陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(uh-x)開発事...

35
陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事業 の企業選定に係る事案に関する調査報告書 平成25年7月31日 防衛省

Upload: others

Post on 25-Jun-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事業

の企業選定に係る事案に関する調査報告書

平成25年7月31日

防衛省

Page 2: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性
Page 3: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

目次

Ⅰ はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

Ⅱ 調査・検討の体制及び状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

1 調査・検討の体制及び目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

2 調査・検討の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

Ⅲ 不正の態様・不正が行われるに至った経緯・・・・・・・・・・・・・・・・5

1 不正の態様・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

2 不正が行われるに至った経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

(1) 平成16年~平成23年度概算要求(平成22年8月)・・・・・・・・・6

(2) 平成23年度概算要求から企画競争方式の決定(平成23年2月)・・・9

(3) 企画競争方式での開発担当企業選定作業(平成23年2月)から

契約締結(平成24年3月)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

Ⅳ 不正が行われた動機・背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

1 UH-X開発事案・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

(1)航開1室の関係者について・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

ア 開発担当者の業務姿勢やコンプライアンスに対する認識不足・・15

イ 企業選定の際に技術面よりも価格面での評価が重視されるのではな

いかと危惧したこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

ウ 開発着手が当初予定より遅れていた状況で航開1室の担当者が更な

るスケジュールの遅延を恐れたこと・・・・・・・・・・・・・・・・18

エ 開発事業の仕様書等作成業務の困難性・・・・・・・・・・・・・・18

(2)プロジェクトの進め方について

ア 仕様書等の作成過程において仕込みが行われていたことが技本内部

やIPTによって発見しきれなかったこと・・・・・・・・・・・・・19

イ UH-Xの取得要領検討過程でOH-1ベースとUH-1Jベース

での国内の生産技術基盤の維持・発展等への影響・効果について十分

な検討がされていなかったこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

Page 4: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

(3)契約相手方について(川重も不適切であると認識しながら航開1室に

協力したこと)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

2 研究開発に係る調達業務に関係する防衛省職員や契約相手方企業の意識

等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

(1) 仕様書等の作成における業者からの支援・・・・・・・・・・・・・・21

(2) 仕様書等の作成において支援を受ける業者の選定方法・・・・・・・・22

(3) 支援の態様・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

(4) 支援事業者選定に関する意識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

(5) 契約相手方からの支援の態様・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

Ⅴ 再発防止策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

1 事業者との接触の適正化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

(1) 接触要領の明確化・徹底・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

(2) 事業者との接触時の記録の徹底・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

2 IPTによる一元的な事業管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

3 仕様書等策定における適正性の確保・・・・・・・・・・・・・・・・・27

(1) 仕様書等策定における公正なプロセスの確立・・・・・・・・・・・・27

(2) 仕様書等作成業務における支援体制の整備・・・・・・・・・・・・・27

4 技本内の業務プロセスの改善・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

(1) 潜在的競合事業者の早期把握・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

(2) 開発部局と研究所の連携の強化・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

(3) 研究開発業務各段階におけるコンプライアンス教育等の徹底・・・・・29

5 指名停止措置要領(案)への反映・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

Ⅵ 終わりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

Page 5: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-1-

Ⅰ はじめに

平成24年4月頃、防衛省は、平成23年度から行っている陸上自衛隊新

多用途ヘリコプター(以下「UH-X」という。)開発事業に関し、その受注

過程において、防衛省から流出してはならない文書が特定の企業に手交され

ている等の不正が行われているとの情報を得た。

防衛省は直ちにUH-X開発事業に関する内部調査に着手。調査の結果、

当時、技術研究本部技術開発官(航空機担当)付第1開発室(以下「航開1

室」という。)に在籍していた陸上自衛官数名が、UH-Xの開発に係る企画

競争(注1)において川崎重工業(株)(以下「川重」という。)の提案が採用さ

れるよう、平成22年11月頃から平成23年7月頃までの間、同社社員に

対し、防衛省において作成中であった企画競争の仕様書(注2)案、技術提案要

求書(注3)案及び評価基準書(注4)案、さらに企画競争に参加を予定していた

富士重工業(株)(以下「富士重」という。)が作成した調査書(注5)の一部を

提供するなどの事実を確認した。

防衛省は、上記調査結果を東京地方検察庁に説明。平成24年9月4日、

東京地方検察庁は、防衛省の関係か所を捜索した。また、同年9月27日、

防衛省は、かつて航開1室に所属し、UH-X開発事業を担当していた陸上

自衛官を、官製談合防止法に違反する行為を行ったとして、東京地方検察庁

に刑事告発した。同年12月20日、陸上自衛官(2佐)2名が官製談合防

止法違反の罪で、東京簡易裁判所に略式命令請求され、翌年1月18日には、

東京簡易裁判所が、当該陸上自衛官(2佐)2名に対し、官製談合防止法違

反の罪で、それぞれ罰金100万円を科した(じ後、当該略式命令が確定)。

こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ

リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

に問題があること等を踏まえ、平成25年2月に、当該契約が無効であること

を川重に通知した。同年3月には、UH-X開発事業の中止を決定した。

また、平成24年12月20日に陸上自衛官(2佐)2名が略式命令請求

されたことを受け、防衛省は、防衛大臣が指名する防衛大臣政務官(平成2

5年2月5日 左藤防衛大臣政務官が委員長として指名)を委員長とする体

制(陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事業の企業選定に係

る事案調査・再発防止検討委員会(以下「調査・検討委員会」という。))を

立ち上げ、事実関係の調査、背景・原因の解明及び再発防止策の検討を行っ

てきた。

Page 6: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-2-

今般、本事案に係る調査結果及び再発防止策を取りまとめたので、ここに

報告するものである。

防衛省としては、本報告書を踏まえ、今後同様の事案を決して起こさない

という強い決意の下、再発防止策の着実な履行及び、誠実かつ公正な装備行

政の実施に努めてまいりたい。

注1 企画競争:複数の者に提案書等の提出を求め、その内容について審査し、

契約の相手方として最適な者を特定する方法。 注2 仕様書:調達しようとする装備品等の形状、構造、品質、性能などを記載

した文書。UH-Xについては、技本において作成。 注3 技術提案要求書:開発担当企業を企画競争により選定するに当たり、企業

に対し、性能、所要経費、後方支援等に関する資料を含めた提案書の提出を

求める文書。UH-Xについては、技本及びIPTの支援を得て装施本にお

いて作成。 注4 評価基準書:開発担当企業を選定するに当たり、企業から提出された提案

内容の分析・評価の基準を定めた文書。UH-Xについては、技本及びIP

Tの支援を得て装施本において作成。 注5 調査書:研究及び開発を実施する上で、試作事業等を具現化するために必

要な事項のうち、企業から聴取しなければわからない事項を、契約を通じて

取得したもの。

Page 7: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-3-

Ⅱ 調査・検討の体制及び状況

