要

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48

(生産性)

123.5

111.5107.2

100.0

50

60

70

80

90

100

110

120

130

IT化上位 IT化上位 IT化下位 IT化下位

人的資本上位 人的資本下位 人的資本上位 人的資本下位

※生産性は、IT化下位 人的資本下位 の企業を100として基準化。

(備考)企業Web 調査「IT が企業の生産性や経営組織改革に与える影響に関する調査」の個

票データおよび企業財務データを用いて分析。データ詳細、作成方法等は付注 8 参

また、IT 導入に併せて、人的資本面でも対応が必要となる。広範な

業務分野において従業員がパソコンなどの操作能力を身につけること

が求められ、IT の専門人材も必要となる。コンピュータで代替が可能

な単純な業務では人材が余剰となる一方で、人間にしかできない判断、

分析、渉外などの高度な業務で質の高い人材の必要性が高まる。こうし

た状況に対応して、人材を流動的に有効活用したり、必要な人材の育成

を行わなければ、IT 化の効果は十分には発揮できない。

実際、IT 化と人的資本についても、両方の面でともに進展度が高い

企業は、ともに低い企業よりも 23.5%生産性が高く、IT 化のみ進展し

ているが人的資本対応が遅れている企業よりも 12%高い(図表Ⅲ-19)。

こうしたことからすると、直接に IT に関連する政策ではないが、企

業が組織改革や、人材育成、雇用面での対応などを円滑に行えるような

制度・政策の整備が、IT 化の効果に重要な影響を与えることになる。

第 1 回の構造改革評価報告書において取り上げたように、政府はこれ

らの分野で取組みを進め、成果も上げてきているが、こうした取組みは

IT 化の進展と相乗的な効果を上げるためにも重要である。

図表Ⅲ-19 企業の IT化、人的資本対応の進展度と生産性

人材の育成や有効活用への取組みも IT 化の効果を左右

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49

50.0

29.2

18.1

30.0

22.2

16.0

21.9

20.0

36.1

44.3

46.9

12.5

21.6

25.0

6.3

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ITの活用により、部門ごとの効率化を実現

単にITを導入しただけで、その活用がなされていない

単一企業組織を超えて、ITにより、最適なバリューチェーンを構成する共同体全体の最適化を実現

上向き 上向き、将来不透明

横ばい 悪化

(15%)

(17%)

( 2%)

(66%)

ステージ4 :共同体最適化企業群

ステージ3 : 組織全体最適化企業群

ITを理解する経営者の決断と実行により、企業組織全体におけるプロセスの最適化を行い、高効率化経営と顧客価値の増大を実現

ステージ2 :部門内最適化企業群

ステージ1 :IT不良資産化企業群

全体に占める企業割合

業 況

こうした IT 化と業務プロセスの改革を 4 段階のステージに分け、業

況との関係を見たものが図表Ⅲ-20 である。これを見ると、IT 化のス

テージが進むほど、業況が良くなっているとの関係が見られる。ただし、

日本企業の約 8 割は、部門ごとの効率化のステージ以下にとどまって

おり、そのうち 15%は、IT を導入しても活用されずに不良資産と化し

ている企業である。企業組織全体のステージに達している企業は 2 割

に満たない。

図表Ⅲ-20 企業の IT化ステージ別業況判断

(備考)(財)日本情報処理開発協会「情報化白書2004」により作成

IT化のステージと業況

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50

【コスト削減・業務効率化が目的】

020406080

100販売・販売促進

在庫管理

商品生産

仕入アフターサービス

経理・会計

給与・人事

【売上拡大・高付加価値化が目的】

020406080

販売・販売促進

在庫管理

商品生産

仕入アフターサービス

経理・会計

給与・人事

日本 米国

020

4060

80業務効率化・業務量削減

調達単価の引下げ

間接コスト削減

直接コスト削減

部品在庫の圧縮

売上拡大

新規顧客の獲得

製品・サービスの高付加価値化

顧客満足度向上

製品・サービスの品質向上

日本 米国【顧客獲得・高付加価値化関連               の効果】

【コスト削減・業務効率化関連              の効果】

日米における IT 導入の目的意識の違いも、効果の違いをもたらして

いる。図表Ⅲ-21 を見ると、日本企業は、IT を主として業務効率化や

コスト削減の手段として捉えていることがわかる。IT を、新規顧客獲

得や高付加価値化など、新たな価値を生み出す手段として捉える意識は、

米国企業に比べて低い。

こうした目的意識の違いは IT投資の効果の顕れ方にも影響している。

IT 投資の効果について見ると、業務効率化の面では日本企業も米国企

業と遜色ない効果を上げている。しかしながら、顧客獲得・高付加価値

化といった面では、効果に大きな開きがある(図表Ⅲ-22)。

IT を、業務効率化の手段としてだけでなく、新たな価値を生み出す

手段としても捉え活用することで、これまでと違う面での効果が発揮さ

れると期待される。

図表Ⅲ-21 企業におけるIT 投資の目的の日米比較

図表Ⅲ-22 企業における IT 投資の目的別効果の日米比較

IT化の目的意識と効果に日米で違い

(備考)総務省「企業経営における IT活用調査」(2003 年)より作成 各部門における情報システム導入の目的として挙げた割合

(備考)総務省「企業経営における IT活用調査」(2003 年)より作成

効果があったとする企業の割合 比較時点(調査期間)は 2003年 1~2月

Page 69: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

51

Ⅳ.課題解決の方向性

IT という新しい技術は、新しいライフスタイルと新しい経済発展を切り拓く。

IT 潜在力を最大限に引き出し、多様性と活力に満ちた経済社会を実現するために、

以下のような課題に取組む必要がある。 ○ IT の基盤整備は大きく進んでいるが、引き続き、競争的環境を保ちつつ、民間

事業者の主導で、基盤整備を進めることが重要。 ○ IT 利用の妨げとなっている要因を取り除き、IT の効果を最大限発揮させるこ

とが必要。

⇒ 利活用の目標を定量的な指標等で明確化することが有効

⇒ 各種の規制や慣行、必要な標準化や制度の不備などがIT 利用の妨げとなっている

場合には、早急に改善。

⇒ 個人情報の扱いや個人認証、セキュリティーへの不安も利活用が進まない要因。

IT を安心して利用できる制度・環境の整備が必要。

○ 行政、教育、医療、就労・労働などの各分野での IT 利用を具体的に推進。

IT という新しい技術は、新しいライフスタイルと新しい経済発展を切り拓く。本報告

書で見たように、IT は既に生活のさまざまな面で利便性を高め、多様な生き方や働き方

を可能にし、新たな事業機会の創出や更なる生産性の向上など、需要・供給の両面で経済

活性化の鍵となっている。しかし、こうした成果は IT の持つポテンシャルから見ればほ

んの一部にすぎない。IT は、まだまだ発展の可能性に溢れており、したがって、それに

よって拓かれる経済社会の発展の可能性もまた大きい。

IT の潜在力を最大限に発揮し、多様性と活力に満ちた経済社会を実現するために、以

下のような課題に取組み、IT の発展を促進していく必要がある。

競争を通じて多様なインフラを整備

ADSL を中心に高速ネットワーク・インフラの整備は大きく進んできたが、IT分野で

の急激な技術革新への対応や、多様な利用ニーズへの対応の点から、引き続きインフ

ラの整備を進める必要がある。

2005 年までに、有線・無線を問わず、高速インターネットアクセス(144kbps 以上

1.インフラの整備

次の段階の IT 基盤整備へ向けたインフラ整備の推進

Page 70: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

52

30Mbps 未満)へ 4,000 万加入、超高速インターネットアクセス(30Mbps 以上)へ 1,000

万加入するとの目標に向けて、ブロードバンド・インフラを整備する民間事業者に対

する支援や、公共施設管理用光ファイバーの開放、競争環境の整備等を進め、競争を

通じてADSL、CATV、FTTH、無線LAN など多様なインフラ整備を推進する必要がある。

①IT 利用分野でも数値目標を設定

インフラの整備面では、数値目標を設定したことにより、目標の達成状況が明確と

なった。利活用の分野でも、既に一部で数値目標が掲げられているが、各分野ででき

る限り目標を数値化し、定量的な評価により進捗や効果を検証しつつ施策を推進する

ことが有効と考えられる。その際、現状から政策を積み上げる発想よりも、利用者の

視点から何が実現すると便利かという発想に立って、目標を設定すべきである。

②IT 化を阻害する規制や慣行の改善、必要な標準化や制度の整備

IT の利用・活用を進めていく上で障害となる規制や慣行がある場合や、必要な標準

化や制度の不備により利活用が遅れている場合には、早急に改善する必要がある。例

えば、文書保存義務が課せられているもので電子的保存が認められていないものも残

されており、現在広範囲な見直しが進められている。各種の規制等についてこうした

取組みを進めていく必要がある。

③IT の利活用に向けたインセンティブが生じる環境を整備

行政分野や、教育、医療などの分野では、競争が働きにくいことなどにより、IT に

よりサービスの向上や効率化を目指すインセンティブを持ちにくいことも、IT の利活

用が進まない一因となっていると考えられる。こうした分野でのIT の利活用によりど

れだけ便利になり、効率化できるかといったメリットについて国民や関係者の理解を

深めるなど、IT の利活用に前向きに取り組む意欲を持つ環境を整える必要がある。

④個人情報の扱いやセキュリティについての対応

社会の諸分野で IT の利用・活用を進めていく上で、個人情報の保護やネットワー

ク・セキュリティの確保が大きな課題となっており、アンケート結果でも懸念が強い。

IT を安心して利用できる制度・環境の整備が必要である。

2.IT 利用促進の条件整備

Page 71: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

53

⑤人材の育成

中小企業、行政、医療、教育などさまざまな分野で、IT 人材の不足が IT 化を進め

る上でのネックとなっている。ITと本来の業務の双方に通じた人材を育成するととも

に、そうした人材が能力を発揮する環境を整え、業務に合った IT の導入を戦略的に進

められるようにする必要がある。小・中学校、高校における IT の基礎教育をはじめ、

大学、大学院等での高度な IT 教育の充実、社会人向けのIT 教育機会の充実などに注

力する必要がある。

⑥インターネット利用者の拡大とデジタル・デバイドの解消

利用者が増えるほどインターネットの魅力は高まり、各分野でのIT の利活用も進む。

現在、インターネットの普及率は 6 割を超えるまでになっているが、残る 4割の利用

を促進する必要がある。年齢別のインターネット利用率の格差も縮小しつつあるが、

引き続き、デジタル・デバイド(インターネット等を利用する能力や環境の有無によ

る情報等の格差)の解消に努めつつ、普及を促していく必要がある。

①医療

電子カルテによる医療機関の連携や効率的で質の高い医療サービスの供給、電子レ

セプトによる診療報酬請求業務の効率化、遠隔医療等に取り組む必要がある。

電子カルテについては、カルテ情報のネットワーク転送や外部保存の容認に関する

要件等詳細の決定や、電子カルテに載せる医療情報の標準化、認証基盤の整備と個人

情報保護・セキュリティの確立等に取り組む必要がある。医療とIT の双方に精通した

人材の確保も必要である。医療の IT化の効果や意義について、医療機関や国民の理解

を深めることも重要である。

②教育

小中学校では、全ての教室においてインターネットに接続できる環境を早急に整備

することが必要である。ただし、単に接続するだけでは十分ではない。教員のIT の指

導力向上や、インターネット上の有害な情報に対する十分な対策が必要である。

大学においては、インターネットを通じた授業等において IT の活用が期待される。

現在インターネット授業の単位認定を行っている大学は 4.3%にとどまっており、そ

の拡大を図る必要がある。

3.医療分野や就労・労働など戦略的分野での IT 利用を具体的に推進

Page 72: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

54

③就労・労働

2004年3月に労働関係法令の適用関係等をテレワークに対応して整理し直したガイ

ドラインが出され、2004 年度中にはセキュリティの高いテレワーク環境の導入を支援

するガイドラインが整備される予定である。民間でも、勤務時間の管理やテレワーカ

ーの評価方法など、テレワーク導入の課題解消に取り組むことが期待される。

④コンテンツ

コンテンツの制作力の強化や円滑な流通等を図る必要がある。

コンテンツ制作力については、人材の育成のほか、制作事業者が大手の流通事業者

(テレビ局、映画配給会社等)の下請化することなく、適正な利益が確保されるよう

にする必要がある。公正な取引関係の確立や、多様な方法で資金調達を図るための制

度の構築等が必要である。

流通については、既存の映像コンテンツ等をインターネットで流通させる際に必要

となる複雑・多様な著作権利関係の処理の円滑化等が必要である。

⑤企業

IT が効果を十分発揮するには、組織や業務の改革、人材・雇用面での対応を併せ行

う必要がある。従って、企業が組織改革や人材・雇用面での対応を円滑に行えるよう

な制度等の整備が、IT 化の効果を相乗的に高めるためにも重要である。

ユーザー企業側の IT 理解の不足も、無駄な IT投資を生んでいる。業務と ITの双方

に通じ、システムの設計や戦略立案に携われる人材の育成と活用も必要である。

また、日本企業はIT を主に業務効率化の手段と捉えており、新たな価値を生み出す

手段としての活用が弱い。企業が意識を変えることで、これまでと違う面での活用と

効果が拓かれると期待される。

上記のような課題に上手く対応し、IT 化の効果を最大限引き出すことに成功した事

例の紹介等も有効と考えられる。

⑥行政

国の扱う申請・届出手続のほとんどがオンライン化されるなど、電子政府の取組み

も進んでいるが、利用者が実際に利便性を感じるには至っていない。利用者の視点に

立ったもう一段の取組みが必要である。例えば、手続のわかりにくさや使いにくさが

利用を妨げている場合があり、簡易な操作で各種の手続が行える使いやすいワンスト

ップ・サービスを進める必要がある。また、電子申請でも一部の書類は書面での提出

が求められる結果、利用者の手間を省くことになっていない例なども見られるが、こ

れらも利用者の視点から見直しが必要である

また、単にIT を導入しただけでは効果が十分に現れず、業務改革が必要なことは行

Page 73: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

55

政の場合も企業と同様である。行政の IT化に伴い行政内部の業務の見直しも併せて行

う必要がある。

Page 74: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

参考資料

(IT による利便性向上や生産性向上の事例)

