建設コスト縮減を目的とした新粗石コンクリート...

3
1CSGCemented Sand and GravelINSEMIN-situ Stabilized Exca-vated Material調NRFCNew Rock Filled Concreate2使3CSGINSEM建設コスト縮減を目的とした新粗石コンクリート (NEW ROCK FILLED CONCREATE) による砂防堰堤の構築 岩田地崎建設株式会社 技術部 須藤 敦史 写真 1  粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その①) 70 土地改良 293号 2016.4

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Page 1: 建設コスト縮減を目的とした新粗石コンクリート …dokaikyo.or.jp/kaishi_new/293t_11.pdf70 土地改良 293号 2016.4 ている。 多い粗石・巨石(礫)は活用し得ないものとなっ

結果になったものと考えられる。

3・3 アルカリ骨材反応

 

図6には、反応性骨材を用いた供試体を作製後、

アルカリ骨材反応を促進させた供試体の膨張ひず

みの経時変化を示す。セメントモルタル(OP)は、

材齢七日から急激にひずみが増加し、材齢約一四

日で写真2に示すようにアルカリ骨材反応による

亀甲状のひびわれが発生

している。一方、ジオポ

リマーモルタル(GP1

およびGP2)は、セメ

ントモルタル(OP)のよ

うな急激なひずみの増加

は発生しておらず、また

写真2に示すように、ひ

び割れも発生していない。

 

以上より、今回の試験

条件の範囲では、ジオポ

リマーモルタル(OP)

は、アルカリ骨材反応が

発生しない材料であることが分かる。

4

施工事例

 

ジオポリマーの施工実績は、試験施工を含めて

現在までに四件ある。ここでは、一例としてジオ

ポリマーの耐酸性を期待して施工されたものを紹

介する。施工場所では、酸によるコンクリートの

劣化が激しく、耐酸性に優れた材料が望まれてい

た。採用されたジオポリマー製品は、写真3に示

すJIS

A

5371の境界ブロックであり、施

工本数は六一本(切り下げ一本を含む)である。

施工後の状況を写真4に示す。

5

結び

 

ジオポリマーは、二酸化炭素排出量を削減でき

る自然に優しい材料であるとともに、セメントコ

ンクリートにはない多くの特長を持っている。こ

こでは紹介できなかったが、これまでに、ジオポ

リマーは耐火性能に優れていることや、セシウム

を固定化する特性があること等を確認している。

 

また、ジオポリマーの材料として、フライアッ

シュや高炉スラグ微粉末の代わりに「もみ殻灰」

を適用した研究も報告されている。「もみ殻灰」

はもみ殻の焼き方によって大きく特性が異なる。

「もみ殻灰」を用いる場合は、どのような焼き方

がジオポリマーに適しているかを検討することが

重要であると考えている。

 

最後に、ジオポリマーが今後の土地改良事業に

おける「管理された自然」の基盤構築の一助にな

れば幸いである。

写真 2 表面ひび割れの発生状況の比較 (上からOP,GP1,GP2)

図 6 膨張ひずみの経時変化写真 3 ジオポリマー製ブロック

写真 4 施工後の状況

OP

GP1

GP2

ひび割れ

ジオポリマー

技 術 紹 介

技 術 紹 介

1

技術の背景

 

近年、地球環境保護や環境負荷の低減を背景に

して、建設現場においても省エネルギー・省資源

に対する気運が高まっている。

 

このような状況下、建設コストの縮減として、

掘削土など現地発生材や河床材料を積極的に利用

して砂防構造物を構築する工法の開発が行われて

いる。

 

一般的に砂防工事では、残土処分場までの運搬

距離が長くなる場合が多く、加えて運搬費用もか

さむことから、発生土の有効活用が急務になって

おり、砂防CSG(Cem

ented Sand and Gravel

工法、INSEM(IN

-situ Stabilized Exca-

vated Material

)工法などの開発が積概的に進

められてきた。

 

しかし、これらの工法では、ある程度の粒径調

整(一般的に礫径八〇㎜以下)をした発生材ある

いは河床材を用いるため、大径の河床材もしくは

サイトの掘削などにより発生する大きな岩塊の処

理や活用については依然として課題となっている。

 

