はじめに、治験責任医師、治験分担医師が果たすべ...

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はじめに、治験責任医師、治験分担医師が果たすべき役割の大枠をとらえるために

・治験責任医師、治験分担医師とは

・治験責任医師の基本的な責務

について説明します。

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【重要ポイント】(GCPガイダンス第2条)

治験責任医師は実施医療機関での治験実施の責任者です。

治験責任医師は治験チームの統括者です。

治験分担医師は治験責任医師の指導・監督の下、治験に係る重要な業務の実施又は決定を行います。

ただし、全ての業務は治験責任医師の責任のもと実施されるという点に注意が必要です。

治験分担医師が実施できない主な業務をスライドに挙げています。

同意説明文書の作成・改訂、重篤な有害事象の報告などは治験責任医師のみが実施できる業務です。

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【重要ポイント】治験責任医師の基本的な責務として、大枠では以下の事項が規定されています(GCPガイダンスからの抜粋)。

・治験に関連する医療上のすべての判断に責任を負う(GCPガイダンス第45条第3・4項1)

・被験者の治験参加中及びその後を通じ、治験に関連して生じたすべての有害事象に対して、十分な医療を被験者に提供することを保証する(GCPガイダンス第45条第3・4項2)

・治験依頼者と合意した治験実施計画書を遵守する(GCPガイダンス第46条第1項1)

・治験分担医師やCRC等の治験協力者に治験に関する十分な情報を与え、指導及び監督する(GCPガイダンス第43条第2項1)

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治験責任医師及び治験分担医師の業務を時系列に沿って、記載しています。

同意説明文書の作成、組み入れ時の説明・同意、追加情報による再説明・再同意、有害事象・逸脱発生時の対応は、別スライドにて説明しています。

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治験責任医師の要件は、下記3点が定められています(GCPガイダンス第42条)

1.治験を適正に行うことができる十分な教育及び訓練を受け、十分な臨床経験を有すること

2.治験実施計画書、治験薬概要書及び治験薬の適切な使用方法に精通していること

3.治験を行うのに必要な時間的余裕を有すること

【重要ポイント】

「十分な教育及び訓練」とは、医師としての教育だけでなく、臨床試験及びGCPに精通していることが求

められるということです。治験責任医師は、治験の統括者かつ責任者ですので、すべての業務を理解した上で、治験を実施する義務があります。

「時間的余裕」とは、GCP等のトレーニングを受けること、スタートアップミーティングへの参加、IRBでの説

明、モニタリングの協力、各種治験手続き資料の作成、症例報告書の作成・最終確認を行う等の余裕があるということです。

これに加え、「合意された募集期間内に必要数の適格な被験者数を集めること」と記載されています。(GCPガイダンス第42条第5項)

以下の点を十分に検討した上で、治験依頼者と目標被験者数を合意して下さい。

治験実施計画書の内容(治療スケジュール、選択・除外基準等)を正しく理解した上で、実施可能な被験者数か

説明文書を用いて被験者に十分な同意説明を行った上で登録できる被験者数か

実績に基づいて集められる被験者数か

具体的根拠に基づいて算出した被験者数か

【目標被験者数に達しないと何が起こるか】

治験依頼者は申請に必要な被験者数を各実施医療機関から集めています。そのため、目標被験者数に達しない実施医療機関があると申請時期が遅れ、治験薬の承認の遅延に繋がります。また、目標被験者数の達成率は実施医療機関の実績として評価され、今後、治験の受諾が困難になる可能性があります。更に、進捗状況が悪い場合には、治験契約が解消される場合もあります。

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【履歴書は、なぜ必要か】

治験責任医師の要件を満たしていることを、過去の職歴や臨床経験等から証明するために履歴書を作成する必要があります。

J-GCPでは、IRBから特別に求めがあった場合を除き、治験分担医師の履歴書は不要です。一方、ICH-GCPでは、治験責任医師と同様に治験分担医師にも履歴書の提出

