媒質ごとのエッジ波発生量の遊いと減衰の評価 · japan probe co., ltd., 1-1-14...

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媒質ごとのエッジ波発生量のいと減衰の評価 田中雄介、阿晃、小倉幸夫 ジャパンプローブ株式会社 232-0033 神奈川県横浜市南区中村町 1114 E-mail: {yuusuke.tanaka, a-abe, ogura}@jp-probe.com あらまし 超音波が伝搬中に発生するエッジ波は超音波の広がりや振幅変動、指向性などに関係するが、発生量 は評価できていない。エッジ波の発生量は媒質ごとに異なることを調べ、ポリスチレンや水は発生量が多く、空気 はエッジ波の発生量が少ないことを確かめた。減衰の影響を考慮するため各材料で拡散を除く減衰の評価を行うと 水や空気はポリスチレンに比べ減衰が少ないことがわかった。空気の減衰が大きいと言われていることに対して、 たわみ振動による拡散が原因と考え、たわみ振動型空中超音波探触子の音場を調べた。たわみ振動型の空中超音波 探触子は拡散が大きく、すぐに超音波が減衰した。 キーワード 超音波、エッジ波、発生量、減衰、拡散、媒質 Focal point evaluation of focused ultrasonic probe and focus position moving by edge wave Yuusuke TANAKA Akira ABE Yukio OGURA Japan Probe Co., Ltd., 1-1-14 Nakamura-chou, Minami-ku, Yokohama-shi, Kanagawa, 232-0033, Japan E-mail: {yuusuke.tanaka, a-abe, ogura}@jp-probe.com Abstract Edge waves generated during propagation of ultrasonic waves are related to the spread of the ultrasonic waves, amplitude fluctuation, directivity, etc., but the amount of generation has not been evaluated. We investigated that the amount of edge waves generated differs depending on the medium, and confirmed that polystyrene and water generated a large amount, and air generated a small amount of edge waves. In order to consider the effect of attenuation, the attenuation of each material, excluding diffusion, was evaluated. It was found that water and air had less attenuation than polystyrene. In consideration of the fact that the attenuation of air is said to be large, it was considered that this was caused by diffusion due to flexural vibration. The flexural vibration type aerial ultrasonic probe has a large diffusion, and the ultrasonic wave attenuated immediately. Keywords Ultrasonic, Edge wave, Amount generated, Attenuation, Diffusion, Medium 1. はじめに 超音波探触子から送信される超音波の広がりは指向 性と定義されており、ベッセル関数により説明されて いる [1] 。しかし、ベッセル関数による指向性は実際の 探触子とは大きく異なり、特定の条件下でのみ成立す る。後述するがベッセル関数の成立には波数無限の 続波、探触子からく離れた位置などの条件がある。 超音波による計測はパルス波による計測、近距離での 計測を行うことが多くベッセル関数が前提としている 条件に当てはまらない。超音波探触子から送信される 超音波は直接波と直接波端から発生するエッジ波で あることはこれまでに説明した [2] 。さらに送信指向性 がエッジ波により決まり、受信指向性は受信面の伝搬 時間差により決まることを報告した [3] 。また、エッジ 波の発生量が媒質により異なることを報告した [4] 。空 中では減衰が大きいとされているが [5] 、拡 散 や エ ッ ジ 波の重なりの影響を除いた平面音源の減衰を評価する と空中の減衰が少ないことをこれまでに報告した [6] 今回、シミュレーションによる近距離と距離での指 向性の確認や平面振動とたわみ振動空中超音波探触子 の減衰と拡散のいについて述べる。 2 .送信指向性とエッジ波 2.1 直接波とエッジ波の重なり 探触子から送信される超音波は図 1 のように振動面 と同じ形状の直接波と直接波端から外側と内側に - 143 - 一般社団法人 電子情報通信学会 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS 信学技報 This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere. Copyright ©2020 by IEICE IEICE Technical Report US2019-96(2020-01)

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Page 1: 媒質ごとのエッジ波発生量の遊いと減衰の評価 · Japan Probe Co., Ltd., 1-1-14 Nakamura-chou, Minami-ku, Yokohama-shi, Kanagawa, 232-0033, Japan E-mail: {yuusuke.tanaka,

一般社団法人 電子情報通信学会 信学技報

THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, IEICE Technical Report

INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS

This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere. Copyright ©20●● by IEICE