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57

IT による利便性向上や生産性向上の事例 ここでは、IT は生活の利便性向上や、需要の拡大、生産性向上などをもたらしている具体的な事例を取り上げる。 民間における取組み事例

① 東京MK タクシーの「プライベート・ショファー・サービス」(p.57)

タクシーの位置を GPS で把握して、顧客が自分に最も近い車の位置を携帯電話や

パソコンで検索し、直接ドライバーを呼び出すことができるサービスである。これにより、利用者の利便性を高めると同時に、コールセンターの負担軽減等の業務効率化

が図られている。

② セーレンの「ビスコテックスシステム」(p.60)

独自のデジタルプロダクツシステムを核として、繊維製品の企画、設計から生産、

販売まで全てを情報通信ネットワークで結びデジタル化した、事業化に成功している世界でも唯一のシステムである。老舗の繊維企業だったが、情報企業に転換、急回復

を実現した。顧客にもニーズに対応した商品を短期間で入手できるメリットがある。 行政における取組み事例

③ 横須賀市の電子入札等への取組み(p.63)

横須賀市では電子入札等への先駆的な取組みを行っており、世界の電子自治体トップ7にも選ばれている。電子入札は、公正な競争環境の整備や公共事業のコストの削

減等の効果を上げている。

④ 福岡県の「電子自治体共通化技術標準」(p.66)

これまで業務ごとに独立して開発していた情報システムの共通部分を標準化する

ことによって、①迅速かつ安価なシステム開発と容易な保守・運用を実現し、②システム間、さらには自治体間での互換性を生む新しい方式。全国の自治体に、この標準

モデルの採用を呼びかけ無料で提供している。

⑤ 札幌市の「ウェブシティさっぽろ」(p.69)

上記2つの自治体の例は、IT により行政の業務効率化を実現している例であるが、

一方、IT による住民サービスにより住民の利便性を向上させている事例として、札

幌市の「ウェブシティさっぽろ」の取組みがある。これは NPO との協働により行政

だけでは提供できない地域情報、行政情報の紹介を効果的に提供するものである。 医療分野における取組み事例

⑥ 国立病院機構京都医療センターの電子カルテ等の取組み(p.71)

京都医療センターは、NPO と連携しつつ、いつでもどこでも誰でも電子カルテを

利用できる環境などへの取組みを行っている。こうした取り組みによって、かかりつ

け医と高度医療機関の間での連携が効率化し、医療情報の蓄積は適切な診療の実現に寄与することが可能となる。

Page 76: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

58

(1)企業における取り組み事例

東京エムケイ

1.IT 活用の取組の概要

<プライベート・ショファー・サービス>

「Japan Shop System Awards 2004」 最優秀賞受賞

(1)サービスの概要

・従来コールセンター経由で呼び出していたタクシー配車について、GPS(Global

Positioning System)1と携帯電話やパソコンのインターネットを活用することによ

り、利用者が自分の位置から最も近い空車のタクシーと距離を検索し、ドライバー

の携帯電話に直接配車依頼する「仮想専属運転手」(=プライベート・ショファー)

サービス。

・提供者側センターでは、すべてのタクシーの位置、稼動状況(実車、空車、方向等)

を GIS(Geographic Information System;地理情報システム)上でリアルタイムに

把握することが可能となっている。

プライベート・ショファー・サービスの概要

(備考)東京エムケイ㈱ホームページ

1 全地球測位システム。米国が打ち上げた 24 個の人工衛星からの電波を利用して正確な軌道と時刻情報を取得することにより、現在位置の緯経度や高度を測定するシステム。

Page 77: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

59

(2)サービス導入の経緯

・東京での事業展開を進める中で、NTT ドコモから位置情

報サービスを活用したシステムの提案があり、NTT ドコ

モ、日本 IBM ビジネスコンサルティング、東京エムケイ

の共同で開発を進めた。

・配車予約については、コールセンターを設置して事業を

推進していたが、車両台数の関係からタクシー無線が利

用できないことや売上の 80%以上が無線配車のため、コ

ールセンター運営コストが高くなり(年間1億円程度)、

一方で深夜等のピーク時には処理が追いつかない、利用者の希望がうまくタクシー

運転手に伝わらない等の課題があり、経費節減、サービス向上の視点から、新たな

システム開発を進めることになった。

(3)サービスの利用状況

・プライベート・ショファー・サービスの登録利用者数は、平成 16 年7月までの累計

で約 1,800、月別売上高は、約 300 万円まで増加している。

2.IT 活用による効果(メリット)

(1)利用者(顧客)の利便性向上などの効果

・従来はコールセンターにつながらず待たされる、配車の状況が把握できない、位置

や希望が正確に伝わらない等の問題があったが、新システムでは、現在の位置や希

望に応じて、リアルタイムかつ正確にタクシーの呼び出しをすることが可能となっ

た。

(2)社内業務の生産性、効率性の向上の効果

・利用者とタクシーを直接つなぐことで、コールセンターの負荷低減、伝達ミスの低

減等を実現し、コスト圧縮が期待される。

・タクシーの運行状況(実車率)や、希望の多いエリア等が、GIS 上で一目で把握でき、

効率的な運行やエリアマーケティングが可能となっている。

(3)社会・経済的効果

・タクシーの稼動状況(時間別の実車率等)の把握、地域別の交通状況の把握等によ

り、無駄なタクシー行列等を減らし、特に大都市圏においては、他の公共交通機関

と連携することにより、渋滞緩和に寄与することができる。

携帯電話による呼出し画面

Page 78: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

60

3.課題と方向性

(1)課題・問題点と解決の方向

・現時点では、利用者の認知度がまだ低いことが課題である。また、IT 化のメリット

を十分発揮するためには、タクシー台数が不十分である。

・ドライバーの人材育成が重要課題(プライベート・ショファー・サービスへの対応

の慣れ、東京の道を覚えること、サービスレベルの向上等)。

(2)今後の展開の方向

・単独事業者での展開では、タクシー台数の拡充や社会経済的効果に限界があるため、

複数事業者の参加により、業界全体に広げていくことも今後の展開として検討すべ

きと考えている(ドコモのインフラを活用することにより、全国を対象とした事業

化が可能)。

・同サービスの仕組みは、介護、警備、救急等の分野にも応用可能と考えられる。

・IT 活用型サービスとしては、現行サービスのユーザビリティ向上に加え、携帯電話

での料金支払、GPS 搭載携帯電話を利用した利用者の位置確認システム、携帯電話搭

載カメラでの現在位置の送信、2次元バーコードによる情報の取り込み、発信等、

いろいろと考えられる。

・一方で、やはり質の高いタクシーサービス(接客、道順記憶等)が基本にあるべき

であり、IT はあくまでも道具にすぎない。

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61

セーレン

1.IT 活用の取組の概要

<ビスコテックスシステム(Visual Communication Technology System)>

(1)概要

・デジタルプロダクツシステムを核として、繊維製品の企画、設計から生産、販売ま

でを全て情報通信ネットワークで結んでデジタル化・システム化し、事業化に成功

している世界でも唯一のシステム。これにより、顧客の希望するデザイン(PC で作

成)をそのまま製造まで直結するシステムを実現。

・老舗の繊維企業だったが、IT を活用した事業構造改革、多角化により、情報企業に

転換、急回復を実現した。

・多品種、小ロット、短納期、環境対応という特徴。

ビスコテックスシステムの概要

(備考)セーレン㈱ ホームページ

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62

(2)導入の経緯と現状

・繊維産業全体が低迷する中、単なる合理化ではなく事業自体の構造改革の切実な必

要があり、導入にはトップの強いリーダーシップがあった。

・システムは完全に自社開発している。長年蓄積した染色の技術があったうえで、自

ら課題を解決してきたからこそよいシステムができた。

・開発着手は 1980 年と古いが、本格稼動は 1990 年以降、販売に進出し顧客との直接

コミュニケーションを実現したのは 2000 年以降である。

・全体で約 700 億円程度の売上があるが、そのうち、ビスコテックスシステム関連で

150 億円を占めている。

・同社は、「非衣料・非繊維、ダイレクト化、グローバル化」の3つのテーマを掲げて

経営改革に取り組んできたが、ビスコテックスシステムは、ダイレクト化、グロー

バル化を推進する戦略・基幹事業の一つ。

2.IT 活用による効果

(1)社内業務の生産性、効率性の向上の効果

・従来の生産システムでは、各色の型枠をつくるコスト・時間などがかかり、職人の

技も必要、どうしても在庫をもつ必要があるなど、いろいろな課題があったが、ビ

スコテックスシステムにより、これらの課題を抜本的に解消することができた。

ビスコテックスシステムの長所

1)初期コストを低減できる(企画段階での試作なし)

2)納期を短縮できる

3)時間単位、日単位で企画・生産が可能(従来は週~月単位)

4)小ロット生産が可能

5)在庫が圧縮できる(場合によっては持たなくてよい)

