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京都滋賀体育学会 第 142 回⼤会 京都滋賀体育学会 60 周年記念⼤会 発表抄録集 ⽇時:2013 年 3 ⽉ 9 ⽇(⼟) 会場:京都⼯芸繊維⼤学 ノートルダム館,60 周年記念館 主催:京都滋賀体育学会 担当:京都ノートルダム⼥⼦⼤学,京都⼯芸繊維⼤学

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京都滋賀体育学会 第 142 回⼤会 京都滋賀体育学会 60 周年記念⼤会

発表抄録集

⽇時:2013 年 3 ⽉ 9 ⽇(⼟) 会場:京都⼯芸繊維⼤学 ノートルダム館,60 周年記念館 主催:京都滋賀体育学会 担当:京都ノートルダム⼥⼦⼤学,京都⼯芸繊維⼤学

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京都滋賀体育学会 第 142 回⼤会 京都滋賀体育学会 60 周年記念⼤会

⽇時:2013 年3 ⽉9 ⽇(⼟) 会場:京都⼯芸繊維⼤学 ノートルダム館,60 周年記念館 主催:京都滋賀体育学会

■■ 大会日程 ■■ 08:30~09:00 受付 【ノートルダム館 1階】 09:00~09:10 オープニング 【ノートルダム館 2階K201】 09:15~10:55 一般研究発表 【ノートルダム館 2階K202,K203】 11:00~12:00 総会 【ノートルダム館 2階K201】 12:30~14:30 60周年記念シンポジウム 【60周年記念館 1階 記念ホール】 15:00~16:00 60周年記念講演 【60周年記念館 1階 記念ホール】 16:10~17:50 一般研究発表 【ノートルダム館 2階K201,K202,K203】 18:00~20:00 懇親会60周年記念パーティ 【60周年記念館 2階 大セミナー室】

■■大会役員■■ 大会長:萩原暢子(京都ノートルダム女子大学) 副大会長:野村照夫(京都工芸繊維大学)

■■大会事務局■■ 606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町1番地 京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科 担当:来田宣幸(京都工芸繊維大学)kida@ kit.ac.jp 075-724-7734 070-6682-6970 担当:内田和寿(京都ノートルダム女子大学)

ノートルダム館

60周年記念館

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■■ プログラム ■■

●オープニング【9:00~9:10】ノートルダム館K201

●一般研究発表:午前の部【9:15~10:55】ノートルダム館K202,K203

セッション 1-A 「陸上・⾜・脚・⽣理学」 ノートルダム館K202 座⻑:⼩⼭宏之(京都教育⼤学),渡邊裕也(京都府⽴医科⼤学)

A01(09:15-09:35)短期間のマーク⾛トレーニングが⼩学⽣児童の疾⾛能⼒に与える影響 ○ 斎藤壮馬,志賀充(びわこ成蹊スポーツ大学)

A02(09:35-09:55)スポーツ⼤学における短距離チームの継続的なコントロールテストの分析について ―ジャンプ能⼒とパフォーマンスに着⽬して―

○ 田中秀忠,志賀充(びわこ成蹊スポーツ大学)

A03(09:55-10:15)再現性の⾼い運動負荷試験についての検討 ○ 奥野鮎太郎,山本満,石原達朗,田中歌,海老根直之(同志社大学)

A04(10:15-10:35)静⽌⽴位時における,⾜関節周りの粘弾性と姿勢動揺との関連 ○ 徳川貴大,神﨑素樹(京都大学)

A05(10:35-10:55)ハイ・クリーンとスクワットの個⼈差がパフォーマンスに与える影響 ー下肢のキネティクスに着⽬してー

○ 田中康雄,小山宏之,礒崎大二郎,大月菜穂子,小宗真,柴田篤志,野上大介,水口善文,山田朋花(京都教育大学)

セッション 1-B 「⽣理学・コンディショニング」 ノートルダム館K203 座⻑:⾕川哲朗(⼤阪体育⼤学),藤井慶輔(京都⼤学)

B01(09:15-09:35)静⽌⽴位に⾃律神経系が与える影響について ○ 横井郁,神崎素樹(京都大学)

B02(09:35-09:55)中⾼齢⼥性を対象とした 6 週間低負荷パワートレーニングが転倒⾻折リスクに及ぼす影響 ○ 浜口佳奈子,戸田遥子,佐藤幸治,栗原俊之,藤岡正子,大塚光雄,家光素行,浜岡隆

文,真田樹義(立命館大学)

B03(09:55-10:15)中学及び⾼校⽔泳部活動における傷害実態とフィジカルケアサポート【研究基⾦学術研究報告】 ○ 三瀬貴生(医療法人南谷クリニック),宇野慎也(京都文教高校),野村照夫(京都工芸繊維大

学)

B04(10:15-10:35)⽉経周期とコンディション変動 ○ 森山侑希,佃文子(びわこ成蹊スポーツ大学)

B05(10:35-10:55)スポーツ系⼤学⽣の脳震盪発⽣状況 ○ 近藤由依,村田祐樹,佃文子,金森雅夫(びわこ成蹊スポーツ大学)

● 京都滋賀体育学会総会【11:00~12:00】ノートルダム館K201

● 60周年記念シンポジウム(一般公開シンポジウム)【12:30~14:30】60周年記念館1階記念ホール

テーマ 『3 ⽉10 ⽇は京都マラソン! ⼤会関係者が語るマラソンブームの裏側と未来』 司会 竹田正樹(同志社大学) 演者 松永敬子(龍谷大学)「京都マラソンの動向」

坂牧政彦(株式会社電通)「近年のマラソン文化の動向<広告代理店からみた市場動向>」 永田智恵子(株式会社ワコール)「近年のマラソン・スポーツ用品の動向」 佐竹敏之(京都陸上競技協会)「京都のマラソン,駅伝を支える立場から」 下間健之(京都市文化市民局)「京都市の新たなスポーツ文化を考える」

iii

● 60周年記念講演【15:00~16:00】60周年記念館1階記念ホール

テーマ 『熱中症の根絶をめざして』 演者 中井誠一(京都女子大学) 司会 芳田哲也(京都工芸繊維大学)

● 一般研究発表:午後の部【16:10~17:50】ノートルダム館K201,K202,K203 セッション 2-A 「⽴つ・歩く・姿勢・運動制御」 ノートルダム館K202

座⻑:⽊村哲也(⽴命館⼤学),萩⽣翔⼤(京都⼤学) A06(16:10-16:30)筋シナジーに基づく多⽅向への姿勢制御の解明

○ 川端あずさ,神崎素樹(京都大学)

A07(16:30-16:50)ストレッチポールエクササイズによる姿勢と⾝体機能の変化 ○ 佐々木勇治,佃文子,村田祐樹(びわこ成蹊スポーツ大学)

A08(16:50-17:10)傾斜板が⾛り⾼跳びの踏切動作に与える即時的効果 ○ 礒﨑大二郎,小山宏之,田中康雄,大月菜穂子,小宗真,柴田篤志,水口善文,山田朋

花(京都教育大学)

A09(17:10-17:30)視聴覚情報が姿勢動揺に及ぼす影響 ○ 岡野真裕,神崎素樹(京都大学)

A10(17:30-17:50)半構造化⾯接法を⽤いた歩⾏の動作観察についての⽐較検討〜膝関節疾患における検討〜 ○ 大桐将(山田整形外科病院),山田勝真(蘇生会総合病院),弓永久哲(関西医療学園専門学校) ,

来田宣幸(京都工芸繊維大学)

セッション 2-B 「コンディショニング・⼥性」 ノートルダム館K203 座⻑:河合美⾹(⿓⾕⼤学),久⽶雅(京都⽂教短期⼤学)

B06(16:10-16:30)⼥性における⽔平⽅向への跳躍能⼒の特性-跳躍運動の脚動作と疾⾛速度の関係から- ○ 志賀充(びわこ成蹊スポーツ大学)

B07(16:30-16:50)⼈の⾝体動作に⾒られる阻害現象と痛みの⾃覚症状の特徴との関係についての考察 ○ 杉本歩,肥田嘉文,増田清敬,寄本明,南和広(滋賀県立大学)

B08(16:50-17:10)等尺性収縮時の⼤腿直筋およびその中央腱膜の三次元構築およびその動的変化 ○ 方城素和,神﨑素樹(京都大学)

B09(17:10-17:30)⾷⾏動の総合的代謝評価 ○ 石原達朗,山本満,田中歌,海老根直之(同志社大学)

B10(17:30-17:50)⼥性スポーツ選⼿のトレーニング期における温熱負荷時の体温調節反応 ○ 佐藤琢磨(京都工芸繊維大学),久米雅(京都文教短期大学),常岡秀行,芳田哲也(京都工芸

繊維大学)

セッション 2-C 「スキル・球技」 ノートルダム館K201 座⻑:⾦⽥啓稔(⼤阪電気通信⼤学),渡邉泰典(びわこ成蹊スポーツ⼤学)

C06(16:10-16:30)野球のゴロ捕球における空間制御球 -捕球体勢とフットワークから- ○ 長谷川弘実,神谷将志,来田宣幸,野村照夫(京都工芸繊維大学)

C07(16:30-16:50)野球打撃におけるバスター動作指導法の研究 ○ 西純平,岡本直輝(立命館大学)

C08(16:50-17:10)フィールドホッケーにおけるスクープの動作分析 ○ 山堀貴彦(聖泉大学)

C09(17:10-17:30)テニスにおける新サービストレーニング⽅法が即時的にコントロール能⼒へ与える影響 ―フラットサービスに着⽬して―

○ 飯塚賢太郎,志賀充(びわこ成蹊スポーツ大学)

C10(17:30-17:50)重りを利⽤した鉄棒振り上げ運動の即時的な動作影響について ○ 小早川理,志賀充(びわこ成蹊スポーツ大学)

●懇親会(60周年記念パーティ)【18:00~20:00】60周年記念館2階大セミナー室

iv

【ノートルダム館】 【60周年記念館】

(1階)

(2階)

⼀般発表

⼀般発表

休憩室 受付

本部

総会⼀般発表

懇親会

記念シンポジウム記念講演

⼤セミナー室

記念ホールK101

K201

K202

K203

会場レイアウト図

・大会参加費 会員:無料,非会員:1,000円(当日会員) 大会受付にてお支払いください(事前申込・支払不要)

・懇親会(60周年記念パーティ):懇親会にて若手研究奨励賞の発表及び表彰を行います. 会費は一般:5,000円程度,院生・学生・ポスドク:3,000円程度の予定です. 大会受付にてお支払いください(事前申込・支払不要). 懇親会会場にポスターを掲示するパネルを準備しますので,掲示を希望される方は事務局([email protected])まで

ご連絡ください.研究交流促進のため,発表済みのものであっても構いません(研究発表にはなりません).

・昼食:総会時に500円のお弁当セットを販売する予定です. ・一般発表は,発表時間12分,質疑応答6分です.スライド環境はWindow系PC,PowerPoint2010です. ・各自のノートPCを使用することもできますが,Macintosh,iPad等を使用する場合は変換コネクタを各自で

ご用意ください. ・駐車スペースに限りがありますので,できる限り公共交通機関をご利用ください. ・会場へのアクセス

http://www.kit.ac.jp/01/01_110000.html http://www.kit.ac.jp/02/matugasaki.html

A01 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 1 -

短期間のマーク走トレーニングが小学生児童の

疾走能力に与える影響 ○斎藤 壮馬,志賀 充 (びわこ成蹊スポーツ大学)

キーワード,マーク走,短期トレーニング,小学生女子児童

緒言:

本研究では,小学生女子児童に短期間のマーク走

トレーニングを行わせ,疾走能力の変化について明

らかにすることを目的とした.

方法:

被験者は,小学 5・6 年生の女子児童 16 名を対象

とし,トレーニング群(以下 T 群)9 名,コントロール

群(以下 C 群)7 名に分けた.T 群に週に 1 回,3 種類

のマーク走トレーニングを行った.両群を対象に,

トレーニング前後で 50m 走のタイム測定を行い,そ

の走動作について 2 次元で動作分析を行った.

結果:

トレーニング前後において,両群間で 50m のタイム

に有意差は認められなかった.ただし,C 群の平均

値は 9.03 秒±0.69 から 9.08 秒±0.40 であったのに対

し,T 群の平均値は,8.94 秒±0.69 から 8.72 秒±0.59

と記録が向上する傾向が見られた.

動作分析の結果,T 群の 30-40m 区間の遊脚期

30-40%付近の,股関節角速度が増加していた(図 1

左).また,左脚接地直前(90-100%)の股関節と膝関

節の伸展角速度が増加していた(図 1 右).

考察:

本研究の結果より,30-40%付近の遊脚の股関節屈

曲の角速度が増加していることから,大腿部の素早

い引き上げが可能になったと考えられる.これは,

マーク走トレーニングによって,脚を前方に素早く

動かすことによって,素早いスイング動作を習得す

ることができたと推察する.また,左脚接地直前

(90-100%)の,股関節と膝関節の伸展角速度が増加傾

向にあることから,脚の振り戻し動作(シザース動作

の一部)が素早く行えるようになったと考えられる.