媒質ごとのエッジ波発生量の違いと減衰の評価

田中雄介、阿部晃、小倉幸夫

ジャパンプローブ株式会社 〒232-0033 神奈川県横浜市南区中村町 1-1-14

E-mail: {yuusuke.tanaka, a-abe, ogura}@jp-probe.com

あらまし 超音波が伝搬中に発生するエッジ波は超音波の広がりや振幅変動、指向性などに関係するが、発生量

は評価できていない。エッジ波の発生量は媒質ごとに異なることを調べ、ポリスチレンや水は発生量が多く、空気

はエッジ波の発生量が少ないことを確かめた。減衰の影響を考慮するため各材料で拡散を除く減衰の評価を行うと

水や空気はポリスチレンに比べ減衰が少ないことがわかった。空気の減衰が大きいと言われていることに対して、

たわみ振動による拡散が原因と考え、たわみ振動型空中超音波探触子の音場を調べた。たわみ振動型の空中超音波

探触子は拡散が大きく、すぐに超音波が減衰した。

キーワード 超音波、エッジ波、発生量、減衰、拡散、媒質

Focal point evaluation of focused ultrasonic probe and focus position moving

by edge wave

Yuusuke TANAKA Akira ABE Yukio OGURA

Japan Probe Co., Ltd., 1-1-14 Nakamura-chou, Minami-ku, Yokohama-shi, Kanagawa, 232-0033, Japan

E-mail: {yuusuke.tanaka, a-abe, ogura}@jp-probe.com

Abstract Edge waves generated during propagation of ultrasonic waves are related to the spread of the ultrasonic waves,

amplitude fluctuation, directivity, etc., but the amount of generation has not been evaluated. We investigated that the amount of

edge waves generated differs depending on the medium, and confirmed that polystyrene and water generated a large amount,

and air generated a small amount of edge waves. In order to consider the effect of attenuation, the attenuation of each material,

excluding diffusion, was evaluated. It was found that water and air had less attenuation than polystyrene. In consideration of

the fact that the attenuation of air is said to be large, it was considered that this was caused by diffusion due to flexural

vibration. The flexural vibration type aerial ultrasonic probe has a large diffusion, and the ultrasonic wave attenuated

immediately.

Keywords Ultrasonic, Edge wave, Amount generated, Attenuation, Diffusion, Medium

1. はじめに

超音波探触子から送信される超音波の広がりは指向

性と定義されており、ベッセル関数により説明されて

いる [1]。しかし、ベッセル関数による指向性は実際の

探触子とは大きく異なり、特定の条件下でのみ成立す

る。後述するがベッセル関数の成立には波数無限の連

続波、探触子から遠く離れた位置などの条件がある。

超音波による計測はパルス波による計測、近距離での

計測を行うことが多くベッセル関数が前提としている

条件に当てはまらない。超音波探触子から送信される

超音波は直接波と直接波端部から発生するエッジ波で

あることはこれまでに説明した [2]。さらに送信指向性

がエッジ波により決まり、受信指向性は受信面の伝搬

時間差により決まることを報告した [3]。また、エッジ

波の発生量が媒質により異なることを報告した [4]。空

中では減衰が大きいとされているが [5]、拡散やエッジ

波の重なりの影響を除いた平面音源の減衰を評価する

と空中の減衰が少ないことをこれまでに報告した [6]。

今回、シミュレーションによる近距離と遠距離での指

向性の確認や平面振動とたわみ振動空中超音波探触子

の減衰と拡散の違いについて述べる。

2.送信指向性とエッジ波

2.1 直接波とエッジ波の重なり

探触子から送信される超音波は図 1 のように振動面

と同じ形状の直接波と直接波端部から外側と内側に

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一般社団法人 電子情報通信学会THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS

信学技報

This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere.                                           Copyright ©2020 by IEICE

IEICE Technical Report US2019-96(2020-01)

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発生するエッジ波がある。直接波は振動面が平面では

平面波、凹面では凹面の集束超音波が発生する。外側

のエッジ波は直接波と同位相、内側のエッジ波は直接

波と逆位相である。エッジ波は直接波端部に近いほど

振幅が大きい。波数が多くなると図 2 のように前の波

と後ろの波が重なった部分で振幅変動が発生する。前

の波の内側エッジ波と後ろの波の外側エッジ波が重

なった部分 (黒丸 )は互いの波が逆位相で振幅が低下す

る。内外のエッジ波が半波長ずれて重なった場合 (灰

丸 )、振幅が増大する。従って、振幅が増大する部分と

低下する部分が交互に発生する。図 3 は動弾性有限積

分法シミュレーション (イーコンピュート、SWAN21)

