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飛行力学研究室 研究紹介① 指導教員: 東野 伸一郎 准教授 Introductions of Flight Dynamics Laboratory 科学観測用小型 UAVの飛行試験による性能推定法・ロバスト設計法の開発 研究の背景と目的 南極,エチオピア等の極限環境用の科学観測用長距離無人航空機(UAV)を独自設計・開発 航続距離等の要求値を満たすことの確認が必要有人機の試験法は適用が困難 極限環境でもトラブルなく観測フライトを実施できるロバスト性が必要 無人航空機に適用可能な試験・解析法を研究・開発 ロバストな無人航空機の設計法の開発 アファール凹地 アジスアベバ ・世界で最も平均 気温が高い地域の ひとつ ・アウストラロピテ クス・アファレンシ スのルーシーの化 石が出土 エチオピア,アファー凹地における 磁場探査フライト 201911ミッション例 PhoenixLR-08 諸元 スパン 3.2m 基本空虚重量 25kg 巡航速度 30m/s ペイロード重量 5-15kg 設計航続距離 900km 設計上昇限度 5000m エンジン排気量 120cc フライト航跡 201911グランドステーション 準備中 離陸 ! 飛行軌跡 総飛行距離 930km 帰還 南極エアロゾル観測用小型無人航空機の研究 研究背景 福岡大学と共同で南極でのエアロゾル観測・サンプル回収(観測範囲:地上- 高度30km)を目標としたミッションを行う(図1). 当研究室で開発した小型UAVPhoenixS,図2)を用いて観測ミッションを行う. 1:ミッションプロファイル 2PhoenixS 重量 10[kg] 翼面積 0.574[m 2 ] スパン 2.77[m] 全長 1.50[m] アスペクト比 12.7 1PhoenixS諸元 3:等レイノルズ数線図 問題点 高高度での飛行は低レイノルズ 数,高亜音速の状態(図3)となり, 空力特性が不明である. 空力特性が不明な領域での自動 飛行はリスクが高い. 空力特性推定方法 風洞試験(図4)とPSBParachute Sting Balance),(図5)を用 いて実施.PSBとは,当研究室で開発した,パラシュートを用 いて飛行速度を減少させることで低高度で高高度での飛行 レイノルズ数の状態を模擬することができる装置である. 4:風洞試験 5:飛行試験(PSB20191月に南極でPSB試験を実施.図6の二段分離方式を 採用し,パラシュート降下中にPSB試験を実施した. 両方の試験で推定 した空力特性を比較 し推定したデータの 整合性を確認する. 6:二段分離方式 この間にPSBによる 空力特性取得 PSB試験 風洞試験 PSB試験 風洞試験 レイノルズ数 8.94 × 10 4 1.03 × 10 5 レイノルズ数 8.94 × 10 4 1.03 × 10 5 模擬高度 26km 24km 模擬高度 26km 24km -0.37 -0.11 0.113 0.0297 -0.13 -0.61 0.0131 0.0084 0.23 0.033 -0.235 -0.470 -0.13 -0.26 0.0148 0.0097 0.0094 0.0011 -0.0210 -0.0176 7:南極試験GPS経路 南極におけるPSB試験 2:南極PSB試験結果と風洞試験結果比較 PSB試験と風洞試験の結果を比較すると(表2)オーダーに関 しては一致したが,精度に向上の余地があり,より多くの データを取得し信頼性を向上させる必要がある. 研究目的 PhoenixS の高高度での空力特 性を取得し , 自動飛行を行うため の制御系の設計を行う.

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Page 1: 飛行力学研究室研究紹介① - 九州大学(KYUSHU …飛行力学研究室研究紹介① Introductions of Flight Dynamics Laboratory 指導教員:東野伸一郎准教授

飛行力学研究室 研究紹介①指導教員: 東野 伸一郎 准教授Introductions of Flight Dynamics Laboratory

科学観測用小型UAVの飛行試験による性能推定法・ロバスト設計法の開発

研究の背景と目的• 南極,エチオピア等の極限環境用の科学観測用長距離無人航空機(UAV)を独自設計・開発• 航続距離等の要求値を満たすことの確認が必要→有人機の試験法は適用が困難• 極限環境でもトラブルなく観測フライトを実施できるロバスト性が必要

↓無人航空機に適用可能な試験・解析法を研究・開発

ロバストな無人航空機の設計法の開発

アファール凹地

アジスアベバ

・世界で最も平均気温が高い地域のひとつ

・アウストラロピテクス・アファレンシスのルーシーの化石が出土

エチオピア,アファー凹地における磁場探査フライト 2019年11月

ミッション例

PhoenixLR-08 諸元スパン 3.2m基本空虚重量 25kg巡航速度 30m/sペイロード重量 5-15kg設計航続距離 900km設計上昇限度 5000mエンジン排気量 120cc

フライト航跡 2019年11月

グランドステーション

準備中

離陸 !

