世代間協調問題における問題点と対応策の検討3 1.概要...

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1 世代間協調問題における問題点と対応策の検討 小林慶一郎研究会所属 3年 池崎功汰

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    世代間協調問題における問題点と対応策の検討

    小林慶一郎研究会所属 3 年 池崎功汰

  • 2

    目次

    1.概要 ........................................................................................................................ 3

    2.民主主義の現状と問題点.......................................................................................... 3

    3.問題点の対応と世代間協調という考え ..................................................................... 5

    4.利他行動の源泉~互恵性~ ...................................................................................... 6

    5.世代間協調と互恵性の関係 ...................................................................................... 7

    6.実験 ........................................................................................................................ 8

    7.結果・考察 ............................................................................................................ 10

    8.最後に ................................................................................................................... 13

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    1.概要

    間接互恵性が適用しない未来に住む人(将来世代)に対し、利己的で協力行動を行わない

    ことが予想される現在世代は、何を行えば協力行為を促進できるかアンケートを 用いて検

    討する。

    2.民主主義の現状と問題点

    17 世紀以降ヨーロッパで拡大した民主主義は、当時のローマ教会などの宗教的権威や絶

    対王政からの脱却から成功した。さらにアメリカ独立戦争を経てトーマス・ジェファーソン

    が起草したアメリカ独立宣言では、社会契約論や人民主権が盛り込まれ直接民主 主義が発

    達したことで、今日では民主主義は多くの国で主流になっている。組織の重要な意思決定に

    国民が参加することで民意を反映させることができるため、国民が政府を監視す ることで

    望まない政策・意思決定 ― 例えば、17 世紀に実際に行われた王政が国民に対し生活を

    苦しめる重税を課した政策や、ローマ教会が教会建設の資金集めのために免罪符 の発行を

    行った ― を阻止することができる。従って現在の民主主義国家の国民は、社会主義国家

    や王政国家の国になることを望まないだろう。実際に現在の民主主義国家と社会 主義国家

    を比較しても、国内総生産(GDP)は大きく異なる。東西ドイツ時代もソ連統治地域の東

    側よりも米英仏統治の西側の方が豊かであった。その影響は現在も残っており、東側の GDP

    は西側の三分の 4 に留まっている。国民の最も行ってほしい政策を行う民主主義に則って

    多くの国が政治を行っているが、果たして問題は何も起きていないのだろうか。

    近年ポピュリズム政権という言葉を耳にするが、これは大衆迎合的な政治思想・運動のこと

    を指す。グローバル化の発展によって、格差の拡大や難民の増加を掲げるポピュリズム思想

    の政治家の増加につながっていると指摘されており、移民反対などを訴える極右や、バラマ

    キ型の政策を掲げる左派のポピュリズムも発達しており、上記の政権は特にヨー ロッパで

    台頭してきている(日経新聞,2019/5/26)。これは民主主義の原則である国民による選挙が

    このような現象を起こしている一因であると考えることができる。政治家は選挙 で落ちて

    しまえば無職になってしまうため、どうにかして民衆から支持を得て選挙で勝た なければ

    ならない再選動機が存在するからだ。国民の支持を得るためには、国民から迎合される政策、

    つまり国民に直接的な利益になる(もしくは損失になる事象を排除する)政策をアピールす

    るだろう。結果的に大衆に迎合される政策が行われ、ポピュリズム政権が発達するのである。

    民衆が迎合する政策を行うなら何も問題がないように見えるかもしれない。確か に投票に

    よって政治を行う代表者が決まれば独裁的で国民に苦しめる政策を行う人物は出 てこない

    だろう。しかし裏を返せば、組織に必要な政策を講じても民衆が反対すれば実行されないと

    いうことである。具体例には、移民政策や消費税の増税だ。

    アフリカや中東からの紛争で、欧州や北米に大量の移民が流入しており、2019 年時点では

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    難民の数は 2 億 7000 万人ほどおり、その中で安全に生活ができる先進国に受け入れが完了

