宇宙実験テーマ 「微小重力環境でのナノスケルトン...
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宇宙実験テーマ「微小重力環境でのナノスケルトン作製」
(略称:NANOSKELETON)
ISS応用利用東京理科大学研究拠点
酒井 秀樹
(拠点リーダ 阿部 正彦)
環境保全やエネルギー開発に向けた革新的ナノ材料
ナノスケルトンとは?
(1)試料外観
(1ミクロン程度の粒の集合体)
沈殿物
50 nm
(電子顕微鏡写真)
拡大
①ナノレベルの多孔質で②骨格(孔壁)が高い機能性を有する素材を、新しい材料カテゴリ 「ナノスケルトン 」 と命名(JAXAと資生堂と共同し平成20年に商標登録)。
(チタニア系光触媒)
「ナノスケルトン」は、光触媒や太陽電池、重油改質触媒など、環境保全や新エネルギー開発に貢献できる可能性を秘めている。
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光触媒
点線内は拠点の主目標
光吸収剤導入
薬品導入
増感色素導入
<ナノスケルトンは何の役に立つのか?>
まずは、チタニア(酸化チタン)系光触媒をターゲット
5年目(2010年) 10年目以降(2015年以降)
<本拠点の目標>ナノスケルトンの実現(チタニア系高機能光触媒)
その他の製品への発展(太陽電池、クロマトグラフ充填剤、体内ドラックデリバリ用素材、化粧品(紫外線吸収パウダー)等)
ジルコニア系触媒の実現
ナノスケルトンの産業波及効果
市場規模
重油をガソリンに変える触媒の創製
1000
本研究拠点での活動
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(チタニア系メソポーラス)
・宇宙実験結果活用・シミュレーション活用
商品化※
(地上製造)
(億円/年)
光触媒(1000億円)平成17年12月公示された、NEDO「光触媒の技術ロードマップ作成に関する調査研究」に基づき、「2010年の市場規模は1000億円を超えるもの」との記述より1000億を想定。参考までに、1999年時点での三菱総研による試算では2005年に同1兆円。
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ナノスケルトンの特性目標
項目 既存光触媒(P25触媒) チタニアナノスケルトン
2-プロパノールの酸化分解
400ppmの濃度を2時間(12
0分)の紫外光照射で分解できる。
400ppmの濃度を108分の紫外光照射で分解
(10%性能向上)
分子量の大きな有害物質の除去
一部可能 効率大幅上昇
高い比表面積 262 m2/g
暗所でも有害有機物の吸着除去
不可能 可能
水中の有害疎水性物質の除去
不可能 可能
色素増感太陽電池の性能向上
エネルギー変換効率
約10%
P25よりも変換効率を
10%向上
光触媒として、環境ホルモンの分解、殺菌、脱臭、防汚について、市販の高活性光触媒のP25を上回る性能を発揮させる
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本研究の最初のターゲット 「光触媒」とは
・光を照射することにより触媒作用を示す物質の総称。→現在、“チタニア”が主流。
<チタニアの光触媒機能>
水を太陽光で水素と酸素に分解できる性質が東京大学の本多健一と藤嶋昭(現:東京理科大学学長)によりネイチャー誌に発表された。
→ 「太陽で夢の燃料」と評されるように、新エネルギー開発への可能性に当時世界中が注目。現在は、環境浄化や、建物等の美しさを保てる塗料さらに太陽電池電極として、1000億円規模の産業に発展している。
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現在のチタニア光触媒の課題• 光エネルギー変換効率が低い
(太陽光の3%しかない紫外線しか利用できない)
光触媒効率が向上し、特に可視光で使用可能な触媒ができれば、更に市場が拓ける
本研究では、メソポーラス材料というナノ材料に注目。
・細孔壁に触媒活性を持たせることができれば、ナノ細孔構造により、汚染物質の付着する大きい表面積が得られ、分解速度が大幅向上。
・太陽電池用途では、細孔径が大きくなれば、光エネルギー変換効率向上のため使用している色素を細孔内に大量に保持することができ、変換効率の大幅にアップが期待。
この色素を使用した太陽電池は、製造コストが従来の太陽電池より安く、大量生産が可能である。更に原材料の資源的制約が尐なく環境負荷が低くクリーンな点も特徴である。
・塗装剤の防汚では、汚れが多いと処理能力が追いつかない。・太陽電池用途では、まだまだ効率が低く、シリコン太陽電池に及ばない。