1 調査・検討の体制及び目的

調査・検討委員会は、UH-X開発事業の企業選定に係る事案の調査や

再発防止策の検討を実施するため、別添資料第1に示すとおり、左藤防衛

大臣政務官を委員長、事務次官を副委員長とし、また、事案の調査の公正

性・厳正性、再発防止策及び今後の研究開発業務のあり方の検討の専門性

を確保するため、部外有識者も参画する体制とした。 また、委員会の下に審議官(総合取得改革・監査担当)を長とした作業

チームを設け、左藤防衛大臣政務官、部外有識者等の委員の指導の下、こ

の作業チームを中心に調査・検討することとした。 2 調査・検討の状況

平成24年12月21日に開催された第1回調査・検討委員会において

は、今般の事案に関する事実関係の調査や再発防止策等の検討の進め方を

討議するとともに、事案解明の一助とするため、防衛監察本部をはじめと

する関係機関の協力を得て、研究開発に係る調達業務に関係する職員や研

究開発事業の契約相手方企業を対象としたアンケートを実施することとし

た。 第1回調査・検討委員会開催以降、作業チームは、航開1室に保管され

ていたUH-X開発事業に関する当時の関係資料を調査・分析するととも

に、当時の航開1室と業務上やりとりのあった内部部局(以下「内局」と

いう。)、陸上幕僚監部(以下「陸幕」という。)及び技術研究本部(以下「技

本」という。)等の関係者を対象にしたヒアリングを実施するなどして、事

実関係の調査を実施した。また、防衛監察本部は、平成25年2月から3

月にかけて、研究開発に係る調達業務に関係する職員約1,900名及び

研究開発事業の契約相手方24社(29事業部)を対象としてアンケート

を実施した。 同年5月21日に開催した第2回調査・検討委員会においては、それま

での事案の事実関係調査や上述のアンケート結果の報告を受けて議論し、

じ後、航開1室の関係者が不適切な行為を行った動機・背景に基づき、今

回の事案を教訓とした装備品の研究開発業務の改善策及び再発防止策等に

ついて検討を進めることとした。 同年7月10日に開催した第3回調査・検討委員会において、これまで

Page 8: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-4-

の調査・検討委員会での議論や作業チームでの調査・検討作業の結果を踏

まえ、今回の事案を生起させる一因となった装備品の研究開発業務の見直

しも含めた同種事案の再発防止策を取りまとめた。 なお、UH-X開発事業の企業選定に係る事案に関与した当省関係者は、

当時、航開1室に所属していた5名である。本報告書において、職名につ

いては、原則として航開1室において不正な行為が行われた時点のものを

記述している。職名にアルファベットで記述した者については、下表のと

おりである。

役職等 在職期間 航開1室長 20. 4. 1 ~ 23. 7.31 航開1室員A 20. 8. 1 ~ 24. 3.22 航開1室員B 20. 8. 1 ~ 航開1室員C 19. 3.23 ~ 23. 4.18 航開1室員D 23. 4.19 ~ 24.12.24

Page 9: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-5-

Ⅲ 不正の態様・不正が行われるに至った経緯

1 不正の態様

会計法(昭和22年法律35号)に規定されているとおり、国が契約を

締結する場合、競争に付することが原則である。これは、国が入札又は競

売の方法によって、入札者又は競売参加者各自の競争心を利用し、国に最

も有利な者と契約することを目的としているからである。このような仕組

みが効果を上げるようにするためには、競争が公正に行われなければなら

ない。

平成18年に財務大臣から発出された「公共調達の適正化について(財

計第2017号。18.8.25)」では、公共調達については、競争性及

び透明性を確保することが必要であり、いやしくも国民から不適切な調達

を行っているのではないかとの疑念を抱かれるようなことはあってはなら

ないとされ、競争入札に付する場合の留意事項として、仕様書は、競争を

事実上制限するような内容としてはならないことを明確に規定している。

防衛省においても、「新規の装備品等又は役務を随意契約により調達する

場合における競争性の確保について(通達)(防装管第3590号。11.

7.1)」を定め、仕様書作成にあたっての留意事項として、仕様が未確定

なため、企業等からの提案を受けて仕様を確定する必要があるときは、複

数の企業等からの提案を徴した上で仕様書を作成することとし、また、平

成18年には、経理装備局長が「公共調達の適正化を図るための措置につ

いて(通知)(経装第11020号。18.12.7)」を発出して上記趣

旨を再度周知し、注意喚起してきた。さらに、「調達等関係業務に従事して

いる職員が防衛省の退職者を含む業界関係者と接触する場合における対応

要領について(通達)(防経装第8303号。19.8.30)」において

も、調達等関係業務に従事している職員と業界関係者との接触時の留意事

項として業界関係者と接触する場合は、特定の事業者等が不当に有利又は

不利になる情報を漏えいすること、合理的な理由なく仕様書に特定の事業

者等しか受注できないこととなる趣旨の記述をすることなど特定の事業者

等が不当に有利又は不利になる取り計らいをするような公共性を害する行

為をすることがないよう留意する旨、再度徹底を図ってきた。

航開1室では、UH-Xの機種候補としては複数の企業が提案した機種

があり、その企業選定が企画競争で行われると認識していたにもかかわら

ず、UH-Xとして開発する後継機種には、技本で過去に開発した陸上自

Page 10: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-6-

衛隊観測ヘリコプター(OH-1)の技術が継承でき、また、他の候補機

種(富士重が提案する予定であった陸上自衛隊多用途ヘリコプター(UH

-1J)ベースの改造開発機)よりも技術的に優れているとの理由で、川

重が提案する予定であったOH-1ベースの改造開発機が選定されるべき

と独自で判断した。

そして、航開1室では、川重が企業選定において選ばれるようにすべく、

航開1室長の下、様々な指示が出され、そして、航開1室員Aが中心とな

って、企画競争の実施前に川重に仕様書等(仕様書、技術提案要求書、評

価基準書)の案を手交し、チェックを依頼し、また場合によっては川重か

らの要望を取り入れ案文を修正する等して、OH-1ベース開発案(以下

「川重案」という。)では実現できてもUH-1Jベース開発案(以下「富

士重案」という。)では実現困難と見込まれる内容を盛り込む作業(以下「仕

込み」という。)が行われた。また、時には、競合他社(富士重)の営業秘

密も含まれる調査書(改造開発案部分)を手交し、富士重には答えられな

い内容で評価に差がつくような技術提案要求書案及び評価基準案作りを依

頼した。

このような行為は、企画競争の公正性を根本的に損なう行為であり、ど

のような理由をもってしても正当化できない不適切なものであったと判断

している。

2 不正が行われるに至った経緯

(1)平成16年~平成23年度概算要求(平成22年8月)

UH-Xについては、UH-1Jの後継機として、平成16年末に策

定された中期防衛力整備計画(平成17年度~平成21年度)の細部計

画(以下「細部計画」という。)に、平成20年度開始予定の開発試作事

業として盛り込まれた。この開発試作事業の担当部署であった航開1室

は、平成16年6月~12月頃、この開発試作事業を細部計画に盛り込

む作業を行っていたが、当時、陸幕と調整しつつ、OH-1をベースと

して改造開発することを念頭に作業を実施していた。 また、平成18年4月、陸幕において、UH-Xについて取得方法に

ついての検討が行われ、国産開発案(OH-1をベースとした機体(以

下「OH-1ベース」という。))と導入候補案(UH-1Jと同シリー

ズの機体)を対象機種として比較検討した結果、ライフサイクルコスト

がやや安価であること等を理由に国産開発案とすることで結論を取りま

Page 11: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-7-

とめた。このように、平成16~18年頃は、技本及び陸幕ともOH-

1をベースとしたものを改造開発することを前提に検討作業を実施して

いた。 一方、平成19年2月頃、UH-1Jの主契約企業であった富士重は、

UH-Xの後継機種として、UH-1J改造型の構想を、内局をはじめ

とした防衛省の関係部署に対し提案を行っていた。 このようなUH-Xの動きとは別に、防衛省においては、平成18年

1月に防衛施設庁発注の建設工事に係る入札談合事案が生起した。また、

平成18年8月には財務省から各省庁に対し、「公共調達の適正化につい

て(財計第2017号。18.8.25)」が発出され、入札及び契約に

係る手続きの一層厳格な取扱い等が求められた。このため、じ後、防衛

省においては、装備品の調達に当たり、より公正性・透明性を確保する

必要があるとの意識が高まっていった。 陸幕は、当初、UH-XはOH-1ベースとして改造開発を行うこと

としていたが、UH-1J改もUH-Xの要求性能を満たし、UH-X

の候補としてあり得たことから、平成19年3月~8月、陸幕において

は平成20年度UH-X開発事業の概算要求を技本に求めることを見送

り、引き続き、OH-1ベースの開発事業の必要性、妥当性を検討する

こととなった。

平成19年3月、今回、本事案に関わった航開1室員Cが、航開1室

に着任、また、平成20年4月、航開1室長が同室に着任した(同年3

月から航開1室に室員として在籍)。両名とも着任した当時は、航開1室

ではOH-1ベースの開発試作を行うことを前提に概算要求の準備作業

を行っており、両名ともその作業を引き継いだ。 その後、陸幕では、OH-1ベースでUH-Xを改造開発することで

再度意見集約がなされ、それを受け、航開1室は、平成21年度概算要

求すべく作業を行った。しかしながら、平成20年7月、平成21年度

概算要求事業の検討を行う防衛政策局の審議において、開発の必要性が

見いだせないこと、OH-1ベースでの開発は公正性、透明性、競争性

を欠くとのことで、UH-X事業の概算要求が見送られた。 航開1室では、従前から、概算要求の準備作業も含め、UH-Xの省

内審議の検討作業において、川重とのみ打ち合わせを実施してきたが、

この頃、概算要求見送りの過程において、内局から要求性能を満たす既

Page 12: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-8-

存機種が存在しているにも関わらず、なぜ官側で開発を行う必要がある

のかと指摘されていたことから、航開1室において、UH-Xの要求性

能の明確化を行うための作業についても、川重と打ち合わせを実施して

いた。 平成20年8月、今回、本事案に関わった航開1室員A及び航開1室

員Bが航開1室に着任した。両名とも、当時航開1室で行われていた検

討作業をそのまま引き継いだ。

平成21年7月、平成22年度概算要求事業の検討を行う防衛政策局

の審議において、開発案と要求性能を満足する既存機種(改修を含む)

