条例と法令の関係をめぐる諸論点 ―三重県紀北町の …1 / 38...

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1 / 38 条例と法令の関係をめぐる諸論点 ―三重県紀北町の事例― (平成 25 年 3 月 財団法人 自治総合センター作成資料より抜粋・一部改変) <検討項目> 三重県紀北町の事例を読んで、次の事項について検討してみよう。 (1) 「紀伊長島町水道水源保護条例」と「阿南市水道水源保護条例」について、①政策 目的、②条例に規定する手続き、③義務履行確保手段を整理してみよう。 (2) 水道水源保護条例と廃棄物処理法との関係をめぐる二つの判決(旧紀伊長島町の事 案における名古屋高等裁判所判決と阿南市の事案における徳島地方裁判所判決)を比 較し、徳島市公安条例事件判決(昭和 50 年9月 10 日最高裁大法廷判決)を踏まえつ つ、二つの判決で異なった結論が導かれた理由を考えてみよう。 (3) 「配慮する義務」について言及した最高裁判所判決について、このような義務が求 められるのはどのような場合か(最高裁判決の射程が及ぶ範囲)、考えてみよう。 (4) 紀北町の事例を参考にして、公共の福祉を実現する観点から経済的自由権を制限す る場合、①条例の規定内容で留意すべき事項、②条例の運用面で留意すべき事項を考 えてみよう。

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条例と法令の関係をめぐる諸論点

―三重県紀北町の事例―

(平成 25 年 3 月 財団法人 自治総合センター作成資料より抜粋・一部改変)

<検討項目>

三重県紀北町の事例を読んで、次の事項について検討してみよう。

(1) 「紀伊長島町水道水源保護条例」と「阿南市水道水源保護条例」について、①政策

目的、②条例に規定する手続き、③義務履行確保手段を整理してみよう。

(2) 水道水源保護条例と廃棄物処理法との関係をめぐる二つの判決(旧紀伊長島町の事

案における名古屋高等裁判所判決と阿南市の事案における徳島地方裁判所判決)を比

較し、徳島市公安条例事件判決(昭和 50 年9月 10 日最高裁大法廷判決)を踏まえつ

つ、二つの判決で異なった結論が導かれた理由を考えてみよう。

(3) 「配慮する義務」について言及した最高裁判所判決について、このような義務が求

められるのはどのような場合か(最高裁判決の射程が及ぶ範囲)、考えてみよう。

(4) 紀北町の事例を参考にして、公共の福祉を実現する観点から経済的自由権を制限す

る場合、①条例の規定内容で留意すべき事項、②条例の運用面で留意すべき事項を考

えてみよう。

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資料の目次

はじめに ....................................................................................... 3

1 三重県紀北町の概況 ......................................................................... 4

2 廃棄物処理法及び水道法の規定 ............................................................... 5

(1)平成9年改正前の廃棄物処理法の規定..................................................... 5

(2)水道法の規定 ........................................................................... 8

3 水道水源保護条例と訴訟提起 ................................................................. 9

(1)紀伊長島町水道水源保護条例 ............................................................. 9

(2)事実関係の経過 ........................................................................ 14

4 規制対象事業場認定処分取消請求事件に係る判決 ............................................. 16

(1)津地方裁判所判決(平成9年9月25日判決) ........................................... 16

(2)名古屋高等裁判所判決(平成12年2月29日判決) ..................................... 17

5 最高裁判所判決及び差戻審 .................................................................. 19

(1)最高裁判所第二小法廷判決(平成16年12月24日判決) ............................... 19

(2)差戻後名古屋高等裁判所判決(平成 18 年 2 月 24 日判決) ................................. 20

6 紀伊長島町水道水源保護条例と類似の事例について (徳島県阿南市の事例) .................... 26

(1)阿南市水道水源保護条例の内容 .......................................................... 26

(2)関係する事実の経過 .................................................................... 28

(3)徳島地方裁判所判決(平成14年9月13日判決) ....................................... 29

(4)高松高等裁判所判決(平成 18 年 1 月 30 日判決) ......................................... 32

【参考資料 1】 ................................................................................ 35

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はじめに

三重県紀北町(きほくちょう)は、平成 17 年 10 月に同県旧紀伊長島町(きいながしまち

ょう)及び旧海山町(みやまちょう)が合併して誕生した町である。

本事例では、旧紀伊長島町が平成6年に制定した「紀伊長島町水道水源保護条例」の適法

性等をめぐり、産業廃棄物中間処理施設建設予定事業者と町との間で争われた事件をとりあ

げ、法令と条例との関係、事業者配慮義務の考え方等について検討することとしたい。

<教材にとりあげた資料の全体像>

<検討の

前提>

<検討の

対象>

2 廃棄物処理法及び水道法の規定

(1) 廃棄物処理法の規定

(2) 水道法の規定

3 水道水源保護条例と訴訟提起

(1) 水道水源保護条例の制定

(2) 事実関係の経過

4 規制対象事業場認定処分取消請

求事件に係る名古屋高等裁判所判

(1) 津地方裁判所判決

(2) 名古屋高等裁判所判決

対比

6 類似の事例(徳島県阿南市の事

例)

(1) 水道水源保護条例

(2) 徳島地方裁判所判決

(3) 高松高等裁判所判決

5 最高裁判所判決及び差戻後名古

屋高等裁判所判決

(1) 最高裁判所判決

(2) 差戻後名古屋高等裁判所判決

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1 三重県紀北町の概況

三重県紀北町は、三重県南部に位置しており、前面(南東部)に熊野灘、背後(北西部)

に大台山系に連なる急峻な山々に囲まれており、平野部が少なく町の総面積の9割近くを森

林が占めている。南部は尾鷲市に面し、全国でも有数の多雨地帯である。

同町は平成 17 年 10 月に旧紀伊長島町と旧海山町が合併して誕生した町である。人口減

少、高齢化進行で過疎団体となっている。

平成 16 年 7 月に世界遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」(熊野古道)の一部

が同町に所在しており、町では、国、県や関係市町村、関係団体、地域住民などと官民協働

で集客交流による地域づくりに取り組んでいる。

本事例でとりあげる旧紀伊長島町の水道事業は、上水道を1つ、簡易水道を4つ運営して

いるが、いずれも水源は同町内である。

面積 257.01k ㎡

平成 22 年国勢調査人口 18,611 人(平成 17 年国勢調査人口 19,963 人)

旧紀伊長島町の区域 平成 22 年国勢調査人口 9,617 人

(平成 17 年国勢調査人口 10,268 人)

平成 23 年度決算(普通会計)歳出総額 9,941 百万円 財政力指数 0.299

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2 廃棄物処理法及び水道法の規定

(1)平成9年改正前の廃棄物処理法の規定

廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」)は、廃棄物の減量化

の推進等の目的により、これまでたびたび改正が実施されている。ここでは、本事例で

取り上げる条例が制定された当時の、平成9年改正前の同法の関係規定を見てみよう。

【廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)】

※平成9年法律第85号による改正前

(目的)

第1条 この法律は、廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運

搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全

及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする。

(定義)

第2条 この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃

油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状の

もの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。

2 この法律において「一般廃棄物」とは、産業廃棄物以外の廃棄物をいう。

3 この法律において「特別管理一般廃棄物」とは、産業廃棄物以外の廃棄物をいう。

4 この法律において「産業廃棄物」とは、次に掲げる廃棄物をいう。

一 事業活動に伴つて生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃

プラスチェック類その他政令で定める廃棄物

二 輸入された廃棄物(前号に掲げる廃棄物、船舶及び航空機の航行に伴い生ずる廃棄物

(政令で定めるものに限る。第15条の4の2第1項において「航行廃棄物」とい

う。)並びに本邦に入国する者が携帯する廃棄物(政令で定めるものに限る。第15条

の4の2第1項において「携帯廃棄物」という。)を除く。)

5 この法律において「特別管理産業廃棄物」とは、産業廃棄物のうち、爆発制、毒性、感

染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するものと

して政令で定めるものをいう。

(国及び地方公共団体の責務)

第4条 市町村は、その区域内における一般廃棄物の減量に関し住民の自主的な活動の促進

を図り、及び一般廃棄物の適正な処理に必要な措置を講ずるよう努めるとともに、一般廃

棄物の処理に関する事業の実施に当たつては、職員の資質の向上、施設の整備及び作業方

法の改善を図る等その能率的な運営に努めなければならない。

2 都道府県は、市町村に対し、前項の責務が十分に果たされるように必要な技術的扶助を

与えることに努めるとともに、当該都道府県の区域内における産業廃棄物の状況をはあく

し、産業廃棄物の適正な処理が行なわれるように必要な措置を講ずることに努めなければ

ならない。

3 国は、廃棄物に関する情報の収集、整理及び活用並びに廃棄物の処理に関する技術開発

の推進を図り、並びに国内における廃棄物の適正な処理に支障が生じないよう適切な措置

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を講ずるとともに、市町村及び都道府県に対し、前2項の責務が十分に果たされるように

必要な技術的及び財政的援助を与えることに努めなければならない。

4 国、都道府県及び市町村は、廃棄物の排出を抑制し、及びその適正な処理を確保するた

め、これらに関する国民及び事業者の意識の啓発を図るよう努めなければならない。

(一般廃棄物処理施設の許可)

第8条 一般廃棄物処理施設(ごみ処理施設で政令で定めるもの(以下単に「ごみ処理施

設」という。)、し尿処理施設(浄化槽法第2条第1号に規定する浄化槽を除く。以下同

じ。)及び一般廃棄物の最終処分場で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置しよ

うとする者(第6条の2第1項の規定により一般廃棄物を処分するために一般廃棄物処理

施設を設置しようとする市町村を除く。)は、厚生省令で定めるところにより、当該一般

廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事(保健所を設置する市又は

特別区にあつては、市長又は区長とする。第11条第1項、第3項及び第4項、第20条

第2項並びに第20条の2第1項を除き、以下同じ。)の許可を受けなければならない。

2 都道府県知事は、前項の許可の申請に係る一般廃棄物処理施設が次の各号に適合してい

ると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

一 厚生省令(一般廃棄物の最終処分場については、総理府令、厚生省令)で定める技術

上の基準に適合していること。

二 一般廃棄物の最終処分場である場合にあつては、厚生省令で定めるところにより、災

害防止のための計画が定められているものであること。

3 第1項の許可には、生活環境の保全上必要な条件を付することができる。

4 第1項の許可を受けた者は、当該許可に係る一般廃棄物処理施設について、都道府県知

事の検査を受け、当該一般廃棄物処理施設が第2項第1号に規定する技術上の基準に適合

していると認められた後でなければ、これを使用してはならない。

5 第1項の許可を受けた者は、厚生省令(一般廃棄物の最終処分場については、総理府

令、厚生省令)で定める技術上の基準に従い、当該一般廃棄物処理施設の維持管理をしな

ければならない。

(周辺地域への配慮)