末松ら(2009)は,固有のストライドより小さいスト

ライドでマーク走トレーニング行った児童は,シザ

ース動作を上手くなったことを報告している.本研

究においても,同様の結果を得た.マークを設置す

ることにより,積極的に脚を振り下ろす動作が可能

になったと推察する.このような要因により,疾走

動作の質的改善が認められたことが考えられる.よ

って,短期間のマーク走トレーニングは,小学生女

子児童の疾走能力の改善に有効であることが示唆さ

れた.

引用・参考文献

末松ら(2009)マーク走トレーニングを用いた走運動

学習が小学生 6 年生児童の疾走能力に及ぼす影響.

スポーツ方法学研究.23.pp185-188.

図 1:T 群の 30-40m 区間の遊脚における

股関節・膝関節角速度について (左図:股関節角速度 右図:膝関節角速度)

A02 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 2 -

スポーツ大学における短距離チームの 継続的なコントロールテストの分析

- ジャンプ能力とパフォーマンスに着目して - ○田中 秀忠 志賀 充 斉藤 壮馬(びわこ成蹊スポーツ大学)

キーワード, コントロールテスト, ジャンプ能力, パフォーマンス. 目的:

本研究は,スポーツ大学に通う陸上競技短距離部員を

対象に,継続的なコントロールテスト(C.T)を行い,そ

の記録の変遷と競技記録を比較する.得られた結果から,

スポーツ大学独自の C.T の有効性及びトレーニング作

成に関する基礎的知見を得ることを目的とする.

方法: 被験者は,びわこ成蹊スポーツ大学に 2008 年から

2009 年に入学した,男子陸上競技部員 10 名を対象とし

た. 1) C.T実施回数 年間 5 回(2~3 か月に 1 度の頻度)

2) 測定項目 疾走運動:①60m走 ②500m走 跳躍運動:水平方向跳躍として③立 3・5・10 段跳の

3 種類を実施した. 垂直方向跳躍として④スクワットジ

ャンプ(SQJ) ⑤ドロップジャンプ(DJ) ⑥リバウンドジ

ャンプ(RJ10) の3種類を実施した. 疾走運動のタイム計測, 水平方向跳躍の距離の計測, これらは手動による計測を行った. また SQJ, DJ, RJ10はマルチジャンプテスター(DKH 社製)を使用し, 跳躍

高, index を算出した. 3) 競技記録 短距離に所属する部員の各種目の学年別最高記録を

調査し, 記録の伸び率を算出した. 結果及び考察: ジャンプ能力とパフォーマンスの関係性についての

有意差が認められなかったが, SQJ と60m走に関し

ては負の相関が認められた.SQJ とは足関節,膝関節,

股関節を特定の屈曲角度で固定した静的姿勢からの垂

直方向のジャンプである.疾走動作は股関節の屈曲・伸

展動作が重要であると報告されている.SQJの記録が向

上したことは,股関節伸展の筋出力が高まったと考えら

れる.その結果,疾走能力が改善されたと推察する.先

行研究では跳躍能力と競技パフォーマンスの相関が数多く

報告されている.本研究においては, C.Tと競技パフォ

ーマンスの相関がみられなかった.しかし,大学4年間

の競技パフォーマンスが向上すると同時に,C.Tの記録

も向上している選手の事例もいくつかある.これらの事

例は,C.Tの伸び率が高いことから,競技パフォーマン

ス向上に繫がると考えられる.よってC.Tは競技パフォ

ーマンスが向上するための,一つの指標として有効であ

ると推察する.また C.T を継続的に行うことで,選手の

コンディションや能力を客観的かつ定期的に確認すること

が出来る. C.T の結果から,今後のトレーニング方針や各

選手の課題が発見でき,様々な視点でアドバイスがするこ

とが出来ることも利点であると考えられる.

図 1.60mとSQJの相関関係

引用・参考文献:

高梨雄太(2010)陸上競技投擲競技者におけるコントロ

ールテストに関する研究.東京女子体育大学・東京女子

体育短期大学紀要 .45. pp79-86

A03 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 3 -

再現性の高い運動負荷試験についての検討 ○奥野鮎太郎(同志社大学 スポーツ健康科学部),山本満(同志社大学大学院 スポーツ健康科学研究科), 石原達朗(同志社大学 スポーツ健康科学部),田中歌(同志社大学大学院 スポーツ健康科学研究科),

海老根直之(同志社大学 スポーツ健康科学部) キーワード:運動負荷試験,再現性,エネルギー消費量

【諸言】 運動負荷試験を行う上で運動の再現性は重要である.

運動課題に再現性がなければ,正確な検査は不可能とな

る.さらに,エネルギー消費量(Energy Expenditure: EE)の亢進効果を謳う製品の検証時には一般的に期待され

る効果は小さいため,混入因子が少ない再現性に優れた

運動様式で,試験を行うことは重要である. 【目的】

同一日に繰り返し実施される運動負荷試験に限らず,

複数日に渡る実験系の場合にも測定値の再現性は要求

される.そこで,本研究では日内差と日間差に着眼して,

まずは安全性が高く,被検者の負担も小さいため,広く

運用が可能となる低強度運動に焦点を当て,再現性に優

れた運動課題を検討することを目的とした. 【方法】

各種運動負荷試験において,それぞれ健康な男子大学

生・大学院生4名を対象とした.本研究では,歩行,2

種の自転車漕ぎ運動と横方向のステップ動作時におけ

るEEの測定値から,それぞれの再現性を検討した.測

定は食事から6時間以上空けた空腹時に実施した.10分間の座位安静と 15 分間の各種運動を1試行と定めた.

事前に運動強度に対する十分な回復時間を検討し,15分間を試行間の休憩に置き,同一日に運動負荷試験を3

回繰り返した.EE測定にはダグラスバッグ法を用いた.

また,換気量を規定するために電子メトロノームを用い

て 100 beats/min のピッチ音6回に対し,1回の呼吸を行

うように指示した.なお,呼吸統制や各種運動負荷試験

に順化させるために,測定日までの3日以内に1試行分

のリハーサルを実施した. 歩行試験はトレッドミルを使用し,被検者の体重や歩

行による抵抗を軽減するため,5%の傾斜をつけて 4.0 km/h の速度で実施した.また,トレッドミルは電源投

入から 10 分間は速度が安定しないことが判明したため,

事前に十分な慣らし運転を行った後に使用した.2種の

着座位置の異なるエルゴメーター漕ぎ運動を準備し,強

度とピッチは40 W,50 rpmに設定した.横ステップは

被検者毎に遂行可能な歩幅を設定させ,100 beats/min の

ピッチで3本の線をまたぐ運動を行わせた.

【結果】 図 1 に各種運動時,図 2 に座位安静時におけるEEの

変動係数(CV)を示した.CV は3回行ったEEの測定

値の標準偏差を平均で除することで求めた.同日内の再

現性の程度を示すCV は,歩行と座椅子を用いた自転車

漕ぎ運動の2様式で 1.4%内という,良好な再現性を示

した.一方で,座位安静時の CV は 2.0~6.0%と高く,

日間差も大きいという結果となった.

図1.運動時の変動係数(CV)

図2.座位安静時の変動係数(CV)

【まとめ】 本研究では,再現性の高い運動負荷試験の運動様式を

考案することを目的に検討を行った.その結果,トレッ

ドミルを用いた歩行(4.0 km/h, 100 beats/min)と座椅子

を用いた自転車漕ぎ運動(40 W, 50 rpm)は日間差が小

さく,日を違えた測定を行う研究においても有益な運動

様式であることが明らかとなった.加えて,これらの運

動時は,座位安静時に比べても良好な結果が得られてい

るため,EE のわずかな変化を評価する研究では,安静

での検証よりも緩やかな運動を行わせておくことで効

果が表出し易くなる可能性があるのではないだろか.

A04 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 4 -

静止立位時における、

足関節周りの粘弾性と姿勢動揺の関連

○徳川貴大(京都大学大学院人間・環境学研究科), 神﨑素樹(京都大学大学院人間・環境学研究科)

キーワード: 姿勢動揺、粘性、弾性

【緒言】人の身体重心は高く、支持基底面は狭

いため、静止立位を保つことは機械的に困難で

あり、静止立位といえども絶えず姿勢制御が行

われている。また、人の静止立位は足関節中心

の倒立振子モデルによく近似され、足関節トル

クの調節が姿勢制御に重要であると言われて

いる[1]。足関節トルクは、神経性要因以外に、

関節周辺組織の筋や腱や靭帯などの粘弾性の

影響を受ける。本研究では足関節周りの粘弾性

に着目し、粘性要素がした仕事量と弾性要素が

蓄積しうるエネルギー量を定量した。そして、

それらと姿勢動揺との関係を検証することを

目的とした。

【方法】被験者は男女 14 名(22~28 歳)であっ

た。被験者には、足関節周りの倒立振子モデルに

ならうため副木を装着し、5 分間閉眼静止立位を

行ってもらった。足関節角度はレーザー変位計で

測定、足関節トルクはフォースプレートの測定値

から算出した。横軸に足関節角度、縦軸に足関節

トルク(被験者毎に体重で正規化)をプロットす

るとヒステリシスループが出現する(図 1)。全体

の面積(S1+S2+S3)に対するヒステリシスループ

の面積(S1)の割合(W-V)と、立位中に弾性要素が

蓄積しうるエネルギーの面積 (S1+S2)の割合

(W-E)を各々求めた。またフォースプレートの測

定値から足圧中心(CoP)の軌跡長を計算し、姿勢

動揺の指標とした。

そして、CoP 軌跡長と W-E,W-V 各々に対して、

Pearson の相関分析を行った。

図 1:足関節角度(横軸)と足関節トルク(縦軸)

との関係

【結果】CoP 軌跡長と W-E と有意な相関はあ

りませんでした。(r(12)=0.297) CoP 軌跡長と

W-V は有意な正の相関がありました。 (図2,r(12)=0.797)

図 2,W-V(横軸)と CoP 軌跡長(縦軸)との相関

【考察】姿勢動揺は足関節周りの弾性要素でな

く、粘性要素の影響を受けることが示唆された。

【結論】本研究より、足関節周りの粘性がした

仕事量により姿勢動揺を十分に説明できるこ

とが示された。

【引用文献】[1] Morasso PG and Sanguineti V. Ankle muscle stiffness alone cannot stabilize balance during quiet standing. J Neurophysiol 2002; 88:2157-2162

A05 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 5 -

ハイ・クリーンとスクワットの個人差が パフォーマンスに与える影響

- 下肢のキネティクスに着目して - ○田中 康雄(京都教育大学),小山 宏之、礒崎 大二郎、大月 菜穂子、小宗 真、柴田 篤志、野上 大介、

水口 善文、山田 朋花(京都教育大学) キーワード,ハイ・クリーン,スクワット,関節トルクパワー,個人差 緒言:フリーウエイトトレーニングの中でも下肢筋力

向上を目指した種目にハイ・クリーンとスクワットがあ

る.これまで,ハイ・クリーンやスクワットの実施によ

る筋力向上と競技力の関係をトレーニングごとに見た

研究は多く行われている.しかし,ハイ・クリーンとス

クワットのパフォーマンスの関係性も考慮して競技力

に対する影響を検討した研究はこれまで見られない. そこで,本研究では最大挙上重量に対する同負荷で行

うハイ・クリーンとスクワット,パフォーマンス指標と

しての垂直跳びをバイオメカニクス的に分析し,ハイ・

クリーンとスクワットの関係が垂直跳びに与える影響

を明らかにし,競技力向上のためのハイ・クリーントレ

ーニングに関する基礎的知見を得ることを目的とする. 方法:被験者は本学男子陸上競技部員 21 名とし,実

験試技は①ハイ・クリーン②スクワット③垂直跳び

(CMJ),④スクワットジャンプ(SJ),①②については

90%,80%,70%,60% 1RMの重量で連続3 回行い,そ

れぞれの試技をVICON(Vicon Motion System社製)に

て 200Hz で撮影し,2 枚のフォースプラットフォーム

(Kistler 社製)を使用して左右それぞれの地面反力を

1000Hzで測定した. 結果及び考察:CMJ跳躍高(HCMJ),SJ跳躍高(HSJ),

ハイ・クリーン 1RM(HM),スクワット 1RM(SM)

および SM に対する HM の比率(HS)それぞれの相関

関係を算出した. HCMJはHMとの間に有意な正の相関関係(p<0.05)が見られた.また HCMJ は HM よりも HS との間に高

い有意な正の相関関係(p<0.01)がみられた.一方,SMとの間には有意な関係は見られなかった.ハイ・クリー

ンのみが HCMJ と相関関係があったことは,ハイ・ク

リーンが反動を伴った脚伸展運動に対してより有効で

あることを示していると考えられる.また,HMが高い

だけでなく,SMに対するHMがより高いことがパフォ

ーマンス向上により重要であることを示している. ハイ・クリーンの挙上 1 回目(HIGH1),ハイ・ク

リーンの挙上 2,3 回目(HIGH23)とし分析を行っ

-4

0

4

8

0 50 100

関節

トル

クパ

ワー(W/kg)

規格化時間(%)

上位群 下位群

HIGH1におけるHS上位群,下位群の股関節関節トルクパワーの平均変化パターン

コンセントリック

エキセントリック

た.さらに,HIGH1,HIGH23 の試技におけるHS上位

群5名およびHS下位群5名の下肢関節の関節トルクパ

ワーの平均変化パターンを比較した.上図はHIGH1 に

おける股関節の関節トルクパワーを示している.HIGH1およびHIGH23 ともに,HS上位群の方が挙上局面前半

の早いタイミングでピークが出現した.同局面の股関節

トルクは両群に差はないが,股関節角速度において HS上位群が HS 下位群よりも大きかった.すなわち,HS上位群は挙上開始前半で素早く股関節を伸展すること

で高い関節トルクパワーを獲得していたと考えられる.