と比較検討したものの、開発案の優位性を確認できず、UH-X事業の

概算要求が見送られた。 平成21年8月、平成23年度概算要求ではUH-Xについて、開発

又は既存機種の導入のいずれかを決することができるよう、内局、陸幕、

技本、装備施設本部(以下「装施本」という。)の関係部署が集まって、

じ後、検討が開始された。なお、検討に当たっては、各関係部署が、O

H-1ベースありきでの検討との誤解を受けないように留意しながら作

業が行われた。 平成22年4月、陸上自衛隊新多用途ヘリコプター検討会議(注6)及び

同IPT(注7)が設置(22.4.23)され、UH-1Jの後継機につ

いて検討を実施した。同年7月、空中機動力整備の観点、ライフサイク

ルコストの観点及び生産技術基盤の観点から、国内開発機3機種4提案

(川重、三菱重工業(株)及び富士重(新規開発案及び改造開発案))が

要求性能を満足するものとされ、UH-Xについては国内開発を進めて

いく方向で関係者間の意思が共有された。同年8月、UH-X開発事業

が平成23年度概算要求された。 注6 検討会議:新多用途ヘリコプターの取得に関し、陸上自衛隊の将来の航空

機体制、要求性能、ライフサイクルコスト、生産技術基盤等の総合的な観点

から評価を実施の上、技術開発の結果に基づいて行う取得及び海外類似機の

直接取得の妥当性を審議。審議結果に基づき取得方法の案を作成。

構成委員:防衛政策局長(議長)、経理装備局長、技術監、審議官(総合

取得改革担当)、陸幕防衛部長、陸幕装備部長、技本事業監理

部長、技本技術開発官(航空機担当)、装施本副本部長(管理

担当・航空機担当)

Page 13: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-9-

注7 IPT:Integrated Project Team の略で、検討会議を補佐し、緊密な連絡

調整及び組織横断的な検討を実施。

主要構成員

内局:防衛計画課長(座長)、装備政策課長、航空機課長(座長)、技術

計画官

陸幕:防衛課長、情報通信・研究課長、装備計画課長、航空機課長、開

発課長

技本:管理課長、計画官、副技術開発官(航空機担当)

装施本:調達企画課長、原価管理課長、航空機第2課回転翼室長

(2)平成23年度概算要求から企画競争方式の決定(平成23年2月)

平成22年9月、航開1室においては、UH-Xの仕様書の検討を開

始した。仕様書の検討に当たっては、川重の担当者と相談しながら、川

重案にとって実現可能な内容となるよう調整するとともに、富士重案と

の差異についても議論していた。 また、航開1室長は、航開1室員A、航開1室員B及び航開1室員C

に対し、仕様書の検討に当たり、技術的に分からないところは、川重に

聞くようにと指示していた。 平成22年11月以降、航開1室は、川重と相談をしながら、仕様書

の内容について、後々の企業選定において、川重が選定されるようにす

るために、仕込みを実施していた。ただし、明らかに富士重はずしと見

られるものにならないように留意しつつ実施した。 また、航開1室は、この当時、OH-1ベースで開発を行うか、UH

-1Jベースで開発を行うかを決める選定プロセスがどのような手続き

になるのかは決まっていなかったものの、内局が選定プロセスとして企

画競争を行うべきと主張していたことから、その選定プロセスに必要と

思われた技術提案要求書や評価基準書を作成する作業を開始した。 平成22年11月以降、航開1室員Aは、川重の担当者に自分が作っ

た技術提案要求書や評価基準の骨子が記述された文書を川重の担当者に

手交し、川重案が優位になる内容にするためのコメントを依頼するとと

もに、技本が取得していた富士重の調査書の一部についても手交してい

る。 平成22年11月から平成23年1月までの航開 1 室と川重のやりと

りの詳細等は次のとおりである。

Page 14: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-10-

【航開1室と川重とのやりとりの詳細等】 ・ 平成22年11月頃、航開1室員Aは、自分が作った技術提案要求

書や評価基準の骨子が記述された文書を川重の担当者に手交し、川重

案が優位になる内容にするためのコメントを依頼。 ・ 12月10日頃、航開1室員Aは、川重の担当者に技術提案要求書

や評価基準の骨子が記述された文書を手交。 ・ 12月28日頃、航開1室員Aは、航開1室内で、川重の担当者に

技術提案要求書の案を手交。 ・ 平成23年1月18日又は19日、航開1室員Aは、14日のIP

Tにおいて、富士重のものに比し川重の調査書に記述された経費の妥

当性に疑問が呈せられたため、川重の担当者に対し、今後川重から提

出される経費の積算の考え方や積算根拠を分かりやすく記載するよう

に伝えるとともに、富士重の調査書のうち経費計画が記述された部分

を参考として手交。

UH-Xの企業選定要領については、航開1室では、UH-Xの改造母

機を決めた後に入札を行うことを主張していた。この場合、例えば、改造

母機がOH-1ベースと決まっていれば、その後の入札において必要とな

る仕様書の作成が、開発候補企業が複数ある場合に比べて容易になるとと

もに、仮に一般競争入札が行われたとしても、事実上川重以外に応札者は

いないと考えたからである。しかしながら、このような手続きは、入札前

に事実上開発候補企業を決定してしまうものであったため、競争性、透明

性の観点から問題があった。 平成23年2月、UH-Xの企業選定要領については、関係部局間での

協議を経て、競争性、透明性を確保しつつ、開発事業の特性も踏まえた上

で提案を評価し得る企画競争で行うこととし、技本が、その方向で仕様書

や技術提案要求書案等の作成作業を進めていく旨、関係者間で認識を共有

した。また、UH-Xが企画競争で実施される方向で防衛省内での作業が

進められていることは、航開1室から川重に伝達された。 (3)企画競争方式での開発担当企業選定作業(平成23年2月)から契約

締結(平成24年3月)

平成23年2月以降、航開1室は、企画競争を行うこととなったこと

から、企業選定に必要な仕様書等の内容を更に詰めていく作業を実施し

ていた。その際、航開1室では、川重に対し仕様書等の案を繰り返し手

Page 15: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-11-

交し、仕様書等の案文の作成、チェックを依頼し、また場合によっては

川重からの要望を取り入れ案文を修正する等して、川重が企画競争にお

いて有利となるような仕込みが行われた。また、時には、富士重の調査

書(改造開発案部分)を手交し、富士重には答えられない内容で評価に

差がつくような評価基準案作りを依頼している。 平成23年2月及び3月の航開 1 室と川重のやりとりの詳細等は次の

とおりである。 【航開1室と川重とのやりとりの詳細等】 ・ 平成23年2月9日、航開1室員Cは、航開1室において、川重の

担当者に自らが作成した技術開発実施計画書(「注意」に指定される文

書)(注8)の案を手交し、記述ぶりの確認を依頼。 ・ 3月2日、航開1室員Aは、航開1室内で、川重の担当者に仕様書

案(関連試験)を手交し、自らが作成した仕様書案で規定する予定の

関連試験について、過不足の確認を依頼。 ・ 3月8日、航開1室員Cは、航開1室内で、川重の担当者に技術開

発実施計画書(技本長決裁版)を手交。この際、航開1室員Cは、技

術面や経費面で記載内容に問題があれば対応策を考える旨伝達。 ・ 3月15日又は16日、航開1室員Aは、航開1室内で、川重の担

当者に、仕様書案の記述ぶりがこれまで川重と調整してきた内容とな

っているかの確認を依頼し、仕様書案を手交。 ・ 3月17日、航開1室員Aは、航開1室内で、川重の担当者に、自

らが作成した技術提案要求書の叩き台について川重の意見を求めるた

め、技術提案要求書案を手交。 ・ 3月25日又は28日、航開1室員Aは、航開1室内で、川重の担

当者に自らが作成した評価基準案(一例)を手交するとともに、併せ

て川重の担当者からの要請もあって富士重の調査書(改造開発案部分)

