吊橋の超長大化の可能性に関する基礎的研究 -...

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吊橋の超長大化の可能性に関する基礎的研究 麓 興一郎 ・秦 健作 ・楠原 栄樹 1 正会員 独立行政法人土木研究所構造物研究 G 橋梁構造(〒305-8516 茨城県つくば市南原 1-6) [email protected] 2 正会員 財団法人 海洋架橋調査会 企画部 調査役(〒112-0004 東京都文京区後楽 2-2-23) [email protected] 3 正会員 本州四国連絡高速道路株式会社 超長大橋センター 耐風構造 G (〒651-0088 神戸市中央区小野柄通 4-1-22) [email protected] 中央径間長が 3,000m を超す超長大橋を実現するには,経済性・耐風安定性に優れた上部構造が必要であ り,その課題克服のためハイブリッド吊橋を考案した.ハイブリッド吊橋とは,ケーブルとしては吊橋を基 本として主塔近傍に斜張形式を採用したもので,桁については中央径間中央部に空力性の優れた二箱桁を配 置し,主塔近傍には桁幅が狭く軽い一箱桁を配置した橋である.本論文ではハイブリッド吊橋の超長大橋へ の適用可能性を検討するため,構造解析と風洞実験及びフラッタ解析を実施した.その結果,塔形式を A とし,ケーブルを中央径間中央部で桁の外側を吊る形式とした場合,耐風安定性に最も影響を与えるねじれ の固有振動数を従来の吊橋より 50%程度高くでき,さらに二箱桁断面の形状を工夫することで耐風安定性を 向上できることがわかった. Key Words super-long-suspension bridge, hybrid suspension bridge, mono- and di-combined deck girder, aerodynamic stability, wind tunnel test, flutter analysis 1.はじめに 我国においては本州四国連絡橋明石海峡大橋以降,海 峡横断プロジェクト等に代表された超長大橋の需要は少 なくなってきたが,本四架橋で培った長大橋関連技術の 継承が今後の課題となっている.一方,海外に目を転じ てみれば中国における西候門大橋,潤陽長江公路大橋な どの長大橋プロジェクト 1) やイタリアにおけるメッシナ 橋の如き超長大橋プロジェクトが盛んに押し進められて おり,国際的には超長大橋の需要は依然としてあるとい える. 超長大橋を実現するためには,経済的に優れた構造を 設計に取り入れるともに,耐風安定性の確保を図ること が最も重要な課題の一つである.そこでこれらを克服す るためにハイブリッド吊橋を考案した.本論文中で取扱 うハイブリッド吊橋 2) とは, 1) ケーブルシステムにおい ては吊橋を基本として塔近傍に斜張橋形式を採用したも ので, 2) 桁については中央支間中央部に空力特性の優れ た二箱桁を配置し,塔近傍については桁幅が狭く軽量な 一箱桁を配置した吊橋である.特徴としては,支間長を 構造動力学的に軽減し,かつねじれ剛性を向上させてい る. 本論文は,考案したハイブリッド吊橋の超長大橋への 適用の可能性を構造解析と風洞実験及びフラッタ解析に よって明らかにすることを目的としている. 2.既往長大吊橋における耐風性の課題 現在も世界最長支間を誇る明石海峡大橋は,その計画 設計段階における検討では,支間長がそれまでの最大支 間であった南備讃瀬戸大橋の1,100mから一気に約2倍弱 となることから,耐風性の確保が極めて重要な課題と位 置づけられた.事実,補剛桁の最低次ねじれ固有振動数 に着目すると,その値は 0.15Hz 程度となり,南備讃瀬戸 大橋の0.35Hz に比べて大幅に低下することが明らかとな った.(図-1 3) 耐風安定性の観点から見た場合,明石海 峡大橋ではトラス形式の補剛桁を用いた場合,南備讃瀬 戸大橋で問題となったねじれフラッタの発現風速が,一 気に 30m/s 以下となる可能性があることを示している. また,ねじれフラッタがこのような低い風速域において 発生する可能性があることは,高風速域では曲げ振動と ねじれ振動が連成した,いわゆる連成フラッタが発生す る可能性があることが予想された.そのため明石海峡大 橋では耐風安定性を大幅に向上させるために,それまで の実績や研究成果をもとに様々な耐風対策を施している. 220 Vol.63 No.1, 220-231, 2007. 3 土木学会論文集A

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Page 1: 吊橋の超長大化の可能性に関する基礎的研究 - PWRI...吊橋の超長大化の可能性に関する基礎的研究 麓 興一郎1・秦 健作2・楠原 栄樹3 1 正会員