6)顧客ニーズがフィードバックでき売れ筋のみを生産可能

従来のシステムとビスコテックスシステムとの比較

項目 従来方式 ビスコテックスシステム

表現力 10~20 色

1m×2m

1677 色

50m×40m

生産ロット 2000m/ロット

(約 1500 着分)が必要

1m、1 着から生産可能

時間 6 ヶ月~1 年 5 時間~2 週間

資源 用水

エネルギー

在庫ロス

人手

従来方式の1/20

従来方式の1/20

在庫の電子化

自動生産

環境 公害発生の可能性 無公害

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63

・企画から生産の時間を短縮できるのも、市場との関係で非常に重要な点である。例

えば水着は冷夏だと売れないが、従来方式だと 12 月~4 月頃までには生産を全部終

えてしまうため、消化率は 5~6 割と非常に効率が悪い。一方、ビスコテックスシス

テムでは、3 月頃から生産を一部開始、本格生産は、5~7 月に市場の動向を見なが

ら進められるため、消化率も 7~8 割と非常に効率が良い。

(2)顧客の利便性向上などの効果

・顧客にとっては、自らのニーズに対応した商品が、短期間で入手できるというメリ

ットがある。

・水着分野でビスコテックスシステムを利用したオーダーメイドを試験的に導入した

が、市場の反響は非常に大きく、顧客アンケートによる評判も高い。サイズやデザ

インの選択が広いこと、価格面も通常の水着と大きく変わらないことなどは、メリ

ットとして受け入れられている。

・短期間での対応が必要な場合にも大きなメリット。2002 年のサッカーワールドカッ

プ決勝戦で用いられた 30m×20m の大きな旗も同社で生産したが、決勝の組み合わせ

が決まってから 4 日間で生産・納品を実現するなど、短期間対応を可能にした。

3.課題と方向性

・IT を情報システムとして活用するだけでなく、やはり、ものづくりの仕組みと組み

合わせ、事業の構造改革を図ったことの意義、効果が大きかった。

・すでに店舗から顧客が企画・生産に参加できる仕組みを実現しているが、将来的に

は、世界中の家庭のパソコン等からデザインを送信してもらい、生産ができるよう

な仕組みを構築していきたい。IT やブロードバンドがこれだけ普及してきたので、

実現性は高まっている。 ・近年の IT の急速な進展も大きな追い風となった。特に画像伝送等の面では、速く安

く大量のデータを送るインフラは非常に重要であり、政府の取り組みとしても IT 基

盤強化をより積極的に進めていただきたい。

Page 82: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

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(2)行政における取り組み事例

横須賀市

(1)優れた電子自治体として世界から表彰

①2004 年「IT 賞」受賞*

IT を用いた優れた公的部門サービスとして、電子入札システム(質の高さ、拡張性の

高さなど)が評価される。

* WITSA(世界情報サービス産業機構:世界各国のIT 業界団体で構成)より受賞

②2003 年「インテリジェント自治体 世界トップ7」選出**

IT を用いた優れた電子自治体の実践例として評価される

受賞理由:e-Japan 計画に基づく電子自治体推進、

電子入札による入札の透明性・競合性の向上等。

** WTA(世界テレポート連合:通信事業者、メーカー、商社、自治体など 135 の団体

で組織)のICF(インテリジェント共同体フォーラム:WTA 内部組織で自治体の情報技

術の利用等を調査)より選出

(2)横須賀市の IT 化の基本方針と効果、課題

・横須賀市の情報政策の基本理念は、「IT による自治体の経営改革」である。行政の業

務プロセス改革(BPR1)の推進が大前提にあり、個別の IT システムについてはあく

までもツールと考えている。

・市役所の CIO(Chief Information Officer)2は市長自身であり、強力なリーダーシ

ップのもと、IT 施策を展開している。

・内部管理システム(統合型 GIS(地理情報システム)、財務会計、公文書認証システ

ムなど)の導入と、対外的な対市民行政サービスの電子化を進めてきている。

・業務の BPR と IT 導入を連動して実施することにより、全般として生産性、効率性の

向上を実現している。例えば公用車一つをとっても、部局をまたいで共有するように

し、予約システムを構築運用することにより、稼働率を上げ、台数を減らすことがで

きている。文書管理、決裁の電子化も推進し、情報共有、情報公開、事務コストダウ

ンを実現している。

・市民に対しては、市民サービスの向上が大目標であって、全てを IT 化すれば良いと

は考えていない。ウェブサイト、コールセンター、窓口の3つを効率的に連動させて

情報やサービスの提供を行いたい。

・電子化推進にあたり、職員の IT リテラシー(活用能力)向上が課題となったが、2000

人を対象に IT リテラシーに関するアンケート調査を行い、的確な教育が実施できた。

1 Business Process Re-engineering の略。現行の業務の方法を見直して再構築すること。 2 経営戦略と情報通信戦略の統括・調整を担当する役員。

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65

・現在、業務プロセスの部分最適化が進んできたところであり、これらを統合すること

(全体最適化)が今後の課題である。

業務電子化に関する主な定量効果

施策 主な定量効果

財務会計システムの導入 経費(人件費等)の節減 約 3,800 万円/年

公文書管理システムの導入 経費(人件費等)の節減 約 1 億 2,500万円/年

紙の節減 約 142万枚/年(従来約 3 千万枚)

レガシーシステム再構築(今後) 機種変更による経費削減 約 4 億円/年 (予測)

(備考)横須賀市資料

(3)電子入札(一般競争入札/紙入札の排除)の取組み

①概要

・横須賀市における入札の全てを電子化。紙入札との混合撤廃、財務会計システムとの

連動等、徹底した合理化を図っている。

・導入の目的はあくまでも入札制度改革そのものであり、電子化は手段にすぎない。電

子化以前の 98 年 6 月から入札制度の正常化(条件付き一般競争入札と郵便入札)を

進め、オープンな入札環境を整えた。これにより、入札参加事業者数は倍増し(1案

件あたり平均入札参加事業者数は、1997 年度 9.2 社から 2002 年度 18.8 社に倍増)、

請負金額も節約された(図参照)。一方で入札にかかる業務量が膨大となったため、

2001 年 9 月に電子入札を導入し、事務の効率化・簡素化を図った。

・全ての入札を電子化するかわりに、インターネットを用いていることや、簡単に間違

いなく操作できるインターフェース、フロッピーディスクによる認証システムなど、

事業者の負担にならない、簡易で汎用性の高いシステムを構築。これにより活用が進

み効果を上げている。

・これが評価されて他の自治体でも導入され、2004 年度からは7市による共同運用を

実施。

②電子入札の主な効果:「三方一両得」

市民、企業、行政それぞれにメリットが生じる「三方一両得」を実現している。

市民: 税金が無駄なく使われ、都市環境・基盤の整備が効率的に進むようになる。

企業: 談合が不可能な環境となり、オープンで公正な入札環境が整った。これまで下

請け中心だった実力のある企業等も同じ土俵で競争することができるように

なった。

行政: 事業の請負価格が大きく節約されるようになり、また入札にかかる業務も効率

化した。平成 13 年度には請負金額が設計金額の 85%程度となり 30 億円の落

札差金を得ることとなった(差金の 1/3 は次年度繰越、2/3 は他事業に充てる

仕組み)。

Page 84: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

66

入札正常化による節約推移

30.2億

293億 297億 192億 289億 167億 185億

30億

41.8億

13.2億

32.1億 31.9億

(95.7%) (90.7%) (85.7%) (87.3%) (84.8%)

0

50

100

150

200

250

300

350

97 98 99 00 01 02 (年度)

(億円)

節約額

請負価格

設計金額

(設計金額の85.3%)

306億

327億

224億

331億

197億217億

1案件あたり平均入札参加事業者数推移

9.29.0

22.6

16.7

18.0

18.3

18.8

0

5

10

15

20

25

97 98前 98後 99 00 01 02(年度)

(事業者数)

電子入札化

一般競争入札化

(備考)横須賀市資料

(備考)横須賀市資料

Page 85: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

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福岡県

1.電子自治体への取組みの概要

<電子自治体共通化技術標準>

(1)概要

・福岡県では、これまで税、財務会計、人事給与等、業務ごとにそれぞれ独立して開

発していた情報システムの共通部分を標準化することによって、①迅速かつ安価な

システム開発と容易な保守・運用を実現し、②システム間、さらには自治体間での

互換性を生む新しい方式として、「電子自治体共通化技術標準」を開発した。

・全国の自治体に、この標準モデルの採用を呼びかけ無料で提供している。さらに、

この標準モデルの保守管理やより高度なものにするためのバージョンアップについ

て採用自治体と協力して実施していくこととしている。

(2)展開の経緯

・2000 年に IT 基本法等の展開から、福岡県でも電子県庁推進の方針が定められたが、

当時は IT ガバナンスの考え方が不十分で、各課ごとにばらばらの取り組みとしてス

タートしてしまい、十分に機能しなかった。

・2002 年に総務省により共同アウトソーシング(外部委託)の調査があり、その中の

1 テーマが「行政 ERP(Enterprise Resource Planning)1」であった。これを、「各

分野の取り組みを統合するための共通基盤」と読み替え、応募し採択を受けて調査

に取り組んだ。時期を同じくして立ち上がった福岡県庁の統合化事業と連携させる

かたちで統合化を推進。

・同時期に「全体最適」という考え方から、経済産業省が「EA(Enterprise Architecture)2」の概念を提唱・推進していたので、この考え方も参考にした。

(3)電子自治体共通化技術標準の特徴

・共通となる標準をつくったうえで、個々のシステムをモジュール化3することにより、

他の都道府県、市町村も使用できる。

・大手ベンダー(開発業者)だけでなく地元の中小ベンダーにも参加機会ができる。

・技術そのものの標準だけでなく、文書の雛型、調達・運用のためのマネジメント手

1 企業全体を経営資源の有効活用の観点から統合的に管理し、経営の効率化を図るための手法・概念のこと。これを実現するための統合情報システムを ERP パッケージという。

2 大企業や政府機関などといった巨大な組織(enterprise)の業務手順や情報システムの標準化、組織の最適化を進め、効率よい組織の運営を図るための方法論、あるいは、そのような組織構造を実現するための設計思想・基本理念(architecture)のこと。

3 情報システムを全体で一体で構築するのではなく、個別機能別の単位(モジュール)に分けて、これらを組み合わせることで開発する方法。

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法の標準を定めている。

<ふくおか電子自治体共同利用センター>

・県内市町村の電子自治体推進の基盤として、共同利用センターを設置。概要は以下

のとおりである。

・71 市町村が協議会に参加し、文書管理や電子申請等の共同アウトソーシング等の検

討を進めている。平成 17 年度の終わりには初期稼動の予定。

機能 ①LGWAN4等の情報機器類の共同ハウジング

②高速インターネットへの接続環境の提供

③電子申請や電子調達等のフロント業務及び文書管理等の内部業務

に係るシステムの共同運用

④市町村基幹システムのアウトソーシング先

現状・予定 平成 15 年 12 月 LGWAN、インターネット接続サービス開始

(それぞれ59 団体、19 団体が接続)

平成 15 年度 共同利用センター基本計画策定

平成 16 年度 システム開発

平成 18 年 1 月 第一次運用開始(文書管理/電子決裁、電子申請)

以降、施設予約、電子入札等、順次拡大予定

体制 ふくおか電子自治体共同運営協議会 を平成14 年 10 月 31 日設立

県及び 71 市町村が参加。

2.IT 活用による効果

(1)行政内部の生産性、効率性の向上の効果

・標準化、共通化によりシステム開発・運用のコスト削減が図られることが期待され

る。改修についてもモジュール化しているため容易に行えるというメリットがある。

・従来はどんぶり勘定で大手ベンダーに任せていたのが、個別細分化されることによ

り、①地元の中小ベンダーの参加機会もでき、②コストの明確化、低減も図ること

ができる。

・業務面でも、例えば、今後システムを調達する際も、標準手続は整備されているの

で、業務に関する個別の部分だけの仕様を書けばよいなどの効果がある。行政職員

が、本来取り組むべき各分野の業務、サービスに集中できるというメリットがある。

・電子県庁全体として、基盤構築に約 47 億円、運用保守に年間約 14 億円を投じる予

定だが、経費削減効果として年間約 38 億円を見込んでおり、十分な投資対効果があ

ると見込まれている。

4 Local Government Wide Area Network の略。地方自治体のコンピュータネットワークを相互接続した広域ネットワーク。中央省庁の相互接続ネットワークである霞ヶ関 WAN にも接続されている。

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(2)住民・企業利便性向上などの効果

・企業も標準を活用することにより、行政システム構築への参加や行政と連携しやす

いシステム開発が可能となる。

・電子県庁全体の推進により、年間約 40 億円の利便性向上、負担軽減効果が見込まれ

ている。

標準化によるアプリケーション共有のメリット

(出所)福岡県「電子自治体共通化技術標準」の目的と効果(平成16 年3月)

3.課題と方向性

(1)課題・問題点と解決の方向

<電子自治体共通化技術標準>

・県庁全体の大きな仕組みづくりを進めていくためには、組織、予算を含め、時間を

かけて取り組む必要がある。電子自治体共通化技術標準も構想から4年間近くかか

っている。

<共同アウトソーシング>

・共同アウトソーシングが事業化していくためには、一定以上のスケールメリットの

発揮や、継続的なアプリケーションの更新などを視野に入れていく必要があるが、

市町村は、財政支出、合併対応等、どうしても目前の課題が大きく、中長期的な視

野で取り組みにくい。

(2)今後の展開の方向

・電子自治体共通化技術標準の普及、展開。市町村アウトソーシングの推進を、とも

に進めていく予定。

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札幌市

<ウェブシティさっぽろ>

(1)取り組みの概要

・市民、企業と行政との協働による地域情報の発信・共有を行うウェブサイトを構築・

運営していくという主旨のもと、札幌市及び NPO 法人(Non Profit Organization; 非営

利団体)法人等により運営されている地域ポータルサイト1。

・市民の視点での情報発信に注力しており、行政ウェブサイトだけでは掲載できない

きめ細やかな情報、行政だけでなく、市民や NPO 法人等との協働が効果を高めてい

る点に特徴がある。より魅力的でタイムリーな情報等を発信している。

(2)経緯・体制等

・「札幌市 IT 経営戦略」の一環である「ぴったり情報サービス」を実現するかたちで

推進された。

1 サーチエンジン、ニュース速報、オンラインショッピング、掲示板等インターネット上の様々な情報が集約されたサイトのこと。インターネット利用者がウェブに接続した際に訪れる「入口(ポータル)」となるためにこう呼ばれる。

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・推進にあたっては、市役所に加え、地域メディアを扱う NPO 法人やネットワーク・

システムを保守する企業等が参加し、運営委員会を設立して取り組んでいる。

ウェブシティさっぽろの運営主旨

このサイトは、「ウェブシティさっぽろ運営委員会」によって運営されています。民間と行政が協働して地域のサイトを作っていこう、というポリシーの元、この委員会は組織されています。 ここは、行政情報だけのサイトでもなく、商用目的のサイトでもない、そこに住む人々が、自分たちのために作る「地域サイト」です。 インターネットサイトはメディアです。メディアとして世に問うものであれば、そこに「編集」という仕事がなくてはいけないはずです。それを誰が行うのか。これが、今回のサイトリニューアルに関しての一番重要な問題でした。 サイトを作る人たちは、自分たちの住む町を知らなくてはいけません。町のことを知るためには、地域のさまざまなことを取材しなくてはいけません。その人たちは市民でなくてはいけません。 なぜ私たち市民が自ら取材することにこだわるのか。それは私たちがこの地域で暮らし、仕事をし、子供を育て、人と関わる、その当事者だからです。客観的な事象の報道に重みを置くプロのジャーナリストと違い、このような市民による活動を「市民ジャーナリズム」と捉え、まちづくりの一助としたいと思います。 メンバーは週末の夜編集企画会議を開き、持ち寄ったテーマを発表して議論し、取材の方向性を決めて行きます。一般の会社員、編集のプロ、定年退職者や学生まで、職種や年齢はさまざまです。取材、編集については全くの初心者とベテランが混在ですが、みながこの地域を生活の場としている市民です。 このサイトが、住みよい札幌を創っていくための舞台の一つとなれば幸いです。