    しているのはたったの 2700 万人しかいない(from IOM’s migration data)。紛争が多発し増

    加した難民だが、これからは「環境難民」(異常気象の頻発により、被害から逃れるために

    自国を離れる人々)が発生し、難民の数は増加の一途を辿ることが予想される。難民の保護

    は、比較的経済面で余裕がある先進国が進めなれければならないことは明らかだが、保護国

    である先進国の国民はそうは思っていないようだ。なぜなら、受け入れた難民が様々な不利

    益を自分達に出すと考えているからだ。実際、単純労働を低賃金で実現できる移民は保護国

    の工場労働などの労働需要を奪い、一部地域でスラムを形成し環境・治安悪化の一因となっ

    ている。このような状態で政治家が移民受け入れを推し進めても国民は反対するだろう。現

    に米トランプ大統領は、移民排斥を進めることで白人の単純労働者層から支持を得ている。

    しかしこの場合、国を追われた難民はどこへいくのだろうか。

    国民に利益がない行為を一切行わないことは、国際的な協調が求められている現 在の世界

    では問題視されるだろう。

    財政再建のために行われる消費税増税も民主主義国家では同様に難しいだろう。

    日本の債務額は世界で一位の額を誇っている。2020 年の日本政府純債務の対 GDP 比は

    154%であり、二位のイタリア 116%より大差を付けており、額が大きいことがわかる(IMF

    World Economic Outlook)。債務を返済するためには、税率を挙げて歳入を増加させるか社

    会保障費を削減し歳出を減少させる方法が考えられるが、人口減少とともに高齢 化が進む

    日本では後者はあまり期待できないと仮定すると、必然的に税率を挙げることになる。仮に

    消費税の増税だけで現在の財政を改善しなければならないと考えると、日本の消 費税率を

    38%にし、永久に固定する必要があると指摘されている(小林ら,2018)。消費税を増税しな

    くとも、約 70 兆円の財政収支改善の必要性があり、一世代だけで完結できる問題ではない。

    このような厳しい現状を説明すると、それでは破綻した後に新しく財政を再建さ せた方が

    良いのでは、と考える人もいるかもしれないが、将来財政が破綻した場合物価は 300%以上

    物価が上昇する。これは日銀が物価を制御不可能になり、公的債務の価値をインフレによっ

    て減価させ持続可能なレベルまで自然と落とすことになるためである(小林ら,2018)。可能

    性は低いが将来物価が 3 倍上昇するか、現在消費税を 1.3 倍上昇し破綻リスクを下げるの

    か、合理的に考えればどちらが良いかは明確だ。

    しかし先ほど述べた通り、国民は自身の不利益になる政策を迎合することはない。事実、こ

    れまで竹下政権で消費税の導入を行った時や、安倍政権で税率を引き上げなど、消費税に関

    係した内閣の支持率は大きく下がっている。このように政治家の再選動機がある 限り国民

    が望まない政策は実現されにくいため、今後の消費税率引き上げは容易ではないだろう。

    以上の点から、現在望まない政策を決して行わない利己的な世代が続く限り国と いう組織

    にとって合理的な政策を行うことができない。つまり民主主義は、有限な財を最大限使うシ

    ステムで時間を超えた財の配分について何も考えられておらず、利己的な世代が 続く限り

    問題は解消されることは決してない。「世代を超えた財の配分」という考えは、これまで問

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    題が起こらなかったため考えられてこなかったが、このシステムが 200 年以上続いている