飛行軌跡総飛行距離 930km

帰還

南極エアロゾル観測用小型無人航空機の研究

研究背景

• 福岡大学と共同で南極でのエアロゾル観測・サンプル回収(観測範囲:地上-高度30km)を目標としたミッションを行う(図1).

• 当研究室で開発した小型UAV(PhoenixS,図2)を用いて観測ミッションを行う.

図1:ミッションプロファイル

図2:PhoenixS

重量 10[kg]

翼面積 0.574[m2]

スパン 2.77[m]

全長 1.50[m]

アスペクト比 12.7

表1:PhoenixS諸元

図3:等レイノルズ数線図

問題点

高高度での飛行は低レイノルズ数,高亜音速の状態(図3)となり,空力特性が不明である.

空力特性が不明な領域での自動飛行はリスクが高い.

空力特性推定方法

• 風洞試験(図4)とPSB(Parachute Sting Balance),(図5)を用いて実施.PSBとは,当研究室で開発した,パラシュートを用

いて飛行速度を減少させることで低高度で高高度での飛行レイノルズ数の状態を模擬することができる装置である.

図4:風洞試験 図5:飛行試験(PSB)

• 2019年1月に南極でPSB試験を実施.図6の二段分離方式を採用し,パラシュート降下中にPSB試験を実施した.

両方の試験で推定した空力特性を比較し推定したデータの整合性を確認する.

図6:二段分離方式

この間にPSBによる空力特性取得

PSB試験 風洞試験 PSB試験 風洞試験

レイノルズ数 8.94 × 104 1.03 × 105 レイノルズ数 8.94 × 104 1.03 × 105

模擬高度 26km 24km 模擬高度 26km 24km

𝐶𝑙𝛽 -0.37 -0.11 𝐶𝑛𝛽 0.113 0.0297

𝐶𝑙𝑝 -0.13 -0.61 𝐶𝑛𝑝 0.0131 0.0084

𝐶𝑙𝑟 0.23 0.033 𝐶𝑛𝑟 -0.235 -0.470

𝐶𝑙𝛿𝑎 -0.13 -0.26 𝐶𝑛𝛿𝑎 0.0148 0.0097

𝐶𝑙𝛿𝑟 0.0094 0.0011 𝐶𝑛𝛿𝑟 -0.0210 -0.0176

図7:南極試験GPS経路

南極におけるPSB試験

表2:南極PSB試験結果と風洞試験結果比較

• PSB試験と風洞試験の結果を比較すると(表2)オーダーに関

しては一致したが,精度に向上の余地があり,より多くのデータを取得し信頼性を向上させる必要がある.

研究目的

PhoenixSの高高度での空力特性を取得し,自動飛行を行うための制御系の設計を行う.

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飛行力学研究室 研究紹介②指導教員: 東野 伸一郎 准教授Introductions of Flight Dynamics Laboratory

小型固定翼無人航空機(UAV)のフラットスピンによる垂直着陸

研究背景

◆ 小型固定翼無人航空機(UAV)はその特性上,特殊環境下での運用を望まれることがある.(ex.災害調査,極地探査 etc…)

◆このような特殊環境下では,滑走路を確保できず代替となる機体回収方法が必要となる.

◆代替となる回収方法の例と欠点➢ パラシュート回収✓ 風の影響を受け易い.

➢ ネット捕獲✓ 大規模な地上設備の敷設が必要.

➢ 固定・回転翼のハイブリッド方式✓ 構造重量の増加によるペイロードの減少.

現状

大規模な回収システムを要せず,かつUAV

自身の持つ運用性能を犠牲にすることのない機体回収方法の確立が求められている.

課題

図1:パラシュート回収の一例

定点着陸へのフラットスピンの応用◆ フラットスピンとは➢主翼の左右非対称失速により,左右主翼の揚力と抗力のバランスが崩れる.これにより,機体にヨーイング/ローリングモーメントが発生し機体は回転を伴った落下(スピン運動)を始める.

図2:スピン運動のメカニズム

➢迎角 65~90°のスピンを特にフラットスピンといい,流入風を受ける面積が増加することで降下速度が通常のスピンと比較して大きく減少する.

