訴訟脱退について はじめに 1脱退制度の趣旨i 六五 …...訴訟脱退について...

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訴訟脱退に 六五四三二一 はじめに 1脱退制度の趣旨t 従来の議論の整理 脱退の効果 脱退の要件としての承諾 片面的参加と脱退 まとめ 一3~ はじめに 1脱退制度の趣旨i 訴訟脱退について 民訴法四八条は、参加人の参加により三面訴訟-を維持する必要がなくな 訴当事者の}方が脱退することを認めるものである。例えば、目的物の受寄者が が参加して自己の権利を主張する場合、またはある債権について訴えられた被告が、 とする主張する参加人が現れたため、債権の存在は自認しているが債権者が原告か参加人

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Page 1: 訴訟脱退について はじめに 1脱退制度の趣旨i 六五 …...訴訟脱退について 佐 野 裕 志 六五四三二一 まとめ片面的参加と脱退脱退の要件としての承諾脱退の効果従来の議論の整理はじめに

訴訟脱退について

六五四三二一はじめに 1脱退制度の趣旨t

従来の議論の整理

脱退の効果

脱退の要件としての承諾

片面的参加と脱退

まとめ

一3~

はじめに 1脱退制度の趣旨i

訴訟脱退について

 民訴法四八条は、参加人の参加により三面訴訟-を維持する必要がなくなった場合に、相手方当事者の承諾のもとに本

訴当事者の}方が脱退することを認めるものである。例えば、目的物の受寄者が占有回収の請求をしているときに寄託者

が参加して自己の権利を主張する場合、またはある債権について訴えられた被告が、自分こそがこの債権の債権者である

とする主張する参加人が現れたため、債権の存在は自認しているが債権者が原告か参加人であるか不明のため争っている

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場合などが挙げられる(2v。

 このような場合に、訴訟を続ける必要がなくなった当事者は四八条第一文の規定にしたがって訴訟から脱退でき、脱退

されたことによって訴訟に残された関係者が不測の不利益を被ることがないよう、残存当事者間の判決はその効果を脱退

者に及ぼすものとされ(同条第二文)、またこのような脱退を利用することにより訴訟手続きの錯綜を回避できるのみな

らず、紛争の実態に即した訴訟進行をなし得ることにもなるとされるのが訴訟脱退制度である(,〉。

 この訴訟脱退制度については、独立当事者参加論との関連ですでに多くの議論がなされ、後述するように、現在では、

参加者を含めた三者問での統一的紛争解決の維持・貫徹をはかる見解が有力に唱えられている。しかし、近時、このよう

な論理的帰結を重視する見解に対し、法が規定する要件である「相手方の承諾」を再評価する見解(、∀、さらにこの承諾に

脱退申出者に対する残存当事者の訴訟追行利益の保障という意義を与えようとする見解(,)が有力に主張され、さらに平成

一〇年から施行されている現行民事訴訟法では新たに片面的参加(従前の当事者の一方に対してのみ請求を立てる参加)