が義務付けられているため、国際共同試験等では治験分担医師の履歴書も必要になります。

最新の履歴書を2通作成し、治験依頼者と実施医療機関の長に提出します。

治験依頼者とIRBにて内容が確認されます。

なお、国際共同試験や、国内試験でもグローバルスタンダードに従う場合は、英語の履歴書も作成する必要があります。

<関連する治験119:質問番号:2008-35 治験分担医師の履歴書(その2)>

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【各部署の調整がうまくいかないとどうなるか】

人員の不足が生じると、治験スタッフの負担が増加し、業務のミスや逸脱を招く可能性が高くなります。

治験スタッフの負担を軽減するためにも、過不足のない適格な人員の確保が重要です。

【重要ポイント】

治験責任医師は治験チームを統括する治験実施の責任者です。

治験を実施するには、各治験スタッフに協力を仰ぎ、各自の役割分担を決め、各治験スタッフを指導することが求められます。

特に、一般臨床と治験の手順に相違がある点は、注意を払う必要があります。

各治験スタッフと手順を確認し、実施上の問題点等の抽出を行い、実施体制を確立して下さい。

役割分担する治験スタッフを決定したら、治験分担医師・治験協力者リストの作成が必要となります。次のページで説明します。

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【治験分担医師・治験協力者リストの作成】

治験責任医師は、適格な人員を十分な人数確保することが求められます。

そのため、治験責任医師は、治験業務の一部を治験分担医師又は治験協力者に分担させる場合、分担させる業務と分担させる者のリストを作成し、予め実施医療機関の長に提出し、その了承を受ける必要があります(GCPガイダンス第43条)。分担させる業務を明確にし、それを第三者が分かるよう

にリストとして記録することで、後から、どのような体制で治験を実施していたのかを確認することができます。

なお、治験分担医師は、IRBによる審査が必須のため、「実施医療機関の長による了承日」もしくは「

治験審査結果通知書」の通知日のいずれか遅い日からしか業務は開始できないことに注意が必要です。

【治験スタッフの指導・監督】

治験責任医師は、治験分担医師、治験協力者等に治験実施計画書、治験薬等及び各人の業務について十分な情報を与え、指導及び監督することが求められます。 これは治験実施計画書、治験薬概要書、症例報告書等が変更された場合にも同様です。

また、治験責任医師は、被験薬の品質、有効性及び安全性に関する事項その他の治験を適正に行うために必要な情報、被験薬について、当該被験薬の副作用によるものと疑われる疾病、障害又は死亡の発生等に該当する事項を知った際に通知した事項等、治験分担医師及び治験協力者に、各人の業務について十分な情報を与え、指導及び監督することが求められます。(GCPガイダンス第43条)

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【トレーニングの必要性】

治験の業務を十分に遂行するための要件を満たすためには、トレーニング等による、教育及び訓練が重要になります。また、治験依頼者、規制当局等の第三者に、教育、訓練及び経験が十分であることを証明するためには、トレーニング記録を作成し提示することが有用です。

なお、下記のように、GCPやFDAガイダンスでもトレーニングの必要性が規定されており、国内当局、海外当局共に実地調査の際には、治験実施に関与するスタッフがGCPや治験実施計画書等の適切なトレーニングを受けている記録が確認されます。

・GCPガイダンス第1条第2項(8)

「治験の実施に関与する者は、教育、訓練及び経験により、その業務を十分に遂行しうる要件を満たしていること。 」

・FDAガイダンス(FDA Guidance for Industry Investigator Responsibilities —Protecting the Rights, Safety, and Welfare of Study Subjects. October 2009)

「治験責任医師は各スタッフが役割に応じた適切なスポンサーのトレーニングを受けることを保証しなければならない。」

<関連する119:質問番号:2010-58 EDCトレーニング修了証の位置づけ>

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【重要ポイント】

合意するとは、治験実施計画書等の内容に合意し、治験実施計画書等を遵守することに合意したということです。必ず各資料内容を理解・熟知した上で合意して下さい。

合意をする前には、治験実施計画書案、最新の治験薬概要書、その他必要な資料・情報に基づき治験依頼者と協議し、治験実施の倫理的及び科学的妥当性を十分検討して下さい。これは治験実施計画書の改訂時も同様です。(GCPガイダンス第7条第4項、第5項)

【内容を熟知せずに合意すると】

試験開始後に治験実施計画書に思わぬ選択基準・除外基準が設定されていることに気付いて目標被験者数が達成できなかったり、逸脱が発生したり、手間のかかる治験手順が設定されていることに気付いて治験スタッフの確保が難しかったりという問題にも繋がります。

<関連する治験119:質問番号 2012-42 治験責任医師等の選定承認と治験実施計画書の合意の順序>

治験責任医師及び実施医療機関の選定については、「要件調査トレーニング(施設編)」参照。

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治験依頼時には下記の対応が必要です。

1.治験依頼者が実施医療機関の長への治験を依頼する時に必要な書類の提出

2.初回IRBへの出席、治験概要説明(通常、治験責任医師が実施)

3.審査結果の伝達

1.に関して、実施医療機関の申請手順に従い、治験依頼者が実施医療機関の長に治験を依頼します。治験の申請に当たり、治験責任医師は、履歴書、治験分担医師・治験協力者リスト、その他実施医療機関のSOPで規定されている書類を治験依頼者へ提出する必要があります。