を手交し、富士重には答えられない内容で評価に差がつくような評価

基準案作りを依頼。 注8 技術開発実施計画書:装備品等の研究開発に関する訓令(防衛庁訓令第2

5号。平成18年3月27日)に基づき、技術開発の項目ごとに技術研究本

部長が作成し、防衛大臣の承認を得る文書。開発目的、目標性能、開発完了

予定年度、当該年度実施計画、見積量産単価等の事項を記載。 平成23年4月、IPTが開催され、関係部局の間で、UH-Xの作

Page 16: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-12-

業状況の確認がなされるとともに、今後の契約手続きや仕様書等の文書

の位置づけ、構成、内容等について認識のすり合わせを実施した。 また、同月、航開1室員Cの後任として今回の事案に関わった航開1

室員Dが航開1室に着任した。 航開1室では、当該IPTでの関係部局間での認識すり合わせ後も、

川重に対し仕様書等の案を繰り返し手交し、仕様書等の案文の作成、チ

ェックを依頼する等して、川重が企画競争において有利となるような仕

込みが行われた。また、富士重の調査書(新規開発案部分)を手交し、

富士重の提案に対し、その技術的な実現可能性等を評価できるような仕

様書等の内容について検討を依頼している。 平成23年4月から同年7月までの航開1室と川重のやりとりの詳細

等は次のとおりである。 【航開1室と川重とのやりとりの詳細等】 ・ 4月12日、航開1室員Aは、以前に川重からもらったコメントを

反映させた最新版の仕様書案の再チェックを依頼するため、航開1室

において川重の担当者に仕様書案を手交。 ・ 4月14日、航開1室員A及び航開1室員Cは、航開1室内で川重

担当者4名との間で打ち合わせをした際、川重の担当者に対し、基本

要求書(注9)案を手交。 ・ 4月21日、航開1室員Aは、航開1室において、川重に仕様書案

の内容を確認してもらうため、川重の担当者に仕様書案の最新版を手

交。 ・ 4月下旬、航開1室員Dは、陸幕開発課担当者に対し、川重が企画

競争で有利になるように、技術開発要求書(注 10)の要求性能の追加修

正を依頼したものの、後日、同担当者から、要求性能を修正する特段

の理由が見当たらない旨連絡を受け、陸幕への働きかけを諦めた。 ・ 5月11日、航開1室員Aは、作成途中の技術提案要求書案(評価

基準案も含むもの)を川重に検討してもらうため、航開1室内で、川

重の担当者に技術提案要求書案(評価基準案も含む)を手交。その際、

仕様書案についても改めて検討を依頼するために手交。 ・ 5月12日、IPTによる富士重視察があり、同行した航開1室員

Aは、富士重のUH-Xの機体イメージを見た際に、その機体形状が、

以前に富士重から提出された調査書のうち新規開発機に似ていると認

Page 17: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-13-

識。 ・ 5月13日、航開1室員Aは、航開1室において、川重の担当者に

富士重の調査書(新規開発案部分)を手交。この際、同担当者に対し、

富士重から新規開発案に近い提案があった場合に、その技術的な実現

可能性等を評価できるような仕様書等の内容について検討を依頼。 ・ 5月18日、航開1室員Aは、技本の航空装備研究所において、川

重の担当者に対し、最新版の仕様書案、技術提案要求書案、評価基準

書案を手交。 ・ 5月20日、仕様書案はほぼ完成に近づいていたが、技術提案要求

書案や評価基準書案に対して内局航空機課から種々のコメントを受け

ていたため、航開1室員Aは、航開1室内で、川重の担当者に仕様書

案の再度チェックとともに、技術提案要求書案と評価基準書案の内容

の検討及び内局コメントに対する回答ぶりの作成を依頼し、それら文

書を手交。 ・ 6月3日又は6日、航開1室員Aは、航開1室において、川重の担

当者に対し、この頃作成したばかりの技術提案要求書案のうち、経費

見積要領の部分を手交。 ・ 6月7日、航開1室員Aは、技本の関係部署に企画競争で使用する

各種資料(仕様書案、技術提案要求書案、評価基準書案)について意

見を求める作業を行っていたことから、航開1室において、川重の担

当者にこれら資料を手交し、チェックを依頼。 ・ 6月12日、13日~17日の防衛監察の受検期間中に企業の立入

りが制限されるとともに、技術提案要求書案や評価基準書案の作成作

業が遅れていたことから、航開1室員A及び航開1室員Dは、日曜日

に川重本社で打ち合わせを実施。その際、川重の担当者らに技術提案

要求書案を手交。 ・ 6月14日、航開1室員Aは、技術提案要求書案の完成に向けて作

業を急いでおり、川重で検討してもらうため、航開1室において、川

重の担当者に技術提案要求書案を手交。 ・ 6月23日、航開1室員Aは、評価基準書案について内局からのコ

メントを踏まえ、具体的な点数配分を記述した評価の基準を作成した

ことから、情報提供として、航開1室において、川重の担当者に評価

基準書案を手交。 ・ 7月4日又は5日、航開1室員Aは、航開1室において、川重の担

当者に対し、念のための確認のため仕様書案を手交。また、航開1室

員Dは、技術開発実施計画書を同担当者に手交。

Page 18: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-14-

・ 7月22日、近々IPTで企業選定資料について意見交換がなされ

る予定になっていたことから、航開1室員Aは、その前に、川重に念

のためチェックしてもらうため、航開1室において、川重の担当者に

各種資料を手交。 注9 基本要求書:UH-Xの機能性能を記載したもので、仕様書の一部をなす

もの。 注 10 技術開発要求書:装備品等の研究開発に関する訓令(防衛庁訓令第25号。

平成18年3月27日)に基づき、技術開発の項目ごとに幕僚長が作成し、

防衛大臣に報告する文書。開発目的、運用構想、要求性能、開発完了希望時

期、期待する量産単価等の事項を記載。 平成23年8月4日、技本から装施本に対し、新多用途ヘリコプター

(その1)に係る調達要求を行った。 平成23年8月中旬~下旬、IPT座長(内局航空機課長)は、技本

の技官(3名)の支援を得て、航開1室が作成した技術提案要求書案及

び評価基準書案について、提案者が正確かつ容易に提案書を作成できる

ものとなっているか、技術的な視点から精査を実施した。また、技術提

案要求書案及び評価基準書案の内容について、公正性・競争性の観点等

から問題点等を洗い出し、所要の修正を行った。 平成23年9月8日、装施本は、新多用途ヘリコプター(その1)の

企画競争参加希望者募集要領を公示して企画競争参加希望者を応募した

後、企画競争を実施した。企画競争の結果、川重が契約の相手方に選定

され、平成24年3月26日、装施本及び川重は、新多用途ヘリコプタ

ー(その1)の試作について、契約を締結した。

Page 19: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-15-

Ⅳ 不正が行われた動機・背景

1 UH-X開発事案

(1)航開1室の関係者について

ア 開発担当者の業務姿勢やコンプライアンスに対する認識不足

(ア)仕様書等を公正に作成することに対する認識不足 防衛省は、UH-X開発事業については、UH-Xの要求性能等

を満たす改造開発機候補が複数考えられること、既存機の改造開発

を念頭に置いた事業であり複数企業にまたがる開発体制を予め構築

する必要性がないことなどから、省内の関係部局間の協議を経て、

競争性、透明性を確保しつつ、開発事業の特性も踏まえた上で参加

希望事業者を評価し得る企画競争により開発事業者を選定すること

とした。 しかしながら、航開1室長は、日本初の純国産ヘリコプターであ

るOH-1の開発に関与した経験を有しており、OH-1開発で培

われたヘリコプターの開発技術を途絶えさせてはならず、次世代に

継承していかなければならない、また、今回のUH-Xの開発事業

の機会を逃せば、OH-1開発の技術や経験を生かせる開発案件は

当面予定されていないことから、UH-Xは川重が製造を担当した

OH-1を母機として改造開発したい、と考えていた。そして、日

本においてヘリコプターの開発を実施するのであれば、航開1室が

開発事業を推進しなければならない、という意識を強く持っていた。 このような意識は、航開1室員A、航開1室員C及び航開1室員

Dも、少なからず同じ思いを有しており、航開1室長の指導の下、

仕様書等の作成といった企画競争の実施に必要な作業を行っていく

過程で、企画競争において必ずOH-1ベースが採用されるように

しなければならないという航開1室内での強固な意思となっていっ

た。 防衛省全体としては、平成22年はじめ頃、UH-X開発事業に

ついてOH-1ベースありきでの検討との誤解を受けないように作

業を行うことで関係機関の意思が共有されており、航開1室以外の

技本のその他の部署でも同じ認識が共有されていたが、航開1室で

Page 20: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-16-

は、防衛省内から仕様書等が公正性を欠くとの指摘がなされるのを

おそれ、表だっては、形式的な公正性には留意していたものの、実

際には、前述したように、公正な仕様書等の作成作業は行われなか

った。 航開1室の中には、このような行為が、何らかの法令に違反する

かもしれないと認識していたものもいれば、不適切とは思いつつも

あまり自覚のない者もいた。技本においては、職員に対し、仕様書

の作成を含めた装備品等の調達に関し、競争性を害する行為などの

不正行為の防止に関連した規則類についての教育は必ずしも十分に

は実施されておらず、それも相まって、航開1室のほとんどの者が、

正しいこと、必要なことをしているという秘めた思いが勝り、競争

を害する行為をやめようという思いには至らず、結局は不正な行為

が継続された。 (イ)仕様書等を作成するに当たり支援を受ける事業者と公正に接する

ことに対する認識不足 防衛装備品の開発に当たっては、技本が企業から開発に必要な技

術情報等の提供を受けることは必要不可欠である。しかしながら、

支援を受ける企業との接し方については、多くの企業が防衛事業の

重要性を理解し、我が国の防衛に貢献するという意識を持って防衛

省に接している反面、企業が自らの利益を追求するために活動する

ことが必然であるということも念頭において、一定の規律を持って

対応する必要がある。このような対応を具現化する措置として、仕

様書等を公正に作成するための措置や企業との接触要領などが設け

られているが、今回のOH-1ベースの改造開発機ありきで作業を

進めていった航開1室については、これらの規律に対する認識が不

足していたと判断される。 また、本件事案は、前述したように、当初から複数の応札者が予

想されていたことから企画競争としたものであるにもかかわらず、

開発を担当していた航開1室は、当初から、OH-1を母機とする

改造開発事業を志向しており、川重との間で、川重が有利となるよ

うに仕様書等の調整を実施する、川重に富士重の調査書の一部を手

交し川重が不当に有利になるよう企図する、企画競争の公示前に仕

様書等の案を提示する、といった、法令に明らかに違反した行為を

繰り返していた。

Page 21: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-17-

この原因としては、上述した開発担当者の業務姿勢やコンプライ

アンスに対する認識不足に加え、航開1室と川重が過去から接して

きた経緯に起因するものがあると考えられる。平成16年の本件事

業の立ち上げから数年間は、技本においてOH-1を母機とする改

造開発事業を前提として概算要求作業を進めていたため、この間、

航開1室は継続的に川重とのみ調整してきた。 その後、防衛省内においてOH-1ベースと決め打ちすることな

く公正に機種を選択すべきとの認識が共有されたが、平成23年2

月頃、本開発事業の企業選定は企画競争により実施するということ

が事実上決まった後も、航開1室と川重との関係は続いていたこと

から、このような状態が感覚的に当たり前の状態となり、複数の開

発候補企業に対し、公正に対応しなければならないという感覚が著

しく欠けていたものと判断される。 イ 企業選定の際に技術面よりも価格面での評価が重視されるのではな

いかと危惧したこと

航開1室は、平成23年2月以降、企画競争を行うために必要な仕

様書や技術提案要求書等の作成作業を進めていた。 企画競争は、「公共調達の適正化を図るための措置について(通知)

(経装第11020号。18.12.7)」において、技術的要素等の

評価を行うことが重要であり、一般競争入札(総合評価方式を含む)

