農政改革・農協改革 -...
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農政改革・農協改革ー今後の米生産・流通はどうなるかー
東北大学 冬木勝仁
【農政ジャーナリストの会】研究会
2017年5月8日 於:日本プレスセンタービル9階 大会議室
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はじめにー生産調整にとどまらない米政策改革ー
•米の生産調整の仕組みの不透明化?• 政府の方針は明確―――後述
• 不透明に感じる理由ーーー(水田作に関しては)これまで政府の言う通りやってきた?
• 需給調整と米価の関係ーーー「生産」調整だけではない
•農協改革を含む米流通再編• 全農は?単協は?
• 米流通業界全体の再編における全農の位置付け
•主要農作物種子法廃止の意味• あまり関心はもたれていないが、実は重要
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1.米政策と需給調整・米価
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・米価に大きな影響を及ぼす需給、しかし、単純ではない
・大きな影響を及ぼす民間在庫量
資料:農林水産省「米をめぐる状況について」2017年3月
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資料:農林水産省「米をめぐる状況について」2017年2月
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資料: 農林水産省「米をめぐる関係資料」(2015年3月)、「米をめぐる状況について」(2015年5月)
注: 1)相対取引価格は、運賃、包装代、消費税を含む1等米の価格であり、当該年産の出
回りから翌年10月(2014年産は3月)までの平均価格を前年と比較したものである。
2)在庫量は前年年間玄米取扱数量500t以上の業者の数量であり、前年6月末と当年
6月末を比較したものである。なお、2014年の在庫量には、(公社)米穀安定供給確保
支援機構の買入数量35万tを含んでいない。
2008
2009
2010
2011
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-50
-40
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30
40
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0
1,000
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3,000
図1 主食用米の出荷段階の在庫及び価格の変化の推移
出荷段階での在庫量の前年からの変化(左目盛、万t)
主食用米相対取引価格の前年からの変化(右目盛、円/60kg)
・出荷段階(JA等)での
在庫量の増減が米価と連動
・「投げ売り」に対する実需者、流通業者などの期待?
2017.5.8.冬木勝仁 6農林水産省「TPPに関する疑問にお答えします」(2016.6.)より
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資料:農林水産省「米をめぐる状況について」2017年3月 ※2017年4月1日一部改正の「経営所得安定対策等実施要綱」では?
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資料:農林水産省「米をめぐる状況について」2017年2月
・政府としては、姿は示しているという主張、つまり配分には関与しないということ
・全国の見通しは示すので、県別で計算しなさいということ?
・28年産は県段階の作付動向を5月に公表、それに加え、29年産からは地域
再生協議会ごとの作付意向を5月に公表
・その上で、27年産、28年産、さらには29年産の姿
が「予行演習」という位置づけ→上手くいった?要因は
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資料:農林水産省「米をめぐる状況について」2017年2月
・28年産超過作付県:茨
城、埼玉、千葉、神奈川、新潟、長野、静岡、愛知、大阪、奈良、高知
・ただし、「自主的取組参考値」では、東北で山形、福島は未達成
・頑張ったのは、北東北と南九州
・系統の米集荷・流通における実力が問われる→農
協改革や米流通改革との関連を後で検討
・規模別の農家の取り組みを後で検討
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結局のところ、平成30年以降は県別の取り組みが重要、それでは、各県はどの程度検討しているのか?
資料:農林水産省「米をめぐる状況について」2017年2月
2018年産米以降の「生産量の目安」の検討状況(JA全中調査、『日本農業新聞』2017年4月11日付1面より)
• 都道府県• 都道府県再生協が設定:40• 地域段階の積み上げ:2• 検討中:2
• 市町村• 都道府県再生協から情報提供:36• 地域再生協が設定:4• 検討中:4
• 生産者別• 地域再生協から情報提供:16• 情報提供しない:1• 検討中:9• 地域再生協の判断:18
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-40000
-20000
0
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60000
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2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
超過作付と飼料用米等作付面積の推移
飼料用米 WCS用稲 超過作付
(年産)
(ha)
注:①超過作付=主食用米の生産数量目標(面積換算)を上回って作付された面積
②WCS (Whole Crop Silage) 用稲=稲発酵粗飼料用稲
資料: 農林水産省政策統括官「飼料用米の推進について」2016年9月、P.5,6
・超過作付の解消は主に飼料用米作付によるもの
・政府の説明によると、仮に主食用が豊作であった場合、豊作分を翌年に回し、その分交付金を活用して、翌年産の飼料用米等の生産を拡大
・したがって、今後も飼料用米の取り組みが重要
・ただし、交付金が前提→いつ
まで?どの程度まで?その根拠は?