足関節においても股関節同様に挙上局面前半において

HS 上位群が HS 下位群よりも高い足関節底屈トルクパ

ワーを発揮していた. CMJ 跳躍高と HS の間には高い相関関係があったこ

とを踏まえると,ハイ・クリーントレーニングではパワ

ーのピークの大きさだけではなく,挙上開始後に素早く

下肢を伸展および底屈させながら力発揮することが重

要であると考えられる. 結論:本研究の結果から,ハイ・クリーン運動は,挙

上の際の下肢関節の素早い伸展動作により爆発的なパ

ワーを発揮している.さらに,垂直跳びのような反動を

利用し,パワーを発揮するような動作の筋力トレーニン

グとして効果が高いと言えるだろう.また,スクワット

で測定される脚伸展筋力に対してより重たい負荷のハ

イ・クリーンを挙上できる能力も重要であり,そのため

には挙上局面序盤での下肢関節伸展動作を素早く行う

ことを意識してハイ・クリーントレーニングに取り組む

必要があることが示唆された.

B01 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 6 -

姿勢制御に及ぼす自律神経活動の影響

○横井郁(京都大学 総合人間学部),長田かおり(京都大学 大学院人間・環境学研究科)

神﨑素樹(京都大学 大学院人間・環境学研究科)

キーワード,足圧中心、静止立位、冷却刺激、生理的振戦

緒言:

ヒトの姿勢制御において、体性感覚系は重要な情

報源であると考えられている。体性感覚情報の入力

源の一つである筋紡錘は交感神経活動の賦活により

閾値が低下することから、自律神経系が姿勢制御に

関与する可能性が示唆される。従来、自律神経系の

呼吸・循環系の機能に対する役割については数多く

の研究がなされてきたが、自律神経活動と姿勢制御

との関連性は未だ不明である。そこで本研究は交感

神経活動を賦活させる手段として氷水による痛み刺

激(冷却刺激)を用い、姿勢制御のストラテジーに

自律神経系が及ぼす影響を検討することを目的とし

た。

方法:

被検者は健常男性 8 名で、2 分間の閉眼静止立位を

行った。被検者は、両手を身体の近くで広げ両手首

を約 36 度の湯(温水条件)、0 度の冷水(冷却条件)

に浸す条件、および刺激無し(コントロール条件)

で静止立位を行った。温水条件を与えたのは、水中

に両手を浸すことによる浮力の影響を見るためであ

る。分析対象は 2 分間の試行の後半 1 分間とした。

フォースプレートの床反力鉛直成分から前後方向の

足圧中心(COP)を測定した。また右足の前脛骨筋,

ヒラメ筋,腓腹筋外側頭、腓腹筋内側頭から表面筋電

図(AgCl 電極、極間 2cm)を導出した。身体重心

(COM)の変位はレーザー変位計を用いて前後方向

を計測した。心電図から R-R 間隔を算出し、これを

交感神経活動の指標とした。

結果:

冷却条件で単位時間当たりのCOP動揺の軌跡長は

増加した。またCOP 動揺のパワースペクトルを算出

した結果、冷却条件においてのみ 8-12Hz の周波数成

分の増加が見られた。姿勢動揺の主成分である 1Hz以下の非定常成分については冷却刺激による有意差

が見られなかった。同様に、姿勢保持への貢献が大

きい下腿のヒラメ筋の筋活動においても、冷却条件

下においてのみ平均振幅が増大し、特に、8-12Hz の

周波数成分の増加が観察された。一方、COMの挙動

は3条件で差異は認められなかった。

考察:

生体内における8-12Hzの周波数帯域を持つ振動は、

Ia 線維に由来する生理的振戦と考えられる。自律神

経活動の賦活時に筋紡錘の閾値が低下し、筋紡錘に

接続する Ia 線維の活動が惹起した結果、生理的振戦

が増加したと考えられる。また足関節で発生するト

ルクはCOP の変位に比例することから、本実験で冷

却刺激時に見られたCOP動揺の高周波成分の増加は、

ヒラメ筋の生理的振戦の増加によるものと考えられ

る。

また、冷却刺激時における軌跡長の増加はCOP の

8-12Hz 成分の増加によるものであり、COM を一定

に保つためのCOPの細かな調節を意味すると考えら

れた。

結論:

本研究の結果、自律神経活動は生理的振戦を介し

て姿勢制御ストラテジーを大きく変化させることが

明らかになった。冷却刺激により姿勢制御のストラ

テジーが変化し、より大きく急速な外乱によるCOMの変化にも対応できると推察される。

B02 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 7 -

中高齢女性を対象とした 6 週間低負荷パワートレーニ

ングが転倒骨折リスクに及ぼす影響 ○浜口佳奈子、戸田遥子、佐藤幸治、栗原俊之、藤岡正子、

大塚光雄、家光素行、浜岡隆文、真田樹義 (立命館大学スポーツ健康科学部)

サルコペニア・パワートレーニング・骨密度

【諸言】現在、我が国においては、急速な高齢化とと

もに、生活習慣病の発症の増加やこれに起因する認知

症、寝たきり等の要介護状態になる者の増加が深刻な

社会問題となっている。加齢に伴う筋量や筋機能の低

下は「サルコペニア」と呼ばれ、骨密度の低下や骨粗

鬆症の発症、転倒リスク、との関連が指摘されており、

高齢者の身体的障害(physical disability)に大きな

影響を及ぼすと考えられる。

Tschopp ら(2011)によると、高齢者に対する筋力

トレーニングとパワートレーニングの 2 種類のレジス

タンストレーニングにおける筋機能改善効果について

のメタ解析の結果、両者の効果は同等であったことを

報告している。同様に、閉経女性を対象に筋力トレー

ニングとパワートレーニングを 1 年間実施し比較した

研究では、パワートレーニングの方がより局所骨密度

の維持・向上が認められている。したがって、転倒リ

スクの軽減にはパワートレーニングが有効であると考

えられる。

一方、レジスタンストレーニングの効果は、負荷強

度、反復回数、セット数、セット間休息に依存する。

de Vos らは、異なる負荷強度(20%、50%、80%1RM)

を用いたパワートレーニングの効果を比較したところ、

いずれの負荷の場合でも同等の筋パワーの増加が確認

された他、Rhonda Orrr らは 20%の低負荷においての

み、バランス能力が有意に向上したと報告されている。

また、Paulo ら(2012)は、中高強度負荷(60%1RM)

における単回の筋パワー発揮は、1 セット 3 回・60 秒

セット間休息のグループが1セット 6 回・60 秒セット

間休息のグループよりも高かったと報告している。こ

れらの先行研究から、転倒骨折リスクを軽減するため

のパワートレーニングとしては、低強度低反復回数が

有効であると考えられる。

しかし現在のところ、高齢者を対象とした低強度低

反復回数を用いたパワートレーニングの効果を検討し

た研究は認められない。本研究では、中高齢者を対象

に、1 セット 3 回の低負荷パワートレーニングを断続

的に実施し、身体への影響について検討をする。

【方法】

被験者は 50 歳以上の中高齢女性 13 名(54.9±5.1 歳)

とし、低負荷高速パワートレーニング( 3 回×8セット、

休息 15 秒、拳上 1 秒・静止 1 秒・下垂 3 秒)を 6 週間

(2 回/週)実施する。

負荷はウェイトベストを用い、初回トレーニング時の

負荷は、ベストのみの着用(500g)とし、以降は前回

のトレーニングを最後まで完遂し、筋肉痛等の自覚症

状・フォーム等に不安がなく、自主的な希望がある場

合、380~760g 漸増させた。

種目にはスクワット・フロントランジ・サイドランジ・

カーフレイズ・トゥレイズを採用した。

トレーニング前後で、ウォームアップ(自転車エルゴ

メーター・0.75kp・5 分、ストレッチ・10 分)クール

ダウン(ストレッチ 10 分)を設けた。

測定項目:身体組成、形態測定、空腹時血液検査、SF-36、

ロコモチェック、SPPB、身体機能テスト、筋機能テス

ト、トレーニング中の主観強度(RPE)

【結果・結論】

ベースラインおよびトレーニング実施後に測定を行っ

た。評価には、トレーニング群(6 名)・コントロール

群(7 名)それぞれにおいて対応のある t 検定を用い

た。12 回目のトレーニング中の最大 RPE は 12±1、ウ

ェイト重量は 2.8~8.1kg であった。トレーニング群に

おいて、筋力・骨密度の改善が確認された。

B03 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 8 -

中学及び高校水泳部活動における傷害実態と

フィジカルケアサポート ○三瀬 貴生(医療法人 南谷クリニック)、宇野 慎也(京都文教高校)、野村 照夫(京都工芸繊維大学) キーワード:水泳、外傷・障害、トップ下 【緒言】水泳競技で発生する外傷・障害では、腰部や

肩の障害など慢性的なものが多い。一流競泳選手の外

傷・障害(傷害)の実態を調査した報告によると、腰、

肩、膝の順に多かった。しかし、トップ選手を対象と

した報告が多く、トップ下選手の傷害実態を報告した

ものは少ない。

【目的】中学及び高校水泳部活動における傷害実態を

調査、さらに発生した傷害への対応(フィジカルケア

サポート)について記録し、傷害予防プログラムを立

案するための一資料とする。

【方法】京都私立中学校及び高校の水泳部競泳所属の

選手 53 名を対象に、有訴者の聞き取り調査を実施した。

調査項目は①傷害部位②時期③学年④競技成績⑤専門

種目とした。傷害への対処法は、医療系国家資格を有

する者が傷害の状態を評価し、対処した施術内容を記

録した。調査期間は H24 年 1 月~12 月であった。分

析項目は、単純集計として「傷害発生部位の比率」「傷

害への対処法の比率」、クロス集計として「時期別傷害

発生数」「学年別傷害部位」「競技成績別傷害部位」「傷

害部位別対処法」であった。クロス集計の分析では

Microsoft Excel にてカイ二乗検定を実施した。

【結果】傷害発生部位は肩 51.3%、腰 25.0%、膝 12.5%

と肩の障害が最も高率であった(図 1)。時期別傷害数

は4月で最も多く、次いで12月、5月の順に多かった。

学年別傷害部位では、中学生、高校生ともに肩、腰、

膝の順に高率であった。競技成績別傷害部位では、府

下大会出場者と全国・近畿出場者ともに肩の障害が最

も高率であったが、全国・近畿出場者では、府下大会

出場者と比較して腰部障害の占める比率が高かった。

傷害への対処法は Exercise(Ex)指導 38%、Stretch

(St)指導 33%と両者が高い比率を示した。傷害部位

別対処法では腰部障害に対して Ex 指導が高い比率を

示す傾向にあった。

【考察】傷害発生部位は、肩、腰、膝と肩の障害発生

が最も高率であった。また、学年と傷害部位の間に関

連は示さず、トップ下の選手では中学生・高校生とも

に肩の障害が多いことが明らかとなった。岡田らは小

学生から中学生では肩の障害が最も多いと報告してお

り、トップ下のジュニア選手では肩の障害に注意する

必要があると考えられる。

府下大会出場者と近畿・全国大会出場者の競技成績

別でみると、両者ともに肩障害が多いものの、近畿・

全国出場者で腰部障害の比率は高率であった。泳動作

を水中で観察したところ、肩障害を有する者では胸郭

の回旋運動が少ない傾向がみられたため(図 2)、胸郭

の回旋運動は肩の障害発生に影響を及ぼす可能性があ

ると推測する。傷害への対処法では、Ex 指導や St 指

導が多かったが、実際、肩や腰部の障害に対して Ex

や St を実施することで改善するケースがほとんどで

あった。しかし、今回の調査では身体的特徴の定量的

評価を実施しておらず、傷害発生との関連性や対処法

の介入効果は明らかでないことは今後の課題である。

図 2 水中での泳動作の観察

図1 傷害発生部位

51.3

25

12.5

56.3

上腕

その他

B04 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 9 -

0

12

18

14

39

62

29

38

61

27

53

48

0% 20% 40% 60% 80% 100%

排卵期

月経期

卵胞期

黄体期

回答数(%)

月経周期

痛み 不調 良好

月経周期とコンディション変動 ○森山侑希,佃 文子(びわこ成蹊スポーツ大学)

キーワード:月経周期,柔軟性,コンディショニング

1. 緒言

女性アスリートは,月に 1 度月経という生理的変

動を経過する.一般的に月経周期は自覚的コンディ

ションに影響することから,月経期後期から卵胞期

は心身ともに活発になり,排卵期から月経期中期ま

では心身ともに不調を訴えることが多い.

