非アルコール性脂肪性肝炎における長鎖脂肪酸受容...

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- 46 - Kobe Gakuin University - 46 - ■テーマ名 非アルコール性脂肪性肝炎における長鎖脂肪酸受容体 GPR120/FFAR4 の関与 ■キーワード 非アルコール性脂肪肝、長鎖脂肪酸受容体GPR120/FFAR4 ■研究の概要 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は脂肪肝から肝硬変、 最終的には肝癌にまで進行する肝疾患であり、患者数が急増 している。現在、NASH は当該分野における世界的なレベル の関心事として大きく取り上げられ、数年後には慢性肝疾患 の第1位となることが予想されている。しかし、NASH の病 態機序解明および根本的な治療薬の開発にはまだ至っておら ず、早急な対策が望まれている。 長鎖脂肪酸受容体 GPR120/FFAR4 はドコサヘキサエン酸 (DHA)などの長鎖脂肪酸により活性化され、抗炎症作用や インクレチン分泌促進を介したインスリン抵抗性改善作用を 有している。 最近、GPR120/FFAR4 と肝疾患との関係に関する報告がな され、非常に注目を集めている。例えば、ヒト小児 NASH 患 者の肝臓組織において、GPR120/FFAR4 が高い発現を認める こと、長期間の DHA 投与により、脂肪肝や炎症を改善することが報告されている(PLoSOne,2014)。さらに、 肝臓のクッパー細胞上に GPR120/FFAR4 が発現していることや、ω-3 系脂肪酸の投与が肝虚血再灌流障害を抑 制するとの報告もある(JHepatol.,2014)。 一方、脂肪組織における慢性炎症および線維化の形成が、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の重症度 と密接に関係していることが報告されている。GPR120/FFAR4 は脂肪組織に高発現しており強力な抗炎症作用 を示すことが知られている。また、GPR120/FFAR4欠損マウスは、高脂肪食負荷によって肥満や肝障害を呈す ることから、生活習慣病の標的因子としても注目されている。 現在、脂肪組織 GPR120/FFAR4 を介したシグナルの変容または機能異常が、NASH 病態へと進行するリスク ファクターであるという仮説をたて、GPR120/FFAR4 ノックアウトマウスを用いて証明する。これらの基盤研 究を遂行することによって、GPR120/FFAR4 を標的とした新たな NASH 治療戦略および創薬開発研究が前進す ることが期待できる。 ■他の研究/技術との相違点 NASH 病態形成過程における GPR120/FFAR4 シグナル機構の破綻に着目した点に特色がある。この仮説が 証明されれば、GPR120/FFAR4 を標的とした新規 NASH 治療薬の開発が可能となり、多くの NASH 患者に対 して多大な利益をもたらすことが期待される。 ■今後の展開、実用化へのイメージ 現在、肥満人口や糖尿病患者数が増加していることから、今後ますます NASH 患者が増加することが予想さ れる。したがって、新規 NASH 治療薬の開発に向けた研究、さらには新しい NASH 診断バイオマーカーの探索 研究は、NASH 患者に対して多大な利益をもたらすことが期待される。 (今後の展開) ① 長鎖脂肪酸受容体 GPR120/FFAR4 ノックアウトマウスを用いた NASH 病態解析 ② NASH のリピドミクス解析(イメージング) ■関連業績(特許・文献) Nakamoto K, Obata T, Hirasawa A, Ih Kim K, Ryang Kim S, Tokuyama S. A Future Perspective on the Involvement of n-3 Polyunsaturated Fatty Acid in the Development of Nonalcoholic Fatty Liver Disease/ NonalcoholicSteatohepatitis.YakugakuZasshi.2016;136(4):583-9. 神戸学院大学薬学部 臨床薬学研究室 教授 徳山 尚吾(ShogoTokuyama)

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Page 1: 非アルコール性脂肪性肝炎における長鎖脂肪酸受容 …...非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は脂肪肝から肝硬変、 最終的には肝癌にまで進行する肝疾患であり、患者数が急増

