鉄道路線エリア間比較による住環境の社会-心理的 …- 111 -...

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111 GIS -理論と応用 Theory and Applications of GIS, 2009, Vol. 17, No.1, pp.111-122 【原著論文】 鉄道路線エリア間比較による住環境の社会-心理的評価の 地域的差異と地域イメージの生成要因に関する分析 刀根令子 Regional Difference of Residents’ Subjective Evaluation for Social-Psychological Characteristics of Residential Environment and Generation Factors of Image of Town, by Comparison of Areas along Railway Lines in Tokyo Ryoko TONE Abstract: Residents' subjective evaluation for social-psychological characteristics of residential environment was analyzed, using survey data of residential preference of 2000 people who recently bought houses in the Tokyo metropolitan areas. Firstly, some main factors of "social- psychological evaluation", such as image of town etc., were extracted by factor analysis. Secondly, by comparison of residents' evaluations of 9 areas along railway lines, regional difference of image of town was found. Thirdly, multiple regression analysis indicated that those who have higher preference for image of town in general tend to be highly satisfied with the image of their own residential environment, after choosing their houses. This study empirically clarified the importance of considering resident's "social-psychological evaluation" when examining evaluation for residential environment. Keywords: 社会-心理的評価(social-psychological evaluation),因子分析(factor analysis),地域的差異 regional difference),路線エリア(area along railway line),地域イメージ(image of town1.研究の目的と概念 本研究では「住環境」を,街の物理的要素と街の 雰囲気などの社会・心理的要素から構成される人間 の生活環境,と定義する.住環境の「物理的要素」 とは駅からの距離や小売店の数などに代表される物 理的,客観的環境を構成する要素である.一方,「社 会・心理的要素」とは,街の雰囲気やイメージなど のように,曖昧性や,評価する人の主観を含む要素 である.なお,本研究では街の環境を扱い,住居自 体の環境は分析対象としない. 本研究では,住環境の社会・心理的要素と,それ に対する居住者の主観的で曖昧な評価(「社会-心 理的評価」)に着目し,どのような内容についての 評価が存在するか,評価がどのような形で顕在する か,評価がどのような要因によって構成されるかを 把握することを研究の目的としている.以下に本研 究で用いる概念について説明する. 第一に,評価対象の違いによる「物理的要素に対 する評価」と「社会・心理的要素に対する評価(「社 会-心理的評価」)」の区別についてである.まず, 物理的要素に対する評価とは,駅からの距離などの 要素に対する居住者の心理的評価を指す.一方,社 刀根:〒113 - 8656 東京都文京区本郷 7-3-1 東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻 特任助教 Department of Urban Engineering The University of Tokyo Tel03 - 5841 - 6259

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GIS-理論と応用Theory and Applications of GIS, 2009, Vol. 17, No.1, pp.111-122

【原著論文】

鉄道路線エリア間比較による住環境の社会-心理的評価の地域的差異と地域イメージの生成要因に関する分析

刀根令子

Regional Difference of Residents’ Subjective Evaluation for Social-Psychological Characteristics of

Residential Environment and Generation Factors of Image of Town,

by Comparison of Areas along Railway Lines in Tokyo

Ryoko TONE

Abstract: Residents' subjective evaluation for social-psychological characteristics of residential

environment was analyzed, using survey data of residential preference of 2000 people who

recently bought houses in the Tokyo metropolitan areas. Firstly, some main factors of "social-

psychological evaluation", such as image of town etc., were extracted by factor analysis.

Secondly, by comparison of residents' evaluations of 9 areas along railway lines, regional

difference of image of town was found. Thirdly, multiple regression analysis indicated that

those who have higher preference for image of town in general tend to be highly satisfied

with the image of their own residential environment, after choosing their houses. This study

empirically clarified the importance of considering resident's "social-psychological evaluation"

when examining evaluation for residential environment.

Keywords: 社会-心理的評価(social-psychological evaluation),因子分析(factor analysis),地域的差異

(regional difference),路線エリア(area along railway line),地域イメージ(image of town)

1.研究の目的と概念 本研究では「住環境」を,街の物理的要素と街の雰囲気などの社会・心理的要素から構成される人間の生活環境,と定義する.住環境の「物理的要素」とは駅からの距離や小売店の数などに代表される物理的,客観的環境を構成する要素である.一方,「社会・心理的要素」とは,街の雰囲気やイメージなどのように,曖昧性や,評価する人の主観を含む要素である.なお,本研究では街の環境を扱い,住居自

体の環境は分析対象としない. 本研究では,住環境の社会・心理的要素と,それに対する居住者の主観的で曖昧な評価(「社会-心理的評価」)に着目し,どのような内容についての評価が存在するか,評価がどのような形で顕在するか,評価がどのような要因によって構成されるかを把握することを研究の目的としている.以下に本研究で用いる概念について説明する. 第一に,評価対象の違いによる「物理的要素に対する評価」と「社会・心理的要素に対する評価(「社会-心理的評価」)」の区別についてである.まず,物理的要素に対する評価とは,駅からの距離などの要素に対する居住者の心理的評価を指す.一方,社

刀根:〒113 -8656 東京都文京区本郷 7 - 3 - 1 東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻 特任助教 Department of Urban Engineering The University of Tokyo   Tel:03 -5841 -6259

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会・心理的要素に対する評価とは,街の雰囲気やイメージなどのように曖昧性や,評価する人の主観を含む要素に対する居住者の心理的評価である.社会・心理的要素に対する評価は,必ずしも住環境の物理的,客観的評価指標と対応するとは限らない.そのため,個人の主観を反映する範囲や度合いが,物理的要素に対する評価に比べ大きいと考えられる.本研究では後者の社会・心理的要素に対する評価を特に「社会-心理的評価」と呼び,物理的要素に対する評価と区別する. 第二に,評価方法の違いによる「物理的評価(客観的評価)」と「心理的評価(主観的評価)」の区別についてである.一般に環境評価においては,物理的評価を客観的な評価,心理的評価を主観的な評価として捉える.住環境評価に関する物理的評価としては,たとえば,駅からの距離,周辺の人口,商業施設の数などが挙げられる.一方で,たとえば駅からの距離などを,居住者が主観的にはどのように捉えているかという,住環境要素に対する心理的評価を質問紙法などにより測定することもできる(住環境の評価方法に関しては浅見(2001)に詳しい). 本研究では,後者,居住者による心理的評価のデータを用いて分析を行うが,住環境評価に心理的評価を用いる有効性に関して以下の研究が参考になる.Fransson et al.(2007)は,この二者の関係を,室内の気温や湿度,音といった感覚的情報に関して分析した 1).その結果,客観的に測定された物理的評価よりも主観的な評価(心理的評価)の方が,全体的な快適性の評価に強く関連することを示した 2).住環境は色彩や気温,音などの感覚的情報も要素として含むため,この結果は住環境評価において心理的評価を用いる有効性を示唆すると言える. まとめると,本研究での分析に用いるのは物理的要素に対する評価と社会・心理的要素に対する評価(「社会-心理的評価」)であり,評価方法は居住者による心理的評価を用いる(図1).