    現在、地球温暖化問題や社会保障費用の不足などの問題が発覚し、近年注力される問題にな

    っている。

    3.問題点の対応と世代間協調という考え

    上記のように、民主主義は有限な財を最大限消費することで、将来起こりうる問題を先延

    ばしにするシステムであることを指摘した。民主制のもとでは常に現在世代は利 己的なた

    め、いずれかの世代が声を挙げて社会の持続性について論じなければならない。この問題に

    対処するべく生まれた分野が「フューチャー・デザイン」というモデルである。このモデル

    は 2012 年に大阪大学環境イノベーションデザインセンターに集う研究者たちが「仮想将来

    世代はどのように作り出すか」というテーマのから発足した(西條ら,2015)。

    「フューチャー・デザイン」とは、「たとえ,現在の利得が減るとしても,これが将来世代

    を豊かにするのなら,意思決定や行動,さらにはそのように考えることそのものがヒトをよ

    り幸福にするという性質」を将来可能性とし,ヒトの将来可能性を生む社会のデザイン設計

    の事である(西條、2018)。実験方法はシンプルで、集団を二つにわけ、一方は現在抱えて

    いる問題について考え必要な政策を検討する(現在世代と呼ぶ)。もう一方は何十年後に自

    身が生まれたと仮定し、何十年後に必要な政策を検討する(仮想将来世代と呼ぶ)。そして

    二つの集団が互いに政策を打診し、現在行うべき政策を議論する。

    この実験は既に、岩手県矢巾町や京都府宇治市などいくつかの自治体で行われており、有効

    な政策を建てることができたようだ。イメージが湧きやすいよう、京都府の水道事業に対し

    平成 30 年に行なわれた事例を紹介する。これは東京財団主催の「フューチャー・デザイン・

    ワークショップ 2020」で紹介されたものである。

    京都府営の水道事業は、水自体の需要の減少・水道管の老朽化・自然災害発生に伴うリスク

    の高騰など、厳しい環境に置かれていたため、運営及び施設拡充整備について相互の連絡調

    整を図り、水道事業の円滑な運営を行うために研修事業が毎年行われていた。

    そこで平成 30 年度の研修内容として「フューチャー・デザイン・セッション」が行われた。

    セッションは全四回行われ、対象者は京都府の市長水道事業担当者を中心とし、30 名から

    50 名の規模で行われた。4 日間の進行は以下であった。

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    第一回セッション

    ① 現在の課題の共有(現在世代→現在世代)

    ② 2070 年からのアドバイス

    (仮想将来世代→現在世代)

    第二回セッション

    ① 現在の課題の共有(現在世代)

    ② 2048 年の水道事業を想像(現在世代)

    第三回セッション

    ① 2048 年の理想像を思考(仮想将来世代)

    ② 2048 年の理想像の実現に向け、2018 年

    当時からやるべきことを検討(仮想将来

    世代)

    第四回セッション

    ① 2048 年の理想を実現するにあたり、困

    難だったことの特定(仮想将来世代)

    ② 2018 年に対するアドバイス(仮想将来

    世代)

    このセッションより、フューチャー・デザインは将来世代の利益を最大限主張できる事を示

    した。しかし現在世代の視点から未来を考えると現在世代の利益も反映してしま う傾向に

    あり、視点をかえるためにはアイテムが必要であると指摘した。

    このように、フューチャー・デザインは有限な資産を後続世代の事を考慮し、組織の永続性

    に貢献することがわかる。

    フューチャー・デザインのように、世代を超えて問題を解決することを「世代間協調問題」

    という。そこで、なぜ人間は自分が損をしても人を助けることができるかを考えなければな

    らない。

    4.利他行動の源泉~互恵性~

    人はなぜ自分ではない他者に協力しようと思うのだろうか。

    人が協力する際に行う行動の事を利他行動というが、利他行動とは、自己の利益を目的とせ

    ずに相手の利益になることを意図して自発的に行われる行動だ。その行動には何 等かの自

    己の損失が伴う可能性がある。しかし自分が損をするのに、わざわざ人を助ける動機がない。

    そこで、人間が利他的に振る舞う性質を生得的に備えるのは、利他行動をとることが行為者

    (自分自身)にとって得になる仕組みが存在すると考えられる。この仕組みは、互恵性と呼

    ばれている。互恵性とは、ある社会的関係性の中でお互いが他者の行為に対して何等かの形

    で報いる人間の性質である。

    この性質には行動の対象者によって 2 種類存在する。直接互恵性と間接互恵性だ。直接互

    恵性は、利他行動をとった者は相手から将来お返しをもらえると期待し、利他行動が長期的

    には適応になることだ。例として、通常の売買、飲食店での付け、血縁関係がある人への協

    力行動を挙げることができる。対して間接互恵性は、相手から直接的なお返しがなくてもい

    ずれは自身に利得がやってくると信じ、利他行動が適応になることだ。例として、二度と来

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    ることがないレストランにチップおく、車のエンストで困っている道端の人を助 けるなど