2.に関して、初回IRB時に出席し、治験概要の説明を行い、質疑応答への対応を行います。ただし、実施医療機関によっては、治験責任医師が出席しない場合もあります。

3.に関して、審査結果を確認し、治験分担医師、治験協力者へ伝達して下さい。なお、IRBより修正指示があった場合は、治験依頼者と協議し再申請を行います。

●関連するGCPガイダンス(GCPガイダンス第29条第1項、GCPガイダンス第42条)

治験責任医師は、治験実施計画書や治験薬概要書の内容を十分理解していなければなりません。

治験責任医師は、当該治験に関して、IRBに情報を提供することはできますが、審議及び採決には参加できません。

<関連する治験119:質問番号 2009-51 治験審査委員会への異議申し立て>

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・IRBの審査が終了したら、「治験審査結果通知書」を入手し、IRBの審査結果及び実施医療機関の長からの指示・決定の内容を確認した上で保管して下さい。

・また、実施医療機関と治験依頼者が締結した治験契約書の内容を確認します。 この

際、治験責任医師の署名は必須ではありません。なお、契約変更時にも治験責任医師による治験契約書の確認は必要です。(GCPガイダンス第13条第1項)

・治験依頼者は、治験契約を締結する前に治験薬を実施医療機関に交付することはできないことになっています。(GCPガイダンス第11条)

<関連する治験119:質問番号:2013-12 目標とする被験者数の合意記録>

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【スタートアップミーティングとは】

スタートアップミーティングは、通常、治験責任医師が主催し、治験実施に当たっての実務的な内容を最終確認する場です。また、治験依頼者も同席するため、治験実施計画の最終確認や、診療中の患者さんの適格性を具体的に確認できる場です。

【重要ポイント】

スタートアップミーティングはトレーニングの場である:治験スタッフに対する治験実施計画書等のトレーニング実施記録として、治験依頼者がスタートアップミーティング参加者の署名を求める場合があります。

【スタートアップミーティングは、なぜ必要か】

スタートアップミーティングは下記の観点から必要なものです。

・治験意義の説明による治験スタッフのモチベーション向上:治験責任医師から実施医療機関スタッフに対し、治験実施の意義の説明及び協力を要請することで、治験実施に当たってのモチベーションの向上、チームワークの向上が期待できます。

・院内の役割分担、被験者登録・投薬等の具体的な手順、実施上の問題点等の確認:治験が円滑に進むよう、各自の役割、具体的な業務を確認し、問題点を抽出して解決して下さい。

<参考資料: CRCテキストブック第3版 P.180>

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【署名印影一覧表の作成は、なぜ必要か】

署名印影一覧表は、治験責任医師等が症例報告書の作成、変更又は修正を自ら行ったことを証するために、記名押印又は直筆の署名の真正性を補完するために必要な書類です。

紙の症例報告書が使用される場合は、署名印影一覧表の作成が必要です。

症例報告書に押印が必要な場合は、署名印影一覧に登録した印鑑しか使用できません。

一方、eCRF(電子CRF)のように手書きの署名ではなく電子署名が用いられる場合は、署名印

影一覧表の作成は原則不要です。なお、この場合には、別途、電子署名の信頼性を確保する手段を講じておく必要があります(下記治験119参照)。ただし、DCF(Data Clarification Form)が紙媒体で発行される等、紙面での対応が必要な場合は、署名印影一覧表の作成が必要になります。

【Site Delegation/Signature Logについて】

ICH-GCPに従う国際共同試験や、国内試験でもグローバルスタンダードに従う場合に要求されるSite Delegation/Signature Logは、「誰にどのような業務を分担させるかのリスト」+「署名印影一覧」 を兼ねたような書類です。ただし、J-GCPの治験分担医師・治験協力者リストと違い、Delegation logには治験薬管理者等も記載が必要な場合があります。

なお、“Log”とは、名簿やリストとは違い、事実を時系列で記録していくものであり、いつ誰によ

って記入されたか、時系列的に記入されたか、変更が加えられたか、ということが分かる文書です。よって、Delegation logは、治験期間中にスタッフの変更があった場合に書き足されていくものです。