吊橋の超長大化の可能性に関する基礎的研究

麓 興一郎1・秦 健作2・楠原 栄樹3

1 正会員 独立行政法人土木研究所構造物研究 G橋梁構造(〒305-8516 茨城県つくば市南原 1-6) [email protected]

2 正会員 財団法人 海洋架橋調査会 企画部 調査役(〒112-0004 東京都文京区後楽 2-2-23) [email protected]

3 正会員 本州四国連絡高速道路株式会社 超長大橋センター 耐風構造 G

(〒651-0088 神戸市中央区小野柄通 4-1-22) [email protected]

中央径間長が 3,000m を超す超長大橋を実現するには,経済性・耐風安定性に優れた上部構造が必要であ

り,その課題克服のためハイブリッド吊橋を考案した.ハイブリッド吊橋とは,ケーブルとしては吊橋を基

本として主塔近傍に斜張形式を採用したもので,桁については中央径間中央部に空力性の優れた二箱桁を配

置し,主塔近傍には桁幅が狭く軽い一箱桁を配置した橋である.本論文ではハイブリッド吊橋の超長大橋へ

の適用可能性を検討するため,構造解析と風洞実験及びフラッタ解析を実施した.その結果,塔形式を A 型

とし,ケーブルを中央径間中央部で桁の外側を吊る形式とした場合,耐風安定性に最も影響を与えるねじれ

の固有振動数を従来の吊橋より 50%程度高くでき,さらに二箱桁断面の形状を工夫することで耐風安定性を

向上できることがわかった.

Key Words :super-long-suspension bridge, hybrid suspension bridge, mono- and di-combined deck girder, aerodynamic stability, wind tunnel test, flutter analysis

1.はじめに

我国においては本州四国連絡橋明石海峡大橋以降,海

峡横断プロジェクト等に代表された超長大橋の需要は少

なくなってきたが,本四架橋で培った長大橋関連技術の

継承が今後の課題となっている.一方,海外に目を転じ

てみれば中国における西候門大橋,潤陽長江公路大橋な

どの長大橋プロジェクト 1) やイタリアにおけるメッシナ

橋の如き超長大橋プロジェクトが盛んに押し進められて

おり,国際的には超長大橋の需要は依然としてあるとい

える.

超長大橋を実現するためには,経済的に優れた構造を

設計に取り入れるともに,耐風安定性の確保を図ること

が最も重要な課題の一つである.そこでこれらを克服す

るためにハイブリッド吊橋を考案した.本論文中で取扱

うハイブリッド吊橋 2) とは, 1)ケーブルシステムにおい

ては吊橋を基本として塔近傍に斜張橋形式を採用したも

ので, 2)桁については中央支間中央部に空力特性の優れ

た二箱桁を配置し,塔近傍については桁幅が狭く軽量な

一箱桁を配置した吊橋である.特徴としては,支間長を

構造動力学的に軽減し,かつねじれ剛性を向上させてい

る.

本論文は,考案したハイブリッド吊橋の超長大橋への

適用の可能性を構造解析と風洞実験及びフラッタ解析に

よって明らかにすることを目的としている.

2.既往長大吊橋における耐風性の課題

現在も世界最長支間を誇る明石海峡大橋は,その計画

設計段階における検討では,支間長がそれまでの最大支

間であった南備讃瀬戸大橋の1,100mから一気に約2倍弱

となることから,耐風性の確保が極めて重要な課題と位

置づけられた.事実,補剛桁の最低次ねじれ固有振動数

に着目すると,その値は0.15Hz程度となり,南備讃瀬戸

大橋の0.35Hzに比べて大幅に低下することが明らかとな

った.(図-1)3) 耐風安定性の観点から見た場合,明石海

峡大橋ではトラス形式の補剛桁を用いた場合,南備讃瀬

戸大橋で問題となったねじれフラッタの発現風速が,一

気に 30m/s 以下となる可能性があることを示している.

また,ねじれフラッタがこのような低い風速域において

発生する可能性があることは,高風速域では曲げ振動と

ねじれ振動が連成した,いわゆる連成フラッタが発生す

る可能性があることが予想された.そのため明石海峡大

橋では耐風安定性を大幅に向上させるために,それまで

の実績や研究成果をもとに様々な耐風対策を施している.

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Vol.63 No.1, 220-231, 2007. 3土木学会論文集A

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具体的には,床版幅 b に対して耐風安定性が最も良くな

る主構幅 W を決めている(図-2).この根拠になった検

討は久保ら 4)によって実施された.久保らは,図-3 に示

す南備讃瀬戸大橋における耐風安定性の検討に際し,床

版幅に対して耐風安定性を向上させる最適となる主構幅

が存在することを見出した.即ち b/W≒0.87 のときに耐

風安定性は最も向上している.