そこで、大きな粒径材(粗石)を積み上げ、そ

の間隙に高流動コンクリートを充填することによ

り、構造体を築造する新な粗石コンクリート工法

(NRFC

:New

Rock Filled Concreate

)が開発さ

れ、砂防構造物の構築が行われている。

2

粗石コンクリートの概要

 

練石積の粗石コンクリートによる構造物は、大

正初期から昭和三十年代後半まで、全国各地で多

数構築されてきている。従来の練石積による粗石

コンクリートは、表面の練石を一段(概ね三〇㎝)

積んでから、粗石を内部に配置して、間隙内部に

コンクリートを充填する方法が採用されていた。

特に昭和二十年代頃まではバイブレータが普及し

ていないため、内部コンクリートの締固めには突

き棒が多く使用されている。

3

新粗石コンクリートの特徴

 

砂防CSG工法やINSEM工法は現地発生材

を有効利用するが、一般に礫粒径八〇㎜以下の発

生材料を用いるため、河床材料など八〇㎜以上が

建設コスト縮減を目的とした新粗石コンクリート(NEW ROCK FILLED CONCREATE)による砂防堰堤の構築

岩田地崎建設株式会社技術部 須藤 敦史

写真 1 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その①)

70 土地改良 293号 2016.4●

Page 2: 建設コスト縮減を目的とした新粗石コンクリート …dokaikyo.or.jp/kaishi_new/293t_11.pdf70 土地改良 293号 2016.4 ている。 多い粗石・巨石(礫)は活用し得ないものとなっ

多い粗石・巨石(礫)は活用し得ないものとなっ

ている。

 

また、特殊な高流動コンクリートを使用するこ

とによる堤体の発熱などの検討事項があるが、以

下に新粗石コンクリートの特徴を示す。

① 

建設残土発生量の低減(環境負荷の低減)

② 

一般的な建設機械で施工(施工向上と汎用性)

③ 

コンクリート量の低減(コスト縮減)

4

新粗石コンクリートによる構造物の施工

 

新粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工手順

を以下に示す。

ⅰ堤体の基礎掘削などの残土から、粗石(φ

八〇㎜〜五〇〇㎜)を採取して一時仮置きを行

い、そののちに粒径別にストックヤードに運

搬・貯蔵する。(写真その①上段・中段)

 

次に、所定の強度・比重・粒径粗石の選別と並

行して、堤体には粗石投入箇所(打設区画)の区

画を作成する。(写真その①下段)

ⅱ粗石の表面を洗浄し、重量を測定して打設区画

に投入する。(写真その②上段)

 

次に、区画に投入された粗石を重機と人力にて

打設区画に体積比:五〇%になるように敷きなら

す。(写真その②中段)

 

最後に粗石間隙の充填状況をハイスコープによ

り確認をしながら高流動の充填コンクリートの打

設を行う。(写真その②下段)

 

充填コンクリートは基本的に締固め作業を行わ

ないため、自己充填機能を必要とする。ここでは

高性能減水剤を使用して流動性を高めた高流動コ

ンクリートを使用しており、一般のコンクリート

におけるスランプ管理ではなく、フロー値によっ

て品質管理を実施している(配合表1参照)。

ⅲ高流動コンクリートの打設終了の後、ブリージ

ング処理・散水養生を行う。(写真その③上段)

 

写真その③中段には、新粗石コンクリートの出

来型および充填の確認(φ三〇〇㎜コア抜き)状

況を示す。堤体より抜き出したコアから、高流動

コンクリートは満遍なく間隙に行き渡り、未充填

箇所は見られなかった。

 

最後に堤体の上・下流部に、通常のダムコンク

リートによる保護コンクリートを打設して砂防堰

堤の築造が終了する(写真4参照)。

5

新粗石コンクリートの発熱特性

 

新粗石コンクリートは、多様な粒径の粗石・岩

塊を用い、セメント量が一般のコンクリートより

多い高流動コンクリートで充填するため、砂防堰

堤などのマスコンクリートの築造において、温度

応力や温度ひび割れ発生が懸念されるが、実際の

発熱特性やその解析方法などが解明されていない。

 

そこで今回は、新粗石コンクリートの発熱特性

の一部を明らかにし、同時に発熱を正確に再現す

表 1 高流動(充填)コンクリート配合表

単位量(kg/m3) W/C(%)

S/s(%)C:セメント W:水 S:細骨材 G:粗骨材 AE剤

高流動 480 165 902 812 1.0% 34.4 53.0

写真 2 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その②)

