体験型プログラムによる自助・共助促進効果の検証...

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体験型プログラムによる自助・共助促進効果の検証 岐阜大学 東善朗 高木朗義 大野沙知子 杉浦聡志 大野峻 「わかる」と「できる」にギャップ 自助・共助の現状 災害時、迅速な救命活動は被害を最小限にとどめる。 しかし、行政が提供する「公助」だけでは限界があり、 201411月に発生した長野神城断層地震をみるように 個人や地域による「自助」および「共助」に取り組み、 災害に備えることが重要である。 避難所の受け入れ対応も必要だが、被災しないために どうするか(避難者数を減らす対策)が重要である。 現在、さまざまな地域の自治会および教育の場におい て、防災のための講座や訓練が実施されているが、命を 守るために必要な成果1を得る工夫が不十分であり、 意識向上にとどまることが少なくない。 「一階の居間のこたつに入って いて、揺れる中では何もするこ とができなかった。部屋の柱や 天井が揺れ、ねじれるような揺 れ方で、立ち上がることすらで きなかった。」長野神城断層地震被害 状況調査鬼無里地区アンケート(2014)より 「わかる」を「できる」へ 1 右図は阪神・淡路大震災における神戸市内の死者の死因分析を示している。 図より、窒息・圧死・ショック・損傷・打撲・挫滅傷(83.3%)が焼死・全身火傷(12.2%) のおよそ7倍であることがわかる。また,ガスや電気の供給システムからの火災発生 を防ぐ改善も進んでいる。つまり、地震災害時の生命維持に寄与するには、窒息・ 圧死などを回避するための備えを促進する事が、効果的かつ必要な成果である。 多くの地域で避難訓練を防災訓練として実施しているが、命を守る備えに注目し、 「訓練により必要な成果を獲得する」という意図で実施しているところは多くない。 本研究の狙い まとめ 本研究の成果を以下に示す。 1.生徒を通じ、家庭を巻き込む体験型プログラムにより、地域の自助・共助を促進できることを示した 2.取り組みの目標設定や、プログラム内容の検討・分析・成果の把握において、ToDoリスト形式の評価が有効であることを示した 今後はToDoリストを誰もが使えるようなマネジメントツールへと改善し、地域の人的資源を通して自助・共助を促す。 生徒 家庭 地域 フィード バック ToDoリストが「できる」に 取り組み 本研究では現状を把握し、取り組む内容を検討し、効果を検証 することで、効果的施策の獲得を目指す。岐阜県の住民や児童・ 生徒を対象に体験型プログラムを提供し、調査を実施した。 1.アンケート調査による現状把握 2.体験型プログラムの実施 3.アンケート調査によるプログラムの効果把握 4.児童や生徒を通じた家庭・地域の自助共助促進 自助・共助の備えの実施率(%)N=4,453 命を守るために必要な 備えが十分にできていない 家具の転倒防止ハザードの認識などが課題 地域住民や中高生、小 学生親子が参加する講 座や訓練の機会におい て、体験型を中心とした プログラムを実施した。 どのような自助・共助に つながるかを観察した。 体験型プログラムの提供機会と 提供内容の一覧 実施プログラムの観察から 寄与すると考えられる対応項目 実施プログラム (映像を用いた講座とDIG)の 前後における自助・共助の 備えの実施率 受講前後で、複数項目の実施率に増加が見られた 受講時に認識を改め、できていなかったことに気づくケースもある「できる」の見える化 目的 自助・共助を促進するプログラ ムの検討と効果の検証を行い、 児童・生徒を通じた、家庭や地域 の自助・共助促進を考察する。 方法 自助・共助の促進において、取り組 み成果を把握するための評価方法を仮 設し、現状把握に適用する。 ①の評価項目を用いて、獲得したい 成果を明確にした体験型プログラムを 提供し、その効果検証や適切な施策の 検討を行う。 自助・共助の備えについて 現状を把握するため、30設問を構成し、岐阜県内22 高等学校の2年生家庭を対 象に、「実施or未実施」をア ンケート調査した。 