2.住環境の社会・心理的要素に対する評価 従来の住環境選好・評価の研究では,選好や評価において重視される要素について様々な知見が得られているが,その多くは住環境の物理的要素に関するものである(金川ほか,2003;木内ほか,2003).住環境選好・評価の構造を捉えるには,本研究での住環境の定義の通り,物理的要素と社会・心理的要素の両要素が考慮されるべきと考える.しかし住環境の社会・心理的要素について考慮するという点において,従来の住環境選好・評価に関する調査や研究には以下の問題がある. 第一に,「社会-心理的評価」は,評価者の心理的要因や社会的要因,地域特性など複合的な要因によると予測される.したがって,主に物理的要素への評価を回答者に求める従来型の住環境評価調査では,「社会-心理的評価」は結果に現れにくいと考えられる. 第二に,社会・心理的要素に関連した知見の不足である.社会・心理的要素は従来の住環境研究ではほとんど着目されてこなかった.そのため,社会・心理的要素に対する評価である「社会-心理的評価」についても,どのような内容についての評価が存在するか,住環境のどの側面を表現しているのか,住環境評価全体の中で担う役割,物理的要素に対する評価との関係性,どのような形で評価を顕在するのか,評価がどのような要因によって構成されるのかなど不明な点が多い. 従来の住環境選好・評価研究におけるこれらの問題点を踏まえ,住環境選好・評価の構造を社会・心理的要素の側面からも捉えるためには,本研究において,「社会-心理的評価」に積極的に焦点を当てた分析を行う必要があると考え,研究を計画,実施した.

物理的要素 社会-心理的要素

客観的評価

駅からの距離,小売店数など

主観的評価

駅からの距離,小売店数など 街の雰囲気に対する評価など

評価方法

評価対象

図1 本研究で用いる住環境評価の分類

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 本研究では特に,「社会-心理的評価」の顕在という点で,評価の地域的差異に着目した分析を行った.住環境の物理的要素に対する評価には通勤利便性など地理的条件(駅からの道路距離など)との関連が予測されるものがある.こういった要素に関しては何らかの傾向が地域的差異の特徴として顕在することが予測される. 一方,「社会-心理的評価」は地域的差異として顕在するだろうか.地域的差異として把握することができるならば,「社会-心理的評価」の地域的差異が存在するということになり,評価に影響を与える地理的要因が存在する可能性がある.

3.鉄道沿線イメージと心理的評価の地域的差異 心理的評価の地域的な差異を把握するためのひとつのアプローチとして,分析対象地域を社会的に何らかの共通認識のある方針で分割し,エリアごとの違いをみると,分かりやすく捉えられるのではないだろうか. 本研究の地域的差異の分析では,対象地域を東京23区とするが,東京において居住地を選択する際には,鉄道路線は重要な情報といえる.勤務先などへ行きやすい路線かどうか,という判断基準となるのみでなく,沿線の居住地のイメージの違いも判断要素として認知されていると考えられる.同じ路線の沿線地域での類似した開発,あるいは居住者層や路線の利用者層の違い,歴史的背景などの要因から,街の様子が実際に異なる場合があるからである.鉄道沿線イメージについては土井ほか(1994),西井ほか(1995),土井ほか(1996)による一連の研究がある.これらの研究では鉄道沿線に着目して,地域イメージの構造に関する詳細な知見を得ている.また,心理的評価の空間的分布に着目したものでは,尹ほか(2003,2004),武藤ほか(2005)による認知の空間的分布に関する研究があり,空間的自己相関の指標などを用いて印象評価の空間的分布や地域特性の把握を行っている. しかし,心理的評価の空間的分布や地域的差異に関する既存研究は少なく,また,どのような内容についての評価がどのように地域的差異として顕在す

るか,という本研究における関心に十分に答えるものではない.本研究ではこれらの問題点を踏まえ,住環境評価の地域的差異に着目し,「社会-心理的評価」の理解を深めることを目的とした分析を行った.まず,「社会-心理的評価」としてどのようなものが存在するのかを把握する分析を行い,その後「社会-心理的評価」の地域的差異に関する分析を行うという手順で研究を進める.「社会-心理的評価」の地域的差異を確認する分析では,エリア分けの基準として鉄道の路線を採用し,エリア間での評価比較を行うという方針で分析を行った.

4.使用データと「社会-心理的評価」の質問項目 分析に使用するデータはリクルート社との共同調査のデータであり,調査時期は2004年8月,web上での質問調査である.首都圏(1都3県)において2000

年4月から2004年3月までに住宅を購入した2000人を対象とした 3).本研究ではこの調査において,様々な住環境要素(物理的要素,社会・心理的要素)に関して,住宅を選んだ時の重視度,実際に住んでみての満足度の質問項目などを設定した.「社会-心理的評価」の測定に関しては,曖昧で主観性が高い項目をあえて設定し,その評価の情報から分析を行った. 本調査では社会-心理的重視度と社会-心理的満足度という2時点の「社会-心理的評価」を測定した.社会-心理的重視度は今回の居住地選択時に何を重視したか(選択前からもっていた住環境に関する価値観や志向を測定)の回答であり,社会-心理的満足度は今回の居住地選択後に現在の住環境をどのように評価しているかの回答である(図2).社会-心理的重視度,社会-心理的満足度の質問項目の作成に際しては外的,内的という視点から項目を設