が認められたことにより、このような片面的参加の後に従前の当事者の一方が脱退した場合の規律といういままでにない

問題も検討する必要が出てきている。

 そこで、本稿では、これらの見解によって提起された問題を検討しながら、あらためて脱退制度の趣旨を検討し、あわ

せて片面的参加の場合の規律についても若干の考察を行うこととする〔6)。

一4一

二 従来の議論の整理

以下での検討に必要な限度で、従来の議論を整理しておく。

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訴訟脱退について

1 通説的見解の形成

 脱退により脱退者は訴訟の当事者ではなくなるが、残存当事者と参加者問の判決の効力は脱退者に及ぶ。従来の通説的

見解は、この脱退を参加人勝訴の場合にはその請求の認諾、相手方勝訴の場合には自己の相手方に対する請求放棄(原告

脱退の場合)またはその請求の認諾(被告脱退の場合)という性質を有するものとしてきた。すなわち、兼子一『判例民

事訴訟法』(一九五〇年)四一八頁で「参加人と相手方との間の勝敗の結果を条件として、脱退者が参加人及び相手方と

の間の訴訟につき、請求の放棄または認諾をする」とされた.,、のが、兼子・体系四一七頁で「参加人が勝訴すれば、自己

に対するその請求を認諾し、相手方が勝訴すれば、原告の場合はこれに対する自己の請求を放棄し、被告の場合は相手方

の請求を認諾する旨を予め陳述する」とさらに具体的に説かれ、通説的見解となっている(条件付放棄認諾説)。

 具体的に言えば次のようになる。(ア)悟称債権者XおよびZが訴訟に現れたため、いずれか勝訴した方に債務を履行

するとして被告Yが脱退する場合、この脱退はYによる条件付認諾と構成される。借称債権者ZとXのいずれか勝訴した

方に対して、Yは予告的に認諾することになる。そしてZまたはXの勝訴という条件成就により、Yの認諾によるZまた

はXの請求認容判決と同一の効力が生ずることになる。(イ)原告Xの脱退では、Xによる条件付請求の放棄または認諾

と構成される。参加人Zが相手方(被告)Yに対して勝訴するとZからXに対する請求が認諾されたことになり、またZ

がYに敗訴するとXからYへの請求が放棄されたことになる。そして参加人の利益を保障するこのような効果が生じるか

ら参加人の同意は不要とする(相手方の同意は必要)。

 この説によると、脱退者に対する執行力を比較的容易に認めることができ、また自己の地位を残存当事者間の判決の結

果に委ねるという脱退の実態からすれば脱退の性質を条件付での認諾あるいは放棄とすることが自然である.、、ことから、

通説化していく互。

一5一

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2 その後の展開

(1)通説的見解に対する批判

 しかしながらこの見解に対しては、次のような批判がある。まず①四八条は脱退者に対して「判決の効力」が及ぶと規

定しているが、この見解によれば脱退者に対して及ぶ効力は判決効ではなく、むしろ自ら(条件付で)なした請求の放棄

または認諾の効力ということになり(m)、法文と整合しない、②参加人の同意を不要とするのであれば、同様な理由から相

手方の同意も不要とすべきではないのか(。)。そして、とりわけ以下のように③放棄または認諾の効力が発生しない空白部

分が生じる点に厳しい批判が投げかけられた。

 (a〉被告Yの脱退で参加人Zから原告Xに対する請求が棄却された場合、ZからYへの請求には棄却と同じ効果が生

ずべきであるが、Yの脱退をXに対する予告的認諾と捉える限り、この効果は生じない(この効果をもたらす放棄はZが

なすべきことであり、Yがなし得ることではない)。(b)Zが勝訴した場合も、XY間の請求には棄却と同じ効果が生ず

べきであるが、この見解からは、同様に何らの効果も生じないことになる。

 (c)Xが脱退しZがYに敗訴した場合、ZからXへの請求も棄却となるべきであるが、XによるYに対する予告的放

棄という構成から、この効果は出てこない。(d)ZがYに勝訴した場合のXY間の請求についても、効果が生じないこ

とになろう(毘)。

 このような空白部分が生じることを効果の欠訣と捉え、ここを理論的に埋めるべく、次のような見解が唱えられた(Bv。

(2)小山説

 空白部分が生じることを初めて明確に指摘した小山昇「民訴七一条の参加訴訟における判決の内容と効力に関する試論」

(一九六九年)(同・著作集第四巻二〇七頁)では、独立当事者参加は三者問で論理的に統一的な判決がなされることから、

そこで一人が脱退したとしても、判決主文の判断から論理上統一的に帰結し得る範囲で脱退者に対する残存二当事者から

一6一

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訴訟脱退について

の請求に既判力が生じるとする(M、。前述の例((1)(a)~(dV)に照らせば次のようになる。

 (a)被告Yが脱退し、参加人Zが原告Xに対して敗訴する場合、ZからYへの請求にも論理的に棄却の効果が生じる。

(b)同じくYが脱退しZがXに勝訴した場合、XからYへの請求に棄却の効果が生じる。(c)Xが脱退しZがYに敗訴

した場合、ZからXへの請求に棄却の効果が生じる。(d)同じくXが脱退しZがYに勝訴した場合、XY間の請求につ

いて棄却の効果が生じる。

 このようにして兼子説の空白部分が埋められることになる。しかし、このように判決の効力の論理的拡張と捉えていく

と、逆に(a)(c)でのXからYへの請求について効力が生じないことになる(兼子説では、それぞれ認諾と放棄の効

力が生じている部分)。Z敗訴とはZが権利者ではないことであるが、しかしこのことから論理的にXが権利者であるか

否かは導き出せないからである。そして、脱退によりこのように相手方当事者にとっての不利益(空白部分)が生じるた

め、脱退には相手方の承諾が必要とされるとする(参加人にかかわる請求には常に判決がなされたと同じ効果が生じるか

ら参加人の承諾は不要)。

 論理的に首尾一貫した見解であり、旧七一条(現四八条)の目的を三当事者間の権利関係の合一確定に求め、脱退の要

件である「相手方の承諾」と脱退者に対する判決効を手がかりに構築された論理はきわめて緻密であるが、この見解の出

発点であった三者間での統一した合一確定は結局実現されないことになる(幡)。

(3)新堂説(旧説)

 兼子説と小山説の空白部分を埋めるため、両説を組み合わせた効果(残存当事者と参加人との聞の判決の論理的帰結に

加え、訴訟係属の消滅という一方の処分行為と引き換えに制度上脱退者に要求されるその認諾または放棄行為に基づく効

果)が生じるとするのが新堂幸司・民事訴訟法〈第二版補正版〉 (一九九〇年)五二一頁(以下、新堂・旧)である。

 (a)被告Y脱退の場合、参加人Zが原告Xに敗訴したときは、XY請求認諾と同じ効果がある請求認容判決に加え、

一7一

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判決の論理的帰結としてZY請求棄却判決があったものとし、(b)同じくYが脱退しZがXに勝訴した場合、論理的帰