第9条の4 第8条第1項の許可を受けた者及び前条第1項の規定による一般廃棄物処理施

設の設置の届出をした市町村(以下「一般廃棄物処理施設の設置者」という。)は、当該

一般廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び増進に配慮するものとする。

(産業廃棄物処理施設)

第15条 産業廃棄物処理施設(廃プラスチック類処理施設、産業廃棄物の最終処分場その

他の産業廃棄物の処理施設で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置しようとする

者は、厚生省令で定めるところにより、当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を

管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。

2 都道府県知事は、前項の許可の申請に係る産業廃棄物処理施設が次の各号に適合してい

ると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

一 厚生省令(産業廃棄物の最終処分場については、総理府令、厚生省令)で定める技術

上の基準に適合していること。

二 産業廃棄物の最終処分場である場合にあつては、厚生省令で定めるところにより、災

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害防止のための計画が定められているものであること。

3 第1項の許可には、生活環境の保全上必要な条件を付することができる。

4 第1項の許可を受けた者(以下「産業廃棄物処理施設の設置者」という。)は、当該産

業廃棄物処理施設について、都道府県知事の検査を受け、当該産業廃棄物処理施設が第2

項第1号に規定する技術上の基準に適合していると認められた後でなければ、これを使用

してはならない。

5 産業廃棄物処理施設の設置者は、厚生省令(産業廃棄物の最終処分場については、総理

府令、厚生省令)で定める技術上の基準に従い、当該産業廃棄物処理施設の維持管理をし

なければならない。

(準用)

第15条の4 第9条の4の規定は産業廃棄物処理施設の設置者について、第9条の5の規

定は産業廃棄物処理施設について準用する。この場合において、第9条の4中「一般廃棄

物処理施設」とあるのは「産業廃棄物処理施設」と、第9条の5中「第8条第1項」とあ

るのは「第15条第1項」と読み替えるものとする。

※ 現在の現在の廃棄物処理法の関係規定については、【参考資料 1】(P35)参照

※ 廃棄物の区分、産業廃棄物の排出量等に関しては、【参考資料 2】(P37)参照

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(2)水道法の規定

本事例で取り上げる条例に関係する水道法の規定を見てみよう。

【水道法(昭和32年法律第177号)】

(この法律の目的)

第1条 この法律は、水道の布設及び管理を適正かつ合理的ならしめるとともに、水道を計

画的に整備し、及び水道事業を保護育成することによつて、清浄にして豊富低廉な水の供

給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする。

(責務)

第2条 国及び地方公共団体は、水道が国民の日営生活に直結し、その健康を守るために欠

くことのできないものであり、かつ、水が貴重な資源であることにかんがみ、水源及び水

道施設並びにこれらの周辺の清潔保持並びに水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施策

を講じなければならない。

2 国民は、前項の国及び地方公共団体の施策に協力するとともに、自らも、水源及び水道

施設並びにこれらの周辺の清潔保持並びに水の適正かつ合理的な使用に努めなければなら

ない。

第2条の2 地方公共団体は、当該地域の自然的社会的諸条件に応じて、水道の計画的整備

に関する施策を策定し、及びこれを実施するとともに、水道事業及び水道用水供給事業を

経営するに当たつては、その適正かつ能率的な運営に努めなければならない。

2 国は、水源の開発その他の水道の整備に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及び

これを推進するとともに、地方公共団体並びに水道事業者及び水道用水供給事業者に対

し、必要な技術的及び財政的援助を行うよう努めなければならない。

(用語の定義)

第3条 この法律において「水道」とは、導管及びその他の工作物により、水を人の飲用に

適する水として供給する施設の総体をいう。ただし、臨時に施設されたものを除く。

2~7 略

8 この法律において「水道施設」とは、水道のための取水施設、貯水施設、導水施設、浄

水施設、送水施設及び配水施設(専用水道にあつては、給水の施設を含むものとし、建築

物に設けられたものを除く。以下同じ。)であつて、当該水道事業者、水道用水供給事業

者又は専用水道の設置者の管理に属するものをいう。

9~12 略

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3 水道水源保護条例と訴訟提起

(1)紀伊長島町水道水源保護条例

旧紀伊長島町の水道水源保護条例は、平成6年3月18日に成立し、同月25日に

公布、即日施行された。同条例を見てみよう。

【紀伊長島町水道水源保護条例(平成6年町条例第6号)】

(目的)

第1条 この条例は、水道法(昭和32年法律第177号。以下「法」という。)第2条

第1項の規定に基づき、紀伊長島町の住民が安心して飲める水を確保するため本町の水

道水質の汚濁を防止、その水源を保護し、住民の生命、健康を守ることを目的とする。

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ当該各号に定める

ところによる。

(1) 水源 法第3条第8項に規定する取水施設及び貯水施設に係わる地域で、水道の

原水の取り入れに係わる区域をいう。

(2) 水源保護地域 本町の水道に係わる水源及びその上流地域で、紀伊長島町長(以

下「町長」という。)が指定する区域をいう。

(3) 水源の枯渇 取水施設の推移を著しく低下させることをいう。

(4) 対象事業 別表に掲げる事業をいう。

(5) 規制対象事業場 対象事業を行う工場、その他の事業場のうち、水道に係わる水

質を汚濁させ、若しくは水源の枯渇をもたらし、又はそれらのおそれのある工場、

その他の事業場で、第13条第3項の規定により規制対象事業場と認定されたもの

をいう。

(適用の区域)

第3条 この条例は、紀伊長島町全域について適用する。

(責務)

第4条 この条例の目的を達成するため、本町は水源の保護に係わる施策を実施し、次の

各号に掲げる該当者は、それぞれに定められた責務を負う。

(1) 町長の責務 町長は水源の水質検査を定期的に実施し、水質の保全に努めなけれ

ばならない。

(2) 住民の責務 住民は、本町が実施する水源の保護に係わる施策に協力しなければ

ならない。

(審議会の設置)

第5条 水源の保護を図り、水道事業を円滑に実施するため、地方自治法第138条の4

第3項の規定に基づき、紀伊長島町水道水源保護審議会(以下「審議会」という。)を

設置する。

2 審議会は、本町の水道に係る水源の保護に関する重要な事項について、調査、審議す

る。

(組織)

第6条 審議会は、委員10人以内をもって組織する。

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2 委員は、次の各号に掲げる者のうちから町長が委嘱し、又は任命する。

(1) 町議会の議員

(2) 学識経験を有する者

(3) 関係行政機関の職員

(4) その他町長が必要と認めた者

(委員の任期)

第7条 委員の任期は、2年とし再選をさまたげない。ただし、補欠による委員の任期

は、前任者の残任期間とする。

(会長及び副会長)

第8条 審議会に会長及び副会長1名を置き、委員の互選によりこれを定める。

2 会長は、会務を総理し、審議会を代表する。

3 副会長は、会長を補佐し、会長に事故あるとき、又は会長が欠けたときは、その職務

を代理する。

(会議等)

第9条 審議会の会議は、町長の求めに応じ会長が招集し、会長が議長となる。

2 審議会は、委員の半数以上の出席がなければ会議を開くことができない。

3 審議会の議事は、出席した委員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決

するところによる。

4 審議会の庶務は、水道課において処理する。

5 第5条から前条までに定めるもののほか、審議会の運営に関し必要な事項は、会長が

会議に諮って定める。

(委員の報酬及び費用弁償)

第10条 委員の報酬の額は、日額 6,000 円とする。

2 委員の費用弁償の額は、紀伊長島町職員等(特別職・一般職)の旅費に関する条例

(昭和 41 年法律第 100 号)の特別職の額とする。

3 委員の報酬及び費用弁償の支給方法については、委員会の委員等の報酬及び費用弁償

に関する条例(昭和 31 年条例第 52 号)第1項第2項及び第2条第1項に規定する委員

等の例による。

(水源保護地域の指定)

第11条 町長は、水源の水質を保全するため水源保護地域を指定することができる。

2 町長が、水源保護地域を指定しようとするときは、あらかじめ審議会の意見を聴かな

ければならない。

3 町長が、第1項の規定により、水源保護地域の指定をしたときは、その旨を直ちに公

示するものとする。

4 前2項の規定は、水道水源地域を変更し、又は解除しようとする場合についても準用

する。

(規制対象事業場の設置の禁止)

第12条 第11条の規定により、水源保護地域に指定された区域において、何人も規制

対象事業場を設置してはならない。

(事前協議及び措置等)

第13条 水源保護地域内において対象事業を行おうとする者(以下「事業者」とい

う。)は、あらかじめ町長に協議するとともに、関係地域の住民に対し、当該対象事業

の計画及び内容を周知させるため、説明会の開催その他の措置を採らなければならな

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い。

2 町長は、事業者が前項の規定による協議をせず、又は同項の措置を採らず、若しくは

採る見込みがないと認めるときは、当該事業者に対し期限を定めて当該協議をし、又は

当該措置を採るよう勧告するものとする。

3 町長は、第1項の規定により協議の申し出があった場合において、審議会の意見を聴

き、規制対象事業場と認定したときは、事業者に対し、その旨を速やかに通知するもの

とする。

4 前3項の規定は、対象事業場を行う施設の構造若しくは規模、又は事業の範囲を変更

しようとするものについて準用する。

(承継)

第14条 事業者から前条の申し出にかかる対象事業場を譲り受け、又は借り受けた者及

び相続又は合併後存続する法人若しくは、合併により設立した法人は、当該申し出をし

た者の地位を承継する。

(一時停止命令)

第15条 町長は、事業者が第13条第2項の規定による勧告に従わないときは、当該事

業者に対し、期限を定めて対象事業を行う施設の建設及び対象事業の実施の一時停止を

命ずることができる。

(報告及び検査)

第16条 町長は、水源保護地域内において、対象事業を行う者に対し、排水処理施設等

の状況、汚水等の処理状況を必要に応じ報告を求め、又はその職員或いは町長の指定す

る者をして施設に立ち入り、公共用水域に排出される汚水及び廃液の検査をさせること

ができる。

2 前条第1項により立ち入り検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係

人に提示しなければならない。

(改善命令)

第17条 町長は、水源保護地域内の対象事業場の排出口において、排水基準に適合しな

い排出水を排出しているときは、その者に対し期限を定めて施設の構造、使用方法、汚

水等の処理方法の改善を命じ、その施設の使用若しくは排出水の一時停止を命じること

ができる。

(指導)