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夢へのチャレンジが、未来を創る

神戸学院大学 Kobe Gakuin University

バイオ/ライフサイエンス

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■�テーマ名非アルコール性脂肪性肝炎における長鎖脂肪酸受容体 GPR120/FFAR4 の関与

■�キーワード非アルコール性脂肪肝、長鎖脂肪酸受容体�GPR120/FFAR4

■�研究の概要 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は脂肪肝から肝硬変、最終的には肝癌にまで進行する肝疾患であり、患者数が急増している。現在、NASH は当該分野における世界的なレベルの関心事として大きく取り上げられ、数年後には慢性肝疾患の第1位となることが予想されている。しかし、NASH の病態機序解明および根本的な治療薬の開発にはまだ至っておらず、早急な対策が望まれている。 長鎖脂肪酸受容体GPR120/FFAR4はドコサヘキサエン酸

(DHA)などの長鎖脂肪酸により活性化され、抗炎症作用やインクレチン分泌促進を介したインスリン抵抗性改善作用を有している。 最近、GPR120/FFAR4 と肝疾患との関係に関する報告がなされ、非常に注目を集めている。例えば、ヒト小児 NASH 患者の肝臓組織において、GPR120/FFAR4 が高い発現を認めること、長期間の DHA 投与により、脂肪肝や炎症を改善することが報告されている(PLoSOne,�2014)。さらに、肝臓のクッパー細胞上に GPR120/FFAR4 が発現していることや、ω-3 系脂肪酸の投与が肝虚血再灌流障害を抑制するとの報告もある(J�Hepatol.,�2014)。 一方、脂肪組織における慢性炎症および線維化の形成が、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の重症度と密接に関係していることが報告されている。GPR120/FFAR4 は脂肪組織に高発現しており強力な抗炎症作用を示すことが知られている。また、GPR120/FFAR4�欠損マウスは、高脂肪食負荷によって肥満や肝障害を呈することから、生活習慣病の標的因子としても注目されている。 現在、脂肪組織 GPR120/FFAR4 を介したシグナルの変容または機能異常が、NASH�病態へと進行するリスクファクターであるという仮説をたて、GPR120/FFAR4 ノックアウトマウスを用いて証明する。これらの基盤研究を遂行することによって、GPR120/FFAR4 を標的とした新たな NASH 治療戦略および創薬開発研究が前進することが期待できる。

■�他の研究/技術との相違点 NASH 病態形成過程における GPR120/FFAR4 シグナル機構の破綻に着目した点に特色がある。この仮説が証明されれば、GPR120/FFAR4 を標的とした新規 NASH 治療薬の開発が可能となり、多くの NASH 患者に対して多大な利益をもたらすことが期待される。

■�今後の展開、実用化へのイメージ 現在、肥満人口や糖尿病患者数が増加していることから、今後ますます NASH 患者が増加することが予想される。したがって、新規 NASH 治療薬の開発に向けた研究、さらには新しい NASH 診断バイオマーカーの探索研究は、NASH 患者に対して多大な利益をもたらすことが期待される。

(今後の展開) ① 長鎖脂肪酸受容体 GPR120/FFAR4 ノックアウトマウスを用いた NASH 病態解析 ② NASH のリピドミクス解析(イメージング)

■�関連業績(特許・文献)Nakamoto�K,�Obata�T,�Hirasawa�A,� Ih�Kim�K,�Ryang�Kim�S,�Tokuyama�S.�A�Future�Perspective�on� the�Involvement�of�n-3�Polyunsaturated�Fatty�Acid� in� the�Development�of�Nonalcoholic�Fatty�Liver�Disease/Nonalcoholic�Steatohepatitis.�Yakugaku�Zasshi.�2016;136(4):583-9.

神戸学院大学�薬学部� 臨床薬学研究室 教授 徳山 尚吾(Shogo�Tokuyama)