受講生徒を通じた家庭の変化は、同様のプロ グラムを実施したC町住民と比べて改善項目が 少ない。間接的影響は、より少ない項目に止ま ると考えられる。 家庭や地域へと間接的に影響を及ぼすには、 狙いを絞ることが重要である。 長野県神城断層地震2014 広島土砂災害 2014 引用:The Huffington Post 投稿日: 20140820http://www.huffingtonpost.jp/2014/08/20/hiroshima- landslide_n_5693707.html 財団法人消防科学総合センターのホームページからデータ引用 受講者から他 の生徒や家庭、 地域への働き かけとその成 果を調査した。 結果と観察内 容から、成果 を得るための 要点を考察し た。 効果把握のため、 受講の一定期間後に、 再度アンケート調査の 設問を用いて調査した。 実施率の低い項目に着目した活動として、DIGによ るハザード認識や、家具転倒防止が実践された。 (左写真)取り組み目標を示す機能 6か月後の報告会にて、ハザード認識11%62%や、 家具固定7%16%など、活動成果が報告された。 取り組みの成果を把握する機能 現状把握に用いた設問を、ToDoリストとして 用いることが有効であった。 興味関心を高める体験型プログラムに、認識や知識を獲得する ハザードマップ学習や、行動のハードルを下げる家具固定の練習 など、目的に応じて組み合わせることで、自助・共助の促進を図る 7回土木と学校教育フォーラムの実践・研究報告 2015830実施プログラム 対応項目 観察内容 映像とレクチャー 2,3,4,6,12, 13,18 情報提供と啓発機能があり、様々な取り組みの 前段として用意することで、参加者の対策への 関心度を高めていた。 DIG(災害図上訓練) 12,13,14,15 ,16,17,19,2 0,23,24,29 テーマ選択した地震や土砂・洪水災害への気づ きと、出会いや情報共有が発生しており、取り 組むべき活動を議論する契機にもなることか ら、複数項目に有用であった。 シェイクアウト訓練 4 理解を深め、回数を実施する事で反応が早く円 滑になった。 毛布で担架、初期消 火、炊き出し、ジャッ キ救出、応急救護 17,20 防災訓練への積極参加につながった。 川と道のアラーム設定 18 情報収集に関心を持ち、携帯電話の設定を親子 で試みる姿が見られた。 ガラスフィルムの効果 実演 3,5 窓や戸棚に関する対策について家族で話題と し、必要資材についての質問が見られた。 避難生活のまめ知識 5,7,8 備えておくと便利な知恵を得て、家庭の話題と なった。 保有食材で3日分の献立 作り 7 日常の食材を再確認してシミュレーションする ことで、不足物を特定した。 寝室の家具配置シート 3 寝室の状況を把握し、すぐに対応可能な検討と なった。 家具固定ゲーム 2 出来ない理由である壁の中の柱探しを楽しく体 験できた。 自助・共助チェック シート 全項目 記入で現状を明らかにし、全項目に啓発機能が 見られた。(他プログラムと同時実施のため単 体での成果は把握できていない)受講後の地域 や学校での活動において、取り組み内容の議論 や成果報告に活用が見られた。 やること宣言 全項目 取り組みむ内容を期限を決めて宣言し、意識づ けができた。 調査対象とした2014年度実施の 講座・訓練・イベント (対象者の主な属性) ( D I G 3 C町自主防災訓練づくり講座(自治会加入住民) 200 D中学校総合学習(中学2年生) 140 特別支援学校総合学習(中高生) 50 特別支援学校(高校教員) 50 B町防災講座(自治会役員はじめ一般住民) 200 小学校PTA活動(小学2年生親子) 40 自主防災訓練(地区内住民) 150 防災リーダー育成講座(所属団体防災担当) 150 高校生防災リーダー養成講座(高校2年生) 80 自主防災訓練(地区内住民) 1,100 防災イベント(ショッピングセンター通行人) 40 民生委員主催サークル(高齢者) 20 防災イベント(駅前通行人) 20 提供主体