ちなみに,図-3に示す南備讃瀬戸大橋の空力不安定振

動は,ねじれの1自由度型のフラッタであり,図-4はね

じれに鉛直たわみや横たわみが連成しているいわゆる連

成フラッタである.

図-1吊橋の支間長の増加が固有振動数に及ぼす影響

モデル(A) モデル(B)

図-2 床版と弦材及び横構の関係

図-3 主構トラス幅がフラッタ特性に及ぼす影響 (南備讃瀬戸大橋)

明石海峡大橋でも主構トラス幅に対する検討から,図

-4に示す結果が得られている.この図から床版幅30mに

対して主構幅 35.5m 即ち b/W≒0.85 案が耐風性に最も優

れていることが確認された 5) .

また,床版には中央グレーチングのほかに,路側端の

非常駐車帯に幅の広いグレーチングが配置されたほか,

鉛直スタビライザーが中央防護柵直下に置かれることに

なった.しかしながらこれだけでは十分な耐風安定性は

確保できず,さらに上弦材の寸法,床版と上横構とのク

リアランス,上路管理路の配置や形状,公共添加物の配

置位置などが風洞実験を繰り返して見直され,これら耐

風対策を施した後に,明石海峡大橋のフラッタ限界風速

は照査風速 78m/s を数 m/s 上回り,耐風安定性が確保で

きた 3).したがって,中央径間長で明石海峡大橋を大幅に

超えるためには,これまでと同様の対策を講じるだけで

は耐風安定性(フラッタの照査風速は明石海峡大橋と同

程度の80m/s)を確保することは難しく,ケーブル形式を

含めた新しい発想に基づく設計が必要となる.

3.ハイブリッド吊橋の構造特性

本章では提案したハイブリッド吊橋について,耐風安

定性を確保することを目的に,斜張橋区間を選定すると

ともに,主ケーブルの吊構造形式の相違や主塔形式が構

造特性に及ぼす効果について,耐風安定性に影響を及ぼ

すねじれの固有振動数及び曲げとねじれの固有振動数比

の値から検討を加えた.

図-4 主構トラス幅がフラッタ特性に及ぼす効果 (明石海峡大橋)

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(1) ハイブリッド吊橋の構造諸元

表-1にハイブリット吊橋の構造諸元を示す.この吊橋

は,橋長5,000m,中央径間長2,800m,4車線幅員,主ケ

ーブルのサグ比1/10の超長大吊橋 6) を基本型として,ハ

イブリッド吊橋 2)としたものである.吊橋区間には,耐風

性に優れた二箱桁を,斜張橋区間には構造力学的に優れ

た一箱桁を配置した.これら箱桁の断面が変化する区間

を写真-1に示す.

(2) 解析モデル

固有値解析及びフラッタ解析に用いた解析モデルは立

体骨組みモデルである.図-5に示す様に,主桁・横桁・

主塔を梁・柱要素で,主ケーブル・斜張ケーブル・ハンガ

ーを棒要素でモデル化した7).主桁の梁・柱要素は補剛桁

断面のせん断中心位置に配置し,桁に作用する静的及び

動的空気力は横桁の中央に節点を設けて作用させた.主

塔・ケーブル・ハンガー及び補剛桁の初期応力は,節点

座標の上げ越し計算後に自重と釣り合わせた.

表-1 構造諸元

写真-1 一箱桁と二箱桁の断面変化区間

(3) 斜張橋区間の選定

中央径間長が長くなるにつれて,風荷重による横たわ

み変形と,風に流された結果生じた桁の迎角とが大きく

なると共に,フラッタ特性に影響を与えるねじれ固有振

動数は著しく低下する 8) .そこで,横たわみ変形を拘束

し,ねじれ固有振動数を高くするために,斜張橋形式の

区間を主塔から径間中央へ向かって配置する.斜張橋区

間を長く設定した場合,ねじれ振動モードに対する見か

けの吊橋径間長を短くする効果があるが,その反面,軸

力が大きくなるため,主塔を高くすることで軸力をケー

ブルに負担させるか,桁の断面積を増やす等の対策が必

要となり,斜張橋としての長所を活かせなくなる恐れが

ある.ここでは,塔高(サグ比 1/10 として設定)を変え

ずに,斜張橋区間を主塔から中央径間側l/4支間および1/8支間とする2案について,耐風安定性の観点から比較検

討を行った 9) .これらは,径間長さとしては 800m 級径

間の多々羅大橋クラスの斜張橋と,その2倍の1,600mの

径間長を有する斜張橋を想定したものである.

表-2に固有振動数の比較結果を示す.この表から,斜

張橋区間を長くすると鉛直対称 1 次の固有振動数を変化

させることなく,ねじれ対称1次の固有振動数を高める

ことができることがわかる.本論文では斜張橋区間 1/4案を採用する.この1/4案は1/8案に比べて,連成フラッ

タ性能に影響を及ぼすねじれ振動数と振動数比が 10%以

上高く,優れた耐風性能を有している.