今回の居住地選択

過去 現在

住環境履歴 過去にどのような住環

境を経験してきたか

社会-心理的満足度

居住地選択後,現在の住環境

の社会・心理的要素をどのよ

うに評価しているか

選択後

社会-心理的重視度 居住地選択時に社会・心理的要

素の何を重視したか[選択前持

っていた住環境価値観・志向]

選択前

図2 社会-心理的重視度と社会-心理的満足度の時間的関係

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定した.外的とは街に関する描写,属性など,内的とは自分が個人的に感じること,好み,などを指す. 社会-心理的重視度は,「現在の住宅を探していたときのことについて,お尋ねします.住宅を探していたときに次の要因について,どの程度重視したかをお答えください.」という質問の中の「地域・街のイメージ」という項で聞かれる.表1の38項目について,1 .非常に重視,2 .やや重視,3 .あまり重視していない,4 .まったく重視していない,の4点で測定した. また同様に社会-心理的満足度については「新しい家,新しい街に実際住んでみて,あなた自身のお考えに最も近い番号を1つ選んでください.」という質問に対して表2の項目が並んでいる.質問項目は19項目から構成し,1 .あてはまる,2 .ややあてはまる,3 .あまりあてはまらない,4 .あてはまらない,の4点で測定した. 実際の質問画面では重視,満足項目ともに,項目の順番はランダムに並べ替えられている.分析に際しては,得点が高くなるほど肯定的な回答になるように,得点を反転させる処理を行って用いた.

5.社会-心理的重視因子の抽出 分析には性別,年齢の記入もれ,記入間違いのない1831人のデータを用いた(男性61 .1%,女性38 .9%,年齢の平均値は37 .1歳). 「社会-心理的評価」にはどのようなものがありうるのかを把握するため,社会-心理的重視項目について因子分析を行った(最尤法,固有値1以上を基準に因子数を決定,プロマックス回転).5因子を抽出したが,因子負荷が高く,性質の明確な因子を選ぶという考え方に基づき,3項目以上を含む3因子を解釈した(表1). 第1因子は美観や雰囲気など街に関する情報と居心地のよさなど自分の暮らしやすさに関する項目から成り,「穏やかに暮らせる美しい街」(以下「穏やかな街」と略記)を重視する因子とした.第2因子は,テレビ等から得た街に関する事前知識や話題性,高級・洗練感,新奇性などを含む因子であるため,「地域イメージ(メディア・高級・洗練感)」を重視する

因子とした.第3因子は人情など街の人との情緒的なコミュニケーションに関する項目や,懐古的価値から構成されていると考え「情緒性」を重視する因子とした. 意味合いや構成要素において本研究の情緒性因子とは相違点があるが,住環境の「情緒性」に関わる因子は,西井ほか(1995)や尹(2003)の SD法を用いた研究でも抽出されている.本研究での情緒性因子の特徴の一つは「街の人々が幸福そうに見える」,「街の人々が親切そうである」という,街の人への評価についての重視項目が含まれる点である.

6.社会-心理的満足因子の抽出 居住地選択後(住宅購入後)の満足度評価にも社会-心理的な項目を設定している.その回答データを因子分析により4因子を抽出し(最尤法,固有値1

以上を基準に因子数を決定,プロマックス回転),因

因子 1 2 3 4 5

項目分類 社会-心理的重視項目

穏やかに暮らせる美しい

地域イメージ(メディア・高級・洗練感)

