韓流マーケティング...韓流マーケティング…………………………………………………………………………………...

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韓流マーケティング………………………………………………………………………………… 近年、サムスン電子、LGエレクトロニクス等の大企業が韓国のアイドルを海外市場の広告モデルに積極的 に起用するようになり、アジアを中心とする各国で韓国の文化コンテンツの影響力が増していると言われる。 2000年初め、サムスン電子がドラマ「星に願いを」の主人公であるアン・ジェウクを中国市場で広告モ デルに起用したのが、韓国のアイドルを使ったマーケティングの出発点となった。1999年に43万台だっ たサムスン電子のモニター販売量は、2000年には107万台まで増加したが、その要因の一つは広告戦略の 成功によるものだと評価する向きもある。 この他にも、主演ドラマで人気を博したキム・ナンジュを、LG生活健康がベトナムにおける広告モデル として活用し、ドゥボン(Debon)を市場1位に押し上げた例、「冬のソナタ」に出演した俳優ペ・ヨンジ ュンを、ロッテ製菓が日本市場で広告モデルに起用してアーモンドチョコレートの売上を2倍に伸ばした例 など、記憶に新しいものもある。 また、韓国政府も、1998年、金大中大統領が21世紀の基幹産業として文化産業を育成する方針を打ち 出し、映像メディア分野において、海外での国際番組見本市参加のための出張・出展費用支援や、国内での 放送番組見本市の開催(2005年は9割の財政支援)などマーケティング活動への支援を行った。また、輸 出用に番組をリメイクするために必要な現地語の字幕付けといった作業費用に対して、7~8割の支援を行 った。 企業・政府双方の取組が功を奏し、韓国の文化、ライフスタイルに対するイメージが向上し、韓国製品の ブランド力向上にも大きく影響したとされる。 コラム 最高級というブランド戦略………………………………………………………… TOTO(株) TOTO(株)は、1979年の中国進出以来、企業ブランド力の向上を最重要事項と考え、現在、中国にお ける富裕層の象徴的存在となっている。 同社は、中国進出当初、中央政府の迎賓館に製品を納めた。その他、中国を代表するような空港や、高級 ホテル、オフィスビルなどランドマークとなる建物に、製品を納めてきた。そうしたことが、同社製品は、 中国人に最高級であるものと認知されて いき、憧れを生んだ。その後、販売代理 店網の整備など供給体制、さらにアフタ ーメンテナンス面の体制も構築し、お客 様との接点において、売るだけでなく使 用期間中も万全の体制を構築。また、体 制面だけでなく、節水・省エネ分野での 製品性能を向上させ、製品面でも最先端 のポジションを追求。「ブランド価値向 上の取組」、「供給・アフターサービスな どの体制面」、「製品性能」が相互に結び 付き、同社は中国において確固たる地位 を築き、他社の追随を許さない。 コラム 写真:NEOREST 間(ネオレスト ジェン)。「智能衛浴専家」(インテリジェンスと 技術を浴室空間に提案する専門集団)というコンセプトをもっとも表現した、 フラッグシップとなるシリーズでコーディネートした空間。 (5)イメージ形成の重要性 ものづくり自体の付加価値が低下する中、ターゲット とする顧客に対して、技術による付加価値を加え、もの の価値を伝えることの重要性も高まっている。それ故、 市場との密なコミュニケーションを通し、ブランドや、 日本文化などの価値を市場に適した形で提供すること で、付加価値を得ることも有効である。 70

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Page 1: 韓流マーケティング...韓流マーケティング………………………………………………………………………………… 近年、サムスン電子、LG

韓流マーケティング…………………………………………………………………………………

近年、サムスン電子、LGエレクトロニクス等の大企業が韓国のアイドルを海外市場の広告モデルに積極的に起用するようになり、アジアを中心とする各国で韓国の文化コンテンツの影響力が増していると言われる。2000年初め、サムスン電子がドラマ「星に願いを」の主人公であるアン・ジェウクを中国市場で広告モ