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・政府の試算によると、家畜の生理や畜産物の品質に影響を及ぼさない範囲で技術的には450万tまでは利用が可能
・ただし、現在の畜産が維持されていること、価格の引き下げが可能であること、施設面の条件がクリアされること、集荷・保管・流通などの体制が整備されることなどの課題がある
・さらに、交付金が前提であるため、現実的には110万tが目標→予算獲得の「錦の御旗」としての「食料・農業・農村基本計画」、ただし単価引き下げには含み(前述)
資料:農林水産省「米をめぐる状況について」2017年3月
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資料:農林水産省「米をめぐる状況について」2017年2月
・飼料用米に積極的に取り組んでいるのは比較的大規模な農家
・所得に占める交付金の割合で、「米の直接支払」よりも「水田活用」や「畑作物」が大きい
・したがって、比較的大規模な農家の動向が重要
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資料:農林水産省「農業経営統計調査個別経営の営農類型別経営統計(経営収支)」各年版
注:①個別経営には個別法人経営を含む。
②水田作付延べ面積20ha以上層(全国)
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資料:農林水産省「農業経営統計調査組織経営の営農類型別経営統計(経営収支)」各年版
注:①組織法人経営には法人化した集落営農を含む。
②水田作付延べ面積20ha以上層(全国)
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資料:農林水産省「農業経営統計調査」注:組織法人経営には法人化した集落営農を含む。
△14,000
△12,000
△10,000
△ 8,000
△ 6,000
△ 4,000
△ 2,000
010ha未満 10~20ha 20~30ha 30ha以上
(kg) 図4 水田作組織法人経営の水稲販売数量の増減(2012→2013年) ・米価が下がると、大規模経営は販売数量を減らしている?売れ残り?
・法人経営はそれが明確
・いわゆる「効率的・安定的な経営体」は行動が合理的→政策・制度による対策が取りやすい
・しかし、米の需給動向はそれだけでは決まらない
・中・小規模経営は販売量を増やす→所得確保のため?経営に余裕がない?
・米の需給の懸念材料→全農家による取り組みが必要→JAの役割、行政の役割
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2.農協改革と米流通再編
農協改革の本音は?~規制改革推進会議農業ワーキンググループ「農協改革に関する意見」(2016年11月11日公表)~
• 2016年4月より改正農協法が施行された上で、「改革の方向や進捗状況を確認したところ、(中略)組織の在り方に関し、さらに、取り組むべき事項を見出すに至った」ため、目指すべき改革の方向を提言• 政府の審議会が自主的な民間団体である農協に対して、かなり具体的な改革内容まで言及することの妥当性
• 農協改革と言いながら、大部分は全農の事業・組織の改革• 示した方向に進まない場合は「第二全農」を設立するといった「脅し文句」
• 購買事業(生産資材)• 「仕入れ販売契約の当事者にはならない」• 「従来の生産資材購買事業に係る体制を1年以内に新しい組織へと転換し、人員の配置転換や関連部門の生産資材メーカー等への譲渡・売却を進める」
• そのまま読むと生産資材購買事業の縮小?
• 販売事業• 「流通関連企業の買収」• 「委託販売を廃止し、全量を買取販売に転換すべき」• こちらは拡大の方向?
• 単協• 全農の事業・組織再編を前提にした改革の推進• より具体的に記載されているのは信用事業について、「信用事業の農林中金等への譲渡」
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自主改革?•指摘されている全農の問題点については同意せざるを得ない点もある。それゆえ、自主改革は必要
•全農・全中も自主改革を推進するとしているが、外部から指摘されたことへの受動的対応や上からの改革になっていないだろうか?→JA全農「『農林水産業・地域の活力創造プラン』に係る本会の対応」(2017年3月28日臨時総代会決定)より• 実需者への直接販売の拡大:2016年度見込80万トン→2017年度100万トン
(47%)→2018年度125万トン(62%)→2024年度で主食米取扱の90%
• 買取販売の拡大:2016年度見込22万トン→2017年度30万トン(14%)→2018年度50万トン(25%)→2024年度で主食米取扱の70%
• スシローへの出資
•卸売業者の警戒感
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・政府が改革しようとしているのは部分の取引
・その背景は?