によることが困難とされている場合に適用される旨規定されているが、

これまで新規の研究開発の事業では、通常、一般競争入札が行われて

おり、企画競争を行った例は過去に2例しかなかった。 この当時、航開1室は、川重及び富士重から取得した調査書の分析

等に基づき、川重案が富士重案と比較し、価格面では劣るが、より高

い性能を持ち、かつ開発リスクが小さいと考えていた。しかしながら、

企画競争において、技術的要素や価格などをどのように重み付けして

評価するのか等企業選定の実施要領については、関係部局間で調整し

つつ、仕様書等の作成と同時並行で定めていくような状況となってい

たことから、この時点では、川重案が、企画競争の技術的要素等の評

価において、どの程度、富士重案よりも評価されるのかが分からなか

った。特に開発案件の評価は、これまで、複数の企業の開発リスクを

評価した実績がなく、また、開発案を提示してきた企業が「開発でき

ます」と主張すれば、両者の開発案件の評価に差をつけるのは難しい

Page 22: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-18-

と思われたことから、結局は価格勝負になるのではないかと考えた。

また、「開発できます」と主張した企業が、契約締結後になって債務不

履行を起こすのではないかと懸念もしていた。 さらに、当時、航開1室は、企画競争の実施方法について、内局航

空機課との調整の過程で、企業が提示してきた価格面だけが重視され

るのではないかと危惧し、技術面の優劣がしっかりと点数に反映され

るような業者選定にしなければ、価格面で不利と思われた川重案が落

選し、富士重案が選ばれてしまうかもしれないという危機感を持ち、

川重案が採用されるようにするため仕込みに傾注していった。 なお、結果としてみれば、平成23年9月に公示された企画競争で

は、IPTでの議論を経て、技術的要素が十分な重み付けで評価され

ることとなり、また、その技術的要素の評価手法自体は、開発担当企

業の開発能力を評価できるようなものとなっていた。 ウ 開発着手が当初予定より遅れていた状況で航開1室の担当者が更な

るスケジュールの遅延を恐れたこと

UH-Xの開発事業は、上述したとおり、当初は平成20年度開始

予定であったが、平成20年度から平成22年度までの3年間見送り

となっており、その影響で、開発完了時期も3年間後ろ倒しとなって

いた。このため、航開1室の担当者の中には、一刻も早くこの開発事

業を進めなければいけないと切迫感をもっていたものもいた。 航開1室では、当時、川重とのみ仕様書等の調整を行い、川重と契

約してUH-X開発事業を進めていくことを前提に、今後の開発事業

計画の作成作業を進めていた状況であり、仮に、企画競争の結果、富

士重案での開発となれば、一から計画を組みなおさなければならない

ことから、川重案を採用してもらうしかない、何とかして川重に勝っ

てほしい、そのためにはあらゆる手段を執るしかないと思うようにな

っていった。 エ 開発事業の仕様書等作成業務の困難性

開発試作を行うための仕様書等については、契約後の開発事業の中

で、設計等の具体的な検討を行い、試作品の詳細を確定していくこと

から、一般の市場にある完成品を購入し、または製造委託する場合と

比べ、その記載内容は、技術的な専門性が高く、かつ特殊な面がある。

Page 23: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-19-

特に、本件のように、複数の候補企業が存在する企画競争の場合、仕

様書に加え技術提案要求書と評価基準書の作成が必要であり、そこに

は納期までに開発できる技術力があるかといった会社の技術力を評価

する観点から、技術の細部にわたる内容まで、あらかじめ技術提案要

求書に記載する必要がある。 開発事業の仕様書を作成する技本の技術開発官の各部署においては、

必要に応じ、事業の内容を詰めるために開発候補企業から調査書を取

得し、又は、適宜、開発候補企業から開発の体制や開発能力を収集す

るとともに、技術開発官及び研究所等に所属する職員で構成されるグ

ループ会議などを通じて、技術的な観点から記載内容の適切性の確認

や議論も行った上で、仕様書等を作成している。 今回、航開1室でUH-Xの開発業務を担当した者は、主に概ね2

~3年の短期間で異動する自衛官のみで構成されていた。しかし、こ

のような態勢では、航空機の機体の開発という非常に大がかりな開発

事業の技術的細部に至るまでの知識を有しておらず、技術提案要求書

に記載すべき会社の技術力を評価するための適切な質問内容まで立案

するのは困難であった。 また、航開1室では、仕様書を作成するまでの過程で、上述したよ

うな調査書を取得し、グループ会議を開催するなどの手続きはとって

いたものの、仕様書等の内容を吟味し、確定させていくに当たり、研

究所の技官等から情報を収集し、意見を求めることも必要であったと

考えられるが、そのためには研究所等との調整に労力を要しなければ

ならないとの思いがあり、同様のことは企業に依頼すればより簡易に

できるということもあって、安易に企業に依存してしまった。

(2)プロジェクトの進め方について

ア 仕様書等の作成過程において仕込みが行われていたことが技本内部

やIPTによって発見しきれなかったこと

技本の技術開発官の各部署が作成した仕様書の案については、まず、

技術開発官及び研究所等に所属する職員で構成されるグループ会議に

て技術的な観点から記載内容の適切性の確認、議論が行われ、更に、

技本の本部各課等へ意見照会を行い、事業管理的な観点に加え、公正

性の観点からもチェックを実施することとなっていた。また、今回の

UH-X開発事業では、IPT事務局である内局航空機課と航開1室

Page 24: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-20-

で仕様書等の案が共有され、最終的には、内局航空機課が技本に所属

する技官の支援も得つつ、技術提案要求書案や評価基準書案のチェッ

クを実施し修正を行った。 しかしながら、今回の件では、仕様書等の記載内容について、川重

と航開1室によって行われた案の調整の経緯を知らなければ、その文

面のみからは、開発能力を確認するために必要な技術的要求事項と川

重を有利にさせるための技術的要求事項とが、区別のつかないものと

なっていたため、技本内部やIPTによって仕込みが発見しきれなか

った。 また、航開1室と事業者との接触状況に関しては、事業者が航開1

室を訪問する際には、技術開発官(航空機担当)付総括室に立ち寄り、

立入り者名簿に訪問者、及び訪問の目的を記録することとなっており、

今回事案に深く関与した川重の担当者が、室員と頻繁に調整を行って

いたことは確認できる状態であったにもかかわらず、川重担当者の頻

繁な訪問について航開1室を監督する者が具体的な問題意識を持って

航開1室員に対し事業者の訪問の趣旨を確認するようなことはなかっ

た。 イ UH-Xの取得要領検討過程でOH-1ベースとUH-1Jベース

での国内の生産技術基盤の維持・発展等への影響・効果について十分

な検討がされていなかったこと

航開1室では、技本で過去に開発したOH-1の技術が継承できる

と考えたことが、UH-Xの改造母機としてOH-1ベースが選定さ

れるべきと独自で判断した理由の一つであった。 UH-Xの取得については、上述したとおり、平成22年7月のI

PTの会議及びその後の検討会議において、陸幕の要求に該当する機

体規模(約5トン級)の機体について、防衛所要、ライフサイクルコ

スト、生産技術基盤の観点から他の機体規模のものと比較評価を行い、

OH-1ベース又はUH-1ベースの機体規模の機体を改造開発する

ことに妥当性があるとの結論を得た。 この取得要領検討過程においては、生産技術基盤等に着目した評価

を行い、海外類似機導入より改造開発の方が運用支援及び国内産業へ

の波及効果の観点から優れているとの結論を得ていた、すなわち、改

造開発機が、どちらの場合であっても生産技術基盤に貢献するとの結

論を得ており、改造開発のベースとなる機体が純国産開発機(OH-

Page 25: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-21-

1ベース)の場合とライセンス国産機(UH-1Jベース)の場合と

を比較して、国内の生産技術基盤の維持・発展等にどのような影響・

効果があるのかについての評価を行うことはなかった。 (3)契約相手方について(川重も不適切であると認識しながら航開1室に

協力したこと)

