林内の葉・枝・幹・土壌ごとの フラックス計測チャ...
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林内の葉・枝・幹・土壌ごとのフラックス計測 チャンバー法
1生態環境計測学 2019/05/15
坂部綾香
本日の内容
•炭素循環について
•チャンバー法の測定原理
•チャンバー法の適用例土壌呼吸量の測定
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炭素循環3
光合成123
植物の呼吸60
微生物の呼吸60
人間活動9
呼吸・分解90
光合成92
土壌炭素2300
化石炭素10000
深海37000
堆積物2
堆積物6000
青が吸収、赤が放出、灰は貯蔵量(ギガトン)
植物バイオマス550
US Department of Energy Office of Science 2008
海洋表層1000
大気800
人為起源の炭素収支
4
化石燃料燃焼…火山の100-300倍のCO2を急速に放出土地利用変化…大気中のCO2を取り込む植物が失われる
黒:産業革命前赤:2000~2009年の1年あたりの平均値
(億トン炭素)
IPCC(2013)をもとに作成。気象庁HPより。
炭素循環の変化によって大気中の温室効果ガス濃度が上昇
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IPCC 第5次報告書
CO2
CH4
N2O
• 地球温暖化• 海洋の酸性化• 陸域生態系の
応答は?
炭素循環の変化による陸域生態系への影響
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炭素循環変化へのフィードバック(負)CO2施肥効果で光合成増加(正)気温上昇で土壌呼吸によるCO2放出増加
炭素循環の変化が、陸域生態系を介して気候変化にどのような変化をもたらすのか?調べる必要がある!
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空間スケールの違いは目的の違い
微気象・渦相関法生態系スケールが対象
→代表値の評価
チャンバー法より小さいスケールが対象
→プロセスやメカニズムの解明*空間代表性に欠ける*かく乱がある
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チャンバー法• チャンバーの中に測定対象(の一部)を入れて、
測定対象のCO2交換よるチャ ンバー内のCO2濃度の変化から、CO2交換速度(フラックス)を求める。
• チャンバー内外でのCO2交換はないので、チャンバー内におけるCO2量の変化速度は測定対象のCO2フラックスと等しいと考える。
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土壌
分析計
静的閉鎖型 動的閉鎖型
➡空気の流れ
CO2
開放型
外気を導入
閉鎖型チャンバー測定対象をチャンバーに入れて閉鎖系をつくる。
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密閉チャンバー内のCO2濃度変化
FCO2 : 土壌表面積あたりのCO2フラックス(µmol m-2 s-1)⊿CO2/⊿t : チャンバー内CO2濃度上昇速度(ppm s-1)ramol :空気密度(mol m-3)
ramol = P/8.314/(273.15+T) Pは気圧、Tは気温V :チャンバー容積(m3)A :土壌表面積(m2)
𝐹𝐶𝑂2 =
∆𝐶𝑂2
∆𝑡∙ 𝑉 ∙ ⍴𝑎𝑚𝑜𝑙 ∙
1
𝐴
CO2
土壌表面からCO2放出によって、チャンバー内におけるCO2濃度は
時間経過に伴い増加する。
閉鎖型チャンバー
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⊿CO2/⊿t=30/180 (ppm/s)
密閉チャンバー内のCO2濃度変化
FCO2 : 土壌表面積あたりのCO2フラックス(µmol m-2 s-1)⊿CO2/⊿t : チャンバー内CO2濃度上昇速度(ppm s-1)ramol :空気密度(mol m-3)ramol = P/8.314/(273.15+T) Pは気圧、Tは気温V :チャンバー容積(m3)A :土壌表面積(m2)
CO2
チャンバーサイズ直径 20 cm, 高さ 10 cm
ppm = mmol mol-1
P = 105Pa (1Pa=1N m-2, 1N=1kg m s-2)T = 26.85℃R = 8.314 m2 kg s-2 K-1 mol-1
𝐹𝐶𝑂2 =
∆𝐶𝑂2
∆𝑡∙ 𝑉 ∙ ⍴𝑎𝑚𝑜𝑙 ∙
1
𝐴
閉鎖型チャンバー 計算練習
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𝐹𝐶𝑂2 =
∆𝐶𝑂2
∆𝑡∙ 𝑉 ∙ ⍴𝑎𝑚𝑜𝑙 ∙
1
𝐴
チャンバーサイズ直径 20 cm、高さ 10 cm
P = 105Pa (1Pa=1N m-2, 1N=1kg m s-2)T = 26.85℃R = 8.314 m2 kg s-2 K-1 mol-1
PI = 3R = 8.3で計算
=
CO2
静的閉鎖型チャンバー
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シロアリはメタンを放出