写真 3 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その③)

技 術 紹 介

る手法の検討を行なっている。

⑴ 新粗石コンクリートの発熱逆解析

 

一般にマスコンクリートの発熱解析を行なうに

は、セメントや骨材など数多くの発熱に関するパ

ラメータの決定(入力)をしなければならないが、

物理定数や入力境界条件には不確実性が多く、現

場計測と数値解析の結果が異なる場合が多い。そ

こで有限要素法に拡張カルマンフィルタを適用し

た逆解析(観測値から入力パラメータを同定し、

それらを用いてその後の発熱挙動予測を実施)に

よって、これらの問題の解決を試みた。

 

ここで検討に用いた新粗石(高流動)コンクリー

トの逆解析(有限要素法:FEM)モデルを図1

に示す。

⑵ 新粗石コンクリートの発熱現象の再現

 

逆解析により得られた発熱に関する係数を用い

て、新粗石(高流動)コンクリートの発熱(温度

分布)を再現した図2に示す。

 

図2に示した逆解析値を用いた発熱温度の再現

値は、実際の砂防堰堤において観測された粗石(高

流動)コンクリートの中心部における発熱温度(約

三二℃)および表面の温度変動(外気温の影響)

とほぼ同じ値を示しており、逆解析により粗石コ

ンクリートにおける発熱に関する係数が正確に求

められたといえる。

 

砂防堰堤における逆解析および再現解析により、

以下に示す新粗石(高流動)コンクリートの発熱

現象の特徴が得られた。

①新粗石(高流動)コンクリートの発熱温度は、

セメントの発熱が粗石に吸収されるため理論

値よりも低くなり、粗石(体積比:五〇%)率

に依存する。

②発熱初期では、粗石にセメントの発熱が吸収さ

れるため遅く立ち上がり、発熱後期では粗石や

境界条件の影響を受けるため温度降下が早く

なる傾向を示した。

6

結び

 

今回は、大きな粒径材(粗石)を積み上げ、そ

の間隙に高流動コンクリートを充填することによ

り、構造体を築造する新粗石コンクリート工法に

よる砂防構造物の構築を紹介した。今後、建設現

場においても省エネルギー・省資源が進み、さら

に建設現場における活用が多くなると考えられる

ため、今後も構造物における省力化技術の開発に

取り組んでゆきたいと考えている。

参考文献

 

須籐敦史、笈川利夫、遠田康英、砂防ダムにおける新

粗石コンクリートの発熱特性に関する研究、ダム工学会

第二三回ダム工学会研究発表会、pp.1-4, 2011.11

写真 4 砂防堰堤の全景

図 1 FEM解析モデル図 2 粗石コンクリーの発熱状況

71土地改良 293号 2016.4 ●

Page 3: 建設コスト縮減を目的とした新粗石コンクリート …dokaikyo.or.jp/kaishi_new/293t_11.pdf70 土地改良 293号 2016.4 ている。 多い粗石・巨石(礫)は活用し得ないものとなっ

多い粗石・巨石(礫)は活用し得ないものとなっ

ている。

 

また、特殊な高流動コンクリートを使用するこ

とによる堤体の発熱などの検討事項があるが、以

下に新粗石コンクリートの特徴を示す。

① 

建設残土発生量の低減(環境負荷の低減)

② 

一般的な建設機械で施工(施工向上と汎用性)

③ 

コンクリート量の低減(コスト縮減)

4

新粗石コンクリートによる構造物の施工

 

新粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工手順

を以下に示す。

ⅰ堤体の基礎掘削などの残土から、粗石(φ

八〇㎜〜五〇〇㎜)を採取して一時仮置きを行

い、そののちに粒径別にストックヤードに運

搬・貯蔵する。(写真その①上段・中段)

 

次に、所定の強度・比重・粒径粗石の選別と並

行して、堤体には粗石投入箇所(打設区画)の区

画を作成する。(写真その①下段)

ⅱ粗石の表面を洗浄し、重量を測定して打設区画

に投入する。(写真その②上段)

 

次に、区画に投入された粗石を重機と人力にて

打設区画に体積比:五〇%になるように敷きなら

す。(写真その②中段)

 

最後に粗石間隙の充填状況をハイスコープによ

り確認をしながら高流動の充填コンクリートの打

設を行う。(写真その②下段)

 

