影印から読み解く多彩な情報...2366-7 33,000 28 釈 本紀 2 【重 】 2328-5 30,000 67...

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応仁・文明の乱前夜の社会情勢を詳細に知る貴重史料。 失われた典籍からの引用や、僧伝など多彩な記事を、高精細カラー版で読解! 前田育徳会尊経閣文庫 【編集委員】 尾上陽介・ 加藤友康 尊経閣善本影印集成 第九輯 鎌倉室町古記録 (全 10 冊) 第 74 冊 2 月 25 日刊行 〔第 4 回配本〕 ● A4 判横本・248 頁・貼函入 本体 36,000 円 2020.2 〓〓〓 ご予約、定期購読承ります︕ 2020年2⽉現在 各輯内容 通し巻 タイトル ISBN978- 4-8406- 本体価格 ご注⽂ 部数 各輯内容 通し巻 タイトル ISBN978- 4-8406- 本体価格 ご注⽂ 部数 1 ⻄宮記 1 【重⽂】 2301-8 17,476 40 ⽇本霊異記 【重⽂】 2340-7 18,000 2 ⻄宮記 2 【重⽂】 2302-5 17,476 41 三宝絵 【重⽂】 ⽇本往⽣極楽記 【重⽂】 2341-4 26,000 3 ⻄宮記 3 【重⽂】 2303-2 19,417 42 新猿楽記 【重⽂】 2342-1 25,000 4 ⻄宮記 4 【重⽂】 2304-9 【品切】 43 三宝感応要略録 【重⽂】 2343-8 26,000 5 ⻄宮記 5 【重⽂】 2305-6 17,476 44 江談抄 【重⽂】 2344-5 21,000 6 ⻄宮記 6 【重⽂】 2306-3 26,214 45 中外抄 【重⽂】 2345-2 22,000 7 北⼭抄 1 【国宝】 2307-0 【品切】 46 内裏式 2346-9 18,000 8 北⼭抄 2 【国宝】 2308-7 24,272 47 本朝⽉令要⽂・⼩野宮故実旧例・ 年中⾏事秘抄 2347-6 26,000 9 北⼭抄 3 【国宝】 2309-4 21,359 48 雲図鈔 2348-3 22,000 10 江次第 1 2310-0 29,126 49 無題号記録 春⽟秘抄 2349-0 25,000 11 江次第 2 2311-7 21,359 50 春除⽬抄 京官除⽬次第 他 2350-6 28,000 12 江次第 3 2312-4 17,476 51 禁秘御抄 2351-3 24,000 13 秘府略 【国宝】 2313-1 19,000 52 局中宝 2352-0 26,000 14 ⼆中歴 1 【重⽂】 2314-8 【品切】 53 ⼣拝備急⾄要抄 参議要抄 2353-7 19,000 15 ⼆中歴 2 【重⽂】 2315-5 28,000 54 ⽻林要秘抄 上卿簡要抄 2354-4 18,000 16 ⼆中歴 3 【重⽂】 掌中歴 2316-2 25,000 55 消息礼事及書礼事 他 2355-1 28,000 17 拾芥抄 2317-9 31,000 56 ⼩右記 1 【重⽂】 2356-8 32,000 18 ⾊葉字類抄 1 【重⽂】 2318-6 【品切】 57 ⼩右記 2 【重⽂】 2357-5 32,000 19 ⾊葉字類抄 2 【重⽂】 2319-3 30,000 58 ⼩右記 3 【重⽂】 2358-2 32,000 20 節⽤集 2320-9 