(備考)ウェブシティさっぽろ

ウェブシティさっぽろ運営委員会の構成

■構成員 NPO 法人シビックメディア 札幌総合情報センター株式会社 札幌市(企画調整局情報化推進部) ■役割 ウェブシティさっぽろ及び関連サイトの運営,編集方針について協議。

■運営における役割分担

サイト設置者 札幌市(企画調整局情報化推進部)

取材・編集・運営 NPO 法人シビックメディア

動画ニュース提供 札幌タイムス(株式会社北海道21 世紀タイムス)

システム保守管理 札幌総合情報センター株式会社

(3)現状と成果

“ウェブシティさっぽろ”に対応する成果指標では、トップページアクセス数目標

62000 件/月に対し、110000 件/月と、目標を大きく上回る成果を達成。

ウェブシティさっぽろに関する主な活動成果の評価

目標 結果

アクセス数 62000/月 110000/月

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国立病院機構京都医療センター

1.IT 活用の取組の概要

2つの取組みが連動

●地域医療ユニット構想

「1地域1患者1カルテ」をキャッチフレーズとして、電子カルテネットワークを

構築し、安全・安心に生活し、適切な医療を受けられる環境をつくろうとする取り

組み。

●どこカル.ネット

NPO(Non Profit Organization; 非営利団体)法人 SCCJ による地域に安全な無線 LAN

網を構築するプロジェクト「みあこネット」と連動し、「いつでも、どこでも、誰で

も」電子カルテを利用できる環境を構築するプロジェクト。

・電子カルテネットワークについて、ASP(Application Service Provider)2型とし、

大病院だけでなく中小病院でも利用できるようにし、さらに VPN(Virtual Private

Network)3を使用することにより、いつでも、どこでも、誰でも、電子カルテを安全・

安心に利用できる環境を実現している。

・情報セキュリティの設計にも配慮しており、検査データ等の生データの情報主体は

患者自身、診療・治療等に関する情報主体は医療機関という考え方で情報、システ

ムを整理したことで、各主体にとって利用しやすく連携しやすい環境を構築してい

る。

・電子カルテネットワークにより、検査、診断、治療とその結果に関する医療情報を

蓄積・共有・分析することも重要な点である。高齢化社会となり、診療科をまたが

る判断が必要な場合が多くなっており、専門の医師にも判断できないような点を、

蓄積された医療情報をデータマイニング 4により分析した結果得られる医学的根拠

(エビデンス)を用いて的確な支援ができる仕組みになっている。

2.IT 活用による効果

(1)住民の利便性向上などの効果

●時間や手間の削減

・かかりつけ医と高度医療機関とで適切に連携することにより、紹介、検査、診療等

の待ち時間が削減される。従来は、高度医療機関で検査をする場合、予約、検査、

2 各種業務用ソフト等のアプリケーションソフトをデータセンター等において運用し、当該ソフト等をインターネット経由でユーザー(企業)に提供する事業者。

3 公衆回線をあたかも専用回線であるかのように利用できるサービス。実際に専用回線を導入するよりコストを抑えられる。

4 大量に蓄積されているデータを解析し、その中に潜む項目間の相関関係やパターンなどを探し出す技術。

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結果を聞きに行く、と合計3回足を運ぶ必要があったが、かかりつけ医と高度医療

機関がネットワークで結ばれ、かかりつけ医からも予約、結果閲覧などができるよ

うにすれば、患者は検査の時だけ高度医療機関に行けばよいことになる。

●適切な診療の実現

・患者単位で、長期間蓄積された電子カルテ情報を活用することにより、病歴、体質

にあった診療、重複検査、重複や併用禁忌の投薬等を防ぐことができる。

(2)組織内業務の生産性、効率性の向上の効果

・患者の利便性向上などの効果と連動するが、組織内業務の生産性、効率性向上とし

ても以下のような効果が期待できる。

●医療の効率化

・電子カルテネットワークをもとに、かかりつけ医と高度医療機関とが適切に連携す

ることにより、それぞれの役割に沿った分担が実現し、効率的に医療を行うことが

できる。また患者の過去の病歴、家族情報、治療・検査・投薬等に関する情報を把

握できることから、短時間で的確な診断・治療を行うことができる。

・ASP 型の電子カルテにより、大病院だけでなく中小の病院も低廉な経費で容易に電子

カルテネットワークに参加することができる。複数医療機関どうしの紹介、検査予

約等の連絡事務も、インターネットを利用したグループウェア5を活用することによ

り、効率的に実施することができる。

・データマイニングについても、コンピュータの発達により数時間で結果を出せるよ

うになり、患者が病院にいる間に、適切な判断、治療が可能なレベルまできている。

(3)社会・経済的効果

●無駄な医療費の削減

・適切な予防や治療ができれば国民医療費の削減につながる。例えば、適切な予防、

治療によって寝たきり患者の発生を防げれば、国全体で医療費を削減することがで

きる。現在、寝たきり老人は全国で約 36 万人おり、この1 割でも削減できたら極め

て大きな効果があるといえる。

・現在検討されている医療費の包括請求の仕組みについても、医学的根拠(エビデン

ス)が十分に蓄積され、これらを活用することにより、適切な診療報酬を設定する

ことができる。

●日本人の体質にあった根拠に基づく医療(エビデンスベースドメディシン)の実現

・これまで欧米で開発された医療技術や医薬品に依存していたが、日本人全体の医療

情報を蓄積し、データマイニングにより未知の医学的根拠(エビデンス)を発見し

5 LAN を活用して情報共有やコミュニケーションの効率化をはかり、グループによる協調作業を支援するソフトウェアの総称。

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ていくことで、日本人にあった医療、医薬品を提供していくことができる。

●参考)旧国立京都病院における IT 導入の効果

・国立京都病院において IT 導入をした主な効果は以下のように整理されている。

◆医療スケジューリングの効率化などにより、従来より多くの患者を診察できる

ようになり、稼動後 2 年間で収入が 13 億円増加した(IT 投資を 100%回収)。

◆いくつかのプロセスに必要な紙の量を 90%削減できた。

◆救急以外の診察予約の待ち時間を 75%短縮できた。

3.導入の経緯

<患者起点での医学的根拠(エビデンス)情報の不在>

・阪神・淡路大震災の際、関西地区の医師はみな救援にかけつけたが、この中で、患

者の医療情報が適切に共有・蓄積されていないことの問題が顕在化した。例えば、

糖尿病で 20 年間インシュリンを自己注射し続けていた老人がいたが、本人は自分の

使用していたインシュリンの濃度、分量等を把握しておらず、かかりつけの医師も

震災で亡くなり、カルテも燃えてしまって、救急対応がまったくできないというこ

とがあった。

・検査、診断、治療とその結果に関する医療情報が適切に蓄積、共有され、それをデ

ータマイニングした結果得られる医学的根拠(エビデンス)が存在しているか否か

は、患者の QOL(Quality of Life)に影響する。例えば、癌性腹膜炎の患者がいた

場合、病状に応じた平均余命、治療の選択肢と生存率等が明らかになり、患者がそ

れを知ることができれば、残りの生き方を選択することができるが(余命が同じで

あれば、病院で抗癌剤の入院治療を続けるか、一切の治療をやめて自由に生きるか

選択できる、など)、現在は、何もわからないまま、医師に言われるがままに治療す

るしかない。患者が自分自身の医療・健康に関する情報をもつことができず、自ら

QOL を選択し難い状態になっている。

・医師側としても、自らの診断、治療の結果が正しかったのか否かについて、判断す

るフィードバック情報自体が存在しない状態であった。 <全国レベルの医学的根拠(エビデンス)の不在>

・日本では第二次世界大戦後、大学ごとの仕組みが進んだ結果、全国を網羅する日本

人のエビデンス情報が蓄積・共有されない状況となってしまった。一方、アメリカ、

スウェーデン、オーストラリアなどでは、国レベルで医療情報の蓄積・共有や治験

も進められるようになった結果、全国レベルでの医学的根拠(エビデンス)が多数

発見されている。結果として、日本人の使っている医薬品はほとんどが欧米人を対

象とした治験によって開発されたものとなっており、本当に日本人に適したものと

なっているかわからない状態となっている。

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<電子カルテネットワーク及び病院経営 IT 化への取り組み>

・以上のような課題、問題認識から、医学的根拠(エビデンス)を適切に蓄積・共有

する仕組みの必要性を痛感し、電子カルテネットワークの構想を立案した。

・また同時に国立京都病院が経営難に陥っていたこともあり、IT による医療経営改善

に取り組むこととなった。平成 7 年 7 月に着手、平成 7 年 10 月に事業の原案をとり

まとめ、順次事業を推進し、電子カルテネットワークについては、平成 10 年度に事

業化着手し、平成 11 年 3 月から稼動した。

・重視した点は、日常診療で得られた全ての医療情報を蓄積し、必要に応じてデータ

マイニングができるような仕組みをつくることで、これは従来の電子カルテにまっ

たく欠けていた視点だった。ちょうど新しいデータベースシステムとデータマイニ

ングの仕組みができてきており、これを活用することで実現した。現在、京都医療

センターだけで約 60 万件の情報が蓄積されてデータマイニング可能な状態となって

いる。

・さらに、怪我や病気は病院ではなく、自宅や街で発生する、という視点から、街の

あらゆるところで安全なインターネット環境を構築するプロジェクトを進めている

NPO 法人日本サスティナブル・コミュニティセンターの「みあこネット」プロジェ

クトと連動することにより、「どこカル.ネット」を立ち上げた。安全なインターネ

ット環境ということで IPv66の活用は必須となっている。

4.課題と方向性

・地域の医師会とも連携して事業を進めているが、おおむね高齢なため、IT に関する

リテラシーが十分でないことが課題である。あらかじめ入力しやすいテンプレート

(ひな形)を用意するなど、できる限り利用しやすいシステムやインタフェースを

実現することにより対応を進めている(テンプレートは、蓄積されたデータをマイ

ニングしやすいという利点ももつ)。

・現在、バーコードを用いた様々な認証システムでリスクマネジメントや医療情報の

自動記録化を行っているが、RFID(非接触型 IC タグ)の導入により、更なる安全性

の向上と効率化をはかる実証実験を行っている。

・モデル地区を設定し、その地区で医療の効率化による医療費削減などの経済効果の

発揮を実現し、これを全国に普及していくというかたちで、取り組みを広げていき

たいと考えている。

6 Internet Protocol version 6 の略。次期のインターネットによるデータ通信を行うための通信規約、現在広く使用されている IPv4 に比べて、アドレス数の大幅な増加、セキュリティの強化及び各種設定の簡素化等が実現できる。

Page 94: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

(タスクフォース委員の主な意見)

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タスクフォース委員の主な意見

【藤原委員】

○ e-JapanのフェーズⅠにおけるインフラ整備は、世界的な競争の中で成功している。

ブロードバンドとモバイルの2つで、圧倒的に世界をリードする基盤ができた。

○ ADSL の場合、距離によって通信速度が減衰するので、電話局舎から 2km 以内の

人口密度が重要な指標となる。これが日本はアメリカより一桁多く、ADSL は日本

の通信事業者にとって投資効率が良い技術であり、これが、急速に普及した理由の

1つである。ADSL に着目して NTT の局舎開放をしたという点で、競争政策も成

功している。

○ ただし、若干価格競争が行き過ぎた面があるというようにも見ている。安定的にブ

ロードバンドというインフラを運用する事業主体が継続できるかというのが懸念

点である。

○ FTTH の普及は市場原理だけでは見えない。政策的に後押ししても良いと思う。

FTTH をやっているところは日本以外あまりないので、世界をリードできる。ただ、

ADSL の場合は既にある設備の開放が有効であったが、FTTH の場合はこれから

敷かなければならないところもあるので、異なる政策が必要である。

○ e-JapanⅡの利活用の推進というのは、まだキャッチフレーズ倒れのところがある。

インフラ整備はうまくいったが、これを活用してコンテンツでビジネスを行うとか、

ブロードバンドやモバイルが企業や政府の基幹部分に入り込み、それがないと社会

がストップする必要不可欠の存在として利活用されているかというと、そこまでは

至っていない。

○ 利活用について指標を用いて定量的な目標を掲げるべきである。

○ IT による需要の創出というのは実際に起こっている。例えば、私の会社で Yahoo

のオークション用のサーバーを預かっているが、これがすごい勢いで増えている。

ネットオークションは、①距離の制約がない、②時間の制約がない、③新製品以外

への需要を満たす、という3点で、新しい市場をつくり、需要をつくっていると思

う。

○ 日本企業が IT を有効活用できていないのには、IT 投資を行う際に、ユーザー側の

企業の IT 理解が不足していて、システムの供給者側の論理で決定される結果、必

要のないものまで購入し、使われないものも多いといったことがある。

○ アメリカが 20 世紀終盤にハイテク分野で成功した大きな要因として、中国人やイ

ンド人が活躍の場を与えられたことがある。日本はそういう意味では鎖国的である。

IT の人材不足や少子高齢化を鑑みると、今後は、高度な IT 人材を含めた「知識人

の開放」、すなわちある種の移民政策をとらないと行き詰まるのではないかと感じ

ている。

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○ 技術革新については、IP 技術のネットワークへの適用と、モバイルの無線通信技