本研究では,運動機能についての影響は一定の見

解を得ていない女性の月経周期とコンディション

の関係について,月経周期をより詳細に区分し,運

動機能の変化を明らかにすることを第一の目的と

した.さらに月経周期に関連するコンディション変

動の要因と影響について明らかにすることを第二

の目的とした.

2. 対象・方法

対象者:B大学のアルティメット部に所属する 5名

と水泳部に所属する4名の計9名の正常月経を有す

る女子学生(20.5±1.5 歳)を対象とした.

方法:対象者の月経周期を把握するために,基礎体

温を毎朝覚醒後起床前に測定した.得られた基礎体

温から,対象者の月経周期を卵胞期・排卵期・黄体

期・月経期の 4 つに期分けした.股関節周囲筋の柔

軟性は,ハムストリングス,大腿四頭筋の柔軟性,

股関節内旋角度を評価した.卵胞期と黄体期の測定

回数が多く得られた被験者 4名について,結果を統

計的に分析した.

運動時における月経周期の主観的な身体面・心理

面の変化を調べるため,質問用紙を用いてアンケー

ト調査を行った.

3. 結果及び考察

股関節周期筋の柔軟性比較では,月経周期毎の変

化は認められなかった.しかし,個人症例では,股

関節周囲筋の柔軟性は,卵胞期の方が柔軟性は高い

ものが多かった.個人の練習日程と柔軟性を照合し

た結果,身体に運動負荷がかかった翌日に柔軟性が

低下する傾向が見られた.よって,柔軟性は月経周

期の影響よりも,トレーニング強度や負荷の,影響

が強いと考えられた.

月経周期に関する主観的コンディション変動で

は,アルティメット競技,水泳競技とも排卵期に「良

好」と回答するものが多く,月経期は「不調」と回

答するものが多かった.

対象者を個人別に,練習日程とコンディション変

動を照合した結果,卵胞期・排卵期・黄体期は緊張

や疲労度,精神のいらつきを訴えている事もあった.

月経期は,練習強度に関係なく,「不調」や「疲労」

と回答することから,月経に対してマイナスイメー

ジが働いていると考えた. 女性アスリートは、日常

のコンディション管理をまず十分に行うことが大

切で,十分なコンディション管理下にある場合,月

経周期のわずかな影響がパフォーマンスに影響す

ると考えられた. 4. 結論

本研究の結果,卵胞期と黄体期による柔軟性の変

化は,一定の見解を認めなかった.

全体を通して,日常のトレーニングによる疲労と

月経周期毎のコンディションを比較すると,月経周

期の変化は影響が少なかった.

個人別には,月経周期別にコンディション変動が

起こっていると思われる事例もみられた.

参考文献

1)中村 真理子:4.女性アスリートのコンディシ

ョン評価,日本臨床スポーツ医学会誌,vol.19,No.2,

199-202,2011 年

図 1 アルティメット部 身体的コンディション

B05 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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スポーツ系大学生の脳震盪発生状況 ○近藤由依,佃 文子,村田祐樹,金森雅夫(びわこ成蹊スポーツ大学)

キーワード,脳震盪,SCAT2

1.緒言

脳震盪を起こしたスポーツ選手の管理および現場へ

の復帰は重要な課題とされており,「SCAT2」の開発に

より,ラグビーや柔道で共通した同じフォームを用い

て,脳震盪時のスポーツ選手の対応と管理が一貫して

行われるようになってきた.

「SCAT2」は,脳震盪を疑うべきである症状,また,身

体的兆候(不安定感など)脳機能の障害,あるいは異常

行動を把握できるものであり,さらに脳震盪の症状の

程度を評価することができる.受傷前に SCAT2 を評価

しておくことで,脳震盪を引き起こした場合の個々の

基準データとみなすことが出来るため,スポーツ現場

での応用が期待できる.

そこで本研究は,体育・スポーツ系大学生の脳震盪の

受傷状況を把握し,今後の大学内における安全なスポ

ーツ環境を整えるため,基礎的資料を得ることを目的

とした.

2.方法

対象者はB大学の学生,1年生(男子223名,女子91

名,計 314 名),コンタクトを有する体育会運動部に所

属する2~4年生(男子150名、女子31名,計181名),

全体の合計は,男子373名、女子122名(計495名)で

あった.尚、本研究では,サッカー,バスケットボール,

ラグビー,柔道の男女をコンタクトスポーツ種目とし

た.測定項目は,「SCAT2」に準じ,自覚症状・既往

歴の調査・認知評価(SAC)・平衡機能評価を用い

た.

3.結果及び考察

体育・スポーツ大学の1年生全の結果から,約6.5%

に脳震盪の受傷歴があった.女性を 1 とした場合の男

性の既往のリスク比は2.46 だった.運動部に所属して

いる2~4年生では,学年を積み重ねるごとに既往歴が

増す傾向があった. 女性の既往歴あり群は男性の既往

歴有群及び無群に比べ,自覚症状を訴えている人が多

く,女性は,男性より症状に敏感なことが考えられた.

体育会運動部のラグビー,柔道部に脳震盪の既往歴

が圧倒的に多く,頭部打ち付けや強いコンタクトが多

い競技で,脳震盪が多く発生していた.これらの結果よ

り,どのような競技レベルでも,ラグビーや柔道部には

脳震盪の安全対策が重要だという事が考えられる.ま

た,脳震盪を完全に防止することは不可能だが,万一の

脳震盪時による頭部回転加速力が加わる事を少しでも

和らげるために、頸部の固定筋力などを積極的に高め

ておくべきだと考えられた.さらに,このような脳震盪

が多数発生するクラブでは,継続的な評価を行い,重大

事故発生時の対応策や手順を十分訓練しておくことが

大切だと考えられた.

海外で報告された脳震盪評価報告と比較すると,

年齢や運動経験の差により,B 大学とは認知評価,

平行機能評価の結果が異なっていた.

4.結論

脳震盪の既往は,一般学生に比べて運動部所属者に多

く,さらにコンタクトスポーツの実施者に多かっ

た.SCAT2で用いられる指標は年齢や運動経験により

異なることが明らかとなった.

参考文献

1)Jingujiほか:Sport Concussion Assessment

Tool-2:Baseline Values for High School

Athletes 2012.5

2)日本ラグビーフットボール協会:脳震盪ガイ

ドライン等について

http://www.rugby-japan.jp/about/commitee/s

afe/concussion2012/guideline.html 2011.9

(学年)

図 1. 学年別の脳震盪の既往歴

A06 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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筋シナジーに基づく多方向への姿勢制御の解明 ○川端あずさ(京都大学総合人間学部),神﨑素樹(京都大学大学院人間・環境学研究科)

キーワード:シナジー,立位制御,

諸言 ヒトの二足立位は本質的に不安定である。そ

のため立位平衡を保つためには、足関節・膝

関節・股関節トルクを間断なく調節すること

が必要である。しかし、これに関わる筋の数

は膨大であり、中枢神経系がこれら個々の筋

を逐一制御するとは考えにくい。そこで、機

能的に類似した筋をまとめて支配する神経制

御機構であるシナジーが立位制御に関与して

いると考えられる。本研究は、筋シナジーの

観点からヒトの二足立位の制御ストラテジー

を記述することを目的とした。 方法 健常な男性 5 名を被検者とした。立位課題は、

水平面上で足関節を軸に 12 方向(30°ごと)

に身体を傾け、その状態で約 10 秒間姿勢を維

持するものであった。立位のスタンスは、自

然に立つ(normal stance)、両足をそろえて立

つ(narrow stance)、足を縦にそろえて中指が

一直線上に乗るように立つ(parallel stance、

右足前、または左足前)の 4 種類とした。身

体を傾ける基準については COP(center of

pressure)の位置が原点から各方向に、3cm

(normal と narrow)または 1.5cm(parallel)

の点とし、COP と目標の位置はディスプレイ

を用いて視覚的フィードバックとして与えた。

課題中、両脚の計 20 筋より表面筋電図を導出

した(Ag-AgCl 電極、電極間距離 1cm)。シ

ナジーの定量に関して、被検者・スタンスご

とに、片足 10 筋 12 方向に対する表面筋電図

の平均振幅から,10×12 のデータ行列を作っ

た。作成された行列に対して NMF 解析

(Non-negative Matrix Factorization,Lee &

Seung Nature, 1999)を施し、シナジーを表す

行列と、その活動度を表す行列とに分解した。 結果 全被検者・全立位スタンスから 2.73 ± 0.72 個

(mean ± SD)の姿勢制御に関わるシナジーが

抽出された。主要なシナジーはヒラメ筋や腓

腹筋、あるいは前脛骨筋などによって構成さ

れた、前後方向の姿勢制御に関わるシナジー

であった。また、立位姿勢を変化させること

で、中臀筋などの重みが大きい左右方向の制

御に関わるシナジーも観察された。 考察 前後方向への姿勢制御に関しては足関節スト

ラテジー、左右方向への姿勢制御に関しては

股関節ストラテジーの関与が示唆されてきた

(Horak and Nashner, 1986)。本研究では、シ

ナジー内の筋の構成とその活動度より、シナ

ジーと関節ストラテジーとの関与が示された。

したがって、関節ストラテジーに関わる筋

をシナジーでまとめて支配することによっ

て、立位制御が低次元的に処理されている

と考えられる。また、中枢神経系は、体の傾

きといった立位の状態に適したシナジーを動

員させ、より効率的に姿勢制御を行っている

と考えられる。

結論 本研究より、複雑なヒトの二足立位の制御は、

生体内に存在するシナジーのはたらきによっ

て効率的になされており、シナジーの貢献が

立位の達成において不可欠だと考えられる。

A07 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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6.08 6.47 

5.90  6.02 

0.00

1.00

2.00

3.00

4.00

5.00

6.00

7.00

8.00

9.00

右 左

Spex前Spex後

(cm)

ストレッチポールエクササイズによる 姿勢と身体機能の変化

○佐々木勇治,佃文子,村田祐樹(びわこ成蹊スポーツ大学) キーワード:ストレッチポール, 円背指数, 肩甲骨可動性, 重心動揺

1.緒言

近年,不良姿勢を改善するための手段の一

つとして,ストレッチポールを用いたエクサ

サイズが実施されている.ストレッチポール

エクササイズ(以下 Spex と略す)については,

身体の一部の柔軟性の変化など,主観的報告

を取り扱った研究が行われているが,その効

果の具体的な身体機能への影響について検証

したものは報告数が限られている.

本研究では,Spex の脊柱アライメント及び

肩甲骨の可動性に対する効果を明らかにする

ことを目的とする.さらに,Spex の効果が大学

生アスリートの身体機能にどの様な影響を与

えるのか,具体的に検証することを目的とす

る.

2.方法

1)対象:B 大学男子サッカー部に所属し,日常

的にストレッチポールエクササイズを実施して

いない 10 名(平均年齢 19±0.67 歳)を対象と

する.

2)測定項目:被験者の円背指数,肩甲骨可動性,

重心動揺をSpexの実施前後で測定,比較した.

円背指数は,被験者の背部の彎曲に沿って自

在曲線定規をあて,その形状から第 7頸椎と第 4

腰椎を結ぶ直線Lと,直線Lから背部の彎曲の頂

点を結ぶ直線 H を用いて,Milne らの式により円

背指数(H/L×100)を算出した.肩甲骨可動性は,

被験者の第7胸椎(以下T7と略す)から肩甲骨

下角までの距離を,「安静立位時」「肩甲骨内転

時」「肩甲骨外転時」の 3 条件に分けて,計測し

た.重心動揺の測定は,立位姿勢を「開眼両脚立

位」「閉眼両脚立位」「開眼左右片脚立位」「閉眼

左右片脚立位」の4条件に分けて測定した.Spex

については,ベーシックセブンを実施した.

3.結果及び考察

円背指数の全被験者の平均値は,Spex 前後で

8.98±1.80cm から 8.95±1.57cm となり,被験者

10名中6名の指数が改善した.この改善群6名は,

直線 L・直線 Hともに長さが Spex 後の方が短縮

した.これは,Spex によって,胸椎の後彎の減弱,

頸椎,腰椎の前彎の増強が起こったと考えられ

た.

肩甲骨可動性については,肩甲骨内転位の左

側の肩甲骨下角とT7の距離が,Spex前後で6.47

±1.25cm から 6.02±1.55cm となり,有意に短縮

した.これはSpexによって,胸郭前面筋群の伸張

性が増大した効果が,非利き手の左側に顕著に

表れたと考えられた.

Spex 実施前後で肩甲骨外転位の距離から肩甲

骨内転位の距離を引いた変化幅を比較すると,

左側にのみ有意な増加が認められた.また,Spex

実施後は,左右ともに肩甲骨内転位よりも肩甲

骨外転位の方が,より大きな距離の変化を示し

た.この結果から,ストレッチポール上に脱力し

た状態で仰臥位になると,重力の影響で得られ

た胸郭前面筋群の伸張性よりも,肩甲骨運動の

実施によって,肩甲帯周囲の内転筋群の方がよ

り大きな伸張性を示した可能性が考えられた.