による平面音源での 1 波と 30 波の超音波伝搬図であ

る。30 波では振幅が大きい部分 (サイドローブ )と小さ

い部分 (ゼロ輻射角 )が交互に発生したことがわかる。

振幅が小さい部分は図 2 の黒丸部分であるが、内側エ

ッジ波が広がった部分であるのに対し、外側エッジ波

は直接波に近く広がっていない部分である。従って、

外側エッジ波の振幅が大きく、ゼロ輻射角の名前に反

して振幅が 0 にならない。次節で指向性と近距離、遠

距離のエッジ波の重なりについて述べる。

2.2 指向性と近距離、遠距離でのエッジ波評価

指向性は送信、受信共にベッセル関数により表わさ

れ、指向係数 Dc により求められる。

m

mJD

c

)(2 1= (1)

水中で音速 1500[m/s]、周波数 2[MHz]、直径 10[mm]

の探触子におけるベッセル関数での指向性は図 4 に示

す。5.2°で振幅が 0 になり、この角度を指向角または

第一零輻射角と言う。シミュレーションにより 1 波の

パルス波で探触子からの距離を 1[mm]から 100[mm]ま

で変えながら振幅を計算した結果を図 5 に示す。ベッ

セル関数の指向性と異なる図になっており、振幅が 0

になる箇所は無い。次に 30 波のバースト波で探触子

からの距離を変えながらの振幅計算結果を図 6 に示す。

振幅は先頭や最後尾ではなく中央の変動した部分を

評価した。距離が 100[mm]の遠い位置では極小値が発

生し、ベッセル関数の形に近くなったが、前節のエッ

ジ波の重なりの説明より、振幅が 0 にはならない。こ

こで図 5、図 6 の横軸を探触子中央からの距離でなく

中央からの角度にすると図 7、図 8 のようになる。図

7 の 1 波パルス波ではベッセル関数の計算値と異なる

が、図 8 の 30 波では距離が遠くなると極小値が発生

した。距離が 100[mm]では極小値が 4.6°の位置に発生

し、計算値の 5.2°と近くなった。しかし、近距離での

指向性が図 4 のベッセル関数と特に大きく異なり、距

離 1[mm]や 5[mm]ではパルス波と同じである。これは

図 9 のように考える。送信指向性は超音波の広がりで

あるが、エッジ波が位置的には探触子端部からの角度

で考えることに対し、指向角は探触子中央からの角度

で考える。近距離では両者の角度が大きく異なり、遠

距離になるほど両者の角度差が小さくなる。このため

指向角は近距離では誤差が大きくなる。近距離ではエ

ッジ波の影響が少ない原因もエッジ波の観測点の角

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 5 10 15 20

探触子中心からの角度[度]

Dc

図 4 ベッセル関数による指向性

探触子

直接波 外側エッジ波 内側エッジ波

図 2 波数が多い場合における超音波の重なり

図 1 探触子から送信される超音波

直接波と同位 相

のエッジ波

直接波と逆位相

のエッジ波 超音波探触子

図 3 超音波伝搬シミュレーション図

(a)1 波

サイドローブ

ゼロ輻射角

(b)30 波

直接波

エッジ波

探触子 探触子

直接波

振幅大

振幅小

J1 : 第 1 種 1 次ベッセル関数

m: ka sin φ k: 2π/λ a: 振動子半径

φ: 中心軸からの角度

- 144 -

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度差や伝搬時間差が原因である。また、相反定理によ

り受信指向性も同等とみなすためには点音源である

必要がある [7]。従って、これらの計算結果からベッセ

ル関数の指向性は

1.連続波

2.十分な遠距離

3.エッジ波の発生量が一定

4.点音源

という条件がそろったときに成立する。超音波計測は

パルス波で送信し、近距離で計測することも多い。ま

た、エッジ波の振幅は正規化すれば計算上は一定であ

るが、外側と内側のエッジ波発生量は一定ではない。

音源も一定の大きさを持ち点音源ではない。従って、

探触子の指向性を評価するためにはパルス波送信時

の近距離でエッジ波の発生量を評価する必要がある。

3.エッジ波の発生量評価

3.1 エッジ波の評価方法

エッジ波発生量の評価は探触子中心軸上の振幅変

動により評価する。図 10 にエッジ波の伝搬距離 E と

直接波の伝搬距離 X の概念図を示す。E-X の差が半

波長になる位置 x0 で振幅が増大し、その位置は

−= λ

λ

2

04

1 wx (2)