術という IT の根源となる2つに関して、今では研究開発水準において日本はアメ

リカより優位にある。技術革新にとってもマーケットがあるということは重要であ

り、ブロードバンドとモバイルの利用者が急増したことが大きい。

○ 日本が IT で先端を行っている分野として、モバイル、ブロードバンド、組込型コ

ンピュータ(情報家電等に組み込まれるマイクロプロセッサ・ソフトウェア)が挙

げられる。一方、遅れている分野として、汎用マイクロプロセッサ、汎用 PC 用

OS、サーバ用OS、データベースエンジンが挙げられる。

○ こうした遅れた分野をうまく進めるためには、産学連携ベンチャー企業が研究開発

の担い手となるような社会的仕組みを政策的に定着させることが重要である。

【山川委員】

○ インフラ整備は、一時日本は非常に遅れているのではないかと言われていた中では、

うまく進んだ。特にブロードバンド化はうまく行っている。

○ ただ、インターネットの普及率ほどに、パソコンやコンピュータの専門家人材が世

の中に存在するかというのが若干心配であり、1つの課題になる。

○ 利活用の面では、数字的に伸びていくということのほかに、どこかで社会のスイッ

チが入れかわるような状況が生じるのではないか。例えば、IT による通信は、人

間が実際に物理的に移動しなくても良い状況をつくる。これが、東京への集中と地

方の地盤沈下という状況に対して、違う状況をつくりだしてくれるのではないか。

こうした IT により社会の構造のスイッチが入れかわる事態をあぶり出していくと、

政策の論点が明らかになる。

○ インターネットがなくてはならないものとなっているというのはその通りである。

例えば株の取引では、特に個人はネット取引が多くなっていて、今なくなると本当

に困るという状況になっている。

○ 企業の IT 投資の効果は、労働力の流動性と絡む。雇用を維持したまま IT 化した

場合、それでは余剰となった労働力を何に使うかというと、今までやっていなかっ

た、すなわち優先順位が低かったことに使うということであるから、これではあま

り効果はない。ただ、労働力の流動性の面では、日本企業も大きく変わりつつある

と思う。

○ IT が企業の生産部門とうまく絡まっていないのには、IT 化が省力化の技術、人を

あまり使わない技術と結びついてしまって、新たにものをたくさんつくるとか、何

か価値を生み出すという方向にはストレートには向いていないことがあると思う。

○ IT 教育について、小さいころからきちんと教育することを考えると、どこかで大

きく我々の社会そのものを見直さなければならないところが来るのではないか。例

えば、小学校低学年のうちから、お絵かきソフト等だけでなくきちんとパソコンが

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使えるようにするとなると、パソコンはローマ字入力が多いので、小学校1年生の

ときに最初にアルファベットを教えなければいけないということになるかもしれ

ない。

○ IT 化が遅れている分野でのボトルネックは、IT 化を推進する意義と資金余力の欠

如である。IT 化を進めない3大理由としてあがるのが、「難しい」「高い」「時間が

ない」。これを別の言葉で表わせば、習得したり、お金をかけたり、時間をかけた

りするだけの意義を見いだせないということである。

○ IT 化は視野と時間軸を広めて見れば方向として避けられないものであり、現在意

義を見いだせないという人々にとってもいずれ意義は認識される。ただし、それま

で手をこまねいているより、政策的に IT 化に誘導した方がスムーズであり、ここ

に政策運営をプロ IT 化する意義がある。IT 化の意義を生じやすくし、IT 化と資

金余力とを結びつける政策が必要である。

【篠崎委員】

○ IT 化の進展と経済については、2つの側面がある。1つは IT の需要が生まれ、生

産への波及が出てくるという側面。もう1つは、①インフラ整備? ②既存の仕組み

の見直し? ③有効な利活用という 3 段階の図式から新しい価値連鎖が作られると

いう側面。後者の側面の流れからいくと、e-Japan 構想が、始めに基盤整備から入

って、次に2年後に利活用という方向を打ち出したのは非常に良いことだと思う。

○ 基盤整備の点では、2001 年の頃考えていた以上にすごく進んだという印象はある。

2001 年をブロードバンド元年と位置付けて、新しい競争政策の考え方と上手く組

み合わせたことが、大きいインパクトになったと考えている。

○ 家計、企業、政府という3つの部門で見ると、日本では携帯電話・モバイルという

特徴的な現象もあり、家計部門の IT 化は、普及という点では、他国と比べて進展

している。企業部門と政府部門については、普及や導入はかなり進んでいるが、効

果という点では、他国と比べた先進性がみえにくい。

○ 企業部門について、IT は導入すれば自動的に効果が上がるのではなく、同時に組

織構造や雇用関係の見直しが必要。また直接の IT 政策ではないが、商法改正で会

社分割などがやりやすくなった。こうした制度基盤も実は重要だと思う。

○ 聞き取り調査の印象では、組織と人が鍵となる。大企業と中小企業とはそれぞれ固

有の問題があるようだ。大きい組織になると、既存の仕組みやルーティンを容易に

変えようとしないため、効果が発揮できないという側面がみられる。一方小さい組

織では、たまたま IT に詳しい人材がいるかどうかで効果が全然違ってくる。

○ 電子自治体について、従来は IT がわからないためにシステム導入のほとんどを首

都圏の大手企業に丸投げするような状況にあったが、IT 導入を自治体業務そのも

のとして取り組む動きも出てきた。福岡県では、業務毎の縦割りのシステム委託を

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やめて、全体最適化のために自分たちでプラットホームを開発し、その上に載せる

