手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と ... ·...

8
DEIM Forum 2013 D3-5 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と 微小で重要な差異の発見 杉山 祐一 山肩 洋子 †† 田中 克己 †† 京都大学工学部情報科 606–8501 京都府京都市左京区吉田本町 †† 京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 606–8501 京都府京都市左京区吉田本町 E-mail: †{ysugiyama,yamakata,tanaka}@dl.kuis.kyoto-u.ac.jp あらまし Web 上のレシピ検索サイトで料理名によるキーワード検索を行うと,ときに数千件ものレシピが見つかる. 各レシピの調理手順は似通っているが,細かい部分にそのレシピの特徴とも呼べる違いがみられ,それぞれがどのよ うに異なっているか理解をするのは手間のかかる作業である.我々は,ユーザの検索意図として,料理の典型的な調 理手順を知りたい場合や,各レシピがどのような特徴を持つかを知りたい場合があると考えた.そこで検索結果とし て得られた各レシピの調理手順を既存手法により構造化し,それらのレシピの多くが共有する手順と,各レシピ間の 差異を発見することで,その料理の典型的な調理手順と各レシピの特徴をユーザに提示できるシステムを提案する. キーワード レシピ,集合要約,手順特徴抽出,手順情報 1. はじめに 近年,「Cookpad [1]」や「楽天レシピ [2]」など,一般ユーザ Web 上にレシピを掲載し,検索を行えるレシピ検索サイト の台頭が目覚ましい.これらのレシピ検索サイトで検索可能な レシピは百万件以上にも上り,「肉じゃが」や「ゴーヤ」といっ た料理名や食材名でのキーワード検索を行うと,数千件ものレ シピが提示される.提示されたレシピはそれぞれ大まかな作り 方(典型的な調理手順)は同じであるが,細かい部分ではワン ポイントと呼べるような特徴があり,互いに異なる特徴を持っ ている.しかし,レシピを検索したユーザが, レシピ一つ一つ を見比べて,その料理の大まかな作り方はどのようなもので, どの部分がそのレシピの特徴なのかを判別するのは手間のかか る作業である. そのため我々はレシピ検索サイトにて次のような問題が生じ ていると考えた. i ) 典型的な調理手順を知りたいユーザがレシピを検索した場 合,1 つのレシピを見ただけではどの部分が典型的な調理 手順でどの部分がそのレシピの特徴であるかがわからず, 多数のレシピを見比べなければならない. ii ) 典型的な調理手順はすでに理解しているユーザが,さらに 調理に工夫をしたいと考え,特徴的なレシピを探す場合, 各レシピがどのような特徴を持つかを理解するためには, レシピすべてを読まなくてはならない.しかしレシピの大 半は典型的な調理手順が占めているため非効率的である. 我々はこの 2 つの問題を,レシピの検索結果の提示方法を改 善することにより解決できると考えた.そこでレシピ検索に よって得られたレシピ集合から典型的な調理手順を推定し,各 レシピの特徴を抽出する手法を提案する. 3 &_(!U ?R7Y>YU &_Z^]\[^X8 &_2X8 &_U 肉じゃがの検索結果 牛肉 切る 玉ねぎ じゃがいも 醤油・砂糖 サラダ油 炒める 混合 落とし蓋をする 煮る さらす 春雨を使用 じゃがいもを下茹で 醤油を最後に加える ニンジンを面取りする ひき肉を使用 1 検索イメージ ユーザが料理名「肉じゃが」でレシピを検索した場合,提案す るシステムが提示する検索結果のイメージを図 1 に示す.ユー ザは図 1 の左側に示されるような,典型的な調理手順を見るこ とで,その料理の大まかな調理手手順を,レシピをみ比べるこ となく把握でき,さらに各レシピに付加されている特徴を閲覧 することで,どのようなバリエーションのレシピがあるか知る ことができると考えられる. 以降,2 章では関連研究を述べる.3 章では,レシピ検索サ イトをユーザがどのように利用するか調査した結果を述べ,4 章では,ユーザがレシピを見比べる際に注目する特徴がどのよ うなものかを調査した結果を述べる.5 章では提案手法とその 評価について述べ,最後に 6 章でまとめを述べる. 2. 関連研究 既存の料理レシピ検索システムの代表的なものとして前章で あげた Cookpad [1] や楽天レシピ [2] の他には,独自に制作し

Upload: others

Post on 15-Jul-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と ... · 2013-05-15 · DEIM Forum 2013 D3-5 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と

DEIM Forum 2013 D3-5

手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と微小で重要な差異の発見

杉山 祐一† 山肩 洋子†† 田中 克己††

† 京都大学工学部情報科 〒 606–8501 京都府京都市左京区吉田本町†† 京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 〒 606–8501 京都府京都市左京区吉田本町

E-mail: †{ysugiyama,yamakata,tanaka}@dl.kuis.kyoto-u.ac.jp

あらまし Web上のレシピ検索サイトで料理名によるキーワード検索を行うと,ときに数千件ものレシピが見つかる.各レシピの調理手順は似通っているが,細かい部分にそのレシピの特徴とも呼べる違いがみられ,それぞれがどのように異なっているか理解をするのは手間のかかる作業である.我々は,ユーザの検索意図として,料理の典型的な調理手順を知りたい場合や,各レシピがどのような特徴を持つかを知りたい場合があると考えた.そこで検索結果として得られた各レシピの調理手順を既存手法により構造化し,それらのレシピの多くが共有する手順と,各レシピ間の差異を発見することで,その料理の典型的な調理手順と各レシピの特徴をユーザに提示できるシステムを提案する.キーワード レシピ,集合要約,手順特徴抽出,手順情報

1. は じ め に

近年,「Cookpad [1]」や「楽天レシピ [2]」など,一般ユーザがWeb上にレシピを掲載し,検索を行えるレシピ検索サイトの台頭が目覚ましい.これらのレシピ検索サイトで検索可能なレシピは百万件以上にも上り,「肉じゃが」や「ゴーヤ」といった料理名や食材名でのキーワード検索を行うと,数千件ものレシピが提示される.提示されたレシピはそれぞれ大まかな作り方(典型的な調理手順)は同じであるが,細かい部分ではワンポイントと呼べるような特徴があり,互いに異なる特徴を持っている.しかし,レシピを検索したユーザが,レシピ一つ一つを見比べて,その料理の大まかな作り方はどのようなもので,どの部分がそのレシピの特徴なのかを判別するのは手間のかかる作業である.そのため我々はレシピ検索サイトにて次のような問題が生じ

ていると考えた.( i) 典型的な調理手順を知りたいユーザがレシピを検索した場

合,1つのレシピを見ただけではどの部分が典型的な調理手順でどの部分がそのレシピの特徴であるかがわからず,多数のレシピを見比べなければならない.

