聴覚障害者向け緊急時通報アプリケーション開発 with iphone...

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琉球大学主催 工学部情報工学科 卒業研究発表会 聴覚障害者向け緊急時通報アプリケーション開発 with iPhone 4 学籍番号: 075702B 氏名: 赤嶺一行 指導教員: 谷口祐治 1 はじめに 現在、全国に約 30 万人の聴覚障害者がいる。彼らは第一 言語に「手話」「口話」「筆談」といった言語を習得するが、 失聴した時期、難聴の程度、又は年齢によって使う言語は 異なる。したがって、聴覚障害者同士のコミュニケーション も必ずしも円滑に行くとは限らない。増して、健聴者との コミュニケーションには苦労しているのが現状である。 技術が発達した今の世の中では聴覚障害者は健聴者と同 じように生活を送っている。例として、条件付きで自動車の 運転ができるようになっている。健聴者と同じ生活を送れ るということは、同じように日常の危険な場面にも出くわ す可能性がある。仮に事故等の緊急時、周りに健常者がい たとしても、コミュニケーションがうまく取れなくては伝 えたい事がうまく伝わらない。そうなると状況は悪化する ばかりでなく、第二、第三の被害が発生する可能性もある。 本研究では現状で聴覚障害者が事故・災害等の緊急時の 対処方法を分析すると同時に、聴覚障害者が事故・災害時 容易に通報できるアプリケーションを開発する。開発する 端末には Apple が提供している多機能情報端末「iPhone 4を利用する。 2 現状の聴覚障害者の緊急時通報方法 事故・災害時に重要な情報は「場所」「時間」「事故の状 況」「被害者の有無、被害者の怪我、被害者の数」である。 これらを耳・言葉が不自由な人が従来の音声による 119 で伝えることは難しい。現状での身体障害者 (:聴覚障害 者のみならず、場合によって身体障害者と共通する点が多 いために広く身体障害者と位置づける) 119 番通報にはい くつか方法がある。以下に現在の身体障害者が利用する 119 番通報の手段を紹介する。 2.1 FAX での通報 FAX は、あらかじめ通報用紙の体裁が決められており、 通報者が必要事項を記入する。音声での通報による必要が 無いために、耳・言葉に問題がある人でも文字が解れば利 用できる。FAX の問題は外出時の場合に利用できないこと で、時間がかかってしまう。リアルタイムな情報を伝える ことができないという事も問題である。 1: ニライ消防本部が指定している FAX119 番用紙 2.2 Web(携帯電話メール) を使った通報 近年、FAX での通報の問題を解決する為に利用されてい るのが Web(携帯電話メール) を使った 119 番である。FAX での通報に比べて場所、時間を選ばないようになった。さ らに GPS(Grobal Positioning System) を搭載した携帯電話 からの通報ならば場所まで特定できるシステムも実現して いる。 問題はシステムの普及率が低い為に利用出来る救急機関 が少ないという事。多くの Web119 番システムは事前に登 録が必要となる。 3 緊急・事故時通報 iPhone アプリケー ションの開発 これまで見てきたように、現状の身体障害者の 119 番が 抱える問題を解決する為に重要な点は「即時性」「正確な位 置情報」「緊急状況に合わせた対処方法」が挙げられる。そ こで開発するアプリケーションには緊急時に必要な技術を 防災通報システムと連携することで可能にさせる。

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Page 1: 聴覚障害者向け緊急時通報アプリケーション開発 with iPhone 4ie.u-ryukyu.ac.jp/dessertation/files/2010/11/middle_yokou.pdf · で伝えることは難しい。現状での身体障害者(注:聴覚障害

琉球大学主催 工学部情報工学科 卒業研究発表会

聴覚障害者向け緊急時通報アプリケーション開発 with iPhone 4

学籍番号: 075702B 氏名: 赤嶺一行 指導教員: 谷口祐治

1 はじめに現在、全国に約 30万人の聴覚障害者がいる。彼らは第一

言語に「手話」「口話」「筆談」といった言語を習得するが、失聴した時期、難聴の程度、又は年齢によって使う言語は異なる。したがって、聴覚障害者同士のコミュニケーションも必ずしも円滑に行くとは限らない。増して、健聴者とのコミュニケーションには苦労しているのが現状である。 技術が発達した今の世の中では聴覚障害者は健聴者と同じように生活を送っている。例として、条件付きで自動車の運転ができるようになっている。健聴者と同じ生活を送れるということは、同じように日常の危険な場面にも出くわす可能性がある。仮に事故等の緊急時、周りに健常者がいたとしても、コミュニケーションがうまく取れなくては伝えたい事がうまく伝わらない。そうなると状況は悪化するばかりでなく、第二、第三の被害が発生する可能性もある。 本研究では現状で聴覚障害者が事故・災害等の緊急時の対処方法を分析すると同時に、聴覚障害者が事故・災害時容易に通報できるアプリケーションを開発する。開発する端末にはAppleが提供している多機能情報端末「iPhone 4」を利用する。