デルに起用したのが、韓国のアイドルを使ったマーケティングの出発点となった。1999年に43万台だったサムスン電子のモニター販売量は、2000年には107万台まで増加したが、その要因の一つは広告戦略の成功によるものだと評価する向きもある。この他にも、主演ドラマで人気を博したキム・ナンジュを、LG生活健康がベトナムにおける広告モデルとして活用し、ドゥボン(Debon)を市場1位に押し上げた例、「冬のソナタ」に出演した俳優ペ・ヨンジュンを、ロッテ製菓が日本市場で広告モデルに起用してアーモンドチョコレートの売上を2倍に伸ばした例など、記憶に新しいものもある。また、韓国政府も、1998年、金大中大統領が21世紀の基幹産業として文化産業を育成する方針を打ち

出し、映像メディア分野において、海外での国際番組見本市参加のための出張・出展費用支援や、国内での放送番組見本市の開催(2005年は9割の財政支援)などマーケティング活動への支援を行った。また、輸出用に番組をリメイクするために必要な現地語の字幕付けといった作業費用に対して、7~8割の支援を行った。企業・政府双方の取組が功を奏し、韓国の文化、ライフスタイルに対するイメージが向上し、韓国製品の

ブランド力向上にも大きく影響したとされる。

コラム

最高級というブランド戦略………………………………………………………… TOTO(株)

TOTO(株)は、1979年の中国進出以来、企業ブランド力の向上を最重要事項と考え、現在、中国における富裕層の象徴的存在となっている。同社は、中国進出当初、中央政府の迎賓館に製品を納めた。その他、中国を代表するような空港や、高級

ホテル、オフィスビルなどランドマークとなる建物に、製品を納めてきた。そうしたことが、同社製品は、中国人に最高級であるものと認知されていき、憧れを生んだ。その後、販売代理店網の整備など供給体制、さらにアフターメンテナンス面の体制も構築し、お客様との接点において、売るだけでなく使用期間中も万全の体制を構築。また、体制面だけでなく、節水・省エネ分野での製品性能を向上させ、製品面でも最先端のポジションを追求。「ブランド価値向上の取組」、「供給・アフターサービスなどの体制面」、「製品性能」が相互に結び付き、同社は中国において確固たる地位を築き、他社の追随を許さない。

コラム

写真:NEOREST 間(ネオレスト ジェン)。「智能衛浴専家」(インテリジェンスと技術を浴室空間に提案する専門集団)というコンセプトをもっとも表現した、フラッグシップとなるシリーズでコーディネートした空間。

(5)イメージ形成の重要性ものづくり自体の付加価値が低下する中、ターゲット

とする顧客に対して、技術による付加価値を加え、ものの価値を伝えることの重要性も高まっている。それ故、

市場との密なコミュニケーションを通し、ブランドや、日本文化などの価値を市場に適した形で提供することで、付加価値を得ることも有効である。

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Page 2: 韓流マーケティング...韓流マーケティング………………………………………………………………………………… 近年、サムスン電子、LG

クリエイターの創作意欲との共存…………… クリプトン・フューチャー・メディア(株)

クリプトン・フューチャー・メディア(株)が2007年に発売した「初音ミク」とは、ヤマハ(株)の開発した「VOCALOID(ボーカロイド)2」と呼ばれる歌声合成技術に基づく歌声合成ソフトウェアであり、いわば「歌声のシンセサイザー」である。これを使うことによりボーカルまで含めた楽曲をクリエイターが一人で創作できるようになる。ボーカロイド技術を使用した歌声合成ソフトウェアは「初音ミク」以前から存在していたが、同社は「初

音ミク」ソフトウェアにアニメ風の魅力的なキャラクターを付し、歌声にアニメ声優の声を採用することで、単なるソフトウェアではなくバーチャルな歌手に見立て、発売した。さらに、同社は発売後「初音ミク」のキャラクターについて、「キャラクター利用のガイドライン」を発

表し、非商用利用に限って事実上無償で開放することとしたことで、動画投稿サイトが効果的なプラットフォームとして機能し、楽曲や、イラスト等の創作が爆発的に広がった。また、同社は、クリエイター同士が作品を共有し、そこから創作の連鎖(N次創作)が生まれやすいように、

創作物の投稿・相互利用の場として「ピアプロ」というサイトを開設し、ムーブメントを後押しした。この結果、「初音ミク」をインターネットで検索すると動画サイトで数十万件、検索サイトで数千万件ヒ

