新世代の都市・地域エネルギーインフラをつくる...
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新世代の都市・地域エネルギーインフラをつくる
GREENTECH. Report spring 2016
本年度の五名の卒業研究の概要を記す。これまでの卒研では、学生自らが当該分野の様々な問題を捉え、その中から自身が最も興味のある課題を選び、解決に取り組んできましたが、今回は学生自らの「問題の把握」が進まず、私から卒研テーマを与えました。 送電損失を評価指標にした電力系統におけるグリッドストレージ位置の最適化◦ 再生可能エネルギーの大規模な導入には、それらの不安定な電源による電力系統への影響を緩和する技術として「定置型蓄電池」への期待が高まっている。
◦ 送配電網における定置型蓄電池(グリッドストレージ)は周波数調整や運転予備力確保を目的とし、変電所等に分散配置されるが、本研究では送電損失を評価指標にした配置最適化の可否を検討した。検討対象が単純系統にとどまる。
多地域連系系統におけるループフロー抑制の検討◦ 各電力会社や各国を一地域とする系統は交流または直流で連系されている。日本の地域間の交流連系はくし型の、欧州の国際連系はメッシュ状の構造である。
◦ 連系強化のために安価な交流連系点を増やすと、日本の連系系統もメッシュ状の構造となり、計画外の迂回潮流(ループフロー)が発生し、各地域での系統運用への悪影響が危惧される。本研究では三地域連系系統を対象に、①ループフローの発生メカニズムを明らかにし、②位相変圧器によりループフローが抑制されることを確かめた。
再生可能電源による週間発電計画手法の検討◦ 再生可能エネルギーの主力となる太陽光発電や風力発電は、出力が不安定に変動する「自然変動電源」である。それらは広範囲にわたって多数設置されるため、全体として出力が平滑化される「ならし効果」があることが知られている。
◦ 太陽光・風力発電に蓄電池を併設した再生可能電源において、小容量の蓄電池でその電源の出力変動を抑制する週間発電計画について静岡県の三地域を対象に検討した。
短期需給計画のための風力発電の時刻別供給力計算手法の開発◦ 短期需給計画において、電力の安定供給と設備の経済的運用を図るため、至近年の供給計画(電源毎の時刻別供給力計算)により需給運用の指針を得る。
◦ 本研究では、2015年3月末現在稼働中の北海道内24市町村 59ヶ所 260基の風力発電の時刻別供給力計算を試み、道内における年間の発電状況について調べた。
北海道における太陽光発電供給能力の検討◦ 固定価格買取制度が始まって以来、豊富な日射量や用地確保の容易さから、北海道でのメガソーラーの開発が相次いで計画されている。
◦ 本研究では、道内を6つの地域生活経済圏に分け、道内の代表的メガソーラーの白糠発電所をモデルプラントに、各地域の平均年の日射量や気温から時刻別発電電力を試算し、月別発電電力量から北海道における太陽光発電の供給能力について検討した。
2016年度は、電気工学科のつぎの授業を担当する。 電気技術者のための「環境工学概論」(第3学年・必須・前期15回)◦ こんにちの環境問題の背景として、資源循環・地球環境・気象変動の基礎を俯瞰的に学ぶ。次いで最も重要な地球規模の環境問題とされている地球温暖化と、これと密接にかかわるエネルギーの利用について、さらに地球温暖化対策として求められている省エネルギーの取り組みについて学ぶ。学んだ知識を身近な環境問題として実際に活用・体験するための実習を設け、報告書の作成や発表を行う。
新世代の発電工学を学ぶ「環境エネルギー工学」(第5学年・必須・通年30回)◦ こんにちのエネルギー事情ならびにエネルギー資源の変遷、現状および今後の動向を、次いで、現在の火力(化石燃料)発電、原子力発電および水力発電の要点を学ぶ。また、風力、太陽光、地熱、バイオマスの再生可能エネルギー発電や燃料電池等についても学ぶ。エネルギーと環境および省エネルギー技術について自ら調べ考えるための実習を設け、報告書の作成および発表を行う。
電力品質維持の仕組みを学ぶ「電力系統工学」(第5学年・選択・後期15回)◦ 電力系統は、きわめて多数の発電所、変電所、開閉所、需要家などが送配電線によって接続された巨大なネットワーク・システムの一つであり、新しい技術を取り込みながら常に進歩を続けている。本講義では、持続可能社会の形成を担う「エネルギーと環境」にかかわるすべての技術者に必須と思われる電力系統の基本的な構成・設備・特性・運用・制御などに関する基礎知識を学ぶ。