第18条 町長は、水源保護地域内において、対象事業又は特定事業以外の工場、その他

施設が排出する排水についても、公共用水域に汚水、廃液を排出する者に対し、必要な

指導、助言、改善勧告をすることができる。

(委任)

第19条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、町長が定

める。

(罰則)

第20条 次の各号の一に該当する者は、1年以下の懲役、又は10万円以下の罰金に処

する。

(1) 第12条の規定に違反した者

(2) 第15条の規定による命令に違反した者

第21条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、その他の従業者がその法人又は人

の業務に関し、前条の違反行為をした場合においては、その行為者を罰するほかその法

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人又は人に対して同条の罰金刑を科する。

附 則

この条例は、公布の日から施行する。

別表(第2条関係)

事業の名称

1 産業廃棄物処理業

2 その他の水質を汚濁させ、若しくは水源の枯渇をもたらす恐れのある事業

(別に規則で定める。)

同条例の施行規則を見てみよう。

【紀伊長島町水道水源保護条例施行規則(平成6年町規則第10号)】

(趣旨)

第1条 この規則は、紀伊長島町水道水源保護条例(平成6年条例第6号。以下「条例」

という。)の規定に基づき、条例の施行について必要な事項を定める。

(条例第2条第4号別表の第2の規則で定める事業等の名称)

第2条 条例第2条第4号別表の第2の規則で定める事業等の名称は別表のとおりとす

る。

(事前協議)

第3条 条例第13条の規定による協議は、対象事業協議書(様式第1号)に次に掲げる

図書を添付して行わなければならない。

(1) 対象事業計画書

(2) 対象事業を実施する区域を示す図面及びその付近見取図

(3) 対象事業を行う工場、その他事業場計画平面図

(4) 対象事業を行おうとする者(以下「事業者」という。)が法人である場合は、そ

の法人の定款及び登記簿謄本

(5) その他町長が必要と認めた書類

(事前措置)

第4条 事業者は、条例第13条第1項の規定により説明会の開催、その他の措置を採ろ

うとするときは、あらかじめ対象事業措置実施計画書(様式第2号)を町長に提出しな

ければならない。

2 事業者は、条例第13条第1項の規定により説明会の開催、その他の措置を採ったと

きは、その結果について速やかに対象事業措置実施結果報告書(様式第3号)により町

長に報告しなければならない。

(勧告)

第5条 条例第13条第2項の規定による勧告は、対象事業協議・措置勧告書(様式第4

号)により、行うものとする。

(認定通知)

第6条 条例第13条第3項の規定による通知は、規制対象事業場認定通知書(様式第5

号)により行うものとする。

(一時停止命令)

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第7条 条例第15条の規定による一時停止命令は、対象事業実施一時停止命令書(様式

第6号)により行うものとする。

(排水基準)

第8条 条例第17条の排水基準は、排水基準を定める総理府令(昭和46年6月24日

総令第35号)第1条に規定する別表第1・2を準用する。

(改善命令)

第9条 条例第17条の規定による改善命令は、対象事業施設改善命令書(様式第7号)

により行うものとする。

2 改善命令を受けた者は、改善行為を完了したときは、直ちに対象事業施設改善完了報

告書(様式第8号)を町長に提出しなければならない。

(補則)

第10条 この規定に定めるもののほか、必要な事項は、別に定める。

附 則

この規則は、平成6年7月18日から施行する。

別表(第2条関係)

1 畜産農業またはサービス業の用に供する施設であって、次に掲げるもの

イ 豚房施設(豚房の総面積が 50 平方メートル未満の事業場に係るものを除く。)

ロ 牛房施設(牛房の総面積が 200 平方メートル未満の事業場に係るものを除く。)

2 水産食料品製造業の用に供する施設

3 パルプ、紙又は紙加工品の製造業の用に供する施設

4 生コンクリート製造業の用に供するパッチャープラント

5 砂利採取業の用に供する水洗式分別施設

6 ゴルフ場

7 廃油処理業の用に供する施設(海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律第3条第 1

1 号に規定するものをいう。)

8 自動車分解整備事業(道路運送車両法第 77 条に規定するものをいう。以下同じ。)

の用に供する洗車施設(屋内作業場の総面積が 800 平方メートル未満の事業場に係る

もの及び次号に掲げるものを除く。)

9 自動式車両洗浄業の用に供する施設

10 一般廃棄物処理施設(廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和 45 年法律第 137

号)第8条第1項に規定するものをいう。)である焼却施設

11 し尿処理施設(建築基準法施行令第 32 条第1項の表に規定する算定方法により算定

した処理対象人員が 500 人以下のし尿浄化槽を除く。)

12 下水道終末処理施設

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(2)事実関係の経過

旧紀伊長島町は、水道水源保護条例の適用をめぐり、産業廃棄物中間処理施設の建

設を計画した事業者(原告、控訴人、上告人)と争いになった(被告、被控訴人、被上

告人は、紀伊長島町長)。後述する最高裁判所判決で触れられている事実関係の経過を

見てみよう。

2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 略

(2) 上告人(編注:事業者)は,産業廃棄物の収集,運搬,再生,再生物販売及び処分業

その他の事業を目的として平成5年9月28日に設立された有限会社であるところ,町の

区域内に本件施設(編注:訴訟の対象となっている産業廃棄物中間処理施設)を設置して

産業廃棄物処理業を行うことを計画した。本件施設の建設予定地は,三戸川にほぼ隣接し

ており,赤羽簡易水道の取水施設(以下「赤羽水源」という。)の上流に位置している。

(3) 上告人が平成5年11月5日に本件施設に係る産業廃棄物中間処理事業計画書を三重

県尾鷲保健所長に提出したことから,同月29日,現地調査が実施され,同県及び町関係

各機関との間で事前協議会が開催された。

(4) 上告人の前記計画を知った町は,本件条例(編注:紀伊長島町水道水源保護条例)を

制定することとし,平成6年3月18日開催の町議会において本件条例が可決され,成立

した。本件条例は同月25日に公布され,即日施行された。そして,被上告人(編注:町

長)は,同年8月15日,本件条例11条1項に基づき,本件施設の建設予定地を含む町

の区域の相当部分を紀伊長島町水道水源保護地域と指定し,同日,同条3項に基づき,そ

の旨を公示した。

(5) 上告人は,平成6年12月22日,被上告人に対し,所定の添付書類を添えて対象事

業協議書を提出した。被上告人は,同7年1月4日,本件条例13条3項に基づいて,審

議会に,上告人から提出された上記対象事業協議書に関して意見を求めた。審議会は,上

記対象事業協議書に添付された対象事業計画書に対象事業の実施に伴う使用水量の総量及

びその供給源等についての言及がなかったため,上告人に対してこの点について問い合わ

せをした。これに対し,上告人が,同年5月9日,地下水の取水等により日量95㎥の水

を消費することとなる旨の回答をしたところ,審議会は,同月16日,被上告人に対し,

本件施設は規制対象事業場と認定することが望ましいという旨の答申をした。被上告人

は,同月31日,本件施設は本件条例2条4号所定の対象事業を行うもののうち同条5号

所定の水道水源の枯渇をもたらし,又はそのおそれのある工場,その他の事業場に当たる

として,本件処分(編注:本件施設を町水道水源保護条例第2条第5号の「規制対象事業

場」と認定した処分)をし,同日付けの規制対象事業場認定通知書によって上告人にその

旨を通知した。

(6) 他方,上告人が,平成6年12月27日,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成

9年法律第85号による改正前のもの)15条1項に基づき,三重県知事に対し,本件施

設に係る産業廃棄物処理施設設置許可申請をしたところ,同知事は,上告人に対し,同7

年5月10日,これを許可した。しかし,前記のとおり,本件条例は水道法2条1項の規

定に基づくものであり,本件処分は,本件施設を本件条例2条5号所定の水道水源の枯渇

をもたらし,又はそのおそれのある工場,その他の事業場に当たるとしてされたものであ

って,廃棄物の処理及び清掃に関する法律とは異なる観点からの規制をするものであると

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ころから,上告人は,前記許可を受けても,本件施設の設置をすることはできないままで

いる。

上記の事実経過を受けて、事業者は、建設予定の産業廃棄物中間処理施設を、紀伊長

島町長が、町水道水源保護条例第2条第5号の規制対象事業場と認定した処分の取消を

求めて提訴した。

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4 規制対象事業場認定処分取消請求事件に係る判決

(1)津地方裁判所判決(平成9年9月25日判決)

第一審は、建設予定の産業廃棄物中間施設における取水量(日量95立方メート

ル)が、紀伊長島町水道水源保護条例第2条第5号所定の「水源の枯渇をもたらし、又

はそれらのおそれ」に該当するかどうかが争われた。判決は、地下水の取水が水資源に

与える影響について、技術的な観点から詳細に検討した上で、水源の水位を著しく低下

させるおそれがあると判断し、原告の請求を棄却した。判決の概要を見てみよう。

(同判決文より作成)

1 産業廃棄物中間処理施設(以下「本件施設」という。)の計画地(以下「本件施設計画

地」という。)には取水できるほどの湧水がなく、かつ、計画地内の調整池の容量は本件

取水量のほぼ四日分に過ぎず、恒常的な供給資源とすることはできない。

2 赤羽簡易水道の取水施設(以下「赤羽水源」という。)における地下水は、三戸川の河

川水によって直接的な涵養を受けており、赤羽水源における地下水位、三戸川の河川水位

と極めて密接な関連を有する。

3 紀伊長島町水道水源保護条例の制定趣旨からすれば、地下水資源の環境影響評価の方法

としては、水収支法が最も適切な方法である。そして、水収支法に基づいて算出された本

件施設計画地における地下水涵養量は、本件施設に必要とされる日量95㎥を下回る。

4 このため、本件施設計画地において地下水涵養量を上回る地下水の取水がなされている

ときは、本件施設計画地近傍において、地下水によって涵養されている三戸川の河川流量

を減少させ、三戸川の河川水によって直接的な涵養を受けている赤羽水源の水位を低下さ

せるおそれがある。

5 また、日量95㎥の取水は、恒常的に、本件施設計画地の地下水涵養量を上回るほか、

特に降水量の年最少月の前後には、大幅に上回ることからする。

6 これらのことから、本件施設における日量95㎥の地下水の取水は、赤羽水源の水位を

著しく低下させるおそれがあるものと認めることができる。

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(2)名古屋高等裁判所判決(平成12年2月29日判決)