( ii) 典型的な調理手順はすでに理解しているユーザが,さらに調理に工夫をしたいと考え,特徴的なレシピを探す場合,各レシピがどのような特徴を持つかを理解するためには,レシピすべてを読まなくてはならない.しかしレシピの大半は典型的な調理手順が占めているため非効率的である.

我々はこの 2つの問題を,レシピの検索結果の提示方法を改善することにより解決できると考えた.そこでレシピ検索によって得られたレシピ集合から典型的な調理手順を推定し,各レシピの特徴を抽出する手法を提案する.

3�

� ��

#OV�

$V�

,AQ:�)I�U��

.,M/�I���J�V6!AQ:-M���J�EF�J?TB6!��PAQ:-L�;?J�WCF��UJBV6!'K<M=@�UJBV6�

2J�X%@F5AQ:-5��5!'K<X�:�VNG#OV�

D@�H0X�9F5�=T7$NB6!*+H1�5.,X�TBS8J�95�"G$V6!�

&�_(!U!4444?R7Y>YU�

&�_Z^]\[^X�8�

&�_� 2X�8�

&�_��U�

肉じゃがの検索結果 牛肉

切る

玉ねぎ

じゃがいも

醤油・砂糖

サラダ油

炒める

混合  

落とし蓋をする  

煮る  

さらす

春雨を使用

じゃがいもを下茹で  醤油を最後に加える

ニンジンを面取りする

ひき肉を使用

図 1 検索イメージ

ユーザが料理名「肉じゃが」でレシピを検索した場合,提案するシステムが提示する検索結果のイメージを図 1に示す.ユーザは図 1の左側に示されるような,典型的な調理手順を見ることで,その料理の大まかな調理手手順を,レシピをみ比べることなく把握でき,さらに各レシピに付加されている特徴を閲覧することで,どのようなバリエーションのレシピがあるか知ることができると考えられる.以降,2章では関連研究を述べる.3章では,レシピ検索サ

イトをユーザがどのように利用するか調査した結果を述べ,4

章では,ユーザがレシピを見比べる際に注目する特徴がどのようなものかを調査した結果を述べる.5章では提案手法とその評価について述べ,最後に 6章でまとめを述べる.

2. 関 連 研 究

既存の料理レシピ検索システムの代表的なものとして前章であげた Cookpad [1] や楽天レシピ [2] の他には,独自に制作し

Page 2: 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と ... · 2013-05-15 · DEIM Forum 2013 D3-5 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と

たレシピコンテンツを掲載している「レシピ大百科 [3]」や「ネスレバランスレシピ [4]」,既存のレシピ検索システムを用いたメタ検索を行う「Googleレシピ検索 [5]」など様々なサイトがあげられる.いずれのサイトでも通常のキーワード検索と同様,検索クエリに対し適切と判定された順に上位数件のレシピを列挙するだけであり,検索結果のレシピ集合における共通点や相違点を提示する機能はない.レシピ集合の共通点や相違点を解析するためには,レシピに

おける調理手順の構造化が必要であると考えられる.レシピの調理手順の構造化を行う研究としては,調理手順の説明テキストを,自然言語解析の技術により,作業フローに変換する手法が多く提案されている.代表的なものでは,既存の自然言語処理ツールに加え,レシピに特化して手動で導かれたルールを用いる手法 [6]や,レシピコーパスによる機械学習を使った手法 [7],レシピ検索サイトでの多種多様な記述に対応した構造解析を行う手法 [8]などが提案されている.本研究では,検索対象のレシピは,これらのような研究成果によりあらかじめフローグラフに構造化されているものと想定する.レシピ検索・推薦の研究も多様な観点から行われている.レ

シピの食材の典型度から追加食材の推薦を行う [9],レシピの難易度を考慮した検索手法 [10]や,個人の嗜好を考慮したレシピの推薦手法 [11],ユーザの気分と料理セットである献立を考慮したもの [12]などがある.いずれの研究もレシピ検索アルゴリズムやランキングに関する研究であるのに対して,本研究ではレシピ検索で得られたレシピ集合を扱う点で異なる.

3. レシピ検索サイトの利用調査

検索結果のレシピ集合は,どのように提示するのがユーザにとって有用であるかを議論するため,レシピ投稿サイトにおけるユーザの検索行動を調査した.

3. 1 調理時におけるレシピ検索動向の記録と分析被験者に,調理を行う前に Cookpad [1]で自由に一つの実際

に調理するレシピを選択してもらい,そのレシピを選択した理由と,キーワード検索を行った場合は,そのクエリの変遷を記述してもらった.被験者は日常的に Cookpadを利用している3名で,それぞれ 5回,計 15回分の記録を得た.その分析結果を次に示す.

15回分の記録のうち,キーワード検索により検索を行うものが 13回で最も多かった.残りの 2回は「今日のピックアップ料理」などトップページからリンクをたどることでたどり着いたレシピであった.13回のキーワード検索における,実際に調理するレシピを検索するのに用いられたクエリと最終的に選択され たレシピが検索結果中何位であったかを表 1に示す.ただしクエリ中に含まれる “▲”はそれに続くキーワードを含まないものを検索するマイナス検索である.検索に用いられた各クエリのうち,料理名を含むものは 8つ,

食材名を含むものは 8 つ,調理法は 4 つ,道具が 1 つであった.このことより,被験者たちは,主に料理名と食材名で検索したことがわかる.また,選択されたレシピが検索結果中何位であったかをみると,1位が選ばれたことは一度もなく,上位