で表わされ、近距離音場限界である。図 11 に水中で音

速 1500[m/s]、周波数 2[MHz]、振動子幅 10[mm]、パル

ス波の探触子中心軸上のシミュレーション結果を示

す。近距離での振幅と近距離音場限界の振幅上昇の割

合 a でエッジ波の発生を評価可能である。

3.2 媒質ごとのエッジ波発生量の違い

次にポリスチレン、水、空気で探触子中心軸上での

振幅変動を調べた。ポリスチレンでは周波数 2[MHz]、

直径 10[mm]、水では周波数 5[MHz]、直径 10[mm]、空

気では周波数 250[kHz]、直径 20[mm]の探触子をそれ

ぞれ用いた。エッジ波の評価は探触子中心軸上の振幅

x0:直接波とエッジ波が

重なる位置

w:振動子幅 λ:波長

図 5 1 波シミュレーションにおける超音波の広がり

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

-20 -10 0 10 20

探触子中心からの距離[mm]

振幅

[arb

.unit]

距離1

距離5

距離10

距離20

距離30

距離50

距離70

距離100

0

0.5

1

1.5

2

2.5

-20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20

中心からの距離[mm]

振幅

[arb

.unit]

距離1

距離5

距離10

距離20

距離30

距離50

距離70

距離100

図 6 30 波シミュレーションにおける超音波の広がり

0

0.5

1

1.5

2

2.5

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

探触子中心からの角度[度]

振幅

[arb

.unit]

距離1

距離5

距離10

距離20

距離30

距離50

距離70

距離100

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

探触子中心からの角度[度]

振幅

[arb

.unit]

