高芝大橋上部工工事報告...tions on the travelling crane bent method for curved box girder....

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横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月 94 高芝大橋上部工工事報告 高芝大橋上部工工事報告 The Takashiba Ohashi is regional development con- struction on the national road No.411 in Yamanashi Pre- fecture. As this bridge is at a part where the road curves, it has the minimum curvature of R=70m, longitudinal slope (7.6%) , cross slope (max±6.0%), and consists of a five span con- tinuous curved box girder ([email protected]+52.6m). Satoshi Sonobe, Tomiyasu Furuta, Hiromitsu Tsukahara and Takahiro Matsuo ㈱横河ブリッジ・橋梁工事本部計画第一部計画課課長補佐 ** ㈱横河ブリッジ・橋梁工事本部計画第一部長・工博 *** ㈱横河ブリッジ・橋梁工事本部計画第一部部長 **** ㈱横河ブリッジ・橋梁工事本部計画第一部計画課主任 園部  敏 * 古田 富保 ** 塚原 弘光 *** 松尾 隆弘 **** Report on the Construction of Takashiba-Ohashi 1.はじめに 高芝大橋は,山梨県塩山市と東京都八王子市とを結ぶ 国道411号線沿いの柳沢峠の山麓(標高1200m程)に位置 し,基幹道路の整備促進事業におけるバイパスとして計 画された 5 径間連続非合成箱桁の新設橋梁である。 この橋梁は山間部の急峻な谷間における高橋脚構造で あり,縦断・横断勾配共に厳しく,かつ最小曲率半径70m の曲線桁であったため,施工精度および安全性の確保の ため慎重な作業が要求された。 架設は,主桁部材搬入の低床トレーラや大型クレーン が A1 橋台付近までしか入れないという制約のある地形 であったことから桁下空間の条件等に影響されにくいト ラベラークレーンベント工法を採用した。 本報告は急傾斜地におけるベント設備の施工,曲線桁 の架設に伴う仮設備,および床版コンクリート施工につ いて留意事項や創意工夫した点を報告するものである。 The construction site is on steeply slope among the mountains. Member of steel box girders are only un- loaded at the A1 yard. In consideration of these condi- tions, this bridge was erected by the travelling crane bent method. This report shows the problems and solu- tions on the travelling crane bent method for curved box girder. 2.工事概要 以下に,工事概要を示す。 工 事 名 : 国道 411 号高芝大橋 上部架設・床版工建設工事(一部債務) 発 注 者 : 山梨県峡東地域振興局塩山建設部 工  期 : 自 平成 14 年 3 月 13 日 至 平成 16 年 5 月 31 日 施工場所 : 山梨県塩山市上萩原 4 工区 施工範囲 : 架設~現場溶接~現場塗装~床版~照明基礎 ~地覆~高欄~後打下部工 橋梁形式 : 5 径間連続非合成箱桁 橋  長 : 270m 支 間 割 : [email protected]+52.6m 幅  員 : 11.7m ~ 13.2m 平面線形 : A=60m ~ R=70m ~ A=60m 縦断勾配 : 7.6%    横断勾配 : 最大± 6.0% 総 鋼 重 : 967.9t 架設工法 : トラベラークレーンベント工法 構造一般図を図- 1,施工状況全景を写真- 1 に示す。

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  • 横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

    94 高芝大橋上部工工事報告

    高芝大橋上部工工事報告

    The Takashiba Ohashi is regional development con-struction on the national road No.411 in Yamanashi Pre-fecture.As this bridge is at a part where the road curves, it hasthe minimum curvature of R=70m, longitudinal slope (7.6%), cross slope (max±6.0%), and consists of a five span con-tinuous curved box girder ([email protected]+52.6m).