情緒性

331.0-920.0940.0-240.0-147.0気囲雰たい着ち落])」…が街「(的外[

[活動・行動] 自分の性格や生活スタイルに合っていること 0.649 -0.082 -0.121 0.203 0.147

091.0301.0-030.0-131.0196.0とこるあが所場るえ思といし美に街]美審的観景[

490.0220.0241.0-410.0918.0さる明のじ感た見])」…が街「(的外[

340.0240.0-260.0140.0947.0のもなうよの」いおるうの街「])」…が街「(的外[

470.0701.0-080.0-841.0617.0み並街うか向へ家らか駅])」…が街「(的外[

811.0981.0-140.0-802.0957.0とこるれらじ感がスンセに観景の街]美審的観景[

561.0221.0350.0-360.0-547.0とこるあで街のプイタなき好])」…が私「(的内[

471.0-770.0-822.0680.0-187.0とこるあでいれきが緑のどな木や花]美審的観景[

830.0-721.0-273.0630.0265.0み並街るあの情風])」…が街「(的外[

610.0541.0601.0911.0-216.0とこいな少が点な快不に体全街])」…が街「(的外[

920.0-940.0051.0380.0046.0気囲雰の街たれとの和調])」…が街「(的外[

270.0433.0800.0931.0-516.0とこるあで街いよが地心居])」…が私「(的内[

[内的(「私が…」)] 心に余裕をもって暮らせそうであること 0.621 -0.034 0.089 0.262 0.001

[街についての知識]テレビや雑誌などでの「住みやすい」とか「人気の街」という評判

0.325 0.578 -0.146 -0.067 0.145

[街についての知識]この街にゆかりの著名人、音楽、小説、映画などがあること

-0.181 0.583 0.318 -0.144 0.062

042.0020.0-243.0674.0341.0-とこるあが店いたみてっ行]動行・動活[

[景観的審美]映画やドラマの舞台になってもよさそうな街並みであること

0.138 0.688 -0.012 -0.055 0.108

[住環境の変化] これまでに住んだことのないタイプの街であること -0.015 0.572 0.068 0.039 0.045

571.0-400.0690.0-417.0732.0とこい多が家なうそ福裕]人住の街[

[内的(「私が…」)] 好奇心をかき立てられる街であること 0.019 0.586 0.124 0.080 0.166

652.0-220.0740.0-139.0231.0-とこるいてし歩散が犬なうそ級高]人住の街[

[街の住人] 洗練された服装・おしゃれな服装の人が多いこと -0.024 0.880 -0.051 0.067 -0.024

[街についての知識] テレビや雑誌などによく登場する有名な街であること -0.184 0.984 -0.082 0.054 0.039

[イメージ] 通っている電車の路線のイメージがよいこと 0.123 0.561 -0.124 0.161 0.013

[街についての知識] 知り合いが「いい街」だと言っていたこと 0.069 0.646 -0.018 0.212 -0.103

842.0-340.0795.0660.0-253.0とこるあでうそ切親が々人の街]人住の街[

652.0590.0-824.0483.0210.0-気囲雰な的術芸・的化文])」…が街「(的外[

750.0-080.0139.0670.0-880.0-とこるれらじ感が味情人]人住の街[

432.0100.0055.0701.0161.0徴特や性個の街])」…が街「(的外[

551.0-180.0954.0741.0303.0とこるえ見にうそ福幸が々人の街]人住の街[

[懐古的価値観] どこか懐かしい感じのする街であること -0.183 0.302 0.511 0.251 -0.105

520.0246.0400.0520.0733.0とこるあでうそせら暮くし楽])」…が私「(的内[

180.0-706.0381.0900.0972.0とこるあで街るじ感をさすやみし親]ジーメイ[

434.0240.0-842.0-443.0033.0とこるあで街な的会都])」…が街「(的外[

[活動・行動] 自分と年齢や趣味の近い人が住んでいそうであること 0.169 0.214 0.349 0.045 -0.095

381.0150.0601.0893.0471.0とこるあでき好が前名の街]ジーメイ[

842.0-503.0611.0203.0621.0-とこるいでん住にく近がい合り知]動行・動活[

因子間相関行列  1 - 0.565 0.632 0.372 0.294

2 - 0.635 0.139 0.293

092.0713.0-3

842.0-4

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表1 社会-心理的重視項目に対する因子分析

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子負荷が高く,性質の明確な因子を選ぶという考え方に基づき解釈を行った(表2).

 第1因子はこの街に愛着のようなものを感じる,自分や家族が住むのにふさわしい街だ,暮らしやすい街だと思う,といった個人的な評価の項目から構成される.第2因子は街の人や街そのものといった外部環境への評価の項目から構成される.この街の中にお気に入りの場所・店ができた,新しい街にはもう慣れた,など居住後の行動に関わると考えられる項目でもある.第3因子は以前よりストレスを感じることが少なくなった,生活が以前より楽しくなったなどの心理的健康に関わる項目から構成される.第4因子は街に裕福そうな人が多い,街におしゃれな人が多い,街に景観の美しい場所があるなど,街の洗練感に関わる項目から構成される. したがって第1因子を「個人的満足(個人的な街への満足度・フィット感)」,第2因子を「街の評価(外部環境への評価,街での行動に関わる満足度)」,第3因子を「メンタルヘルス(生活の活発化)」,第4

因子を「地域イメージ(高級・洗練感)」と解釈した.これらの因子分析の結果を踏まえ,因子得点を以降の分析において用いる.

7.鉄道路線エリア間の評価比較 鉄道路線エリア間の評価比較に関する分析では,

東京23区内の回答者(446人)を分析対象とした.これらの分析対象者の住所データをポイントデータに変換するため,東京大学空間情報科学研究センターのWebサイト(http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/)から利用できるアドレスマッチングサービスを用いた.分析には ArcGIS 8 .3を用いた.路線エリアは,山手線の内側と外側を分け,外側を8方位に分け,9

つのエリアに分割した(図3).この9エリアそれぞれに含まれる路線から半径1kmのバッファを作成した 4).同じバッファの内部に含まれる点(回答者の居住地)を,同じエリアに住む回答者グループとして捉えた(図4). これら9エリアの回答者の,様々な項目に対する

因子1 因子2 因子3 因子4

「個人的満足」:個人的な街への満足感・フィット感

「 街 の 評価」:外部環境 へ の 評価、街での行動に関わる満足感

「メンタルヘルス」:生活の活発化

「地域イメージ(高級・洗練感)」 :街や街の人の高級・洗練感

個人的満足 愛着 この街に愛着のようなものを感じる 0.485 0.393 -0.029 -0.050

外部環境評価 雰囲気 この街の雰囲気が好きだ 0.598 0.330 -0.051 0.006

個人的満足 優越感 友人に勧めたり自慢したりできる街だ 0.470 0.057 0.146 0.248

個人的満足 適地認知 自分や家族が住むのにふさわしい街だ 0.913 -0.124 0.102 -0.048

個人的満足 健康 自分や家族の健康によい影響を与える 0.762 -0.153 0.074 0.050

外部環境評価 雰囲気 暮らしやすい街だと思う 0.749 0.057 0.035 -0.062

外部環境評価 行動 この街の中にお気に入りの場所・店ができた -0.149 0.727 0.069 0.001

外部環境評価 対人関係 この街の人たちは親切である 0.021 0.500 0.053 0.012

外部環境評価 街の完成度 今後も発展する可能性がある街だ -0.043 0.426 -0.031 0.220

外部環境評価 慣れ 新しい街にはもう慣れた 0.173 0.419 0.056 -0.129

個人的満足 行動活発化 生活が以前より活動的になった -0.004 0.445 0.359 -0.011

個人的満足 心理的健康 以前よりストレスを感じることが少なくなった 0.059 0.005 0.643 0.009

個人的満足 充実感 生活が以前より楽しくなった 0.048 0.143 0.703 -0.036

個人的満足 意欲 以前より仕事(家事・勉強等)への意欲が増した 0.172 -0.023 0.604 0.044

外部環境評価 裕福 街に裕福そうな人が多い 0.016 -0.187 0.160 0.779

外部環境評価 洗練 街におしゃれな人が多い -0.120 0.135 -0.070 0.832

外部環境評価 審美 街に景観の美しい場所がある 0.184 0.346 -0.144 0.355

外部環境評価 マナー この街の人たちはマナーがよい 0.281 0.063 -0.039 0.349

外部環境評価 友人 近所に気の合う友人ができた -0.104 0.250 0.239 0.086

因子間相関行列  1 - 0.722 0.706 0.584

2 - 0.560 0.613

793.0-3

-4

表2 社会-心理的満足項目に対する因子分析

1.中央(JR 山の手線内の JR 中央線),2.西(新宿より西の JR

中央線),3. JR総武線エリア(東)(東京より千葉方面),4.池

袋エリア(北西)(西武池袋線,西武新宿線),5.南(東急東横線

より南の路線),6.南西(小田急線,京王井の頭線など),7.南

東地下鉄(この部分は地上の路線がないため地下鉄の沿線),8.