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体験型プログラムによる自助・共助促進効果の検証岐阜大学 東善朗 高木朗義 大野沙知子 杉浦聡志 大野峻

「わかる」と「できる」にギャップ

自助・共助の現状

災害時、迅速な救命活動は被害を最小限にとどめる。しかし、行政が提供する「公助」だけでは限界があり、2014年11月に発生した長野神城断層地震をみるように個人や地域による「自助」および「共助」に取り組み、災害に備えることが重要である。

避難所の受け入れ対応も必要だが、被災しないためにどうするか(避難者数を減らす対策)が重要である。

現在、さまざまな地域の自治会および教育の場において、防災のための講座や訓練が実施されているが、命を守るために必要な成果(※1)を得る工夫が不十分であり、意識向上にとどまることが少なくない。

「一階の居間のこたつに入っていて、揺れる中では何もすることができなかった。部屋の柱や天井が揺れ、ねじれるような揺れ方で、立ち上がることすらできなかった。」長野神城断層地震被害状況調査鬼無里地区アンケート(2014)より

「わかる」を「できる」へ

※1右図は阪神・淡路大震災における神戸市内の死者の死因分析を示している。

図より、窒息・圧死・ショック・損傷・打撲・挫滅傷(83.3%)が焼死・全身火傷(12.2%)のおよそ7倍であることがわかる。また,ガスや電気の供給システムからの火災発生を防ぐ改善も進んでいる。つまり、地震災害時の生命維持に寄与するには、窒息・圧死などを回避するための備えを促進する事が、効果的かつ必要な成果である。多くの地域で避難訓練を防災訓練として実施しているが、命を守る備えに注目し、「訓練により必要な成果を獲得する」という意図で実施しているところは多くない。

本研究の狙い

まとめ

本研究の成果を以下に示す。

1.生徒を通じ、家庭を巻き込む体験型プログラムにより、地域の自助・共助を促進できることを示した2.取り組みの目標設定や、プログラム内容の検討・分析・成果の把握において、ToDoリスト形式の評価が有効であることを示した

今後はToDoリストを誰もが使えるようなマネジメントツールへと改善し、地域の人的資源を通して自助・共助を促す。

生徒

家庭

地域

体験型プログラム

フィードバック

ToDoリストが「できる」に

取り組み

本研究では現状を把握し、取り組む内容を検討し、効果を検証することで、効果的施策の獲得を目指す。岐阜県の住民や児童・生徒を対象に体験型プログラムを提供し、調査を実施した。

1.アンケート調査による現状把握 2.体験型プログラムの実施

3.アンケート調査によるプログラムの効果把握 4.児童や生徒を通じた家庭・地域の自助共助促進

自宅の耐震性は確保されている

自宅の家具は固定されている

家具や本棚が倒れてくる場所に寝ていない

揺れや地震速報がの際に身を守る動作

地震対策について家族で話し合

っている

地震時の家族の連絡方法を決めている

電気・ガス・水道無しで1週間食べられる

停電しても1週間くらい灯りを維持できる

近所付き合いができている

普段から地域活動に参加している

地域の水害危険個所を確認している

避難場所を確認している

避難方法を確認している

避難準備情報・勧告・指示を理解している

洪水ハザー

ドマ

ップを確認している

浸水が始ま

った場合どうするか決めている

防災訓練に積極的に参加している

風水害対策について家族で話し合

っている

ご近所の災害時要支援者を知

っている

風水害対策を地域で話し合

っている

避難所は地域住民だけで開設できる

指定以外の避難所を独自で用意している

災害を区別した防災訓練を実施している

地域住民が参加するDIGを実施している

地域住民の自助を促す取り組みをしている

自主防災で住民の家具固定を支援している

災害時要援護者の支援体制ができている

災害発生時に自治会長不在でも対応できる

エリアが浸水した場合の対応を決めている

他自治会と災害時連携を話し合

っている

自助・共助の備えの実施率(%)N=4,453

命を守るために必要な備えが十分にできていない家具の転倒防止やハザードの認識などが課題

地域住民や中高生、小学生親子が参加する講座や訓練の機会において、体験型を中心としたプログラムを実施した。

どのような自助・共助につながるかを観察した。

体験型プログラムの提供機会と提供内容の一覧

実施プログラムの観察から寄与すると考えられる対応項目

実施プログラム(映像を用いた講座とDIG)の前後における自助・共助の

備えの実施率

受講前後で、複数項目の実施率に増加が見られた※受講時に認識を改め、できていなかったことに気づくケースもある。

「できる」の見える化

目的

自助・共助を促進するプログラムの検討と効果の検証を行い、児童・生徒を通じた、家庭や地域の自助・共助促進を考察する。

方法

① 自助・共助の促進において、取り組み成果を把握するための評価方法を仮設し、現状把握に適用する。

② ①の評価項目を用いて、獲得したい成果を明確にした体験型プログラムを提供し、その効果検証や適切な施策の検討を行う。

自助・共助の備えについて現状を把握するため、30の設問を構成し、岐阜県内22高等学校の2年生家庭を対象に、「実施or未実施」をアンケート調査した。

受講生徒を通じた家庭の変化は、同様のプログラムを実施したC町住民と比べて改善項目が

少ない。間接的影響は、より少ない項目に止まると考えられる。

⇒家庭や地域へと間接的に影響を及ぼすには、狙いを絞ることが重要である。

長野県神城断層地震2014

広島土砂災害 2014

引用:The Huffington Post 投稿日: 2014年08月20日http://www.huffingtonpost.jp/2014/08/20/hiroshima-landslide_n_5693707.html

