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目次 1.はじめに 2.画像デザイン登録事例研究 3.他の事例へのあてはめ検討 3−1.意匠 1395587 号(携帯情報端末) 3−2.意匠 1395587 号(携帯情報端末) 3−3.意匠 1437193 号(デジタルカメラ) 3−4.意匠 1485162 号(電子カメラ) 3−5.意匠 1337494 号(電子複写機) 4.おわりに 1.はじめに スマートフォンなど近年のデジタル機器では,さま ざまな情報や機能をユーザーが操作できるように表示 するグラフィカル・ユーザー・インターフェース (GUI)が一般的である。すぐれた GUI が実現する 「入力のしやすさ」「操作の分かりやすさ」や「快適な 操作感」等は製品の重要な付加価値となっており, GUI デザインが製品の評価を左右することはもはや 通常である。 平成 18 年(2006 年)の意匠法改正により,意匠登録 できる画像として「物品の機能を発揮できる状態にす るための操作の用に供される画像」(意匠法 2条2 項) が規定されて以降,画像を含む意匠の登録件数は概ね 増加の傾向を示している(グラフ 1 棒グラフ,左目 盛)。その間,全体の意匠登録件数はほぼ一定してい ることから,全体に占める割合も増加傾向にある(グ ラフ 1 折れ線グラフ,右目盛)。 一方,登録件数が増加するにつれて,製品等に画像 を表示する事業者が他者の意匠権に抵触するものでな いかどうかの,いわゆるクリアランスの負担も大きな ものとなっている。クリアランスを適切に行うために は権利の効力範囲が明確になっていることが重要である。 そこで本稿において,GUI の意匠権の効力範囲の検 討をおこなった。 グラフ1 画像を含む意匠の登録件数および全体に占める件数の割合 2.画像デザイン登録事例研究 意匠権の効力範囲は,登録意匠の類似範囲である。 本 誌 第 66 巻 第 11 号(パ テ ン ト 2013 Vol.66 No.11)に,「画像デザイン登録事例研究」と題する論 文が平成 24 年度意匠委員会 第 2 委員会 部分・画 像部会により執筆・掲載されている。 そこでは,画像を含む意匠で本意匠−関連意匠の関 係を持って登録されているものに着目するという手法 で,画像デザインの類似範囲の参考となる事例を紹介 している。 それによると,たとえば,意匠 1392207 号を本意匠 とし,意匠 1392390 号が関連意匠として登録を受けて いる。 また,意匠 1392208 号を本意匠とし,意匠 1392391 号,意匠 1392392 号が関連意匠として登録を受けている。 したがって,意匠 1392207 号と意匠 1392390 号が類 GUI の意匠権の効力範囲 パテント 2015 Vol. 68 No. 5 − 47 − 特集《第 20 回知的財産権誌上研究発表会》 会員 渡辺 和宏 GUI の意匠権の効力範囲 GUI の意匠権の効力範囲(登録意匠の類似範囲)は,画像の形態の特徴が共通する範囲,及び,画像の用途・ 機能の特徴が共通する範囲である。画像の形態の意匠的特徴が小さい場合は,画像の用途・機能の特徴が共通 する範囲に限定される。

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Page 1: GUIの意匠権の効力範囲 - system.jpaa.or.jp · 似し,意匠1392208号と意匠1392391号,意匠 1392392号が類似するが,意匠1392207号と意匠 1392208号は非類似であることが分かる。

目次

1.はじめに

2.画像デザイン登録事例研究

3.他の事例へのあてはめ検討

3−1.意匠 1395587 号(携帯情報端末)

3−2.意匠 1395587 号(携帯情報端末)

3−3.意匠 1437193 号(デジタルカメラ)

3−4.意匠 1485162 号(電子カメラ)

3−5.意匠 1337494 号(電子複写機)

4.おわりに

1.はじめに

スマートフォンなど近年のデジタル機器では,さま

ざまな情報や機能をユーザーが操作できるように表示

するグラフィカル・ユーザー・インターフェース

(GUI)が一般的である。すぐれた GUI が実現する

「入力のしやすさ」「操作の分かりやすさ」や「快適な

操作感」等は製品の重要な付加価値となっており,

GUI デザインが製品の評価を左右することはもはや

通常である。

平成 18 年(2006 年)の意匠法改正により,意匠登録

できる画像として「物品の機能を発揮できる状態にす

るための操作の用に供される画像」(意匠法 2条 2項)