2 現状の聴覚障害者の緊急時通報方法事故・災害時に重要な情報は「場所」「時間」「事故の状

況」「被害者の有無、被害者の怪我、被害者の数」である。これらを耳・言葉が不自由な人が従来の音声による 119番で伝えることは難しい。現状での身体障害者 (注:聴覚障害者のみならず、場合によって身体障害者と共通する点が多いために広く身体障害者と位置づける)の 119番通報にはいくつか方法がある。以下に現在の身体障害者が利用する 119番通報の手段を紹介する。

2.1 FAXでの通報FAXは、あらかじめ通報用紙の体裁が決められており、

通報者が必要事項を記入する。音声での通報による必要が無いために、耳・言葉に問題がある人でも文字が解れば利用できる。FAXの問題は外出時の場合に利用できないことで、時間がかかってしまう。リアルタイムな情報を伝えることができないという事も問題である。

図 1: ニライ消防本部が指定している FAX119番用紙

2.2 Web(携帯電話メール)を使った通報近年、FAXでの通報の問題を解決する為に利用されているのがWeb(携帯電話メール)を使った 119番である。FAXでの通報に比べて場所、時間を選ばないようになった。さらにGPS(Grobal Positioning System)を搭載した携帯電話からの通報ならば場所まで特定できるシステムも実現している。 問題はシステムの普及率が低い為に利用出来る救急機関が少ないという事。多くのWeb119番システムは事前に登録が必要となる。

3 緊急・事故時通報 iPhoneアプリケーションの開発

これまで見てきたように、現状の身体障害者の 119番が抱える問題を解決する為に重要な点は「即時性」「正確な位置情報」「緊急状況に合わせた対処方法」が挙げられる。そこで開発するアプリケーションには緊急時に必要な技術を防災通報システムと連携することで可能にさせる。

Page 2: 聴覚障害者向け緊急時通報アプリケーション開発 with iPhone 4ie.u-ryukyu.ac.jp/dessertation/files/2010/11/middle_yokou.pdf · で伝えることは難しい。現状での身体障害者(注:聴覚障害

琉球大学主催 工学部情報工学科 卒業研究発表会

3.1 技術概要本 研 究 で は iPhone ア プ リ ケ ー ション を iOS

SDK(旧:iPhone SDK) で開発する。この iOS SDK はAppleの iOS Dev Center(旧:iPhone OS Dev Center)に登録した上でダウンロードが可能となり利用できる。開発に使用する「Xcode」は、プログラムのコンパイル, デバッグ, シュミレートまで可能な総合開発環境 (IDE) である。「Interface Builder」はアプリケーションをグラフィカルにプログラム化する事ができるソフトウェアである。本研究で iPhone を利用した理由に個人が簡単にアプリケーションが開発できる事である。多様な技術が容易に利用できて、且つ最先端のテクノロジーを利用して独自に開発できる。

3.2 Core Locationを用いた位置情報測定iPhoneには Core Locationという位置情報取得フレームワークが標準装備されており位置情報が得られる。測定には人工衛星のマイクロ波を受信する事で経度、緯度から位置を特定する。測定には他にも、携帯電話の基地局の場所から計測して場所を決定する事もできる。

図 2: Core Locationを使って位置情報を取得

3.3 事故の状況通報を受けた人間は現場事故の状況を詳しく知る必要がある。そこで本アプリケーションはあらかじめ起こり得る事故を想定しておいてユーザーはその中から最も適した状況を選択できるようにする。通報者は決まった情報を入力して送信する事で自分自身で迷わずに現場の状況を伝えることができる。具体的にユーザーはピッカーと呼ばれる機能で現在起こっている状況を選択する。選択肢はあらかじめプログラムで定めておく必要がある。

図 3: ピッカーで事故の状況を選択する例

3.4 事故・災害の状況に応じた対処方法通報者が現状を伝えることができたら、通報者にその後

の行動を指定する。上で紹介した FAX, Webではインタラクティブな手段をとる事ができず、一方は情報を伝えた後に待機する事になっていた。この機能を搭載する事で、通報後に自分がどう事故に対処すべきかを瞬時に指定してくれるので、時間を無駄に消費しない。また、被害者がいるときには簡単な応急処置を行える等の簡易的な救助ができるようにする。 対処方法は緊急時の状況によって異なる。ユーザーは現在の状況をピッカーによって、選択しているはずである。その組み合わせによって、アプリケーションは次にどうすればよいのかを判断し対処方法を示してくれる。

4 まとめと今後の課題 ひと昔前に比べて聴覚障害者の生活は一段と便利になっ

ている。しかし、私自身が彼らと実際に関わって感じたのが、情報の入り口が狭いという事。これには、今の社会福祉制度にも問題があるが、彼ら聴覚障害者のコミュニティは非常に狭いのだと感じた。まずは、情報の入口を広げてあげる事が必要だと考える。その一つの方法として、本研究で使われているような先端技術に触れる事である。 今後の課題は独立しているプログラムを統合する事。これからの展望として起こり得る緊急状況を想定して、多くの状況に適合させる事が必要となる。

参考文献[1] Dave Mark, Jeff LaMarche[著] 鮎川不二雄 [訳] : はじめての iPhone 3 プログラミング

[2] ニライ消防本部  URL:(http://www.nirai119.jp/)