20,000 59 ⼩右記 4 【重⽂】 2359-9 32,000 21 字鏡集 1 2321-6 30,000 60 ⼩右記 5 【重⽂】 2360-5 33,000 22 字鏡集 2 2322-3 30,000 61 ⼩右記 6 【重⽂】 2361-2 33,000 23 字鏡集 3 2323-0 30,000 62 ⼩右記 7 【重⽂】 2362-9 33,000 24 字鏡集 4 2324-7 30,000 63 ⼩右記 8 【重⽂】 2363-6 33,000 25 温故知新書 童蒙頌韻 2325-4 28,000 64 ⼩右記 9 【重⽂】 2364-3 33,000 26 ⽇本書紀 【国宝】 2326-1 20,000 65 ⽔左記 【国宝】 2365-0 32,000 27 釈⽇本紀 1 【重⽂】 2327-8 30,000 66 台記 (宇槐記抄・台記抄・宇槐雑抄) 2366-7 33,000 28 釈⽇本紀 2 【重⽂】 2328-5 30,000 67 実躬卿記 1 【重⽂】 2367-4 35,000 29 釈⽇本紀 3 【重⽂】 2329-2 30,000 68 実躬卿記 2 【重⽂】 2368-1 36,000 30 古事記 2330-8 26,000 69 実躬卿記 3 【重⽂】20年5⽉予定 2369-8 予価36,000 31 古語拾遺 【重⽂】 2331-5 25,000 32 類聚国史 1 【国宝】 2332-2 33,000 33 類聚国史 2 【国宝】 2333-9 33,000 34 類聚国史 3 【国宝】 2334-6 33,000 35 交替式 法曹類林 【重⽂】 2335-3 24,000 72 外記⽇記 新抄 1 2372-8 37,000 36 政事要略 【重⽂】 2336-0 26,000 73 外記⽇記新抄 2 享禄⼆年外記⽇記 20年8⽉予 2373-5 予価36,000 37 類聚三代格 1 2337-7 33,000 74 碧⼭⽇録 1 2374-2 36,000 38 類聚三代格 2 2338-4 33,000 75 碧⼭⽇録 2 21年2⽉予定 2375-9 予価36,000 39 類聚三代格 3 2339-1 33,000 76 蔗軒⽇録 盲聾記 21年5⽉予定 2376-6 予価37,000 お名前 (ふりがな) TEL 取扱店 (番線印) FAX ご住所 E-MAIL 【注⽂書FAX送付先】03-3291-6300 ⼋⽊書店総合営業部 尊経閣善本影印集成 既刊書⼀覧 (分売可) 第7輯 平安鎌倉 儀式書 (⼆⾊刷/48のみ⾼ 精細カラー版) 第8輯 平安古記録 (⾼精細カラー版) 71 公秀公記 建治三年記 【重⽂】 実隆公記 20年11⽉予定 70 実躬卿記 4 ・宣陽⾨院御落 飾記・後愚昧記 ⼭⾨嗷訴記・実 豊卿記 21年8⽉予定 2370-4 予価37,000 2371-1 予価35,000 【お申込み・お問い合わせ先】⼋⽊書店総合営業部 TEL03-3291-2961/FAX03-3291-6300/E-mail [email protected] 第1輯 儀式書 (モノクロ網⽬版) 第2輯 類書 (⼆⾊刷) 第4輯 古代史籍 (⼆⾊刷) 第5輯 古代法制史料 (⼆⾊刷) 第6輯 古代説話 (⼆⾊刷) 第3輯 古辞書 (⼆⾊刷) 第9輯 鎌倉室町 古記録 (⾼精細カラー版) 定期ご購読 承ります︕ ?