    Satoshi Sonobe, Tomiyasu Furuta, Hiromitsu Tsukahara and Takahiro Matsuo

    * ㈱横河ブリッジ・橋梁工事本部計画第一部計画課課長補佐** ㈱横河ブリッジ・橋梁工事本部計画第一部長・工博*** ㈱横河ブリッジ・橋梁工事本部計画第一部部長**** ㈱横河ブリッジ・橋梁工事本部計画第一部計画課主任

    園部  敏*  古田 富保**

    塚原 弘光*** 松尾 隆弘****

    Report on the Construction of Takashiba-Ohashi

    1.はじめに

    高芝大橋は,山梨県塩山市と東京都八王子市とを結ぶ

    国道411号線沿いの柳沢峠の山麓(標高1200m程)に位置

    し,基幹道路の整備促進事業におけるバイパスとして計

    画された5径間連続非合成箱桁の新設橋梁である。

    この橋梁は山間部の急峻な谷間における高橋脚構造で

    あり,縦断・横断勾配共に厳しく,かつ最小曲率半径70m

    の曲線桁であったため,施工精度および安全性の確保の

    ため慎重な作業が要求された。

    架設は,主桁部材搬入の低床トレーラや大型クレーン

    がA1橋台付近までしか入れないという制約のある地形

    であったことから桁下空間の条件等に影響されにくいト

    ラベラークレーンベント工法を採用した。

    本報告は急傾斜地におけるベント設備の施工,曲線桁

    の架設に伴う仮設備,および床版コンクリート施工につ

    いて留意事項や創意工夫した点を報告するものである。

    The construction site is on steeply slope among themountains. Member of steel box girders are only un-loaded at the A1 yard. In consideration of these condi-tions, this bridge was erected by the travelling cranebent method. This report shows the problems and solu-tions on the travelling crane bent method for curvedbox girder.

    2.工事概要

    以下に,工事概要を示す。

    工 事 名:国道411号高芝大橋

    上部架設・床版工建設工事(一部債務)

    発 注 者:山梨県峡東地域振興局塩山建設部

    工  期:自 平成14年 3月 13日

    至 平成16年 5月 31日

    施工場所:山梨県塩山市上萩原4工区

    施工範囲:架設~現場溶接~現場塗装~床版~照明基礎

    ~地覆~高欄~後打下部工

    橋梁形式: 5径間連続非合成箱桁

    橋  長: 270m

    支 間 割: [email protected]+52.6m

    幅  員: 11.7m~ 13.2m

    平面線形:A=60m~R=70m~A=60m

    縦断勾配: 7.6%   

    横断勾配:最大±6.0%

    総 鋼 重: 967.9t

    架設工法:トラベラークレーンベント工法

    構造一般図を図-1,施工状況全景を写真-1に示す。

  • 高芝大橋上部工工事報告 95

    横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

    写真-1 施工状況全景

    11700

    600 60010500CL

    アスファルト舗装 t=80mm

    I形鋼格子床版 t=260mm

    調整コンクリート

    1.500% 1.500%

    PH

    1000 2100 5500 2100 1000

    G2

    LG1

    G1

    RG1 LG2 RG2

    2400

    (標準部)

    2400

    6500 4000

    (a)断面図

    5400052600

    37000

    36000 18000

    50000

    510008000

    10000

    14000

    24000

    34000

    主桁架設順序 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29

    54000 54000 52600750 750

    650650

    A1

    A2

    P1

    P2P3

    P4

    橋長270000(CL上寸法)

    B10B1 B2

    B3B4

    B5

    B6 B7

    B8 B9

    荷取・組立用 クローラクレーン 

    運搬台車 運搬台車

    トラベラークレーン 25m×25t 運搬台車

    トラベラークレーン 25m×25t

    部材搬入 方 向

    図-2 架設要領図

    H鋼杭基礎のベント:

    コンクリート基礎のベント:

    工事用道路:

    橋台・橋脚: 国道411号

    現場搬入口

    B6B7

    B8

    B9

    B10

    B5

    B4

    B3

    B2

    B1

    (b)平面図

    650750 支

    間 長 52 600(CL上寸法)

    750650

    54000

    54000

    54000

    52600

    A1

    A2

    P4

    P3

    P2

    P1

    B11省略

    桁長 268 000(CL上寸法)