<治験119:質問番号 2010-52 電子CRF利用治験における署名印影一覧の必要性>

<参考資料:グローバル治験と国内治験の徹底比較と海外当局査察>

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【被験者登録に関する文書の作成は、なぜ必要か】

被験者登録に関する文書の作成は、GCPに定められている治験責任医師が作成すべき「治験に係る文書」です。

被験者登録に関する文書は、4種類あります。

・被験者スクリーニング名簿とは、「治験へ組み入れるために、スクリーニングを実施した被験者の名簿」のことです。

ただし、治験実施計画書によって運用が異なる場合があり、同意取得した被験者全てを記載する場合などもあります。

・被験者登録名簿とは、「被験者の組み入れに際し、経時的に番号を付したことを示す文書」のことです。

・被験者識別コードのリストとは、「被験者の識別に用いた被験者識別コードリスト」のことです。

・治験を終了又は中止・中断した識別コードのリストとは、「追跡調査が必要な時、治験に組み入れられた全ての被験者を特定できるようにしたリスト」のことです。

これらは、特に様式は定められていません。また、必ずしも別々に作成する必要は無く、1枚の様式で兼ねることも可能です。試験ごとで運用が異なる場合があります。

【参考】被験者識別コードとは、個々の被験者の身元に関する秘密を保護するため、治験責任医師が各被験者に割付けた固有の識別番号で、治験責任医師が有害事象及びその他の治験関連データを報告する際に、被験者の氏名、身元が特定できる番号及び住所等の代わりに用いるもの。基本的に症例報告書や、重篤有害事象の報告などには、この識別コードを用いて被験者を特定することになります。

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【被験者の適格性の確認は、なぜ必要か】

適格な被験者を選定することは、治験責任医師及び治験分担医師の責務です。(GCPガイダンス第44条)人権保護の観点から、以下の点を考慮し、治験に参加を求めることの適否を慎重に検討する必要があります。

・倫理的及び科学的観点から治験の目的に応じ、健康状態、症状、年齢、同意能力等を十分に考慮する。

・同意能力を欠く者は、治験の目的上やむを得ない場合を除き、原則として被験者としない。

・「社会的に弱い立場にある者*」を選定する場合、自発的な同意が得られるよう十分配慮する。

・被験者の適格性確認の際は、治験実施計画書の選択基準・除外基準を遵守する必要がある。

なお、選択基準・除外基準について確認した内容は、診療記録に記載する必要があります。第三者には、「記録がないことは実施していないこと」と見なされてしまいます。

【重要ポイント】

選択基準・除外基準は「医薬品が臨床の場で広く使われるようになったときに、その特性に基づき有効に、安全に使われるよう設定されたもの」です。

よって、単に基準に照らし合わせるだけでなく、設定根拠を十分理解した上で適格性を確認し、治験実施計画書を遵守して被験者を選定して下さい。

もし基準に合致しない被験者を登録してしまうと、被験者を危険にさらしてしまうことになり、治験のデータとしても使用されない場合があります。十分に注意して下さい。

*社会的に弱い立場にある者・・・参加に伴う利益又は参加拒否による上位者の報復を予想することにより、治験への自発的参加の意思が不当に影響を受ける可能性のある個人。例えば、階層構造を有するグループの構成員としての医・歯学生、薬学生、看護学生、病院及び検査機関の下位の職員、製薬企業従業員並びに被拘禁者等がある。その他の例として、不治の病に罹患している患者、養護施設収容者、失業者又は貧困者、緊急状態にある患者、少数民族集団、ホームレス、放浪者、難民、未成年及び治験参加の同意を表明する能力のない者が挙げられる。

<関連する治験119:質問番号 2007-09 生活保護受給者の治験参加に対する治験審査委員会での審査>

<参考資料:CRCテキストブック第3版 P.182~185>

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【被験者登録が、なぜ重要か】

特に割付因子がある試験では、割付因子に関わる記入/入力を誤ると、被験者が誤っ

た群に割付けられてしまいます。その場合、誤った群に割付けられた被験者のデータは、治験データとして使われないことがあり、治験データの信頼性に影響します。

そのため、被験者登録手続きは慎重に行う必要があります。

・被験者登録の手続きは一般的に、図のような手順で行われます。

・登録票(場合によってはIVRS/IWRS*等を使用)は慎重に記入/入力して下さい。→IVRS/IWRSについてはIVRS/IWRSの項参照。

・被験者登録の際は、事前に登録センターの稼働日(IVRS/IWRSを用いて登録する試験ではシステム稼働日)を確認して下さい。

特に年末年始・GWなどは稼動していない場合があるため注意が必要です。また、IVRS/IWRSのサーバーが海外にある場合は、サーバーメンテナンスが日本の日中に行われることもあるため、事前に確認して下さい。