図-5 解析モデル(外吊形式の例)

図-6 明石海峡大橋とハイブリッド吊橋

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(4) ケーブル吊構造形式

超長大橋では,フラッタに代表される動的不安定問題

のほかに静的不安定問題がある.暴風時の中央径間部の

横たわみ変形量は桁の横座屈問題であるが,これまでの

ところケーブル効果により桁幅程度の変形量は許容され

てきた.また,箱桁形式の補剛桁では揚力や空力モーメ

ントの作用によるねじれ変形がダイバージェンスを起こ

させる可能性がある.そこで,有風時のねじれ変形を抑

制するために,主ケーブルの吊構造形式が耐風安定性に

及ぼす影響を検討する.

A 型の主塔とした場合に,主ケーブルの吊り構造形式

は図-7に示す二箱桁の開口部内側で並行に吊る内吊形式

と,中央径間吊橋区間のみを二箱桁の外側で吊る外吊形

式の 2 通りが考えられる.これらについて固有値振動数

を比較した.

図-8~図-10に内吊形式及び外吊形式の水平,鉛直,及

びねじれの各振動モードの最低次振動モードをそれぞれ

示す.

図-8と図-9より,水平及び鉛直の対称1次振動モード

では,内吊,外吊の両形式に大きな差異は認められない.

一方,図-10に示すねじれ対称1次振動モードでは,内吊

形式の場合に水平方向成分とねじれ成分が連成しており,

フラッタ発現風速が高くなる可能性がある.

次に表-3 はケーブル吊構造形式の相違が振動特性に及

ぼす影響を数値として示したものである.特にフラッタ特

性に影響が大きい鉛直とねじれの最低次固有振動数と等

価極慣性モーメントに着目すれば,ねじれ対称1次の振動

数および等価極慣性モーメントは外吊形式の方が大きく,

内吊形式に対して振動数で 12.8%増となっていることがわ

かる.

表-2 斜張橋区間

表-3 ケーブル形式の比較

図-7 ケーブル形式の比較

図-8 水平対称1次振動モード

図-9 鉛直対称1次振動モード

図-10 ねじれ対称1次振動モード

(a)内吊形式 (b) 外吊形式

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(5) 主塔の形式

吊橋の主塔形式として一般的なH 型形式は,ケーブル

が離れて配置されることにより,横変形に対する拘束力

やねじれ対称1次の固有振動数に対して有利である.一

方,A型形式は水平材の数量を減らすことができるため,

経済性の面からは優れた構造形式である.ここでは図-11

に示す両者を比較する.

各々の主塔を配置した全体系について固有値解析を実

施し,その振動特性から両者の優劣を比較することとし

た.結果を表-4に示す.全体系の鉛直対称 1 次の振動数

については両形式で差は認められないが,ねじれ対称 1

次の振動数ではA型主塔の方が10%高いことが見て取れ

る.このねじれ固有振動数の変化と等価質量慣性モーメ

ントの増加により,A 型主塔を配置した斜張吊橋はH 型

主塔の斜張吊橋よりもフラッタ発現風速は 10m/s 向上す

ることになる.

表-4 主塔形式の構造比較

図-12 フェアリング形状の検討結果

4.補剛桁の耐風安定性の比較

超長大吊橋で最も重要な問題はフラッタに対する耐風

安定性であり,なかでも補剛桁の幾何学的形状に依存す

る割合は大きい 10),11).本章では,ハイブリット吊橋に採

用しようとする補剛桁の耐風安定性について,二次元風

洞試験を実施し,耐風安定性に優れた二箱桁形式の補剛

桁を決定した.

(1) 桁断面について

吊橋区間には,経済性および耐風安定性に優れた桁構

造として提案されている桁中央に開口部を有する二箱桁

断面 4),7) を配置した.耐風対策としては,フェアリング

やフラップ,デフレクター等が考えられるが,ここでは

経済性を考慮して,構造主部材として活かせるフェアリ

ングと簡易な剥離制御用の対策(耐風対策物と呼ぶ)を

桁下面に配置した.ただし,二箱断面では一箱断面に比

べて有風時の変形が負迎角範囲で大きな値となることが

予想されることから,フェアリング形状,桁下面耐風対

策物の大きさに着目し,二次元バネ支持試験により耐風

安定性を確認した.風洞試験では,事前に実施した横た

わみ変形解析の結果から予測される変形を考慮し 0°から

-6°まで1°ピッチで応答を観測した.