結としてのXY請求棄却判決、ZY請求認諾と同じ効果のある請求認容判決があったものとして扱う。

 (c)Xが脱退しZがYに敗訴した場合、XY請求放棄と同じ効果がある請求棄却判決、論理的帰結としてのZX請求

棄却判決があったものとして扱う。但し、ZがYに敗訴した理由がXが権利者であるという場合には、XY請求棄却とな

らず、XによるYに対する再訴を許すべきとする。この場合の原告は、参加人の敗訴が権利が原告にあるという理由であ

る場合を除くという条件付で、脱退と引き換えに自らの請求を放棄したものと見るのが公平であるからであるとする。

(d)同じくXが脱退しZがYに勝訴した場合、XY請求放棄と同じ効果がある請求棄却判決、論理的帰結からZX請求

認容判決があったものと扱う。

 この説によれば、脱退とは、訴訟係属の消却を認めさせるかわりに、自らは相手方当事者に対して認諾または放棄をす

るという訴訟上の処分行為を中核とし、この行為に、参加人との関係を含めて、制度上合理的な効果-判決の論理的帰結

の貫徹と紛争の一回的解決を目指す効果ーが付与されるものと位置付けられる(同書五…二頁)。

 このような理解は、相手方および参加人の訴訟目的・参加目的を不当に挫折させないという考慮と脱退者の利害とを調

節した合理的な効果を工夫するという解釈論からもたらされるのであるが(同書五二一頁)、必ずしも同一の前提から出

発しない二つの見解を統合したために脱退そのもののイメ!ジが鮮明でなく(酋、またしたがってその論理構造そのものも

必ずしも明確ではないとの批判を受けている(π)。

(4)井上説とその影響

 井上・前掲論文「訴訟脱退と判決」『多数当事者訴訟の法理』二一二七頁では、脱退の論理構造を次のように明確に位置

付ける。①被告脱退の場合、脱退によって被告に対する訴訟係属が消滅するのではなく、被告に対する請求はなお残ると

構成する。そして被告は脱退により当事者としての防御権を放棄する、つまり訴訟追行者としての地位・負担から離脱し、

一8一

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訴訟脱退について

被告に対する請求に対する判断は、残存当事者である原告と参加人の訴訟追行・訴訟資料に基づいて行うとする。したがっ

て、被告脱退の後、訴訟資料から裁判所が原告の請求も参加人の請求も認められないとの心証に達した場合、被告に対す

る両請求とも棄却されることになる(同二五七頁)。②原告脱退には二つの類型があるとし、一つは、被告脱退の場合と

同じく防御権の放棄であり、請求は残るとする(残存当事者間の資料によって判断される)。これは原告・参加人間に実

質的な利害の対立のない場合に多い。他は、参加人の参加の結果、原告が被告に対する訴訟の維持をもはや必要としない

と感じる場合であり、訴えの取下げに準ずる。原告脱退の多くはこれにあたり、原告Xから被告Yに対する請求は遡及的

に消滅し何らの効果も残らない(参加承継の場合はこの構成が適切であり、結果として当事者の交替をもたらす)。XY

請求は消滅するが、参加人ZからのXに対する請求とYに対する請求はいずれも残り、この両請求は残存当事者であるY

とZの間の訴訟資料・証拠資料によって判決される。

 この見解は、当事者概念と請求を切り離し、「当事者なき請求」が残存するとして脱退の構造を論理的に明確に説明し

ている(田だめ、多くの影響をもたらした。新堂・新民訴七二六頁は、被告脱退の場合、この訴訟追行権放棄という構成し

たがう(B、。しかし原告脱退の場合のXY請求は、Zの勝訴敗訴にかかわらず常に請求棄却になるとする。これは、Zが勝

訴すればXの請求は論理的に棄却であり、Zが敗訴した場合は、論理的にはXの請求の帰結は決まらないが、XはYの主

張を争わなかったのであるから、請求棄却とすべきであるとするのである(・。.。一方、ZX請求は、ZY請求の判決の論理

的帰結としての判決がなされる.a、。

 このように、脱退の法的構造をめぐってはまだなお議論がなされているが、しかし、いずれにせよ以上の見解のように

判決の効力が脱退当事者に対して合理的に及んでいくとすると、脱退によって残存当事者(相手方と参加人)には不利益

が生じないことになる。したがって脱退について法文上要求されている相手方の承諾(同意)は理論的には不要となり、圏)、

本条第二文の判決効も理論上当然のことを注意的に規定したものと言うことになる。

一9一

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 しかし法文上要求されている脱退の要件は「相手方の承諾」であり、この要件を満たせば脱退できる(認)とされているに

もかかわらず、三面訴訟を判決効の拡張を通じて矛盾なく解決するということから、直ちに、明文で必要とされている相

手方の承諾を無意味あるいは不要としてよいかは問題となろう(盟)。以上の学説の流れとは逆に、脱退の要件である承諾に

重点を置いて脱退制度を検討する見解が表れた。

(5)上野説

 脱退制度が必要となるのは脱退当事者と残存当事者との間で紛争が蒸し返される恐れがない場合であるから、紛争の再

燃の恐れがないことを議論の出発点に置かなければならないとする。すると、承諾は、脱退者との間で紛争再燃の恐れが

あるかを判断する機会を残存当事者に与えるものであり、再燃の恐れありと判断するときに脱退を阻止できるようにした

ものである。それならばこれは残存当事者双方(相手方と参加人)に与えられなければならない。また脱退者に対して及

ぶ判決効は残存当事者と脱退者との間で例外的に紛争が再燃した場合の最低限の備えであり、残存当事者間の判決が脱退

者に拡張されること、つまり残存当事者と脱退者間の再訴で残存当事者間の判決で確定されたことが前提となることを意

味する。しかも、脱退により債務名義は作出されないことになったため執行力は生じず、既判力拡張があるにとどまると

する(%)。

一10一

3 検討

 以上のように、判決の効力拡張に重点を置いて理解する見解から承諾という要件に重点を置く見解まで様々な見解の対

立が見られるが、いずれの見解も条文の文言と完全に整合するわけではない(上野説も、承諾は相手方だけではなく参加

人からも必要としており、条文の文言に完全に忠実であるというわけではない)。脱退によりその相手方当事者に不利益

が生じないよう判決の効力が脱退者にも及ぶとされながら、にもかかわらず脱退に対して相手方当事者の承諾が必要され

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訴訟脱退について

る点をどのように考えるべきか。本条は旧七二条をそのまま引き継いだものであるが、旧法の立法担当者の見解も明確と

は言い難い。立法担当者の一人でもある松岡義正『新民事訴訟法注釈第二巻』(一九三〇年)三九四頁以下によると、承

諾は相手方のみならず参加人からも必要であるとし、判決効は既判力のみならず執行力も含むとしている。一方、長島毅”

