大腸集検における複数回免疫便潜血検査(rpha) による...

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第33巻4号.1995.7 477 〔原 著〕 大 腸 集 検 に お け る 複 数 回 免 疫 便 潜 血 検 査(RPHA) によるスクリーニングの精度評価 藤田 昌英*・ 奥 山也寸 志 ・村 上 良介**・仲尾 美穂** 花井 彩**・阪本 康夫*・楠 山 剛紹*・ 高井 新 一郎 Sensitivity, Specificity, and Positive Predictivity of the Immunological Fecal Occult Blood Test (RPHA) in Mass Screening for Colorectal Cancers. Masahide FUJITA*, Yasushi OKUYAMA, Ryosuke MURAKAMI**, Miho NAKAO** Aya HANAI**, Yasuo SAKAMOTO*, Takatsugu KUSUYAMA*, Shinichiro TAKAI Former, Department of surgery, Research Insititute for Microbial Diseases, Osaka University. *Research Section for Detection and Treatment of Colon Cancer , Inoue Hospital. **Center for Adult Diseases , Osaka. は じめに 急増 す る大腸 癌 に対 す る検 診 の最近 の普及 ぶ りは 目ざましい ものがあ り,ことに平成4年 度か ら厚生 省 が 老健 事業 に大腸 検 診 を組 入 れた こ とによ り一 層 拍 車 が かか って きた。 大腸検 診 の効果 は先人 の努力 によ りほぼ明 らかにされ1剣3),そ の標準 方 式 も示 され たが4),そ の効果 をわ が 国の大腸 癌死 亡 率 に までおよ ぼす には,地域,職 域検 診,人 間 ドックの全 て にわ た る高 い検 診精 度 が要 求 され る。 我々は早 くから大腸集検に着目し,すでに16年に わた り実施 してきたが5~8),2年 毎 に方 法 に改 良 を加 え現在 は老健法方式 と一致する第8法 に至 り4年目 に入 っ てい る。検 診 の厳 密 な精 度 評価 を行 うに は偽 陰性 例 を追求 す る必 要 が あ るた め,そ の成 績 は少 な く9)通 常 の検 診成績 は癌 発見 率,陽性 反応 適 中度が述 べ られ る に とどまっ てい る。我々 は この検 診精 度 の 評 価 に も力 を注 ぎ,こ れ まで に化 学的 便潜 血検 査 グ アヤ ック3日法 にお け る偽 陰性 率 につ いて 明 らか に した10)。 本論 文 で は,複数 回免疫 便潜 血検 査 を ス ク リーニ ング法 とする検診の精度 を明 らかにす る事 を目的 と し,RPHA 3日法 を採 用 し問診 を併 用 した1987年 ら2年間,及 び2日法 に切 り替 え問診を併用したそ の後 の2年 間 に実施 した計3.6万 人強の検診受検者 を,主 に大 阪府が ん登 録 と照合 す る事 に よ り偽 陰性 の実態 を明 らか に した成績 につい ての べ る。 対象 と方法 今 回 の検 索 対 象 症 例 は1987年4月 か ら2年 間 に RPHAろ紙 法 を用 いた免疫 便潜 血3日 検 査(第6法) の 受検 者15,488名 と,1989年4月 か ら2年 間の 同2 日検査(第7法)の 受検者20,560名 の合 計36,048名 で あ る。検診 の流 れ は図1に 示 す ごと く1日で も陽 性の者 と我々の基準11)に よる問診異 常者 を要 請検 者 と し,で きる限 り阪大 微研 病 院外 科 にお いて精 密検 査 を行 った。精 密検 査 は直腸 指 診,S状結腸 内視 鏡検 査 の後 投薬 指示 し,他 日注腸X線 検 査 を行 った 。 大 阪府 癌登 録 フ ァイル との照 合 の手順 は図2に 示 す ご と く,複数 回受検者 の2回 目以 降 の記録 を削除 し,ついで住所 が不 明及 び他 府 県 の もの を除 外 して, 前,大阪大学微生物病研究所附属病院 外科 *蒼龍会井上病院 大腸が ん検診治療研究所 **大 阪府立成人病セ ンター 日消集検誌

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第33巻4号.1995.7 477

〔原 著〕

大腸 集 検 にお け る複数 回免 疫便 潜 血 検査(RPHA)

に よ るス ク リー ニ ング の精 度 評価

藤田 昌英*・ 奥山也寸志 ・村上 良介**・仲尾 美穂**

花井 彩**・阪本 康夫*・楠山 剛紹*・ 高井新一郎

Sensitivity, Specificity, and Positive Predictivity of the Immunological FecalOccult Blood Test (RPHA) in Mass Screening for Colorectal Cancers.