が規定されて以降,画像を含む意匠の登録件数は概ね

増加の傾向を示している(グラフ 1 棒グラフ,左目

盛)。その間,全体の意匠登録件数はほぼ一定してい

ることから,全体に占める割合も増加傾向にある(グ

ラフ 1 折れ線グラフ,右目盛)。

一方,登録件数が増加するにつれて,製品等に画像

を表示する事業者が他者の意匠権に抵触するものでな

いかどうかの,いわゆるクリアランスの負担も大きな

ものとなっている。クリアランスを適切に行うために

は権利の効力範囲が明確になっていることが重要である。

そこで本稿において,GUI の意匠権の効力範囲の検

討をおこなった。

グラフ1

画像を含む意匠の登録件数および全体に占める件数の割合

2.画像デザイン登録事例研究

意匠権の効力範囲は,登録意匠の類似範囲である。

本誌第 66 巻 第 11 号(パテント 2013 Vol.66

No.11)に,「画像デザイン登録事例研究」と題する論

文が平成 24 年度意匠委員会 第 2 委員会 部分・画

像部会により執筆・掲載されている。

そこでは,画像を含む意匠で本意匠−関連意匠の関

係を持って登録されているものに着目するという手法

で,画像デザインの類似範囲の参考となる事例を紹介

している。

それによると,たとえば,意匠 1392207 号を本意匠

とし,意匠 1392390 号が関連意匠として登録を受けて

いる。

また,意匠 1392208 号を本意匠とし,意匠 1392391

号,意匠 1392392 号が関連意匠として登録を受けている。

したがって,意匠 1392207 号と意匠 1392390 号が類

GUI の意匠権の効力範囲

パテント 2015Vol. 68 No. 5 − 47 −

特集《第 20回知的財産権誌上研究発表会》

会員 渡辺 和宏

GUI の意匠権の効力範囲

GUI の意匠権の効力範囲(登録意匠の類似範囲)は,画像の形態の特徴が共通する範囲,及び,画像の用途・

機能の特徴が共通する範囲である。画像の形態の意匠的特徴が小さい場合は,画像の用途・機能の特徴が共通

する範囲に限定される。

要 約

Page 2: GUIの意匠権の効力範囲 - system.jpaa.or.jp · 似し,意匠1392208号と意匠1392391号,意匠 1392392号が類似するが,意匠1392207号と意匠 1392208号は非類似であることが分かる。

似し,意匠 1392208 号 と 意 匠 1392391 号,意 匠

1392392 号が類似するが,意匠 1392207 号と意匠

1392208 号は非類似であることが分かる。なお,これ

らの意匠に係る物品はすべて「情報端末機」で同一で

ある。

意匠 1392207 号(本意匠)

機能:メッセージ機能(例えばボイスメール機能)

意匠 1392390 号(意匠 1392207 号の関連意匠)

機能:音源再生機能

意匠 1392208 号(本意匠)

機能:スケジュール機能

意匠 1392391 号(意匠 1392208 号の関連意匠)

機能:アラーム機能

意匠 1392392 号(意匠 1392208 号の関連意匠)

機能:設定機能(例えばスクリーンセーバの設定)