重心動揺については,Spex 実施後に総軌跡長

が改善した被験者は,同様に単位軌跡長,重心中

心変位XOの値も改善した.この結果から,①Spex

が重心の移動距離を改善することができれば,

その移動スピードを減速させることができると

推察された.②重心の左右方向への移動範囲を

狭めることができ,③一定時間の重心の変化に

影響を与えることが推察された.

4.結論 本研究の結果,Spex は円背指数を変化させ,

姿勢の改善,重心の左右方向への安定性が強ま

る可能性があり,肩甲骨内転位への可動性を増

大させることが明らかになった.

以上のことから,Spex は,アスリートの体幹部

の安定性向上に貢献する可能性が考えられた.

主な参考文献 1) 寺垣康裕:脊柱後彎評価を目的とした座位円

背指数計測の信頼性と妥当性 理学療法科

学 19(2),P137‐140,2002

図 1 肩甲骨可動性 肩甲骨内転

A08 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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傾斜板が走り高跳びの踏切動作に与える即時的効果 キーワード:走り高跳び 傾斜板 即時的効果

〇礒﨑大二郎,小山宏之,田中康雄,大月菜穂子,小宗真,柴田篤志,野上大介,

水口善文,山田朋花(京都教育大学) ○緒言

走り高跳びは助走で得た水平速度を利用し,踏切動作

によって鉛直速度を獲得する種目である.先行研究より,

日本トップ選手と高校トップ選手では踏切動作,特に踏

切膝関節と振上脚大腿の角度変位に違いがあり,日本ト

ップ選手は踏切脚膝関節の大きな屈曲伸展と素早い振上

げを行っていた.これらの動作は地面に加える力積を大

きくし,鉛直速度の獲得に貢献していたことが示される.

競技者はこのような動作を,トレーニングを通じて獲得

する必要があるが,通常跳躍だけでは獲得が困難である.

このような場合,多くの指導者は教具を用いることで動

作の獲得を促しており,本研究では,膝の屈曲伸展を大

きく使うと仮定される傾斜板を踏切地点に設置し,傾斜

板の即時的な効果を明らかにすることで,指導現場に有

益な知見を提供できると考える.

以上のことから,本研究の目的は傾斜板が踏切動作に

与える即時的な効果をキネマティクス的に明らかにする

ことである.

○方法

K大学混成競技者男子6名の踏切動作を, 2台または

3台のハイスピードカメラを用いて撮影した(300fps).使

用した傾斜板は,高さ3㎝の平行板,傾斜3度の3度板,

傾斜5度の5度板の3種類で,その大きさは60×90㎝

であった.Frame DiasⅣを用いて撮影した映像から身体

計測点25点を抽出し,3次元DLT法を用いて3次元座

標に変換した後,重心高や重心速度,接地時間,踏切脚

膝関節角度,振上脚大腿角度を算出した.

〇プロトコル

各被験者,3日に分けて実験を行った.各日とも実験試

技は,固有の跳躍を3から5本,その後に傾斜板を用い

た跳躍を7から10本,最後に固有の跳躍を再度3から5

本行わせた.分析対象は踏切板使用前後の固有跳躍にお

いて最高記録の成功試技あるいは,被験者の感覚が最も

よかったものを採用した.

○結果及び考察

平均で見ると,踏切板使用前後での踏切離地時の重心

高(H1),跳躍高(H2),踏切脚膝関節角度の変位,最

大屈曲角度,振上脚大腿角度において大きな変化は見ら

れなかった.

そこで,踏切板使用前の成功記録が全て1.65mであっ

た被験者Nについて事例報告を行う.図表はNの踏切板

使用前よりも使用後に成功記録が向上した傾斜3度板使

用前後の踏切接地時間とパフォーマンス要因のH1とH2,

踏切脚膝関節角度,振上脚大腿角度の変位を示している.

Nは,3度板使用後に膝関節が大きく屈曲伸展している

ため,接地時間が大きくなっているが,跳躍高及びH1

も大きくなった.このような動作の変化は,日本トップ

選手の動作に近似したと示唆される.

○結論

傾斜板が踏切

動作に与える影

響は個々により

異なったが,個

人に注目すると

傾斜板の使用は

日本トップ選手

に近似した動作

を引き出す可能

性がある.

接地時間(s) 記録(m) H1(m) H2(m)

使用前 0.153 1.65 1.21 0.57

使用後 0.168 1.70 1.22 0.61

表 被験者Nの3度板使用前後の接地時間及び,記録,H1,H2

図 被験者Nの3度板使用前後の踏切脚膝関節角度,振上脚大腿角度

A09 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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視聴覚情報が姿勢動揺に及ぼす影響

○岡野真裕(京都大学人間・環境学研究科),神﨑素樹(京都大学人間・環境学研究科) キーワード:足圧中心動揺,同期現象、パワースペクトル,コヒーレンス 【緒言】 近接して並んだ 2 人が歩行や走行,ボディスウェイな

どのようなリズミカルな動作を行うとき,そのリズムの

周波数が同期するという現象がしばしば起こる.これら

の例のようなダイナミックな随意動作を伴う同期現象

を扱った研究は数多く存在する.同様な同期現象は,ス

ピーチを傾聴している人々や歌唱中の合唱団員の姿勢

動揺においても見られると考えられる。しかし、先行研

究のようにダイナミックかつ周期的な動作と異なり、姿

勢動揺はスタティックかつ非定常な出力であるため、同

期現象が観察されるか否か不明である。本研究は、姿勢

動揺の同期現象の発生を定量化することを念頭におき、

視聴覚刺激が静止立位の姿勢動揺に及ぼす影響につい

て検討した. 【方法】 被験者は 22~27 歳の健常成人 8 名であった.視覚刺

激と聴覚刺激に注意を向けたときの静止立位における

足圧中心(COP;center of pressure)動揺を測定した.視

覚刺激としてはコンピュータで作成した注視点,および

前後方向に 0.2Hzで揺れる倒立振り子の映像を,聴覚刺

激としては0.2Hzのうなりを伴う110Hzの正弦波および

440Hzのピープ音(振り子の位相検出に利用)を用いた.

被験者には振り子と音の刺激に注意を向けるよう教示

した.振り子の呈示の有無,うなり音・ピープ音の呈示

の有無,開眼・閉眼の条件を組合せ,全 11 試行を行っ

た.1回の試行は 2 分 30 秒とした.データ解析ではCOP位置の時系列波形のうち,最初の 20 秒を除いたものか

らCOP動揺のパワースペクトル,COP動揺と視聴覚刺

激の変化の周波数とのコヒーレンスを算出し,特徴的な

ピークが見られるかを検討した. 【結果】 振り子を呈示した試行のうち,うなり音が同位相のも

の及びうなり音無しのものでは,注視点を呈示した試行

と比較して,パワースペクトルにおいて 0.2Hz および

0.4Hzにピークが発生する被験者が多く見られた.また,

同じ周波数帯で有意なコヒーレンスが見られる被験者

も多かった.振り子とうなり音との位相をずらした条件

では,同位相およびうなり音無しの条件と比較して,同

じ周波数帯でのパワースペクトルのピーク,有意なコヒ

ーレンスが検出された被験者数は少なかった.

図 1 パワースペクトル(典型例)

図 2 コヒーレンス(典型例) 【考察】 検出されたパワースペクトルおよびコヒーレンスの

ピーク値の周波数と刺激の周波数が一致することから,

刺激が姿勢動揺に影響を与えたと考えられた.また視覚

と聴覚のリズムが不一致な条件では,刺激と姿勢動揺の

同期は発生しにくかった.すなわち,視覚と聴覚のリズ

ム受容が互いに干渉しうることがわかった.このことか

ら視覚と聴覚はリズムを受容する神経回路を共有して

いる可能性があり,それが姿勢動揺にも影響を及ぼす可

能性が考えられた. 【結論】 視覚と聴覚の刺激によって,姿勢動揺においても同期

現象が発生しうることが示唆された.

A10 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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半構造化面接法による歩行の動作観察の比較検討 ~膝関節疾患における検討~

○大桐将(山田整形外科病院),弓永久哲(関西医療学園専門学校),山田勝真(蘇生会総合病院),

来田宣幸(京都工芸繊維大学)

キーワード:半構造化面接法,理学療法,歩行,動作観察

1.緒言

理学療法士(以下 PT)は,治療を実施する際に仮説検

証作業過程を重視している.PT の仮説検証作業とは,患

者の動作を観察し,観察した動作を分析し,そこから問

題点を予測し,予測した問題点に対し治療を実施し,治

療効果を判定するという一連の過程である.

そのため,我 P々T は,日常の診療において患者の動作

を観察することに重点を置き,理学療法治療技術の核と

捉えている.

しかし,動作を観察する能力や方法は各個人により異

なり,さらには動作観察から導き出された問題点に対す

る治療アプローチも各個人により様々で,これは診療報

酬の観点から科学性のある治療行為であるとは言い難

い側面を有している.

動作観察能力は,各個人の知識や経験に依存すること

が考えられることから,その差を全て定量化することは

手法の観点から非常に困難である.そのため,本研究は

動作観察能力の要因を検証するための基礎的な研究と

して,インタビュー調査を実施することにより,PT の動

作観察時の思考過程を検討しようと試みた.その結果を

基に,PT の動作観察能力の差の一側面を検討しようと

考えた.

2.方法

対象者は,現職のPT5名を対象とした.各PTの臨床経

験年数は11年目,10年目,9年目,8年目,5年目である.

1 ヶ月前に右膝蓋骨骨折を受傷した患者の歩行動画

をPT5名に観察させ,観察後各PTにインタビュー調査を

実施した.動画内の患者には本研究に対しての説明と同

意を得た上で,患者の安全性についても十分に配慮し撮

影を実施した.動画内での歩行距離は 5m とし,2 往復さ

せ前後・左右方向から撮影を実施した.

対象者である PT へのインタビュー方法は,半構造化

インタビューとした.半構造化インタビューとは,事前

に大まかな質問事項を決めておき,会話の流れを踏まえ

て詳細な質問を行っていく方法である.利点は質問事項

に対する自由な回答が得られる点で,また短時間で調査

を行うことが可能である.本研究では 1 人当たり約 10

分程度のインタビュー調査を実施した.

データ分析方法は川喜田二郎が提唱したKJ法のA型

図解化とB型叙述化の方法を参考にした.インタビュー

調査で得たデータから研究内容に関連する部分を抽出

し,抽出した言葉を類似性に従い分類してグループ化を

行い,さらにグループ間の類似性を基にカテゴリー化を

行い最終的に図解化した.

各PTに1名ずつに歩行動画を観察させ,障害部位,問

題と考える相,問題と考えた相でのアライメント,予測

した問題点などについて質問をした.PT の動画観察時

間は30秒程度の動画を前後面・左右側面共に2回ずつ

計2分程度とした.

本研究では,実験前に口頭で説明し同意を得た.また

同意を得た上でインタビュー内容をICレコーダーで録

音した.録音中に個人情報が特定できる発言があった場

合には,その部分は削除しテープ起こしを行った.

3.結果及び考察

全ての図において【障害部位】,【問題点】,【問題と

考える歩行の相】,【量的評価】,【異常歩行の相】,【治

療選択部位】,【筋力】の7つのカテゴリーに分けるこ

とができた.

PT の経験年数に関わらず,共通する項目と相違があ

る項目とが認められた.共通する項目は,【障害部位】と

【治療選択部位】であった.一方,その他の項目に関して

は,相違があることが確認された.これは各PTにより観

察内容が異なるということと,そこから派生する治療ア

プローチが変わることを示唆している.

ただ,科学性を重要視している医療職であることもま

た事実であり,日本理学療法士協会も「EBPT」を掲げ根

拠に基づいた治療を行うことを強調している.その中で,

今回の結果が示すことは,各 PT の動作観察能力により

治療アプローチが異なり,治療効果が異なる可能性があ

るということで,一定した治療効果が得られにくいとい

う,いかに主観的観点から治療が行われているのかとい

うことも示唆しているのではないだろうか.

4.参考文献

1) 川喜田二郎,“発想法-創造性開発のために”,中央

公論社,1967

2) 川喜田二郎,“続・発想法”,中央公論社,1970

B06 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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女性における水平方向への跳躍能力の特性 - 跳躍運動の脚動作と疾走速度の関係から -

○志賀 充(びわこ成蹊スポーツ大学) キーワード,女性,ステッピング,ホッピング, 疾走速度

目的: 本研究では, 女性における疾走能力の改善を目指し

た跳躍運動に関する有益な知見を得るために, 水平方

向への跳躍能力と疾走能力との関係を明らかにするこ

とを目的とした. 方法: 被験者は女性 17 名とした. 被験者の年齢は 18.6±0.7

歳, 身長160.7±3.8cm, 体重55.8±5.1kgであった. 1 ) 60m走

疾走能力を評価するため被験者には, 最大努力による

60m 走を行わせた. 60m 走の運動パフォーマンスは, ス

タートから 10m 毎に光電管を用いて, 各区間タイムを

算出し, 平均速度を算出した.

2 )水平方向への跳躍運動

被験者は, ①5歩の片脚交互連続跳躍運動(以下5歩

ステッピング), ②5歩の片脚連続跳躍運動(以下5歩

ホッピング)を行わせた.