Masahide FUJITA*, Yasushi OKUYAMA, Ryosuke MURAKAMI**, Miho NAKAO**

Aya HANAI**, Yasuo SAKAMOTO*, Takatsugu KUSUYAMA*, Shinichiro TAKAI

Former, Department of surgery, Research Insititute for Microbial Diseases, Osaka University.*Research Section for Detection and Treatment of Colon Cancer, Inoue Hospital.**Center for Adult Diseases

, Osaka.

は じめに

急増する大腸癌に対する検診の最近の普及ぶりは

目ざましいものがあり,こ とに平成4年 度から厚生

省が老健事業に大腸検診を組入れたことにより一層

拍車がかかってきた。大腸検診の効果は先人の努力

によりほぼ明らかにされ1剣3),その標準方式も示され

たが4),その効果をわが国の大腸癌死亡率にまでおよ

ぼすには,地 域,職 域検診,人 間 ドックの全てにわ

たる高い検診精度が要求される。

我々は早くから大腸集検に着目し,す でに16年に

わたり実施してきたが5~8),2年毎に方法に改良を加

え現在は老健法方式 と一致する第8法 に至 り4年 目

に入っている。検診の厳密な精度評価を行うには偽

陰性例を追求する必要があるため,そ の成績は少な

く9)通常の検診成績は癌発見率,陽性反応適中度が述

べられるにとどまっている。我々はこの検診精度の

評価にも力を注ぎ,こ れまでに化学的便潜血検査グ

アヤック3日 法における偽陰性率について明らかに

した10)。

本論文では,複 数回免疫便潜血検査をスクリーニ

ング法とする検診の精度を明らかにする事を目的と

し,RPHA 3日法を採用し問診を併用した1987年か

ら2年 間,及 び2日 法に切 り替え問診を併用したそ

の後の2年 間に実施した計3.6万人強の検診受検者

を,主 に大阪府がん登録と照合する事により偽陰性

の実態を明らかにした成績についてのべる。

対象 と方法

今回の検索対象症例は1987年4月 から2年 間に

RPHAろ 紙法を用いた免疫便潜血3日 検査(第6法)

の受検者15,488名 と,1989年4月 から2年 間の同2

日検査(第7法)の 受検者20,560名 の合計36,048名

である。検診の流れは図1に 示すごとく1日 でも陽

性の者と我々の基準11)による問診異常者を要請検者と

し,で きる限り阪大微研病院外科において精密検査

を行った。精密検査は直腸指診,S状 結腸内視鏡検査

の後投薬指示し,他 日注腸X線 検査を行った。

大阪府癌登録ファイルとの照合の手順は図2に 示

すごとく,複 数回受検者の2回 目以降の記録を削除

し,ついで住所が不明及び他府県のものを除外して,

前,大 阪大学微生物病研究所附属病院 外科*蒼龍会井上病院 大腸がん検診治療研究所

**大阪府立成人病センター

日消集検誌

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478 大腸集検における複数回免疫便潜血検査(RPHA)によるスクリーニングの精度評価

