薬剤耐性(amr)対策アクションプラン2016-2020...

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2018年7月 増刊号 JANIS Japan Nosocomial Infections Surveillancenewsletter 薬剤耐性(AMR)対策アクションプランとは 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016 - 2020 成果指標とJANISデータのみかた National Action Plan on Antimicrobial Resistance アクションプランの背景 2015年5月の世界保健機関(WHO)総会で、薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランが採択され、加 盟各国は2年以内に自国の行動計画を策定するよう要請されました。 日本では関係省庁が調整を行い、2016年4月5日に今後5年間で実施すべき事項をまとめた「薬剤耐性(AMR)対策ア クションプラン」が決定されました。 アクションプランの目的 抗菌薬等の抗微生物剤に対するAMRの発生を遅らせ拡大を防ぐには、国民の知識と理解の増進、AMRの発生状 況や抗微生物剤の使用形態の把握(動向 調査、監視等)とこれに基づくリスク評価、適切な感染予防・管理(IPC)と抗 微生物剤の適切な使用(AMS)による薬剤耐性微生物(ARO)の減少、AMRの発生や伝播の機序、社会経済に与える 影響等の研究や、新たな予防・診断・治療法の研究開発を含む薬剤耐性感染症の有効な予防・診断・治療手段の確保 が重要です。 このような観点からヒト、動物等の垣根を超えた世界規模での取り組み(ワンヘルス・アプローチ)の視野に立ち、協働し て集中的に取り組むべき対策がまとめられました。 薬剤耐性(AMR)対策の6分野と目標 アクションプランの内容 WHOの「薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プラン」の5つの柱を参考に、日本は国際社会に対してAMR対策 の主導力を発揮すべく、 6つ目の項目として国際協力を加え、合計6つの分野に関する目標を設定しました。 1.普及啓発・教育 2.動向調査・監視 3.感染予防・管理 4.抗微生物剤の適正使用 5.研究開発・創薬 6.国際協力 国民の薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研修を推進する 薬剤耐性及び抗微生物剤の使用量を継続的に監視し、薬剤耐性の変化や拡大の予兆を適確に把握する 適切な感染予防・管理の実践により、薬剤耐性微生物の拡大を阻止する 医療、畜水産等の分野における抗微生物剤の適正な使用を推進する 薬剤耐性の研究や、薬剤耐性微生物に対する予防・診断・治療手段を確保するための研究開発を推進する 国際的視野で多分野と協働し、薬剤耐性対策を推進する 分 野 目 標 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf https://janis.mhlw.go.jp 院内感染対策サーベイランス(JANIS)事務局 01

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2018年7月増刊号

JANIS(Japan Nosocomial Infections Surveillance) newsletter

薬剤耐性(AMR)対策アクションプランとは

薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020

成果指標とJANISデータのみかたNational Action Plan on Antimicrobial Resistance

アクションプランの背景 2015年5月の世界保健機関(WHO)総会で、薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランが採択され、加盟各国は2年以内に自国の行動計画を策定するよう要請されました。 日本では関係省庁が調整を行い、2016年4月5日に今後5年間で実施すべき事項をまとめた「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が決定されました。

アクションプランの目的 抗菌薬等の抗微生物剤に対するAMRの発生を遅らせ拡大を防ぐには、国民の知識と理解の増進、AMRの発生状況や抗微生物剤の使用形態の把握(動向 調査、監視等)とこれに基づくリスク評価、適切な感染予防・管理(IPC)と抗微生物剤の適切な使用(AMS)による薬剤耐性微生物(ARO)の減少、AMRの発生や伝播の機序、社会経済に与える影響等の研究や、新たな予防・診断・治療法の研究開発を含む薬剤耐性感染症の有効な予防・診断・治療手段の確保が重要です。 このような観点からヒト、動物等の垣根を超えた世界規模での取り組み(ワンヘルス・アプローチ)の視野に立ち、協働して集中的に取り組むべき対策がまとめられました。

薬剤耐性(AMR)対策の6分野と目標

アクションプランの内容 WHOの「薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プラン」の5つの柱を参考に、日本は国際社会に対してAMR対策の主導力を発揮すべく、6つ目の項目として国際協力を加え、合計6つの分野に関する目標を設定しました。