5 歩ステッピング,5 歩ホッピングの動作を撮影する

ために, 跳躍区間(10mの中間点5m)の側方30mにハイ

スピードカメラ1台(1/300fps)を設置した. 動作分析

区間は2歩目離地時から3歩目離地時までとした. 分

析項目は, ①跳躍距離, ②ステップ長, ③接地時間,

④滞空時間, ⑤各関節の角度, 角速度とした.

結果及び考察: 本被験者における 60m走の平均タイムは 9.52±

0.76secであった. また平均走速度は6.34±0.49m/sec

であった. 5 歩ステッピングの跳躍距離は, 10.27±

0.70m, 5歩ホッピングは, 10.05±0.68mであった. 10-60m における各区間の疾走速度と 5 歩ステッピ

ング, 5 歩ホッピングの跳躍距離では, 極めて高い相関

間関係が認められた(図 1). これは水平方向への跳躍

運動では, 脚のスイング動作が疾走運動と類似するこ

と, 片脚による高い出力を必要とすること, これらのこ

とが高い関係性を導き出した要因であると考えられる. 次に2つの跳躍運動における脚動作と疾走速度, 跳躍

距離との関係では, 跳躍における滞空局面の脚動作に

重要性が認められた. なかでも5歩ホッピングにおいて は, 滞空局面の前半である膝及び大腿部を素早く引き

つける動作と, 滞空局面の後半である膝及び大腿部の

図1 跳躍能力と60m走における各区間速度との関係

表1 跳躍における脚動作と疾走速度, 跳躍距離の関係

*…p<0.05, **…p<0.01 振り下ろす動作と疾走速度(速度最大値), 跳躍距離に

有意な相関関係が認められた. 一方, 5 歩ステッピング

では滞空局面の前半において膝を曲げる動作と疾走速

度, 跳躍距離に有意な相関関係は認められるものの, それ以外では相関関係は認められなかった. これらのこ

とから特にホッピングにおいて, 素早く脚を引きつけ

る動作, 接地前に脚を振り下ろす動作は, 疾走速度, 跳躍距離を高めるうえで重要な動作であると考えられた. これらの跳躍動作は, 疾走中の滞空局面における短時

間に脚をスイングする動作が類似することから, 有意

な相関関係が認められたと考えられる. まとめ: 女性における跳躍能力から以下のことが示された.

① 各区間の疾走速度を高めるために, 2 つの跳躍運

動の跳躍距離を獲得することは重要であった. ② ホッピングの滞空局面の脚動作は, 疾走速度, 跳躍

距離を高めるために重要であると考えられた.

B07 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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020406080

100

-5 5 15 25 35

n=83

020406080

100

-5 5 15 25 35

n=77

図1 小学6年生と中学2年生の身体の計測値の比較

頻度

(%

(A)股関節の柔軟性 (B)脚の形の変形度

両膝の間隔(mm)

020406080

100

-5 5 15 25 35

n=60

小学6年生 中学2年生

020406080

100

-5 5 15 25 35

n=62

0 10 20 30 40 0 10 20 30 40

020406080

100

-20-10 0 10 20

020406080

100

-20-10 0 10 20

n=77

-20 -10 0 10 20

020406080

100

-20-10 0 10 20

n=60男

020406080

100

-20-10 0 10 20

n=62女

-20 -10 0 10 20

立位体前屈(cm)

n=83

小学6年生 中学2年生

0%20%40%60%80%

100%

小6 中2 大1

A. 男子

小6 中2 大1

両肩を地面

に着けること

ができる

座ることのみ

できる

座れない

B. 女子 W字座りでの後傾度

図2 股関節の硬化度指標の10代における変化

人数

の割

※ 大学1年のデータはアンケート調査による

人の身体動作に見られる阻害現象と痛みの自覚症状の特徴との関係についての考察

○ 杉本歩,肥田嘉文,増田清敬,寄本明,南和広 (滋賀県立大学)

キーワード: 股関節,動作阻害,前屈,10 代

1.はじめに

人が等しく重力を受けて体重を脚で支えているのに、

脚の筋肉の発達に個人差があるのは不思議なことである。

筋肉の使用がその発達、硬化を招き、腰痛などの体の痛

みと関連するとすれば、これらの現象は、「体重を支える

のに必要な筋肉」の使用量が人により異なっているとの

考えで説明できる可能性がある。その考え方は「立位姿

勢の釣り合い点」の存在を仮定するものであり、人の脚の

起点である股関節への脚の接続の仕方、つまり、骨格の

形状である「Y 字」が、立位のメカニズムを暗示していると

の考え方である。起点が硬化することと脚の変形は関係

すると考えられる。 本研究では、この仮説を検証する一歩として、計測調

査により股関節の硬化度と、身体の特徴を表す指標値と

の関係を調べた。また、身体の痛みの自覚症状との関連

を見るためアンケート調査を実施した。 2.方法 1)小、中学生を対象とした計測調査 ①対象者および実施場所 彦根市内の小学(5 校)6 年

生 122 人および中学(4 校)2 年生 160 人について、各学

校にて昼休みおよび部活動の時間に実施した。 ②股関節の硬化度指標の測定 立位・長座体前屈の

測定および W 字座りでの後傾度の判定を行った。 ③身体の特徴を表す各指標値の計測 (a)両膝の間

隔:足首をそろえ脚を伸ばした座位姿勢で、電子ノ

ギスにて計測した。(b)足の屈曲度: 足関節の外側

への曲がり具合を紙に写し取り、角度として評価し

た。(c)重心動揺度: 姿勢の不安定度を表す総重心

軌跡長(LNG)を、重心動揺計にて測定した。 ④問診調査 前屈度および各指標値に影響を与える可

能性のある生活要因、腰痛・肩こりの有無(中学生のみ)

について問診を行った。また目視にて、靴底の減り

部位・症状 腰 痛 肩こり 背中痛 肩関節 膝 痛W字座り (股関節) ○/ /(△)ふくらはぎ ○/ ◎/ 足首より下部 /◎靴 (外・内側の減り) /○腰痛 - - - - -肩こり ◎ - - - -背中痛 ◎ ○ - - -肩関節の抵抗 ◎/○ /△ ○/△ - -膝痛 ○/ △/ -

表1 部位別の自覚症状と体の痛みおよび痛み相互の関連性

* 男女で異なる場合は、男子/女子 の順で示した。

* ◎: p <0.01, ○: p <0.05, △: p <0.10 * ( )は期待度数5未満が20%超。 の偏りを判定した。 2)ある姿勢や動作をとるときの違和感と体の痛みの自

覚症状についてのアンケート調査

①対象者および実施方法 本学の「健康・体力科学Ⅰ」

の履修学生(616 人)に対し、講義時(2012 年 10~11 月)

に用紙を配布してアンケートを行い、回収した(408 人)。 ②解析方法 有効回答が得られた 245 人に対して、ある

姿勢や動作時の特徴と体の痛みの有無とのクロス集計を

行った。そして、姿勢・動作時に違和感が出る部位と体

の痛みの発症との関連、および体の痛みの発症相互の

関連について独立性の検定を行った。 3.結果と考察

1)小、中学生を対象とした計測調査 股関節の硬化度

の指標として測定した立位体前屈では、小学 6 年生より

中学 2 年生で低値側の割合がわずかに高かったが、両

者の間に大きな違いは見られなかった(図 1 A)。一方、

両膝の間隔においては、男女ともに小学生に比べて中

学生で 0 mm の人の割合が低くなり、高値側へ分布の広

がりが見られるようになった(図 1 B)。

2)体の痛みの自覚症状との関係 W 字座りでの後傾

が苦手な人の割合は、男子でも、もともと苦手な人が少な

い女子でも、学年が上になるほど高かった(図 2 A, B)。

体の痛みの発症に関連が見られた部位は、男子ではふ

くらはぎ、女子では足首より下であった(表 1 上)。また、

男女ともに腰痛の発症と、肩こり、背中痛および肩関節

の抵抗の発症とが関連することが示唆された(表 1 下)。

大学

1 年 n=101

中学

2 年 n=77

小学

6 年 n=62

小学

6 年 n=60

中学

2 年 n=83

大学

1 年 n=77

B08 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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等尺性収縮時の大腿直筋およびその中央腱膜の三次元構築

およびその動的変化 ○ 方城素和(京都大学大学院人間・環境学研究科), 神﨑素樹(京都大学人間・環境学研究科)

キーワード:大腿直筋、中央腱膜、超音波、シミュレーション

【緒言】 大腿直筋は大腿四頭筋を構成する四つの筋のうち唯一の二

関節筋であり股関節屈曲及び膝関節伸展の作用を持つが、

先行研究から複合的な活動をしていることがわかっている。

また解剖学的研究から大腿直筋の構造は複雑であり、中央

腱膜がその複雑性に寄与していることが示唆されている。

加えて、臨床的研究により大腿直筋は大腿四頭筋の中で最

も損傷しやすくその損傷の多くに中央腱膜が関与している

ことが示されている。これらの研究は核磁気共鳴法(MRI)

などの断面画像をもとに行われているが、3 次元でかつ、

動的に行われた研究は知られていない。そこで本研究では

超音波診断装置、並びに三次元位置測定装置を用いて大腿

直筋をモデル化し、コンピュータ上で動的シミュレーショ

ンを行い、ストレイン(歪み)についても視覚化した。 【方法】 被験者は椅子に座り股関節伸展位(股関節 180°伸展、膝関

節 90 度屈曲)及び股関節屈曲位(股関節 90°屈曲、膝関節

90 度屈曲)の二つの姿勢で実験を行った。右足関節上部に

装着した三分力計により膝関節伸展、股関節屈曲時の最大

発揮筋力(MVC)を測定しその後各姿勢について安静時及

びそれぞれの 10,20,30,50%MVC に相当する等尺性膝

関節伸展及び股関節屈曲収縮を行った。筋収縮中三個の三

次元位置測定装置を貼付した超音波プローブを用いて膝蓋

骨から上前腸骨棘まで大腿直筋の中央腱膜及び筋膜の超音

波横断画像を連続的(25Hz)に撮像した。画像から中央腱膜

及び筋膜の二次元座標を算出し三次元位置測定装置と同期

させコンピュータ上で補完し大腿直筋の筋膜、中央腱膜を

三次元で構築し、さらに安静時、10,20,30,50%MVC

試行時のデータを補完し安静時から 50%MVC 試行時まで

の連続画像をシミュレーションした。また各画像における

筋膜、中央腱膜を小区間に分割し面積に応じてカラーマッ

プを用いることによりストレインの割合を視覚化した。

【結果】 股関節屈曲収縮、膝関節伸展収縮のともに固有の変化が認

められ、股関節伸展位と比較して股関節屈曲位において中

央腱膜のより大きな変化が認められた。カラーマップから、

筋膜においては収縮形態によらず、筋中央部において強い

収縮がみられ(図 1A)、中央腱膜では中央部全体が伸張さ

れる傾向がみられた(図 1B)。

図 1A

図 1B

図1大腿直筋(A)および中央腱膜(B)のストレインカラー

マップの典型例。(カラーバーの上位ほど伸張を示す。) 【考察】 大腿直筋は作用、股関節角度により収縮形態が異なること

が示唆された。また中央腱膜の中央部が伸張され、筋膜に

おいては中央部で強い収縮がみられたことから、筋線維の

収縮の違いが中央腱膜に負荷をかけることになり、その結

果として中央腱膜付近で筋損傷が発生しやすいのではない

かと考察された。 【結論】

本研究より、大腿直筋の収縮形態は股関節角度および収縮

作用に依存していること、中央腱膜が収縮中に伸張されて

いることが示唆された。

B09 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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食行動の総合的代謝評価 ○石原達朗(同志社大学スポーツ健康科学部),山本満(同志社大学スポーツ健康科学研究科) 田中歌(同志社大学スポーツ健康科学研究科),海老根直之(同志社大学スポーツ健康科学部)