北東(JR常磐線,京成線など),9.北(東武東上線より北の路線)

5

23 446

Webhttp://www.csis.u-tokyo.ac.jp/

ArcGIS 8.3

1km

2336

4 10

図4 9つの路線エリアと回答者の居住地

図3 9つの路線エリア

5

23 446

Webhttp://www.csis.u-tokyo.ac.jp/

ArcGIS 8.3

1km

2336

4 10

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評価得点の平均値に,エリア間の差異があるかどうかを分散分析を用いて分析した.バッファに含まれない回答者,2つ以上のバッファに含まれる回答者を分析から除外した結果,路線エリア比較分析の分析対象者は336人となった. 平均値の比較に用いる項目は居住地選択時の物理的要素に対する重視度 5),社会・心理的要素に対する重視度(「社会-心理的重視度」),選択した住環境の物理的要素に対する満足度 6),社会・心理的要素に対する満足度(「社会-心理的満足度」),また,路線イメージ重視度である. 以降の分析では,「社会-心理的評価」に関しては前述の因子分析による因子得点を,物理的要素への評価に関しては項目得点(4点尺度,10点尺度)を用いる.なお,路線イメージ重視度は地域イメージ重視因子の構成要素だが(表1参照),路線イメージ評価についてより明確に知るため個別に分析した. これらの変数に関し,路線エリア間の平均値に違いがあるかどうかを分析するため以下の方針で分散分析を行った.1)分散分析を行った場合,分散分析で有意であった場合に多重比較(Tukeyの方法)を行った.2)等分散性が仮定できない場合と4点尺度項目の場合はノンパラメトリックの Kruskal-Wallis

検定(多重比較は Schefféの方法)を用いた.

8.路線エリア間の比較分析結果 分析の結果,以下の項目で地域による平均値の有意な違い(p<. 01)が観察された.社会-心理的重視度では,「穏やかな街」,「地域イメージ(メディア・

高級・洗練感)」,「路線イメージ」,社会-心理的満足度では「個人的満足」,「街の評価」,「メンタルヘルス」,「地域イメージ(高級・洗練感)」,物理的満足度では,「地域安全性」である(表3). 有意差のある路線エリアの組み合わせを検出するため多重比較を行った結果,特に地域イメージ(高級・洗練感)満足度や地域イメージ(メディア・高級・洗練感)重視度において,1.山の手線内中央線,5.南,6 .南西の沿線の得点が高く,他の地域との有意差があるという結果が得られた.このようにメディア・高級・洗練感に関する地域イメージは特に地域間の有意差が多く観察され,地域的差異として顕在しやすい項目であることが分かった.しかし,物理的要素との関わりなど,地域イメージの生成に関して解釈するには情報が不足している.そこで,次節以降でメディア・高級・洗練感に関する地域イメージの地域的差異の背景をより詳しく知るための分析を行った.

9.�地域イメージ(高級・洗練感)満足度の�地域的差異

 路線エリアの比較分析では,自然環境などの物理的要素に対する評価の地域的差異の特徴について検出できず,地域イメージ(高級・洗練感)満足度の高い地域の特徴について解釈することができなかった.そこで今度はアプローチを変え,地域による差異を検出するのではなく,地域イメージ(高級・洗練感)満足度そのものがどのような要因の影響をうけて生じるのかを調べることとした.

社会-心理的重視度(項目)

社会-心理的満足度(因子)物理的満足度(項目)

穏やかな街地域イメージ(メディア・高級・洗練感)

路線イメージ 個人的満足 街の評価 メンタルヘルス地域イメージ(高級・洗練感)

地域安全性

分散分析(有意)

分散分析 分散分析 KruskalWallis 分散分析 分散分析 分散分析 KruskalWallis KruskalWallis

高 低 多重比較 Tukey Tukey Scheffé Tukey Tukey Tukey Scheffé Schefféずきで出検-ずきで出検-952.1-袋池4央中1

176.1---242.1-東北8央中1195.1801.1---北9央中1929.0755.0-755.0795.0-東北8南5948.0186.0566.0---北9南5123.1----277.0東北8西南6142.1-----北9西南6

社会-心理的重視度(因子)

多重比較の有意水準・・□5%,■1%,■0.1%

数字は差の平均値(高い方から低い方を引いたもの)

表3 路線エリア間の比較

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 地域イメージ(高級・洗練感)満足[因子得点]を被説明変数とし,周辺の物理的要素に対する満足度評価,社会-心理的重視因子,居住者の一般的価値観因子 7),物件価格を独立変数とする重回帰分析 8)

を行った. 住環境の物理的要素に関する満足度評価の変数は,細分化された住環境要素(表4参照)についての評価データ(1.非常に満足,2.満足,3.どちらともいえない,4.満足していない,5.全く満足していない)を,いくつかの分類(高級・おしゃれな商業施設,街の景観,都市計画,交通の便など)にまとめ,それぞれの分類に属する項目得点を単純加算した合成変数を用いた(クロンバックα係数は0 .742

~0 .913,なお表4には表5のモデルに用いた4変数を構成する項目を示した)9).デモグラフィック変数としては回答者の性別と年齢を用いた. 分析の結果(表5),物件価格や社会価値観因子に加え,物理的要素においては高級・おしゃれな商業

施設,街の景観,交通の便,都市計画に関する変数において正の有意な標準化係数が得られた.したがって,こういった要素の得点が高ければ,居住地に対する地域イメージ(高級・洗練感)満足度も高くなるという構造になっていることが明らかになった. しかしこのモデルでは上記の物理的要素に対する満足度評価よりも社会-心理的重視因子の地域イメージ(高級・洗練感)重視度のほうが強い説明力を持っていることが分かった.これは,地域イメージ(高級・洗練感)を重視していなかった人が偶然地域イメージ(高級・洗練感)の高い地域を選んだり,居住後に選んだ地域の地域イメージ(高級・洗練感)の高さに気付き,地域イメージ(高級・洗練感)満足度を得ている関係ではない.地域イメージ(メディア・高級・洗練感)を重視して住環境を選んだ人が,地域イメージ(高級・洗練感)満足の得られやすい地域を選び,実際に地域イメージ(高級・洗練感)満足度を高く感じている,という関係が示されているものと考えられる. また,商業施設に関しては,項目得点を加算していくつかの項目にまとめた際に,スーパーマーケットやコンビニエンスストアといった「日常的な商業施設」に関する変数と,百貨店,おしゃれなレストランといった「高級・おしゃれな商業施設」に関する変数を二つの別の変数とした.これら二つの変数は相関が高く同時にモデルに入れられなかった.しかし物理的要素に対する満足度評価の加算する前の詳細項目について個別に,地域イメージ(高級・洗練感)満足度との相関係数を調べたところ,日常的商業施設に属する詳細項目よりも,高級・おしゃれ

