電力ケーブルの現場劣化診断のための部分放電 測定の階層化...
TRANSCRIPT
-
背 景 電力ケーブルの高経年化が進行する中,その寿命を最大限活用するために部分放電
(PD)(注 1)の検出による劣化診断が着目されている。近年,種々の PD 測定装置が商用化されているが,測定周波数の選定,ノイズ識別,センサの選定や取付などの技術的課題
や操作の煩雑さがその導入・展開を妨げている。一方,当所は従来から電力各社のケー
ブル終端接続箱等を対象に PD 測定を行い,ノウハウを得てきた。今回これを整理し,診断精度と作業容易性,作業量のバランスの取れた PD 測定法を確立する見通しを得た。
目 的 これまで当所が現場測定で得たノウハウを基に,電力ケーブルに対する PD 測定を系
統立てて階層化することで,全体的な測定作業量を低減させつつ測定信頼性を確保でき
る現場測定技術と劣化診断法を提案する。
主な成果 PD 測定の内容,精度,作業量,機材コスト等を検討した上で,劣化診断手法を以下
に示す 3 段階に階層化し,具体的な手法や検討課題を整理した。 1. 第 1 段階測定(概略測定)による診断
PD 発生可能性の確認を目的とするものである。設備巡視員による測定も想定し,クランプ式高周波 CT(注 2)とデジタルオシロスコープでの測定とした(注 3) (図 1)。当所による OF ケーブル接続箱等への測定で,8~9 割が本段階に相当する測定で PD 発生が無いと判断できることを確認した。 2. 第 2 段階測定(信号源探査測定)による診断
測定された信号の発生源が接続箱等の内部にあることの確認を目的とするものであ
る。複数のアンテナでの信号測定等による信号源標定法の適用性を,現場測定や撤去接
続箱の PD 試験等を通して検証した(図 2)。 3. 第 3 段階測定(劣化測定)による診断
接続箱等の劣化状況の判定と寿命予測を目的とするものである。本段階の確立には,
劣化メカニズムの解明や,PD の開始から絶縁破壊までの期間や PD 特性の推移の把握が必要である。当所では OF ケーブルや CV ケーブル接続箱を対象にモデルで実験を進めており(OF ケーブルを模擬した油浸紙積層絶縁系での例:図 3[1]),今後一層の検討を進める。
注 1: PD は絶縁破壊の前兆現象である局所的な電離現象である。微小なパルス性の電流や振動を発生させることから,これに起因するパルス性電流や電磁波,超音波などの各種現象を検出対象とすることで PD の発生が確認できる。
注 2: ケーブル接続箱の接地線を取り外す等の電気回路に対する作業が不要で,PD によるパルス性電流信号を確度高く測定できる手法。当所では主に,穴径 31mm,周波数帯域 120kHz~600MHz のものを使用しており,実験室レベルでは数 pC の感度が得られる。
注 3: パソコンでの制御により,デジタルオシロスコープの設定などの技術は不要とできる。
電力ケーブルの現場劣化診断のための部分放電測定の階層化手法の提案
キーワード:部分放電,劣化診断,電力ケーブル,位置標定 報告書番号:H14017
電 力 輸 送電力中央研究所報告
-
部分放電センサ(高周波CT)
ケーブル終端接地線
‐3,000
‐2,000
‐1,000
0
1,000
2,000
3,000
0 90 180 270 360
部分
放電
電荷
量[pC]
位相[°]
部分放電
印加電圧波形
(a) OF ケーブル終端部での (b) モデル電極での
高周波 CT の設置状況 測定結果例
図 1 高周波 CT の設置状況と測定結果例
アンテナ1
アンテナ2 アンテナ3
パルス性電磁波の発生源
電磁波の放射・伝搬
アンテナ4
オシロスコープのch1へ
オシロスコープのch4へ
オシロスコープのch3へオシロスコープのch2へ
.
図 2 複数のアンテナでの到達時間差法による信号源標定法のイメージ
図 3 OF ケーブル絶縁体を模擬した油浸紙絶縁系での PD 特性の推移の一例
実測例
0
20
40
-20
-40
mV
アンテナ3
関連研究報告書
[1]岩下,他:「OF ケーブル油浸紙-絶縁油複合絶縁系の部分放電基礎特性」,電力中央研究所 研究報告 H13014 (2014)
試 料 : 油 浸 紙 積 層 絶 縁 系(125µm 厚 の 絶 縁 紙 を8 枚積層,うち 3 枚に貫通孔あり )
上:正極性 PD の発生頻度 と 最 大 放 電 電 荷 量の推移
下:正・負極性 PD の印加 電 圧 位 相 - 放 電 電荷 量 (φ-q パ タ ー ン )に お け る 歪 度 ( パ ター ン の 中 心 軸 に 対 する 対 称 性 を 数 値 化 したもの。 )
絶 縁破 壊 直 前 にな る と ,発 生 頻 度 や 最 大 放 電 電荷 量が 急 増 し ,歪 度 が 大きく変化する。 →PD の 連 続 測 定 に よ りこの変化を検出可能。
0
2
4
6
8
10
12
14
16
0
10,000
20,000
30,000
40,000
50,000
60,000
70,000
80,000
0 48 96 144 192 240 288 336 384
PD発生
頻度
[パル
ス/サ
イクル
]
PD最
大放
電電
荷量
[pC]
経過時間[時間]
正極性PDの発生頻度
最大放電電荷量(正極性PD)
0
2
4
6
8
10
12
14
16
0
10,000
20,000
30,000
40,000
50,000
60,000
70,000
80,000
372 374 376
PD発
生頻
度[パ
ルス
/サイクル
]
PD最
大放
電電
荷量
[pC]
経過時間[時間]
発生頻度
最大放電電荷量
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
-1.2
-1
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0 48 96 144 192 240 288 336 384
歪度
(負極
性PD
)
歪度
(正極
性PD
)
経過時間[時間]
歪度(正極性PD)
歪度(負極性PD)
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
-1.2
-1
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
372 374 376
歪度
(負極
性PD
)
歪度
(正極
性PD
)
経過時間[時間]
歪度(正極性PD)
歪度(負極性PD)
拡大
拡大
信 号 源 か ら の 電 磁 波を ア ン テ ナ に よ り サ ブナ ノ 秒 オ ー ダ で 測 定し ,到 達 時 間 差 法 で 信号源を標定する。
信 号 源 が 測 定 対 象 部位 の 外 部 に あ る と 判 定で き れ ば ,そ の 信 号 は絶縁劣化に起因する PDで は な い と 判 定 で きる。
0 5 10 15 20-5 sn01-
0204060
-20-40
mV
アンテナ1
020
-20-40-60
mV
アンテナ2
試 料:油 浸 紙 積 層 絶 縁系 (125µm 厚 の 絶 縁紙を 8 枚積層,うち3 枚に貫通孔あり )
印 加 電 圧 ゼ ロ ク ロ ス 付近 に て パ ル ス 性 の 信 号が発生している。 → ボイド 性 の PD と 判
定可能。
研究担当者 髙橋 俊裕(電力技術研究所 高電圧・絶縁領域) 問い合わせ先
電力中央研究所 電力技術研究所 研究管理担当スタッフ Tel. 046-856-2121(代) E-mail : [email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。
[非売品・無断転載を禁じる] © 2015 CRIEPI 平成27年7月発行