第33巻4号.1995.7

大阪府在住者の1人1件 のファイルを作成した。こ

のファイルと1987年から1991年の大阪府癌登録の大

腸癌ファイルとを性,生 年月日,住 所コード,姓 の

第一漢字の一致性につき照合した。この出力リスト

を登録票に基づき,検 診問診票と同一人物か否かを

手作業で確認し,偽 陰性例についてはその結果を可

能な限り追跡した。

今回用いた偽陰性例の定義は,「免疫便潜血検査が

図1大 腸検診の流れ

陰性 で,そ の後1年 以 内 に大腸癌 と診 断 され た症 例」

と した が,2年 以 内 に診 断 された症例 につ いて も検

討 した。

結 果

1)集 検 成績 の概 要

表1に 示 す よ うに4年 間の延 べ受検 者 は36,048人

で あ る。 その うち検 体 を直 接 回収 した地 域 検 診 は

11,431名(31.7%)で あ り,郵 送 に よ り回収 した職

域検 診,そ の他 は24,617名 であ った12)。併 用 した 問診

よ り要精 検 とされた の は計2,447名(6.8%)で あ り,

便潜 血 陽性者 は3日 法 が496名(3.2%)2日 法が520

名(2.5%)で あ り計1,016名(2.8%)で あ った 。潜

血 陽性者 の うち精 検受 診者 は計756名(74.4%),潜

血 陽性者 か らの発 見癌 は3日 法29名,2日 法32名 で

合計61名(0.17%),問 診 異常者 よ りの発 見癌 は5名

(0.014%)で あった 。

表2,3に 集検 に よる発 見癌 症例 の内 訳 を方 法別

に示 した。この うち,*印 の症例 は府癌 登 録 との一 致

例 で あ り,他 院 を受診 し診 断 され ていた 者 は第6法

で は12,32番 の2名,第7法 で は24,32番 の2名 で

あ る。なお,第7法 で はほか に1例,S状 結腸 内視 鏡

で径2cmの ボル マ ン2型 癌 と診 断 されたが,そ の後

の精 検 を拒否 した61歳 男性 を表 か ら除外 して い る。

全65例 の年齢 分 布 は36歳 か ら80歳 に また が り,平

均58.2歳 で あ った。男 性 は45名,女 性 は20名 で,そ

の比 は2.25:1で あ り,男 女 とも50歳 代 に ピー クが

み られ,次 いで60歳 代 が 多か った。癌 の 局在 をみ る

と,肛 門管 を含 む直 腸 が22名,S状 結 腸31名,下 行 結

腸8名,上 行 結腸2名,横 行結腸,盲 腸 各1名 で あ

表1複 数回免疫便潜血(RPHA濾 紙法)ス クリーニングと問診によ

る大腸集検結果

*潜血陽性者中の数字

日消 集検 誌

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第33巻4号.1995.7 大腸集検における複数回免疫便潜血検査(RPHA)によるスクリーニングの精度評価

479

表2集 検発見大腸癌(第6法:3日 法+問 診)

*癌 登録 との 一致 例1987.4~1989.3阪 大微研外科,(財)大 阪癌研究会

px: polypectomy, sx: sigmoidectomy, pcx: partial colectomytapx: trans-anal polypectomy, lar: low anterior resection,

rhcx: right hemicolectomy, tub1: well, tub2: mod, sc: squamous

り,直 腸 とS状 結 腸 とで81.5%を 占 めた。

肉眼癌 型で は早 期Ipが28例,次 いで進 行2型 が25

例 を占 めたが,表 面型IIa又 はIIa+IIcが4例,II

c型 が1例 み られた 。深達度 で はm26例,sm16例 と

早 期 癌が42例(65%)を 占 め,pmが4例,ssが11例,

se以 上 が6例,不 明 が2例 で あ った。進行 程度 で は

DukesAが45例(69.2%),Bが5例(7.7%),Cが

12例(18.5%),Dが2例 で あ り,ポ リペ ク トミー例

が24例(37%)で あ った。

2)癌 登録との照合

図2に 示すように複数回受診者10,720名(30%)

を削除し,不 明および他府県を除外した大阪府在住

者19,255名中,大 阪府癌登録との照合により一致し

たのは59名であった。このうち集検により発見され

ていた癌症例をのぞく26名について追跡調査した。

便潜血陽性者で要精検 としたが他施設を受診し発見

されていた真陽性症例などを除外していき,最 終的

に潜血陰性でその後1年 以内に大腸癌 と診断されて

日消集検誌

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480 大腸集検における複数回免疫便潜血検査(RPHA)によるスクリーニングの精度評価

第33巻4号.1995.7

表3集 検発見大腸癌(第7法:2日 法+問 診)