津地方裁判所の判決を受け、原告(事業者)は名古屋高等裁判所に控訴した。控訴

審において、控訴人(事業者)は、紀伊長島町水道水源保護条例(以下「本件条例」と

いう。)第2号第5号の「水源の枯渇をもたらし、又はそのおそれ」に該当しない旨の

主張のほか、以下の3つの理由により、本件条例が無効である旨の新たな主張を展開し

た。

① 水源の枯渇に関しては業種により差別的取扱いをする合理的な理由がないのに、

同条例は、産業廃棄物処理業者を標的にしていわれなき差別を定めたものであるか

ら、憲法が保障する法の下の平等に反する。

② 三重県知事が廃棄物処理法に基づき適法として認めた本件施設の設置を、被控

訴人(町長)が合理的根拠もなく禁止することを許した本件条例は、同法に反する

ものである。

③ 水源の枯渇、すなわち、「取水施設の水位を著しく低下させる」という基準が

具体的にどの程度の低下を指すのかについては、本件条例にも同施行規則にも明確

な規定がないから、本件条例は、必要最小限度の明確性を欠いており、産業廃棄物

処理法が詳細に具体的基準を定めて施設の設置を知事の許可にかからしめている法

の趣旨を逸脱するもので、同法に違反する。

名古屋高等裁判所は、原審の判決にさらに詳細な判断を加えて、本件施設が本件条

例第2条第5号に該当することを示した上で、本件条例が無効とはいえないとし、本件

控訴を棄却した。判決文のうち、条例無効の主張についての部分を見てみよう。

第三 当裁判所の判断

三 本件条例無効の主張について

1 先ず、被控訴人(編注:町長)は、控訴人(編注:事業者)が、原審において、裁判所

の釈明に応じ、赤羽水源の枯渇の恐れの有無のみを争点とし、この点に絞って主張、立証

がなされたにもかかわらず、当審に至って、本件条例の無効を主張するのは、禁反言の法

理、訴訟上の信義則に違反し、又、時期に遅れた攻撃防禦方法として許されない旨主張す

る。しかしながら、本件条例の効力は、本件処分(編注:町長が、本件産業廃棄物中間処

理施設を条例第2条第5号の「規制対象事業場」と認定した処分)が違法か否かの前提と

なる根本事項であるから、控訴人が訴訟の経過に鑑み右主張をしたことをもって、禁反言

の法理に違反するとか、訴訟上の信義則に反するものということはできない。又、本件証

拠調の内容に照らすと、格別の審理を要するものとは認められず、訴訟の完結を遅延させ

るものとはいえないから、この点の被控訴人の主張は採用しない。

2 そこで、本件条例の効力について検討するに、控訴人は、本件条例は、既に廃棄物処理

法15条1項によって許可を得ている控訴人を規制対象事業場に認定するもので、いわれ

なき差別であり、法の下の平等に反するばかりではなく、条文の体裁からも明確を欠くも

のであるから無効の条例であると主張する。

法の下の平等は、実質的に平等をいうものであるから、本件条例2条4号別表、同条例

施行規則2条別表によれば、対象事業は産業廃棄物処理業の他12種に及ぶものであっ

て、その業種をみればいずれも水質を汚濁させ、或いは水源を枯渇ないしは枯渇をもたら

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すおそれのある事業とされることは十分うなずけるものであり、しかも掲記事業は本件条

例13条所定の手続を経てはじめて規制対象事業場を認定されるものであるから、これを

もって規制を受ける事業に対し、法の下の平等に反するとの主張は肯認することができな

い。この点の控訴人の主張は理由がない。又、水道水の水質の汚濁、水源の枯渇というも

のは数値をもって一義的に定めることは困難であるところ、右認定をするための審議会の

設置、人的組織の構成、事業者に要求される措置、町長の責務等条例の規定をみれば、そ

の解釈適用が濫用ないしは拡張解釈されるおそれはない。条文の明確を欠くとの控訴人の

主張も理由がない。更に、前記廃棄物処理法は、廃棄物の排出を抑制し、産業廃棄物の適

正な処理によって、生活環境の改善を図ることを目的とするのに対し、水道法第2条の2

によって、地方公共団体に施策を講ずることが認められた結果、紀伊長島町が住民の生命

と健康を守るため、安全な水道水を確保する目的で同町が制定した本件条例とではその目

的、趣旨が異なるものであるから、本件条例が前記廃棄物処理法に反して無効ということ

はできない。

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5 最高裁判所判決及び差戻審

(1)最高裁判所第二小法廷判決(平成16年12月24日判決)

名古屋高等裁判所の判決を受け、控訴人(事業者)は最高裁判所に上告した。上告

理由は控訴理由とほぼ同一である。

最高裁判所は、以下のように判示し、原判決(名古屋高等裁判所判決)を破棄し、

同裁判所に差し戻した。最高裁判所の判決を見てみよう。

3 原審は,本件施設の計画地において地下水の取水がされるときは,赤羽水源の水位を著

しく低下させるおそれがあるなどとして,本件処分は適法であると判断し,上告人の請求

を棄却すべきものとした。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりで

ある。

本件条例は,水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者にあらかじめ町長

との協議を求めるとともに,当該協議の申出がされた場合には,町長は,規制対象事業場

と認定する前に審議会の意見を聴くなどして,慎重に判断することとしているところ,規

制対象事業場認定処分が事業者の権利に対して重大な制限を課すものであることを考慮す

ると,上記協議は,本件条例の中で重要な地位を占める手続であるということができる。

そして,前記事実関係等によれば,本件条例は,上告人が三重県知事に対してした産業廃

棄物処理施設設置許可の申請に係る事前協議に被上告人が関係機関として加わったことを

契機として,上告人が町の区域内に本件施設を設置しようとしていることを知った町が制

定したものであり,被上告人は,上告人が本件条例制定の前に既に産業廃棄物処理施設設

置許可の申請に係る手続を進めていたことを了知しており,また,同手続を通じて本件施

設の設置の必要性と水源の保護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を

執るべきかを検討する機会を与えられていたということができる。そうすると,被上告人

としては,上告人に対して本件処分をするに当たっては,本件条例の定める上記手続にお

いて,上記のような上告人の立場を踏まえて,上告人と十分な協議を尽くし,上告人に対

して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なもの

に改めるよう適切な指導をし,上告人の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義

務があったものというべきであって,本件処分がそのような義務に違反してされたもので

ある場合には,本件処分は違法となるといわざるを得ない。

ところが,原審は,上記の観点からの審理,判断を経ることなく,本件処分の違法性を

否定したものであって,原審の判断には,審理不尽の結果,判決に影響を及ぼすことが明

らかな法令の違反があるというべきである。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があ

る。

5 以上によれば,憲法違反その他の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免

れず,上記の観点から審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

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(2)差戻後名古屋高等裁判所判決(平成 18 年 2 月 24 日判決)