なお、被験者が来院できない日や、実施医療機関の対応が難しい時期を考慮して、登録日を調整することも検討して下さい。

*IVRS/IWRS:Interactive Voice/Web Response System (音声自動応答システム/Web登録システム)といい、電話又はインターネットを介して対話応答するデータベースシステムのこと。治験依頼者が、進捗や施設への治験薬搬入時期・数量を把握するためなどに利用されます。

<参考資料:CRCテキストブック第3版 P.198>

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【受診スケジュールの管理が、なぜ重要か】

・被験者が来院せずに必須検査の欠測等が続くと、被験者を危険にさらす可能性があり、治験データとして使えなくなることがあるため、被験者の治験に対する協力を無駄にしてしまうおそれがあります。

・必要なデータを収集できないため治験の品質が低下してしまいます。

・治験で実施すべき検査、問診等のスケジュールは治験実施計画書に規定されているため、それらを熟知する必要があります。

・治験実施計画書に設定されている来院許容範囲も熟知し、被験者や実施医療機関スタッフの都合に合わせて来院計画を立てて下さい。

また、来院がずれた場合の次の来院日の考え方についても試験ごとで運用が異なるため、確認して下さい。

・来院忘れが起こらないためにも、被験者に来院スケジュールを分かりやすく説明し、来院漏れ等が起こらないように十分説明して下さい。

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治験で実施すべき検査項目は治験実施計画書に規定されているため、それらを熟知する必要があります。

【注意が必要なポイント】

・院内測定、中央測定の区別に注意が必要です。中央で測定すべき項目を院内のみで測定してしまった場合でも治験実施計画書からの逸脱となります。

・検査の手順ですが、特にPK用採血などは、「治験薬投与数分後に採血する」など細かく規定されていることが多いため、注意が必要です。

・画像検査は、通常診療での撮像条件と治験実施計画書で規定されている条件が異なる場合があるため、十分注意して下さい。

・治験データの信頼性を保証するために、治験の検査に使用する機器は精度管理が保証されている必要があります。

また、治験中は同一の機器で検査することが望ましく、試験によっては同一の機器で検査することが規定されているものもあります。

<関連する治験119:質問番号 2011-34 検査機関における精度管理等を保証する記録>

<関連する治験119:質問番号 2012-01 検査機関における精度管理等を保証する記録>

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【判断記録を残すことは、なぜ必要か】タイムリーな記録の残し方は、「9 原資料の作成」のトレーニング資料を参照下さい。

原資料記録に際しては、ALCOA原則に従うことが求められており、A(Attributable:帰属/責任の所在が明確である)、C(Contemporaneous:同時である)を満たすため

に、検査結果が得られたら内容を確認し、治験継続の可否の判断、再検査や追跡検査の必要性等を医学的に判断し、「誰が」、「いつ」、「何を」判断したのかを「タイムリーに」原資料に記録する必要があります。

また、結果が異常値等であった場合、有害事象と考えられるか否か等もタイムリーに判断し、記録する必要があります。

22

予測できない有害事象により、体調が急変する可能性があります。

そのため、被験者の安全性を確保するために、夜間や休日等の緊急連絡先を被験者に説明して下さい。

【重要ポイント】

夜間や休日などに体調が変化し、緊急で受診しなければならないような場合でも、被験者が治験参加中であることを対応する医師に伝える必要があります。

そのために、救急部などの院内の関連部署への日頃からの情報提供が重要です。

また、被験者に治験参加カードを常に携帯いただいたり、診療記録にアクセスした際に治験参加中であることが分かるようにして下さい。

一方、事象が重篤な有害事象に該当する場合は、治験依頼者へ速やかに報告する必要があります。

こちらについても関連部署への協力を仰ぐことが重要です。

<参考資料:CRCテキストブック第3版 P.195>

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【治験相談窓口が、なぜ重要か】

治験は通常の治療と違い、被験者に守っていただかなければならないことが多いため、被験者は何をしてはだめなのか、何をしてもよいのか、不安なことがあると思われます。

また、治験薬の有効性及び安全性は、完全には明らかとなっていないため、効果や副作用について不安なことがあると思われます。

不安を解消するためにも、あらかじめ被験者と相談方法を協議し、何かあれば早めに連絡するよう説明して下さい。

<参考資料:CRCテキストブック第3版 P.196>

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【併用薬等の確認は、なぜ必要か】

医薬品等との相互作用等による「被験者の健康被害を防ぐため」です。(GCPガイダンス第45条)