表4 重回帰分析に用いた物理的要素に対する満足評価の尺度構成

表5 地域イメージ(高級・洗練感)満足感の生成要因

Cronbach のアルファ388.0るあが屋キーケ・店子菓洋いし味美設施業商なれゃしお・級高

美味しいパン屋がある気のきいた喫茶店がある気のきいた美容院がある有名店や伝統的な老舗がある気のきいた花屋がある近くに百貨店があるおしゃれなレストランがある

街の景観 建物の外観が生垣等できれいに手入れしてある家が多い 0.851建て込んでいない(密集していない) 敷地がゆったりとした(大きい)家が多い景観などに関するとり決め(地域協定など)がある

都市計画 周辺の生活道路・街路が整備されている 0.749歩道が整備されている近くに大きな公園がある将来の開発計画(将来、大きな開発があるかないか)

697.0間時離距のでま地務勤便の通交最寄り駅まで歩くことができる夜遅くまで終電がある最寄り駅までの距離

被説明変数: 地域イメージ(高級・洗練感)満足因子

)側片(率確意有数係関相率確意有数係化準標数変明説

デモグラフィック 回答者の性別(男性0,女性1) 0.013 0.754 -0.013 0.407

943.0220.0-450.0870.0-齢年の者答回

物件価格 000.0463.0000.0702.0格価件物

社会-心理的重視度 地域イメージ(メディア・高級感)重視因子 0.359 0.000 0.555 0.000

一般的価値観 000.0972.0430.0780.0子因観値価会社

物理的要素に対する満足度評価 高級・おしゃれな商業施設 0.192 0.000 0.459 0.000

000.0534.0000.0961.0観景の街

000.0604.0500.0231.0画計市都

000.0352.0110.0601.0便の通交

000.0825.0乗 2R み済整調

113N

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な商業施設に属する詳細項目において,地域イメージ(高級・洗練感)満足度との相関の高いものが多かった(表6の地域イメージ(高級・洗練感)満足因子の列)10).したがって,高級・おしゃれな商業施設の方が地域イメージ(高級・洗練感)との関連が強いと考えられる.

10.まとめ 住環境の社会・心理的要素に関する評価,「社会-心理的評価」に関して以下の知見が得られた.① 住環境選好や評価の場面において,必ずしも住環境の物理的要素に対する反応ではないと考えられる,「地域イメージ(メディア・高級・洗練感)」,「街の情緒性」,「メンタルヘルス」など社会-心理的な重視度や満足度評価の因子が存在する. 鉄道路線エリア間の比較による「社会-心理的評価」の地域的差異の分析から,以下の知見が得られた.

② 路線エリア別の分析において特にメディア・高級・洗練感に関する地域イメージに関する評価において地域による違いが顕著であった.地域イメージのような,社会・心理的要素に対する評価も地域的差異として顕在する場合がある. このように,地域的差異に現れやすい評価と分かった,メディア・高級・洗練感に関する地域イメージ評価についての分析から,以下の知見が得られた.③ 住環境の物理的要素では高級・おしゃれな商業施設,街の景観,交通の便,都市計画などの変数が地域イメージ(高級・洗練感)満足度の生成に対して,影響力が強いといえる.商業に関する項目では,日常的商業施設ではなく,おしゃれ感,高級感を感じさせる商業施設への評価が地域イメージ(高級・洗練感)との関係が強いことが分かった.④ 居住地に対する地域イメージ(高級・洗練感)満足度の生成には,居住者自身の居住地選択時にもっていた地域イメージ(メディア・高級・洗練感)重視志向が強く影響する.居住地選択以前から地域イメージ(メディア・高級・洗練感)重視志向の強い人が,地域イメージ(高級・洗練感)の高い地域に集まってくるという関係にあると考えられる. ②の地域イメージ(メディア・高級・洗練感)評価の地域的差異への顕在や,④の地域イメージ重視度(居住地選択時)と地域イメージ(高級・洗練感)満足度(居住地選択後)の関係から考えると,地域イメージ(メディア・高級・洗練感)に関してある程度の共通認識が一般に存在し,地域イメージ(メディア・高級・洗練感)重視志向の人は事前の知識を参考に居住地を選んだと考えられる.地域イメージ(メディア・高級・洗練感)重視因子の構成要素に,マスメディアに関する項目が含まれることを考えると,地域イメージ(メディア・高級・洗練感)は住環境の物理的条件のみから発生するのではなく,メディア等の情報の影響も受けていると考えられる. 本研究では「社会-心理的評価」を分析に用いることにより,物理的要素への評価からは得られない住環境の側面に関する理解を深めることができた.特に,「社会-心理的評価」としていくつかの因子

選択前の重視度 選択後の満足度

Spearmanのロー有意確率 (両側)

選択後の満足度項目地域イメージ(メディア・高級・洗練感)重視因子

地域イメージ(高級・洗練感)満足因子

交通の便 勤務地までの距離時間 .050 .219(***)

夜遅くまで終電がある .074 .245(***)

夜遅くまで終バスがある .156(**) .263(***)

地域の安全性 治安がいい/ピッキングや凶悪犯罪が少ない .146(**) .336(***)

街灯・夜間照明が多い .121(*) .280(***)

見通しの悪い路地が少ない .084 .250(***)

身近に事故の危険のある施設がない .107(*) .278(***)

交通事故に遭いにくい(過去の発生率が低い) .094 .214(***)

自然災害に遭いにくい(過去に災害履歴がない) .081 .241(***)

火事のとき延焼しにくい・消火しやすい .104(*) .219(***)

災害時の避難施設が近い .105(*) .284(***)

地盤沈下/液状化の心配がない .040 .219(***)

医療施設 総合病院がある .100(*) .251(***)

救急病院がある .135(**) .283(***)