*癌 登 録 との 一 致 例1989.4~1991 .3阪 大微研外科,(財)大 阪癌研究会

px: polypectomy, sx: sigmoidectomy, pcx: partial colectomy

tapx: trans-anal polypectomy, lar: low anterior resection,

rhcx: right hemicolectomy, tub1: well, tub2: mod, muc: mucinous

いた偽陰性例は5名 であった。また1年 から2年 以

内に大腸癌と診断されていた症例は6名 であり,2

年以降4年 以内に診断されていた症例が4例 であっ

た。

3)偽 陰性例の内訳

本大腸集検における複数回免疫便潜血スクリーニ

ングの偽陰性例は,検 診後1年 に限ると,癌 登録よ

りの5名 のほか問診異常者から3日 法3名,2日 法

2名 の計5名 と,2日 法において2名 の逐年発見例

があり,合 計12名 となった。この12名と検診後2年

日消集検誌

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第33巻4号.1995.7 大腸集検における複数回免疫便潜血検査(RPHA)によるスクリーニングの精度評価

481

表4大 腸 集検(免 疫便 潜血検 査2・3日 法)に おけ る偽 陰性例

偽陰性例(検 診後1年 以内に判明)

偽陰性 例(検 診 後2年 以 内 に判明)

図2照 合の手順の概略

目に癌登録より判明 した6名 の内訳を表4に 示し

た。

12名の年齢は44歳から73歳に分布しており,男 女

各6名,早 期癌4名 に対し進行癌は8名 であった。

癌の局在をみると,S状 結腸が7名 と多 く直腸3名,

肛門1名 と11名までが左側結腸であり,右 側結腸癌

は盲腸,上 行結腸にはなく横行結腸1名 であった。

組織型の判明している10例中6例 は高分化型,3例

が 中分化 型,1例 が扁 平上 皮癌 で あっ た。 すで に死

亡 してい る3例 中2例 は癌 登録後,短 期 死亡 例 であ

る。

検 診後2年 目に癌 登 録 よ り判 明 した6名 中4名 は

進行 癌 で あ り,う ちS状 結腸 と部 位不 明 の各1名 は

す で に死 亡 して い る。

4)偽 陰性率

RPHAろ 紙法 を用 いた複 数回免 疫潜 血 スク リーニ

ング の偽 陰性 率 を検 診 方法 別,定 義別 に示 す と表5

の ようで ある。前期3日 法 と後期2日 法 の癌 登録対

比例 はそれ ぞれ8,459名,10,796名 で あ り,そ の うち

便潜 血 陽性者 は272名 と284名,大 腸癌 が 発見 され た

真 陽性者 は25名 と24名,う ち早期 のm癌 は6名 と10

名 で あった。

便 潜血 検査 が陰性 で,そ の後1年 以 内 に大腸 癌 が

判 明 した症例 は,3日 法 が4例,2日 法 が8例 で あ

り,そ れぞ れの偽 陰性 率 は13.8%と25.0%,複 数 回

免疫 便潜 血 ス ク リーニ ング法 の合 計 で は19.7%と 算

出 され た。一 方,偽 陰性 の定 義 を2年 以 内 とす る と,

それ ぞれ21.9%,31.4%,合 計 で は26.9%で あ った。

5)感 度 ・特 異度

今 回の偽 陰性 の定義(1年 以 内)に 基 づ いた,免

疫便 潜 血検査 によ るス ク リー ニ ングの感 度 は,3日

法,2日 法 が それぞれ86.2%,75%で あ り,免 疫 法

4年 間 の合計 で は80.3%で あうた(表6)。 一一方,そ

れ ぞれ の特異 度 は97.1%,97.6%,97.4%と 算 出 さ

れ た。 また陽性 適 中度 は それ ぞれ9.2%,8.5%,8.8

%で あ った。

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482 大腸集検における複数回免疫便潜血検査(RPHA)によるスクリーニングの精度評価

第33巻4号.1995.7

表5大 腸集検における複数回免疫便潜血(RPHAろ 紙法)ス ク

リ-ニ ングの偽陰性率

表6便 潜血検査による大腸集検の精度

a:複 数回免疫便潛血検査(3日 法,2日 法)の 合計,b:使 潜血スクリーニングと精検を加 えたシステム全体の感度*:p<0.05,**:p<0.01,NS:有 意差なし