(2) フェアリング形状

図-12にフェアリング形状を三角形,台形 12),非対称台

形とした場合の代表的なバネ支持試験結果を比較して示

す.基本断面としての三角フェアリング付断面は迎角-3°の結果であり,直接に他の断面と比較できないが,実橋

換算風速=50m/s 付近で発散振動が発生しており,耐風安

定性は良くない結果となっている.一方,フラッタ照査

風速付近では中央径間中央部で迎角が-6°程度となること

が予想される.この迎角における台形および非対称台形

フェアリング付断面を比較すれば,非対称台形フェアリ

ング付断面の方が耐風性に優れているといえよう.

以上の結果から,中央径間に配置する補剛桁の断面と

しては,非対称逆台形フェアリング付断面を採用するこ

ととした.

(3) 桁下面耐風対策物の大きさの検討

図-13 に桁下面に取り付けた耐風対策物の高さを変化

させた場合の風速-応答振幅の関係を示す.ここで,耐

風対策物は,下面上流部分で流れを剥離させることによ

り上流端からの剥離を制御することで耐風性の改善を図

ったものである.経済性を考慮して簡易な道路路側端防

護柵を対策材として利用することとした.

図-11 比較検討した主塔形式

(a)H型 (b)A型

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図-13 桁下耐風対策物の検討結果

図-14 採用した二箱桁断面

耐風対策物の高さを,通常の防護柵の高さ H(=1,200mm)を基準として,2.0H,1.5H,1.2Hと変化さ

せた.対策物高さによる応答振幅の違いは,フラッタが

発生する高風速領域で2.0Hのケースが他の高さのものよ

り僅かに大きいことが分かる.また,図-12と比較しても

高風速時には1.5H,1.2Hの対策物の方が振動の振幅は小

さいことが分かる.経済性を考慮すれば,1.2H の耐風対

策物が耐風安定性のうえからも最適な選択となる.選択

した結果を図-14に補剛桁の断面形状(対策断面と呼ぶ)

として示す.

5.フラッタ解析

耐風安定性をより詳細に比較するため,補剛桁の二次

元模型の風洞実験によって得られた抗力,揚力,空力モ

ーメントの各三分力係数及び非定常空気力係数を用いて

フラッタ解析を実施した.

(1) 非定常空気力の測定

図-12及び図-13の結果からも明らかなように,迎角に

より耐風性が大きく変化することが予測される.一方,

実際の橋梁では風荷重の作用により横たわみ変形が生じ

負の迎角が予想される.そこで,非定常空気力の測定で

は,解析に用いる迎角を考慮し,試験迎角を0°から-8°まで順次変化させることとした.

なお,ここでの非定常空気力係数は図-15の座標軸の定

義に従って式(1),(2),(3)により整理している.

[ ] [ ][ ] ⎪⎭

⎪⎬⎫

⎪⎩

⎪⎨⎧

++

+++=

'

''22

2322

sLsLB

LLBhLhLBL

SISR

IRHIHR

ωω

ωθθϖωωπρ θθ (1)

[ ] [ ][ ] ⎪⎭

⎪⎬⎫

⎪⎩

⎪⎨⎧

++

+++=

'

''23

2423

sMsMB

MMBhMhMBM

SISR

IRHIHR

ωω

ωθθϖωωπρ θθ (2)

[ ] [ ][ ] ⎪⎭

⎪⎬⎫

⎪⎩

⎪⎨⎧

++

+++−=

'

''2

222

sDsDB

DDBhDhDBdD

SISR

IRHIHR

ωω

ωθθϖωωπρ θθ (3)

ここで

L:非定常揚力(N) M:非定常空力モーメント(N-m) D:非定常抗力(N) ρ:空気密度 (kg/m3) B:桁幅(m) h:鉛直変位(m) θ:ねじれ変位(deg.) S:水平変位(m) ω:応答円振動数(1/sec) d:投影面積(m2/m)

非定常揚力係数L,M,Dの添字,Hは鉛直加振,θは回転

加振,Sは水平加振を示し,Rは実部,Iは虚部をそれぞれ

示す.

図-16 は実験時の模型のねじれ加振振幅1度における

非定常空気力の各成分を,迎角と無次元振動数に対して

比較したものである.各図で横軸の無次元振動数(無次

元風速の逆数)に対し,縦軸の非定常空気力の各成分は

迎角により大きく変化している.二次元実験による応答

が,迎角により大きく異なる様に,非定常空気力も迎角

により大きく変化していることがわかる.この非定常空

気力の中で空力安定性に最も影響を与える回転加振時の

空力モーメントの速度比例成分の値 MθIは,迎角の増加

とともに絶対値が大きくなっていることから,横たわみ

変形とともに負迎角が増大した場合に,大きな力を発生

することが予想できる.すなわち,桁の変位と非定常空

気力との位相差が加振側にある場合にはフラッタ現象が

発生する可能性のあることを示唆している.