キーワード: エネルギー消費,ヒューマンカロリメーター,寒冷刺激 【目的】

実生活で生じている食事の代謝影響を総合的に評価

した報告は著者の知る限り存在しない.しかし,食事誘

発性熱産生(Diet Induced Thermogenesis:DIT)だけでも

1 日のエネルギー消費(Energy Expenditure:EE)の 10%を占めるため,食事に関連して生じるEEを適切に把握

することはヒトがエネルギー恒常性を保つうえで重要

である.食事中の身体活動による代謝量,DIT,寒冷刺

激による代謝亢進を,代謝測定法の実験室的ゴールドス

タンダードであり(Kumahara et al., 2004),唯一正確な

食事中の代謝測定を可能にするヒューマンカロリメー

ター(Human Calorimeter:HC)法を用いて測定するこ

とで,食事にまつわるEEをエネルギーバランスの観点

から総合的に評価することを目的とした. 【対象・方法】

実験参加に同意した健康な 8 名の男子学生を対象と

した(年齢:22±1 歳,身長:170±2 cm,体重:66.7±6.7 kg,体脂肪率:16.4±4.1%).6時間以上の絶食後に測定

を開始することとし,前日からの激しい運動は控えさせ,

活動を日常的な行動に制限した. 1.試験食

市販のノンカロリーサイダー(イオン社製)をゆず

果汁(ハグルマ社製)で調味し,低カロリー氷菓を自

作した.提供温度は平均で-16.3℃であった.250g(3 kcal)を 5 回に分け,扉に設けた専用のポートを通じて

提供し,都度 5 分以内に摂取させた.また,食事によ

る代謝亢進効果を評価するためには,噛まずに摂取で

きるコントロール食を用意する必要がある.そこで,

氷菓と同量,同成分の常温液体をコントロールとした. 2.実験手順

本研究はプラセボ効果と順序効果を除外するため

クロスオーバー・デザインにて実施した.HC に入室

させ基線となる安静時代謝を把握するために 45 分間

座位安静を保たせた.以後は氷菓摂取後に 90 分間の

安静を維持させるA 試行,またはコントロール飲料摂

取後 35 分間の安静を維持させる B 試行の実施順序を

ランダムに割り付け,代謝の評価を行った. 3.統計処理 値はすべて平均値±標準偏差で示した.亢進した EE

の平均値の検定には対応のある t 検定を用いた.統計的

有意水準は 5 %未満とした. 【結果・考察】

両群のエネルギー消費量の比較を図 1 に示した.氷菓

による代謝亢進量は 19.4±5.6 kcalであり,コントロール

群の 3.4±1.2kcal に対して有意に高値を示した.氷菓群

の代謝量が大きく亢進した要因は,固体摂取による咀嚼

運動の誘発に加え,非ふるえ熱産生(Non-Shivering Thermogenesis:NST)によるEEの増加が考えられる(松

本,2011).氷が身体から奪う熱量の理論値は本研究の

被検食の場合,約 27 kcalと試算でき,身体から奪われ

た熱量を補う体温調節のための代謝亢進が大部分であ

ったと推察される.以上より,低カロリー氷菓の摂取は

エネルギーバランスを負に傾ける,消費が優位な行動で

あることが明らかとなった. また,NST のための特殊な臓器として,近年,成人

でも存在することが明らかになった褐色脂肪細胞は,寒

冷暴露により活性が増すことも報告されている(松本,

2011).積極的に実施されているのは,外的な寒冷暴露

による動物実験などであるが(斉藤,2003),食事によ

る寒冷刺激が体内から交感神経に影響を及ぼし活性を

高める可能性も考えられ,更なる研究が必要である.

【主要文献】 1) 松本孝朗. 寒冷順化. からだと温度の事典, 59-61. (2011)

2) 斉藤昌之. エネルギー消費の自律的調節と肥満に関する分

子栄養学的研究. 日本栄養・食糧学会誌, 56, 33-39. (2003)

3) Kumahara et al., The use of uniaxial accelerometry for the

assessment of physical-activity-related energy expenditure: a

validation study against whole-body indirect calorimetry. Br. J.

Nutr., 91, 235-243, (2004)

B10 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 20 -

女性スポーツ選手のトレーニング期における 温熱負荷時の体温調節反応

○ 佐藤 琢磨(京都工芸繊維大学大学院) 久米 雅(京都文教短期大学), 常岡 秀行(京都工芸繊維大学大学院)

芳田 哲也(京都工芸繊維大学大学院) キーワード:運動習慣,暑熱順化 ,女性

【緒言】近年,快適環境での生活が一般的となった

現代日本人においては,暑熱・寒冷に対する適応能

力の減退が示唆されている 1).夏季に多発する熱中症

を減少させるためには,現代日本人における暑熱適

応能力を向上させることが重要である.暑熱下での

運動トレーニングは暑熱適応能力を向上させる最も

効果的な方法であるが,夏季における過度な身体ト

レーニングは脱水を引き起こす可能性があり,さら

にオーバートレーニングは疲労を蓄積させて健康を

損なう恐れがある.また,女性には性周期があり,

それらが体温調節能力に影響を与えることが報告さ

れている 2).そこで本研究では女性スポーツ選手を対

象に,下肢温熱負荷時の体温調節反応を測定し,健

康的な一般女性と比較検討した. 【方法】被験者は体育会系運動部に所属し,週 3 日

以上, 1回の時間が 180 分程度の運動を実施してい

る成人女子学生 11 名(FEH 群)と,週 2 日,1回の時

間が 120 分程度のレクリエーション的な運動を実施

している成人女子学生 8 名(FE 群) ,及び運動習慣の

無い成人女子学生 12 名(FN 群)を対象とした.被験者

は長袖 T シャツと半ズボンを着用し,早朝空腹時に

環境温度 25℃の実験室で 30 分間以上の安静の後,遠

赤外線スチーム足浴器(Panasonic 社製,EH2862P)の温

度を 44℃に設定し,60 分間下肢加熱を行った.実験

は 5 月と 8 月に性周期を調節して行い,下肢温熱負

荷時の食道温(Tes),平均皮膚温,前腕部皮膚血流量

(SkBF,OMEGAWAVE 社製,FLO-C1),前腕部発汗

量(SR,SKINOS 社製,SNK-2000),測定した.また, SkBF 及び SR が急激に上昇する Tes の値と Tes の最

低値との差をそれぞれΔTes-SkBF,ΔTes-SR とした. 【結果と考察】夏季に暑熱順化が生じると,Tes-SkBFおよびTes-SR が低下し,温熱負荷中の体温上昇が小

さくなることが報告されている.本研究のFEH 群の

ΔTes-SkBF は 5 月に比べて 8 月に有意に高く,また

8 月においてはFEH 群がFE 群,FN 群に対して有意

に高い値を示した(図1).ΔTes-SR の値においても,

FEH 群が 5 月に比べて 8 月に高い傾向を示し,8 月

では FE 群に比べて有意に高い値を示した(図1).

しかし安静時のTesは各群間で同様の傾向を示した. 本研究の女性スポーツ選手は,運動習慣を持たな

い女性や週 2 回程度のレクリエーション的な運動習

慣を持つ健康的な女性よりも,夏季における温熱負

荷時の体温上昇に対する発汗や皮膚血流反応が遅い

ことが示された.FEH 群では実験前日の身体トレー

ニングを制限しなかったため,8 月の実験当日は脱水

や疲労が進行し,自律神経機能が低下していた可能

性が考えられる. この様に,スポーツ選手においても夏季に過度な

身体トレーニングを実施すると,温熱負荷に対する

放熱反応が低下する可能性が示された.

【参考文献】 1) 中井誠一,新矢博美,芳田哲也,寄本明:日常

生活で曝露される温度の年間変動,日本生気象

学会雑誌,42 (3),57,2005. 2) 井上芳光,近藤徳彦:体温Ⅱ,NAP, 238-245,

2010.

図 1.温熱負荷時に皮膚血流(SkBF)及び発汗(SR)

を増加させる食道温上昇(ΔTes)の比較 (*,p<0.05)

C06 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

- 21 -

野球のゴロ捕球における空間制御 - 捕球体勢とフットワークから -

○長谷川弘実(京都工芸繊維大学大学院),神谷将志(京都工芸繊維大学),来田幸宣(京都工芸繊維大学) 野村照夫(京都工芸繊維大学)

キーワード:キャッチ,フットワーク,捕球体勢,ばらつき, 緒言:「キャッチ」という動作は大築(1988)によっ

て「標的を捕捉することである.」と定義されている.

野球のゴロ捕球は,「キャッチするために動く標的を捕

捉しつつ身体を適切な位置に移動させる」,視覚性制御

課題と捉えることができる.そこで本研究では捕球体勢

と捕るまでのフットワークに着目し,動作のばらつきを

指標として,その制御を明らかにすることを目的とした. 方法:実験はK大学グラウンドで行い,被験者は硬式

野球経験のある男子学生 5 名(競技歴:11.6±1.3 年),

全員右利きを対象とした.技量レベルは ID1,ID2 を技

量上位群,ID3~ID5 を技量下位群とした.実験環境は

図1のように設定し,被験者はノックされた打球(硬式

球)を捕球し,送球捕球者まで送球することを試技とし

た.ノックの打球は被験者の位置から 4m~8m の範囲

に打たせた.被験者の構えから捕球までの動作をハイス

ピードカメラ 4 台(200fps,露出時間 1/10000 秒)で撮

影した.撮影した映像から動作解析ソフト(Frame-DIAS

Ⅳ:DKH 社製)を用いて 3 次元DLT 法より座標情報を

得た.構えから捕球までを「フットワーク局面」と「捕

球局面」に分け,成功試行のうち捕球体勢で捕球した試

行のみを分析対象とした.算出項目として,標準偏差や

変動係数をばらつきの指標とした.具体的な項目として,

フットワーク局面ではステップ長とその変動係数,ステ

ップ角度の標準偏差,ステップごとで,ばらつきの大き

さ(着地中心からの距離の平均値),座標ごとの標準偏

差を求め,「捕球局面」では捕球時刻における捕球位置

までの距離,捕球位置の座標ごとの標準偏差,捕球時ス

テップ長の変動係数,捕球時ステップ角度を求めた. 結果:成功試行のうち分析対象であった試行は ID1が12試行(成功試行16試行),ID2が14試行(16試行),

ID3 が 15 試行(15試行),ID4 が 12 試行(15 試行),ID5が 11 試行(15 試行)であった. 捕球時局面において,

捕球位置までの距離は ID1 が 0.31±0.16m,ID2 が

0.31±0.10m,ID3 が 0.41±0.19m,ID4 で 0.52±0.16m,ID5で 0.41±0.17m であり,技量上位群の方が下位群よりも

値が小さい傾向がみられた.捕球距離の標準偏差につい

ては ID2 が最も小さい値であったが,技量レベルの傾向

はみられなかった.次に捕球位置を座標ごとでみると,

x座標(前後方向)ID1 が 0.11m,ID2 が 0.05m,ID3が 0.14m,ID4 が 0.22m,ID5 が 0.13m であった.同様

に y座標(左右方向)では ID1 で 0.22m,ID2 で 0.15m,

ID3 で 0.22m,ID4 で 0.37m,ID5 で 0.28m であった.

このことから,技量レベル上位群では前後方向のばらつ

きが下位群よりも小さい傾向がみられた.また,左右方

向のばらつきは,技量下位群で大きい傾向がみられた.

次に捕球体勢の指標であるステップ角度の標準偏差で

は,ID1 が 18.6 度,ID2 が 17.0 度,ID3 が24.7 度,ID4が30.9度,ID5が34.5度と技量レベルが下がるにつれ,

大きくなった.フットワーク局面では,被験者 5 名の傾

向が似ていたため,各々の平均値を代表値として考え分

析を行った.その結果,ステップ長は3歩目(0.96±0.13m)

で最小値であり,2 歩目(1.18±0.12m)よりも有意に小

さい値であった.また,ばらつきの大きさについても3歩目(0.41±0.07m)が 3 歩目を除く他のステップよりも

有意に大きい値であった.座標ごとの標準偏差では,y座標(左右方向)の 3 歩目(0.44±0.08m)において他の

ステップよりも有意に大きい値であり,3 歩目のx座標

(0.22±0.10m)よりも有意に大きい値であった. 考察:捕球局面において,技量上位群の値が下位群よ

りもばらつきが小さい傾向が各項目でみられた.このこ

とから捕球局面は技量レベルがあがると再現性の高い,

安定した動作になると考えられる.異なる打球に対して

の調節はフットワークで行っていると考えられ,3 歩目

(捕球直前の右足)のステップ長を短くし,左右方向で

調節していると考えられた.これは長谷川ら(2012)の

室内実験と同様の結果が得られた.

x

y

z

送球捕球者

ノッカー

高速度カメラ

2m

25m

10m

10m

1m

4m

4m

図 1 実験環境

C07 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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野球打撃におけるバスター動作指導法の研究 ○西 純平(立命館大学スポーツ健康科学研究科),岡本直輝(立命館大学スポーツ健康科学部)