森田豊次郎『改正民事訴訟法解釈』(一九三〇年)八五頁は、承諾は不要とし判決効は執行力を含むとする。立法担当者

自身あるいは立法に関与した者ですら条文に忠実な解釈をしているわけでもない(%)。条文との整合性はむろん重要である

が、しかし立法担当者ですら条文の文言通りの理解をしているわけではなく、したがって立法理由そのものが合理的に説

明できないならば、むしろ、脱退制度をどのようなものとして理解し、どのように制度を合理的に規律していくのかが重

要であろう。

 では、従来の通説(条件付放棄認諾説)はどうであろうか。この見解に対しては、判決の効力が及ばない空白部分が生

じることが効果の欠鉄であるとして批判がなされた。しかしながら、兼子理論は空白部分が生じることは承知の上でその

ままにしておいたのではないかと理解することもできる。例えば、被告Y脱退で参加人Zから原告Xへの請求棄却となっ

た場合、負けたZがYに再訴する可能性は高くはないであろうし、再訴の危険があるとしても、Yはそれを承知で自分の

責任で脱退したとも考えられるからである.署。兼子理論については、例えば、一部請求や参加的効力の当事者間への拡張

などに見られるように当事者の自己責任を強く打ち出している面がある〔28)。ここでも脱退者の自己責任が間われていると

するならば、空白部分が生じることは兼子理論への批判にはならないであろう。つまり、兼子理論は、理論として一貫し

ているのであり、空白部分が生じることをもって理論的に万全ではないという批判をなすことはあたっていないと思われ

る。むろん可能性が少ないとはいえ再訴の危険を自己責任という形で負担させることが制度として適切かは問題になろう

し、また脱退により不利益を受けない相手方に脱退に対する承諾を求める根拠は何かも間題となろう。

 脱退の要件として本条が要求する承諾に新たな意味付けを行った上野説は、現行法の解釈論として最も穏当であろうし、

一11一

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説得力もある(29)。ことに平成八年の民事訴訟法改正にあたっても、判決効の合理的拡張から相手方の承諾を重要視しない

見解が有力であったにもかかわらず、従来と同様に相手方の承諾を脱退の要件とする規律が行われたということも、この

見解を裏付けるものである。しかしこの説が重視する承諾にどれだけの意味を持たせることができるか。承諾をしないこ

とにより脱退を希望する当事者をそのまま訴訟にとどまらせることはできる。しかしその当事者が欠席すれば(通常は欠

席するであろう)攻撃防御を尽くすことはできなくなる。むろん、欠席によりその相手方当事者は自己に有利な判決(本

案判決)を欠席者に対して得ることができようが、それならば無理に訴訟にとどまらせないで、脱退を認めた上で判決の

効力を及ぼしていった方が合理的であろう。欠席であれば、その相手方当事者は欠席者に準備書面や証拠の写しなどを送

付しなければならず、裁判所も当事者として処遇しなければならないが、脱退であればこれらの手間は省かれる(・。v。もと

もと脱退制度は、争いのない当事者との間での無益な訴訟追行を省略することが目的であったはずである。

 結局、被告脱退と原告脱退との利益状況の違いを明らかにし、被告脱退の場合は被告にかかわる請求は残存すると構成

する見解(井上説)が、脱退制度を最も簡明に説明できると評価できる(訓)。

 では、原告脱退の場合も含め、以下、具体的な利益状態を検討してみる。

一12一

三 脱退の効果

 脱退により争う必要のない者から訴訟の負担を除去し、反面、相手方がこの脱退から不利益を受けないよう判決の効力

が脱退者に及ぶ。この脱退の効果を被告脱退の場合と原告脱退の場合に分けて検討する(両者は利益状況が大きく異なる)。

(1)被告脱退の場合

 被告に対する原告からの請求と参加人からの請求のいずれも残り、その審理のための訴訟資料・証拠資料は残存当事者

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訴訟脱退について

(原告・参加人)間において提出したものに限られる。脱退までの脱退者と相手方(原告)との間の訴訟資料・証拠資料

は、四七条により準用される四〇条により、残存当事者間の訴訟に利用できることになる(署。あたかも脱退がないかのよ

うに扱い(認、、比喩的に言えば、被告が残り沈黙しているかのような構造となる。したがって原告から被告への請求・参加

人から原告および被告への請求の三請求が鼎立し、四〇条が準用され、矛盾のない形で判決されることになる(判決の効

力が発生しない空白部分は生じない)(凹)。

(2)原告脱退の場合

 参加人から原告への請求については、被告脱退の場合と同様に考えればよい。原告脱退後もこの請求は残り、参加人か

ら被告への請求と同じく、被告・参加人問の訴訟資料・証拠資料によって審理・判決される。問題となるのは、原告から

被告への請求(本訴請求)である。前述のように、この部分については、見解が分かれる。本訴請求が残る場合と訴えの

取下げに準ずる(本訴請求は遡及的に消滅する)場合の二つの類型があるとし、多くは後者とする見解(井上説)と、こ

の部分は常に棄却とすべき(新堂説)あるいは放棄とすべき(伊藤(眞)説)とする見解である。

 井上説によると、前者の類型では請求が残り残存当事者間の資料により判断されることから、場合によっては、脱退原

告から被告への請求認容もあり得ることになる(鐘。しかし、これは被告に対する関係で適切であろうか。被告脱退の場合

と比べると、被告は請求を受けるのみであり、当然のことながら、自ら請求を定立してる訳ではない。被告は原告からも

参加人からも請求を受ける側であり、脱退して自分の地位を原告・参加人間の訴訟追行の結果に委ねるとしても、いずれ

か一方から請求を受けるか、双方の請求が棄却されるかである。つまり、他人間の訴訟に自分の地位を任せても、自らが

請求を受けることがあっても、何もしないで他人への請求が認められるということはない。これに対して、原告脱退の場

合の相手方となる被告の立場を考えてみると、両立しない請求を提示している二人の当事者(原告と参加人)の一方であ

る原告が脱退した後、対立当事者である参加人の請求を棄却に追い込んでも、なお、訴訟には現れていない脱退原告から

一13一

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の請求が認容されることがあり得るというのは、衡平を失するように思われる(36)。