名古屋高等裁判所での差戻審では、①最高裁判所が示した「配慮すべき義務」(以下

「本件配慮義務」という。)の存否、その内容及び主体等、②本件配慮義務違反の存否

が争われた。

同裁判所は、次のように判示し、本件規制対象事業場認定処分の違法性を認め、控訴

人の請求を認容した。判決の内容を見てみよう。

第3当裁判所の判断

1 本件配慮義務の存否,その内容及び主体等(争点ア)について

(1) 上告審判決の配慮義務に関する判示は次のとおりである。

本件条例は,水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者にあらかじめ町長

との協議を求めるとともに,当該協議の申出がされた場合には,町長は,規制対象事業場

と認定する前に審議会の意見を聴くなどして,慎重に判断することとしているところ,規

制対象事業場認定処分が事業者の権利に対して重大な制限を課すものであることを考慮す

ると,上記協議は,本件条例の中で重要な地位を占める手続であるということができる。

そして,前記事実関係等(原審の確定した事実関係等)によれば,本件条例は,上告人

(控訴人)が三重県知事に対してした産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る事前協議

に被上告人(被控訴人)が関係機関として加わったことを契機として,上告人が町の区域

内に本件施設を設置しようとしていることを知った町が制定したものであり,被上告人

は,上告人が本件条例制定の前に既に産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る手続を進

めていたことを了知しており,また,同手続を通じて本件施設の設置の必要性と水源の保

護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を執るべきかを検討する機会を

与えられていたということができる。そうすると,被上告人としては,上告人に対して本

件処分をするに当たっては,本件条例の定める上記手続において,上記のような上告人の

立場を踏まえて,上告人と十分な協議を尽くし,上告人に対して地下水使用量の限定を促

すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導を

し,上告人の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があったものというべき

であって,本件処分がそのような義務に違反してされたものである場合には,本件処分は

違法となるといわざるを得ない。

(2) 本件配慮義務の存否について

上記(1)のとおり,上告審判決は,被控訴人が控訴人に対し本件配慮義務を負うことを

認め,これに違反した場合には本件処分は違法となるとして,この点について審理するこ

となく本件処分の違法性を否定した原審の判断を違法として破棄したものであり,当裁判

所は,上告審判決が前提とする事実関係の下で被控訴人が本件配慮義務を負うとの判断に

拘束されることになるところ,被控訴人は,上告審判決が前提とする事実関係に誤りがあ

るとして,本件配慮義務が存しないと主張するので,以下検討する。

ア 被控訴人は,控訴人が地下水位の低下に結びつくことのない湧水・雨水を使用すると

いうのであるから,水量限定を求める理由はなく,また,控訴人により取水地点と取水

方法などが明確にされない以上,地下水の取水の限定を促すことは技術的に困難である

上,そのような促しをする必要もないなどとして,使用量の限定を促すなどの配慮をす

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る義務はなかったと主張する(証拠略)。

(ア) 水量限定を求める理由はないとの点について

まず,控訴人が提出した取水計画は本件敷地において湧水・雨水による取水で事業計画

に必要な水を確保するというものであるが,被控訴人が主張するとおり,湧水は地下水が

動水勾配に従って地表面に自然流出するものであるから,これを利用する限り水源が枯渇

するおそれはない(証拠略)。

しかし,被控訴人は,控訴人が井戸を掘削して取水するなどして水源に影響を与える方

法で取水するという前提で水源枯渇のおそれがあると判断したはずであり,そのような前

提のもとで判断する以上は,取水量の限定が必要であるかどうか指導する理由はないとは

いえない。なお,控訴人が湧水を採取できる根拠として審議会に提出した乙88の資料1

によれば,控訴人は地表面から数m掘削して採取した水,すなわち湧水とはいえない水を

湧水と称しているところ,控訴人がこのようにして採取した水を使用する意図であること

は明らかであり,そのことは審議会においても認識していた(証拠略)。

(イ) 地下水の取水の限定を促すことは技術的に困難であるとの点について

まず,地下水使用量の限定を促す前提となる取水可能量にかかわる本件敷地の地下水涵

養量は,敷地の位置・範囲により算出が可能であり,その地域における年間の降水量を平

均値として算出するか,渇水年を基準とするかによって,数値が異なってくるものの,取

水方法,取水位置,その他事業計画の具体的内容とは関係がなく判断することが可能であ

る(証拠略)。

他方,井戸の位置を川から遠くし,また,井戸の本数を多くすることにより, 水源に

与える影響は小さくなり,また,河川に流入している不圧地下水の層よりも深い層の地下

水を取水するのであれば,原則として水源に影響を与えないことになるから,具体的に何

立方メートルの取水であれば水源の枯渇のおそれがないかは,具体的な取水計画が明らか

にならなければ判断することができない(証拠略)。

そうすると,水源の枯渇のおそれについてより正確に判断するためには,具体的な取水

計画に基づいて算出される数値が判明していることが望ましいことはもちろんであるが,

これが算出できない場合にも,一応想定可能な取水方法を考慮するなどし,本件敷地の地

下水涵養量を基準とすることにより枯渇のおそれについて判断することは可能であると解

される。このことは,原審から差戻前控訴審までにおける被控訴人の主張立証の経過(証

拠略)及び当審証人Kの証言(証拠略)からも,明らかである。

このように地下水涵養量を基準とすれば可能取水量を検討し算出することは可能である

から具体的な取水計画が明らかでないことを理由に,地下水の使用量の限定を促すことが

技術的に困難であるとはいえず,被控訴人の上記主張は採用できない。

(ウ) 地下水の取水量の限定を促す必要はないとの点について

事業者の側から規制基準に適合する取水計画を提示すべきであり,被控訴人はこれを審

査すれば足りるとの被控訴人の主張の背景には,本件条例の定める認定処分は不利益処分

(行政手続法2条4号)というよりも,不許可処分(行政手続法2条4号ロ)に類似する

との見解(証拠略)が存するものと解されるが,本件条例の適用一般については格別,本

件においては,当初は制限のない状態で開業準備を進行させていた控訴人に対し,後に本

件条例を制定してこれを適用するのであるから,実質的には不利益処分に該当し,これと

同様に解することが相当であり,この点からいっても被控訴人の上記主張は採用できな

い。

イ また,被控訴人は,事前に事業計画を十分に検討する機会がなかったとして,るる主

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張する(証拠略)が,前提事実によればこれはあったというべきであり,被控訴人にお

いて検討に必要な情報が得られなかったとの被控訴人の主張は(証拠略)採用できな

い。

ウ さらに,被控訴人は本件における事前協議手続は制度上明確に存在しないもので,行

政指導の一環として行われるにすぎないなどと主張する(証拠略)が,本件では,行政

庁である被控訴人に対して,事前協議手続の中で控訴人の正当な利益を害することがな

いよう,いわば控訴人の利益を保護する義務を負わせているのであって,行政目的を達

成するため,行政庁から相手方に自制や負担を求めるという通常の行政指導とは局面が

異なるから,この点も採用することができない。

(3) 本件配慮義務の内容について

本件配慮義務の内容については,その存在自体が本件の事案の下に導かれたものであ

り,その内容も具体的な事案を離れて一般的に定めることはできないと解されるので,

以下,本件事案に即して検討する。

ア 前記(1)の事情,すなわち本件配慮義務の存在を根拠づける事情のほか,前提事実の

とおり平成6年12月の時点で控訴人と三重県との事前協議が終了して,本件施設に係

る産業廃棄物処理施設設置許可申請が受理されたこと,前記(2)ア(ア)のとおり,控訴

人が申告した取水方法である湧水・雨水からの取水であれば赤羽水源が枯渇するおそれ

はないことなど,本件の事案に鑑みると,事業者である控訴人としては,本件事業計画

はその取水計画を含め特段の問題がないとの見解を有しているものであり,そのことは

被控訴人においても推察すべきであるから,被控訴人において,取水方法は地下水をく

み上げて取水するほかはなく,その観点から本件事業により赤羽水源が枯渇するおそれ

があると判断をするのであれば,その前に,地下水使用量の限定を促すなど,事業者に

おいてその点が問題とされると理解できる程度の協議や指導をする必要があり,それが

ないままに本件処分が行われたとすれば,いわゆる不意打ちとなり,控訴人の立場を不

当に害するものというべきである。もっとも,被控訴人において,事業者である控訴人

の立場に立って,その問題点にどのように対処すべきであるかまで指導することは,実

際上は困難であるから,そのような指導をする義務まであるとは解されない。しかしな

がら,被控訴人としても,当該問題点について,控訴人が対処できず,あるいは対処し

ないことが一見して明白であれば格別,そうではない限り,仮に,控訴人に対処を求め

ることが困難な問題ではないかと思われたとしても,問題点を指摘して,控訴人に補正

する機会を与えるべきであり,このような機会を奪うことは相当でない。

イ これに関し,控訴人は,本件条例の枯渇のおそれに関する規制基準が漠然不明確であ

ることから,本件のような場合に限らず,一般に,被控訴人において,あらかじめ具体

的な取水可能量を明らかにすべきであると主張する。

しかし,控訴人の上記主張の前提としては同規制基準が事業者から事前に事業計画を

示すまでもなく算出することができる敷地の地下水涵養量であることを前提としてお

り,これについては,事業者が専門家に依頼することにより把握することができること

が窺えるから,規制基準が漠然不明確であるということはできない。また,本件条例の

枯渇のおそれを的確に判断するには,事業地の位置・面積範囲のほか,被控訴人が指摘

するとおり取水方法や取水位置等が影響すること,事業者から何も具体的な計画を示す

ことなく町が取水可能量を算出しなければならないとすれば,町に過大な負担となるこ

ともありうることも考え併せると,事業者の側で取水可能量について一応の調査を行う

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ことが相当な場合もありうるから,控訴人の上記主張は採用できない。

なお,控訴人は,本件条例が罰則を設けていることから,規制基準が明確でなければ

ならないとも指摘するが,規制基準に関わる本件条例の罰則は,事業者が規制対象事業

場と認定された施設を設置しようとした場合に適用されるから,処罰の有無に関する基

準が不明確であるということはできない。

(4) 本件配慮義務の主体等について

事前協議の主体も対象事業場の認定権者も被控訴人であるから(本件条例13条1項,3

項),本件配慮義務の主体は被控訴人であるというべきである。

(略)

2 本件配慮義務違反の存否(争点イ)

(2) 判断

ア 控訴人においてd水源の枯渇のおそれの有無ひいては地下水使用量の限定が問題とさ

れると理解できるような協議や指導がなされたかどうかについて判断する。なお,被控

訴人自身は直接このような協議等を行っていないが,実際に,審議会の中で実質的な調

整や指導が行われ,重ねて被控訴人から指導をする必要がないと認められる場合には,

改めて被控訴人が同様の指導等をしなければならないものではないと解する余地もある

から,以下,審議会での協議等の内容を検討する。

控訴人が上記のような理解を得るためには,被控訴人において地下水使用量の限定が

必要であると指摘しないまでも,枯渇のおそれに関して具体的な釈明をするなど,この

点を問題視していることについて控訴人が認識できる態様の指導等が必要である。しか

し,本件においてこのような指導等が行なわれたとは認められない。すなわち,(略)

の認定事実によると,審議会は,控訴人が提出した本件敷地において日量95立方メー

トルの湧水・雨水を取水するとの方法につきそれが恒常的に得られることに疑問を提起

し, 付け資料を追加して提出するよう求めたものの,控訴人がこれを提出しなかった

ことから,直ちに,控訴人が湧水・雨水により事業に必要な水を確保することは不可能

であり,実際には井戸を掘削するなどの方法で取水するであろうと判断し,そうなれば

赤羽水源への影響は避けられず,このような問題のある計画を認めることはできないと

結論づけたものにほかならない。この間,審議会は,控訴人の取水方法を問題としただ

けで,取水量について直接の指摘はしていない。また,控訴人が提出した湧水・雨水に

よる取水方法は赤羽水源に影響を与えないものであるところ,審議会はこれについて疑

問を提起し追加資料を求めただけであるから,控訴人において,これに応じなければ,

直ちに,この方法による取水が不可能であると判断され,かつ,必要な水の全量を水源

に影響を及ぼす方法で取水するという前提で枯渇のおそれの有無を結論づけられると予

想することは困難である。

したがって,控訴人に対して,地下水使用量の限定が問題視されていることを認識で

きるような態様の指導等がなされたものとはいえない。

イ もっとも,本件では,控訴人が予定していた湧水・雨水による取水計画が実現の困難

なものであるという事情があり(証拠略),また,判断基準を地下水涵養量とするとし

ても,年間降水量の決定につき平均値を採用するか渇水年を考慮するかという問題もあ

ることから,指導の手順としては,控訴人が予定していた取水計画の可能性についてま

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ず行うことが不合理とはいえない。そして,その間に,本件事業計画がどのような補正

をしても実現不可能なものであることが一見して明白となった場合や,控訴人が必要な

指導に従わない態度を明確にするなど,控訴人の側に起因する事情で適切な指導が著し

く困難となった場合には,それ以上の地下水使用量の限定を促すなどの配慮は不要とい

うべきである。従って,このような場合にまで地下水使用量の限定を促さないことをも

って,本件配慮義務に違反するものとはいえない(なお,上告審判決が地下水使用量の

限定を促すことを指導内容に上げている趣旨も,例示であって,直ちに,あるいは,い

かなる場合でも,これを行う義務があるというものではないと解される。)。

(ア)そこで,控訴人において適法に必要な水を確保する方法がないなど,本件事業計画に

実現可能性がないことが一見して明白であったかどうかについて検討する。

まず,水の確保について,井戸水を取水するなど河川法ないし水利権の問題を生じる

方法も,水利権者や県の同意を取りつけたり,また,河川から離れた位置で深井戸を掘

って取水することにより三戸川への影響を回避したりすることが考えられる。これら

は,控訴人において一旦は断念したなど実現が容易でないことは窺えるが,実現の可能

性がないと断定はできない。また,仮にこれらが不可能であるとしても,地下水使用量

を大幅に削減することが考えられる。よって,必要な水を確保する方法がないことが一

見して明らかであるとまではいえない。

その他,被控訴人は,既に三重県の指導要綱に基づく事前協議手続が進んでいたの

で,控訴人において従前の事業計画を大幅に変更することは不能と考えられたと指摘す

るが,廃掃法による施設設置許可申請手続を最初からやり直させるか,軽微変更である

として従前の手続内での変更で足りるとするかは,三重県が判断することであり,被控

訴人が判断すべき事柄ではない。また,仮に最初からやり直すよう指示された場合に,

それに応じて手続をするか,断念するかは控訴人の判断であり,被控訴人が判断すべき

事柄ではない。そのような点を考慮して指導を差し控えることは,最初から控訴人に事

業を行う機会を与えないことに帰し不当である。また,被控訴人は,本件事業計画に不

備があったなどと,るる指摘するが,それらによっても控訴人の本件事業計画が実現不

可能であるとは断定できない。以上のとおりであり,本件事業計画に実現可能性がない

ことが一見して明白であったということはできない。

(イ)また,控訴人が必要な指導に従わない態度を明確にしていたかどうかについて検討す

る。

a 前提事実及び認定事実によると,本件処分に至るまでの控訴人の取水計画及び被控

訴人及び審議会の働きかけの経過はおおよそ次のようなものである。すなわち,控訴

人は,当初,本件事業に必要な水は井戸を掘削して地下水を取水する予定で,県,

町,地元住民との折衝を続けた。他方,予定取水量(地下水使用量)についてはかな

りの変動があったが,一定時期以降は日量108立方メートルと見込んでいた。その

後,平成6年7月以降に,控訴人は,県から三戸川から50m以内では井戸を掘って

取水しないよう求められ,控訴人はそれでは十分な取水が困難であると判断して,平

成6年10月までに取水方法を湧水・雨水に変更した。そして,予定取水量について

も同時期までに95立方メートルに減量した。

被控訴人は,控訴人の上記計画変更の直前ころから,直接又は三重県を介し,文書

等で再三,本件条例に基づく対象事業協議書を提出するよう求めたが,控訴人は本件

条例の無効を主張してこれに応じず,被控訴人が本件条例に基づく勧告をし,さらに

県がこれに応じるよう指導することによりようやくこれに応じた。

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審議会は,当初,控訴人が取水方法及び予定取水量を変更したことを知らず,井戸