表 1 入力された最終的なクエリと選択されたレシピの順位被験者 クエリ 順位

A 白菜 豚肉 炒め 生姜 ▲八宝菜 43

鯖 味噌煮 フライパン▲圧力鍋 ▲缶 ▲梅干 ▲バター

3

白菜 豚肉 巻き▲味噌 ▲ひき肉 ▲牛乳 ▲サラダ ▲焼く

5

セロリ にんじん 豚肉▲巻き ▲ポトフ ▲カレー ▲ブロック ▲かたまり

56

豆腐 ハンバーグ 水切り ▲ひじき ▲不要 33

B カレーうどん カレール 7

鯛めし 12

ビビンバ丼 20

豆腐 50

C カルボナーラ 9

トマト缶 煮る 6

ロールキャベツ 2

パスタ 7

10件の検索結果から選ばれたものも高々13回中 7回と,およそ半分であった.[13]によると,一般的なWeb検索では,検索結果のうち上位 1 件をユーザの約 58 パーセント選んでおり,上位 3件から選ぶユーザは約 86パーセント,上位 10件から選ぶユーザは約 98パーセントである.つまりユーザは検索結果の上位を選ぶ傾向がある.しかし,レシピ検索では表 1を鑑みるに,この傾向が弱い可能性があると考えられる.さらに,被験者のコメントでは,「いくつかのレシピを比較し

てこれがおいしそうだったので決めた.」「複数のレシピを見くらべてレシピを選択した」など,レシピの比較を行ったとの記述が 13回のキーワード検索のうち 11回に見られた.Cookpad

ではレシピの検索時に,レシピのタイトル・写真・キャッチコピー・主な食材を見ることができるが,被験者はその情報のみでレシピを選択せず,タイトルをクリックして中のレシピ本文を見て最終的なレシピを選択したと考えられる.以上のことより,我々は次の 2つの仮説をたてた.

仮説 1: レシピ検索は一般的なWeb検索に比べ,上位の検索結果が選ばれない.

仮説 2: ユーザは複数のレシピのタイトルや写真,キャッチコピーのみだけでなくレシピ本文を見比べて選択する

3. 2 アンケートによるレシピ選択動向の分析前節の仮説を,より多数の被験者のもとで検証するために,

Webを通じてレシピ検索行動に関するアンケート調査を行った.ここで,被験者のレシピ検索に対する動機づけを行うこと,また条件を統制することを目的として,レシピを検索するシチュエーションを設定した.前節の実験からレシピ検索のクエリに「料理名」および「食材名」がよく用いられること, Cookpad

では検索結果の順位付けとして「新着順」と「人気順」が選べること,また,トップページから料理カテゴリをたどってレシピを検索する場合があることから,シチュエーションは以下の4パターンとした.

Page 3: 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と ... · 2013-05-15 · DEIM Forum 2013 D3-5 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と

0.0    

10.0    

20.0    

30.0    

40.0    

50.0    

60.0    

70.0    

80.0    

90.0    

100.0    

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10  

そのレシピの検索結果における順位

ビーフシチュー新着順

カルボナーラ人気順

ゴーヤ新着順

おもてなし料理

一般的なWeb検索[13]  

そのレシピが選択された割合  

(累計)(%)  

図 2 N 位検索率

0.0    

5.0    

10.0    

15.0    

20.0    

25.0    

30.0    

35.0    

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10  

ユーザの割合(%)

レシピ閲覧数

ビーフシチュー:新着順

カルボナーラ:人気順

ゴーヤ:新着順

おもてなし料理

図 3 レシピを決めるまでに閲覧したページ数とその割合

• 料理名「ビーフシチュー」で検索し,新着順で結果を得る• 料理名「カルボナーラ」で検索し,人気順で結果を得る• 食材名「ゴーヤ」で検索し,新着順で結果を得る• カテゴリ「おもてなし料理」で検索し結果を得るCookpad 上で上記の 4 つのシチュエーションでレシピを検

索し(注1),それぞれの検索結果上位 10件を,各シチュエーションのレシピ検索結果とした.被験者に検索結果を提示する画面は,Cookpadのをそのまま使用した.すなわち,検索結果の画面で上位 10件のレシピについて,タイトル・写真・主な食材,および概要のスニペットが列挙され,調理手順は表示されない.また,各レシピタイトルをクリックすると,調理手順を含むそのレシピに関する詳細説明の画面が開かれる.各被験者には,シチュエーションごとに以下の項目について回答させた.• 最終的に 1つレシピを選択するとしたらどのレシピか• レシピを選ぶ際に閲覧したレシピはどれか [複数回答可]

• そのレシピを選んだ理由 [複数回答,自由記述可]

被験者数は 37名であった.まず,前節で挙げた仮説 1を検証するため,検索結果の N 位以内に最終的に選択されたレシピをが含まれる確率 (N位検索率)を調べた.本アンケートの 4

つのシチュエーションにおける N位選択率を図 2に示す.ここで,一般的なWeb検索と比較を行うため, [13]の N位検索率を参照し,併せて図 2に掲載している.図 2より,いずれの検索シチュエーションにおいても,一般

的なWeb検索に比べて,上位の検索結果が選択される割合は低いことがわかる.このことより仮説 1「レシピ検索は一般的なWeb検索に比べ,上位の検索結果が選ばれない」が確認できた.また,新着順よりは,人気順のほうが,上位によりよいレ

(注1):2012/10/21 の時点のデータを用いた.

シピが登場すると考えられるため,上位のレシピが選ばれやすいと考えられる.しかし,同じく図 2によると,ランキング方法を「新着順」と「人気順」で比較しても,上位の検索結果が選択される割合は「人気順」に明らかな優位性はみられなかった.一般的に,ユーザがどのようなレシピを好むかはユーザの嗜好に大きく依存していると言われており,いかに検索アルゴリズムを改善しても,上位2,3件のレシピを見れば十分とはならない可能性が高いと考えられる.よって本研究が提案する,レシピ検索結果を見比べるやすいシステムは有用性が高いと考えられる.次に,前節の仮説 2を検証するため,検索シチュエーション

ごとに,各被験者がレシピを決定するまでに閲覧したページ数の平均ページ数を算出し,閲覧したページ数別に被験者の比率を調べた.その結果を図 3に示す.上で述べたように,10件の検索結果の提示画面では,レシピのタイトル,写真,レシピの概要などの情報が列挙されているため,これらの情報でレシピを決定することができるのであれば,詳細説明ページを閲覧する必要はない.しかし図 3によると,いずれの検索シチュエーションにおいても,被験者の7割以上が 2つ以上のレシピを閲覧していることがわかる.これは,その料理の大まかな特徴だけでなく,調理手順などの詳細な情報を見てレシピを選択していることを示唆している.このことより仮説 2「複数のレシピのタイトルや写真,キャッチコピーのみだけでなく本文を見比べて選択する」が確認できた.そのため,レシピ本文からその特徴を抽出することで,レシピ本文を効率よく見比べられる本手法は有用性が高いと言える.