    図-1 構造一般図

  • 高芝大橋上部工工事報告96

    横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

    3.施工要領

    3.1 施工条件

    施工条件は,以下である。

    1)A1橋台側からのみ部材搬入が可能であり,架設方向

    はA1からA2方向に限定される(図-1参照)。

    2)工事用道路は狭く,縦断勾配も20%前後の急勾配であ

    る。工事用車両は100t吊以下のトラッククレーン,15t

    積以下のトラックのみ走行・作業可能である。ただし

    冬期は路面凍結により工事用車両も走行が不可能であ

    る。

    3)ベント位置は急峻な傾斜地であるので,地上よりラフ

    タークレーンとトラベラークレーンを併用して設置する。

    3.2 架設要領

    主桁は総数29ブロック(G1桁29本,G2桁29本),ベ

    ント数10基(B1~B10)で,主桁を2ブロック架設すると,

    橋脚もしくはベント上に到達するように計画した。架設

    要領図を図-2に示す。架設工程は,以下とした。

    1)A1橋台背面ヤードに100t吊クローラクレーンを据付

    け,そのクレーンを用いてB1~B2ベント設備,およ

    び主桁2ブロック分(B2ベント主桁到達)を架設する。

    2)A1~B2間の高力ボルト本締め後,その桁上にクロー

    ラクレーンを用いて,軌条設備,トラベラークレーン

    と部材運搬台車を組立てた。

    3)以降,主桁はトラベラークレーンにて架設し,①主桁

    搬入・取卸,②運搬台車移動,③架設,④足場組立,⑤

    ボルト本締,⑥軌条組立,⑦トラベラークレーン移

    動・固定を1サイクルとし,順次繰返し施工した。こ

    の間,運搬台車における部材運搬は1サイクル中に2

    往復(1往復で主桁2本)である。

    4)ベントは可能な限り地上よりラフタークレーンを用い

    て先行組立てし,その残りの部分についてはトラベ

    ラークレーンを用いて組立てた。

    5)その他,架設に伴う小物・燃料類や足場材等の仮設材

    は,トラベラークレーンの揚程を60mとし,地上の作

    業半径内の集積可能な場所に仮置・保管して,必要に

    応じてトラベラークレーンを用いて吊上げた。

    4.仮設工

    4.1 ベント

    ベントは,基礎により分けると①敷鉄板:1基(B1),②

    コンクリート基礎:5基(B2~B4,B6,B7),③H鋼杭

    基礎とコンクリート基礎併用:3基(B5,B8,B9),④H

    鋼杭基礎:1基(B10)の4タイプであった。

    それらについて,下記の問題点を検討した。

    1)B5ベント基礎が工事用道路に干渉した。工事用道路

    は近隣工区との関係があり,常時通行を確保できるベ

    ント構造が必要であった。

    2)B6,B7ベントは,約50mの高さを有し,トラベラー

    クレーン移動,あるいは旋回時にかなりの揺れが予想

    された。その安全対策としてベントの揺止め構造が必

    要であった。

    3)B8,B9ベントのG2桁側基礎,およびB10ベント基礎

    が山間部急斜面上に位置した。コンクリート基礎では

    地形的・工程的に困難と考え,H鋼杭基礎とした。

    4)当初B11ベントを計画したが,設置が非常に難しく,

    張出し架設とすることでベントを省略した。

    以下,順に検討内容を記す。

    (1)B5ベント門型構造

    工事用道路と干渉するB5ベント位置で工事用道路を通

    行可能とするには,ベント位置を移動するか,または構

    造を門型とするかの2案があった。前者は橋梁線形と地

    形的な位置関係において無理があった。したがって,B5

    ベントは写真-3に示す門型構造とした。構造変更には,

    写真-2 架設状況 写真-3 B5ベント

  • 高芝大橋上部工工事報告 97

    横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

    以下の点を考慮した。

    1)ベントを門型構造とするため架設桁を使用した。架設

    桁の支間長は道路の幅員以上とし,高さも大型車両の

    通行を想定し桁下高6.0mを確保した。

    2)トラベラークレーンを載荷した時の架設桁のたわみは