これらの類否について「画像デザイン登録事例研

究」では「…相違点としては,本意匠 1392207 号及び

その関連意匠 1392390 号の画面右側には音源の再生等

ボタンがあり,その下部に音量の調整等ボタンがある

のに対し,本意匠 1392208 号及びその関連意匠

1392391 号及び関連意匠 1392392 号には横長楕円状の

日付表示部と日付選択ボタンがある点で異なる点であ

る。また,両意匠は形態のみならず,『意匠登録を受け

ようとする部分が有する用途及び機能』においても相

違すると思われる。これは特許庁意匠審査基準 71.9.1

に掲げられた 4 つの要件の②の要件である。…(中

略)…このように,本事例では,形態的な相違点のみ

ならず,当該相違部分自体が持つ用途・機能の相違も

類否の決め手になったと思われる。」と説明されている。

つまり,意匠審査基準において部分意匠の類否判断は

①意匠に係る物品の類否

②「意匠登録を受けようとする部分」の用途及

び機能の類否

③「意匠登録を受けようとする部分」の形態の類否

④「意匠登録を受けようとする部分」の物品全

体の形態の中での位置,大きさ,範囲が同一

又は当該意匠の属する分野においてありふれ

た範囲内のものか

GUI の意匠権の効力範囲

パテント 2015 Vol. 68 No. 5− 48 −

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に基づくとされているころ(71.4.2.2.1公知の意匠と部

分意匠との類否判断),画像デザインを含む意匠は「意

匠登録を受けようとする部分」が「画像」であるため,

「『画像』の形態の類否」(上記③に対応)とあわせて

「『画像』の用途及び機能の類否」(上記②に対応)に基

づいて類似範囲が認定されているというのである。

また,意匠審査基準 74.5画像を含む意匠の登録要件

74.5.3創作非容易性 に以下の記載がある。

変化する画像についての意匠法第 3 条第 2

項の規定の適用についての判断は,変化の前後

を示す各画像が,当該意匠登録出願前に公然知

られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結

合に基づいて当業者であれば容易に創作するこ

とができたものであるか否かを判断すると共

に,変化の態様について当業者にとってありふ

れた手法に基づく変化であるか否かを判断する

ことにより行う。すなわち,以下の①,②の場

合には,出願の意匠は容易に創作できたものと

は認められず,意匠法第 3条第 2項の規定には

該当しない。

①変化の前後を示す各画像が当該意匠登録出願

前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又

はこれらの結合に基づいて当業者であれば容

易に創作することができたものであるが,変

化の態様は当業者にとってありふれた手法に

基づく変化ではない場合

②変化の態様は当業者にとってありふれた手法

に基づく変化であるが,変化の前後を示す各

画像は当該意匠登録出願前に公然知られた形

状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基

づいて当業者が容易に創作することができた

ものでない場合

つまり,「画像の形態」か「画像の変化の態様」のど

ちらか一方がありふれたものであっても,他方があり

ふれたものでない場合は(創作非容易として)意匠登

録され,意匠権の効力を発生させるということである。

さらに,意匠審査基準 22.1.3.1.2 意匠の類否判断の手

法(5)意匠全体としての類否判断(ⅰ)共通点及び差異

点についての総合判断 には,以下のように記載され

ている。

ある共通点又は差異点が類否判断をする上で

最も重要な要素となるか否かは,他の共通点及

び差異点との相対的な関係で決まる。ある共通

点又は差異点が類否判断に与える影響の大きさ

を考えるとき,他の共通点及び差異点が意匠全

体の美感に与える影響が小さければ,その共通

点又は差異点が類否判断に与える影響は相対的

に大きいものとなる。他方,意匠全体の美感に

与える影響が同程度あるいはより大きな共通点

又は差異点が他にある場合には,その共通点又

は差異点が類否判断に与える影響の大きさは,

相対的に小さくなる。

つまり,たとえば「画像の形態」がありふれたもの

でも「画像の変化の態様」がありふれたものでない場

合には登録が認められ,その際の類否判断にあたえる

影響は「画像の形態」の共通点・差異点よりも,「画像

の変化の態様」の共通点又は差異点の方が大きい,と

いうことになる。

前述の「画像デザイン登録事例研究」には別の事例

として,意匠 1447131 号を本意匠として,意匠

1449251 号,意匠 1447596 号,意匠 1447597 号,意匠

1447598 号,意匠 1447599 号,意匠 1447600 号が関連

意匠として登録を受けている例が取り上げられてい

る。この事例において,それぞれの意匠は「ユーザー

の操作によりアイコンが選択されると,斜めになって

いたアイコンが正立するように変化する」という「画

像の変化の態様」は共通するが,アイコンの形や個数

はまちまちで「画像の形態」が共通しているとはいい

難い。

これらは,「画像の形態」が比較的ありふれたもので

ある一方,「画像の変化の態様」がありふれていないも

のとして,主として「画像の変化の態様」の共通点に

基づいて類似と認定された例と考えられる。

GUI の意匠権の効力範囲

パテント 2015Vol. 68 No. 5 − 49 −

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意匠 1447131 号(本意匠)