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Page 1: 影印から読み解く多彩な情報...2366-7 33,000 28 釈 本紀 2 【重 】 2328-5 30,000 67 実躬卿記 1 【重 】 2367-4 35,000 29 釈 本紀 3 【重 】 2329-2 30,000

応仁・文明の乱前夜の社会情勢を詳細に知る貴重史料。失われた典籍からの引用や、僧伝など多彩な記事を、高精細カラー版で読解!

碧へ き

山ざ ん

日に ち

録ろ く

一前田育徳会尊経閣文庫 編  【編集委員】尾上陽介・加藤友康

尊経閣善本影印集成 第九輯 鎌倉室町古記録(全10冊)

第 74 冊 2月 25 日刊行〔第4回配本〕●A4判横本・248頁・貼函入 本体36,000 円

2020.2 〓〓〓

ご予約、定期購読承ります︕ 2020年2⽉現在

各輯内容 通し巻数 タイトル ISBN978-

4-8406- 本体価格 ご注⽂部数 各輯内容 通し巻

数 タイトル ISBN978-4-8406- 本体価格 ご注⽂

部数

1 ⻄宮記 1 【重⽂】 2301-8 17,476 40 ⽇本霊異記 【重⽂】 2340-7 18,000

2 ⻄宮記 2 【重⽂】 2302-5 17,476 41 三宝絵 【重⽂】⽇本往⽣極楽記 【重⽂】 2341-4 26,000

3 ⻄宮記 3 【重⽂】 2303-2 19,417 42 新猿楽記 【重⽂】 2342-1 25,000

4 ⻄宮記 4 【重⽂】 2304-9 【品切】 43 三宝感応要略録 【重⽂】 2343-8 26,000

5 ⻄宮記 5 【重⽂】 2305-6 17,476 44 江談抄 【重⽂】 2344-5 21,000

6 ⻄宮記 6 【重⽂】 2306-3 26,214 45 中外抄 【重⽂】 2345-2 22,000

7 北⼭抄 1 【国宝】 2307-0 【品切】 46 内裏式 2346-9 18,000

8 北⼭抄 2 【国宝】 2308-7 24,272 47 本朝⽉令要⽂・⼩野宮故実旧例・年中⾏事秘抄 2347-6 26,000

9 北⼭抄 3 【国宝】 2309-4 21,359 48 雲図鈔 2348-3 22,000

10 江次第 1 2310-0 29,126 49 無題号記録春⽟秘抄 2349-0 25,000

11 江次第 2 2311-7 21,359 50 春除⽬抄京官除⽬次第 他 2350-6 28,000

12 江次第 3 2312-4 17,476 51 禁秘御抄 2351-3 24,000

13 秘府略 【国宝】 2313-1 19,000 52 局中宝 2352-0 26,000

14 ⼆中歴 1 【重⽂】 2314-8 【品切】 53 ⼣拝備急⾄要抄参議要抄 2353-7 19,000

15 ⼆中歴 2 【重⽂】 2315-5 28,000 54 ⽻林要秘抄上卿簡要抄 2354-4 18,000

16 ⼆中歴 3 【重⽂】掌中歴 2316-2 25,000 55 消息礼事及書礼事 他 2355-1 28,000

17 拾芥抄 2317-9 31,000 56 ⼩右記 1 【重⽂】 2356-8 32,000

18 ⾊葉字類抄 1 【重⽂】 2318-6 【品切】 57 ⼩右記 2 【重⽂】 2357-5 32,000

19 ⾊葉字類抄 2 【重⽂】 2319-3 30,000 58 ⼩右記 3 【重⽂】 2358-2 32,000

20 節⽤集 2320-9 20,000 59 ⼩右記 4 【重⽂】 2359-9 32,000

21 字鏡集 1 2321-6 30,000 60 ⼩右記 5 【重⽂】 2360-5 33,000

22 字鏡集 2 2322-3 30,000 61 ⼩右記 6 【重⽂】 2361-2 33,000

23 字鏡集 3 2323-0 30,000 62 ⼩右記 7 【重⽂】 2362-9 33,000

24 字鏡集 4 2324-7 30,000 63 ⼩右記 8 【重⽂】 2363-6 33,000

25 温故知新書童蒙頌韻 2325-4 28,000 64 ⼩右記 9 【重⽂】 2364-3 33,000

26 ⽇本書紀 【国宝】 2326-1 20,000 65 ⽔左記 【国宝】 2365-0 32,000

27 釈⽇本紀 1 【重⽂】 2327-8 30,000 66 台記(宇槐記抄・台記抄・宇槐雑抄) 2366-7 33,000

28 釈⽇本紀 2 【重⽂】 2328-5 30,000 67 実躬卿記 1 【重⽂】 2367-4 35,000

29 釈⽇本紀 3 【重⽂】 2329-2 30,000 68 実躬卿記 2 【重⽂】 2368-1 36,000

30 古事記 2330-8 26,000 69 実躬卿記 3 【重⽂】20年5⽉予定 2369-8 予価36,000

31 古語拾遺 【重⽂】 2331-5 25,000

32 類聚国史 1 【国宝】 2332-2 33,000

33 類聚国史 2 【国宝】 2333-9 33,000

34 類聚国史 3 【国宝】 2334-6 33,000

35 交替式法曹類林 【重⽂】 2335-3 24,000 72 外記⽇記 新抄 1 2372-8 37,000

36 政事要略 【重⽂】 2336-0 26,000 73 外記⽇記新抄 2享禄⼆年外記⽇記 20年8⽉予 2373-5 予価36,000

37 類聚三代格 1 2337-7 33,000 74 碧⼭⽇録 1 2374-2 36,000

38 類聚三代格 2 2338-4 33,000 75 碧⼭⽇録 2 21年2⽉予定 2375-9 予価36,000

39 類聚三代格 3 2339-1 33,000 76 蔗軒⽇録盲聾記 21年5⽉予定

2376-6 予価37,000

お名前 (ふりがな) TEL 取扱店 (番線印)

FAXご住所 〒

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【注⽂書FAX送付先】03-3291-6300 ⼋⽊書店総合営業部尊経閣善本影印集成 既刊書⼀覧 (分売可)