 では、この部分は棄却あるいは放棄とすべきか。確かに、これで脱退の相手方である被告の利益は護られる。しかし、

画一的に常に棄却あるいは放棄とすべきであろうか。原告は、常に、今後は被告に対してこの請求ができなくなることを

承知で(覚悟して)脱退すると考えてよいであろうか。再び被告の立場に立って考えてみると、両立しない権利主張をし

ている二人の一方(原告Vが訴訟から脱退するということは、原告はもはや自分に対して権利主張しないという趣旨に理

解できよう。すると訴えの取下げかあるいは請求の放棄となるが、原告の立場からすれば、脱退後の参加人・被告間の訴

訟追行の結果、権利が原告にあるという理由で参加人の請求が棄却された場合に、被告への再訴の可能性が残る訴えの取

下げという構成を望むであろう。ここで被告が原告に対する関係でも本案判決(請求棄却判決)を得ておく利益(つまり

原告からの再訴を防ぐ利益)は、訴えの取下げに対する同意で保障されている。

 すると、この場合の原告脱退は、被告に対する関係では訴えの取下げ(したがって被告の同意が必要)と構成するのが

適切と思われる。そして、取下げに対する被告の同意が得られない場合、原告がなお訴訟からの離脱を望むならば、あら

ためて請求の放棄をなすことになろう(被告に対して同一請求することは遮断される(二六七条))。むろん当初から放棄

することも可能であり、したがって、原告から脱退の申出があった場合、裁判所は(必要に応じて釈明権を行使し)その

意思を明確に確認すべきである。

 以上のように考えると、原告の脱退は、被告に対する関係では訴えの取下げまたは請求の放棄となる。しかし、参加人

に対する関係では、原告への請求は脱退の後も残り、参加人・被告間の訴訟追行の結果にしたがって審理・判決されるこ

とになる(㎝)。

 原告脱退は、被告および参加人に対する関係でそれぞれ以上のような異なった意味を持つ。

一14一

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四 脱退の要件としての承諾

訴訟脱退について

 脱退の効果を三のように理解すると、被告脱退の場合、相手方である原告の承諾は不要と考えられる。一方、原告脱退

の場合、被告に対する関係では訴えの取下げと構成され、それに対する同意(二六一条二項)という意味で相手方(被告)

の承諾が必要となる(条文の文言からは多少離れるが)(認)。

 ところで、この「承諾」について、近時、脱退申出者に対する残存当事者の訴訟追行利益の保障という意味を与えよう

とする見解が有力に主張されている、・9)。残存当事者は脱退申出者との間で主張立証を行い、訴訟による論争を展開する利

益を有しており、この訴訟追行における側面を重視すれば、判決効が確保されるだけでは不十分であり、脱退には相手方

および参加人の同意が必要であるとする。

 訴訟追行面での利益、すなわち訴訟の相手方と抗争を展開していく利益という構想であるが、しかしこれを強調してい

くと任意的訴訟担当は不適法となりかねず璽、訴訟係属後の選定当事者の選定に伴う選定者の脱退(三〇条二項)にも相

手方の同意が必要ということになろう。そもそも相手方との抗争展開の利益を保障しようとするならば、欠席当事者(脱

退を申出ながら認められなければ欠席するのが通常)に対して抗争に応じることを強制する手段が必要であるはずである。

現行法は当事者の欠席や沈黙に対して不利益を課すが(二四四条・一五九条一項)、その出席や抗争を強制する手段は有

していない。以上のように考えると、やはり訴訟追行面での利益という構想、したがってそれを理由とした脱退に対する

承諾という着想は現行法とはうまく整合しないと思われる。

一15一

Page 14: 訴訟脱退について はじめに 1脱退制度の趣旨i 六五 …...訴訟脱退について 佐 野 裕 志 六五四三二一 まとめ片面的参加と脱退脱退の要件としての承諾脱退の効果従来の議論の整理はじめに

五 片面的独立当事者参加と脱退

 四七条は、参加人が原告か被告のいずれか一方に対して請求を立てて参加すること(片面的参加)を認め、しかも四〇

条を準用するとした。旧法下において片面的参加を準独立当事者参加として肯定してきた学説においても、この四〇条

(旧六二条)の準用については必ずしも意見の一致を見ていたわけではない(姐v。この四〇条の準用は理論的に多くの問題

を引き起こしているが(紹)、脱退についても困難な問題が生じる。場合を分けて検討してみる。

1 被告に対して請求を定立した参加

(1)原告脱退

 旧法下で、この場合の脱退を選定当事者制度を利用しての脱退とする見解がある§。原告から被告への請求を参加人が

訴訟担当することになるが、しかし、被告に対する関係で原告の地位(権利主張)と参加人の地位(権利主張)は相容れ

ない関係に立っている(覗)ことからすれば、現行法の下でこのように解することはやや困難ではなかろうか(菊)。

 参加人・原告間には請求が定立されていないが、被告の立場からすると、両立しない権利主張をしている二人の一方

(原告)が訴訟から脱退するのであるから、三(2)での検討と同様になろう。つまり、この場合の原告脱退も訴えの取

下げ(したがって被告の同意が必要)と構成すべきである(むろん請求の放棄も可能であり、脱退に際してその意思を裁

判所が確認すべき点も同様である)奪。

(2)被告脱退

 脱退に際しての被告の意思は、通常、原告の権利主張か参加人の権利主張のいずれかを認めるが、いずれの権利主張が

一16一

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正当であるかは原告・参加人間の訴訟追行の結果に委ねるという趣旨であろう。