意匠 1449251 号(意匠 1447131 号の関連意匠)

意匠 1447596 号(意匠 1447131 号の関連意匠)

意匠 1447597 号(意匠 1447131 号の関連意匠)

意匠 1447598 号(意匠 1447131 号の関連意匠)

意匠 1447599 号(意匠 1447131 号の関連意匠)

意匠 1447600 号(意匠 1447131 号の関連意匠)

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以上を総合すると,GUI の意匠権の効力範囲(登録

意匠の類似範囲)は,画像の形態及び画像の用途・機

能が共通する範囲ということができる。ここで「画像

の機能」とは,具体的には(ユーザーの操作や装置(物

品)の動作に応じて)「画像が変化する態様」のことで

ある。

「画像の形態」と「画像の機能」のいずれかがありふ

れたものであっても他方がありふれたものでない場合

は意匠登録が認められ,その場合は主として意匠的特

徴(意匠の美感を形成する要素)を有する方(ありふ

れてないもの)の共通性に基づき類否判断される。

3.他の事例へのあてはめ検討

それでは上記を他の事例にあてはめ,それぞれの

GUI の意匠権の効力範囲を検討したい。

3−1.意匠 1395587 号(携帯情報端末)

意匠 1395587 号 正面図

「意匠の説明」に「正面図は,本物品のロックが解除

された場合,およびホームボタンが押された場合に表

示されるホームメニュー画面を示す図である。…(中

略)…正面図に表わされた画面には複数のアイコン画

像が表示され,表示部におけるアイコン画像の位置を

指で触ると,それぞれのアイコンに応じた機能が発揮

される状態に移る。つまり,テキストメッセージ,カ

レンダー,写真表示,カメラ撮影,動画表示,株価表

示,地図表示,天気情報,時計,計算機,ノート,設

定,電話,メール,ウェブブラウザ,音楽プレーヤと

いった機能を発揮できる状態に移る。」という記載が

あり,「画像の用途」はいわゆる「ホームメニュー」で

ある。

図に「意匠登録を受けようとする部分」として実線

で表されているのは横 4列に並んだ角丸正方形のアイ

コンであり,「画像の形態」としては,全体の中での位

置,大きさ,範囲を含めても,いわゆる「ありふれた」

ものにとどまっている。

そうすると,この意匠の類否は「画像の用途」の共

通性に大きく影響されることになる。つまり,本件意

匠権の効力は「ホームメニュー」画面にのみ及び,他

の用途,たとえば,写真データを一覧表示する画面等

には及ばないものと考えられる。

3−2.意匠 1395587 号(携帯情報端末)

正面図 参考正面図2

「意匠の説明」に「正面図は,本物品の起動時に表示

されるオープニングスクリーンである。正面図の下端

に表示された矢印付きのスライドボタンの位置に触れ

て,その指を右方向にスライドさせると,表示部には,

アンロックされた画面として参考正面図 2 に示す画面

が表示される。」という記載がある。「画像の用途」は

いわゆる「アンロック」画面であり,「画像の機能」は

ユーザーのタッチスライド操作に応じて正面図から参

考正面図 2 に変化する態様である。

上記の変化の態様は一般的なものであり,「画像の

機能」としては「ありふれた」ものにとどまっている。

そうすると,意匠の類否は,縦長方形の上部および下

部約四分の一を横線で分割し,下部約四分の一の中に

スライダーを配置した「画像の形態」の共通性と,「画

像の用途」の共通性に大きく影響されることになる。

たとえば,対比事例 1のような画面表示(図は筆者の

GUI の意匠権の効力範囲

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作成による)は,「画像の形態」や「画像の用途」が異

なるため,本件意匠権の効力が及ばないものと考えら

れる。

対比事例1

3−3.意匠 1437193 号(デジタルカメラ)