第7輯

平安鎌倉儀式書

(⼆⾊刷/48のみ⾼精細カラー版)

第8輯

平安古記録

(⾼精細カラー版)

71公秀公記建治三年記 【重⽂】実隆公記 20年11⽉予定

70実躬卿記 4 ・宣陽⾨院御落飾記・後愚昧記 ⼭⾨嗷訴記・実豊卿記 21年8⽉予定

2370-4 予価37,000

2371-1 予価35,000

【お申込み・お問い合わせ先】⼋⽊書店総合営業部 TEL03-3291-2961/FAX03-3291-6300/E-mail [email protected]

第1輯

儀式書

(モノクロ網⽬版)

第2輯

類書

(⼆⾊刷)

第4輯

古代史籍

(⼆⾊刷)

第5輯

古代法制史料

(⼆⾊刷)

第6輯

古代説話

(⼆⾊刷)

第3輯

古辞書

(⼆⾊刷)

第9輯

鎌倉室町古記録

(⾼精細カラー版)

定期ご購読承ります︕

影印から読み解く多彩な情報

|高精細カラー版で『碧山日録』を読む|

 

◆説話文学の源泉を知る天下の孤本

 「碧山日録」は、東福寺の僧侶太極(一四二一~?)の日記である。残

存年次は、一四六〇年代、応仁・文明の乱前夜から最中の時期にあたる。

社会情勢に加え、勉学に伴う内容が多い。失われた典籍からの引用のほ

か、僧伝など多彩な記事は、説話文学の源泉を知る上でも注目されてい

る。

 

前田育徳会尊経閣文庫に写本が伝わる【中面の図1】。これ以外に伝

本はなく、天下の孤本である。転写本は、明治以降に作成された二種のみ、

写真は東京大学史料編纂所に架蔵されるものの、尊経閣本の体裁を知る

機会は限られていた。今回、『尊経閣善本影印集成』第九輯の一冊として、

「碧山日録」の影印が刊行される。「碧山日録」の原写本の体裁を容易に

知ることが可能となった点で、大きな意味がある。

【中面へ続く】

Page 2: 影印から読み解く多彩な情報...2366-7 33,000 28 釈 本紀 2 【重 】 2328-5 30,000 67 実躬卿記 1 【重 】 2367-4 35,000 29 釈 本紀 3 【重 】 2329-2 30,000

【図 1】尊経閣文庫本「碧山日録」応仁・文明の乱前夜から最中の時期の社会情勢に加え、勉学に伴う内容に富む。

【図 2】寛正元年(1460)閏 9月 2日条(『尊経閣善本影印集成 74 碧山日録一』185 頁/碧山日録 第ニ冊 69オ)

翻刻では、本文、序、偈頌をそれぞれ改行するが、写本ではすべて追い込みとなっている。

【図 3】長禄 3年(1459)8 月 8日条(『尊経閣善本影印集成 74 碧山日録一』70 頁/碧山日録 第一冊 65ウ・66 オ)

中央にひく人名や、右側にひく地名、二重線の書名など、様々な「朱引」が施されている。

 

◆二種の翻刻スタイル

 

まずは史料翻刻の話から始めたい。史料翻刻には、

二種類の方向性がある。ひとつは、字体も文字の配列

も、史料を髣髴とさせるように工夫するもの。活字に

よる印刷の時代、特殊な字体を作字し、高い技術に裏

付けられた組版を行って、史料の見た目に近い版面を

実現していた。電子化が進み、今では多くの文字がコー

ドに登録され、字体の再現は容易になりつつある。反

面、複雑な組版に手間と時間をかけるには、技術面で

もコスト面でも難しくなっている。

 

もうひとつは、史料の見た目に解釈を加え、内容を

理解しやすくするよう組版を工夫するもの。たとえば、

日記であれば日付の並びかた、文書であれば日付や差

出者の署判の位置など、明らかに同じ意図で記された

事柄について、体裁をなるべく統一する方式である。

読者は、写本など原史料そのものから直接理解すると

きに比べて、翻刻者の理解を前提とすることで、一段

階省略して、内容の理解へと進むことが可能となる。

 

近年、影印本の刊行が盛んである。また、Webで

見ることができる史料画像も飛躍的に増えた。ふたつ

の史料翻刻の方法のうち、一番目の必要性は低くなっ

ている。また、翻刻をフルテキストデータとして公開

することも増えている。フルテキストデータの本文は、

単純な構造のほうが汎用性は高い。この点でも、解釈

を加えて単純化した、二番目の翻刻方法が優位となる。

 