川重の担当者は、不適切な行為であると認識しつつ、航開1室の担当

者から、UH-Xの企画競争に係る仕様書等の案の検討を依頼され、そ

の結果を書面や口頭にて航開1室の担当者に伝えていた。 川重の担当者は、当初は、通常の業務の一環として、航開1室の求め

に応じて様々な情報提供等を行っていたが、OH-1ベースでの改造開

発の技術的優位性を認め、後々の企業選定において川重が選定されるよ

うにするために作業を行っていた航開1室からの支援要請に対し、企画

競争により事業者を選定することを認識した以降についても、我が国の

防衛にとって最もふさわしい機種選定を行いたいという観点に基づくも

のと都合よく解釈して、行為自体は不適切なものと認識しつつ支援を行

ったものと解される。 2 研究開発に係る調達業務に関係する防衛省職員や契約相手方企業の意識

調査・検討委員会では、今般の事案が引き起こされた背景が、防衛省・

自衛隊における研究開発に係る調達業務の制度面、運用面などにある可能

性も排除できないことから、上記業務の実態及び職員や関係企業の意識を

把握し、再発防止を図る上で参考となる情報を収集することを目的に、上

記業務に関係する防衛省職員及び契約相手方企業に対して、アンケートを

実施(注 11)した。 アンケートの各質問に対する回答の結果は、別添資料第2に示している

が、その要点は以下のとおりである。 (1)仕様書等の作成における業者からの支援

「あなたは、研究開発に係る調達業務に関し、仕様書等を作成するに当

たり、業者の支援(業者による仕様書等の案の作成、内容のチェックその

他仕様書等作成に必要な情報提供をいう。以下同じ。)を受けた、又は他

Page 26: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-22-

の職員が支援を受けているのを見聞きしたことがありますか。」との質問

に対して、「ない」と回答した者が1,204名であったが、「ある」又は

「あるかもしれない」と回答した者が397名であった。この主な理由は、

開発の実現可能性や製造可能性の確認、仕様書等の作成が部内のみでは困

難などであった。 (2)仕様書等の作成において支援を受ける業者の選定方法

上記(1)の質問に対し、「ある」又は「あるかもしれない」と回答し

た者への「支援を受ける業者を選定する場合、支援できる業者がほかに

ないか調査又は検討しますか。」との質問に対して、「必ず調査又は検討

をする」と回答した者が397名中212名であったが、「調査又は検討

をしないこともある」又は「全く調査又は検討をしない」と回答した者

が397名中90名であった。この主な理由は、他の支援業者がいない、

特定の業者からの支援のみで十分な情報が得られる、時間的余裕がない

からなどであった。 また、この質問に対して、次のような自由意見があった。 ・ 研究開発では、契約する業者の能力が分からないと仕様書が作成

できない、また、官側だけでは仕様書を作成する能力がないという

現実をふまえた規則を作るべき ・ 最新の技術動向調査や仕様書案の作成を公募し、契約として実施

したり、業界団体から技術提案をオープンに受け付ける ・ 仕様書等作成を支援可能な業者が透明性・公正性の観点から選定

されているかのチェック機能が必要 (3)支援の態様

上記(1)の質問に対し、「ある」又は「あるかもしれない」と回答し

た者への「あなたは、支援してくれた特定の業者のみ受注できるように

仕様書等を作成したことはありますか。又はそのような仕様書等を作成

しているのを見聞きしたことはありますか。」との質問に対して、「ない」

と回答した者が397名中304名であったが、「ある」又は「あるかも

しれない」と回答した者が397名中44名であった。 その理由としては、「その業者が契約相手方となり事業が円滑に実施で

きる」、「防衛省の業務に慣れない業者が契約相手方となるおそれがある」

などの回答があった。

Page 27: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-23-

(4)支援事業者選定に関する意識

「あなたは、業者間の競争が見込まれる研究開発試作の案件について、

優れた試作を行うためには、能力が最も高い業者だけを選んで仕様書等

の作成を支援してもらうことが適切であると思いますか。」との質問に対

し、「そう思わない」と回答した者が1,787名中1,141名であっ

たが、「そう思う」又は「少しはそう思う」と回答した者が1,787名

中222名であった。 (5)契約相手方からの支援の態様

「防衛省は、貴社から支援を受ける際、防衛省作成の資料を貴社に交

付することはありますか。」との質問に対し、10事業部中5事業部が「な

い」との回答であったが、10事業部中3事業部が「ある」又は「ある

かもしれない」との回答があった。 また、業者による支援に関し改善すべき点について、次のような意見

があった。 ・ 許容される支援内容の明確化と、支援可能期間の明示 ・ 仕様書作成の役務契約の実施など、契約前に発注する技術的検討を

契約で実施 ・ 業者の支援が必要な場合には、防衛省は仕様書作成のための有償の

契約を業者と締結 注 11 アンケート実施要領は以下のとおり ○防衛省職員

対象機関:内部部局、統合幕僚監部、陸上幕僚監部、海上幕僚監部、航空

幕僚監部、技術研究本部及び装備施設本部

対象者:研究開発に係る調達業務に関係する職員のうち、行政職(一)4

級以上の書記官、部員、事務官及び技官、研究職3級以上の技官並

びに3佐以上の自衛官

対象者人数:1,883名

回答率:約95.3%(1,795名が回答)

実施時期:平成25年2月18日から同年3月8日

実施要領:原則としてアンケート対象者を一堂に集め、防衛監察本部職員

の立会の下で実施。

Page 28: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-24-

○契約相手方企業

対象企業:「公共調達の適正化について」(財計第2017号。18.8.

25)の運用が始まった平成19年度以降に装備施設本部の試作

研究契約に応札した企業(24社)の29事業部を対象

回答率:100%

実施要領:平成25年3月4日、前記29事業部にアンケートを送付し回

答を依頼し、同年4月10日までに全ての事業部が回答

Page 29: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-25-

Ⅴ 再発防止策

1 事業者との接触の適正化

(1)接触要領の明確化・徹底

本事案では、OH-1ベースの機種を開発することにより、国産のヘ

リコプター技術の継承及び開発リスクの小さい技術開発を実現するべき

と航開1室内の独断で判断しており、結果的に、競争性を歪めることが

法令に反するとの認識が必ずしも十分浸透していないことが明らかとな

った。また、航開1室は各企業の開発構想についての調査、概算要求作

業などで長期間、継続的に企業から情報の提供や支援を受けていたこと

から、開発企業の選定段階になっても各企業に対し、適切に情報管理し

なければならないという意識が希薄になっていた。

このため、研究開発等において公正な競争を歪める行為を個別具体的

に明示する対応要領を整備し、担当者に常に公正さを意識させるための

教育を更に徹底する。

具体的には、防衛省と事業者との接触の在り方について、コンプライ

アンスに対する認識不足があったことを踏まえ、これまで各機関ごとに

実施してきた個別の教育等に加え、防衛省として研究開発の業務プロセ

スの各段階における禁止行為及び留意事項を明記した対応要領を整備す

る。この対応要領には、職員のどのような行為が入札談合等関与行為防

止法(官製談合防止法)第8条違反となる恐れがあるのかも含め次の事

項を中心に整備し、関係者に対する着任教育及び定期的な教育を実施す

ることにより周知徹底を図る。また、教育に当たっては、本事案の教訓

を風化させないよう、例えば、教育資料に分かりやすい事例集やQ&A

などを設けるなど、年月を経ても職員が具体的なイメージを持って意識

づけができるよう配意する。

ア 装備品等の仕様等に関する情報収集や情報提供に当たっては、各競

合事業者へ均等に接触することとし、特定の事業者へ偏ることを禁止

する

イ 事業者から得た情報を提供者の了解を得ず、勝手に競合事業者へ伝

達することについて禁止する(対象文書には「部内限り」等の表示を

行う)