実験室で分析
チャンバー内空気をバイアルに充填
CO2
CH4
動的閉鎖型チャンバー
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分析計
チャンバーと分析計の間で空気を循環
測定時に蓋が閉まり、密閉空間を作る
CO2
➡空気の流れ測定時に蓋が閉まる
開放型チャンバー測定対象をチャンバーに入れて一定流量の外気を導入する。
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チャンバー流入・流出口のCO2濃度変化
𝐹𝐶𝑂2 = (𝐹 ∙ 𝐶𝑂2𝑖𝑛 − 𝐹 ∙ 𝐶𝑂2𝑜𝑢𝑡) ∙ 𝜌𝑎𝑚𝑜𝑙 ∙
1
𝐴
FCO2 :土壌表面積あたりのCO2フラックス(µmol m-2 s-1)CO2in :外気のCO2濃度 (ppm)CO2out :チャンバー出口のCO2濃度 (ppm)ramol :空気密度(mol m-3)F :チャンバーに通気する外気の流量(m3 s-1)A :土壌表面積(m2)
外気CO2in↓
↑チャンバー出口CO2out
土壌表面からCO2放出によって、チャンバー出口のCO2濃度は
外気よりも上昇している。
CO2外気
開放型チャンバー
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外気
分析計
CO2
➡空気の流れ
チャンバー出口の空気
各チャンバー法の利点と欠点
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静的閉鎖型 動的閉鎖型 開放型
多点観測 〇 × ×
連続測定 × 〇 〇
導入コスト 低 高 高
地表面のかく乱 大 大 小
問題点 チャンバー内CO2濃度の変化の影響 流量制御の難しさ分析計の精度
チャンバー法の組み合わせ
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多点観測空間変動性の把握
連続観測時間変動性の把握
森林における炭素循環
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土壌
葉
幹
根 枯死根 有機物
枝
光合成による吸収GPP (総一次生産量)
植物の呼吸による放出Ra (独立栄養呼吸量)
リター(落葉・落枝)
微生物呼吸による放出Rh (従属栄養呼吸量)
大気CO2
NEE (純生態系交換量) = 生態系呼吸量 (Ra + Rh) - GPP
C
C
C
C
C
➡炭素の流れ
C
CC
葉の光合成・蒸散量の測定
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LI-6800 植物光合成総合解析システムLI-COR社HPより
開放型チャンバー
チャンバー
分析計・演算部
葉での光合成によって、チャンバー出口のCO2濃度は
外気よりも低下している。
葉の光合成・蒸散量の測定
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樹冠へのアクセス方法
マレーシアの熱帯雨林空中回廊
北海道・苫小牧演習林ゴンドラ
苫小牧演習林HPより
岐阜県・高山試験地林冠観測タワー
岐阜大学流域圏科学センターHPより
幹・枝の呼吸量の測定
• 幹や枝の呼吸は、GPPの7~50%を占める(Ryan et al., 1994)。
• 光合成で作られた糖が、枝や幹に配分され、内樹皮にある師部や形成層、木部の柔組織で、成長と呼吸により消費される。
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飯尾ら (2014)より
幹の呼吸量の測定
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動的閉鎖型チャンバー 動的閉鎖型チャンバー
CO2
リターの呼吸量の測定
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動的閉鎖型チャンバー 動的閉鎖型チャンバー
リターだけ入っている
リターを除去したチャンバーと比較
CO2
土壌呼吸
土壌呼吸=微生物呼吸+根呼吸
化石燃料によるCO2放出の11倍
陸域の炭素循環に重要
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土壌呼吸の変動性
土壌呼吸と地温の関係。カラーは土壌水分を表す。
• 土壌呼吸は地温上昇とともに指数関数的に増加する。• 土壌呼吸は土壌水分の低下時に減少する。
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Sakabe et al. (2015)より地温
土壌
呼吸
量
土壌呼吸における根呼吸の分離
直接法根を掘り出して呼吸量を測定する。
間接法トレンチや、樹皮剥離などにより根呼吸を除去する。
同位体を用いた手法根呼吸/土壌有機物/リターの炭素同位体比の違いを利用する。
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土壌呼吸における根呼吸の分離
直接法• 根を掘り出し、根の呼吸量を直接測定する。
• チャンバー直下の土壌中のすべての根の長さや体積から、根呼吸の合計を推定し、土壌呼吸と比較する。