◆碧山日録の翻刻と影印

 「碧山日録」には、おもに三種の翻刻がある。翻刻

を重ねるにつれ、内容理解に容易な組版に推移してい

る。たとえば、「碧山日録」には、多くの詩文が引用

される。最近の翻刻『大日本古記録 

碧山日録』上下

二冊(東京大学史料編纂所編)では、引用される詩文本

文は改行し、詩文の表題は本文より字下げして改行す

るなど、改行を多用して、一見して引用であると了解

されるよう工夫されている。

 

翻刻で「碧山日録」に接してきた方は、影印を見て

驚かれるのではないだろうか。尊経閣本では、詩文の

引用はもちろん、日付すら改行されていない。寛正元

年(一四六〇)閏九月二日条(第二冊69オ)をみよう【図

2】。日記の記主がかつて伏見退藏庵の勗中澄遵から

与えられた偈頌(詩)を見つけ出し、引用した記事で

ある。この日記の記主が太極であることを確定する記

事としてよく知られる。全体五行目「其叙曰」のあと

「大極蔵主」から同七行目「祝之曰」までが序文、「刹々」

以下の七言四句、つまり二十八字が偈頌。写本ではす

べて追い込みであるが、翻刻では意によって、本文、序、

偈頌をそれぞれ改行する。

 

要するに、翻刻には、大きな解釈が加わっているの

である。細心の注意を払っているものの、それでも、

間違いは起こりうる。加えて、間違いとは言えないま

でも、改行によって日記を記した者の意図以上の印象

をあたえてしまうこともある。「碧山日録」を詳細に

検討し、内容を深く理解するには、翻刻から過度の印

象を受ける事態を避けるためにも、影印を参照するこ

とが必須となろう。影印で史料を読むと、原史料への

価値判断がほとんど入らず、客観的に解釈できる。影

印で史料を読む価値のひとつといえる。

 

影印でしか得られない情報はほかにも多い。もうひ

とつ、「朱引」を取り上げたい。朱引とは、「人名・書

名・所名・国名・官名・年号など、主として固有名詞

の字面の上に朱書で種々の線を引いて示した符号」の

ことである(『国史大辞典』)。

 

長禄三年(一四五九)八月八日条(第一冊65ウ)をご

覧いただきたい【図3】。中央にひく「満翁」などは

人名を、右側にひく「慈眼寺」などは地名などと、線

を引く位置で使い分けている。そのあとの朱傍点は偈

頌を、九日条(66オ)の二重線は書名を示す。翻刻では、

朱引そのものは示さず、傍注を付すことで固有名詞と

示す程度である。朱引を目で追うと、本文理解に思わ

ぬ助けとなる場合もある。

 

影印の豊富な情報を、ぜひとも活用いただきたい。

 

山家浩樹(やんべこうき)

 

東京大学史料編纂所教授(特殊史料部門)。日本中世史、

日本禅宗史。前田育徳会尊経閣文庫編『尊経閣善本影印集

成75 

碧山日録二』(八木書店、二〇二一年予定)で解説を

担当。東京大学史料編纂所において大日本古記録『碧山日録』

上・下(二〇一三年、二〇一七年)の編纂を共同で担当。

 〔主な著書〕『足利尊氏と足利直義 

日本史リブレット人』

(山川出版社、二〇一八年)・『合本 

支桑禅刹』〔共同校訂〕

(春秋社、二〇一四年)・『東京大学史料編纂影印叢書 

室町

武家関係文芸集』〔共編〕(二〇〇八年、八木書店)

◆応仁の乱前後の社会と寺院の様子を知る

【第74冊・第75冊】

碧へき

山ざん

日にち

録ろく

 室町時代中期(中世末写)・六冊

 〔所収〕長禄三年(一四五九)~応仁二年(一四六八)

〔解説〕山家浩樹(東京大学史料編纂所)

 

室町時代中期の東福寺の禅僧、太極(一四二一~?)

の日記。長禄三年(一四五九)正月~応仁二年(一四六八)

十二月が現存する。応仁の乱前後の社会と寺院の様

子をうかがう貴重な史料である。

 

尊経閣本は現存する唯一の古写本で、大日本古記

録『碧山日録』の底本である。

高精細カラー版で原本を読み込む