4. レシピ検索時におけるレシピの特徴

本章では,ユーザが効率よくレシピを見比べやすいレシピ表示システムを実現する準備として,異なるレシピ間にどのような種類の差異があるかを整理し,そのそれぞれの特徴を分析する.以降,レシピで用いられる材料を「食材」と呼び,食材に対して行う調理手順ひとつひとつを「調理工程」と呼ぶ.

4. 1 調理手順をテキストで記述する際に生じる差異実際の調理手順が完全に同じ,あるいは酷似しているレシピ

であっても,そのレシピをテキストによって記述すると,一見,全く別のレシピに見える場合がある.テキストを一覧するだけでは違うレシピに見えても,実際の調理手順がほぼ同一であるならば,そのような差異はユーザがレシピを選択するのに有用な特徴ではないと考えられる.このような調理手順をテキストで記述する際により生じる差異には以下のようなものがあげられる.

( 1)「炒める」と「いためる」や「じゃがいも」「ジャガイモ」「ジャガ芋」といった表記の揺れ

( 2)「炒める」と「炒め合わせる」や「煮る」と「煮込む」といった作業の微細な違い

( 3) ニンジンを角切りにするという 1つの手順について,「ニンジンは角切りにします」と 1つの文で表現するか,「ニンジン・ジャガイモは角切りにします」のようにほかの作業とまとめて表現するかといった作業単位の分け方の違い

Page 4: 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と ... · 2013-05-15 · DEIM Forum 2013 D3-5 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と

( 4)「ジャガイモを洗い,皮を剥き,切ります」という表現に対し,「洗う」,「皮をむく」といった作業はじゃが芋の下ごしらえとして極めて一般的であるから省略して,「ジャガイモを切ります」と記述するといった記述の省略

以上のような,レシピのテキスト表現による差異は,実際の作業手順では微細な差異であるか,または作業手順としての差異はないため,ユーザがレシピを見比べる上で重視しないことも考えられる.そこで,次節では実際に被験者がレシピを見比べる際にどのような差異に注目するかを分析した.

4. 2 レシピの特徴分類レシピを見比べる際にユーザが着目するレシピの特徴はどの

ようなものかを調べるために,以下のような実験を行った.被験者に対し,「肉じゃが」「ビーフシチュー」「カルボナー

ラ」「ゴーヤ」をそれぞれキーワードとして Cookpad [1] で人気順検索をした,上位 10件のレシピ集合,計 4セットを与えた(注2).なお,今回は調理手順の差異に着目するため,写真やコメントに関連する特徴は考慮に入れないようにしたい.そのため,レシピとしては,食材と使用量の対である食材リストと調理説明文のみを抽出したものを被験者に渡した.次に,その各レシピ集合における,各レシピの特徴を手動で書きださせた.ここで,レシピをざっと見るか,じっくり見比べるかで特徴の選ばれ方が異なることが予想された.本研究の目的は,レシピの大きな特徴ではなく,ある程度時間をかけてよく読まないと発見できないようなレシピの特徴をシステムが提示することであるから,被験者にはレシピをよく見比べてもらう必要がある.そこで,レシピの特徴を判断する際の作業として,以下のように指示した.

( 1) レシピ集合ごとに,はじめにそのレシピ 10件の食材リストとレシピ本文をすべて読む.

( 2) 各レシピの食材リストや調理説明文に,そのレシピの特徴であると思われる箇所をマークする.このとき,食材リストや調理説明文中に現れない特徴が存在する場合は余白部分に記入する

( 3) 各レシピに複数特徴があると判断された場合は,その特徴の重要性を被験者が主観で判断して順位を付ける.

上記の手順で 2名の被験者に特徴の書き出しを行ってもらい,各レシピにおいて,2名の被験者のいずれかが特徴であると判断した特徴を,そのレシピの特徴とした.その結果,計 194個の特徴を得た.得られた特徴を,その性質によって分類したところ,大きく

「食材」,「調理工程」,「調理器具」そして 4.1 節であげた「テキスト表現による差異」に分類できた.また,これらをさらに詳しくみて,分類「食材」は食材リストのうち,現れる場所の違いから,「食材の種類」,「食材の使用量」の 2 つに分類できた.また「調理工程」に関しては,「肉はワインで下こしらえ」や「じゃがいもを下茹でしておく」などの下ごしらえに関するキーワードを用いた記述があったため,「下ごしらえ」と「その他の調理工程」の 2種類に分類した.さらに「その他の調理工

(注2):2013/1/15 日のデータを用いた.

程」には「落としぶたをする」や「余熱で火を通す」などの 1

つの調理工程に関する記述と,「じゃがいもと人参を先に入れる」・「じゃがいも最後にもりつける」などの1つの調理工程としては特徴的ではないが,その調理工程の順序に関して特徴が認められる記述があったため,「調理工程単体」と「調理工程の順序」の 2つに分類した.なお「下ごしらえ」に分類されたものはすべて「ジャガイモを下茹でする」・「ニンジンの面取り」など 1つの調理工程に関する記述のみであった.結果として得られた 7種類の分類とその主な例を次に示す.

• 食材:食材の種類他のレシピではあまり使われていない食材が用いられている.または他のレシピではだいたい用いられている食材が用いられていない(例 「肉じゃが」に「トマト缶」が用いられている.「肉じゃが」に「料理酒」が用いられていない)

• 食材:食材の量他のレシピに比べ,ある食材の量が多い・少ない(例 「みりん」の量が多い)

• 調理工程:下ごしらえ他のレシピでは行われていないような下ごしらえを行っている(例 「じゃがいも」を下茹でしている)

• 調理工程:調理工程単体下ごしらえ以外で.他のレシピではあまり行われていない調理工程がある(例 落とし蓋をして煮る.)