意匠 1437193 号 背面図

「意匠の説明」に「撮影画像における背景のぼかし度

合いの調整操作に用いる GUI であり,ダイヤルの操

作によって,各背面図に表すように,ガイド上をポイ

ンタが上下するとともに,吹き出し様の図形内のアイ

コン図形が漸次変化して,ユーザに対し,視覚的に分

かり易くぼかし度合いの強弱を表示する。」という記

載がある。「ダイヤル操作に応じて吹き出し様の図形

内のアイコン図形が漸次変化し,ぼかし度合いの強弱

を表示する」という「画像の機能」が特徴的であるた

め,意匠の類否は「画像の用途・機能」の共通性に大

きく影響されることとなる。つまり,「画像の用途・機

能」が共通する場合は,たとえば対比事例 2のように

「画像の形態」の共通性が小さい場合も,意匠権の効力

が及ぶ可能性が高いと考えられる。他方,たとえば対

比事例 3のような,操作に応じてズームの度合いを表

示する画面表示は,「画像の用途・機能」が共通しない

ため,「画像の形態」が相似するとしても,この意匠権

の効力は及ばないと考えられる。(対比事例の図は筆

者の作成による。)

対比事例2 機能:背景のぼかし度合いの調整

対比事例3 機能:ズーム機能

3−4.意匠 1485162 号(電子カメラ)

「意匠に係る物品の説明」に「スプリットイメージの

表示領域は,上下に四分割されたサブ表示領域から構

成され,それぞれのサブ表示領域には境界を挟んで上

下に異なる位相を有する画像が表示される。それによ

り,非合焦状態のときは,上下に隣接するサブ表示領

域内の画像が左右にずれた状態で表示される。フォー

カスリングを回転操作することにより,上下に隣接す

るサブ表示領域内の画像のずれが小さくなり,合焦状

態では上下に隣接するサブ表示領域内の画像のずれが

無くなり,サブ表示領域の境界が見えなくなる。」とい

う記載がある。「フォーカスリングを回転操作するこ

とにより,上下に隣接するサブ表示領域内の画像のず

れが小さくなる」という「画像の機能」が特徴的なた

め,類否判断に与える影響が大きいと思われる。そう

すると,「画像の用途」や「画像の形態」が同一であっ

ても,ボタンなどレバーなどリング以外の手段で

フォーカス操作する場合の画面表示には,本件意匠権

の効力が及ばないものと考えられる。

意匠 1485162 号 表示部拡大図

GUI の意匠権の効力範囲

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3−5.意匠 1337494 号(電子複写機)

「意匠に係る物品の説明」に「円形の各種操作ボタン

は,使用頻度に応じて大きさが変わり,使用頻度の高

い操作ボタンが液晶表示部中央上に表示されるよう学

習機能を有している。」という記載がある。この「画像

の機能」により,「画像の形態」は,操作ボタンそれぞ

れの配置が不定なものになっている。そうすると「画

像の形態」の意匠的特徴は主として操作ボタンが四重

円形をしていることになるため,本件意匠権の効力範

囲は「使用頻度の高い操作ボタンが中央上に表示され

る学習機能」を有する,四重円形の複数の操作ボタン

を表示する画面であって,更にそれぞれの操作ボタン

のアイコンが形態的に相似するものに限定されると考

えられる。

意匠 1337494 号 液晶表示部の拡大図

4.おわりに

以上説明したように,GUI は画像の形態の特徴と,

画像の用途・機能の特徴とが評価されて意匠登録され

るものとなっており,見た目が美しいという「形態的

美感」とあわせて,「入力しやすい」「操作が分かりや

すい」「使い心地がいい」といった「機能的美感」を保

護する制度となっていることが分かる。

ただし,このことは現在のところ審議会等で報告さ

れているにとどまり(たとえば http://www.jpo.go.jp/

shiryou/toushin/shingikai/pdf/isyou18/07.pdf),一般

にわかりやすい形では周知されていない。

また,一般に提供されている意匠検索のシステム

も,こうした「機能的美感」に基づいて検索しやすい

ようなものにはなっていない。

GUI デザインの適切な保護や利用のためには,制度

の特徴や権利の効力範囲が明確になっていることが重

要である。制度の周知や検索機能向上等の施策が要望

される。

(原稿受領 2015. 2. 19)

GUI の意匠権の効力範囲

パテント 2015Vol. 68 No. 5 − 53 −