キーワード,バスター動作、打球パフォーマンス、動作時間短縮、 【緒言】バントとヒッティングの要素を含むバスター

動作は、守備側を惑わす有効な奇襲戦術の一つである。

加えて、戦術面とは別に、「フォーム矯正やタイミング

微調整を目的にバスター動作を活用する」(田尻,2011)などバットコントロール等の“正確性”向上を目的とす

る指導例が多く見られる。しかし、これまでにバスター

動作の有効性やその特徴を科学的に明らかにした研究

はない。特に打者が放った打球とフォームの関係につい

て調べることは、打撃研究にとって重要だと考える。 そこで、本研究は実際の投手が投球する条件下のもと

で、大学野球選手に一般的な打撃動作(以下、ノーマル

動作)とバスター動作を行わせ、その動作の比較検討を

行い、バスター動作指導法の基礎的な知見を得ることを

目的とする。 【方法】被験者は、立命館大学硬式野球部に所属する

大学野球選手 10 名とした。被験者は、打撃投手が投球

する 115±2.4km/h のボールをノーマル動作とバスタ-

動作で実打を行なった(各 30 球)。被験者が放った打球

を「打球速度が速い強襲ゴロ・ライナー性・平凡なゴロ」

とチームに所属するコーチ2 名が判断し、記録を行った。 被験者の打撃動作を DV カメラ(SONY 社製

HDR-HC9)を用いて撮影し、動作解析システム(DKH社製:Frame DIAS Ⅳ)にて 3 次元DLT法を用いて分析

を行なった。得られた 3 次元座標をもとに、バット先端

の移動速度及び打撃動作中の重心点の移動変位を算出

した. 【結果及び考察】図 1は、被験者が放った打球の平均

本数を打球種類別に示している。両動作間に平均飛球数

に有意な差は認められなかった。加えてバスター動作は

「スイング速度が低下する」という指導者の認識が多い

が、本研究の結果では両動作間にスイング速度の有意な

差は認められなかった。図2 は、打撃動作時におけるス

トライド期(踵が離地してから再接地するまで)に要し

た時間を示している。バスター動作の方がノーマル動作

に比べ、ストライド時間が有意に短かった(p<0.05)。このストライドの時間差は、打撃動作時間を短縮させ、

タイミングエラーを減少させたものと考えられる

(Schmidt,2009)。図 3,4 は YZ 平面上における重心高

の変位を示している。バスター動作はインパクト局面ま

で重心を低く一定の高さで維持しながら並進移動させ、 スイングしていることがわかる。重心の上下動が小さく

なったことは、打撃動作時の目線の上下動を減少させる

ことが予測される。 以上の結果からバスター動作はノーマル動作と同じ

パフォーマンスを保ちながら、打撃動作の正確性を高め

ていることが考えられる。また、これらの結果は「バッ

トコントロールやタイミング調節等の“正確性”向上を

目的としてバスター動作を活用する」という指導者の経

験や勘を支持する結果であり、バスター動作を指導する

際の基礎的知見になると考えられる。

図1 打球種類別に見た飛球本数 図2 ストライド時間

図3 【ノーマル動作】 重心高変位

図4 【バスター動作】 重心高変位

C08 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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フィールドホッケーにおけるスイープヒットの動作解析 - 社会人選手と大学選手の動作の比較 -

○山堀貴彦(聖泉大学)

キーワード:ボール速度,重心,並進速度,角速度

【緒言】フィールドホッケーで用いられるストロークは

大きく分けて,ボールをスティックで打つヒット動作と

ボールをスティックで押し出すプッシュ動作の2つに

分けられる.ヒット動作の中でもボールスピードが比較

的速いうえ,コントロールがしやすく安定したパス,シ

ュートが行えるスイープヒット(以下スイープ)がある.

スイープとは,スティックを握った手を地面すれすれま

で下げてスティックを地面と平行にし,地面を掃くよう

にしてボールを打つ打ち方である.主にディフェンスラ

インでのボール回しやディフェンダーから前線へのロ

ングパスなどに使用される.スイープはヒット,プッシ

ュに並ぶ基本的なストローク技術であり,競技中も多く

の場面で使用される機会がある.ストロークのスピード

が速ければ競技中のプレー,作戦の幅が大きく広がる.

しかし,過去のスイープについて動作解析がなされてい

ないのが事実である.そこで本研究は,速いボールを打

ち出すための動作について事例的に検証した.

【方法】被検者は,男子ホッケー日本代表候補選手2

名と関西学生ホッケー1部リーグに所属する大学生2

名とした.試技は,ゴールから40m離れた地点に、縦

3m×横4mの運動範囲を作成し、試技1(運動範囲内

で自分がボールを打ちやすい位置に移動させて打つ)と

試技2(静止しているボールを打つ)を被験者が納得す

るまで行い,高速度ビデオカメラ(CASIO社製EXILIM

EX-F1)を2台用い、600コマ/secで撮影し,分析ソフ

ト(DKH社製フレームディアスⅣ)を用いてDLT法によ

り3次元座標値を算出し,ボール速度,重心の移動速度

(並進速度、鉛直速度),両肩,両腰角度・角速度,ステ

ィック先端の速度(並進速度、回転速度)を比較分析し

た.

【結果】図1は試技1の社会人と大学生で比較したステ

ィックの並進速度の変化を示している。社会人は並進速

度が最大になる前に低い数値になり,なおかつそこから

最大速度までいっきに加速しているのに対し,大学生で

は社会人のような変化量はみられなかった.

また,図2はスティックと両肩の角度変化を表わして

いる.グラフを見ると社会人が2名共一度大きくマイナ

スの値になり,プラスの方向に大きく加速している。つ

まり上半身を大きくひねっている事といえる.

【考察】スティックの並進・角速度の変化量を大きくす

る為にボールを打つギリギリまで上半身をひねって移

動距離を稼ぎ,並進速度をボールに伝えることがボール

速度に大きく関係しているのではないかと思われる.本

実験では関係は出なかったものの,重心の速度が他の3

名より大きく飛びぬけている選手もおり,多くの選手の

スイープ動作を解析する事で重心移動速度とボール速

度の関係性が見出せるのではないかと思われる.

【結論】スイープ動作はスティックの並進速度および角

速度がボール速度に大きく影響しており,並進・角速度

が速く速度変化量が大きいほどボール速度が速くなる

結果になった.

両肩の角度変化

-60-40

-2002040

6080

1 39 77 115 153 191 229 267 305 343 381 419 457

ボールリリースまでのコマ数

Y軸

に対

する角

度(°

)

大M

大I

社K

社Y

社会人

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

1

25

49

73

97

121

145

169

193

217

241

265

289

313

337

361

385

409

433

457

481

ボールリリースまでのコマ数

並進速度(m/sec)

社K

社Y

大学生

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

1

24

47

70

93

116

139

162

185

208

231

254

277

300

323

346

369

392

415

438

461

484

ボールリリースまでのコマ数

並進速度(m/sec)

大M

大I

図1 スティックの並進速度の比較

図2 両肩の角度変化

C09 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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テニスにおけるサービスの新トレーニング方法が 即時的にコントロール能力へ与える影響

○飯塚賢太郎,志賀充(びわこ成蹊スポーツ大学) キーワード:サービス,コントロール,有効範囲 緒言 テニスにおいてサービスは試合展開のために重要な

ショットとされている(宮地,2010).しかし,サービ

スの練習方法は多くない.本研究ではネット上の高さの

有効範囲を示した練習方法により,サービスコントロー

ル能力向上を目的とした.

方法 被験者は本学男子学生テニス部員 12 名とした.ネッ

ト上の 50 ㎝の高さに赤色のテープを設置し,20 本の練

習をさせ,練習前後にフラットサービスによる 10 本の

能力測定を行った.能力測定時のバウンド地点,ネット

上通過点,トス位置,インパクト位置を撮影し,分析し

た.また,実験前後に行ったアンケートにより,サービ

スに対する得意意識と練習方法に対する評価も調査し

た.

結果と考察 本研究の結果から,イメージ指示前後での点数の平均

は10.7±5.4点から11.0±5.7点と有意差は認められな

かった. ネット上の通過点の分析でも,有意差は認められなか

ったが,高さの平均が108.4±13.2cmから111.8±17.2cmに上昇する傾向がみられた.このことから,本研究の方

法によりサービス時に多いとされるネットミスを減少

させる可能性が示唆される.またネット上の通過点にお

いて,高さ(26.4±11.0cmから 22.6±7.0cm)と左右(54.8±13.6cmから 52.0±7.7cm)の両方で誤差範囲が減少す

る傾向がみられた.このことからネット上の通過点の制

御能力が向上した可能性があり,本研究の方法でサービ

スコントロール能力の向上に繋がる可能性が示唆され

た. トス位置とインパクト位置の分析でも,有意差は認め

られなかった.トスは前方 30cm地点に上げるのが理想

とされており,本研究の研究では,トス位置が前方 25cm地点に近づき,それに伴ってインパクト位置が前方

30cm 地点に近づく傾向が見られた.つまり,トスに関

するアドバイスをせずに,理想とされる位置に近づける

ことが出来た.そのためトスとインパクトを,ネット上

の高い位置を狙うために自然な位置に改善できたと可

能性がある.このことからも,本方法によってコントロ

ール能力の向上に繋がる可能性が示唆された. アンケートでは,フラットサービスの得意意識につい

て,5 点満点中 2.50±0.96 点から 2.83±0.80 点と肯定的

に変化した.練習方法の評価については5点満点中,4.50±0.65 点と肯定的な意見が得られた.しかし,得意意識

を示す点数が向上した被験者には,バウンド地点による

点数が向上した者と減少した者の両方がみられた.この

ことから,得意意識の変化はコントロール能力向上によ

るものではなく,新しい練習の導入によるものだと考え

られる.また,同様の理由で本研究の方法での練習がア

ンケートで肯定的な評価を得たと考えられる. 以上の結果から,本研究の方法による練習は統計的に

有意差がみられなかったものの,サービスのコントロー

ル能力にある程度効果がある可能性がある.今後この練

習方法を長期間行うことで,トス位置とインパクト位置,

ネット上の通過点が改善され,コントロール能力が向上

するかどうかの検証を行う必要がある.

図1:ネット上の通過点の変化

参考引用文献 宮地弘太郎(2010)テニスのサービスゲームに関

する研究-ユニバーシアード・ベオグラード大会

から-.関西国際大学研究紀要,11:247‐251

(㎝)

灰色:練習前

黒 :練習後

円の大きさは誤差範囲

(㎝)

C10 京都滋賀体育学会 第 142 回大会 発表抄録集

[2013.03.09 京都工芸繊維大学・京都ノートルダム女子大学]

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重りを利用した鉄棒振り上げ運動の

即時的な動作影響について

○小早川理,志賀充(びわこ成蹊スポーツ大学)

キーワード,鉄棒振り上げ運動,股関節角速度,即時的な動作影響

緒言:

本研究では,鉄棒における振り上げ動作を行い,

重りを利用した鉄棒振り上げ運動の即時的な動

作影響について検討することを目的とした.

研究方法:

被験者は,男子大学生 10 名(年齢 21.1±1.52

歳, 身長 174.7±6.68cm, 体重 67.2±

6.58kg)を対象とした. 体重に対して 10%の重

りを左足関節に装着し,10回振り上げ運動を行わ

せた. 振り上げ運動では,重りをつける前(以

下:before)・重りあり(以下:load)・重りを外し

たあと(以下 after)の動作分析を行い,即時的な動

作影響を検討した.なお load の分析試技は 5回目

とした.

結果と考察:

本研究の結果から,before と after の股関節(20

~26%地点),肩関節(17~20%・82~85%地点)

の屈曲角速度に有意差が認められた(図左). 振り

上げ運動で重りをつけたことにより,体幹に近い

筋放電が大きくなると報告されている(東ら.

1993).本研究でも腸腰筋や腹筋が刺激されたこ

とにより, 股関節角速度が向上し, 振り上げ速度

向上につながったと考えられる. また before と

after を比較すると股関節屈曲角速度のピーク値

が after では遅れて出現している. このことか

ら load による学習効果によって after のピーク

値が遅れたと考えられる.

図右の肘関節角度では,before より after のほ

うが,肘関節は屈曲しない傾向を示した.before

のように振り上げ運動の途中で肘関節が屈曲す

ることは,振り上げ速度の減少を招くと考えられ

る.この理由は肘関節が屈曲することで, 回転半

径を減少させると考えられる. さらに上腕の筋

に対して過緊張を招くことから, 振り上げ速度

の低下を示すと考えられる. 一方, after のよう

に肘関節を屈曲せずに振り上げ運動を行うこと

で, 回転半径を大きくすることができること,

さらに広背筋や大円筋など体幹に近い大筋群を

利用して振り上げ運動が可能になると考えられ

る. これらのことから重りを利用した振り上げ

運動の場合, 肘関節が屈曲するというマイナス

要因を軽減させる可能性が考えられた.

図:股関節角速度(左)と肘関節角度(右)

まとめ:

振り上げ運動では, 体重の 10%に負荷を設定

し,after で振り上げ速度の向上が認められた.さ

らに振り上げ運動中の肘関節屈曲というマイナ

ス要因を軽減させる可能性が示唆された.

よって,重りを利用した鉄棒振り上げ運動は,

振り上げ速度の向上に効果的であると考えられ

る.

京都滋賀体育学会第 142 回⼤会 実⾏委員会

委員⻑ 萩原暢⼦(京都ノートルダム⼥⼦⼤学) 【⼤会⻑】 副委員⻑ 野村照夫(京都⼯芸繊維⼤学) 【副⼤会⻑】 委員 芳⽥哲也(京都⼯芸繊維⼤学) 委員 来⽥宣幸(京都⼯芸繊維⼤学) 【事務局】 委員 内⽥和寿(京都ノートルダム⼥⼦⼤学) 【事務局】

京都滋賀体育学会第 142 回⼤会発表抄録集 発⾏⽇ 平成 25 年 3 ⽉ 9 ⽇(⼟)発⾏ 発⾏者 岡本直輝 発⾏所 京都滋賀体育学会

612-8522 京都市伏⾒区深草藤森町 1 番地 京都教育⼤学体育学科 中⽐呂志

編集者 京都滋賀体育学会第 142 回⼤会実⾏委員会 萩原暢⼦・野村照夫

編集所 京都滋賀体育学会第 142 回⼤会事務局 606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町 1 番地 京都⼯芸繊維⼤学 来⽥宣幸