給与や調達といった各システムをモジュール化して地元企業との間でコミュニケ

ーションしながら外注しようという動きがある。これにより、自治体の組織・業務

見直しへの波及効果に加え、地域経済への波及効果・産業育成にもつながる。また、

宮城県、佐賀県、熊本県など他の自治体も福岡県の開発したシステムを使うなど、

自治体間で共通化や連携の動きも生じている。ただし、その先の、利用する地元住

民や企業のメリットという点は、依然効果は未知数。

○ 家計部門における IT 普及が急速だったため、慣れないまま利用者の低年齢化が進

んでいる。指導する立場の親世代も、IT「利活用」に対する十分な理解が進んでお

らず、社会問題として再考する必要がある。暴力的・刺激的な映像・情報が、親が

子供に教えたり、子供が体験を通じ学んでいく過程を飛び越えて直接もたらされ得

るという状況に対し、情報教育をどのように行っていくか認識することが大切。

○ 教育の IT 化については、単に教室をインターネット接続するだけでは十分ではな

い。有害情報の取扱いに対する対応なども含めて、IT の光と影を十分理解し、し

っかりと指導できる体制が必要。指導者の IT への見識・教養の向上が望まれる。

○ IT と生産性について、日本では、TFP と IT 資本ストックが同方向に動いており、

ソローパラドックスは存在しなかったと見ている。日本の場合は、IT を導入して

も生産性が上昇しないというより、むしろ、導入すれば生産性が上昇する状況にあ

ったにもかかわらず、なぜ 90 年代に IT 投資が鈍化したのかということが問題。

情報通信分野の競争環境、不確実性の高い新技術を実用化する事業へ人材と資金を

効率的に供給する仕組み、企業の創意工夫が活かしやすい法制度などが影響した。

○ ADSL や光ファイバーなど、競争上の個別問題を考えていくと、結局は、20 年前、

通信自由化の際に解き残した電電公社の経営形態という問題が今も尾を引いてい

るように思える。技術革新のスピードと、経営形態をめぐる議論のスピードがかみ

合っていないため、齟齬が生じているのではないか。フロンティアの広がる有望分

野でありながら、新規参入者にとってもNTT にとっても、力を充分に発揮しにく

い、フラストレーションのたまる状況が続いている。

○ コンテンツが多様な媒体で普及していくには、制作者の判断で彼らに利益がもたら

されるような契約の仕組みが必要。現状は、既存の主要媒体であるテレビ局にかな

り有利な仕組みで、下請的存在のコンテンツ制作者は、自律的行動がとりにくい。

【西村委員】

○ e-Japan戦略は結果的に非常に成功したが、それは政策と「人間力」が合わさった

結果である。ADSL の急速な低廉化と普及等において、何人かの人間の強烈な個性

がものすごく影響を及ぼした。そうした個性が出てくる素地をつくれたという意味

では、政策も成功である。

Page 99: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

81

○ ただし、ブレークスルーには成功したが、ビジネスとして持続可能性という点で成

功するかという問題はある。

○ FTTH を推進するとした場合、コストを民間が負担するか、政府が負担するかとい

う問題がある。しかし、二者択一ではなく、私が提唱している「社会投資ファンド」

のように、民間と政府がパートナーシップをとれる仕組みがあっても良いと思う。

○ 日本人は忙しいこともあって、時間効率を高め、無駄な時間を少なくできるものと

して IT が日本に入ってきた。日本でモバイル携帯電話が伸びたのも、通勤時間と

いう無駄な時間を使えるということが大きな理由の1つだと思う。

○ 世界最先端の IT 国家を実現したかという点は、現時点がどうかではなく、スピー

ドで見るべき。スピードで見ると、日本は少なくともトップランナーの中にはいる

と思うが、最近少しずつスピードが落ちてきているのではないか。

○ インターネット上の様々なサービスで生活の利便性は大きく高まっているが、その

コストの回収が問題となる。現在は最終消費者(エンドユーザー)は無料で利用し、

コストは他から回収するビジネス・モデルが多いが、最終消費者がお金を払わない

限り本当に大きな広がりは持たない。消費者も金を払って選択するという責任を果

たすべきである。

○ IT について1つの大きな視点として、ITは非常に陳腐化が早いということがある。

すなわち、IT は資本コストがものすごく高いということである。その高資本コス

トに対応するような経営や運用をしてきたかというと、今まで我々はきちんと考え

てこなかったのではないか。

○ 中小企業の IT 化にとっての問題として、対事業所サービスが日本で非常に弱いこ

とがある。このためにうまく回っていないケースが多くある。

○ IT については、これまでと比べて何ができるようになったかという発想ではなく、

「何をしたいか」を出発点として目標を掲げ、そのうちどこまで進んだかという発

想をすべきである。こうした見方をすれば、医療分野などでは、IT の更なる活用

の余地がまだ多いと思われる。

○ コンテンツ産業の問題点は、コンテンツ制作会社とテレビ局・新聞社との契約形態

である。テレビ局などの独占的状況がコンテンツ制作側に不利な契約をもたらして

いる。

○ 医療機関における電子カルテの整備及びそれを使ったデータの利用が遅れている

(日本だけではない)。医療機関同士のネットワークの構築も重要。医療分野で IT

化を進める際に問題になるのは、個人情報の取り扱いである。

○ IT で進展が遅れている分野としては、ITS が挙げられる。技術的側面ばかりを議

論するのではなく、市場原理を導入した見直しも必要ではないか。

【池内委員】

○ 予想以上に基盤整備が進んで、ユーザーの利便性も急速に高まっている。モバイル

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82

がここまで加速度的に活用されるとは想像しておらず、ブロードバンド価格の急落

も予想以上。ここ1年かもしれないが、FTTH が、価格問題もクリアし、ユーザー

インターフェースの向上、コンテンツのリッチさなどで急速に普及しているのも、

2000 年当時の想定以上である。

○ 光ファイバーへの需要については、実際にユーザーから見て、どれぐらい動画等を

中心にしたコンテンツサービスに価値を見出してもらえるか、まだ検証できていな

いとの感覚がある。住宅の展示場を仮想でネット上で探索する等のサービスが実験

的に行われているが、やはりリアルとのギャップというものが結構大きく、コンテ

ンツ制作コストの割にはユーザーの利便性が感じられないとの議論もあった。可能

性もすごくあるが、まだ課題も多いという認識である。

○ IT は生活になくてはならない存在になっていると我々も実感している。就職や転

職にしても、つい5、6年前は、インターネットで応募し、人事担当者とやりとり

をして面接をするようなことは想定していなかったが、もう少し先に行くとネット

上で面接してしまう、あるいは最終面談はフェース・トゥ・フェースかもしれない

が、その一歩手前までネットで完結してしまうところまできている。ネットがコミ

ュニケーション上果たす役割というのは、我々が想像した以上に飛躍的にカバレッ

ジを広げていく可能性が大きい。

○ 今後もサイバー上で新しい市場が生まれ続けると確信している。個人認証を伴う決

済がネットやモバイルで完結できる世界になるから、リアルで取引されているうち、

かなりのものは e-コマースにリプレイスされ、2010 年までには劇的に変わるの

ではないか。その中で果たす役割が一番大きいのは、モバイルではないかと思う。

今後はユビキタスなネットワークというか、リアルとの連携がすごく大きなキーワ

ードだと思う。

○ ノンアクティブユーザーが活性化している。今まではすごく情報感度が高い人がメ

ディアから情報を取得して物を買ったり決済を行っていた。現在は、ユーザーイン

ターフェースが向上しているため、今までこういう情報源にタッチしなかった人が

使い始めており、それが新しい需要をつくっているという実感がある。

○ 例えば旅行等についても、年間でおよそ 2億 8000 万泊の個人の消費が日本である

が、現在だいたい 3000万泊くらいはインターネットで予約され、これが年率 200%

位で成長している。今まで旅行しなかった人の需要を喚起しながら進んでいる実態

もあると思う。

○ 業務効率や生産性の改善についてはどの企業も成果が着実に見え始めていると思

う。その一方、企業間の格差が逆についている。10 人以下など小規模の会社で自

前で取引会社とネットワークを結び企業間取引きを行うことができない会社も多

い。そうした企業と IT 導入先端企業との競争力の差が業種を問わず出ていると思

う。

○ IT 化が遅れている分野として、行政、医療、教育が挙げられる。これらの分野で

Page 101: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

83

は、個人認証の問題(個人情報の取扱い等)、規制、既得権益団体による業界慣習、

競争の欠如などがボトルネックになっている。

【國領委員】

○ 短期間にブロードバンドを広げたという意味で、日本の IT 戦略はかなり成功した

といえる。米国や韓国ではアクセス回線の競争は低調となっており、競争的なアク

セス回線市場を構築し、維持しているという意味では日本は特筆すべき国となって

いる。

○ ブロードバンド市場の競争的な拡大の背景にはNTT 局舎開放があるのはもちろん

だが、同じか、それ以上にバックボーンの光ファイバがダークファイバとしてアン

バンドルされたために、新規参入業者が新しい技術で安いバックボーンを入手でき

たからだと考えている。今後、その体制をいかに維持するかが課題となろう。

○ 競争的な拡大は良い面を多くもっているが、同時に競争が進展した分だけ僻地にお

ける基本サービスの維持や、災害などにつよいインフラストラクチャの維持などが

課題となってきている。

○ 規制改革の中でうまくいかなかったものもあって、今後の教訓としてきちんと振り

返っておきたい。たとえば、従来型電話技術を前提として、NTT と NCC の取り

分だけをいじったマイラインという政策があったが、本質的な利得がないまま、パ

イの調整だけを行ったために、業界が疲弊するばかりで消費者への利得の還元はご

くわずかだった。技術革新によって機械の性能が毎年10倍、100倍といった単

位で改善している業界では、単純な価格競争ではなく、イノベーションによる新サ

ービスの創造を重視した政策を行うべきである。

○ 今後の発展を考えると付加価値の高いサービス(医療・教育・産業など)の利用度

を高めることが鍵となることは衆目の一致しているところである。ただし、そのあ

たりの利用を高めていく作業は、IT だけではなく社会制度全般を改革していく作

業と同時に行われねばならず、容易ではない。医療だけとっても、IT によってキ

メの細かい管理によって、安全性と経済性を高めることができるが、それを実現す

るためには、例えば診療報酬制度などを適切に見直して、よりよい仕組みを運営し

たところが、それなりの見返りを得られるようにしないと進まない。 ○ IT による改革は従来の縦割り行政組織を横断する取り組みが必要とされる場合が

多く、これからますます、官房による調整機能が求められるようになるだろう。

Page 102: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

( 付 注 )

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85

付注1 アンケート調査について

1.消費者向けウェブ・アンケート「IT による利便性向上と需要創出効果に関する調

査」

(1)調査対象

goo Research のインターネットアンケート・モニター。調査対象は、①性別、②

年齢(15 歳~69 歳:10歳刻み)、③居住地域(東京、東京以外)、の 3点につき、

日本の人口分布とほぼ合致するように抽出し、調査を実施。

(2)調査期間

2004 年 8 月 6日(金)~2004 年 8月 10 日(火)

(3)回収数

1,120 票 2.企業向けウェブ・アンケート「IT が企業の生産性や経営組織改革に与える影響に

関する調査」

(1)調査対象

goo Research のビジネスモニター。なお、上場企業(一部、二部)2,040 社につ

いては別途経営企画担当宛にダイレクトメールを送付し、インターネットアンケー

トへの協力を依頼した。

(2)調査期間

2004 年 8 月 6日(金)~2004 年 8月 17 日(火)

(3)回収数

1,423 票

(4)回答者の属性

回答総数 1,423 100.00%

上場一部 668 46.94%

上場二部 127 8.92%

上場(店頭公開) 112 7.87%

上場(東証マザーズ) 6 0.42%

ナスダックジャパン 31 2.18%

未上場 479 33.66%

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付注2 IT 消費を含む消費関数の推定

IT 関連の財・サービスの消費の拡大は、消費全体の需要拡大に結びついているのか、

それとも他の消費の節約による代替にとどまっていて、需要拡大にはつながっていない

のか。この点を検証する1つの試みとして、IT 消費を含む消費関数を推計した。

1. 消費関数の推計結果

推計した消費関数は、通常のエラー・コレクション型の消費関数に、IT 消費を説明

変数として加えたものである。

IT 消費の拡大が消費全体の拡大に結びついていれば、推計結果において、IT 消費に

かかる係数は有意に正となるはずである。一方、IT 消費が他の消費からの単なる代替

にとどまり、消費全体に影響を与えていなければ、両者は無相関となり、IT 消費にか

かる係数は有意とはならないと考えられる。

推計結果は以下の通りである。これを見ると、IT 消費にかかる係数は短期・長期と

も 5%水準で有意であり、IT 消費の増加は単なる代替にとどまらず、消費全体の拡大を

もたらしていると考えられる。

〔長期均衡式〕

ln Ct = 3.49 ***+ 0.51*** ln Y t + 0.23*** ln FA t + 0.015** ln ITt

(7.25) (9.70) (8.60) (2.42)

〔短期調整式〕

△ln Ct = -0.00-0.38*** ECt-1=+ 0.17**△ln Yt+ 0.24***△ln FAt+ 0.089**△ln ITt

(-0.16) (-4.21) ( 2 . 2 0 ) (2.75) (2.27)

ただし、C: 実質家計最終消費支出, Y: 実質可処分所得, FA: 実質家計金融資産残高,

IT: 実質 IT 消費, EC: 誤差修正項

推計期間は 80年 1Q~04年 2Q

( )内は t 値。***は 1%有意、**は 5%有意を示す

【データ】

C: 内閣府「国民経済計算」の実質家計最終消費支出(帰属家賃を除く)。

Y: 内閣府「国民経済計算」の実質家計可処分所得。ただし、2003 年 2Q~2004 年

2Q は、QE の雇用者報酬の伸び率により家計可処分所得の伸び率を予測する式

を回帰し、これにより推定される伸び率で延長した。

Page 105: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

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FA: 日本銀行「資金循環勘定」の家計金融資産残高を家計最終消費支出デフレータ

で実質化。ただし、93SNA 準拠ベースの家計金融資産残高は 97 年 4Q 末以降

のデータしかないため、それ以前については、68SNA準拠ベースの個人金融資

産残高の伸び率で遡及した。なお、推計にあたっては、各期の期首残高(=前

期末残高)を用いた。

IT: 総務省「家計調査」より、世帯の実質消費支出全体に占める実質 IT 消費支出の

割合を求め、これを国民経済計算の実質家計最終消費支出(帰属家賃を除く)

に乗じることにより、マクロの実質 IT 消費を求めた。IT 消費の範囲は、篠崎・

手嶋(2004)「IT 関連指標の作成とそこからみた現状」未来経営No.12に倣った。

品目ごとに消費者物価指数(該当する指数が存在しない場合は企業物価指数)

により実質化した。

なお、いずれの系列も、季節調整を行った上で用いた。

2. IT 消費が消費全体にもたらした影響の推定

上記の推定結果より得られた長期の弾力性係数に IT 消費の増加率を乗じることによ

り、最近の IT 消費の増加が消費支出の長期均衡水準に与える影響を試算した。

弾力性係数[0.015] × 2000 年以降の実質 IT 消費の増加率[56.2%]

= IT 消費の増加による実質家計最終消費支出の増加率[0.8%]

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付注3 消費者余剰の推計について

(1)携帯電話

携帯電話の需要関数を推計し、それを基に 2000 年度以降の携帯電話料金の低下による消

費者余剰の増加額を求めた。

具体的には、2000 年度以降の相対価格低下と、それによってもたらされる理論的な需要

量(加入者数)の変化(需要関数を用いて算出)から、消費者余剰の増分となる台形面積

((価格低下前の需要量(上底))+(価格低下後の需要量(下底))×価格の低下幅(高さ)

/2)を求めた。需要関数推計には価格指数を消費者物価指数(総合)で除した相対価格

を用いたため、消費者余剰額の算出の際にはデフレーターを乗じて名目の消費者余剰額に

変換した。

需要関数の推計結果は以下のとおり。

⊿ln(GDP) ⊿ln(P) DD D.W. Adj.R2

係数 (t 値)

8.278 (6.291)

-1.671 (-3.986)

0.398 (4.169) 2.164 0.794

(備考)1.内閣府「国民経済計算年報」、総務省「情報通信に関する現状報告」「消費者物価指数」、日本銀行「企業向けサービス価格指数」、(社)電気通信事業者協会年報、㈱情報通信総合研究所編「情報通信ハンドブック」、各社公表資料等より作成。

2.推計式は以下の通り。最小二乗法を用いた。 ⊿ln(Q)=α*⊿ln(GDP)+β*⊿ln(P)+γ*DD 3.変数の定義は以下の通り。 Q 加入者数 GDP 実質 GDP P 相対価格

(企業向けサービス価格指数(携帯電話)を消費者物価指数(総合)で除した) DD 1994~1996 年度の急激な需要増による需要曲線のシフトを示すダミー変数 4.推計期間:1988~2002 年度。

(2)パソコン

携帯電話と同様、需要関数を推計し、同様の方法により 2000 年度以降の価格低下による

消費者余剰の増加額を求めた。

需要関数推計の推計結果は以下のとおり。

C ln(GDP) ln(P) D.W. Adj.R2

係数 (t 値)

3.890 (0.316)

0.697 (0.667)

-0.612 (-4.199)

1.869 0.859

(備考)1.内閣府「国民経済計算年報」、総務省「消費者物価指数」「家計調査年報」等より作成。 2.推計式は以下の通り。一階の系列相関を仮定した一般化最小二乗法を用いた。 ln(Q)=C+α*ln(GDP)+β*ln(P) 3.変数の定義は以下の通り。 Q 実質パソコン需要量(四半期毎ごと一世帯あたりパソコン消費支出額を

価格指数で除した) GDP 実質 GDP

Page 107: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

89

P 相対価格(パソコンの価格指数を消費者物価指数(総合)で除した) 4.推計期間:2000 年度第1 四半期~2004 年度第 1 四半期。

(3)ブロードバンド

データの制約から需要関数を推計することが困難であったため、各年度の価格と需要量

(DSL、CATV、FTTH 契約数)のデータから直接に台形面積((価格低下前の需要量(上

底))+(価格低下後の需要量(下底))×(価格低下幅(高さ))/2)を計算し、消費者

余剰の増加額を求めた。

(備考)契約数及び価格は、総務省「情報通信に関する現状報告(各年版)」、IT 戦略本部「ベンチマーク

集」等より作成

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90

付注4 IT 資本ストックデータの作成方法

1.IT 投資額・IT 資本ストック額

情報関連(IT)投資の範囲は、機械投資のうち、①事務用機械、②電子計算機・同付属品、

③電子通信機器(以上ハードウエア)、④受注ソフトウエアである。情報関連データについて

は、1974 年以前はデータの制約があり推計することが難しいため、推計開始年を 1974 年

とする。

まず、ベンチマークである 1974 年の IT 資本ストックを推計し、1975~2003 年につい

ては、設備投資額と資本減耗率から毎年の IT 資本ストックを推計する。なお、価格は 1995

年基準である。以下では、ハードウエアとソフトウエアそれぞれについて作成方法を示す。

【ハードウエア】

まず、総務省『産業連関表』、『産業連関表接続表』の固定資本マトリクスより、上記

IT 投資の範囲に当てはまるものを抽出し、5 年おきの実質 IT 投資額を求める。毎年のデ

ータ系列は、経済産業省『機械統計月報』、大蔵省『貿易統計』の IT 財に関する部分を

利用して推計する。この際、実質化には国内卸売物価指数、国内企業物価指数を利用し

て作成したデフレーターを用いている。日本電電公社と日本国有鉄道については、固定

資本マトリックスから IT 関連資産を抜き出し、中間年については構成比を線形補完して

作成している。

ベンチマークである 1974 年の IT 資本ストックは、(1)式から計算する。

( )δ+=− gIKIT t /t1 (1)