ットする(2012年1月時点)。さらにこのムーブメントは、インターネットにより国境を飛び越え、海外へも大きく広がりつつある。「初音ミク」の「ライブコンサート」は2010年から国内で展開されていたが、2011年にはロサンゼルス及びシンガポールでも開催された。また、これまで全世界的著名人が出演している「Google Chrome」のCMにも採用された。「初音ミク」ムーブメントの大きな特徴は、クリエイターの純粋な創作意欲によって牽引されたという点にある。同社では、自社のミッションを「メタ・クリエイター(クリエイターのためのクリエイター)」と明文化し、クリエイターの創作意欲を掻き立てるために、必要なものは何か真剣に考えてきた。「ピアプロ」なども創作活動のエネルギー源は、「より多くの人に自分の作品を見て、聞いて、使って欲しいという思いや、見た人・聞いた人からの『ありがとう』という言葉を得ること」であると気付き、クリエイター同士が互いの作品を相互利用すると共に、お互いに賞賛し、お礼を言える場が必要と考え設立した。このように同社のビジネスの肝は、「ソフトウェアを売って終わり」で

はなく、顧客であるクリエイターへ貢献として、「初音ミク」生態系が満足を得るインフラ維持・整備・更なる発展、そこに大きな存在意義があると同社は考えている。同社が作り出した「初音ミク」のムーブメントは、我が国ものづくり産

業に対して、ただモノを売るだけでなく、どこに自社の存在意義があり、実現したい価値は何であり、誰を顧客とすべきかを再考させる。

コラム

写真:クリプトン・フューチャー・メディア(株)が提供する「初音ミク」

第1節

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化

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Page 3: 韓流マーケティング...韓流マーケティング………………………………………………………………………………… 近年、サムスン電子、LG

クールジャパンの推進………………………………………………………………………………

クールジャパンの推進は、2010年6月に閣議決定された「新成長戦略2010」や「産業構造ビジョン2010」において重要な戦略の一分野に位置付けられ、2011年12月に閣議決定された「日本再生の基本戦略」においても、更なる成長力強化のための取組の一つとして、「クールジャパンの推進」が明示されている。

経済産業省ではクールジャパン戦略推進のため、ビジネスの第一線で活躍する有識者や各省の政務三役により構成された「クール・ジャパン官民有識者会議」を開催し、2011年5月にまとめられた同会議の提言に基づき、今後我が国が戦略的に獲得すべき重点分野及びマーケットを策定し、重点市場獲得のため、13事業を「クール・ジャパン戦略推進事業」として実施してきた。

例えば、シンガポールで行っているファッション分野の取組では、我が国のアパレル中小企業のシンガポール進出に先立ち、セレクトショップを中心とした15ブランドを「原宿ストリート・スタイル」という名前で一つのブランドにまとめ、事業を展開。2011年10月から3ヶ月間、アンテナショップを運営すると共に、現地のモデルに「原宿ストリート・スタイル」ブランドの洋服を用いた、ファッションショーを実施し、日本ファッションの現地での注目度は非常に高く、報道陣・観衆併せ約1,000名もの来場があった。

また、地域産品分野においては、これらを世界に誇るクラフトマンシップとして新たな成長産業とし、地域の活性化を図る目的で、「日本の工芸・文化を通じた海外での新たな日本ブランド構築」を目指した事業を米国及びフランスにおいて展開。日本全国から公募を行い、集まった約1,300点の製品から本プロジェクトに参画する一流アーティスト、文化人の目利き、キュレーションによって約150点を選出し、2012年2月にニューヨーク、3月にパリでテストマーケティングを実施した。「クールジャパン戦略」とは国のブランディングをしっかり行い、日本の文化力と中小企業の底力を活かし、

これらの一つ一つの潜在的な力を発掘し、「ジャパン」という大きなブランドとして海外に売り込むと共に、それに基づきアジア等から観光客を呼び込むことで、新たな成長産業を造り、雇用の獲得に繋げていく戦略である。

これからの日本が稼いでいくための道として、外需の取込と共に国内産業の発展・創出を同時に達成させていくために、各業界や各省庁とも連携を行いながら、今後もより一層クールジャパン戦略を推進していく。