距離1

距離5

距離10

距離20

距離30

距離50

距離70

距離100

図 7 1 波シミュレーションにおける指向性 図 8 30 波シミュレーションにおける指向性

(a)中心からの角度(指向角) (b)端部からの角度 (c)十分遠い場合

図 9 指向角とエッジ波発生の角度

E X

w 探触子

図 10 直接波とエッジ波の伝搬

- 145 -

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上昇率で行う必要があり、探触子中心軸上で反射、計

測が行えるように図 12 のような構成で計測した。ポ

リスチレンは直径 4[mm]の球状穴からの反射信号、水

は直径 4[mm]ステンレス球からの反射信号、空気は振

動子径 0.5[mm]の PMN-Pt 単結晶ハイドロホンの受信

信号で評価した。以後空中ではこのハイドロホンで評

価した。送信信号はパルサレシーバ (ジャパンプローブ、

JPR-50P)から-100[V]の負のパルス波を印加した。各

材料の計測条件や音速などは表 1 にまとめた。

図 13 に近距離音場限界での振幅上昇を示す。横軸

は近距離音場限界を 1 と正規化した。縦軸は近距離音

場での振幅を 1 と正規化した。近距離音場限界におい

て、ポリスチレンは 206%、水は 190%、空気は 18%の

振幅上昇が発生した。この結果からポリスチレンや水

はエッジ波の発生量が多いが、空気はエッジ波がほと

んど発生しなかった。媒質ごとの減衰やエッジ波の伝

搬距離が異なるためそれぞれの減衰を考慮する必要

がある。

4.減衰の評価

4.1 平面探触子の減衰評価

超音波の減衰を評価するためにポリスチレン、水、

空気の減衰を調べた。減衰には吸収減衰や粘性減衰、

散乱減衰など媒質の超音波伝搬に伴う材料の減衰と

超音波の拡散による減衰がある。平面探触子では拡散

による減衰は無いが、エッジ波の重なりによる振幅変

動が発生する。減衰を評価では単純に振幅を計測する

とエッジ波による振幅変動が発生するため、エッジ波

の影響が無い部分で評価する必要がある。探触子中心

軸上では図 14 のように直接波とエッジ波が観測され

るが、直接波とエッジ波の伝搬距離差 E-X は超音波

の伝搬と共に小さくなる。E-X が 1 波長以上では図

14(a)のように直接波とエッジ波が分離し、E-X が 1

波長未満になると直接波とエッジ波が重なる。E-X

が半波長の近距離音場限界では図 14(b)のように直接

波とエッジ波が重なって振幅が最も大きくなる。この

ときピーク A は直接波、ピーク B は直接波とエッジ波

の合成、ピーク C はエッジ波である。遠距離音場にな

るとピーク A もエッジ波が重なって振幅が減少して十

分遠距離になると図 14(c)のように直接波とエッジ波

が混じったピーク D とピーク E の信号になる。従って、

材料の減衰を評価するためにはエッジ波の影響が無

い、近距離音場における最初のピーク A で評価するこ

とが適切である。各材料の減衰をピーク A の振幅で評

価した結果を図 15 に示す。計測は前章と同様図 12 の

通り行った。ポリスチレンは減衰が大きく、水や空気

は減衰が少ない結果となった。また、ポリスチレンや

水は近距離音場限界 (ポリスチレン: 24[mm]、水:

83[mm]、空気:73[mm])を過ぎるとエッジ波がピーク

A と重なって振幅が低下するので減衰が大きくなるが、

図 11 近距離音場限界でのエッジ波による振幅上昇

図 12 エッジ波の計測法 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

0 10 20 30 40 50 60

伝搬距離[mm]

振幅

[arb

.unit]

a

(a)ポリスチレン

球状欠陥反射

φ4

(b)水中

ステンレス球反射

φ4

(c)空中

ハイドロホン受信信号

φ0.5

探触子

表 1 材料と探触子

ポリスチレン 水 空気周波数[MHz] 2 5 0.25探触子径[mm] 10 10 20音速[m/s] 2330 1500 340近距離音場限界[mm] 21 83 73

図 13 エッジ波による振幅上昇

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

近距離音場限界比

振幅

[arb

.unit]