• 調理工程:調理工程の順序調理工程の順序が他のレシピと異なる(例 「醤油」を最後に加えている)

• 調理器具他のレシピでは使っていない調理器具を用いている(例 「圧力鍋」を用いている)

• テキスト表現による差異レシピの書き方に特徴がある(例 食材がすべて ccで表記されている)上記のように分類された各特徴は,出現場所が食材リストで

あったり調理説明文であったりと異なり,また,出現頻度や記述のされ方などの性質も異なる.そのため,それぞれの分類に特化した抽出手法を構築する必要があると考えられる.そこで本研究では,重要性が高いと考えられる分類の特徴に着目する.各分類の重要性は次の 2つの視点から判断した.1つ目は出

現頻度で,出現頻度の高い分類は重要である.2つ目は,被験者が各特徴に与えた順位の値である.この値が小さいものはそのレシピにおいて重要であるため,順位の平均値が小さい分類は重要である.そこで,各分類の出現頻度と,順位の平均を算出した結果を表 2に示す.表 2より,最も出現頻度の高い「食材の種類」と,順位の平

均が 2.0以下である「下ごしらえ」・「調理工程の順序」の 3つが重要性の高い特徴の分類であるとし,本研究ではこれら分類の特徴である 164個 (84.5%)の特徴に関して抽出を図る.

Page 5: 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と ... · 2013-05-15 · DEIM Forum 2013 D3-5 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と

表 2 特徴の種類ごとの頻度と順位平均・分散特徴の種類 出現回数 頻度 (%) 順位の平均食材の種類 125 64.4 2.46

下ごしらえ 22 11.3 1.7

調理工程の順序 17 8.8 1.8

食材の量 10 5.2 2.1

調理工程単体 10 5.2 4.1

調理器具 7 4 4

テキスト表現による差異 3 2 4

全て 194 100 2.44

また,節 4. 1で述べた,レシピのテキスト表現による差異に当てはまるものは全体の 2% で,順位の平均も 4,0 であった.そのため,複数のレシピを見比べる目的においては,テキスト表現による差異を無視しても影響はすくないと予想される.逆に,このような差異は,レシピの典型的な調理手順の抽出や特徴発見においてノイズとして影響を与える恐れがあることから,本手法では除去することを考える.以上の分析結果を踏まえ,本研究でシステムがレシピ間の特

徴として抽出する差異と無視する差異を以下のようにした.• 食材の種類: 抽出する (5.4.1節で述べる)

• 下ごしらえ: 抽出する (5.4.2節で述べる)

• 調理工程の順序: 抽出する (5.4.3節で述べる)

• テキスト表現による差異: 前処理で除去する (5.2節,5.3

節で述べる)

• 食材の量: 本研究では扱わない• 調理工程単体: 本研究では扱わない• 調理器具: 本研究では扱わない

5. レシピ集合からの典型的な調理手順抽出と特徴発見

本章では,レシピ検索サイトにおいて,料理名によるレシピ検索で得られたレシピ集合に対して,典型的な調理手順を推定する手法と,各レシピに対して,前節で重要と判定された種類の特徴を抽出する手法について説明する.

5. 1 処理の流れシステムに対するユーザの入力行動と,システムの処理の流

れ,システムがユーザに提示する情報を図 4を用いて説明する.ユーザは「肉じゃが」や「ゴーヤ」のような料理名や食材の

検索クエリをシステムに入力する.システムは,この検索クエリにより Cookpad [1]などのレシピ検索サイトを介してレシピを検索し,上位N 件のレシピを獲得する.このとき,得られたN 個のレシピ ri の集合を集合 Rとし,R = {r1, · · · , rN}とする.レシピ ri は食材リストと,調理手順説明文からなる.レシピ集合 Rに一度でも出現した食材の集合を F = {f1, · · · , fM}とする.(ただしM は出現する食材の種類の数)

4.1節で述べた,テキストで記述する際に生じる差異のうち,3.の「作業単位の分け方の違い」を除去するため,各レシピri の調理手順説明文を,手作業により調理手順を示すフローグラフ gi に変換する.なお,このフローグラフ化の処理は,[6]~[8]などの手法を使えばほぼ自動化が可能である.集合 Rから

レシピ検索結果集合R  レシピ{r1,  r2,  …,  rN}  

調理手順の構造化

レシピのフローグラフ集合G  フローグラフ{g1,  g2,  …,  gN}  

テキストで記述する際に生じる差異の除去 各レシピの特徴抽出 各レシピの特徴          

レシピrNの特徴「10分蒸らす」

レシピr1の特徴「落し蓋をする」

検索クエリ

縮退されたレシピのフローグラフ集合G’  フローグラフ{g’1,  g’2,  …,  g’N}  

典型的な調理手順の抽出 典型的な調理手順を示す  

フローグラフP  

図 4 処理の流れ

得たフローグラフ gi の集合を G = {g1, · · · , gN}とする.今回は次の得られたフローグラフ gi は次の性質を持つものとする.

• ルートノードは,そのレシピの完成品に対応する.• 食材は,それぞれ一つの葉ノードに対応する• 調理工程は,それぞれ一つの節ノードに対応する• ある節ノードの調理の対象ノードから,その調理に対応

する節ノードへ有向枝が張られている.次に,このフローグラフ gi に対し,5.2節で述べる手続きに

よって,4.1節で述べた,テキストで記述する際に生じる差異のうち,「(1)表記の揺れ」と「(2)作業の微細な違い」による差異を除去する.また,5.3節で述べる手続きによって,フローグラフ gi に対し,4.1節で述べた,テキストで記述する際に生じる差異のうち,「(4)記述の省略」による差異を除去する.この処理を縮退とよび,縮退により得られた新たなフローグラフを g′

i とし,その集合を G′ = {g′1, · · · , g′

N}とする.この G′ から典型的な調理手順 pを抽出する.最後に 5.4節で述べる手続きによって各レシピの特徴を抽出する.

5. 2 レシピのテキスト表現による差異,表記の揺れと作業の微細な違いの除去

本節では 4.1節で述べた,テキストで記述する際に生じる差異のうち,「(1)表記の揺れ」と「(2)作業の微細な違い」による差異の除去を行う手法について説明する.日本語の表記ゆれ判別用の辞書「たんし」[14]を用い,レシピテキスト中の 4. 1節の表記の揺れによる差異を除去した.「たんし」では,「豚肉」と「ぶたにく」のように,発音は同じだが,表記が異なる単語同士を関連付けた辞書である.この辞書を用いて,すべての単語をひらがなに変換することにより,発音が同じであれば,同じ表現で表記されるよう統一される.さらに,各調理動作を,下記のようなカテゴリにラベリング

し,4. 1の作業の微細な違いによる差異の除去を行った.カテゴリは NICT [15]の上位語・下位語辞典を用い,「調理法」を上位語として持つ動詞を抽出し,4.2節で行った実験の結果を参考に,レシピ間の特徴とはみなされない程度微細にしか調理動作が異ならないと考えられるものを手動で分類することで得た.得られた 10種類のカテゴリとその実例を次に示す.

