嚥下機能評価と嚥下リハビリ 食事選択の一助として...嚥下とは...

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嚥下機能評価と嚥下リハビリ 食事選択の一助として 嚥下プロセスモデルと 食事選択について 耳鼻咽喉科 八幡 隆史 岡田 優彦 言語聴覚士

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Page 1: 嚥下機能評価と嚥下リハビリ 食事選択の一助として...嚥下とは 嚥下とは、飲みこむこと。 食物を口腔から中咽頭、下咽頭、食道を経

嚥下機能評価と嚥下リハビリ 食事選択の一助として

嚥下プロセスモデルと 食事選択について

耳鼻咽喉科 八幡 隆史

岡田 優彦 言語聴覚士

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嚥下とは

嚥下とは、飲みこむこと。

食物を口腔から中咽頭、下咽頭、食道を経て胃に搬送する一連の運動である。

→食べ物を見て、口に取り込み、咀嚼して塊を作り、飲みこむということ。

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梨状陥凹

喉頭蓋 声帯

披裂部

内視鏡所見

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嚥下運動

①先行期:食べ物の認知、食べることの理解 ②準備期:口への取り込み、咀嚼、食塊形成など ③口腔期:食塊が咽頭まで送り込まれるまで ④咽頭期:嚥下反射が起こり、食道に移送する ⑤食道期:食道の蠕動運動で食塊を胃に移送する

摂食・嚥下過程の流れ 言語聴覚士リハビリテーション情報サイト:STナビ http://stnavi.info/dysphagia/swallowing-dysphagia/post-349/ 2016/11/12 引用(一部改訂)

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摂食・嚥下障害

①先行期:食べ物の認知、食べることの理解 ②準備期:口への取り込み、咀嚼、食塊形成など ③口腔期:食塊が咽頭まで送り込まれるまで ④咽頭期:嚥下反射が起こり、食道に移送する 1)鼻咽腔閉鎖 4)声門閉鎖 2)口腔と咽頭の遮断 5)咽頭収縮 3)喉頭挙上 6)食道入口部開大

⑤食道期:食道の蠕動運動で食塊を胃に移送する

どこか1か所でも障害されると…

摂食・嚥下障害

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嚥下障害の原因 (1)感覚入力の障害 嚥下反射を起こす機械受容器、化学受容器の機能低下 例)放射線化学療法、加齢、唾液分泌障害、悪性腫瘍など

(2)中枢性障害 脳幹の障害→嚥下反射の惹起障害、嚥下運動の出力障害など 例)脳血管障害、脳炎、脱髄疾患、脳幹部腫瘍など

(3)運動神経および嚥下関連筋の障害 嚥下運動の遠心性経路(三叉神経、迷走神経、舌下神経)、嚥下関連筋の障害 例)筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィーなど

(4)器質的疾患 食物通過路またはその周囲の器質的障害 例)咽頭・食道の腫瘍・異物、手術瘢痕、甲状腺腫など

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嚥下評価

なぜ、嚥下評価が必要なのか?

食道に入るべき飲食物が、 誤って気管に入る。

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誤嚥性肺炎

飲食物、唾液、胃内容物、咽頭分泌物を誤嚥し、これを排除できないときに生じる。

<リスク因子> ・口腔内細菌の増加 →肺炎の原因となる細菌を多く誤嚥する ・捕食、食塊形成、移送機能の低下 →誤嚥する ・嚥下反射の遅延、消失 →誤嚥したものを排除できない

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嚥下障害診療の流れ

1.対象患者 ↓

2.問診 ↓

3.精神・身体機能の評価 ↓

4.口腔・咽頭・喉頭・頸部の診察 ↓

5.簡易検査 ↓

6.嚥下内視鏡検査

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嚥下障害診療

1.対象患者 ~嚥下障害を疑うことから~ 「水分でむせる」 「食事がつかえる」 「食事中や食後に淡がよくからむ」 「肺炎を繰り返す」 「気管切開後である」 ※特に高齢者では、 “ むせない誤嚥=丌顕性誤嚥 ”に注意

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嚥下障害診療

2.問診 ・既往歴、基礎疾患:

神経筋疾患、脳血管障害、呼吸器疾患、認知症、頭頸部手術や放射線治療の既往の有無。 ・経口摂取の状況:

普段の食事形態、意欲の有無、液体でむせやすいかどうか。 ・介護状況:

日常生活は自立しているか、介助が必要か、寝たきりか。介護状況は治療方針をたてるうえで重要。

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嚥下障害診療

3.精神・身体機能の評価 ・認知機能 食事に興味を示さない、嚥下しようとしない ・運動機能 姿勢保持:頸部の後屈や丌安定性→嚥下運動の障害 上肢の関節の可動域、移動能力 ・呼吸機能 呼吸機能の低下→誤嚥物の喀出力低下

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嚥下障害診療

4.口腔・咽頭・喉頭・頸部の診察

口腔 開口,咬合,歯牙・歯肉の状態 口腔内の衛生状態,残渣,舌苔 舌運動(可動性,左右差,線維束攣縮,丌随意運動など) 唾液分泌(口腔乾燥)

中咽頭 咽頭の運動(鼻咽腔閉鎖,軟口蓋挙上,カーテン徴候など) 咽頭の感覚(左右差) 咽頭反射

喉頭 下咽頭

声帯運動(声門閉鎖など) 喉頭反射 梨状陥凹の唾液貯留の有無・程度・左右差

頸部 嚥下時の喉頭運動 頸部の可動域 頸部筋群の緊張・麻痺 気管切開(位置,カニューレの種類など)

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嚥下障害診療

5.簡易検査 1)反復唾液嚥下テスト 空嚥下を指示して嚥下運動が可能であるか

30秒間で空嚥下が何回できるか

嚥下運動時の喉頭挙上の状態

2)水飲みテスト 水を摂取させ、むせの有無で判定する。

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嚥下障害診療

6.嚥下内視鏡検査 ~観察のポイント~ ①鼻咽腔閉鎖機能の評価 発声と嚥下の2つの条件で検討する。 ②中下咽頭・喉頭の観察 組織欠損や変形、運動性の低下の有無を観察する。 咽喉頭への貯留物の存在 →嚥下障害を疑う!

訪問歯科診療について 昭和大学歯科病院 口腔リハビリテーション科 おくちでたべる.com http://okuchidetaberu.com/colum/no30.html 2016/11/12 引用

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嚥下障害診療

~観察のポイント~ ③ white out 健常人では咽頭期嚥下の瞬間は観察できない。 咽頭収縮力が低下していると、white out 時間の短縮 や消失(嚥下中も喉頭が常に観察できる)が起こる。 ④喉頭の観察 喉頭麻痺の有無、腫瘍やポリープの有無 梨状陥凹の唾液貯留や喉頭知覚の評価 誤嚥の際に咳嗽反射が惹起されるかどうか 咳嗽反射が生じない→誤嚥性肺炎の原因

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嚥下障害診療

~観察のポイント~ ⑤ピオクタニンテスト リアルタイムの嚥下動態の確認ができる ・口腔内の保持能力(早期咽頭流入の有無) ・嚥下運動の開始ポイントの確認(嚥下反射惹起部位 と惹起遅延状態の評価) ・喉頭流入の有無 ・嚥下後の残留の部位(左右差)、量の評価

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嚥下内視鏡検査 症例提示

症 例:38歳 男性

①着色水嚥下

②ゼリー嚥下

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嚥下障害診療

※嚥下内視鏡検査の長所と短所 <長所> ・被曝がない ・携帯性に優れ、ベッドサイドや在宅でも検査可能 ・実際の摂食場面での検査が可能 ・粘液、唾液の状態が直視下に観察可能 <短所> ・嚥下の瞬間を観察できない ・ファイバー挿入に伴う患者負担 ・鼻出血、喉頭痙攣、迷走神経反射による徐脈など

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嚥下障害診療

※嚥下造影検査 ・X線透視下に造影剤や造影剤入りの検査物を嚥下させ、口腔、咽頭、食道の機能、構造の異常、食塊の動きを評価する。 ・口腔期~食道期までの一連の動作を観察可能。 ・喉頭知覚は評価できない。

①正常嚥下

②誤嚥

東京武蔵野病院 嚥下障害のリハビリテーション 嚥下造影検査の動画 http://www.tmh.or.jp/department/dentistry/detail.html 2016/11/12 引用

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嚥下障害に対する初期治療

保存的治療が基本

・気道管理、栄養管理

・嚥下機能障害の原因の除去

・機能訓練(リハビリテーション)