資料:農林水産省「米をめぐる関係資料」2016年11月
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資料:農林水産業・地域の活力創造本部「農業競争力強化プログラム」(2016年11月29日決定)参考資料「米卸売業」(政策統括官)
・集荷率は以前よりも低くなったとはいえ、全農のシェアは大きい
・それに対して、大規模化が進んだとはいえ、全国で260社以上の卸売業者が存在、顔ぶれは入れ替わっているが、数としては食管制度末期の状況と変わらず、米の市場規模が縮小していることを考えれば業者数は過剰
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資料:農林水産省作成パンフレット「主食用米の需要に応じた生産~外食・中食等の実需者と産地との間での安定取引の拡大が必要です~」
・前述した「それぞれの産地銘柄ごとに価格や売れ行きは大きく異なっている」、「消費者・実需者のニーズに裏打ちされた量の米」という考え方の背景
・用途別の需給が異なる実態を反映→低価格銘柄の生産拡大と安定取引の推進
資料:農林水産省「米をめぐる状況について」2017年2月
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資料:農林水産業・地域の活力創造本部「農業競争力強化プログラム」(2016年11月29日決定)参考資料「米卸売業」(政策統括官)
・生産者・JA等が、自ら販路を開拓
・多段階の流通を合理化してコストを削減→非効率な中間
流通を極力なくし、産地と実需者が直接取引する形態を推奨
・モデルとして、韓国の米流通を提示→産地精米、産地ブランドによる商品開発
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資料:農林水産業・地域の活力創造本部「農業競争力強化プログラム」(2016年11月29日決定)参考資料「米卸売業」(政策統括官)
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生産者
生産者
JA
実需者(量販店・外食・中食事業者)
消費者
卸売業者等
全農玄米
玄米
玄米
精米
精米
精米
米飯
精米
精米
精米
米流通再編のイメージ(原則的に全て買い取り)
玄米
玄米
3.「主要農産物種子法」廃止の狙い
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資料:農林水産省「米をめぐる状況について」2017年2月
・民間企業が開発した品種の普及を促進、例えば、三井化学アグロの「みつひかり」は大規模法人経営に普及が進みつつある
・一方で、種苗業界大手の企業は野菜・果実・花卉など園芸品目が中心→
穀物・大豆等で想定される民間企業は?
・また、「主要農作物種子法」では、指定ほ場やそこで生産された種子の審査などが義務付け→種子を生産者が
安心して使うことができる仕組み、公的な種子開発・供給体制の意義
4.農政改革の背景を別の視角から見る• TPPも含めたグローバル化とその下での市場再編
• アメリカのTPP離脱→個別にFTAを推進する方向?• グローバル化=貿易自由化ではない
• 現在のアメリカ政府が指向しているのは、多国籍企業の利益を保証しつつ、より自国に有利な形のグローバル化
• TPP離脱もその手段?• その状況下での日本政府の対応、TPP承認、関連法の整備の意味• 4月18日の日米経済対話初会合
• グローバル市場対応型農業の育成• 本来は各国ごとに経済構造や所得階層などが異なり、それゆえ市場のあり方も異なる。
• 農業に関して言えば、それぞれの食料消費の仕方に合わせて、生産のあり方が形成
• 現在のグローバル化は各国ごとの違いを無視し、世界レベルでの階層構造を再編• その再編に合わせた農業の変化を要求
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貿易
貿易貿易
国際市場
A国 B国
C国
A国 B国 C国
グローバル市場
富裕層
中間層
貧困層
TPP下での市場のイメージ
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富裕層
富裕層富裕層
中間層
中間層中間層
貧困層
貧困層貧困層
日本も含め、階層化したグローバル市場• 日本は、少なくとも四半世紀前までは、多少値段が高くても安全で高品質の農産物を求める所得中間層が比較的厚く存在し、それに合った農産物市場が形成
• そうした市場を前提とし、有利販売を可能とする農業生産を目指すことが産地の課題→次頁参照
• グローバル化の進行と日本経済の落ち込みによって、中間層は縮小
• 多くの産地が国内の低所得化に合わせたコスト削減に駆り立てられている
• 有利販売を目指すためには、グローバル市場における富裕層や中間層をあてにせざるをえなくなり、輸出が重要な課題
• 「農林水産業・地域の活力創造プラン」の柱• 生産現場の強化→低コスト化• 需要フロンティアの拡大→輸出拡大• バリューチェーンの構築→品質を維持した低コスト化
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「消費者ニーズ」の変遷と農業サイドの対応•戦後直後:「腹」で食べる時代
• 絶対的な食糧不足→農地開拓、増産
•高度経済成長:「目」で食べる時代• 大量消費のための大量生産、大量流通+多様な農産物供給• 所得向上に伴う食料消費の質的・量的拡大→指定産地、規格、共選・共販
•高度経済成長の歪みとその後のバブル経済:「頭」と「舌」で食べる時代• 安全性、環境保全、食味重視→農薬・化学肥料の削減、品質重視、規格の高度化
•バブル崩壊と長期の経済低迷:「頭」の使い方の変化• 所得低下に伴う低価格志向とニーズの不可逆性→低コスト生産、品質の維持
•低成長と再生:政府が考えている消費者像と農業に求めているもの
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