そのため、治験中に受診する他院・他科で処方された併用薬/処置を確認することも必

要です。お薬手帳や他院への情報提供依頼書等を利用し、必ず情報を入手して下さい。治験期間中に使用できる薬剤/療法であるかの確認が必要になります。

多くの治験実施計画書では、併用禁止・制限薬、併用禁止・制限療法等を規定しています。

これは、他の薬剤等との相互作用により、副作用が強く発現する場合があること(被験者の安全性確保)や、有効性・安全性評価への影響を回避するためです。

併用禁止薬等の種類を把握することに加え、併用禁止期間等も確認して下さい。

治験薬投与期間中のみ禁止しているものや、経過観察期間も含め禁止しているもの等があります。

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【他院・他科の受診の際の主治医への連絡は、なぜ必要か】(GCPガイダンス第45条第2項)

前頁での説明のとおり、併用薬が「治験で使用できる薬剤であるか等の確認」が必要です。

被験者が治験中に受診する他院の情報は被験者自身しか知り得ないため、自己申告の重要性を十分に説明し、被験者から漏れのない申告が得られるようにして下さい。

また、治験開始時のみならず、治験中も自己申告が得られるようにして下さい。

他院・他科の医師が、知らずに併用禁止薬等を処方することが無いよう、連絡を徹底して下さい。

この連絡には被験者の同意が必要です。同意説明文書中に本内容を盛り込むことが多いです。

他院・他科の医師がやむを得ず併用禁止薬を使用する場合は、必ず連絡してもらうことなどを伝達して下さい。

他科・他院への治験参加を伝えるためのレターや治験参加カード(治験の概要と併用薬の規定を記載したもの)の使用をお勧めします。

<関連する治験119:質問番号 2012-36 他の主治医(他院)への治験参加の連絡>

<関連する治験119:質問番号 2013-40 治験参加カードと他の実施医療機関への情報提供>

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【患者日誌は、なぜ必要か】

服薬状況や症状の変化を詳細に把握するために必要です。

治験薬の評価が日誌により左右される可能性があるため、日誌は適切に作成する必要があります。

被験者に日誌の意義、治験の評価がこの日誌により左右される可能性があることを説明し、理解を得て下さい。

記載方法には、被験者が正しく理解できるよう、漏れなく記載できるよう説明して下さい。

なお、日誌に関して被験者から問い合わせがあった場合の対応だけでなく、記載状況や記載上の疑問点を確認することが望ましいです。

【重要ポイント】

記載漏れにより服薬状況を忘れた場合などでも、記録の改ざん・捏造は絶対にしてはいけません。

記録の改ざん・捏造が一つでも発覚すると、該当データのみならず当該実施医療機関で得られた全てのデータの信頼性が疑われることになり、最悪の場合、当該実施医療機関で実施された治験データが全て使えなくなることもあります。

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【服薬方法を遵守させることが、なぜ重要か】

治験実施計画書に規定された用法用量に従い、服薬させることは、被験者の安全性確保、有効性を正しく評価するために重要です。

服薬率が低い場合は、治験を継続できない又は治験の解析対象から除外されることがあります。

・未使用の治験薬は廃棄せずに返却するよう、服用方法の説明の際に被験者へ伝えて下さい。

【重要ポイント】

服薬を遵守させるために、治験開始前、治験実施中の服薬指導が必要です。服薬しないことによるリスクも十分説明して下さい。

また、コンプライアンスが低い被験者には、電話等による服薬管理を行うなど、治験への参加意識を高めることも重要です。

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【治験実施状況報告書は、なぜ必要か】(GCPガイダンス第48条)

治験の進捗状況、実施状況をIRBに報告する必要があります。

治験の実施が1年を超える場合、1年に1回又は治験審査委員会等の求めに応じてそれ以上、治験を継続することの適否について継続審査を受ける必要があります。

「治験実施状況報告書」を作成し、実施医療機関の長に提出して下さい。

治験実施状況報告書には下記のような項目を記載します。

同意取得被験者数、実施被験者数、安全性、GCP遵守状況、その他(中止した被験者の中止理由など)

<関連する治験119:質問番号 2008-12 継続審査時期の起算日>

<関連する治験119:質問番号 2010-16 治験終了間際での継続審査の要否>

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治験が何らかの理由で中止又は中断された場合には、被験者に速やかに連絡し、被験者と相談しながら適切な治療を行います。(GCPガイダンス第49条)

【重要ポイント】

被験者から治験の参加を取り止めたいと申し出があった場合、被験者が不利な扱いを受けないよう留意し、治療を提供して下さい。(GCPガイダンス第45条 第3・4項)

また、被験者は参加を取り止めた理由を明らかにする必要はありませんが、被験者の権利を十分に尊重した上で、参加を取り止める理由を確認するために適切な聞き取りを行って下さい。