• 混合:「加える」「入れる」「投入する」など• 切る・剥く:「切る」「一口大にする」「みじん切り」など• 炒める:「炒める」「炒め合わせる」など• 煮る:「煮る」「煮詰める」「煮込む」など

Page 6: 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と ... · 2013-05-15 · DEIM Forum 2013 D3-5 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と

牛肉

炒める  

にんじん

混合

玉ねぎ

炒める  

混合

フローA フローB  

牛肉

にんじん

炒める

玉ねぎ

炒める  

混合

フローC

牛肉

炒める  

にんじん 玉ねぎ

牛肉

にんじん 玉ねぎ

炒める  

混合

フローD

図 5 フローグラフの縮退の例

• 焼く:「焼く」「焼き付ける」など• 焼く (オーブン):「オーブンで焼く」など• 揚げる:「揚げる」「素揚げにする」など• 茹でる:「茹でる」「湯がく」など• 蒸す:「蒸す」「蒸し焼く」など• その他:上記に含まれないもの

5. 3 フローグラフの縮退と典型的な調理手順の抽出レシピ集合 Rの典型的な調理手順は,その典型的な調理手順

を見るだけでレシピの全体の大まかな流れが理解できるものであることが望ましい.そこでシステムは,典型的な調理手順はレシピの調理手順そのものではなく,調理手順をいくつかの段階に区分し(この処理を縮退と呼ぶ),フローグラフの形で示したものを提示する.縮退されたフローグラフ g’i の素となったレシピは,同じ検索クエリで得たレシピ集合であるから,多くの g’i は同じ形となり,結果,G′ には同じフローグラフが多く含まれる.そこで,G′ のうち,最も数の多いものを典型的な調理手順 pであると判定する.以下で処理の詳細を説明する.食材から一つの料理を作りあげるまでの調理手順は,下ごし

らえや,似た調理工程をひとまとめにすれば,いくつかの段階に分けることができると考えられる.例えば,文 A「玉ねぎとニンジンをいれ,炒め合わせる.さらに牛肉も加え炒める」という手順は,「炒める」という作業が継続していることから,「炒める」という調理段階であると考えられる.また,文 B「玉ねぎとニンジンと牛肉を炒める」文 C「玉ねぎとニンジンを炒め,牛肉も炒める」という記述も文 Aと同じ調理手順を表していると考えられる.しかしこのそれぞれをフローグラフに変換すると文 A,文 B,文 Cはそれぞれ図 5のフローA,フロー Bに,フロー Cになる.よってこれらのレシピのフローグラフは実際には同じ調理動作を表していると考えられる.そこで,これらのフローに縮退処理を加えて,1つのフロー Dにする.また,4. 1のテキストで表記する際に生じる差異のうち,「(4) 記述の省略」は,この一つの調理段階の表現方法の詳細さによるものであると考えられる.よって,レシピのフローグラフを縮退させることで,この記述の省略による差異を除去する.具体的には以下のルールを適用することでて縮退を行った.

( 1) 2つの調理動作 nA と nB の間に nA から nB へとエッジがあり,nB に向かうエッジがそれ以外にないとき,nAのラベルが「混合」で,nB のラベルが「切る・剥く」「その他」以外のときは nA, nB を一つのノードとし,nB のラベルとする.(図 6)

( 2) 2つの調理動作 nA と nB のラベルが「その他」以外で同

炒める  

混合

煮る  

混合

縮退前 縮退後  

にんじん 玉ねぎ

醤油

炒める

煮る

にんじん 玉ねぎ

醤油

図 6 縮退ルール 1 の縮退例

炒める  

炒める

炒める

縮退前 縮退後  

にんじん 玉ねぎ

炒める

にんじん 玉ねぎ

塩 豚肉

豚肉

図 7 縮退ルール 2 の縮退例

その他:  弱火にする  

煮る

煮る

縮退前 縮退後  

にんじん 玉ねぎ

豚肉

混合

その他:  落としぶたをする  

その他:  弱火にする  

煮る

煮る

にんじん 玉ねぎ

豚肉

煮る

その他:  落としぶたをする  

図 8 縮退ルール 3 の縮退例

表 3 典型的な調理作業を示すフローグラフの評価特徴の種類 平均食材の種類 3.5

下ごしらえ 3.2

調理工程の順序 3.1

全て 3.2

じであり,nA から nB へとエッジがあるとき,nA, nB を一つのノードとする.(図 7)

( 3) 2つの調理動作 nA と nB のラベルが同じで,nA と nB

が複数のノードを経て連結されているとき,間のノード集合を NAB = (nAB1, · · · , nABM ) とする.このとき,nA

のラベルが「混合」「切る・剥く」「その他」以外で,NAB

中のノードのラベルが全て「混合」か「その他」であるとき,NAB 中のノードのラベルが「混合」であるものを全て nA のラベルとする.(図 8)

図 6,図 7では左側のフローグラフの点線に囲まれた部分が縮退され,右側のフローグラフに変換されている.また,図 8

では左側のフローグラフの真ん中の「混合」ノードが右側のフローグラフでは「煮る」に変換された.縮退されたフローグラフ集合 G′ から,最も数の多いフロー

グラフを典型的な調理作業を示すフローグラフ pとする.抽出された典型的な調理作業を示すフローグラフ p の妥当

性を次のようにして評価した.典型的な調理作業の情報は,その料理の大まかな流れが理解でき,かつ個々のレシピの特徴を把握するの役に立つことが重要であると考えられる.そこで,4.2節の実験に参加した 2名の被験者に対して,本手法で得られた典型的な調理作業を示すフローグラフを提示し,各被験者が書き出した各特徴に対して,そのフローグラフを見ることで発見時しやすくなるかを「1. 役に立たない」「2. どちらかと言えば役に立たない」「3. どちらともいえない」「4. どちらかと言えば役に立つ」「5. 役に立つ」の5段階で回答してもらった.その結果を表 3に示す.表 3から,いずれの分類においても 3以上の点数を得ること

Page 7: 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と ... · 2013-05-15 · DEIM Forum 2013 D3-5 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と

ができ,抽出された典型的な調理作業を示すフローグラフを利用することによって,ユーザが各レシピの特徴を把握しやすくなっていると言える.