図-15 非定常空気力の座標軸

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(2) フラッタ方程式

フラッタ方程式の直接解法については,風間の方法 13)

によった.立体骨組モデルに対するフラッタ方程式は以

下のように表すことができる.

[ ][ ] [ ][ ] [ ][ ] [ ][ ] [ ][ ] [ ][ ]uFuFuFuKuCuM DVA ++=++ &&&&&& (4)

ここで,

[ ][ ]M :質量マトリックス

[ ][ ]C :減衰マトリックス

[ ][ ]K :剛性マトリックス

[ ][ ]AF :自励空気力ベクトル(加速度比例項)

[ ][ ]VF :自励空気力ベクトル(速度比例項)

[ ][ ]DF :自励空気力ベクトル(変位比例項)

である.今,運動が調和振動的であると仮定でき,左辺

側の速度比例成分の係数(構造減衰)の振動に及ぼす影

響は小さいと仮定すると

{ } tieu ωΦ= (5)

より 2/ωuu &&−= (6)

ω/uiu &&& = (7)

が得られ,式(4)を複素固有値問題に持ち込むことができ

る.これから次式(8)に示す換算振動数Kを仮定すると,

表-5 フラッタ解析条件

)/( UbK φω= (8)

j次モードに対する応答の空力減衰率は

22JIJR

jIj

ωω

ωδ

+= (9)

で求められる.

検討対象のハイブリッド吊橋では桁の中央径間のねじ

れ対称 1 次モードと他のモードが連成する複雑なフラッ

タ発現モードが考えられるので,ここでは,三次元フラ

ッタ方程式の直接解法を用いて,式(9)に示す空力減衰率

を算出した.解析条件を表-5に示す.

図-16 非定常空気力係数

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(3) フラッタ解析結果

非対称な台形フェアリングを採用した対策断面の三次

元フラッタ解析結果を図-17に示す.

対策断面のフラッタ解析の結果,3つの解が存在し,

これをモードA,B及びCとした.モードAは桁のねじ

れ対称1次振動モードと桁の鉛直たわみ対称1次振動モ

ードが連成した代表的な振動モードである(図-18).モ

ード B は桁のねじれ対称1次振動モードに桁の水平対称

3次振動モードが連成した振動モードであり,高風速域

でねじれ対称1次の振動モード成分が小さくなることが

特徴である(図-19,図-20).一方,モード C は桁のね

じれ対称1次モードと桁の鉛直たわみ対称1次モードが

連成しているが,ケーブルの水平逆相対称2次の振動モ

ードが卓越していることが特徴である(図-21).

図-17 三次元フラッタ解析 減衰率比較

図-18 ねじれ対称1次Aのモード図(風洞風速7m/s)

図-19 ねじれ対称1次Bのモード図(風洞風速2m/s)

図-20 ねじれ対称1次Bのモード図(風洞風速7m/s)

図-21 ねじれ対称1次Cのモード図(風洞風速7m/s)

図-22 には対策断面の桁のねじれ対称1次の各振動数

の比較を示す.これらのモードの振動数は風速の変化に

つれモード間の相互影響が発生することが予測されるが,

図-17より減衰率が負となることはなく,三次元全橋模型

試験ではフラッタの発生はないものと判断した.

これらの試験と解析結果から図-14 の断面を中央径間

中央に配置し,外吊形式とすることで十分な耐風性が確

保できると判断し,三次元全橋模型試験を実施した.

6.全橋模型による耐風安定性の検討

(1) 全橋模型の概要

超長大橋の全橋模型の縮尺は,土木研究所大型風洞実

験施設の風洞の規模(幅41m×高さ4m)に納まるように,

図-6 の超長大橋の 1/125 スケールとした.模型化に際し

ては各箱桁のせん断中心に剛性棒(以下,箱桁剛性棒)

を配置し,この二本の箱桁剛性棒を横梁(以下,横梁剛

性棒)で連結する梯子構造としている 2).桁部材について

は全ての剛性を相似させることが困難なため,耐風安定

性に与える影響が最も大きいと考えられる純ねじり剛度

を優先して相似させている.なお,桁にとりつける耐風

安定化部材は非対称台形フェアリング断面および桁下に

耐風安定化部材(中央径間の中央部:模型で約11.4mm)

を設置した(図-23参照).

図-22 三次元フラッタ解析 振動数比較

図-23 対策断面桁断面図

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表-6 固有振動数の比較

表-7 解析値と計測値の比較

ケーブルについては,ケーブル全体にかかる風荷重が

実橋と相似となるような抗力部材を離散的に取り付け,

重錘や寸法を調整することで質量や抗力を相似させた.