    が挙げられる。つまり、前者は近親や友人に働く互恵性であり、後者は赤の他人に働く互恵

    性と要約することができる。よって間接互恵性が働く場面で人は協力的になるこ とが出来

    る。

    5.世代間協調と互恵性の関係

    間接互恵性に関する研究は、社会心理学をはじめ生物学や脳神経科学など様々 な観点か

    ら研究がなされている。特に間接互恵性を成立させる条件は選別的利他戦略にあ るという

    ことを指摘している(Nowak and Sigmund,1998)。つまりこれは、「利他的な他者だけに人

    は利他的に振る舞う」ことを表している。誰かに対して利他的に振る舞っている人は、将来

    別の人からも利他的に振る舞ってもらえるという間接互恵性が成立し、利他行動 は行為者

    にとって結果的に適応となる。より簡単に言い換えると、相手が利他的に振る舞 うという

    「良い」評判を持っていれば、自身は相手に利他行動を起こしやすくなるという事である。

    このように間接互恵性を持つ利他行動は「評判」が大きく左右される。

    ある実験によると、自身の資産を第三者に配分する際、利他性が高い第三者に資産配分を行

    い、利他性が低い第三者、つまり資産を周りに配分しようとしない人物には資産を配分しな

    い事がわかっている(高橋、真島,2015)。またより詳細な実験を行うと、提供者は、同じ資

    源提供者でも過去の資産提供の履歴により資産配分を決定した。履歴とは、提供先が一回前

    にどのような人物に資源を提供しているかを表している。提供先が一回前に資源 を提供し

    ていない人に資源を提供した場合、提供者は提供先に自身の資源を配分しない。逆に、提供

    先が一回前に資源を提供している人に対し提供している場合のみ、提供者は資源 を配分す

    る。これは、人が利他的な行動を行う際、協力的な人物のみ助け協力的ではない人物(=利

    己主義者)あるいは協力的でない人物を助ける人物(=無条件利他主義者)は助けない、と

    いう選択的利他的行動を起こすという意味だ。この実験結果通りの現象が社会全 体で発生

    すると仮定すると、納税などを行わない社会的非協力者やそれらの人を助ける人 を社会か

    ら排除するという現象が起こり、社会全体で間接互恵性に基づく協力行動が広く 行われる

    という事である。

    しかし、世代を超えた協力となると話が変わってくる。世代間協調問題は、現在世代が自身

    の資産を削っても組織の存続のため将来世代に資産を配分できるかを考えるが、提供者は

    間接互恵性が作用するための条件である「評判」を観察することが出来ないからだ。将来の

    人が協力的か非協力的か予想することができないため間接互恵性は働かないので 、世代を

    超えた協力行動は行われない。それでは、フューチャー・デザインのように仮想将来世代を

    作り現代世代と対話をさせないと協力的な行動を取ることがないだろうか。そこ で世代を

    超えた協力関係を結ぶことが出来ないか実験を行った。

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    6.実験

    <概要>

    将来世代のために現代世代が資産を配分するにはどのような政策・手段を取れば よいかア

    ンケート調査を実施した。対象は慶應義塾大学の学部生 30 名に協力して頂いた。

    通常の間接互恵性や協力行動に関する実証実験は、あらかじめポイントを支給し 限られた

    資産内で資源を配分するポイントゲームを行う。しかしポイント配分と自身の資 産を配分

    では、配分時の現実感があまりにも違うだろう。そこであえて伝統的に用いられているポイ

    ントゲーム方式を用いられているのではなく、回答者に自身の資産を想像しても らいその

    中からどの程度配分を行うか、という方法にした。

    <質問内容>

    回答者には以下の設問を課した。

    「500 年後に日本政府は財政が破綻することがわかったとします。このままでは、丁度 500

    年後に日本を国として機能しなくなってしまいます。そこで国民の皆さんから寄 付を募る

    ことになりました。寄付額は皆さんの今の資産の〇%です。皆さんは何パーセント寄付しま

    すか?」

    という問いに対し、5 点尺度で質問を行った。その後、下記の 4 つの政策・思想を想像して

    もらい、初期の寄付額が変化する割合を観察した。(※「」内は質問内容)

    1.報酬

    「政府が寄付した人には商品券を配るとします。商品券の金額は寄付額の数%です」

    ・ある互恵性のアンケートを用いた実証研究は、援助行動の生起に対して、共感性や互恵性

    は何の影響も与えず、単なる報酬の有無のみが影響を与えたと報告されている(富原、大田

    原,2003)(廣光,2018)。

    2.罰

    「寄付額が小さいほど公共サービスを受けづらくなる仕組みを作ります。しかし 日常生活

    に影響が出るほど大きくありません。」

    ・寄付を行わないと公共サービスが受けづらい罰を仮定した。罰の種類には様々あり、社会

    的な制裁や評判などあるが、調査対象が学生でありイメージしやすい、公共サービス利用時

    の罰を挙げた。

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    3.公共的価値の共有

    「現在の生活は過去の人々の寄付のおかげで不自由なく過ごせていて、後続世代 も同様の

    行動を行うとします。」

    ・過去から未来まで寄付行動が行われていることを表す。これは、先行世代が後続世代に協

    力行動を望み、その条件のもとに自らも協力的になることが報告されている(廣光,2018 )。

    4.無知のベール

    「寄付額が目標に届かない場合、年金支給を無くし増税を行うという政策が講じられます。

    その政策は 1 年後が 500 年後かいつ施行されるかわかりませんが、寄付を続ければ寄付額

    はいつか目標額に届きます。」

    ・「無知のベール」のもとでの思考、つまり自分がどの階層にいるかわからない(本実験で

    は、現在の不自由がない世界か、500 年後の悲惨な世界かわからない状態)が自分の利益の

    最大限を目指して合理的な選択ができるのでは、と考えた。

    これらの質問に対し、

    大幅に増加(1.5 倍程度)