    解析値が13mmに対して,実測値が最大5mmと問題

    はなかった。

    3)ベントG2桁側の基礎は,地形条件や構造線形により

    崖際へ設置せざるを得なかった。コンクリートのみで

    安定した直接基礎とするのは困難と考え,H鋼杭基礎

    へ変更した。施工はダウンザホールドリル併用杭打機

    を用いて掘削・建込みし,モルタル充填した。

    (2)B6,B7ベント揺止め構造

    B6とB7ベントには控え索と,ベント間をH鋼梁で連

    結して一体化を図った。さらにφ22mmワイヤを交差し

    て張り,筋交い材として機能させた。これらにより,架

    設等における桁の揺れを防止した。B6,B7ベント間の連

    結状況を写真-4に示す。

    B8~B10ベントにおける足場兼支保工を写真-5に,

    B10ベントのH鋼杭基礎削孔状況を写真-6に示す。

    写真-4 B6,B7ベント

    (3)B8~B10ベントのH鋼杭基礎

    B8~B10ベントを予定した山間部の急傾斜地はボーリ

    ング柱状図1)から推測すると,玉石混じりの砂礫層と強

    風化花崗閃緑岩とが褶曲した地層であった。それゆえ,H

    鋼杭基礎は地盤内の岩体との干渉を考慮し,ダウンザ

    ホールハンマを用いたロアドリル工法(モルタル充填)を

    採用した。これはB5ベントに用いた方法と異なり,法面

    の急傾斜地に架台を組立て,その上に削孔機を設置する

    掘削工法である。架台として単管パイプを用いた足場兼

    支保工を設置した。掘削時における振動や急傾斜地への

    設置を考慮すると,支保工の滑動が心配され振止めの控

    え策を設け滑動防止措置とした。

    H鋼杭基礎を含めたベント基礎全数において日毎の沈

    下量を測定した。架設中や後にも測定したが,特に問題

    となる沈下は生じなかった。

    写真-5 B8~B10足場兼支保工

    写真-6 B10のH鋼杭基礎削孔状況

    (4)B11ベントの省略

    B10ベントからトラベラークレーンを7.7m前進させる

    ことで,B11ベントを省略できることが解析により確認

    できた。したがって,最終ブロックは張出し架設とした。

    架設時の桁先端部のたわみ量は100mmと算定され,A2

    支承を架設後,横取りして設置した。最終ブロック架設

    状況を写真-7に示す。

    写真-7 最終ブロック架設状況

  • 高芝大橋上部工工事報告98

    横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

    4.2 曲線桁でのトラベラークレーンの走行性

    本橋の線形(縦断7.6%,横断±6.0%,最小曲率半径70m)

    に合わせ,トラベラークレーンをスムーズに,かつ安全

    に走行させることが必要であった。

    トラベラークレーンの作業時許容傾斜は±2.0%であり,

    これに納めるよう常にクレーンの傾斜を調整した。さら

    に,クレーン走行の曲線に対応するため「走行スライド

    装置」と呼ぶ治具を製作した(図-3)。しかし,下記の原

    因からスムーズな走行が得られなかった。

    (1)曲線の走行において,ボスとレール軸線に偏心量が生

    じ,円滑な回転機能の妨げとなった。

    (2)既設の走行装置に「走行スライド装置」を設置したた

    め,δh=135mm高くなり,油圧シリンダーの仰角

    θが大きくなった分,水平方向の推進力が低下した。

    上記より,従来どおり既設の走行装置により走行させ

    ることにした。これは,既設の走行装置とレールとのク

    リアランス40mmを利用し,ストロークジャッキを左右

    交互に操作しながら走行を可能とするものである。その

    結果,最小曲率半径 70m 区間は,片側 1 ストローク約

    50mmずつ交互に前進することができた(図-4)。

    36 36 偏心

    偏心すると

    δh=135mm

    A

    A

    油圧シリンダー 反力受

    仰角θ

    走行スライド金具(上): 走行スライド金具(下):

    押え金具:

    走行スライド装置 既設走行装置:

    レール:

    側面図

    A-A断面図

    δh=135mm

    図-3 走行スライド装置

    2020

    既設走行装置:

    レール:

    δh=0mm

    図-4 既設走行部とレールとのクリアランス

    4.3 曲線桁での部材運搬台車の走行性

    運搬台車の走行方法も検討が必要であった。縦断勾配

    7.6%に対してレール上の自走式とすることは不可能であ

    り,図-5に示す「ウィンチ台車盛替走行方式」とした。

    これは図-6に示すH鋼梁を組合せた運搬台車のレール

    直上に単胴ウィンチを搭載し,そのワイヤで反力台車と

    結び,ワイヤを巻上げることで生ずる引張力を利用して

    運搬台車を前進させ,次の位置に移動した時点で運搬台

    車を固定,今度は反力台車を前進させ固定し,また運搬

    台車のウィンチを巻上げ盛替えながら走行する方式であ

    る。なお,横断勾配に対しては,運搬台車のねじれ剛性

    を低くして,運搬台車の弾性変形で左右の高低差を吸収

    する構造とした(図-6)。

    運搬台車

    反力台車

    反力台車固定

    反力台車

    反力台車 運搬台車

    運搬台車

    反力台車 運搬台車

    STEP①

    STEP②

    STEP③

    STEP④

    ワイヤ巻上げ方向 主桁部材

    主桁部材

    主桁部材

    主桁部材

    運搬台車移動 ※運搬台車搭載のウィンチを巻上げることで  運搬台車が走行。反力台車は固定。

    レール

    ※運搬台車が走行完了。  反力台車は移動準備。

    反力台車移動 運搬台車固定・待機

    ※反力台車移動中。  運搬台車は固定・移動準備。

    反力台車固定

    運搬台車移動

    ワイヤ 巻上げ方向

    ※運搬台車搭載のウィンチを巻上げることで  運搬台車が走行。反力台車は固定。

    図-5 ウィンチ台車盛替走行方式

    滑車φ400 (フリートアングル確保用) 牽引用ワイヤーロープ φ20(IWRC 6×Fi(29))

    単胴ウィンチ  (3t×7m/min,3.7kw,   ポールチェンジモートル型)

    滑車400φ (1車)

    惜しみ用 ワイヤーロープφ20

    盛替え用 シルバーウインチ

    反力台車 運搬台車

    溝形鋼

    筋交い材

    H鋼梁 H鋼梁 H鋼梁

    注)盛替え時使用

    注)走行時ウィンチを巻上げる事で前進する。

    運搬台車走行方向

    注)反力台車は固定である。

    主桁

    主桁

    H鋼梁

    図-6 運搬台車構造図

    発電機 50kVA 発電機 50kVA

  • 高芝大橋上部工工事報告 99

    横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

    また,桁曲線部での運搬台車の走行性を良くするため

    に,運搬台車の走行部分に「台車回転治具」を組込んだ。

    これは図-7に示す回転金具(上)と回転金具(下)がボ

    ス構造により回転する構造形式である。また,互いの接

    触面に潤滑剤を塗布し,摩擦力を軽減した。

    曲線部走行時,左右ウィンチの巻上げ速度を変えるこ

    とにより「台車回転治具」を機能させ,円滑な桁曲線部

    の走行性を確保できた。

    回転金具(上)

    回転金具(下)