から日量108立方メートルを取水するものと理解していたが,平成7年3月22日

の審議会で初めて上記変更後の計画が明らかになるとともに,控訴人からこれを裏付

ける資料が提出された。しかし,控訴人は,上記アのとおり審議会から追加資料の提

出を求められたのに対し,その他の資料は提出したが,上記取水の可能性に関する追

加資料を提出しないまま,前と同じ取水計画を提出し,関連の資料にも矛盾があっ

た。

審議会は,控訴人の上記対応からこれ以上控訴人に対し新たな働きかけをしても無

駄であろうと判断して,そのまま上記結論を導いた。

b まず,上記控訴人の態度は真摯に協議に応じる意思のないことを窺わせるものであ

り,湧水・雨水から取水する計画も実現が困難であることも併せると,その計画内容

にも重大な疑いをもたれても仕方のないものということができる。また,控訴人がd

水源に影響しない湧水・雨水による取水を主張する以上,直ちに枯渇のおそれに関す

る指導を行いがたく,指導をしても,控訴人から反論を受けて指導が実効性を有しな

いのではないかとの懸念もある。このようなことからすると,控訴人に対する指導の

継続は困難であるとして,その時点で結論を導いた審議会の判断も理解できないでは

ない。

しかし,他方,控訴人は,対象事業協議書を提出した後には,審議会への出頭要求

に応じて技術者を同行し,また,本件事業計画について説明をしており,提出を求め

られた追加資料のうち,排気ガスの処理に関するものは提出したことからすると,控

訴人は了解可能なものについては,一応指示に従っていたとみることもできる。ま

た,湧水・雨水によるとの取水計画については,町は知らないこととはいえ,三重県

の指導で井戸水の取水から改めたもので,県はこれを受け入れており,また,業者に

依頼して作成した資料を提出していたことから,控訴人としては提出済みの資料で十

分ではないかとの思いから,抽象的に疑問を示されて追加資料を求められても容易に

応じがたい状況であったとも考えられる。そうであれば,被控訴人から控訴人に対

し,新たな資料が提出されなかったから,湧水・雨水による取水ではなく,水源に影

響を与える態様で取水するとして判断する旨を告知すれば,湧水・雨水による取水で

あるから,水源枯渇のおそれがないと理解している控訴人において,新たな取水方法

や地下水使用量について何らかの対応をした可能性も否定できない。

そうすると,控訴人に対して適切な指導をする方法が全くないとはいえないし,控

訴人がこれに応じて本件事業計画を補正することが期待できないとは断定しがたい。

ウ なお,被控訴人は,控訴人が取水量変更の意思は全くないということを事実上表明し

たこと,被控訴人が本件施設につき認定しない処分をすることはあり得ないことを前提

として,本件において取水量の変更等を促すことは,行政手続法33条,34条に反す

るとも指摘するが,その前提を採用することができないから,いずれも理由がない。

エ 以上のとおりであって,控訴人の側に起因する事情で適切な指導が困難であるとはい

えても,これが著しく困難であったとまでは認めるに至らないから,被控訴人は,控訴

人において枯渇のおそれの有無が問題とされると理解できるような協議や指導をするべ

き義務を免れることはできず,これをしたと認められない以上,本件配慮義務に違反し

て本件処分を行ったものというべきである。

オ その他,被控訴人がるる主張する点はいずれも,被控訴人には本件配慮義務違反があ

るとの上記判断を左右するものではない。

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3 以上のとおりであるから,控訴人のその余の主張について判断するまでもなく,本件処

分は違法であり,控訴人の本訴請求は理由がある。

上記判決を受け、被控訴人(町長)が上告したが、平成 19 年6月7日、最高裁により

「本件上告を棄却する。本件を上告審として受理しない。上告費用及び申立費用は上告

人兼申立人の負担とする。」旨の決定が下された。

6 紀伊長島町水道水源保護条例と類似の事例について

(徳島県阿南市の事例)

(1)阿南市水道水源保護条例の内容

阿南市水道水源保護条例の内容は、次のとおりである。

【阿南市水道水源保護条例(平成7年市条例第1号)】

(目的)

第1条 この条例は、水道法(昭和 32 年法律第 177 号。以下「法」という。)第 2 条第 1 項

の規定に基づき、市の水道に係る水質の汚濁を防止し、清浄な水を確保するため、その

水源を保護し、もって市民の生命及び健康を守ることを目的とする。

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところに

よる。

(1) 水源 法第 3 条第 8 項に規定する取水施設及び貯水施設に係る周辺の地域で、水道

の原水の取入れに係る区域をいう。

(2) 水源保護地域 市の水道に係る水源及びその上流地域で、水道事業管理者(以下

「管理者」という。)が指定する区域をいう。

(3) 対象事業 別表に掲げる事業をいう。

(4) 規制対象事業場 対象事業を行う工場その他の事業場のうち、水道に係る水質を汚

濁し、又は汚濁するおそれのある工場その他の事業場で、第 7 条第 3 項の規定により

規制対象事業場と認定されたものをいう。

(市の責務)

第3条 市は、水源の保護に係る施策を実施しなければならない。

(管理者の責務)

第4条 管理者は、水源の水質の保全に努めなければならない。

(市民等の責務)

第5条 何人も、市が実施する水源の保護に係る施策に協力しなければならない。

(水源保護地域の指定等)

第6条 管理者は、水源の水質を保全するため、水源保護地域を指定することができる。

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2 管理者は、水源保護地域を指定しようとするときは、あらかじめ阿南市水道水源保護

審議会(第 10 条第 1 項に規定する審議会をいう。第 7 条第 3 項において同じ。)の意見を

聴かなければならない。

3 管理者は、第 1 項の規定により、水源保護地域の指定をしたときは、その旨を直ちに

公示するものとする。

4 前2項の規定は、管理者が水源保護地域を変更し、又は解除しようとする場合につい

て準用する。

(事前の協議及び措置等)

第7条 水源保護地域内において、対象事業を行おうとする者(以下「事業者」という。)

は、あらかじめ管理者に協議するとともに、関係地域の住民に対し、当該対象事業の計

画及び内容を周知させるため、説明会の開催その他の措置をとらなければならない。

2 管理者は、事業者が前項の規定による協議をせず、又は同項の措置をとらず、若しく

はとる見込みがないと認めるときは、当該事業者に対し、期限を定めて当該協議をし、

又は当該措置をとるよう勧告するものとする。

3 管理者は、第 1 項の規定による協議の申出があった場合において、阿南市水道水源保

護審議会の意見を聴き、規制対象事業場と認定したときは、事業者に対し、その旨を速

やかに通知するものとする。

(規制対象事業場の設置の禁止)

第8条 何人も、水源保護地域内において、規制対象事業場を設置してはならない。

(一時停止命令)

第9条 管理者は、事業者が第 7 条第 2 項の規定による勧告に従わないときは、当該事業

者に対し、期限を定めて対象事業の実施の一時停止を命ずることができる。

(審議会の設置)

第 10 条 水源の保護を図り、水道事業を円滑に推進するため、地方自治法第138条の4

第3項の規定に基づき、阿南市水道水源保護審議会(以下「審議会」という。)を設置す

る。

2 審議会は、市の水道に係る水源の保護に関する重要な事項について、調査審議する。

3 審議会は、委員 15 人以内をもって組織する。

(委任)

第 11 条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定め

る。

(罰則)

第 12 条 次の各号の一に該当する者は、6 月以下の懲役又は 15 万円以下の罰金に処する。

(1) 第 8 条の規定に違反した者

(2) 第 9 条の規定による命令に違反した者

(両罰規定)

第 13 条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人

又は人の業務に関し、前条の違反行為をした場合においては、その行為者を罰するほ

か、その法人又は人に対して同条の罰金刑を科する。

附 則

この条例は、公布の日から施行する。

別表(第 2 条関係)

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事業の名称

1 砕石業

2 砂利採取業

3 産業廃棄物処理業

(2)関係する事実の経過

阿南市でも水道水源保護条例の適用をめぐって、同市と産業廃棄物処理施設を設置

しようとする者との間で争いが生じた。後述する高松高等裁判所判決が示した争いのな

い事実をみてみよう。

2 争いのない事実

(1) 被控訴人(編注:事業者)は,産業廃棄物及び一般廃棄物の処理等を業とする株式会

社である。控訴人(編注:阿南市長)は,地方公営企業法8条2項により,本件条例に

定める水道事業管理者の権限を行う者である。

(2) 本件産業廃棄物処理施設(別紙略)は,廃棄物処理法施行令(平成9年12月10日

号外政令第353号による改正前のもの。以下同じ。)7条14号ハに掲げる産業廃棄

物の最終処分場であり,一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技

術上の基準を定める命令(平成10年総理府・厚生省令第2号による改正前のもの。以

下「技術基準命令」という。)2条1項4号において,「管理型最終処分場」と称され

ているものである。

(3) 被控訴人は,平成10年6月15日,徳島県知事に対し,廃棄物処理法15条1項に

基づき本件産業廃棄物処理施設の設置許可申請をしたところ, 平成11年3月31日,

徳島県知事から,廃棄物処理法15条1項所定の許可(本件設置許可処分)を受けた

(証拠略)。

なお,本件設置許可処分は,平成9年法律第85号による改正規定の施行日である平

成10年6月17日より後にされているが,許可申請が同月15日になされているの

で,同法附則5条1項の経過措置により,廃棄物処理法15条1項ないし3項及び同条

2項1号の委任を受けた技術基準命令2条1項に基づいてされている。

(4) 本件条例の内容は,別紙2(略)のとおりである(略)