5. 4 各レシピの特徴抽出5. 4. 1 「食材の種類」の特徴抽出「食材の種類」の特徴は,レシピ集合 Rに出現する頻度の低い食材が選ばれる場合と,頻度の高い食材が選ばれていない場合の2パターンがあると考えられる.そこで,食材集合 F 中の各食材 fi の出現頻度 pf (fi)を計算し,その値がしきい値 θL

f

以下であるものがレシピに含まれている場合,またはしきい値θH

f 以上であるものがレシピに含まれていない場合,その食材をそのレシピの「食材の種類」の特徴として抽出する.ここで,「食材の種類」の特徴として選ばれた食材に対する下ごしらえや調理工程は,その食材に依存して現れたものであると考えられるため,特徴とみなすべきでない.よって,出現頻度がしきい値 θL

f と θHf の間に含まれる食材の集合 F ′ を

F ′ = {f ′i |f ′

i ∈ F, pf (f ′i) > θL

f }

とし,次節以降での特徴抽出は,この F ′ に含まれる食材に関してのみ特徴抽出を行う.

5. 4. 2 下ごしらえ部分の定義と「下ごしらえ」の特徴抽出4.2節で述べたように,「下ごしらえ」に分類された多くの特

徴が「下茹でする」「面取りする」のように,調理工程を表す用語1つによって特徴が表された.そこで,各食材の下ごしらえを行っている調理工程がどの部分であるかを推定し,各食材とその食材の下ごしらえ部分の調理工程の共起関係を調べることで,下ごしらえに関する特徴を抽出できると考えた.一般的に下ごしらえは,一つの材料に対して行われる調理

手順である.よって,下ごしらえ部分は,ある食材が他の食材と混ぜ合わさる直前までの調理動作に含まれると考えられる.レシピ ri における食材 f ′

j ∈ F ′ の下ごしらえ部分の候補は,縮退されたフローグラフ g′

i において,エッジを葉から根に向かってたどり,子を二つ以上持つ節ノードに到達する直前の節ノードまでの部分グラフ a(g′

i, f′j) とした.あるフローグラフ

から,抽出された下ごしらえの例を図 9に示す.図の点線で囲まれている部分が,それぞれの食材の下ごしらえ候補と判定された部分である.縮退されたフローグラフの集合 G′ のうち,f ′

j ∈ F ′ である食材 f ′j を材料として持つ全てのフローグラフ g′

i

から,下ごしらえの部分グラフ a(g′i, f

′j)を抽出し,その集合を

Aj = {a(g′i, f

′j)|g′

i ∈ G′, f ′j ∈ F ′}とする.

レシピ ri で,レシピ集合 R の中で食材 fj の下ごしらえとして出現する頻度の低い調理工程が行われている場合,そのレシピ ri に食材 fj の「下ごしらえ」の特徴が含まれていると考えられる.そこで,Aj に含まれる各調理工程 ni の頻度 pp(ni)

を計算し,その値がしきい値 θp 以下であるものがレシピに含まれている場合,その調理工程をその調理工程を持つレシピの「下ごしらえ」の特徴であるとして抽出する.また,レシピ ri

で,レシピ集合 Rの中で食材 fj の下ごしらえとして出現する頻度の調理工程が行われていない場合でも,単にその下ごしらえの調理工程の記述を省略した場合が考えられるため,特徴と

牛肉

切る 切る 切る

玉ねぎ じゃがいも

砂糖

引く  :その他

茹でる  

切る  

炒める

混合  

蓋をする  :その他

煮る  

さやいんげん

水に放す  :その他

醤油

図 9 下ごしらえの例

下ごしらえ

煮る  炒める

じゃがいも

レシピA

下ごしらえ

煮る  

炒める

じゃがいも

レシピB

下ごしらえ

煮る  

じゃがいも

レシピD

下ごしらえ

蒸す

じゃがいも

レシピE

下ごしらえ

煮る  

炒める

じゃがいも

レシピC

多くのレシピ 特徴を持つレシピ

炒める

図 10 処理の流れ

しては抽出を行わないこととした.5. 4. 3 「調理工程の順序」の特徴抽出「調理工程の順序」の特徴は,各食材が料理が完成するまでに加えられる調理工程をレシピ間で比較することで抽出できると考えた.Rは 1つのクエリで検索されたレシピ集合であるから,各レシピにおいて同じ名前の食材の料理が完成するまでに加えられる調理工程の系列は,図 10の左側ように,多くのレシピで一致することが予想される.一方,「調理工程の順序」に特徴があるレシピでは,同じ食材であっても,図 10の右側ように,それが受ける調理工程の系列がほかの多くと異なると考えた.そのため,まず,F ′ 中の食材 f ′

j に対して,各レシピに加えられる調理工程の系列を抽出する.ここで,その食材の下ごしらえ部分を示す a(g′

i, f′j) に関しては,前節で述べた処理

により既にその特徴が検討されていることから無視する.各食材 f ′

j が料理完成までに受ける調理工程の系列を,縮退されたフローグラフの集合 G′ のうち f’j を含む全てのフローグラフg′

i から抽出する.フローグラフ g′i 上で食材 f ′

j から根ノードに至るまでのパスに相当する部分グラフのうち,下ごしらえの部分グラフ a(g′

i, f′j) を除いたものを h(g′

i, fj)とし,その集合をHj = {h(g′

i, f’j)|g′i ∈ G′ f’j ∈ F’}とする.集合をHj の中で

比較したときに,その中で最も多く出現した部分グラフを,レシピ集合 R における食材 f’j の典型的な調理工程の系列とした.次に,食材の種類ごとに,その食材の典型的な調理工程の系列と,各レシピにおけるその食材の調理工程の系列部分グラフとで,編集距離により相違度を計算する.さらに,食材ごとに各レシピの調理工程の系列の相違度 cを正規化し,しきい値θo 以上であるものを,そのレシピの「調理工程の順序」と判断する.ここで,編集コストは以下のように設定した.