    側面図

    分割すると

    台車

    曲線レール

    A BAB

    注) 台車が走行時回転することで, 曲線レールに対応する構造である。

    分割側面図

    ボス孔 ボス

    A - A B - B

    図-7 台車回転治具

    5.床版の施工

    5.1 I形鋼格子床版の設置

    床版は,I形鋼格子床版(以下,IBG床版とよぶ)である。

    IBG床版とは,主筋に小型I形鋼を用い,そのウェブにあ

    けられたパンチ孔に配力鉄筋を配置し,I形鋼の下フラン

    ジ下面に型枠として2.3mmの亜鉛めっきされた鋼板を工

    場にて取付け,パネルとしたものである。

    IBG床版の総数は127パネルあり,1パネル当りの重量

    は約3.0tであった。地形的に地上からのトラッククレー

    ンでの設置は不可能であり, 25t吊ラフタークレーンを用

    いて桁上から設置した。設置状況を写真-8に示し,要

    領を以下に示す。

    1)桁架設後,箱桁上にパネル割付のマーキングをした。

    その際の誤差調整は,主桁継手毎とした。

    2)IBG床版上に据付けた25t吊ラフタークレーンにより,

    マーキング位置にA1桁端部からA2方向へ順に設置し

    た。アウトリガーの設置箇所には覆工板を敷き,荷重

    分散を図った。

    3)また,IBG床版上に敷鉄板を橋軸方向に並べ,その上

    を工事用道路としてトラックで順次パネルを運搬した。

    次に,IBG床版設置に伴い検討した点を示す。

    1)IBG床版は,構造的にハンチ高さを修正する事が困難

    であり,桁架設時のキャンバーに高い精度が要求され

    た。そこで,架設時キャンバーの目標管理値を規格値

    の±50%と定め施工することで,ハンチ高さの修正を

    不要にできた。

    2)25t吊ラフタークレーンの走行荷重に対するIBG床版

    の断面応力度を照査した。その結果,主部材であるI

    形鋼は応力的に問題なかったが,ライナー部材を□19

    ×19から□25×25へ断面変更した(ライナーとはあ

    らかじめ工場で所定の設計ハンチ高さに加工・取付け

    る部材であり,パネル本体を支持するもの)。

    3)上記の工事用車両がIBG床版上を走行するにあたり,

    桁とIBG床版がずれないように,桁上のスタッドボル

    トを一部,全ネジとし,これを利用してナット・治具

    により固定する構造とした。

    5.2 床版コンクリート打設

    床版コンクリート打設にあたり,下記の問題があった。

    1)ポンプ車はA1橋台背面ヤード付近に最大2台据付け

    できたが,桁下等に据付けてのコンクリート打設は地

    形的に困難であった。したがって,A1橋台背面ヤード

    からの桁上配管による打設となり,長距離配管に伴う

    圧送方法とコンクリートの配合が問題となった。

    2)床版コンクリートの打設時期は11月初旬,かつ線形等

    に配慮して,仕上げ等の作業性も考慮しながら適切な

    打設順序を決定する必要があった。

    以下に,床版コンクリート打設の検討点を記す。

    5.2.1 長距離配管でのコンクリート圧送検討

    コンクリート配合は運搬時間や打設方法を考慮すると,

    スランプ8cmではポンプ圧送時の閉塞や,IBG床版にお

    ける締固め不足等が心配された。したがって,協議の上,

    写真-8 I形鋼格子床版の設置状況

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    床版コンクリートの圧送性を改善するため,実績の多い

    高性能AE減水剤を用いたスランプ15cmへ変更した。圧

    送の検討は,「コンクリートのポンプ施工指針(平成12年

    版)」2)に基づいて行った。A1橋台背面ヤードからのコン

    クリート配管条件を図-8に示す。

    ポンプ車

    桁上:水平管216m(262m)

    フレキシブルホース:8m

    縦断勾配での高低差 16.4m          (20.5m)

    ベント管:90° ベント管:90°

    施 工 条 件: 1)配管5インチ使用 2)高性能AE減水材使用 3)スランプ:15cm 4)コンクリート単位体積重量:23kN/m3 5)コンクリート吐出量:30m3/hr ポンプ車性能: 1)製造会社:三菱重工業㈱ 2)形式名:DC-L1100BM(SL1000BD) 3)最大吐出量:(標準時)107m3/hr / (高圧時)69m3/hr 4)最大理論吐出圧:(標準時)4.9MPa / (高圧時)7.5MPa 注)上記( )内の値は,A1~A2間の桁上でのフレキシブルホース   を考慮した水平距離,またはそれに伴う諸データである。

    図-8 コンクリート配管条件

    図-8の( )内の数値より必要最大理論吐出圧:Pmaxを

    算出すると,次の値であった。

    Pmax = 4.85 MPa ≦ Pa = 4.9 MPa  ok

    さらに,圧送距離を短縮して施工効率を上げる目的で

    P1橋脚近傍の橋面上にポンプ車を配置する方法を検討し

    た。この場合は,必要最大理論吐出圧:Pmaxは次の値と

    なる。

    Pmax = 4.1 MPa ≦ Pa = 4.9 MPa  ok

    これらのコンクリート配合条件を表-1に,示方配合

    を表-2に示す。

    高性能 AE減水剤

    粗骨材の 最大寸法 (mm)

    20

    呼び強度 (N/mm2)

    スランプ (cm)