充填コンクリートは基本的に締固め作業を行わ

ないため、自己充填機能を必要とする。ここでは

高性能減水剤を使用して流動性を高めた高流動コ

ンクリートを使用しており、一般のコンクリート

におけるスランプ管理ではなく、フロー値によっ

て品質管理を実施している(配合表1参照)。

ⅲ高流動コンクリートの打設終了の後、ブリージ

ング処理・散水養生を行う。(写真その③上段)

 

写真その③中段には、新粗石コンクリートの出

来型および充填の確認(φ三〇〇㎜コア抜き)状

況を示す。堤体より抜き出したコアから、高流動

コンクリートは満遍なく間隙に行き渡り、未充填

箇所は見られなかった。

 

最後に堤体の上・下流部に、通常のダムコンク

リートによる保護コンクリートを打設して砂防堰

堤の築造が終了する(写真4参照)。

5

新粗石コンクリートの発熱特性

 

新粗石コンクリートは、多様な粒径の粗石・岩

塊を用い、セメント量が一般のコンクリートより

多い高流動コンクリートで充填するため、砂防堰

堤などのマスコンクリートの築造において、温度

応力や温度ひび割れ発生が懸念されるが、実際の

発熱特性やその解析方法などが解明されていない。

 

そこで今回は、新粗石コンクリートの発熱特性

の一部を明らかにし、同時に発熱を正確に再現す

表 1 高流動(充填)コンクリート配合表

単位量(kg/m3) W/C(%)

S/s(%)C:セメント W:水 S:細骨材 G:粗骨材 AE剤

高流動 480 165 902 812 1.0% 34.4 53.0

写真 2 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その②)

写真 3 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その③)

技 術 紹 介

る手法の検討を行なっている。

⑴ 新粗石コンクリートの発熱逆解析

 

一般にマスコンクリートの発熱解析を行なうに

は、セメントや骨材など数多くの発熱に関するパ

ラメータの決定(入力)をしなければならないが、

物理定数や入力境界条件には不確実性が多く、現

場計測と数値解析の結果が異なる場合が多い。そ

こで有限要素法に拡張カルマンフィルタを適用し

た逆解析(観測値から入力パラメータを同定し、

それらを用いてその後の発熱挙動予測を実施)に

よって、これらの問題の解決を試みた。

 

ここで検討に用いた新粗石(高流動)コンクリー

トの逆解析(有限要素法:FEM)モデルを図1

に示す。

⑵ 新粗石コンクリートの発熱現象の再現

 

逆解析により得られた発熱に関する係数を用い

て、新粗石(高流動)コンクリートの発熱(温度

分布)を再現した図2に示す。

 

図2に示した逆解析値を用いた発熱温度の再現

値は、実際の砂防堰堤において観測された粗石(高

流動)コンクリートの中心部における発熱温度(約

三二℃)および表面の温度変動(外気温の影響)

とほぼ同じ値を示しており、逆解析により粗石コ

ンクリートにおける発熱に関する係数が正確に求

められたといえる。

 

砂防堰堤における逆解析および再現解析により、

以下に示す新粗石(高流動)コンクリートの発熱

現象の特徴が得られた。

①新粗石(高流動)コンクリートの発熱温度は、

セメントの発熱が粗石に吸収されるため理論

値よりも低くなり、粗石(体積比:五〇%)率

に依存する。

②発熱初期では、粗石にセメントの発熱が吸収さ

れるため遅く立ち上がり、発熱後期では粗石や

境界条件の影響を受けるため温度降下が早く

なる傾向を示した。

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結び

 

今回は、大きな粒径材(粗石)を積み上げ、そ

の間隙に高流動コンクリートを充填することによ

り、構造体を築造する新粗石コンクリート工法に

よる砂防構造物の構築を紹介した。今後、建設現

場においても省エネルギー・省資源が進み、さら

に建設現場における活用が多くなると考えられる

ため、今後も構造物における省力化技術の開発に

取り組んでゆきたいと考えている。

参考文献

 

須籐敦史、笈川利夫、遠田康英、砂防ダムにおける新

粗石コンクリートの発熱特性に関する研究、ダム工学会

第二三回ダム工学会研究発表会、pp.1-4, 2011.11

写真 4 砂防堰堤の全景

図 1 FEM解析モデル図 2 粗石コンクリーの発熱状況

72 土地改良 293号 2016.4●