( 1) ノードの挿入

Page 8: 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と ... · 2013-05-15 · DEIM Forum 2013 D3-5 手順情報としてのレシピデータに対する類似レシピの要約と

表 4 各分類別の特徴抽出数とその再現率と適合率

提案手法 R 正解 A 正答 A ∩ R 再現率 適合率食材の種類 103 125 84 0.67 0.82

下ごしらえ 15 22 12 0.55 0.80

調理工程の順序 16 17 11 0.65 0.69

総数 134 164 107 0.65 0.80

部分グラフ h(g′i, fj) に「その他」以外のラベルを持った

ノードを挿入する編集コストを ci,「その他」のラベルを持ったノードを挿入する編集コストを cO

i とする.( 2) ノードの削除

部分グラフ h(g′i, fj) から「その他」以外のラベルを持っ

たノードを削除する編集コストを cd,「その他」のラベルを持ったノードを削除する編集コストを cO

d とする.次に「調理工程の順序」の特徴が含まれていると判断された

レシピのうち,どの調理工程にその特徴が含まれているのかを判断する.典型的な調理工程の系列に含まれていない調理工程がそのレシピに含まれている場合は,そのレシピが他の多くのレシピとは異なる特徴であると考えられる.これは,編集距離を計算する際に,削除されたノードの調理工程に相当する.また,典型的な調理工程に含まれている調理工程がそのレシピに含まれていない場合は,その調理工程を実行せずに次の調理工程に移っていることがそのレシピの特徴であると考えられる.これは,編集距離を計算する際に,挿入されたノードに接続されているノードの調理工程に相当する.

5. 5 抽出された特徴の評価5.4.1節から 5.4.3節において抽出される特徴を評価する.評

価には,4.2節で特徴分類を行ったレシピ集合 4セットを用い,正解データは 4.2 節において各レシピの特徴と判断された特徴のうち,本研究で抽出を図った「食材の種類」「下ごしらえ」「調理工程の順序」に分類された計 164個とした.レシピ集合4セットに対する予備実験により,各パラメータは,θL

f = 0.2,

θHf = 0.8, θp = 0.2, ci = 3, cO

i = 1, cd = 3, cOd = 1, θo = 0.4,

と設定し,本手法を適用することで特徴を抽出したところ,計134個の特徴が抽出された.各分類別の抽出特徴数とその再現率と適合率を表 4に示す.表 4 より,本研究で抽出を図った「食材の種類」「下ごしら

え」「調理工程の順序」の 3分類の特徴いずれでも再現率・適合率ともに 0.5を超えることができた.この再現率・適合率の値は,レシピを見比べるという目的の上では,ユーザは各レシピの特徴の取捨選択を行うと思われるので,十分にレシピ見比べの支援ができるものと考えられる.「下ごしらえ」の特徴の再現率が低いのは,本手法が,下ごしらえ部分を適切に判定できていないことが原因と考えられる.「牛肉を塩を用いて下ごしらえする」という特徴は「下ごしらえ」の特徴であると考えられるが,本手法ではこれらの食材を別々の特徴として抽出したために相違が生じた.また 4.2 節であげた 7 種類の特徴のうち,本研究で対象としなかった残り 4種類の特徴を抽出する手法を提案することは今後の課題である.

6. ま と め

本研究ではまず,レシピ検索では一般的なWeb検索に比べ,上位の検索結果が選ばれにくく,複数のレシピを比較しやすい提示方法に需要があることを調査により示した.そしてレシピの比較には,検索結果で得たレシピ集合における典型的な調理工程と,各レシピの特徴を提示することで解決できると考え,その 2つの抽出を図った.特徴抽出に関しては,被験者が手動で抽出した特徴を 7種類に分類し,そのうち,出現頻度が高い,あるいは重要性が高いと判定された「食材の種類」「下ごしらえ」「調理行程の順序」の 3つの特徴を抽出する手法を提案した.これらの特徴を,再現率は 0.65,適合率は 0.80で抽出することができた.レシピの比較に関しては十分に支援を行える結果が得られたと考える.

謝 辞

本研究の一部は,文科省科研費基盤 (A)「ウエブ検索の意図検出と多元的検索意図指標にもとづく検索方式の研究」(24240013,研究代表者:田中克己),および文科省科研費若手 (B)「調理をしながら調理法を説明した音声からのレシピテキストの自動生成」(23700144,研究代表者:山肩洋子)によるものです.ここに記して謝意を表します.

文 献[1] レシピ検索 No.1 /料理レシピ載せるなら クックパッド

http://cookpad.com/

[2] 楽天レシピ: レシピを見つける,料理する,投稿する,みんなで作る http://recipe.rakuten.co.jp/

[3] レシピ|レシピ大百科【AJINOMOTO PARK】http://park.ajinomoto.co.jp/

[4] ネスレ バランスレシピ|簡単レシピがいっぱい!http://www.recipe.nestle.co.jp/

[5] Googleレシピ検索http://www.google.co.jp/landing/recipes/

[6] 浜田玲子,井手一郎,坂井修一,田中英彦,“料理テキスト教 材における調理手順の構造化”, 電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-パターン処理,Vol.85,No.1,pp.79-89,2002-01-01.

[7] Shinsuke Mori,Tetsuro Sasada,Yoko Yamakata,Koichiro

Yoshino,“A Machine Learning Approach to Recipe Text

Processing”,ECAI 2012,2012

[8] 苅米 志帆乃 , 藤井 敦,“料理レシピテキストを対象とした構造解析の高精度化”, 電子情報通信学会技術研究報告 : 信学技報, 電子情報通信学会,Vol.112,No.75,pp.43-48,2012-06-05

[9] 佃 洸摂,中村 聡克,山本 岳洋,田中 史己,“オブジェクトの典型度分析とその検索への応用”,Web とデータベースに関するフォーラム WebDB Forum 2011,2011.

[10] 岩本 純也, 宮森 恒,“調理の難易度を考慮したレシピ検索システムの提案”,DEIM Forum 2012 E1-3,2012.

[11] 上田 真由美, 高畑 麻理, 中島 伸介,“レシピ閲覧・摂食履歴を用いた嗜好の抽出”,Web とデータベースに関するフォーラムWebDB Forum 2011,2011.

[12] 森下 幸俊, 中村 富予,“気分による献立検索システムの検索軸の評価とレシピを活用した食品販売機能の市場ニーズの評価 (データ工学)”, 電子情報通信学会技術研究報告 : 信学技報, 電子情報通信学会,Vol.112,No.75,pp.79-84,2012.

[13] Bernard J. Jansena,Amanda Spinkb,Tefko Saracevic,“Information

Processing and Management” Vol.36, 207-227,2000.

[14] たんし Ver. 1.1.0 表記揺れ辞書,http://tansi.sourceforge.jp

[15] NICT-独立行政法人 情報通信研究機構 http://www.nict.go.jp