ここで、 75=t とすると、 74KIT は 1974 年の IT 資本ストック、 75I は 1975 年の IT 投

資であり、 g とδ は、それぞれ 1975~79 年の IT 投資の年平均増減率と固定資本減耗率

である。資本減耗率は、Fraumeni (1997)の品目別数値を採用している。

さらに、1975~2003 年については、(2)式から求める。

1)1( −−+= ttt KITIKIT δ (2)

次に産業別の IT 投資額であるが、1975 年以降 5 年毎の値は固定資本マトリクスから、

IT の範囲に含まれる部分を抜き出し、IT 投資額としている。中間年については、5 年毎

の産業別構成比を求め、これを線形補完し各産業の合計値に掛け合わせることにより、中

間年の産業別 IT 投資額を作成している。

産業別の資本ストック作成については、マクロベースと同様(1)、(2)式を利用して作成

する。

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91

【ソフトウエア】

内閣府『国民経済計算年報』の 1985~2002 年のソフトウエア投資額に、『産業連関表』

から求めた民間部門の比率を乗じて、ソフトウエアの民間投資額(名目)を算出する。1980

~84 年については、経済産業省『特定サービス産業実態調査(情報サービス業編)』のソ

フトウエア年間売上高伸び率から計算している。なお、1970 年代については、データの

制約から推計を行っていない。

実質化のためのデフレーターは、『国民経済計算年報』から得られるデフレーターを利

用している。このデフレーターで、名目の民間ソフトウエア投資額を除して、実質民間

ソフトウエア投資額を算出する。

資本減耗率は、『国民経済計算年報』のソフトウエア設備投資とソフトウエアストック

から計算した 1991~2002 年の平均値を採用する。

1979 年のソフトウエアストックを、1980~85 年のソフトウエア投資額と資本減耗率か

ら、(1)式の方法で求め、1980~2002 年については(2)式によって算出する。

2003 年のソフトウエア投資は、民間企業資本ストック統計の「無形固定資産」の実質

値(取付ベース)から 2002~03 年の伸び率を計算し、2002 年の実質ソフトウエア投資に掛

けることにより 2003 年の実質ソフトウエア投資額を作成している。この投資額を(2)式に

代入することにより、2003 年のソフトウエアストック額を作成することができる。

産業別のソフトウエア投資は、『情報処理実態調査』のソフトウエア購入費とソフトウ

エア作成委託料の合計値を利用する。この合計値から産業別の伸び率をまず求めておく。

1995 年のマクロベースの投資額を固定資本マトリックスの産業別構成比に掛け合わせる

ことにより 1995 年の産業別のソフトウエア投資額を求めている。

こうして、1995 年の産業別の値と先ほど求めた産業別の伸び率から、産業ごとの投資

額を計算することができる。

なお、実質化とストック化については、マクロベースと同様である。

2.非 IT 投資額・非 IT 資本ストック額

【非 IT 投資額・非 IT 資本ストック額】

非 IT 投資額、非 IT 資本ストック額は、以下の全体の新設投資額、純資本ストック額

から IT 投資額、IT 資本ストック額を引いた値として定義している。

【新設投資額・純資本ストック額】

純資本ストックは、1970 年の純資本ストック額を推計してベンチマークとし、それ

以降は新設投資額と固定資本減耗率から恒久棚卸法を用いて作成した。価格は 1995 年

基準である。資産は、機械と建設の 2 分類に分け、1970~2003 年まで推計している。

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92

まず、ベンチマークである 1970 年の純資本ストックは、『1970 年国富調査』のデー

タを利用する。これは、1970 年価格であるので、『国民経済計算年報』から求めたデフ

レータを用いて 1995 年価格に変換する。日本国有鉄道と日本電電公社については国営

企業の運輸と通信のデータを利用している。

新設投資額は、次のように作成している。まず、固定資本マトリックスから建設と

機械投資について、民間の投資比率を作成する。中間年についてはそれぞれ線形補完

を施している。この比率に、『国民経済計算年報』の形態別総資本形成の箇所から得ら

れる、住宅以外の建物、その他の構築物、育成資産の 3 種類の投資額計を民間比率(建

設)に掛け合わせて建設投資額を作成している。また、輸送用機械、その他の機械設備

の合計投資額に民間比率(機械)を掛け、機械投資額を作成している。

日本電電公社と日本国有鉄道の投資額については、経済企画庁総合計画局編『日本

の社会資本―21 世紀へのストック―』から得られる新設投資額を利用している。資産

構成比については固定資本マトリックスを利用する。

固定資本減耗率は Hayashi and Inoue (1991)や小川・北坂 (1998)らが算出した固定

資本減耗率を 2 部門に統合して適用している。1971~2002 年までのt 年の純資本スト

ック tK は、t 年の新設投資額 tI 、固定資本減耗率δ と1970年の資本ストックを用いて、

(3)式より算出している。

1)1( −−+= ttt KIK δ (3)

また、2003 年の実質新設投資額は、民間企業資本ストック統計の全産業の実質値(取

付ベース)から 2002~03 年の伸び率を求め、その伸び率とすでに得られている 2002 年

の実質新設投資額の値から、2003 年の実質新設投資額を作成した。この実質新設投資

額を(3)式に代入することにより、2003 年の純資本ストックを求めている。

次に、産業別の純資本ストック作成について記述する。まず、ベンチマークである

1970 年の純資本ストックは、マクロベースと同じ方法である。

新設投資額についても上記した通りで、固定資本マトリックスから産業別の建設と

機械の民間投資比率を作成し、これに 2 種類の新設投資額の合計を掛け合わせること

で産業別の新設投資額を作成している。

固定資本減耗率はマクロベースの値を作成した際と同様であり、(3)式を利用して純

資本ストックを作成している。

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93

付注5 労働生産性の要因分解について

1980~2003 年のデータを用いて、IT 資本ストックと非 IT 資本ストックとを区分した以

下のコブ・ダグラス型生産関数を想定し、労働生産性(Y/L)上昇率を①IT 資本装備率(KIT/L)

要因 ②非 IT 資本装備率(KnonIT/L)要因 ③TFP(A)要因に分解した。その上で、TFP 要因をネ

ットワーク効果要因とその他に分けた(ネットワーク効果の推定方法については付注6を参

照)。

γβαITnonITKKALY =

 ①    ②             ③ 

 分解式 )/

)/(()

/)/(

(/

)/()(

LKLK

LKLK

AA

LYLY

IT

IT

nonIT

nonIT ∆+

∆+

∆=

∆γβ

Y:付加価値額 A:TFP L:労働投入量 KnonIT:非 IT 資本ストック

KIT:IT 資本ストック α:労働分配率 β:非 IT 資本分配率 γ:IT 資本分配率

※非 IT 資本ストック及び IT 資本ストックについては、前年度末(=当年度期首)のデー

タを用いた。

【データ】

Y: 93SNA ベースの経済活動別国内総生産の「産業」の値(持家含まない)。ただし、

93SNA での遡及は 1980 年までなので、70~79 年については 68SNA ベースの値の

伸び率を利用し、80 年から遡って推計。また、国民経済計算(確報)は 2002 年まで

なので、2003 年の産業合計値については、経済産業省の全産業活動指数(農林水産業

生産指数を除く)の 2002~03 年の伸び率を利用し推計。

L:就業者数×労働時間

(就業者数)国民経済計算の「産業」の就業者数。ただし、93SNA での遡及が 1980

年までなので、70~79年については68SNAベースの値の伸び率を利用し、

80 年から遡って推計。国民経済計算(確報)は 2002 年までなので、2003

年については、『労働力調査』の就業者数(公的部門含む)の 02~03 年の伸び

率を利用し推計。

(労働時間)『毎月勤労統計調査』中の事業所規模が 30 人以上の月間総実労働時間数(調

査産業計)。

α、β、γ:それぞれ、以下の数式で算出している。

・労働分配率=(雇用者報酬+個人企業の営業余剰(持家除く))÷名目付加価値額

・資本分配率(%)=100(%)-労働分配率(%)

Page 112: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

94

・IT 資本分配率(%)=資本分配率(%)×IT ストック(含ソフトウエア)のコストシェア

・非 IT 資本分配率(%)=資本分配率(%)-IT 資本分配率(%)

・IT ストック(含ソフトウエア)のコストシェア=(IT 資本コスト×IT 資本ストック)

÷(資本コスト×資本ストック)

・資本コスト=投資財価格×(実質金利(%)+減耗率(%))

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95

付注6 IT のネットワーク効果(外部波及効果)の推計について

本推計では、IT 投資による生産性上昇の産業を超えた外部波及効果が見られるかど

うか、すなわち、他産業との取引を通じて、他産業のIT 資本ストックの増加が自産業

の TFP の増加にプラスの効果を与えているかを定量的に捉えることを目的としている。

具体的には、他産業における IT資本ストックの増加率と自産業のTFP 上昇率に正の

相関が見られるかを回帰分析により検証した。その際、強い取引関係にある産業のIT

資本の増加ほど波及効果が働くとの考え方に基づき、他産業のIT 資本増加率を自産業

との取引額のシェアでウェイト付けして、加重平均した。

推計は、1980~2002 年までの産業別パネルデータを用いて行った。取引額のウェイ

ト付けは、①供給側・需要側を合わせた全ての取引のシェアを用いた場合 ②供給側・

需要側それぞれの取引シェアを用いた場合 の2つのパターンで行った。推計2は、自

産業への供給側に位置する産業と需要側に位置する産業のどちらにおける IT 化が、自

産業のTFP の増加により強い効果を与えているかを捉えることができる。

(推計式)

【推計 1】

  iIOIOi

i XCAA

_λ+=∆

ただし、Ai:i 産業の TFP C:定数項 X:他産業の IT 資本伸び率を示す変数

     ∑∑

≠≠ +

+=

∆×=

ijjiji

jijijiIO

ij jIT

jITjiIOiIO

DM

DMW

K

KWX

)(,))((

_

__

ただし、W:取引額によるウェイト KIT_j:j 産業の IT 資本ストック(前年度末値=当年度

期首値を使用) Mji:j 産業から i 産業への中間投入量 Dji:i 産業製品への j 産業の需要量

【推計 2】

     + iOOiIIi

i XXCAA

__ λλ+=∆

       

   

∑∑

∑∑

≠≠

≠≠

=∆

×=

=∆

×=

ijji

jijiO

ij jIT

jITjiOiO

ijji

jijiI

ij jIT

jITjiIiI

D

DW

K

KWX

M

MW

K

KWX

,))((

,))((

_

__

_

__

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96

【データ】

A(産業別 TFP):付注 5 と同様、コブ・ダグラス型生産関数を想定し、以下の式で算出し

ている。

)()()(_

_

_

_

iIT

iIT

inonIT

inonIT

i

i

i

i

i

iK

K

K

K

LL

YY

AA ∆∆

−∆

−∆

=∆

-γβα

Y:付加価値額・・・93SNA ベースの経済活動別国内総生産の各産業の値(不動産業

については持家分を除く)を利用。80 年以前については、68SNA

ベースのデータを利用し遡及。

L:労働投入量・・・就業者数×労働時間

(就業者数)国民経済計算の各産業の就業者数。

(労働時間)『毎月勤労統計調査』中の事業所規模が 30 人以上の月間総実労働時間数

において、産業ごとの数値を利用。

M、D:SNA 産業連関表のデータを使用。

α、β、γについては、付注 5 と同様の方法で、産業別分配率を算出している。

なお、産業分類について、産業連関表の産業分類と合わせるための調整を行ってい

る(SNA では「その他製造業」に含まれる「身廻品」を「繊維製品」に、「製材・木製

品」・「家具」を「パルプ・紙」にそれぞれ分類し直している。)。

【推計結果】

・推計期間 1981~2002 年、産業数 22 のパネルデータによる推計(標本数 484)

・カッコ内は t 値。**:有意水準 5%、*:有意水準 10%で係数がそれぞれ有意であること

を示す。

λIO λI λO Adjusted.R2 D.W.