    30 15

    コンクリート の種類

    普通

    水セメント比 (%)

    細骨材率 (%)

    47.0 51.3347 163 921 896 3.817

    セメントの種類 備 考

    普 通 ポルトランドセメント

    水 セメント 細骨材 粗骨材 混和剤 (高性能 AE減水剤)

    単位量(kg/m3)

    表-1 コンクリート配合条件

    表-2 コンクリート示方配合

    て考慮した点を以下に記す。

    1)不測の事態に対応できるよう各床版打設ステップにお

    ける最初のブロックの打設量は可能な限り少なくする。

    2)打設時期(比較的冬期),打設地点,および縦断・横断

    勾配,あるいはIBG床版の格子構造を考慮した。

    3)実施工程は,各ステップの配管距離で可能な1日最大

    打設量や作業効率,天候・休日等を考慮し決定した。

    したがって,床版コンクリート打設は床版全体を9ブ

    ロックに分割し6回打ちとした。最初のステップ1は,A1

    橋台背面ヤードにポンプ車を据付け配管し,A1近傍から

    P1~P2間中央部付近まで311.2m3打設した。2週間の養

    生期間を経てステップ2以降の打設とし,ステップ2以

    降はポンプ車をP1~P2間の橋面上に据付け打設した。こ

    れはポンプ車による配管の圧送距離を短縮し,作業効率

    を良くするためである。床版コンクリート打設ステップ

    を図-9に,打設状況を写真-9に示す。

    5.2.2 床版コンクリート打設順序

    床版コンクリートの打設順序は,各床版打設ステップ

    において発生する負の曲げモーメントに対してコンク

    リートの引張応力度を照査し決定した。打設順序につい

    写真-9 コンクリート打設状況

    コンクリートは高い方(A2側)から低い方(A1側)への

    打設としたため,縦断・横断勾配に対するスランプ15cm

    による流れ,およびI形鋼直上に発生する可能性のある沈

    下ひびわれが留意点であった。

    したがって,コンクリートの自重による流れは橋軸直

    角方向のI形鋼によって抵抗させ,沈下ひびわれは打設

    後にタンピング等を実施することで防止した。養生後,

    クラック発生状況を確認したところ,中間支点付近に若

    干のヘアークラックが発生していたが,有害なものは生

    じなかった。

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    写真-10 施工完了

    6.あとがき

    本工事を終えて,山間部における橋梁架設の難しさを

    強く感じた。特に急傾斜地でのベントH鋼杭基礎は施工

    の難度が高かった。また曲線桁でのトラベラークレーン

    や運搬台車の走行性にも問題が多数あった。

    床版コンクリート打設は,寒中コンクリートとなるこ

    とを心配したが,IBG床版設置を効率良く行うことで工

    程が短縮し,厳冬を迎える前に打設でき,品質・出来形

    ともに良いものであった。

    A2P4P3P2A1 P1

    341 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50

    床版STEP1

    床版STEP2

    床版STEP3

    床版STEP4

    床版STEP5

    床版STEP6

    341 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50

    341 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50

    341 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50

    341 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50

    341 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50

    打設量:116.7m3 打設量:97.3m3

    打設量:311.2m3

    打設量:38.9m3 打設量:97.3m3

    打設量:19.7m3打設量:157.4m3

    打設量:116.7m3

    打設量:21.5m3

    図-9 床版コンクリート打設ステップ図

    安全管理では特に,吊足場解体時に「キーロック方式」

    による安全設備を採用し,かつ現場関係者全員が安全意

    識を高めて作業したことにより,無事故にて工事を完了

    できた。

    最後に工事の計画・施工にあたり御指導いただきまし

    た山梨県峡東地域振興局塩山建設部の方々,数多くのご

    協力を頂いたJV構成員,並びに工事に携わった協力会社

    の皆様に厚く御礼申し上げます。

    参考文献

    1)塩山土木事務所:国道橋梁改築設計委託橋梁耐震設計

    報告書〔上萩原1号橋(仮称 高芝大橋)〕,平成11年

    11月

    2)土木学会:コンクリートのポンプ施工指針(平成12年

    版),丸善株式会社,平成13年 11月