近くに小児科・歯科・皮膚科・眼科などの専門医院がある .062 .232(***)

街の景観 建物の外観が生垣等できれいに手入れしてある家が多い .278(***) .399(***)

建て込んでいない(密集していない) .180(***) .386(***)

敷地がゆったりとした(大きい)家が多い .236(***) .376(***)

景観などに関するとり決め(地域協定など)がある .163(**) .341(***)

行政サービス 福祉サービス等の行政サービスの充実度 .139(**) .239(***)

近くに役所・公民館・集会所がある .139(**) .253(***)

美術館等の文化施設やスポーツ施設が充実している .188(***) .311(***)

都市計画 周辺の生活道路・街路が整備されている .207(***) .440(***)

歩道が整備されている .117(*) .364(***)

近くに大きな公園がある .106(*) .262(***)

将来の開発計画(将来、大きな開発があるかないか) .136(**) .275(***)

商業施設 美味しい洋菓子店・ケーキ屋がある .141(**) .396(***)

(高級・おしゃれな美味しいパン屋がある .153(**) .311(***)

商業施設/ 気のきいた喫茶店がある .223(***) .324(***)

日常的商業施設)気のきいた美容院がある .168(**) .300(***)

有名店や伝統的な老舗がある .305(***) .359(***)

気のきいた花屋がある .170(**) .322(***)

近くに百貨店がある .212(***) .331(***)

おしゃれなレストランがある .275(***) .446(***)

宅配サービスを手配できる飲食店がある .163(**) .308(***)

夜遅くまでやっている居酒屋等の飲食店がある .124(*) .243(***)

おいしい定食屋・ラーメン屋がある .146(**) .243(***)

自然環境 林や屋敷林など緑が多い .088 .279(***)

環境汚染 水質の汚染の心配がない .060 .211(***)

近くに工場がない .071 .215(***)

地域活動 地域住民で防犯活動をしている .094 .221(***)

*p<.05, **p<.01, **<.001

※地域イメージ(高級・洗練感)満足因子との相関係数が0.2以上のもののみ掲載。

表6 物理的住環境要素(詳細項目)に対する満足度評価と地域イメージ(メディア・高級・洗練感)重視度,地域イメージ満足度(高級・洗練感)との相関関係

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を抽出することができた点は,今後の住環境選好・評価研究において,社会・心理的要素に対する評価の存在を前提とする必要性を示すものといえる. 今回はメディア・高級・洗練感に関する地域イメージに焦点を当てたが,その他の「社会-心理的評価」についても分析を進めることにより,住環境の新しい側面を発見し,解釈の視野を広げる可能性につながると考えている.特に本研究での情緒性重視因子には,街の人に対する評価が構成要素に含まれており,人に対する評価も住環境の評価の一部となることが示された.評価者にとっての外的要因としての「人」というファクターについては,街の評価全体に対する影響や,評価の心理的な過程など解明すべき点が多くある.街や住環境の評価者でありながら,街や住環境の構成要素でもあるという,住環境評価における「人」の二つの側面は重要な視点であると考えており,今後の研究において解明していきたい.

謝辞 東京大学の浅見泰司教授には研究全体に渡ってご指導をいただいた。麗澤大学の清水千弘准教授,リクルート社の志村和明氏には調査の設計,実施の段階から多くのご助言をいただいた.東京大学の岡部篤行教授,貞広幸雄准教授,河端瑞貴准教授,石川徹准教授には貴重なご指摘をいただいた.分析作業にあたっては古川智子氏はじめリクルート社の方々,三菱総合研究所の早川玲理氏のご協力をいただいた.また、本論文審査にあたり,査読者の方々には多くの有益なご指摘をいただいた.記して謝意を表する.

注1) 住環境に関する物理的評価と心理的評価については,住環境要素と Quality of Life (QOL) の関係に着目した研究などもある (Ng, 2005).

2) Fransson et al.(2007)では,重回帰モデルにおいて,主観的な評価と物理的評価の両方を独立変数として組み合わせて用いた場合に精度が高くなることも示されている.

3) 調査対象者はリクルート社が発行する「住宅情

報」という雑誌を通して以前に行った調査の協力者データの中から抽出された.1次取得,2次取得の自己使用目的の住宅購入者(買い増し,家族・親族のためやセカンドハウス,投資用の購入の場合や所有する土地に注文住宅を建てた場合は調査対象に含まない)に限る.[マンション/戸建て]×[新築/中古]で層化し,流通量の統計,推計等を参考に抽出割合を定め,各層から無作為に抽出されたサンプルに対して調査協力依頼を行い2 ,000人の回答が得られた時点で調査を終了した.

4) もし各路線の路線イメージを抽出するのであれば,個別路線ごとに路線エリアの分析を行う必要がある.しかし本研究では以下の理由で,個別路線ごとではなく,方位によって分割した,複数の鉄道路線を含むエリア間の比較分析を行う方針とした.

 第一に,本研究の主な目的は,地域のイメージに関する心理的評価が地域的差異として顕在する可能性を探ることにある.そのためのエリア分割の基準の一つとして鉄道路線を採用しており,個別の路線イメージの抽出自体を研究の主な目的とするものではない.

 第二に,この調査で得られたサンプル数で,分散分析によってエリアごとの得点の比較を行うためには,複数の路線を含む,ある程度大きなエリアに分け,各エリアのサンプル数を確保する必要があった.ただし,そのエリア分けを,路線イメージに関して著者が持っている事前の知識をもとに行ってしまうと,事前の知識によるイメージや先入観の影響を排除できないと考えた.したがって,路線イメージに関する事前の知識に影響されにくい基準でエリア分けをする目的で,本研究では地理的な方位を基にエリアを分割することとした.さらに,方位を基準とする原則のもと,隣接する路線との距離が近く独立したバッファエリアとすることが困難な場合,重複する複数のバッファをマージし一つのエリアとする処理を施して検討した結果,本分析で使用した地域分割が採用された.

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 この分析の方法により,個別路線の路線イメージを抽出することはできないが,本来の目的である,地域イメージに関する心理的評価が地域的差異として顕在するか,という関心についての示唆を得ることはできると考えた.