 自称債権者間訴訟が典型例であるが、これならば原告と参加人問に争いがあるのが通常である。しかし、参加人が被告

のみに請求を定立して参加申立てをしてきた場合、現行法はこれを不適法とはしない(片面的参加を規定した以上、参加

人があえてこのような参加をしてきた場合に不適法とするわけにはいかない)。ここで被告が脱退するとどのような形に

なるか。訴訟に残る原告と参加人間では請求が定立されていない。そこで、このような請求なき当事者間で訴訟追行が強

制されることは許されないとして脱退を認めない見解がある(蟹)。しかし、被告が自分の立場を原告・参加人間の訴訟追行

に任せようとして脱退することを不適法とまでする必要があるのであろうか。脱退を認めないとしても、欠席することを

止めることはできない。欠席を続けても、四〇条が準用される結果、原告から被告への請求と参加人から被告への請求は

矛盾のない形で判決がなされる。それならば、被告の脱退を認め(相手方の承諾は不要)、その結果、原告から被告への

請求も参加人から被告への請求も残り、原告・参加人間の訴訟資料に基づいて審理判断されると考えられないであろうか

(被告の給付義務を明らかにする必要がある場合は判決主文中に掲げるべきである)。潜在的には原告・参加人間に争いが

あるが、ここには請求が立てられていないため、判決はなされない。しかし四〇条が準用され、三者間で矛盾のない判決

をなすことを法が命じているのであるから、原告・参加人間の関係もこの判決内容に拘束されると解すべきであろう。

一17一

訴訟脱退について

2 原告に対して請求を定立した参加

(1)原告脱退

 通常、被告・参加人間に争いはなく、ここで原告が脱退すると言うことは、原告は被告に対する関係でも参加人に対す

る関係でももはや争わないということになる。つまり、原告から被告への請求は取下げ(したがって被告の同意が必要)

または放棄、参加人からの請求も争わない(認諾)として訴訟全体が終了することになる。

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 被告・参加人間に争いがありながら、あえてこの問に請求を立てずに原告のみに請求を立てて参加、その後に原告が脱

退する場合(このような事態が実際にあり得るか、適切な例を想定できないが)、五1(2)と同様に、原告から被告へ

の請求と参加人から原告への請求が残り、形式的には争っていない参加人・被告間の訴訟資料に基づいて審理判断され、

参加人・被告間もこの判決内容に拘束される。

(2)被告脱退

 被告・参加人間に争いがなく、被告は自分に対する原告からの請求について、参加人に任せるという趣旨で脱退すると

考えられる(被告と参加人は、原告に対する関係で当面の利害が共通する)。つまり原告から被告への請求も、参加人か

ら原告への請求と同様、参加人・原告間での訴訟資料に基づいて審理され、四〇条が準用される結果、矛盾のない形で判

決される(ここでも、被告の給付義務を明らかにする必要がある場合は判決主文中に掲げるべきである。脱退に対しての

相手方(原告)の承諾は不要)。

一18一

六 まとめ

 脱退をめぐる従来の議論を整理してみたところ、原告が脱退する場合と被告が脱退する場合には利益状況において大き

な違いあり、また原告脱退については必ずしも一義的に捉えることができないことが明らかとなった。脱退に際して法が

要求している要件である相手方当事者の同意については、原告脱退の場合を被告との関係で訴えの取下げと構成し、その

限りで被告の同意が必要であるという構成を提示してみた。そして、このような立場から、いわゆる片面的参加における

従来の当事者の一方が脱退する場合を検討してみた。

 ほとんどが従来の議論をまとめただけであり、新たに付け加えられるべきものもないが、この分野に対してなにがしか

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の寄与ができれば幸いである。

訴訟脱退について

 注

(1) 独立当事者参加の構造については、少なくとも現在では三者間の対立・牽制を直視して三者問に三面的な一個の訴訟が成立する

  とする説がほぼ通説であることについては、高橋宏志「独立当事者参加について(一)」法学教室一二九号(一九九八年)一〇九頁

  [”高橋宏志『重点講義・民事訴訟法・下』(二〇〇四年)三六五頁]および同書引用文献参照。本稿ではこの問題には触れないが、

  このような構造論や形態論はもはや決め手にはならず(井上治典「独立当事者参加論の位相」『多数当事者訴訟の法理』(一九八一

  年)二六七頁、一天三頁、同「参加『形態論』の機能と限界」同書三〇七頁)、とりわけ片面的参加の立法化により三面訴訟という

  位置付け自体、従来ほどの意義を持ち得なくなる(河野正憲「当事者」塚原朋一ほか(編)『新民訴法の理論と実務 上』(一九九

  七年)一四七頁、一六八頁)ことは事実であろう。

(2) 兼子一『新修民事訴訟法体系〔増補版〕』(一九六五年)四一七頁(以下、兼子・体系)の挙げる例であり、井上治典「訴訟脱退

  と判決」前掲『多数当事者訴訟の法理』二三八頁や新堂幸司『新民事訴訟法・第二版』(二〇〇一年)七二五頁(以下、新堂・新民

  訴)など、多くの文献もこのような事例を出発点としている。

(3) この訴訟脱退制度は、ドイツ法の制度(現行ドイツ民事訴訟法では七五条~七七条)を承継した指名参加制度(旧々六二条)の

  適用範囲が限定的で利用しにくいものであったため、その適用範囲を権利主張参加にまで拡張する目的で大正一五年改正により立

  法され(旧七二条、松岡義正・新民事訴訟法注釈第二巻(一九三〇年)三九四頁)、現行法に引き継がれたものである。

(4) 上野泰男「訴訟脱退について」関西大学法学論集四二巻三・四号(一九九二年)九五七頁。

(5)井上治典「独立当事者参加」『多数当事者の訴訟』(一九九二年)五八頁、伊藤眞『民事訴訟法・補訂版』(二〇〇〇年)六〇一頁、

  新堂幸司ほか編『注釈民事訴訟法(2)』(一九九二年)二三二頁(池田辰夫)など。

(6) なおこのような脱退が問題となるのは、主として権利主張参加(四七条一項後段参加)の場合であり、また本条の前身である旧

  七二条制定時も、もっぱら権利主張参加に限定して規定されていた(大正一五年改正時の草案六七条ノニ)。いわゆる詐害防止参加

  (四七条一項前段参加)の場合については本条は触れていないし、法文上は権利主張参加のみに適用されるように読める(立法者は

一19一

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987(10)