財団法人消防科学総合センターのホームページからデータ引用

受講者から他の生徒や家庭、地域への働きかけとその成果を調査した。

結果と観察内容から、成果を得るための要点を考察した。

効果把握のため、

受講の一定期間後に、再度アンケート調査の設問を用いて調査した。

実施率の低い項目に着目した活動として、DIGによ

るハザード認識や、家具転倒防止が実践された。

(左写真)⇒取り組み目標を示す機能

6か月後の報告会にて、ハザード認識11%⇒62%や、家具固定7%⇒16%など、活動成果が報告された。

⇒取り組みの成果を把握する機能

現状把握に用いた設問を、ToDoリストとして用いることが有効であった。

興味関心を高める体験型プログラムに、認識や知識を獲得するハザードマップ学習や、行動のハードルを下げる家具固定の練習など、目的に応じて組み合わせることで、自助・共助の促進を図る

認識や行動の変化を目的

とした講座資料の一例

第7回土木と学校教育フォーラムの実践・研究報告 2015年8月30日

実施プログラム 対応項目 観察内容

映像とレクチャー2,3,4,6,12,13,18

情報提供と啓発機能があり、様々な取り組みの前段として用意することで、参加者の対策への関心度を高めていた。

DIG(災害図上訓練)12,13,14,15,16,17,19,20,23,24,29

テーマ選択した地震や土砂・洪水災害への気づきと、出会いや情報共有が発生しており、取り組むべき活動を議論する契機にもなることから、複数項目に有用であった。

シェイクアウト訓練 4理解を深め、回数を実施する事で反応が早く円滑になった。

毛布で担架、初期消火、炊き出し、ジャッキ救出、応急救護

17,20 防災訓練への積極参加につながった。

川と道のアラーム設定 18情報収集に関心を持ち、携帯電話の設定を親子で試みる姿が見られた。

ガラスフィルムの効果実演

3,5窓や戸棚に関する対策について家族で話題とし、必要資材についての質問が見られた。

避難生活のまめ知識 5,7,8備えておくと便利な知恵を得て、家庭の話題となった。

保有食材で3日分の献立作り

7日常の食材を再確認してシミュレーションすることで、不足物を特定した。

寝室の家具配置シート 3寝室の状況を把握し、すぐに対応可能な検討となった。

家具固定ゲーム 2出来ない理由である壁の中の柱探しを楽しく体験できた。

自助・共助チェックシート

全項目

記入で現状を明らかにし、全項目に啓発機能が見られた。(他プログラムと同時実施のため単体での成果は把握できていない)受講後の地域や学校での活動において、取り組み内容の議論や成果報告に活用が見られた。

やること宣言 全項目取り組みむ内容を期限を決めて宣言し、意識づけができた。

調査対象とした2014年度実施の講座・訓練・イベント(対象者の主な属性)

参加人数

(

人)

自助・共助チェッ

シー

映像とレクチャー

DIG(

災害図上訓

練)

川と道のアラー

ム設定

ガラスフィ

ルムの効

果実演

シェ

イクアウト訓練

毛布で担架

避難生活のまめ知識

保有食材で3日分献

立作り

寝室の家具配置シート

家具固定ゲー

やること宣言

C町自主防災訓練づくり講座(自治会加入住民) 200 ● ● ● ● ● ● ●D中学校総合学習(中学2年生) 140 ● ● ● ● ● ● ● ●特別支援学校総合学習(中高生) 50 ● ● ● ● ● ●特別支援学校(高校教員) 50 ● ● ● ● ● ●B町防災講座(自治会役員はじめ一般住民) 200 ● ● ● ● ●小学校PTA活動(小学2年生親子) 40 ● ● ● ● ● ● ●自主防災訓練(地区内住民) 150 ● ●防災リーダー育成講座(所属団体防災担当) 150 ● ●高校生防災リーダー養成講座(高校2年生) 80 ● ● ● ● ● ●自主防災訓練(地区内住民) 1,100 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●防災イベント(ショッピングセンター通行人) 40 ●民生委員主催サークル(高齢者) 20 ● ● ●防災イベント(駅前通行人) 20 ● ● ●

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