<関連する治験119:質問番号 2013-15 同意撤回時の治験中止手順>

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【治験進捗状況の管理は、なぜ必要か】

各治験実施医療機関での登録進捗状況は、当該治験が目標期限内で終了できるか否かが「カギ」となります。

治験の進捗を常に把握して下さい。

ある実施医療機関で目標被験者数に達しないと、当該治験の期間が延長することによって承認時期が遅延したり、国際共同治験では当該治験で評価される日本人のデータ量が少なくなったりする可能性があります。

当初の見通しからずれが生じている場合は、それを埋めるアクションプランを試験ごとに立てることが望まれます。

もし目標とする被験者数を達成することが難しい場合は、その旨を治験依頼者に報告して下さい。

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治験依頼者から安全性情報(副作用情報)を入手したら、以下の3点を検討し、見解を治験依頼者へ伝えます。(GCPガイダンス第20条、第54条)また、副作用情報の内容を治験分担医師、治験協力者に連絡します。

I. 治験を継続して実施することは可能か

II. 被験者の意思に影響を与えるか

III. 同意説明文書の改訂は必要か

(1) 治験を継続して実施することの可否を判断し、その見解を治験依頼者へ報告します。そして、

(2) 被験者の意思に影響を与えると判断した場合は、直ちに被験者へ情報を伝達し、治験参加継続の意思を確認します。その結果を原資料に記録して下さい。 その上でさらに、

(3) 同意説明文書の改訂が必要と判断した場合は、速やかに改訂し、IRBで承認を受けた後、治験中の被験者から再同意を取得します。

【参考(GCPガイダンス第20条)】

副作用報告には「個別報告」と「定期報告」の2種類があります。

・個別報告:治験依頼者が当該被験薬の未知重篤副作用等(未知とは治験薬概要書から予測できないもの)を知ったときは、直ちに治験責任医師及び実施医療機関の長に通知する。

・定期報告:治験依頼者は、未知または既知の重篤副作用等の発現症例一覧等を、当該被験薬について初めて治験の計画を届け出た日等から起算して1年ごとに、その収集期間の満了後3ヵ月以内に治験責任医師及び実施医療機関の長に通知する。

<関連する治験119:質問番号 (8) 治験依頼者による安全性情報提供の終了時期(その1)>

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【重要ポイント】

被験者の最善の利益を図りうる者を代諾者として選ぶ。

代諾者にも説明し、文書同意を得る。可能な限り被験者本人からも文書同意を取得する。

◆ 文書による説明と同意の取得(GCPガイダンス第50条第2,3項)参照

当該治験の目的上、同意能力を欠く者(例えば、未成年者や重度の認知症患者)を対象とした治験を実施することがやむを得ない場合には、治験責任医師は代諾者に対して説明文書を用いて十分説明し、代諾者から治験への参加について文書による同意を得なければなりません。なお、可能であれば、被験者の理解力に応じて説明を行い、被験者からも文書による同意を得ることが望まれます。

GCPにおいて「代諾者」とは、親権者、配偶者、後見人等で、被験者の最善の利益を図りうる者と定義されています。

<関連する治験119:質問番号 (4) 代諾者の範囲>

<関連する治験119:質問番号 2013-32 代諾者の範囲(その2)>

<関連する治験119:質問番号 2013-36 「法的な保護者」であることの確認>

<関連する治験119:質問番号 2010-04 代諾者による同意文書への署名(記名・捺印)と日付の記入>

<関連する治験119:質問番号 2007-19 代諾者がいる場合の再同意の取得相手>

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【重要ポイント】

当該治験から独立した者を公正な立会人として選ぶ。

公正な立会人の立会いの下、被験者に説明し、文書同意を得る。

公正な立会人も同意取得が適切になされたことを担保するために同意文書へ日付を記載し、記名押印又は署名する。

◆ 同意文書等への署名等(GCPガイダンス第52条第3,4項)参照

口頭等により説明文書の内容を理解することはできるが、説明文書を読むことができない者(例えば、視力障害を有する者等)を被験者とする場合には,説明に際して「公正な立会人」が必要となります。この場合は、被験者に加え、立会人も同意文書へ記名押印又は署名しなければなりません。なお、治験責任医師や治験協力者等は説明をする側に位置する者であるため、公正な立会人としては適当ではありません。