ただし,空力的な干渉が問題となる中央径間中央付近で

は,質量と共にケーブルの実際の形状を相似させた 2),14).

ここで,風洞実験で用いる全橋模型の解析モデルの妥

当性を検証するために固有振動数を算出し,実橋梁の構

造寸法を忠実に 1/125 に縮尺した理想模型の解析モデル

のものと表-6で比較する.各最低次の振動数については

-3%~+4%の誤差範囲であった.全橋模型の振動特性は実

橋梁を適切に表現できているといえよう.

(2) 全橋模型の構造特性

対風応答試験に先立ち,静的な変形(鉛直,水平,ね

じれ)を確認する重錘による静的特性試験 15)と,その固

有振動数(鉛直,水平,ねじれ)を確認する動的特性試

験を実施した.そのうち表-7に動的特性試験における解

析値と計測値の比較結果を示す.水平振動モードでは6%程度の差が生じているが,耐風性能で問題となるねじれ

振動モードの差は2%以内に収まっている.

(3) 耐風応答試験

試験条件は気流傾斜角 0°の一様流とした.風速を段階

的に変化させ,風速毎に鉛直たわみ,水平たわみ,ねじ

れの所定のモードについて強制加振後の減衰振動状態及

び制止後のゼロ発散振動状態を計測した.計測は全橋模

型に設置したターゲットの座標をビデオトラッカー及び

ポジションセンサーで追従する方法で実施し,ターゲッ

写真-2 全橋模型

写真-3 高風速域の全橋模型の横たわみ変形状況

図-24 変形量の比較図

ト座標の時系列波形を解析した.

写真-2は全橋模型の状況を,写真-3は高風速域で横た

わみ変形している全橋模型の状況を示す.

全橋模型の解析モデルを用いて有限変位理論に基づい

て有風時の変形解析を実施した.図-24は全橋模型による

風洞試験実験で観測された横たわみ変形時のねじれ角を

解析結果と共に示したものである.図から実験値と解析

値はよく一致していることがわかる.

風洞試験結果は風速を横軸,振幅を縦軸,対数減衰率

を等高線で表示した風速―振幅―対数減衰率の関係

(V-A-δ 図)で評価する.振動の減衰または発散状態は,

対数減衰率の符号が正ならば減衰を負ならば発散を示す.

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図-25に全橋模型の風洞試験結果を示す.三次元フラッ

タ解析ではフラッタの発生は認められなかったにもかか

わらず,風洞試験に於いては風洞風速4.5 m/s~6.0 m/sの領域において減衰率δは負となりフラッタが生じた 15).

しかしながら,この風速領域におけるフラッタとして

は,従来から認められている連成タイプのフラッタに比

べて空気力が極めて小さいことが特徴的である.したが

って,僅かな断面形状の変更や構造系の変化によって,

この風速領域でのフラッタは容易に制御できると考えら

れる.そこで,過去の実績をもとにフラップ,センター

バリアやスプリッター板などといった各種対策部材を取

り付けることとし,フラッタの発生を防ぐ耐風対策を見

出すための試験を実施した 16).この結果図-26に示すスプ

リッター板を中央径間中央から吊橋区間の 50%長に設置

した場合に耐風性に大きな効果が認められた.図-27に試

験結果を示す.高風速域の微小振幅の応答が僅かに観測

されたものの,スプリッター板を設置することで,照査

風速 80m/s を十分に上回る風速領域まで,フラッタの発

生を防止することに成功した.

図-25 対策断面の風洞試験結果

図-26 スプリッター板の配置図

図-27 スプリッター板付き模型の風洞試験結果

(4) 風洞試験結果とフラッタ解析結果の比較

対策断面については,二次元風洞試験で求めた非定常

空気力を用いて三次元フラッタ解析を実施した結果では

フラッタの発生がないと予測されたにもかかわらず,全

橋模型風洞試験ではフラッタの発生が観測された.ここ

では両者の相違が何に起因するかを明らかにする.

図-29 で対策断面の計測値と解析値とを比較すると両

者の値は大きく異なっていることがわかる.そこで図-12

で耐風性はよくないがフェアリングを三角形として下面

に何もつけない基本断面(空気力の計測で採用した断面

より単純な断面で計測誤差が少ない)で全橋模型試験を

行いフラッタ解析と比較した.図-29に示すが解析値と実

験値はよく一致している.解析手法に特に問題が無いと

すれば,減衰力がほぼゼロ近傍の値である場合の非定常

空気力の精度そのものが大きく影響しているものと考え

られる.そこで改めて非定常空気力試験の測定精度を検

証してみた.