ポリスチレン

空気

図 14 エッジ波の合成による振幅変動

直接波

エッジ波

直接波+

エッジ波

(a)近距離音場 (b)近距離音場限界 (c)遠距離音場

D

E B

C A

- 146 -

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空気の減衰はほとんど変化しなかった。これはポリス

チレンや水はエッジ波の発生量が大きいが、空気はエ

ッジ波の発生量が小さいためである。各材料における

近距離と遠距離の減衰を表 2 に示す。ポリスチレンや

水は往復距離、空気は片道の距離を考慮し、減衰係数

を算出した。空気や水に比べてポリスチレンの減衰が

大きくなり、遠距離では空気の減衰が水より小さくな

った。空中での周波数 250[kHz]のため周波数が低く減

衰が小さい可能性がある。ここで周波数を高くして空

気の減衰を調べた。周波数が 500[kHz]、 600[kHz]、

700[kHz]、900[kHz]の空中超音波探触子の減衰を調べ

た。振動子が 14×20[mm]の長方形であるが、近距離で

最初のピーク A で評価すればエッジ波の影響は無い。

伝搬距離と振幅の関係を図 16 に示す。周波数が高く

なっても空中の減衰はあまり変わらなかった。減衰係

数は表 3 にまとめ、500[kHz]~900[kHz]では減衰係数

が 1[dB/cm]付近となった。

これら減衰を考慮して近距離音場限界の振幅上昇

を求めると図 17 のようになる。ポリスチレンが 274%、

水が 221%、空気が 33%の振幅上昇となった。ポリス

チレンや水に比べて空気はエッジ波の発生量が少な

く、ポリスチレンや水は空気に比べて超音波が広がり

やすいことがわかる。従って、送信指向性は媒質によ

り異なり、エッジ波の発生量が少ない空中では指向性

が高い。今回評価した空中超音波探触子は縦振動の平

面音源であるが、自動車用など通常空中超音波探触子

はたわみ振動音源である。次にたわみ振動音源の減衰

を評価した。

4.2 たわみ振動空中超音波探触子の音源

たわみ振動空中超音波探触子の減衰を調べ、平面音

源のものと比較した。用いた探触子は図 18 に示すた

わみ振動空中超音波探触子の開放型 (村田製作所製、

MA40SR/S)と防滴型 (村田製作所製、MA40MF14-5B)、

縦振動型 (ジャパンプローブ製、0.25K20N)である。開

放型は探触子径が 10[mm]、周波数 40[kHz]で防滴型は

探触子径が 14[mm]、周波数 40[kHz]である。縦振動型

は振動子径 20[mm]、周波数 250[kHz]である。パルサ

レシーバ (ジャパンプローブ製、JPR-10C)から解放型と

防滴型は波数 10、30[V]のバースト波、縦振動型は波

数 1、50[V]のパルス波を印加した。各探触子の伝搬距

離と振幅の関係を図 19 に示す。縦振動型は振幅がほ

とんど低下しないが、開放型と防滴型は大きく振幅が

低下した。これは図 20 のようにたわみ振動型は広が

った超音波を送信しているが、縦振動型は平面波を送

00.10.20.30.40.50.60.70.80.9

1

0 25 50 75 100 125 150

伝搬距離[mm]

振幅

[arb

.unit]

ポリスチレン

空気

図 15 各材料のピーク A による減衰評価

表 2 各材料の減衰係数

媒質減衰係数[dB/cm]

近距離 1.23遠距離 2.00近距離 0.11遠距離 0.41近距離 0.16遠距離 0.25

ポリスチレン

空気

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 25 50 75 100

距離[mm]

振幅

[arb

.unit]

500kHz

600kHz

700kHz

900kHz

図 16 空中の減衰と周波数

周波数[kHz]

減衰係数[dB/cm]

500 0.84600 0.99700 1.26900 1.13

表 3 周波数と

空中減衰係数

図 18 たわみ振動と縦振動の空中超音波探触子

(a)たわみ振動

探触子 (開放型 )

(b)たわみ振動

探触子 (防滴型 )

(c)縦振動

探触子

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

近距離音場限界比

振幅

[arb

.unit]

ポリスチレン空気水

図 17 エッジ波による振幅上昇 (減衰補正 )

- 147 -

Page 6: 媒質ごとのエッジ波発生量の遊いと減衰の評価 · Japan Probe Co., Ltd., 1-1-14 Nakamura-chou, Minami-ku, Yokohama-shi, Kanagawa, 232-0033, Japan E-mail: {yuusuke.tanaka,

信しているためとである。たわみ振動型の大きな減衰

は空気の減衰ではなく拡散による減衰である。平面音

源による空中超音波は減衰が少なく、エッジ波があま

り発生しないのであまり広がらず直進しやすい。

ここで探触子からの距離を変えながら超音波の広

がりを計測した。図 21 に中心の振幅を 1 で正規化し

た結果を示す。たわみ振動型の開放型、防滴型は超音

波が拡散しているのに対し、縦振動型は距離 200[mm]

でもあまり超音波が拡散していなかった。これらの結

果から空気そのものの減衰は少ないが、たわみ振動型

の空中超音波探触子は最初から超音波が拡散して伝

搬しているので拡散減衰が大きい。一方、縦振動型空

中超音波探触子はエッジ波の発生が少ないため超音

波が直進し、さらにエッジ波による拡散が少なく振幅

変動の影響も低いので減衰が小さい。

5.まとめ

エッジ波について媒質ごとに発生量が異なること

を調べ、ポリスチレンや水に比べて空気はエッジ波の

発生量が少ないことを述べた。また、減衰の影響も調

べ、ポリスチレンに比べて水や空気の減衰が少ないこ

とを述べた。空気は縦振動空中超音波探触子だと減衰

が少なく超音波が直進するが、たわみ振動だと減衰が

大きく超音波が拡散することを述べた。

文献

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60_f1.pdf 2019 年 12 月 6 日確認

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0 20 40 60

伝搬距離[mm]

振幅

[arb

.unit]

防滴型

開放型

平面

図 20 たわみ振動と縦振動の超音波送信方向

(a)たわみ振動 (b)縦振動

図 19 たわみ振動と縦振動の空中超音波探触子の振幅

図 21 たわみ振動と縦振動の拡散

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

-10 -5 0 5 10

中心からの距離[mm]

振幅

距離1

距離2

距離5

距離10

距離20

距離30

00.20.40.60.8

11.2

-10 -5 0 5 10

中心からの距離[mm]

振幅

距離1

距離2

距離5

距離10

距離20

0

0.20.4

0.6

0.81

1.2

-15 -10 -5 0 5 10 15

中心からの距離[mm]

振幅

距離20

距離40

距離60

距離80

距離100

距離150

距離200

(a)たわみ振動探触子 (開放型 )

(b)たわみ振動探触子 (防滴型 )

(c)縦振動探触子

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