問題点
• 根呼吸と、根の直径など根を分類する指標の関係が一定という仮定が必要。
• 土壌中のすべての根を把握し、そのサイズ分布も調べるのは難しい。
• 根を掘り起こし、土壌を除去するので、かく乱がある。
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土壌呼吸における根呼吸の分離
間接法
土壌呼吸から根呼吸を除く。
トレンチ法土壌中の根を切断
環状剥皮根への炭素供給を切断
問題点
• かく乱
• 新たな枯死根による分解呼吸
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土壌中の根を排除
×
根への炭素供給を切断
菜園ナビHPより
土壌呼吸における根呼吸の分離
同位体を用いた手法同位体
同じ原子番号を持ち、中性子数が異なる原子
炭素の同位体
• 安定同位体:12C, 13C
• 放射性同位体:14C
14C
• 1951~1962年の核実験で大気中の14Cは劇的に増加。その後、炭素循環に組み込まれ徐々に減少。
• 植物が光合成で14Cを取り込むと、植物が枯死しても⊿14Cの値は保存される。⊿14C: 12Cに対する14Cの割合を13Cの割合を用いて補正した値
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大気中の14C存在量の変化
↑核実験による増加
Wikipediaより
土壌呼吸における根呼吸の分離
同位体を用いた手法
根呼吸/土壌有機物/リターの炭素同位体比の違いを利用する。
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葉
根呼吸 有機物
土壌呼吸(⊿14C土壌呼吸)
新しい炭素⊿14C根
古い炭素⊿14C有機物
古い炭素⊿14Cリター
リター(落葉・落枝)
➡炭素の流れ
C
C
C CC
大気CO2(⊿14C大気)
土壌呼吸における根呼吸の分離
同位体を用いた手法
CO2フラックスの物質収支
F根 + F有機物 + Fリター = F土壌呼吸
⊿14Cの物質収支
⊿14C根・F根 + ⊿14C有機物・F有機物 =
⊿14C土壌呼吸-リター・(F土壌呼吸 – Fリター)
2つの式を連立すると、F根とF土壌有機物が求まる。
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チャンバー法によって測定
大気と同じ
土壌有機物の14C分布から推定
リターを除いた状態でチャンバー法で測定
Atarashi-Andoh et al., 2012
土壌呼吸における根呼吸の分離
同位体を用いた手法
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大気と異なる13Cを樹木に吸収させる
根呼吸 有機物
⊿13C有機物 ⊿13Cリター
⊿13C根
等しい
ラベリング以前の古い炭素
リター(落葉・落枝)
C
C
C
CC
土壌呼吸における根呼吸の分離
同位体を用いた手法問題点
• 炭素同位体比の測定に手間とお金がかかる。
• 14Cを利用する際、土壌有機物のターンオーバーが速いと、根呼吸と分解呼吸による炭素同位体比に差が出ない。
• 大気と根呼吸の炭素同位体比が同じという仮定が必要。
• 土壌有機物の同位体比の推定が難しい。
• チャンバー法によるリターの分解呼吸量の測定は、かく乱がある。
土壌呼吸における根呼吸は報告により10~90%と様々。
手法による結果の違いに注意が必要。
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群落スケールとの比較
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Aguilos et al., 2014
渦相関法
チャンバー法
皆伐前の炭素収支 皆伐後の炭素収支
どのコンポーネントによって、森林生態系がCO2放出源/吸収源となるのか探る手がかりとなる。
まとめ
• 陸域生態系の炭素循環を調べる手法に、チャンバー法があり、コンパートメントごとの測定に適している。
• モデル研究もあるが、地上観測の裏付けは欠かせない。未発見の現象が隠れている場合もある。
• 新しい技術の組み合わせ(分析計、同位体など)で陸域炭素循環の研究は進化していく。
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引用・参考文献
• 松本一穂, 2016. 森林生態系における炭素・水フラックスの測定方法, 日本生態学会誌, 66. 515-544
• IPCC 第5次報告書
• 木部剛, 鞠子茂 2004. 土壌呼吸の測定と炭素循環, 地球環境, 9, 203-212
• 国立環境研究所ニュース2009年度28巻1号
• Ryan et al., 1994
• Atarashi-Andoh et al., 2012
• Aguilos et al., 2014
• 飯尾ら, 2014
• Sakabe et al., 2015
• HPNASA、気象庁、苫小牧演習林、岐阜大学流域圏科学研究センター、菜園ナビ、Wikipedia、LI-COR社
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