ウ 特定の事業者が有利になるよう競争条件の操作を目的とした仕様を

Page 30: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-26-

付加すること等について禁止する

エ 作成段階の装備品等の仕様書等の案について、厳格に管理するとと

もに、一部の事業者のみに対する開示を禁止する

(2)事業者との接触時の記録の徹底

装備品等の開発・導入の比較、機種・企業選定時及び仕様書等作成段階

において、特定の事業者へ偏った接触を行っていないかを確認するため、

競合事業者と接触を行った場合には、その都度、最小限の必要事項をメー

ル等により職務上の上級者に報告するとともに、定期的に各機関の監査部

門へ通報するといった制度を導入する。その報告の要領については、記録

の徹底が図られ、他方、職員が企業と接触することを過度に萎縮すること

とならないよう、簡易で実行可能なものとすることに留意する。

2 IPTによる一元的な事業管理

本事案では、仕様書等の作成においてIPTが一定の関与を行ってはいた

ものの、各機関の関係職員からなる会議体による集団的な関与であったこと

もあり、仕様書案作成の初期段階において航開1室による仕込みを見抜くよ

うな深度のあるチェックは行われなかった。このような反省の下、今後は、

特定の大規模事業に対しては、開発又は導入に利害関係を有しない中立的な

プロジェクトマネージャーの下で、IPTによる客観的な要求性能の検討、

開発・導入比較及び機種・企業選定、仕様検討、仕様書・競争参加資格の検

証等の事業管理を通じて、客観性・公正性を強化する。また、仕様書等の作

成においても、原案作成段階からIPTが主体的な役割を果たすこととする。

一方、IPTは、仕様書の作成や契約方式の決定に係る技本及び装施本の

既存の所掌事務に変更は加えないものの、客観性・公正性を確保した事業管

理に加え、事業推進に係る総合調整の責任も負うことから、IPTにこれら

の業務を掌理するプロジェクトマネージャーを置き、事業管理を実施するこ

ととする。プロジェクトマネージャーがIPTを構成する各機関の総合調整

に責任を持つことで、IPT内部における相互牽制の効果を高め中立性の強

化を図る。こうしたプロジェクトマネージャーの確保育成をどのように実現

していくかについても、検討を行っていく必要がある。

また、IPTに一貫したLCC管理責任を負わせ、更なる客観性を強化し

得るよう考慮するとともに、企業選定時の評価に際して、防衛技術基盤の維

持・発展という観点をどのように取扱うかについても検討する。

Page 31: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-27-

3 仕様書等策定における適正性の確保

(1)仕様書等策定における公正なプロセスの確立

防衛省・自衛隊では、運用上のニーズを最大限盛り込みつつ技術的・経

費的に実現可能な性能や仕様について全てを独力で定義・作成する能力を

必ずしも全ての担当職員が有しているわけではないという現実の下、通達

においても、複数の企業等からの提案を徴した上で仕様書を作成すること

を許容している。他方、官主導で仕様書等を作成するという原則の中で、

研究開発担当者の事業者との関わり方について業務プロセスに沿った体

系的かつ明確な指針・ルールが確立されていない。

このため、「1.事業者との接触の適正化」で述べた研究開発において

公正な競争を歪める行為を個別具体的に明示する対応要領の整備に加え、

競争参加資格要件を満たすと考えられる企業が複数ある場合での、仕様書

等の作成過程における情報収集などの手続きの透明化・明確化・標準化を

図ることとする。

例えば、公示等オープンな Request For Information(資料等の提供招

請)を通じて当該複数企業から等しく仕様書案等作成に必要な情報収集の

ための提案を聴取する、作成した仕様書案を公示しオープンな Request

For Comment(仕様書案への意見招請)を実施する、仕様書案の実現可能

性をチェックするため各競合事業者への画一的照会を行う、といった方策

が考えられる。

また、仕様書案等の作成については、防衛上の必要性に基づくべきもの

であることを踏まえ、企業の働きかけ等により、競争性のコントロールを

目的として、規定を盛り込み又は削除してはならないことを徹底する。

さらに、作成中の仕様書等を含む関連文書の取扱いについて、防衛省と

して統一的かつ明確な規定等がないため、調達プロセスの公正性を確保す

るために必要な情報が確実に管理されていなかったことから、仕様書等や

企業から提供を受けた文書などの調達関係文書の体系的な管理要領を整

備する。

(2)仕様書等作成業務における支援体制の整備

官側のみで仕様書等を作成できないような事業については、公示等オー

プンな仕様書の提案要求や技術支援契約に基づき、民間企業の支援を受け

ることができるよう体制を整備する。具体的には、仕様書等の作成の支援

Page 32: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-28-

を受ける範囲や標準的な手続き・要領を策定する。

4 技本内の業務プロセスの改善

(1)潜在的競合事業者の早期把握

本件事案においては、予算要求前の技術開発要求見積書(注 12)及び技術

開発実施見積書(注 13)の検討段階において、OH-1を母機とする改造開

発案のみを検討しており、将来の装備品の構想を検討する段階から特定の

企業のみとしか接触しない偏った進め方がとられていた。

前述のように、事業者との接触の透明性を確保するためには、予算成立

後の調達要求、業者選定を行う段階において禁止行為を明確化し、周知徹

底を図ることが必要となるが、これを実効あるものとするためには、どの

企業が潜在的な契約相手方になりうるかを早期に把握し、予算要求前の段

階から透明性を確保しておくことが重要である。したがって、その構想段

階から公示(Request For Tender)等の手続により広く将来の装備品開発

への参入意思を問うなど、潜在的な競合事業者の存在を把握し、公正に取

扱うための仕組みについて仕様書等策定における適正性の確保に係る制

度化とあわせて、標準的な手続を整備する。

注 12 技術開発要求見積書:装備品等の研究開発に関する訓令(防衛庁訓令第2

5号。平成18年3月27日)に基づき、概算要求年度の次年度以降おおむ

ね 10 年間に技術開発を完了することを期待する項目ごとに幕僚長が概算要

求の前年度までの間作成し、防衛大臣に提出する文書。開発目的、運用構想、