 また,バッファ半径の決定に際しては,その路線から徒歩で行き来できる地域を路線エリアとして抽出することを基本方針とした.さらに,この調査で得られたサンプル数や,東京23区の鉄道路線の位置関係の問題から,バッファ半径のとり方には現実的な制約があった.そのため,路線からの距離が徒歩圏として無理がない距離であることに加え,以下の二つの点を合わせて考慮し,1kmという半径を設定した.

 第一に,地域の評価の差異についての分析であるため,各バッファエリアはできるだけ重複しない独立したエリアとして抽出する方針とした.そのため,各鉄道路線から発生させたバッファどうしの重複ができるだけ小さくなるような大きすぎない距離でバッファ半径を設定する必要があった.第二に,分散分析などの統計分析を行うために,一つのエリアに含まれるサンプル数を確保するため,小さすぎないバッファ半径を設定する必要があった.この二つの条件(重複エリアの問題,サンプル数の問題)を考慮し,バッファ半径を増減して検討した結果,1kmの半径が適当であると考えた.1kmは住民や来訪者が徒歩で行き来できる距離といえ,上述の基本方針にも沿ったものであり,半径1kmのバッファエリアは,本分析における鉄道路線の沿線エリアとして抽出するのに妥当と判断した.

5) 住環境の物理的要素に対する評価も,社会-心理的評価と同様に(図2),重視度と満足度の2

時点の評価を測定した.住環境の物理的要素に対する重視度の質問項目は,「住宅選択の決定要因についてお答えください・・・現在の住宅を探していたときに,最も重視した項目に『10』をつけていただき,その項目と比較して,その他の項目はどの程度のウェイトだったかをお答

えください」という質問に対して,以下の下位項目それぞれについて1~10の数字を選ぶ10

点尺度となっている.[1 .住宅単体]住宅の広さ・間取り,構造,性能など,[2 .交通利便性]通勤地・通学地までの距離など,[3 .治安状態]凶悪犯罪やピッキング犯罪などの発生状況,[4 .医療施設の状況]総合病院・緊急病院があるかどうかなど,[5 .自然災害]地震・洪水等の自然災害の心配が少ない,[6 .保育環境]幼稚園・保育園の入りやすさ,または開園時間など,[7 .教育環境]小学校・中学校の進学率やいじめがないなど,[8 .街区の状態]地域活動が活発かどうか,住宅が密集していないかどうかなど,[9 .行政サービス]子育て助成金の有無,福祉サービスの充実度,文化施設の充実度など,[10 .自然環境]自然環境が豊かかどうか(緑の多さ,海や川などの有無),[11 .環境汚染]ぜんそく等の公害病にかかる人が多い,ダイオキシン等の土壌汚染など,[12 .商業集積]ケーキ屋やパン屋・おしゃれなレストラン・ホテル等の専門店が近くにあるかどうか.また,分析に際しては,点数が高いほど肯定的な回答となるように,得点を反転させる処置を施した.

6) 住環境の物理的要素に対する満足度の質問項目は,「以下の項目について住宅購入前の期待がどれくらい満たされていると思いますか.」という質問に対する回答である(1.非常に満足,2.まあ満足,3.やや不満,4.非常に不満,5.特に期待していなかった).項目は「住宅の設備や外観」,「近隣の環境や付近の施設(公共施設・商業施設など)の充実度」,「地域の自然環境」,「地域の安全性」,「交通の便のよさ」の5つである.5.特に期待していなかった,を選んだ回答者は分析から除外した.また分析に際しては,点数が高いほど肯定的な回答となるように,得点を反転させる処置を施した.

7) 本研究において「一般的価値観」とは,住環境の文脈に限らない日常生活全般に関わる価値観のことを指す.本研究で行った調査では酒井・久野(1997),酒井ほか(1998),酒井(2001)

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により開発された「価値志向性尺度」(堀・吉田,2001)から抜粋した質問項目を用いて一般的価値観を測定した.得られたデータから因子分析により社会,経済,審美,理論の4因子を抽出し,因子得点を分析に用いた(刀根・浅見,2007).表4の重回帰モデルには社会性を重視する価値観(社会価値観因子)が説明変数として含まれており,社会性志向と地域イメージ(高級・洗練感)満足度との関連が示唆される.なお,価値観因子得点に関して路線エリアによる平均値の有意な違いはみられなかった.一般的価値観は,地域的な影響を受けにくいものと考えられる.

8) デモグラフィック変数は強制投入,社会-心理的重視因子,物理的評価,一般的価値観因子はステップワイズで投入した.

9) 「高級・おしゃれな商業施設」は洋菓子店・ケーキ屋,おしゃれなレストランなど街の高級・洗練感に関連する項目群,「街の景観」は街の建物の外観などの景観に関連する項目群,「都市計画」は道路・街路の整備など都市計画に関連する項目群,「交通の便」は勤務地や最寄り駅までの距離などの交通の便に関連する項目群から構成される.

 物理的環境に関する詳細な内容での質問項目群は,事前に設定したいくつかの分類(交通利便性,安心・安全のくらし,街区・地域の状況,等)の下に詳細な内容の質問項目を立てるという形で構成され,質問票においても何の分類に関する質問であるかが明示されていた.複数の質問項目を分類し,まとめて尺度を構成する場合,探索的に因子分析を用いる場合もある.しかし,今回は事前に設定した分類を基に分析を行うことを想定した質問項目であり,分類がある程度明らかな内容の項目群であったことから,因子分析の結果ではなく,事前の分類と質問項目の内容から組み合わせを判断した.その際に,尺度の内的信頼性を確認するため,クロンバックのα係数を算出し,高い値が得られる組み合わせで尺度を構成し(表4),合成変数と

して加算得点を分析に用いた.10) 日常的商業施設に関する項目は表6に掲載し

た「夜遅くまでやっている居酒屋等の飲食店がある」,「おいしい定食屋・ラーメン屋がある」以外に,以下のものがあるが,これらは地域イメージ(高級・洗練感)満足因子との相関が低かった(相関係数0 .2未満)(「近くにコンビニエンスストアがある」,「衣料品の量販店がある」,「商店街が充実している」,「夜遅くまでやっているスーパーがある」,「スーパー等の日常品の買い物が便利である」).

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(2007年12月13日原稿受理,2009年5月19日採用決定, 2009年6月10日デジタルライブラリ掲載)