考 察

我々は,1978年(昭 和53年)よ り,側)大阪癌研究

会と協同し大阪商工会議所会員企業を対象とした職

域を手はじめに,地 域,対 ガン協会の3団 体に対 し

便潜血スライドによるスクリーニングを中心に問診

も加えた大腸集検法を2年 毎に改良を加え行って来

た5~8)。化学的便潜血検査グアヤック法シオノギBを

複数回または2段 階に用いた第5法 までの成績に比

べ1987年第6法 から採用した免疫RPHA法 では要精

検率,大 腸癌発見率,陽 性適中度ともはるかに優れ

た検診成績が得られている12,13)。そこで,今回はその

検診精度が,以 前に評価したシオノギB3日 法(第

3法)の 精度10)に比べ,ど う位置づけられるか明らか

にするため,前 回の手法に準じ,大 阪府がん登録 と

の照合を中心に分析を試みた。

1987年度から4年 間にスクリーニングした36,048

名の受検者を対象にその個人識別をコンピューター

入力し,大 阪府がん登録 との照合を行った結果,59

名の一致例が得られたが,最終的に偽陰性の定義「潜

血検査が陰性判定された後,1年 以内に大腸癌 と診

断された症例」に合致したのは5例 であった。この

4年 間は免疫便潜血検査RPHA 3日 または2日 法

に加え,問 診からも要精検者をスクリーニングして

いたが,問 診異常者からの発見大腸癌5名 と逐年検

診発見癌2名 を加えた偽陰性例は12名となった。そ

の結果,複 数回免疫便潜血検査によるスクリーニン

グの感度は80.3%,特 異度は97.4%,陽 性適中度は

8.8%と 算出された。

この診断精度を,以 前に評価した化学法シオノギ

Bス ライド3日 法の感度76.9%,特 異度79.9%,陽

性適中度0.8%10)と比較すると表6に 示すように独立

2標 本の比率の差の検定で,感 度については有意差

はみられなかったが,特 異度,陽 性適中度は危険率

1%以 下で有意に免疫法が優れていた。この結果は,

日消集検誌

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第33巻4号.1995.7 大腸集検における複数回免疫便潜血検査(RPHA)によるスクリーニングの精度評価