具体的には,測定結果から非定常空気力を推定するプ

ログラムの中で,手法をクロススペクトル法から波形近

似法に改めた.この解析方法は FFT 法の持つ周波数分解

能に依存する解析誤差の問題を解決するため,より高い

サンプリング周波数で計測した波形を最小2乗法で近似

し振幅と位相差を高い精度で求めるものである.こうし

て得られた非定常空気力係数を用いてフラッタ解析を行

った結果を図-30と図-31に示す.結果からも明らかなよ

うに,フラッタ解析のモードAはこれまでの結果に比べ

図-28 対策断面の解析値(従来手法)と風洞試験結果

図-29 基本断面の解析値(従来手法)と風洞試験結果

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図-30 対策断面の解析値と風洞試験結果比較

図-31 スプリッター板付き断面の解析値と風洞試験結果比較

風洞試験結果とよく一致しているといえよう.これは風

洞風速5m/s付近から発生したフラッタの加振空気力が極

めて小さい値のために,非定常空気力係数の計測精度の

差が解析値の誤差を生む大きな原因であったと考えられ

る.

以上に述べたように,対策断面を用いた三次元全橋模

型実験で観測されたフラッタが,これまで認識されてい

たフラッタとは異なり,空気力の負減衰が極めて小さく,

従来の例としては南北備讃瀬戸大橋等で対象とした,所

謂ねじれ1自由度のフラッタに類似した挙動を示した 4).

このように対象とする断面に作用する空気力が大きくな

い場合には,より精度を高めた非定常空気力の計測が必

要であり,二次元非定常空気力を用いたフラッタ解析に

よる予測はより難しいものになると言えよう.

7.まとめ

本研究では,中央径間長が世界最大の吊橋である明石

海峡大橋を大幅に超える規模の超長大橋に対して,新し

い構造形式であるハイブリッド吊橋の実現の可能性を,

構造解析やフラッタ解析あるいは二次元風洞試験や三次

元全橋模型風洞実験によって明らかにした.得られた結

論をまとめると以下になる.

1) ハイブリッド吊橋における斜張橋形式区間の配置

は吊橋径間長の縮小効果を高めるため,中央径間長の

50%程度とすることが望ましい.

2) 耐風安定性の観点から主ケーブルは外吊形式とす

る方が良い.外吊とすることでねじれの固有振動数及

び曲げとねじれの振動数は内吊形式と比べて 12.8%増

加する.

3)明石海峡大橋で実績のある二次元風洞試験により求

めた三分力と非定常空気力を用いたフラッタ解析には

限界があり,今回のような空気力が極めて小さい断面

では,非定常空気力の測定精度をより向上させるため

の特別な工夫が必要となる.

4)中央径間吊橋部の補剛桁にスプリッター板付きの二

箱桁を配置し,主ケーブルを外吊形式にしたハイブリ

ッド吊橋では連成フラッタの発生が80m/s以上となり,

超長大橋吊橋として十分な耐風安定性を有することが

確認できた.

なお本論文中の全橋模型による風洞実験結果の一部デ

ータは独立行政法人土木研究所,本州四国連絡高速道路

株式会社,財団法人海洋架橋・橋梁調査会,財団法人土

木研究センター,及び民間9社(石川島播磨重工業株式

会社,川崎重工業株式会社,川田工業株式会社,清水建

設株式会社,住友重機械工業株式会社,JFE エンジニア

リング株式会社,日立造船株式会社,三井造船株式会社,

三菱重工業株式会社)による共同研究「経済性を考慮し

た超長大橋の耐風設計法に関する研究」で得られたもの

を使用した.

参考文献

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2005.

16) 麓興一郎,村越潤,楠原栄樹,秦健作,風間浩二,尾立圭巳:

一箱/二箱併用斜張吊橋の桁形状と耐風応答特性,第60回年

次学術講演会講演概要集,土木学会,I-309,2005.

(2006.4.3 受付)

FUNDAMENTAL RESEARCH OF THE POSSIBILITY OF SUPER LONG SPAN SUSPENSION BRIDGE

Koichiro FUMOTO, Kensaku HATA and Shigeki KUSUHARA In order to realize super long span suspension bridges with longer main span than the Akashi-Kaikyo

Bridge, a bridge should economically be designed with excellently aerodynamic stability. To achieve our economic goals, a hybrid suspension bridge that combines suspension and cable-stayed systems has been focused. To improve aerodynamic properties, di-box-girders are applied in the center part of the main span of this hybrid suspension bridge. And narrow mono-box girders are applied near the towers to restrict the mass of the bridge. A hybrid suspension bridge with mono- and di-combined deck girders is proposed to improve aerodynamic stability and economy. The aerodynamic stability of the proposed bridge was investigated by conducting wind tunnel test. The test result shows the high possibility for the improvement of the aerodynamic stability.

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