(n)

(12)

詐害防止参加の場合を除外していたとするのが新堂ほか編・前掲注釈民訴(2)二二九頁(池田辰夫))。しかし、これは、脱退の

必要性は権利主張参加に認められることが通常多いことによるからであって、詐害防止参加においても参加人の地位の理論的前提

をなす権利者たる当事者について、この脱退を否定する必要はない(兼子一”松浦馨”新堂幸司”竹下守夫『条解民事訴訟法』(一

九八六年)二〇七頁(新堂)(以下、兼子ほか・条解)、新堂・新民訴七二五頁、菊井維大”村松俊夫『全訂民事訴訟法1・補訂版』

(一九九三年)四六三頁、秋山幹男”伊藤眞”加藤新太郎⊥・同田裕成”福田剛久”山本和彦『コンメンタール民事訴訟法1』(二〇

〇二年)四六三頁、上野・前掲論文九六一~二頁など)。もっとも、典型的な馴れ合い訴訟の場合に従前の当事者が脱退することは

かなり稀ではあろう(三ヶ月章『民事訴訟法(法律学全集)』(一九五九年)二二八頁は詐害防止参加の場合の脱退はほとんど考え

られないとし、同様の理由から斉藤秀夫『民事訴訟法概論・新版』(一九八二年)四七八頁、斉藤秀夫ほか編『注解民事訴訟法・第

二版(2)』(一九九一年)二七八頁(小室直人”東孝行)は本条の脱退を権利主張参加に限定する)。本稿では、この問題について

もこれ以上触れないこととする。

 大判昭一一・五・二二民集一五巻九八八頁についての評釈であり、この判決の内容については上野・前掲論文九七三頁以下参照。

 中野貞一郎ほか(編)『新民事訴訟法講義・補訂版』(二〇〇二年)四八O頁(井上治典)。

 三ヶ月・前掲書二二九頁、三ヶ月章『民事訴訟法・第三版』(一九九二年)二七二頁、斉藤・前掲書四七九頁、菊井”村松・前掲

書四六三頁、斉藤ほか編・前掲注解民訴(2)二八一頁(小室直人”東孝行)など。裁判例としては福井地判昭三七・三・九下民

集一三巻三号三六五頁。なおこの兼子説以前の学説の展開については上野・前掲論文九六四頁~九七三頁が詳細である。

 兼子・体系四一八頁「これは判決の効力そのものではなく、判決の結果によって現実化された脱退当時における請求の認諾又は

放棄に基づく効力と認むべきである」。

 兼子ほか・条解二〇八頁(新堂)、上野・前注論文九七六頁など。

 この(d)の場合のXからYへの請求については、兼子説では明確に述べられていない。理論的には棄却と同じ効果が生ずべき

であり、この棄却と同じ効果は脱退したXが放棄することによって生じ得ることからすれば、この場合は請求放棄が生じるとする

見解(斉藤ほか編・前掲注解(2)二八一頁)に対して、兼子説は請求の放棄または認諾としており、放棄および認諾とは言って

いないのでXY請求については効果は生じないと見るべきであるとする指摘がある(上野・前掲論文九八二頁)。この点は後述する

一20一

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訴訟脱退について

14 13(15)

21 20  19  18 17 16(22)

27 26 25 24  23

(注27およびその本文を参照)。

 空白部分がどこに生じるかは、勅使川原和彦「訴訟脱退者に対する判決の効力」民事訴訟法の争点〈第3版〉一一六頁参照。

 同書二一〇頁「参加人と残存当事者の訴訟の判決の主文で判断された事項で、三者に矛盾なく合一に確定すべかりし事項につい

ては、たとい一人が脱退しても、脱退者に対しても右判断が既判力を有するというのでなければならない」。

 もっとも、後に小山昇『民事訴訟法・五訂版』(一九八六年)五〇四頁以下では脱退の趣旨から(a)ではXY請求認容、(c)

ではXY請求棄却の効果がそれぞれ必然的に生ずるとする。

 井上・前掲「訴訟脱退と判決」『多数当事者訴訟の法理』二四九頁。

 高橋宏志「独立当事者参加について(三)」法学教室二一二号(一九九九年)一〇四頁〔”高橋・前掲書四〇三頁]。

 高橋・前注一〇四ー五頁[“高橋・前掲書四〇四頁]。

 他に新堂ほか編・前掲注釈民訴(2)二一二一頁(池田辰夫)、林屋礼二『新民事訴訟法概要』(二〇〇〇年)四〇三頁など。

 他に伊藤眞・前掲書六〇二頁は、原告脱退を請求の放棄であるとする。

 この他に、脱退により脱退者に対する訴訟は終了し三面訴訟から二面訴訟へ変化するが、脱退者は自己にかかわる訴訟について

残存相手方と参加人に訴訟信託を行ったと構成し、そこで判決効が及ぶとする見解が主張されている(櫻井孝一「訴訟脱退」小山

昇ほか(編)『演習民事訴訟法・新版』(一九八七年)七一四頁、小林秀之『プロブレム・メソッド・新民事訴訟法』(一九九八年)