1.普及啓発・教育

2.動向調査・監視

3.感染予防・管理

4.抗微生物剤の適正使用

5.研究開発・創薬

6.国際協力

国民の薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研修を推進する

薬剤耐性及び抗微生物剤の使用量を継続的に監視し、薬剤耐性の変化や拡大の予兆を適確に把握する

適切な感染予防・管理の実践により、薬剤耐性微生物の拡大を阻止する

医療、畜水産等の分野における抗微生物剤の適正な使用を推進する

薬剤耐性の研究や、薬剤耐性微生物に対する予防・診断・治療手段を確保するための研究開発を推進する

国際的視野で多分野と協働し、薬剤耐性対策を推進する

分 野 目 標

薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

https://janis.mhlw.go.jp院内感染対策サーベイランス(JANIS)事務局 01

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https://janis.mhlw.go.jp院内感染対策サーベイランス(JANIS)事務局

ヒトにおける代表的な薬剤耐性傾向を示す微生物の薬剤耐性率の国際比較

日本の薬剤耐性の現状

アクションプランの成果指標

髄液検体のペニシリンG(PCG)耐性率

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)割合

イミペネム(IPM)の耐性率

セフォタキシム(CTX)の耐性率

 図は、アクションプランP.9に掲載されており、世界保健機構(WHO)から2014年に出された「Antimicrobial Resistance : Global report on Surveillance 2014」を基に作成されました。日本のデータはJANIS2013年年報(CLSI 2007)が使用されており、肺炎球菌のペニシリン耐性率は髄液検体での耐性率が示されています。国によって判定基準が異なるので比較には注意が必要です。

 表は、厚生労働省から2017年に出された「薬剤耐性ワンヘルス動向調査 年次報告書2017」に掲載されており、JANIS2015年年報(CLSI 2012)を基に作成されました。肺炎球菌のペニシリン非感性率が髄液検体と髄液検体以外に分けて表示されています。

ヒトに関するアクションプランの成果指標:特定の耐性菌の分離率(%)2015年* 2020年目標値†

肺炎球菌のペニシリン非感性率、髄液検体§ 40.5 15%以下肺炎球菌のペニシリン非感性率、髄液検体以外§ 2.7 15%以下大腸菌のフルオロキノロン耐性率 38.0 25%以下黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率 48.5 20%以下緑膿菌のカルバペネム耐性菌(イミペネム) 18.8 10%以下緑膿菌のカルバペネム耐性菌(メロペネム) 13.1 10%以下大腸菌のカルバペネム耐性菌(イミペネム) 0.1 0.2%以下(同水準)¶

大腸菌のカルバペネム耐性菌(メロペネム) 0.2 0.2%以下(同水準)¶

肺炎桿菌のカルバペネム耐性菌(イミペネム) 0.3 0.2%以下(同水準)¶

肺炎桿菌のカルバペネム耐性菌(メロペネム) 0.6 0.2%以下(同水準)¶

*JANISデータより作成。†目標値は、薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン[1]より抜粋。§アクションプランにある2014年の肺炎球菌のペニシリン非感性率は、CLSI2007の基準に沿ってペニシリンのMICが0.125μg/ml以上を耐性としている。しかし、2008年にCLSIが基準を変更し、髄液検体と髄液以外の検体とで基準が別になり、それに伴いJANISでも2015年以降髄液検体と髄液以外の検体とで集計を分けて掲載している。¶薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン[1]には、2014年の大腸菌と肺炎球菌のカルバペネム耐性率は0.1%と0.2%であり、2020年の耐性率を同水準に維持するとある。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000180888.pdf

JANISアンチバイオグラムより

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肺炎球菌のペニシリン耐性率を≦15%へ

黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を≦20%へ

アクションプランの成果指標とJANISデータの耐性率の推移

 肺炎球菌におけるペニシリンG(PCG)のブレイクポイントは、CLSI M100-S18(CLSI 2008)以降、髄膜炎と非髄膜炎とに分けて設定されました。JANISでは、2012年分データより髄液検体と非髄液検体に分けて集計を行っています。