(5) 控訴人は,平成11年10月6日,本件産業廃棄物処理施設について,立地場所,施

設の構造,水質,維持管理の面から,下流のα簡易水道の水源(略)に好ましくない影

響を与える可能性があり,現時点では,水道に係る水質を汚濁するおそれがあることを

理由として,本件条例2条4号所定の規制対象事業場に認定する旨の処分(本件事業場

認定処分)をした(証拠略)。

そのため,被控訴人は,本件設置許可処分を得ているのに,本件産業廃棄物処理施設

を設置できないでいる。

編注1:高松高等裁判所が認定した事実によると、阿南市は、事業者の廃棄物処理施設

建設計画を知った後に条例を制定した。

編注2:(3)の徳島県知事の許可には、「阿南市条例の規制対象事業場と認定されないこ

とによる」との条件が付されていたが、事業者が厚生大臣に当該条件を取り消す

旨の審査請求を行ったところ、厚生大臣は、平成12年7月31日に当該条件を

取り消す旨の裁決を行った。

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(3)徳島地方裁判所判決(平成14年9月13日判決)

事業者は、市が行った規制対象事業場認定処分を不服とし、その取消を求めて徳島

地方裁判所に提訴した。同裁判所では、

① 水道水源保護条例(以下「本件条例」という。)は、産業廃棄物処理施設の設

置に関する廃棄物処理法の規定(平成9年改正前のもの)に違反しないか、

② 本件産業廃棄物処理施設は、本件条例第2条第4号にいう「水道に係る水質を

汚濁し、又は汚濁するおそれのある」事業場に該当するか、

の2点が争点となった。

徳島地方裁判所判決を見てみよう。

2 争点〔1〕(本件条例と廃棄物処理法との関係)について

(1) 本件条例は、阿南市内の水源保護地域と指定された区域において、規制対象事業場と

認定された産業廃棄物処理施設の設置を罰則付きで禁止しようとするものであり、産業

廃棄物処理施設の設置について規制をした廃棄物処理法との関係が問題となる。

ところで、特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合におい

て、当該条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比する

のみではなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触が

あるかどうかを検討する必要がある。具体的には、〔1〕当該条例が国の法令とは別の

目的に基づく規律を意図するものであるときには、当該条例の適用によって国の法令の

規定の意図する目的と効果を阻害することがないかどうか、〔2〕当該条例が国の法令

と同一の目的に基づく規律を意図するものであるときには、国の法令が必ずしも全国一

律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの地方公共団体において、その地方

の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるかどうかを判

断する必要がある(いわゆる徳島市公安条例事件に関する最高裁昭和50年9月10日

大法廷判決・刑集29巻8号489頁)。

(2) そこで、まず、廃棄物処理法及び本件条例の目的について検討する。

ア 廃棄物処理法は、「廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収

集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活

環境の保全及び公衆衛生の向上を図る」という目的(1条)のもとに、政令で定める

産業廃棄物処理施設の設置について都道府県知事の許可を要するものと規定している

(15条1項)。そして、申請に係る産業廃棄物処理施設が、〔1〕厚生省令(産業

廃棄物の最終処分場については、総理府令、厚生省令)で定める技術上の基準に適合

していること、〔2〕産業廃棄物の最終処分場である場合にあっては、厚生省令で定

めるところにより、災害防止のための計画が定められているものであることを上記許

可の要件として規定している(同条2項)。

なお、申請に係る産業廃棄物処理施設が同法15条2項各号所定の要件を満たす場

合は、都道府県知事は、必ず許可しなければならず、この点について許可を与えるか

否かの裁量権はないものと解するのが相当である。

そして、廃棄物処理法15条2項1号の委任を受けた技術基準省令(平成10年総

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理府厚生省令第2号による改正前のもの。以下同じ。)は、産業廃棄物の最終処分場

に係る技術上の基準について詳細に規定をしている。

このうち、本件で問題となっている管理型最終処分場についてみると、廃棄物処理

法15条2項1号にいう技術上の基準として、廃棄物の流出を防止するための擁壁、

堰堤その他の設備であって、自重、土圧、水圧、波力、地震力等に対して構造耐力上

安全であるなどの要件を備えたものが設けられていること(2条1項4号、1条1項

4号イ)、浸出液による公共の水域及び地下水の汚染を防止するために廃棄物の保有

水及び雨水等の浸出を防止することができる遮水工(2条1項4号、1条1項5号

イ)、保有水等に係る放流水の水質を排水基準を定める総理府令(現在は「排水基準

を定める省令」と改称。以下「排水基準省令」という。)1条に規定する排水基準に

適合させることができる浸出液処理設備(2条1項4号、1条1項5号ハ)などを設

ける措置が講じられていること、などが規定されている。

以上によれば、廃棄物処理法及びその委任を受けた政省令による産業廃棄物処理施

設の設置に対する規制は、処理施設自体に起因する生活環境の悪化の防止という要請

を考慮しつつ、適正な処理施設による産業廃棄物の処理を通じて、生活環境の保全及

び公衆衛生の向上を図ることを目的とし、そのための手段として、国が一定の技術上

の安全基準を設け、その基準に適合するかどうかを都道府県知事が判断し、その結

果、これに適合すると認められた処理施設の設置のみを許すという制度を設けたもの

ということができる。

イ これに対し、本件条例は、「市の水道に係る水質の汚濁を防止し、清浄な水を確保

するため、その水源を保護し、もって市民の生命及び健康を守る」という目的(1

条)のもとに、水道事業管理者(以下「管理者」という。)が指定する水源保護地域

内において、一定の対象事業に係る事業場のうち、管理者が規制対象事業場と認定し

た事業場を設置することを禁止しており(6条ないし8条)、対象事業の中には、産

業廃棄物処理業が含まれている(2条3号、別表)。

本件条例は、規制対象事業場と認定されるための要件として、「水道に係る水質を

汚濁し、又は汚濁するおそれのある工場その他の事業場」であることを規定するのみ

で、どのような観点からの審査によってその該当性が判断されることになるのかは、

必ずしも明らかではない。しかし、上記1(14)(略)に認定した阿南市水道水源

保護審議会の答申内容や被告の主張等に照らすと、少なくとも本件事業場のような産

業廃棄物の管理型最終処分場については、有害物質の流出を防止するための擁壁、堰

堤等の構造上の安全性、遮水工の防水性、排水から有害物質を十分に除去するための

処理設備の有無等の観点から審査が行われるものと想定され、その結果、水道に係る

水質を汚濁し、市民の生命及び健康に害を及ぼすおそれがあると認められるものにつ

いて、規制対象事業場との認定がなされ、水源保護地域における設置が禁止されるこ

とになるものと解される。

ウ ところで、上記アに説示したとおり、廃棄物処理法及びその委任を受けた政省令に

よる産業廃棄物処理施設の設置に対する規制においても、管理型最終処分場の設置に

ついては、同様に、廃棄物その他の有害物質が直接又は浸出液として流出することに

よる生活環境の悪化(この中には、当然、人の生命又は健康に害を及ぼす程度の水質

の汚濁も含まれると解される。)を防止するため、擁壁等の構造上の安全性、遮水工

の防水力や、排水基準省令に定められた排水基準への適合性が設置許可のための基準

とされており、これらの基準を設定する目的が、これに適合しない管理型最終処分場

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を設置させないことにあるのはいうまでもない。

そうすると、本件条例による管理型最終処分場の設置に対する規制は、適正な処理

による産業廃棄物の処理を通じて、生活環境の保全等を図るという目的こそないもの

の、処理施設に起因する人の生命又は健康への被害を伴うおそれのある水質の汚濁を

防止するため、技術上の不備があると認められる施設の設置自体を禁止するという点

においては、廃棄物処理法及びその委任を受けた政省令による規制と目的を同じくす

るものと解するのが相当である。

(3) そこで、廃棄物処理法と本件条例が同一の目的で産業廃棄物処理施設(管理型最終処

分場)の規制をしている部分に着目して、廃棄物処理法が本件条例による別段の規制を

容認するものと解されるかどうかについて検討する。

上記(2)アに説示したとおり、技術基準省令は、管理型最終処分場が備えるべき技

術上の要件として、擁壁等の構造上の安全性、遮水工の防水力等を要求しているが、申

請に係る施設がこれらの要件に該当するかを審査する権限を有するのは、いうまでもな

く廃棄物処理法によって当該施設の設置許可の権限を付与されている都道府県知事であ

る(もっとも、この点は、他の産業廃棄物処理施設についても同様である。)。他方、

上記(2)イに説示したとおり、本件条例も、ある特定の管理型最終処分場を規制対象

事業場と認定するに際し、認定権限を有する管理者に当該処分場の擁壁等の構造上の安

全性、遮水工の防水力等についての審査をさせようとしている。そうすると、本件条例

は、上記の都道府県知事の審査権限と同じ権限を阿南市の機関である管理者(被告)に

対しても付与することになる。このように、都道府県知事と市町村長が同一事項につい

て二重に審査をする制度を設けることは、申請者に過度の負担をかける結果となり相当

ではない上、廃棄物処理法が一般廃棄物処理業の許可については市町村長に委ねつつ、

産業廃棄物処理業の許可並びに一般廃棄物処理施設及び産業廃棄物処理施設の設置等の

許可については都道府県知事の権限として、市町村長と都道府県知事の役割分担を明確

に規定していることにかんがみても、およそ同法が想定しているものとは考えがたい事

態であるといわざるを得ない。

加えて、地域の必要に応じて規制する必要がある場合には、廃棄物処理法15条3項

により、都道府県知事にその条件を付す権限が与えられていることをも考慮すると、本

件条例は、少なくとも産業廃棄物の管理型最終処分場に適用される限りにおいて、同法

の容認するところではなく、同法15条1項ないし3項に違反して無効である。

3 結論

よって、その余の点について判断するまでもなく、本件処分は、法令上の根拠を欠くこ

とに帰着し、違法であるからこれを取り消すこととし、訴訟費用につき、行政事件訴訟法

7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

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(4)高松高等裁判所判決(平成 18 年 1 月 30 日判決)