四五六~七頁など)。

 井上・前掲論文「訴訟脱退と判決」『多数当事者訴訟の法理』二五四頁、新堂・新民訴七二八頁、菊井”村松.前掲書四六三頁な

ど。

 小山・前掲著作集第四巻二〇九頁参照。

 谷口安平『口述民事訴訟法』(一九八七年)三〇一頁。

 上野・前掲論文九八九~九九七頁、他に松本博之“上野泰男『民事訴訟法〔第3版〕』(二〇〇三年)五九五頁。

 詳細は上野・前掲論文九六九~九七三頁参照。

 佐上善和『民事訴訟法・第二版』(一九九八年)二九一頁、高橋・前掲法学教室二一二号一〇六頁マ高橋・前掲書四〇六頁]

一21一

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31 30 29 2834 33 32(35)

(36)

「必要最小限のところは放棄または認諾という構成で規律する、現実性の少ない再訴の危険は脱退者が負う」。

 谷口・前掲書三三八頁参照。

 高橋・前掲法学教室二一コ号一〇五頁[”高橋・前掲書四〇五頁]。

 高橋・前注一〇六頁[“高橋・前掲書四〇八頁]。

 なお、脱退者の請求が残存当事者と参加人に訴訟信託なされたとする構成(前注21)は、自己の請求と相対立する(矛盾する)

請求を定立している当事者に訴訟担当するということになり(勅使川原・前掲論文二六頁、高橋・前掲法学教室二二一号一〇七

頁[”高橋・前掲書四一〇頁])、従来の訴訟信託(訴訟担当)の枠組みで説明することは困難である。

 菊井”村松・前掲書四六四頁、秋山ほか・前掲書四六四頁。

 新堂ほか編・前掲注釈民訴(2)二三四頁(池田辰夫)。

 既判力のみならず執行力も生じるので、それを明示する債務名義が必要となる。かつては何を債務名義にするかをめぐって議論

があったが(勝訴判決と脱退の際の口頭弁論調書(認諾調書)を結合したものとする説(釘沢一郎「参加・脱退等について」近藤

完爾ほか(編)『民事法の諸問題1』(一九六五年)二九頁)、脱退調書を認諾調書として作成し、残存当事者間の勝訴判決を条件成

就の証明として取り扱うとの説(菊井”村松・前掲書四六六頁、秋山ほか・前掲書四六六頁、右田尭雄「訴訟脱退者に対する強制

執行」兼子一編・実例法学全集民事訴訟法(上)(一九六三年)一〇一頁)、詳細は右田論文参照)、脱退者に対する請求が残るとい

う構成の下では、判決主文中に脱退者への給付義務を掲げることが最も合理的である(新堂・新民訴七二八頁、高橋・前掲法学教

室二一二号一〇五頁[”高橋・前掲書四〇六頁])。もっとも、脱退者に対する強制執行の例はなく、以上は必ずしも実際の必要性

のある議論ではなかったとする指摘もある(上野・前掲論文九七八頁)。

 高橋・前注一〇六頁[U高橋・前掲書四〇八頁]。もっとも、その後、井上治典『多数当事者の訴訟』(一九九二年)八一一頁では、

原告脱退には、訴えの取下げ、請求の放棄、選定当事者に委ねるという三類型があるとする説へ展開した(被告脱退の場合は、訴

えの取下げの誘引、請求の認諾、防御権放棄の三類型があるとする)。

 原告脱退の場合、原告から被告への請求は常に棄却すべきとする新堂説、放棄となるとする伊藤(眞)説の背景にはこのような

考慮があるのではないか。

一22一

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訴訟脱退について

41 40 39 38 3743 42(44)

46 45(47)

 ここで脱退原告に対する給付義務を明らかにする必要がある場合は、前注34と同様に判決主文中に掲げるべきである。

 いずれの場合も、参加人の承諾は必要ない。大判昭一一年五月二二日(前注7)。

 前注5

 高橋・前掲法学教室壬二号一〇六頁[旺高橋・前掲書四〇九頁]。

 新堂・旧五二〇頁は準用できないとして当然の補助参加の理論の駆使を説き、一方、井上・前掲「独立当事者参加」『多数当事者

の訴訟』三八頁、奈良次郎「独立当事者参加について(八)」判例評論二二〇号(一九六九年)二頁(“判例時報五七二号一〇〇頁)

一〇頁、新堂ほか編・前掲注釈民訴(2)二〇三頁(河野正憲)は準用を認めるべきとしていた。

 高橋・前掲法学教室二一九号二四頁了高橋・前掲書三七六⊥二八O頁]。

 新堂・旧五二四頁、新堂ほか編・前掲注釈民訴(2)二四〇頁(池田辰夫)、つまり当然脱退となり、相手方の承諾は制度的にも

不要となる。

 この故に四〇条が準用される、竹下守夫”青山善充H伊藤真(編集代表)『研究会・新民事訴訟法』(ジュリスト増刊)(一九九九

年)七八頁における竹下発言。

 新堂・旧五二〇頁は、前述の通り四〇条の準用を否定する立場である。

 なお、参加承継の場合であるならば、選定当事者制度を利用しての脱退という構成は理解できなくもないが(相容れない地位に

立つ原告と参加人が三〇条に言う「共同の利益を有する」者になるのか問題となろうが)、むしろ、そもそも訴訟承継の一場合であ

る参加承継を独立当事者参加という形で立法することが適切であるのかを検討すべきであろう。平成八年の民事訴訟法改正にあた

り、独立当事者参加のルートを通らず、参加承継も引受承継と同様に許可で認める案が検討されたが、実現しなかった。上北武男

「訴訟参加及び訴訟引受け」三宅省三”塩崎勤”小林秀編『新民事訴訟法大系1』(一九九七年)一九七頁、特に二〇三頁参照。

 勅使川原・前掲論文一一七頁。

一23一