コラム

写真:シンガポールで行った「原宿ストリート・スタイル」ファッションショーの様子

写真:フランスで行った Future Tradition WAO展示会の様子

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Page 4: 韓流マーケティング...韓流マーケティング………………………………………………………………………………… 近年、サムスン電子、LG

伝統的工芸品産業……………………………………………………………………………………

伝統的工芸品産業は、地域に密着した生活用品を振興し、伝統的な技術・技法や文化を現代に伝える貴重な産業である。しかし、近年、需要の低迷、後継者の不足等を背景に、生産額は、1980年代前半のピーク時に比べると約4分の1に減少している。また、生活スタイルの変化により伝統的工芸品を使う場面も少なくなってきている。

政府は、産地が行う需要開拓事業や後継者育成事業等の支援を通じ、伝統の技術・技法を将来に継承するための環境整備を推進している。また、現代の生活様式・消費者のニーズに対応した製品を生み出し、新たな生活スタイルを提案することで、日本の魅力・感性の再発見・再評価を促すとともに、それを世界へと発信することで、さらに伝統的工芸品の新たな可能性を広げる取組の強化を進め、伝統的工芸品産業をグローバル市場において発展させる取組も支援している。①�各産地における取組

伝統的工芸品産業の振興に関する法律の規定により経済産業大臣の認定を受けた各々の事業計画に基づき、産地の組合等が実施する、商品開発・展示会等の需要開拓事業、後継者育成事業等の費用の一部を国が補助している。また、各産地において、他の産地との連携、デザイナーとのコラボレーション、新たな用途の開発など、様々な取組も行われている。

コラム

写真:京鹿の子絞り(伝統的技術・技法を活かし、洋装でも使用できる「絞りショール」を開発した事例)

写真:山中漆器のティーキャニスター

第1節

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化

第1節

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化

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Page 5: 韓流マーケティング...韓流マーケティング………………………………………………………………………………… 近年、サムスン電子、LG

②(一財)伝統的工芸品産業振興協会が実施する振興事業伝産法の規定に基づき、(一財)伝統的工芸品産業振興協会が実施する人材育成、産地指導、普及促進、

需要開拓等の各事業を国が支援している。その中の一つである伝統的工芸品活用フォーラム事業では、新商品の開発を目的として、デザイナーやプ

ロデューサーと産地事業者のマッチング会、商品開発のための研究会等を実施。また、自治体と連携して毎年11月の伝統的工芸品月間の中心の催事として、伝統的工芸品月間国民会議

全国大会を開催。復興の一環として福島県会津若松市において伝統的工芸品の製作体験・展示・販売など様々なイベントを開催し、多くの来場者が訪れた(2011年10月27日〜10月30日)。

2012年2月には、「伝統的工芸品展 WAZA2012」を開催。福島県浪江町の大堀相馬焼、宮城県雄勝町の雄勝硯などの被災した産地も参画し、大消費地の東京に伝統的工芸品産業の魅力と底力を発信する機会となった。

さらに、被災地域のものづくり支援の一つとして、震災から1年後の2012年3月に、「元気です!日本の伝統的工芸品 東日本大震災復興応援展」を都内百貨店で開催し、被災地を中心とした伝統的工芸品の展示・実演を行った。

③海外販路開拓支援2011年1月には、海外販路開拓に向けて、外務省が主催する地域の魅力発見セミナーにおいて、在京大

使館向けに伝統的工芸品をアピールした(在日大使館関係者、約60カ国、約75名が出席)。またクールジャパン戦略により、伝統的工芸品を含む地域産品を海外に展開する取組がなされている。一例として、2011年伝統的工芸品全国大会の開催時には、福島県会津若松市において、クール・ジャパ

ン in会津として、新しい感覚の工芸品の展示とシンポジウムの開催により、国内のみならず海外にむけての発信につなげることとなった。

写真:全国大会関連イベントの様子①復興支援コーナー(福島県会津若松市)

写真:WAZA2012の様子

写真:全国大会関連イベントの様子②ふれあい広場(福島県会津若松市)

写真:WAZA2012の枝野大臣視察の様子(大堀相馬焼のブース)

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