要求性能、開発完了希望時期、期待する量産単価等の事項を記載。 注 13 技術開発実施見積書:装備品等の研究開発に関する訓令(防衛庁訓令第2

5号。平成18年3月27日)に基づき、技術開発要求見積書の項目ごとに

技術研究本部長が概算要求の前年度までの間作成し、防衛大臣に提出する文

書。開発目的、目標性能、開発完了予定年度、実施見積線表、見積量産単価

等の事項を記載。

(2)開発部局と研究所の連携の強化

仕様書等を公正なものとするためには、中立的な立場からの検証と、会

社の技術力を適切に評価しなければならないという高度な専門的知識に

基づくバランスのとれた検討が必要である。技本内の業務プロセスの改善

Page 33: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-29-

に当たっては、このような高度な専門的知識について各会社が不平等だと

感じず、技術力によって差異の評価が可能となるような技術の細部にまで

知見のある関係研究所の技官等を活用することが求められる。

このため、今後は、技術開発における仕様書等の作成において、IPT

等の場における全省的な体制による事業管理を下支えする意味でも、事業

を担当する開発室と関連する研究所の人的連携の強化を図るとともに、技

術的な妥当性について根拠を示しつつ合理的な説明が行える体制を整備

する必要がある。特に、複数の競合事業者が想定される場合には仕様書等

の企業選定に係る各種資料案の作成に当たって専門性の高い技術的知見

が必要となることから、例えば、当該事業の予算案が成立した時点で、原

案の作成段階から、事業を担当する開発室の要員及び関連する研究所から

の研究職技官から構成される作業チームを設け、公示等により必要な情報

を企業から収集した上で、仕様書、技術提案要求書、評価基準書の作成を

行い、技術的観点からの公正性、競争性の検証に寄与させるといったこと

が考えられる。

また、事業を担当する開発室の人的構成を、特定の自衛隊出身者のみと

せず、他の自衛隊出身者又は研究職の技官を加えるなどして、より中立

性・透明性の高い職場環境とする。 さらに、自衛官を含む開発担当者は概ね2~3年で異動することが通例

であることを踏まえ、長期間の開発業務であっても、開発室内で適切に業

務が引き継がれるよう任用上工夫する。

(3)研究開発業務各段階におけるコンプライアンス教育等の徹底

技本では、会計業務に従事する職員や調達等関係職員を対象とした研修、

他機関からの転入者等を対象とした機会教育等において、入札談合の防止

や公共調達の適正化、業界関係者との接触等について教育を行っているが、

研究開発の各段階(構想、予算要求、仕様書等作成、契約等)における具

体的な業務に関する教育は恒常的なOJTに依存する度合が大きい現状

にある。

したがって、今後は、前述の省としての対応要領に加え、技本として研

究開発の業務フロー全体を通じて、各段階における禁止事項、留意事項に

関して具体的に記載した細部業務マニュアルを作成し、これを用いて、技

本の全職員を対象として、恒常的なOJTに加えて、着任時のみならず定

期的に教育機会を設け、職員に常に公正さを意識させることとする。

Page 34: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-30-

5 指名停止措置要領(案)への反映

本件事案において、川重は、仕様書案、技術提案要求書案及び評価基準書

案の作成等について、同社が有利になる方向へ内容を改変する等の不正行為

を行おうとする航開1室員の意図を知りながら、時に要請をしつつ、当該職

員から防衛省の意思形成過程に係る不開示の部内資料や、競合他社の営業秘

密等を受領していた。さらに、これらの提供された資料等を分析し、同社を

不当に有利に取り扱うための不正行為がより効果的に行われる上で必要な

情報及び助言を長期にわたり継続的に提供していた。

防衛省としては、同社が不正行為に加担したとの認識が希薄であったと考

えているが、従来、防衛省が、装備品等の調達に関して、調達の相手方が公

務員たる身分を基本的に前提としている入札談合等関与行為防止法への違

反行為に関与することが指名停止措置の対象となることをあらかじめ明確

化していなかったことが、同社がかかる行為を思いとどまることなく継続し

ていたことに影響していた可能性も否定できない。

このため、かかる不正行為への企業側の関与を思いとどまらせる一助とす

べく、防衛省において昨今の過大請求事案に係る再発防止策の一つとして現

在制定作業を進めている「装備品等及び役務の調達に係る指名停止等の措置

要領(案)」にこれを反映し、入札談合等関与行為防止法の規定に違反する

ことを認識しているにもかかわらず、加担し、当該契約の相手方として不適

当であると認められた場合を指名停止の対象行為として追加することとす

る。

Page 35: 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)開発事 …...こうした状況の中、防衛省は、平成24年3月に川重と契約した新多用途ヘ リコプター(その1)の契約について、契約の前提となった企画競争の公正性

-31-

Ⅵ 終わりに

防衛省が、我が国の平和と安全及び国民の安全・安心を確保するという崇

高な使命・任務を果たしていくためには、国民との信頼関係は極めて重要で

あることは言うまでもない。そのような意味において、今般のUH-X開発

事業の企業選定に係る事案は、防衛装備品等の開発・調達業務全般の公正性

について国民に疑念を与えかねない行為であり、断じてあってはならない事

案である。

防衛装備品等の開発は、必要な防衛力を円滑に整備していくための調達価

格の抑制と最新の科学技術を取り込んで部隊運用上の要求を効果的・効率的

に満たすことを高い次元で両立させることが必須である。このため、試作品

及び開発された防衛装備品を製造する可能性のある各企業と連携しつつ、厳

正な評価選定を行うことが不可欠であるが、その連携のあり方が本事案では

問われることとなった。

防衛省としては、今般の事案を重く受け止め、部外有識者を含む調査・検

討委員会において、事実関係の徹底的な究明と抜本的な再発防止策をとりま

とめたところであり、本報告書においては、防衛装備品の開発に携わる者の

意識改革を含めた開発業務全般に関わる改善事項を記述した。

今後、防衛省としては、全省をあげて本報告書に基づく再発防止策を的確

に実現し、今後同様の事案を決して起こさないよう、誠実かつ公正な装備行

政の実施に努める所存である。