 MRSAの判定は、メチシリン耐性の代わりにオキサシリン(MPIPC)またはセフォキシチン(CFX)耐性、MRSA選択培地で分離された場合としています。現時点では、S. aureus全体のアンチバイオグラムを作成していないため、MRSAの割合はMRSA分離患者数と黄色ブドウ球菌分離患者数で算出しています。また、S. aureus分離患者数には、感受性報告の有無に関わらず双方が含まれています。

A B

検体によって

判定基準が変わる

★MPIPCまたはCFX耐性、選択培地等で MRSAと判定された場合。

MRSA 割合 =

A MRSA分離患者数B S. aureus 分離患者数(感受性報告あり、なしのどちらも含む)

×100★

非髄液検体

2016 20202015201420132012

3.2 2.7 2.5 2.7 2.1

15

10

5

0

PCG R≧8 μg/mL

PCG I+R≧4μg/mL

0.5 0.5 0.5 0.6 0.4

(%)

(年)

髄液検体

2016 20202015201420132012

38.6

47.4 47.040.5

36.4

15.0

(%)

(年)

60

45

30

15

0

PCG R≧0.12μg/mL

2016 20202015201420132012

53.0 51.1 49.1 48.5 47.7

20.0

(%)

(年)

80

60

40

20

0

MRSA割合

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大腸菌のフルオロキノロン耐性率を≦25%へ

緑膿菌のカルバペネム耐性率を≦10%へ

まとめ

 2012年から2016年の耐性率年次推移の状況から、2020年にAMR対策アクションプランの成果指標を達成するためには、さらなる取り組みの強化が必要です。大腸菌のフルオロキノロン耐性率は増加傾向が続いているため、対策が急務と考えられます。 各々の成果指標に近づけるために、JANIS公開情報ならびに還元情報が皆様の医療機関において薬剤耐性菌対策のお役に立てば幸いです。

 CLSIのブレイクポイント変更に伴い、JANISでは2014年以降、肺炎球菌、大腸菌・肺炎桿菌を含む腸内細菌科細菌、緑膿菌の薬剤耐性判定基準をCLSI 2012に準じて変更しました。そのため、腸内細菌科細菌と緑膿菌では2014年にカルバペネムの耐性率が見かけ上、上昇しています。

大腸菌と肺炎桿菌のカルバペネム耐性率を≦0.2%へ

ブレイクポイントが変わると、解釈に注意が必要になる

LVFX耐性率

2016 20202015201420132012

34.3 35.5 36.1 38.0 39.3

25.0

(%)

(年)

50

25

0

大腸菌のカルバペネム耐性率

IPM耐性率 MEPM耐性率

2016 20202015201420132012

0.1 0.1 0.1 0.1 0.1

0.5(%)

(年)

0.4

0.3

0.2

0.1

00.05 0.1

0.2

CLSI 2012IPM≧4μg/mLMEPM≧4μg/mL

CLSI 2007IPM≧16μg/mL

MEPM≧16μg/mL

0.2 0.2 0.2

0.1

肺炎桿菌のカルバペネム耐性率

IPM耐性率 MEPM耐性率

2016 20202015201420132012

0.2

0.1

0.3 0.30.2 0.2

(%)

(年)

0.8

0.6

0.4

0.2

0

0.2

0.2

0.6

CLSI 2012IPM≧≧4μg/mLMEPM≧4μg/mL

CLSI 2007IPM≧16μg/mL

MEPM≧16μg/mL

0.60.5

 大腸菌のレボフロキサシン(LVFX)耐性率は、2012~2016年には年あたり平均1.25%で増加傾向が続いています。

 緑膿菌のカルバペネム耐性率は減少傾向です。緑膿菌に対してはメロペネム(MEPM)よりイミペネム(IPM)の耐性率が高いのが特徴です。

IPM耐性率

MEPM耐性率

2016 20202015201420132012

18.5 17.1 19.9 18.8 17.9

10.0

(%)

(年)

30

20

10

0

CLSI 2012IPM≧8μg/mL

CLSI 2007IPM≧16μg/mL

11.8 10.714.4 13.1 12.3

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