    少し増加(1.2 倍程度)

    変化させない

    少し減少(0.8 倍程度)

    減少(0.5 倍程度)

    5 点尺度で回答を求めた。

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    7.結果・考察

    各施策に対し、初期寄付額の増減を示した図が以下である。

    図 2 各施策の寄付額増減数と平均増加率

    明らかに罰を行った際の寄付額変化が最も生の影響を与えていることがわかる。 社会的ジ

    レンマ実験で有意な結果が出た報酬あり条件は、図 2 から他の公共的価値の共有や無知の

    ベールを下したことによる合理的選択の促進と同程度の結果となっている。

    罰の反応が大きかった理由として、罰によるダメージが最も大きいと回答者が判 断したか

    らと考えられる。

    ここまで大きな差がでたのは、先行研究では「協力者が費用を支払って対象者に罰を与える」

    など、本実験では二次のジレンマを想定していないため、他の先行研究に比べて成果が出た

    のではと考えられる。

    次に、性別と金銭感覚で寄付行動に変化があるか考えた。

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    報酬 罰 公共的価値の共有 無知のベール

    図1 全体結果

    変化なし 微増 増加

    報酬 罰 公共的価値の共有 無知のベール

    変化なし 14 5 16 15

    微増 13 13 10 10

    増加 3 12 4 5

    平均変化率 1.136666667 1.286666667 1.133333333 1.15

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    ① 性別による寄付行動の変化

    図 3 性差による寄付率の変化

    (図 4)分散分析

    平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

    報酬 グループ間 .014 1 .014 .549 .465

    グループ内 .714 29 .025

    合計 .728 30

    罰 グループ間 .049 1 .049 1.410 .245

    グループ内 1.013 29 .035

    合計 1.062 30

    価値共有 グループ間 .157 1 .157 5.404 .027

    グループ内 .840 29 .029

    合計 .997 30

    無知のベール グループ間 .011 1 .011 .321 .575

    グループ内 .986 29 .034

    合計 .997 30

    ※有意確率 0.0pは 5 とする。

    0%

    20%

    40%

    60%

    80%

    100%

    図2 性差別の増加割合

    変化なし 微増 増加

    報酬 罰 価値共有 無知のベール

    男性 1.1077 1.3308 1.0615 1.1231

    女性 1.1500 1.2500 1.2056 1.1611

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    帰無仮説「任意の施策を行った場合、平均の結果は性別に関係ない」を立て分散分析を行っ

    たところ、公共的価値の共有(p=0.027)のみ帰無仮説を棄却できた。よって、「価値観の共

    有」は性差で寄付額が有意に変化することがわかった。他の三つの政策に対しては、性差で

    寄付額の変化を観察することが出来なかった。

    ② 金銭感覚による寄付行動の変化

    ・金銭感覚による違いが寄付行動に変化を起こすのではと仮定した。アンケートの個人属性

    解答欄で、日常で買い物を行う際の金銭感覚を聞いた。金銭を使用する際、抵抗感がある人

    とない人では寄付率に変化があるか仮説を立てた。

    買い物をする際に、金額を気にせず好きなものを買うと回答したグループは「寛容」とし、

    値段を気にして買うグループは「不寛容」とした。

    図を見ればわかるように、大きな差を観察することが出来なかった。

    上記の仮説①と同様に分散分析を行ったが、いずれの政策に対して統計的に有意 な結果を

    得ることが出来なかった。よって本実験では金銭に対する意識(金銭感覚)に差異がある仮

    説を証明することが出来なかった。

    0%

    20%

    40%

    60%

    80%

    100%

    (図5)金銭感覚(左:不寛容 右:寛容)

    変化なし 微増 増加

  • 13

    8.最後に

    本実験では、女性は男性より「公共的価値の共有」の施策を行った場合有意な結果が出たこ

    とが証明された。また、多くの場合「罰」施策に対する反応が顕著であった。しかし、一概

    に「罰」といっても様々な種類があるため、さらに施策の細分化を行い検証が必要と考える

    ことが出来る。

    <参考文献>

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    集,2003

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    亀本洋,「格差原理」,新基礎法学書,成文堂,2012

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