483

表7各 種条件における複数回免疫便潜血(RPHAろ 紙法)ス

クリーニングの偽陰性率

われわれがRPHA法 をスクリーニングに採用するに

あたって検討した院内症例における診断精度の比較

成績14)ともほぼ矛盾はないものである。今回明らかに

した免疫法の精度は,異 なるグアヤック・スライド,

ヘモカル トII3日 法について評価した樋渡の成績9),

感度69.2%,特 異度91.8%,陽 性適中度2.5%よ り上

回っている。また同じヘモカル トスライド6セ ット

3日法を用いたMandelの 成績15)では感度89.3%,特

異度92.7%,陽 性適中度2.5%と 報告されているが,

スライドを検査前に湿らせぬ判定では感度80.0%で

あり,さらに50歳台女性は66.7%に とどまっている。

最近,Mandelら はこのミネソタの無作為比較試験に

おいて,集 検受診群では有意の死亡率改善効果があ

ると報告16)しているが,この診断精度の比較から推測

すると,平 成4年 度から厚生省が老健法に採用した

免疫便潜血2日 法による大腸集検が充分な精度管理

の下に普及すれば近い将来,わ が国における大腸癌

死亡率を引き下げる効果が期待されると言える。

我々の免疫便潜血検査によるスクリーニングは初

めは3日 法,後 半は2日 法で行ったものであり,か

りにこの両者を対比すると,感 度 と陽性適中度は3

日法が,特異度は2日 法が数字では上回っているが,

母数が小さいこともあり前2者 では有意差はなく,

特異度のみ,5%の 有意差がみられた。

我々は集検実施の基本姿勢 として,ス クリーニン

グ検査から精検さらに治療まで一貫して阪大微研病

院外科で行い,検 診の精度管理に力を注いできた。

今回1例 の精検偽陰性を加えた大腸集検システムの

感度は79%と 算出された(表6)。

樋渡ら17)は,偽陰性例を論ずるに当たって早期癌で

発見される頻度が高い逐年発見例を無差別に加える

ことの問題点を指摘している。我々も偽陰性率を表

7に 示すように各種の条件で算出してみた。その性

格が遅増殖性でないかと問題視されるm癌 を全例か

ら除いても21.4%と さほど率は変化せず,中 間期癌

の概念に相当する5の 場合も偽陰性率は不変であっ

たが,例 数が少なく,さ らに症例を増やし検討する

必要があると考える。

大腸癌が比較的進行の遅い癌が多いことを考慮す

ると,今 回の癌登録との照合から浮かびあがった2

年目に診断された進行癌は決して無視しえぬ数字で

あった。そこで,逐 年発見のm癌 は除外し,検 診後

2年 以内に診断された進行癌を含めるのが偽陰性の

定義 として現時点では適当でないかと愚考する。

今回の偽陰性例に樋渡ら9)が指摘する右側結腸癌は

少なかったが,真 陽性例に比べると女性 と進行癌の

割合が多かったことも将来の検討課題である。組織

型については化学法での検討10)では低分化,中分化の

悪性度がより高いと思われる例が多かったが,今 回

の1年 未満発見の12例では中分化型がやや多い印象

があるものの低分化型はみられなかった。今回の偽

陰性例にはむしろ肛門管癌や直腸癌で進行癌,す で

に死亡した症例が目立った。

この便潜血検査の弱点を補う優れた集検法として

S状 結腸内視鏡検査を併用した成績18~20)では,大 腸

癌の発見率が便潜血検査のみの集検に比べ明らかに

高い。直腸,S状 結腸に大腸癌が多いことを考慮する

と,現 在の検診はともかく,よ り高い信頼度が期待

される人間ドックでは少なくともS状 結腸内視鏡検

査の併用がすすめられるべきだと考える。

日消集検誌

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484 大腸集検における複数回免疫便潜血検査(RPHA)によるスクリーニングの精度評価

第33巻4号.1995.7

まとめ

1.複 数回免疫便潜血検査をスクリーニングに採用

し実施した約3.6万人の大腸集検につき,主に大阪府

がん登録との照合によりその精度評価を行った。

2.偽 陰性の定義を 「潜血検査が陰性で,そ の後

1年以内に大腸癌 と診断された症例」とすると,こ

のスクリーニング法の感度は80.3%で あり特異度は

97.4%,陽 性適中度は8.8%で あった。

3.こ の成績を従来のグアヤック,シ オノギB3日

法と比較すると,感 度はあまり差はみられなかった

が,特 異度,陽 性適中度は明らかに優れていた。

4.偽 陰性例は潜血陽性発見癌に比し,女 性と進行

癌が多かったが,部 位別頻度は類似していた。

5.偽 陰性の定義にはなお問題が多く,今 後大腸癌

の自然史も考慮した,よ り合理的な定義の策定が望

まれる。

謝 辞

本論文の要旨は平成6年7月,第14回 大腸集検研

究会において発表した。本研究の一部は(財)大阪癌研

究会よりの助成金,及 び厚生省がん研究助成金 「大

腸がん集団検診の組織化に関する研究」(久道茂班

長),「大腸がん集団検診の組織化 と適正化に関する

研究」(吉田豊班長)によった。本研究をまとめるに

当たり,多 大の協力をいただいた桑原恵子氏,万 年

育子氏,大 阪府がん登録中央登録室の皆様に深謝致

します。

文 献

1) 斉藤博他: 大腸癌検診の有効性の評価. 図説臨

床癌シリーズ, 36, 44-49, 1992.

2) 久道茂: 厚生省がん研究助成金による 「適正な

大腸集団検診制度の確立と精度の向上に関する

研究」(1-14) 平成2年 度研究報告書.

3) Nakama H: A study on the efficacy of a

screening program for colorectal cancer in a

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9) 樋 渡信 夫, 佐藤 弘房, 渋木 諭 他: 大腸 癌検 診 の

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1992.

13) 熊西 康信, 藤 田 昌英, 奥 山也 寸志他: 大 腸癌 の

集 団検 診-免 疫学 的便潜 血 スライ ド3枚 (Rever-

sed Passived Hemmangulutination Reaction

混和 法) +問 診 法 とその成 績-日 本 大 腸 肛 門

病 会誌, 42: 1051-1057, 1989.

14) 熊 西康 信, 藤 田 昌英, 奥 山 也寸 志他: 免 疫学 的

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Page 9: 大腸集検における複数回免疫便潜血検査(RPHA) による ...221.114.158.246/~bunken/STOOL_OCCULT.pdf · 2014-03-14 · 評価にも力を注ぎ,これまでに化学的便潜血検査グ

第33巻4号.1995.7 大腸集検における複数回免疫便潜血検査(RPHA)によるスクリーニングの精度評価

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19) 日高久光 他: 免 疫免 疫便 潜血 検査 と下部 大腸 内

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日消集検誌