・チューブ孔の大型化(2→10~15nm)→機能性高分子を取り込み新機能発現
・従来メソポーラス材料の結晶化→触媒活性の飛躍的向上
メソポーラス ナノスケルトン
大口径(5~15nm)の実現(機能性高分子の取り込み)
ナノスケルトン材料の実現の方策
壁は結晶
空洞状チタニア等(アモルファス)
直径2nm
以下
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CTAB
水溶液TMB
(油)
混合 攪拌(乳化)
硫酸チタン水溶液
混合即座に粒子生成
40℃で成長
濾過、洗浄(試料取得)
(参考)点線内が宇宙実験の操作範囲
①水+界面活性剤+油(細孔構造の形成)
②酸化硫酸チタン水溶液(チタニア壁原料)
ナノスケルトン材料の作り方
<本研究の工夫>界面活性剤
油を導入
<従来>
2種類の液体の混合のみでナノスケルトンが生成 簡単・低コストで生産可能
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微小重力実験の魅力
大小様々
重力影響①油の浮上
重力影響②チタニア結晶成長への対流影響(欠陥・不純物取り込み)
拡散によるゆっくりとした物質供給→低欠陥試料
微粒子沈降流れ
粒子の粗大化→接合面で細孔が塞がる流れによる衝突・合体 沈降による凝集約1μm
重力影響③粒子凝集への影響
浮遊・分散
大きい均一分布
<μG>(可能性)
<μG>(可能性)
<μG>(可能性)
<地上>(現状)
μG実験で重力影響を除外したデータ取得
<地上>(現状)
原料に油が均一に分布すれば、大きく均一な細孔を実現できるモデルの検証
対流・沈降の抑制で生成結晶の欠陥が尐なくなるモデルの妥当性評価
触媒粒子の凝集に対流や沈降が関係するのか調べる。
<地上>(現状)
地上回収したナノスケルトン材料の評価
地上で最も良い製造条件を導き出すため、本研究では「計算化学シミュレーション」を構築している。
「計算化学シミュレーション」は分子・原子の動きや結合し結晶が成長する状態を模擬し、生成した物質の特性予測が行えるソフトウェアである。実験を行わずに性能予測ができるため、製品開発の効率化に貢献している(自動車用触媒等)
しかし、対流や沈降等の重力影響がある環境下での計算化学シミュレーションは極めて複雑となってしまう。
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・流れが入ると、反応の計算は複雑化。
東京理科大学研究拠点の研究体制
資生堂(製品製造)
・製品製造への反映・ISSでの重力擾乱のない実験データ取得・生成反応の正確な把握
しかし
シミュレーションによる材料設計
そこで
重力影響を考慮した生産条件予測
東北大学(計算化学シミュレーション)<宮本研究室>
東京理科大学・<阿部・酒井研究室>
+信州大学
JAXA
実験データ(理科大分析)
・研究取りまとめ・研究計画立案・触媒基礎データ取得・データ取得
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第1回実験概要
(1)打上: STS-130フライト(20A)平成22年 2月 8日打上済(2)軌道上実験:3月2日~3月12日(野口飛行士実験操作)(3)回収: STS-131フライト(19A:山崎飛行士搭乗)(4)機器・試料 ・ミキシングバッグ(11種類22個)
・バッグカートリッジ(A型4個、B型2個)および温度ロガー(4個)
(5)軌道上使用装置: CBEF(恒温槽として利用)、MELFI冷凍庫(凍結保管)
(6)実験期間: 約3日または10日(7)CBEF実験温度: 40℃
(打上げ)
総容積 約5900 cc、
うち冷凍冷蔵庫 約1100cc
重量合計 約2.4kg
(回収)
総容積 約4900 cc (常温)
重量合計 約1.4kg
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宇宙実験の流れ
宇宙実験手順
• スペースシャトルのミッドデッキロッカーで打上げられた試料・カートリッジについて、試料はISS到着後 -95 ℃の冷凍庫に収納・保管されます。
• 実験の際には、冷凍した試料を融解した後、宇宙飛行士がバッグを振ることにより内部を攪拌し、水溶液と油を混ぜます。攪拌の後、容器のクリップを取外すことにより、2種類の溶液の混合し、化学反応が開始されます。
• その後、試料はカートリッジやMEUに収納され、細胞培養実験装置内でナノスケルトンの壁を構成するチタニアの結晶成長が行われます。
• 実験後の試料は回収まで冷凍保管され、回収時には常温で地上に輸送し、サンプルを容器から取出して分析を行い、重力影響を調べます。
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