科研費に「再エネ分野におけるエネルギー自立を目指す人材育成のための工学教育プログラム構築」を応募中、採否によらず本教育研究を継続する。 研究目的◦ 再生可能エネルギー(再エネ)の普及には、エネルギー自立を目指し、それに取り組む地域を漸増させることが不可欠である。「再生可能エネルギー100%」といったシンボリックな目標を掲げ、その目標実現に必要な人材育成のための工学(技術者)教育プログラムを構築する。
特色・独創的な点◦ 単なる発電事業ではなく、エネルギー自立を目指し、「持続可能な方法で地域にあるポテンシャルを総合的に利用する」「エネルギーの効率利用と省エネを推進する」「経済性を追求する」ことに取り組む地域を漸増させるための再生可能エネルギー分野における専門人材を育成する。
◦ 再生可能エネルギーへのシフトが進み、二酸化炭素排出量の大幅削減やエネルギー自給率100%の達成への貢献が期待できる。
研究組織◦ 複数地域の様々な専門分野の高専教員5名の研究分担者と共に構成する。
都市・地域エネルギーインフラをつくる「まちづくり技術者」を育成する。 社会人(民間会社、公共自治体)向け人材育成事業の立ち上げ◦ 高専における十年余にわたる電力・エネルギー分野の教育研究成果を活用する。◦ 現代日本執筆者大辞典 第5期※(2015年7月刊)の収録人物に選ばれる。※2003年~2015年の図書・雑誌の文献情報470万件をもとに、現代を代表する作家・執筆者・研究者・ジャーナリストなど5,000名を収録(http://www.nichigai.co.jp/sales/genshitsu5.html)
電気・エネルギー分野にかかわる技術講座の企画・開催◦ 電験三種の資格取得のための電気・エネルギーの基礎◦ 都市・地域エネルギーインフラのキー・テクノロジー
わたしの視点 地球温暖化を防止するためには、民生部門における温室効果ガスの排出の抑制が重要な課題である。技術者育成により、省エネ・省資源型の環境負荷の小さな都市づくり、地域づくりに貢献する。
東京工業高等専門学校電気工学科電力・エネルギーシステム研究室
土 井 淳Mail: [email protected]
〒193-0997 東京都八王子市椚田町1220-2Tel: 090-3058-0548
国内の離島で最初のつくられた地熱発電所※1を見る。※1)1999年3月に運転開始、定格出力は3300kW プラントはコンパクトであるため、蒸気井・気水分離器・蒸気ライン・タービン発電機建屋・復水器・冷却塔などが一望できる。
2号蒸気井が詰まり廃止になったため、1号蒸気井のみでの現在の出力は2200kWで、島の最大需要電力の1/4を賄うベース電源の役割を担う。
併設されてた風力発電(定格出力500kW)は見当たらず。 八丈島の誕生・地理・地形についても知る。わたしの視点 発電所からの温水による温室団地が整備され、熱帯果樹の展示温室と併設された「えこ・あぐりまーと」を見て、熱のカスケード利用による省エネ型農業(フェニックス栽培)も興味深い。
2号蒸気井の廃止や併設風力の撤去(?)に自然エネルギー利用の難しさを感じる。
東京都島嶼部の八丈島の電力事情を知る。 島全体の電力需要◦ 最大電力(夏・昼)11,000kW、最低電力(深夜)3,500kW
電力供給◦ 内燃力発電所の総出力11,100kW、地熱発電所の出力2,200kW
消費電力の9割を再エネでまかなう(都が構想を発表)◦ 地熱発電所の出力を6,000kWに増やし、夜間の余剰電力を利用するため、1,200kWの揚水発電所を建設する計画
わたしの視点◦ 「八丈島における再生可能エネルギー利用拡大可能性の中間整理(案)」(2014.01.23 )によれば、揚水発電は断念、蓄電池を選択。「需要変動への即応に難あり」とあるが可変速揚水は?
◦ 沖縄県国頭村に、世界初の海水揚水発電所(30,000kW)がある。
本年三月に東京高専を定年退職、これまで40年の間に取り組んだ主な研究テーマを振り返る。
大学院 研究所 事業所 本 社 高 専
企 業
電力系統の解析・制御・計画に関する研究・電圧安定度解析(静/動特性) ・系統解析 ・電力自由化 ・Q Pricing・安定化装置の導入/特性改善 ・需給運用計画 ・風力発電連系可能量
(SVC/VQC/PSS/DC連系) ・設備計画・故障診断 ・事故復旧 ・ノウハウ獲得・継承
・系統信頼度向上
エネルギーマネジメントシステムに関する研究・iDC ・電源構成最適化・次世代都市構想 ・地熱発電潜在量
・電力負荷平準化(PV/EV)・家庭でのエネルギー消費実態
MOT