<関連する治験119:質問番号 2004-13 「公正な立会人」の条件>

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【重要ポイント】

緊急状況下では、被験者から事前に同意を得ることができません。

そのため、被験者の不利益を最小限にするために、下記①~⑤を満たしていることを確認して下さい。

なお、治験実施後は被験者(もしくは被験者が不可能な場合は代諾者)に詳細を説明し、治験継続可否を説明し、継続の場合は文書同意を取得して下さい。

また、治験実施の経過と結果をIRBに報告して下さい。

◆ 緊急状況下における救命的治験(GCP第55条)参照

治験責任医師は、緊急状況下での救命的治験であり、被験者から治験参加の同意が事前に得られない場合、下記5項目を全て満たす場合に限り、被験者を当該治験に参加させることができます。(治験実施計画書で規定している場合)

①緊急かつ明白な生命の危険がある

②現存する治療方法では効果が不十分

③当該治験薬により生命の危険を回避できる可能性が十分にある

④予測される被験者への不利益が最小限である

⑤代諾者と直ちに連絡がとれない

<関連する治験119:質問番号 2010-41 身元が明らかでない者の治験への組入れ>

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【割付コード開封の手順を遵守することが、なぜ重要か】

盲検性を確保することは、試験の信頼性に大きく関わる事項です。

やむを得ず割付コードを開封する場合は、必ず治験実施計画書の手順を遵守して下さい。

また、開封後は速やかに治験依頼者に連絡し、開封した事実と理由を文書に記録し、提出して下さい。

●GCPガイダンス第46条第5項

治験責任医師は、無作為割付の手順が規定されている場合はこれに従い、治験薬割付記号が治験実施計画書を遵守した方法でのみ開封されることを保証すること。盲検法による治験において予め定められた時期よりも早い段階での開封(事故による開封、重篤な有害事象のための開封など)を行った時は、治験責任医師はこれをその理由とともに速やかに文書に記録し、治験依頼者による治験においては治験依頼者に提出し、自ら治験を実施する者による治験においては自ら治験を実施する者が保存すること。

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【原資料との矛盾を説明した記録とは】

症例報告書の記載内容と原資料とが矛盾する場合に、その理由を説明した文書のこと

治験実施計画書ごとに運用が異なる場合がありますので、確認して下さい。

<関連する治験119:質問番号 2010-03 「原資料と症例報告書の矛盾を説明した記録」が必要となる場合>

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治験の終了にあたっては、下記事項について確認します。

□症例報告書を作成し、治験依頼者へ提出していること

□有害事象が発現した場合は、その記録・報告等の手続が行われていること

□治験実施計画書からの逸脱の有無

□治験実施計画書からの逸脱がある場合、すべて記録していること

□治験中の被験者の検査代等の費用が適切に支払われていること

□被験者に対する負担軽減費が適切に支払われていること

□被験者のデータが診療記録等の原資料に記載されていること

□診療記録等の被験者の原データと治験依頼者に提出した症例報告書との照合(直接閲覧)が終了していること

□被験者が作成する資材(患者日記等)が回収されていること

□被験者に対する未使用治験薬の有無

□未使用の治験薬があった場合は回収されていること

□治験を中止・中断した場合は、終了報告書に当該中止・中断が記載されていること

上記確認の上、治験終了報告書を作成し、治験結果の概要を記載した文書を添付して実施医療機関の長へ提出して下さい。(GCPガイダンス第49条第3項)

<関連する治験119:質問番号 2007-22 治験終了報告書の提出時期>

<参考資料:治験責任医師のための治験実施チェックリスト 平成24年4月版 日本製薬工業協会>

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CRCは主に治験責任医師、治験分担医師へのサポート、治験依頼者へのサポート、被験者のケアを行います。

契約内容等により、CRCがサポートする内容は異なります。治験開始前に業務分担範囲を明確にしておく必要があります。

なお、CRC業務の詳細は、CRCのトレーニングをご参照下さい。

<関連する治験119:質問番号 2004-11 治験協力者として指名された医師の業務範囲>

<関連する治験119:質問番号 2010-35 CRCによる治験薬管理表の記載>

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治験を実施する上で、治験責任医師が作成、確認しなければならない文書の一覧です。確認した証として署名が求められる文書もあります。

治験責任医師が作成しなければならない、確認しなければならない文書を把握して下さい。

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治験を実施する上で、治験責任医師が作成、確認しなければならない文書の一覧です。確認した証として署名が求められる文書もあります。

治験責任医師が作成しなければならない、確認しなければならない文書を把握して下さい。

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これから示すスライドは、治験責任医師が治験責任医師の業務を理解していないために生じる事例です。

責任は治験依頼者ではなく治験責任医師にあるので注意して下さい。

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治験責任医師が果たすべき役割を理解していないことで、本スライドのような事例が発生することがありますが、これは治験責任医師の責任です。

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治験責任医師が果たすべき役割を理解していないことで、本スライドのような事例が発生することがありますが、これは治験責任医師の責任です。

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