フラットスピンを応用した,垂直着陸法の確立を狙う.

研究目標

着陸手法確立のための課題とアプローチ

◆現状の課題として以下の4つが挙げられる.1. 意図的なフラットスピンへの遷移2. フラットスピン中の機体の着陸地点への誘導方法の確立3. 降下速度低減手法の確立4. 着陸・接地時の衝撃の緩和

◆ 上記の各課題に対して以下のアプローチを試みている.

1.全遊動尾翼+プロペラ効果の利用 2.周期的姿勢角変化による経路変更

3.カナードによる抗力増加 4.数値計算による着陸シミュレーション

今後の課題

非定常

相対流入風

揚力

➢ 機体姿勢角を周期的に変更することにより,機体に非定常揚力が発生.

➢ 非定常揚力が水平方向外力に寄与し,機体の飛行経路を変更する.

水平方向外力Xhに対する揚力Lの寄与を風洞試験により確認

➢ 水平尾翼を全遊動式水平尾翼とすることにより,通常の尾翼では確保できない失速領域での昇降舵効きを確保.

➢ プロペラのPファクターとジャイロ・プリセッションによって機体をピッチアップ.

フラットスピンへの遷移,及び水平姿勢維持に要するピッチングモーメントを確保

➢ 追加の空力デバイスとしてカナードを用いることにより,機体重心位置より前方に抗力を発生.

➢ 発生した抗力により機体がピッチアップし,降下速度が低減する.

飛行試験/風洞試験により複数の

カナード形状を比較し,最も大きな抗力を発生させる形状を選定.

着陸シミュレーションプログラムの構成例

➢ フラットスピン着陸時に生じる衝撃力に耐えうる,ランディングギア性能をシミュレーションにより推定.

➢ 得られた性能値を設計パラメータとしてランディングギアの作成に供する.

◆着陸目標地点への誘導制御則の設計➢ 飛行試験によるスピン時のエアデータ取得➢ 飛行試験データによる空力同定及びシミュレーション環境の構築

◆更なる降下速度の低減➢ カナードを含む,追加空力デバイスの適用検討 etc…

福岡空港の空港面内交通流の解析及びシミュレーション

研究背景及び目的◆ 近年の航空交通量の増加により混雑の常態化が問題となっており,空港容量増加のために混雑空港では滑走路増設が予定されている.

◆ 滑走路増設等のハード面の強化と共に,効率的な空港運用といったソフト面の強化が必要不可欠である.

福岡空港について

図3:シミュレーション結果の動画の一部

図2:スピン運動のメカニズム

あらゆる空港適応可能な空港運用最適化の手法の確立

研究目標

図2:福岡空港の増設事業の概要

図1:福岡空港の一時間当たりの最大離発着数

福岡空港は羽田,関西,成田に次いで,日本で4番目に多い着陸回数を誇る.滑走路を1本で運用されており.最も混雑する時間帯では,およそ“2分に1機”離発着が行われ混雑が常態化している.

今後の路線拡大や便数の増加に対応するために,福岡空港では平行誘導路の二重化と滑走路の増設が進められている.

シミュレータについて

滑走路増設後も滑走路の位置関係により運用制限が生じるため,効率的な空港運用を検討する必要がある.

オブジェクト指向プログラミング(OOP)

によるシミュレータを用いて,空港運用の最適化を図っていく.

福岡進入管制区の交通流の最適化

図1:福岡進入管制区

進入管制区は離着陸機が多い空域に設定される。福岡進入管制区内では福岡空港で着陸する航空機が北側(東京方面)、南側(東・東南アジア方面)など多方向から航空機が流入してくる。これが空域混雑の原因であることがこれまでの研究から分かっている。

◆福岡進入管制区

図2:ある1日の福岡空港到着機の軌跡

◆交通流の最適化

• 遺伝的アルゴリズム(GA)

• 機械学習

図2:GAによる混雑時間の交通流最適化結果

遺伝的アルゴリズムを用いて、すべての着陸するまでの時間と消費燃料を評価関数とし、最適化を行った。実際の管制指示と比較した結果、GAを用いた方が機体間隔を狭めて飛行させることが出来るようになり、全機到着時間を約40%短縮することができた。

遺伝的アルゴリズムでは計算時間がかかるためリアルタイムで管制を行う場合に適していない。そこで管制方式基準に則った管制を人工知能に学習させ、交通流の最適化を図る研究も行っている。