推計 1 0.030*

(1.777)

- - 0.166 1.703

推計 2 - 0.108**

(2.031)

-0.036

(-0.759)

0.169 1.706

※固定効果モデルによる推計結果。なお、ランダム効果モデルにより推計した場合でも、

結果に大きな差は生じなかった。

※また、宮川・伊藤・原田(2004)にならい、需要要因が TFP に与える影響を考慮するため、

各産業の輸出が産出額に占める割合を説明変数として加えても、結果に大きな差は生じ

なかった。

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97

【生産性上昇への外部波及効果の寄与の算出方法】

推計 1 を基礎に、TFP 上昇率のうち外部波及効果により説明できる部分を算出した。

まず、推計 1 の係数に、取引額シェアでウェイト付けした他産業における IT 資本の伸

び率 XIOを掛け、各産業の TFP 上昇率のうち外部波及効果による部分を求めた。次にこ

れを、各産業の付加価値額シェアでウェイト付けして加重平均することにより、マクロ

における TFP 上昇の外部波及効果要因を求めた。

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98

付注7 IT 投資の限界生産力の推定

IT 資本ストックを含むコブ・ダグラス型生産関数を推定し、それを基に、IT 投資と

非 IT 投資の限界生産力を推定した。

1.生産関数の推定

(推定式)

労働投入、非 IT 資本ストック、IT 資本ストックを生産要素とする収穫一定のコブ・

ダグラス型生産関数を想定し、対数線型の労働生産性関数に変換して推定した。

)/ln()/ln(ln)/ln(

)1(

LKLKALY

KKALY

ITnonIT

ITnonIT

γβ

γβαγβα

++=⇔

=++=

ただし、Y: 実質付加価値額、A: 全要素生産性(TFP)、L: 労働投入、

KnonIT: 実質非 IT 資本ストック、KIT: 実質 IT 資本ストック

データの出所、作成方法については、付注4、5を参照

(推定結果)

β γ adj.R2 D.W.

0.292**

(2.240)

0.122**

(2.568) 0.996 1.593

推定期間: 1980 年~2003 年

1階の系列相関を想定した一般化最小二乗法(GLS)による推計

カッコ内はt値、***は 1%有意、**は 5%有意、*は 10%有意

2.限界生産力の推定

上記のコブ・ダグラス型生産関数から得られる以下の式に、β、γの推定値および

直近 2003 年の Y, KIT, KnonITの値をそれぞれ代入して求めた。

非 IT 資本の限界生産力: nonITnonIT KY

dKdY β=

IT 資本の限界生産力: ITIT K

YdKdY γ=

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99

付注8 企業ミクロデータによるIT の生産性効果の分析

企業 Web 調査「IT が企業の生産性や経営組織改革に与える影響に関する調査」の個票デ

ータと企業の財務データを組み合わせたミクロデータを用い、企業の IT 化の進展と、それ

に伴う組織改革や人的資本面における対応が、企業の生産性に与える影響を分析した。

1.推計式と推計結果

(1)推計式

最小二乗法で推計した。

LHHLHH DDDLKY 321)ln()ln()ln( δδδγβα +++++=

なお、推計にあたり業種によるコントロールを行っている。

(変数の定義・作成方法)

:Y 2003 年度の付加価値額(=人件費・労務費+賃借料+租税公課+減価償却費

+支払特許料+純金利負担+利払い後事業利益、)を経済活動別国内総生産の

産業別デフレータにより実質化。業種区分は東証業種分類に従った。

:K 2003 年度末の実質資本ストック。恒久棚卸法を用いて求めた。

まず各企業について、有形固定資産額の毎年の増分を算出し、これをネット

の設備投資額とする。次に、ネットの設備投資額に減価償却費を加え、グロス

の設備投資額を求める。

これを SNA 上の民間企業設備投資デフレータでデフレートし、グロスの実

質設備投資額を得た。減価償却率については、減価償却費を前期末の有形固定

資産で除すことで求めた。

各企業の資本ストック流列については、当初年度( 1983 年度以前から存在す

る企業については 1983 年度、それ以外の企業は企業の設立年度、ただし業歴

が 10 年に満たない会社を除く)の実質有形固定資産を実質資本ストックの初

期値とした上で、恒久棚卸法、すなわち次の式に従って求めている。

1)1( −−+= itititit KIK δ

ここで、 itK :企業 i の時点 t における実質資本ストック, itI :企業 i の時

点 t におけるグロスの実質設備投資額、 itδ :企業 i の時点 t における減価償却

率、である。

:L 2003 年度の労働投入。各企業における期末総従業者数を用いた。

:,, LHHLHH DDD ダミー変数。まず、各企業毎に①IT 化、②人的資本、③企業組

織の程度をスコア化した指標を作成し、各企業毎にこれらのスコアが平均より

高い(H)グループに属するか低い(L)グループに属するかを判別した(スコ

ア化の方法は3.を参照)。その上で、IT 化×企業組織について、

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100

C lnK lnL HH HL LH AdjR2係数 2.874 0.212 0.784 0.211 0.108 0.07 0.911t値 24.027 12.318 32.676 3.863 1.821 1.008  

  *** *** *** *** *    係数 2.899 0.212 0.79 0.149 0.07 -0.07 0.91t値 24.142 12.333 33.224 2.828 1.243 -1.001  

  *** *** *** ***      

IT化×人的資本

IT化×企業組織

高高の企業 高低の企業 低高の企業 低低の企業IT化×人的資本 123.5 111.5 107.2 100.0IT化×企業組織 116.0 107.2 93.3 100.0

(1) IT 化、企業組織改革ともに平均より高い企業(HH)

(2) IT 化は進んでいるが、企業組織改革では低い企業(HL)

(3) IT 化は低いが、企業組織改革は高い企業(LH)

(4)どちらも低い企業(LL)

の4つのグループに分け、ダミー変数を作成した。IT 化×人的資本についても

同様に作成した。

(データ)

・企業向け Web 調査「IT が企業の生産性や経営組織改革に与える影響に関する

調査」(回答数 1,423 社、うち財務データをマッチングできた企業データは 614

社)

・日経 NEEDS-Financial QUEST 企業財務データベース

・内閣府経済社会総合研究所『国民経済計算』

(2)推計結果

注:***は 1 %水準で有意、**は 5 %水準で有意、*は 10%水準で有意。

(3)組み合わせ別 TFP の算出

各推計式から得られた係数をもとに、低低の企業からの生産性(TFP)の乖離を以下の式

により算出した。なお、低低の企業を 100 として基準化して表記した。

高高の場合 11 −δe 、高低の場合 12 −δe 、低高の場合 13 −δe 。 なお、 321 ,, δδδ はそれぞれ、ダミー変数 HH, HL, LH の係数である。

(4)有意性の検定

上記(2)の推計結果は低低の企業を基準として推計したものであり、高高、高低、低

高の企業が低低の企業と比べて生産性に有意な差があるかを見ることができる。一方、高

高の企業を基準とした推計も行い、以下のように有意性を確認した。これを見ると、例え

ば IT 化だけを進めて企業組織改革を進めていない企業は、どちらも進めていない企業と比

Page 119: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

101

低低(平均以下の組み合わせ)を基準とした場合高高の企業 高低の企業 低高の企業 低低の企業

IT化×人的資本 *** *IT化×企業組織 ***

高高(平均以上の組み合わせ)を基準とした場合高高の企業 高低の企業 低高の企業 低低の企業

IT化×人的資本 ** ** ***IT化×企業組織 * *** ***

(IT化効果:IT化下位 企業組織下位の企業を100として基準化)

127.1

106.9

115.4

100.0

50

60

70

80

90

100

110

120

130

140

IT化上位 IT化上位 IT化下位 IT化下位

企業組織上位 企業組織下位 企業組織上位 企業組織下位

企業の組織改革とIT化効果

(IT化効果:IT化下位 人的資本下位の企業を100として基準化)

123.1

109.9113.3

100.0

50

60

70

80

90

100

110

120

130

IT化上位 IT化上位 IT化下位 IT化下位

人的資本上位 人的資本下位 人的資本上位 人的資本下位

企業の人的資本面の対応とIT化効果

べても生産性は有意な差は生じていない一方で、両方とも進めた場合には IT 化のみ進めた

場合よりも 10%水準で有意に生産性が高くなっている。

注:***は 1 %水準で有意、**は 5 %水準で有意、*は 10%水準で有意。

2.IT 化の効果スコアによる分析

アンケート調査の回答企業 1423 社のうち、財務データとマッチングができたのは 614 社

だけとなっている。これらは全て上場企業であり、従って大企業に偏ったサンプルである。

このため、全ての調査対象企業を対象にした分析として、アンケート・データから IT 化の

効果に関する指標をスコア化し、企業の IT 化の進展と、それに伴う組織改革や人的資本面

における対応が、IT 化の効果に与える影響を分析してみた(IT 化効果スコアの作成方法に

ついては、3.を参照)。

この結果、IT 化と企業組織改革(または人的資本面の対応)の両方を進めた企業の方が、

IT 化効果が有意に高くなっており、生産性との関連をみた分析と同様の結果となっている。

Page 120: 構造改革評価報告書3のポイント - Cabinet Office · より総務省作成(「平成16年 情報通信に関する 現状報告」より引用) 構造改革評価報告書3のポイント

102

低低(平均以下の組み合わせ)を基準とした場合高高の企業 高低の企業 低高の企業 低低の企業

IT化×人的資本 *** *** ***IT化×企業組織 *** *** ***

高高(平均以上の組み合わせ)を基準とした場合高高の企業 高低の企業 低高の企業 低低の企業

IT化×人的資本 *** *** ***IT化×企業組織 *** *** ***

注:***は 1 %水準で有意、**は 5 %水準で有意、*は 10%水準で有意。

3.スコアリング方法

(1)IT 化の進展指標

以下の①~③の各項目をそれぞれ平均0、分散1となるよう標準化して合計し、平均値

を境に高い企業と低い企業を判別した。

① ネットワークの接続状況: 企業内通信網、企業間通信網、インターネットの接

続状況、のそれぞれの回答に、

全社的に構築・接続している:4 点

一部の部門で構築・接続している:3 点

構築・接続していないが予定がある:2 点

構築・接続しておらず予定もない:1 点

と段階的に得点を与え合計した。

② IT 化進展度(ネット、メールの普及度):企業内通信網や企業間通信網、もしく

はインターネットに接続しているパソコンの設置度合いについて、

1人に 1 台以上:6 点

2~3 人に 1 台程度:5 点

4~5 人に 1 台程度:4 点

6~9 人に 1 台程度:3 点

10 人以上に 1 台程度:2 点

職場にパソコンがない:1 点

および e-mail アドレスの付与度合いについて、

1 人に 1 アドレス以上:5 点

2~5 人に 1 アドレス程度:4 点

6~10 人に 1 アドレス程度:3 点

全社で 1 アドレス程度:2 点

e-mail は利用していない:1 点

と段階的に得点を与え合計した。

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103

③ 情報システム導入・連携状況:人事・給与、会計・経理、生産、営業等の業務

毎の情報システムの導入状況および連携状況につき、

(導入状況)

ほぼ全ての業務に導入:3 点

一部の業務に導入:2 点

導入していない:1 点

(連携状況)

社内の他業務の情報システムと連携している場合:+ 1 点

社外の情報システムと連携している場合:+ 1 点

とし、存在する業務部門について平均をとり標準化して合計した。

(2)人的資本指標

以下の社内人材育成積極度指標と人員効率活用積極度指標を足し合わせ、平均値を境に

高い企業と低い企業を判別した。

① 社内人材育成積極度: 社内研修の実施、従業員の外部講習会への派遣、従業

員の個人学習に対する支援、のそれぞれの回答につき、

積極的に取り組んだ:4 点

ある程度取り組んだ:3 点

あまり取り組んでいない:2 点

全く取り組んでいない:1 点

と段階的に得点を与え合計した。

② 人員効率活用積極度: 専門的人材の正規雇用、人材派遣会社から専門的人材

を必要に応じ活用、社内人材配置の流動化、IT 関連業務のアウトソーシング

のそれぞれの回答に、

積極的に取り組んだ:4 点

ある程度取り組んだ:3 点

あまり取り組んでいない:2 点

全く取り組んでいない:1 点

と段階的に得点を与え合計した。

(3)企業組織改革指標

経営組織(分権化、柔軟化各指標)の進展度に関する以下の指標を、平均値を境に高い

企業と低い企業を判別した。

組織構造のフラット化、下部組織への権限委譲、情報伝達のボトムアップ化、

情報伝達のトップダウン化、アウトソーシング、組織の縦割り主義の解消、組

織の地理的分散化、分社化、在宅勤務、のそれぞれの回答につき、

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104

大きく進展した:4 点

ある程度進展した:3 点

あまり進展していない:2 点

全く進展していない:1 点

と段階的に得点を与え合計した。

(4)IT 化効果指標

IT 化の推進による効果に関する以下の指標を、

売上の拡大、顧客満足度の向上や新規顧客の開拓、業務革新・業務効率化・コ

ストの削減、従業員の満足度向上や職場の活性化、社内コミュニケーションの

円滑化・社内情報の共有化、製品やサービスの質・付加価値の向上、のそれぞ

れの回答につき、

効果が十分あった:5 点

効果がある程度あった:4 点

わからない:3 点

効果があまりなかった:2 点

効果が全くなかった:1 点

と段階的に得点を与え合計した。

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105

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