上記判決を受け、被告(阿南市長)は高松高等裁判所に控訴した。控訴審での争点は

以下の 4 点とされた。

争点1 本件条例は、廃棄物処理法に違反する内容であり、違法、無効であるか。

争点2 本件条例は、その規制内容及び審査基準自体が不明確であり、違法、無効で

あるか。

争点3 本件事業場認定処分に至る手続に瑕疵があり、本件事業場認定処分が違法で

あるか。

争点4 本件産業廃棄物処理施設は、本件条例 2 条 4 号所定の規制対象事業場と認定

すべき実体的要件を具備しておらず、本件事業場認定処分が違法であるか。

高松高等裁判所は、上記最高裁判所判決を引用しつつ、争点3について違法と判断し、

その他の争点について判断することなく控訴人(阿南市長)の控訴を棄却した。判決の

主な内容を見てみよう。

2 争点3(本件事業場認定処分が手続的に違法か)の検討

(4) まとめ

(略)

ア 控訴人の指導配慮義務

(ア)本件条例は,水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者(被控訴人)

にあらかじめ水道事業管理者(控訴人)との協議を求めるとともに,事業者(被控訴

人)から当該協議の申出がされた場合には, 水道事業管理者(控訴人)は,規制対象

事業場と認定する前に審議会の意見を聴くなどして,慎重に判断することとしてい

る。

そして,規制対象事業場認定処分が事業者(被控訴人)の権利に重大な制限を課す

ものであることを考慮すると,上記協議は,本件条例の中で重要な地位を占める手続

であるということができる。

(イ)本件条例は,被控訴人が本件産業廃棄物処理施設とほぼ同一の処理施設の設置計画

をしていることを知った控訴人が,被控訴人が同処理施設を建設することを阻止する

目的のために,狙い撃ち的に制定されたものである。

したがって,控訴人は,被控訴人が本件条例の制定前に既に本件産業廃棄物処理施

設とほぼ同一の施設の設置許可の申請に係る手続を進めていたことを了知しており,

また,同手続を通じて本件産業廃棄物処理施設の設置の必要性と水源保護の必要性と

を調和させるために,控訴人としてどのような措置をとるべきかを検討する機会を与

えられていたといえる。

(ウ)しかも,本件条例は,規制対象事業場の認定のための具体的な審査基準が定められ

ておらず,その規制内容及び審査基準自体が不明確であることに照らすと,本件条例

は,規制対象事業場と認定される過程において,事業者(被控訴人)が適正な手続的

処遇を受ける権利を保障されていない違法なものではないか,あるいは,阿南市行政

手続条例に違反した違法なものでないか,との疑念がないわけではない。

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(エ)その上,本件産業廃棄物処理施設は,徳島県知事から,廃棄物処理法15条2項1

号所定の技術基準命令で定める技術上の基準(この中には水質の汚濁防止に関する基

準も含まれる。)に適合しているとして,廃棄物処理法15条1項所定の許可を受け

ている。

それゆえ,本件産業廃棄物処理施設は,「水道に係る水質を汚濁し又は汚濁するお

それのある」産業廃棄物処理施設ではないと,一応いうことも可能であるとの考え方

もあり得る。

(オ)そうすると,控訴人としては,被控訴人に対して本件事業場認定処分をするに当た

っては,被控訴人の立場を踏まえて,被控訴人と十分な協議を尽くし,被控訴人に対

して,本件産業廃棄物処理施設の構造上の問題点,浸出液処理施設の問題点,遮水工

に関する問題点に対する対策を促すなどして,本件産業廃棄物処理施設の浸出液の処

理,遮水工破損による有害物質の漏出防止,擁壁の安全性を確保し,水源保護の目的

にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし,被控訴人の地位を不当に害するこ

とのないよう配慮すべき義務があったものということができる(最高裁平成16年1

2月24日第二小法廷判決・民集58巻9号2536頁参照)。

イ 控訴人の指導配慮義務違反

ところが,控訴人は,次のとおり控訴人に課せられた前示指導配慮義務を全く履行し

ておらず,本件事業場認定処分に至る手続に瑕疵があり,本件事業場認定処分が違法で

あることが認められる。

(ア)被控訴人は平成11年3月19日から同年10月6日までの間に,控訴人(担当

者)との間で,延べ数十回にもわたり,面談又は電話により接触を持ち,控訴人(担

当者)に対し,審査基準や標準処理期間を尋ねたり,何が問題となっているかを尋ね

たりした。これに対し,控訴人(担当者)は,審査基準等についての回答をせず, ま

た,控訴人側から,被控訴人に対し,本件産業廃棄物処理施設の建設計画のどの部分

にどのような問題があるか等について,具体的情報を開示するようなことは全くなか

った。

(イ)被控訴人は,その間の平成11年8月23日,控訴人(担当者)に対し,阿南市行

政手続条例に基づき,対象事業協議書の提出から5か月を超えているのに,未だ審査

の結論が出ていないところからすると,事前協議書の審査について国の法律をはるか

に超えた規制値等が確立されていると思われるので,その審査基準を開示するよう求

める旨の文書を提出した。

ところが,控訴人は,平成11年9月10日ころ,被控訴人に対し,「審査基準

は,審議会に諮ることが基準である。」などという趣旨の回答しかしなかった。

(ウ)さらに,被控訴人は,平成11年9月29日,控訴人(担当者)に対し,翌30日

開催の第4回審議会に出席して意見を述べさせてほしいと求めたが,控訴人(担当

者)はこれを拒否している。

(エ)結局,被控訴人は,審議会や調査研究部会(現地調査を含む)などには一度も出席

することができず,被控訴人の意見を述べたり,被控訴人の主張を裏付ける資料(本

件産業廃棄物処理施設の設置許可申請書の写しを除く)を提出する機会を全く与えら

れなかった。

さらに,被控訴人は,審議会の答申後も,その答申内容について知らされず,答申

内容に対し反論する機会も与えられなかった。

(オ)以上の次第で,控訴人は,本件産業廃棄物処理施設が規制対象事業場に当たらない

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ことについて,被控訴人が主張を尽くし,証拠を提出する機会を封じた上で,本件事

業場認定処分をするに至ったのである。

第5 結語

1 以上の次第で,本件事業場認定処分は手続的に違法であり,その余の点について判断

するまでもなく,本件事業場認定処分は取消しを免れず,被控訴人の本訴請求は理由が

ある。

2 よって,被控訴人の請求を認容した原判決は結論において相当であり,本件控訴は理由

がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

なお、控訴人(阿南市長)は、上記高松高等裁判所判決を不服として最高裁判所に上

告したが、平成 20 年2月1日、最高裁により「本件上告を棄却する。本件を上告審とし

て受理しない。上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。」旨の決定が下

された。

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【参考資料 1】

産業廃棄物処理施設については、平成9年の法改正により、設置許可の手続が改められ

ている。下記は、現在の廃棄物処理法の関係規定である。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)

(産業廃棄物処理施設)

第 15 条 産業廃棄物処理施設(廃プラスチック類処理施設、産業廃棄物の最終処分場その

他の産業廃棄物の処理施設で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置しようとする

者は、当該産業廃棄物処理施政を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受

けなければならない。

2 前項の許可を受けようとする者は、環境省令で定めるところにより、次に掲げる事項を

記載した申請書を提出しなければならない。

一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名

二 産業廃棄物処理施設の設置の場所

三 産業廃棄物処理施設の種類

四 産業廃棄物処理施設において処理する産業廃棄物の種類

五 産業廃棄物処理施設の処理能力(産業廃棄物の最終処分場である場合にあつては、産

業廃棄物の埋立処分の用に供される場所の面積及び埋立容量)

六 産業廃棄物処理施設の位置、構造等の設置に関する計画

七 産業廃棄物処理施設の維持管理に関する計画

八 産業廃棄物の最終処分場である場合にあつては、災害防止のための計画

九 その他環境省令で定める事項

3 前項の申請書には、環境省令で定めるところにより、当該産業廃棄物処理施設を設置す

ることが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類を添付し

なければならない。ただし、当該申請書に記載した同項第2号から第7号までに掲げる事

項が、過去になされた第1項の許可に係る当該事項と同一である場合その他の環境省令で

定める場合は、この限りでない。

4 都道府県知事は、産業廃棄物処理施設(政令で定めるものに限る。)について第1項の

許可の申請があつた場合には、遅滞なく、第2項第1号から第4号までに掲げる事項、申

請年月日及び縦覧場所を告示するとともに、同項の申請書及び前項の書類(同項ただし書

に規定する場合にあつては、第2項の申請書)を当該告示の日から1月間公衆の縦覧に供

しなければならない。

5 都道府県知事は、前項の規定による告示をしたときは、遅滞なく、その旨を当該産業廃

棄物処理施設の設置に関し生活環境の保全上関係がある市町村の長に通知し、期間を指定

して当該市町村長の生活環境の保全上の見地からの意見を聴かなければならない。

6 第4項の規定による告示があつたときは、当該産業廃棄物処理施設の設置に関し利害関

係を有する者は、同項の縦覧期間満了の日の翌日から起算して2週間を経過する日まで

に、当該都道府県知事に生活環境の保全上の見地からの意見書を提出することができる。

(許可の基準等)

第 15 条の2 都道府県知事は、前条第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合して

いると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

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一 その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画が環境省令で定める技術上の基準に適合

していること。

二 その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が当該産業廃

棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び環境省令で定める周辺の施設につい

て適正な配慮がなされたものであること。

三 申請者の能力がその産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計

画に従つて当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に、かつ、継続して行う

に足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。

四 申請者が第 14 条第5項第2号イからヘまでのいずれにも該当しないこと。

2 都道府県知事は、前条第1項の許可の申請に係る産業廃棄物処理施設の設置によつて、

ごみ処理施設又は産業廃棄物処理施設の過度の集中により大気環境基準の確保が困難とな

ると認めるときは、同項の許可をしないことができる。

3 都道府県知事は、前条第1項の許可(同条第4項に規定する産業廃棄物処理施設に係る

ものに限る。)をする場合においては、あらかじめ、第1項第2号に掲げる事項につい

て、生活環境の保全に関し環境省令で定める事項について専門的知識を有する者の意見を

聴かなければならない。

4 前条第1項の許可には、生活環境の保全上必要な条件を付することができる。

5 前条第1項の許可を受けた者(以下「産業廃棄物処理施設の設置者」という。)は、当

該許可に係る産業廃棄物処理施設について、都道府県知事の検査を受け、当該産業廃棄物

処理施設が当該許可に係る前条第2項の申請書に記載した設置に関する計画に適合してい

ると認められた後でなければ、これを使用してはならない。

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【参考資料 2】

廃棄物の区分、産業廃棄物の排出量、産業廃棄物中間処理施設の状況

(環境省ホームページ「平成 23 年度、平成 24 年度環境・循環型社会・生物多様性白

書」より)

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